説明

テアニン含有神経細胞新生促進組成物及び飲食物

【課題】安全性が高く、且つ継続摂取が容易な神経細胞新生促進組成物及び該組成物を配合する飲食品を提供する。
【解決手段】テアニンを有効成分とする神経細胞新生促進組成物、具体的には、テアニンを有効成分として神経細胞への分化能を増強することを特徴とする神経細胞新生促進組成物や、テアニンを有効成分としてアストログリア細胞への分化能を抑制することを特徴とする神経細胞新生促進組成物や、テアニンを有効成分として神経系前駆細胞の増殖能を向上させることを特徴とする神経細胞新生促進組成物や、かかる神経細胞新生促進組成物を含有する飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性が高く、且つ継続摂取が容易な神経細胞新生促進組成物及び該組成物を配合する飲食品に関する。具体的には、テアニンを有効成分とする神経細胞新生促進組成物や該組成物を含有する飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代人を取り巻く社会環境が変化していることにより、我々のいわば「脳環境」は危機的状況に曝されている。例えば、高齢化社会が進むにつれ認知症等の老化を原因とする各種神経変性疾患(認知症等)が問題視されてきている。かかる疾患は、患者自身のみならず介護者の日常生活での大きな負担となり、また社会レベルでは、医療費や介護費の増大に繋がるため大きな問題である。
【0003】
また、例えば交通事故、過剰労働による過労、近親者との離別、いじめ・虐待、犯罪への巻き込まれる等を原因として、極度のストレス負荷を受けることにより各種脳神経機能障害を受けることがあることも良く知られるようになった。各種事件・事故後にいわゆる「心のケア」を実施することが報道されることが最近では多くなっており、社会問題となっている。
【0004】
さらに、神経細胞を増強・促進することにより脳機能を改善したいというニーズは従来からあった。例えば進学のための受験勉強においては、記憶力や思考力を向上させる方法が求められていたのは言うまでもない。また、不幸にして先天的に脳神経機能障害を有する患者のための、安全性が高く、且つ長期摂取が容易な医薬品も求められていた。
【0005】
一般的には、成熟した脳内において神経細胞は新生しないといわれていた。しかし、最近の研究では成熟した脳内であっても神経細胞が新生することが指摘されはじめている。このことから、いかなる因子が神経細胞の新生を誘導するか、また神経細胞新生を促進させる作用を有するかについては、明らかになっていない。
【0006】
本発明者らは、各種茶成分と脳機能との関連を研究してきた。茶成分の一つであるテアニンと脳機能との関連についての研究については、例えば、テアニンを有効成分とする神経成長因子合成促進剤(特許文献1)や、テアニンを有効成分とする脳機能改善剤(特許文献2)や、テアニンを有効成分として含有するグルタミン酸拮抗剤(特許文献3)や、テアニンを有効成分とするヒトに固有の高度な精神的活動に基づく大脳疲労の回復剤(特許文献4)が公知である。しかし、上記のいずれもテアニン自体が神経細胞の増殖、具体的には神経幹細胞から神経系前駆細胞、さらに神経細胞への細胞分化を誘導することについて記載も示唆もしていない。また、テアニン自体が、グリア前駆細胞、さらにアストロサイトやオリゴデンドロサイトへの細胞分化を抑制することについて記載も示唆もしていない。さらに、テアニンが、他の物質による上記細胞分化の誘導や抑制を触媒的に補助する作用を有することについても、記載も示唆もない。
【0007】
【特許文献1】特開平7−173059
【特許文献2】特開平8−73350
【特許文献3】特開平9−286727
【特許文献4】特開2005−187344
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、安全性が高く、且つ継続摂取が容易な神経細胞新生促進組成物及び該組成物を配合する飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、神経細胞新生促進作用を有する各種天然由来成分について鋭意研究したところ、茶成分であるテアニンが優れた神経細胞新生促進作用を有することを見出した。また、かかる神経細胞新生促進作用は、テアニン自体が神経細胞新生促進作用を有するだけでなく、神経細胞新生促進作用を有する他の物質が有する神経細胞新生促進作用についてテアニンがいわば触媒的に促進する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
1. テアニンを有効成分とする神経細胞新生促進組成物。
2. 神経細胞への分化能を増強することを特徴とする上記1記載の神経細胞新生促進組成物。
3. アストログリア細胞への分化能を抑制することを特徴とする上記1又は2記載の神経細胞新生促進組成物。
4. 神経系前駆細胞の増殖能を向上させることを特徴とする上記1〜3のいずれか記載の神経細胞新生促進組成物。
5. 上記1〜4のいずれか記載の神経細胞新生促進組成物を配合することを特徴とする飲食物。
6. 上記1〜4のいずれか記載の神経細胞新生促進組成物を配合し、脳機能低下抑制、老化防止、運動機能障害予防及び/又は言語障害予防のために用いられるものである旨の表示を付した食品又は飲料。
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、安全性が高く、且つ継続摂取が容易な神経細胞新生促進組成物及び該組成物を配合する飲食品を提供することにある。より具体的には、脳機能低下抑制、老化防止、運動機能障害予防及び/又は言語障害予防に有用な神経細胞新生促進組成物や飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本欄では、本発明の実施形態として、神経細胞新生促進組成物や、これを含有する飲食品について説明する。なお、以下の説明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」を意図し、「Xよりも大きくYよりも小さいことが好ましい」旨の意図も包含する。
【0013】
本発明の神経細胞新生促進組成物は、テアニンを有効成分とするものであって、神経細胞への分化能の増強作用、アストログリア細胞への分化能の抑制作用、神経系前駆細胞の増殖能の増強作用からなる群から選ばれる1又は2以上の作用を有するものをいう。ここでいう神経細胞への分化能の増強作用、アストログリア細胞への分化能の抑制作用、及び神経系前駆細胞の増殖能の増強作用は、テアニンそれ自体が神経細胞への分化能の増強作用、アストログリア細胞への分化能の抑制作用、神経系前駆細胞の増殖能の増強作用を有する場合を含むものであるが、他の物質による神経細胞への分化能の増強作用、アストログリア細胞への分化能の抑制作用、神経系前駆細胞の増殖能の増強作用をテアニンがいわば触媒的に促進又は抑制する場合も含むものと解する。神経細胞への分化能の増強作用、アストログリア細胞への分化能の抑制作用、神経系前駆細胞の増殖能の増強作用を有する前記他の物質には、テアニンが触媒的に作用するものであれば特に限定されるものではない。
【0014】
本発明の神経細胞新生促進組成物は、そのまま食品として利用することができ、また各種食品や飲料に添加・配合することもできる。本発明の神経細胞新生促進剤を飲食品に添加する場合、該神経細胞新生促進組成物をそのまま飲食品に添加することができるが、テアニンを含有する組成物、植物抽出物、飲食品やその他テアニン含有物を飲食物に配合することにより調製することもできる。
【0015】
テアニンは、緑茶等に含まれるグルタミン酸の誘導体であり、本発明の有効成分として、例えばL−グルタミン酸−γ−エチルアミド(L−テアニン
)、L−グルタミン酸−γ−メチルアミド、D−グルタミン酸−γ−エチルアミド(D−テアニン )、D−グルタミン酸−γ−メチルアミド等のL−またはD−グルタミン酸−γ−アルキルアミド、L−またはD−グルタミン酸−γ−アルキルアミドを基本構造に含む誘導体(例えばL−またはD−グルタミン酸−γ−アルキルアミドの配糖体など)からなる群から選ばれた1種類の化合物又は2種類以上の化合物からなる混合物を用いることができる。中でも、L−テアニンは、天然物から取得可能であるばかりか、食品添加物として認められており、入手の容易さ及び安全性などからも特に好ましい。
【0016】
テアニンは、既に公知となっている各種方法によって製造することが可能である。例えば、植物または微生物などの培養法により生合成することも、茶葉から抽出することも、発酵或いは化学合成することもできる。具体的には、特開平05−068578(段落[0006]−[0021])、特開平5−328986(段落[0008]−[0027])、特開平09−263573(段落[0009]−[0029])、特開平11−225789(段落[0007]−[0021])、特開2000−26383(段落[0006]−[0020])、特開2001−278848(段落[0011]−[0021])、特開2003−267867(段落[0005]−[0017])、特開2004−010545(段落[0006]−[0036])、特開2006−083155(段落[0009]−[0021])等に記載された製造方法によって得ることができる。ただし、これらの製造方法に限定されるわけではない。また、得られたテアニンはそのまま使用しても精製して使用してもよく、両者を混合して使用することもできる。
【0017】
本発明において、テアニンは、神経細胞新生促進組成物の有効成分として単独で用いることもできるが、既にこれらの作用が知られた他の成分と混合して有効成分とすることもできる。また、単独で用いる場合、例えばテアニンを精製品、粗精製品、或いは茶抽出エキス等の形状のまま精製水又は生理食塩水などに溶解して調製することができる。
【0018】
本発明の神経細胞新生促進組成物は、医薬品や医薬部外品として提供することができる。
【0019】
その形態としては、凍結乾燥或いは噴霧乾燥等により乾燥させて乾燥粉末として提供することも、液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、アンプル剤、注射剤、その他任意の形態に調製して提供することができる。医薬品として提供する場合、例えば、有効成分をそのまま精製水又は生理食塩水などに溶解して調製することも可能である。医薬部外品として提供する場合、容器詰ドリンク飲料等の飲用形態、或いはタブレット、カプセル、顆粒等の形態とし、できるだけ摂取し易い形態として提供するのが好ましい。
【0020】
また、本発明の神経細胞新生促進組成物は、飲食物素材に添加することにより、神経細胞新生促進組成物を製造することもできる。なお、本明細書中において飲食物とは、飲料及び食品を意図する。
【0021】
このような飲食物は、健康食品・健康飲料・特定保健用食品・機能性食品として提供することができる。その場合、それぞれの飲食物を製造するのに通常配合する食品素材に本発明の神経細胞新生促進組成物を加えることにより調製することができる。また、特定保健用食品等の認定を受けた場合に、これらの飲食物は、テアニンを含有し、神経細胞新生促進のために用いられるものである旨の表示を付した食品又は飲料として販売することもできる。
【0022】
例えば、本発明の有効成分を、各種食品素材(果実やゼリーなども含む)、乳成分、炭酸、賦形剤(造粒剤含む)、希釈剤、或いは更に甘味剤、フレーバー、小麦粉、でんぷん、糖、油脂類等の各種タンパク質、糖質原料やビタミン、ミネラル、その他の生理活性成分、ホルモン、栄養成分などから選ばれた一種又は二種以上に加えて、スポーツ飲料、果実飲料、茶飲料、野菜ジュース、乳性飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料、炭酸飲料などの各種飲料、ゼリー、チューインガム、チョコレート、アイスクリーム、キャンディ、ビスケットなどの菓子類、スナック、パン、ケーキなどの澱粉系加工食品、魚肉練り製品、畜肉製品、豆腐、チーズなどのタンパク質系加工食品、味噌やしょうゆ、ドレッシングなどの調味料、その他、サプリメント、飼葉、ペットフードなど様々な飲食物の形態として提供することができる。
【0023】
上記組成物および飲食物におけるテアニン量は、本発明が目的とする効果を損なわない限り特に限定するものではないが、例えば投与対象の体重1kg当たり0.5mg〜5mgのテアニンを投与するのが好ましく、中でも投与対象の体重1kg当たり0.5mg〜2mgのテアニンを投与するのがさらに好ましい。例えば本発明の組成物を成人に投与することを想定し、体重を40kg〜100kgとした場合、20mg〜500mgのテアニンを投与することが好ましく、20mg〜200mgのテアニンを投与することがさらに好ましい。言い換えれば、そのようなテアニン量を摂取し得るように組成物および飲食物中のテアニン量を適宜調整するのが好ましい。
【0024】
例えば、体重60kgのヒトが摂取することを目安とすると、3mg〜3000mgのテアニン含有量に調整するのが好ましく、中でも3mg〜120mgのテアニン含有量に調整するのがさらに好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1:目的
神経幹細胞は、神経系前駆細胞を経て神経細胞に分化されるか、グリア前駆細胞を経てアストロサイト又はオリゴデンドロサイトに分化する。胎児の神経幹細胞は約50%の確率で神経細胞又はグリア細胞に分化するが、成人の神経幹細胞は、全てがグリア細胞に分化する。グリア細胞への分化を抑制して、神経系前駆細胞の増殖能を上昇させ、さらに神経細胞への分化を促進する成分があれば、神経細胞新生による老化予防作用や中枢神経系に関する疾病の予防や治療が期待できる。このことから、ラットの脳神経細胞にテアニンを作用させることにより神経細胞新生を評価した。
【0027】
実施例2:実験方法
2−1.神経系前駆細胞の培養及び分化能の確認
胎児18日齢ラット胎児脳から大脳皮質を切り出した後、酵素処理及びPercoll密度勾配遠心分離法により下層フラクションを画分した。この下層フラクションを、20ng/mLのbFGF又は10ng/mLのEGFを添加した条件下で12日間培養することにより、神経塊Neurosphereを得た。前記神経塊を4%のパラホルムアルデヒドで固定後、神経系前駆細胞のマーカータンパク質であるnestin、神経細胞マーカータンパク質であるMAP−2、及びアストログリア細胞マーカータンパク質であるGFAPの発現量を、免疫細胞化学法によりそれぞれ調べた結果、神経塊のほとんど全てがnestin陽性であったのに対して、MAP−2陽性細胞およびGFAP陽性細胞は全く検出されないことを確認した。このことから、得られた神経塊Neurosphereは、神経系前駆細胞から成るものであって、神経細胞やアストログリア細胞を含むものではないことがわかった。
【0028】
次いで、培養12日目の神経塊について培養液からbFGF又はEGFを除去してさらに6日間培養したところ、MAP2あるいはGFAPに陽性を示す細胞が多数観察された。このことから、得られた神経塊Neurosphereは、神経系前駆細胞であるものの神経細胞やアストログリア細胞への分化能を失ったわけではなく、bFGF又はEGFの非存在下では神経細胞やアストログリア細胞への分化能を有することがわかった。すなわち、本実験条件下に調製された細胞は、神経塊を形成する増殖能と自己複製能を有するだけでなく、神経細胞とアストログリア細胞への分化能を示すことは明らかである。
【0029】
2−2.実験プロトコル
テアニンの作用については、1〜100μMのテアニン添加条件下で神経系前駆細胞を12日間培養した後、細胞を一部回収して細胞増殖能を評価した。100μMのテアニン存在下で形成された神経塊をテアニン非添加条件下にさらに6日間培養した後、18日目に細胞を回収してウエスタンブロット法により、神経細胞とアストログリア細胞の各マーカータンパク質を定量的に測定した。このときに、神経塊培養液から増殖因子のbFGFやEGFを除去するだけでなく、神経細胞分化を促進する分化誘導因子ATRA 100ng/mL、又はアストログリア細胞分化を促進する分化誘導因子CNTF 20ng/mLを添加し、それぞれ添加条件下に12日目から6日間細胞培養を継続後、細胞を回収してウエスタンブロット法により解析を行った。
【0030】
2−3.細胞増殖能の測定
細胞増殖能の測定については、3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-
dimethyltetrazolium bromide(MTT)還元能の定量化により行った。培養12日目の神経塊について、0.5mg/mLのMTTを含むHepes Krebs-Ringer緩衝液に培養液を交換してから、COインキュベーター内で37℃、1時間インキュベーション後、99.5%イソプロパノールと0.04MのHClの混液で可溶化した。生成したMTTホルマザン量は、マイクロプレートリーダーを用いた550nm吸光度測定により定量化した。各試験は全てトリプルケイトで行った。得られた吸光度の値をもとに対照群に対するパーセントで算出し、その結果を平均値および標準誤差で表示した。なお、MTT法とは生細胞数の測定に用いる方法であり、MTTが細胞内のミトコンドリアの脱水素酵素の基質となって、生存能の高い細胞ほど多くのMTTが還元される性質を利用するものである。
【0031】
実施例3:結果
3−1.神経系前駆細胞の増殖促進能
テアニン1〜100μM存在下に12日間神経塊を培養すると、テアニン含有量の多少に関係なく、非添加群と比較して有意なMTT還元能が観察された(図1)。特に、100μMテアニン添加条件下で神経塊を培養した場合のMTT還元能は、テアニン非添加群で神経塊を培養した場合のMTT還元能と比較して、約2倍程度という顕著な還元能が観察された。このことから、テアニンは神経系前駆細胞の増殖能力を増強することがわかった。
【0032】
3−2.神経細胞への分化促進能
増殖能に対する効果の最も強かったテアニン100μMの存在下において12日間神経塊を培養した後、培養液からテアニンとbFGFを除去してさらに6日間培養した。このようにして合計18日間培養した細胞について、神経細胞マーカータンパク質であるMAP2発現量を検討したところ、事前にテアニン存在下で培養した神経塊では、テアニン非存在下で培養した神経塊と比較して、自発的分化条件下では50%以上多いMAP2が発現することが明らかとなった(図2のCont.)。
【0033】
次いで、ATRA添加条件下で細胞を分化させたところ、事前のテアニン添加にかかわらずMAP2発現量の有意な増加が観察された。しかしながら、事前にテアニンに曝露した神経塊では、ATRAによるMAP2発現増加がさらに上昇することが見出された。これに対して、CNTF添加条件下で細胞を分化させたところ、MAP2発現量はいずれも細胞においても有意に低下したが、この場合でも事前のテアニン曝露はMAP2発現量を有意に増加させる事実が判明した。このことから、自発性分化と誘発性分化とのいずれの場合であっても、神経系前駆細胞をテアニン存在下で培養すると、その後の神経細胞への分化が促進されることがわかった。
【0034】
3−3.アストログリア細胞への分化抑制能
同様に、テアニン100μMの存在下において12日間神経塊を培養した後、培養液からテアニンとbFGFを除去してさらに6日間培養した。合計18日間培養した細胞について、アストログリア細胞マーカータンパク質であるGFAP発現量を調べたところ、事前にテアニン存在下で培養した神経塊では、テアニン非存在下で培養した神経塊と比較して、自発的な分化条件下ではGFAP発現量が有意に低下することが明らかとなった(図3のCont.)。
【0035】
次いで、ATRA添加条件下で細胞を分化したところ、事前のテアニン添加にかかわらずGFAP発現量の有意な低下が観察された。しかしながら、事前にテアニンに曝露した神経塊では、ATRAによるGFAP発現低下がさらに減少することが見出された。これに対して、CNTF添加条件下で細胞を分化させたところ、GFAP発現量はいずれの細胞においても有意に上昇したが、この場合でも事前のテアニン曝露はGFAP発現量を有意に低下させる事実が判明した。このことから、自発性分化と誘発性分化とのいずれの場合であっても、神経系前駆細胞をテアニン存在下で培養すると、その後のアストログリア細胞への分化が抑制されることがわかった。
【0036】
実施例4:考察
以上の結果は、緑茶成分であるテアニンが、神経系前駆細胞の増殖能を上昇させるだけでなく、神経細胞への分化を促進すると同時にアストログリア細胞への分化を抑制することを示している。この事実は、テアニンが上述用途の他に下記用途に用いることが可能である。
1.胎児期及び乳幼児期等の発達過程にある脳の機能制御剤
2.老化に伴う神経細胞死、アルツハイマー病やパーキンソン病など成熟脳における神経変性疾患発病後の神経細胞新生及び神経細胞新生促進
3.脳障害に伴う神経細胞死あるいは神経細胞脱落に対して、神経細胞新生及び神経細胞新生促進による脳機能改善
4.強烈なストレス付加に伴う神経細胞新生抑制剤あるいは脱落の予防
以上のように、テアニンを利用した予防医学、神経再生医療への臨床的応用、飲料食品への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】テアニン添加条件下で培養した細胞塊のMTT還元能(神経系前駆細胞の増殖能)が、テアニン非添加条件下で培養した細胞塊のMTT還元能群と比較して有意に増強された結果を示す図である。
【図2】テアニン添加条件下で培養した細胞塊のMAP2(神経細胞マーカータンパク質)発現量が、テアニン非添加条件下で培養した細胞塊のMAP2発現量と比較して有意に増強された結果を示す図である。
【図3】テアニン添加条件下で培養した細胞塊のGFAP(アストログリア細胞マーカータンパク質)発現量が、テアニン非添加条件下で培養した細胞塊のGFAP発現量と比較して有意に抑制された結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアニンを有効成分とする神経細胞新生促進組成物。
【請求項2】
神経細胞への分化能を増強することを特徴とする請求項1記載の神経細胞新生促進組成物。
【請求項3】
アストログリア細胞への分化能を抑制することを特徴とする請求項1又は2記載の神経細胞新生促進組成物。
【請求項4】
神経系前駆細胞の増殖能を向上させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の神経細胞新生促進組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の神経細胞新生促進組成物を配合することを特徴とする飲食物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか記載の神経細胞新生促進組成物を配合し、脳機能低下抑制、老化防止、運動機能障害予防及び/又は言語障害予防のために用いられるものである旨の表示を付した食品又は飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−169143(P2008−169143A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3314(P2007−3314)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】