説明

チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法および触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法

【課題】 触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を形成したチタン酸アルミニウム質触媒担体の低い熱膨張係数と高い通気性とを同時に維持することができる、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法を提供すること。
【解決手段】 マグネシウムを含む多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体を、バリアー塗膜で被覆する方法であって、液体ビヒクル、架橋剤、および熱架橋性ポリマーを含む液体混合物により上記触媒担体を被覆する工程と、上記液体混合物で被覆された上記触媒担体を加熱し、上記液体混合物から上記液体ビヒクルを除去するとともに上記熱架橋性ポリマーを架橋させ、架橋した上記熱架橋性ポリマーを含むバリアー塗膜で上記触媒担体を被覆する工程と、を有する、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法および触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、チタン酸アルミニウム質触媒担体を触媒塗膜または触媒下塗り塗膜でコーティングする際に、プレコーティングまたはパッシベーションステップを用いて、触媒担体の微細気孔、マイクロチャンネル(個々の気孔を相互結合するネック部分)、および微小亀裂内への触媒塗膜および/または触媒下塗り塗膜の拡散を軽減することによって、触媒で被覆されたチタン酸アルミニウム構造体の特性を改良する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
米国およびヨーロッパにおいて採用されたディーゼルエンジンのエミッション規制の強化に対処するために、近年、ディーゼル排ガスを処理するためのセラミックハニカムフィルタの構造および特性における基本的な改良に関心が集中している。その他の改善点のなかで、触媒塗膜を用いて炭化水素および/または窒素酸化物の排出を制御するのを可能にする設計変更が行なわれている。最終目的は、現在の高価なおよび/または触媒を用いない微粒子フィルタを代替することが可能な、進歩した排ガス規制技術と相性が良い、優れた高温耐性、高い熱衝撃耐性を備えた安価な微粒子フィルタを開発することにある。
【0003】
この用途のために開発されたフィルタの構造のなかには、始動および再生の過程で生じるフィルタの急速な温度上昇および温度降下時に発生する熱衝撃条件に対してのみでなく、脱炭素処理フィルタ再生サイクル中に遭遇する高い排気温度に対して優れた耐性を備えている耐火性セラミック酸化物フィルタがある。コージェライトおよびチタン酸アルミニウム化合物ならびにハニカムフィルタ構造の例が、特許文献1〜4に開示されている。これらのセラミック材料は、微小亀裂(マイクロクラック)を有しており、自動車エンジンおよびディーゼルエンジンからの窒素酸化物(NO)の排出を制御するためのフロースルー型触媒担体としての使用が考慮されている。
【0004】
これらのセラミック材料は、ディーゼルエンジンの排ガスフィルタの用途に対し要求される高融点、高熱容量および低熱膨張率に関する殆どの仕様を満足する。しかしながら、微粒子フィルタとしての機能を期待された多孔質セラミックが遭遇する一つの難点は、触媒塗膜および触媒担持塗膜がフィルタの壁に施されるのにつれて通気性が減少し、かつ熱膨張率が増大する傾向があることである。
【0005】
フィルタの壁の多孔(気孔)およびこれらセラミック材料の大多数のものに存在する構造的微小亀裂(幅が0.1〜3μmのクラック)の双方は、下塗り塗膜(ウォッシュコート)のコーティング処理工程または触媒コーティング工程において、下塗り塗膜で塞がれることが多いことが判明している。特に、チタン酸アルミニウムのような多数の微小亀裂が形成されているセラミック材料の場合において、下塗り塗膜が極めて微小な微粒子サイズ(例えば粒径が0.02〜0.1μmの範囲)の材料を含む場合には、問題が最も深刻である。
【0006】
微小亀裂は、加熱時にセラミック材料の寸法が増大するのを緩和する役割を果たすため、チタン酸アルミニウムをはじめとする多くのセラミック材料が示す低い熱膨張係数(CTE)に大きく寄与している。したがって、これら微小亀裂が下塗り塗膜成分で塞がれると、下塗りコーティングが施された構造体において、熱膨張係数が上昇する結果となる。このようなCTEレベルは、排ガスフィルタの正常な使用状態においても構造破壊が生じる危険性があるので容認できない。
【0007】
ガソリンエンジンの排ガス制御のための旧来の通気型触媒基体の触媒コーティング中に、下塗りコーティングが微小亀裂を詰まらせる問題に対する対策の一つとして、いわゆるパッシベーションコーティングがある。これは、下塗り処理に先立ってセラミック基体の壁に施される前処理であって、セラミック基体の微小亀裂構造内に下塗り塗膜材料が侵入するのを阻止することができる。特許文献5には、炭化または他の様式で固化されて、下塗り塗膜に対する障壁を形成することが可能なコーティング材料の例が開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、パッシベーション処理に関するコーティング材料および工程についての最近の進歩が記載されている。特許文献6には、微小亀裂を備えたセラミック基体の壁にポリマーバリアー層またはパッシベーション層のプレコーティングを施して、セラミック基体の微小亀裂および/または微細気孔への下塗り塗膜に含まれる微粒子の侵入を防止することが開示されている。形成されたバリアー塗膜は、極性媒体に対して可溶性または分散性を有するポリマーからなり、多孔質セラミック担体上で中性または親水性表面を形成することが可能であるとともに、下塗り塗膜安定化温度または触媒活性化温度において完全に気化する。
【0009】
上記特許文献6に開示されたポリマーバリアー塗膜は、場合によっては、疎水性ポリマー塗膜と親水性下塗り塗膜との間の表面相互作用が観察されはするものの、CTEの増大を緩和し、かつ微細気孔を備えたセラミックフィルタに下塗り塗膜層を形成することによって生じる排気通気性の低下を抑制することができる。したがって、下塗り塗膜層を形成することによる背圧増大および気孔の閉塞を完全に回避することは困難ではあるものの、上記バリアー塗膜により、セラミックフィルタの熱膨張係数および通気特性を改善することができる。
【0010】
一方、セラミック材料のなかでも、チタン酸アルミニウムは、近年、ディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出される排ガスに含まれる微細なカーボン粒子を捕集するためのセラミックスフィルターを構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0011】
チタン酸アルミニウムの製造方法としては、少なくともアルミニウム源粉末及びチタン源粉末を含み、必要に応じてケイ素源粉末やマグネシウム源粉末などを含む原料混合物を成形し、焼成する方法が知られている(例えば、特許文献7参照)。また、原料混合物として、更に、有機バインダ、造孔材などの有機添加物を含むものを用い、この原料混合物のグリーン成形体を酸素含有雰囲気下にて150〜900℃で加熱することにより有機添加物を除去した後、1300℃以上で焼成する方法も知られている(特許文献7の段落0031〜0032)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,541,407号明細書
【特許文献2】米国仮特許出願第60/400,248号明細書
【特許文献3】米国特許出願第10/209,684号明細書
【特許文献4】米国特許出願第10/098,711号明細書
【特許文献5】米国特許第4,532,228号明細書
【特許文献6】米国特許出願第10/641,638号明細書
【特許文献7】国際公開第05/105704号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を形成したチタン酸アルミニウム質触媒担体の熱膨張係数および通気性は、非常に重要な特性であり、上述した従来技術に対し、より一層の改善が求められている。よって、本発明は、触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を形成したチタン酸アルミニウム質触媒担体の低い熱膨張係数と高い通気性とを同時に維持することができる、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法、及び、触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、マグネシウムを含む多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体を、バリアー塗膜で被覆する方法であって、液体ビヒクル、架橋剤、および熱架橋性ポリマーを含む液体混合物により上記触媒担体を被覆する工程と、上記液体混合物で被覆された上記触媒担体を加熱し、上記液体混合物から上記液体ビヒクルを除去するとともに上記熱架橋性ポリマーを架橋させ、架橋した上記熱架橋性ポリマーを含むバリアー塗膜で上記触媒担体を被覆する工程と、を有する、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法を提供する。
【0015】
本発明は、下塗りコーティングおよび触媒塗膜コーティングが施される、微小亀裂を備えた高多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体のパッシベーションに関して特別の効果を奏する優れた表面処理方法を提供するものである。本発明の方法によれば、触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を形成する工程中に微小亀裂、微細気孔およびマイクロチャンネルが保護されまたは予め満たされ、最終的に得られるフィルタ等の構造体における高多孔質のチタン酸アルミニウム壁の通気性の低下を抑制することができ、かつ、熱膨張係数の増大を抑制することができる。
【0016】
本発明の効果は、その後に触媒または触媒下塗りコーティングが施されるチタン酸アルミニウム質触媒担体を、熱架橋性ポリマーで被覆することによって奏される。すなわち、本発明の一実施形態においては、触媒または触媒下塗りコーティングを施すべき物品(チタン酸アルミニウム質触媒担体)を、水のような適当な液体ビヒクルと、架橋剤と、熱架橋性ポリマーとを含む液体混合物により被覆することで、その触媒担体の微細気孔構造を保護する。ここで、熱架橋性ポリマーは、最終的には除去する必要があるため、触媒または触媒下塗りコーティング後の熱処理時に熱分解可能なポリマーが用いられる。また、液体混合物は、ポリマー溶液または分散液として調製される。上記ポリマー溶液または分散液は、チタン酸アルミニウムの気孔構造を効果的に透過するのに適した粘性が得られるように、十分に希釈され、および/または、流動性が付与されている。
【0017】
上記液体混合物で触媒担体を被覆した後、上記触媒担体を、水などの液体ビヒクルが実質的に除去され、かつ、熱架橋性ポリマーの熱架橋が達成されるのに十分な温度に加熱する。完全な乾燥と上記熱架橋性ポリマーの十分な架橋とが単一の加熱サイクル中に効果的に達成されるように、上記熱架橋性ポリマーは、上記液体ビヒクルの気化温度の近傍で架橋が開始するものであることが望ましい。しかしながら、乾燥と架橋とを別個の段階またはサイクルで行うこともできる。また、乾燥および架橋工程の重要な側面として、チタン酸アルミニウムの微細気孔、マイクロチャンネルおよび微小亀裂の内部にポリマーコーティング材料を選択的に堆積させ得る、ポリマー溶液または分散液濃度を実現することが挙げられる。
【0018】
また、本発明におけるチタン酸アルミニウム質触媒担体は、マグネシウムを含有するものである。かかる構成を有することにより、上述した本発明の効果がより有効に得られるのに加え、チタン酸アルミニウム質触媒担体の耐熱性をより向上させることができる。なお、これらの効果をより有効に得る観点から、チタン酸アルミニウム質触媒担体におけるマグネシウムの含有量は、MgO換算で0.1〜10重量%であることが好ましい。
【0019】
本発明はまた、マグネシウムを含む多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体に、触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を形成してなる触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法であって、液体ビヒクル、架橋剤、および熱架橋性ポリマーを含む液体混合物により上記触媒担体を被覆する工程と、上記液体混合物で被覆された上記触媒担体を加熱し、上記液体混合物から上記液体ビヒクルを除去するとともに上記熱架橋性ポリマーを架橋させ、架橋した上記熱架橋性ポリマーを含むバリアー塗膜で上記触媒担体を被覆する工程と、上記バリアー塗膜で被覆された上記触媒担体を、水性下塗り液または触媒懸濁液により被覆する工程と、上記水性下塗り液または触媒懸濁液を乾燥させて、上記バリアー塗膜で被覆された上記触媒担体に、触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を形成する工程と、上記バリアー塗膜と上記触媒塗膜または触媒下塗り塗膜とで被覆された上記触媒担体を加熱し、上記バリアー塗膜を除去する工程と、を有する、触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法を提供する。
【0020】
本発明は、触媒を用いたガスフィルタなどの、チタン酸アルミニウム質触媒担体を触媒により被覆した触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体を製造するための改良された方法を提供するものである。この製造方法においては、先ず、上述したチタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法により、熱架橋性ポリマーからなるバリアー塗膜を上記触媒担体に形成する。その後、このバリアー塗膜で被覆された触媒担体に対し、触媒懸濁液、あるいは、触媒を含むまたは含まない下塗り液を施し、そして触媒懸濁液または下塗り液を乾燥させて、触媒で被覆されたまたは下塗り塗膜で被覆された触媒担体を得る。
【0021】
最後に、下塗り塗膜または触媒で被覆された触媒担体を、少なくともバリアー塗膜中の架橋された熱架橋性ポリマーが熱分解または酸化によって除去されるのに十分な温度に加熱する。これにより、バリアー塗膜が除去され、下塗り塗膜または触媒で被覆された触媒担体を得る。この触媒または下塗り塗膜で被覆された触媒担体は、触媒コーティングまたは下塗りコーティング後において、圧力損失が、従来技術により同様のコーティングが施された触媒担体よりも低減されているため、燃焼排ガスのような流体流から微粒子を除去するフィルタとして用いるのに特に適している。
【0022】
本発明の有効性に関する理由は完全に確認されてはいないが、熱架橋を伴う加熱は、チタン酸アルミニウム質触媒担体の微細気孔および微細に繋がるマイクロチャンネル内部にポリマー溶液または分散液を充填するのに寄与しているものと考えられる。毛細管効果がマイクロチャンネルおよび微細気孔内のポリマー溶液または分散液の沸点を高め、ポリマー溶液または分散液の乾燥工程の最終段階において熱的活性化により架橋が開始され、チタン酸アルミニウム内部の微細気孔および相互連結しているマイクロチャンネルの開口部は選択的に占有または閉塞されることとなる。微細気孔やマイクロチャンネルが閉塞された結果、触媒および/または下塗り塗膜溶液は、より粗大なチタン酸アルミニウムの気孔構造内に導入されることとなる。
【0023】
その後、架橋された熱架橋性ポリマーを除去する熱処理によって、熱架橋性ポリマーで閉塞されていたチタン酸アルミニウムの微細気孔およびマイクロチャンネルから障害物がなくなり、ガスが流動する当初の多孔質フィルタ壁の通気性が回復する。さらに、チタン酸アルミニウムの壁の気孔の容積の大部分は粗大気孔構造によって形成されているので、下塗りコーティングが施された壁の圧力損失の低さと組み合わされた高い触媒添加特性が実現される。
【0024】
上述した本発明の方法の重要な利点は、選択的なポリマーコーティングが、微小亀裂の保護または微細な気孔の閉塞に必要なポリマーの量を低減させることにある。これにより、処理コストが低減し、かつ触媒付け工程からの二次的排出もかなり低減する。触媒コーティング処理業者にとっては双方とも重要な事項である。
【0025】
さらに、本発明は、多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体が、粗大気孔部分と、微細気孔および/またはマイクロチャンネル部分との存在によって特徴付けられる気孔構造を有し、この気孔構造が、このチタン酸アルミニウムの微細気孔および/またはマイクロチャンネル部分を優先的に閉塞する架橋されたポリマーからなるバリアー塗膜を有している、被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体を提供する。チタン酸アルミニウムの微細気孔および/またはマイクロチャンネル部分を優先的に閉塞するということは、チタン酸アルミニウムの微細気孔および/またはマイクロチャンネル部分の容積が、バリアー塗膜の存在によって粗大気孔部分の容積に比較して低減されるという意味である。本発明によるバリアー塗膜を備えたチタン酸アルミニウム質触媒担体の中で好ましいのは、チタン酸アルミニウムからなる多孔質フィルタ基体である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を形成したチタン酸アルミニウム質触媒担体の低い熱膨張係数と高い通気性とを同時に維持することができる、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法、及び、触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1の(a)〜(d)は、触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法における各工程を説明するための概略的説明図である。
【図2】図2の(a)は、チタン酸アルミニウム質触媒担体の一実施形態を示す斜視図であり、図2の(b)は、図2の(a)の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当部分には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0029】
本発明のチタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法は、マグネシウムを含む多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体を、バリアー塗膜で被覆する方法であって、液体ビヒクル、架橋剤、および熱架橋性ポリマーを含む液体混合物により上記触媒担体を被覆する工程と、上記液体混合物で被覆された上記触媒担体を加熱し、上記液体混合物から上記液体ビヒクルを除去するとともに上記熱架橋性ポリマーを架橋させ、架橋した上記熱架橋性ポリマーを含むバリアー塗膜で上記触媒担体を被覆する工程と、を有する方法である。
【0030】
本発明において使用する熱架橋性ポリマーとしては、アミン官能性イオネン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、およびポリアクリルアミン等の水溶性ポリマーが挙げられる。これらの熱架橋性ポリマーは、チタン酸アルミニウムの微細気孔および/またはマイクロチャンネルを閉塞させるのに有効であるとともに、熱分解により除去しやすいため好ましい。これらの中でも、アミン官能性水溶性イオネンが好ましく、5000〜200000の範囲内の分子量を有するアミン官能性水溶性イオネンであることが特に好ましい。これらの熱架橋性ポリマーは、正常に架橋されると、一般的な水性下塗り塗膜または触媒塗膜の存在下で中性または親水性の表面を維持するため、触媒塗膜または触媒下塗り塗膜の効率的な堆積を阻害することなく、チタン酸アルミニウムの微細気孔およびマイクロチャンネル内への微粒子の侵入に対して特に抵抗力のあるバリアー塗膜を形成することができる。さらに、これらの熱架橋性ポリマーから形成される架橋構造を有するバリアー塗膜は、適度な温度において、残留物を残すことなく、かつその上にある触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を崩壊させることなく熱分解することによって、チタン酸アルミニウムの相互連結されたマイクロチャンネル構造から完全に除去することができる。
【0031】
イオネン系の熱架橋性ポリマーの代表的な例としては、米国ペンシルバニア州トレヴォース所在のジー・イー・ウォーター・テクノロジーズ(GE Water Technologies)社のジー・イー・ベッツ(GE Betz)部門から販売されているPC−1195(登録商標)溶液などの市販の水処理ポリマー調剤が挙げられる。このポリマーは、約170,000の分子量を有し、分子の側鎖に2モル%の官能性アミン基を備えた標準的な第四級アンモニウム基を含む主鎖からなる。
【0032】
架橋剤であるエピクロロヒドリンの存在下での、上記PC−1195(登録商標)の熱架橋の一般的な反応経路を以下に示す。
【0033】
【化1】



【0034】
上記の特定のポリマーに関し、xの値は一般に1960であり、yの値は一般に約40である。上記の架橋過程において、官能性側鎖上のアミノ基(A)が先ず架橋剤のエポキシ基と反応して付加物(B)を形成する。次に付加物(B)上の塩化物の部位がメンシュトキン反応により未反応のポリマー側鎖の官能性アミノ基(A)と反応して、架橋された生成物を形成する。
【0035】
上記メンシュトキン反応は、低いポリマー濃度では遅い反応であり、この反応によりゲル化点まで進行する架橋は、通常、高温かつ比較的濃縮されたポリマー溶液中でのみ生じる。それ故に、この反応経路は、広範囲の異なるチタン酸アルミニウム質触媒担体を被覆する架橋されたポリマー塗膜の分布および特性を調節するための効果的な調節メカニズムを提供する。
【0036】
図1に、チタン酸アルミニウム質触媒担体を、架橋されたポリマー塗膜(バリアー塗膜)で選択的に被覆する際のメカニズム、及び、その後に触媒担体を触媒塗膜または触媒下塗り塗膜で選択的に被覆する際のメカニズムを示す。ただし、本発明は、図1に示したメカニズムに限定されない。
【0037】
図1(a)〜(d)は、チタン酸アルミニウム質触媒担体の一部分を拡大した模式断面図である。図1(a)に示すように、チタン酸アルミニウム質触媒担体10は、粗大気孔12と、これら粗大気孔12に接続された、および/または粗大気孔12同士を相互連結するマイクロチャンネル14および微細気孔16との双方を含む気孔構造を有している。この連続的に相互連結された気孔構造は、チタン酸アルミニウム質触媒担体10に高い通気性を与えている。
【0038】
次に、図1(b)に示すように、上述した触媒担体10の気孔構造内に、熱架橋性ポリマーを含む液体混合物18を充填する。このとき、液体混合物18は、触媒担体10の気孔構造のうち、特に微細気孔16およびマイクロチャンネル14に完全に充填されることになる。触媒担体10の気孔構造内への液体混合物18の充填は、例えば、浸漬または真空溶浸により行うことができる。
【0039】
次に、触媒担体10を加熱して液体混合物18を乾燥させ、かつ熱架橋性ポリマーを架橋させて、図1(c)に示されているように、架橋されたポリマー18aを生成させる。このとき、架橋されたポリマー18aの分布としては、触媒担体10の粗大気孔12の壁上には比較的薄い塗膜を形成するが、触媒担体10の微細気孔16およびマイクロチャンネル14では、その開口部を塞ぐか、またはその内部の大部分を満たすのに十分な量のポリマー18aが形成されることになる。
【0040】
図1(c)に示されているような熱によって架橋されたバリアー塗膜の分布に関する証拠は、バリアーコーティングされた触媒担体10内の粗大気孔12の容積よりも微細気孔16及びマイクロチャンネル14の容積を優先的に減少させることを示す水銀ポロシメーターのデータによって提供される。触媒担体10内部の約5μm以下の最小断面寸法を有する気孔およびチャンネルを意味する微細気孔16およびマイクロチャンネル14に関し、
それらの容積は、このような気孔およびチャンネルが形成された触媒担体10の全体の気孔容積のごく僅かな部分である。
【0041】
その後、触媒担体10の多孔質構造内に触媒または触媒下塗り塗膜を施しかつ固定し、図1(c)に示されているような架橋されたポリマー(バリアー塗膜)18aを除去すると、図1(d)に示されているような触媒塗膜または触媒下塗り塗膜20の分布が得られる。この塗膜分布は、粗大気孔12の表面上には効果的な厚さの触媒塗膜または下塗り塗膜20が存在するが、触媒担体10のマイクロチャンネル14および微細気孔16には、塗膜20が殆ど存在しないことによって特徴付けられる。この触媒および/または触媒下塗り塗膜の選択的分布は、良好な触媒効率のみならず、良好な通気性を備えた、触媒付けされたチタン酸アルミニウム構造体(触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体)を生むこととなる。ここで、触媒担体10の触媒塗膜または触媒下塗り塗膜20による被覆は、例えば、浸漬または真空溶浸により行うことができる。
【0042】
なお、架橋されたポリマー塗膜は、多孔質チタン酸アルミニウムのための他のポリマー塗膜または有機塗膜より優れた3つの利点を有する。第1に、架橋ステップは、ポリマーをより水に溶け難くかつ分散し難くし、後に施される水性下塗りコーティング懸濁液によってポリマー塗膜が運び出されたり除去されたりすることを抑制することができる。第2に、架橋によりポリマー塗膜の厚さを著しく薄くすることができ、触媒および/または下塗り塗膜の堆積後の粗大気孔の容積割合を増大させることができる。第3に、微小亀裂、微細気孔およびマイクロチャンネルの閉塞を抑制することができる。
【0043】
上述したバリアー塗膜の堆積には、特定の機能要求を満たすものであれば、理論的にはいかなる種類の熱架橋性ポリマーをも採用することができる。一つの要求は、熱架橋性ポリマーが、多孔質チタン酸アルミニウムの活性を有する気孔表面と接触したときに、架橋またはその他の反応等によって、急速には粘度が増大しない低粘度かつ安定な溶液または懸濁液を形成していることである。第2に、選択された熱架橋性ポリマーは、水性下塗りコーティング溶液および/または触媒コーティング溶液に濡れる、および/または相溶性を有する架橋されたポリマー塗膜を形成する必要がある。そして最後に、熱架橋性ポリマーで形成された架橋された塗膜は完全に熱分解可能なこと、すなわち、適度の下塗り塗膜安定化温度または触媒活性化温度において(例えば、約550℃を超えない温度において)、特に残渣を残さずに気化可能なことである。
【0044】
これらの要求に対して、水溶性アミン官能性イオネンは、これらのバリアーコーティングのための好ましいポリマーの性質を有している。なお、気化可能な液体中に安定的に分散もしくは溶解されて低粘度の溶液を形成でき、かつこの溶液の乾燥温度の近辺でポリマーの架橋を開始することができるポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、およびポリアクリルアミンのような他のポリマー系も、熱架橋性ポリマーとして好適に使用可能である。
【0045】
低CTE、高通気性を有するチタン酸アルミニウム製品の製造に関して好ましいポリマー溶液(液体混合物)は、一般に水溶性の熱架橋性ポリマーを約1〜20重量%含む比較的低濃度のポリマー水溶液である。使用される架橋剤の量は、選択される熱架橋性ポリマーおよび架橋剤に応じて異なるが、通常の実験によって容易に決定することができる。エピクロロヒドリンは、アミン官能性イオネンのための効果的な架橋剤の一つであり、約1〜20重量%の範囲内のポリマー濃度を有し、かつ約8〜9の範囲内のpH値を有する溶液に対して有用である。なお、良く知られた二塩化物および/またはジアミンポリマー架橋剤を含む他の架橋剤も、代わりにまたは追加して、使用可能である。ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。多孔質チタン酸アルミニウム触媒担体に施される、液体混合物から液体ビヒクル成分を除去する処理は、触媒担体を好ましくは80〜120℃の範囲内の温度、特に好ましくは100℃程度の温度に加熱することによって効率的に行うことができる。また、残存する熱架橋性ポリマーの架橋も、この温度で効率的に進行する。なお、液体ビヒクルとしては、通常は水が用いられるが、アルコール、エーテル等の溶剤も、代わりにまたは追加して、使用可能である。
【0046】
ここで、液体混合物は、少なくとも液体ビヒクル、架橋剤、および熱架橋性ポリマーを含むものであるが、それ以外の各種添加剤を含むこともできる。
【0047】
また、チタン酸アルミニウム触媒担体に施す触媒塗膜または触媒下塗り塗膜としては、従来から知られているものを特に制限なく用いることができるが、アルミナ、アルミナ先駆物質、またはアルミナを含有する混合物の分散体を含むものであることが好ましい。下塗り塗膜用のコーティング溶液の好ましい例としては、例えば、米国マサチューセッツ州アシュランド所在のナイアコル・ナノ・テクノロジーズ(Nyacol Nano Technologies)社から発売されている Nyacol(登録商標)AL20 コロイド状アルミナゾルが挙げられる。
【0048】
チタン酸アルミニウム質触媒担体の構造は特に限定されず、ウォール・フロー型やフロー・スルー型の構造が挙げられるが、ウォール・フロー型の構造であることが好ましい。ウォール・フロー型の構造を有するチタン酸アルミニウム質触媒担体としては、例えば、図2に示すようなハニカム構造体が挙げられる。
【0049】
図2の(a)は、チタン酸アルミニウム質触媒担体の一実施形態を示す斜視図であり、図2の(b)は、図2の(a)の部分拡大図である。本実施形態に係るチタン酸アルミニウム質触媒担体70は、図2の(a)に示すように、隔壁70cにより区画された多数の流路70a,70bが略平行に配置された円柱体である。流路70a,70bの断面形状は、図2の(b)に示すように正方形である。これらの複数の流路70a,70bは、触媒担体70において、端面から見て、正方形配置、すなわち、流路70a,70bの中心軸が、正方形の頂点にそれぞれ位置するように配置されている。また、本実施形態の触媒担体70において、流路70a,70bは、その両端の開口部のうちの一方が封口されている。図2の(b)に示した側の端部(図2(a)における上端部)では、流路70aが開口し、粒子70bが封口されている。また、これとは反対側の端部(図2(a)における下端部)では、流路70aが封口され、流路70bが開口している。触媒担体70においては、図2の(b)に示すように、このような流路70aと流路70bとが交互に配置されている。流路70a,70bの断面の正方形のサイズは、例えば、一辺0.5〜2.5mmとすることができる。
【0050】
なお、流路70a,70bの断面の形状について、図2では正方形の場合を示したが、この形状は特に限定されず、例えば、三角形、長方形、六角形、八角形、円形などでもよく、また複数の形状の組み合わせでもよい。
【0051】
触媒担体70の寸法は、図2に示したような円柱体である場合、例えば、直径約100mm以上、長さ約100mm以上、隔壁70cの壁厚は約0.5mm以下であることが好ましい。また、セル構造は流路70a,70bの合計数として100CPSI以上、有効気孔率は40〜50%(体積%)、平均細孔直径は1〜20μm、細孔径分布(D90−D10)/D50は0.5未満であることが好ましい。ここで、D10、D50、D90は全細孔容積のうち累積細孔容積が各々10%、50%、90%になるときの細孔直径である。なお、触媒担体70の気孔率は、水銀圧入法により測定することができる。
【0052】
バリアー塗膜により被覆された被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体において、バリアー塗膜の被覆量は、被覆チタン酸アルミニウム質触媒担体の全量を基準として5〜20重量%であることが好ましく、10〜15重量%であることがより好ましい。バリアー塗膜の被覆量が5重量%以上であることで、触媒塗膜または触媒下塗り塗膜が触媒担体の微細気孔およびマイクロチャンネル内に侵入することを抑制しやすくなる傾向があり、20重量%以下であることで、触媒担体の必要な部分への触媒塗膜または触媒下塗り塗膜の形成を妨げにくい傾向がある。
【0053】
以上説明した本発明のチタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法、及び、触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法により、低い熱膨張係数と高い通気性とが維持された触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体を得ることができる。
【符号の説明】
【0054】
10…チタン酸アルミニウム質触媒担体、12…粗大気孔、14…マイクロチャンネル、16…微細気孔、18…液体混合物、18a…架橋されたポリマー(バリアー塗膜)、20…触媒塗膜または下塗り塗膜、70…チタン酸アルミニウム質触媒担体、70a,70b…流路、70c…隔壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを含む多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体を、バリアー塗膜で被覆する方法であって、
液体ビヒクル、架橋剤、および熱架橋性ポリマーを含む液体混合物により前記触媒担体を被覆する工程と、
前記液体混合物で被覆された前記触媒担体を加熱し、前記液体混合物から前記液体ビヒクルを除去するとともに前記熱架橋性ポリマーを架橋させ、架橋した前記熱架橋性ポリマーを含むバリアー塗膜で前記触媒担体を被覆する工程と、
を有する、チタン酸アルミニウム質触媒担体の被覆方法。
【請求項2】
前記熱架橋性ポリマーが、アミン官能性イオネン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、およびポリアクリルアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種の水溶性ポリマーである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱架橋性ポリマーが、5000〜200000の範囲内の分子量を有するアミン官能性イオネンである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
マグネシウムを含む多孔質のチタン酸アルミニウム質触媒担体に、触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を形成してなる触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法であって、
液体ビヒクル、架橋剤、および熱架橋性ポリマーを含む液体混合物により前記触媒担体を被覆する工程と、
前記液体混合物で被覆された前記触媒担体を加熱し、前記液体混合物から前記液体ビヒクルを除去するとともに前記熱架橋性ポリマーを架橋させ、架橋した前記熱架橋性ポリマーを含むバリアー塗膜で前記触媒担体を被覆する工程と、
前記バリアー塗膜で被覆された前記触媒担体を、水性下塗り液または触媒懸濁液により被覆する工程と、
前記水性下塗り液または触媒懸濁液を乾燥させて、前記バリアー塗膜で被覆された前記触媒担体に、触媒塗膜または触媒下塗り塗膜を形成する工程と、
前記バリアー塗膜と前記触媒塗膜または触媒下塗り塗膜とで被覆された前記触媒担体を加熱し、前記バリアー塗膜を除去する工程と、
を有する、触媒被覆チタン酸アルミニウム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−240316(P2011−240316A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117453(P2010−117453)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】