説明

チェーンガイドおよびチェーン伝動装置

【課題】静粛性に優れたチェーンガイドを提供する。
【解決手段】トルク伝達用チェーン5の外周一部に配置されて、そのチェーン5の走行方向に長く延びるガイドベース15と、そのガイドベース15の長さ方向に間隔をおいて設けられた複数のローラ軸16と、その各ローラ軸16に回転可能に支持されたチェーン案内用の複数のローラ17とからなり、その複数のローラ17でチェーン5を転がり案内するチェーンガイド7において、チェーン5を構成するコマ27とコマ27を繋ぐピン28が複数のローラ17の位置を同時に通過しないようにローラ17の配置間隔を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トルク伝達用チェーンの走行を案内するチェーンガイドおよびそのチェーンガイドを用いたチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンは、クランク軸の回転をタイミングチェーン(以下、単に「チェーン」という)を介してカム軸に伝達し、そのカム軸の回転により燃焼室のバルブを開閉する。
【0003】
このようなカム軸駆動用のチェーン伝動装置として、クランク軸に取り付けられた駆動スプロケットと、カム軸に取り付けられた従動スプロケットと、駆動スプロケットと従動スプロケットの間に掛け渡されたチェーンと、そのチェーンの弛み側部分の外周に配置された揺動可能なチェーンガイドと、そのチェーンガイドをチェーンに向けて押圧するチェーンテンショナと、チェーンの張り側部分の外周に配置された固定のチェーンガイドとを有するものが多く用いられる。
【0004】
ここで、揺動側のチェーンガイドは、チェーンテンショナの付勢力でチェーンを押圧することによりチェーンの張力を一定に保ち、固定側のチェーンガイドは、理想的なチェーンの走行ラインを保ちながらチェーンの振動を抑制する。
【0005】
かかるチェーン伝動装置で使用される揺動側のチェーンガイドや固定側のチェーンガイドとして、チェーン走行方向に沿って延びる案内面をチェーンに滑り接触させる形式のものが知られているが、この滑り形式のチェーンガイドは、チェーンに対する接触が滑り接触なので、チェーンの走行抵抗が大きく、トルクの伝達ロスが大きいという問題がある。
【0006】
このような問題を解消するため、本願発明の発明者らは、チェーン走行方向に沿って間隔をおいて複数のローラを設け、その各ローラでチェーンを案内するチェーンガイドを提案している(特許文献1)。
【0007】
このチェーンガイドは、チェーンに対する接触が転がり接触なので、チェーンの走行抵抗が小さく、トルクの伝達ロスが小さいという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2010/090139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、この発明の発明者らは、上記転がり形式のチェーンガイドの性能を評価するために、クランク軸に取り付けた駆動スプロケットとカム軸に取り付けた従動スプロケットの間にチェーンを掛け渡し、そのチェーンの走行を転がり形式のチェーンガイドで案内する試験機を製作し、その試験機のクランク軸を500〜6500rpmの範囲で回転させる試験を行なった。
【0010】
その結果、転がり形式のチェーンガイドを使用することによって、滑り形式のチェーンガイドを使用した場合よりも、チェーンの走行抵抗を20〜50%程度低減できることを確認することができたが、その一方で、転がり形式のチェーンガイドを使用した場合の方が、滑り形式のチェーンガイドを使用した場合よりも、チェーンの走行音が大きくなりやすいことが分かった。
【0011】
このチェーンの走行音の原因は、次のように考えられる。すなわち、チェーンがローラに転がり接触しながら走行するときに、チェーンを構成するコマとコマの繋ぎ目がローラを乗り越える過程で、チェーンとローラの間に振動が生じることがある。そして、1本のチェーンが複数のローラに同時に接触しながら走行するので、各ローラで生じた振動が重なり合うことでチェーンの振動が増幅することが原因と考えられる。
【0012】
この発明が解決しようとする課題は、静粛性に優れたチェーンガイドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、この発明では、トルク伝達用チェーンの外周一部に配置されて、そのチェーンの走行方向に長く延びるガイドベースと、そのガイドベースの長さ方向に間隔をおいて設けられた複数のローラ軸と、その各ローラ軸に回転可能に支持されたチェーン案内用の複数のローラとからなり、前記複数のローラで前記チェーンを転がり案内するチェーンガイドにおいて、前記チェーンを構成するコマとコマを繋ぐピンが複数の前記ローラの位置を同時に通過しないようにローラの配置間隔を設定した。このようにすると、コマとコマの繋ぎ目がローラを乗り越えるときの振動が複数のローラで同時に発生しないので、チェーンの振動が増幅しにくく、チェーンの走行音を抑えることができる。
【0014】
チェーンのコマとコマを繋ぐピンが複数のローラの位置を同時に通過しないようなローラの配置間隔は、例えば次のように設定することができる。すなわち、チェーンのピッチをp、ローラの個数をmとしたときに、1から(m−1)までの全ての整数iについて、チェーン走行方向i番目のローラと(i+1)番目のローラの配置間隔Liを次式
Li≠n×p (n:整数)
を満たすように設定する。
【0015】
このようにローラの配置間隔を設定すると、コマとコマの繋ぎ目の通過するタイミングが隣り合うローラ間で確実にずれるので、コマとコマの繋ぎ目がローラを乗り越えるときの振動が隣り合うローラで同時に発生しない。そのため、チェーンの振動が増幅しにくく、チェーンの走行音を抑えることができる。なお、ローラの配置間隔Liは等間隔でもよく、不等間隔でもよい。
【0016】
また、チェーンのコマとコマの繋ぎ目が複数のローラの位置を同時に通過しないようなローラの配置間隔は、次のように設定するとより好ましい。すなわち、前記チェーンのピッチをp、ローラの個数をmとしたときに次式
s≦t、 1≦s≦m−1、 1≦t≦m−1
を満たす全ての整数s,tの組み合わせについて、チェーン走行方向i番目のローラと(i+1)番目のローラの配置間隔Liを次式
【数1】

を満たすように設定する。
【0017】
このようにローラの配置間隔を設定すると、コマとコマの繋ぎ目の通過するタイミングが全てのローラの間でずれるので、コマとコマの繋ぎ目がローラを乗り越えるときの振動がいずれのローラ間においても同時に発生しない。そのため、チェーンの振動の増幅を極めて効果的に防止することができ、チェーンの走行音を最小限に抑えることが可能である。ローラの配置間隔Liは等間隔でもよく、不等間隔でもよい。
【0018】
また、ローラの配置間隔を等間隔に設定する場合、チェーンのコマとコマの繋ぎ目が複数のローラの位置を同時に通過しないようなローラの配置間隔は、次のように設定すると好ましい。すなわち、チェーンのピッチをp、ローラの個数をmとしたときに前記ローラの配置間隔Lを次式
L×(m−1)=n×p+p/m (n:整数)
を満たすように設定する。
【0019】
このようにローラの配置間隔を設定すると、コマとコマの繋ぎ目の通過するタイミングが全てのローラの間で順番にずれるとともに、そのタイミングのずれの大きさが等間隔となることから、チェーンの走行音が不快な打音ではなく滑らかな連続音となり、音の不快感を効果的に和らげることができる。
【0020】
前記ガイドベースは、前記チェーンの走行方向に沿って長く延びて前記各ローラ軸の両端を支持する一対の側板と、隣り合うローラ軸の間に配置されて前記一対の側板を連結する複数の連結部とを有する構成のものを採用することができる。
【0021】
また、この発明では、上記のチェーンガイドを用いたチェーン伝動装置として、駆動スプロケットと従動スプロケットの間に掛け渡されたチェーンと、そのチェーンの弛み側部分の外周に設けられた揺動可能な上記のチェーンガイドと、そのチェーンガイドをチェーンに向けて押圧するチェーンテンショナとを有するチェーン伝動装置を提供する。
【0022】
チェーンの張り側部分の外周に固定のチェーンガイドを更に設ける場合、その固定のチェーンガイドにも上記チェーンガイドを使用することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明のチェーンガイドは、チェーンを構成するコマとコマを繋ぐピンが複数のローラの位置を同時に通過しないようにローラの配置間隔が設定されているので、コマとコマの繋ぎ目がローラを乗り越えるときの振動が分散され、チェーンの振動が増幅しにくい。そのため、チェーンの走行音を抑えることができ、静粛性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態のチェーン伝動装置を示す概略図
【図2】図1に示すチェーンガイドの斜視図
【図3】図2に示すチェーンガイドの縦断面図
【図4】図3に示すチェーンガイドの右側面図
【図5】図3のV−V線に沿った断面図
【図6】図5に示すローラの拡大断面図
【図7】ガイドベースの一部とローラとを示す分解正面図
【図8】ローラの配置間隔とチェーンのピッチとの関係の一例を示す図
【図9】ローラを等間隔とする場合のローラの配置間隔とチェーンのピッチとの関係の一例を示す模式図であり、(a)はチェーンを構成するコマとコマの繋ぎ目がチェーン走行方向1番目のローラを通過する状態を示す図、(b)は(a)の状態からチェーンが1/4ピッチ分走行した状態を示す図、(c)は(b)の状態からチェーンが1/4ピッチ分走行した状態を示す図、(d)は(c)の状態からチェーンが1/4ピッチ分走行した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に、この発明の実施形態のチェーンガイドを組み込んだチェーン伝動装置を示す。このチェーン伝動装置は、エンジンのクランク軸1に固定して取り付けられた駆動スプロケット2と、カム軸3に固定して取り付けられた従動スプロケット4と、駆動スプロケット2と従動スプロケット4の間に掛け渡されたチェーン5を有し、このチェーン5を介してクランク軸1の回転をカム軸3に伝達し、そのカム軸3の回転により燃焼室のバルブ(図示せず)を開閉する。
【0026】
エンジンが作動しているときのクランク軸1の回転方向は一定(図では右回転)であり、このときチェーン5は、クランク軸1の回転に伴って駆動スプロケット2に引き込まれる側の部分が張り側となり、駆動スプロケット2から送り出される側の部分が弛み側となる。そして、チェーン5の弛み側部分の外周には、支点軸6を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド7と、チェーンガイド7をチェーン5に向けて押圧するチェーンテンショナ8とが設けられている。一方、チェーン5の張り側部分の外周には、固定のチェーンガイド9が設けられている。
【0027】
チェーンガイド7は、チェーン5に沿って上下に長く延び、その上端部に設けた挿入孔10に支点軸6が挿入され、この支点軸6を中心に揺動可能に支持されている。チェーンガイド7の揺動端部にはチェーンテンショナ8が接触しており、このチェーンテンショナ8によってチェーンガイド7はチェーン5に向けて押圧されている。
【0028】
チェーンガイド9も、チェーンガイド7と同様に、チェーン5に沿って上下に長く延びる形状である。チェーンガイド9は、上下両端部にそれぞれ設けられた挿入孔13にボルト14が挿入され、このボルト14の締め付けによって固定されている。
【0029】
ここで、揺動側のチェーンガイド7と固定側のチェーンガイド9とを対比した場合、揺動側のチェーンガイド7は、一端部に揺動の支点軸6を挿入するための挿入孔10が形成されているのに対し、固定側のチェーンガイド9は、両端部に固定用のボルト14を挿入するための挿入孔13が形成されている点で相違するが、その他の点では同一の構成である。
【0030】
そのため、揺動側のチェーンガイド7について以下に説明し、固定側のチェーンガイド9については、対応する部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0031】
図2〜図4に示すように、チェーンガイド7は、チェーン5の走行方向に延びるガイドベース15と、そのガイドベース15の長さ方向に間隔をおいて設けられた複数のローラ軸16と、その各ローラ軸16に回転可能に支持されたチェーン案内用のローラ17とからなる。
【0032】
ガイドベース15は、チェーン5の走行方向に沿って長く延びて各ローラ軸16の両端を支持する対向一対の側板18,18と、隣り合うローラ軸16の間に配置されて側板18,18同士を連結する連結部19とを有する。連結部19は、その両端が側板18に固定あるいは一体成型され、側板18の対向間隔を保持している。図3および図7に示すように、各側板18の互いに対向する対向面には、ローラ軸16の軸端を支持する円形凹部20と、側板18の凸側の縁から円形凹部20に連通する軸導入溝21とが設けられている。
【0033】
図7に示すように、軸導入溝21は、側板18の凸側の縁から円形凹部20に向かって次第に溝幅が狭くなるテーパ状に形成され、この軸導入溝21を通じてローラ軸16の軸端を円形凹部20に導入するようになっている。ここで、円形凹部20内に導入されたローラ軸16の軸端が軸導入溝21に逆戻りするのを防止するため、軸導入溝21は、狭小部分の幅Dが円形凹部20の内径Dよりも小さくなるよう形成されている。
【0034】
円形凹部20の内径Dは、ローラ軸16の軸端の外径dよりもわずかに小径とされ、ローラ軸16の軸端が締め代をもって円形凹部20に嵌合するようになっている。
【0035】
ガイドベース15は、繊維強化材を配合した合成樹脂の射出成形により形成することができる。合成樹脂としては、例えば、ナイロン66やナイロン46などのポリアミド(PA)を使用することができる。合成樹脂に配合する繊維強化材は、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などを使用することができる。ガイドベース15はアルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽金属で形成してもよい。
【0036】
ローラ軸16は、SUJ2やSC材等の鋼材で形成された中実の円柱体であり、表面の耐摩耗性を向上させるために熱処理が施されている。熱処理としては、光輝焼入れ、高周波焼入れ、浸炭焼入れが挙げられる。
【0037】
図5、図6に示すように、ローラ17は、ローラ軸16の外周に回転可能に装着され、ローラ17の外周に形成された円筒面がチェーン5と接触する。ここで、ローラ17は、外輪22と、外輪22の内側に組み込まれた複数のころ23と、これらのころ23を保持する保持器24とからなるころ軸受である。外輪22は、SPCやSCM等の鋼板を絞り成形してカップ状とされたシェル形外輪である。外輪22の両端には、内向きの鍔25が形成されている。
【0038】
なお、この実施形態では、ローラ17を軽量化してチェーン5の走行抵抗を最小限に抑えるためにころ軸受を単独でローラ17として用いているが、ころ軸受の外輪22の外周に円筒状の樹脂部材や鉄部材を取り付けたものをローラ17として用いてもよく、ころ軸受にかえて他の形式の軸受を用いることも可能である。ここで、ころ軸受とは、円筒ころ軸受および針状ころ軸受をいう。
【0039】
図8に示すように、ローラ17の配置間隔は、チェーン5を構成するコマ27とコマ27を繋ぐピン28が複数のローラ17の位置を同時に通過しないように設定されている。ここで、ピン28が複数のローラ17の位置を同時に通過しないとは、あるピン28が、ローラ17とチェーン5の接触点と、そのローラ17の中心点とを結ぶ直線上にあるときに、他のいずれのピン28も、他のローラ17とチェーン5の接触点と、そのローラ17の中心点とを結ぶ直線上に存在しないことをいう。
【0040】
このようなローラ17の配置間隔は、次のように設定することができる。すなわち、チェーン5のピッチをp、ローラ17の個数をmとしたときに、1から(m−1)までの全ての整数iについて、チェーン5の走行方向i番目のローラ17と(i+1)番目のローラ17の配置間隔Liを次式
Li≠n×p (n:整数)
を満たすように設定する。
【0041】
図1〜図4に示されたローラ17の個数は7個であるが、ローラ17の配置間隔Liとチェーン5のピッチpとの関係を理解しやすくするため、以下、ローラ17の個数を少なくして説明する。
【0042】
例えば、図8に示すように、ローラ17の個数mが4個、チェーン5のピッチpが6mmの場合、1番目のローラ17と2番目のローラ17の配置間隔Lは次式
≠6n (n:整数)
を満たすように設定し、2番目のローラ17と3番目のローラ17の配置間隔Lも次式
≠6n (n:整数)
を満たすように設定し、3番目のローラ17と4番目のローラ17の配置間隔Lも次式
≠6n (n:整数)
を満たすように設定する。
【0043】
ここで、チェーン5のピッチpは、コマ27とコマ27を屈曲可能に繋いでいるピン28の中心間距離をいい、ローラ17の配置間隔Liは、チェーン5の走行時にピン28が描く折れ線状の軌跡の頂点間の距離をいう。
【0044】
次に、上記構成からなるチェーン伝動装置の動作例を説明する。
【0045】
エンジンが作動しているとき、駆動スプロケット2と従動スプロケット4の間でチェーン5が走行し、そのチェーン5によってクランク軸1からカム軸3にトルクが伝達される。このとき、揺動側のチェーンガイド7は、チェーンテンショナ8の付勢力でチェーン5を押圧することによりチェーン5の張力を一定に保ち、固定側のチェーンガイド9は、理想的なチェーン5の走行ラインを保ちながらチェーン5の振動を抑制する。
【0046】
このとき、チェーンガイド7,9の各ローラ17は、チェーン5を構成する各コマ27の背部側の縁に接触しながら回転し、チェーン5を転がり案内する。ここで、チェーン5とチェーンガイド7,9の接触は転がり接触なので、チェーン5の走行抵抗が小さく、トルクの伝達ロスが小さい。
【0047】
ところで、チェーン5がローラ17に転がり接触しながら走行するときに、チェーン5のコマ27とコマ27の繋ぎ目(すなわち各ピン28の位置)がローラ17を乗り越える過程で、チェーン5とローラ17の間に振動が生じることがある。そして、1本のチェーン5が複数のローラ17に同時に接触しながら走行するので、各ローラ17で生じた振動が重なり合うことでチェーン5の振動が増幅する可能性がある。
【0048】
これに対し、この実施形態のチェーン伝動装置では、コマ27とコマ27を繋ぐピン28の通過するタイミングが隣り合うローラ17間でずれるようにローラ17の配置間隔Liを設定しているので、コマ27とコマ27の繋ぎ目が各ローラ17を乗り越えるときの振動が隣り合うローラ17で同時に発生しない。そのため、チェーン5の振動が増幅しにくく、チェーン5の走行音を抑えることができる。
【0049】
ここで、ローラ17の配置間隔Liは、次のように設定するとより好ましいものとなる。すなわち、チェーン5のピッチをp、ローラ17の個数をmとしたときに次式
s≦t、 1≦s≦m−1、 1≦t≦m−1
を満たす全ての整数s,tの組み合わせについて、チェーン5の走行方向i番目のローラ17と(i+1)番目のローラ17の配置間隔Liを次式
【数2】

を満たすように設定する。
【0050】
例えば、ローラ17の個数mが4個の場合、
s≦t、 1≦s≦3、 1≦t≦3
を満たす全ての整数s,tの組み合わせを考えると、
(s,t)=(1,1)、(1,2)、(1,3)、(2,2)、(2,3)、(3,3)
となる。そして、チェーン5のピッチpが6mmの場合、1番目のローラ17と2番目のローラ17の配置間隔Lおよび2番目のローラ17と3番目のローラ17の配置間隔Lおよび3番目のローラ17と4番目のローラ17の配置間隔Lは、次式を満たすように設定する。ここで、nは整数である。
≠6n (s=1,t=1に対応)
+L≠6n (s=1,t=2に対応)
+L+L≠6n (s=1,t=3に対応)
≠6n (s=2,t=2に対応)
+L≠6n (s=2,t=3に対応)
≠6n(s=3,t=3に対応)
【0051】
このようにローラ17の配置間隔Liを設定すると、コマ27とコマ27を繋ぐピン28の通過するタイミングが全てのローラ17の間でずれるので、コマ27とコマ27の繋ぎ目がローラ17を乗り越えるときの振動がいずれのローラ17間においても同時に発生しない。そのため、チェーン5の振動の増幅を極めて効果的に防止することができ、チェーン5の走行音を最小限に抑えることが可能である。この場合も、ローラ17の配置間隔Liは等間隔でもよく、不等間隔でもよい。
【0052】
なお、上記各等号否定式は、左辺と右辺がチェーン5のピッチpの10%以上に相当する差をもつことが好ましく、チェーン5のピッチpの20%以上の差をもつとより好適である。このようにすると、チェーン5の経年伸びは通常1%未満なので、チェーン5の経年伸びにかかわらず、安定してチェーン5の走行音を抑制することが可能となる。
【0053】
更に、ローラ17の配置間隔を等間隔とする場合、その配置間隔の大きさは、次のように設定すると好ましい。すなわち、チェーン5のピッチをp、ローラ17の個数をmとしたときにローラ17の配置間隔Lを次式
L×(m−1)=n×p+p/m (n:整数)
を満たすように設定する。
【0054】
例えば、ローラ17の個数mが4個の場合、各ローラ17の配置間隔Lは、次式
L×3=n×p+p/4 (n:整数)
を満たすように設定する。図9(a)〜(d)に、この式を満たすようにローラ17の配置間隔Lを設定した場合のチェーン5とローラ17の関係を示す。
【0055】
図9(a)に示すように、チェーン5の走行方向1番目のローラ17をコマ27とコマ27の繋ぎ目が通過するタイミングでは、2番目のローラ17から1/4ピッチ分手前の位置と、3番目のローラ17から2/4ピッチ分手前の位置と、4番目のローラ17から3/4ピッチ分手前の位置とにコマ27とコマ27の繋ぎ目が存在する状態となる。
【0056】
その後、チェーン5が1/4ピッチ分走行すると、図9(b)に示すように、チェーン5の走行方向2番目のローラ17をコマ27とコマ27の繋ぎ目が通過する。更にチェーン5が1/4ピッチ分走行すると、図9(c)に示すように、チェーン5の走行方向3番目のローラ17をコマ27とコマ27の繋ぎ目が通過する。更にチェーン5が1/4ピッチ分走行すると、図9(d)に示すように、チェーン5の走行方向4番目のローラ17をコマ27とコマ27の繋ぎ目が通過する。更にチェーン5が1/4ピッチ分走行すると、再び、図9(a)に示すように、チェーン5の走行方向1番目のローラ17をコマ27とコマ27の繋ぎ目が通過する状態に戻る。その後も、チェーン5が1/4ピッチ分走行する毎に、図9(a)に示す状態から図9(d)の状態まで変化する過程を順番に繰り返す。
【0057】
このように、ローラ17の配置間隔Lを上記式を満たすように設定すると、チェーン5のコマ27とコマ27の繋ぎ目の通過するタイミングが全てのローラ17の間で順番にずれるとともに、そのタイミングのずれの大きさが等間隔(チェーン5の1/mピッチ分の等間隔、上記例ではチェーン5の1/4ピッチ分の等間隔)となる。その結果、チェーン5の走行音が不快な打音ではなく滑らかな連続音となり、音の不快感を効果的に和らげることが可能となる。
【0058】
なお、ローラ17の配置間隔Lは、上記等式の左辺と右辺を数学的に厳密な意味で等しくすることまでは要せず、チェーン5の走行音が滑らかな連続音となる程度(左辺と右辺の差がチェーン5のピッチpの0.1倍未満となる程度)に等しければ足り、チェーン5のピッチpの0.05倍未満とするとより好適である。このようにすると、チェーン5の走行音が極めて滑らかな連続音となる。
【0059】
図8では、クランク軸1の回転をカム軸3に伝達するチェーン5としてサイレントチェーンを採用した場合を図示して説明したが、この発明は、クランク軸1の回転をカム軸3に伝達するチェーン5としてローラチェーンを採用した場合にも同様に適用することができる。また、ローラチェーンからローラを省いたブシュチェーンを採用した場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
2 駆動スプロケット
4 従動スプロケット
5 チェーン
7 チェーンガイド
8 チェーンテンショナ
9 チェーンガイド
15 ガイドベース
16 ローラ軸
17 ローラ
18 側板
19 連結部
27 コマ
28 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク伝達用チェーン(5)の外周一部に配置されて、そのチェーン(5)の走行方向に長く延びるガイドベース(15)と、そのガイドベース(15)の長さ方向に間隔をおいて設けられた複数のローラ軸(16)と、その各ローラ軸(16)に回転可能に支持されたチェーン案内用の複数のローラ(17)とからなり、前記複数のローラ(17)で前記チェーン(5)を転がり案内するチェーンガイドにおいて、
前記チェーン(5)を構成するコマ(27)とコマ(27)を繋ぐピン(28)が複数の前記ローラ(17)の位置を同時に通過しないようにローラ(17)の配置間隔を設定したことを特徴とするチェーンガイド。
【請求項2】
前記チェーン(5)のピッチをp、ローラ(17)の個数をmとしたときに、1から(m−1)までの全ての整数iについて、チェーン走行方向i番目のローラと(i+1)番目のローラの配置間隔Liを次式
Li≠n×p (n:整数)
を満たすように設定した請求項1に記載のチェーンガイド。
【請求項3】
前記チェーン(5)のピッチをp、ローラ(17)の個数をmとしたときに次式
s≦t、 1≦s≦m−1、 1≦t≦m−1
を満たす全ての整数s,tの組み合わせについて、チェーン走行方向i番目のローラと(i+1)番目のローラの配置間隔Liを次式
【数1】

を満たすように設定した請求項1に記載のチェーンガイド。
【請求項4】
前記ローラ(17)の配置間隔を等間隔とし、前記チェーン(5)のピッチをp、ローラ(17)の個数をmとしたときに前記ローラの配置間隔Lを次式
L×(m−1)=n×p+p/m (n:整数)
を満たすように設定した請求項1に記載のチェーンガイド。
【請求項5】
前記ガイドベース(15)が、前記チェーン(5)の走行方向に沿って長く延びて前記各ローラ軸(16)の両端を支持する一対の側板(18)と、隣り合うローラ軸(16)の間に配置されて前記一対の側板(18)を連結する複数の連結部(19)とを有する請求項1から4のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項6】
駆動スプロケット(2)と従動スプロケット(4)の間に掛け渡されたチェーン(5)と、そのチェーン(5)の弛み側部分の外周に設けられた揺動可能なチェーンガイド(7)と、そのチェーンガイド(7)をチェーン(5)に向けて押圧するチェーンテンショナ(8)とを有するチェーン伝動装置において、
前記チェーンガイド(7)が請求項1から5のいずれかに記載のチェーンガイドであることを特徴とするチェーン伝動装置。
【請求項7】
前記チェーン(5)の張り側部分の外周に設けられた固定のチェーンガイド(9)を更に有し、そのチェーンガイド(9)が請求項1から5のいずれかに記載のチェーンガイドである請求項6に記載のチェーン伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−32826(P2013−32826A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170047(P2011−170047)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】