説明

チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法

【課題】チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、未焼成の再生原料を用いてチタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造する方法であって、再生粘土の調製を容易に行なうことができるとともに、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、未焼成の再生原料を用いてチタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造する方法であって、該未焼成の再生原料から直径1mm以下の粉砕物を得る工程と、該粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する工程と、該再生粘土を成形して成形体を得る工程と、該成形体を焼成する工程とを含むチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法に関し、より詳しくは、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、未焼成物を再生原料として用いたチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウム系セラミックスは、構成元素としてチタンおよびアルミニウムを含み、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムの結晶パターンを有するセラミックスであって、耐熱性に優れたセラミックスとして知られている。チタン酸アルミニウム系セラミックスは、従来からルツボのような焼結用の冶具などとして用いられてきたが、近年では、ディーゼルエンジンの内燃機関から排出される排ガスに含まれる微細なカーボン粒子(ディーゼル微粒子)を捕集するためのセラミックスフィルタ(ディーゼル微粒子フィルタ;Diesel Particulate Filter、以下DPFとも称する)を構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0003】
チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法としては、チタニアなどのチタニウム源化合物の粉末およびアルミナなどのアルミニウム源化合物の粉末を含む原料混合物またはその成形体を焼成する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第05/105704号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原料混合物の成形体を焼成する方法により、所望の形状を有するチタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造する方法としては、具体的には、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末などを含む原料粉末(またはチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末自体であってもよい)に、水およびバインダー、造孔剤等の添加剤を添加して混練することにより粘土(坏土)を調製し、これを所望の形状に成形した後に、得られた成形体を、乾燥、脱脂、ついで焼成する方法を挙げることができる。かかる方法においては、たとえば、粘土の成形時、成形体の乾燥時または脱脂時などにおいて、成形体の割れや欠けなどの何らかの不良が生じることがある。すなわち水および/または添加剤(バインダー、潤滑剤、および造孔剤の少なくとも1種)を含んだ原料(チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末自体および/または焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる混合物)が、全く熱処理を施されないか、またはチタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法における焼成工程に至るまでに乾燥、脱脂などの何らかの熱処理(通常1300℃未満)が施された状態で、成形体の割れや欠けなどが原因で、不具合(成形体の割れや欠けなど)の生じた未焼成の原料として生じる。
【0006】
上記のような不具合が生じた未焼成の原料の再利用は、歩留まり向上およびコスト削減の観点から好ましい。しかし、かかる再生原料は、成形体作成用の粘土(再生粘土)に戻しにくい、すなわち、再生原料の粒度が一定でないことや組成が均一でないことに起因して均一な粘土を調製しにくいという問題があった。また、再生原料を使用して得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、機械的強度または、低熱膨張性、耐熱性等の熱特性の点において満足できるものではなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、未焼成の再生原料を用いてチタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造する方法であって、再生粘土の調製を容易に行なうことができるとともに、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、未焼成の再生原料を用いてチタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造する方法であって、以下の工程を含むチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法を提供する。
(i)上記未焼成の再生原料から直径1mm以下の粉砕物を得る工程、
(ii)該粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する工程、
(iii)該再生粘土を成形して成形体を得る工程、および、
(iv)該成形体を焼成する工程。
【0009】
前記未焼成の再生原料は、未焼成の成形体もしくはその破片、または焼成温度に至るまでの昇温を途中で停止した中間物であることが好ましい。
【0010】
直径1mm以下の粉砕物を得る工程(i)は、未焼成の再生原料を粉砕および/または分級する工程を含むことが好ましい。分級は、たとえば篩別によって行なうことができる。粉砕物の直径は、好ましくは200μm以下である。
【0011】
未焼成の再生原料または粉砕物は、焼成温度未満、具体的には1300℃未満の温度で熱処理されたものであってもよい。未焼成の再生原料または粉砕物の熱処理は、1体積%以上の酸素を含む雰囲気下または1体積%以上の酸素を含む酸素含有ガスの気流下で行なうことができる。
【0012】
未焼成の再生原料または粉砕物は、その水分量が5質量%以下となるように熱処理されたものであってよい。この際の熱処理温度は、好ましくは150℃未満である。未焼成の再生原料または粉砕物が、その水分量が5質量%以下となるように熱処理され、かつ好ましくは150℃未満の温度で熱処理されたものである場合、上記再生粘土を調製する工程(ii)は、粉砕物に、少なくとも水を加えて混練する工程を含む。
【0013】
未焼成の再生原料または前記粉砕物は、その強熱減量が5質量%以下となるように熱処理されたものであってよい。この際の熱処理温度は、好ましくは300℃以上、1000℃未満である。未焼成の再生原料または粉砕物が、その強熱減量が5質量%以下となるように熱処理され、かつ好ましくは300℃以上、1000℃未満の温度で熱処理されたものである場合、上記再生粘土を調製する工程(ii)は、粉砕物に、少なくとも水と、バインダー、潤滑剤および造孔剤からなる群から選択されるいずれか1種以上の成分とを加えて混練する工程を含む。
【0014】
未焼成の再生原料は、好ましくは、チタン酸アルミニウム系セラミックスおよび/または焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる混合物からなる。
【0015】
上記チタン酸アルミニウム系セラミックスは、アルミニウム元素およびチタニウム元素のほか、マグネシウム元素および/またはケイ素元素をさらに含んでいてもよい。
【0016】
上記混合物は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末のほか、マグネシウム源粉末および/またはケイ素源粉末をさらに含んでいてもよい。ケイ素源粉末としては、長石あるいはガラスフリット、またはそれらの混合物からなる粉末を好適に用いることができる。
【0017】
上記再生粘土は、バインダー、潤滑剤および造孔剤からなる群から選択されるいずれか1種以上の成分をさらに含んでもよい。
【0018】
また、上記再生粘土は、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および/または焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる粉末混合物からなる新原料をさらに含んでもよい。
【0019】
上記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、アルミニウム元素およびチタニウム元素のほか、マグネシウム元素および/またはケイ素元素をさらに含んでいてもよい。
【0020】
上記新原料を構成する粉末混合物は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末のほか、マグネシウム源粉末および/またはケイ素源粉末をさらに含んでいてもよい。ケイ素源粉末としては、長石あるいはガラスフリット、またはそれらの混合物からなる粉末を好適に用いることができる。
【0021】
上記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および/または粉末混合物に含まれる粉末の平均粒子径は、100μm以下であることが好ましい。
【0022】
上記成形体を焼成する工程(iv)における焼成温度は、1300℃以上1650℃未満であることが好ましい。
【0023】
本発明には、上記いずれかの方法により製造されたセラミックスフィルタ用のチタン酸アルミニウム系セラミックスハニカム成形体が包含され、さらに前記ハニカム成形体からなるディーゼルパーティキュレートフィルタも包含される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の製造方法によれば、未焼成の再生原料を用いた再生粘土の調製を容易に行なうことができるため、効率的にチタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造できるとともに、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体を提供することができ、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の歩留まりを大幅に向上させることができる。本発明により得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、DPFなどのセラミックスフィルタとして好適に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において発生し回収された未焼成物(未焼成の再生原料)を原料の少なくとも一部として用いるものであり、次の工程を備える。
(i)未焼成の再生原料から直径1mm以下の粉砕物を得る工程、
(ii)該粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する工程、
(iii)該再生粘土を成形して成形体を得る工程、および、
(iv)該成形体を焼成する工程。
【0026】
以下、各工程について詳細に説明する。
(i)粉砕工程
本工程において、未焼成の再生原料から直径1mm以下の粉砕物を得る。このように適切に粒度調整がなされた未焼成物を再生原料として用いることにより、粘土に戻しやすくなり、均一な再生粘土の調製が容易になるため、効率的にチタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造できるとともに、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることが可能となる。本発明において直径とは粉砕物の短径を意味し、例えば後述するように篩別する場合は目開き1mmの篩をパスするものを意味する。
【0027】
上記未焼成の再生原料とは、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において発生し回収された未焼成物、すなわち、焼成工程を経ていない原料または中間物であり、その形状は粉体状、塊状、成形体のいずれであってもよい。未焼成の再生原料が回収されるチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程(以下では、本発明の製造方法と区別するため、未焼成の再生原料が回収される製造工程を「回収対象の製造工程」と呼ぶ。)としては、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造するための焼成工程を含むものである限り特に限定されない。「回収対象の製造工程」は、例えば原料として(a)焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる粉末混合物(たとえば、アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末と任意で添加されるマグネシウム源粉末およびケイ素源粉末とを含む混合物)、あるいは(b)チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末、または(c)これらの双方を用い、該原料またはその成形体を焼成する焼成工程を含む製造工程を挙げることができる。当該製造工程は、成形体を得た後、該成形体を所望の形状に調整する工程;成形体を得た後、該成形体の水分等を除去する乾燥工程;および、該成形体に含まれるバインダー、造孔剤等の有機物を燃焼させる脱脂工程などをさらに含んでいてもよい。
【0028】
「回収対象の製造工程」における原料に用いられるアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末としては、後述する再生原料等としての「焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる混合物」中に含有されるアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末と同様のものを用いることができる。また、「回収対象の製造工程」における原料に用いられるチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末としては、後述する再生原料等としてのチタン酸アルミニウム系セラミックスと同様のものを用いることができる。
【0029】
上記「回収対象の製造工程」において発生し回収される未焼成の再生原料は、未焼成物である限り特に限定されないが、例えば未焼成の成形体もしくはその破片、または焼成温度に至るまでの昇温を途中で停止した中間物が挙げられる。より具体的には、(a)上記原料の成形時、(b)原料成形体の形状調整時、(c)原料またはその成形体の乾燥時、脱脂時または焼成温度に至るまでの昇温時に生じた不良成形体またはその破片(たとえば、割れや欠けなどが生じた成形体またはその破片など);上記原料の成形体を所望の形状に調整する際に生じる破片またはセラミックス粉末(たとえば、焼成された成形体を切断する際に生じる切断粉など);上記原料の成形体の乾燥時、脱脂時または焼成温度に至るまでの昇温時において、たとえば製造設備の不具合等の何らかの理由により、工程を途中で停止した中間物成形体などを挙げることができる。
【0030】
ここで、未焼成の再生原料は、「回収対象の」製造工程内において、あるいは、回収後(粉砕前または粉砕後)において熱処理が施されたものであってよく、または熱処理が施されていないものであってもよい。熱処理が施されていない未焼成の再生原料としては、たとえば、「回収対象の製造工程」における原料の成形時や成形体の形状調整時に生じた不良成形体およびその破片などが挙げられる。
【0031】
熱処理が施された未焼成の再生原料としては、たとえば、「回収対象の製造工程」における原料の成形体の乾燥時、脱脂時または焼成温度に至るまでの昇温時に生じた不良成形体およびその破片;「回収対象の製造工程」における原料の成形体の乾燥時、脱脂時または焼成温度に至るまでの昇温時において、たとえば製造設備の不具合等の何らかの理由により、工程を途中で停止した中間物成形体などが挙げられる。また、熱処理が施されることなく回収された未焼成の再生原料や、「回収対象の製造工程」内で熱処理され回収された未焼成の再生原料を、「回収対象の製造工程」外で別途熱処理したものも、熱処理が施された未焼成の再生原料に含まれる。
【0032】
別途の熱処理を行なう場合としては、特に限定されないが、たとえば、「回収対象の製造工程」における原料の成形体の乾燥時、脱脂時または焼成温度に至るまでの昇温時において、工程を途中で停止した場合のように、成形体の乾燥程度や脱脂の程度が不明確である場合などである。
【0033】
「回収対象の製造工程」内での熱処理および「回収対象の製造工程」外での別途の熱処理における温度は、再生原料が未焼成の状態であることが必要であることから、焼成がなされる通常の温度の下限、すなわち、1300℃未満であり、好ましくは、チタン酸アルミニウム化反応が進行せず、粒成長が生じない1000℃未満である。
【0034】
本発明の1つの好ましい形態において、熱処理された未焼成の再生原料は、その水分量が5質量%以下となるように熱処理されたものである。このような再生原料の例としては、「回収対象の製造工程」内および/または該製造工程外において、150℃未満の温度範囲で10分〜300時間程度熱処理された再生原料を挙げることができる。「回収対象の製造工程」内または外において150℃未満の温度範囲で熱処理された再生原料としては、該製造工程における原料の成形体の乾燥工程を終えた後回収された成形体等;乾燥工程途中で回収された成形体等;および、これらの成形体等に対して、別途150℃未満の温度範囲で熱処理したものなどが挙げられる。
【0035】
水分量が5質量%以下となるように150℃未満の温度範囲で熱処理された再生原料は、実質的に水を含まないことから、再生粘土を調製する工程(ii)において、粉砕物に含まれる水分量から、再生粘土に別途添加する水の量を導き出すという操作を省略することができ、再生粘土の調製操作を簡略化できる。また、かかる再生原料は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程内において添加されたバインダー、潤滑剤、造孔剤等の添加剤をほぼあるいはそのまま保持していることから、再生粘土を調製する工程(ii)において、基本的には、水のみを添加して再生粘土を調製することができる。したがって、再生粘土に添加する添加剤の量の決定などの煩雑な作業を省略することが可能となる。このような観点から、何らかの理由により乾燥工程途中で回収された成形体等のように、水分量が5質量%以下となるように150℃未満の温度範囲で熱処理されたかどうかが不明瞭な再生原料を用いる場合においては、水分測定を行ない、水分量が5質量%以下となっていない場合には、水分量が5質量%以下となるように、当該再生原料またはこれより得られる粉砕物に対して、別途熱処理を行なうことが好ましい。なお、「回収対象の製造工程」内および/または該製造工程外において、未焼成の再生原料がある一定の時間、150℃未満の温度範囲で熱処理されており、当該熱処理によれば、未焼成の再生原料の水分量が5質量%以下となっていると十分に判断できる場合には、水分量が5質量%以下となっているかどうかについての分析は必ずしも必要ではない。
【0036】
本発明の他の好ましい形態において、熱処理された未焼成の再生原料は、その強熱減量が5質量%以下となるように(この場合、水分量も5質量%以下となる)熱処理されたものである。このような再生原料の例としては、「回収対象の製造工程」内および/または該製造工程外において、300℃以上、1300℃未満、好ましくは1000℃未満の温度範囲で10分〜300時間程度熱処理された再生原料を挙げることができる。「回収対象の製造工程」内または外において300℃以上、1300℃未満の温度範囲で熱処理された再生原料としては、該製造工程における原料の成形体の脱脂工程に至るまでの昇温途中で回収された成形体等;脱脂工程を終えた後回収された成形体等または脱脂工程途中で回収された成形体等;焼成温度に至るまでの昇温途中で回収された成形体等;および、これらの成形体等に対して、別途300℃以上、1300℃未満の温度範囲で熱処理したものなどが挙げられる。
【0037】
強熱減量が5質量%以下となるように300℃以上、1300℃未満(好ましくは1000℃未満)の温度範囲で熱処理された再生原料は、実質的に、バインダー、潤滑剤、造孔剤等の添加剤および水を含まないことから、再生粘土を調製する工程(ii)において、粉砕物に含まれる添加剤の含有量および水分を分析することなく、再生粘土に添加する添加剤および水の量を決定することができることから、再生粘土の調製操作を簡略化できる。すなわち、新原料に対して添加する量と同等の量で、これら添加剤および水を添加することができる。このような観点から、何らかの理由により脱脂工程途中で回収された成形体等のように、強熱減量が5質量%以下となるように300℃以上、1300℃未満の温度範囲で熱処理されたかどうかが不明瞭な再生原料を用いる場合においては、強熱減量の測定を行ない、強熱減量が5質量%以下となっていない場合には、強熱減量が5質量%以下となるように、当該再生原料またはこれより得られる粉砕物に対して、別途熱処理を行なうことが好ましい。なお、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程内および/または製造工程外において、未焼成の再生原料がある一定の時間、300℃以上、1300℃未満の温度範囲で熱処理されており、当該熱処理によれば、未焼成の再生原料の強熱減量が5質量%以下となっていると十分に判断できる場合には、強熱減量が5質量%以下となっているかどうかについての分析は必ずしも必要ではない。
【0038】
「回収対象の製造工程」内での熱処理および製造工程外での別途の熱処理における熱処理雰囲気は、特に制限されないが、有機成分を効率よく燃焼除去させるためには、1体積%以上の酸素を含む雰囲気下や、1体積%以上の酸素を含む酸素含有ガスの気流下で熱処理を行なうことが好ましい。この場合の酸素濃度は、好ましくは5体積%以上である。
【0039】
上記未焼成の再生原料は、チタン酸アルミニウム系セラミックスあるいは焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる混合物、またはこれらの双方からなるものであってよい。上記チタン酸アルミニウム系セラミックスは、主にチタン酸アルミニウム系結晶からなるセラミックスであり、構成元素としてアルミニウム元素およびチタニウム元素を少なくとも含む。該チタン酸アルミニウム系セラミックスは、さらに、マグネシウム元素および/またはケイ素元素を含有していてもよい。マグネシウム元素および/またはケイ素元素を含有するチタン酸アルミニウム系セラミックスからなる再生原料を用いると、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることが可能となる。未焼成の再生原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックスの具体例としては、後述するものを挙げることができる。
【0040】
上記焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる混合物としては、アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物を挙げることができる。また、該混合物は、マグネシウム源粉末および/またはケイ素源粉末をさらに含んでいてもよい。再生原料を構成する該混合物に含有され得るアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の具体例としては、後述するものを挙げることができる。
【0041】
また、未焼成の再生原料は、バインダー、潤滑剤、造孔剤、分散剤および水等の溶媒から選択されるいずれか1種以上の成分を含み得る。未焼成の再生原料に含まれ得るバインダー、潤滑剤、造孔剤および分散剤の具体例としては、後述する再生粘土調製時に添加されるものと同様のものを挙げることができる。
【0042】
本工程においては、上記した未焼成の再生原料から、直径1mm以下の粉砕物を得る。直径1mm以下の粉砕物を得る方法としては、特に制限されず、未焼成の再生原料を公知の粉砕装置を用いて粉砕し、必要に応じて分級する方法が挙げられる。粉砕装置としては、ジョークラッシャ、ローラミル、ピンミルなどを用いることができる。また、粉砕メディアを用いた粉砕も好適である。分級方法としては、特に制限されず、たとえば、篩やメッシュを用いた篩別、粉体を気流に同伴させ粉体に加わる慣性力、遠心力の差などを利用する乾式分級、粉体を液体に分散させ沈降速度の差を利用する湿式分級、およびこれらの分級方法の複数の組み合わせなどが好適に用いられる。なお、未焼成の再生原料が粉末状である場合には、直径1mm以下の粉砕物を得るにあたり、必ずしも粉砕は必要ではなく、また、分級を要しないこともあり得る。
【0043】
上記粉砕(および必要に応じてなされる分級)は、複数回行なわれてもよい。たとえば、未焼成の再生原料を粉砕・分級し、直径1mm以下の粉砕物を得た後、残渣を再度、粉砕・分級することにより、該残渣から直径1mm以下の粉砕物を回収してもよい。これにより、未焼成の再生原料の再利用率を向上させることができる。
【0044】
粉砕物の直径は、再生粘土の調製のし易さ、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体の機械的強度および/または低熱膨張性、耐熱性向上の観点から、好ましくは200μm以下である。
【0045】
本発明においては、上記粉砕物に対して熱処理を施してもよい。具体的には、上述したように、未焼成の再生原料に対して「回収対象の製造工程」外で熱処理をする代わりに、粉砕物に対して同様の熱処理を行なうことが挙げられる。この場合における熱処理温度および熱処理雰囲気は、上記と同様であり、具体的な熱処理の態様としては、水分量が5質量%以下となるように150℃未満の温度範囲で行なう熱処理、強熱減量が5質量%以下となるように300℃以上、1300℃未満(好ましくは1000℃未満)の温度範囲で行なう熱処理などが挙げられる。
【0046】
(ii)再生粘土調製工程
本工程において、上記工程(i)で得られた直径1mm以下の粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する。再生粘土は、該粉砕物に、必要に応じて水を加え、混練することにより得ることができる。たとえば、該粉砕物が、「回収対象の製造工程」における原料の成形時や成形体の形状調整時に生じた不良成形体およびその破片などの再生原料から得られたものである場合には、水を添加することなく、あるいは少量の水の添加のみで再生粘土を調製することができる。また、該粉砕物が、水分量が5質量%以下となるように150℃未満の温度範囲で熱処理された再生原料から得られたものである場合には、基本的に、該粉砕物に水のみを加えることによって(バインダー、潤滑剤、造孔剤等の添加剤を新たに加えることなく)、再生粘土を調製することができる。混練には通常用いられる混練機を用いることができる。
【0047】
再生粘土は、バインダー、潤滑剤および造孔剤からなる群から選択されるいずれか1種以上の添加剤をさらに含むものであってもよい。これらの添加剤は、未焼成の再生原料由来のものであってもよく、再生粘土調製時において新たに添加されるものであってもよく、これらの双方であってもよい。たとえば、粉砕物が、「回収対象の製造工程」における原料の成形時や成形体の形状調整時に生じた不良成形体およびその破片などの再生原料から得られたものである場合には、再生粘土調製時において添加剤を新たに添加する必要は必ずしもない。また、粉砕物が、水分量が5質量%以下となるように150℃未満の温度範囲で熱処理された再生原料から得られたものである場合においても、添加剤を新たに加えることなく、水のみを加えることによって添加剤を含有する再生粘土を調製することができる。粉砕物が、強熱減量が5質量%以下となるように300℃以上、1300℃未満の温度範囲で熱処理された再生原料から得られたものである場合においては、添加剤を含有する再生粘土を得るために、該粉砕物に、水と、バインダー、潤滑剤および造孔剤からなる群から選択されるいずれか1種以上の添加剤とを添加する必要がある。
【0048】
上記バインダーとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩などの塩;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックス;EVA、ポリエチレン、ポリスチレン、液晶ポリマー、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。バインダーの添加量は、再生粘土中のAl23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分とMgO(マグネシア)換算でのMg成分とSiO2(シリカ)換算でのSi成分との合計量100質量部に対して、通常、20質量部以下、好ましくは15質量部以下とすることができる。
【0049】
上記潤滑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸アルミニウムなどのステアリン酸金属塩などが挙げられる。潤滑剤の添加量は、再生粘土中のAl23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分とMgO(マグネシア)換算でのMg成分とSiO2(シリカ)換算でのSi成分との合計量100質量部に対して、通常、0〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは1〜5質量部とすることができる。
【0050】
上記造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物系材料;氷;およびドライアイス等などが挙げられる。造孔剤の添加量は、再生粘土中のAl23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分とMgO(マグネシア)換算でのMg成分とSiO2(シリカ)換算でのSi成分との合計量100質量部に対して、通常、0〜40質量部、好ましくは0〜25質量部とすることができる。
【0051】
また、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の界面活性剤などの分散剤が再生粘土に添加されてもよい。分散剤の添加量は、再生粘土中のAl23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分とMgO(マグネシア)換算でのMg成分とSiO2(シリカ)換算でのSi成分との合計量100質量部に対して、通常、0〜20質量部、好ましくは0.1〜8質量部、さらに好ましくは2〜8質量部とすることができる。
【0052】
再生粘土には、未焼成の再生原料の粉砕物とともに、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の原料の一部として、更に(a)チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末、あるいは(b)焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる粉末混合物、または(c)これらの双方からなる新原料を添加してもよい。新原料とは、「回収対象の製造工程」において発生し回収されたものではない、新たな原料を意味する。
【0053】
上記未焼成の再生原料としてのチタン酸アルミニウム系セラミックスおよび上記新原料としてのチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末はいずれも、主にチタン酸アルミニウム系結晶からなるセラミックスであり、構成元素としてアルミニウム元素およびチタニウム元素を少なくとも含む。該チタン酸アルミニウム系セラミックスは、さらに、マグネシウム元素および/またはケイ素元素を含有していてもよい。マグネシウム元素および/またはケイ素元素を含有するチタン酸アルミニウム系セラミックスを用いると、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることが可能となる。また、チタン酸アルミニウム系セラミックスは、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0054】
上記チタン酸アルミニウム系セラミックスは、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムまたはチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶パターンのほか、アルミナ、チタニア、シリカなどの結晶パターンを含んでいてもよい。チタン酸アルミニウム系セラミックスがチタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなる場合、組成式:Al2(1-x)MgxTi(1+x)5で表すことができる。当該組成式におけるxの値は好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.01以上0.7以下、さらに好ましくは0.02以上0.5以下である。
【0055】
上記再生原料としての「焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる混合物」および新原料としての「焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる粉末混合物」としては、アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物を挙げることができる。
【0056】
上記アルミニウム源粉末は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を構成するアルミニウム成分となる物質の粉末である。アルミニウム源粉末としては、たとえば、アルミナ(酸化アルミニウム)の粉末が挙げられる。アルミナは結晶性であってもよく、不定形(アモルファス)であっても良い。アルミナが結晶性である場合、その結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型などが挙げられる。なかでも、α型のアルミナが好ましく用いられる。
【0057】
アルミニウム源粉末は、空気中で焼成することによりアルミナに導かれる物質の粉末であってもよい。かかる物質としては、たとえばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0058】
アルミニウム塩は、無機酸との塩であってもよいし、有機酸との塩であってもよい。無機塩として具体的には、たとえば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどの硝酸塩;炭酸アンモニウムアルミニウムなどの炭酸塩などが挙げられる。有機塩としては、たとえば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0059】
また、アルミニウムアルコキシドとして具体的には、たとえば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0060】
水酸化アルミニウムは結晶性であってもよく、不定形(アモルファス)であってもよい。水酸化アルミニウムが結晶性である場合、その結晶型としては、たとえば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などが挙げられる。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、たとえば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどのような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物も挙げられる。
【0061】
アルミニウム源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。上記のなかでも、アルミニウム源粉末としては、アルミナ粉末が好ましく用いられ、より好ましくは、α型のアルミナ粉末である。なお、アルミニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0062】
上記チタニウム源粉末は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を構成するチタン成分となる物質の粉末であり、かかる物質としては、たとえば酸化チタンの粉末が挙げられる。酸化チタンとしては、たとえば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)は結晶性であってもよく、不定形(アモルファス)であってもよい。酸化チタン(IV)が結晶性である場合、その結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられる。より好ましくは、アナターゼ型、ルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0063】
チタニウム源粉末は、空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる物質の粉末であってもよい。かかる物質としては、たとえば、チタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、金属チタンなどが挙げられる。
【0064】
チタニウム塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタニウムアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0065】
チタニウム源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。上記のなかでも、チタニウム源粉末としては、酸化チタン粉末が好ましく用いられ、より好ましくは、酸化チタン(IV)粉末である。なお、チタニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0066】
上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物中におけるAl23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との質量比は、未焼成の再生原料から得られる粉砕物の組成;新原料として併用し得るチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末の組成;ならびに、再生粘土中における粉砕物、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる粉末混合物の含有量比にもよるが、たとえば30:70〜70:30とすることができ、好ましくは、40:60〜60:40とすることができる。
【0067】
本発明において、アルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の質量x1は、下記式(A)により求められる。
【0068】
1=N10×x10 ・・・(A)
式(A)中、N10はAl23の式量を表し、x10はアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末のモル量を表す。アルミナ〔Al2O3〕換算のアルミニウム源粉末のモル量x10は、下記式(A−1)により求められる。
【0069】
10=(w1×M1)/(N1×2) ・・・(A−1)
式(A−1)中、w1はアルミニウム源粉末の使用量(g)を表し、M1はアルミニウム源粉末1モル中のアルミニウムのモル数を表し、N1は使用したアルミニウム源粉末の式量を表す。本発明において2種以上のアルミニウム源粉末を使用する場合、式(A−1)によって各アルミニウム源粉末のアルミナ〔Al23〕換算のモル量を求め、各モル量を合計することによって、使用するアルミニウム源粉末のアルミナ〔Al23〕換算のモル量を求めることができる。
【0070】
本発明において、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末の質量x2は、下記式(B)により求められる。
【0071】
2=N20×x20 ・・・(B)
式(B)中、N20はTiO2の式量を表し、x20はチタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末のモル量を表す。チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末のモル量x20は、下記式(B−1)により求められる。
【0072】
20=(w2×M2)/N2 ・・・(B−1)
式(B−1)中、w2はチタニウム源粉末の使用量(g)を表し、M2はチタニウム源粉末1モル中のチタニウムのモル数を表し、N2は使用したチタニウム源粉末の式量を表す。本発明において2種以上のチタニウム源粉末を使用する場合、式(B−1)によって各チタニウム源粉末のチタニア〔TiO2〕換算のモル量を求め、各モル量を合計することによって、使用するチタニウム源粉末のチタニア〔TiO2〕換算のモル量を求めることができる。
【0073】
また、上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物は、マグネシウム源粉末を含有していてもよい。マグネシウム源粉末としては、マグネシア(酸化マグネシウム)の粉末のほか、空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる物質の粉末が挙げられる。後者の例としては、たとえば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
【0074】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0075】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。
【0076】
マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた物質の粉末を用いることもできる。このような物質としては、たとえば、マグネシアスピネル(MgAl24)が挙げられる。
【0077】
マグネシウム源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、マグネシウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0078】
上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源粉末の含有量は、未焼成の再生原料から得られる粉砕物の組成;新原料として併用し得るチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末の組成;ならびに、再生粘土中における粉砕物、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる粉末混合物の含有量比にもよるが、Al23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部であり、好ましくは、8質量部以下である。
【0079】
本発明において、マグネシア〔MgO〕換算のマグネシウム源粉末の質量x3は、下記式(C)により求められる。
【0080】
3=N30×x30 ・・・(C)
式(C)中、N30はMgOの式量を表し、x30はマグネシア〔MgO〕換算のマグネシウム源粉末のモル量を表す。マグネシア〔MgO〕換算のマグネシウム源粉末のモル量x30は、下記式(C−1)により求められる。
【0081】
30=(w3×M3)/N3 ・・・(C−1)
式(C−1)中、w3はマグネシウム源粉末の使用量(g)を表し、M3はマグネシウム源粉末1モル中のマグネシウムのモル数を表し、N3は使用したマグネシウム源粉末の式量を表す。本発明において2種以上のマグネシウム源粉末を使用する場合、式(C−1)によって各マグネシウム源粉末のマグネシア〔MgO〕換算のモル量を求め、各モル量を合計することによって、使用するマグネシウム源粉末のマグネシア〔MgO〕換算のモル量を求めることができる。
【0082】
また、上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物は、ケイ素源粉末をさらに含有していてもよい。ケイ素源粉末は、シリコン成分となってチタン酸アルミニウム系セラミックス体に含まれる物質の粉末である。ケイ素源粉末としては、たとえば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素(シリカ)の粉末が挙げられる。
【0083】
また、ケイ素源粉末は、空気中で焼成することによりシリカに導かれる物質の粉末であってもよい。かかる物質としては、たとえば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリットなどが挙げられる。なかでも、長石、ガラスフリットなどが好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリットなどがより好ましく用いられる。ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。ケイ素源粉末として、長石とガラスフリットとの混合物からなる粉末を用いることも好ましい。
【0084】
ガラスフリットを用いる場合、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、屈伏点が700℃以上のものを用いることが好ましい。本発明において、ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analyisis)を用いて、低温から昇温してガラスフリットの膨張を測定する際に、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0085】
上記ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸〔SiO2〕を主成分(全成分中50質量%超)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ〔Al23〕、酸化ナトリウム〔Na2O〕、酸化カリウム〔K2O〕、酸化カルシウム〔CaO〕、マグネシア〔MgO〕等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrO2を含有していてもよい。
【0086】
ケイ素源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、ケイ素源粉末は、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0087】
上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物中におけるSiO2(シリカ)換算でのケイ素源粉末の含有量は、未焼成の再生原料から得られる粉砕物の組成;新原料として併用し得るチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末の組成;ならびに、再生粘土中における粉砕物、新原料としてのチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる粉末混合物の含有量比にもよるが、Al23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部であり、好ましくは、8質量部以下である。
【0088】
本発明において、シリカ〔SiO2〕換算のケイ素源粉末の質量x4は、下記式(D)により求められる。
【0089】
4=N40×x40 ・・・(D)
式(D)中、N40はSiO2の式量を表し、x40はシリカ〔SiO2〕換算のケイ素源粉末のモル量を表す。シリカ〔SiO2〕換算のケイ素源粉末のモル量x40は、下記式(D−1)により求められる。
【0090】
40=(w4×M4)/N4 ・・・(D−1)
式(D−1)中、w4はケイ素源粉末の使用量(g)を表し、M4はケイ素源粉末1モル中のケイ素のモル数を表し、N4は使用したケイ素源粉末の式量を表す。本発明において2種以上のケイ素源粉末を使用する場合、式(D−1)によって各ケイ素源粉末のシリカ〔SiO2〕換算のモル量を求め、各モル量を合計することによって、使用するケイ素源粉末のシリカ〔SiO2〕換算のモル量を求めることができる。
【0091】
なお、上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、ならびに任意で添加されるマグネシウム源粉末および/またはケイ素源粉末を含む混合物は、上記マグネシアスピネル(MgAl24)などの複合酸化物のように、チタニウム、アルミニウム、ケイ素およびマグネシウムのうち、2つ以上の金属元素を成分とする物質を含むことができる。この場合、そのような物質は、それぞれの金属源化合物を混合した混合物と同じであると考えることができる。
【0092】
新原料として再生粘土に添加されるチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末、および、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる新原料としての粉末混合物に含まれる粉末(アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末など)の平均粒子径は、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体の機械的強度および/または低熱膨張性、耐熱性をさらに向上させる観点から、100μm以下であることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。平均粒子径とは、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)を意味する。
【0093】
再生粘土中における粉砕物の含有量比、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる粉末混合物の含有量比は、特に制限されないが、未焼成の再生原料から得られる粉砕物の組成;新原料として併用し得るチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末の組成;および、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる新原料としての粉末混合物中の粉末の組成等を考慮して調整されることが好ましい。具体的には、再生粘土中におけるAl23(アルミナ)換算でのAl成分量とTiO2(チタニア)換算でのTi成分量との質量比が30:70〜70:30となるように、好ましくは40:60〜60:40となるように調整されることが好ましい。また、再生粘土中におけるMgO(マグネシア)換算でのMg成分の含有量は、Al23(アルミナ)換算でのAl成分量とTiO2(チタニア)換算でのTi成分量との合計量100質量部に対して、0.1〜10質量部となるように、好ましくは8質量部以下となるように調整されることが好ましい。さらに、再生粘土中におけるSiO2(シリカ)換算でのSi成分の含有量は、Al23(アルミナ)換算でのAl成分量とTiO2(チタニア)換算でのTi成分量との合計量100質量部に対して、0.1〜10質量部となるように、好ましくは8質量部以下となるように調整されることが好ましい。かかる範囲内にAl成分、Ti成分、Mg成分およびSi成分の含有量比を調整することにより、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性により優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体が得られやすくなる。
【0094】
(iii)成形工程
本工程において、上記再生粘土を成形して、成形体を得る。成形体の形状は特に制限されないが、たとえば、ハニカム形状、棒状、チューブ状、板状、るつぼ形状等を挙げることができる。なかでも、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体をDPF等のセラミックスフィルタに適用する場合には、ハニカム形状とすることが好ましい。再生粘土の成形に用いる成形機としては、一軸プレス、押出成形機、打錠機、造粒機などが挙げられる。
【0095】
(iv)焼成工程
本工程において、上記再生粘土の成形体を焼成し、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を得る。成形体の焼成における焼成温度は、通常、1300℃以上、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常、1650℃未満、好ましくは1550℃以下である。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。再生粘土が新原料のケイ素源粉末や、粉砕物および/または新原料のチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末が含有するケイ素元素に由来するケイ素分を含む場合には、焼成工程の前に、1100〜1300℃の温度範囲で3時間以上保持する工程を設けることが好ましい。これにより、チタン酸アルミニウム系セラミックス体中でのケイ素分の融解、拡散を促進させることができる。
【0096】
焼成工程は、通常、再生粘土の成形体を乾燥する工程および脱脂工程(再生粘土がバインダー等の燃焼性有機物を含有する場合)を含む。乾燥および脱脂工程は、典型的には、焼成温度に至るまでの昇温段階(たとえば、500℃以下の温度範囲)になされる。
【0097】
焼成は通常、大気中で行なわれるが、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0098】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0099】
焼成に要する時間は、原料混合物の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0100】
以上のようにして、目的のチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることができる。このようなチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、成形直後の成形体の形状をほぼ維持した形状を有する。得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、研削加工等により、所望の形状に加工することもできる。
【0101】
本発明により得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムまたはチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶パターンのほか、アルミナ、チタニア、シリカなどの結晶パターンを含んでいてもよい。チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末がチタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなる場合、組成式:Al2(1-x)MgxTi(1+x)5で表すことができる。当該組成式におけるxの値は好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.01以上0.7以下、さらに好ましくは0.02以上0.5以下である。
【0102】
なお、本発明の製造方法に従う製造工程において発生し回収された、未焼成物を、さらに本発明の製造方法における再生原料として用いてもよい。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体の三点曲げ強度、チタン酸アルミニウム化率(AT化率)、熱分解率、熱膨張係数、開気孔率および細孔径、用いた原料粉末の平均粒子径、ならびに、成形体または粉末の水分量および強熱減量は、下記方法により測定する。
【0104】
(1)三点曲げ強度
チタン酸アルミニウム系セラミックス体を、押出成形時の押出方向に長さ50mm、幅5mm、厚さ5mmの直方体形状に切り出す。この切り出したセラミックス体の外表面を紙やすり(#1500)を用いて、目視で凹凸がなくなるまで研磨する。得られるサンプルの三点曲げ強度を、JIS R 1601に準拠した方法により測定する。
【0105】
(2)AT化率
チタン酸アルミニウム化率(AT化率)は、乳鉢にて解砕したチタン酸アルミニウム系セラミックス体について測定した粉末X線回折スペクトルにおける2θ=27.4°の位置に現れるピーク〔チタニア・ルチル相(110)面に帰属される〕の積分強度(IT)と、2θ=33.7°の位置に現れるピーク〔チタン酸アルミニウムマグネシウム相(230)面に帰属される〕の積分強度(IAT)とから、下記式:
AT化率=IAT/(IT+IAT)×100(%)
により算出する。
【0106】
(3)熱分解率
チタン酸アルミニウム系セラミックス体を解砕して粉末とし、アルミナルツボに入れ、箱型電気炉にて1100℃で48時間保持することによって、熱分解評価用チタン酸アルミニウム系セラミックスを得た。得られた熱分解評価用チタン酸アルミニウム系セラミックスの粉末X線回折スペクトル(XRD)における、2θ=27.4°の位置に現れるピーク〔チタニア・ルチル相(110)面に帰属される〕の積分強度(IT2)と、2θ=33.7°の位置に現れるピーク〔チタン酸アルミニウム相(230)面およびチタン酸アルミニウムマグネシウム相(230)面に帰属される〕の積分強度(IAT2)を求め、下記式:
熱分解率(%)=100−100×(IAT2)/(IAT2+IT2
により熱分解率を算出する。
【0107】
(4)熱膨張係数
チタン酸アルミニウム系セラミックス体を、押出成形時の押出方向に長さ50mm、幅5mm、厚さ5mmの直方体形状に切り出し、さらに長さ12mmの平行端面となるように正確に切り出す。ついで、この試験片に対して、200℃/hの昇温速度で1000℃まで昇温し、切り出し作業に用いた固定用樹脂を焼失させ、室温(25℃)まで冷却する。熱処理を施した試験片について、熱機械的分析装置(SIIテクノロジー(株)製 TMA6300)を用いて、室温(25℃)から1000℃まで600℃/hで昇温させた際の試験片の膨張率から、下記式に基づき、熱膨張係数〔K-1〕を算出する。
【0108】
熱膨張係数〔K-1〕=試験片の膨張率/975〔K〕
ここで、試験片の膨張率とは、
(1000℃まで昇温させたときの試験片の押出方向の長さ−昇温前(25℃)における試験片の押出方向の長さ)/(昇温前(25℃)における試験片の押出方向の長さ)
を意味する。
【0109】
(5)開気孔率
JIS R1634に準拠した、水中浸漬によるアルキメデス法により、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の水中重量M2(g)、飽水重量M3(g)および乾燥重量M1(g)を測定し、下記式:
開気孔率(%)=100×(M3−M1)/(M3−M2)
により開気孔率を算出する。
【0110】
(6)細孔径
0.4gのチタン酸アルミニウム系セラミックス体を砕き、得られる約2mm角の小片を、120℃で4時間、空気中で、乾燥させた後、水銀圧入法により、細孔半径測定範囲0.001〜100.0μmまで測定する。細孔容積基準でみたときの最大頻度を示す細孔半径を2倍した値を細孔径(モード径)とする。測定装置には、Micromeritics社製の「オートポアIII9420」を用いる。
【0111】
(7)原料粉末の平均粒子径
原料粉末の平均粒子径〔体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)〕は、レーザ回折式粒度分布測定装置〔日機装社製「Microtrac HRA(X−100)」〕を用いて測定する。
【0112】
(8)水分量
試料(粉砕した熱処理品)約5gをガラス容器に計り採り、該試料の初期質量(W0)を計測する。次に、ガラス容器ごと110℃で2時間熱処理した後、室温まで冷却する。冷却後の試料の質量(W1)を計測し、下記式:
水分量(質量%)=100×(W0−W1)/W0
により水分量を算出する。
【0113】
(9)強熱減量
試料(粉砕した熱処理品)をあらかじめ110℃で2時間熱処理し、得られた熱処理後の試料の約5gを白金容器に計り採り、該試料の初期質量(W2)を計測する。次に、白金容器ごと1100℃で2時間熱処理した後、室温まで冷却する。冷却後の試料の質量(W3)を計測し、下記式:
強熱減量(質量%)=100×(W2−W3)/W2
により強熱減量を算出する。
【0114】
<実施例1>
原料粉末として以下のものを用いる。下記の原料粉末の仕込み組成は、アルミナ〔Al23〕、チタニア〔TiO2〕、マグネシア〔MgO〕およびシリカ〔SiO2〕換算の質量比で、〔Al23〕/〔TiO2〕/〔MgO〕/〔SiO2〕=47%/47%/2%/4%である。
【0115】
(1)アルミニウム源粉末
D50が29μmの酸化アルミニウム粉末(α−アルミナ粉末)
47質量部
(2)チタニウム源粉末
D50が0.5μmの酸化チタン粉末(ルチル型結晶)
47質量部
(3)マグネシウム源粉末
D50が2.5μmの酸化マグネシウム粉末
2質量部
(4)ケイ素源粉末
D50が5.4μmのガラスフリット(タカラスタンダード社製「CK0160M1」、SiO2分70%)
4質量部
上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末からなる混合物に、該混合物100質量部に対して、造孔剤として馬鈴薯でんぷんを14質量部、バインダーとしてメチルセルロースを9質量部、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを5質量部、および潤滑剤としてグリセリンを0.5質量部加え、さらに、分散媒として水を32質量部加えた後、混練機を用いて混練することにより、成形用粘土を調製する。ついで、この成形用粘土を押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を作製する。得られる成形体を、大気雰囲気下、120℃で5時間熱処理し、成形体の熱処理品を得る。この熱処理品の水分量は、5質量%以下である。
【0116】
上記熱処理品を直径2cm以下程度となるように粗砕し、さらにロールクラッシャー(ロール間隔2mm)を用いて粉砕を行なう。目開き1mmの篩を用いて篩別を行ない、篩下を回収して粉砕物を得る。
【0117】
上記粉砕物に、粉砕物100質量部に対して、水を32質量部加えた後、混練機を用いて混練することにより、再生粘土を調製する。ついで、この再生粘土を押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を作製する。得られる成形体を、1450℃で5時間焼成することにより、ハニカム形状のチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得る。
【0118】
得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体の三点曲げ強度は、1.5MPa以上、AT化率は100%、熱分解率は5%以下、熱膨張係数は1×10-6-1以下、開気孔率は40〜55%、細孔径は10〜20μmであった。また、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスを、組成式Al2(1-x)MgxTi(1+x)5で表した場合のxの値は0.12であった。
【0119】
<実施例2>
実施例1と同様にして、成形用粘土を押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を作製する。得られる成形体を、大気雰囲気下、500℃で10時間熱処理し、成形体の熱処理品を得る。この熱処理品の強熱減量は、5質量%以下である。該熱処理品を直径2cm以下程度となるように粗砕し、さらにロールクラッシャー(ロール間隔2mm)を用いて粉砕を行なう。目開き1mmの篩を用いて篩別を行ない、篩下を回収して粉砕物を得る。
【0120】
上記粉砕物に、粉砕物100質量部に対して、造孔剤として馬鈴薯でんぷんを14質量部、バインダーとしてメチルセルロースを9質量部、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを5質量部、および潤滑剤としてグリセリンを0.5質量部加え、さらに、分散媒として水を32質量部加えた後、混練機を用いて混練することにより、再生粘土を調製する。ついで、この再生粘土を押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を作製する。得られる成形体を、1450℃で5時間焼成することにより、ハニカム形状のチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得る。
【0121】
得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体の三点曲げ強度は、1.5MPa以上、AT化率は100%、熱分解率は5%以下、熱膨張係数は1×10-6-1以下、開気孔率は40〜55%、細孔径は10〜20μmであった。また、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスを、組成式Al2(1-x)MgxTi(1+x)5で表した場合のxの値は0.12であった。
【0122】
<比較例1>
実施例1と同様にして、ハニカム形状の成形体を、大気雰囲気下、120℃で5時間熱処理し、成形体の熱処理品を得る。該熱処理品を直径2cm以下程度となるように粗砕し、さらにロールクラッシャー(ロール間隔2mm)を用いて粉砕を行なう。得られる粉砕物は、直径1mmを越える粒子を多く含む。
【0123】
上記粉砕物に、粉砕物100質量部に対して、水を32質量部加えた後、混練機を用いて混練することにより、再生粘土を調製する。ついで、この再生粘土を押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を作製する。得られる成形体を、1450℃で5時間焼成することにより、ハニカム形状のチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得る。
【0124】
得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体の三点曲げ強度は、1.5MPa未満、AT化率は100%、熱分解率は5%以下、熱膨張係数は1×10-6-1以下、開気孔率は40〜55%、細孔径は10〜20μmであった。また、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスを、組成式Al2(1-x)MgxTi(1+x)5で表した場合のxの値は0.12であった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明により得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、優れた機械的強度および熱特性を有することから、DPF等の排ガスフィルタに好適に適用できるほか、たとえば、ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルタ;石油精製時に生じるガス成分(たとえば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素など)を選択的に透過させるための選択透過フィルタ;ルツボ、セッター、コウ鉢、炉材などの焼成炉用冶具;触媒担体;基板、コンデンサーなどの電子部品などに好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、未焼成の再生原料を用いて、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造する方法であって、
(i)前記未焼成の再生原料から直径1mm以下の粉砕物を得る工程と、
(ii)前記粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する工程と、
(iii)前記再生粘土を成形して成形体を得る工程と、
(iv)前記成形体を焼成する工程と、
を含むチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法。
【請求項2】
前記未焼成の再生原料は、未焼成の成形体もしくはその破片、または焼成温度に至るまでの昇温を途中で停止した中間物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記直径1mm以下の粉砕物を得る工程(i)は、前記未焼成の再生原料を粉砕および/または分級する工程を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分級は、篩別により行なわれる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記粉砕物の直径は、200μm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記未焼成の再生原料または前記粉砕物は、1300℃未満の温度で熱処理されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記未焼成の再生原料または前記粉砕物は、1体積%以上の酸素を含む雰囲気下または、1体積%以上の酸素を含む酸素含有ガスの気流下で熱処理されたものである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記未焼成の再生原料または前記粉砕物は、その水分量が5質量%以下となるように熱処理されたものである請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
熱処理温度が150℃未満である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記再生粘土を調製する工程(ii)は、前記粉砕物に、少なくとも水を加えて混練する工程を含む請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記未焼成の再生原料または前記粉砕物は、その強熱減量が5質量%以下となるように熱処理されたものである請求項6または7に記載の方法。
【請求項12】
熱処理温度が300℃以上、1000℃未満である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記再生粘土を調製する工程(ii)は、前記粉砕物に、少なくとも水と、バインダー、潤滑剤および造孔剤からなる群から選択されるいずれか1種以上の成分とを加えて混練する工程を含む請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記未焼成の再生原料は、チタン酸アルミニウム系セラミックスおよび/または焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる混合物からなる請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記チタン酸アルミニウム系セラミックスは、アルミニウム元素およびチタニウム元素を含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記チタン酸アルミニウム系セラミックスは、マグネシウム元素をさらに含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記チタン酸アルミニウム系セラミックスは、ケイ素元素をさらに含む請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記混合物は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含む請求項14〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記混合物は、マグネシウム源粉末を含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記混合物は、ケイ素源粉末を含む請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記ケイ素源粉末は、長石あるいはガラスフリット、またはそれらの混合物からなる粉末である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記再生粘土は、バインダー、潤滑剤および造孔剤からなる群から選択されるいずれか1種以上の成分をさらに含む請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記再生粘土は、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および/または焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる粉末混合物からなる新原料をさらに含む請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、アルミニウム元素およびチタニウム元素を含む請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、マグネシウム元素をさらに含む請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、ケイ素元素をさらに含む請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記新原料を構成する粉末混合物は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含む請求項23〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記新原料を構成する粉末混合物は、マグネシウム源粉末を含む請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記新原料を構成する粉末混合物は、ケイ素源粉末を含む請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記ケイ素源粉末は、長石あるいはガラスフリット、またはそれらの混合物からなる粉末である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および/または粉末混合物に含まれる粉末の平均粒子径は、100μm以下である請求項23〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記成形体を焼成する工程(iv)における焼成温度は、1300℃以上1650℃未満である請求項1〜31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
請求項1〜32のいずれかに記載の方法により製造されたセラミックスフィルタ用のチタン酸アルミニウム系セラミックスハニカム成形体。
【請求項34】
請求項33に記載のハニカム成形体からなるディーゼルパーティキュレートフィルタ。

【公開番号】特開2010−254558(P2010−254558A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78002(P2010−78002)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】