説明

チェーンテンショナ

【課題】プランジャを筒状部材と蓋体の2部品としてコストの低減を図り、そのプランジャを初期セット状態でプランジャの先端面の外周エッジの固着を防止する。
【解決手段】ハウジング11のシリンダ室12にプランジャ13と、リターンスプリング22とを組込み、上記プランジャ13の背部の圧力室25内に供給するオイルによる油圧ダンパ作用にてチェーンの張力を一定にする。プランジャ13の後端開口部内周の鋸歯状雌ねじ17にスクリュロッド18を螺合する。プランジャ13を、筒状部材14と、その筒状部材14に嵌合一体化される嵌合筒部を一方の端面に有する冷間鍛造された蓋体15とで形成する。嵌合筒部の開口端のテーパ面の大径端の直径をφA、スクリュロッドの先端部の外径をφBとしたとき、φA<φBとしてプランジャ13を押し込んだ初期セット状態でテーパ面がスクリュロッド18の先端面の外周エッジに接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として、カム軸駆動用のタイミングチェーンの張力を一定に保持するチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、クランク軸1に取付けたスプロケット2とカム軸3に取付けたスプロケット4間にチェーン5を掛け渡して、上記クランク軸1の回転をカム軸3に伝達するカム軸駆動用のチェーン伝動装置においては、チェーン5の弛み側チェーン5aに軸6を中心にして揺動可能なチェーンガイド7を接触し、そのチェーンガイド7に油圧式チェーンテンショナAの調整力を付与してチェーン5の張力を一定に保持するようにしている。
【0003】
上記チェーンテンショナとして、ハウジングに形成されたシリンダ室内にプランジャと、そのプランジャを外方に向けて押圧するリターンスプリングとを組込み、上記プランジャの背部に形成された圧力室内にエンジンからのオイルを供給し、そのオイルによる油圧ダンパ作用によってチェーンの張力を一定に保持するようにしたものが従来から知られている。
【0004】
しかし、油圧ダンパによってチェーンの張力を一定に保持するようにした油圧式チェーンテンショナにおいては、エンジンを停止すると、カムの停止位置の関係からチェーンが緊張してプランジャが押し込まれて大きく後退することになる。
【0005】
このとき、エンジンが再始動されると、オイルポンプは始動直後であって吐出量が少なく、圧力室内に充分なオイルを供給することができないために、弛み側チェーンに大きな弛みが生じて、チェーンがバタつき、ときには、歯飛びを生じる可能性がある。
【0006】
そのような問題点を解決するため、特許文献1に記載されたチェーンテンショナにおいては、プランジャを筒状とし、そのプランジャの後端開口部の内周に鋸歯状の雌ねじを形成し、その鋸歯状雌ねじにスクリュロッドの外周に形成された鋸歯状の雄ねじをねじ係合し、そのねじ係合部の圧力側フランクの接触部に作用する摩擦抵抗によってプランジャの後退動を防止するようにしている。
【0007】
ここで、図5は、その特許文献1に記載されたチェーンテンショナとほぼ同一の構成からなるチェーンテンショナを示し、その図5では、ハウジング11のシリンダ室12内に摺動自在に組み込まれてリターンスプリング22により外方への突出性が付与されたプランジャ13を、筒状部材14と、その筒状部材14の端部内に嵌合される嵌合筒部15aを一端部に有する蓋体15の2部品で形成しているが、特許文献1では、プランジャ13が1部品で形成されている点でのみ相違している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−132040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、鋸歯状ねじによってプランジャの後退動を阻止する上記従来のチェーンテンショナにおいては、前述のように、プランジャ13が閉塞端を先端に有し、後端が開口する筒状の1部品とされ、そのプランジャ13の後端開口部の内周にスクリュロッド18の外周の鋸歯状雄ねじ19がねじ係合される鋸歯状雌ねじ17を形成する必要があるため、製作に非常に手間がかかり、そのコストを低減する上において改善すべき点が残されていた。
【0010】
本件の発明者は、プランジャ13を成形品とすることでコストの低減を図ることができるという知見から、図5に示すように、プランジャ13を、筒状部材14と、その筒状部材14の端部内に嵌合されて一体化される嵌合筒部15aを一端部に有する蓋体15の2部品とし、その蓋体15を冷間鍛造品として、コストの低減を図ることを試みたのである。そして、その試みより、チェーンテンショナの試作品を製作し、その試作品についての耐久性について各種の試験を行ったところ、以下のような問題が発生したのである。
【0011】
すなわち、上記のようなチェーンテンショナおいては、普通、図5に示すように、プランジャ13をリターンスプリング22の弾性に抗してシリンダ室12内に押し込み、ハウジング11の先端部外周からシリンダ室12内の外周部を横切るようにして形成されたピン孔37にセットピン38を挿入してプランジャ13を抜止めする初期セット状態で客先に出荷するようにしている。
【0012】
このとき、チェーンテンショナの初期セット状態では、プランジャ13の雌ねじ17にねじ係合されたスクリュロッド18の先端部と蓋体15の嵌合筒部15aの端面間に軸方向クリアランスCが形成され、また、プランジャ13の後端面とその背部に組み込まれたチェックバルブ27のバルブシート29間に軸方向クリアランスCが形成される。
【0013】
ところで、プランジャ13を筒状部材14と蓋体15の2部品としたチェーンテンショナにおいては、軸方向クリアランスCが軸方向クリアランスCより小さい(C<C)場合、プランジャ13が押し込まれると、蓋体15の嵌合筒部15aがスクリュロッド18の先端に接触することになる。
【0014】
このとき、蓋体15は冷間鍛造で成形されているため、嵌合筒部15aの先端形状にバラツキが生じ易く、図6に示すように、嵌合筒部15aの開口端の内周エッジにテーパ面40が形成される場合が生じ、そのテーパ面40にスクリュロッド18の先端面の外周エッジeが接触して、その接触部が固着するという問題が発生したのである。
【0015】
ここで、接触部が固着すると、プランジャ13の抜止めを解除しても、プランジャ13は突出せず、チェーンテンショナとしての機能を発揮させることができなくなる。
【0016】
この発明の課題は、プランジャを筒状部材と蓋体の2部品としてコストの低減を図り、そのプランジャを押し込んで抜止めする初期セット状態でスクリュロッドの先端面の外周エッジが蓋体の嵌合筒部に固着するのを防止することができるようにしたチェーンテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、この発明においては、ハウジングに形成されたシリンダ室内に先端部が閉塞し、後端が開口する筒状のプランジャを摺動自在に組込み、前記ハウジングにおけるシリンダ室の閉塞端部には前記プランジャの背部に形成された圧力室に連通する給油通路を設け、その給油通路の油出口部に圧力室内の圧力が給油通路内の圧力より高くなると閉じるチェックバルブを組込み、前記プランジャの後端開口部の内周に鋸歯状雌ねじを設け、その雌ねじにスクリュロッドの外周に形成された鋸歯状雄ねじをねじ係合し、その雄ねじと雌ねじのねじ係合部における圧力側フランクによりプランジャが後退動するのを阻止し、前記プランジャの内部に組み込まれたリターンスプリングによってプランジャとスクリュロッドを伸長する方向に付勢したチェーンテンショナにおいて、前記プランジャが、両端開口の筒状部材と、その筒状部材の端部内に嵌合一体化される嵌合筒部を一方の端面に有する冷間鍛造された蓋体の2部品からなり、前記嵌合筒部の後側開口端における内周エッジにテーパ面を設け、そのテーパ面の大径端の直径をφAとし、スクリュロッドの先端部の外径をφBとしたとき、φA<φBとした構成を採用したのである。
【0018】
ここで、蓋体の嵌合筒部を筒状部材の端部内に圧入して筒状部材と蓋体とを接続一体化してもよく、あるいは、蓋体の嵌合筒部を筒状部材の端部内に圧入プロジェクション溶接して筒状部材と蓋体とを接続一体化してもよい。
【0019】
上記のように、プランジャを、筒状部材と、その筒状部材の端部に嵌合一体化される蓋体の2部品とすることにより、蓋体を冷間鍛造により成形することができるため、コストの低減を図ることができる。
【0020】
また、蓋体に形成された嵌合筒部の後側開口端における内周エッジにテーパ面を設け、そのテーパ面の大径端の直径をφAとし、スクリュロッドの先端部の外径をφBとしたとき、φA<φBとすることにより、プランジャを押込んで抜止めするチェーンテンショナの初期セット状態で、そのプランジャが押し込まれてスクリュロッドの先端が蓋体と接触しても、その接触を面接触とすることができるので、スクリュロッドの先端面の外周エッジが固着するというようなことはない。
【0021】
ここで、プランジャをシリンダ室内に押込んで抜止めする初期セット状態において、スクリュロッドの先端面と蓋体の嵌合筒部の後側端面間に形成される軸方向クリアランスをCとし、プランジャの後端面とチェックバルブのバルブシートの対向面に形成される軸方向クリアランスをCとしたとき、C>Cとすると、チェーンテンショナの初期セット状態でプランジャが押し込まれると、そのプランジャの後端面がチェックバルブのバルブシートに接触することになってスクリュロッドの先端面の外周エッジが嵌合筒部の後側端面に接触することがなくなり、スクリュロッドの先端面の外周エッジの固着を確実に防止することができる。
【0022】
この発明に係るチェーンテンショナにおいて、リターンスプリングとプランジャの閉塞端部間に、先端が球面とされたスプリングシートを、その球面がプランジャの閉塞端と接触するよう組み込んでおくと、スクリュロッドの回転抵抗の低減を図り、そのスクリュロッドとプランジャを円滑に相対回転させることができる。
【0023】
ここで、鋸歯状雌ねじと鋸歯状雄ねじの圧力側フランクのフランク角が必要以上に小さくなると、エンジンの停止時、チェーンから負荷される押し込み力によってプランジャが押し込まれる可能性がある。
【0024】
また、鋸歯状ねじの遊び側フランクのフランク角が必要以上に小さくなると、リターンスプリングの弾性力によってプランジャを回転させつつ軸方向に移動させることができなくなる。
【0025】
そこで、鋸歯状雌ねじと鋸歯状雄ねじの圧力側フランクのフランク角をθ、遊び側フランクのフランク角をθとしたとき、θおよびθは、θ=65°、θ=7°とし、または、θ=75°、θ=15°とするのが好ましい。
【0026】
プランジャはハウジングのシリンダ室の内径面に沿って摺動し、そのプランジャとスクリュロッドは回転しつつ軸方向に相対移動するため、耐摩耗性に優れた素材で形成するのが好ましい。そのような素材としてクロムモリブデン鋼(SCM)を挙げることができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明に係るチェーンテンショナにおいては、上記のように、プランジャを、筒状部材と、その筒状部材の端部に嵌合一体化される蓋体の2部品とし、その蓋体を冷間鍛造したことによって、コストの低減を図ることができる。
【0028】
また、蓋体に形成された嵌合筒部の開口端における内周エッジにテーパ面を設け、そのテーパ面の大径端の直径をφAとし、スクリュロッドの先端部外径をφBとしたとき、φA<φBとしたことにより、プランジャを押込んで抜止めするチェーンテンショナの初期セット状態で、そのプランジャが押し込まれてスクリュロッドの先端が蓋体と接触しても、その接触を面接触とすることができるため、スクリュロッドの先端面の外周エッジが固着するのを防止することができる。
【0029】
さらに、プランジャをシリンダ室内に押し込んで抜止めする初期セット状態において、スクリュロッドの先端面と蓋体の嵌合筒部の端面間に形成される軸方向クリアランスをCとし、プランジャの後端面とチェックバルブのバルブシートの対向面に形成される軸方向クリアランスをCとしたとき、C>Cとしたことにより、チェーンテンショナの初期セット状態でプランジャが押し込まれると、そのプランジャの後端面がチェックバルブのバルブシートに接触することになるため、プランジャの蓋体とスクリュロッドの先端部が接触するようなことがなくなり、スクリュロッドの先端面の外周エッジが固着するのを完全に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に係るチェーンテンショナの第1の実施の形態を示す縦断面図
【図2】(a)は、図1の一部を拡大して示す断面図、(b)は、プランジャの蓋体とスクリュロッドの接触状態を示す断面図
【図3】この発明に係るチェーンテンショナの第2の実施の形態を示す縦断面図
【図4】カム軸駆動用チェーン伝動装置の概略図
【図5】チェーンテンショナの試作品を示す縦断面図
【図6】図5に示すプランジャの蓋体とスクリュロッドの接触状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、この発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図1は、この発明に係るチェーンテンショナの第1の実施の形態を示す。図示のように、チェーンテンショナは、エンジンブロックにねじ止めされるハウジング11を有し、そのハウジング11にシリンダ室12が設けられている。
【0032】
シリンダ室12には、プランジャ13が摺動自在に挿入されている。プランジャ13は、筒状部材14と、蓋体15の2部品からなり、その両部品はクロムモリブデン鋼(SCM)を素材としている。
【0033】
蓋体15は、冷間鍛造によって成形されている。図2に示すように、蓋体15の一端部には筒状部材14の端部内に嵌合される嵌合筒部15aが形成され、その嵌合筒部15aの開口端における内周のエッジにテーパ面16が形成されている。蓋体15は、筒状部材14の一端部内に対する嵌合筒部15aの圧入によって筒状部材14に接続一体化されている。
【0034】
なお、圧入に代えて、蓋体15の嵌合筒部15aを筒状部材14の端部内に圧入プロジェクション溶接してもよい。
【0035】
図1に示すように、プランジャ13は、蓋体15が先端側に配置される組込みとされている。そのプランジャ13における筒状部材14の後端開口部の内周には雌ねじ17が設けられ、その雌ねじ17にスクリュロッド18の外周に設けられた雄ねじ19がねじ係合されている。
【0036】
スクリュロッド18には、後端部を小径とする段付き孔20が形成され、その段付き孔20の内周の段部20aとプランジャ13の閉塞端間に、先端が球面21aとされたスプリングシート21と、リターンスプリング22とが組込まれ、上記リターンスプリング22によって、スプリングシート21の球面21aが蓋体15における嵌合筒部15aの閉塞端に押し付けられて、プランジャ13とスクリュロッド18が伸長する方向に付勢されている。
【0037】
図1および図2に示すように、プランジャ13の内周の雌ねじ17とスクリュロッド18の外周の雄ねじ19は、プランジャ13に負荷される軸方向の押込み力を受ける圧力側フランク23のフランク角が遊び側フランク24のフランク角より大きい鋸歯状とされ、その鋸歯状ねじにリターンスプリング22の押圧によってプランジャ13とスクリュロッド18が相対的に回転しつつ伸長する方向に移動するリード角が設けられている。
【0038】
ここで、圧力側フランク23のフランク角をθ、遊び側フランク24のフランク角をθとすると、実施の形態では、θ=65°、θ=7°としているが、θ=75°、θ=15°としてもよい。
【0039】
図1に示すように、ハウジング11には、プランジャ13の背部に形成された圧力室25に連通する給油通路26が形成され、その給油通路26の圧力室25側の油出口部にチェックバルブ27が設けられている。
【0040】
チェックバルブ27は、シリンダ室12の閉塞端部に設けられた段付き孔28に圧入されたバルブシート29と、そのバルブシート29に形成された弁孔30を開閉する弁体31と、その弁体31の開閉量を規制するリテナ32とからなり、上記圧力室25内の圧力が給油通路26に供給される作動油の供給圧力より高くなると、弁体31が弁孔30を閉じるようになっている。
【0041】
ここで、バルブシート29はスクリュロッド18の後端を受けるロッドシートとしての機能も有し、そのバルブシート29とスクリュロッド18の当接面はテーパ面33とされている。
【0042】
ハウジング11には、その外周上部から圧力室25に連通するねじ孔34が形成され、そのねじ孔34にプラグ35がねじ係合されている。プラグ35は頭部35aを有し、その頭部35aとハウジング11の表面間にスプリングワッシャ36が組み込まれている。
【0043】
スプリングワッシャ36の径方向の切り離し部36aはねじ孔34とプラグ35のねじ係合部間に形成された微小なねじ隙間と連通し、そのねじ隙間と切り離し部36aは圧力室25内の作動油に含まれるエアのエア抜き通路とされている。
【0044】
実施の形態で示すチェーンテンショナは上記の構造からなり、図1は、プランジャ13を押し込み、ハウジング11の先端部外周からシリンダ室12内の外周部を横切るようにして形成されたピン孔37にセットピン38を挿入してプランジャ13を抜止めする初期セット状態を示す。
【0045】
上記のようなチェーンテンショナの初期セット状態において、スクリュロッド18の先端部と蓋体15の嵌合筒部15aの端面間に軸方向クリアランスCが形成されている。また、プランジャ13の後端面とバルブシート29間に軸方向クリアランスCが形成され、その軸方向クリアランスCはスクリュロッド18の先端部と蓋体15の嵌合筒部15aの端面間における軸方向クリアランスCより大きな値(C>C)に規定されている。
【0046】
上記のようなクリアランスC、Cの大小関係において、図6に示すように、嵌合筒部15aの後端面における内周のエッジに形成されたテーパ面40の大径端の直径φAがスクリュロッド18の先端部の外径φBより大きい場合には、嵌合筒部15aの後端の内周エッジに形成されたテーパ面40にスクリュロッド18の先端面の外周エッジeが接触し、その接触部が固着する可能性が生じる。
【0047】
そのような問題点の発生を未然に防止するため、実施の形態においては、図2(a)に示すように、蓋体15の嵌合筒部15aの開口端における内周エッジのテーパ面16の大径端の直径をφAとし、スクリュロッドの先端部外径をφBとしたとき、φA<φBの関係が成り立つ寸法関係としている。
【0048】
上記のように、φAとφBとの間に、φA<φBの関係が成り立つ寸法関係とすることによって、図1に示すように、プランジャ13を押込んで抜止めするチェーンテンショナの初期セット状態で、そのプランジャ13が押し込まれると、図2(b)に示すように、蓋体15の嵌合筒部15aの後端面がクリュロッド18の先端面と面接触することになり、テーパ面16にスクリュロッド18の先端面の外周エッジが接触して、その接触部が固着するのを防止することができる。
【0049】
図4に示すチェーンの張力調整装置への採用においては、ハウジング11をエンジンブロックに取付け、セットピン38の引き抜きにより初期セットを解除し、リターンスプリング22により外方に向けて付勢されるプランジャ13でチェーンガイド7を押圧して、チェーン5に調整力を付与する。
【0050】
上記のようなチェーンの張力調整状態において、トルク変動によりチェーン5の弛み側チェーン5aに弛みが生じると、給油通路26から圧力室25に供給される作動油の圧力によりプランジャ13およびスクリュロッド18が外方向に移動して、スクリュロッド18がバルブシート29から離れ、作動油が圧力室25およびスクリュロッド18の段付き孔20内に流入する。
【0051】
上記プランジャ13の外方向の移動によって、そのプランジャ13はチェーンガイド7を押圧するため、チェーン5の弛みが吸収されると共に、リターンスプリング22の押圧により、スクリュロッド18は回転しつつチェックバルブ27側に移動してバルブシート29に当接し、プランジャ13およびスクリュロッド18の停止によってチェーン5は所定の張力に保持される。
【0052】
一方、チェーン5が緊張すると、チェーン5およびチェーンガイド7を介してプランジャ13に押込み力が負荷される。このとき、スクリュロッド18の段付き孔20とプランジャ13の内部に流入している作動油の圧力および圧力室25内の圧力が高くなるため、チェックバルブ27は弁孔30を閉じ、ハウジング11内に封入された作動油および雌ねじ17と雄ねじ19の圧力側フランク23によって上記押込み力が受けられ、プランジャ13は後退しない。
【0053】
プランジャ13を押圧する押圧力がリターンスプリング22の押圧力とハウジング11内の作動油の油圧力の合力より強くなると、スクリュロッド18が回転し、プランジャ13は圧力室25の容積が小さくなる方向に移動する。
【0054】
このとき、圧力室25内の作動油は、シリンダ室12とプランジャ13の摺動面間に形成された微小な隙間から外部にリークし、プランジャ13は、リターンスプリング22と油圧力の合力と上記押込み力とが釣り合う位置までゆっくりと後退する。
【0055】
また、チェーン5が振動すると、プランジャ13は、雌ねじ17と雄ねじ19のねじ係合部に形成されたねじ隙間の範囲で前進と後退とを繰り返し、圧力室25に封入された作動油による油圧ダンパ作用によって、振動が吸収される。
【0056】
図3は、この発明に係るチェーンテンショナの第2の実施の形態を示す。この実施の形態では、プランジャ13をシリンダ室12内に押込んで抜止めする初期セット状態において、スクリュロッド18の先端部と蓋体15の嵌合筒部15aの端面間に形成された軸方向クリアランスCをプランジャ13の後端面とバルブシート29の対向面間に形成された軸方向クリアランスCより大きく(C>C)している点で第1の実施の形態で示すチェーンテンショナと相違している。このため、第1の実施の形態で示すチェーンテンショナと同一の部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
第2の実施の形態で示すように、プランジャ13をシリンダ室12内に押込んで抜止めする初期セット状態において、スクリュロッド18の先端面と蓋体15の嵌合筒部15aの端面間に形成される軸方向クリアランスCをプランジャ13の後端面とチェックバルブ27のバルブシート29の対向面間に形成される軸方向クリアランスCに対して、C>Cの関係が成り立つ大きさとすることにより、チェーンテンショナの初期セット状態でプランジャ13が押し込まれると、そのプランジャ13の後端面がチェックバルブ27のバルブシート29に接触することになって、プランジャ13の蓋体15はスクリュロッド18の先端面に接触することがなくなるため、その先端面の外周エッジの固着を確実に防止することができる。
【0058】
実施の形態では、ハウジング11をエンジンブロックに取付ける内装式チェーンテンショナを示したが、内装式に限定されず、チェーンカバーにハウジングを取付けるようにした外装式のチェーンテンショナであってもよい。
【符号の説明】
【0059】
11 ハウジング
12 シリンダ室
13 プランジャ
14 筒状部材
15 蓋体
15a 嵌合筒部
16 テーパ面
17 雌ねじ
18 スクリュロッド
19 雄ねじ
21 スプリングシート
21a 球面
22 リターンスプリング
23 圧力側フランク
24 遊び側フランク
25 圧力室
26 給油通路
27 チェックバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成されたシリンダ室内に先端部が閉塞し、後端が開口する筒状のプランジャを摺動自在に組込み、前記ハウジングにおけるシリンダ室の閉塞端部には前記プランジャの背部に形成された圧力室に連通する給油通路を設け、その給油通路の油出口部に圧力室内の圧力が給油通路内の圧力より高くなると閉じるチェックバルブを組込み、前記プランジャの後端開口部の内周に鋸歯状雌ねじを設け、その雌ねじにスクリュロッドの外周に形成された鋸歯状雄ねじをねじ係合し、その雄ねじと雌ねじのねじ係合部における圧力側フランクによりプランジャが後退動するのを阻止し、前記プランジャの内部に組み込まれたリターンスプリングによってプランジャとスクリュロッドを伸長する方向に付勢したチェーンテンショナにおいて、
前記プランジャが、両端開口の筒状部材と、その筒状部材の端部内に嵌合一体化される嵌合筒部を一方の端面に有する冷間鍛造された蓋体の2部品からなり、前記嵌合筒部の後側開口端における内周エッジにテーパ面を設け、そのテーパ面の大径端の直径をφAとし、スクリュロッドの先端部の外径をφBとしたとき、φA<φBとしたことを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記プランジャをシリンダ室内に押込んで抜止めする初期セット状態において、スクリュロッドの先端面と蓋体の嵌合筒部の端面間に形成される軸方向クリアランスをCとし、プランジャの後端面とチェックバルブのバルブシートの対向面に形成される軸方向クリアランスをCとしたとき、C>Cとした請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
ハウジングに形成されたシリンダ室内に先端部が閉塞し、後端が開口する筒状のプランジャを摺動自在に組込み、前記ハウジングにおけるシリンダ室の閉塞端部には前記プランジャの背部に形成された圧力室に連通する給油通路を設け、その給油通路の油出口部に圧力室内の圧力が給油通路内の圧力より高くなると閉じるチェックバルブを組込み、前記プランジャの後端開口部の内周に鋸歯状雌ねじを設け、その雌ねじにスクリュロッドの外周に形成された鋸歯状雄ねじをねじ係合し、その雄ねじと雌ねじのねじ係合部における圧力側フランクによりプランジャが後退動するのを阻止し、前記プランジャの内部に組み込まれたリターンスプリングによってプランジャとスクリュロッドを伸長する方向に付勢したチェーンテンショナにおいて、
前記プランジャが、両端開口の筒状部材と、その筒状部材の端部内に嵌合一体化される嵌合筒部を一方の端面に有する冷間鍛造された蓋体の2部品からなり、前記プランジャをシリンダ室内に押込んで抜止めする初期セット状態において、スクリュロッドの先端面と蓋体の嵌合筒部の端面間に形成される軸方向クリアランスをCとし、プランジャの後端面とチェックバルブのバルブシートの対向面に形成される軸方向クリアランスをCとしたとき、C>Cとしたことを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記リターンスプリングとプランジャの閉塞端部間に、先端が球面とされたスプリングシートを、その球面がプランジャの閉塞端と接触するよう組み込んだ請求項1乃至3のいずれかの項に記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記蓋体の嵌合筒部を前記筒状部材の端部内に圧入して筒状部材と蓋体とを接続一体化した請求項1乃至4のいずれかの項に記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記蓋体の嵌合筒部を前記筒状部材の端部内に圧入プロジェクション溶接して筒状部材と蓋体とを接続一体化した請求項1乃至4のいずれかの項に記載のチェーンテンショナ。
【請求項7】
前記鋸歯状雌ねじと鋸歯状雄ねじの圧力側フランクのフランク角をθとし、遊び側フランクのフランク角をθとしたとき、θ=65°、θ=7°とした請求項1乃至6のいずれかの項に記載のチェーンテンショナ。
【請求項8】
前記鋸歯状雌ねじと鋸歯状雄ねじの圧力側フランクのフランク角をθとし、遊び側フランクのフランク角をθとしたとき、θ=75°、θ=15°とした請求項1乃至6のいずれかの項に記載のチェーンテンショナ。
【請求項9】
前記プランジャの筒状部材および蓋体のそれぞれをクロムモリブデン鋼とした請求項1乃至8のいずれかの項に記載のチェーンテンショナ。
【請求項10】
前記スクリュロッドをクロムモリブデン鋼とした請求項1乃至9のいずれかの項に記載のチェーンテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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