説明

ダイヤモンド電極

【課題】本発明は、ダイヤモンド電極による電極酸化処理において、絶縁セラミックス基板を用いる場合に、大きな電力が必要となり、電力コストが大きくなるという上記問題を解決するためになされたものである。
【解決手段】母材および該母材表面に被覆した導電性ダイヤモンド層からなる電極において、母材が絶縁セラミックス材質であり、母材表面の少なくとも一部に導電性ダイヤモンドが成膜され、前記導電性ダイヤモンドが被覆されていない母材表面に、導電性の膜が被覆され、前記導電性ダイヤ膜と前記導電性膜が導通していることを特徴とするダイヤモンド電極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的酸化処理に利用されるダイヤモンド電極に関し、更に詳しくは高電流密度下で使用する場合において、低電力で使用することを可能とするダイヤモンド電極に関する。
【背景技術】
【0002】
廃液中には、無機物、有機物の両方を含んでいることが多い。電気化学的酸化は、廃液中の望ましくない有機化合物を低減することのできる技法である。
ダイヤモンド電極は、化学的に安定であり、電位窓も広いことから、電気化学的酸化を行う場合に有利である。特許文献1、特許文献2では、ダイヤモンド電極を用いて排水中で有機化合物を効率的に分解できることが開示されている。
【0003】
しかし、ダイヤモンドに空孔が存在する場合や、長時間、電気化学的酸化処理を行うと、基板とダイヤモンド膜の界面で剥離が起こる場合がある。その場合には下地基板が表面に現れ、電気分解溶液に触れる事となり、基板が腐食されることとなる。特許文献3では、ダイヤモンド電極として、無孔質なもの、すなわちピンホールがなく、下地基板が露出しないダイヤモンドの合成方法が示されている。しかし、この空孔がないことを確認する評価手段は、フッ化水素酸による水素発生の有無を見るものであり、正確な評価方法とは言えない。なぜならば、特定の溶液や電圧に対して空孔がない場合でも、他の溶液や電圧に対しては、空孔が発生するということは、しばしばあるからである。そこで、空孔がある場合でも問題のない、比較的酸に対して耐久力が高い、セラミックス材質等がダイヤモンド電極の基板として適していると考えられる。従来電気化学的酸化処理に用いられている金属基盤では、基板側から給電を行っている。しかし、先述したセラミックス材質の多くは電気抵抗が高く、電気化学的酸化処理の際に、安定して均一給電することができない。また、導電性を持つセラミックスは高価であり、基板コストが大きくなってしまう。そこで、セラミックス基板を用いる場合にダイヤモンド成膜面の反対側の面に電気抵抗の低い導電性膜、例えば金属膜、導電性ダイヤモンドを成膜することで、安定して均一給電で電気化学的酸化処理を行うことが可能となる。
【特許文献1】特開2000−226682号公報
【特許文献2】特開2000−254650号公報
【特許文献3】特開2000−313982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ダイヤモンド電極による電極酸化処理において、絶縁セラミックス基板を用いる場合に、大きな電力が必要となり、電力コストが大きくなるという上記問題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ダイヤモンド電極に使用する母材をセラミックス材とする。母材は、炭化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ムライトの中から選ばれたものが好ましい。
炭化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ムライトは、ダイヤモンドの核発生密度が高くなりやすく、ダイヤモンド層との結合が強くなる傾向にある。これを母材として使用するのは有効な方法である。
母材の形状は特に限定しないが、板状、円盤状基板が安価で手に入りやすく、成膜も行いやすい。例えば、成膜方法としては図1に示す様に、ある一面に導電性ダイヤモンドの成膜を行い、その反対側に導電性膜を成膜する方法が行いやすい。また、基板を球状、メッシュ状にすることで、表面積が大きくなり、電極として適している場合があり、使用する場合がある。
【0006】
ダイヤモンド成膜を行う反対側の面に、導電性材料を成膜する。導電性膜の抵抗率は1×10-1Ω・cm以下とする。抵抗が十分に低く、電気化学的酸化処理を行う際に、低電力で行うことが可能となる。
前記導電性膜は金属材料であることが好ましい。これにより、抵抗が低く、より低電力で電気化学的酸化処理を行うことができる。
前記金属膜が、銅、白金、金、銀、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、チタン、モリブデン、コバルト、タングステン、グラファイト、DLC、ダイヤモンドのうちいずれか一つを含むことが好ましい。これらは、低コストで抵抗率の低い膜を成膜することができ、低電力で電気化学的酸化処理を行うことができる。
【0007】
前記導電性膜は、真空蒸着法、高周波スパッタ法、直流スパッタ法、分子線エピタキシー法、電子銃蒸着法、レーザーアブレーション法、スプレーのうち少なくとも一つの方法で成膜されることが好ましい。これにより、密着力が高く、膜厚、抵抗の分布がないために、均一に給電することが可能となる。
前記裏面導電性膜の膜厚が0.1μm〜50μmであることが好ましい。0.1μmより薄い場合には、十分に抵抗が低くならず、電気化学的酸化処理の際に使う電力が高くなってしまう。良好な接触を得るためには、0.1μm以上の厚みが必要になる。50μmより厚い場合では、膜内の応力が高くなり、剥離の原因となる。また成膜時間もかかり、製造コストが大きくなる。
前記導電性ダイヤモンド膜の膜厚が0.1μm以上であることが好ましい。0.1μmより薄い場合には、十分に抵抗が低くならず、電気化学的酸化処理を行う際に、大きな電力が必要となってしまう。
【0008】
前記導電性ダイヤモンド膜の抵抗率が、1×10-1Ω・cm以下であることが好ましい。これ以上である場合には、電気化学的酸化処理を行う際に、大きな電力が必要となってしまう。
基板の表面の状態は特に限定しないが、その後の核発生、膜密着力が不足しダイヤモンドの成膜が良好にできない場合は、基板表面に対してサンドブラスト、エッチング等の方法で予め凹凸を形成してやることで良好にダイヤモンド膜が形成できるようになる。
【0009】
本発明では、絶縁セラミック基板を用い、それにもかかわらず、ダイヤモンド電極の導電性ダイヤモンド成膜の反対面、もしくは両面から給電することができ、より低電力で電気化学的酸化処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
以上詳述したように、本発明のダイヤモンド電極は、ダイヤモンドを成膜した面の反対側の面に、金属、ダイヤモンド等の導電性膜を成膜することによって、背面からの給電でも低電力で電気化学的酸化処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ダイヤモンド電極となる導電性ダイヤモンド層を成膜する基板は、珪化物、炭化物、あるいは硼化物のうち少なくとも一種類であることが好ましい。酸化珪素、窒化珪素、炭化珪素のうち少なくとも一種類であることが更に好ましい。
上記の基板上にダイヤモンド層を成膜する。前処理として、ブラスト処理等を用いて表面に凹凸をつける事が好ましい。その後、ダイヤモンドパウダー等で種付けを行い、成膜を行う。導電性ダイヤモンドの合成方法は気相合成であることが好ましい。その中でも熱フィラメントCVD法やプラズマCVD法を用いることが好ましい。水素ガスと、炭素含有ガス例えば、メタンを導入し合成する。水素:メタンの比率は、0.2%〜5%の範囲であることが好ましい。それ以下であると、炭素源が少なすぎるため成膜に時間がかかってしまう。それ以上であると、炭素源が多すぎるためにダイヤモンドの品質を下げることとなる。硼素、燐及び窒素を添加することで、ダイヤモンド膜に導電性を付与することが好ましい。ダイヤモンドを成膜した面の反対側には金属材料もしくはグラファイト、DLC、ダイヤモンドのいずれかの導電物質を成膜する。金属材料は、高周波スパッタ法、直流スパッタ法、分子線エピタキシー法、電子銃蒸着法、レーザーアブレーション法のいずれかを用いて成膜することが好ましい。グラファイト、DLC、ダイヤモンドは、μ波プラズマCVD、 熱フィラメントCVD法のいずれかで成膜することが好ましい。ここで成膜した導電性膜は、先述した導電性ダイヤモンド膜と同等、もしくはそれ以下の10-3〜10-7Ω・cmの抵抗であることが好ましい。ダイヤモンドを成膜することと、導電性膜の成膜の順序はどちらを先に行っても構わない。
【0012】
実施例1
表1に記載した材質を母材として、50mm角の1面に導電性ダイヤモンドを成膜した。具体的には、母材表面を#60のアルミナサンドを使用し圧力6kg/cmでブラスト掛けを行った後、洗浄を行い、導電性ダイヤモンド膜の成膜を行った。ダイヤモンド膜の膜厚は1μmで、抵抗率は8.1×10-3であった。導電性ダイヤモンド層の成膜は熱フィラメントCVD法で、ガス圧60Torrとし、水素流量を3000sccm、メタン流量を0.5〜5.0 sccmの範囲とした。また、硼素源としてジボランガスとした。流量はメタンに対して、0.2〜1.0%の範囲の濃度で供給した。基板の温度は、700〜1000℃とした。その反対側の面には導電性膜として銅を10μmの厚みで成膜した。その抵抗は3.0×10-3であった。これにより、ダイヤモンド電極を作成した。
【0013】
基板の表裏の抵抗測定により、ダイヤモンド膜と銅膜との導通を確認した。また、顕微鏡による表面観察の結果、ダイヤモンド膜と銅が接していることを確認した。その後、電気分解による酸化処理を行った。
電気化学的酸化処理は、図2に示すように、1mol/リットルの硫酸水溶液中で行い、陽極、陰極の両方にダイヤモンド電極を使用した。一室型電解槽を用い、電極同士は10mm離して固定し、ダイヤモンド膜が向かい合うようにし、ダイヤモンド膜が溶液と接するようにして、給電を行った。ダイヤモンド被覆面とは反対側の、導電性膜側から給電を行わなければならない。条件は0.5A/cm2の電流が流れる状態で行った。溶液とダイヤモンド電極が接する面積が35×35mm2となるように、ダイヤモンド電極を絶縁物でコーティングした。
【0014】
【表1】

No.1〜No.5は低電力で電気化学的酸化処理を行うことができた。No.7、8では、ダイヤモンド膜のピンホール部分から、基板が侵食され、ダイヤモンド膜の剥離が起こった。No.9は、ダイヤモンド成膜を行おうとしたところ、ダイヤモンドの核発生密度が低く、ダイヤモンドの連続膜ができなかった。
【0015】
実施例2
実施例1と同じ方法で、基板材質をSiCとし、導電性膜の材質を銅とし、その厚みだけを変えることで、導電性膜の抵抗値を変化させた。
【表2】

No.1、2では、低電力で電気化学的酸化処理を行うことができる。しかし、No.3、4では、導電性膜の抵抗が高いことにより、電気化学的酸化処理では大きな電力が必要となった。
【0016】
実施例3
実施例1と同じ方法で、導電性膜の材質だけを変化させた。材質を表3に示す。
【表3】

No.1〜14では、電気化学的酸化処理を行う場合際に、小さな電力で行うことができる。それに比べてNo.15〜17では大きな電力が必要となる。
【0017】
実施例4
実施例1と同じ方法で、基板をSi34とし、導電性膜の材質を銅として表4に示す方法で成膜方法を変え、電気化学的酸化処理を行った。
【表4】

【0018】
No.1〜No.7の方法で成膜したものは、膜の密着力も良く、電気化学的酸化処理を行った場合でも剥離が起こらなかった。No.8、9では、密着力が弱く、電気化学的酸化処理を行った場合に剥離が起こってしまった。
【0019】
実施例5
実施例1と同じ方法で、裏面導電性膜の膜厚だけを表5に示す様に変化させた。
【表5】

No.1、2は膜厚が薄すぎるために、抵抗が高くなり使用される電力も大きくなっている、これは給電部での接触不良が起こっていると思われる。No.3〜5は、電気化学的酸化処理を行う際に小さな電力で行うことができた。No.6、7では、導電性膜の膜厚が厚くなりすぎたために、膜内の応力が大きくなり、導電性膜の剥離が起こった。
【0020】
実施例6
実施例1と同様の方法で、ジボランガスの流量を調整することにより、添加させる硼素の量を変化させ、ダイヤモンド膜の抵抗率を表6の様に変化させた。
【表6】

No.3、4は電気化学的酸化処理を行う場合際に、小さな電力で行うことができる。それに比べてNo.1、2 では大きな電力が必要となる。
【0021】
実施例7
実施例1と同様の方法で、ダイヤモンド膜の膜厚の変更だけを行った。表7に示す膜厚になるよう、成膜時間を変更した。
【表7】

No.3、4は電気化学的酸化処理を行う場合際に、小さな電力で行うことができる。それに比べてNo.1、2では大きな電力が必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の成膜の一例の説明図である。
【図2】電気化学的酸化処理の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材および該母材表面に被覆した導電性ダイヤモンド層からなる電極において、母材が絶縁セラミックス材質であり、母材表面の少なくとも一部に導電性ダイヤモンドが成膜され、前記導電性ダイヤモンドが被覆されていない母材表面に、導電性の膜が被覆され、前記導電性ダイヤモンド膜と前記導電性膜が導通していることを特徴とするダイヤモンド電極。
【請求項2】
前記母材が、炭化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化珪素、ムライト、コージライトのセラミックス材料の中から少なくとも一つ以上を含んだものであることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド電極。
【請求項3】
前記導電性膜の抵抗率が1×10-1Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のダイヤモンド電極。
【請求項4】
前記導電性膜が、金属材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイヤモンド電極。
【請求項5】
前記金属膜が、銅、白金、金、銀、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、チタン、モリブデン、コバルト、タングステンのうち少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする請求項4に記載のダイヤモンド電極。
【請求項6】
前記導電性膜が、グラファイト、DLC、ダイヤモンドのうち少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のダイヤモンド電極。
【請求項7】
前記導電性膜が、真空蒸着法、高周波スパッタ法、直流スパッタ法、分子線エピタキシー法、電子銃蒸着法、レーザーアブレーション法、スプレーのうち少なくとも一つの方法で成膜されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のダイヤモンド電極。
【請求項8】
前記導電性膜の膜厚が0.1μm〜50μmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のダイヤモンド電極。
【請求項9】
前記導電性ダイヤモンド膜の抵抗率が1×10-1Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のダイヤモンンド電極。
【請求項10】
前記導電性ダイヤモンド膜の膜厚が0.1μm以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のダイヤモンド電極。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−83407(P2006−83407A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266697(P2004−266697)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】