説明

ティッシュマイクロアレイの作製方法及びその作製キット

【課題】 高価な専用装置や消耗品を用いることなく安価に、かつ高度な技術を必要とせずに誰でもティッシュマイクロアレイを作製することができる、ティッシュマイクロアレイの作製方法及びその作製キットを提供する。
【解決手段】 パラフィン包埋し複数の孔部2を形成した支持ブロック1を作製する支持ブロック作製工程と、パラフィン包埋した検体組織ブロック3から孔部2の形状に対応した形状の検体組織片4を採取する検体組織片採取工程と、支持ブロック1の孔部2に検体組織片4を挿入するとともに支持ブロック1を加温してパラフィンを融解させ支持ブロック1と前記検体組織片4とを一体になじませたアレイブロック5を作製するアレイブロック作製工程とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療における病理診断、研究などで使用されるティッシュマイクロアレイの作製方法及びその作製キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ティッシュマイクロアレイ(Tissue Microarray)は、多数の検体を一つのブロックに集約し、一度に多くの検体を検索できる非常に有用な技術である。例えば、0.6mm径の組織を1000検体、一つのブロックに集約可能である。
【0003】
このティッシュマイクロアレイを作製するためには高度な技術を要するため、ティッシュマイクロアレイを容易に作製するための専用装置が開示されている(例えば、特許文献1)。この専用装置を用いたティッシュマイクロアレイの作製方法は、臓器のホルマリン固定パラフィンブロックをステージに固定し、臓器の目的とする部分に筒状刃の先端を移動して合わせ、その筒状刃で上記組織をくりぬき、続いて、組織抜き棒にて筒状刃から組織を抜き、予め上記筒状刃とほぼ同径の中空穴を複数形成した合成樹脂製のティッシュブロックを用意しておき、くりぬいた組織を包埋皿上に配置したティッシュブロックの中空穴に先端側が包埋皿上に突出するように埋め込み、包埋皿とティッシュブロックの間にパラフィン液を流し込んで充填・固化させる、というものである。
【特許文献1】特開2004−258017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような専用装置は高価であり、さらに合成樹脂製のティッシュブロックなどの高価な消耗品が必要であり、安価にティッシュマイクロアレイを作製することができないといった問題があった。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、高価な専用装置や消耗品を用いることなく安価に、かつ高度な技術を必要とせずに誰でもティッシュマイクロアレイを作製することができる、ティッシュマイクロアレイの作製方法及びその作製キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1記載のティッシュマイクロアレイの作製方法は、パラフィン包埋し複数の孔部を形成した支持ブロックを作製する支持ブロック作製工程と、パラフィン包埋した検体組織ブロックから前記孔部の形状に対応した形状の検体組織片を採取する検体組織片採取工程と、前記支持ブロックの孔部に前記検体組織片を挿入するとともに前記支持ブロックを加温してパラフィンを融解させ前記支持ブロックと前記検体組織片とを一体になじませたアレイブロックを作製するアレイブロック作製工程とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2記載のティッシュマイクロアレイの作製方法は、請求項1において、前記支持ブロックは、脂肪組織からなることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項3記載のティッシュマイクロアレイの作製方法は、請求項1において、前記支持ブロックは、ゲルからなることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4記載のティッシュマイクロアレイの作製方法は、請求項3において、前記ゲルはアガロースゲルであることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項5記載のティッシュマイクロアレイの作製キットは、支持ブロックに孔部を形成する孔部形成手段と、検体組織ブロックから前記孔部の形状に対応した形状の検体組織片を採取する採取手段と、前記支持ブロックを加温する加温手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項6記載の支持ブロックは、ティッシュマイクロアレイを作製するための支持ブロックであって、パラフィン包埋され複数の孔部が形成されたゲルからなることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項7記載の支持ブロックは、請求項6において、前記ゲルはアガロースゲルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1記載のティッシュマイクロアレイの作製方法によれば、高価な専用装置や消耗品を用いることなく安価に、かつ高度な技術を必要とせずに誰でもティッシュマイクロアレイを作製することができる。
【0014】
本発明の請求項2記載のティッシュマイクロアレイの作製方法によれば、支持ブロックは脂肪組織からなるので、例えば、不要になった廃棄物としての脂肪組織を使用して安価にティッシュマイクロアレイを作製することができる。また、脂肪組織は検体組織の染色時に染色されないので、検体組織のみ染色されたティッシュマイクロアレイを作製することができる。
【0015】
本発明の請求項3記載のティッシュマイクロアレイの作製方法によれば、支持ブロックはゲルからなるので、安価にティッシュマイクロアレイを作製することができる。また、ゲルは検体組織の染色時に染色されないので、検体組織のみ染色されたティッシュマイクロアレイを作製することができる。
【0016】
本発明の請求項4記載のティッシュマイクロアレイの作製方法によれば、ゲルはアガロースゲルであるので、安価に確実にティッシュマイクロアレイを作製することができる。また、アガロースゲルは検体組織の染色時に染色されないので、検体組織のみ染色されたティッシュマイクロアレイを作製することができる。
【0017】
本発明の請求項5記載のティッシュマイクロアレイの作製キットによれば、高価な専用装置や消耗品を用いることなく安価に、かつ高度な技術を必要とせずに誰でもティッシュマイクロアレイを作製することができる。
【0018】
本発明の請求項6記載の支持ブロックによれば、パラフィン包埋され複数の孔部が形成されたゲルからなるので、高価な専用装置や消耗品を用いることなく安価に、かつ高度な技術を必要とせずに誰でもティッシュマイクロアレイを作製することができる。また、ゲルは検体組織の染色時に染色されないので、検体組織のみ染色されたティッシュマイクロアレイを作製することができる。
【0019】
本発明の請求項7記載の支持ブロックによれば、ゲルはアガロースゲルであるので、安価に確実にティッシュマイクロアレイを作製することができる。また、アガロースゲルは検体組織の染色時に染色されないので、検体組織のみ染色されたティッシュマイクロアレイを作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明のティッシュマイクロアレイの作製方法は、図1に示すように、パラフィン包埋し複数の孔部2を形成した支持ブロック1を作製する支持ブロック作製工程と、パラフィン包埋した検体組織ブロック3から孔部2の形状に対応した形状の検体組織片4を採取する検体組織片採取工程と、支持ブロック1の孔部2に検体組織片4を挿入するとともに支持ブロック1を加温してパラフィンを融解させ支持ブロック1と前記検体組織片4とを一体になじませたアレイブロック5を作製するアレイブロック作製工程とを備えたものである。
【0022】
また、本発明のティッシュマイクロアレイの作製キットは、支持ブロック1に孔部2を形成する孔部形成手段11と、検体組織ブロック3から孔部2の形状に対応した形状の検体組織片4を採取する採取手段21と、支持ブロック1を加温する加温手段31とを備えたものである。
【0023】
支持ブロック作製工程において作製される支持ブロック1の材料としては、パラフィンの融解温度において固体であり、検体組織を染色する各種の染色法によって染色されないものが用いられる。また、容易に孔部2が形成でき、薄切片作製工程において容易に薄切して、薄切片としてのティッシュマイクロアレイ6が作製できるように、柔らかい材質であることが好ましい。
【0024】
支持ブロック1の材料として、例えば、不要になった廃棄物としての脂肪組織を使用すれば、安価に、検体組織7のみ染色されたティッシュマイクロアレイ6を作製することができる。また、支持ブロックの材料としてゲルを使用した場合においても、安価に、背景が透明で検体組織のみ染色されたティッシュマイクロアレイ6を作製することができる。なお、支持ブロック1の材料として脂肪組織を用いた場合、背景が若干染色されたティッシュマイクロアレイ6が得られることがあるが、ゲルを用いれば背景が完全に透明で検体組織7のみ染色されたティッシュマイクロアレイ6を作製することができる。支持ブロック1の材料として用いられるゲルとしては、例えば、アガロースゲルが好適に用いられる。なお、支持ブロック1の材料はこれらに限定されず、寒天などの種々のゲルを用いてもよい。
【0025】
支持ブロック作製工程においては、支持ブロック1の材料をパラフィン包埋し、孔部形成手段11を用いて、複数の孔部2を形成する。孔部形成手段11としては、例えば、先端を平らに加工した骨髄生検針などを用いることができる。孔部形成手段11として骨髄生検針を用いた場合、特別の器具を用意する必要がなく、パラフィン包埋した支持ブロック1の材料の複数箇所に骨髄生検針を挿すのみで略円柱形状の孔部2が形成でき、安価にかつ簡単に支持ブロック1を作製することができる。なお、骨髄生検針を用いたときの孔部2の径は1.5mm程度となるが、必要とされる孔部2の径に応じた専用の孔部形成手段11を用いてもよい。また、孔部2の径を小さくすることによって、一つの支持ブロック1に集約できる検体組織片4の数を多くすることが可能である。
【0026】
検体組織片採取工程においては、採取手段21を用いて、パラフィン包埋した検体組織ブロック3から前記孔部2の形状に対応した形状の検体組織片4を採取する。採取手段21としては、例えば、先端を平らに加工した骨髄生検針などを用いることができる。採取手段21として骨髄生検針を用いた場合、特別の器具を用意する必要がなく、パラフィン包埋した検体組織ブロック3に骨髄生検針を挿すのみで検体組織片4が採取でき、また、孔部形成手段11と同じ骨髄生検針を用いれば確実に前記孔部2の形状に対応した略円柱形状の検体組織片4を採取することができるので、安価にかつ簡単に検体組織片4を採取することができる。なお、骨髄生検針を用いたときの検体組織片4の径は1.5mm程度となるが、必要とされる検体組織片4の径に応じた専用の採取手段21を用いてもよい。
【0027】
アレイブロック作製工程においては、前記支持ブロック1の孔部2に前記検体組織片4を挿入するとともに、加温手段31を用いて、前記支持ブロック1を加温してパラフィンを融解させ、前記支持ブロック1と前記検体組織片4とを一体になじませる。加温手段31としては、パラフィンが融解する程度に加温できるものであればよく、例えば、ヒートプレートなどをもちいることができる。このアレイブロック作製工程において、検体組織片4は支持ブロック1の孔部2に支持されるため、パラフィンが融解しても検体組織片4が動くことがない。また、パラフィンを融解させて支持ブロック1と検体組織片4とを一体になじませることにより、薄切片作製工程における薄切時に支持ブロック1と検体組織片4が分離することなく、通常の検体組織ブロックと同様に取り扱うことができる。
【0028】
薄切片作製工程において、このように作製されたアレイブロック5を常法により薄切、染色することによって、染色された検体組織7が支持ブロック1の材料で支持された薄切片としてのティッシュマイクロアレイ6が得られる。
【0029】
以上のように、本発明のティッシュマイクロアレイの作製方法及びその作製キットによれば、高価な専用装置や消耗品を用いることなく安価に、かつ高度な技術を必要とせずに誰でもティッシュマイクロアレイを作製することができる。
【0030】
以下、具体的な実施例を例にとって説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0031】
支持ブロックの材料として、脂肪組織を用いた。まず、脂肪組織をパラフィン包埋し、包埋皿に合う大きさに成形した。そして、この脂肪組織に必要な数の孔部を、孔部形成手段として骨髄生検針を用いて形成し、支持ブロックを作製した。
【0032】
つぎに、採取手段として上記孔部形成手段と同じ骨髄生検針を用いて、パラフィン包埋した複数の検体組織ブロックから、それぞれ検体組織片を採取した。
【0033】
そして、支持ブロックを包埋皿に載せ、さらに包埋皿を加熱手段としてのヒートプレートに載せ、支持ブロックを加温しながら孔部にそれぞれの検体組織片を挿入した。このとき、検体組織片が孔部の上端から下端まで位置するように、やや検体組織片を押し込むようにして挿入した。次第にパラフィンが融解して、支持ブロックと検体組織片が一体になじんだ。その後、通常の検体組織ブロックを作製するときと同様に、静かにパラフィンを追加することでアレイブロックが得られた。このアレイブロックを薄切してティッシュマイクロアレイを得た。なお、支持ブロックと検体組織片は完全に一体になっており、薄切時に支持ブロックと検体組織片が分離することはなかった。
【0034】
本実施例で得られたティッシュマイクロアレイの拡大画像を図2に示す。このように、本発明の方法によれば、特別な装置を用いることなく、簡単にティッシュマイクロアレイを作製することができた。
【実施例2】
【0035】
支持ブロックの材料として、アガロースゲルを用いたほかは、上記実施例1と同様にティッシュマイクロアレイを作製した。アガロースゲルは柔らかいため、実施例1と比較して孔部の形成が容易であった。また、本実施例においては、図3に示すように、完全に背景が透明なティッシュマイクロアレイが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のティッシュマイクロアレイの作製方法を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例1で得られたティッシュマイクロアレイの拡大画像である。
【図3】本発明の実施例2で得られたティッシュマイクロアレイの拡大画像である。
【符号の説明】
【0037】
1 支持ブロック
2 孔部
3 検体組織ブロック
4 検体組織片
5 アレイブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィン包埋し複数の孔部を形成した支持ブロックを作製する支持ブロック作製工程と、パラフィン包埋した検体組織ブロックから前記孔部の形状に対応した形状の検体組織片を採取する検体組織片採取工程と、前記支持ブロックの孔部に前記検体組織片を挿入するとともに前記支持ブロックを加温してパラフィンを融解させ前記支持ブロックと前記検体組織片とを一体になじませたアレイブロックを作製するアレイブロック作製工程とを備えたことを特徴とするティッシュマイクロアレイの作製方法。
【請求項2】
前記支持ブロックは、脂肪組織からなることを特徴とする請求項1記載のティッシュマイクロアレイの作製方法。
【請求項3】
前記支持ブロックは、ゲルからなることを特徴とする請求項1記載のティッシュマイクロアレイの作製方法。
【請求項4】
前記ゲルはアガロースゲルであることを特徴とする請求項3記載のティッシュマイクロアレイの作製方法。
【請求項5】
支持ブロックに孔部を形成する孔部形成手段と、検体組織ブロックから前記孔部の形状に対応した形状の検体組織片を採取する採取手段と、前記支持ブロックを加温する加温手段とを備えたことを特徴とするティッシュマイクロアレイの作製キット。
【請求項6】
ティッシュマイクロアレイを作製するための支持ブロックであって、パラフィン包埋され複数の孔部が形成されたゲルからなることを特徴とする支持ブロック。
【請求項7】
前記ゲルはアガロースゲルであることを特徴とする請求項6記載の支持ブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−162489(P2006−162489A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356173(P2004−356173)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】