説明

チャープ信号生成装置、チャープ信号生成方法、およびそれらを用いた送信装置、測定装置、通信装置

【課題】 回路規模を増大させることなく、チャープ信号を生成すること。
【解決手段】 通信装置10は、破線で示す送信処理部60と、モード選択部32と、局部発振部38と、破線で示す受信処理部70と、アンテナ22と、を含む。送信処理部60は、送信信号生成部12と、直交変調部14と、アップコンバータ16と、符号発生部18と、周波数シンセサイザ24とを含む。受信処理部70は、ダウンコンバータ26と、同期捕捉部28と、直交検波部34と、信号処理部36とを含む。モード選択部32は、通信対象の通信装置に対して通信処理を実行するための通信モードと、測定対象物20を認識するための測定モードとの少なくともいずれかを選択する。送信信号生成部12は、モード選択部32において通信モードが選択されている場合、送信すべきデータ信号を生成して、直交変調部14に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号生成技術に関し、特にチャープ信号を生成するチャープ信号生成装置、チャープ信号生成方法、およびそれらを用いた送信装置、測定装置、通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、無線を利用したセンシング技術は、パルス発生器、ミキサ等の周波数変換器、遅延回路から構成された測定装置を用いて、パルス信号を測定対象物に向けて送信し、測定対象物からの反射波を受信、復調することによって、さまざまな測定を可能としていた。測定対象物に送信されるパルス波としては、瞬時周波数を時間に対して増大あるいは減少するチャープ信号が用いられていた。従来、チャープ信号を発生させるために、SAW(Surface Acoustic Wave)フィルタなどの分散フィルタを用いて生成していた(たとえば、特許文献1参照)。また、予め作成したチャープ信号に相当する複数のデジタル信号系列をメモリに記憶しておくことによって、フィルタを用いずに、チャープ信号を出力していた(たとえば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−317669号公報
【特許文献2】特開2002−148332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者はこうした状況下、以下の課題を認識するに至った。すなわち、測定装置と通信装置とを共用する場合、通信装置は、チャープ信号を生成する回路、メモリを別途必要とするため、回路規模、装置のコストに大きな影響を与えるといった課題である。また、SAWフィルタでは、微細電極パターンの加工精度により、使用する周波数や温度に制約が存在するため、加工精度を向上するための工程、コストへの負担が大きかった。
【0004】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、回路規模を増大させることなく、チャープ信号を生成できるチャープ信号生成装置、チャープ信号生成方法、およびそれらを用いた送信装置、測定装置、通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のチャープ信号生成装置は、任意の信号系列を入力する入力部と、入力部によって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力する逆離散フーリエ変換部と、逆離散フーリエ変換部によって出力されたチャープ信号を送信する送信部とを備える。逆離散フーリエ変換部は、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更してもよい。また、逆離散フーリエ変換部は、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の高いサブキャリアから低いサブキャリアに順次変更してもよい。
【0006】
ここで、「信号系列を複数のサブキャリアのうちのいずれか1つに対応づけ」とは、信号系列と複数のサブキャリアのうちから選択された1つのサブキャリアとを対応づけることを含む。また、「順次、逆離散フーリエ変換を実行」とは、1つのサブキャリアに信号系列が対応づけられるたびに、逆離散フーリエ変換を実行することなどを含む。また、対応づけられたサブキャリア以外のサブキャリアに含まれる要素は0が設定され、対応づけられたサブキャリアとともに逆離散フーリエ変換が実行されてもよい。また、「所定の時間間隔」とは、逆離散フーリエ変換を行なう単位を含み、逆離散フーリエ変換を行なう単位の倍数であってもよい。たとえば、4点逆離散フーリエ変換の場合、4つの点を単位にして離散フーリエ変換がなされるため、所定の時間間隔は4の倍数となる。また、「信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更する」とは、すでに対応付けられているサブキャリア以外のサブキャリアに信号系列を対応づけることなどを含む。
【0007】
この態様によると、特定のサブキャリアのみを順に逆離散フーリエ変換し、さらに、逆離散フーリエ変換の対象となるサブキャリアを中心周波数の低いほうから順にもしくは中心周波数の高いほうから順に出力することによって、チャープ信号を生成することができる。
【0008】
本発明の別の態様は、測定装置である。この装置は、任意の信号系列を入力する入力部と、入力部によって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力する逆離散フーリエ変換部と、逆離散フーリエ変換部によって出力されたチャープ信号を測定対象物に向けて送信する送信部と、測定対象物によって反射されたチャープ信号を受信する受信部と、受信部によって受信されたチャープ信号を順次遅延させながら、合成する合成部と、合成部によって合成されたチャープ信号と、送信部によって送信されたチャープ信号とをもとに、測定対象物との距離を測定する測定部とを備える。逆離散フーリエ変換部は、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更してもよい。逆離散フーリエ変換部は、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の高いサブキャリアから低いサブキャリアに順次変更してもよい。
【0009】
「受信されたチャープ信号を順次遅延させながら、合成する」とは、逆離散フーリエ変換部において信号系列が対応づけられたサブキャリアが変わるタイミングを一周期とし、受信したチャープ信号を周期ごとに時間を合わせて合成することなどを含む。時間を合わせて合成するとは、受信部で受信した信号に対し、周期ごとの先頭をあわせて加算することなどを含む。また、「合成部によって合成された信号と、送信部によって送信された信号とをもとに、測定対象物との距離を測定する」とは、合成された信号と送信された信号との時間差を測定し、さらに、合成された信号の周波数を推定し、時間差と周波数とを用いて測定対象物との距離を推定することなどを含む。
【0010】
この態様によると、特定のサブキャリアのみを順に逆離散フーリエ変換することによって、それぞれ中心周波数が異なるサブキャリアを生成できる。また、逆離散フーリエ変換の対象となるサブキャリアを中心周波数の低いほうから順にもしくは中心周波数の高いほうから順に出力することによって、チャープ信号を生成することができる。また、チャープ信号を順次離散フーリエ変換することによって、順次、単一のサブキャリアからなる信号が生成され、生成されたサブキャリア信号の時間を合わせて合成することによって、大きなパルスを得ることができる。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、送信装置である。この装置は、通信対象の通信装置に対して通信処理を実行するための通信モードと、測定対象物を認識するための測定モードとのいずれかを選択するモード選択部と、モード選択部において通信モードが選択されている場合に、送信すべきデータ信号を入力する入力部と、入力部によって入力されたデータ信号を複数のサブキャリアに対応付けながら、離散フーリエ変換を実行して送信信号を出力する逆離散フーリエ変換部と、逆離散フーリエ変換部によって出力された送信信号を通信対象の通信装置に向けて送信する送信部とを備える。入力部は、モード選択部において測定モードが選択されている場合、既知信号を入力し、逆離散フーリエ変換部は、入力部によって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力し、送信部は、逆離散フーリエ変換部によって出力されたチャープ信号を測定対象物に向けて送信する。 逆離散フーリエ変換部は、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更してもよい。逆離散フーリエ変換部は、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の高いサブキャリアから低いサブキャリアに順次変更してもよい。
【0012】
ここで、「測定対象物を認識するための測定モード」とは、測定対象物に関する物理的要素や化学的要素を特定するためのモードなどを含み、たとえば、測定対象物までの距離を測定するためのモードや、測定対象物の移動速度を測定するモード、あるいは、測定対象物の存在を認識するためのモードなどを含む。
【0013】
この態様によると、特定のサブキャリアのみを順に逆離散フーリエ変換することによって、それぞれ中心周波数が異なるサブキャリアを生成できる。また、逆離散フーリエ変換の対象となるサブキャリアを中心周波数の低いほうから順に出力することによって、チャープ信号を生成することができる。また、通常の通信処理にかかる回路をチャープ信号の生成に流用することによって、チャープ信号の生成処理にかかる回路を新たに追加することなしに、チャープ信号が生成できる。また、モードを切替えることによって、測定処理と通信処理を柔軟に実行することができる。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、通信装置である。この装置は、通信対象の通信装置に対して通信処理を実行するための通信モードと、測定対象物を認識するための測定モードとのいずれかを選択するモード選択部と、モード選択部において通信モードが選択されている場合に、送信すべきデータ信号を入力する入力部と、入力部によって入力されたデータ信号を複数のサブキャリアに対応付けながら、離散フーリエ変換を実行して送信信号を出力する逆離散フーリエ変換部と、逆離散フーリエ変換部によって出力された送信信号を通信対象の通信装置に向けて送信する送信部と、通信対象の通信装置から送信された送信信号を受信する受信部と、受信部で受信した送信信号を離散フーリエ変換することによって、復調信号を生成する信号処理部と、を備える。入力部は、モード選択部において測定モードが選択されている場合、既知信号を入力し、逆離散フーリエ変換部は、入力部によって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力し、送信部は、逆離散フーリエ変換部によって出力されたチャープ信号を測定対象物に向けて送信し、受信部は、測定対象物によって反射されたチャープ信号を受信し、信号処理部は、受信部によって受信されたチャープ信号を順次遅延させながら、合成し、合成されたチャープ信号と送信部によって送信されたチャープ信号とをもとに、測定対象物との距離を測定する。逆離散フーリエ変換部は、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更してもよい。逆離散フーリエ変換部は、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の高いサブキャリアから低いサブキャリアに順次変更してもよい。
【0015】
この態様によると、特定のサブキャリアのみを順に逆離散フーリエ変換することによって、それぞれ中心周波数が異なるサブキャリアを生成できる。また、逆離散フーリエ変換の対象となるサブキャリアを中心周波数の低いほうから順に出力することによって、チャープ信号を生成することができる。また、チャープ信号を順次離散フーリエ変換することによって、順次、単一のサブキャリアからなる信号が生成され、生成されたサブキャリア信号の時間を合わせて合成することによって、大きなパルスを得ることができる。また、通常の通信処理にかかる回路をチャープ信号の生成に流用することによって、チャープ信号の生成処理にかかる回路を新たに追加することなしに、チャープ信号が生成できる。また、モードを切替えることによって、測定処理と通信処理を柔軟に実行することができる。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、チャープ信号生成方法である。この方法は、任意の信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力するステップと、出力するステップによって出力されたチャープ信号を送信するステップと、を含む。出力するステップは、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更してもよい。また、出力するステップは、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の高いサブキャリアから低いサブキャリアに順次変更してもよい。
【0017】
この態様によると、特定のサブキャリアのみを順に逆離散フーリエ変換することによって、それぞれ中心周波数が異なるサブキャリアを生成できる。また、逆離散フーリエ変換の対象となるサブキャリアを中心周波数の低いほうから順に出力することによって、チャープ信号を生成することができる。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、測定方法である。この方法は、任意の信号系列を入力するステップと、任意の信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力するステップと、出力するステップによって出力されたチャープ信号を測定対象物に向けて送信するステップと、測定対象物によって反射されたチャープ信号を受信するステップと、受信するステップによって受信されたチャープ信号を順次遅延させながら、合成するステップと、合成するステップによって合成された信号と、送信するステップによって送信された信号とをもとに、測定対象物との距離を測定するステップとを含む。出力するステップは、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更してもよい。出力するステップは、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の高いサブキャリアから低いサブキャリアに順次変更してもよい。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、送信方法である。この方法は、通信対象の通信装置に対して通信処理を実行するための通信モードと、測定対象物を認識するための測定モードとのいずれかを選択するステップと、選択するステップにおいて通信モードが選択されている場合に、送信すべきデータ信号を入力するステップと、入力するステップによって入力されたデータ信号を複数のサブキャリアに対応付けながら、離散フーリエ変換を実行して送信信号を出力するステップと、出力するステップによって出力された送信信号を通信対象の通信装置に向けて送信するステップとを含む。入力するステップは、モード選択部において測定モードが選択されている場合、既知信号を入力し、出力するステップは、入力するステップによって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力し、送信するステップは、出力するステップによって出力されたチャープ信号を測定対象物に向けて送信する。出力するステップは、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更してもよい。出力するステップは、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の高いサブキャリアから低いサブキャリアに順次変更してもよい。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、通信方法である。この方法は、通信対象の通信装置に対して通信処理を実行するための通信モードと、測定対象物を認識するための測定モードとのいずれかを選択するステップと、選択するステップにおいて通信モードが選択されている場合に、送信すべきデータ信号を入力するステップと、入力するステップによって入力されたデータ信号を複数のサブキャリアに対応付けながら、離散フーリエ変換を実行して送信信号を出力するステップと、出力するステップによって出力された送信信号を通信対象の通信装置に向けて送信するステップと、通信対象の通信装置から送信された送信信号を受信するステップと、受信するステップで受信した送信信号を離散フーリエ変換することによって、復調信号を生成するステップと、を含む。入力するステップは、選択するステップにおいて測定モードが選択されている場合、既知信号を入力し、出力するステップは、入力するステップによって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力し、送信するステップは、出力するステップによって出力されたチャープ信号を測定対象物に向けて送信し、受信するステップは、測定対象物によって反射されたチャープ信号を受信し、生成するステップは、受信するステップによって受信されたチャープ信号を順次遅延させながら、合成し、合成されたチャープ信号と送信するステップによって送信されたチャープ信号とをもとに、測定対象物との距離を測定する。出力するステップは、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更してもよい。出力するは、信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の高いサブキャリアから低いサブキャリアに順次変更してもよい。
【0021】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、回路規模を増大させることなく、チャープ信号を生成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施例を具体的に説明する前に、まず、本発明の実施例の概要について述べる。本発明の実施例は、チャープ信号を生成できる測定装置を搭載した通信装置に関する。本発明の実施例にかかる通信装置は、通信機能とレーダ機能を有する。レーダ機能実行時は、通信モードを測定モードに切替えて、測定対象部を測定するためのチャープ信号の生成を実行する。通信装置は、チャープ信号を測定対象物に向けて送信し、その測定対象物から反射されたチャープ信号を受信、合成して、測定対象物を測定する。
【0024】
一般的に、パルスを用いたレーダでは、パルス幅を小さくするほど距離分解能が向上する。しかし、パルス幅を小さくすると、送信エネルギーを抑えたままではパルスエネルギーを大きくすることができないため、レーダエコーのS/N(Signal to Noise ratio)が悪化する問題がある。これを解決するため、パルス圧縮が用いられる。パルス圧縮では、送信時にチャープ信号のような「特定信号」で変調し、スペクトル拡散した広帯域パルスを用い、受信後データ処理の段階で復調することにより高分解能を得る。また、パルス持続時間を長くして総エネルギーを大きくすることでS/Nを向上できる。本実施例においては、特定信号としてチャープ信号を用いる。チャープ信号は、瞬時周波数が時間に比例して増大あるいは減少する波形となる。本実施例におけるチャープ信号は、無線などで用いられるOFDM(Orthgonal Frequency Division Multiplex)信号を使って発生される。
【0025】
OFDMは、マルチキャリア変調方式の一種であって、互いに異なる周波数の搬送波をディジタル変調して得られた多数のディジタル変調信号を加算して複数のサブキャリア信号を生成し、送信する通信方法である。OFDMは、地上波ディジタル放送、IEEE802.11aなどの無線LAN(Local Area Network)、電力線モデムなどの伝送方式に採用されている。FDMでは、高速なデータ信号を低速で狭帯域な複数のデータ信号に変換し周波数軸上で並列に送信するが、OFDMでは、さらに直交性を利用し、周波数軸上でのオーバラップを許容している。複数の搬送波が一部重なりあいながらも、互いに干渉することなく密に並べることができるため、狭い周波数の範囲を効率的に利用した広帯域伝送を実現し、周波数の利用効率を上げることができる。本実施例においては、OFDM信号の中心周波数が異なる各サブキャリアを時系列に沿って単一のサブキャリアだけを発生させ、チャープ信号として出力する。
【0026】
なお、本実施例における通信処理は、UWB(Ultra Wide Band)を対象として説明するが、本発明はこれに限定されない。UWBとは、超広帯域を利用する通信技術である。FCC(米国連邦通信委員会)の規定では、UWBは、10dB比帯域幅が中心周波数の20%以上、または、500MHz以上の帯域幅を使用する無線通信を指すと定義されている。その一方式であるOFDM方式とFH方式(Frequency Hopping)とを組み合わせたMB−OFDM方式(MultiBand OFDM)では、3.1GHz〜10.6GHzの帯域を14バンドに分割し、1バンドあたり528MHzを割り当てる。1バンドは、さらに128本の搬送波からなるOFDM信号で形成されている。この各バンドを高速に切替えることにより、帯域内の平均通信電力を下げ、低電力化を図っている。本発明の実施例においては、この各バンドにおける複数の搬送波を時系列に沿って1本づつ出力することにより、チャープ信号を生成する。各搬送波の反射波を積分することにより、擬似的に大信号のパルス波を使った際の反射波と同様な波形を得ることが可能である。
【0027】
図1は、本発明の実施例にかかる通信システムの構成例を示す図である。通信システム100は、通信装置10と測定対象物20とを含む。通信装置10は、測定モードが選択されている場合、距離を測定する対象である測定対象物20に向けて測定信号を送信する。さらに、測定対象物20から反射された信号を受信して、測定対象物20との間の距離を推定する。
【0028】
ここで、「測定対象物20」は、任意の有体物を含む。たとえば、車両同士の間隔を測定する場合の測定対象物20は、前方を走行している車両となる。また、水面までの距離を測定する場合の測定対象物20は、水、もしくは、水面となる。なお、一般的に、測定対象物20において測定信号が反射する際に、測定対象物20の形状、反射特性などにより、反射される信号が散乱される場合がある。しかし、本実施例における通信装置は、測定対象物20と比較的近距離における状態での測定を想定しているため、散乱による影響は少ない。したがって、本実施例においては、測定対象物20がどのような有体物であるかを問わず、たとえば、測定対象物20との間の距離を測定できる。また、「測定信号」とは、測定を行なう通信装置10において既知の信号を含む。本実施例では、通信装置10が送信した信号を自ら受信するので、送信した信号を記憶しておくことによって、測定信号を任意の信号とできる。
【0029】
図2は、図1の通信装置10の構成例を示す図である。通信装置10は、破線で示す送信処理部60と、モード選択部32と、局部発振部38と、破線で示す受信処理部70と、アンテナ22と、を含む。送信処理部60は、送信信号生成部12と、直交変調部14と、アップコンバータ16と、符号発生部18と、周波数シンセサイザ24とを含む。受信処理部70は、ダウンコンバータ26と、同期捕捉部28と、直交検波部34と、信号処理部36とを含む。
【0030】
モード選択部32は、通信対象の通信装置に対して通信処理を実行するための通信モードと、測定対象物20を認識するための測定モードとの少なくともいずれかを選択する。また、双方のモードを同時に実行させるために、双方のモードを選択してもよい。
【0031】
送信信号生成部12は、モード選択部32において通信モードが選択されている場合、送信すべきデータ信号を生成して、直交変調部14に出力する。また、送信信号生成部12は、モード選択部32において測定モードが選択されている場合、既知信号を生成し、順に逆離散フーリエ変換処理を施して、直交変調部14に出力する。詳細は後述する。
【0032】
また、モード選択部32において双方のモードが選択されている場合、送信信号生成部12は、送信すべきデータ信号と既知信号とを含む信号系列を順次生成し、順に逆離散フーリエ変換処理を施して、直交変調部14に出力する。この場合、送信すべきデータ信号が存在しない場合、たとえば、待ち受け時において、測定信号にかかる既知信号が生成される。また、送信信号生成部12は、逆離散フーリエ変換処理を施す信号に対して、たたみ込み符号化などの誤り訂正符号化、インタリーブなどの処理を実行してもよい。また、送信信号生成部12は、符号化率を変えながら、たたみ込み符号化を行ってもよい。以下、説明を簡易にするために、直交変調部14から出力された信号をデータ信号、もしくは、既知信号と表記する。
【0033】
局部発振部38は、後述する直交変調部14、もしくは、直交検波部34にて用いられる搬送波周波数を発振する。直交変調部14、直交検波部34で用いられる搬送波周波数は、互いに同期がとれており、かつ、同相であれば、それぞれ別個に設けられた局部発振部38によって発振された搬送波周波数を用いてもよい。
【0034】
直交変調部14は、モード選択部32において通信モードが選択されている場合、送信信号生成部12から出力された送信すべきデータ信号を直交変調することによって、変調信号を生成する。また、直交変調部14は、モード選択部32において測定モードが選択されている場合、送信信号生成部12から出力された既知信号を直交変調することによって。また、直交変調部14は、OFDM変調方式にもとづいてデータ信号または既知信号を変調してもよい。データ信号等は、バースト信号の形式を有してもよい。符号発生部18は、擬似ランダム符号信号を生成する。周波数シンセサイザ24は、擬似ランダム符号信号にもとづいて、ランダムにホッピングする搬送波を生成する。
【0035】
アップコンバータ16は、直交変調部14によって生成された変調信号に対して、ランダムにホッピングする搬送波を用いて、周波数ホッピングさせる。モード選択部32において通信モードが選択されている場合、アンテナ22は、変調信号を通信対象の通信装置に向けて送信する。また、モード選択部32において測定モードが選択されている場合、アンテナ22は、測定対象物20に向けて送信する。また、アンテナ22は、測定対象物20によって反射された変調信号を受信する。
【0036】
ダウンコンバータ26は、ランダムにホッピングした搬送波によって、受信した変調信号を周波数変換して、直交検波部34に出力する。ここで、周波数シンセサイザ24によって生成された搬送波の周波数ホッピングパターンと、図示しない通信対象の通信装置の周波数シンセサイザによって生成された搬送波の周波数ホッピングパターンとが一致すれば、ダウンコンバータ26は、正確に受信した信号を周波数変換できる。一方、一致しなければ正確に周波数変換できない。そのため、同期捕捉部28は、受信した信号を正確に周波数変換できるように、周波数シンセサイザ24によって生成される搬送波の周波数ホッピングパターンを受信した信号の周波数ホッピングパターンに同期させる。さらに、同期捕捉部28は、受信した信号のシンボルタイミングの同期も実行し、直交検波部34を制御する。直交検波部34は、ダウンコンバータ26において周波数変換された変調信号を直交検波することによって、変調信号の同相成分に対応すべき信号と、変調信号の直交成分に対応すべき信号とを信号処理部36に出力する。
【0037】
信号処理部36は、モード選択部32において通信モードが選択されている場合、直交検波部34によって出力された信号に対し、離散フーリエ変換処理を行なう。また、信号処理部36は、モード選択部32において測定モードが選択されている場合、直交検波部34によって出力された信号を順次記憶し、合成する。詳細は後述する。
【0038】
これらの構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0039】
図3は、モード選択部32において通信モードが選択されている場合における、本発明の実施例にかかるMB−OFDM方式におけるホッピング周波数の割り当て例を示す図である。図3に示すごとく、ひとつの周波数チャネル、例えば「f1」が528MHzの帯域幅を有しており、同一の帯域幅を有した周波数チャネルが、「f1」から「f3」のように、3つ割り当てられている。通信システム100では、「f1」から「f3」を所定のホッピングパターンに応じて選択し、選択した周波数チャネルによって通信を実行する。また、通信システム100は、ひとつのシンボル単位で周波数ホッピングを実行しており、例えば、「f1」、「f2」、「f3」の順にひとつのシンボル単位で周波数チャネルを切り替える。なお、MB−OFDM方式においてひとつのシンボルは、FFT(Fast Fourier Transform)のポイント数にガードインターバル等を加算したひとつの単位として定義される。
【0040】
図4(a)〜(b)は、モード選択部32において通信モードが選択されている場合において、図2の送信信号生成部12が生成するバーストフォーマットの構成例を示す図である。図4(a)は、MB−OFDM方式におけるバーストフォーマットを示しており、先頭から、「PLCP Preamble」、「PLCP Header」、「Peyload」の順に配置されている。ここで、「PLCP Preamble」はタイミング同期等に使用されるトレーニング信号に相当し、「PLCP Header」は制御信号に相当し、「Peyload」はデータ信号に相当する。それぞれは、所定数のシンボルによって構成されている。また、「PLCP Preamble」、「PLCP Header」に対する伝送速度は、53.3Mbpsあるいは55Mbpsに予め定められているが、「Peyload」に対する伝送速度は、可変に設定される。
【0041】
図4(b)は、「PLCP Header」に含まれる「PHY Header」の構成を示しており、先頭から「Reserved」、「RATE」、「LENGTH」「Reserved」、「Scrambler Init」、「Reserved」の順に配置されている。ここで、「RATE」が「Peyload」の伝送速度を示し、「LENGTH」が「Peyload」のデータ長を示し、「Scrambler Init」がスクランブラの初期値を示す。図1の通信装置10は、「PLCP Header」中の「RATE」を参照して、「Peyload」の伝送速度を認識する。
【0042】
図5は、図2の送信信号生成部12の構成例を示す図である。送信信号生成部12は、入力部30と、第1選択部42と、IFFT44(Inverse FFT)とを含む。入力部30は、モード選択部32において通信モードが選択されている場合に、送信すべきデータ信号を入力する。また、入力部30は、モード選択部32において測定モードが選択されている場合は、既知信号を入力する。
【0043】
第1選択部42は、モード選択部32の選択にしたがって、入力部30から入力された信号を振り分けて、IFFT44に出力する。モード選択部32において通信モードが選択されている場合には、入力部30から入力されたデータ信号を複数のサブキャリアに対応づけながら、後述するIFFT44の各FFTポイントの信号として、IFFT44に出力する。また、モード選択部32において測定モードが選択されている場合、入力部30から入力された既知信号を複数のサブキャリアのうちの1つのサブキャリアとのみ対応づけながら、IFFT44に出力する。いいかえると、既知信号と対応づけられたサブキャリア以外のサブキャリアには「0」の値のデータを対応付け、IFFT44に出力される。ここで、対応づけられるサブキャリアは、IFFT44が実行されるたびに、中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更される。
【0044】
例を用いて具体的に説明する。入力部30が入力する信号の数が16、IFFT44のサブキャリアの本数が4であると仮定する。ここで、モード選択部32において通信モードが選択されている場合、各サブキャリアCk(k=1〜4)には、以下に示す関係で、シンボルdj(j=1〜4)が対応付けされる。
C1={ d1} ・・・式(1−1)
C2={ d2} ・・・式(1−2)
C3={ d3} ・・・式(1−3)
C4={ d4} ・・・式(1−4)
【0045】
IFFT44は、C1〜C4にそれぞれ対応づけられた4つの信号を1組として、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力する。たとえば、モード選択部32において測定モードが選択されている場合、4つのCkにそれぞれ対応づけられたdjを1組として、逆離散フーリエ変換が実行される。この場合、図示しない送信処理部60は、IFFT44によって出力された式(2)に示す信号系列f(t)を順に通信対象の通信装置に送信する。
f(t)=IFFT{ d1、 d2、 d3、 d4} ・・・式(2)
ここで、IFFT{X}とは、Xに対する逆高速離散フーリエ変換処理を示す関数である。
【0046】
一方、モード選択部32において測定モードが選択されている場合、各サブキャリアCk(k=1〜4)は、以下に示す関係で、信号dj(j=1〜4)と対応づけられて、式(3−1)〜式(3−4)が入力される。なお、C1が最も中心周波数が低く、C2、C3、C4の順で中心周波数が高い。また、所定の時間間隔は1とした。
C1={d1、 0、 0、 0} ・・・式(3−1)
C2={ 0、d2、 0、 0} ・・・式(3−2)
C3={ 0、 0、d3、 0} ・・・式(3−3)
C4={ 0、 0、 0、d4} ・・・式(3−4)
【0047】
なお、各式の右辺のかっこ内は、左から順に時間が経過しているものとする。すなわち、t=1における{C1、C2、C3、C4}は、{d1、0、0、0}となり、また、t=2における{C1、C2、C3、C4}は、{0、d2、0、0}となる。
【0048】
また、IFFT44は、式(3−1)〜式(3−4)に対し、逆離散フーリエ変換が実行される。すなわち、式(4−1)〜式(4−4)で示す信号系列f(t)(t=1〜4)が出力される。式(2)と異なり、複数あるサブキャリアのうち、いずれか1つのサブキャリアを除き、0が入力される。なお、f(t)はそれぞれ複数の時間成分を有する信号である。
f(1)=IFFT{ d1、 0、 0、 0} ・・・式(4−1)
f(2)=IFFT{ 0、 d2、 0、 0} ・・・式(4−2)
f(3)=IFFT{ 0、 0、 d3、 0} ・・・式(4−3)
f(4)=IFFT{ 0、 0、 0、 d4} ・・・式(4−4)
【0049】
図6は、図2の送信信号生成部12により出力された送信チャープ信号の第1の特性例を示す図である。横軸は周波数を表す。また、上段の図から下段の図にかけて時間が経過する様子を示している。それぞれの図は、ある時刻における送信信号生成部12の出力信号の周波数分布を示しており、単一のサブキャリアだけを出力させている。これにより、時刻の経過とともに、中心周波数が異なるサブキャリアを発生することができるため、チャープ信号として用いることができる。図7は、図2の送信信号生成部12により出力された送信チャープ信号の第2の特性例を示す図である。上段の図においては、横軸は時間、縦軸は周波数を表す。下段の図においては、横軸は時間、縦軸は振幅を表す。図7は、時間t0からt1までの間に、周波数がΔFだけ増加する場合を示している。
【0050】
図8は、図2の信号処理部36の構成例を示す図である。信号処理部36は、FFT46と、第2選択部48と、記憶部50と、合成部52と、測定部54とを含む。第2選択部48は、モード選択部32から通知されたモードが通信モードである場合は、FFT46から出力された信号をFFT46に出力する。FFT46は、直交検波部34から出力された信号に対して、高速離散フーリエ変換処理を実行する。モード選択部32から第2選択部48に通知されたモードが通信モードである場合は、第2選択部48は、直交検波部34から出力された信号を記憶部50に記憶する。記憶部50は、第2選択部48から出力された信号を順に記憶する。
【0051】
合成部52は、記憶部50にすべての信号が記憶された後に、記憶部50に記憶されたすべてのサブキャリアを合成する。すなわち、逆離散フーリエ変換部において信号系列が対応づけられたサブキャリアが変わるタイミングを一周期とし、受信したチャープ信号を周期ごとに時間を合わせて合成する。時間を合わせて合成するとは、受信部で受信した信号に対し、周期ごとの先頭をあわせて加算することなどを含む。
【0052】
前述した具体例を用いて説明する。送信信号生成部12において式(4〜1)〜式(4−4)に示すチャープ信号が出力され、かつ、ノイズ等の雑音がなかったと仮定した場合、式(5)で示す処理が合成部52においてなされることとなる。式(5)においては、個々の信号の振幅が加算されているため、Y(t)の振幅が増大されることとなる。すなわち、レンジ圧縮がなされ、仮想的に大パルスが得られることとなる。
Y(t) = IFFT{ d1、 0、 0、 0}
+IFFT{ 0、 d2、 0、 0}
+IFFT{ 0、 0、 d3、 0}
+IFFT{ 0、 0、 0、 d4} ・・・式(5)
【0053】
測定部54は、合成部52によって合成された信号と、送信部によって送信された信号とをもとに、測定対象物との距離を測定する。具体的には、合成された信号のうち大きな振幅を有するパルスが発生している時間を測定する。また、送信されたチャープ信号のうち、最後の信号、たとえば、式(4−4)で示す信号が送信された時間を測定する。さらに、それらの時間差を測定する。さらに、合成された信号の周波数を推定し、時間差と周波数とを用いて測定対象物との距離を推定する。
【0054】
図9(a)〜(c)は、図8の信号処理部36における受信チャープ信号の特性例を示す図である。図9(a)は、受信したチャープ信号の時間波形を示す図である。横軸は時間、縦軸は振幅を表す。ここでのチャープ信号は、中心周波数の低い信号から順に送信されたものと仮定している。図9(b)は、受信したチャープ信号の時間と周波数成分との関係を示す図である。時間Twの間に、周波数がΔFだけ変化することを示している。横軸は周波数、縦軸は時間を表す。図9(b)において、周波数の低い信号は、最も遅延時間が大きくなることを示している。受信機においては、最も低い周波数の信号から受信されたときを0とすると、最も高い周波数の信号が受信されるの時間は、Twとなる。すなわち、図9(b)は、最も低い周波数の信号と最も高い周波数とを時間を合わせて合成するためには、先に受信された最も低い周波数の信号を時間Twだけ遅延される必要があることを示している。なお、信号処理部36においては、遅延させるかわりに、記憶させているが、同様の効果が得られることは言うまでもない。図9(c)は、合成部52においてレンジ圧縮したときの時間波形を示す図である。横軸は時間、縦軸は周波数を表す。図9(c)に示すように、チャープ信号をレンジ圧縮することによって、大きな振幅を有するパルスが生成できる。
【0055】
以上の態様により、特定のサブキャリアのみを順に逆離散フーリエ変換することによって、それぞれ中心周波数が異なるサブキャリアを生成できる。また、逆離散フーリエ変換の対象となるサブキャリアを中心周波数の低いほうから順に出力することによって、チャープ信号を生成することができる。また、チャープ信号を順次離散フーリエ変換することによって、順次、単一のサブキャリアからなる信号が生成され、生成されたサブキャリア信号の時間を合わせて合成することによって、大きなパルスを得ることができる。また、通常の通信処理にかかる回路をチャープ信号の生成に流用することによって、チャープ信号の生成処理にかかる回路を新たに追加することなしに、チャープ信号が生成できる。また、モードを切替えることによって、測定処理と通信処理を柔軟に実行することができる。
【0056】
このように、チャープ信号をレーダに用いる場合、最初に反射されて受信した信号から、最後に受信した信号までを、送信側において送信した時間に応じて、それぞれ遅延させて合成することにより、仮想的に1つの大きな短いパルスを作ることができる。さらに、チャープ信号をOFDM方式と同様にそれぞれ直交したサブキャリアを用いることによって、高い平均送信電力による高S/N比と高解像力が両立できることとなる。また、本実施例の測定モードを車載レーダ、通信モードを通常の通信機能とし、それらを統合することにより、衝突防止のための各車両間の距離や障害物の検知などができる。さらに、検知だけでなく、他の車両や標識などと通信を行なうことにより、他の車両の右折、左折や、加速、原則などの各ドライバーの意志情報や道路情報を元に、より安全な運転をサポートしたり、同行している車両とのナビゲート情報を共有したりすることが可能となる。
【0057】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0058】
本発明の実施例においては、送信処理部60は、周波数の低い信号から順に出力することによってチャープ信号を生成するとして説明した。しかしながらこれにかぎらず、送信処理部60は、周波数の高い信号から順に出力することによって生成してもよい。また、本発明の実施例においては、測定部54は、測定対象物20の距離を測定するとして説明した。しかしながらこれにかぎらず、測定対象物20の移動速度を測定してよい。この場合、測定部54は、時間t1において測定した距離と、時間t2において測定した距離との差分を計算する。さらに、測定部54は、距離の差分を時間の差分(t2−t1)で割ることにより、時間t1〜t2における平均移動速度を測定することができる。また、測定部54は、測定対象物20の存在を認識、もしくは、その形状を推定してもよい。この場合、通信装置10は、電波を照射する方向をずらしながら送信する。測定対象物20が電波が照射された方向に存在する場合、測定部54において、パルス信号を認識できる。また、そのパルス信号の大きさなどを測定することにより、測定対象物20の形状を認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例にかかる通信システムの構成例を示す図である。
【図2】図1の通信装置の構成例を示す図である。
【図3】本発明の実施例にかかるMB−OFDM方式におけるホッピング周波数の割り当て例を示す図である。
【図4】図4(a)〜(b)は、図2の送信信号生成部が生成するバーストフォーマットの構成例を示す図である。
【図5】図2の送信信号生成部の構成例を示す図である。
【図6】図2の送信信号生成部により出力された送信チャープ信号の第1の特性例を示す図である。
【図7】図2の送信信号生成部により出力された送信チャープ信号の第2の特性例を示す図である。
【図8】図2の信号処理部の構成例を示す図である。
【図9】図9(a)〜(c)は、図8の信号処理部における受信チャープ信号の特性例を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
10 通信装置、 12 送信信号生成部、 14 直交変調部、 16 アップコンバータ、 18 符号発生部、 20 測定対象物、 22 アンテナ、 24 周波数シンセサイザ、 26 ダウンコンバータ、 28 同期捕捉部、 30 入力部、 32 モード選択部、 34 直交検波部、 36 信号処理部、 38 局部発振部、 42 第1選択部、 44 IFFT、 46 FFT、 48 第2選択部、 50 記憶部、 52 合成部、 54 測定部、 100 通信システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の信号系列を入力する入力部と、
前記入力部によって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力する逆離散フーリエ変換部と、
前記逆離散フーリエ変換部によって出力されたチャープ信号を送信する送信部と、
を備えることを特徴とするチャープ信号生成装置。
【請求項2】
前記逆離散フーリエ変換部は、前記信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の低いサブキャリアから高いサブキャリアに順次変更することを特徴とする請求項1に記載のチャープ信号生成装置。
【請求項3】
前記逆離散フーリエ変換部は、前記信号系列に対応づけるサブキャリアを中心周波数の高いサブキャリアから低いサブキャリアに順次変更することを特徴とする請求項1に記載のチャープ信号生成装置。
【請求項4】
任意の信号系列を入力する入力部と、
前記入力部によって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力する逆離散フーリエ変換部と、
前記逆離散フーリエ変換部によって出力されたチャープ信号を測定対象物に向けて送信する送信部と、
前記測定対象物によって反射されたチャープ信号を受信する受信部と、
前記受信部によって受信されたチャープ信号を順次遅延させながら、合成する合成部と、
前記合成部によって合成されたチャープ信号と、前記送信部によって送信されたチャープ信号とをもとに、前記測定対象物との距離を測定する測定部と、
を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項5】
通信対象の通信装置に対して通信処理を実行するための通信モードと、測定対象物を認識するための測定モードとのいずれかを選択するモード選択部と、
前記モード選択部において通信モードが選択されている場合に、送信すべきデータ信号を入力する入力部と、
前記入力部によって入力されたデータ信号を複数のサブキャリアに対応付けながら、離散フーリエ変換を実行して送信信号を出力する逆離散フーリエ変換部と、
前記逆離散フーリエ変換部によって出力された送信信号を前記通信対象の通信装置に向けて送信する送信部とを備え、
前記入力部は、前記モード選択部において測定モードが選択されている場合、既知信号を入力し、
前記逆離散フーリエ変換部は、前記入力部によって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力し、
前記送信部は、前記逆離散フーリエ変換部によって出力されたチャープ信号を前記測定対象物に向けて送信することを特徴とする送信装置。
【請求項6】
通信対象の通信装置に対して通信処理を実行するための通信モードと、測定対象物を認識するための測定モードとのいずれかを選択するモード選択部と、
前記モード選択部において通信モードが選択されている場合に、送信すべきデータ信号を入力する入力部と、
前記入力部によって入力されたデータ信号を複数のサブキャリアに対応付けながら、離散フーリエ変換を実行して送信信号を出力する逆離散フーリエ変換部と、
前記逆離散フーリエ変換部によって出力された送信信号を前記通信対象の通信装置に向けて送信する送信部と、
前記通信対象の通信装置から送信された送信信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信した送信信号を離散フーリエ変換することによって、復調信号を生成する信号処理部と、
を備え、
前記入力部は、前記モード選択部において測定モードが選択されている場合、既知信号を入力し、
前記逆離散フーリエ変換部は、前記入力部によって入力された信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力し、
前記送信部は、前記逆離散フーリエ変換部によって出力されたチャープ信号を前記測定対象物に向けて送信し、
前記受信部は、前記測定対象物によって反射されたチャープ信号を受信し、
前記信号処理部は、前記受信部によって受信されたチャープ信号を順次遅延させながら、合成し、合成されたチャープ信号と前記送信部によって送信されたチャープ信号とをもとに、前記測定対象物との距離を測定することを特徴とする通信装置。
【請求項7】
任意の信号系列と、複数のサブキャリアのうちのいずれか1つのサブキャリアとを対応づけ、かつ、所定の時間間隔で、信号系列に対応づけられる1つのサブキャリアを複数のサブキャリアのうちの別のサブキャリアに変更しながら、順次、逆離散フーリエ変換を実行してチャープ信号を出力するステップと、
前記出力するステップによって出力されたチャープ信号を送信するステップと、
を含むことを特徴とするチャープ信号生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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