説明

チェーン伝動装置

【課題】煩雑な操作をすることなく、チェーンの正転時に適切なテンションを維持できるとともに、チェーンの逆転時においてもたるみを抑え、安定した伝動を行うことができるチェーン伝動装置を提供する。
【解決手段】チェーンの正転方向に対して、駆動スプロケットの下流側近傍に配置され、チェーンに対して所定の第1テンションを付与する第1テンショナであって、テンショナ本体と、チェーンに押し付けられ、テンショナ本体に対して可動な押付部材と、テンショナ本体に組み込まれ、チェーンに所定の第1テンションを付与するようにチェーンに対して押付部材を付勢する付勢機構と、テンショナ本体に組み込まれ、チェーンの逆転時に押付部材の後退を規制する後退規制機構とを備える第1テンショナを有することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーン伝動装置に関するものであり、詳しくは、チェーンの正逆転の何れの場合にも、チェーンのたるみを防止できるチェーン伝動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の装置において、チェーン伝動機構が用いられている。チェーン伝動機構においては、安定した動力伝達を行うために、チェーンが適切なテンション(張力)で張られていることが重要である。しかしながら、当初、適切なテンションで張られていたチェーンであっても、使用中にチェーンが伸びてしまい、張力が低下し、チェーンの張りが緩んでしまう。そのため、通常、チェーンが伸びた場合にもテンションを維持するために、テンショナが設けられており、これにより、チェーンの張りの緩みによるチェーンのバタつきおよびバタつきに伴う過張力が防止されている。
【0003】
図6は、従来のチェーン伝動機構を利用した装置であって、現像処理装置100の概略構成を示す模式図である。この現像処理装置100は、露光により潜像が形成された感光材料Pに現像処理を施すものであり、現像処理部112と、現像処理部112における感光材料Pの搬送手段の駆動機構であるチェーン伝動機構114およびギヤ伝動機構116とを備えている。
【0004】
なお、図6は、現像処理部112の外部に設けられたチェーン伝動機構114の側から見た、現像処理装置100の背面図である。感光材料Pの搬送手段は、感光材料Pを挟持搬送するための多数のローラ列からなるものであり、現像処理部112の各処理層の内部に配置されており、図6おいて破線で示されている。また、ギヤ伝動機構116は、現像処理部112の各処理槽の内部、および後述する伝動スプロケット152の紙面垂直方向の奥側に配置されており、図6においては、ギヤ伝動機構116は、現像処理部112の1つの処理槽である漂白・定着槽120(後述)の部分について、槽の壁板を一部破断して、その構成が示されている。
【0005】
現像処理部112は、現像槽118、漂白・定着槽120、および水洗槽122a、122b、122c、122dの各処理槽を有し、各処理槽の内部には、感光材料Pを所定の経路で搬送するための搬送手段として、多数のローラ列をなす多数の搬送ローラ124(124a,124b,124c,124d)および各搬送ローラ124に当接するニップローラ126がそれぞれ配列され、搬送ローラ124とニップローラ126との間で感光材料Pを挟持搬送する。感光材料Pは、図中右側から現像処理装置100に供給され、搬送ローラ124およびニップローラ126によって、現像槽118、漂白・定着槽120、水洗槽122a、122b、122c、122dの順に、各槽内部を所定の経路で搬送されることにより、各処理槽に所定時間浸漬されて、現像処理が施される。
【0006】
各処理層では、その上部において、入側(図6中右側)に搬送ローラ124cとニップローラ126とからなるローラ対が、出側(図6中左側)に搬送ローラ124dとニップローラ126とからなるローラ対がそれぞれ中央に向かって傾斜するように配置され、これらの2組のローラ対の下方に、それぞれ、大径の搬送ローラ124aとその両側にそれぞれ水平に配置される小径のニップローラ126とからなる複数(図示例においては、現像槽118および漂白・定着槽120では6組、水洗槽122a、122b、122cおよび122dでは2組)のローラアセンブリが配置され、底部において、図6中左右両側に、それぞれ搬送ローラ124bとニップローラ126とからなるローラ対がそれぞれ中央に向かって傾斜するように2組配置されている。ここで、図6中右側における、上部の搬送ローラ124cとニップローラ126、複数組の大径の搬送ローラ124aと小径のニップローラ126、および底部の搬送ローラ124bとニップローラ126の各挟持点は、略一直線をなし、下方に向かう入側の搬送路を形成し、図6中左側における、底部の搬送ローラ124bとニップローラ126、複数組の大径の搬送ローラ124aと小径のニップローラ126、および上部の搬送ローラ124dとニップローラ126の各挟持点も、略一直線をなし、下方に向かう出側の搬送路を形成する。
【0007】
搬送ローラ124aは、その回転軸をほぼ水平にし、処理槽の配列方向(図中、左右方向)に搬送面(ローラ面)を向けて、処理槽の深さ方向に所定の間隔(使用感光材料の搬送方向の最小長さより短い間隔)で配列されている。搬送ローラ124aの水平方向の両側には、ニップローラ126が配置されている。搬送ローラ124bは、搬送ローラ124aよりも小径のローラであり、各処理槽の底部において、感光材料Pの搬送方向を変える湾曲した搬送経路を形成するように配置され、ニップローラ126と共に搬送ローラ対を構成している。これらの搬送ローラ124a、124bおよびそれらに対応するニップローラ126は、各処理層の処理液内に配置されており、感光材料Pに現像処理を施すための処理ラックを構成している。
【0008】
また、搬送ローラ124cおよび124dは、搬送ローラ124aよりも小径のローラであり、各処理槽の上部において、処理液の外部に配置され、ニップローラ126と共に搬送ローラ対を構成している。搬送ローラ124c、124dおよびそれらに対応するニップローラ126は、隣接する処理層間での感光材料Pの搬送経路を形成しており、感光材料Pの受け渡しをするクロスオーバーラックを構成している。
【0009】
搬送ローラ124a〜124dは、図6において、時計回りに駆動される。また、各ニップローラ126は、搬送ローラ124a〜124dの回転に伴って、図中、反時計回りに回転する。これにより、各処理層の図中右上部から供給された感光材料Pは、搬送ローラ124cとそのニップローラ126とによって処理液内に送られ、搬送ローラ124aと感光材料Pの搬送方向の図中右側のニップローラ126とによって処理液内を下方へ搬送され、底部で2組の搬送ローラ124bとそのニップローラ126とによってUターンされ、搬送ローラ124aと感光材料Pの搬送方向の図中左側のニップローラ126とによって上方へ搬送され、その後、処理液から出されて、搬送ローラ124dとニップローラ126とによって、その処理槽の左上部から次の処理槽の右上部へと搬送される。
【0010】
チェーン伝動機構114は、現像処理部112の各処理槽の外部に設けられており、モータ128と、モータ128の回転軸130からギヤ伝動により動力が伝達されて駆動される駆動スプロケット132と、従動スプロケット134a、134bと、駆動スプロケット132および従動スプロケット134a、134bに掛け回された(巻き掛けられた)チェーン136と、テンショナ138とから構成されている。モータ128の回転によって駆動スプロケット132が回転することにより、チェーン136が駆動される。図示例においては、駆動スプロケット132が、図中、時計回りに回転することにより、チェーン136が、図中、時計回り(矢印方向)に回転する。
【0011】
従動スプロケット134aおよび134bは、それぞれ、水洗槽122dの位置における、チェーン136の回転方向の上流側(感光材料Pの搬送方向の下流側、図中左側)、および現像槽118の位置におけるチェーン136の回転方向の下流側(感光材料Pの搬送方向の上流側、図中右側)に配置されており、チェーン136が、現像処理部112の全処理槽にわたってその上部を走るように、チェーン136の経路を定めている。
【0012】
チェーン136の回転方向における、駆動スプロケット132の下流側の近傍には、テンショナ138が配置されている。テンショナ138は、チェーン136にその外周側から係合する押付スプロケット140と、押付スプロケット140をチェーン136に向けて付勢するねじりコイルばね142とを有しており、ねじりコイルばね142の付勢力によって、チェーン136に適正なテンションが付与されるようになっている。
【0013】
従動スプロケット134aおよび134bの間の、チェーン136の外周側には、チェーン136に係合する複数の伝動スプロケット152が、各処理槽毎に配置されている。これらの伝動スプロケット152は、チェーン136の回転に伴って一斉に回転する。
【0014】
チェーン伝動機構114によって伝動スプロケット152に伝えられた動力は、ギヤ伝動機構116によって、現像処理部112の各処理槽におけるすべての搬送ローラ124a〜124dに伝えられる。ギヤ伝動機構116は、複数の伝動スプロケット152のそれぞれの回転軸に取り付けられたかさ歯車154と、このかさ歯車154に係合し、回転の軸方向を各処理槽の深さ方向(図中、上下方向)に変えて動力を伝達するかさ歯車156と、かさ歯車156の軸方向、すなわち各処理槽の深さ方向に延在するシャフト158と、シャフト158の、搬送ローラ124a〜124dのそれぞれに対応する位置に固定されたウォームおよびウォームに係合するウォーム歯車からなるウォームギヤ160と、搬送ローラ124a〜124dの回転軸に固定され、ウォームギヤ160のウォーム歯車に係合する歯車(図示せず)とを有している。この構成により、伝動スプロケット152の回転は、かさ歯車154、かさ歯車156、シャフト158、ウォームギヤ160、搬送ローラ124a〜124dと同軸の歯車(図示せず)の順に伝達されて、搬送ローラ124a〜124dが、前述のように、図中、時計回りに回転する。
【0015】
ニップローラ126は、搬送ローラ124a〜124dの回転に伴って、ニップ面の摩擦によってつれ回り(従動)するか、あるいは、ニップローラ126の回転軸に固定された歯車が、搬送ローラ124a〜124dの回転軸に固定された歯車と係合することによって、回転するように構成されている。
【0016】
このように、現像処理装置100においては、モータ128による動力がチェーン伝動機構114およびギヤ伝動機構116によって伝達され、現像処理部112の全処理槽118〜122dにおけるすべての搬送ローラ124a〜124dが一斉に駆動される。そして、チェーン伝動機構114のチェーン136が、現像処理装置100の長時間の使用によってわずかに伸びを生じた場合にも、テンショナ138によって、チェーン136のテンションが適切に保たれるように構成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、現像処理装置100の現像処理部112においては、多量の感光材料Pを処理するうちに、搬送ローラ124およびニップローラ126に、付着した処理液からの析出物が溜まることがある。特に、処理槽の上部において、処理液の外部に配置された搬送ローラ124c,124dおよびニップローラ126(クロスオーバーラック)は、処理液からの析出物が付着すると、その析出物が乾燥して固着してしまいやすい。搬送ローラ124およびニップローラ126に析出物が付着すると、感光材料Pの画像面に傷や汚れを与えることがあるため、搬送ローラ124およびニップローラ126の洗浄が必要である。
【0018】
従来は、搬送ローラ124(特に、搬送ローラ124c,124d)およびニップローラ126の洗浄は、ユーザによって行われていたが、これは非常に手間の掛かる作業であり、多くの時間と労力を費やしていた。そこで、搬送ローラ124とニップローラ126との間に洗浄水や洗浄液を流しながら、搬送ローラ124およびニップローラ126を回転させて洗浄する方法が考えられた。しかし、現像処理部112の各処理層118〜122dの出口付近の搬送ローラ124dおよびニップローラ126は、感光材料Pを上方へ搬送するように回転するため、そのニップ部に洗浄水等を供給しても、洗浄水がニップ部分に入り込んでいかずに掻き出されてしまうため、効果的に洗浄することができなかった。
【0019】
これに対し、例えば、搬送ローラ124dを逆回転させながら洗浄水を供給することができれば、上方から流し込んだ洗浄水を、搬送ローラ124dおよびニップローラ126に巻き込ませることができる。搬送ローラ124dを、感光材料Pの搬送時とは逆方向に回転させることは、モータ128を逆回転させるか、あるいはモータ128の駆動軸130と駆動スプロケット132との間でギヤを切替える構成とし、チェーン136を逆回転させることで実現できる。
【0020】
しかしながら、チェーン伝動機構114において、チェーン136を逆回転させると、テンショナ138が適切に機能せず、チェーン136がたるんでしまうという問題を生じていた。
【0021】
チェーン伝動装置においては、一般に、駆動スプロケット132の上流側のテンションが非常に強く、下流側のテンションが比較的弱くなる。図6に示す現像処理装置100において、テンショナ138は、駆動スプロケット132の正転時の下流側に配置されて、ばね142によって押付スプロケット140をチェーン136に押し付けることで、チェーン136に所定のテンションを付与している。
【0022】
ところが、搬送ローラ124dを逆回転させるために、チェーン136を逆回転させると、テンショナ138は、駆動スプロケット132の上流側、すなわちチェーン136の張り側となるため、チェーン136から非常に強いテンションを受けることとなる。そのため、テンショナ138は、ばね142による付勢力を保てなくなり、押付スプロケット140が押し戻されてしまい、その結果、駆動スプロケット132の下流側において、チェーン136の大きなたるみが生じてしまうという問題が生じていた。そして、このたるみのために、チェーン136のバタつきが生じ、さらにはチェーン136に係合するスプロケットが磨耗するという問題が生じていた。
【0023】
また、特許文献(特開平9−187175号公報)には、平版印刷版等のシート材を搬送しつつ、現像処理等の処理を施すシート材処理装置における、シート材を搬送するローラ対(スクイズローラ)の洗浄構造が記載されている。このシート材処理装置では、シート材の搬送時には、ローラ対を正方向に回転させて、両方のローラをほぼ同一の角速度で回転させ、ローラ表面の洗浄時には、ローラ対を逆方向に回転させて、ローラ対を相違する角速度で回転させることによりローラ同士を摺接させており、これにより、ローラ表面を効率よく洗浄することが可能であるとされている。
しかしながら、上記文献には、このシート材処理装置において、現像部、水洗部およびフィニッシャー部に設けられた複数のスクイズローラは、チェーンやスプロケットを用いて1つのモータで駆動してよいことも記載されているが、具体的な駆動機構については何ら記載されておらず、チェーンを逆回転させたときのたるみの発生という問題については全く考えられておらず、その示唆すらない。
【0024】
チェーンの逆回転時のたるみについては、正逆回転の切り替えの頻度が低い場合であれば、その都度、テンショナ138を調整し、例えば、逆転時には、テンショナ138の押し付ける力を非常に強くしたり、あるいはテンショナ138を固定してしまうこと等により、たるみを防止することも考えられる。しかしながら、現像処理装置100のような装置においては、稼動を停止した後に、クロスオーバーラックの搬送ローラ124cおよび124dに付着した汚れ等が乾燥することによりローラ面に固着してしまうため、日々の終業点検時にクロスオーバーラックを洗浄するのが好ましい。また、1回の洗浄時においても、また、搬送ローラ124d等の搬送ローラ124を正逆交互に間欠駆動させることにより、搬送ローラ124とニップローラ126とが擦り合わされるため、より一層、洗浄効果を高めることができると考えられる。このように、頻繁にチェーン136を正逆転させる場合には、その都度、テンショナ138を調整するのは非常に手間が掛かり、作業効率が悪いという問題があった。
【0025】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、煩雑な操作をすることなく、チェーンの正転時に適切なテンションを維持できるとともに、チェーンの逆転時においてもたるみを抑え、安定した伝動を行うことができるチェーン伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、本発明は、駆動源に接続され、正転および逆転する駆動スプロケットと、
1以上の従動スプロケットと、
前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットに順に掛け回され、前記駆動スプロケットの正転および逆転により正転および逆転する無端のチェーンと、
前記チェーンの正転方向に対して、前記駆動スプロケットの下流側近傍に配置され、前記チェーンに対して所定の第1テンションを付与する第1テンショナとを有し、
前記第1テンショナは、テンショナ本体と、前記チェーンに押し付けられ、前記テンショナ本体に対して可動な押付部材と、前記テンショナ本体に組み込まれ、前記チェーンに前記所定の第1テンションを付与するように前記チェーンに対して前記押付部材を付勢する付勢機構と、前記テンショナ本体に組み込まれ、前記チェーンの逆転時に前記押付部材の後退を規制する後退規制機構とを備えることを特徴とするチェーン伝動装置を提供するものである。
【0027】
ここで、さらに、前記チェーンの逆転方向に対して、前記駆動スプロケットの下流側近傍に配置され、前記チェーンの逆転時に前記チェーンに所定の第2テンションを付与する第2テンショナを有するのが好ましい。
【0028】
また、前記付勢機構は、前記テンショナ本体に対して前記押付部材を前記チェーンに向けて前進させるように付勢するものであり、
前記後退規制機構は、前記付勢機構による前記押付部材の前記前進に伴って、前記押付部材と前記テンショナ本体との係合位置の移動を許容し、かつ、前記押付部材が後退する方向へは前記係合位置の移動を禁止するものであるのが好ましい。
【0029】
また、前記係合位置の移動は、所定のピッチ毎に行われるものであり、
前記第2テンショナは、前記第1テンショナの前記係合位置の1ピッチの移動による前記第1テンションの変化に対応する量までの第2テンションを前記チェーンに付与するものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、チェーンの正転時には、その駆動スプロケットの下流側において、第1テンショナによって押付部材をチェーンに押し付けて、適切なテンションを付与するとともに、チェーンの逆転時には、チェーンの強いテンションに対しても押付部材の後退を規制する構成を有するテンショナを有することにより、チェーンの正転時に適切なテンションを維持できるとともに、チェーンの逆転時においてもたるみを抑え、安定した伝動を行うことができる。
また、さらに、チェーンの逆転時に、上記テンショナの押付スプロケットがわずかに後退した場合の後退量を補うようにチェーンを付勢する第2テンショナとにより、正転時および逆転時のいずれにおいても、適切なテンションを付与することができる。
【0031】
本発明のチェーン伝動装置は、チェーンをベルト(好ましくはタイミングベルト)に代え、スプロケットをプーリに代えることにより、ベルト伝動装置とすることができ、付勢プーリをそれぞれ有する第1テンショナおよび第2テンショナによって、ベルトの正転時および逆転時の両方において適切なテンションを付与することができる点で、同様の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明に係るチェーン伝動装置を添付の図面に示す好適実施例に基づいて以下に詳細に説明する。なお、以下では、本発明のチェーン伝動装置を現像処理装置の駆動機構に利用した例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、正転および逆転の動作をするチェーン伝動装置であれば、各種の装置に適用可能である。
【0033】
図1は、本発明のチェーン伝動装置を利用する現像処理装置10の概略構成を示す模式図である。同図に示す現像処理装置10は、像様露光により潜像が形成された感光材料Pに現像処理を施すものであって、現像処理部12と、本発明に係るチェーン伝動機構14と、ギヤ伝動機構16とを備えている。
【0034】
なお、図1は、現像処理部12の外部に設けられたチェーン伝動機構14の側から見た、現像処理装置10の背面図であり、現像処理部12の各処理層の内部に配置された感光材料Pの搬送手段が、破線で示されている。また、ギヤ伝動機構16は、現像処理部12の各処理槽の内部、および後述する伝動スプロケット152の紙面垂直方向の奥側に配置されており、図1においては、ギヤ伝動機構16は、現像処理部12の1つの処理槽である漂白・定着槽120(後述)の部分について、槽の壁板を一部破断して、その構成が示されている。また、図1においては、発明を明確に示すために、チェーン伝動機構14の各構成要素(特に、後述する第1テンショナ38)を誇張して示している。
【0035】
なお、図1に示す現像処理装置10の現像処理部12は、図6に示す現像処理装置100の現像処理部112と同様の構成を有するものであるので、同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図1に示す現像処理装置10において、現像処理部12は、現像槽118、漂白・定着槽120、および水洗槽122a、122b、122c、122dの各処理槽からなり、各処理槽の内部には、感光材料Pを所定の経路で搬送するための搬送手段として、多数の搬送ローラ124(124a,124b,124c,124d)およびニップローラ126が配列されている。感光材料Pは、図中右側から現像処理装置100に供給され、搬送ローラ124およびニップローラ126によって、現像槽118、漂白・定着槽120、水洗槽122a、122b、122c、122dの順に各槽内部を所定の経路で搬送されることにより、各処理槽に所定時間浸漬されて、現像処理が施される。
【0036】
搬送ローラ124aは、各処理層において、その回転軸をほぼ水平にして、処理槽の深さ方向に所定の間隔で配列されている。搬送ローラ124aの水平方向の両側には、ニップローラ126が配置されている。また、搬送ローラ124b、124c、124dは、搬送ローラ124aよりも小径のローラであり、各処理槽の底部および上部において、感光材料Pの湾曲した搬送経路を形成するように配置され、ニップローラ126と共に搬送ローラ対を構成している。搬送ローラ124a、124bおよびそれらに対応するニップローラ126は、処理ラックを構成し、搬送ローラ124c、124dおよびそれらに対応するニップローラ126は、クロスオーバーラックを構成している。
【0037】
チェーン伝動機構14は、本発明の特徴とする部分であり、現像処理部12の各処理槽の外部に設けられており、モータ28と、駆動スプロケット32と、従動スプロケット34a、34b、34c、34dと、駆動スプロケット32および従動スプロケット34a、34b、34c、34dに掛け回されたチェーン36と、第1テンショナ38と、第2テンショナ40とを有している。
【0038】
モータ28の動力は、モータ28の回転軸30に取り付けられたギヤ等を介して、このギヤに噛合するギアが取り付けられた駆動スプロケット32の回転軸31に伝達される。図示例においては、駆動スプロケット32は、正転時、すなわち、現像処理部12において感光材料Pを搬送して現像処理を行うときには、図中、時計回り(矢印方向)に回転駆動される。また、駆動スプロケット32は、現像処理部12の各処理層における搬送ローラ124およびニップローラ126の洗浄を行うために、搬送ローラ124およびニップローラ126を、感光材料Pの搬送時と逆回転させるときには、図中、反時計回りに回転駆動される。
【0039】
従動スプロケット34bおよび34cは、それぞれ、水洗槽122dの位置における、チェーン36の回転方向の上流側(感光材料Pの搬送方向の下流側、図中左側)、および現像槽118の位置におけるチェーン36の回転方向の下流側(感光材料Pの搬送方向の上流側、図中右側)に配置されており、チェーン36が、現像処理部12の全処理槽にわたってその上部を走るように、チェーン36の経路を定めている。
また、従動スプロケット34aは、後述する第1テンショナ38の押付スプロケット48と組み合わせて用いられ、押付スプロケット48によるチェーン36の押し付けを効果的に行えるように、押付スプロケット48(第1テンショナ38)の、チェーン36の正転方向の下流側に配置されている。また、従動スプロケット34dは、後述する第2テンショナ40の押付スプロケット70によるチェーン36の押し付けを効果的に行えるように、第2テンショナ40のやや上流側に配置されている。
【0040】
チェーン36は、駆動スプロケット32および従動スプロケット34a、34b、34c、34dのすべてに順に掛け回された無端のチェーンである。チェーン36は、駆動スプロケット32の回転駆動によって、正転(図中、時計回り、矢印a方向)または逆転(図中、反時計回り)に回転する。
【0041】
第1テンショナ38は、チェーン36の正転方向に対して、駆動スプロケット32の下流側近傍(図1中、駆動スプロケット32の上側近傍)に配置されおり、チェーン36に対して所定のテンションを付与するものである。図2は、図1に示す第1テンショナ38の構成を示す斜視図である。図2においては、第1テンショナ38のケース42の手前側の側板を除き、かつ、後述するスプロケット保持部材50の一部を除いて、内部構成を明示している。
第1テンショナ38は、テンショナ本体であるケース42と、押付部材である付勢スプロケット48およびスプロケット保持部材50をチェーン36に対して付勢する付勢機構44と、チェーン36の逆転時に、チェーン36の強いテンションによって押付スプロケット48およびスプロケット保持部材50が後退するのを規制する後退規制機構46とを備えている。付勢機構44および後退規制機構46は、ケース42に組み込まれて内包されている。
【0042】
また、第1テンショナ38は、付勢スプロケット48をチェーン36に向けて、現像処理装置10の図1における左側から挿入し、または現像処理装置10の図1における左側から引き出すことで、現像処理装置10への取り付けまたは取り外しが可能とされている。そして、第1テンショナ38の単体での収納性および取り扱い性を良くするとともに、サービスマン等による第1テンショナ38の現像処理装置10への装着作業を容易にするために、第1テンショナ38は、さらに、スプロケット保持部材50を収納状態に保持する保持機構(ロック機構)80を備えている。
【0043】
ケース42は、後述する押付スプロケット48の部分以外を覆う2枚の側板(図2には、図中、奥側の1枚のみが図示されている。)と、両側板の背面(図中左側の面)を覆う背面42bと、背面側(押付スプロケット48と反対側)にフランジ状に設けられた、第1テンショナ38を現像処理装置10に取り付けるための取付片42aとを有している。取付片42aには、取り付け用の穴等が適宜穿孔されている。また、ケース42には、後述する引張コイルばね66の一端を保持するための張り出し片42cが形成されている。
【0044】
付勢機構44は、押付スプロケット48と、スプロケット保持部材50と、ねじりコイルばね52とから構成されている。
押付スプロケット48は、駆動スプロケット32と従動スプロケット34aとの間に張架されたチェーン36に係合して、チェーン36を、その張架方向(進行方向)に略垂直な方向に対して押圧するもので、その回転中心部には孔部を有し、この孔部にはスプロケット保持ピン54が貫通されており、スプロケット保持ピン54の両端は、スプロケット保持部材50の2枚の側板50e,50eにそれぞれ固定されている。これにより、押付スプロケット48は、スプロケット保持部材50に、回転自在に保持されている。なお、押付スプロケット48は、チェーン36を押圧してチェーン36の張力を変えられるものであればよく、チェーン36をタイミングベルトに代えた場合は、適合する形状のプーリーなどを用いてもよい。
【0045】
スプロケット保持部材50は、押付スプロケット48の保持部分が突出した、中心角約45度の扇形のような正面形状を有しており、扇形状の一方の半径に相当する部分(図2中、上側の辺)で折り曲げられて、コの字状の断面を有している。すなわち、2枚の同一形状の側板50e,50eが、上面50fによって連続しており、他の辺では開放されている。スプロケット保持部材50は、側板50eの扇形の中心において、両側板50e,50eを貫通するピン56によって、ケース42に取り付けられており、ケース42に対して回転移動が可能とされている。なお、ピン56の両端は、ケース42の2枚の側板に取り付けられている。
【0046】
ねじりコイルばね52は、スプロケット保持部材50の両側板50e,50eの間に、そのコイルの中心部がピン56に貫通されて保持されている。ねじりコイルばね52の一端は、ケース42の背面42bの内面に当接し、他端は、スプロケット保持部材50の上面50fの内面に当接し、固定されたケース42の背面42bに対して、スプロケット保持部材50の上面50fを、ねじりコイルばね52の付勢力によって付勢するように配置されている。この付勢力によって、スプロケット保持部材50は、ケース42に対して、ピン56を中心として回転移動する。
【0047】
後退規制機構46は、スプロケット保持部材50の円弧状の縁部に形成されたラチェット部58と、ラチェット部58に係合するロックピン60とから構成されている。ラチェット部58は、スプロケット保持部材50の両方の側板50e,50eに同様に形成されており、ロックピン60も、それぞれのラチェット部58,58に対して同様に設けられている。以下では、2組のラチェット部58およびロックピン60を代表して、図2中、手前側の部分について説明する。
【0048】
ラチェット部58は、スプロケット保持部材50の円弧状の縁部(図2中、下側の縁部)に所定のピッチで連続的に形成された、複数のロック爪50aとロック溝50bとの繰り返しによって構成されている。各ロック溝50bは、ケース42の背面42b側の面が、円弧状縁部の接線に対して小さな角度(例えば、45度以下)で形成されて、押付スプロケット48がチェーン36に向けて前進するときに、ラチェット部58とロックピン60との相対的な移動を誘導する誘導面50cとされている。また、各ロック溝50bの押付スプロケット48の前進側の面は、円弧状縁部の法線に近い角度で形成されて、押付スプロケット48が後退しようとするときの、ラチェット部58とロックピン60との相対的な移動を阻止(禁止)する後退規制面50dとされている。
【0049】
ロックピン60は、ロックピン保持部材62に固定されており、ロック溝50bに係合するほぼ一定の位置に配置されている。
ロックピン保持部材62は、スプロケット保持部材50の側板50e,50eの間隔よりも狭い幅の側板62a,62aを有し、両側板62a,62aが、底面62b(図2中、下側の面)で連続された、断面がコの字状の部材である。このロックピン保持部材62は、その略中央部分において、両側板62a,62aを貫通するピン64によって、ケース42に対して揺動可能に取り付けられている。なお、ピン64の両端は、ケース42の2枚の側板に取り付けられている。揺動するロックピン保持部材62の一端部には、両方の側板62a,62aの外面に、ロックピン60が固定されており、ロックピン60がロック溝50bに係合する際に、ロックピン保持部材62は、スプロケット保持部材50の側板50e,50eの間に挿入された状態となる。
また、ロックピン保持部材62の他端には、引張コイルばね66の一端を保持するための張り出し片62cが形成されている。
【0050】
引張コイルばね66は、その両端が、ケース42の張り出し片42cと、ロックピン保持部材62の張り出し片62cとによって保持されており、固定されたケース42の張り出し片42cに対して、ロックピン保持部材62の張り出し片62cを引っ張る(引き下げる)方向に付勢する。ロックピン保持部材62は、ピン64を中心に揺動するので、引張コイルばね66の付勢力によって、張り出し片62cと反対側の端部が押し上げられる方向に付勢され、これにより、ロックピン60が、係合しているロック溝50bに押し付けられる方向に付勢される。
【0051】
保持機構(ロック機構)80は、スプロケット保持部材50のラチェット部58と押付スプロケット48の保持部分との間に形成された保持溝50gと、上述のロックピン60とから構成されている。保持機構80は、後退規制機構46と同様に、スプロケット保持部材50の両方の側板50e,50eに同様に備えられている。以下では、2組の保持機構80を代表して、図2中、手前側の部分について説明する。
【0052】
保持溝50gは、スプロケット保持部材50の円弧状の縁部に、ラチェット部58の一番前、すなわち押付スプロケット48に一番近いロック溝50bと、押付スプロケット48の保持部分との間に形成されている。保持溝50gは、ケース42の背面42b側の面(保持面とする)50hが、円弧状縁部の法線に近い角度、ないしは、保持面50hの位置における円弧状縁部の接線と保持面50hとの成す角度が鈍角となるように形成されており、この保持面50hによって、保持溝50gに係合したロックピン60のラチェット部58への移動が阻止され、押付スプロケット48が前進することが阻止されている。一方、保持溝50gの押付スプロケット48側の面は、円弧状縁部から突起した押付スプロケット48の保持部分につながっており、ロックピン60の保持溝50gからの移動が阻止され、押付スプロケット48が後退するのが阻止されている。これにより、保持機構80は、スプロケット保持部材50および押付スプロケット48を、前進も後退もさせずに、一定の位置に保持して、安定した収納状態とすることができる。
【0053】
保持機構80における、スプロケット保持部材50の保持状態のセットまたは解除は、すなわち、ロックピン60の保持溝50gへの係合または解除(ラチェット部58への係合)は、ロックピン保持部材62の、ピン64よりも引張コイルばね66側の部分を、ケース42の内部へ押し込むことによって、ロックピン60を保持溝50gから外すとともに、スプロケット保持部材50を、ピン56を中心に回転移動させて、ロックピン60の係合位置をラチェット部58から保持溝50gへ、または、保持溝50gからラチェット部58へ移動させることによって行われる。
【0054】
このような第1テンショナ38の作用について説明する。図3は、第1テンショナ38の収納状態(スプロケット保持部材50の収納状態)を模式的に示す正面図である。また、図4(a)〜(c)は、第1テンショナ38の動作を説明する模式的な正面図であり、第1テンショナ38の異なる状態を示している。すなわち、図4(a)は、ロックピン60が、ラチェット部58の一番前、すなわち、ラチェット部58の中で押付スプロケット48に一番近いロック溝50bに係合された状態を示しており、図4(b)は、ロックピン60が、2つのロック爪50aを越えて、3つめのロック溝50bへ移動したときの状態を示している。また、図4(c)は、ロックピン60がさらに移動して、一番後ろ、すなわちケース42の背面42bに一番近いロック溝50bに係合し、付勢スプロケット48によるチェーン36の押し込み量が最大となるときの状態を示している。
【0055】
第1テンショナ38は、現像処理装置10に装着されていないときは、図3に示すように、保持機構80によって、ロックピン60が保持溝50gに係合した状態で保持(ロック)されている。第1テンショナ38は、この状態で現像処理装置10に装着され、締結される。サービスマンやユーザは、図3の収納状態の第1テンショナ38を、現像処理装置10の外部から挿入して、第1テンショナ38の取り付け位置に締結した後、第1テンショナ38のロックピン保持部材62の、ピン64よりも引張コイルばね66側の部分を、ケース42の内部側へ押し込むことにより、ロックピン60を保持溝50gから外す。これにより、保持機構80が解除され、付勢機構44および後退規制機構46が機能する状態となる。
【0056】
第1テンショナ38が現像処理装置10に取り付けられて、スプロケット保持部材50の保持機構80が解除されると、スプロケット保持部材50は、ねじりコイルばね52の付勢力によって、前方へ(チェーン36に向かって)押し出され、押付スプロケット48がチェーン36に押し付けられる。これにより、チェーン36には、ねじりコイルばね52の付勢力に対応するテンションが付与される。保持機構80が解除された時点で、ロックピン保持部材62の押し込みが解放され、ロックピン60は、引張コイルばね66の付勢力によってラチェット部58の側へ押し付けられて、ラチェット部58の、チェーン36のテンションとねじりコイルばね52の付勢力とが釣り合う位置のロック溝50bに係合する。
【0057】
例えば、第1テンショナ38のセット前に、チェーン36のテンションが所定値に維持されているときは、第1テンショナ38がセットされ、スプロケット保持部材50の保持機構80が解除されると、スプロケット保持部材50は僅かしか移動せず、図4(a)に示すように、ラチェット部58の一番前、すなわち、ラチェット部58の中で押付スプロケット48に一番近いロック溝50bに係合する。
【0058】
第1テンショナ38のセット前のチェーン36のテンションが、所定値よりも低い場合には、押付スプロケット48が前方(図中、右方)へ押し出される。このとき、ロックピン60は、ロック溝50bの誘導面50cに沿って後方(図中、左方)へ移動する。上述したように、ロックピン60は、引張コイルばね66によって、ロック溝50bの面に押し付けられているので、引張コイルばね66の伸縮を伴いながら、ロック溝50bの高低差に追随して移動する。
【0059】
押付スプロケット48の移動量が、ラチェット部58の隣接する2つのロック溝50bの間隔(ピッチ)よりも大きくなると、ロックピン60は、ロック爪50aを乗り越えて、隣のロック溝50bに移る。
【0060】
また、チェーン伝動機構14は、現像処理部12のすべての搬送ローラ124およびニップローラ126を駆動するため、非常に大きな負荷が掛かっている。例えば、モータ28が、300N・cm程度のトルクを発生する場合、チェーン36には、数百Nの負荷が加わることになる。そのため、現像処理装置10の長期にわたる使用に伴い、チェーン36に、わずかではあるが伸びを生じる。その結果、チェーン36にたるみを生じる。特に、駆動スプロケット32の下流側でチェーン36がたるみ、テンションが低下する。
【0061】
チェーン36が伸び、テンションが低下すると、それに伴い、ねじりコイルばね52の付勢力に対応して、第1テンショナ38の押付スプロケット48が前進し、相対的に、ロックピン60が、ロック溝50bの誘導面50cに沿って後進する。押付スプロケット48の前進量(チェーン36の押し込み量)がラチェット部58のロック溝50bの間隔を超えると、ロックピン60がロック爪50aを乗り越えて次のロック溝50bに移る。
【0062】
図1に示すように、チェーン36の正転時における、押付スプロケット48の下流側の近傍には、従動スプロケット34cが配置されているので、押付スプロケット48の前進によるテンションの付与を、安定して効率良く行うことができる。押付スプロケット48が前進することによって、駆動スプロケット32と従動スプロケット34cとの間のチェーン36の長さが延長され、チェーン36のテンションが増大する。
こうして、使用に伴い、チェーン36が伸び、テンションが適正なテンションから低下しようとしても、ねじりコイルばね52の付勢力により、押付スプロケット48の前進して、チェーン36には適正なテンションの付与が維持される。
【0063】
次に、チェーン36を逆転させる場合の第1テンショナ38の作用を説明する。
チェーン36の逆転時には、第1テンショナ38の位置は、駆動スプロケット32の上流側となり、チェーン36のテンションが全体のうちで非常に強くなる。そのため、チェーン36の強いテンションによって押付スプロケット48が押し戻される方向に押圧される。しかし、第1テンショナ38においては、ロックピン60が、1つのロック溝50bに係合していおり、押付スプロケット48が後退する方向(図2および図4中、左へ向かう方向)へ押圧されても、ロックピン60は、後退規制面50dによって前方(図中、右方)への移動が規制され、したがって、押付スプロケット48(スプロケット保持部材50)の後方(図中、左方)への移動が規制される。
【0064】
チェーン36の正転時に、ロックピン60が、ロック溝50b内の誘導面50cの先端側、すなわちロック溝50b内の後方側にあった場合には、チェーン36を逆転させることによって、ロックピン60が同一のロック溝50b内における後退規制面50dに当接するまでの量は、いわゆるバックラッシとなり、このバックラッシに対応する量だけ、押付スプロケット48が後退することとなるが、それ以上の後退は防止される。従って、チェーン36には、逆転時においても、急激なテンションの低下を生じることはなく、最大で、ラチェット部58におけるバックラッシ分しかたるみを生じない。そのため、逆転時における駆動スプロケット32の下流側において、大きなたるみを生じることがない。
【0065】
図5は、図1におけるモータ28、駆動スプロケット32および第2テンショナ40の部分の概略構成を示す模式図であり、第2テンショナ40と、モータ28と、駆動スプロケット32とが拡大して示されている。
第2テンショナ40は、チェーンの逆転方向に対して、駆動スプロケット32の下流側の近傍に配置されており、特に、チェーン36の逆転時に、押付スプロケット70をチェーン36に押し付けて、所定のテンションを付与するものである。図5においては、モータ28、駆動スプロケット32および第2テンショナ40を支持するケース68の図中手前側の側板68aを一部除いて、第2テンショナ40の構成を明示している。
【0066】
図5に示すように、第2テンショナ40は、押付スプロケット70と、スプロケット保持部材72と、ねじりコイルばね74とから構成されている。
押付スプロケット70は、チェーン36に係合するもので、その回転中心部には、スプロケット保持ピン76が貫通されており、スプロケット保持ピン76の両端は、スプロケット保持部材72に固定されている。すなわち、押付スプロケット70は、スプロケット保持部材72に、回転自在に保持されている。なお、押付スプロケット70は、第1テンショナ38の押付スプロケット48と同様に、チェーン36を押してチェーン36の張力を変えられるものであればよく、チェーン36をタイミングベルトに代えた場合は、適合する形状のプーリーなどを用いてもよい。
【0067】
スプロケット保持部材72は、押付スプロケット70を挟む2枚の側板と、両側板をつなぐ面(図5中、左上側の面。以下、上面とする。)を有している。図5においては、図中、手前側の側板を除いて、内包するねじりコイルばね74を明示している。スプロケット保持部材72は、スプロケット保持ピン76の保持部分と反対側の端部において、スプロケット保持部材72を貫通するピン78によって、ケース68の側板68a,68bに固定されており、ケース68に対して回転移動が可能とされている。
【0068】
ねじりコイルばね74は、スプロケット保持部材72の両側板の間に、そのコイルの中心部がピン78に貫通されて保持されている。ねじりコイルばね74の一端は、ケース68の保持部68cに保持され、他端は、スプロケット保持部材72の上面の内面に当接し、固定部である保持部68cに対して、スプロケット保持部材72の上面を、ねじりコイルばね74の付勢力によって付勢するように配置されている。この付勢力によって、スプロケット保持部材72は、ケース68に対して、ピン78を中心として回転移動する。
【0069】
このような第2テンショナ40は、チェーン36の正転時には、駆動スプロケット32の上流側となり、チェーン36のテンションの非常に強い領域に位置するので、テンショナとしてはほとんど機能しない。あるいは、チェーン36の正転時には、第2テンショナ40をチェーン36から退避させる構成としてもよい。チェーン36のテンションは、第1テンショナ38の作用により適切な強さとされている。
【0070】
一方、チェーン36の逆転時には、第2テンショナ40は、駆動スプロケット32の下流側となり、ねじりコイルばね74の付勢力によって押付スプロケット70をチェーン36に押し付けることにより、チェーン36にテンションを付与する。押付スプロケット70のチェーン36を挟んで対向する位置には、従動スプロケット34dが配置されているので、押付スプロケット70のチェーン36への押し付けによるテンションの付与を、安定して効率良く行うことができる。
【0071】
上述したように、逆転時のチェーン36は、正転時の適切なテンションに対し、第1テンショナ38のラチェット部58におけるバックラッシ分だけたるみが生じることにより、テンションが低下する。このたるみ量は、上記バックラッシに対応するわずかな量ではあるが、チェーン36の安定した回転のためには、そのたるみ量をも無くすことが好ましく、第2テンショナ40によってテンションを補助的に付与することにより、正転時と同等のテンションを保つことができる。
【0072】
言い換えれば、第2テンショナ40は、チェーン36の逆転時に生じるわずかなたるみ(テンションの緩み)を吸収できる程度のものでよい。チェーン36の逆転時に生じるたるみ量は、第1テンショナ38のラチェット部58におけるロック溝50bのピッチで決められているので、第2テンショナ40に要求されるたるみ吸収量を定量化できる。そのため、第2テンショナ40を安価に作製することができる。
また、逆転時におけるチェーン36のたるみ量は、ロック溝50bのピッチによって決定されるので、ロック溝50bのピッチを細かく、あるいは粗くすることによって、逆転時のチェーン36のたるみ量を変化させることもできる。
【0073】
また、本実施形態においては、第1テンショナ38は、所定のピッチで形成されたロック溝50bの後退規制面50dによって、チェーン36の逆転時における押付スプロケット48の後退を規制しており、ロック溝50bのピッチで定まるバックラッシ分のチェーン36のたるみを許容して、そのたるみ量を吸収する第2テンショナ40を設けているが、このほかにも、以下のような構成を、上記の後退規制機構46に代えて、あるいは後退規制機構46と併用するように、採用することもできる。
【0074】
例えば、第1テンショナ38において、スプロケット保持部材50をケース42に保持する部分に、ワンウェイクラッチ機構を採用し、現像処理装置10へセットした後は、押付スプロケット48を後退させる側には、スプロケット保持部材50を揺動させられないようにしてもよい。
また、例えば、第1テンショナ38において、スプロケット保持部材50の背面側部分(ケース42の背面42bに近接する部分)に当接し、下方へのみ移動可能なピン等の規制部材を設けて、スプロケット保持部材50が揺動して押付スプロケット48が前進したときに、その規制部材が下方へ移動し、スプロケット保持部材50が戻れないようにすることにより、押付スプロケット48の後退を規制するようにしてもよい。
このような構成により、押付スプロケット48の後退が完全に規制できる場合には、チェーン伝動機構14は、第2テンショナ40を備えなくてもよい。
【0075】
また、第1テンショナ38および第2テンショナ40は、ねじりコイルばね52(70)によって、スプロケット保持部材50(72)を揺動させて、押付スプロケット48を前進させるものには限定されず、圧縮コイルばね等の直線方向に付勢力を発揮する手段を用いて、押付スプロケット48を直線状に移動させてチェーン36bに押し付けるものとしてもよい。第1テンショナ38においては、この場合、後退規制機構46として、押付スプロケット48の移動方向に沿って、ロック爪50aおよびロック溝50bを直線状に形成して、押付スプロケット48の後退を規制するものとすればよい。
【0076】
従動スプロケット34bおよび34cの間におけるチェーン36の外周側には、チェーン36に係合する複数の伝動スプロケット52が、各処理槽に対応する位置に、処理液面よりも上側に配置されている。これらの伝動スプロケット152は、チェーン36の回転に伴って一斉に回転する。チェーン伝動機構14によって伝動スプロケット152に伝えられた動力は、ギヤ伝動機構16によって、現像処理部12の各処理槽におけるすべての搬送ローラ124(124a〜124d)に伝えられる。
【0077】
なお、図1に示す現像処理装置10のギヤ伝動機構16は、図6に示す現像処理装置100のギヤ伝動機構116と同様の構成を有するものであるので、同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図1に示す現像処理装置10において、ギヤ伝動機構16は、複数の伝動スプロケット152のそれぞれの回転軸に取り付けられたかさ歯車154と、このかさ歯車154に係合し、回転の軸方向を各処理槽の深さ方向(図1中、上下方向)に変えて動力を伝達するかさ歯車156と、かさ歯車156の軸方向、すなわち各処理槽の深さ方向に延在するシャフト158と、シャフト158の、搬送ローラ124a〜124dに対応する位置に固定されたウォームおよび対応するウォーム歯車からなるウォームギヤ160と、搬送ローラ124a〜124dの回転軸に固定され、ウォームギヤ160のウォーム歯車に係合する歯車(図示せず)とを有している。この構成により、伝動スプロケット152の回転は、かさ歯車154,156、シャフト158、ウォームギヤ160の順に伝達されて、搬送ローラ124a〜124dに伝達され、搬送ローラ124a〜124dが駆動される。
【0078】
ギヤ伝動機構16の各ギヤは、チェーン36の回転方向の正逆によって、それぞれが逆回転して動力を伝達し、これにより、搬送ローラ124a〜124dは、チェーン36の正転時には、図1中、時計回りに回転駆動され、チェーン36の逆転時には、反時計回りに回転駆動される。
【0079】
ニップローラ126は、搬送ローラ124a〜124dの回転に伴って、ニップ面の摩擦によってつれ回りするか、あるいは、ニップローラ126の回転軸に固定された歯車が、搬送ローラ124a〜124dの回転軸に固定された歯車と係合することによって、回転するように構成されている。
【0080】
以上、本発明に係るチェーン伝動装置について詳細に説明したが、本発明は上記種々の実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【0081】
例えば、本発明において、チェーン伝動装置のチェーンをベルト(好ましくはタイミングベルト)に代え、スプロケットをプーリに代えることにより、本発明をベルト伝動装置に適用することができる。また、このような本発明を適用するベルト伝動装置において、付勢プーリをそれぞれ有する第1テンショナおよび第2テンショナによって、ベルトの正転時および逆転時の両方において適切なテンションを付与することができるので、本発明のベルト伝動装置は、上述したチェーン伝動装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のチェーン伝動装置を利用する現像処理装置の一実施例の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1に示すチェーン伝動装置の第1テンショナの構成を示す斜視図である。
【図3】図2に示す第1テンショナの収納状態を示す模式図である。
【図4】(a)〜(c)は、図2に示す第1テンショナの動作を説明する模式図であり、第1テンショナのそれぞれ異なる作用状態を示す図である。
【図5】図1に示すチェーン伝動装置の第2テンショナ40の概略構成を示す模式図である。
【図6】従来のチェーン伝動機構を利用した現像処理装置の概略構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0083】
10、100 現像処理装置
12、112 現像処理部
14、114 チェーン伝動機構
16、116 ギヤ伝動機構
28、128 モータ
30、130 回転軸
32、132 駆動スプロケット
34a、34b、34c、34d、134a、134b 従動スプロケット
36、136 チェーン
38 第1テンショナ
40 第2テンショナ
42 ケース
42a 取付片
42b 背面
44 付勢機構
46 後退規制機構
48、70 押付スプロケット
50、72 スプロケット保持部材
50a ロック爪
50b ロック溝
50c 誘導面
50d 後退規制面
50e 側板
50f 上面
50g 保持溝
50h 保持面
52、74 ねじりコイルばね
54、76 スプロケット保持ピン
56、64、78 ピン
58 ラチェット部
60 ロックピン
62 ロックピン保持部材
66 引張コイルばね
68 ケース
68a、68b 側板
68c 保持部
80 保持機構(ロック機構)
138 テンショナ
152 伝動スプロケット
154、156 かさ歯車
158 シャフト
160 ウォームギヤ
118 現像槽
120 漂白・定着槽
122a、122b、122c、122d 水洗槽
124a、124b、124c、124d 搬送ローラ
126 ニップローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に接続され、正転および逆転する駆動スプロケットと、
1以上の従動スプロケットと、
前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットに順に掛け回され、前記駆動スプロケットの正転および逆転により正転および逆転する無端のチェーンと、
前記チェーンの正転方向に対して、前記駆動スプロケットの下流側近傍に配置され、前記チェーンに対して所定の第1テンションを付与する第1テンショナとを有し、
前記第1テンショナは、テンショナ本体と、前記チェーンに押し付けられ、前記テンショナ本体に対して可動な押付部材と、前記テンショナ本体に組み込まれ、前記チェーンに前記所定の第1テンションを付与するように前記チェーンに対して前記押付部材を付勢する付勢機構と、前記テンショナ本体に組み込まれ、前記チェーンの逆転時に前記押付部材の後退を規制する後退規制機構とを備えることを特徴とするチェーン伝動装置。
【請求項2】
さらに、前記チェーンの逆転方向に対して、前記駆動スプロケットの下流側近傍に配置され、前記チェーンの逆転時に前記チェーンに所定の第2テンションを付与する第2テンショナを有する請求項1に記載のチェーン伝動装置。
【請求項3】
前記付勢機構は、前記テンショナ本体に対して前記押付部材を前記チェーンに向けて前進させるように付勢するものであり、
前記後退規制機構は、前記付勢機構による前記押付部材の前記前進に伴って、前記押付部材と前記テンショナ本体との係合位置の移動を許容し、かつ、前記押付部材が後退する方向へは前記係合位置の移動を禁止するものである請求項1または2に記載のチェーン伝動装置。
【請求項4】
前記係合位置の移動は、所定のピッチ毎に行われるものであり、
前記第2テンショナは、前記第1テンショナの前記係合位置の1ピッチの移動による前記第1テンションの変化に対応する量までの第2テンションを前記チェーンに付与するものである請求項1〜3のいずれかに記載のチェーン伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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