説明

チェーン伝動装置

【課題】ブシュレスローラチェーンでの動力伝達効率を向上させながら、内リンクプレートおよび連結ピンの耐久性を向上させ、しかもローラとスプロケット歯との噛合い開始時における衝撃を緩和して、騒音を低減し、かつローラおよび連結ピンの耐久性を向上させるチェーン伝動装置を提供する。
【解決手段】チェーン伝動装置のブシュレスローラチェーンCにおいて、外リンクプレート120に相対移動不能に設けられる連結ピン140は、内リンクプレート130に設けられた挿通孔136に遊嵌されて挿通される。連結ピン140と該連結ピン140に回転可能に直接支持されるローラとの間には潤滑油の油膜が形成される。チェーンCにおいて、内リンクプレート130のみが、その背面133にてチェーンガイド装置の摺接面114,118に摺接可能である。背面133は、チェーン走行方向に沿って円弧状に形成されている接触部134を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外リンクプレートおよび内リンクプレートを連結する連結ピンに直接支持されるローラを有するブシュレスローラチェーンを備えるチェーン伝動装置に関する。そして、該チェーン伝動装置は、自動車、産業用機械または搬送機械などに使用される。
【背景技術】
【0002】
チェーン伝動装置において、外リンクプレートおよび内リンクプレートが、内リンクプレートを回動可能に直接支持すると共にローラを回転可能に支持する連結ピンにより連結されて、チェーン走行方向に交互に連鎖しているブシュレスローラチェーンと、前記ローラと噛合い可能な複数のスプロケット歯を有するスプロケットとを備えるものは知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
チェーン伝動装置において、1対の外リンクプレートおよび1対の内リンクプレートが、1対の内リンクプレートを回動可能に直接支持すると共に1対の内リンクプレートの間に配置されたローラを回転可能に支持する連結ピンにより連結されて、チェーン走行方向に交互に連鎖しているブシュレスローラチェーンと、各ローラと噛合い可能な複数のスプロケット歯を有するスプロケットとを備えるものは知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−124149号公報(段落0024,0025,0033、図1,図2,図6)
【特許文献2】特開平5−164196号公報(段落0012,0013、図1〜図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブシュレスローラチェーンにおいては、ローラと連結ピンとの間に内リンクプレートに固定されたブシュが介在するローラチェーンとは異なり、ローラと該ローラを回転可能に直接支持する連結ピンとが接触することから、ローラとスプロケット歯とが噛合いを開始するときに、大きな衝撃力がローラおよび連結ピンに作用して、ローラや連結ピンの耐久性が低下するという問題があった。
【0006】
また、外リンクプレートおよび内リンクプレートを連結する連結ピンを有するブシュレスローラチェーンを備えるチェーン伝動装置が、ブシュレスローラチェーンをチェーン走行方向に案内するチェーンガイド装置を備える場合に、外リンクプレートおよび内リンクプレートの背面が摺接するチェーンガイド装置の摺接面に対して、前記背面が平面状である場合には、チェーン走行方向での背面と摺接面との接触領域が大きくなって、摩擦損失が増加し、ブシュレスローラチェーンとスプロケットとの間での動力伝達効率が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、前述の課題を解決するものであって、その目的は、ブシュレスローラチェーンでの動力伝達効率を向上させながら、内リンクプレートおよび連結ピンの耐久性を向上させ、しかもローラとスプロケット歯との噛合い開始時における衝撃を緩和して、騒音を低減し、かつローラおよび連結ピンの耐久性、ひいてはブシュレスローラチェーンの耐久性を向上させるチェーン伝動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、請求項1に係る発明は、1対の外リンクプレートおよび前記1対の外リンクプレートの間に配置された1対の内リンクプレートが、前記1対の内リンクプレートを回動可能に直接支持すると共に前記1対の内リンクプレートの間に配置されたローラを回転可能に直接支持する連結ピンにより連結されて、チェーン走行方向に交互に連鎖しているブシュレスローラチェーンと、前記各ローラと噛合い可能な複数のスプロケット歯を有する複数のスプロケットと、走行している前記ブシュレスローラチェーンが摺接すると共に前記ブシュレスローラチェーンを前記チェーン走行方向に案内する摺接面を有するチェーンガイド装置とを備え、前記ブシュレスローラチェーンが潤滑油により潤滑されるチェーン伝動装置において、前記連結ピンが、前記外リンクプレートに相対移動不能に設けられていると共に、前記内リンクプレートに設けられた挿通孔に遊嵌されて挿通され、前記連結ピンの外周面と前記ローラの内周面との間には潤滑油の油膜が形成され、前記ブシュレスローラチェーンにおいて、前記内リンクプレートのみが、その背面にて前記摺接面に摺接可能であり、前記背面が、前記摺接面との摺接時に、前記背面において前記摺接面に単独で摺接する1つの接触部を有し、前記接触部が、前記チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ前記摺接面に向かって凸状に形成されていることにより、前述の課題を解決したものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記ローラ幅が、前記スプロケット歯の最大歯幅よりも大きく、前記1対の外リンクプレートとローラとの間には、前記内リンクプレートがチェーン幅方向に移動可能な幅方向隙間が形成されていることにより、前述の課題を解決したものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明の構成に加えて、同一の外径の前記外周面に対して、前記ローラの内径が前記挿通孔の孔径よりも大きいことにより、前述の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
そこで、本発明のチェーン伝動装置は、1対の外リンクプレートおよび1対の外リンクプレート間に配置された1対の内リンクプレートが、1対の内リンクプレートを回動可能に直接支持すると共に1対の内リンクプレートの間に配置されたローラを回転可能に直接支持する連結ピンにより連結されて、チェーン走行方向に交互に連鎖しているブシュレスローラチェーンと、各ローラと噛合い可能な複数のスプロケット歯を有する複数のスプロケットと、走行しているブシュレスローラチェーンが摺接すると共にブシュレスローラチェーンをチェーン走行方向に案内する摺接面を有することを備え、ブシュレスローラチェーンが潤滑油により潤滑されることにより、複数のスプロケットと噛み合うブシュレスローラチェーンを、チェーンガイド装置によりチェーン走行方向に案内された状態で走行させることができるばかりでなく、以下のような本発明に特有の効果を奏することができる。
【0012】
すなわち、請求項1に係る本発明のチェーン伝動装置によれば、連結ピンが、外リンクプレートに相対移動不能に設けられていると共に、内リンクプレートに設けられた挿通孔に遊嵌されて挿通され、連結ピンの外周面とローラの内周面との間には潤滑油の油膜が形成され、ブシュレスローラチェーンにおいて、内リンクプレートのみが、その背面にて摺接面に摺接可能であり、背面が、摺接面との摺接時に、背面において摺接面に単独で摺接する1つの接触部を有し、接触部が、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ摺接面に向かって凸状に形成されていることにより、内リンクプレートの背面とチェーンガイド装置の摺接面との接触領域が、前記背面が平面状である場合に比べて小さくなること、および、外リンクプレートが前記摺接面に摺接しないことから、ブシュレスローラチェーンの摩擦損失が減少して、チェーン伝動装置の動力伝達効率を向上させることができる。
そのうえ、内リンクプレートは、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ摺接面に向かって凸状に形成され接触部において、摺接面に単独で摺接している際に、摺接面と間での摩擦力の変動やチェーン張力の変動などに起因して揺動するにも拘わらず、連結ピンが挿通孔に遊嵌されていることで、連結ピンと挿通孔との間には径方向隙間が形成されているので、連結ピンに伝達される内リンクプレートの揺動が該径方向隙間により吸収されるため、内リンクプレートに固定されたブシュを有するローラチェーンにおいてブシュとローラとの間に形成される油膜の膜厚変動に比べても、内リンクプレートの揺動に起因する連結ピンとローラとの間の油膜の膜厚変動が抑制され、ローラとスプロケット歯との噛合い開始時に、油膜が奏する衝撃緩和機能、すなわち、スプロケット歯がローラおよび連結ピンに加える衝撃を油膜が緩和する機能の安定化が可能になるため、スプロケット歯とローラとの衝突に起因する騒音を低減することができ、しかもスプロケット歯が連結ピンに加える衝撃が低減して、ローラおよび連結ピンの耐久性、ひいてはブシュレスローラチェーンの耐久性を向上させることができる。
さらに、接触部が摺接面に単独で摺接している際に、内リンクプレートが揺動することにより、接触部における摺接面との接触部位、および連結ピンと挿通孔の孔形成壁面との接触部位が拡散されるので、該接触部位が特定の部位に集中する場合に比べて、接触部、連結ピン、孔形成壁面での摩耗の進行が抑制されるので、内リンクプレートおよび連結ピンの耐久性、ひいてはブシュレスローラチェーンの耐久性を向上させることができる。
【0013】
請求項2に係る本発明のチェーン伝動装置によれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
ローラ幅が、スプロケット歯の最大歯幅よりも大きく、1対の外リンクプレートとローラとの間には、内リンクプレートがチェーン幅方向に移動可能な幅方向隙間が形成されていることにより、ローラ幅がスプロケット歯の最大歯幅Wsよりも大きいことで、スプロケット歯が内リンクプレートに衝突することが抑制されて、内リンクプレートの摩耗の進行が抑制される。
そして、外リンクプレートとローラとの間には、内リンクプレートがチェーン幅方向に移動可能な幅方向隙間が形成されているので、スプロケット歯が内リンクプレートに接触する場合には、内リンクプレートが前記幅方向隙間の範囲内で移動することが可能であるため、内リンクプレートとスプロケット歯との衝突による衝撃を緩和することが可能になり、該衝突による騒音および摩耗を低減することができる。
【0014】
請求項3に係る本発明のチェーン伝動装置によれば、請求項1または請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、次の効果が奏される。
同一の外径の外周面に対して、ローラの内径が挿通孔の孔径よりも大きいことにより、ローラと内リンクプレートとの間に保持されている潤滑油が、連結ピンと挿通孔との間の径方向隙間を通って、チェーン幅方向で外リンクプレート側に流出することが抑制される一方、連結ピンとローラとの間の径方向隙間に流入しやすくなるので、油膜の形成および膜厚の増加が促進されて、油膜が奏するローラとスプロケット歯との噛合い開始時にローラおよび連結ピンに作用する衝撃の緩和効果を高めることができて、ローラとスプロケット歯の噛合い開始時の騒音を低減すること、およびローラおよび連結ピンの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例であるチェーン伝動装置を備えるエンジンの概略図。
【図2】図1のチェーン伝動装置が備えるブシュレスローラチェーンの一部の分解斜視図。
【図3】図1のチェーン伝動装置が備えるブシュレスローラチェーンの要部の図であり、チェーンガイド装置の摺接面に摺接している状態を説明する図。
【図4】図3のブシュレスローラチェーンの、ピン基準線を含む平面での要部断面図。
【図5】図1のチェーン伝動装置が備えるブシュレスローラチェーンがスプロケットと噛み合っている状態を説明する要部の図であり、図4のV−V線に相当する断面図。
【図6】図4のVI−VI線での要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のチェーン伝動装置は、1対の外リンクプレートおよび1対の外リンクプレートの間に配置された1対の内リンクプレートが、1対の内リンクプレートを回動可能に直接支持すると共に1対の内リンクプレートの間に配置されたローラを回転可能に直接支持する連結ピンにより連結されて、チェーン走行方向に交互に連鎖しているブシュレスローラチェーンと、各ローラと噛合い可能な複数のスプロケット歯を有する複数のスプロケットと、走行しているブシュレスローラチェーンが摺接すると共にブシュレスローラチェーンをチェーン走行方向に案内する摺接面を有するチェーンガイド装置とを備え、ブシュレスローラチェーンが潤滑油により潤滑され、連結ピンが、外リンクプレートに相対移動不能に設けられていると共に、内リンクプレートに設けられた挿通孔に遊嵌されて挿通され、連結ピンの外周面とローラの内周面との間には潤滑油の油膜が形成され、ブシュレスローラチェーンにおいて、内リンクプレートのみが、その背面にて摺接面に摺接可能であり、背面が、摺接面との摺接時に、背面において摺接面に単独で摺接する1つの接触部を有し、接触部が、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ摺接面に向かって凸状に形成されていることにより、ブシュレスローラチェーンでの動力伝達効率を向上させながら、内リンクプレートおよび連結ピンの耐久性を向上させ、しかもローラとスプロケット歯との噛合い開始時における衝撃を緩和して、騒音を低減させ、かつローラおよび連結ピンの耐久性、ひいてはブシュレスローラチェーンの耐久性を向上させるものであれば、その具体的な態様は如何なるものであっても構わない。
【0017】
チェーン伝動装置は、例えば、自動車において、機械としてのエンジンまたはエンジン以外の機械、例えば動力伝達装置に備えられてもよく、自動車に使用される機械以外の機械として、産業用機械または搬送機械に備えられてもよい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を図1〜図6を参照して説明する。
図1を参照すると、本発明の実施例であるチェーン伝動装置100は、自動車に搭載される機械としてのエンジン1に備えられ、該エンジン1の動弁装置を駆動するためのタイミングチェーン伝動装置である。
【0019】
チェーン伝動装置100は、複数の連結ピン140(図2〜図4参照)によりそれぞれ回転可能に直接支持される複数のローラ150(図2〜図4参照)を有するブシュレスローラチェーンC(以下、「チェーンC」ともいう。)と、各ローラ150と噛合い可能な複数のスプロケット歯102(図5参照)を有する複数のスプロケット101から構成されるスプロケット群と、チェーンCをチェーン走行方向に案内するチェーンガイド装置110とを備えている。
【0020】
前記スプロケット群は、エンジン1が備える駆動回転軸であるクランク軸10に結合されて該クランク軸10により回転駆動される駆動スプロケット103と、エンジン1が備える被動回転軸である動弁用の1対のカム軸11,12にそれぞれ結合されて該カム軸11,12と共に回転する1対の被動スプロケット104,105とを有している。
【0021】
チェーンガイド装置110は、各スプロケット103〜105に巻き掛けられている無端のチェーンCの弛み側C1が摺接すると共に該弛み側C1をチェーン走行方向に案内する第1チェーンガイド装置である可動チェーンガイド装置としてのチェーンテンショナ装置111と、チェーンCの張り側C2が摺接すると共に該張り側C2をチェーン走行方向に案内する第2チェーンガイド装置である固定チェーンガイド装置116とを有する。
【0022】
チェーンテンショナ装置111は、走行しているチェーンCに張力を付与する付勢力を発生するテンショナ112と、テンショナ112により付勢されてチェーンCを押圧する第1ガイドレバーとしての可動ガイドレバー113とを有する。可動ガイドレバー113は、エンジン1の本体2に設けられた支持部5に移動可能に支持されて、該支持部5を中心に揺動可能である。
固定チェーンガイド装置116は、エンジン1の本体2に設けられた1対の支持部6に固定状態で支持される第2ガイドレバーとしての固定ガイドレバー117を有する。
可動ガイドレバー113および固定ガイドレバー117は、それぞれ走行しているチェーンCが摺接する摺接面114,118を有する。
【0023】
チェーン伝動装置100は、本体2により油密に形成されるチェーン伝動室3内に配置されて、エンジン1が備える潤滑装置(図示されず)により供給される潤滑油で潤滑される。そして、チェーンC、各スプロケット歯102(図5参照)および各摺接面114,118は、前記潤滑装置が有する潤滑油供給手段(例えば、オイルジェット)により供給された潤滑油により潤滑される。
このため、チェーンC、各スプロケット歯102および摺接面114,118は潤滑油により潤滑される潤滑環境または潤滑雰囲気中に配置されていて、チェーンCにおける構成部材同士の接触部位、チェーンCのローラ150(図5参照)とスプロケット歯102との接触部位、および、チェーンCの後述する内リンクプレート130(図3参照)と各摺接面114,118との接触部位が、潤滑油により潤滑される。
【0024】
図2〜図4を参照すると、チェーンCは、チェーン幅方向で対向する1対の外リンクプレート120の複数組と、チェーン幅方向で対向する1対の内リンクプレート130の複数組と、1対の外リンクプレート120および該1対の外リンクプレート120の間に配置された1対の内リンクプレート130をチェーン走行方向に交互に連鎖させるように連結する各連結ピン140と、各ローラ150とを有する。
【0025】
ここで、チェーン走行方向は、各スプロケット103〜105(図1参照)に噛み合っているチェーンCが移動する方向であり、チェーン幅方向は、連結ピン140により規定されて外リンクプレート120に対して内リンクプレート130が回動して屈曲するときの回動中心線Lc(本実施例では、連結ピン140の中心軸線でもある。)に平行な方向、または各スプロケット103〜105の回転中心線に平行な方向である。
また、側面視は、回動中心線Lcに平行な方向から見ることである。
さらに、径方向および周方向は、それぞれ、回動中心線Lcまたは連結ピン140の中心軸線を中心とする径方向および周方向である。
【0026】
外リンクプレート120は、ピン基準線Lpによりチェーン高さ方向で二分される外周面121を有している。
具体的には、外周面121は、側面視でピン基準線Lpを対称線とした線対称の形状であり、ピン基準線Lpを境界として分けられた内方面122と背面123とを有する。
背面123は、チェーン高さ方向で摺接面114,118(図3参照)に対向する。内方面122は、ピン基準線Lpを境界として背面123側とは反対側であってスプロケット103〜105側に位置する。内方面122および背面123は、側面視で、ピン基準線Lpに平行な直線状の平面部124を有している。
ここで、ピン基準線Lpは、側面視で、チェーン走行方向で隣接する回動中心線Lcを結ぶ直線であり、チェーン高さ方向は、側面視でピン基準線Lpに直交する方向である。
【0027】
また、外リンクプレート120には、連結ピン140の両固定部としての両端部141,142の一方または他方が固定手段としての圧入により固定されると共にチェーン走行方向に離隔する1対のピン孔126が設けられている。
前記固定手段により固定された連結ピン140は、外リンクプレート120に対して相対移動不能であり、かつ外リンクプレート120との間を油密状態に密封する。
前記固定手段は、例えば溶接など、連結ピン140と外リンクプレート120との相対移動を不能とする固定手段であればいかなるものであってもよい。
【0028】
内リンクプレート130は、ピン基準線Lpによりチェーン高さ方向で二分される外周面131を有している。具体的には、外周面131は、側面視でピン基準線Lpを対称線とした線対称の形状であり、ピン基準線Lpを境界として分けられた内方面132と背面133とを有している。
背面133は、チェーン高さ方向で摺接面114,118に対向する。内方面132は、ピン基準線Lpを境界として背面133側とは反対側であってスプロケット103〜105側に位置している。
【0029】
内リンクプレート130には、1対の連結ピン140がそれぞれ遊嵌状態で挿通されると共にチェーン走行方向に離隔する1対の挿通孔136が設けられている。
このため、連結ピン140は、内リンクプレート130を、外リンクプレート120に対して回動中心線Lcを中心に回動可能に、かつ直接支持している。
そして、挿通孔136に遊嵌された連結ピン140の外周面147と、円孔である挿通孔136を規定する孔形成壁面137との間には、リンク径方向隙間R1が形成される。
また、図4,図5に示されるように、チェーン幅方向で、内リンクプレート130の厚みは、外リンクプレート120の厚みより大きい。
【0030】
図3,図5を参照すると、連結ピン140により1対の外リンクプレート120および1対の内リンクプレート130が連結された状態で、内リンクプレート130の背面133および内方面132は、外リンクプレート120の背面123および内方面122よりもチェーン高さ方向でそれぞれ突出するように、内リンクプレート130の高さが、外リンクプレート120の高さよりも高く設定されている。
このため、内リンクプレート130の背面133は、外リンクプレート120の背面123よりも摺接面114,118に向かって突出しているので、両リンクプレート120,130のうちで、さらにはチェーンCにおいて、内リンクプレート130のみが、その背面133において摺接面114,118に摺接可能である。
【0031】
そして、内リンクプレート130の背面133は、各摺接面114,118との摺接時に、背面133において摺接面114,118に単独で摺接する1つの接触部134を有している。
この接触部134は、本実施例では、背面133において、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ各摺接面114,118に向かって凸状に形成されている唯一の部分である。
なお、円弧状とは、1つの曲率半径の円弧により形成される形状、または、複数の曲率半径の円弧により、構成され、または近似される複合円弧により形成される形状である。
【0032】
図4を参照すると、連結ピン140は、両端部141,142の間または1対の外リンクプレート120の間で、かつローラ150および1対の内リンクプレート130がチェーン幅方向に摺動して移動可能な範囲において、一定の外径を有する。
【0033】
ここで、図2を参照して、チェーンCの組立方法を説明する。
まず、1対の外リンクプレート120の一方の外リンクプレート120Aに対して、1対の連結ピン140のそれぞれの端部141(図4参照)が、1対のピン孔126に挿入されるように、外リンクプレート120に圧入される。
次いで、各連結ピン140に1対の内リンクプレート130のうちの一方の内リンクプレート130A、ローラ150および他方の内リンクプレート130Bが順次差し込まれる。
その後、各連結ピン140の端部142が、外リンクプレート120とチェーン幅方向で対向して対になる他方の外リンクプレート120Bの1対のピン孔126に挿入されるように、外リンクプレート120Bに圧入される。
【0034】
このように、外リンクプレート120Aに対して、チェーン幅方向での一方側のみから、連結ピン140、内リンクプレート130A、ローラ150、内リンクプレート130B、外リンクプレート120Bを順次組み付けることで、チェーンCを組み立てることができるので、チェーンの組立効率を向上させることができる。
【0035】
図5,図6を参照すると、1対の外リンクプレート120と1対の内リンクプレート130とが連結ピン140により連結された状態で、外リンクプレート120と内リンクプレート130との間、および内リンクプレート130とローラ150との間には、内リンクプレート130およびローラ150がチェーン幅方向に移動可能なリンク同士間の第1幅方向隙間A1およびローラ・リンク間の第2幅方向隙間A2がそれぞれ形成される。
それゆえ、チェーン幅方向で1対の外リンクプレート120とローラ150との間には、内リンクプレート130がチェーン幅方向に移動可能な幅方向隙間A1,A2が形成されている。
【0036】
ローラ150は、スプロケット歯102の最大歯幅Wsよりも大きいローラ幅Wrを有する。
また、ローラ150の、円柱面からなる内周面157により規定される内径Drは挿通孔136の孔径Dbよりも大きく、内径Drおよび孔径Dbは、連結ピン140の、円柱面からなる外周面147により規定される外径Dpよりも大きい。
そして、ローラ150の内周面157と連結ピン140の外周面147との間には、ローラ径方向隙間R2が形成されている。
また、ローラ径方向隙間R2の径方向幅E2は、リンク径方向隙間R1の径方向幅E1よりも大きい。ここで、前記径方向幅E1,E2は、ローラ150、挿通孔136および連結ピン140が同心状態での値である。
【0037】
このように、ローラ150の内径Drと挿通孔136の孔径Dbとの相対的な関係は、連結ピン140の同一の外径に対して、ローラ150の内径が挿通孔136の孔径よりも大きくなる関係、すなわち、ローラ径方向隙間R2およびリンク径方向隙間R1において、連結ピン140の外径Dpを同一とした場合に、内径Drが穴径Dbよりも大きくなる関係である。
【0038】
そして、チェーンCの走行時に、連結ピン140の外周面147とローラ150の内周面157との間に形成されるローラ径方向隙間R2に、前記潤滑油供給手段によりチェーン伝動室3(図1参照)に供給された潤滑油により油膜Fが形成されている。
【0039】
チェーンCが走行しているときに、接触部134と摺接面114,118との間での摩擦力の変動やチェーン張力の変動に起因して、内リンクプレート130は、両連結ピン140により制限される範囲で揺動する揺動運動時、および、接触部134と摺接面114,118との接触終了直後に、リンク径方向隙間R1または径方向幅E1の大きさが連結ピン140の周囲において変動する。
そして、リンク径方向隙間R1または径方向幅E1が小さくなったときに、リンク径方向隙間R1に保持されていた潤滑油の一部がチェーン幅方向に押し出されて、ローラ径方向隙間R2に進入し、油膜Fを形成する潤滑油を増加させることが可能である。
【0040】
次に、前述のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
チェーン伝動装置100は、1対の外リンクプレート120および1対の外リンクプレート120間に配置された1対の内リンクプレート130が、1対の内リンクプレート130を回動可能に直接支持すると共にローラ150を回転可能に直接支持する連結ピン140により連結されて、チェーン走行方向に交互に連鎖しているチェーンCと、各ローラ150と噛合い可能な複数のスプロケット歯102を有する複数のスプロケット103〜105と、チェーンCをチェーン走行方向に案内する摺接面114,118を有するチェーンテンショナ装置111および固定チェーンガイド装置116とを備え、チェーンC、スプロケット歯102および各ガイドレバー113,117の摺接面114,118が前記潤滑油供給手段により供給された潤滑油で潤滑されることにより、各スプロケット103〜105と噛み合うチェーンCを、チェーンテンショナ装置111および固定チェーンガイド装置116によりチェーン走行方向に案内された状態で走行させることができる。
【0041】
そして、連結ピン140が、外リンクプレート120に相対移動不能に設けられていると共に、内リンクプレート130に設けられた挿通孔136に遊嵌されて挿通され、連結ピン140の外周面147とローラ150の内周面157との間には潤滑油の油膜Fが形成され、チェーンCにおいて、内リンクプレート130のみが、その背面133にて摺接面114,118に摺接可能であり、背面133が、摺接面114,118との摺接時に、背面133において摺接面114,118に単独で摺接する1つの接触部134を有し、接触部134が、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ摺接面114,118に向かって凸状に形成されている。
この構成により、内リンクプレート130の背面133とチェーンガイド装置110の摺接面114,118との接触領域が、背面133が平面状である場合に比べて小さくなること、および、外リンクプレート120が摺接面114,118に摺接しないことから、チェーンCの摩擦損失が減少するので、チェーン伝動装置100の動力伝達効率を向上させることができる。
【0042】
そのうえ、内リンクプレート130は、チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ摺接面に向かって凸状に形成され接触部134において、摺接面114,118に単独で摺接している際に、摺接面114,118と間での摩擦力の変動やチェーン張力の変動などに起因して揺動するにも拘わらず、連結ピン140が挿通孔136に遊嵌されていることで、連結ピン140と挿通孔136との間にはリンク径方向隙間R1が形成されているので、連結ピン140に伝達される内リンクプレート130の揺動がリンク径方向隙間R1により吸収されるため、内リンクプレートに固定されたブシュを有するローラチェーンにおいてブシュとローラとの間に形成される油膜Fの膜厚変動に比べても、内リンクプレート130の揺動に起因する連結ピン140とローラ150との間の油膜Fの膜厚変動が抑制され、ローラ150とスプロケット歯102との噛合い開始時に、油膜Fが奏する衝撃緩和効果(すなわち、スプロケット歯102がローラ150および連結ピン140に加える衝撃を油膜Fが緩和する機能)を安定化することができる。
この結果、スプロケット歯102とローラ150との衝突に起因する騒音を低減することができ、しかもスプロケット歯102が連結ピン140に加える衝撃が低減して、ローラ150および連結ピン140の耐久性、ひいてはチェーンCの耐久性を向上させることができる。
【0043】
さらに、接触部134が摺接面114,118に単独で摺接している際に、内リンクプレート130が揺動することにより、接触部134における摺接面114,118との接触部位、および連結ピン140と挿通孔136の孔形成壁面137との接触部位が拡散されるので、該接触部位が特定の部位に集中する場合に比べて、接触部134、連結ピン140、孔形成壁面137での摩耗の進行が抑制され、しかも内リンクプレート130の厚みを、外リンクプレート120の厚みより大きくすることにより、この摩耗の進行が一層抑制されるので、内リンクプレート130および連結ピン140の耐久性、ひいてはチェーンCの耐久性を向上させることができる。
【0044】
ローラ幅Wrが、スプロケット歯102の最大歯幅Wsよりも大きく、1対の外リンクプレート120とローラ150との間には、内リンクプレート130がチェーン幅方向に移動可能な幅方向隙間が形成されている。
この構成により、ローラ幅Wrが、スプロケット歯102の最大歯幅Wsよりも大きいことで、スプロケット歯102が内リンクプレート130に衝突することが抑制されて、内リンクプレート130の摩耗の進行が抑制される。
そして、1対の外リンクプレート120とローラ150との間には、内リンクプレート130がチェーン幅方向に移動可能な幅方向隙間A1,A2が形成されているので、スプロケット歯102が内リンクプレート130に接触する場合には、内リンクプレート130が幅方向隙間A1,A2の範囲内で移動することが可能であるため、内リンクプレート130とスプロケット歯102との衝突による衝撃を緩和することが可能になり、該衝突による騒音および摩耗を低減することができる。
【0045】
連結ピン140において、同一の外径Dpの外周面147に対して、ローラ150の内径Drが挿通孔136の孔径Dbよりも大きいことにより、ローラ150と内リンクプレート130との間に保持されている潤滑油が、連結ピン140と挿通孔136(または、孔形成壁面137)との間の径方向隙間R1を通って、チェーン幅方向で外リンクプレート120側に流出することが抑制される一方、連結ピン140とローラ150との間の径方向隙間R2に流入しやすくなるので、油膜Fの形成および膜厚の増加が促進されて、油膜Fが奏するローラ150とスプロケット歯102との噛合い開始時にローラ150および連結ピン140に作用する衝撃の緩和効果を高めることができて、ローラ150とスプロケット歯102の噛合い開始時の騒音を低減すること、およびローラ150および連結ピン140の耐久性を向上させることができる。
そのうえ、連結ピン140と外リンクプレート120との間が油密状態であることにより、内リンクプレート130と外リンクプレート120との間の潤滑油が、連結ピン140と外リンクプレート120との間を通って流出することが防止されるので、ローラ150と内リンクプレート130との間に保持されている潤滑油を油膜F形成のために一層効率よく利用することができる。
【0046】
以下、前述した実施例の一部の構成を変更した実施例について、変更した構成に関して説明する。
内リンクプレート130の背面133は、接触部134が単独で摺接することが確保されたうえで、各摺接面114,118に対して該接触部134と共に接触する可能性がある別の接触部(例えば、接触部134と同様に、チェーン走行方向に沿って円弧状で、かつ摺接面114,118に向かって凸状のもの。)を有していてもよい。
各リンクプレートの外周面121,131は、側面視で、ピン基準線Lpに対して線対称でなくてもよい。
【符号の説明】
【0047】
100・・・チェーン伝動装置
101・・・スプロケット
102・・・スプロケット歯
110・・・チェーンガイド装置
111・・・チェーンテンショナ装置
114・・・摺接面
116・・・固定チェーンガイド装置
118・・・摺接面
120・・・外リンクプレート
130・・・内リンクプレート
133・・・背面
134・・・接触部
136・・・挿通孔
140・・・連結ピン
147・・・外周面
150・・・ローラ
157・・・内周面
C ・・・ブシュレスローラチェーン
F ・・・油膜
Wr ・・・ローラ幅
Ws ・・・スプロケット歯の最大歯幅
Dp ・・・外径
Dr ・・・内径
Db ・・・孔径


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の外リンクプレートおよび前記1対の外リンクプレートの間に配置された1対の内リンクプレートが、前記1対の内リンクプレートを回動可能に直接支持すると共に前記1対の内リンクプレートの間に配置されたローラを回転可能に直接支持する連結ピンにより連結されて、チェーン走行方向に交互に連鎖しているブシュレスローラチェーンと、前記各ローラと噛合い可能な複数のスプロケット歯を有する複数のスプロケットと、走行している前記ブシュレスローラチェーンが摺接すると共に前記ブシュレスローラチェーンを前記チェーン走行方向に案内する摺接面を有するチェーンガイド装置とを備え、前記ブシュレスローラチェーンが潤滑油により潤滑されるチェーン伝動装置において、
前記連結ピンが、前記外リンクプレートに相対移動不能に設けられていると共に、前記内リンクプレートに設けられた挿通孔に遊嵌されて挿通され、
前記連結ピンの外周面と前記ローラの内周面との間には潤滑油の油膜が形成され、
前記ブシュレスローラチェーンにおいて、前記内リンクプレートのみが、その背面にて前記摺接面に摺接可能であり、
前記背面が、前記摺接面との摺接時に、前記背面において前記摺接面に単独で摺接する1つの接触部を有し、
前記接触部が、前記チェーン走行方向に沿って円弧状に、かつ前記摺接面に向かって凸状に形成されていることを特徴とするチェーン伝動装置。
【請求項2】
前記ローラ幅が、前記スプロケット歯の最大歯幅よりも大きく、
前記1対の外リンクプレートとローラとの間には、前記内リンクプレートがチェーン幅方向に移動可能な幅方向隙間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーン伝動装置。
【請求項3】
同一の外径の前記外周面に対して、前記ローラの内径が前記挿通孔の孔径よりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチェーン伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−44386(P2013−44386A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182451(P2011−182451)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】