説明

ダイヤモンド含有複合樹脂組成物、及びその製造方法

【課題】高い分散安定性を有する、ダイヤモンド微粒子を含むダイヤモンド含有複合樹脂組成物、及び前記ダイヤモンド含有複合樹脂組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】溶媒と、爆射法で得られたダイヤモンド微粒子と、全芳香族ポリアミドとからなるダイヤモンド含有複合樹脂組成物であって、前記ダイヤモンド微粒子が2.55〜3.48 g/cm3の比重を有し、前記溶媒がエチレングリコールモノブチルエーテル及びγ-ブチロラクトンを含む混合溶媒であることを特徴とするダイヤモンド含有複合樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆射法で得られたダイヤモンド微粒子と全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドとを含有するダイヤモンド含有複合樹脂組成物及びその製造方法、前記ダイヤモンド含有複合樹脂組成物を用いて製造されたダイヤモンド含有複合材料、並びに前記ダイヤモンド含有複合材料からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
剛直な芳香族環を連結させた構造を有する全芳香族ポリアミドは、耐熱性、機械特性、耐薬品性等に優れた素材であり、繊維又はフィルムの形態で電気絶縁材料、各種補強剤、防弾繊維等に幅広く利用されている。全芳香族ポリアミドは、工業的に極めて価値の高い素材の一つであるため、使用される用途に応じてより高度な特性が要求されるようになってきた。
【0003】
電子積層基板に使用されるベース素材には、耐熱性、熱寸法安定性、耐湿寸法安定性、電器絶縁性、軽量性等の特性が要求される。最近では、耐熱性、電気絶縁性、熱寸法安定性、軽量性に優れている耐熱性繊維紙が電子積層基板用のベース素材に活用されつつあり、前記耐熱性繊維紙として、例えば、コポリ(パラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド)繊維[帝人(株)製「テクノーラ」(登録商標)]と有機系樹脂バインダーからなる紙[特開平1-92233号(特許文献1)、特開平2-47392号(特許文献2)等を参照]、バインダー成分としてメタ型芳香族ポリアミドのフィブリッドを用い、パラ型芳香族ポリアミド短繊維[デュポン(株)製「ケブラー」(登録商標)]とフィブリル化されたパラ型芳香族ポリアミドの微少繊維(「ケブラー」パルプ)とを、フィブリッドの絡合作用により機械的に結合させた紙[特開昭61-160500号(特許文献3)、特公平5-65640号(特許文献4)等を参照]等が提案されている。
【0004】
これらの用途において近年、更なる熱寸法安定性の向上が切望されており、耐熱性繊維として全芳香族ポリアミドの熱寸法安定性の向上が望まれている。
【0005】
一方で、ポリマーを改質する技術の一つとして、熱可塑性樹脂にナノダイヤモンドを高度に分散させた、耐熱性及び弾性率に優れた高分子複合材料が報告されている。[特開2004-51937号(特許文献5)]。
【0006】
特開2006-274486号(特許文献6)は、式(A):―NH―Ar1―NH―、及び式(B):―OC―Ar2―CO― (Ar1、Ar2は各々独立に炭素数6〜20の二価の芳香族基を表わす。)の構成単位から主としてなる全芳香族ポリアミド100重量部とナノダイヤモンド0.01〜30重量部とから構成される熱寸法安定性が向上した芳香族ポリアミドコンポジットファイバーを開示しており、この芳香族ポリアミドコンポジットファイバーは、ナノダイヤモンドと分散溶媒との混合液中に、少量の全芳香族ポリアミドを添加してナノダイヤモンド分散液を調製し、この分散液中に全芳香族ポリアミドを添加して全芳香族ポリアミドとナノダイヤモンドからなる紡糸用溶液を作製し、その溶液から紡糸することによって得られると記載している。
【0007】
しかしながら、引用文献6に記載の方法は少量の全芳香族ポリアミドを分散剤として用いることによりナノダイヤモンド分散液を安定化しようとするものであるが、ナノダイヤモンドの分散性は十分ではなく、現行の装置を使用して製造していく上ではナノダイヤの沈降が問題となる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1-92233号公報
【特許文献2】特開平2-47392号公報
【特許文献3】特開昭61-160500号公報
【特許文献4】特公平5-65640号公報
【特許文献5】特開2004-51937号公報
【特許文献6】特開2006-274486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、高い分散安定性を有する、ダイヤモンド微粒子を含むダイヤモンド含有複合樹脂組成物、及び前記ダイヤモンド含有複合樹脂組成物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、ダイヤモンド微粒子として爆射法で得られた2.55〜3.48 g/cm3の比重を有するナノダイヤモンドを使用し、分散媒としてエチレングリコールモノブチルエーテル及びγ-ブチロラクトンを含む混合溶媒を使用することにより、高い分散安定性を有するダイヤモンド微粒子含有ダイヤモンド含有複合樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明のダイヤモンド含有複合樹脂組成物は、溶媒と、爆射法で得られたダイヤモンド微粒子と、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドとからなり、前記ダイヤモンド微粒子が2.55〜3.48 g/cm3の比重を有し、前記溶媒がエチレングリコールモノブチルエーテル及びγ-ブチロラクトンを含む混合溶媒であることを特徴とする。
【0012】
前記混合溶媒はさらにN-メチル-2-ピロリドンを含むのが好ましい。
【0013】
前記混合溶媒は30質量%以上のγ-ブチロラクトン及び35質量%以下のN-メチル-2-ピロリドンを含むのが好ましい。
【0014】
前記混合溶媒が50質量%以上のγ-ブチロラクトンを含むことを特徴とダイヤモンド含有複合樹脂組成物。
【0015】
前記ダイヤモンド微粒子は、前記全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドに対して0.01〜20質量%の範囲で含有するのが好ましい。
【0016】
前記ダイヤモンド微粒子はフッ素又はケイ素を有するダイヤモンド微粒子であるのが好ましい。
【0017】
前記フッ素を有するダイヤモンド微粒子はフルオロアルキル基含有オリゴマーを使用したフッ素化ダイヤモンド微粒子であるのが好ましい。
【0018】
ダイヤモンド微粒子と全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドとを含有するダイヤモンド含有複合樹脂組成物を製造する本発明の方法は、エチレングリコールモノブチルエーテル及び/又はγ-ブチロラクトンを含む溶媒を用いて、爆射法で得られた2.55〜3.48 g/cm3の比重を有するダイヤモンド微粒子を分散させる工程、及び前記全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドを溶解する工程を有することを特徴とする。
【0019】
本発明のダイヤモンド含有複合材料は、前記ダイヤモンド含有複合樹脂組成物を用いて製造されたことを特徴とする。
【0020】
本発明の成形品は、前記ダイヤモンド含有複合材料からなることを特徴とする。
【0021】
本発明のフィルム又はシートは、前記ダイヤモンド含有複合材料からなることを特徴とする。
【0022】
本発明の繊維は、前記ダイヤモンド含有複合材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のダイヤモンド微粒子と全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドとを含有するダイヤモンド含有複合樹脂組成物は、ダイヤモンド微粒子が、高い濃度で均一に分散されたものなので、このダイヤモンド含有複合樹脂組成物を使用することにより、ダイヤモンドの有する高硬度、高屈折率、高熱伝導性等の性質を付与したダイヤモンド含有複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】爆射法によりダイヤモンド粒子を合成する際に使用する氷の容器の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[1] ダイヤモンド含有複合樹脂組成物
(1)組成
本発明のダイヤモンド含有複合樹脂組成物は、爆射法で得られたダイヤモンド微粒子と全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドとをエチレングリコールモノブチルエーテル及びγ-ブチロラクトンを含む混合溶媒中に含有するものであり、前記混合溶媒への前記全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドの溶解、及び前記ダイヤモンド微粒子の分散によって得られる。
【0026】
ダイヤモンド含有複合樹脂組成物中の全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドの含有量は、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の使用目的や選択する溶媒組成によって適宜調節されるので特に限定されないが、0.1〜10質量%であるのが好ましい。
【0027】
ダイヤモンド含有複合樹脂組成物中のダイヤモンド微粒子の含有量は、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の使用目的によって適宜調節されるので特に限定されないが、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミド100質量%に対してダイヤモンド微粒子が100質量%以下であるのが好ましく、0.0001〜80質量%であるのがより好ましく、0.001〜50質量%であるのが特に好ましく、0.01〜20質量%であるのが最も好ましい。
【0028】
(2) ダイヤモンド微粒子
ダイヤモンド微粒子は、2.55〜3.48 g/cm3の比重を有する爆射法で得られたナノダイヤモンドを用いる。爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンドは、ナノサイズのダイヤモンド粒子の表面をグラファイト系炭素が覆ったコア/シェル構造を有しており、黒く着色している。前記比重範囲を満たしていればこのまま用いても良いが、より着色の少ないダイヤモンド含有複合材料を得ようとする場合は、未精製のナノダイヤモンドを含む微粒子を酸化処理し、前記グラファイト相の一部又はほぼ全部を除去したダイヤモンド粒子を用いてダイヤモンド含有複合樹脂組成物を製造するのが好ましい。ナノダイヤモンド中に含まれる鉄等の不純物は、ダイヤモンドの酸化を促進するので、できるだけ除去するのが好ましい。
【0029】
未精製のナノダイヤモンドは、約2.55 g/cm3の比重を有し、メジアン径(動的光散乱法)は200〜250 nm程度である。この未精製のナノダイヤモンドを酸化処理することにより、粒子表面のグラファイト系炭素が除去され、ダイヤモンド含率の高いダイヤモンド微粒子が得られる。精製したダイヤモンド微粒子は2〜10 nm程度のダイヤモンドの一次粒子からなるメジアン径150〜250 nm程度の二次粒子である。本発明で使用するダイヤモンド微粒子は、さらにメディア分散、表面処理等の方法によりできるだけ凝集を解いて使用するのが好ましく、そのメジアン径は10〜200 nmであるのが好ましく、20〜150 nmであるのがより好ましい。
【0030】
本発明で用いるナノダイヤモンドの比重は2.55 g/cm3(ダイヤモンド24体積%)以上3.48 g/cm3(ダイヤモンド98体積%)以下である。ダイヤモンド微粒子の比重は、ナノダイヤモンドの精製度(グラファイト系炭素の除去率)に伴って増加するので、比重から粒子中のダイヤモンド含率(粒子表面に存在するグラファイト系炭素の量)を求めることができる。ダイヤモンド微粒子の比重が2.55 g/cm3未満であると、ダイヤモンドの有する高屈折率、高熱伝導性等の性質が十分に発揮されず、比重が3.48 g/cm3を越えると、ダイヤモンド微粒子の溶媒や全芳香族ポリアミド樹脂に対する濡れ性が低下するので、香族ポリアミド複合樹脂組成物中又はダイヤモンド含有複合材料中でのダイヤモンド微粒子の分散性が低下する。前記比重は、3.0 g/cm3(ダイヤモンド84体積%)以上3.46 g/cm3(ダイヤモンド97体積%)以下であるのがより好ましく、3.38 g/cm3(ダイヤモンド90体積%)以上3.45 g/cm3(ダイヤモンド96体積%)以下であるのが最も好ましい。なおナノダイヤモンド中のダイヤモンドの体積%は、ダイヤモンドの比重3.50 g/cm3及びグラファイトの比重2.25 g/cm3を用いて、ナノダイヤモンドの比重から算出した値である。
【0031】
溶媒や樹脂への分散性をさらに高めるため、表面処理を施したダイヤモンド微粒子(修飾ダイヤモンド微粒子)を使用するのが好ましい。前記修飾ダイヤモンド微粒子としては、アルキル基で修飾したダイヤモンド微粒子、ケイ素を有するダイヤモンド微粒子、フッ素を有するダイヤモンド微粒子、並びにケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子が好ましく、特にフッ素を有するダイヤモンド微粒子が好ましい。ダイヤモンド微粒子表面をフッ素で修飾することにより、粒子の表面エネルギーを下げ、凝集エネルギーを小さくしてダイヤモンド微粒子の粒径及び粒度分布を小さくすることができる。修飾ダイヤモンド微粒子を使用して溶媒や樹脂への分散性を高めることにより、高い濃度でダイヤモンド微粒子を含有するダイヤモンド含有複合樹脂組成物又はダイヤモンド含有複合材料を得ることができる。
【0032】
これらの修飾ダイヤモンド粒子は、例えば、ケイ素化処理及び/又はフッ素化処理を施すことによって得られる。ケイ素化処理は、ダイヤモンド微粒子にケイ素原子又はケイ素原子を含有する基を修飾する処理であり、フッ素化処理は、ダイヤモンド微粒子にフッ素原子又はフッ素原子を含有する基を修飾する処理である。ケイ素化処理及びフッ素化処理は、前記ダイヤモンド微粒子表面の炭素原子、又は前記ダイヤモンド微粒子表面に存在する-COOH、-OH等の親水性官能基にケイ素原子又はケイ素原子を有する基、及びフッ素原子又はフッ素原子を有する基を結合させて行う。ダイヤモンド微粒子に、ケイ素化処理及びフッ素化処理の両方の処理を施しても良い。両方の処理を行う場合、ケイ素化処理を、フッ素化処理よりも先に行うのが好ましい。
【0033】
ダイヤモンド微粒子にケイ素原子又はケイ素原子を含有する基を修飾する場合、修飾するケイ素原子の量は、特に限定されないが、ダイヤモンド微粒子に対して、0.1〜25質量%であるのが好ましく、0.2〜20質量%であるのがより好ましい。ケイ素含有量が0.1質量%未満であると、ケイ素を含有させる効果があまり得られない。ケイ素含有量が25質量%以上であると、樹脂への分散性が低下する。
【0034】
ダイヤモンド微粒子にフッ素原子又はフッ素原子を含有する基を修飾する場合、修飾するフッ素原子の量は、特に限定されないが、ダイヤモンド微粒子に対して、0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.2〜15質量%であるのがより好ましい。フッ素含有量が0.1質量%未満であると、フッ素を含有させる効果があまり得られない。フッ素含有量が20質量%以上であると、樹脂への分散性が低下する。
【0035】
ケイ素を有するダイヤモンド微粒子及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子を混合して使用する場合は、それらの比率は得られるダイヤモンド含有複合樹脂組成物の使用目的に応じて任意に決めることができる。またケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子を使用する場合も、ケイ素の総量とフッ素の総量との質量比率はダイヤモンド含有複合樹脂組成物の使用目的に応じて設定すればよい。これらの修飾ダイヤモンド微粒子は、未修飾のダイヤモンド微粒子と混合して使用してもよい。
【0036】
(3) 全芳香族ポリアミド
本発明の方法で用いる全芳香族ポリアミドは、実質的に下記式(A)及び式(B)、
―NH―Ar1―NH― ・・・(A)、
―OC―Ar2―CO― ・・・(B)
(ただし、Ar1及びAr2は各々独立に炭素数6〜20の二価の芳香族基を表わす。)
で表される2つの構成単位(それぞれ芳香族ジアミン成分及び芳香族ジカルボン酸成分)が交互に繰り返された構造を有する全芳香族ポリアミドである。
【0037】
前記Ar1及びAr2は各々独立に炭素数6〜20の二価の芳香族基を表わし、その具体例としては、メタフェニレン基、パラフェニレン基、オルトフェニレン基、2,6-ナフチレン基、2,7-ナフチレン基、4,4’-イソプロピリデンジフェニレン基、4,4’-ビフェニレン基、4,4’-ジフェニレンスルフィド基、4,4’-ジフェニレンスルホン基、4,4’-ジフェニレンケトン基、4,4’-ジフェニレンエーテル基、3,4’-ジフェニレンエーテル基、メタキシリレン基、パラキシリレン基、オルトキシリレン基等が挙げられる。
【0038】
これらの芳香族基における水素原子のうち1つ又は複数がそれぞれ独立にフッ素、塩素、臭素等のハロゲン基;メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5〜10のシクロアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜10の芳香族基で置換されていてもよい。なお、前記式(A)及び/又は式(B)で表される構成単位は、1種類であっても良いし、2種以上であってもよい。
【0039】
前記Ar1としては、メタフェニレン基、パラフェニレン基、及び3,4’-ジフェニレンエーテル基が好ましく、パラフェニレン基、又はパラフェニレン基と3,4’-ジフェニレンエーテル基とを併用したものがさらに好ましい。パラフェニレン基と3,4’-ジフェニレンエーテル基とを併用した場合には、そのモル比が1:0.8〜1:1.2の範囲であるのが好ましい。前記Ar2としては、メタフェニレン基、及びパラフェニレン基が好ましく、パラフェニレン基が最も好ましい。
【0040】
本発明において好適に用いられる全芳香族ポリアミドは、(i)Ar1がパラフェニレン基:3,4’-ジフェニレンエーテル基(モル比が1:0.8〜1:1.2の範囲)及びAr2がパラフェニレン基である組合せ、並びに(ii)Ar1とAr2がともにパラフェニレン基である組合せによって得られる全芳香族ポリアミドである。
【0041】
(4)全芳香族ポリアミド酸
全芳香族ポリアミド酸は、全芳香族ポリイミドの前駆体であり、芳香族テトラカルボン酸(芳香族テトラカルボン酸二無水物)と二価のアミノ基有する芳香族化合物(芳香族ジアミン化合物)とを重合させることによって得られる。
【0042】
芳香族ジアミンとしては、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、
【0043】
1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、
【0044】
ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’-ビス[(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、
【0045】
1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-フルオロフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-シアノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-ビフェノキシベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、
【0046】
上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部又は全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシル基、シアノ基、水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基もしくはアルコキシル基等で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。これらの芳香族ジアミンは、単独で使用しても良いし、複数を併用しても良い。
【0047】
また以下に示すベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類も好適に用いられる。
【0048】
【化1】

【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
【化6】

【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
【化10】

【0058】
【化11】

【0059】
【化12】

【0060】
【化13】

【0061】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基の配位位置が異なる各異性体であるこれらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0062】
芳香族テトラカルボン酸二無水物類としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0063】
【化14】

【0064】
【化15】

【0065】
【化16】

【0066】
【化17】

【0067】
【化18】

【0068】
【化19】

【0069】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0070】
テトラカルボン酸二無水物として、必要に応じて、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ペンタン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ-1-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-メチル-3-エチルシクロヘキサン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-メチル-3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-エチルシクロヘキサン-1-(1,2),3,4-テトラカルボン酸二無水物、1-プロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ジプロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3-(2,3)-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-プロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ジプロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3-(2,3)-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種又は二種以上、併用しても構わない。
【0071】
(5)全芳香族ポリアミドイミド
本発明の方法で用いる全芳香族ポリアミドイミドは、(a)酸無水物基を有する三価の芳香族カルボン酸の誘導体(芳香族トリカルボン酸無水物)、及び(b)二価のアミノ基又はイソシアネート基を有する芳香族化合物(芳香族ジアミン化合物又は芳香族ジイソシアネート化合物)を反応させて得られる芳香族系樹脂である。
【0072】
(a)成分としては、イソシアネート基又はアミノ基と反応する酸無水物基を有する三価のカルボン酸の誘導体であれば特に制限はないが、下記一般式(I)又は(II)で表される化合物が好ましく、耐熱性、コスト面等を考慮すれば、トリメリット酸無水物が特に好ましい。これらの酸無水物基を有する三価の芳香族カルボン酸の誘導体は、目的に応じて単独又は混合して用いることができる。
【0073】
【化20】

(Yは-CH2-、-CO-、-SO2-又は-O-を示す。)
【0074】
【化21】

【0075】
一般式(I)又は(II)で表される化合物の他に、必要に応じて、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6-ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-スルホニルジフタル酸二無水物、m-ターフェニル-3,3′,4,4′-テトラカルボン酸二無水物、4,4′-オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス[4-(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ-[2,2,2]-オクト-7-エン-2:3:5:6-テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸二無水物を使用することができる。
【0076】
(b)成分としては、下記一般式(III)、(IV)及び(V)で表される化合物が挙げられ、これらの二価のアミノ基を有する芳香族化合物(芳香族ジアミン化合物)及び二価のイソシアネート基を有する芳香族化合物(芳香族ジイソシアネート化合物)は、目的に応じて単独又は混合して用いることができる。
【0077】
【化23】

【0078】
【化24】

【0079】
【化25】

(式中、R2は炭素数1〜20のアルキル基、水酸基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、R3はアミノ基又はイソシアネート基である。)
【0080】
一般式(III)、(IV)及び(V)で表される芳香族ジアミン化合物及び芳香族ジイソシアネート化合物として、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジアミノビフェニル、3,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジメチルビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ジメチルビフェニル、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチルビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ジエチルビフェニル、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジメトキシビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ジメトキシビフェニル、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、4,4′-ジイソシアナトジフェニルメタン、4,4′-ジイソシアナトビフェニル、3,3′-ジイソシアナトビフェニル、3,4′-ジイソシアナトビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジメチルビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-2,2′-ジメチルビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジエチルビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-2,2′-ジエチルビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジメトキシビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-2,2′-ジメトキシビフェニル、1,5-ジイソシアナトナフタレン、2,6-ジイソシアナトナフタレン等を使用することができる。
【0081】
一般式(III)、(IV)及び(V)で表される化合物以外の芳香族ジアミン化合物及び芳香族ジイソシアネート化合物としては、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4′-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4′-ジイソシアナトジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4′-イソシアナトフェノキシ)フェニル]プロパン等を挙げることができる。
【0082】
必要に応じて、(b)成分の一部としてヘキサメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジアミノイソホロン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、1,4-ジアミノトランスシクロヘキサン、水添m-キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアナトイソホロン、ビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,4-ジイソシアナトトランスシクロヘキサン、水添m-キシリレンジイソシアネート等の脂肪族、脂環式イソシアネート及び3官能以上のポリイソシアネートを使用することもできる。
【0083】
樹脂の硬度を向上させる必要がある場合には、ナフタレン環を含む1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジイソシアナトナフタレン、2,6-ジイソシアナトナフタレン等を配合することが好ましく、その配合量は(b)成分総量中、好ましくは5〜30モル%、より好ましくは10〜20モル%である。10モル%未満では、硬度の向上効果が十分に得られず、30モル%を超えると、柔軟性及び密着性が低下する。
【0084】
機械的特性の観点からは、ビフェニル誘導体の構造を有する4,4′-ジアミノ-3,3′-ジメチルビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ジメチルビフェニル、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチルビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ジエチルビフェニル、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジメトキシビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ジメトキシビフェニル等の芳香族ジアミン化合物、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジメチルビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-2,2′-ジメチルビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジエチルビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-2,2′-ジエチルビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジメトキシビフェニル、4,4′-ジイソシアナト-2,2′-ジメトキシビフェニル等の芳香族ジイソシアネート化合物を用いるのが好ましく、その配合量は(b)成分の総量中、好ましくは10〜85モル%、より好ましくは10〜30%である。30%以上では、機械的特性が向上するが樹脂が濁る場合がある。
【0085】
他に配合できるモノマーとしては、コスト及び機械的特性の伸び率の向上の点から4,4′-ジイアミノジフェニルメタン又は4,4′-ジイソシアナトジフェニルメタン等が挙げられる。4,4′-ジイアミノジフェニルメタン又は4,4′-ジイソシアナトジフェニルメタンの配合量は、(b)成分総量中、好ましくは5〜90モル%、より好ましくは10〜80モル%である。
【0086】
(a)成分及び(b)成分の配合割合は、(a)成分のカルボキシル基及び酸無水物基の総数に対する(b)成分のアミノ基及びイソシアネート基の総数の比が0.6〜1.4となるようにするのが好ましく、0.7〜1.3となるようにするのがより好ましく、0.8〜1.2となるようにするのが特に好ましい。0.6未満又は1.4を超えると、高い分子量の樹脂が得られにくくなる。
【0087】
全芳香族ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は9,000〜50,000であるのが好ましく、14,000〜25,000であるのがより好ましい。数平均分子量が9,000未満であると、フィルム等に成形する際の成膜性が悪くなる傾向があり、50,000を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなり、塗装時の作業性が劣る傾向にあり、また塗料やワニスが吸湿白化しやすくなる。従って、全芳香族ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、14,000〜25,000であるのがより好ましい。全芳香族ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができ、樹脂合成時にサンプリングして、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより前記範囲に制御することができる。
【0088】
全芳香族ポリアミドイミド樹脂を含むダイヤモンド複合樹脂組成物は、多官能エポキシ樹脂化合物、ポリイソシアネート化合物及びメラミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含有するのが好ましい。配合量は、全芳香族ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは5〜30重量部である。配合量が1重量部未満であると、フィルムに成形したときの密着性向上効果が小さくなり、40重量部を超えると、フィルムの耐熱性及び強度が低下する。
【0089】
多官能エポキシ樹脂化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、グリセリントリグリシジル型エポキシ化合物、芳香族ポリグリシジル(テトラグリシドキシテトラフェニルエタン型やフェノール系エポキシ、ノボラック系エポキシ化合物)等が挙げられ、ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物、ヘキサメチレングリコール等の2個以上のアルコール化合物の反応体、イソシアネート化合物と水又はアミン化合物から合成されるポリイソシアネート化合物等が挙げられ、メラミン化合物としては、三井サイテック社製、サイメル300、サイメル303、サイメル327等が挙げられる。
【0090】
全芳香族ポリアミドイミド樹脂を含むダイヤモンド複合樹脂組成物をバインダー成分として用い、さらに必要に応じてフッ素樹脂化合物、着色剤等の添加剤を添加し、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N′-ジメチルホルムアミド、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等の溶媒に溶解され、適当な粘度に調整して塗料組成物とすることができる。塗料とする場合、一般に固形分は10〜50質量%であるのが好ましい。
【0091】
全芳香族ポリアミドイミド樹脂を含むダイヤモンド複合樹脂組成物、及び塗料組成物は、160〜380℃で10分〜60分の熱処理で乾燥・硬化することができる。低温で硬化させると溶剤が残り、基材を保護する塗膜特性が劣る可能性がある。また、160℃未満の硬化では、塗膜の硬化が不十分で、極性溶媒に溶解又は膨じゅんする可能性がある。加熱時間は10分未満であると塗膜に残存溶媒が残り、基材に塗布された塗膜の特性が劣ることがあり、60分を超えると、長期に熱を加えることにより、塗料として固体潤滑剤等を加えたときに副反応を起こすことがあり、塗膜の特性を劣化させることがある。
【0092】
(6)溶剤
ダイヤモンド含有複合樹脂組成物に使用する溶媒は、エチレングリコールモノブチルエーテル及びγ-ブチロラクトンを含む混合溶媒である。これらの混合溶媒は、前記全芳香族ポリアミドを容易に溶解することができるとともに、前記ダイヤモンド微粒子を良好に分散することができるため、本発明の目的に好適である。
【0093】
混合溶媒中のγ-ブチロラクトンの含有量は、30質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、50質量%以上80質量%以下であるのがより好ましく、エチレングリコールモノブチルエーテルの含有量は、10質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。混合溶媒には、さらにN-メチル-2-ピロリドンを含有させても良い。N-メチル-2-ピロリドンの含有量は、35質量%以下であるのが好ましい。
【0094】
前記混合溶媒には、前記全芳香族ポリアミドを容易に溶解することができ、かつ前記ダイヤモンド微粒子を良好に分散することができるさらに他の溶媒を添加しても良い。
【0095】
[2]ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の製造方法
(1)ダイヤモンド微粒子
(a) 爆射法
爆射法によるダイヤモンド微粒子の合成は、水及び/又は氷の存在下で爆薬を爆発させて行うウエット法、水及び/又は氷を使用しないで空冷するドライ法等があるが、本発明では爆射法であればどの方法を採用しても良い。
【0096】
ウエット法としては、例えば、氷でできた容器中に充填した爆薬[例えば、TNT(トリニトロトルエン)/HMX(シクロテトラメチレンテトラニトラミン)=50/50]を、耐圧容器のほぼ中央部に配置し、前記耐圧容器の壁面に水を流しながら爆裂させる方法を挙げることができる。この方法において、反応生成物としての未精製のダイヤモンドは容器中の水中から回収する。ウエット法においては、水及び/又は氷中にあらかじめ水溶性の還元剤(酸化防止剤)を含有させて爆発を行うのが好ましい。前記水溶性の還元剤としては、ヒドラジン類、ヘキサメチレンテトラアミン、尿素、アンモニア、アセトニトリル、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、ハイドロキノン、エリソルビン酸ナトリウム、カテキン、ヒドラジン、シュウ酸、ギ酸等が挙げられる。
【0097】
爆薬としては公知の有機系爆薬を用いることができる。有機系爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)、トリニトロベンゼン(TNB)、シクロトリメチレントリニトラミン(RDX)、シクロテトラメチレンテトラニトラミン(HMX)、テトラニトロメチルアニリン(テトリル)、トリアミノトリニトロベンゼン(TATB)、ジアミノトリニトロベンゼン(DATB)、ヘキサニトロスチルベン(HNS)、ヘキサニトロアゾベンゼン(HNAB)、ヘキサニトロジフェニルアミン(HNDP)、ピクリン酸、ピクリン酸アンモニウム、ベンゾトリアゾール(TACOT)、エチレンジニトラミン(EDNA)、ニトログアニジン(NQ)、ペンタエリスリトールテトラナイトレート(ペンスリット)、ベンゾトリフルオキサン(BTF)等が挙げられ、これらを単独又は混合して使用する。特に、RDX(60%)とTNT(40%)との混合爆薬として知られているコンポジションB等を使用するのが好ましい。
【0098】
これらの有機系爆薬は、炭素原子含有率が15質量%以上、好ましくは20〜35質量%、密度が1.5 g/cc以上、好ましくは1.6 g/cc以上、爆速は7000 m/s以上、好ましくは7500 m/s以上であり、酸素バランスが負、好ましくは-0.2〜-0.6であり、爆射圧が18 GPa以上、好ましくは20〜30 GPa、爆射温度が3000 K以上、好ましくは3000〜4000 Kである。そのため、爆薬中の炭素原子を効率よくダイヤモンドに転換することができ、また酸素バランスが負であることから爆発時にダイヤモンドが酸化されて収率を低下させることがない。
【0099】
前記爆射法は、Science, Vol. 133, No.3467(1961), pp1821-1822、特開平1-234311号、特開平2-141414号、Bull. Soc. Chem. Fr. Vol. 134(1997), pp. 875-890、Diamond and Related materials Vol. 9(2000), pp861-865、Chemical Physics Letters, 222(1994), pp. 343-346、Carbon, Vol. 33, No. 12(1995), pp. 1663-1671、Physics of the Solid State, Vol. 42, No. 8 (2000), pp. 1575-1578、K. Xu. Z. Jin, F. Wei and T. Jiang, Energetic Materials, 1, 19(1993)、特開昭63-303806号、特開昭56-26711報、英国特許第1154633号、特開平3-271109号、特表平6-505694号(WO93/13016号)、炭素, 第22巻, No. 2, 189〜191頁(1984)、Van Thiei. M. & Rec., F. H., J. Appl. Phys. 62, pp. 1761〜1767 (1987)、特表平7-505831号 (WO94/18123号)、米国特許第5861349号、特開2006-239511号及び特開2003-146637号等に記載の方法を用いることができる。
【0100】
(b)酸化処理
未精製のダイヤモンドの酸化処理方法としては、(i) 硝酸等の共存下で高温高圧処理する方法(酸化処理A)、(ii)水及び/又はアルコールからなる超臨界流体中で処理する方法(酸化処理B)、(iii)水及び/又はアルコールからなる溶媒に酸素を共存させて、前記溶媒の標準沸点以上の温度及び0.1 MPa(ゲージ圧)以上の圧力で処理する方法(酸化処理C)、又は(iv)380〜450℃で酸素を含む気体により処理する方法(酸化処理D)が挙げられる。これらの酸化処理は、単独で行ってもよいし、組合せて行っても良い。酸化処理を組合せる場合は、爆射法で得られた未精製のダイヤモンドにまず酸化処理Aを施し、さらに酸化処理B〜Cのいずれかを施すのが好ましい。
【0101】
爆射法で得られた未精製のダイヤモンドに酸化処理Aを施すことによりグラファイト相の一部が除去されたナノダイヤモンド(グラファイト-ダイヤモンド粒子)が得られ、このグラファイト-ダイヤモンド粒子に酸化処理B〜Cのいずれかの処理を施すことにより前記グラファイト相をさらに除去することができる。
【0102】
(c)メディア分散処理
爆射法により得られた未精製のダイヤモンド、及び前記酸化処理を施したナノダイヤモンドの動的光散乱法で求めたメジアン径は150〜250 nmである。これらの粒子は、前述したように、メジアン径2〜10 nm程度のダイヤモンド一次粒子が強固に凝集した凝集体である。ダイヤモンド微粒子の凝集がより少ないダイヤモンド含有複合樹脂組成物及びダイヤモンド含有複合材料を得るために、未精製又は前記酸化処理を施したダイヤモンド微粒子をビーズミル等の公知のメディア分散法により粉砕するのが好ましい。ビーズミルによる分散は、ジルコニアビーズを使用するのが好ましい。未精製又は前記酸化処理を施したダイヤモンド微粒子をメディア分散することにより、メジアン径を100 nm以下にするのが好ましく、50 nm以下にするのがより好ましく、30 nm以下にするのが最も好ましい。
【0103】
ビーズミルによる分散は市販の装置を用いて行うことができる。連続的に分散液を供給しながら、ビーズによる粉砕を行うことができる装置を使用するのが好ましく、例えば0.1 mm径のジルコニアビーズを0.15 Lのベッセルに充填し、10 m/s程度の周速で回転子を回転させながら、5%程度の前記ダイヤモンド微粒子の水分散物を0.12 L/minで供給し粉砕する。さらに細かく分散させたいときは、0.05 mm径のジルコニアビーズを用いてもよい。
【0104】
(d)フッ素化処理
前記爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理により得られたナノダイヤモンドは、(i)フルオロアルキル基含有オリゴマーを使用した方法、(ii)フルオロアルキルアゾ化合物を用いた方法、(iii)フッ素ガスと直接反応させる方法、(iv)ClF、ClF3、ClF5等のハロゲンフッ化物を反応させる方法、(v)フッ素プラズマによる方法等により、その表面をフッ素又はフッ素を有する基で修飾することができる。本発明の目的には、前記フルオロアルキル基含有オリゴマーを使用した方法を用いるのが好ましい。
【0105】
フッ素を有するダイヤモンド微粒子は、酸素とフッ素との元素比(O/F)を0.06〜0.2とすることにより、各種樹脂への高い分散性を付与することができるとともに、粒子同士の凝集を防止することができる。前記酸素とフッ素との元素比は、X線光電子分光(XPS)測定によって得られる酸素及びフッ素に帰属されるピークの、積分強度比によって算出される値である。O/Fが0.06未満では、フッ素を有するダイヤモンド微粒子と樹脂との親和性が低下し分散性が低下する。一方、O/Fが0.2を超える場合、フッ素を有するダイヤモンド微粒子同士の凝集を防止する効果が小さくなる。
【0106】
(i)フルオロアルキル基含有オリゴマーを使用した方法
高分子主鎖の両末端にフルオロアルキル基が直接炭素−炭素結合により導入された高分子界面活性剤(含フッ素オリゴマー)は、水溶液中又は有機溶媒中において自己組織化したナノレベルの分子集合体を形成することが知られている。このフルオロアルキル基が末端に導入された含フッ素オリゴマーを用いることにより、フルオロアルキル基で修飾したナノダイヤモンドを形成することができる。
【0107】
フルオロアルキル基で修飾したナノダイヤモンドは、爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理により得られたナノダイヤモンドを、一般式(A)で表される含フッ素オリゴマーで処理することによって得ることができる。
【0108】
【化26】

【0109】
ここで、RFはフルオロアルキル基であり、具体的には、-CF(CF3)OC3F7、-CF(C3F)OCF2CF(CF3)OC3F7等の基が好ましい。Rは置換基であり、-N(CH3)2、-OH、-NHC(CH3)2CH2C(=O)CH3、-Si(OCH3)3、-COOH等の基が好ましい。nは5〜2000であるのが好ましい。
【0110】
ナノダイヤモンドと一般式(A)で表される含フッ素オリゴマーとをメタノール、エタノール等のアルコール溶媒中で混合し、室温〜80℃で2〜48時間撹拌することによりナノダイヤモンド表面にフルオロアルキル基(RF)が修飾された複合粒子を高い収率で得ることができる。反応を促進させるために、アンモニア等の塩基を使用してもよい。
【0111】
(ii) フルオロアルキルアゾ化合物を用いた方法
下記反応式に記載したように、ナノダイヤモンドの存在下で、パーフルオロヘキサンに溶解したアゾビスパーフルオロオクチル1に、Xeエキシマランプにより波長172 nmの光を室温で照射することによりナノダイヤモンドにパーフルオロオクチルを付加させることができる。この反応はアルゴン気流下で行い、前記照射時間は10分〜2時間程度である。なお、この方法に用いるナノダイヤモンドは、パーフルオロヘキサンに分散しやすいようにあらかじめ疎水化処理を行うのが好ましい。
【0112】
【化27】

【0113】
(iii)フッ素ガスと直接反応させる方法
(iii-a)フッ素ガスを用いる第一の方法
フッ素ガスと直接反応させる方法は、ナノダイヤモンドをフッ素ガスと接触させ加熱することにより行う。フッ素ガスは、アルゴン等の不活性ガスと混合して用いるのが好ましい。このときフッ素ガスの濃度は0.01〜100 vol%、好ましくは0.1〜80 vol%、より好ましくは1〜50 vol%である。前記不活性ガスとしてはアルゴンの他に、窒素、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等を用いることができる。反応させるガスには、ナノダイヤモンドの酸化が進まないように酸素を含まないのが好ましい。
【0114】
フッ素化処理の温度は、150〜600℃の範囲内であるのが好ましく、150〜400℃の範囲内であるのがより好ましく、150〜350℃の範囲内であるのが特に好ましい。フッ素化処理の時間(反応時間)は特に限定されず、通常は1分〜500時間の範囲内で行われるが、1〜200時間の範囲内が好ましく、5〜24時間の範囲内がより好ましい。フッ素化処理を行う際の圧力条件としては特に限定されず、加圧下、又は減圧下で行ってもよい。経済上、安全上の観点からは、常圧で行う方が好ましい。フッ素化処理を行うための反応容器としては特に限定されず、固定床、流動床等の従来公知のものを採用することができる。ニッケル製等の反応管を用いるのが好ましい。
【0115】
(iii-b)フッ素ガスを用いる第二の方法
フッ素ガスと反応させる他の方法として、ナノダイヤを入れた反応炉に、150℃、で3〜4時間不活性ガス中で加熱し、その後反応炉にフッ素ガス及びフッ化水素(例えば、3:1)を入れ、150℃のまま48時間加熱することによりフッ素化を行う方法がある。不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴンが使用でき、又は真空で処理しても良い。
【0116】
(e)ケイ素化処理
前記爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理して得られたナノダイヤモンドに、シリル化剤、アルコキシシラン、シランカップリング剤等を反応させることによりナノダイヤモンドの表面に存在する水酸基等の親水性基を、ケイ素を含む有機基に置換することができる。ケイ素化処理は、シリル化剤を用いるのが好ましい。
【0117】
好ましいシリル化剤としては、トリエチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、アセトキシトリメチルシラン、アセトキシシラン、ジアセトキシジメチルシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、2-トリメチルシロキシペント-2-エン-4-オン、n-(トリメチルシリル)アセトアミド、2-(トリメチルシリル)酢酸、n-(トリメチルシリル)イミダゾール、トリメチルシリルプロピオレート、ノナメチルトリシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリフェニルシラノール、t-ブチルジメチルシラノール、ジフェニルシランジオール等が挙げられる。本発明に用いられるシリル化剤は、これらの化合物に限定されない。
【0118】
シリル化剤溶液の溶媒はヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン等の炭化水素類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン等の芳香族化合物が好ましい。
【0119】
シリル化剤の種類や濃度にもよるが、シリル化反応は10〜40℃で十分攪拌しながら進行させるのが好ましい。10℃未満では反応が進行しにくく、40℃超ではナノダイヤモンド表面に均一にシリル化されなくなる。例えば、トリエチルクロロシランのヘキサン溶液をシリル化剤として使用した場合、10〜40℃で10〜40時間程度攪拌しながら反応させると、ナノダイヤモンド表面の水酸基が十分にシリル修飾される。
【0120】
(2) 全芳香族ポリアミド
全芳香族ポリアミドは溶液重合法、界面重合法、溶融重合法等の公知の方法によって製造することができる。重合度は芳香族ジアミン成分(前記式(A)で表される構成単位に対応)と芳香族ジカルボン酸成分(前記式(B)で表される構成単位に対応)の比率によってコントロールできる。重合度(ポリマーの分子量)は、特有粘度(inherent viscosity)ηinh[98質量%濃硫酸に0.5 g/100 mLの濃度(c)で溶かしたポリマー溶液を30℃で測定した相対粘度ηrelから、ηinh=(lnηrel)/cで求めた値]で評価することができ、ηinhが0.05〜20 dL/gであるのが好ましく、1〜10 dL/gであるのがより好ましい。
【0121】
芳香族ジアミン成分としてp-フェニレンジアミン、芳香族ジカルボン酸成分として3、4’―ジアミノジフェニルエーテルを用いて全芳香族ポリアミド樹脂を製造する方法の一例を以下に示す。ただし、本発明で使用する全芳香族ポリアミド樹脂は以下の方法に限定されない。
【0122】
脱水精製したN-メチル-2-ピロリドンに、p-フェニレンジアミン及び3、4’―ジアミノジフェニルエーテルを常温・窒素気流下で添加して溶解した後、氷冷しながらテレフタル酸ジクロリドを滴下し、80℃まで昇温し60分間反応させる。反応生成物を室温まで冷却した後、水酸化カルシウムで中和することにより全芳香族ポリアミド樹脂のN-メチル-2-ピロリドン溶液が得られる。得られた樹脂溶液を水に添加して再沈殿させることにより。全芳香族ポリアミド樹脂の粉末を得ることができる。
【0123】
(3)全芳香族ポリアミド酸
全芳香族ポリアミド酸は公知の重合方法を用いて製造することができる。好ましい重合方法として、(a)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法、(b)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得た後、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物とが実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を反応させて重合する方法、(c)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得た後、芳香族ジアミン化合物を追加添加し、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物とが実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法、(d)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法等が挙げられる。
【0124】
芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマー及び生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、N-メチル-2-ピロリドン、N-アセチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独又は混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0125】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は公知の条件を適用すればよく、例えば、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌及び/又は混合することによって反応を行うのが好ましい。各モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。
【0126】
重合反応によって得られるポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、好ましくは20〜2000 Pa・sであり、より好ましくは200〜1000 Pa・sである。
【0127】
良質なポリアミド酸の有機溶媒溶液を得るために、重合反応中に真空脱泡するのが好ましい。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素-炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
【0128】
(4)全芳香族ポリアミドイミド
全芳香族ポリアミドイミド樹脂は、(1)前述の(a)成分(酸成分)及び(b)成分(ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物成分)とを一度に使用し、反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法、(2)(a)成分と(b)の過剰量とを反応させて末端にイソシアネート基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、(a)成分を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法、又は(3)(a)成分の過剰量と(b)成分を反応させて末端に酸又は酸無水物基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、(a)成分と(b)成分を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を合成する方法により製造することができる。
【0129】
反応温度は90〜150℃が好ましく、100〜145℃がより好ましい。反応時間は、目的とする全芳香族ポリアミドイミド樹脂の分子量によって異なるが、通常、5〜20時間が好ましく、6〜15時間がより好ましい。
【0130】
(a)成分と(b)成分とを反応させる際に、γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンとの混合溶媒を用いるのが好ましい。γ-ブチロラクトンとN-メチル-2-ピロリドンとの配合量は、反応時には、γ-ブチロラクトン100重量部あたり、N-メチル-2-ピロリドン0.1〜60重量部とするのが好ましく、0.2〜50重量部とするのがより好ましく、0.2〜40重量部とするのが最も好ましい。反応時における混合溶媒中のN-メチル-2-ピロリドンの量がγ-ブチロラクトン100重量部あたり0.1重量部未満では、160℃以上の高い反応温度が必要となり、また複合樹脂組成物の粘度の安定性が低くなる傾向があり、60重量部を超えると、樹脂をフィルム等に成形するときに乾燥に時間がかかる。
【0131】
混合溶媒の反応時の使用量は、(a)成分と(b)成分の合計量100重量部にあたり、200〜300重量部とするのが好ましく、210〜250重量部とするのがより好ましい。混合溶媒の使用量が200重量部未満であると、発泡反応が激しくなり、合成容器からふき出す傾向があり、300重量部を超えると、合成時間が長くなり、また樹脂濃度が低くなるためフィルム等に成形する際に厚膜化しにくくなる。
【0132】
全芳香族ポリアミドイミド樹脂は、合成後にエチレングリコールモノブチルエーテル、必要に応じγ-ブチロラクトンを添加し、(a)成分と(b)成分の合計量100重量部にあたり、260〜330重量部、好ましくは265〜325重量部となるように調整するのが好ましい。得られる全芳香族ポリアミドイミド樹脂溶液中の混合溶媒の量が(a)成分と(b)成分の合計量100重量部にあたり、260重量部未満であると、樹脂溶液がゲル化する等、安定性が悪くなる傾向があり、330重量部を超えると、フィルム等に成形する際に厚膜化しにくくなる傾向がある。また溶媒組成は、本発明のダイヤモンド含有複合樹脂組成物の溶媒組成の範囲になるようにするのが好ましい。
【0133】
(5) ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の調製
ダイヤモンド含有複合樹脂組成物を調製する方法としては、 (a)全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドの溶液に、ダイヤモンド微粒子粉末を添加する方法、(b)全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドの溶液とダイヤモンド微粒子の溶媒分散液とを混合する方法、(c) ダイヤモンド微粒子の溶媒分散液に固体の全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドを添加する方法、(d) ダイヤモンド微粒子の溶媒分散液中で、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドのIn-situ重合を行う方法等が挙げられる。ダイヤモンド微粒子を複合樹脂組成物中に均一に分散させるためには上記(b)又は(d)の方法が好ましい。
【0134】
全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドを溶解する溶媒、及びダイヤモンド微粒子を分散する溶媒は、エチレングリコールモノブチルエーテル及び/又はγ-ブチロラクトンを含む混合溶媒を用いる。また必要に応じてさらにN-メチル-2-ピロリドンを混合しても良い。全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドを溶解する溶媒、及びダイヤモンド微粒子を分散する溶媒は、同じであっても異なっていても良いが、混合後の溶媒組成が、本発明のダイヤモンド含有複合樹脂組成物の溶媒組成となるようにする必要がある。特に全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドの溶解性、及びダイヤモンド微粒子の分散性に問題がなければ、これらの溶媒は同じものを使用するのが好ましい。
【0135】
混合溶媒には、ダイヤモンド微粒子の分散性を向上させるために、分散剤として添加してもよい。前記分散剤としては、公知の分散剤を使用することができるが、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドを分散剤として添加するのが好ましい。全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドを分散剤として用いる場合は、上述のダイヤモンド含有複合樹脂組成物を構成する全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドと同じ樹脂を、ダイヤモンド微粒子に対して、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.2〜20質量%使用する。
【0136】
ダイヤモンド微粒子を前記混合溶媒に分散させる方法は、限定されないが、超音波による分散、ホモジナイザー、アトライター、ボールミル等を用いた撹拌方法が挙げられる。なかでも、超音波によって分散する方法が好ましい。
【0137】
[3] ダイヤモンド含有複合材料
本発明のダイヤモンド含有複合材料は、本発明のダイヤモンド含有複合樹脂組成物から得ることができる。例えば、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物を公知の溶液キャスト法によりフィルムに成形することにより、ダイヤモンド含有複合材料からなるフィルムを形成することができる。また湿式、乾式又は乾式と湿式とを併用した公知の紡糸方法により、ダイヤモンド含有複合材料からなる糸を形成することができる。
【実施例】
【0138】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0139】
実施例1
(1)ナノダイヤモンドの作製
TNT(トリニトロトルエン)とRDX(シクロトリメチレントリニトラミン)を40/60の比で含む0.65 kgの爆薬1を、脱気した水を凍らせて形成した氷の容器2aに充填し(図1(a))、同じく脱気した水を凍らせて形成した氷の容器2bで蓋をした(図1(b))。前記爆薬1には、起爆用爆薬及び電気雷管を取り付けた。氷の重さは容器2a,2b合わせて15 kgであった。
【0140】
この爆薬1を充填した氷の容器2a,2bを、3 m3の耐圧性容器内に銅線で吊り下げ、耐圧性容器内の空気を窒素と置換した。爆薬を起爆するための電気雷管への電流は前記銅線を通して供給した。耐圧性容器内は1気圧であり、酸素濃度は4容量%であった。耐圧性容器の上部から内壁全体に水をかけながら氷の容器2a,2bに充填した爆薬1を爆発させた。
【0141】
5分間静置した後、前記氷の容器2a,2bに充填した爆薬1を再度同様にして設置し、耐圧性容器内の窒素置換の操作は行わないで二度目の爆発を行った。ただし、氷の容器2a,2bに充填した爆薬1を設置する際には、窒素を耐圧性容器に供給しながら素早く作業を行った。
【0142】
二度目の爆発後、耐圧性容器の上蓋を開け、水で耐圧性容器の内壁面を洗浄しながら黒色液状の爆発生成物(未精製のナノダイヤモンド)を回収し、加熱乾燥し、未精製のナノダイヤモンド粉末を得た。この未精製のナノダイヤモンドの収率は使用した爆薬量に対して11質量%であり、比重は2.55 g/cm3、メジアン径(動的光散乱法)は220 nmであった。この未精製のナノダイヤモンドは、比重から計算して、76体積%のグラファイト系炭素と24体積%のダイヤモンドからなっていると推定された。この未精製のナノダイヤモンドは、ラマンスペクトルにおける1,330±10 cm-1のピーク強度Iaと、1,610±100 cm-1のピーク強度Ibとの比が0.86であった。
【0143】
(2) 全芳香族ポリアミド樹脂の調製
脱水精製した2152 gのN-メチル-2-ピロリドンに、27.04 gのp-フェニレンジアミン及び50.06 g の3、4’-ジアミノジフェニルエーテルを常温で添加し、窒素気流下で溶解させた後、氷冷し攪拌しながら101.51 gのテレフタル酸ジクロリドを添加した。その後80℃になるまで徐々に昇温し、80℃で60分間反応させた後、水酸化カルシウム37.04 gを添加して中和し、全芳香族ポリアミド樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液を水に滴下して再沈殿させ乾燥させることにより、全芳香族ポリアミド樹脂の粉末を得た。
【0144】
(3)ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の作製
得られた未精製のナノダイヤモンドをエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン及びγ-ブチロラクトン(35:35:30の質量比)の混合溶媒に1質量%の濃度で分散させ、一方、得られた全芳香族ポリアミド樹脂を、同じ前記混合溶媒に5質量%となるように溶解させた。前記未精製のナノダイヤモンドを分散物と前記全芳香族ポリアミド樹脂溶液とを等重量で混合し、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物を得た。
【0145】
実施例2
(1) 全芳香族ポリアミド酸溶液の調製
窒素導入管、温度計、及び攪拌棒を備えた容器を窒素置換した後、108質量部のフェニレンジアミンを入れ、次いで3600質量部のN-メチル-2-ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、420質量部のN-メチル-2-ピロリドンに溶解した292.5質量部のジフェニルテトラカルボン酸二無水物を加えて、25℃にて12時間攪拌し、褐色の粘調な全芳香族ポリアミド酸溶液ポリアミド酸溶液を得た。
【0146】
(2)ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の作製
実施例1で作製した未精製のナノダイヤモンドをエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン及びγ-ブチロラクトン(35:35:30の質量比)の混合溶媒に0.5質量%の濃度で分散させた。一方で、得られた全芳香族ポリアミド酸溶液に、エチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン及びγ-ブチロラクトンを添加し、溶媒組成が35:35:30(質量比)及び全芳香族ポリアミド酸濃度が3質量%となるように調製した。前記未精製のナノダイヤモンドを分散物と前記全芳香族ポリアミド酸溶液とを等重量で混合し、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物を得た。
【0147】
実施例3
(1) 全芳香族ポリアミドイミド樹脂溶液の調製
攪拌機、冷却管、窒素導入管、及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコに、192.1 g(1.0モル)のトリメリット酸無水物、26.4 g(0.1モル)の4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジメチルビフェニル、21.0 g(0.1モル)の1,5-ジイソシアナトナフタレン、200.2 g(0.8モル)の4,4′-ジイソシアナトジフェニルメタン、970 gのγ-ブチロラクトンを仕込み、3.1 gの N-メチル-2-ピロリドンを加え120℃まで昇温し、約6時間反応させた。分子量19300となったら加熱を停止し、277 gのγ-ブチロラクトンを添加し、不揮発分25重量%の全芳香族ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0148】
(2)ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の作製
実施例1で作製した未精製のナノダイヤモンドをエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン及びγ-ブチロラクトン(35:35:30の質量比)の混合溶媒に2質量%の濃度で分散させた。一方で、得られた全芳香族ポリアミドイミド樹脂溶液に、エチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン及びγ-ブチロラクトンを添加し、溶媒組成が35:35:30(質量比)及び全芳香族ポリアミドイミド樹脂濃度が10質量%となるように調製した。前記未精製のナノダイヤモンドを分散物と前記全芳香族ポリアミドイミド酸溶液とを等重量で混合し、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物を得た。
【0149】
実施例4〜6
(1) 酸化処理ナノダイヤモンド粉末の作製
実施例1で作製した未精製のナノダイヤモンドを60質量%硝酸水溶液と混合し、160℃、14気圧、20分の条件で酸化性分解処理を行った後、130℃、13気圧、1時間で酸化性エッチング処理を行った。酸化性エッチング処理により、未精製のナノダイヤモンドからグラファイトが一部除去された粒子が得られた。この粒子を、アンモニアを用いて、210℃、20気圧、20分還流し中和処理した後、自然沈降させデカンテーションにより35質量%硝酸での洗浄を行い、さらにデカンテーションにより3回水洗し、遠心分離により脱水し、120℃で加熱乾燥し、酸化処理したナノダイヤモンドの粉末を得た。この酸化処理したナノダイヤモンドの粉末の比重は3.38 g/cm3であり、メジアン径は130 nm(動的光散乱法)であった。比重から計算して、90体積%のダイヤモンドと10体積%のグラファイト系炭素からなっていると推定された。
【0150】
(2) ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の製造
未精製のナノダイヤモンドの代わりに酸化処理ナノダイヤモンド粉末を用いた以外、実施例1〜3と同様にして、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物をそれぞれ作製した。
【0151】
実施例7〜9
(1) 精製ナノダイヤモンドの作製
実施例2で作製した酸化処理ナノダイヤモンドの粉末をビーズミルにより分散処理した。ビーズミルによる分散は、アシザワファインテック株式会社製スターミルLMZを用いて行った。243 gの前記ナノダイヤモンドの粉末を水/トリエチレングリコール(50:50の容量比)に分散して5質量%の水分散液を調製し、ディゾルバーで予備分散した。0.1 mm径のジルコニアビーズを0.15 Lのベッセルに充填し、10 m/sの周速で回転子を回転させながら、前記ナノダイヤモンドの粉末の分散液を0.12 L/minで供給し、連続的に分散処理を行った。約2時間分散処理した後のナノダイヤモンド粒子はメジアン径40 nmであった。
【0152】
ビーズミルによって分散処理したナノダイヤモンド粒子の2.0質量%水分散液30 mLを、オートクレーブ(容量50 mL、SUS316製)に入れ、酸素導入管、温度計及び調圧弁を有する蓋で密封し、炉内に設置した。オートクレーブ内の空気を酸素で置換した後、オートクレーブ内が1.0 MPa(ゲージ圧)の圧力となるように、室温で酸素を導入した。オートクレーブを平均昇温速度6.5℃/分で昇温し、400±5℃の温度及び5±1 MPaの圧力で2時間保持した。オートクレーブを室温まで冷却した後、大気圧まで減圧し、精製されたナノダイヤモンドを含む液を回収した。この液は、上澄みと薄い灰色を呈する精製ナノダイヤモンドの沈殿とに分離していた。
【0153】
前記精製ナノダイヤモンドを含む液を、自然沈降させデカンテーションにより3回水洗し、さらに遠心分離により脱水し、120℃で加熱乾燥し、精製ナノダイヤモンド粉末を得た。得られた精製ナノダイヤモンド粉末は、メジアン径55 nm(動的光散乱法)、比重3.46 g/cm3であった。この比重から算出した組成は、ダイヤモンド97体積%及びグラファイト3体積%であった。
【0154】
(2) ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の製造
未精製のナノダイヤモンドの代わりに精製ナノダイヤモンド粉末を用いた以外、実施例1〜3と同様にして、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物をそれぞれ作製した。
【0155】
実施例10〜12
(1)フッ素化ダイヤモンド微粒子の作製
実施例2で得られた酸化処理ナノダイヤモンドの粉末を3質量%の濃度でメタノールに分散させ、下記式:
【0156】
【化28】

【0157】
(RFは-CF(CF3)OC3F7基、Rは-OH基、nは約800である。)表される含フッ素オリゴマー、及び28質量%アンモニア水を、ナノダイヤモンド分散物100質量部に対してそれぞれ50質量部及び10質量部加え、80℃で20時間撹拌して反応させた。得られた分散物を中和、洗浄及び乾燥し、フルオロアルキル基修飾ナノダイヤモンド粉末を得た。
【0158】
(2) ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の製造
未精製のナノダイヤモンドの代わりにフルオロアルキル基修飾ナノダイヤモンド粉末を用いた以外、実施例1〜3と同様にして、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物をそれぞれ作製した。
【0159】
実施例13〜15
(1) ケイ素化ダイヤモンド微粒子の作製
実施例2で得られた酸化処理ナノダイヤモンドの粉末をメチルイソブチルケトンに3質量%の濃度で分散させ、トリメチルクロロシランのメチルイソブチルケトン溶液(濃度7.5質量%)を1:1の容量で加え、48時間撹拌してナノダイヤモンドをトリメチルシランで修飾した。得られた分散物をメチルイソブチルケトンで洗浄後、乾燥し、トリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末を得た。
【0160】
(2) ダイヤモンド含有複合樹脂組成物の製造
未精製のナノダイヤモンドの代わりにトリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末を用いた以外、実施例1〜3と同様にして、ダイヤモンド含有複合樹脂組成物をそれぞれ作製した。
【符号の説明】
【0161】
1・・・爆薬
2a,2b・・・容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と、爆射法で得られたダイヤモンド微粒子と、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドとからなるダイヤモンド含有複合樹脂組成物であって、前記ダイヤモンド微粒子が2.55〜3.48 g/cm3の比重を有し、前記溶媒がエチレングリコールモノブチルエーテル及びγ-ブチロラクトンを含む混合溶媒であることを特徴とするダイヤモンド含有複合樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のダイヤモンド含有複合樹脂組成物において、前記混合溶媒がさらにN-メチル-2-ピロリドンを含むことを特徴とするダイヤモンド含有複合樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のダイヤモンド含有複合樹脂組成物において、前記混合溶媒が30質量%以上のγ-ブチロラクトン及び35質量%以下のN-メチル-2-ピロリドンを含むことを特徴とするダイヤモンド含有複合樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のダイヤモンド含有複合樹脂組成物において、前記混合溶媒が50質量%以上のγ-ブチロラクトンを含むことを特徴とダイヤモンド含有複合樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のダイヤモンド含有複合樹脂組成物において、前記ダイヤモンド微粒子が、前記全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドに対して0.01〜20質量%の範囲で含有することを特徴とするダイヤモンド含有複合樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のダイヤモンド含有複合樹脂組成物において、前記ダイヤモンド微粒子がフッ素又はケイ素を有するダイヤモンド微粒子であることを特徴とするダイヤモンド含有複合樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のダイヤモンド含有複合樹脂組成物において、前記フッ素を有するダイヤモンド微粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマーを使用したフッ素化ダイヤモンド微粒子であることを特徴とするダイヤモンド含有複合樹脂組成物。
【請求項8】
ダイヤモンド微粒子と全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドとを含有するダイヤモンド含有複合樹脂組成物を製造する方法であって、エチレングリコールモノブチルエーテル及び/又はγ-ブチロラクトンを含む溶媒を用いて、爆射法で得られた2.55〜3.48 g/cm3の比重を有するダイヤモンド微粒子を分散させる工程、及び前記全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド酸又は全芳香族ポリアミドイミドを溶解する工程を有することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8に記載のダイヤモンド含有複合樹脂組成物を用いて製造されたダイヤモンド含有複合材料。
【請求項10】
請求項9に記載のダイヤモンド含有複合材料からなる成形品。
【請求項11】
請求項9に記載のダイヤモンド含有複合材料からなるフィルム又はシート。
【請求項12】
請求項9に記載のダイヤモンド含有複合材料からなる繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2012−201878(P2012−201878A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70990(P2011−70990)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(500462834)ビジョン開発株式会社 (51)
【Fターム(参考)】