説明

ダストシール

【課題】ゴム状弾性体のダストシールであって、電気絶縁性を有して装着時のダスト等に対するシール性がよく、しかも装着の際の作業性が容易なダストシールを提供する。
【解決手段】内周縁23が屈曲部24である開口部21を有する箱体2と、開口部21に挿通される配管3との間に装着されるダストシール1であって、箱体2に密着する凸部41を有する外径リップ部4と、配管3と内周面61が密着する内径リップ部6と、外径リップ部4と内径リップ部6とを連結するシール部5とを備え、凸部41は屈曲部24の外径側で箱体2と密着させ、内周面61は配管3の直径に対し1乃至2mmの締め代を有して密着させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性を有するゴム状弾性体製のダストシールであって、例えば燃料電池における箱体と配管との間で外部からのダストをシールするために用いられるダストシールに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を搭載した燃料電池自動車において、燃料電池ユニットの電気絶縁性は、安全性の面で非常に重要な問題である。図5に、車載燃料電池ユニット100の概略構成図を示す。参照符号101は燃料電池本体、102は原料ガスを水素ガスに改質する改質器及びCO浄化器等からなる改質装置であり、絶縁シート104を設けた箱体103に収納されている。また、燃料電池本体101及び改質装置102は、電気絶縁性を有するマウント105を介して支持されている。
【0003】
燃料電池本体101は、水素と酸素を反応させて水を生成することによって電気を発生させるもので、外部からの燃料供給管や、酸化ガス供給管、冷却水供給管など、複数の配管106が接続されており、これらの配管106は、箱体103に開設された開口部103aを挿通して配設されているので、箱体103の開口部103aの内周縁103bと配管106との間をゴム状弾性体のダストシール107でシールし、外部から箱体103内部へのダストや水等の飛沫の侵入を防止している。
【0004】
また、燃料電池本体101は電気を発生させるものであるため、燃料電池本体101及びこれに接続された配管106は高電位となり、一方、燃料電池本体101を収容している箱体103は金属で成形されているため、箱体103と、これを貫通する配管106との間は、漏電を防止するため電気絶縁性を確保する必要がある。
【0005】
しかしながら、箱体103の開口部103aを形成する内周縁103bと配管106との間に装着されたダストシール107は、ゴム状弾性体で成形されているので、僅かながら導電性を有し、燃料電池本体101が発電によって高電位になると、配管106から、ダストシール107を介して箱体103への漏電を生じるおそれがある。漏電の発生は、極めて危険な事態を引き起こすおそれがあるので、本発明者らは、下記特許文献1において、特定の関係式を具備させた電気絶縁性を有するゴム状弾性体性で成形したダストシール107で、図6に示すようなシール性の良い形状のダストシール107を提案している。
【0006】
この図6に示すダストシール107は、グロメット部110に形成されている環状溝110aに箱体103に開設された開口部103aの内周縁103bを嵌合させると共に、膜部111によりグロメット110と連結しているリップ部112を配管106の外周面106aに嵌合させることで、箱体103と配管106との間に装着し外部のダスト等をシールするものであるが、配管106の外周面106aと嵌合するリップ部112の内周面112aが平面であるため、装着に際し緊迫力が高くなり膜部111が引っ張られて、グロメット部110と箱体103の内周縁103bとの間に隙間ができる虞があった。また、リップ部112の嵌合位置を調整する等の作業が必要になるが、グロメット110と箱体103の内周縁103bとの嵌合状態の確認が難しく、リップ部112の内周面112aの配管106に対する緊迫力も高いため、装着作業が煩雑であった。
【0007】
【特許文献1】特開2005−147241公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記不具合点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、ゴム状弾性体のダストシールであって、電気絶縁性を有して装着時のダスト等に対するシール性がよく、しかも装着の際の作業性が容易なダストシールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係るダストシールは、内周縁が外側に湾曲している屈曲部からなる開口部を有する一の部材と、前記開口部に挿通される他の部材との間に装着されるゴム状弾性体のダストシールであって、前記一の部材に密着する凸部を有する外径リップ部と、前記他の部材と内周面が密着する内径リップ部と、前記外径リップ部と前記内径リップ部とを連結するシール部とを備え、前記シール部の軸方向断面積をS、前記シール部の長さをL、前記シール部の目標絶縁抵抗値をR、前記ゴム状弾性体の体積固有抵抗値をRとしたときに、前記シール部は、
S×L>R/R
の関係式を具備し、前記凸部は前記屈曲部の外径側で前記一の部材と密着し、前記内周面は他の部材の直径に対し1乃至2mmの締め代を有して他の部材に密着していることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に係るダストシールは、請求項1に記載のダストシールにおいて、前記凸部の先端の軸方向断面形状は、円弧状、または一の部材と形成する外径側勾配角が45度以上で内径側勾配角が45度以下である三角形状であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項3に係るダストシールは、請求項1若しくは2に記載のダストシールにおいて、前記内周面が、内径方向に突設された周方向に連続した突起を有する波状面であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0013】
本発明の請求項1に係るダストシールによれば、外径リップ部と内径リップ部とを連結しているシール部が所定の関係式を具備しているので、ゴム状弾性体であっても電気絶縁性を有し、配管から箱体への漏電を防止することができる。また、内径リップ部の内周面は他の部材の直径に対し1乃至2mmの締め代を有して密着するので、緊迫力が高くならずに、装着の際にシール部が引っ張られるのを防止することができる。しかも外径リップ部の凸部は一の部材に形成されている屈曲部の外径側に密着させているだけで嵌合させていないので、外径リップ部の密着性を確保するために行う内径リップ部の調整等の装着作業を容易に行うことができる。
【0014】
また、請求項2に記載されているように、外径リップ部の凸部の先端の断面形状が、円弧状、または一の部材と形成する外径側勾配角が45度以上で内径側勾配角が45度以下である三角形状であるので、外径リップ部の一の部材に対する密着性を、より好適にすることができる。
【0015】
また、請求項3に記載されているように、内径リップ部の内周面が内径方向に突設された周方向に連続した突起を有する波状面であるので、内周面の緊迫力を請求項1の記載値に設定したときでも、内径リップの他の部材に対する密着性を、より好適にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示して説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るダストシールを装着状態で軸方向に軸心を通る平面で切断して示す要部断面図であり、図2は、図1のダストシールの拡大断面図である。図3と図4は共に、本発明の別の実施形態に係るダストシールの拡大断面図である。
【0018】
本発明に係るダストシール1は、図1に示す通り、一の部材である箱体2と、箱体2に開設された開口部21を挿通する他の部材である配管3との間に装着される。
【0019】
箱体2は、図示しない燃料電池本体、および原料ガスを水素ガスに改質する改質器及びCO浄化器等からなる改質装置等を収納しているもので、金属で成形されていて、上面部22に配管3を挿通する開口部21が開設されていて、その開口部21を形成する上面部22の内周縁23は、外側に湾曲して屈曲部24を形成している。
【0020】
配管3は、水素と酸素を反応させて水を生成することによって電気を発生させる燃料電池本体に接続された燃料供給管、酸化ガス供給管、冷却水供給管等の複数の配管が束ねられたものであって、燃料電池本体と共に高電位となるものである。
【0021】
ダストシール1は、図2に示す通り、外径リップ部4と、シール部5と、内径リップ部6とを備え、ゴム状弾性体により一体に成形されている。
【0022】
外径リップ部4は、凸部41を有し、その凸部41の先端42の軸方向断面形状は、円弧状43をしており、屈曲部24の外径側で箱体2の上面部22と密着するようになっている。なお、凸部41の先端42の軸方向断面形状は、図3に示す通り、三角形状44であっても良く、この場合先端42が上面部22に当接したときに上面部22となす勾配角度が、外径側勾配角αが45度以上であり、内径側勾配角βが45度以下に設定されるのがよい。
【0023】
シール部5は、外径リップ部4と後述する内径リップ部6とを連結しているものであって、シール部5の軸方向断面積をS、シール部5の長さをL、シール部5の目標絶縁抵抗値をR、ゴム状弾性体の体積固有抵抗値をRとしたときに、「S×L>R/R」の関係式を具備するように、寸法・面積等が規定されている。
【0024】
内径リップ部6は、内周面61が配管3の外周面31に嵌合により密着している。この場合に、内径リップ6の内周面61の内径は、配管3の外径に対して1乃至2mm小さく成形されていて、これにより内径リップ6の締め代が確保されている。なお、内径リップ6の内周面61の形状は、平面62、または図4に示す通り、内径方向に突設された周方向に連続した突起63を有する波状面64であっても良い。
【0025】
上記の通り構成されたダストシール1を、箱体2と、箱体2に開設された開口部21を挿通する配管3との間に装着するには、初めに内径リップ部6の内周面61を配管3の外周面31に嵌合させ、その後に外径リップ部4の凸部41を箱体2の上面部22に密着させることにより行う。この装着の際に、外径リップ部4の密着性を確保するため、図2に示す初期高さAに対して、図1に示す装着時の高さBが10乃至20%圧縮されたよう(即ち、(A−B)/A=10〜20%、となるよう)に設定するのが好適であり、このように設定することで、外径リップ部4がシール部5により引っ張られるのを防止することも可能となる。
【0026】
以上の通り上記構成のダストシール1は、内径リップ部6を配管3の外周面31に嵌合させ、外径リップ部4は箱体2の上面部22に密着させるだけであるので装着作業が容易であると共に、内径リップ部6の締め代が配管3の直径に対し1乃至2mmであるので外径リップ部4がシール部5に引っ張れるのを防止することが可能となる。また、内径リップ部6の位置調整も容易に行うことができ、従来に比較して装着作業性の改善を図ることが可能となる。
【0027】
更に、開口部21の内周縁23は外側に湾曲した屈曲部24で形成されているので、外径リップ部4と箱体2の上面部22との間から僅かなダストが侵入したとしても、屈曲部24で遮断することができ、箱体2内部へのダスト等の侵入を防止することが可能となる。
【0028】
特に、外径リップ4の先端42の軸方向断面形状が、円弧状43、または箱体の上面部と形成する外径側勾配角αが45度以上で内径側勾配角βが45度以下である三角形状44であると、外径リップ部4と上面部22との密着性を確保することがより好適となり、外部からのダスト等の侵入を防止することが可能となる。
【0029】
また、内径リップ部6の内周面61が内径方向に突設された周方向に連続した突起63を有する波状面64で形成されていると、内径リップ部6の締め代が配管3の直径に対し1乃至2mmであっても、内径リップ部6を配管3の外周面に密着させることがより好適となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るダストシールを装着状態で軸方向に軸心を通る平面で切断して示す要部断面図
【図2】図1に係るダストシールの拡大断面図
【図3】図2における外径リップ部の別の実施形態を示す断面図
【図4】図2における内径リップ部の別の実施形態を示す断面図
【図5】燃料電池ユニットの概略構成説明図
【図6】従来例のダストシールを装着状態で軸方向に軸心を通る平面で切断して示す要部断面図
【符号の説明】
【0031】
1 ダストシール
2 箱体(一の部材)
21 開口部
22 上面部
23 内周縁
24 屈曲部
3 配管(他の部材)
31 外周面
4 外径リップ部
41 凸部
42 先端
43 円弧状
44 三角形状
5 シール部
6 内径リップ部
61 内周面
62 平面
63 突起
64 波状面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周縁が外側に湾曲している屈曲部からなる開口部を有する一の部材と、前記開口部に挿通される他の部材との間に装着されるゴム状弾性体のダストシールであって、
前記一の部材に密着する凸部を有する外径リップ部と、前記他の部材と内周面が密着する内径リップ部と、前記外径リップ部と前記内径リップ部とを連結するシール部とを備え、
前記シール部の軸方向断面積をS、前記シール部の長さをL、前記シール部の目標絶縁抵抗値をR、前記ゴム状弾性体の体積固有抵抗値をRとしたときに、前記シール部は、
S×L>R/R
の関係式を具備し、
前記凸部は前記屈曲部の外径側で前記一の部材と密着し、前記内周面は他の部材の直径に対し1乃至2mmの締め代を有して他の部材に密着していることを特徴とするダストシール。
【請求項2】
請求項1に記載のダストシールにおいて、
前記凸部の先端の軸方向断面形状は、円弧状、または一の部材と形成する外径側勾配角が45度以上で内径側勾配角が45度以下である三角形状であることを特徴とするダストシール。
【請求項3】
請求項1若しくは2に記載のダストシールにおいて、
前記内周面が、内径方向に突設された周方向に連続した突起を有する波状面であることを特徴とするダストシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−327610(P2007−327610A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160751(P2006−160751)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】