説明

ダムの天端高を高くするための上部構造物

【課題】可能最大降水量の増加による洪水とかんばつに対処するために、既存ダムや堤防の頂上部にクラウン(crown)型のコンクリート構造物を追加設置する。
【解決手段】ダム20の天端高Hを高くすることができる上部コンクリート構造物に関するものであり、天端に安着した基底部10と、この基底部10の上部からダム20の長方向に沿って伸びている2つの側壁11,12と、傾斜基底部10a,10c及び側壁11,12の間に配置された1つ以上の内・外側隔壁13,14と、2つの側壁11,12及び基底部10により形成された空間部と、基底部10の下部から垂直に下方に向かって伸び、ダムの内部コアに挿入されるシートパイル15とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存及び新設ダム、防波堤、防潮堤、又は堤防等の堤防設備の頂上部に上部構造物を設置することにより、堤高を上げることができる、ダムの天端高を高くするための上部構造物(Upper structure to increase the height of dam/bank levee crown)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、フィルダム(fill dam)とは、土石材料をなだらかな勾配で築造したダム堤体の自重で貯水による水圧を支える形式のダムである。基礎地盤が軟弱な場合にも築造することができ、ダム付近の各種材料に合わせて自由に設計することができるため、他の形式のダムの施工が困難である地域においても経済的に開発することができる。しかし、越流への抵抗力が弱いとの欠点があり、洪水処理施設に巨額の費用がかかる場合が多い。
【0003】
特に、最近、世界的な異常気象により洪水が頻繁に発生しており、洪水による水災害の規模がますます拡大しているのが現実である。そのため、可能最大降水量(P.M.P)が既存ダムの設計当時よりも増加され、可能最大洪水量の流入時のダム安定性を確保しなければならなくなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、洪水による気象災害とかんばつの被害を同時に解決するために、既存及び新設ダム(、堤防、防波堤、又は防潮堤)の構造的及び/又は水理的な安定性をさらに確保し、経済的な効果を甚大に引き上げられる、ダムの天端高を高くするためのコンクリート構造物に関するものである。
【0005】
本発明の上部構造物は、従来より増加した可能最大洪水量に対処できるように、ダムの天端高を高くし、越流を防止するように構成されている。
また、本発明は、前記ダムの天端高を高くするためのコンクリート上部構造物を手段として堤高を上げ、既存ダムの貯水容量や河川の通水断面を著しく増加させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、前記可能最大降水量の増加による洪水とかんばつに対処するために、既存ダムや堤防の頂上部にクラウン(crown)型のコンクリート構造物を追加設置することにある。
【0007】
本発明は、前記目的を達成するために、コンクリート製の上部構造物はその中心から下方へ伸びた鋼材シートパイル(steel sheet pile)を有する。この鋼材シートパイルは漏水を防止し、水圧による貫孔作用が生じないようにすることができる。
本発明の上部構造物はボックス(box)状の空間部を形成し、その内部を土砂及び/又は石材などで埋め、ダムの天端(堤防の頂上部)の路面を形成するようにする。
【発明の効果】
【0008】
以上、本発明の説明によれば、本発明は水の貯蔵、波高又は越流防止のための設備であるダム、堤防、防潮堤、防波堤、堤防設備を新築しなくてもかなり安いコストで簡単な構造物を天端に追加設置することにより、ダムの天端高を高くすることができる。
特に、本発明は、天端に形成された上部構造物により堤高が高くなり、貯水容量を著しく増加させ、洪水又はかんばつに効率的に対処することができるようになる。
また、本発明による上部構造物はコンクリートからなり、天端における漏水量や貫孔作用及び波高、越流を防止し、ダムや堤などの堤防設備の構造的な安定性を図る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施例による上部構造物の断面図である。
【図2】図1に示す上部構造物の平面図である。
【図3】(a)は、図1に示す上部構造物を備えたダムの内側面から見た側面図であり、(b)は、図1に示す上部構造物を備えたダムの外側面から見た側面図である。
【図4】本発明の第2実施例に係る上部構造物の断面図である。
【図5】本発明の第3実施例に係る上部構造物の断面図である。
【図6】本発明の第4実施例に係る上部構造物の平面図である。
【図7】図6のVII−VII線に沿って切り取った上部構造物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、図面を参照して本発明を具体的に説明する。
【0011】
図1は本発明の第1実施例による上部構造物の断面図であり、図2は図1に示す上部構造物の平面図である。また、図3は図1に示す上部構造物の内外側面から見た図面であり、図3(a)は内側面から見た側面図であり、図3(b)は外側面から見た側面図を示す。
【0012】
本発明は、本発明によるクラウン形状の上部構造物(1)をダム(20)の上段部に設置するようになっている。言い換えれば、本発明は、従来に築造されたダム(20)の上段部に上部構造物を設置し、堤高を簡単に高くすることができ、新設されるダムのほか、従来に築造されたダムにも設置することができる。
【0013】
このような作業により本発明の上部構造物(1)は、ダム(20)又はその他の堤防設備の上段部を、即ちダムの天端高を高くし、越流防止及び貯水容量の拡大を実現することが可能となる。
【0014】
図示のように、本発明の上部構造物(1)はダム(20)の天端に位置し、この上部構造物(1)は基底部(10)と、側壁(11,12)と、隔壁(13,14)と、シートパイルとを備えていることを特徴とする。上部構造物(1)の構造的な安定性を確保するために、本発明による上部構造物(1)は基底部(10)上に配置される。
【0015】
特に、基底部(10)は、ダム(20)の天端に打設される平らな中央基底部(10a)と、ダムの内側及び外側の斜面上に打設される傾斜基底部(10b,10c)とからなり、本発明による上部構造物(1)が天端を囲みながら確実に安着できるようにする。基底部(10)は、従来に築造された既存ダムの天端とダムの内外側に形成された傾斜面の一部とを掘り出し、その掘り出した部分に基底部(10a,10b,10c)を形成するのが好ましい。上部構造物(10)は、シートパイル(15)を除いた殆どの構成部材が一体にコンクリート打設されるのが好ましい。
【0016】
上部構造物(1)はその中心から下方へ、より具体的には、天端に沿って形成された基底部(10)の下部面からダムの内部コアに向かって垂直下方に長く伸びているシートパイル(15)を備える。このシートパイル(15)は、ダムの内部コアの漏水量と貫孔作用の発生を抑える役割を果す。好ましくは、シートパイル(15)は鋼材で製作された鋼材シートパイル(steel sheet pile)からなる。
【0017】
ちなみに、シートパイル(15)が挿入されるダムの内部コア部分は通常的に粘土(8)層からなり、中央基底部(10a)を打設する前に粘土(8)を多様な固め工程を通じて十分に固め、天端を堅固にする。
【0018】
また、天端高を高くするために、上部構成物(1)は基底部(10)から垂直下方へ伸びた2つの側壁(11,12)を備える。特に、側壁(11,12)は互いに平行に配置されるが、図示のようにダムの内側には内側壁(11)を備え、ダムの外側には外側壁(12)を備える。
【0019】
図示のように、互いに離隔された内側壁(11)と外側壁(12)とは最大の天端幅まで離れるように配置されるため、平行に配置された側壁(11,12)の間の離隔距離(B)は中央基底部(10a)の両断部、即ち既存ダムの天端幅(B)と同一又は狭く形成し、構造的な安定性を図る。
【0020】
ダムの天端に位置する上部構造物(1)は、側壁(11,12)の高さほど天端高を高くすることができ、本発明の第1実施例による上部構造物を備えたダム(20)の天端高(H)は、既存ダムの天端高(h)に側壁(11,12)の高さを合算しなければならない。
【0021】
前述のように、側壁、より具体的には、内側壁(11)と外側壁(12)とは互いに平行に離隔されているため、内側壁(11)と、外側壁(12)と、基底部(10)、特に中央基底部(10a)とに囲まれた空間部(19)は天端に沿って形成される。それぞれの空間部(19)は土砂や砂利などで埋め、路面を形成することができる。
【0022】
空間部(19)は上部構造物(1)に中空型構造を提供し、ダムの斜面安全性を向上させうる。
【0023】
本発明の第1実施例による上部構造物(1)は、それぞれの内側壁(11)と外側壁(12)との立設を保障するために、内側隔壁(13)と外側隔壁(14)とを備える。内側隔壁(13)は側壁(11)及び傾斜基底部(10b)の境界面に位置する一方、外側隔壁(14)は側壁(12)及び傾斜基底部(10c)の境界面に位置する。
【0024】
即ち、隔壁(13,14)は天端の長方向に沿って長く伸びている傾斜基底部(10b,10c)と内・外側壁(11,12)との間の種々な地点で直角方向に形成される。
【0025】
上部構造物(1)は側壁(11,12)の立設を一段と確実に保障するように、内側壁(11)と外側壁(12)との間の中央基底部(10a)上に中央隔壁(16)を追加的に備える。中央隔壁(16)は空間部(19)を天端の長方向に沿って区画する。
【0026】
好ましくは、隔壁(13,14)は空間部(19)を区画する中央隔壁(16)と直線上に一体に配置することができる。
【0027】
図4は、本発明の第2実施例による上部構造物の断面図である。
【0028】
図1に示す本発明の第1実施例は、図4に示す本発明の第2実施例において内側壁(11)と外側壁(12)との上段部に構成部材を追加的に備えることを除いては類似である。従って、本発明の明確な理解のために、類似の構成部材に対する説明はここで排除する。
【0029】
図示のように、上部構造物(1)は内側壁(11)及び外側壁(12)の上段部にパラペット(111,121;parapet)を備える。このパラペット(111,121;parapet)は内側壁(11)及び外側壁(12)の上段部に沿って形成されるが、互いに対向するように、内側壁(11)及び外側壁(12)の外側方向に伸びるようにする。
【0030】
このように形成されたパラペット(111)とパラペット(121)との間の離隔距離(B)は、既存ダムの天端幅(B)より広くなっている。側壁(11,12)は中央基底部(10a)の両断部から垂直に上方へ立設されており、側壁間の離隔距離が既存ダムの天端幅(B)と同一になっている。言い換えれば、側壁(11,12)の上段部から外側方向に備えられたパラペット(111,121)間の離隔距離(B)は既存ダムの天端幅(B)より広くなる。
【0031】
このように、パラペット(111,121)間の離隔距離(B)が既存ダムの天端幅(B)より広くなり、上部構造物(1)により形成される路面の幅が天端幅より広くなり、本発明の特徴であるダムの天端高を高くする目的以外にも、天端幅を拡張することができることを特徴とする。
【0032】
図面を参照に、本発明による上部構造物(1)を備えたダムの最大の天端高(H)は、既存ダムの天端高(h)へ側壁(11,12)の高さと共にパラペットの高さを加えて合算しなければならない。従って、本発明は上部構造物(1)により形成される最大の天端高(H)から既存ダムの天端高(h)を引いた差ほど、天端高を増加させる結果をもたらす。
【0033】
本発明の第2実施例による上部構造物(1)は、それぞれの内側壁(11)、外側壁(12)、及び/又はパラペット(111,121)の設置安定性のために、パラペット(111,121)と傾斜基底部(10b,10c)との間に1つ以上の内・外隔壁(13,14)を備える。好ましくは、内側隔壁(13)は、パラペット(111)の下段、内側壁(11)、及び傾斜基底部(10b)の境界面に位置する一方、外側隔壁(14)は、パラペット(121)の下段、外側壁(12)、及び傾斜基底部(10c)の境界面に位置する。
【0034】
隔壁(13,14)は天端の長方向に沿って長く伸びている傾斜基底部(10b,10c)と内・外側壁(11,12)との間で直角方向に形成される。
【0035】
図5は、本発明の第3実施例による上部構造物の断面図である。
【0036】
本発明の第3実施例は、図4に示す第2実施例と類似に、各側壁の上段部にパラペットを備えるが、第2実施例とは側壁(11,12)間の離隔距離を異にする。
【0037】
図示のように、本発明の第3実施例は中央基底部(10a)上から垂直上方に立設される2つの側壁(11,12)を備えるが、側壁間の離隔距離は既存ダムの天端幅(B)より狭くなっていることを特徴とする。言い換えれば、パラペット(111,121)間の離隔距離(B)が既存ダムの天端幅(B)と同一又は狭く形成されるように、側壁(11,12)を離れて配置する。
【0038】
図6は本発明の第4実施例による上部構造物の平面図であり、図7は図6に示す上部構造物の断面図である。
【0039】
図示のように、本発明の第4実施例は図5に示す第3実施例と類似な構造となっており、特に側壁(11,12)の上段部の間でスラブ(17;slab)を配置していることを特徴とする。
【0040】
具体的に、スラブ(17)は側壁(11,12)の上部に配置され、コンクリート構造物からなる。スラブ(17)は選択可能であり、煉瓦からなることもできる。
【0041】
スラブ(17)は天端の長方向に沿って長く伸びている上部構造物(1)の空間部(19;図2参照)、即ち内側壁(11)、外側壁(12)、中央基底部(10a)、及び中央隔壁(16;点線で表示される)に囲まれた空間部の上部面を覆うことができるが、このスラブ(17)は側壁(11)と中央隔壁(16)とにおいて一体に形成(又は打設)されるのが好ましい。
【0042】
特に、スラブ(17)は上部構造物(1)の長方向に沿って1つ以上のマンホール(18)を形成することができ、空間部の内部は土砂(未図示)で埋める。空間部の内部に充填された土砂に草木を植えて栽培することができるように、かつ、スラブ(17)を貫通して草木の植栽が可能になるように、別のマンホール(18)がスラブ(17)に形成される。ちなみに、マンホール(18)は側壁(11,12)及び中央隔壁(16)と重ならないように、スラブ(17)に穿孔されている。
【0043】
植栽される草木は空間部の内部に埋められた土砂に根を下ろし、マンホール(18)を通じて幹や葉を外部に露出することになり、本発明による上部構造物(1)においても植物の生育環境を提供し、緑化を実現することが可能となる。
【0044】
ちなみに、本発明によるダムの天端高を高くするための上部構造物が、空間部(19)の形状維持及び上部構造物(1)の安定性を確保するように、本発明は内側壁(11)及び外側壁(12)の間を横切る中央隔壁(16)と、これと直角に配列される交差隔壁(未図示)とを追加的に備えることが可能となる。言い換えれば、交差隔壁は中央基底部(10a)の中心から垂直上方に立てられ、内側壁(11)と外側壁(12)との間で平行に位置される。
【0045】
本明細書及び添付図面には、ダム、特にフィルダムの上段部において本発明によるコンクリートからなる上部構造物を設置することにより、本発明ならではの独特な効果を生み出すことができると説明されているが、ダムに限らず、水の越流や越波防止堤、又はその他の堤防設備などに積極的に用いられることを予め明らかにする。
【0046】
本発明によるダムの天端高を高くするための上部構造物は、添付図面やこれを参照に記載された実施例のみに限らず、以下の請求範囲のカテゴリーと範囲内で変形及び変更可能であることを予め明らかにする。
【符号の説明】
【0047】
1 上部構造物
10 基底部
11,12 側壁
13,14 隔壁
15 シートパイル
16 中央隔壁
17 スラブ
20 ダム
111,121 パラペット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤防設備に、特にダム(20)の天端に安着した中央基底部(10a)、ダムの内側に形成された傾斜面上に安着した傾斜基底部(10b)、及びダムの外側に形成された傾斜面上に安着した傾斜基底部(10c)を備えた基底部(10)と、
前記中央基底部(10a)から垂直上方へ互いに離隔されるように立てられ、天端の長方向に沿って長く伸びている内・外側壁(11,12)と、
前記天端の長方向に沿って配置され、前記傾斜基底部(10b,10c)及び前記内・外側壁(11,12)の間で垂直に形成された1つ以上の内・外側隔壁(13,14)と、
前記中央基底部(10)の下部面から下方に伸びてダムの内部コアへ挿入されるシートパイル(15)と
を備えてなり、
前記内・外側壁(11,12)及び中央基底部(10a)に囲まれた空間部(19)を形成し、
前記内・外側壁(11,12)の高さほど天端高を上げることができる、ダムの天端高を高くするための上部構造物。
【請求項2】
請求項1において、前記内・外側壁(11,12)の上段部には、互いに外側に向かって段差が設けられた、パラペット(111,121)を追加的に備えている上部構造物。
【請求項3】
請求項1において、前記空間部(19)は前記内・外側壁(11,12)の間を横切る1つ以上の中央隔壁(16)を追加的に備えている、上部構造物。
【請求項4】
請求項3において、前記中央隔壁(16)は前記隔壁(13,14)と一体に位置している、上部構造物。
【請求項5】
請求項1において、前記シートパイル(15)は鋼材から構成されている、上部構造物。
【請求項6】
請求項1において、前記空間部(19)の開放上部面はスラブ(17)で密閉されている、上部構造物。
【請求項7】
請求項6において、前記スラブ(17)は1つ以上のマンホール(18)を備えている、上部構造物。
【請求項8】
請求項6において、前記スラブ(17)はコンクリートスラブから構成されている、上部構造物。
【請求項9】
請求項1において、上部構造物(1)は堤防のような堤防設備にも適用することができる、上部構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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