説明

チロシナーゼ突然変異体及びその使用方法

本発明は、新規チロシナーゼタンパク質及びその使用法を述べる。特に、本発明は、チロシナーゼ由来のペプチド及びポリヌクレオチド、及びそれらが免疫応答を惹起し、黒色腫を治療できることを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性タンパク質突然変異体及び可溶性タンパク質突然変異体を使用して疾患又は障害を治療するための方法に関する。特に、本発明は、可溶性チロシナーゼ及び黒色腫の治療におけるその適用に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性黒色腫の発生率は、北米では他のいかなる種類のヒト癌よりも急速に上昇しつつある(Armstrong et al. (1994) Cancer Surv. 19-20: 219-240)。黒色腫は治癒可能な癌であるが、原発腫瘍は疾患進行の極めて初期の段階、すなわち遠隔部位に拡がる前に除去しなければならない。微小転移巣の存在が最終的な症候性転移に至る可能性があり、またしばしば実際に症候性転移へと至る。それ故、黒色腫を治療するための治療法を考案する必要がある。
【0003】
従って、本発明者らは、チロシナーゼ膜貫通ドメインの存在下と不在下でチロシナーゼの球状ドメインの折りたたみ経路を検討した。チロシナーゼ(モノフェノール、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン:酸素酸化還元酵素、EC1.14.18.1)は、ER品質管理機構の存在下での成熟が広く実証されているI型膜糖タンパク質である(Petrescu et al.,2000 ; Halaban et al., 1997; Toyofuku et al., 2001; Branza-Nichita et al., 2000)。チロシナーゼは一般に色素産生細胞(メラノサイト)に限定されており、黒色腫における分化抗原である。意外にも、本発明者らは、その膜貫通ドメインを欠く可溶性チロシナーゼ突然変異体がER内に残留することを発見した。この突然変異体はプロテアソームにより分解され、MHCクラスI分子により細胞表面に提示される。
【0004】
真核細胞における可溶性及び膜結合糖タンパク質の折りたたみは、新生ポリペプチド鎖がトランスロコンの孔を通してER内腔に転位する間に始まる(Hardesty et al., 1999)。この工程は、ER常在シャペロンの存在下での折りたたみと再折りたたみの反復工程により翻訳後も継続し、ERを出ることができる生成物を生じる(Trombetta and Helenius, 1998, Chen and Helenius, 2000)。誤って折りたたまれ、不適切に構築されたタンパク質は、通常は細胞質に逆転位されてプロテアソームにより分解される(Brodsky, 1997)。
【0005】
アンカーのない(可溶性)タンパク質と膜結合タンパク質の折りたたみ経路は、膜貫通ドメイン(TM)の脂質二重層への挿入に関連する事象のため実質的に異なり得る。トランスロコンは、転位の間それ自体がタンパク質鎖のためのシャペロンとして作用する保護的及び限定的環境をもたらすことが知られている(Chen and Helenius, 2000)。最近、TMは直接ER脂質二重層に入り込むことができないことが示された(Mothes et al., 1997)。その代わりに、TMドメインは合成時に水性チャネル内に放出され、側方拡散により脂質二重層に挿入される。拡散工程が起こる効率と速度はTMドメインの疎水性に依存する(Heinrich et al., 2000)。例えばTM領域の疎水性が低いときは、新生鎖がより長期間トランスロコン内に保持され得る。それ故、新生鎖がトランスロコンの内部又は付近に存在する時間はTM領域のアミノ酸組成に依存し得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの所見に基づき、本発明者らは、TMドメインが転位の間に起こる折りたたみに関連する事象の駆動因子として働き得るという理論を立てた。ER内腔における新生鎖の折りたたみは、レクチンシャペロン、カルネキシン(CNX)及びカルレティキュリン(CRT)によるモノグルコシル化N−グリカンの認識に基づく品質管理機構により厳密に調節される(Helenius and Aebi, 2001 ; Schrag et al., 2001)。試験は、品質管理機構が脂質二重層内へのTMドメインの組込みも監視することを示しているが(Cannon and Creswell, 2001)、膜タンパク質の折りたたみ工程におけるTMドメインの役割についてはほとんど知られていない。
【0007】
TMドメインの役割をさらに検討するため、本発明者らは、輸送がERレベルで停止するヒトチロシナーゼ突然変異体を構築した。換言すると、この突然変異型チロシナーゼは誤って折りたたまれ、品質管理機構によりER内に残留する。そこで、突然変異体型チロシナーゼは分解のためにプロテアソームへと逆転位され、分解後、生じたペプチドはMHCクラスI分子により細胞表面に提示される。それ自体で、本発明の突然変異型チロシナーゼは、黒色腫細胞に対するCTLの免疫応答を増強するように設計されたワクチン薬として黒色腫免疫療法において使用しうる。
【0008】
免疫応答の1つの重要な態様は、特にそれがワクチン効能に関連する場合、抗原が免疫系の特異細胞により認識され得るようにプロセシングされる方法である。他の抗原プロセシング及び提示経路が利用され、それ故、それぞれヘルパーTリンパ球又は細胞傷害性Tリンパ球に対するMHCクラスII又はクラスI分子による特定抗原の細胞表面提示は、抗原プロセシング経路に依存する。
【0009】
1つの経路は、細胞内部で発現される内因性抗原を処理するサイトゾル経路である。前記抗原は細胞のサイトゾル内で特殊なプロテアーゼ複合体により分解され、生じた抗原ペプチドは小胞体内へと輸送される。これによりMHCクラスI分子への抗原結合が生じる。交差提示により、外来抗原は専門抗原提示細胞の細胞質内でプロセシングされて、MHCクラスI分子に結合しうる。
【0010】
他の経路は、サイトゾルを回避する小胞体経路である。小胞体内で、抗原ペプチドはMHCクラスI分子に結合し、その後細胞表面に輸送されて免疫系の細胞傷害性Tリンパ球に提示される。いくつかの研究により、免疫系による癌の発生と根絶の両方における細胞傷害性T細胞の決定的役割が指摘されている(Byrne et al., J. Immunol. 51: 682 (1984); McMichael et al., N. Engl. J. Med. 309: 13 (1983))。
【0011】
3番目の経路は、細胞の外部に存在する抗原を処理する、専門抗原提示細胞内で起こるエンドサイトーシス経路であり、これはMHCクラスII分子への抗原結合を生じさせる。そのような抗原はエンドサイトーシスにより細胞内に取込まれ、抗原はエンドソームへ、そして次にリソソームへと運ばれる。その後、抗原はプロテアーゼにより抗原ペプチドに分解されてMHCクラスII分子と結合し、免疫系のヘルパーTリンパ球への提示のために細胞表面へと輸送される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、小胞体内に蓄積しうる可溶性チロシナーゼ突然変異体を含むポリペプチドを考慮する。好ましくは、前記チロシナーゼ突然変異体はカルネキシンに対する親和性が低い。また、チロシナーゼ突然変異体は、膜貫通ドメイン又は少なくとも1つのグリコシル化部位を欠くことが好ましい。最も好ましくは、チロシナーゼ突然変異体は、配列番号1のポリヌクレオチド又はその変異体、好ましくは保存的に置換された変異体又は欠失断片によりコードされる。
【0013】
関連して、小胞体内に蓄積しうる可溶性チロシナーゼ突然変異体である黒色腫抗原をコードするポリヌクレオチドについても述べる。好ましくは黒色腫抗原をコードするポリヌクレオチドは、膜貫通ドメイン又は少なくとも1つのグリコシル化部位を欠く。また、前記チロシナーゼ突然変異体はカルネキシンに対する親和性が低いことが好ましい。最も好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1において特定される配列を含む。
【0014】
また本発明では、小胞体内に蓄積しうる可溶性チロシナーゼ突然変異体を含む免疫原性組成物を開示する。好ましくは、前記可溶性チロシナーゼ突然変異体は、膜貫通ドメインを持たず、配列番号1のポリヌクレオチドによりコードされるか又はその変異体である。同様に、可溶性チロシナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチド及び製薬上許容される担体を含むワクチンについても説明する。
【0015】
もう1つの実施形態では、可溶性チロシナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を考慮する。好ましくは、前記ポリヌクレオチドは、配列番号1に示す配列又はその変異体を含む。
【0016】
可溶性チロシナーゼ突然変異体をコードするポリペプチド又はポリヌクレオチドを抗原提示細胞に投与すること及び細胞傷害性リンパ球免疫応答を惹起することを含む、黒色腫を治療するための方法、及び膜貫通ドメインを欠くトランケート型ヒトチロシナーゼを構築することを含む、可溶性チロシナーゼ突然変異体を作製するための方法も述べる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(緒言)
ヒトチロシナーゼはI型膜糖タンパク質であり、533個のアミノ酸、7個の結合N−グリコシル化部位、2つのシステインに富むドメインに分類される17個のシステイン残基、2つの銅結合ドメイン及び1つのC末端TMドメインがある(Ujvari et al., 2001)。本発明者らは、膜貫通(TM)ドメインがないトランケート型ヒトチロシナーゼを構築した。TMドメインがない場合、ER内腔の鎖は天然高次構造へと折りたたまれなかった。しかし、翻訳速度を低下させると、活性タンパク質を生じる、トランケート型鎖の生産的折りたたみが起こることが示された。酵素的に活性な可溶性チロシナーゼは低温でも生産され、どちらの場合も、生産的折りたたみは初期段階のCNX相互作用に関連していた。この証拠により、フォールディング及び鎖をトランスロコン環境に保持し、それによりそのCNXとの相互作用を促進することにおけるTMドメインの役割が裏付けられた。
【0018】
チロシナーゼは、腫瘍抗原を生成する黒色腫細胞において構成的に発現される。野生型チロシナーゼは分泌経路を通って輸送され、メラノソームを標的とする。本発明者らは、その輸送が小胞体(ER)で停止するヒトチロシナーゼ突然変異体を構築した。この誤って折りたたまれたタンパク質は品質管理機構によりER内に残留し、プロテアソームで分解されるために逆転位する。細胞質分解後、生じたペプチドはMHCクラスI分子により細胞傷害性Tリンパ球(CTL)に提示される。本発明の突然変異型チロシナーゼは、それ自体で、黒色腫細胞に対するCTLの免疫応答を増強するように設計されたワクチン薬として黒色腫免疫療法において使用しうる。
【0019】
チロシナーゼは正常メラノサイト、黒色腫細胞及び網膜色素上皮細胞(RPE)において発現されるが、本発明の突然変異型チロシナーゼをコードする核酸を送達するワクチンは、それでもやはり、黒色腫を治療するのに適する。それ故、ワクチン薬は正常メラノサイトと異常メラノサイトを共に標的すると考えられるが、ヒトはメラノサイトなしでも生存しうる(Marks et al., Immunologic Research, 27,409-425(2003))。例えばワクチン接種は、重大な健康上の懸念をもたらさない皮膚色素沈着疾患である、白斑として知られる状態を生じさせることがある。
【0020】
ここで述べる黒色腫抗原又は免疫原は、患者、例えばヒト又は他の哺乳動物において、細胞傷害性T細胞免疫応答を生じさせることができる可溶性チロシナーゼ突然変異体又はその断片を包含する。好ましくは、前記可溶性チロシナーゼ突然変異体はER内に残留し、膜貫通ドメインがない。
【0021】
黒色腫という用語は、黒色腫、転移性黒色腫、メラノサイト又はメラノサイト関連母斑細胞に由来する黒色腫、黒色癌、黒色上皮腫、黒肉腫、表皮内黒色腫、表在拡大型黒色腫、結節性黒色腫、悪性黒子型黒色腫、末端部黒子黒色腫、侵襲性黒色腫又は家族性異型母斑及び黒色腫症候群を含むが、これらに限定されない。
【0022】
(組成物)
本発明では、CTL免疫応答を惹起するのに適した可溶性チロシナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチド及び場合により製薬上適切な賦形剤を含む、免疫原性組成物を考慮する。標的細胞への免疫原性組成物の送達後、発現された本発明のチロシナーゼは小胞体内に保持され、分解されて、その後抗原提示のためにMHCクラスIにより細胞表面に提示される。好ましくは、可溶性チロシナーゼ突然変異体は膜貫通ドメインを欠く。最も好ましくは、前記可溶性チロシナーゼ突然変異体は配列番号1に示す核酸配列又はその変異体を含む。
【0023】
本発明では、1又はそれ以上のグリコシル化部位を欠くチロシナーゼ突然変異体について説明する。そのような突然変異体は、カルネキシン(グリカンに結合する)と相互作用することができず、誤って折りたたまれたポリペプチドを生じるので、ER内に残留して小胞体関連分解(ERAD)により分解されると考えられる。これらのグリコシル化突然変異体は膜貫通ドメインを含んでいても含んでいなくてもよい。他の適切なチロシナーゼ突然変異体は、ERADを誘導できる限りは、チロシナーゼcDNA配列の欠失または挿入により得ることができる。
【0024】
例えば81位のグリカン1個を欠くチロシナーゼ突然変異体(Tyrmut1)は、ER内に残留する。実際に、チロシナーゼは、正しい折りたたみに関してグリカンとカルネキシンの相互作用に依存しており、それ故、特定残基におけるグリカン結合を妨げることは誤った折りたたみとER残留を引き起こし得る。
【0025】
同様に、白皮症はチロシナーゼミスフォールディングの疾患とみなされ、それ故この疾患の個人により発現されるチロシナーゼはER内に残留する。白子では黒色腫の発生率が低いので、これは、HLA複合体に関連して提示されるチロシナーゼ突然変異体が、黒色腫細胞により提示されるチロシナーゼ抗原に対するトレランスを打破することを示唆する。
【0026】
他のチロシナーゼ突然変異体は、ER残留シグナルを含むもう1つ別のタンパク質の膜貫通ドメインで固定され得る。そのようなキメラチロシナーゼ突然変異体によりER残留プロフィールを有するタンパク質が生じる。これらの突然変異体はまた、付加的に少なくとも1つのグリコシル化部位を欠く。
【0027】
本発明はまた、T細胞により認識される新規黒色腫抗原をコードする核酸配列を記載する。ここで開示する黒色腫抗原は、好ましくはER内に残留し、及び膜貫通ドメインがない可溶性突然変異型チロシナーゼ又はその断片である。好ましくは、その核酸配列は、配列番号1に示す配列を含む。
【0028】
黒色腫を治療するときに使用するための、本発明のチロシナーゼ突然変異体をコードする核酸配列又はその断片を含む黒色腫ワクチン、又は本発明の可溶性チロシナーゼ突然変異体又は前記チロシナーゼ突然変異体に由来する免疫原性ペプチドを含むワクチンもここで開示する。また、本発明のワクチンは、製薬上許容される担体中で投与し得る。製薬上許容される担体は、典型的には、製薬佐剤を含む当業者に公知の担体を包含する。一般に、これらの製薬上許容される担体は、水、食塩水、緩衝液及び、例えばthe MERCK INDEX,Merck & Co.,Rahway,N.J.に記載された他の化合物を含む。また、Bioreversible Carriers in Drug Design,Theory and Application,Roche (ed.),Pergamon Press,(1987)も参照のこと。様々な考察、例えばGilman et al.(eds)(1990)Goodman and Gilman's: The Pharmacological Bases of Therapeutics,8th Ed.,Pergamon Press;Novel Drug Delivery Systems,2nd Ed.,Norris(ed.)Marcel Dekker Inc.(1989)及びRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載されており、それらの開示全体が参照してここに組み込まれる。
【0029】
本明細書記載のワクチン製剤は、ヒトの前に最初に動物モデルにおいて又は非ヒト霊長動物において評価し得る。ワクチン効能を判定するために患者の免疫応答を評価するには、従来方法を使用する。
【0030】
本発明はまた、本発明に記載するポリヌクレオチド及びポリペプチドの変異体を考慮する。1つの実施形態では、配列番号1に開示するポリヌクレオチドの変異体を本発明における使用のために考慮する。ここで使用する「変異体」は、特定遺伝子又はタンパク質の標準又は所与のヌクレオチド又はアミノ酸配列から逸脱しているヌクレオチド又はアミノ酸配列を意味すると理解される。「アイソフォーム」、「アイソタイプ」及び「類似体」という用語も、ヌクレオチド又はアミノ酸配列の「変異体」形態を指す。1又はそれ以上のアミノ酸の付加、除去又は置換により変化したアミノ酸配列、又はヌクレオチド配列における変化は、「変異体」配列とみなし得る。「変異体」は、置換されたアミノ酸が類似の構造又は化学特性を有する、「保存的」変化、例えばイソロイシンによるロイシンの置換を有し得る。変異体は、「非保存的」変化、例えばトリプトファンによるグリシンの置換を有し得る。類似の小さな変異はまた、アミノ酸欠失又は挿入又はその両方を含み得る。いずれのアミノ酸残基を置換、挿入又は欠失させ得るかを判定するときの指針は、当技術分野で周知のコンピュータプログラム、例えばVector NTI Suite(InforMax,MD)ソフトウエアを使用して見出し得る。
【0031】
本発明の保存的変異体は、一般にチロシナーゼ突然変異体の全体的分子構造を保持する。開示するチロシナーゼ突然変異体を含む個々のアミノ酸配列の性質を考慮すると、ある程度合理的な置換が明らかになる。アミノ酸置換、すなわち「保存的置換」は、例えば極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性及び/又は関与する残基の両親媒性の類似性に基づいて実施し得る。
【0032】
例えば:(a)非極性(疎水性)アミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンを含む;(b)極性中性アミノ酸は、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンを含む;(c)正の電荷を持つ(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リシン及びヒスチジンを含む;及び(d)負の電荷を持つ(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含む。置換は、典型的には(a)−(d)のグループ内で実施し得る。加えて、グリシンとプロリンは、α−らせんを切断する能力に基づいて互いに置換し得る。同様に、一部のアミノ酸、例えばアラニン、システイン、ロイシン、メチオニン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン及びリシンはα−へリックスでより一般的に認められるが、一方バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン及びトレオニンはβ−プリーツシートにおいてより一般的に認められる。グリシン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン及びプロリンは一般にターンにおいて認められる。一部の好ましい置換は、以下のグループ:(i)SとT;(ii)PとG;及び(iii)A、V、L及びIの中で実施し得る。公知の遺伝暗号、及び組換え及び合成DNA手法を考慮すると、熟達した科学者は、保存的アミノ酸変異体をコードするDNAを容易に構築できる。
【0033】
「変異体」はまた、Maxygenに譲渡された特許に記載されたような「シャッフル遺伝子」に言及する。例えば本発明の変異体は、その全体が参照してここに組み込まれる、米国特許第6,132,970号に開示されている方法及び論拠に従って修飾される配列の変異体及び所望ポリヌクレオチドを含み得る。
【0034】
同様に、本発明において開示するポリヌクレオチド及びポリペプチド変異体は、可溶性チロシナーゼ突然変異体をコードする核酸又はその断片、又は可溶性チロシナーゼ突然変異型ポリペプチド又はその断片に、それぞれ少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の配列同一性を有する、あるいは低、中又は高ストリンジェント条件下で可溶性チロシナーゼ突然変異体をコードする核酸又はその断片にハイブリダイズする、ポリヌクレオチド及びポリペプチドを含む。ハイブリダイゼーションの方法は当業者に周知である(例えばAusubel, et al. (1997) Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York N. Y. , Units 2.8-2. 11,3. 18-3.19 and 4-6-4.9.参照)。完全に相補的なプローブと標的がハイブリダイズしうる、すなわち各々の塩基対がその相補的塩基対と相互作用するはずである、ハイブリダイゼーションのための条件を選択しうる。あるいは、プローブと標的が約10%までのミスマッチを有するが、まだハイブリダイズしうる条件を選択し得る。適切な条件は、例えばプレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション及び洗浄溶液中の塩の濃度を変化させることにより、又はハイブリダイゼーション及び洗浄温度を変化させることにより選択しうる。一部の基質に関しては、ホルムアミドをプレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーション溶液に添加することにより温度を下げることができる。ハイブリダイゼーションは、プローブと多少のミスマッチを含む標的配列の間のハイブリダイゼーションを許容して、プローブ/標的複合体を形成させる、60℃で1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と5×SSCなどの緩衝液による低緊縮で実施しうる。その後の洗浄は、完全に相補的な配列を含むプローブ/標的複合体だけのハイブリダイゼーションを維持するために、45℃(中緊縮)又は68℃(高緊縮)のいずれかの温度で0.1%SDSと0.2×SSCなどの緩衝液によるより高緊縮下で実施する。バックグラウンドシグナルは、SDS、サルコシル又はトリトンX−100等の界面活性剤、又はサケ精子DNA等の阻害剤を用いると低下し得る。
【0035】
本発明の使用のためのワクチン及び免疫原性組成物は、場合により、1又はそれ以上の生理的に許容される担体又は賦形剤を用いて慣例的に製剤し得る。それ故、それらは吸入又はガス注入(経口又は経鼻のいずれか)による投与、あるいは経口、口腔、非経口又は直腸投与用に製剤し得る。好ましい実施形態では、医薬組成物を非経口投与用に製剤する。
【0036】
経口投与については、本発明の組成物は、例えば、製薬上許容される賦形剤、例えば結合剤(例えばプレゼラチン化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース);増量剤(例えばラクトース、微結晶セルロース又はリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、滑石又はシリカ);崩壊剤(例えばジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウム);又は湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)と共に従来手段により製造される錠剤又はカプセルの形態をとり得る。錠剤は、当技術分野において周知の方法により被覆し得る。経口投与のための液体製剤は、例えば溶液、シロップ又は懸濁液の形態をとり得るか、又は使用前に水又は他の適切なビヒクルで再溶解するための乾燥製品として提供され得る。そのような液体製剤は、製薬上許容される添加物、例えば懸濁化剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は硬化食用油);乳化剤(例えばレシチン又はアカシア);非水性ビヒクル(例えばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコール又は分留植物油);及び防腐剤(例えばメチル又はプロピル−p−ヒドロキシベンゾエート又はソルビン酸)と共に従来手段により製造され得る。製剤はまた、適宜に緩衝塩、着香料、着色料及び甘味料も含み得る。
【0037】
経口投与用の製剤は、活性化合物の制御放出を生じさせるように適切に製剤し得る。口腔投与に関しては、組成物は、慣例的に製剤された錠剤又はロゼンジの形態をとり得る。
【0038】
吸入による投与については、本発明のチロシナーゼ突然変異体は、適切な推進薬、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切なガスを使用して、加圧パック又はネブライザからエーロゾルスプレーの形態で好都合に送達される。加圧エーロゾルの場合、定量を送達するための弁を備えることにより投与単位を決定し得る。例えば吸入器又はガス注入器における使用のためのゼラチンのカプセル及びカートリッジは、化合物と適切な粉末基剤、例えばラクトース又はデンプンの粉末混合物を含むように製剤し得る。
【0039】
上記のように、本発明の可溶性チロシナーゼ突然変異体は、好ましくはボーラス注射又は持続注入等の注射による非経口投与用に製剤される。注射用製剤は、添加される防腐剤と共に、単位投与形態、例えばアンプル又は複合投与容器として提供し得る。組成物は、懸濁液、溶液あるいは油性又は水性媒質中の乳剤などの形態をとり得、製薬製剤、例えば懸濁化剤、安定剤及び/又は崩壊剤を含有し得る。あるいは、有効成分は、使用前に適切なビヒクル、例えば無菌発熱物質不含水で再溶解するための粉末形態であり得る。
【0040】
化合物はまた、例えば従来坐薬基剤、例えばココアバター又は他のグリセリドを含む、坐薬又は停留浣腸などの直腸組成物として製剤し得る。
【0041】
先に述べた製剤に加えて、本発明のチロシナーゼ突然変異体はまた、デポー剤としても製剤し得る。そのような長時間作用性製剤は、移植により(例えば皮下又は筋肉内)又は筋肉内注射により投与し得る。そこで、例えば化合物は、適切な高分子又は疎水性材料(例えば許容される油中の乳剤として)又はイオン交換樹脂で、又は難溶性誘導体として、例えば難溶性塩として、製剤し得る。
【0042】
所望の場合、組成物は有効成分を含む1又はそれ以上の単位投与形態を含み得るパック又は配薬装置として提供し得る。前記パックは、例えば金属又はプラスチック箔、例えばブリスターパックを含み得る。パック又は配薬装置には投与のための指示書を添付し得る。
【0043】
また本発明では、本発明の可溶性チロシナーゼ突然変異体タンパク質のヌクレオチド配列を含むDNA構築物を述べる。好ましい実施形態では、チロシナーゼヌクレオチド配列は、配列番号1に示す核酸配列又はその変異体である。
【0044】
組換えタンパク質の生産は当技術分野において周知であり、以下で簡単に概説する。
【0045】
細菌での使用のための有用な発現ベクターは、所望タンパク質をコードする構造DNA配列を適切な翻訳開始及び終結シグナルと共に、機能性プロモーターを伴う作動可能な読み枠内に挿入することにより構築される。ベクターは、1又はそれ以上の表現型選択マーカー及び、ベクターの維持を確実にし、所望する場合は、宿主内での増幅を提供するための複製起点を含む。形質転換のための適切な原核生物宿主は、大腸菌、枯草菌(Bacillus subtilis)、ネズミチフス菌及びシュードモナス属、ストレプトミセス属及びブドウ球菌属内の様々な種を含むが、それ以外も、選択できる物質として使用し得る。好ましい実施形態では、原核細胞宿主は大腸菌である。
【0046】
細菌ベクターは、例えばバクテリオファージ、プラスミド又はコスミドベースであり得る。これらのベクターは、典型的には周知のクローニングベクターpBR322(ATCC37017)のエレメントを含む市販のプラスミド由来の選択マーカー及び細菌複製起点を含み得る。そのような市販ベクターは、例えばGEM1(Promega Biotec,Madison,WI,USA)、pBs、phagescript、PsiX174、pBluescript SK、pBs KS、pNH8a、pNH16a、pNHl8a、pNH46a(Stratagene);pTrc99A、pKK223−3、pKK233−3、pKK232−8、pDR540及びpRIT5(Pharmacia)を含む。本発明の好ましいベクターは、pTriex(Novagen)である。
【0047】
これらの「骨格」部分を適切なプロモーター及び発現しようとする構造配列と結合する。細菌プロモーターは、lac、T3、T7、ラムダPR又はPL、trp及びaraを含む。T7は好ましい細菌プロモーターである。
【0048】
適切な宿主菌株の形質転換及び宿主菌株の適切な細胞密度への増殖後、選択したプロモーターを適切な手段(例えば温度シフト又は化学的誘導)により抑制解除/誘導し、細胞をさらなる期間培養する。細胞を、典型的には遠心分離により収集し、物理的又は化学的手段により破砕して、生じた粗抽出物をさらなる精製のために保持する。
【0049】
様々な哺乳動物細胞培養系も組換えタンパク質を発現するために用いうる。哺乳動物発現系の例は、選択マウスL細胞、例えばチミジンキナーゼを欠く(TK−)細胞及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠如(APRT−)細胞を含む。他の例はGluzman,Cell 23:175(1981)に記載されている、サル腎線維芽細胞のCOS−7系統及び適合性ベクターを発現しうる、C127、3T3、CHO、HeLa及びBHK細胞系等の他の細胞系を含む。哺乳動物発現ベクターは、複製起点、適切なプロモーター及びエンハンサー及び又必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライス供与及び受容部位、転写終結配列及び5'フランキング非転写配列を含む。SV40ウイルスゲノムに由来するSV40起点、初期プロモーター、エンハンサー、スプライス部位及びポリアデニル化部位等のDNA配列は必要な非転写遺伝子エレメントを提供するために用い得る。
【0050】
哺乳動物プロモーターは、CMV初期、HSVチミジンキナーゼ、初期及び後期SV40、レトロウイルスからのLTR及びマウスメタロチオネイン−Iを含む。例示的な哺乳動物プロモーターは、pWLneo、pSV2cat、pOG44、pXTl、pSG (Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG及びpSVL(Pharmacia)を含む。好ましい実施形態では、哺乳動物発現ベクターはpTriexである。
【0051】
哺乳動物宿主細胞では、多くのウイルスベースの発現系を使用し得る。アデノウイルスを発現ベクターとして使用する場合は、対象とするコード配列をアデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例えば後期プロモーター及びトリパータイトリーダー配列に連結し得る。このキメラ遺伝子を、次に、インビトロ又はインビボ組換えによりアデノウイルスゲノム内に挿入し得る。ウイルスゲノムの非必須領域(例えばE1又はE3領域)への挿入は、成育可能であり、感染宿主において標的タンパク質を発現できる組換えウイルスを生じさせる(例えばLogan et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 3655-3659参照)。
【0052】
本発明の核酸配列はまた、正常及び疾患組織におけるチロシナーゼの発現を検出するためのプローブとしての使用に適する。それ故、本発明のもう1つの態様は、生物学的試料を、核酸と試料mRNAの間のハイブリダイゼーションを許容する条件下で核酸配列と接触させること、及びその後複合体を検出することを含む、生物学的試料においてチロシナーゼをコードするmRNAを検出するためのバイオアッセイに関する。
【0053】
バイオアッセイにおける複合体の検出も、様々な手法により実施できる。シグナル増幅による複合体の検出は、放射性標識及び酵素を含むいくつかの従来の標識手法により実施できる(Sambrook et. al. , (1989) in "Molecular Cloning, A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Press, Plainview, N. Y.; Ausubel et al. , (1987) in "Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, New York N. Y.)。放射性標識キットも市販されている。バイオアッセイにおけるプローブとして使用する突然変異型チロシナーゼ核酸配列は、RNA又はDNAであり得る。DNA配列を標識する好ましい方法は、クレノウ酵素又はポリヌクレオチドキナーゼを用いて32Pで実施する。RNA又はリボプローブ配列を標識する好ましい方法は、RNAポリメラーゼを使用して32P又は35Sで実施する。加えて、化学成分をピリミジン及びプリン環に結合するための方法(Dale, R. N. K. et al. (1973) Proc. Natl. Acad. Sci. , 70:2238-2242 ; Heck, R. F. (1968) S. Am. Chem. Soc., 90 : 5518-5523)、化学発光による検出を可能にする方法( Barton, S. K.et al. (1992) J. Am. Chem. Soc., 114 : 8736-8740)及びビオチニル化核酸プローブを利用する方法(Johnson,T,. K. et al. (1983) Anal. Biochem.,133 :125-131 ; Erickson, P. F. et al. (1982) J. of Immunology Methods, 51: 241-249; Matthaei, F. S.et al. (1986) Anal. Biochem. , 157: 123-128)及び市販製品を使用して蛍光による検出を可能にする方法を含む、シグナル増幅のための公知の非放射性手法がある。非放射性標識キットも市販されている。
【0054】
このバイオアッセイにおいて使用できる生物学的試料の例は、一次哺乳動物培養、連続継代細胞系、例えばメラノサイト細胞系、哺乳動物器官、例えば皮膚又は網膜、組織、生検標本、新生物、病理標本及び剖検標本を含むが、これらに限定されない。
【0055】
もう1つの実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチド及びそれらの変異体は、可溶性チロシナーゼ抗原に対するモノクローナル抗体を作製するために使用できる。これらの抗体は、例えば免疫組織染色によるチロシナーゼ検出において使用できる。それ故、本発明の抗体は診断試薬として使用しうる。
【0056】
モノクローナル抗体(MAb)は特定抗原に対する抗体の均一な個体群であり、前記抗体は、ただ1つの型の抗原結合部位だけを含み、抗原決定基上の1個のエピトープだけに結合する。特異抗原に対するげっ歯動物モノクローナル抗体は、当業者に公知の方法により入手し得る。例えばKohler and Milstein, Nature 256 : 495 (1975), and Coligan et al.(eds.), CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY, VOL. 1, pages 2.5. 1- 2.6. 7 (John Wiley & Sons 1991)参照。
【0057】
(治療方法)
本発明はまた、修飾チロシナーゼcDNAを投与することを含む、黒色腫を治療するための方法を開示する。ここに記載する修飾チロシナーゼは、トランスフェクト/形質導入抗原提示細胞(APC)のER内に残留する可溶性チロシナーゼ突然変異体である。このタンパク質はその後プロセシングされ、それに由来する抗原性ペプチドはAPC上のHLA分子と複合体を形成する。これらの複合体は、その後、溶解のために異常細胞を標的する細胞傷害性T細胞に認識される。
【0058】
好ましい実施形態では、可溶性チロシナーゼのDNAは、可溶性チロシナーゼを発現し、チロシナーゼ抗原性ペプチドをHLA複合体に対して提示する、専門抗原提示細胞(例えば樹状細胞)に送達される。これは、黒色腫細胞により提示されるチロシナーゼ抗原に対するトレランスを阻止する特異的CTLクローンのプライミングを増強する。
【0059】
上記のように、黒色腫を治療するためのワクチンについて記載する。ワクチン接種は従来方法により実施しうる。例えば、免疫原を適切な希釈剤、例えば食塩水又は水、あるいは完全又は不完全アジュバント中で用いうる。さらに、免疫原は、タンパク質を免疫原性にするための担体に結合していてもよく又は結合していなくてもよい。そのような担体分子の例は、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風毒素等を含むがこれらに限定されない。免疫原はまた、リポタンパク質と結合してもよく、あるいはリポソーム形態で又はアジュバントと共に投与してもよい。免疫原は、抗体産生のための適切な経路により、例えば静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下等の経路により投与できる。免疫原は、1回又は有意の力価の抗チロシナーゼ免疫細胞又は抗チロシナーゼ抗体が産生されるまで定期的間隔で投与し得る。抗チロシナーゼ免疫細胞の存在は、CTL前駆体分析アッセイ(Coulie, P. et al. , (1992) International Journal Of Cancer 50: 289-297)により、免疫前及び免疫後のチロシナーゼ抗原に対する前駆体CTL(細胞傷害性Tリンパ球)の頻度を測定することにより評価し得る。
【0060】
本発明のワクチン又は免疫原の投与は治療を目的とし得る。免疫原は、疾患の発症時(又は発症後まもなく)又は疾患の何らかの症状の発現時に与える。免疫原の治療的投与は、疾患を減衰させるのに役立つ。
【0061】
例として、組換え可溶性チロシナーゼタンパク質又はペプチド発現ベクターを用いて製造したワクチンを使用し得る。ワクチンを個体に与えるために、可溶性チロシナーゼ突然変異体核酸配列の全部又は一部をコードする遺伝子配列を上記のように発現ベクター内に挿入し、免疫する哺乳動物に導入する。上記ワクチンにおいて使用し得るベクターの例は、欠損レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、鶏痘ウイルスベクター又は他のウイルスベクターを含むがこれらに限定されない(Mulligan, R. C. , (1993) Science 260: 926-932)。可溶性チロシナーゼ突然変異体核酸配列の全部又は一部を担持するウイルスベクターを、黒色腫の何らかのエビデンスに先立ち又は黒色腫に罹患した哺乳動物において疾患の減退を介するため哺乳動物に導入しうる。ウイルスベクターを哺乳動物に投与するための方法の例は、生体外でのウイルスへの細胞の暴露、あるいは罹患組織へのレトロウイルス又はウイルス産生細胞系の注入又はウイルスの静脈内投与を含むがこれらに限定されない。あるいは、可溶性チロシナーゼ突然変異体核酸配列の全部又は一部を担持するウイルスベクターを、黒色腫病巣への直接注入により又は製薬上許容される担体中での局所適用により、局所的に投与してもよい。好ましくは、本発明における使用に適する可溶性チロシナーゼ核酸は、配列番号1及びその変異体として提供される。突然変異型チロシナーゼ核酸配列の全部又は一部を担持するウイルスベクターの投与すべき量は、ウイルス粒子の力価に基づく。例として、投与する免疫原の範囲は、哺乳動物につき、好ましくはヒトにつき105−1013ウイルス粒子である。
【0062】
免疫後、ワクチン効能は、比溶菌活性、比サイトカイン産生又は腫瘍減退で評価される、抗体又は抗原を認識する免疫細胞の産生により評価しうる。当業者であれば上記パラメータを評価するための従来方法を理解する。免疫する哺乳動物が既に黒色腫に罹患している場合は、ワクチンを他の治療処置と組み合わせて投与し得る。他の治療レジメンの例は、T細胞養子免疫療法及びサイトカイン又は黒色腫の他の治療薬の同時投与を含む。
【0063】
(作製方法)
切断型ヒトチロシナーゼを構築することを含む、可溶性チロシナーゼ突然変異体を作製するための方法をここに記載する。好ましい実施形態では、チロシナーゼ突然変異体はカルネキシンに対する親和性が低い。また、チロシナーゼ突然変異体は膜貫通ドメインを欠失及び/又は少なくとも1つのグリコシル化部位を欠失していることが好ましい。さらに好ましくは、チロシナーゼ突然変異体は、配列番号1のポリヌクレオチドでコードされるか又はその変異体である。
【0064】
例示としてのみ提供する、以下の実施例を参照して本発明をさらに説明する。本発明は、実施例に限定されず、ここで提供する教示から明白である全ての変法を包含する。
(実施例)
【実施例1】
【0065】
実験材料及び方法
【0066】
CHO細胞(European Collection of Animal Cell Cultures, Porton Down, United Kingdom (UK) )及びK42細胞(Dr. T. Elliott, University of Southampton及びDr. M. Michalak, University Albertaの好意により提供された)を、10%ウシ胎児血清(FCS, Sigma, Poole, Dorset, UK)、50単位/mlペニシリン及び50mg/mlストレプトマイシン(Life Technologies, Inc.)を含むRPMI1640培地(Life Technologies,Inc., Paisley, Scotland)において培養し、5%CO2で37℃に保持した。マウスモノクローナル抗チロシナーゼ抗体(T311抗体)は、NeoMarkers(Fremont,USA)より購入した。 ウサギポリクローナル抗カルネキシン抗体は、Dr.J.Bergeron(McGill University)の好意により提供された。ウサギ抗カルレティキュリン抗体(カルレギュリンC−17抗体)は、Santa Cruz Biotechnologyより購入した。NB−DNJは、Searle/Monsanto(St.Louis,MO)より提供された。放射標識[35S]メチオニン/システインは、I.C. N.Flow(Thame,Oxfordshire,UK)からであった。CHAPS(3−[3−クロルアミドプロピル]−ジメチルアンモニノ−1−プロパンスルフェート)は、Pierce Chemicals Co.からであった。ラクタシスチンはCalbiochemからであった。他の全ての化学物質は、Sigma Chemicals Co.(St.Louis,MO)からであった。
【実施例2】
【0067】
チロシナーゼ突然変異体の構築
【0068】
pcTyrクローニングベクター中のヒトチロシナーゼをコードする完全長cDNAは、Dr.V.J.Hearing(NCI,National Institute of Health,Bethesda,MD)から贈呈された。WTチロシナーゼcDNA及びWT内腔ドメイン(456aa)cDNA(ST)を、pcTyrを鋳型とし、以下のプライマー:
正プライマー:5’−GCTATACCATGGCCCTCCTGGCTGTTTTG−3’
WT逆プライマー:5’−GGCGCGCCTCGAGTAAATGGCTCTGATA−3’
ST逆プライマー:5’−GTATTCTCGAGCCGACTCGCTTGTTC−3’
を使用してPCRにより増幅した。
【0069】
このPCR産物をNcoI及びXhoIで消化し、哺乳動物発現のためにpTriex1(Novagen)に6HisTagと共にインフレームでクローニングした。自動DNA塩基配列決定法により配列を確認した。
【0070】
CHO細胞のトランスフェクション及び代謝標識
対数増殖期のCHO細胞をトランスフェクションのために6穴プレートで培養し、Lipofectamine Plus(Invitrogen)を用いてチロシナーゼcDNAを一過性発現するために用いた。細胞をトランスフェクションの24時間後に収集し、削り取ってペレット化した。代謝標識のために、トランスフェクトしたCHO細胞(107細胞/ml)をシステイン/メチオニン不含培地で1時間飢餓させ、100−150μCi[35S]システイン/メチオニンで20分間パルス標識して、規定された時間チェイスした。チェイス後すぐに、細胞を低温PBS中に取り、20mM N−エチルマレイミド(NEM)中で30分間インキュベートして、遊離スルフヒドリル基をアルキル化した。次に細胞をCHAPS溶解緩衝液(2%CHAPS、200mM NaCl及びロイペプチン、アプロチニン、EDTAナトリウム、ベスタチン、AEBSF及びE−64を含む0.5%プロテアーゼ阻害因子カクテル(Sigma)を含む50mM HEPES緩衝液、pH7.5)で溶解した。
【0071】
免疫沈降法及びSDS−PAGE
35S]標識細胞溶解産物を遠心分離し、上清をT311抗体(1:50)又は抗カルネキシン抗体(1:100)と共に4℃で一晩インキュベートした。次にプロテインAセファロース20μlを添加し、前記細胞溶解産物を4℃で1時間インキュベートした。スラリーをHEPES緩衝液中0.5%CHAPSで3回洗った。5%2−メルカプトエタノールを含む(還元条件)又は含まない(非還元条件)SDS試料緩衝液中でスラリーを5分間煮沸することによりチロシナーゼを溶出した。共免疫沈降試験のために、溶解産物を抗カルネキシン抗体(1:100)で免疫沈降させ、洗浄したスラリーを1%SDSで溶出して、溶解緩衝液で10倍希釈し、T311で再沈降させた。結合タンパク質を天然又は還元条件で溶出し、10%SDS−PAGEゲルで分離した。その後オートラジオグラフィーによりゲルを視覚化した。
【0072】
DOPAオキシダーゼアッセイ
DOPAオキシダーゼアッセイは、チロシナーゼの二次触媒活性、すなわちDOPAキニンによるL−DOPAからDOPAクロムへの変換を測定する。このアッセイを、L−DOPAを基質として使用してゲル中で実施した(Negroiu et al., 2000)。トランスフェクションの24時間後に収集したトランスフェクト細胞の粗溶解産物又は細胞培養培地を、天然条件下でSDS−PAGEにより泳動させ、2.5mg/ml L−DOPA中でインキュベートしてチロシナーゼ活性を視覚化した。
【0073】
免疫ブロット法
種々のcDNAでトランスフェクトした溶解CHO細胞からのタンパク質を、記述されているように(Branza-Nichita et al., 1999)10%アクリルアミドゲル中で電気泳動しって分離し、イモビロン膜(Amersham International,Amersham,UK)に転写した。
【0074】
分泌チロシナーゼを単離するために、培地をニッケル−ニトリロ三酢酸−Superflowビーズ(Ni−NTA)(Qiagen,Chatsworth,CA)と共に4℃で一晩インキュベートした。ビーズをペレット化し、20mMイミダゾールで3回洗って、還元SDS試料緩衝液で溶出した。生じた試料を上記のようにSDS−PAGEにより分離した。次にブロットを、5%乳、0.1%ツイーン中の抗チロシナーゼ抗体(T311)の1:250希釈と共に37℃で2時間インキュベートした。増強化学発光ウエスタンブロット法(ECL,Amersham Corp.)により、製造者のプロトコールに従って免疫反応性を検出した。
【実施例3】
【0075】
可溶性チロシナーゼ突然変異体は酵素活性を欠き、ER内に蓄積して、プロテアソームで分解される
可溶性チロシナーゼ突然変異体の成熟をパルス−チェイス分析によりインビボで観測し、モノクローナル抗チロシナーゼ抗体(T311)で免疫沈降させた。試料を2つに分け、各々の試料の半分をEndoH制限酵素で消化して、還元SDS−PAGEゲル中で消化していない対照に続いて泳動させた(図1)。EndoHは高マンノース型及び混成型N−グリカンだけを消化するので、EndoHの感受性を使用して高マンノースから複合型構造へのグリカンの成熟を観測した。EndoHによる消化は、プールを55kDで泳動するポリペプチドに還元した。5時間のチェイス中、前駆体は同じ電気泳動移動度を有し、完全にEndoH感受性のままであって、そのN−グリカンがゴルジ体で複合型構造にプロセシングされなかったことを示した(図1、レーン1、3、5、7)。1時間の合成後、免疫沈降タンパク質の量の漸減傾向が認められた(図1)。
【0076】
これがER内の鎖残留及びその後の分解と一致するかどうかを判定するために、プロテアソーム阻害因子の存在下で同じ実験を実施した。未処置試料と比較してラクタシスチン存在下での免疫沈降物質の量の上昇(図1)がチェイス期間全体を通じて認められた。ラクタシスチン処置試料のEndoH消化パターンは未処置のものと同様であり(図1、レーン9、11、13、15)、STがER内に残留し、最終的にプロテアソームでの分解の標的となることを示唆した。
【0077】
STの成熟を野生型タンパク質と比較するために、同条件下で同ベクターにクローニングした膜チロシナーゼ(WT)を発現した(図2)。EndoH消化実験で示されたように、WTは、約1時間のチェイスにおいて複合型グリカンを獲得する75kDタンパク質として合成される。複合型対高マンノース型グリカンの比率が低いのは本系におけるチロシナーゼの過剰発現を反映するものであり、今までに報告されている(Berson et al., 2000)。先に示されているように(Halaban et al.,1997 ; Toyofuku et al., 2001)、ラクタシスチンによる処理はチェイスの最初の3時間に未分解タンパク質の蓄積を生じさせ、少なくとも成熟の初期段階には、膜チロシナーゼがプロテアソームで分解されることを示唆する。
【0078】
WTチロシナーゼと異なり、可溶性形態が示した複合型グリカンへのプロセシングがないことにより糖タンパク質の不完全な成熟が示唆される。これは、天然立体配座の獲得能がないことに関連すると考えられる。この問題を検討するため、DOPA−オキシダーゼアッセイでST突然変異体の酵素活性を測定した。ST突然変異体は、細胞溶解産物又は培地で完全に不活性である。これは、基質DOPAをDOPAクロムに変換しうるWTチロシナーゼと異なる。それ故、ST鎖は、生物活性を欠く非天然立体配座へと発育する。
【実施例4】
【0079】
可溶性チロシナーゼと野生型チロシナーゼは異なるシャペロン相互作用パターン及び折りたたみ経路を示す
【0080】
STの折りたたみにおけるカルネキシンとカルレティキュリンの役割を検討するために、代謝標識トランスフェクト細胞溶解産物の抗CNX/抗CRT及び抗チロシナーゼ抗体に関する連続的免疫沈降実験を実施した。チェイスの最初の30分間に、CNX(図3、レーン1、2)及びCRT(図3、レーン6、7)も共にSTと非常に弱い相互作用があった。1時間のチェイスで、相互作用は可視となり、3時間後にCNX(図3、レーン3−5)及びCRT(図3、レーン8−9)共に最大レベルに上昇した。
【0081】
WTチロシナーゼは異なるパターンが認められ、折りたたみのかなり早期からCNXと相互作用し、1時間のチェイスで有意に低下した(図3、レーン11−13)。パルス期間終了時にWT新生鎖とCRTの弱い相互作用が明らかとなった(図3、レーン6)。
【0082】
WTと突然変異型チロシナーゼの折りたたみ経路を特定するために、トランスフェクトしたパルス−チェイスCHO細胞において免疫沈降実験を実施し、非還元SDS−PAGEゲルにより試料を分析した。これらの条件により、ジスルフィド結合の形成を追跡でき、同時に、その結果より緻密な立体配座が生成でき、それによりゲル中での鎖の移動が加速した(Branza-Nichita et al., 1999, Hebert et al., 1995)。
【0083】
0時間から5時間のチェイスでの移動度シフトの漸進的上昇により示されるように、STは、非生産的折りたたみ経路において少なくとも3つの酸化中間体を通して折畳まれる(図4、レーン1−6)。最初の中間体は、還元試料と比較してパルス後(0分チェイス)に現われるが、最後の中間体は3時間チェイスで認められ、トランケート型チロシナーゼの分解工程の加速と相関する。
【0084】
WTタンパク質折りたたみを分析することにより、本発明者らは2つの酸化中間体を識別することができた。最初の中間体は、還元試料と同様の移動速度が示すように完全には酸化されない(図4、レーン7、12)。30分間のうちに、鎖は、それ以上酸化されない2番目の中間体(図4、レーン8)へと酸化される。2番目の中間体の出現は、1時間でのグリカンの複合型構造の出現及びCNX相互作用の著しい低下と相関し、鎖が輸送適格立体配座を獲得して、ゴルジ画分に達したことを示す。還元ST(図1、レーン2、4、6、8)及びWTパルス−チェイス試料(図2、レーン1−4)はチェイス期間中一定不変の移動度を示すので、非還元ゲルでのシフトはもっぱら異なる酸化中間体によるものである。非還元条件では、STとWTの両方について折りたたみの早期段階で凝集物とジスルフィド二量体を認めることができた(図4)。これらの形態は最後のチェイス時点及び還元条件では存在しなかったので、折りたたみの間の混合ジスルフィド中間体の形成を示唆する。データは、非天然立体配座へのST折りたたみがWTの場合よりも6倍長く、後期酸化中間体が分解の前に形成されることを示す。
【実施例5】
【0085】
TMドメインは鎖の生産的折りたたみのために必要である
折りたたみが膜貫通ドメインの存在でどのような影響を受けるかを検討するため、I型膜糖タンパク質−チロシナーゼをモデルとして用いて、その折りたたみ経路を、TMドメインがない構築物の折りたたみ経路と比較した。チロシナーゼは、哺乳動物の色素合成を調節するメラニン産生酵素である(Petrescu et al., 1997)。本発明者らは以前、その折りたたみがグリコシル化に依存することを立証した(Branza-Nichita et al, 1999,2000)。
【0086】
代謝標識トランスフェクトCHO細胞の非還元SDS−PAGEの結果から、本発明者らは、可溶性構築物が、ER内に残留し、最終的にプロテアソームにおいて分解される非天然立体配座へと成熟することを示している。これは、WTでトランスフェクトした細胞と異なり、STでトランスフェクトした細胞では酵素活性が存在しないことと相関する。興味深いことに、可溶性形態はWTと比較してより高い数の酸化中間体をとる。
【0087】
上記の2つの形態のチロシナーゼの折りたたみ経路はまた、CNX及びCRTとの結合パターンでも異なる。膜アンカー型の鎖は、早期段階から始まり折りたたみ工程が終了するまでCNXに支援される。本発明者らは以前に、2つの酸化中間体が生じる、マウス膜チロシナーゼについて同様のカルネキシン依存性折りたたみを報告した(Branza-Nichita et al., 1999; Branza-Nichita et al., 2000)。これに対し、CNX及びCRTに対するトランケート型チロシナーゼの親和性は最初非常に低く、分解前の工程の終了に向けて上昇する。STの合計3つの折りたたみ中間体のうち少なくとも2つがCNX/CRT相互作用がなくても出現する(おそらく他のER折りたたみ因子の助けを得て)。これらの中間体は天然折りたたみに達することができず、それらが異常なジスルフィド架橋となったことを示唆する。2つのチオレダクターゼが、ER−PDI及びErp57におけるジスルフィド架橋形成の間に新生鎖と相互作用することが示された(Farmery et al., 2000; Mezghrani et al., 2001)。Erp57は、CNXと結合すると鎖と相互作用する(Frickel et al., 2002)。チオレダクターゼはまた、膜チロシナーゼのS−S結合の形成も触媒しうる。逆に、可溶性形態の酸化中間体は、最初にCNX及びErp57がなくても生産され、カルネキシン及びカルレティキュリンが共に本段階でそれに結合することが示されている場合でも、その鎖はシャペロンとのその後期相互作用により天然立体配座には救済され得ない。正しく折りたたまれた鎖と誤った折りたたみの鎖を識別する品質管理サイクルにより、本段階では折りたたみと分解の間に脆弱な平衡が存在する。誤って折りたたまれたポリペプチドはGTに再グルコシル化され、CNX/CRTにより前記サイクルへ駆動される(Sousa and Parodi, 1995)。可溶性又は膜結合タンパク質の多くは、分解の標的とされる前にCNX又はCRTと結合することが示されている(Ellgaard and Helenius, 2001)。
【0088】
これらのデータは、誤った折りたたみのSTの再グルコシル化が折りたたみの後期段階で増すこと、及びそれ故、分解直前の異常ジスルフィドがある立体配座への鎖の崩壊と一致するCNX及びCRTとの結合が上昇することを示す。実際に、チロシナーゼプール全体が最後の中間体へと酸化されるわけではなく、むしろ、鎖の一部は早期分解の標的とされる。トランケート型鎖の異常な折りたたみと分解は、最後の2つのチェイス時点に関してはほとんど同時に起こる。これは、カルネキシンサイクルにおいて不適切に折りたたまれた鎖が直接逆転位機構に輸送送されることを示唆する。これらのデータ全体が、TMドメインがチロシナーゼの生産的折りたたみのために決定的に重要であることを示す。
【0089】
TMドメインは挿入関連事象によりトランスロコン領域で費やされる時間を増し、タンパク質が本領域から迅速に拡散するのを妨げることにより、この工程で重要な役割を果たすと思われる。また全ての場合、生産的折りたたみ経路は通常、工程の長さに関わりなく、非生産的経路よりも中間体が少ないことも注目に値する。基本的に、非天然ジスルフィドが早期段階で形成される場合、鎖は天然経路よりも多くの立体配座をとり、最終的に分解の標的とされる酸化中間体をいくつか生じさせる。それ故折りたたみの間の中間体の数の増加は、非天然折りたたみを導く経路の指標と考えられる。この場合、カルネキシンとの相互作用は、より厳密には折りたたみの後期段階ではなく分解の早期段階と表わし得る。
【実施例6】
【0090】
膜結合チロシナーゼグリコシル化突然変異体
コンセンサス配列Asn−Arg−Thrがないチロシナーゼ突然変異体を81位に構築した。これは、Asn81をGlnに突然変異させ、それによりシークオンをGln−Arg−Thrに変えることにより実施した。突然変異型Tyrmut1のER残留をそのEndoH消化パターンにより図6に示す。
【実施例7】
【0091】
ER残留シグナル含有膜貫通ドメインを通して固定することによる膜結合チロシナーゼ
C型肝炎ウイルスエンベロープタンパク質(HCV E2)膜貫通ドメインとチロシナーゼエクトドメインを用いてチロシナーゼキメラタンパク質(TyrE2)を構築した。図7に示すように、TyrE2キメラを発現する細胞溶解産物のEndoH消化により、ER残留プロフィールを有するタンパク質が生じた。
【0092】
(例示的実施形態)
付加的な実施形態は本発明の範囲内である。例えば、以下の番号を付した実施形態により本発明をさらに例示する:
1.可溶性チロシナーゼ突然変異体を含み、前記チロシナーゼ突然変異体が小胞体内に蓄積しうる、ポリペプチド。
2.前記可溶性チロシナーゼ突然変異体がカルネキシンに対する親和性が低い、実施形態1に記載のチロシナーゼ突然変異体。
3.前記可溶性チロシナーゼ突然変異体が膜貫通ドメインを欠く、実施形態2に記載のチロシナーゼ突然変異体。
4.前記可溶性チロシナーゼ突然変異体が、配列番号1のポリヌクレオチドによりコードされるか又はその変異体である、実施形態2に記載のチロシナーゼ突然変異体。
5.前記可溶性チロシナーゼ突然変異体が少なくとも1つのグリコシル化部位を欠く、実施形態2に記載のチロシナーゼ突然変異体。
6.小胞体内に蓄積しうる可溶性チロシナーゼ突然変異体を含む免疫原性組成物。
7.前記可溶性チロシナーゼ突然変異体が、配列番号1のポリヌクレオチドによりコードされるか又はその変異体である、実施形態6に記載の免疫原性組成物。
8.小胞体内に蓄積しうる可溶性チロシナーゼ突然変異体である黒色腫抗原をコードするポリヌクレオチド。
9.前記可溶性チロシナーゼ突然変異体が膜貫通ドメインを欠く、実施形態8に記載のポリヌクレオチド。
10.前記可溶性チロシナーゼ突然変異体が、配列番号1において特定される配列又はその変異体によりコードされる、実施形態9に記載のポリヌクレオチド。
11.可溶性チロシナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチド及び製薬上許容される担体を含むワクチン。
12.前記ポリヌクレオチドが、配列番号1において特定される配列又はその変異体を含む、実施形態11に記載のワクチン。
13.可溶性チロシナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
14.前記ポリヌクレオチドが、配列番号1に示す配列又はその変異体を含む、実施形態13に記載の宿主細胞。
15.可溶性チロシナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチドを抗原提示細胞に投与すること及び細胞傷害性リンパ球免疫応答を惹起することを含む、黒色腫を治療するための方法。
16.前記可溶性チロシナーゼ突然変異体が細胞の小胞体内に蓄積する、実施形態15に記載の方法。
17.前記可溶性チロシナーゼ突然変異体が膜貫通ドメインを欠く、実施形態16に記載の方法。
18.トランケート型のヒトチロシナーゼを構築することを含む、膜貫通ドメインを欠く可溶性チロシナーゼ突然変異体を作製するための方法。
本明細書において引用する全ての出版物及び特許出願及び特許は、それらの全体が参照してここに組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】可溶性チロシナーゼがER内に残留し、プロテアソームにより分解されることを示すパルス‐チェイス実験 ST cDNAでトランスフェクトしたCHO細胞を[35S]で20分間パルスし、20μMラクタシスチンの不在下(レーン1−8)又は存在下(レーン9−16)で、表示された時間チェイスした。細胞溶解産物をT311モノクローナル抗体で免疫沈降させ、免疫沈降物試料を半分ずつに分けて、EndoH(+)で又はEndoHなし(−)で消化した。試料を還元10%SDS−PAGEゲルで泳動させ、オートラジオグラフィーにより視覚化した。分子質量マーカーを図の右側に示す。
【図2】野生型(WT)チロシナーゼがERから運搬されることを示すパルス‐チェイス実験 WTトランスフェクト細胞を[35S]で20分間パルスし、20μMラクタシスチンの不在下(レーン1−4)又は存在下(レーン9−12)で、表示された時間チェイスした。レーン5−8の試料はEndoHで消化した。細胞溶解産物をT311抗血清で免疫沈降した。試料を10%SDS−PAGEゲルで泳動し、オートラジオグラフィーにより視覚化した。
【図3】カルネキシン及びカルレティキュリンとWT及びSTチロシナーゼの結合を示すパルス‐チェイス実験 ST(レーン1−10)又はWT(レーン11−20)でトランスフェクトしたCHO細胞を飢餓緩衝液中で1時間インキュベートした後、[35S]で20分間パルスした。その後細胞を表示された時間チェイスし、細胞溶解産物を抗カルネキシン抗体(CNX)又は抗カルレティキュリン抗体(CRT)のいずれかで、次に抗チロシナーゼ抗体(T311抗体)で免疫沈降させた。免疫沈降物を非還元10%SDS−PAGEゲルで泳動し、オートラジオグラフィーにより視覚化した。
【図4】可溶性及び野生型チロシナーゼの折りたたみ経路を明らかにするパルス‐チェイス実験 ST(レーン1−6)又はWT(レーン7−11)でトランスフェクトしたCHO細胞を飢餓緩衝液中で1時間インキュベートした後、[35S]で20分間パルスした。その後細胞を表示された時間チェイスし、細胞溶解産物を抗チロシナーゼ抗体(T311抗体)で免疫沈降さした。免疫沈降物を非還元又は還元10%SDS−PAGEゲルで泳動し、オートラジオグラフィーにより視覚化した。
【図5】可溶性チロシナーゼの核酸配列(配列番号1)
【図6】Tyrmut1がER内に残留することを示すパルス‐チェイス実験 Tyrmut1トランスフェクト細胞を[35S]で20分間パルスし、2時間チェイスして、細胞溶解産物をT311抗血清で免疫沈降した。免疫沈降物を2つに分け、EndoH(+)で又はEndoHなし(−)で消化した。試料を10%SDS−PAGEゲルで泳動し、オートラジオグラフィーにより視覚化した。
【図7】Tyr_E2キメラがER内に残留することを示すウエスタンブロット実験 細胞をTyr_E2構築物でトランスフェクトし、細胞溶解産物を2つに分けて、EndoH(+)で又はEndoHなし(−)で消化した。試料を10%SDS−PAGEゲルで泳動してブロットし、ECL化学発光によりT311抗血清で視覚化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小胞体内に蓄積しうるチロシナーゼ突然変異体を含むポリペプチド。
【請求項2】
前記チロシナーゼ突然変異体がカルネキシンに対する親和性が低い、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記チロシナーゼ突然変異体が膜貫通ドメインを欠く、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記チロシナーゼ突然変異体が、配列番号1のポリヌクレオチドによりコードされるか又はその変異体である、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記チロシナーゼ突然変異体が少なくとも1つのグリコシル化部位を欠く、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項6】
小胞体内に蓄積しうるチロシナーゼ突然変異体を含む免疫原性組成物。
【請求項7】
前記チロシナーゼ突然変異体が、配列番号1のポリヌクレオチドによりコードされるか又はその変異体である、請求項6に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
小胞体内に蓄積しうるチロシナーゼ突然変異体である黒色腫抗原をコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記チロシナーゼ突然変異体が膜貫通ドメインを欠く、請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記チロシナーゼ突然変異体が、配列番号1において特定される配列又はその変異体によりコードされる、請求項9に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
チロシナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチド及び製薬上許容される担体を含むワクチン。
【請求項12】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号1において特定される配列又はその変異体を含む、請求項11に記載のワクチン。
【請求項13】
チロシナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項14】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号1に示す配列又はその変異体を含む、請求項13に記載の宿主細胞。
【請求項15】
チロシナーゼ突然変異体をコードするポリヌクレオチドを抗原提示細胞に投与すること及び細胞傷害性リンパ球免疫応答を惹起することを含む、黒色腫を治療するための方法。
【請求項16】
前記チロシナーゼ突然変異体が細胞の小胞体内に蓄積する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記チロシナーゼ突然変異体が膜貫通ドメインを欠く、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
トランケート型のヒトチロシナーゼを構築することを含む、膜貫通ドメインを欠くチロシナーゼ突然変異体を作製するための方法。
【請求項19】
前記チロシナーゼ突然変異体が少なくとも1つのグリコシル化部位を欠く、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項20】
81位のAsn残基がGln残基に置換されている、請求項19に記載のポリペプチド。
【請求項21】
前記チロシナーゼ突然変異体がチロシナーゼキメラである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項22】
前記チロシナーゼキメラがもう1つ別のタンパク質の膜貫通ドメインを通して膜結合しており、前記膜貫通ドメインがER残留シグナルを含む、請求項21に記載のポリペプチド。
【請求項23】
前記チロシナーゼキメラが、C型肝炎エンベロープタンパク質2の膜貫通ドメインにおける残留シグナルを通してER内に残留する、請求項22に記載のポリペプチド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−507240(P2007−507240A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534327(P2006−534327)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/033048
【国際公開番号】WO2005/035723
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(505431536)ユナイテッド セラピューティクス コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】