説明

ティルトキャブ付き車両

【課題】前方衝突時にティルトシリンダの突っ張りによるキャブの圧壊を防止する。
【解決手段】ティルトシリンダに安全リリース装置を設け、キャブが下降位置にあり且つプルチャンバ43内の圧力が所定の限界圧力を超えた場合に、安全リリース装置を作動させ、プルチャンバ43側からプッシュチャンバ44側へ圧力を逃がすことで、ティルトシリンダが突っ張るのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車台とティルトキャブとから成る車両に関し、特に、ティルトキャブが前記車台の上に搭載され、車台に対して前傾可能であるティルトキャブ付き車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のティルトキャブ付き車両は、さらにティルトシステムを備えている。ティルトシステムは、ティルトキャブを車両の車台に関して車両が走行できる下降位置と、例えばキャブの下にあるエンジンの保守作業を行うことができる上昇位置との間で往復式に前傾させる。
【0003】
ティルトシステムは、油圧作動液のタンクと、ポンプと、少なくとも1つの複動油圧式ティルトシリンダとを備えている。複動油圧式ティルトシリンダは、プッシュチャンバおよびプルチャンバと、可動ピストン/ピストンロッドアセンブリとを有し、ピストンがプッシュチャンバとプルチャンバとを分離しており、油圧作動液がプッシュチャンバに供給されるとキャブが上昇位置に移動し、油圧作動液がプルチャンバに供給されるとキャブが下降位置へと移動するように、該油圧シリンダと車台およびキャブが連結されている。
【0004】
ティルトシステムはさらに制御弁を備えている。制御弁は、第1位置においてポンプをシリンダのプッシュチャンバに接続すると共にタンクをプルチャンバに接続し、第2位置においてポンプをシリンダのプルチャンバに接続すると共にタンクをプッシュチャンバに接続するように構成されている。
【0005】
このようなティルトキャブ付き車両は、公知となっている。
【0006】
車両が事故に遭って、他の車両や物体に前方衝突した場合に、キャブは車台に関して後ろ方向に押される。しかし、ティルトシリンダは、キャブの下降位置においてはプルチャンバ内に圧入されているため、少なくともシリンダがキャブに搭載されている個所においては、キャブが車台に関して後ろ方向に動かないように押し留める働きをする。このため、キャブは圧壊する結果となる。過去において運転者が重傷を負った事例の幾つかは、前方衝突時にキャブが圧壊したことが原因となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前方衝突時にも運転者に重傷を負わせることが少ないより安全なティルトキャブ付きを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は請求項1の前文に記載のティルトキャブ付き車両に適用されて達成される。この車両においては、ティルトシリンダは安全リリース装置を有し、プルチャンバ内の圧力が所定の限界圧力を超えた場合に、この装置がティルトシステムのプルチャンバ側からプッシュチャンバ側へと圧力を逃がすように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ティルトキャブと油圧ティルトシリンダとを備える車両を示している。
【図2】図1のティルトキャブを前傾させるための油圧式ティルトシステムを示す概略図である。
【図3】図1のティルトキャブを前傾させるための油圧式ティルトシステムの変更例を示す概略図である。
【図4】本発明による油圧ティルトシリンダの実施例1を示す断面図である。
【図5】図4において符号Vで示した部分を詳細に示す断面図である。
【図6】本発明の実施例3による油圧ティルトシリンダを示す断面図である。
【図7】本発明の実施例4による油圧ティルトシリンダを示す断面図である。
【図8】本発明の実施例5による油圧ティルトシリンダを示す断面図である。
【図9】図4のシリンダを前傾させるためのピストン/ピストンロッドアセンブリの変更例である本発明の実施例2を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
衝突の際、キャブは下降位置にあり、車両キャブの前面が後ろ方向に押される。それによって、キャブがティルトシリンダを引っ張ることにより、ティルトシリンダのプルチャンバ内の油圧作動液の圧力が急激に上昇する。プルチャンバ内の圧力が限界圧力を超えると、安全リリース装置は、ピストン/ピストンロッドアセンブリが移動できるように、プルチャンバからプッシュチャンバへと圧力を逃がす。これによって、前方衝突が起きた場合でも、キャブ全体が後ろ方向に押されるようになる。そのためキャブが圧壊することが少なくなり、運転者が重傷を負うことも少なくなる。
【0011】
好適な実施形態では、安全リリース装置はプルチャンバとプッシュチャンバとの間に伸びるリリース流路を含み、そのリリース流路の中に着脱可能な要素、好ましくは破裂可能な要素が配設されており、破裂可能な要素が破裂した際に、リリース流路はプルチャンバをプッシュチャンバと流体連結させる。
【0012】
さらに好適な実施形態では、リリース流路はティルトシリンダに一体的に組み込まれる。またより好ましくは、リリース流路がピストン/ピストンロッドアセンブリを通って伸びる。これによって、車両内の余分なスペースをとることなく、信頼性の高い安全リリース装置が提供される。
【0013】
さらに、安全リリース装置をピストン/ピストンロッドアセンブリ内に組み込んだ場合、既存のシリンダ本体の構造を変更する必要がないという利点がある。
【0014】
さらに好適な実施形態では、ピストンに軸方向貫通孔が設けられ、該貫通孔にピストンロッドの一端部が挿入され、ピストンロッドのこの端部にピストンロッド端面から伸びる軸方向孔が設けられており、ピストンロッドにはさらに、ピストンロッドの外表面からピストンロッドの前記軸方向孔まで半径方向に伸びる孔が少なくとも1つ設けられており、ピストンの軸方向孔と、ピストンロッドの軸方向孔および放射状孔とでリリース流路を形成する。
【0015】
好ましくは、ピストンの孔に肩部が形成され、破裂可能な要素がその片側で前記肩部に当接すると共に、ピストンロッドの端面が破裂可能な要素の反対側に当接することで、破裂可能な要素が肩部と前記ピストンロッドの端面との間で拘束される。
【0016】
より好ましくは、破裂可能な要素がブッシュを備え、該ブッシュの各端部に破裂可能なディスクが配設される。プッシュチャンバ側の破裂可能なディスクは、キャブを上昇位置に移動させる際の通常の動作条件下でのプッシュチャンバの圧力に耐えることができる。プルチャンバ側の破裂可能なディスクは、キャブを下降位置に移動する際の通常の動作条件下でのプルチャンバの圧力に耐えることができる。
【0017】
好ましくは、破裂可能な要素は二方向に向けて同じ寸法同じ動作特性となるように、対称形とする。対称構成とすることで、安全リリース装置の機能障害や危険な故障の可能性を生じることなく、破裂可能な要素をシリンダにどの向きにでも設置できるという利点が得られる。
【0018】
一実施形態では、両方の破裂可能なディスクが凸側と凹側を有するドーム形中心部を有しており、これらの破裂可能なディスクのドーム形中心部の凸側同士が相対して配置されている。車両の衝突時にプルチャンバ内の圧力が、プルチャンバ側の破裂可能なディスクの限界圧力を超えると、このディスクが破裂し、その後瞬時にプッシュチャンバ側ディスクのドーム形状が圧力により反転して破裂する。
【0019】
破裂可能な要素の各破裂可能なディスクは、通常の動作時はピストンの他方の側からの圧力から他方の破裂可能なディスクを保護する働きをする。すなわち、プッシュチャンバ側のディスクは通常の動作時にプルチャンバ側のディスクにプッシュチャンバからの圧力がかかるのを防ぎ、プルチャンバ側のディスクは通常の動作時にプッシュチャンバ側のディスクにプルチャンバからの圧力がかかるのを防ぐ。2つの破裂可能なディスクの間の空間は通常の動作時は実質的に無圧力の状態である。
【0020】
好ましくは、ブッシュが内表面と、両端部の端面とを有しており、各端面と内表面との間にエッジが存在し、各エッジが一定の半径で丸みをつけた形状を有しており、通常の動作条件下でキャブを前傾する際、前記丸みをつけたエッジが破裂可能なディスクを支持するように構成されている。前記ブッシュのプルチャンバ側のエッジの半径は、プルチャンバからの圧力が一定の限界圧力を超えた時にプルチャンバ側のディスクが破裂するように設定されている。
【0021】
好ましくは、破裂可能なディスクはそのフランジにおいて、ブッシュ端部に対して溶接などにより封止される。
【0022】
一実施形態では、ピストンの孔の中の肩部が内側エッジを有し、前記ブッシュのプッシュチャンバ側の破裂可能なディスクがその外部フランジにおいて肩部に当接しており、プルチャンバ側のディスクが破裂した後にシリンダのプルチャンバ側から加圧された時に該ディスクのドーム形状が反転し、該ディスクが内側の周縁エッジと係合するように構成されている。また、好ましくは肩部の内側エッジに該ディスクが破裂する圧力に対応する一定の半径の丸みがつけられており、この圧力はプルチャンバ側のディスクが破裂する限界圧力よりも低い圧力である。
【0023】
別の実施形態では、衝突時にプルチャンバ側のディスクが破裂した後、プッシュチャンバ側のディスク自体が破裂することはなく、プッシュチャンバ側ディスクとブッシュとの間の封止溶接が破裂する。
【0024】
ブッシュが内表面と、各端部の端面とを有しており、それぞれの端面に環状凹部が、ブッシュの孔を取り囲んで該ブッシュに肩部が形成されるように設けられており、前記破裂可能なディスクがそのフランジにおいてブッシュのそれぞれの肩部に当接して配設されるようにしてもよい。
【0025】
本発明はまた請求項18に記載の車両キャブを前傾させるためのティルトシステムにも係る。
【0026】
さらに本発明は請求項19に記載の車両キャブを前傾させるための複動油圧式ティルトシリンダにも係る。
【実施例1】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明についてより詳細に説明する。
【0028】
図1はトラックのような車両1の前部を概略的に示している。車両1は車台3に搭載されたキャブ2を備える。キャブ2は5において旋回可能に車台3に搭載されている。油圧ティルトシリンダ4は、その一端部において車台3に取り付けられ、他端部においてキャブ2に取り付けられており、ティルトシリンダの長さが伸びると、キャブ2は図1に示す下降位置から上昇位置へと前傾する。
【0029】
油圧ティルトシリンダ4は、車台3に連結される前方連結点41とキャブ2に連結される後方連結点42とを有している。図1では、前方連結点41をピストンロッド端部の取付アイレットで構成し、後方連結点42をシリンダ本体のアイレットで構成することができる。ただし、前方連結点が車台3に連結され、後方連結点がキャブ2に連結されている限りにおいて、前方連結点をシリンダ本体の取付アイレットで構成し、後方連結点をピストンロッド端部の取付アイレットで構成してもよい。この構成により、前方衝突時にキャブ2が後方向に押された場合に、キャブ2はピストン/ピストンロッドアセンブリをシリンダ本体から引き出して引き抜き状態にしようとする。
【0030】
図2は、キャブ2を前傾させるティルトシステムの概略図である。ティルトシステムは、ポンプ6と、油圧作動液タンク7と、前述のティルトシリンダ4と、制御弁8とを備える。
【0031】
ティルトシリンダ4は所謂複動式のシリンダであり、シリンダ本体49を備え、シリンダ本体においてプルチャンバ43とプッシュチャンバ44が可動ピストン45によって画定されている。ピストンロッド46はピストン45に連結されている。プッシュチャンバ44は油圧ライン47が連結されたプッシュ連結部を有しており、この油圧ライン47が制御弁5に連結されている。プルチャンバ43は油圧ライン48が連結されたプル連結部を有しており、この油圧ライン48も制御弁5に連結されている。
【0032】
図示の実施例における制御弁8は手動式二位置弁であるが、電動式の弁としてもよい。弁8は4つの弁口を有する。第1の弁口81はタンク7に接続されている。第2の弁口82はポンプ6に接続されている。第3の弁口83はプルチャンバ43に接続され、第4の弁口84はプッシュチャンバ44に接続されている。
【0033】
図示のような弁の第1位置において、第2弁口82は第3弁口83に接続され、第1弁口81は第4弁口84に接続されている。この状態では、プルチャンバ43が圧力下にあり、プッシュチャンバ44はタンクに接続されているため無圧である。
【0034】
弁の第2位置において、第2弁口82は第4弁口84に接続され、第1弁口81は第3弁口83に接続されている。この状態では、プッシュチャンバ44がポンプに接続されており、プルチャンバが無圧状態である。
【0035】
図3はキャブ2を前傾させるための別の油圧システムを示している。このシステムでは、シリンダは再生原理で動作し、プッシュチャンバとプルチャンバとはバイパス管路30により相互接続されている。本実施例では、3つの弁口を有する二位置制御弁80が設けられている。
【0036】
尚、図2と図3に示した油圧式ティルトシステムはいずれも説明を目的とした例示に過ぎず、限定的なものではない。当業者にはその他の油圧式ティルトシステムも自ずと明らかとなるであろう。
【0037】
キャブ2を前傾する際、通常の動作条件下では、オペレータが弁8,80を作動してプッシュチャンバ44をポンプ6に接続する。これによってピストン/ピストンロッドアセンブリが押し出され、キャブ2は前傾する。キャブ2を再び下降させる際、制御弁8,80をプッシュチャンバ44がタンク7に接続される位置に切り換えると、プッシュチャンバ44は無圧状態になり、ピストン/ピストンロッドアセンブリが重力および/またはポンプ6からの油圧により駆動されて引き込まれる。
【0038】
図4よび図5は、本発明による油圧シリンダ4をより詳細に示したものである。油圧シリンダ4には、後述するように安全リリース装置が組み込まれている。
【0039】
図5から分かるように、ピストン45には、ピストン45のプッシュチャンバ側端部から反対側のプルチャンバ側端部まで軸方向に伸びる軸方向貫通孔90が設けられている。貫通孔90はその一部が内側ネジ山91が設けられたプルチャンバの端部となっている。ピストンロッド46は外側ネジ山が設けられた端部92を備えている。ピストンロッド46は貫通孔90のネジ山部91に端部92を螺合することでピストン45に連結されている。
【0040】
貫通孔90の一端部93はプッシュチャンバ44と開口連通するプッシュチャンバ側にある。貫通孔90の端部93とネジ山部91との間に貫通孔中間部94が存在する。貫通孔端部93の直径が貫通孔中間部より小さいため、貫通孔端部93と中間部94との間に肩部95が形成されている。
【0041】
ピストンロッド46の端部92に軸方向孔96が設けられており、この孔96はピストンロッド46の端面からピストンのプルチャンバ側の面を超えて伸びている。ピストンロッドの外表面から軸方向孔96まで半径方向に伸びる放射状孔97が、1つまたはそれ以上ピストンロッド46に設けられている。放射状孔97によって軸方向孔96はシリンダ4のプルチャンバ43と流体連通するようになる。
【0042】
ピストン45の貫通孔中間部に破裂可能な要素100が配設されている。この破裂可能な要素100は肩部95に当接して配設されており、ピストン45に螺合されたピストンロッド46の端部によって貫通孔中間部内に閉じ込められている。
【0043】
破裂可能な要素100は、ピストンロッド46とピストン45を通ってプルチャンバ43からプッシュチャンバ44まで伸びる通路を閉鎖している。この通路は、ピストンロッド46の放射状孔47と軸方向孔96と、ピストン45の貫通孔中間部と貫通孔端部93とから構成される。
【0044】
破裂可能な要素100はブッシュ101を備え、該ブッシュの外表面に周縁溝が設けられており、周縁溝の中にシールリング102が設けられている。シールリング102は貫通孔中間部94の表面と密封係合している。
【0045】
ブッシュ100は、内表面105と、端部に端面106,107をそれぞれ有している。各端面106,107から内表面105へと移行する個所に周縁エッジ109がそれぞれ形成されている。
【0046】
破裂可能な要素100はさらに、1対の破裂可能なディスク103および104を備えている。プルチャンバ側の破裂可能なディスク103はドーム形の中心領域103aと外部フランジ103bとを備え、外部フランジ103bはブッシュ101の面と係合している。ドーム形中心領域103aの凹側はピストンロッド内の軸方向孔96に面している。プッシュチャンバ側の破裂可能なディスク104もドーム形中心領域104aと外部フランジ104bとを備え、外部フランジ104bはブッシュ101の反対側の端面と係合している。ドーム形中心領域104aの凹側はピストン内の貫通孔90に面している。
【0047】
破裂可能なディスク103および104は金属箔で形成するのが好ましい。
【0048】
上記エッジ108,109はそれぞれ丸みをつけた形状を有しており、その半径はキャブ2を前傾させるための通常の動作圧力の下で該丸みをつけたエッジ108,109がそれぞれの破裂可能なディスク103,104を支持できるように設定されている。ブッシュ100のプルチャンバ側エッジ108の半径は、プルチャンバ43からの圧力が一定の限界圧力を超えると破裂するように設定されている。
【0049】
肩部95は内側エッジ95aを有し、ブッシュ100のプッシュチャンバ側の破裂可能なディスク104はその外部フランジ104bによって肩部95に当接している。肩部95の内側エッジ95aはある半径の丸みが付けられている。プルチャンバ側のディスク103が破裂した後、破裂可能なディスク104がシリンダ4のプルチャンバ側から圧力を受けると、中心領域104aのドーム形状を反転させ、ディスク104が内側周縁エッジ95aと係合するようになる。内側エッジ95aの半径は、変形したディスク104の破裂がそのエッジから始まるように設定される。ディスク104が破裂する圧力は、プルチャンバ側のディスク103が破裂する限界圧力よりも低いため、プルチャンバ側のディスク103が破裂した時にプッシュチャンバ側ディスク104もほぼ瞬時に破裂し、プルチャンバ43からプッシュチャンバ44へのリリース流路が確実に開放される。
【0050】
通常の動作条件下では、プルチャンバ43およびプッシュチャンバ44内の圧力は、それぞれのディスク103および104が破裂する限界圧力を超えないように設定されている。
【0051】
車両事故、特に前方衝突に遭遇した場合、キャブ2は下降位置にある。ピストン/ピストンロッドアセンブリはシリンダ本体の中に押し込まれた状態にある。衝突によってキャブ2は車台3に対して後ろ方向に押される。そのため、キャブ2はピストン/ピストンロッドアセンブリをシリンダ本体49から高速で引き出そうとする。その結果、プルチャンバ43内の圧力が急速に上昇する。これは油圧作動液は非圧縮性であると考えられるためである。プルチャンバ内の圧力が限界圧力を超えると、破裂可能なディスク103が破裂し、その後ほぼ瞬時にプッシュチャンバ側のディスク104も破裂する。これでリリース流路が開くため、油圧作動液はプルチャンバ43からプッシュチャンバ44へと流れることができ、ピストン/ピストンロッドアセンブリをシリンダ本体49から引き出すことができる。これによってキャブ2は車台3に対して後ろ方向に移動することが可能となる。このようにして、キャブ2の圧壊を防止し、運転者が重傷を負う危険性が低減される。
【実施例2】
【0052】
図9は、ティルトシリンダ用の別のピストン/ピストンロッドアセンブリを示す。このピストン/ピストンロッドアセンブリにおいては、図5のものに対応する要素については同じ参照符号を付して示している。図5の実施例1と図9の実施例2との相違は、図9ではブッシュ101が端面106および107に該ブッシュ101の孔96を取り囲むように環状凹部906,907を有している点にある。破裂可能なディスク103および104がそのフランジ103b,104bにおいて前記凹部906,907内に配設されている。凹部906,907と孔96との間の周縁エッジは丸みをつけてもよいが、尖っていてもよい。
【0053】
図9の実施例2では、ディスク103および104がそのフランジにおいて凹部906,907内に封止、好ましくは溶接されている。使用時、プルチャンバ内の圧力が限界圧力を超えるとそれによってプルチャンバ側のディスク103が破裂するが、プッシュチャンバ側のディスク104はそれ自体破裂せず、ディスクとブッシュとの間の封止接合部が破裂する。言うまでもなく、プッシュチャンバ側のディスク104についても、プルチャンバ側からの圧力負荷によってディスク自体が破裂するようにしてもよい。いずれの場合でもプルチャンバとプッシュチャンバが相互連結されて圧力を解放する。
【0054】
図5の実施例1と図9の実施例2において、破裂可能なディスク103と破裂可能なディスク104との間の空間は実質的に無圧状態である。それによって、例えば図2に示すようにチャンバ43,44の一方が無圧である油圧システムにおいて破裂可能な要素100を使用することができるが、例えば図3に示すように所謂再生原理により動作する、すなわち両チャンバ43,44が同じ圧力を有する状態で動作する油圧システムにおいても破裂可能な要素100を使用することができる。
【0055】
破裂可能な要素100(図5の実施例1、図9の実施例2)は、組立時に破裂可能な要素100に配向の間違いが生じないように対称形とするのが好ましい。
【実施例3】
【0056】
図6は、本発明の実施例3として、別のティルトシリンダ204を示しており、このティルトシリンダ204においては、図4および図5に示したような安全リリース装置がピストン/ピストンロッドアセンブリに組み込まれていない。シリンダ204はシリンダ本体の外側にある迂回管路205に設けられている。迂回管路には破裂可能な要素206が設けられている。この破裂可能な要素206は、図4および図5に関連して説明した破裂可能な要素100と同じものであってもよい。
【実施例4】
【0057】
図7は、本発明の実施例4として、油圧ティルトシリンダのピストン/ピストンロッドアセンブリを示している。このピストン/ピストンロッドアセンブリは安全リリース装置がその中に組み込まれている。ピストン70は、ピストンロッド71がピストン70を通って伸びるようにピストンロッド71に配設されている。安全リリース装置はピストンロッド72内に軸方向孔73を備え、該孔73はロッド72の端面74からピストン70のプルチャンバ側の面の先まで伸びている。ピストンロッド71には、ピストンロッドの外表面から軸方向孔73まで伸びる放射状孔75が1つまたはそれ以上設けられている。該放射状孔75によって、軸方向孔73はシリンダのプルチャンバと流体連通する。
【0058】
軸方向孔73の中に、ボール76が孔73にぴったりと嵌合するように配設されている。ボール76はティルトシリンダのプルチャンバ側とプッシュチャンバ側との間の通路を閉止しており、通常の動作条件下では該ボールが孔の中に留まるように孔73内に保持されている。衝突時にシリンダのプルチャンバ側チャンバにおいて限界圧力を超えると、ボールが孔73から排出され、プルチャンバとプッシュチャンバとの間の通路が開放される。
【実施例5】
【0059】
図8は、本発明の実施例5として、図7の実施形態の変形例を示している。この変形実施形態では、ボール76の代わりに円筒体77が孔73の中にぴったりと嵌合している。この実施形態は図7に示したものと本質的に同様に機能する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車台と、前記車台に搭載され該車台に対して前傾可能に構成されたティルトキャブと、前記ティルトキャブを車両の車台に対して下降位置と上昇位置との間で往復式に前傾させるティルトシステムとを有するティルトキャブ付き車両であって、
前記ティルトシステムは、油圧作動液のタンクと、ポンプと、ティルトシリンダと、制御弁とを有し、
前記ティルトシリンダは、プッシュチャンバおよびプルチャンバと可動ピストン/ピストンロッドアセンブリとを有する少なくとも1つの複動油圧式シリンダであって、ピストンがプッシュチャンバとプルチャンバとを分離しており、油圧作動液がプッシュチャンバに供給された時にキャブが上昇位置へと移動し、油圧作動液がプルチャンバに供給されるとキャブが下降位置へと移動するように、車台およびキャブに連結されており、
前記制御弁は、第1位置においてポンプをシリンダのプッシュチャンバに接続すると共にタンクをプルチャンバに接続し、第2位置においてはポンプをシリンダのプルチャンバに接続すると共にタンクをプッシュチャンバに接続するように構成されているティルトキャブ付き車両において、
前記ティルトシリンダは、プルチャンバ内の圧力が所定の限界圧力を超えた場合にティルトシステムのプルチャンバ側からプッシュチャンバ側へ圧力を逃がすように構成された安全リリース装置を有することを特徴とするティルトキャブ付き車両。
【請求項2】
前記安全リリース装置は、プルチャンバとプッシュチャンバとの間に伸びるリリース流路を含んでおり、
前記リリース流路には、加圧着脱可能な要素が配設されており、加圧着脱可能な要素が除去されてリリース流路を開放すると、該リリース流路によってプルチャンバがプッシュチャンバと流体連通するように構成されている請求項1に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項3】
前記加圧着脱可能な要素は、破裂可能な要素である請求項2に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項4】
前記リリース流路は、前記ティルトシリンダに一体的に組み込まれている請求項2または3に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項5】
前記リリース流路は、シリンダ外部に配設された導管によって構成されている請求項2または3に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項6】
前記リリース流路は、前記ピストン/ピストンロッドアセンブリを通って伸びている請求項4に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項7】
前記ピストンには、軸方向貫通孔が設けられており、
前記ピストンロッドの一端部が該貫通孔に挿入されており、
前記ピストンロッドの前記端部には、ピストンロッド端面から伸びる軸方向孔が設けられており、
前記ピストンロッドには、該ピストンロッドの外表面から前記ピストンロッドの軸方向孔まで伸びる放射状の孔が少なくとも1つ設けられており、
前記ピストンの軸方向孔と前記ピストンロッドの軸方向孔および放射状孔とは、前記リリース流路を形成している請求項4に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項8】
前記ピストン内の孔には、肩部が形成されており、
前記破裂可能な要素は、その片側で前記肩部に当接し、
前記ピストンロッドの端面は、破裂可能な要素の他方の側に当接して、前記破裂可能な要素が前記肩部と前記ピストンロッドの端面との間に拘束されるように構成されている請求項7に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項9】
前記破裂可能な要素は、1つの破裂可能なディスクまたは一連の複数の破裂可能なディスクから成る請求項3乃至8のいずれか一項に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項10】
前記破裂可能な要素は、ブッシュを備えており、
前記ブッシュの各端部には、前記破裂可能なディスクが配設されている請求項9に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項11】
前記破裂可能なディスクの少なくとも一方は、ドーム形の中心部分と放射状外部フランジとを有している請求項9または10に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項12】
少なくとも1つの破裂可能なディスクは、金属箔で形成されている請求項9乃至11のいずれか一項に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項13】
前記破裂可能なディスクの両方は、凸側と凹側を有するドーム形中心部を備えており、
これらの破裂可能なディスクのドーム形中心部の凸側同士は、相対して配置されている請求項10に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項14】
前記ブッシュは、内表面と、各端部の端面とを有しており、
各端面と内表面との間には、エッジが存在し、
各前記エッジは、一定の半径を有する丸みをつけた形状を有し、
前記キャブを前傾する通常の動作条件としての圧力下で、前記丸みをつけたエッジは、破裂可能なディスクを支持するように構成されており、
前記ブッシュのプルチャンバ側のエッジの半径は、プルチャンバからの圧力が一定の限界圧力を超えた時にプルチャンバ側のディスクが破裂するように設定されている請求項13に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項15】
前記肩部は、内側エッジを有し、
前記ブッシュのプッシュチャンバ側の破裂可能なディスクは、その外部フランジにおいて肩部に当接しており、
前記プルチャンバ側の前記破裂可能なディスクが破裂した後にシリンダのプルチャンバ側から加圧されると、該ディスクのドーム形状が反転し、該ディスクは、内側の周縁エッジと係合するように構成されている請求項8に従属する場合の請求項14に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項16】
前記肩部の内側エッジは、ディスクが破裂する圧力に対応する一定の半径の丸みをつけられており、その圧力は、プルチャンバ側のディスクが破裂する限界圧力よりも低い請求項15に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項17】
前記油圧シリンダは、車両の車台に連結されたシリンダ本体を有しており、
前記ピストンロッドは、前傾可能なキャブに連結されており、
キャブが低くした状態にあるときに、前記シリンダ本体は、車両の走行方向においてピストンロッドの端部より前方に位置している請求項1〜16のいずれか一項に記載のティルトキャブ付き車両。
【請求項18】
車両のキャブを前傾させるためのティルトシステムであって、
油圧作動液のタンクと、ポンプと、ティルトシリンダと、制御弁とを有し、
前記ティルトシリンダは、プッシュチャンバおよびプルチャンバと可動ピストン/ピストンロッドアセンブリとを有する少なくとも1つの複動油圧式ティルトシリンダであって、ピストンがプッシュチャンバとプルチャンバとを分離しており、油圧作動液がプッシュチャンバに供給された時にキャブが上昇位置へと移動し、油圧作動液がプルチャンバに供給されるとキャブが下降位置へと移動するように、車台およびキャブに連結されており、
前記制御弁は、第1位置においてポンプをシリンダのプッシュチャンバに接続すると共にタンクをプルチャンバに接続し、第2位置においてはポンプをシリンダのプルチャンバに接続すると共にタンクをプッシュチャンバに接続するように構成されており、
前記ティルトシリンダは、プルチャンバ内の圧力が所定の限界圧力を超えた場合に、ティルトシステムのプルチャンバ側からプッシュチャンバ側へ圧力を逃がす安全リリース装置を有することを特徴とするティルトシステム。
【請求項19】
車両のキャブを前傾させるための複動油圧式ティルトシリンダとしての油圧シリンダであって、
プッシュチャンバおよびプルチャンバと、可動ピストン/ピストンロッドアセンブリとを有し、
前記ピストンは、プッシュチャンバとプルチャンバとを分離しており、
油圧作動液がプッシュチャンバに供給された時にキャブが上昇位置へと移動する一方、油圧作動液がプルチャンバに供給されるとキャブが下降位置へと移動するように、車台およびキャブに連結されており、
前記ピストンに軸方向貫通孔が設けられており、
前記ピストンロッドの一端部は、該貫通孔に挿入されており、
ピストンロッドのこの端部にピストンロッド端面から伸びる軸方向孔が設けられており、
前記ピストンロッドには、該ピストンロッドの外表面から前記ピストンロッドの軸方向孔まで伸びる放射状の孔が少なくとも1つ設けられており、
前記ピストンの軸方向孔と前記ピストンロッドの軸方向孔および放射状孔とは、プルチャンバとプッシュチャンバとの間に前記リリース流路を形成しており、
前記ピストン内の孔には、肩部が形成されており、
前記破裂可能な要素は、その片側で前記肩部に当接し、
前記ピストンロッドの端面は、破裂可能な要素の他方の側に当接し、
前記破裂可能な要素は、前記肩部と前記ピストンロッドの端面との間に拘束されるように構成されていることを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項20】
前記破裂可能な要素は、ブッシュを備えており、
前記ブッシュの各端部には、破裂可能なディスクが配設されている請求項19に記載の油圧シリンダ。
【請求項21】
前記破裂可能なディスクの少なくとも一方は、ドーム形の中心部分と、放射状外部フランジとを有している請求項20に記載の油圧シリンダ。
【請求項22】
前記破裂可能なディスクは、金属箔で形成されている請求項20乃至21のいずれか一項に記載の油圧シリンダ。
【請求項23】
前記破裂可能なディスクの両方は、凸側と凹側を有するドーム形中心部を備えており、
これらの破裂可能なディスクのドーム形中心部の凸側同士は、相対して配置されている請求項20〜22のいずれか一項に記載の油圧シリンダ。
【請求項24】
前記ブッシュは、内表面と、各端部の端面とを有しており、
各端面と内表面との間にエッジが存在し、
各エッジは、一定の半径を有する丸みをつけた形状を有し、
キャブを前傾する通常の動作条件(圧力)下で、前記丸みをつけたエッジは、破裂可能なディスクを支持するように構成されており、
前記ブッシュのプルチャンバ側のエッジの半径は、プルチャンバからの圧力が一定の限界圧力を超えた時にプルチャンバ側のディスクが破裂するように、設定されている請求項20乃至23のいずれか一項に記載の油圧シリンダ。
【請求項25】
前記ピストンの孔の肩部は、内側エッジを有しており、
前記ブッシュのプッシュチャンバ側の破裂可能なディスクは、その外部フランジにおいて肩部に当接しており、
プルチャンバ側の前記破裂可能なディスクが破裂した後にシリンダのプルチャンバ側から加圧されると、該ディスクのドーム形状が反転し、該ディスクが内側の周縁エッジと係合するように構成されている請求項19乃至24のいずれか一項に記載の油圧シリンダ。
【請求項26】
前記肩部の内側エッジは、ディスクが破裂する圧力に対応する一定の半径の丸みをつけられており、その圧力は、プルチャンバ側のディスクが破裂する限界圧力よりも低い請求項25に記載の油圧シリンダ。
【請求項27】
前記ブッシュが内表面と、各端部の端面とを有しており、
前記端面それぞれには、ブッシュの孔を取り囲み、該ブッシュに肩部が形成されるように、環状凹部が設けられており、
前記破裂可能なディスクは、そのフランジにおいてブッシュのそれぞれの肩部に当接して配設されている請求項21乃至23のいずれか一項に記載の油圧シリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−235879(P2011−235879A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−96076(P2011−96076)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(511102642)アクチュアント コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】