ダンパー構造
【課題】基部に塑性変形が集中するのを回避できるダンパー構造を提供する。
【解決手段】断面円形の丸棒材でダンパー部材10を形成する。ダンパー部材10の軸方向の一方の端部を、筒身(構造物)1から横方向に突設された側方支持部材7の上支持体71と下支持体72により固定する。ダンパー部材10の軸方向の一方の端部とは離間した部分を筒身(構造物)1とは別個に構築された水平支持部材4から横方向に突設された負荷部材11に、軸方向への移動は許容し、ダンパー部材10の径方向への移動を拘束するように係合させて、ダンパー部材10の軸方向が筒身(構造物)1の長手方向軸線に平行になるようにダンパー部材10を配設する。そして、ダンパー部材10は、側方支持部材7の下支持体72により固定される断面拡大部10bが、一体的に形成される。
【解決手段】断面円形の丸棒材でダンパー部材10を形成する。ダンパー部材10の軸方向の一方の端部を、筒身(構造物)1から横方向に突設された側方支持部材7の上支持体71と下支持体72により固定する。ダンパー部材10の軸方向の一方の端部とは離間した部分を筒身(構造物)1とは別個に構築された水平支持部材4から横方向に突設された負荷部材11に、軸方向への移動は許容し、ダンパー部材10の径方向への移動を拘束するように係合させて、ダンパー部材10の軸方向が筒身(構造物)1の長手方向軸線に平行になるようにダンパー部材10を配設する。そして、ダンパー部材10は、側方支持部材7の下支持体72により固定される断面拡大部10bが、一体的に形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙突などの構造物の振動を減衰するダンパー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のダンパー構造として、特許文献1に記載されたものが知られている。このダンパー構造は、図9に示されるように、被減衰体である構造物101の振動を減衰するためのダンパー構造であって、断面円形の丸棒材でダンパー部材110を形成し、ダンパー部材110の軸方向の一方の端部を、構造物101から横方向に突設された側方支持部材107に固定し、ダンパー部材110の軸方向の前記一方の端部とは離間した部分を構造物101とは別個に構築された水平支持部材104から横方向に突設された負荷部材111に、軸方向への移動は許容し、ダンパー部材110の径方向のどの方向への移動も拘束するように係合させて、ダンパー部材110の軸方向が構造物101の長手方向軸線Z1に平行になるようにダンパー部材110を配設したことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3825193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のダンパー構造は、ダンパー部材110が断面円形の丸棒で作られており、ダンパー部材110の軸方向が構造物101の長手方向軸Z1に平行になるようにダンパー部材110が配設され、ダンパー部材110が負荷部材111に、軸方向への移動は許容され、径方向のどの方向への移動も拘束されるように係合させられているので、構造物101の長手方向に直角などのような方向の振動も減衰することができる利点がある。
特許文献1のダンパー構造は、側方支持部材107の上支持体108及び下支持体109による2点支持構造を有し、下支持部110bへの応力集中を緩和させる構造となっている。しかし、図10に示されるように、下支持部110bで最も曲げモーメントが大きくなる。また、ダンパー部材110の外周が、下支持体109の内周縁と接触することにより、下支持部110bに支圧応力も発生する。したがって、曲げ応力と支圧応力とが重畳されることにより、局所的に大きな塑性化が発生し、下支持部110bに塑性変形(くぼみ変形)が残留する可能性がある。
そうすると、荷重−変形関係が不安定となり、さらにエネルギー吸収量及び疲労性能が劣るという問題がおこる。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、下支持部110bに塑性変形が集中するのを回避できるダンパー構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明の構造物のダンパー構造は、被減衰体である構造物の振動を減衰するためのものであって、断面円形の丸棒材でダンパー部材を形成する。このダンパー部材の軸方向の一方の端部を、構造物から横方向に突設された側方支持部材の上支持体と下支持体により支持する。また、ダンパー部材の軸方向の一方の端部とは離間した部分を構造物とは別個に構築された水平支持部材から横方向に突設された負荷部材に、軸方向への移動は許容し、ダンパー部材の径方向への移動を拘束するように係合させて、ダンパー部材の軸方向が構造物の長手方向に平行になるようにダンパー部材を配設する。そして本発明のダンパー構造体のダンパー部材は、側方支持部材の下支持体により支持される断面拡大部を備えるとともに、この断面拡大部がダンパー部材に一体的に形成されることを特徴とする。
【0006】
本発明の構造物のダンパー構造において、断面拡大部の下端面は、R加工されていることが好ましい。
また、本発明の構造物のダンパー構造において、断面拡大部の直径をD、断面拡大部を除くダンパー部材の直径をdとすると、ダンパー部材は、1.2≦D/d≦2.0を満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ダンパー部材が、側方支持部材の下支持体により支持される断面拡大部を備えるとともに、この断面拡大部がダンパー部材に一体的に形成されるので、下支持体に支持される領域に塑性変形が集中するのを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施の形態におけるダンパー構造を示す。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】本実施の形態におけるダンパー部材の配置を示す図である。
【図4】ダンパー部材の特性を示す図である。
【図5】本実施の形態におけるダンパー構造の曲げモーメント分布、曲げ応力分布を示す。
【図6】別形態のダンパー構造の曲げモーメント分布、曲げ応力分布を示す。
【図7】本実施の形態におけるダンパー部材における断面拡大部の下端面を、R(ラウンド)加工する例を示す。
【図8】断面拡大部の直下の小径部分(直径:d)が塑性化した場合でも、断面拡大部(直径:D)に損傷を発生させない条件を説明する。
【図9】特許文献1に開示されるダンパー構造を示す。
【図10】特許文献1に開示されるダンパー構造の曲げモーメント分布を示す。
【図11】ダンパー構造が適用される構造物の一例である煙突を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るダンパー構造の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1、図2は本実施の形態のダンパー構造を図11に示す煙突に適用した際の設置例を示す。すなわち、図11の煙突は、地上に立設された筒身1を鉄塔2及び水平材3で支持した構成で、筒身1と水平材3との間には筒身1の振動を抑制するための複数のダンパー部材10が挿設されており、本実施の形態に係るダンパー構造は、地震や風などの外力により相対変位が発生する筒身1と水平支持部材4との間に設置される。
【0010】
ダンパー構造は、筒身1の外周に取り付けられ複数の補強リング12と、補強リング12に取り付けられるリブ13と、を備え、このリブ13を介して側方支持部材7を水平方向(横方向)に突設している。
側方支持部材7は、上支持体71と、上支持体71と平行な下支持体72と、上支持体71と下支持体72とを繋ぐ第1垂直壁73及び第2垂直壁74とから構成される。上支持体71には取り付け孔7aが、また、下支持体72には取り付け孔7bが形成されている。取り付け孔7aと取り付け孔7bとは、鉛直方向に位置がそろっている。
【0011】
断面円形の棒鋼で作られたダンパー部材10は、取り付け孔7aと取り付け孔7bを貫通して側方支持体7(上支持体71、下支持体72)に嵌合される。ダンパー部材10の上端には、外径が取り付け孔7aよりも大きいフランジ10aが形成されており、このフランジ10aが上支持体71の上面に係止されることにより、ダンパー部材10が側方支持部材7により下向きに落下しないように支持される。フランジ10aは、ダンパー部材10と一体的に形成されていてもよいし、ダンパー部材10と別体として作製され、溶接、その他の手段で固定してもよい。
【0012】
ダンパー部材10は、下支持体72の取り付け孔7bに嵌合される位置に対応して、断面拡大部10bが形成されている。断面拡大部10bは、ダンパー部材10に一体的に形成されている。この断面拡大部10bが、本発明の特徴部分であるが、この点については後述する。
【0013】
ダンパー部材10の下端部分は、鉄塔2の水平支持部材4から水平方向(横方向)に突設された負荷部材11に孔11aを貫通して嵌合されている。したがって、ダンパー部材10の下端部分はダンパー部材10の軸方向の移動は許容されるが、ダンパー部材10の径方向(水平方向)への移動は拘束される。ここで、ダンパー部材10の軸方向線Z2が筒身1の長手方向の軸線Z1に平行になるように側方支持部材7、負荷部材11の寸法、形状、取り付け方が選択されている。なお、この実施の形態では、図3に示されるように、1つの筒身1に対して2組のダンパー部材10を配置しているが、1組あるいは3組でもよい。
【0014】
筒身1に振動sが発生すると、この振動sはリブ13から側方支持部材7に伝達され、これによって負荷部材11による支持中心O1を作用点としてダンパー部材10を強制的に変形(曲げ)させ、この変形エネルギーによって筒身1の振動エネルギーが吸収されて筒身1の振動は減衰する。
【0015】
図4は、この際のダンパー部材10の特性を示し、ダンパー部材10は断面が円形状をなしているので、筒身中心方向y−yの直角方向x−xの振動sはもとより、y−y方向を含むダンパー部材10の径方向の任意方向の振動s′,s″に対しても同じ能力の減衰効果を発揮することができる。
このように減衰効果に方向性がないので、筒身1の周りに多数のダンパーを配置する必要はなく、必要最小限のダンパー構造の配置で所定の減衰効果を得ることができるようになり、設備費が大幅に削減される。
【0016】
図5は、ダンパー部材10に、白抜き矢印で示す方向の振動が生じてダンパー部材10に曲げモーメントが発生した際の、ダンパー部材10と曲げモーメントの分布、曲げ応力の分布とを対比して示す図である。図5に示すように、最大曲げ応力は断面拡大部10bの直下(丸で囲んでいる)に生じるので、ダンパー部材10が曲げ応力による塑性変形する可能性の高い箇所は、断面拡大部10bの直下になる。一方、下支持体72から受ける支圧応力は、下支持体72に嵌合されている断面拡大部10bの外周面に生じる。つまり、ダンパー部材10は、最大曲げ応力が作用する領域と支圧応力を受ける領域とが分離されるので、特許文献1のように、曲げ応力と支持応力とが重畳されることにより、局所的に大きな塑性変形が発生することはない。
【0017】
ところで、断面拡大部10bに相当するリング状部材を別体として作製し、軸方向に断面が一様な棒鋼に嵌合することにより、ダンパー部材10に類似する部材を得ることができる。この形態は、本発明の効果については一切言及していないが、特許文献1の図5に記載されている。しかし、本発明は、このように断面拡大部を別体で作製する形態を含まない。以下の理由による。
別体のリング状部材を作製し棒鋼に嵌合する場合、棒鋼とリング状部材との嵌合の状態により、ダンパー構造としての性能に優劣が現れる。嵌合がゆるすぎると、棒鋼とリング状部材との間にガタが生じて、所望するダンパー性能が得られない。また、嵌合がきつすぎると、嵌合縁部付近に応力集中が生じてしまい、ダンパーとして荷重を伝達する以前に、局所応力の影響を受けるおそれがある。よって、棒鋼及びリング状部材ともに、加工精度が厳しく要求される。さらに、冷やしばめ等の嵌合作業の際の条件管理を非常に厳しくする必要がある。
これに対して、本実施の形態のように、断面拡大部10bをダンパー部材10と一体的に作製すれば、嵌合作業自体が不要であるとともに、加工精度も相対的にゆるくても足りるので、ダンパー部材10の製作が容易でありながら、局所的に大きな塑性変形が発生することがない。
【0018】
以上の実施の形態では、下支持体72に嵌合される位置の上下所定範囲のみに断面拡大部10bを形成しているが、本発明は、これに限定されない。例えば、図6に示すように、ダンパー部材10の上端部まで断面拡大部10bが存在していてもよい。
【0019】
ダンパー部材10において、断面拡大部10bの下端面を、図7に示すように、R(ラウンド)加工することが好ましい。応力集中を回避して、ダンパー部材10の繰り返し曲げ変形に対する疲労性能の信頼性を向上させる。このR加工は、単純なR加工で足りるので、製造が容易であるとともに、精度を確保しやすい。
【0020】
断面拡大部10bの直下の小径部分(直径:d)が塑性化した場合でも、断面拡大部10b(直径:D)に損傷を発生させないことで、想定したダンパー弾塑性特性を与えることが可能となる。
断面が円の場合、断面拡大部10bの降伏モーメントはMyD=πD3/32・σyで与えられる。また、小径部分の降伏モーメントはMyd=πd3/32・σyで与えられる。さらに、先に塑性化する小径部分は、図8の(a)に示すように、全塑性モーメントMpに達するまで曲げモーメントは増加するので、その全塑性モーメント(Mpd=1.7Myd)に達した時点でも、断面拡大部10bが弾性範囲にとどまっている、つまりMyD≧Mpdの条件を満足する限り、断面拡大部10b付近での支持応力による塑性変形(くぼみ変形)をさらに小さくすることが可能となる。
MyD≧Mpdを満足させるD/dの比率は、(D/d)3≧1.7となるので、その解はD/d≧1.2となる。よって、D/d≧1.2を満足させるように、断面拡大部10bと小径部の径を設定することにより、断面拡大部10bにおける損傷をより低減させたダンパー部材10とすることが可能となる(図8(b)参照)。ただし、D/dが大きすぎても、ダンパー部材10の重量がいたずらに重くなり、また、コストも上昇するので、D/dは2.0以下にすることが推奨される。
【0021】
以上の実施の形態ではダンパー部材10は側方支持部材7で片持ち支持されているが、上端部と下端部の2か所を支持することもできる。この形態によれば、振動発生時に大きな曲げ応力がかかることはない。したがって、側方支持部材7、及びダンパー部材10に要求される強度が低くなり、その結果、ダンパー構造全体を小型、軽量に形成することができる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0022】
1…筒身(構造物)、2…鉄塔、3…水平材、4…水平支持部材、7…側方支持部材、71…上支持体、72…下支持体、7a,7b…取り付け孔、10…ダンパー部材、10a…フランジ、10b…断面拡大部、11…負荷部材、11a…孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙突などの構造物の振動を減衰するダンパー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のダンパー構造として、特許文献1に記載されたものが知られている。このダンパー構造は、図9に示されるように、被減衰体である構造物101の振動を減衰するためのダンパー構造であって、断面円形の丸棒材でダンパー部材110を形成し、ダンパー部材110の軸方向の一方の端部を、構造物101から横方向に突設された側方支持部材107に固定し、ダンパー部材110の軸方向の前記一方の端部とは離間した部分を構造物101とは別個に構築された水平支持部材104から横方向に突設された負荷部材111に、軸方向への移動は許容し、ダンパー部材110の径方向のどの方向への移動も拘束するように係合させて、ダンパー部材110の軸方向が構造物101の長手方向軸線Z1に平行になるようにダンパー部材110を配設したことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3825193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のダンパー構造は、ダンパー部材110が断面円形の丸棒で作られており、ダンパー部材110の軸方向が構造物101の長手方向軸Z1に平行になるようにダンパー部材110が配設され、ダンパー部材110が負荷部材111に、軸方向への移動は許容され、径方向のどの方向への移動も拘束されるように係合させられているので、構造物101の長手方向に直角などのような方向の振動も減衰することができる利点がある。
特許文献1のダンパー構造は、側方支持部材107の上支持体108及び下支持体109による2点支持構造を有し、下支持部110bへの応力集中を緩和させる構造となっている。しかし、図10に示されるように、下支持部110bで最も曲げモーメントが大きくなる。また、ダンパー部材110の外周が、下支持体109の内周縁と接触することにより、下支持部110bに支圧応力も発生する。したがって、曲げ応力と支圧応力とが重畳されることにより、局所的に大きな塑性化が発生し、下支持部110bに塑性変形(くぼみ変形)が残留する可能性がある。
そうすると、荷重−変形関係が不安定となり、さらにエネルギー吸収量及び疲労性能が劣るという問題がおこる。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、下支持部110bに塑性変形が集中するのを回避できるダンパー構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明の構造物のダンパー構造は、被減衰体である構造物の振動を減衰するためのものであって、断面円形の丸棒材でダンパー部材を形成する。このダンパー部材の軸方向の一方の端部を、構造物から横方向に突設された側方支持部材の上支持体と下支持体により支持する。また、ダンパー部材の軸方向の一方の端部とは離間した部分を構造物とは別個に構築された水平支持部材から横方向に突設された負荷部材に、軸方向への移動は許容し、ダンパー部材の径方向への移動を拘束するように係合させて、ダンパー部材の軸方向が構造物の長手方向に平行になるようにダンパー部材を配設する。そして本発明のダンパー構造体のダンパー部材は、側方支持部材の下支持体により支持される断面拡大部を備えるとともに、この断面拡大部がダンパー部材に一体的に形成されることを特徴とする。
【0006】
本発明の構造物のダンパー構造において、断面拡大部の下端面は、R加工されていることが好ましい。
また、本発明の構造物のダンパー構造において、断面拡大部の直径をD、断面拡大部を除くダンパー部材の直径をdとすると、ダンパー部材は、1.2≦D/d≦2.0を満足することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ダンパー部材が、側方支持部材の下支持体により支持される断面拡大部を備えるとともに、この断面拡大部がダンパー部材に一体的に形成されるので、下支持体に支持される領域に塑性変形が集中するのを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施の形態におけるダンパー構造を示す。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】本実施の形態におけるダンパー部材の配置を示す図である。
【図4】ダンパー部材の特性を示す図である。
【図5】本実施の形態におけるダンパー構造の曲げモーメント分布、曲げ応力分布を示す。
【図6】別形態のダンパー構造の曲げモーメント分布、曲げ応力分布を示す。
【図7】本実施の形態におけるダンパー部材における断面拡大部の下端面を、R(ラウンド)加工する例を示す。
【図8】断面拡大部の直下の小径部分(直径:d)が塑性化した場合でも、断面拡大部(直径:D)に損傷を発生させない条件を説明する。
【図9】特許文献1に開示されるダンパー構造を示す。
【図10】特許文献1に開示されるダンパー構造の曲げモーメント分布を示す。
【図11】ダンパー構造が適用される構造物の一例である煙突を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るダンパー構造の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1、図2は本実施の形態のダンパー構造を図11に示す煙突に適用した際の設置例を示す。すなわち、図11の煙突は、地上に立設された筒身1を鉄塔2及び水平材3で支持した構成で、筒身1と水平材3との間には筒身1の振動を抑制するための複数のダンパー部材10が挿設されており、本実施の形態に係るダンパー構造は、地震や風などの外力により相対変位が発生する筒身1と水平支持部材4との間に設置される。
【0010】
ダンパー構造は、筒身1の外周に取り付けられ複数の補強リング12と、補強リング12に取り付けられるリブ13と、を備え、このリブ13を介して側方支持部材7を水平方向(横方向)に突設している。
側方支持部材7は、上支持体71と、上支持体71と平行な下支持体72と、上支持体71と下支持体72とを繋ぐ第1垂直壁73及び第2垂直壁74とから構成される。上支持体71には取り付け孔7aが、また、下支持体72には取り付け孔7bが形成されている。取り付け孔7aと取り付け孔7bとは、鉛直方向に位置がそろっている。
【0011】
断面円形の棒鋼で作られたダンパー部材10は、取り付け孔7aと取り付け孔7bを貫通して側方支持体7(上支持体71、下支持体72)に嵌合される。ダンパー部材10の上端には、外径が取り付け孔7aよりも大きいフランジ10aが形成されており、このフランジ10aが上支持体71の上面に係止されることにより、ダンパー部材10が側方支持部材7により下向きに落下しないように支持される。フランジ10aは、ダンパー部材10と一体的に形成されていてもよいし、ダンパー部材10と別体として作製され、溶接、その他の手段で固定してもよい。
【0012】
ダンパー部材10は、下支持体72の取り付け孔7bに嵌合される位置に対応して、断面拡大部10bが形成されている。断面拡大部10bは、ダンパー部材10に一体的に形成されている。この断面拡大部10bが、本発明の特徴部分であるが、この点については後述する。
【0013】
ダンパー部材10の下端部分は、鉄塔2の水平支持部材4から水平方向(横方向)に突設された負荷部材11に孔11aを貫通して嵌合されている。したがって、ダンパー部材10の下端部分はダンパー部材10の軸方向の移動は許容されるが、ダンパー部材10の径方向(水平方向)への移動は拘束される。ここで、ダンパー部材10の軸方向線Z2が筒身1の長手方向の軸線Z1に平行になるように側方支持部材7、負荷部材11の寸法、形状、取り付け方が選択されている。なお、この実施の形態では、図3に示されるように、1つの筒身1に対して2組のダンパー部材10を配置しているが、1組あるいは3組でもよい。
【0014】
筒身1に振動sが発生すると、この振動sはリブ13から側方支持部材7に伝達され、これによって負荷部材11による支持中心O1を作用点としてダンパー部材10を強制的に変形(曲げ)させ、この変形エネルギーによって筒身1の振動エネルギーが吸収されて筒身1の振動は減衰する。
【0015】
図4は、この際のダンパー部材10の特性を示し、ダンパー部材10は断面が円形状をなしているので、筒身中心方向y−yの直角方向x−xの振動sはもとより、y−y方向を含むダンパー部材10の径方向の任意方向の振動s′,s″に対しても同じ能力の減衰効果を発揮することができる。
このように減衰効果に方向性がないので、筒身1の周りに多数のダンパーを配置する必要はなく、必要最小限のダンパー構造の配置で所定の減衰効果を得ることができるようになり、設備費が大幅に削減される。
【0016】
図5は、ダンパー部材10に、白抜き矢印で示す方向の振動が生じてダンパー部材10に曲げモーメントが発生した際の、ダンパー部材10と曲げモーメントの分布、曲げ応力の分布とを対比して示す図である。図5に示すように、最大曲げ応力は断面拡大部10bの直下(丸で囲んでいる)に生じるので、ダンパー部材10が曲げ応力による塑性変形する可能性の高い箇所は、断面拡大部10bの直下になる。一方、下支持体72から受ける支圧応力は、下支持体72に嵌合されている断面拡大部10bの外周面に生じる。つまり、ダンパー部材10は、最大曲げ応力が作用する領域と支圧応力を受ける領域とが分離されるので、特許文献1のように、曲げ応力と支持応力とが重畳されることにより、局所的に大きな塑性変形が発生することはない。
【0017】
ところで、断面拡大部10bに相当するリング状部材を別体として作製し、軸方向に断面が一様な棒鋼に嵌合することにより、ダンパー部材10に類似する部材を得ることができる。この形態は、本発明の効果については一切言及していないが、特許文献1の図5に記載されている。しかし、本発明は、このように断面拡大部を別体で作製する形態を含まない。以下の理由による。
別体のリング状部材を作製し棒鋼に嵌合する場合、棒鋼とリング状部材との嵌合の状態により、ダンパー構造としての性能に優劣が現れる。嵌合がゆるすぎると、棒鋼とリング状部材との間にガタが生じて、所望するダンパー性能が得られない。また、嵌合がきつすぎると、嵌合縁部付近に応力集中が生じてしまい、ダンパーとして荷重を伝達する以前に、局所応力の影響を受けるおそれがある。よって、棒鋼及びリング状部材ともに、加工精度が厳しく要求される。さらに、冷やしばめ等の嵌合作業の際の条件管理を非常に厳しくする必要がある。
これに対して、本実施の形態のように、断面拡大部10bをダンパー部材10と一体的に作製すれば、嵌合作業自体が不要であるとともに、加工精度も相対的にゆるくても足りるので、ダンパー部材10の製作が容易でありながら、局所的に大きな塑性変形が発生することがない。
【0018】
以上の実施の形態では、下支持体72に嵌合される位置の上下所定範囲のみに断面拡大部10bを形成しているが、本発明は、これに限定されない。例えば、図6に示すように、ダンパー部材10の上端部まで断面拡大部10bが存在していてもよい。
【0019】
ダンパー部材10において、断面拡大部10bの下端面を、図7に示すように、R(ラウンド)加工することが好ましい。応力集中を回避して、ダンパー部材10の繰り返し曲げ変形に対する疲労性能の信頼性を向上させる。このR加工は、単純なR加工で足りるので、製造が容易であるとともに、精度を確保しやすい。
【0020】
断面拡大部10bの直下の小径部分(直径:d)が塑性化した場合でも、断面拡大部10b(直径:D)に損傷を発生させないことで、想定したダンパー弾塑性特性を与えることが可能となる。
断面が円の場合、断面拡大部10bの降伏モーメントはMyD=πD3/32・σyで与えられる。また、小径部分の降伏モーメントはMyd=πd3/32・σyで与えられる。さらに、先に塑性化する小径部分は、図8の(a)に示すように、全塑性モーメントMpに達するまで曲げモーメントは増加するので、その全塑性モーメント(Mpd=1.7Myd)に達した時点でも、断面拡大部10bが弾性範囲にとどまっている、つまりMyD≧Mpdの条件を満足する限り、断面拡大部10b付近での支持応力による塑性変形(くぼみ変形)をさらに小さくすることが可能となる。
MyD≧Mpdを満足させるD/dの比率は、(D/d)3≧1.7となるので、その解はD/d≧1.2となる。よって、D/d≧1.2を満足させるように、断面拡大部10bと小径部の径を設定することにより、断面拡大部10bにおける損傷をより低減させたダンパー部材10とすることが可能となる(図8(b)参照)。ただし、D/dが大きすぎても、ダンパー部材10の重量がいたずらに重くなり、また、コストも上昇するので、D/dは2.0以下にすることが推奨される。
【0021】
以上の実施の形態ではダンパー部材10は側方支持部材7で片持ち支持されているが、上端部と下端部の2か所を支持することもできる。この形態によれば、振動発生時に大きな曲げ応力がかかることはない。したがって、側方支持部材7、及びダンパー部材10に要求される強度が低くなり、その結果、ダンパー構造全体を小型、軽量に形成することができる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0022】
1…筒身(構造物)、2…鉄塔、3…水平材、4…水平支持部材、7…側方支持部材、71…上支持体、72…下支持体、7a,7b…取り付け孔、10…ダンパー部材、10a…フランジ、10b…断面拡大部、11…負荷部材、11a…孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被減衰体である構造物の振動を減衰するためのダンパー構造であって、
断面円形の丸棒材でダンパー部材を形成し、
前記ダンパー部材の軸方向の一方の端部を、前記構造物から横方向に突設された側方支持部材の上支持体と下支持体により支持し、
前記ダンパー部材の前記一方の端部とは離間した部分を前記構造物とは別個に構築された水平支持部材から横方向に突設された負荷部材に、前記軸方向への移動は許容し、前記ダンパー部材の径方向への移動を拘束するように係合させて、前記ダンパー部材の前記軸方向が前記構造物の長手方向に平行になるように前記ダンパー部材を配設し、
前記ダンパー部材は、前記側方支持部材の前記下支持体により支持される断面拡大部が、一体的に形成されることを特徴とする構造物のダンパー構造。
【請求項2】
前記断面拡大部の下端面が、R加工されていることを特徴とする請求項1に記載の構造物のダンパー構造。
【請求項3】
前記断面拡大部の直径をD、前記断面拡大部を除く前記ダンパー部材の直径をdとすると、
前記ダンパー部材は、
1.2≦D/d≦2.0
を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物のダンパー構造。
【請求項1】
被減衰体である構造物の振動を減衰するためのダンパー構造であって、
断面円形の丸棒材でダンパー部材を形成し、
前記ダンパー部材の軸方向の一方の端部を、前記構造物から横方向に突設された側方支持部材の上支持体と下支持体により支持し、
前記ダンパー部材の前記一方の端部とは離間した部分を前記構造物とは別個に構築された水平支持部材から横方向に突設された負荷部材に、前記軸方向への移動は許容し、前記ダンパー部材の径方向への移動を拘束するように係合させて、前記ダンパー部材の前記軸方向が前記構造物の長手方向に平行になるように前記ダンパー部材を配設し、
前記ダンパー部材は、前記側方支持部材の前記下支持体により支持される断面拡大部が、一体的に形成されることを特徴とする構造物のダンパー構造。
【請求項2】
前記断面拡大部の下端面が、R加工されていることを特徴とする請求項1に記載の構造物のダンパー構造。
【請求項3】
前記断面拡大部の直径をD、前記断面拡大部を除く前記ダンパー部材の直径をdとすると、
前記ダンパー部材は、
1.2≦D/d≦2.0
を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物のダンパー構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−168866(P2010−168866A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14674(P2009−14674)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]