説明

ツーリーディング型ドラムブレーキ

【課題】前進時および後進時おける回転ドラムの回転を制動する制動力の大きさの差が抑制されるツーリーディング型ドラムブレーキを提供する。
【解決手段】ブレーキシュー20には、ブレーキシュー20の一端部に回動可能に連結された外周側端部58bと固定リンク(第1固定部材)54の先端部54aに回動可能に連結された内周側端部58aとを有し、周方向において内周側端部58aは外周側端部58bより第1ホイールシリンダ22から離れている第1リンク58が備えられる。そのため、ブレーキシュー18の一端部が第1ホイールシリンダ22によりバッキングプレート16の外周側へ移動されると、固定リンク54を介して内周側端部58aが前記周方向において第1ホイールシリンダ22に接近するように第1リンク58は回動され、第1リンク58によってブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部との間が離間される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツーリーディング型ドラムブレーキにおいて、そのツーリーディング型ドラムブレーキの性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ツーリーディング型ドラムブレーキには、例えば特許文献1および特許文献2に示すように、(a) 第1リターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2リターンスプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューの一端部間に位置するようにバッキングプレートに固定され、その一対のブレーキシューのそれぞれの一端部を受け止めると共にピストンによりその一対のブレーキシューの一方の一端部をそのバッキングプレートの外周側へ移動させる第1ホイールシリンダと、(c) その一対のブレーキシューの他端部間に位置するようにそのバッキングプレートに固定され、その一対のブレーキシューのそれぞれの他端部を受け止めると共にピストンによりその一対のブレーキシューの他方の他端部をそのバッキングプレートの外周側へ移動させる第2ホイールシリンダとを備えたものがある。
【0003】
上記のようなツーリーディング型ドラムブレーキは、ドラムブレーキの制動時において、前記第1ホイールシリンダによって前記一対のブレーキシューの一方の一端部が回転ドラムの内周面に押し付けられると共に、前記第2ホイールシリンダによって前記一対のブレーキシューの他方の他端部がその回転ドラムの内周面に押し付けられる。前記回転ドラムが前進方向すなわち前記回転ドラムが前記一方のブレーキシューの一端部から他端部への外周方向に回転している場合において、前記一方のブレーキシューの一端部および前記他方のブレーキシューの他端部が前記回転ドラムの内周面に押し付けられると、前記一対のブレーキシューは前記回転ドラムと共に連れまわり、前記一方のブレーキシューの他端部が前記第2ホイールシリンダに当接され前記他方のブレーキシューの一端部が前記第1ホイールシリンダに当接されることにより、その一方のブレーキシューの一端部およびその他方のブレーキシューの他端部が前記回転ドラムの内周面に食い込みその一対のブレーキシューに自己倍力が作用するので、その回転ドラムの回転を制動する制動力の大きさが好適に高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−160334号公報
【特許文献2】実開昭60−127132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなツーリーディング型ドラムブレーキおいて、例えは、前記回転ドラムが前記前進方向とは反対方向すなわち後進方向に回転しようとする場合、前記一方のブレーキシューの一端部および前記他方のブレーキシューの他端部は前記回転ドラムの内周面からはねかえされようとするため、その一方のブレーキシューの一端部およびその他方のブレーキシューの他端部が前記回転ドラムの内周面を押圧する押圧力の大きさが前記回転ドラムが前進方向に回転する場合に比較して非常に低くなるので、前記回転ドラムの回転を制動する制動力の大きさの差がその回転ドラムの前進時と後進時との回転方向によって大きくなるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、前進時および後進時おける回転ドラムの回転を制動する制動力の大きさの差が好適に抑制されるツーリーディング型ドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a) 第1リターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2リターンスプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューと、その一対のブレーキシューの一端部間に位置するようにバッキングプレートに固定され、その一対のブレーキシューのそれぞれの一端部を受け止めると共にピストンによりその一対のブレーキシューの一方の一端部をそのバッキングプレートの外周側へ移動させる第1ホイールシリンダと、その一対のブレーキシューの他端部間に位置するようにそのバッキングプレートに固定され、その一対のブレーキシューのそれぞれの他端部を受け止めると共にピストンによりその一対のブレーキシューの他方の他端部をそのバッキングプレートの外周側へ移動させる第2ホイールシリンダとを備えるツーリーディング型ドラムブレーキであって、(b) 前記一対のブレーキシューの一方には、先端部が前記一対のブレーキシューの他方側に延長され且つ基端部がその一対のブレーキシューの一方に固定された第1固定部材が備えられ、(c) 前記一対のブレーキシューの他方の一端部に回動可能に連結された外周側端部と前記第1固定部材の先端部に回動可能に連結された内周側端部とを有し、周方向においてその内周側端部は前記外周側端部よりも前記第1ホイールシリンダから離れている第1リンクが備えられていることにある。
【0008】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、(a) 前記一対のブレーキシューの他方には、先端部が前記一対のブレーキシューの一方の他端部側に延長され且つ基端部がその一対のブレーキシューの他方の他端部に固定された第2固定部材が備えられ、(b) 前記一対のブレーキシューの一方の他端部に回動可能に連結された外周側端部と前記第2固定部材の先端部に回動可能に連結された内周側端部とを有し、周方向においてその内周側端部は前記外周側端部よりも前記第2ホイールシリンダから離れている第2リンクが備えられているものである。
【発明の効果】
【0009】
第1発明のツーリーディング型ドラムブレーキによれば、(b) 前記一対のブレーキシューの一方には、先端部が前記一対のブレーキシューの他方側に延長され且つ基端部がその一対のブレーキシューの一方に固定された第1固定部材が備えられ、(c) 前記一対のブレーキシューの他方の一端部に回動可能に連結された外周側端部と前記第1固定部材の先端部に回動可能に連結された内周側端部とを有し、周方向においてその内周側端部は前記外周側端部よりも前記第1ホイールシリンダから離れている第1リンクが備えられている。そのため、ドラムブレーキの制動時において、前記一対のブレーキシューの一方の一端部が前記第1ホイールシリンダによって前記バッキングプレートの外周側へ移動させられると、前記第1固定部材を介して前記内周側端部が前記周方向において前記第1ホイールシリンダに接近するように前記第1リンクは回動させられ、前記第1リンクの回動によって前記一対のブレーキシューの他方の一端部と前記一対のブレーキシューの一方の他端部との間が離間される。これにより、前記第1ホイールシリンダおよび前記第2ホイールシリンダによって回転ドラムの内周面に前記一対のブレーキシューの一方の一端部および前記一対のブレーキシューの他方の他端部が押し付けられると共に、前記第1リンクによって前記回転ドラムの内周面に前記一対のブレーキシューの他方の一端部および前記一対のブレーキシューの一方の他端部が押し付けられるため、前記回転ドラムの前進時或いは後進時の回転方向に関係なく前記一対のブレーキシューがその回転ドラムの内周面に食い込みその一対のブレーキシューに自己倍力が作用するので、前進時および後進時おける回転ドラムの回転を制動する制動力の大きさの差が好適に抑制される。
【0010】
第2発明のツーリーディング型ドラムブレーキによれば、(a) 前記一対のブレーキシューの他方には、先端部が前記一対のブレーキシューの一方の他端部側に延長され且つ基端部がその一対のブレーキシューの他方の他端部に固定された第2固定部材が備えられ、(b) 前記一対のブレーキシューの一方の他端部に回動可能に連結された外周側端部と前記第2固定部材の先端部に回動可能に連結された内周側端部とを有し、周方向においてその内周側端部は前記外周側端部よりも前記第2ホイールシリンダから離れている第2リンクが備えられている。そのため、ドラムブレーキの制動時において、前記一対のブレーキシューの他方の他端部が前記第2ホイールシリンダによって前記バッキングプレートの外周側へ移動させられると、前記第2固定部材を介して前記内周側端部が前記周方向において前記第2ホイールシリンダに接近するように前記第2リンクは回動させられ、前記第2リンクの回動によって前記一対のブレーキシューの他方の一端部と前記一対のブレーキシューの一方の他端部との間が好適に離間される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用された一実施例のツーリーディング型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】ドラムブレーキの制動時における第1リンクおよび第2リンクの動きを説明する図である。
【図3】ドラムブレーキの制動時において、第1リンクが回動することによって一対のブレーキシューの一方の他端部と一対のブレーキシューの他方の一端部との間が離間した状態を説明する図である。
【図4】ドラムブレーキの制動時において、第2リンクが回動することによって一対のブレーキシューの一方の他端部と一対のブレーキシューの他方の一端部との間が離間した状態を説明する図である。
【図5】図1のツーリーディング型ドラムブレーキの制動状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の一実施例のドラムブレーキであるツーリーディング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、有底円筒状のブレーキドラム(回転ドラム)12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0014】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0015】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18および20と、その一対のブレーキシュー18および20の一端部すなわち図1の上端部の間に位置するようにバッキングプレート16に固定された第1ホイールシリンダ22と、一対のブレーキシュー18および20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢して第1ホイールシリンダ22に当接させるために、その一対のブレーキシュー18および20の一端部間に張設されたコイル状の第1リターンスプリング24と、一対のブレーキシュー18および20の他端部すなわち図1の下端部の間に位置するようにバッキングプレート16に固定された第2ホイールシリンダ26と、一対のブレーキシュー18および20の他端部を互いに接近する方向に常時付勢して第2ホイールシリンダ26に当接させるために、その一対のブレーキシュー18および20の他端部間に張設されたコイル状の第2リターンスプリング28とが備えられている。
【0016】
一対のブレーキシュー18および20は、何れも、バッキングプレート16の内周部に位置する平坦な平板部16aと略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ30および32と、それらの円弧形状を成すシューウェブ30および32の外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すようにそのシューウェブ30および32に一体的に固設された帯板状のシューリム34および36と、それらシューリム34および36の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング38および40とを備えてそれぞれ構成されている。また、一対のブレーキシュー18および20は、シューウェブ30およびシューウェブ32にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置42および44によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。
【0017】
図1に示すように、本実施例の第1ホイールシリンダ22および第2ホイールシリンダ26は、互いに略同様に構成されているため、以下において、第2ホイールシリンダ26の構成のみを説明し、第1ホイールシリンダ22おいて第2ホイールシリンダ26と共通する部分には同一の符号を付してその第1ホイールシリンダ22の構成の説明を省略する。
【0018】
第2ホイールシリンダ26には、図1に示すように、バッキングプレート18に固定されたシリンダ本体46と、そのシリンダ本体46のブレーキシュー20の他端部側の端部に円柱形状に穿設されたシリンダボア46aと、そのシリンダボア46aの内周面に摺動可能に嵌め入れられたピストン48と、そのピストン48の外周に設けられた外周溝に嵌め着けられたシール部材50と、シリンダボア46aの内周面およびそのシリンダボア46aの底面46bとシール部材50が嵌め着けられたピストン48とによってシリンダボア46a内におけるそのシリンダボア46aの底面46bとピストン48との間の空間に作動油が供給された油室52と、シリンダ本体46のブレーキシュー18の他端部側の端部にブレーキシュー18の他端部を当接させる当接面46cを有しそのブレーキシュー18の他端部を受け止めるアンカ部46dとが備えられている。また、シリンダボア46aの底面46bとピストン48との間におけるシリンダボア46aの内周面には、図示しないマスターシリンダから油室52内へ作動油を供給或いはそのマスターシリンダへ油室52内の作動油を戻す図示されていない連通穴が形成されている。
【0019】
図1に示すように、ピストン48は、シリンダボア48aの内周面に摺動可能に嵌め入れられる略円柱形状の円柱部48aと、その円柱部48aのブレーキシュー20の他端部側の端部においてシリンダボア46aの径よりも大径に形成された大径部48bと、その大径部48bのブレーキシュー20の他端部側の端面に形成されたブレーキシュー20の他端部と当接する当接部48cとによって構成されており、ピストン48の大径部48bがシリンダ本体46の開口部と当接することによりそのピストン48の戻り位置が規制され、後述するドラムブレーキ10の制動時においてブレーキシュー20に生じた制動トルクをピストン48を介してシリンダ本体46で受け止められるようになっている。
【0020】
以上のように構成された第1ホイールシリンダ22および第2ホイールシリンダ26は、図1に示すように、第1リターンスプリング24の付勢力によって、ブレーキシュー18の一端部が第1ホイールシリンダ22のピストン48の当接部48cに当接されると共にブレーキシュー20の一端部が第1ホイールシリンダ22のアンカ部46dの当接面46cに当接される。また、第2リターンスプリング28の付勢力によって、ブレーキシュー20の他端部が第2ホイールシリンダ26のピストン48の当接部48cに当接されると共にブレーキシュー18の他端部が第2ホイールシリンダ26のアンカ部46dの当接面46cに当接される。
【0021】
図1に示すように、一対のブレーキシュー18および20の一端部間には、先端部54aがブレーキシュー20の一端部側に延長され且つ基端部54bがブレーキシュー18のシューウェブ30の一端部に連結され且つ固定リンク(第1固定部材)55により回動不能に一体的に固定された長手状の固定リンク(第1固定部材)54と、その固定リンク54の先端部54aに第1連結軸部材56によって回動可能に連結された内周側端部58aとブレーキシュー20のシューウェブ32の一端部に第2連結軸部材60よって回動可能に連結された外周側端部58bとを有する長手状の第1リンク58とが備えられており、第1リンク58はブレーキドラム12の周方向において内周側端部58aが外周側端部58bよりも第1ホイールシリンダ22から離れた状態で位置させられている。
【0022】
また、図1に示すように、一対のブレーキシュー18および20の他端部間には、先端部62aがブレーキシュー18の他端部側に延長され且つ基端部62bがブレーキシュー20のシューウェブ32の他端部に連結され且つ固定リンク(第2固定部材)63により回動不能に一体的に固定された長手状の固定リンク(第2固定部材)62と、その固定リンク62の先端部62aに第3連結軸部材64によって回動可能に連結された内周側端部66aとブレーキシュー18のシューウェブ30の他端部に第4連結軸部材68よって回動可能に連結された外周側端部66bとを有する長手状の第2リンク66とが備えられており、第2リンク66はブレーキドラム12の周方向において内周側端部66aが外周側端部66bよりも第2ホイールシリンダ26から離れた状態で位置させられている。
【0023】
図2乃至図4は、ドラムブレーキ10の制動時における第1リンク58および第2リンク66の動きを説明する図であり、以下においてその第1リンク58および第2リンク66の動きを説明する。尚、ドラムブレーキ10の制動時において第1ホイールシリンダ22および第2ホイールシリンダ26は同時に作動するが第1リンク58および第2リンク66のそれぞれの動きを分かり易く説明するために、以下において、始めに第1ホイールシリンダ22が作動した場合における第1リンク58の動きと、次に第2ホイールシリンダ26が作動した場合における第2リンク66の動きとに分けて説明する。
【0024】
第1ホイールシリンダ22が作動することによって、図2に示すように、ブレーキシュー18の一端部がバッキングプレート16の外周側へ移動させられると、ブレーキシュー18はそのブレーキシュー18の他端部が第2ホイールシリンダ26のアンカ部46dの当接面46cと当接する第1当接点A1まわりに回動すると共にそのブレーキシュー18に一体的に固定された固定リンク54の先端部54aはその第1当接点A1まわりに矢印B1方向へ回動する。これにより、第1連結軸部材56によって固定リンク54の先端部54aに回動可能に連結された第1リンク58の内周側端部58aがブレーキドラム12の周方向において第1ホイールシリンダ22に接近するように第1リンク58は第2連結軸部材60の軸心C2まわりに回動する。すなわち、第1リンク58の内周側端部58aが第1当接点A1と第2連結軸部材60の軸心C2とを結ぶ直線L1に接近するように第1リンク58は第2連結軸部材60の軸心C2まわりに回動する。
【0025】
図2に示すように、第1連結軸部材56の軸心C1と第2連結軸部材60の軸心C2との間の距離D1と第1連結軸部材56の軸心C1と第1当接点A1との間の距離D2とを合わせた距離D1+D2は、第1当接点A1と第2連結軸部材60の軸心C2との間の距離より長いため、第1連結軸部材56の軸心C1すなわち第1リンク58の内周側端部58aが直線L1に接近するに連れて第1当接点A1と第2連結軸部材60の軸心C2との間が離間する。すなわち、第1リンク58の内周側端部58aが直線L1に接近するに連れてブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部との間が離間する。
【0026】
また、図3に示すように、第1リンク58が第2連結軸部材60の軸心C2まわりに回動しブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部との間が離間すると、ブレーキシュー20の一端部は、第1リターンスプリング24の付勢力によって第1ホイールシリンダ22のアンカ部46dの当接面46cに当接されているため、その第1ホイールシリンダ22の当接面46cに沿って矢印E1方向に摺動する。また、図3に示す一点鎖線は、第1ホイールシリンダ22の作動によって第1リンク58が第2連結部材60の軸心C2まわり矢印B1方向に回動するに連れてブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部の間が離間し、例えば始めにブレーキシュー18の他端部がブレーキドラム12の内周面14と当接しその当接する力の反力によってブレーキシュー20の一端部が矢印E1方向に移動した状態を示すものである。
【0027】
第2ホイールシリンダ26が作動することによって、図2に示すように、ブレーキシュー20の他端部がバッキングプレート16の外周側へ移動させられると、ブレーキシュー20はそのブレーキシュー20の一端部が第1ホイールシリンダ22のアンカ部46dの当接面46cと当接する第2当接点A2まわりに回動すると共にそのブレーキシュー20に一体的に固定された固定リンク62の先端部62aは第2当接点A2まわりに矢印B2方向へ回動する。これにより、第3連結軸部材64によって固定リンク62の先端部62aに回動可能に連結された第2リンク66の内周側端部66aがブレーキドラム12の周方向において第2ホイールシリンダ26に接近するように第2リンク66は第4連結軸部材68の軸心C4まわりに回動する。すなわち、第2リンク66の内周側端部66aが第2当接点A2と第4連結軸部材68の軸心C4とを結ぶ直線L2に接近するように第2リンク66は軸心C4まわりに回動する。
【0028】
図2に示すように、第3連結軸部材64の軸心C3と第4連結軸部材68の軸心C4との間の距離D3と第3連結軸部材64の軸心C3と第2当接点A2との間の距離D4とを合わせた距離D3+D4は、第2当接点A2と第4連結軸部材68の軸心C4との間の距離より長いので、第3連結軸部材64の軸心C3すなわち第2リンク66の内周側端部66aが直線L2に接近するに連れて第2当接点A2と第4連結軸部材68の軸心C4との間が離間する。すなわち、第2リンク66の内周側端部66aが直線L2に接近するに連れてブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部との間が離間する。
【0029】
また、図4に示すように、第2リンク66が第4連結軸部材68の軸心C4まわりに回動しブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部との間が離間すると、ブレーキシュー18の一端部は、第2リターンスプリング28の付勢力によって第2ホイールシリンダ26のアンカ部46dの当接面46cに当接されているため、その第2ホイールシリンダ22の当接面46cに沿って矢印E2方向に摺動する。また、図4に示す一点鎖線は、第2ホイールシリンダ26の作動によって第2リンク66が第4連結部材66の軸心C4まわり矢印B2方向に回動するに連れてブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部の間が離間し、例えば始めにブレーキシュー20の一端部がブレーキドラム12の内周面14と当接しその当接する力の反力によってブレーキシュー18の他端部が矢印E2方向に移動した状態を示すものである。
【0030】
以上のように構成されたドラムブレーキ10によれば、図示しないブレーキペダルが操作されることにより第1ホイールシリンダ22および第2ホイールシリンダ26のそれぞれの油室52の作動油に圧力が作用されると、第1ホイールシリンダ22および第2ホイールシリンダ26のそれぞれのピストン48によってブレーキシュー18の一端部およびブレーキシュー20の他端部がバッキングプレート16の外周側に移動させられてブレーキドラム12の内周面14にそのブレーキシュー18の一端部およびブレーキシュー20の他端部が押し付けられると共に、第1リンク58および第2リンク66によってブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部の間が離間されてブレーキドラム12の内周面14にそのブレーキシュー20の一端部およびブレーキシュー18の他端部が押し付けられる。つまり、ドラムブレーキ10は、第1ホイールシリンダ22および第2ホイールシリンダ26が作動するこによって、一対のブレーキシュー18および20におけるそれぞれのブレーキシュー18,20の一端部および他端部がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられるため、一対のブレーキシュー18および20のライニング38,40の外周面の略全面がブレーキドラム12の内周面14に押し付けられると共に、ライニング38,40の外周面の全面においてそのライニング38,40の外周面がブレーキドラム12の内周面14を押圧する面圧が従来のツーリーディング型ドラムブレーキに比較して略一定になる。
【0031】
このため、図5に示すように、例えば、ブレーキドラム12が矢印R1方向に回転している場合において、第1ホイールシリンダ22および第2ホイールシリンダ26が作動すると、一対のブレーキシュー18および20はブレーキドラム12と共に矢印R1方向に連れまわり、ブレーキシュー20の他端部が第2ホイールシリンダ26のピストン48の当接部48cに当接されブレーキシュー18の一端部が第1ホイールシリンダ22のピストン48の当接部48cに当接されることにより、ブレーキシュー20の一端部およびブレーキシュー18の他端部がブレーキドラム12の内周面14に食い込み一対のブレーキシュー18および20に自己倍力が作用するので、そのブレーキドラム12の回転が比較的大きな制動力で制動される。また、図5に示すように、例えば、ブレーキドラム12が矢印R2方向に回転している場合には、従来のツーリーディング型ドラムブレーキと同様に一対のブレーキシュー18および20に自己倍力が作用し、ブレーキドラム12の回転が比較的大きな制動力で制動される。
【0032】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、ブレーキシュー18には、先端部54aがブレーキシュー20の一端部側に延長され且つ基端部54bがブレーキシュー18の一端部に連結され且つ固定リンク(第1固定部材)55により回動不能に一体的に固定された固定リンク(第1固定部材)54が備えられ、ブレーキシュー20の一端部に回動可能に連結された外周側端部58bと固定リンク54の先端部54aに回動可能に連結された内周側端部58aとを有し、ブレーキドラム12の周方向においてその内周側端部58aは外周側端部58bよりも第1ホイールシリンダ22から離れている第1リンク58が備えられている。そのため、ドラムブレーキ10の制動時において、ブレーキシュー18の一端部が第1ホイールシリンダ22によってバッキングプレート16の外周側へ移動させられると、固定リンク54を介して内周側端部58aが前記周方向において第1ホイールシリンダ22に接近するように第1リンク58は回動させられ、その第1リンク58の回動によってブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部との間が離間される。これにより、第1ホイールシリンダ22および第2ホイールシリンダ26によってブレーキドラム12の内周面14にブレーキシュー18の一端部およびブレーキシュー20の他端部が押し付けられると共に、第1リンク58によってブレーキドラム12の内周面14にブレーキシュー20の一端部およびブレーキシュー18の他端部が押し付けられるため、ブレーキドラム12の前進時或いは後進時の回転方向R1およびR2に関係なく一対のブレーキシュー18および20がそのブレーキドラム12の内周面14に食い込みその一対のブレーキシュー18および20に自己倍力が作用するので、前進時および後進時おけるブレーキドラム12の回転を制動する制動力の大きさの差が好適に抑制される。
【0033】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、ブレーキシュー20には、先端部62aがブレーキシュー18の他端部側に延長され且つ基端部62bがブレーキシュー20の他端部に連結され且つ固定リンク(第2固定部材)63により回動不能に一体的に固定された固定リンク(第2固定部材)62が備えられ、ブレーキシュー18の他端部に回動可能に連結された外周側端部66bと固定リンク62の先端部62aに回動可能に連結された内周側端部66aとを有し、ブレーキドラム12の周方向においてその内周側端部66aは外周側端部66bよりも第2ホイールシリンダ26から離れている第2リンク66が備えられている。そのため、ドラムブレーキ10の制動時において、ブレーキシュー20の他端部が第2ホイールシリンダ26によってバッキングプレート16の外周側へ移動させられると、固定リンク62を介して内周側端部66aが前記周方向において第2ホイールシリンダ26に接近するように第2リンク66は回動させられ、その第2リンク66の回動によってブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部との間が好適に離間される。
【0034】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0035】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10において、そのドラムブレーキ10には、ブレーキシュー20の一端部とブレーキシュー18の他端部との間を離間させるために、第1リンク58および固定リンク54,55と、第2リンク66および固定リンク62,63との両方が備えられたが、必ずしもドラムブレーキ10に両方を備える必要なくどちらか一方が備えられていれば良い。
【0036】
また、本実施例のドラムブレーキ10において、ブレーキシュー18には、固定リンク54が固定リンク55によって固定され、ブレーキシュー20には、固定リンク62が固定リンク63によって固定されていたが、例えば、固定リンク54が打抜きによりブレーキシュー18に一体に備えられ、固定リンク62が打抜きによりブレーキシュー20に一体に備えられても良い。例えば、ブレーキシュー18のシューウェブ30の一端部から一体に先端部がブレーキシュー20の一端部側に延長したものを固定リンク54,55とし、ブレーキシュー20のシューウェブ32の他端部から一体に先端部がブレーキシュー18の他端部側に延長したものを固定リンク62,63としても良い。
【0037】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
10:ドラムブレーキ(ツーリーディング型ドラムブレーキ)
16:バッキングプレート
18,20:ブレーキシュー
22:第1ホイールシリンダ
24:第1リターンスプリング
26:第2ホイールシリンダ
28:第2リターンスプリング
48:ピストン
54:固定リンク(第1固定部材)
54a:先端部
54b:基端部
55:固定リンク(第1固定部材)
58:第1リンク
58a:内周側端部
58b:外周側端部
62:固定リンク(第2固定部材)
62a:先端部
62b:基端部
63:固定リンク(第2固定部材)
66:第2リンク
66a:内周側端部
66b:外周側端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1リターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2リターンスプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一端部間に位置するようにバッキングプレートに固定され、該一対のブレーキシューのそれぞれの一端部を受け止めると共にピストンにより該一対のブレーキシューの一方の一端部を該バッキングプレートの外周側へ移動させる第1ホイールシリンダと、該一対のブレーキシューの他端部間に位置するように該バッキングプレートに固定され、該一対のブレーキシューのそれぞれの他端部を受け止めると共にピストンにより該一対のブレーキシューの他方の他端部を該バッキングプレートの外周側へ移動させる第2ホイールシリンダとを備えるツーリーディング型ドラムブレーキであって、
前記一対のブレーキシューの一方には、先端部が前記一対のブレーキシューの他方側に延長され且つ基端部が該一対のブレーキシューの一方に固定された第1固定部材が備えられ、
前記一対のブレーキシューの他方の一端部に回動可能に連結された外周側端部と前記第1固定部材の先端部に回動可能に連結された内周側端部とを有し、周方向において該内周側端部は前記外周側端部よりも前記第1ホイールシリンダから離れている第1リンクが備えられていることを特徴とするツーリーディング型ドラムブレーキ。
【請求項2】
前記一対のブレーキシューの他方には、先端部が前記一対のブレーキシューの一方の他端部側に延長され且つ基端部が該一対のブレーキシューの他方の他端部に固定された第2固定部材が備えられ、
前記一対のブレーキシューの一方の他端部に回動可能に連結された外周側端部と前記第2固定部材の先端部に回動可能に連結された内周側端部とを有し、周方向において該内周側端部は前記外周側端部よりも前記第2ホイールシリンダから離れている第2リンクが備えられているものである請求項1のツーリーディング型ドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−237424(P2012−237424A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108336(P2011−108336)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】