説明

チェーンテンショナ、並びに同チェーンテンショナを具備するチェーンの張力制御装置

【課題】機関回転速度の変化に起因して変動する油圧の影響を受けずにチェーンの張力を調整することのできるチェーンテンショナを提供する。
【解決手段】チェーンテンショナ100のハウジング110に形成された収容孔111には、同収容孔111の底面とこれに対向するプランジャ120の底面との間に圧縮コイルばね130が配設されている。また、圧縮コイルばね130のコイルの内側において互いに対向するように、プランジャ120の底面に永久磁石140が固定されているとともに、収容孔111の底面に電磁石150が固定されている。チェーンテンショナ100は、永久磁石140と電磁石150との間に作用する磁力と、圧縮コイルばね130の付勢力との合力をプランジャ120を介してチェーンに伝達し、同チェーンの張力を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は駆動力を伝達するチェーンの張力を調整するチェーンテンショナ、並びに同チェーンテンショナを具備するチェーンの張力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ばねの付勢力と機関駆動式のオイルポンプから供給される油圧とを利用して内燃機関のタイミングチェーンを付勢し、タイミングチェーンの張力を調整する油圧式のチェーンテンショナが記載されている。
【0003】
図4はこうした油圧式のチェーンテンショナと内燃機関のタイミングチェーンとの関係を示している。図4に示されるようにタイミングチェーン40は、内燃機関のクランクシャフト10に固定されたクランクスプロケット11と、吸気カムシャフト20に固定された吸気カムスプロケット21と、排気カムシャフト30に固定された排気カムスプロケット31とに巻き掛けられている。これにより、例えば図4に矢印で示されるように機関運転に伴ってクランクシャフト10が右回りに回転すると、クランクシャフト10の駆動力がタイミングチェーン40を介して吸気カムシャフト20及び排気カムシャフト30に伝達され、吸気カムシャフト20及び排気カムシャフト30が右回りに回転する。
【0004】
タイミングチェーン40は、図4に示されるようにクランクスプロケット11とカムスプロケット21,31との双方から離間した状態となる軸間領域において、内燃機関の側壁に固定された固定ガイド41と、支点Cを中心に揺動可能に支持された可動ガイド42とによって支持され、その軌道がガイドされている。
【0005】
チェーンテンショナ1のプランジャ3は、図4に示されるように可動ガイド42に当接している。プランジャ3は、チェーンテンショナ1のハウジング2に形成された収容孔に摺動可能に挿入されており、ハウジング2の内部には、この収容孔とプランジャ3とによって油圧室5が区画形成されている。この油圧室5にはクランクシャフト10の回転に伴って駆動される機関駆動式のオイルポンプ6から吐出される潤滑油が供給されるようになっている。また、同油圧室5内にはプランジャ3を可動ガイド42側へ付勢するばね4が設けられている。
【0006】
こうしたチェーンテンショナ1を備える内燃機関にあっては、機関運転に伴ってクランクシャフト10が回転すると、それに伴ってオイルポンプ6が駆動され、油圧室5内の油圧が上昇する。そして、この油圧とばね4の付勢力との作用によってプランジャ3が図4に破線矢印で示されるようにハウジング2の収容孔から突出する方向に付勢され、これによって可動ガイド42が支点Cを中心に揺動し、タイミングチェーン40がその軌道の内周側へ付勢されるようになる。その結果、タイミングチェーン40の張力が増大されてその緩みが解消されるとともに、可動ガイド42を介してプランジャ3に伝達された振動が油圧室5内の油圧及びばね4の付勢力の作用によって減衰され、タイミングチェーン40の振動が抑制されるようになる。
【特許文献1】実開昭64‐25557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のように機関駆動式のオイルポンプから供給される油圧を利用してチェーンを付勢し、チェーンの張力を調整するチェーンテンショナにあっては、機関回転速度の変化に伴ってオイルポンプから供給される油圧の大きさが変化する。そのため、例えば図5の下段に示されるように機関回転速度が低い機関低回転域にあっては、オイルポンプから供給される油圧が低いことに起因してチェーンの張力が不足し、振動が発生してしまうことがある。
【0008】
また、機関運転に伴って機関回転速度が変化するとそれに伴ってチェーンの振動周波数が変化し、チェーンの固有振動数に起因して特定の機関回転速度域において図5の下段に示されるように共振が発生し、チェーンの耐久性の低下や騒音の発生が助長されることがある。尚、図5の上段にはこのときのチェーンの張力の変化が実線で示されている。
【0009】
これに対して、共振の発生を抑制すべく、大型のオイルポンプを搭載する等して供給油圧を増大させ、図5の上段に一点鎖線で示されるようにチェーンの張力を増大させることも考えられる。しかしながら、このように供給油圧を増大させることにより張力を増大させた場合には、共振の発生を抑制することができるようになるものの、機関高回転域におけるチェーンの張力が過剰に大きくなってしまう。その結果、機関高回転域における大きな張力に耐え得るようにチェーンを設計することが必要となり、チェーンの重量の増大を招き、ひいてはチェーンの重量が増大した分だけ内燃機関の駆動に伴う駆動力の損失が大きくなってしまう。
【0010】
このように従来から適用されてきた油圧式のチェーンテンショナは、機関回転速度の変化に伴う供給油圧の変化に起因してチェーンの張力が変化してしまう。そのため、機関低回転域における張力不足に起因して振動が発生するといった課題や、共振の発生の抑制と機関高回転域における張力の過剰な増大の抑制とを両立させることが難しいといった課題を有している。
【0011】
この発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は機関回転速度の変化に起因して変動する油圧の影響を受けずにチェーンの張力を調整することのできるチェーンテンショナを提供するとともに、同チェーンテンショナを具備してチェーンの振動を好適に抑制することのできるチェーンの張力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、ハウジングに形成された収容孔に収容されたプランジャを同収容孔の底面とこれに対向する前記プランジャの底面との間に配設された圧縮コイルばねの付勢力によって付勢し、同プランジャに作用する付勢力を利用して駆動軸と従動軸とに巻き掛けられたチェーンの張力を調整するチェーンテンショナであって、前記圧縮コイルばねのコイルの内側において互いに対向するように前記プランジャの底面及び前記収容孔の底面のうちの一方に永久磁石を固定するとともに他方に電磁石を固定し、前記永久磁石と前記電磁石との間に作用する磁力と、前記圧縮コイルばねの付勢力との合力を前記プランジャを介して前記チェーンに伝達して同チェーンの張力を調整することをその要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、電磁石に供給する電流を増減させることにより、この電磁石と対向するように配設された永久磁石との間に作用する磁力の大きさを変更することができ、この磁力と圧縮コイルばねの付勢力との合力の大きさを変更してチェーンの張力を増減させることができるようになる。そのため、油圧式のチェーンテンショナのように機関回転速度の変化に伴って変化する供給油圧の変化に起因してプランジャに作用する力の制御態様が制限されるといったことがない。その結果、プランジャに作用する力の大きさを比較的自由に調整することができるようになり、チェーンの張力の過剰な増大を抑制しつつ、チェーンの振動を好適に抑制することができるようになる。
【0014】
また、上記請求項1に記載のチェーンテンショナにあっては、圧縮コイルばねのコイルの内側に永久磁石及び電磁石を配設するようにしているため、プランジャに作用する力を調整する手段として圧縮コイルばねに加えて永久磁石と電磁石とを設けるようにしているものの、これらを新たに設けることによるチェーンテンショナの大型化を抑制することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のチェーンテンショナにおいて、前記電磁石は、前記永久磁石と対向する部分が前記永久磁石と同極となり同電磁石と前記永久磁石との間に斥力が発生するように電流が供給されることをその要旨とする。
【0016】
具体的には請求項2に記載の構成のように永久磁石と電磁石との間に作用する磁力によってこれらの間に斥力を発生させ、この斥力と圧縮コイルばねの付勢力との合力によってプランジャをハウジングから突出する方向に付勢する構成を採用することができる。この場合には、電磁石に供給する電流を増大させて電磁石と永久磁石との間に作用する斥力を大きくすることにより、プランジャをハウジングから突出させる方向に付勢する付勢力を増大させてチェーンの張力を増大させることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、内燃機関のクランクシャフトに固定されたクランクスプロケットとカムシャフトに固定されたカムスプロケットとの間に掛け渡されたタイミングチェーンの張力を調整する請求項1又は請求項2に記載のチェーンテンショナである。
【0018】
内燃機関のタイミングチェーンに発生する振動の周期や振幅は、内燃機関の機関回転速度やその加減速、更にはバルブタイミングの変更等に伴って常に変化する。このように機関運転状態の変化に伴って常に振動の特性が変化するタイミングチェーンの振動を好適に抑制する上では、上記請求項3に記載されているように、油圧式のチェーンテンショナと比較して自由にチェーンの張力の大きさを変更することのできる請求項1又は請求項2に記載のチェーンテンショナを適用することが望ましい。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のチェーンテンショナを備え、機関回転速度に基づいて前記電磁石に供給する電流を増減し、前記タイミングチェーンの張力を調整するチェーンの張力制御装置である。
【0020】
上述したようにタイミングチェーンの振動の周波数は、機関回転速度の変化に伴って変化する。そのため、機関回転速度が変化すると、特定の機関回転速度域においてタイミングチェーンの固有振動数とタイミングチェーンの振動の周波数とが一致し、タイミングチェーンに共振が発生することがある。一方、タイミングチェーンの固有振動数はタイミングチェーンの張力によって変動する。そこで、請求項4に記載の発明では、機関回転速度に基づいて電磁石に供給する電流を増減し、タイミングチェーンの張力を調整するようにしている。このように機関回転速度に基づいてタイミングチェーンの張力を制御すれば、タイミングチェーンの固有振動数と、機関回転速度に応じて変化するタイミングチェーンの振動の周波数とを一致させないように固有振動数を変化させることでき、共振の発生を抑制することができるようになる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載のチェーンテンショナを備え、前記カムシャフトの回転位相に基づいて前記電磁石に供給する電流を増減し、前記タイミングチェーンの張力を調整するチェーンの張力制御装置である。
【0022】
内燃機関のカムシャフトは、機関バルブを閉弁方向に付勢しているバルブスプリングからの反力を受けるため、その回転位相によって回転抵抗の大きさが周期的に変化する。具体的には、カムシャフトの回転に伴って機関バルブが次第に開弁していくときにはバルブスプリングの付勢力がカムシャフトの回転を妨げる方向に作用するため、カムシャフトの回転抵抗が大きくなる。一方で、カムシャフトの回転に伴って機関バルブが次第に閉弁していくときにはバルブスプリングの付勢力がカムシャフトの回転を補助する方向に作用するため、カムシャフトの回転抵抗が小さくなる。このようにカムシャフトの回転抵抗の大きさがカムシャフトの回転位相に応じて周期的に変化するため、これに起因する張力の周期的な変動によりタイミングチェーンには振動が発生する。これに対して上記請求項5に記載の発明のように、カムシャフトの回転位相に基づいて電磁石に供給する電流を増減し、こうしたカムシャフトの回転抵抗の周期的な変化に起因する振動を減衰させるようにタイミングチェーンの張力を増減させれば、こうした振動を抑制することができるようになる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のチェーンテンショナと、前記チェーンの振動を検出する振動検出手段とを備え、同振動検出手段の検出信号に基づいて前記電磁石に供給する電流を増減し、前記チェーンに生じている振動を減衰させるように同チェーンの張力を調整するチェーンの張力制御装置である。
【0024】
上記請求項6に記載の発明のように、チェーンの振動を直接検出し、検出された検出信号に基づいて電磁石に供給する電流を増減し、検出された振動を減衰させるようにチェーンの張力を調整する構成を採用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、内燃機関のタイミングチェーンの張力を調整する張力制御装置として、この発明にかかるチェーンの張力制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜3を参照して説明する。尚、図1は本実施形態にかかる張力制御装置を備える内燃機関の正面図であり、タイミングチェーンと本実施形態にかかるチェーンテンショナとの関係、並びにチェーンテンショナとこれを制御する電子制御装置との関係を示している。
【0026】
図1に示されるように内燃機関のクランクシャフト10にはクランクスプロケット11が固定されており、吸気カムシャフト20には吸気カムスプロケット21が、排気カムシャフト30には排気カムスプロケット31がそれぞれ固定されている。そして、これら各スプロケット11,21,31にはタイミングチェーン40が巻き掛けられている。
【0027】
これにより、図1の下方に矢印で示されるように機関運転に伴ってクランクシャフト10が右回りに回転すると、クランクシャフト10の駆動力がタイミングチェーン40を介して吸気カムシャフト20及び排気カムシャフト30に伝達され、吸気カムシャフト20及び排気カムシャフト30が右回りに回転する。
【0028】
タイミングチェーン40は、図1に示されるように各スプロケット11,21,31のいずれとも噛合していない軸間領域のうち排気カムスプロケット31からクランクスプロケット11までの間の軸間領域において、固定ガイド41によってその軌道が内周側に撓むようにガイドされている。尚、固定ガイド41は、内燃機関の側壁に2つのボルト45によって固定されている。一方で、クランクスプロケット11から吸気カムスプロケット21までの間の軸間領域にあっては、図1に示されるようにボルト45によって内燃機関の側壁に支点Cを中心に揺動可能に支持された可動ガイド42によってその軌道が内周側に撓むようにガイドされている。
【0029】
また、可動ガイド42には可動ガイド42を付勢してタイミングチェーン40の張力を調整するチェーンテンショナ100のプランジャ120が当接している。以下、図2を併せ参照して本実施形態にかかるチェーンテンショナ100の構成を詳しく説明する。尚、図2はチェーンテンショナ100の内部構造を示す拡大断面図である。
【0030】
図2に示されるようにチェーンテンショナ100のハウジング110には有底の収容孔111が形成されている。この収容孔111にはばね収容孔121が形成された有底円筒形状のプランジャ120が摺動可能に収容されている。図2に破線で示されるようにハウジング110には、図示しないオイルポンプから供給される潤滑油を収容孔111の内部に供給する油孔113が形成されている。尚、プランジャ120の外周面には、油孔113から供給された潤滑油を同プランジャ120の外周面全体に行き渡らせるために油溝122が設けられている。これにより、油孔113から供給された潤滑油によってプランジャ120と収容孔111との間に油膜が形成され、この油膜の潤滑作用によってプランジャ120が収容孔111内で円滑に摺動するようになっている。
【0031】
プランジャ120のばね収容孔121の底部には同ばね収容孔121の中心軸に沿って延びる棒状の永久磁石140が固定されている。図2に示されるように永久磁石140の側面とばね収容孔121の内周面との間には隙間が形成されており、この隙間には圧縮コイルばね130が収容されている。この圧縮コイルばね130は、一方の端部がばね収容孔121の底面に配設された座金123と当接するとともに、他方の端部がハウジング110の収容孔111の底面に配設された座金112と当接し、プランジャ120を収容孔111から突出させる方向に付勢している。
【0032】
また、ハウジング110に形成された収容孔111の底部には図2の左側に示されるように電磁石150が固定されている。電磁石150は、コイル151とその中心に挿入された鉄芯152とからなり、その先端が圧縮コイルばね130のコイルの内側に突出し、ばね収容孔121内に固定された永久磁石140の先端と対向するように配設されている。この電磁石150に電流を供給する電線153は、ハウジング110に固定された蓋体114に形成されている貫通孔を通じてハウジング110の外部へ取り出され、内燃機関を統括的に制御する電子制御装置200に接続されている。
【0033】
このように構成された本実施形態のチェーンテンショナ100は、図1に示されるようにハウジング110から突出したプランジャ120の先端が可動ガイド42に当接するように内燃機関の側壁にボルト45によって固定されている。
【0034】
このように構成されたチェーンテンショナ100を備える本願実施形態の内燃機関にあっては、圧縮コイルばね130の付勢力と、永久磁石140と電磁石150との間に作用する磁力との合力によってプランジャ120が図1に破線矢印で示されるようにハウジング110の収容孔111から突出する方向に付勢される。これにより、プランジャ120と当接している可動ガイド42が支点Cを中心に揺動し、タイミングチェーン40がその軌道の内周側へ付勢されてタイミングチェーン40の張力が調整されるようになっている。
【0035】
上述したようにチェーンテンショナ100の電磁石150は、電線153を介して電子制御装置200に接続されており、電子制御装置200はチェーンテンショナ100の電磁石150に同電磁石150と永久磁石140との間に斥力が発生するように電流を供給するとともに、その電流の大きさを制御してタイミングチェーン40の張力を制御する。すなわち、チェーンテンショナ100と、それを制御する電子制御装置200とによって本実施形態の張力制御装置が構成されている。
【0036】
尚、電子制御装置200は、機関制御にかかる各種演算処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、制御用のプログラムやデータが記憶された読み込み専用メモリ(ROM)、演算処理の結果等を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)等を備えて構成されている。電子制御装置200には、クランクシャフト10の回転速度である機関回転速度NEを検出する回転速度センサ210、吸気カムシャフト20の回転位相を検出するカムポジションセンサ220等の各種センサが接続されている。
【0037】
タイミングチェーン40に生じる振動の周波数は機関回転速度NEの変化に伴って変化する。そして、機関回転速度NEの変化に伴って振動の周波数が変化すると、タイミングチェーン40の固有振動数に起因して特定の機関回転速度域においてタイミングチェーン40に共振が発生することがある。そこで、本実施形態にかかる張力制御装置にあっては、機関回転速度NEに基づいてチェーンテンショナ100の電磁石150に供給する電流の大きさを変更し、共振の発生を抑制すべく、タイミングチェーン40の張力を制御する。
【0038】
具体的には図3に示されるように基本的に所定の張力Aが得られるように電磁石150に供給する電流の大きさを制御する。
一方で、機関回転速度NEがタイミングチェーン40の張力が張力Aに設定されている場合に共振が発生することが予測される機関回転速度域AR1を含むN1〜N2の範囲にあるときには、電磁石150に供給する電流の大きさを増大させてタイミングチェーン40の張力を張力Bまで増大させる。
【0039】
尚、張力Bの値は、タイミングチェーン40の張力の大きさに応じて変化するタイミングチェーン40の固有振動数が、機関回転速度NEがN2未満のときには生じない振動周波数となるような張力の値に基づいて予め行う実験等の結果に基づいて設定されている。
【0040】
このように機関回転速度NEがN1〜N2の範囲にあるときにタイミングチェーン40の張力を張力Bまで増大させることにより、タイミングチェーン40の固有振動数が変化し、共振の発生が予測される機関回転速度域は図3に示されるようにN2よりも大きな「AR2」に変化する。
【0041】
そのため、機関回転速度NEが変化することによりタイミングチェーン40に生じる振動の周波数が変化しても、その周波数とタイミングチェーンの固有振動数とが一致しなくなり、タイミングチェーン40の共振の発生が抑制されるようになる。
【0042】
これにより、図3に一点鎖線で示されるように共振の発生を抑制するために大型のオイルポンプを搭載して供給油圧を増大させる構成を採用した場合と比較して、共振の発生を抑制しつつ、機関高回転域において張力が過剰に大きくなってしまうことを回避することができる。また、機関低回転域においても大きな張力を発生させることができるため、張力不足に起因する振動の発生を抑制することができる。
【0043】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)電磁石150に供給する電流を増減させることにより、この電磁石150と対向するように配設された永久磁石140との間に作用する磁力の大きさを変更することができ、この磁力と圧縮コイルばね130の付勢力との合力の大きさを変更してタイミングチェーン40の張力を増減させることができる。そのため、油圧式のチェーンテンショナのように機関回転速度NEの変化に伴って変化する供給油圧の変化に起因してプランジャ120に作用する力の制御態様が制限されるといったことがない。そのため、プランジャ120に作用する力の大きさを比較的自由に調整することができるようになる。
【0044】
(2)本実施形態のチェーンテンショナ100にあっては、圧縮コイルばね130のコイルの内側に永久磁石140及び電磁石150を配設するようにしている。そのため、プランジャ120に作用する力を調整する手段として圧縮コイルばね130に加えて永久磁石140と電磁石150とを設けるようにしているものの、これらを新たに設けることによるチェーンテンショナ100の大型化を抑制することができる。
【0045】
(3)共振の発生が予測される機関回転速度域AR1を含む機関回転速度域(N1〜N2)において電磁石150に供給する電流を増大させ、タイミングチェーン40の張力を増大させてその固有振動数をずらすようにしている。そのため、タイミングチェーン40の固有振動数と、機関回転速度NEに応じて変化するタイミングチェーン40の振動の周波数とを一致させないようにすることでき、共振の発生を抑制することができる。
【0046】
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、機関回転速度NEに基づいて電磁石150に供給する電流の大きさを制御し、タイミングチェーン40の張力を制御する構成を例示したが、上記実施形態で例示した張力の調整態様は、一例であり適宜変更することができる。
【0047】
例えば、カムポジションセンサ220によって検出される吸気カムシャフト20の回転位相に基づいて電磁石150に供給する電流を増減させ、タイミングチェーン40の張力を制御することもできる。
【0048】
吸気カムシャフト20の回転に伴って吸気バルブが次第に開弁していくときには吸気バルブを閉弁させる方向に付勢しているバルブスプリングの付勢力が吸気カムシャフト20の回転を妨げる方向に作用するため、吸気カムシャフト20の回転抵抗が大きくなる。そのため、クランクスプロケット11から吸気カムスプロケット21までの間における軸間領域にあっては、このときにタイミングチェーン40に緩みが生じやすくなる。
【0049】
一方で、吸気カムシャフト20の回転に伴って吸気バルブが次第に閉弁していくときにはバルブスプリングの付勢力が吸気カムシャフト20の回転を補助する方向に作用するため、吸気カムシャフト20の回転抵抗が小さくなる。そのため、クランクスプロケット11から吸気カムスプロケット21までの間における軸間領域にあっては、このときにタイミングチェーン40の張力が増大する。
【0050】
これに対して上述したように吸気カムシャフト20の回転位相に基づいて電磁石150に供給する電流を増減し、こうした回転抵抗の周期的な変化に起因する振動を減衰させるようにタイミングチェーン40の張力を増減させるようにすれば、回転抵抗の変化に起因するタイミングチェーン40の振動を好適に抑制することができる。
【0051】
具体的には、カムポジションセンサ220によって検出される吸気カムシャフト20の回転位相に基づいて吸気バルブが次第に開弁していく状態である旨の判定がなされたときには、電磁石150に供給する電流を大きくする。これにより、電磁石150と永久磁石140との間に生じる斥力が大きくなってプランジャ120を可動ガイド42側へ付勢する力が大きくなり、タイミングチェーン40の張力が増大する。その結果、吸気カムシャフト20の回転抵抗の増大に起因するタイミングチェーン40の緩みの発生が抑制される。
【0052】
一方で、吸気カムシャフト20の回転位相に基づいて吸気バルブが次第に閉弁していく状態である旨の判定がなされたときには、電磁石150に供給する電流を小さくする。これにより、電磁石150と永久磁石140との間に生じる斥力が小さくなってプランジャ120を可動ガイド42側へ付勢する力が小さくなり、タイミングチェーン40の張力が減少する。その結果、吸気カムシャフト20の回転抵抗の減少に起因するタイミングチェーン40の張力の増大が抑制される。
【0053】
・また、排気カムシャフト30の回転抵抗の変化によってもタイミングチェーン40に振動が生じる可能性があるため、排気カムシャフト30の回転位相に基づいて張力を調整する構成を採用することもできる。
【0054】
・更に、こうした構成を上記実施形態の構成と組み合わせ、例えば吸気カムシャフト20の回転位相及び機関回転速度NEに基づいて電磁石150に供給する電流の大きさを制御し、タイミングチェーン40の張力を制御する構成を採用することもできる。
【0055】
・また、タイミングチェーン40の振動を直接検出する光学センサ等の振動検出手段を設け、振動検出手段から出力される検出信号に基づいて電磁石150に供給する電流を増減し、検出された振動を減衰させるようにタイミングチェーン40の張力を調整する構成を採用することもできる。
【0056】
・上記実施形態では内燃機関を統括的に制御する電子制御装置200を通じてチェーンテンショナ100の電磁石150に供給する電流を制御する張力調整装置を例示した。これに対して、上述のように機関回転速度NEやカムシャフトの回転位相、振動検出手段から出力される検出信号等に基づいて電磁石150に供給する電流を制御することができる構成であれば、電子制御装置200とは各別にチェーンテンショナ100を制御する制御部を設ける構成を採用することもできる。
【0057】
・上記実施形態では、互いに対向する永久磁石140と電磁石150とが同極となり、これらの間に斥力が生じるように電磁石150に電流を供給する構成を示したが、永久磁石140と対向する部分が同永久磁石140と異極となるように電流を供給する構成を採用することもできる。この場合には圧縮コイルばね130の付勢力に起因してハウジング110から突出する方向に付勢されているプランジャ120の付勢力が永久磁石140と電磁石150との間に作用する引力によって弱められるようになる。すなわち、この場合には電磁石150に供給する電流を増大させて電磁石150と永久磁石140との間に作用する引力を増大させることにより、プランジャ120をハウジング110から突出させる方向に付勢する付勢力を減少させてタイミングチェーン40の張力を減少させることができる。
【0058】
・尚、上記実施形態にあっては、プランジャ120のばね収容孔121の底面に永久磁石140を固定し、ハウジング110に形成された収容孔111の底面に電磁石150を固定する構成を例示した。これに対して、これとは逆にプランジャ120のばね収容孔121の底面に電磁石150を固定し、ハウジング110の収容孔111の底面に永久磁石140を固定する構成を採用することもできる。しかしながら、内燃機関の側壁に固定されているハウジング110に対して往復動するプランジャ120に電磁石150を設ける構成を採用した場合には、電磁石150に電力を供給する電線153の耐久性がプランジャ120の往復動に起因して低下するおそれがある。そのため、こうした電線153の耐久性の低下を抑制する上では、上記実施形態のように内燃機関の側壁に固定されたハウジング110側に電磁石150を配設する構成を採用することが望ましい。
【0059】
・上記実施形態では本願発明にかかるチェーンテンショナ100を、内燃機関のタイミングチェーンの張力を調整するチェーンテンショナとして具現化した例を示したが、本願発明は内燃機関のタイミングチェーンの張力を調整するチェーンテンショナに限定されるものではない。すなわち、その他、モータの駆動力を従動軸に伝達するチェーンの張力を調整するチェーンテンショナ等に本願発明にかかるチェーンテンショナ100を適用することもできる。
【0060】
尚、内燃機関のタイミングチェーンに発生する振動の周期や振幅は、内燃機関の機関回転速度NEやその加減速、更にはバルブタイミングの変更等に応じて常に変化する。このように機関運転状態の変化に伴って常に振動の特性が変化するタイミングチェーンの振動を好適に抑制する上では、上記実施形態のように、油圧式のチェーンテンショナと比較して自由にチェーンの張力の大きさを変更することのできる本願発明のチェーンテンショナを適用することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の一実施形態にかかるチェーンの張力調整装置が設けられた内燃機関の正面図。
【図2】同実施形態にかかるチェーンテンショナの拡大断面図。
【図3】機関回転速度とタイミングチェーンの張力との関係を示すグラフ。
【図4】油圧式のチェーンテンショナとタイミングチェーンとの関係を示す内燃機関の正面図。
【図5】油圧式のチェーンテンショナを備える内燃機関における機関回転速度と、タイミングチェーンの張力及びその振動との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0062】
10…クランクシャフト、11…クランクスプロケット、20…吸気カムシャフト、21…吸気カムスプロケット、30…排気カムシャフト、31…排気カムスプロケット、40…タイミングチェーン、41…固定ガイド、42…可動ガイド、45…ボルト、100…チェーンテンショナ、110…ハウジング、111…収容孔、112…座金、113…油路、114…蓋体、120…プランジャ、121…ばね収容孔、122…油溝、123…座金、130…圧縮コイルばね、140…永久磁石、150…電磁石、151…コイル、152…鉄芯、153…電線、200…電子制御装置、210…回転速度センサ、220…カムポジションセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成された収容孔に収容されたプランジャを同収容孔の底面とこれに対向する前記プランジャの底面との間に配設された圧縮コイルばねの付勢力によって付勢し、同プランジャに作用する付勢力を利用して駆動軸と従動軸とに巻き掛けられたチェーンの張力を調整するチェーンテンショナであって、
前記圧縮コイルばねのコイルの内側において互いに対向するように前記プランジャの底面及び前記収容孔の底面のうちの一方に永久磁石を固定するとともに他方に電磁石を固定し、
前記永久磁石と前記電磁石との間に作用する磁力と、前記圧縮コイルばねの付勢力との合力を前記プランジャを介して前記チェーンに伝達して同チェーンの張力を調整する
ことを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
請求項1に記載のチェーンテンショナにおいて、
前記電磁石は、前記永久磁石と対向する部分が前記永久磁石と同極となり同電磁石と前記永久磁石との間に斥力が発生するように電流が供給される
ことを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項3】
内燃機関のクランクシャフトに固定されたクランクスプロケットとカムシャフトに固定されたカムスプロケットとの間に掛け渡されたタイミングチェーンの張力を調整する
請求項1又は請求項2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
請求項3に記載のチェーンテンショナを備え、
機関回転速度に基づいて前記電磁石に供給する電流を増減し、前記タイミングチェーンの張力を調整する
チェーンの張力制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載のチェーンテンショナを備え、
前記カムシャフトの回転位相に基づいて前記電磁石に供給する電流を増減し、前記タイミングチェーンの張力を調整する
チェーンの張力制御装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のチェーンテンショナと、前記チェーンの振動を検出する振動検出手段とを備え、
同振動検出手段の検出信号に基づいて前記電磁石に供給する電流を増減し、前記チェーンに生じている振動を減衰させるように同チェーンの張力を調整する
チェーンの張力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−71362(P2010−71362A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238256(P2008−238256)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】