説明

チェーン伝動装置

【課題】動力伝達時のチェーン張力を確実かつ安定して振動騒音なく受け持つとともに長期に亙って耐久性を充分に発揮し、噛み合い開始時のリンクプレートとサイドスプロケット歯との相互間に生じがちな摺動摩耗と噛み合い騒音を大幅に抑制するチェーン伝動装置を提供する。
【解決手段】チェーン進行方向の前方側と後方側にリンクプレート歯を配置した外リンクと内リンクとが連結ピンで多数連結されたチェーン110と、該チェーン110のローラと噛み合うセンタースプロケット歯151とチェーン110のリンクプレート歯に対して噛み合い抵抗の少ない材質からなるサイドスプロケット歯152とを設けたスプロケット150とで構成されたチェーン伝動装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプロケットに巻掛けられたチェーンにより動力を伝達するチェーン伝動装置、例えば、エンジンの動弁系やオイルポンプなどの補機等の従動軸を駆動するのに適したチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーン伝動装置として、ブシュチェーン又はローラチェーン等のチェーンを用いたチェーン伝動装置やサイレントチェーンを用いたチェーン伝動装置は、周知である。
また、サイレントチェーンのリンクとローラチェーンのリンクとを組み合わせたチェーンと、これらのリンクが噛み合う複数の歯を有するスプロケットとからなるチェーン伝動装置は、公知である。
【0003】
この公知のチェーン伝動装置500は、図15、図16に示すように、サイレントチェーンとして機能する一対のリンクプレート歯を有する外側リンクプレート511と内側リンクプレート512とを両外側に配置し、その内側にローラチェーンとして機能するローラ513及びブシュ514を配置して連結ピン515により連結したチェーン510と、スプロケット両側部にサイレントチェーン用スプロケット歯521を形成するとともにスプロケット中央部にローラチェーン用スプロケット歯522を形成したスプロケット520とを有している。
【0004】
そして、このようなチェーン伝動装置500は、図17に示すように、チェーン510とスプロケット520との噛み合い動力伝達時において、まず、サイレントチェーンとして機能する外側リンクプレート511及び内側リンクプレート512のリンクプレート歯がサイレントチェーン用スプロケット歯521に噛み合い始め、次いで、ローラ513がローラチェーン用スプロケット歯522の間に入り込んで着座した後に、外側リンクプレート511及び内側リンクプレート512のリンクプレート歯がサイレントチェーン用スプロケット歯521から完全に離れるように動作し、サイレントチェーンとローラチェーンとの利点を発揮し、低騒音化を図るとともにチェーン510の疲れ強さをローラチェーン並に確保して強度低下を防止している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4327192号公報(第1頁、図1、図2、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のようなチェーン伝動装置は、スプロケット520にチェーン張力を受け持たせるために高強度な鋼材を用いる必要があり、スプロケット520を構成するサイレントチェーン用スプロケット歯521とローラチェーン用スプロケット歯522とが高強度な鋼材からなる同一の材質で形成されているため、外側リンクプレート511及び内側リンクプレート512のリンクプレート歯とサイレントチェーン用スプロケット歯521との噛み合いにおいて摺動抵抗による相互間の摩耗が生じ、噛み合い開始時の低騒音化を充分に図ることができないという問題があった。
【0007】
そして、従来のようなチェーン伝動装置は、チェーン510とスプロケット520との噛み合い動力伝達時において、ローラ513がローラチェーン用スプロケット歯522の間に入り込んで着座した後に、外側リンクプレート511及び内側リンクプレート512のリンクプレート歯がサイレントチェーン用スプロケット歯521から完全に離れるように動作するため、ローラ513のローラチェーン用スプロケット歯522に対する噛み合い位置が不安定となり、噛み合い動力伝達時の振動騒音を完全に解消できないという問題があり、また、ローラ513のローラチェーン用スプロケット歯522に対する噛み合いのみでチェーン張力を受け持ちながら動力伝達しなければならず、ローラ513がローラチェーン用スプロケット歯522との間に動力伝達の負荷が集中し、長期に亙って耐久性を充分に発揮できないという問題があった。
【0008】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、動力伝達時のチェーン張力を確実かつ安定して振動騒音なく受け持つとともに長期に亙って耐久性を充分に発揮し、噛み合い開始時のリンクプレートとサイドスプロケット歯との相互間に生じがちな摺動摩耗と噛み合い騒音を大幅に抑制するチェーン伝動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本請求項1に係る発明は、チェーン進行方向の前方側と後方側にリンクプレート歯を配置した少なくとも一対の外側リンクプレートの前後のピン孔にそれぞれ連結ピンの両端部を嵌入固定した外リンクと前記チェーン進行方向の前方側と後方側にリンクプレート歯を配置した少なくとも一対の内側リンクプレートの前後のブシュ孔にそれぞれブシュ又はローラが遊嵌されたブシュを嵌入固定した内リンクとが前記ブシュに連結ピンを交互に遊嵌することで多数連結されたチェーンと、該チェーンに巻掛けて前記ブシュ又はローラと噛み合うセンタースプロケット歯と該センタースプロケット歯の側方で前記リンクプレート歯と噛み合うサイドスプロケット歯とを設けたスプロケットとで構成されているチェーン伝動装置において、前記サイドスプロケット歯が、前記リンクプレート歯に対するサイドスプロケット歯の噛み合い抵抗を前記ブシュ又はローラに対するセンタースプロケット歯の噛み合い抵抗より少なくする材質で形成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0010】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載されたチェーン伝動装置の構成に加えて、前記リンクプレート歯、センタースプロケット歯及びサイドスプロケット歯が、前記チェーンがスプロケットに巻掛る時に、最初に前記チェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯の内股部がサイドスプロケット歯に接触し、次いで、前記チェーン進行方向の前方側に位置するブシュ又はローラがセンタースプロケット歯に接触し、さらに、前記チェーン進行方向の後方側に位置するブシュ又はローラがセンタースプロケット歯の歯底に着座した時に前記チェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯の外股部及びチェーン進行方向の後方側に位置するリンクプレート歯の外股部がサイドスプロケット歯に接触する歯形に形成されていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0011】
本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたチェーン伝動装置の構成に加えて、前記サイドスプロケット歯が含油焼結鋼材で形成されていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0012】
本請求項4に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたチェーン伝動装置の構成に加えて、前記サイドスプロケット歯が自己潤滑性樹脂材で形成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0013】
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載されたチェーン伝動装置の構成に加えて、前記サイドスプロケット歯が前記センタースプロケット歯の両側に設けられていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0014】
本請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載されたチェーン
伝動装置の構成に加えて、前記リンクプレート歯が、前記外側リンクプレート及び内側リンクプレートの上下両側に設けられていることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のチェーン伝動装置は、チェーン進行方向の前方側と後方側にリンクプレート歯を配置した少なくとも一対の外側リンクプレートの前後のピン孔にそれぞれ連結ピンの両端部を嵌入固定した外リンクとチェーン進行方向の前方側と後方側にリンクプレート歯を配置した少なくとも一対の内側リンクプレートの前後のブシュ孔にそれぞれブシュ又はローラが遊嵌されたブシュを嵌入固定した内リンクとがブシュに連結ピンを交互に遊嵌することで多数連結されたチェーンと、このチェーンに巻掛けてブシュ又はローラと噛み合うセンタースプロケット歯とこのセンタースプロケット歯の側方でリンクプレート歯と噛み合うサイドスプロケット歯とを設けたスプロケットとで構成されていることにより、サイレントチェーンとローラチェーンとの双方の利点を発揮した動力伝達を達成することができるばかりでなく、以下のような本発明に特有の構成によって格別の効果を達成することができる。
【0016】
まず、本請求項1に係る発明のチェーン伝動装置によれば、サイドスプロケット歯がリンクプレート歯に対するサイドスプロケット歯の噛み合い抵抗をブシュ又はローラに対するセンタースプロケット歯の噛み合い抵抗より少なくする材質で形成されていることにより、噛み合い開始時に外側リンクプレート及び内側リンクプレートのリンクプレート歯とサイドスプロケット歯との噛み合いで生じがちな摺動抵抗を低減するため、噛み合い開始時のリンクプレート歯とサイドスプロケット歯との相互間に生じがちな摺動摩耗を大幅に抑制するとともにサイドスプロケット歯に対する噛み合い騒音を大幅に抑制することができる。
【0017】
また、本請求項2に係る発明は、請求項1に記載されたチェーン伝動装置が奏する効果に加えて、リンクプレート歯、センタースプロケット歯及びサイドスプロケット歯が、チェーンがスプロケットに巻掛る時に、最初にチェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯の内股部がサイドスプロケット歯に接触し、次いで、チェーン進行方向の前方側に位置するブシュ又はローラがセンタースプロケット歯に接触し、さらに、チェーン進行方向の後方側に位置するブシュ又はローラがセンタースプロケット歯の歯底に着座した時にチェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯の外股部及びチェーン進行方向の後方側に位置するリンクプレート歯の外股部がサイドスプロケット歯に接触する歯形に形成されていることにより、チェーンとスプロケットとの噛み合い動力伝達時にブシュ又はローラがセンタースプロケット歯の間に入り込んで着座した後にチェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯の外股部及びチェーン進行方向の後方側に位置するリンクプレート歯の外股部がサイドスプロケット歯に継続して接触しているため、噛み合い動力伝達時のブシュ又はローラのセンタースプロケット歯に対する噛み合い位置が確実かつ安定し、噛み合い動力伝達による振動騒音を大幅に解消することができるばかりでなく、噛み合い開始時の衝撃力がセンタースプロケット歯とサイドスプロケット歯とに分散され、センタースプロケット歯とサイドスプロケット歯とで構成されるスプロケット全体で動力伝達の負荷を受け持つため、チェーンとスプロケットの耐久性を長期に亙って充分に発揮することができる。
【0018】
そして、本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたチェーン伝動装置が奏する効果に加えて、サイドスプロケット歯が含油焼結鋼材で形成されていることにより、サイドスプロケット歯の含油焼結鋼材に含油されている潤滑油がスプロケットの回転数に見合う遠心力で除放されるため、この潤滑油でリンクプレート歯とサイドスプロケット歯との噛み合いを円滑に達成することができる。
【0019】
また、本請求項4に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたチェーン伝動装置が奏する効果に加えて、サイドスプロケット歯が自己潤滑性樹脂材で形成されていることにより、スプロケットの回転が低速であってもサイドスプロケット歯の自己潤滑性樹脂材が自己潤滑性を発揮するため、低速あるいは高速の如何なる動力伝達時であってもリンクプレート歯とサイドスプロケット歯との噛み合いを円滑に達成するとともにスプロケットの軽量化を達成することができるばかりでなく、油切れによる給油メンテナンスを解消して給油不可能な使用環境下であってもチェーンとスプロケット歯との円滑な噛み合いを長期に亙って達成することができる。
【0020】
さらに、本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載されたチェーン伝動装置が奏する効果に加えて、サイドスプロケット歯がセンタースプロケット歯の両側に設けられていることにより、チェーン巻掛け時にチェーンの両サイドに均等に力が伝達されるため、スプロケット幅方向の偏摩耗を解消するこできる。
【0021】
加えて、本請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載されたチェーン伝動装置が奏する効果に加えて、リンクプレート歯が外側リンクプレート及び内側リンクプレートの上下両側に設けられていることにより、外側リンクプレート及び内側リンクプレートを上下どちらの方向でも使用できるため、従来のローラチェーンと同様に、組立時にリンクプレートの方向を整列させる必要がなく簡便なチェーン組立を達成することができるとともに、チェーン自体も上下どちらの方向でも使用可能となるため、スプロケットに巻掛ける方向を整列させる必要がなく、上下両方向に複数のスプロケットが存在するような伝動経路を持つ使用条件でも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例であるチェーン伝動装置の一部を切断した斜視図。
【図2】図1の側面図。
【図3】図1に示すチェーンの分解図。
【図4】図3に示す内側リンクプレートの側面図。
【図5】図3に示す外側リンクプレートの側面図。
【図6】図1に示すスプロケットの斜視図。
【図7】図6のスプロケットの分解図。
【図8】図1に示すチェーン伝動装置の動作説明図。
【図9】図1に示すチェーン伝動装置の動作説明図。
【図10】図1に示すチェーン伝動装置の動作説明図。
【図11】図1に示すチェーン伝動装置の動作説明図。
【図12】図1に示すチェーン伝動装置の動作説明図。
【図13】図1に示すチェーン伝動装置の動作説明図。
【図14】図4乃至図5に示すリンクプレートの変形例を示す側面図
【図15】従来のチェーン伝動装置で用いたチェーンの平面図。
【図16】従来のチェーン伝動装置で用いたスプロケットの断面図。
【図17】従来のチェーン伝動装置の動作説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、チェーン進行方向の前方側と後方側にリンクプレート歯を配置した少なくとも一対の外側リンクプレートの前後のピン孔にそれぞれ連結ピンの両端部を嵌入固定した外リンクとチェーン進行方向の前方側と後方側にリンクプレート歯を配置した少なくとも一対の内側リンクプレートの前後のブシュ孔にそれぞれブシュ又はローラが遊嵌されたブシュを嵌入固定した内リンクとがブシュに連結ピンを交互に遊嵌することで多数連結されたチェーンと、このチェーンに巻掛けてブシュ又はローラと噛み合うセンタースプロケット歯とこのセンタースプロケット歯の側方でリンクプレート歯と噛み合うサイドスプロケット歯とを設けたスプロケットとで構成されているチェーン伝動装置において、サイドスプロケット歯がリンクプレート歯に対するサイドスプロケット歯の噛み合い抵抗をブシュ又はローラに対するセンタースプロケット歯の噛み合い抵抗より少なくする材質で形成され、動力伝達時のチェーン張力を確実かつ安定して振動騒音なく受け持つとともに長期に亙って耐久性を充分に発揮し、噛み合い開始時のリンクプレートとサイドスプロケット歯との相互間に生じがちな摺動摩耗と噛み合い騒音を大幅に抑制するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0024】
すなわち、本発明のチェーン伝動装置は、エンジンの動弁系やオイルポンプなどの補機等の従動軸を駆動するものであっても、他の動力伝達機構や搬送機構において使用されるものであっても良く、いかなる機構で使用されるものであっても良い。
【0025】
また、本発明で用いるチェーンの外リンク及び内リンクは、一対の外側リンクプレート及び一対の内側リンクプレートのみで構成されても良く、チェーン内側に複数枚のリンクプレートをさらに備えても良い。
さらに、チェーン内側に複数枚のリンクプレートをさらに備えた場合、チェーン内側のリンクプレートがリンクプレート歯を有してもよく、チェーン内側の複数枚のリンクプレートの一部のみがリンクプレート歯を有しても良く、全てのリンクプレートがリンクプレート歯を有しても良い。
【0026】
そして、本発明で用いるスプロケットは、ブシュ又はローラと噛み合うセンタースプロケット歯とこのセンタースプロケット歯の側方でリンクプレート歯と噛み合うサイドスプロケット歯とを設けたものであれば良く、例えば、センタースプロケット歯及びサイドスプロケット歯を持つ複数のスプロケット部材を同軸に固定したものであっても良い。
また、本発明のチェーン伝動装置は、チェーン伝動装置を構成するスプロケットのうち、少なくとも一つのスプロケットがサイドスプロケット歯を持つものであれば良く、全てのスプロケットがサイドスプロケット歯を持つものであっても良い。
【0027】
さらに、本発明で用いるスプロケットは、サイドスプロケット歯がリンクプレート歯に対するサイドスプロケット歯の噛み合い抵抗をブシュ又はローラに対するセンタースプロケット歯の噛み合い抵抗より少なくする材質で形成されていれば良く、たとえば、サイドスプロケット歯が、球状黒鉛鋳鉄材(FCD)により形成したもの、温間焼結鋼材、高密度焼結鋼材などに潤滑油を含浸させた含油焼結鋼材により形成したもの、あるいは、ポリアミド系、ポリウレタン系などのエンジニアリングプラスチックからなる自己潤滑性樹脂材により形成したものがある。
他方、本発明で用いるスプロケットのセンタースプロケット歯は、一般的な機械構造用炭素鋼材(S45C)やクロムモリブデン鋼鋼材(SCM435)により形成されていれば良い。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例であるチェーン伝動装置について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施例であるチェーン伝動装置の一部を切断した斜視図であり、図2は、図1の側面図であり、図3は、図1に示すチェーンの分解図であり、図4は、図3に示す内側リンクプレートの側面図であり、図5は、図3に示す外側リンクプレートの側面図であり、図6は、図1に示すスプロケットの斜視図であり、図7は、図6のスプロケットの分解図であり、図8乃至図13は、図1に示すチェーン伝動装置の動作説明図であり、図14は、図4乃至図5に示すリンクプレートの変形例を示す側面図である。
【0029】
本発明の一実施例であるチェーン伝動装置100は、図1、図2に示すように、チェーン110(一部のみ図示)がスプロケット150に巻掛けられて駆動力を伝達するものである。
そこで、上記のチェーン110は、図3に示すように、一対の外側リンクプレート112の前後のピン孔117にそれぞれ連結ピン130の両端部が嵌入固定された外リンク160と、一対の内側リンクプレート111の前後のブシュ孔116にそれぞれローラ120が遊嵌されたブシュ140を嵌入固定された内リンク170とが、ブシュ140に連結ピン130を交互に遊嵌することで多数連結されて構成している。
【0030】
ここで、本実施例で用いたチェーン110の素材については、内側リンクプレート111と外側リンクプレート112が炭素鋼材(SAE1050〜SAE1070)でそれぞれ形成され、ローラ120がクロムモリブデン鋼材(SCM)で形成され、ブシュ140がクロムモリブデン鋼材(SCM)で形成されている。
なお、上記ローラ120は、ニッケルクロムモリブデン鋼材(SNCM)で形成されていても何ら構わない。
【0031】
さらに、内側リンクプレート111は、図4に示すように、前後にブシュ孔116を有しているとともに、前後のブシュ孔116の下方にリンクプレート歯113を有しており、このリンクプレート歯113は、前後のリンクプレート歯113の対向する側の歯面である内股部114と外方の歯面である外股部115とで構成されている。
【0032】
また、外側リンクプレート112は、図5に示すように、前後にピン孔117を有しているとともに、前後のピン孔117の下方にリンクプレート歯113を有しており、このリンクプレート歯113は、前後のリンクプレート歯113の対向する側の歯面である内股部114と外方の歯面である外股部115とで構成されている。
ここで、内側リンクプレート111と外側リンクプレート112とは、ブシュ孔116とピン孔117のみが相違し、その他の部分は同一の形状である。
【0033】
一方、前述したスプロケット150は、図6、図7に示すように、チェーン110のローラ120と噛合うセンタースプロケット歯151を有するセンタースプロケット153と、チェーン110のリンクプレート歯113と噛合うサイドスプロケット歯152を有するサイドスプロケット154とから構成され、センタースプロケット153の両側面にサイドスプロケット154を配置するとともにこれらが一体で回転するように構成されている。
【0034】
ここで、本実施例で用いたスプロケット150の素材については、チェーン110のローラ120と噛合うセンタースプロケット歯151を有するセンタースプロケット153が機械構造用炭素鋼材(S45C)により形成され、チェーン110のリンクプレート歯113と噛合うサイドスプロケット歯152が高密度焼結鋼材に潤滑油を含浸させた含油焼結鋼材により形成されている。
なお、上記センタースプロケット153のセンタースプロケット歯151は、クロムモリブデン鋼材(SCM435)で形成されていても何ら構わない。
要するに、本実施例で用いたスプロケット150の素材で最も重要なことは、サイドスプロケット歯152がリンクプレート歯113に対するサイドスプロケット歯153の噛み合い抵抗をローラに対するセンタースプロケット歯153の噛み合い抵抗より少なくなる材質で形成されていることである。
【0035】
そして、リンクプレート歯113、センタースプロケット歯151及びサイドスプロケット歯152は、チェーン110がスプロケット150に巻掛る時に、最初にリンクプレート111(112)のチェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯113の内股部114がサイドスプロケット歯152に接触し、次いで、このリンクプレート111(112)のチェーン進行方向の前方側に位置するローラ120がセンタースプロケット歯151に接触し、さらに、リンクプレート111(112)のチェーン進行方向の後方側に位置するローラ120がセンタースプロケット歯151の歯底に着座した時にリンクプレート111(112)のチェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯113の外股部115及びチェーン進行方向の後方側に位置するリンクプレート歯の外股部115がサイドスプロケット歯152に接触するような歯形に形成されている。
【0036】
例えば、センタースプロケット歯151には、標準的なスプロケット歯形が採用され、リンクプレート歯113及びサイドスプロケット歯152の形状は、スプロケットの歯数等に応じて、上記動作が可能な関係となるように設定されている。
【0037】
以上のように構成された本実施例のチェーン伝動装置100の動作について、図8乃至図13に基づいて説明する。
図8乃至図13は、スプロケット150が図面上反時計方向に回転し、チェーン110が順次スプロケット150に巻掛けられる動作を経時的に説明したものであるが、便宜的な説明のため、図面上はスプロケット150を同一姿勢に固定してチェーン110が順次屈曲するように示してある。
【0038】
図8乃至図13において、各リンクプレート(内側リンクプレート111あるいは外側リンクプレート112)は、チェーン進行方向の前方側から順にリンクプレートL1、リンクプレートL2、リンクプレートL3で表し、各ローラをリンクプレートL1のチェーン進行方向の前方側のローラから順にローラR1、ローラR2、ローラR3で表す。
また、各リンクプレートL1、L2、L3の各リンクプレート歯は、チェーン進行方向の前方側のリンクプレート歯をリンクプレート歯H1f、リンクプレート歯H2f、リンクプレート歯H3f、チェーン進行方向の後方側のリンクプレート歯をリンクプレート歯H1r、リンクプレート歯H2r、リンクプレート歯H3rで表し、各リンクプレート歯の歯面の外股部を外股部G1f、外股部G2f、外股部G3f、外股部G1r、外股部G2r、外股部G3r、各リンクプレート歯の歯面の内股部を内股部U1f、内股部U2f、内股部U3f、内股部U1r、内股部U2r、内股部U3rで表す。
【0039】
本実施例のチェーン伝動装置100においてローラR1がセンタースプロケット歯151に着座した状態から、説明を開始する。
まず、チェーン110が進行すると、図8に示すように、リンクプレートL1はローラR1を中心に屈曲し、ローラR2及びリンクプレート歯H1rはスプロケット150に接近するが、リンクプレートL2のリンクプレート歯H2fも同時にスプロケット150に接近し、ローラR2及びリンクプレート歯H1rに先んじて、リンクプレートL2の内股部U2fがサイドスプロケット歯152に接触する。
このリンクプレートL2の内股部U2fとサイドスプロケット歯152の接触は、従来のサイレントチェーンを用いたチェーン伝動装置と同様にサイドスプロケット歯152に対し斜めから摺接状態となる。
このため、リンクプレートL2の内股部U2fとサイドスプロケット歯152との噛み合い開始音は、従来のような衝突音よりも極めて小さい摺接音となる。
【0040】
さらにチェーン110が進行すると、図9に示すように、リンクプレートL2の内股部U2fがサイドスプロケット歯152の歯面を滑りながらリンクプレートL2が屈曲を開始し、ローラR2が徐々にセンタースプロケット歯151に接近する。
【0041】
そして、図10に示すように、ローラR2がセンタースプロケット歯151に接触することでリンクプレートL1のスプロケット150への巻掛けが完了する。
ローラR2のセンタースプロケット歯151への接触は、前述のとおりリンクプレートL2の内股部U2fがサイドスプロケット歯152の歯面を滑る動作に拘束されて徐々に接近しての接触となる。
このため、ローラR2のセンタースプロケット歯151への接触は、従来のローラチェーンを用いた伝動装置の衝撃音に比べて極めて小さな噛み合い音となる。
【0042】
さらに、ローラR1、R2がともにセンタースプロケット歯151に着座したときにリンクプレートL1の外股部G1f及びG1rがともにサイドスプロケット歯152に接触する形状に構成されており、ローラR1、R2とセンタースプロケット歯151でチェーン110とスプロケット150の動力の伝達を行いつつ、リンクプレートL1が外股部G1f及びG1rの2点でサイドスプロケット歯152に接触して位置決めされる。
これにより、従来のローラチェーンを用いた伝動装置の衝撃音や振動音に比べて軽減された噛み合い音に抑制することができる。
【0043】
ローラR1、R2の着座後は、図11に示すように、リンクプレートL2はローラR2を中心に屈曲を開始してリンクプレートL2の内股部U2fがサイドスプロケット歯152の歯面から離脱し、図12に示すように、リンクプレートL2のリンクプレート歯H2r及びローラR3が急速にスプロケット150に接近する。
【0044】
そして、チェーン110がさらに進行すると、図13に示すように、リンクプレートL2はローラR2を中心に屈曲しローラR3及びリンクプレート歯H2rはスプロケット150に接近するが、さらに後方のリンクプレートL3のリンクプレート歯H3fも同時にスプロケット150に接近し、ローラR3及びリンクプレート歯H2rに先んじて、リンクプレートL3の内股部U3fがサイドスプロケット歯152に接触し、リンクプレートが一つ分進行した図8に示す状態となる。
【0045】
以上説明したように、本実施例のチェーン伝動装置100によれば、チェーン110とスプロケット150との噛み合い動力伝達時にローラ120がセンタースプロケット歯151の間に入り込んで着座した後にチェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯113の外股部及びチェーン進行方向の後方側に位置するリンクプレート歯113の外股部がサイドスプロケット歯152に継続して接触しているため、噛み合い動力伝達時のローラ120のセンタースプロケット歯151に対する噛み合い位置が確実かつ安定し、噛み合い動力伝達による振動騒音を大幅に解消することができるばかりでなく、噛み合い開始時の衝撃力がセンタースプロケット歯151とサイドスプロケット歯152とに分散され、センタースプロケット歯151とサイドスプロケット歯152とで構成されるスプロケット全体で動力伝達の負荷を受け持つため、チェーン110とスプロケット150の耐久性を長期に亙って充分に発揮することができる。
【0046】
そして、サイドスプロケット歯152が高密度焼結鋼材に潤滑油を含浸させた含油焼結鋼材により形成されていることにより、リンクプレート歯113に対するサイドスプロケット歯152の噛み合い抵抗がローラ120に対するセンタースプロケット歯151の噛み合い抵抗より少なくなり、噛み合い開始時にリンクプレート歯113とサイドスプロケット歯152との噛み合いで生じがちな摺動抵抗が低減されるため、噛み合い開始時のリンクプレート歯113とサイドスプロケット歯152との相互間に生じがちな摺動摩耗を大幅に抑制するとともにサイドスプロケット歯152に対する噛み合い騒音を大幅に抑制することができるなど、その効果は甚大である。
【0047】
なお、図14は、図4乃至図5に示す本実施例におけるリンクプレートの変形例を示すものであって、内側リンクプレート211及び外側リンクプレート212の上下両方にリンクプレート歯213を設ければ、従来のローラチェーンと同様に組立時にリンクプレート211(212)の方向を整列させる必要がなく組立がより容易となるとともに、チェーン自体も上下どちらの方向でも使用可能となるため、スプロケットに巻掛ける方向を整列させる必要がなく、上下両方向に複数のスプロケットが存在するような伝動経路を持つ使用条件でも対応可能となるなど、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0048】
100 ・・・チェーン伝動装置
110 ・・・チェーン
111,211 ・・・内側リンクプレート
112,212 ・・・外側リンクプレート
113,213 ・・・リンクプレート歯
114,214 ・・・内股部
115,215 ・・・外股部
116,216 ・・・ブシュ孔
117,217 ・・・ピン孔
120 ・・・ローラ
130 ・・・連結ピン
140 ・・・ブシュ
150 ・・・スプロケット
151 ・・・センタースプロケット歯
152 ・・・サイドスプロケット歯
153 ・・・センタースプロケット
154 ・・・サイドスプロケット
160 ・・・外リンク
170 ・・・内リンク
500 ・・・チェーン伝動装置
510 ・・・チェーン
511 ・・・内側リンクプレート
512 ・・・外側リンクプレート
513 ・・・ローラ
514 ・・・ブシュ
515 ・・・連結ピン
520 ・・・スプロケット
521 ・・・サイレントチェーン用スプロケット歯
522 ・・・ローラチェーン用スプロケット歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン進行方向の前方側と後方側にリンクプレート歯を配置した少なくとも一対の外側リンクプレートの前後のピン孔にそれぞれ連結ピンの両端部を嵌入固定した外リンクと前記チェーン進行方向の前方側と後方側にリンクプレート歯を配置した少なくとも一対の内側リンクプレートの前後のブシュ孔にそれぞれブシュ又はローラが遊嵌されたブシュを嵌入固定した内リンクとが前記ブシュに連結ピンを交互に遊嵌することで多数連結されたチェーンと、該チェーンに巻掛けて前記ブシュ又はローラと噛み合うセンタースプロケット歯と該センタースプロケット歯の側方で前記リンクプレート歯と噛み合うサイドスプロケット歯とを設けたスプロケットとで構成されているチェーン伝動装置において、
前記サイドスプロケット歯が、前記リンクプレート歯に対するサイドスプロケット歯の噛み合い抵抗を前記ブシュ又はローラに対するセンタースプロケット歯の噛み合い抵抗より少なくする材質で形成されていることを特徴とするチェーン伝動装置。
【請求項2】
前記リンクプレート歯、センタースプロケット歯及びサイドスプロケット歯が、前記チェーンがスプロケットに巻掛る時に、最初に前記チェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯の内股部がサイドスプロケット歯に接触し、次いで、前記チェーン進行方向の前方側に位置するブシュ又はローラがセンタースプロケット歯に接触し、さらに、前記チェーン進行方向の後方側に位置するブシュ又はローラがセンタースプロケット歯の歯底に着座した時に前記チェーン進行方向の前方側に位置するリンクプレート歯の外股部及びチェーン進行方向の後方側に位置するリンクプレート歯の外股部がサイドスプロケット歯に接触する歯形に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーン伝動装置。
【請求項3】
前記サイドスプロケット歯が、含油焼結鋼材で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチェーン伝動装置。
【請求項4】
前記サイドスプロケット歯が、自己潤滑性樹脂材で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチェーン伝動装置。
【請求項5】
前記サイドスプロケット歯が、前記センタースプロケット歯の両側に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のチェーン伝動装置。
【請求項6】
前記リンクプレート歯が、前記外側リンクプレート及び内側リンクプレートの上下両側に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載のチェーン伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−69435(P2011−69435A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220866(P2009−220866)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】