テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面を準備するためのプロセス
【課題】超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを提供する。
【解決手段】シリコン基板12の上に、シリコン基板12を侵食せずに選択的なエッチングが可能である第1材料14を設け、シリコン基板12または第1材料14を侵食せずに選択的なエッチングが可能である第2材料16を蒸着する。エッチングにより、柱または溝のアレイ18を有する、テクスチャを持たせたシリコン基板(左側)、または、張出し凹状構造20を備える柱または溝のアレイ18を有する、テクスチャを持たせたシリコン表面(右側)を作製する。
【解決手段】シリコン基板12の上に、シリコン基板12を侵食せずに選択的なエッチングが可能である第1材料14を設け、シリコン基板12または第1材料14を侵食せずに選択的なエッチングが可能である第2材料16を蒸着する。エッチングにより、柱または溝のアレイ18を有する、テクスチャを持たせたシリコン基板(左側)、または、張出し凹状構造20を備える柱または溝のアレイ18を有する、テクスチャを持たせたシリコン表面(右側)を作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テクスチャを持たせた超疎油性表面(textured superoleophobic surface)を有するインクジェットプリントヘッド前面(ink jet printhead front face)またはノズルプレートを準備するためのプロセス、テクスチャを持たせた、特殊形状の超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレート、インクジェットプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
流体インクジェットシステムは一般的に、流体の液滴を記録媒体に噴射するための複数のインクジェットを有する一つ以上のプリントヘッドを含む。プリントヘッドのインクジェットは、溶融インク容器またはインクカートリッジなどの供給源からインクを受け取るインク供給室またはプリントヘッドのマニホールドから、インクを受け取る。各インクジェットは、インク供給マニホールドと流体連通状態にある一端部を有する通路を含む。インク通路の他端部は、インクの液滴を噴射するためのオリフィスまたはノズルを有する。インクジェットのノズルは、インクジェットのノズルに対応する開口部を有する孔またはノズルプレートに形成されるとよい。動作中には、液滴噴射信号がインクジェットのアクチュエータを起動して、インクジェットノズルから記録媒体へ流体の液滴を放出する。記録媒体および/またはプリントヘッドアセンブリが相対移動する際に、液滴を噴射するインクジェットのアクチュエータを選択的に起動させることにより、付着した液滴が正確にパターン形成されて、特定のテキストまたはグラフィックイメージを記録媒体に形成する。MEMSJet液滴噴射器は、可撓性膜が間に設けられたインク室の下の空気室で構成される。空気室の内部の電極に電圧が印加されると、アースされた可撓性膜を引き下げてインク室の容積を増大させることにより圧力を低下させる。こうして、インク容器からインク室へインクが流入する。次に電極がアースされて膜の復元力がこれを押し上げ、ノズルから液滴を噴射する圧力スパイクをインクキャビティに発生させる。米国特許出願公開第2009/0046125号には、全幅アレイプリントヘッドの例が記載されている。米国特許出願公開第2007/0123606号には、このようなプリントヘッドで噴射される紫外線硬化ゲルインクの例が記載されている。このようなプリントヘッドで噴射される固形インクの例は、Xerox ColorQube(商標)のシアン固形インクである。米国特許第5,867,189号には、プリントヘッドの出口側に電界研磨インク接触・オリフィス表面が組み込まれたインク噴射部品を含むインクジェットプリントヘッドが記載されている。
【0003】
流体インクジェットシステムが直面する問題の一つは、プリントヘッド前面へのインクの濡れ、漏れ、溢れである。プリントヘッド前面のこのような汚れは、インクジェットノズルおよび通路の閉塞を発生させるかその原因となり、閉塞はそれだけで、または濡れて汚れた前面とともに、液滴の不発または無形成、液滴のサイズ不足またはサイズ違い、衛星状の液滴(サテライト)、記録媒体上での液滴の誘導ミスを発生させるかその原因となって、結果的に印刷品質の低下をもたらす。最新のプリントヘッド前面コーティングは一般的に、疎油性コーティング、例えばスパッタリングによるポリテトラフルオロエチレンコーティングで被覆されている。しかし、有機質としてのインクは水とは作用が異なり、前面表面には親インク性が見られる。プリントヘッドが傾くと、約75℃の温度のUVゲルインクと約105℃の温度の固形インクとは、プリントヘッド前面の表面で簡単には滑落しない。むしろこれらのインクは、プリントヘッド前面上を流れてプリントヘッドにインク膜または残留物を残し、これが噴射を妨害する。この理由から、UVおよび固形インクプリントヘッドの前面は、UVおよび固形インクによって汚れやすい。場合によっては、汚れたプリントヘッドをメンテナンスユニットでリフレッシュまたはクリーニングすることができる。しかしこのようなアプローチはシステムの複雑性、ハードウェアのコスト、時には信頼性の問題を招く。さらに、前面コーティングは時にして、インクの化学的性質に対する耐性に問題を抱え、メンテナンス用ワイパブレードによる反復的な払拭がコーティングの多くを除去して、インクの濡れおよびノズルプレート表面での流れにより残留物を生じるというより深刻な結果を生む。そのうえ、一連のサブユニットで構成される全幅アレイプリントヘッドは、サブユニットのエッジによるワイパブレードへのダメージを回避するため、ユニット間の隙間を充填するためサブユニットが埋設されなければならない。埋設材が取り除かれて、新しいサブユニットが挿入された後で再形成されなければならないため、これは、プリントヘッドの再加工を非常に困難にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0046125号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0123606号明細書
【特許文献3】米国特許第5,867,189号明細書
【特許文献4】米国特許第4,889,560号明細書
【特許文献5】米国特許第4,889,761号明細書
【特許文献6】米国特許第5,221,335号明細書
【特許文献7】米国特許第5,230,926号明細書
【特許文献8】米国特許第5,372,852号明細書
【特許文献9】米国特許第5,432,539号明細書
【特許文献10】米国特許第5,621,022号明細書
【特許文献11】米国特許第6,284,377号明細書
【特許文献12】米国特許第6,737,109号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前面またはノズルプレートが超疎油性のみを、または超疎油性とともに超疎水性を呈する、インクジェットプリントヘッドおよびこれを準備するための方法の必要性が残っている。さらに、現在入手可能なインクジェットプリントヘッド前面用のコーティングはその本来の目的には合っているが、プリントヘッド前面におけるUVまたは固形インクの濡れ、漏れ、溢れ、汚れを軽減または解消する改良型プリントヘッド前面を設計する必要性が残っている。さらに、疎インク性つまり疎油性であって、プリントヘッド前面の払拭などのメンテナンス手順に耐えるほど堅牢な(robust)、改良型プリントヘッド前面設計の必要性が残っている。さらに、超疎油性であり、実施形態においては超疎油性かつ超疎水性である改良型プリントヘッド前面設計の必要性が残っている。さらに、クリーニングが容易であるか、自動クリーニング式であってメンテナンスユニットの必要性などハードウェアの複雑性を解消してランニングコストを低下させるとともにシステム信頼性を向上させる、改良型プリントヘッドの必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示されるのは、シリコン基板を用意する工程と、フォトリソグラフィを用いてシリコン基板にテクスチャを持たせたパターンを形成する工程と、任意で、テクスチャを持たせたシリコン表面を加工してテクスチャを持たせた疎油性シリコン材料を用意する工程と、テクスチャを持たせた疎油性シリコン材料からインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成して、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを用意する工程とを含む、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを準備するためのプロセスである。実施形態において、テクスチャを持たせたシリコン表面の加工は、疎油性コンフォーマルコーティングを設けることを含む。様々な実施形態において、テクスチャを持たせたパターンは、柱のアレイ、溝パターン、波状側壁および凹状張出し構造を含む柱のアレイまたは溝パターン、またはその組合せを含む。別の実施形態では、テクスチャを持たせた表面は、選択された流パターンで液体の流れを誘導するのに適した形態を含む。
【0007】
他に開示されるのは、テクスチャを持たせたパターンを含むシリコンであるシリコン基板と、任意で、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられた疎油性コンフォーマルコーティングとを備える、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートである。
【0008】
さらに開示されるのは、テクスチャを持たせたパターンを含むシリコンであるシリコン基板と、任意で、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられる疎油性コンフォーマルコーティングとを含む前面を備えるプリントヘッドを有するインクジェットプリンタである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】プロセス10の実施形態を図示したプロセス流れ図である。
【図2】プロセス200の別の実施形態を図示したプロセス流れ図である。
【図3】シリコン基板上にフッ素化され、テクスチャを持たせた表面を作製するためのプロセス流れ図である。
【図4】液体および波状側壁構造による液体/空気の界面の作用を示した図である。
【図5】テクスチャを持たせた側壁を有する柱アレイ構造を備えるテクスチャを持たせたシリコン表面と、テクスチャを持たせたシリコン表面における水およびヘキサデカンの静止接触角を示す一対の顕微鏡写真である。
【図6】波状側壁の柱構造の詳細を示す、図5の表面の一部の拡大図である。
【図7】テクスチャを持たせたシリコン表面およびフルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面における水とヘキサデカンオクタンとの静止接触角を示す一対の顕微鏡写真である。
【図8】張出し凹状特徴の詳細を示す、図7の表面の一部の拡大図である。
【図9】3.0マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える、超疎油性のテクスチャを持たせたシリコン表面を示す顕微鏡写真である。
【図10】1.1マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える、超疎油性のテクスチャを持たせたシリコン表面を示す顕微鏡写真である。
【図11】フルオロシランコーティングによるシリコン溝を有する構造の顕微鏡写真である。
【図12】張出し凹状構造を形成する溝構造の最上面を備える溝付き波状側壁構造を示す図である。
【図13】凹凸のないPTFE表面とテクスチャを持たせた超疎油性表面との間のインクオフセットの比較の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示されるのは、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを準備するためのプロセスであり、このプロセスは、シリコン基板を用意する工程と、フォトリソグラフィを用いてシリコンにテクスチャを持たせたパターンを作成する工程であって、該テクスチャを持たせたパターンが、表面を超疎油性にする柱のアレイ、溝パターン、他のテクスチャを持たせたパターン、またはその組合せを含む、工程と、フルオロシランコーティングを設けることなどによりテクスチャを持たせた表面を任意で加工して、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを用意する工程と、を含む。特定の実施形態では、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMSJet)に基づく液滴噴射プリントヘッドのための前面またはノズルプレート表面として、可撓性の超疎油性手段が用いられる。
【0011】
開示されるのは、シリコン基板を用意する工程と、フォトリソグラフィを用いて、実施形態では柱のアレイを含むテクスチャを持たせたパターンである、テクスチャを持たせたパターンをシリコン基板に作成する工程と、任意で、疎油性コンフォーマルコーティングを設けることによりテクスチャを持たせた表面を任意で加工して、テクスチャを持たせた疎油性シリコンを用意する工程と、テクスチャを持たせた疎油性シリコンからインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成する工程とを含む、テクスチャを持たせた高疎油性または超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを準備するためのプロセスである。実施形態において、テクスチャを持たせた表面は、高疎油性表面または超疎油性表面、あるいは超疎油性であるとともに超疎水性である表面である。
【0012】
ここで使用される際に、高疎油性は、炭化水素系の液体、例えばインクの液滴が、130°から175°、135°から170°の接触角(contact angle)など、高い接触角を表面とともに形成する時として説明できる。ここで使用される際に、超疎油性は、炭化水素系の液体、例えばインクの液滴が、150°より大きいか、または150°から175°、150°から160°の接触角などの高い接触角を表面とともに形成する時として説明できる。
【0013】
超疎油性はまた、炭化水素系の液体、例えばヘキサデカンの小滴が、1°から30°未満または1°から25°の転落角(sliding angle)、25°未満の転落角、15°未満の転落角、10°未満の転落角を表面とともに形成する時としても説明できる。
【0014】
高疎水性は、水の小滴が130°から180°の接触角などの高い接触角を表面とともに形成する時として説明できる。超疎水性は、水の小滴が150°より大きいか150°から180°の接触角など高い接触角を表面とともに形成する時としても説明できる。
【0015】
超疎水性は、水の小滴が1°から30°、1°から25°の転落角、15°未満の転落角、10°未満の転落角などの転落角を表面とともに形成する時として説明できる。
【0016】
インクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成するための超疎油性表面を有するシリコン材料は、適当な方法で準備される。図1を参照すると、プロセス流れ図は当該プロセス10の実施形態を図示したもので、左側には、波状側壁を有する柱のアレイを備える、テクスチャを持たせたシリコン表面を準備するためのプロセスが描かれ、右側には、柱の最上部に張出し凹状構造を有する柱のアレイを含む、テクスチャを持たせたシリコン表面を準備するためのプロセスが描かれている。選択された実施形態では、シリコンであるシリコン基板12の上には、シリコン基板12を侵食せずに選択的なエッチングが可能である材料14が設けられている。実施形態では、シリコン基板12をまたは第1材料14を侵食せずに選択的なエッチングが可能である第2材料16が蒸着されて、周知のリソグラフィ方法を用いてシリコン基板にノズル孔を作成するようにエッチングされる。周知のフォトリソグラフィ方法を用いて所望のパターンがエッチングされて、柱または溝のアレイ18を有する、テクスチャを持たせたシリコン基板(左側)が準備されるか、張出し凹状構造(overhang re-entrant structure)20を備える柱または溝のアレイ18を有する、テクスチャを持たせたシリコン表面(右側)が準備される。
【0017】
図2を参照すると、プロセス流れ図は当該プロセス200の別の実施形態を図示したもので、超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートがシリコン基板204を用いることで準備される。
【0018】
柱のアレイを含む、テクスチャを持たせたパターンが、シリコン基板に用意される。柱のアレイは、テクスチャを持たせた、または波状の垂直側壁を有する、柱の上部に画定される張出し凹状構造を有する、またはその組合せである柱のアレイとして規定される。ここで使用される際に、テクスチャを持たせた、または波状の側壁は、サブミクロン範囲で明らかとなる側壁の凹凸を意味する。波状の側壁は、250ナノメートルの波状構造を有し、各波は後述するエッチングサイクルに対応する。
【0019】
柱のアレイを含む、テクスチャを持たせたパターンは、フォトリソグラフィ技術を用いてシリコンに作成される。シリコン基板204は、周知のフォトリソグラフィ方法に従って準備されクリーニングされる。次に、フォトレジスト材料206をシリコン204にスピンコーティングまたはスロットダイコーティングすることなどにより、フォトレジスト206が塗布される。適当なフォトレジストが選択されればよい。フォトレジストは、Mega(商標)Posit(商標)SPR(商標)700フォトレジストでよい。
【0020】
次に、一般的には紫外線への露光と、水酸化ナトリウム含有現像液などの有機現像液またはテトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの無金属イオン現像液への露出とにより、フォトレジスト206が露光および現像される。
【0021】
柱のアレイ208を含む、テクスチャを持たせたパターンは、当該技術で周知の適当な方法によりエッチングされる。概してエッチングは、液体またはプラズマ化学薬品を用いて、マスク206で保護されていないシリコンの層を除去する工程を含む。シリコン基板204に柱アレイ208を製造するのに、ディープ反応性イオンエッチング技術を採用できる。
【0022】
エッチングプロセスの後、液体レジストストリッパまたは酸素含有プラズマなどを用いる適当な方法により、フォトレジストが除去される。GaSonics Aura 1000アッシングシステムなどのO2プラズマ処理を用いて、フォトレジストが剥離される。剥離に続いて、高温ピラニア(piranha(硫酸過酸化水素水混合溶液))洗浄プロセスなどにより基板がクリーニングされる。
【0023】
シリコン基板に表面テクスチャ(surface texture)が作成された後、化学的加工など、表面テクスチャが加工されてもよい。シリコン基板の化学的加工は、テクスチャを持たせた表面に疎油性の品質を与えるか高めるためなど、基板の適当な化学的処理を含む。柱表面208にフルオロシランコンフォーマルコーティング210が設けられてもよい。実施形態では、テクスチャを持たせた基板表面の化学的加工は、過フッ素アルキル鎖で構成される自己組織化層を、テクスチャを持たせたシリコン表面に設ける工程を含む。過フッ素アルキル鎖の自己組織化層を、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けるには、分子蒸着、化学蒸着、溶液コーティングなど様々な技術が使用される。実施形態では、テクスチャを持たせたシリコン基板の化学的加工は、分子蒸着、化学蒸着、溶液自己組織化を介して、フルオロシランコーティングを、テクスチャを持たせたシリコン表面にコンフォーマルに(conformal)自己組織化することによる化学的加工を含む。特定の実施形態において、テクスチャを持たせたシリコン基板の化学的加工は、分子蒸着技術または溶液コーティング技術を用いて、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン(非公式にはフルオロオクチルトリクロロシラン(FOTS)として知られる)、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン、その組合せなどにより組織化された層を設ける工程を含む。あるいは、ポリテトラフルオロエチレンなどのコーティングまたは材料を設けることにより、テクスチャを持たせたシリコン基板が加工されてもよい。
【0024】
特定の実施形態では、テクスチャを持たせたシリコン表面を形成するのに、パルス式または時間多重式エッチングを含み、ボッシュ(Bosch)のディープ反応性イオンエッチングプロセスが採用される。ボッシュプロセスは、1)保護不動態化層の蒸着と、2)エッチング1:谷底など所望の箇所の不動態化層を除去するエッチングサイクルと、3)エッチング2:シリコンを等方的にエッチングするエッチングサイクルとを含む、一つのサイクルに三つの別々のステップを含む複数エッチングサイクルを用いて垂直エッチングを形成する工程を含む。各ステップは数秒で終了する。不動態化層は、テフロン(登録商標)に類似したC4F8により作製され、さらなる化学的侵食から基板全体を保護するとともに、さらなるエッチングを阻止する。しかし、エッチング1段階の間に、基板に衝撃を与える方向性イオンが谷底で不動態化層を侵食する(柱側壁に沿っては顕著ではない)。エッチング2の間に、イオンが不動態化層と衝突してこれをスパッタリングし、基板の谷底を化学エッチング剤に露出させる。エッチング2は、短時間(例えば約5から約10秒間)、シリコンを等方的にエッチングするのに役立つ。短いエッチング2ステップは小さい波周期(5秒だと約250ナノメートル)をもたらし、長いエッチング2は、長い波周期(10秒だと約880ナノメートル)をもたらす。このエッチングサイクルは、所望の柱高が得られるまで反復される。このプロセスでは、テクスチャを持たせた、または波状の側壁を有する柱が作成され、各波は一つのエッチングサイクルに対応する。
【0025】
周期的「波」構造の大きさは適当な大きさでよい。実施形態では、波状側壁の各「波」の大きさは100から1,000ナノメートル、または250ナノメートルである。
【0026】
当該プロセスの実施形態は、張出し凹状構造を有する柱のアレイを含むシリコン基板に、テクスチャを持たせた表面を作成する工程を含む。このプロセスは、二つのフッ素エッチングプロセス(CH3F/O2およびSF6/O2)の組合せを用いた類似プロセスを含む。図3を参照すると、プロセスはシリコン基板300を用意する工程を含む。プラズマ強化化学蒸着または低圧化学蒸着などを介して、シリコン基板300の上には薄いシリコン酸化層302が設けられる。クリーニングされたシリコン酸化302層に、フォトレジスト材料304が塗布される。このプロセスはさらに、SPR(商標)700−1.2フォトレジストを用いた5:1フォトリソグラフィなどによりフォトレジスト材料304を露光および現像させ、フッ素系反応性イオンエッチング(CH3F/O2)を使用し、第2フッ素系(SF6/O2)反応性イオンエッチングプロセスを用いてシリコン酸化層302に、テクスチャを持たせたパターンを画定した後、高温剥離またはピラニア洗浄によって張出し凹状構造310を有する、テクスチャを持たせた柱308を形成する工程を含む。テクスチャを持たせた柱308の張出しの程度を高めるため、キセノン二フッ化酸素等方性エッチングプロセスが適用されてもよい(図3には図示されていない)。XeF2気相エッチングでは、シリコンからキャップ材料である二酸化ケイ素までほぼ無限の選択性が見られる。次に、パターン形成されたアレイが疎油性コンフォーマルコーティング312でコーティングされて、張出し凹状構造310を有する、テクスチャを持たせた柱パターンを有する超疎油性シリコンが用意される。
【0027】
このプロセスはさらに、テクスチャを持たせた疎油性シリコンからインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成して、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するシリコンインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを用意する工程を含む。
【0028】
凹凸表面上の液体小滴の間の液体・気体混合の界面を説明するのに、普通は、カシー−バクスター(Cassie-Baxter)状態とウェンゼル(Wenzel)状態の二つの状態が使用される。カシー−バクスター状態(θCB)とウェンゼル状態(θW)における小滴の静止接触角は、それぞれ方程式(1)および(2)によって求められる。
【0029】
cosθCB=Rffcosθγ+f−1 (1)
【0030】
cosθw=rcosθγ (2)
【0031】
fは突出した湿潤エリアの面積画分、Rfは湿潤エリアの凹凸比、Rffは固体面積画分、rは凹凸比、θγは液体小滴と平坦面との接触角である。
【0032】
カシー−バクスター状態では、液体小滴は主として空気に「接して」おり、接触角(θCB)は非常に大きい。方程式によれば、例えばθγ≧90°である時に液体と表面とが高度の非親和性を持つ場合に、液体小滴はカシー−バクスター状態にある。
【0033】
実施形態において、テクスチャを持たせた表面には二つの一般形状が設けられ、その各々は、張出し凹状構造を備える、形状に基づく(表面コーティングに基づくものと反対の)二つのタイプの疎インク性表面のうち一方を表す。凹状構造はインクをカシー状態に維持し、これは、空気と固体とで構成される(抗湿状態:凹凸表面の谷/溝に液体が充填されず、高い接触角、低い接触角ヒステリシス、低い転落角を特徴とする)複合表面にインクが付着して、接触面積が著しく減少することを意味する。凹状構造により、インクがウェンゼル状態になるのを最初の親インク性表面が妨げる表面凹凸が設けられる(湿潤状態:液体が凹凸面の溝を充填し、液滴が固定され、高い接触角と高い接触角ヒステリシスと高い転落角を特徴とするか、固定される)。ウェンゼルおよびカシーの両方の状態について、両状態の接触角は著しく増大するが、インクと、テクスチャを持たせた表面との間の低い転落角および低い付着力のため、カシー状態が望ましい。
【0034】
0.2という固体面積画分(“f”)値についてのカシー−バクスター方程式は、検査用液体(probing liquids)が固体表面積の20%に接触するに過ぎないことを意味する。重要なのは湿潤固体エリアであるため、凹凸についての正確な性質(正弦波、方形波など)は重大でないが、凹状構造はインクをカシー状態に維持する。そのため例えば、固体面積画分が20%であると仮定して108°の接触角(水)を達成するのに表面コーティングが使用された場合には、当該テクスチャを持たせたコーティング(凹凸)はこの接触角を約150°まで増加させる。さらに、固体面積画分が20%であると仮定して、ヘキサデカンまたはインクの同じ表面コーティングの接触角が73°であると、このテクスチャを持たせたコーティング(凹凸)は接触角を約138°まで増加させる。
【0035】
図4は、液体および波状側壁構造(波状上部に凹状張出し構造を形成)による液体/空気の界面の作用を図示している。テクスチャを持たせた凹凸表面は、簡単なDRIEエッチングプロセスで作成された波状側壁ポストを有する凹状張出し構造を備える柱(ポスト、隆起部、溝)を有する。第1対の波は、液体が柱を塗らすのを妨げるエネルギーバリヤとして機能する。第1対の波から形成された凹状張出し構造は、図4に示されたように液体と相互作用するキャップとして機能し、これはカシー状態/モデルに対応する。カシー状態では、液体/空気界面が張出し構造の下に移動するには、表面は大きく変形しなければならず、毛細管力よりはるかに高い力を必要とするため、液滴は最後には張出し構造(またはキャップ)の上部に残る。
【0036】
実施形態では、テクスチャを持たせた表面を有するシリコンノズルプレートは、150°より大きい非常に高い水接触角と、10°未満か10°と等しい低い転落角とを有する超疎水性である。
【0037】
炭化水素系液体、例えばヘキサデカンを一例とするインクに関しては、柱の上面に形成された張出し凹状構造を有する柱のアレイを備える、テクスチャを持たせたシリコン表面は、テクスチャを持たせた疎油性表面の液体・固体界面でヘキサデカン小滴がカシー−バクスター状態を形成する結果となるのに充分なだけ(つまりθγ=73°)、表面を「非親和性」にする。実施形態では、表面テクスチャと化学的加工との組合せ、例えばテクスチャを持たせたシリコンに設けられたFOTSコーティングの結果、超疎油性となるテクスチャを持たせたシリコン表面が得られる。平坦な表面では、疎油性コーティングは、水の接触角が100°より大きく、ヘキサデカンの接触角が50°より大きいコーティングを意味する。実施形態において、疎油性はθγ=73°を意味する。
【0038】
図5には、テクスチャを持たせた(波状の)側壁を有する柱アレイ構造を備えるフルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面の顕微鏡写真と、フルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面における水およびヘキサデカンの静止接触角を示す一対の写真とが設けられている。波状側壁FOTSコーティング表面と水およびヘキサデカンとの接触角は、それぞれ156°と158°である。図6には、波状側壁の柱構造の詳細を示す、図5の表面の一部の拡大図が設けられている。
【0039】
図7には、柱の上部に画定された第2材料(二酸化ケイ素)から張出し凹状構造が形成される、張出し凹状構造を有する柱のアレイを備えるフルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面の顕微鏡写真と、フルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面における水とヘキサデカンオクタンとの静止接触角を示す一対の写真とが設けられている。FOTSコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面と水およびヘキサデカンとの接触角は、それぞれ153°と151°である。図8には、張出し凹状特徴の詳細を示す、図7の表面の一部の拡大図が設けられている。
【0040】
柱アレイは、適当な間隔または柱密度または固体面積被覆率を有する。実施形態において、柱のアレイは、0.5%から40%または1%から20%の固体面積被覆率を持つ。柱アレイは、適当な間隔または柱密度を有する。特定の実施形態では、柱のアレイは約6マイクロメートルの柱中心−柱中心間隔を有する。
【0041】
柱アレイは、円形、長円形、方形、矩形、三角形、星形、その他を含む適当な形状を有する。
【0042】
柱アレイは、0.1から約10マイクロメートル、または1から約5マイクロメートルの直径を含む適当な直径または同等の直径を有する。
【0043】
柱は、適当な、または所望の高さで画定される。実施形態では、テクスチャを持たせたシリコンは、0.3から10マイクロメートル、または0.5から5マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える。
【0044】
図9において、顕微鏡写真は、3.0マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える、超疎油性の、テクスチャを持たせたシリコン表面を示す。図10の顕微鏡写真は、1.1マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える、超疎油性の、テクスチャを持たせたシリコン表面を示す。
【0045】
別の実施形態では、超疎油性の、テクスチャを持たせたシリコン表面は溝構造を有する。図11には、幅が3マイクロメートルでピッチが6マイクロメートルのフルオロシランコーティングによるシリコン溝を有する本開示による構造の顕微鏡写真が載っている。図12には、張出し凹状構造を形成する溝構造の最上面を備える溝付き波状側壁構造を示す、図11の構造の代替図が挙げられている。
【0046】
溝構造は、適当な間隔または柱密度(pillar density)または固体面積被覆率(solid area coverage)を有する。実施形態では、溝構造は0.5%から40%、または1%から20%の固体面積被覆率を有する。
【0047】
溝構造は、適当な幅およびピッチを有する。特定の実施形態では、溝構造は0.5から10マイクロメートル、または1から5マイクロメートル、または3マイクロメートルの幅を有する。さらに実施形態において、溝構造は、2から15マイクロメートル、または3から12マイクロメートル、約6マイクロメートルの溝ピッチを有する。
【0048】
テクスチャを持たせたパターンの構造、実施形態では柱または溝の構造は、何らかの適当な形状を持てばよい。実施形態において、テクスチャを持たせた構造全体は特定のパターンを形成するようにデザインされた形態を有するかこれを形成する。実施形態において、柱または溝構造は、選択された流パターンで液体の流れを誘導するように選択された形態を有するように形成されるとよい。
【0049】
溝構造は、適当な、または所望の全高で画定される。実施形態において、テクスチャを持たせた表面は、0.3から10マイクロメートル、0.3から5マイクロメートル、0.5から5マイクロメートルの全高を有する溝パターンを含む。
【0050】
理論による制約を望んではいないが、テクスチャを持たせたFOTS表面(FOTS textured surface)と水およびヘキサデカンとについて観察された高い接触角は、表面テクスチャおよびフッ素化の組合せの結果である。特定の実施形態では、テクスチャを持たせたデバイスは、可撓性の超疎油性デバイスを設けるため溝または柱構造の上面に、波状側壁特徴または張出し凹状構造のうち少なくとも一方を有する。理論による制約を望んではいないが、溝または柱の上部の凹状構造は、超疎油性にとって重要な要因である。
【0051】
表1は、いくつかの関連表面について、水、ヘキサデカン、固形インク、そして紫外線硬化ゲルインク(UVインク)との接触角データをまとめたものである。サンプル1は、米国特許第5,867,180号に記載されたプリントヘッドを含む。サンプル2は、凹凸のないポリテトラフルオロエチレン表面である。サンプル3は、直径が3マイクロメートルで高さが7マイクロメートル、中心間の間隔が約6マイクロメートルで波状側壁の柱のアレイを備える、テクスチャを持たせた表面を有する、本開示に従って準備された超疎油性表面である。サンプル4は、溝方向と平行に小滴が滑落する波状側壁の溝を有する溝構造である。このテクスチャを持たせた表面では、水とヘキサデカンの両方が約158°の接触角を達成し、波状側壁ポストでの転落角は約10°であって、水および油を非常に良くはじく超疎水性および超疎油性の表面特徴を示した。このテクスチャを持たせた表面も、表1に示されているように約155°の接触角で固形インクに対して優れた抗湿性を示した。溝構造表面については、転落角は柱構造表面よりもさらに低く、ヘキサデカンは4°の転落角を有し、固形インクの転落角は25°である。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材料は疎水性かつ親油性であって、水とヘキサデカンの両方について、界面の強い付着力に対応する非常に高い転落角を持つ。固形インクは90°より低い接触角を有して本質的な親和性を示し、90°まで傾いても逆さまになっても動かなかった。データは、表1にまとめられている。
【0052】
【表1】
【0053】
図13は、本開示による凹凸のないPTFE(Teflon(登録商標))表面と、テクスチャを持たせた超疎油性表面との間のインクオフセットの比較の一つを示す。この材料の顕著な湿潤性能を説明するため、Xerox ColorQube(商標)のシアン固形インクの固形インク小滴が、波状側壁(上列)とPTFE表面(下列)とを有する当該超疎油性表面からXerox(登録商標)4200(登録商標)紙に写された。固形インクの液滴は紙とPTFEの両方に付着して最終的には二つの塊に分かれて、PTFE表面の「オフセット」を示した。作用は大きく異なるが、固形インク小滴は単に当該超疎油性表面から離れて、紙に完全に転写された。
【0054】
実施形態において、テクスチャを持たせた疎油性シリコンインクジェットプリントヘッドノズルプレートは、機械的に堅牢またはロバストである。超疎水性および超疎油性に対する柱高の効果は、エッチング時間を制御することによって決定された。大きさ(直径)が3マイクロメートル、ピッチ(ピッチとは柱の中心間距離を意味する)が12マイクロメートルで、7マイクロメートル、3マイクロメートル、1.5マイクロメートル、1.1マイクロメートル、0.8マイクロメートルの異なる高さを有するパターンが選択された。3マイクロメートルの柱が図9に示されており、高さ1.1マイクロメートルの柱が図10に示されている。1.1マイクロメートル(波周期3)の柱高の場合でも、7マイクロメートルまでの異なる高さを持つ対応の柱と比較して一貫した高い接触角と低い転落角が見られることにより、超疎水性と超疎油性の両方が証明された。柱高が約0.8マイクロメートル(波周期2)まで減少すると、超疎水性および超疎油性が維持されなくなる。水とヘキサデカンの両方について、側壁の第1対の波のみが濡れ、超疎水性および超疎油性を達成するのに極めて高い柱高は必要ないとの結論が得られる。このようにして、柱高さの低い、当該のテクスチャを持たせたシリコン材料は、これらの柱の機械的ロバスト性を向上させる(アスペクト比を低下させる)。シリコンノズルプレートなどの実施形態では、柱の側面でインクを落下させる外部圧力は印加されず、柱高は5マイクロメートル未満まで減少し、シリコンノズルプレート表面の機械的ロバスト性をさらに高める。
【0055】
特定の実施形態において、プリントヘッドシリコンノズルプレートは、ディープ反応性イオンエッチング(DRIE)ノズルを備えるシリコンノズルプレートを含む。ノズルプレートは、20から30マイクロメートルなどだがこれに限定されない所望の厚さに研削および研磨された絶縁体上シリコンウェハで構成されるが、さらにフォトリソグラフィおよび加工を行うのに十分なほど平坦な材料にする厚さならば、いかなる厚さでも適している。残りのプロセスは、表面加工特徴(surface modification features)のパターン形成およびエッチングと、ノズルのパターン形成およびエッチングを含む。問題は、ノズルはその後のフォトリソグラフィを妨げる(深い孔はフォトレジストのスピニング加工を妨害する)ため、ノズルを最初に加工できず、結果的に生じる疎水性表面にフォトレジストが付着しないため、表面加工を最初に実施できないことである。
【0056】
図1を参照すると、当該プロセスは、例えばパターン情報を一時的に「保管する」のにマスキング層を使用してからエッチングを実施することにより、プロセスの開始時にパターン形成ステップ、表面加工、ノズル形成の両方を実施する工程を含む。図1の左側は、エッチングの詳細に応じて、波状側壁を有する標準的な柱、ポスト、溝についてのものである。図1の右側では、張出し凹状構造を有する柱、またはキャップを備える「頂上がT字の」ポスト/柱/溝となる。実施形態では、12はシリコンを指し、14はシリコン(二酸化シリコン)を侵食せずに選択的にエッチングされる材料を指し、16は他の二つの層(窒化ケイ素など)を侵食せずにエッチングされる別の材料を指す。上で詳しく説明したように、張出し凹状構造を作成するため、エッチングマスクを切り取る等方性シリコンエッチングが追加される。次にエッチングマスクが所定箇所に残される。両図の終わりで、テクスチャを持たせた表面(不図示)に抗湿性コーティングが設けられる。
【0057】
図1に示されたプロセスの左側は最も減算的である、つまり材料をエッチングすることにより構造が画定される。しかし、このプロセスは加算的プロセスも含む。例えばノズルプレートは、酸化ケイ素などの酸化物、窒化ケイ素などの窒化物、ポリマー、金属層、SU−8またはKMPR(登録商標)フォトレジストでコーティングされてから、ポストまたは隆起部を作成するようにパターン形成される。張出し凹状構造を作成するには、多数の材料が使用され、張出し凹状プロフィールを作成するように材料が選択的にエッチングされる。例えば、金属層が酸化層の上部に蒸着される。金属はパターン形成されてから、酸化物に対して湿潤または蒸気HFエッチングが行われ、張出し凹状プロフィールを作成するように金属が切除される。
【0058】
さらなる実施形態では、ノズルからのインクが横移動して柱の下に入るのを回避するように、ノズルの周囲に隙間のない中実の(エッチングされていない)リングが設けられる。この形態により、インクが表面から溢れると、パターン形成された形状で側面でなく上部から入る(ウェンゼル状態に退化する)。減算的(エッチングによる)製造プロセスでは、リングがシリコンに直接エッチングされるため、それ自体が「装着される」わけではない。この場合、ノズルとリングはともに同じシリコン層から削られる。またあるいは、凹状構造を作成するため、二酸化ケイ素、金属、他の異なる材料による幅広の上部をシリコンリングが有してもよい。
【0059】
あるいは、(層が蒸着される)加算的なケースでは、蒸着されたシリコン、酸化物、ポリマー、金属などでリングが製作される。この実施形態では、シリコンの上部に層が蒸着されるため、接着剤が必要ない(リング材料が適切に接着されるように注意が必要)。
【0060】
シリコンウェハに対する単純なフォトリソグラフィおよび表面加工技術により、超疎油性表面(例えば、ヘキサデカン小滴は、表面と150°より大きい接触角と10°未満の転落角とを形成する)が製造されることを、当該発明者らは証明した。準備される超疎油性シリコン表面は非常に「疎インク性」であって、インクジェットプリントヘッドの前面またはノズルプレートにとって非常に望ましい表面特性、例えば、超抗湿性のためのインクとの高い接触角と、高い保持圧力と、自動クリーニングおよび簡易クリーニングのための低い転落角とを有する。一般的にインクの接触角が大きくなるほど、保持圧力は良く(高く)なる。保持圧力は、インクタンク(容器)の圧力が上昇する時にノズル開口部からのインク漏れを回避する孔プレートの能力を左右する。
【0061】
ここで説明する超疎油性表面は、インクジェットプリントヘッドのための前面材料としての使用に特に適している。実施形態において、インクジェットプリントヘッドは、テクスチャを持たせたパターンを有するシリコンであるシリコンと、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられる任意のフルオロシランコーティングとを含むノズルプレートを備える。別の実施形態において、インクジェットプリントヘッドは、テクスチャを持たせたパターンを有するシリコンであるシリコンと、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられる任意のフルオロシランコーティングとを含む前面またはノズルプレートを備える。
【0062】
実施形態において、ワイパブレードまたは他の接触クリーニング機構が必要ないように、当該インクジェットプリントヘッドは自動クリーニング式である。あるいは、当該インクジェットプリントヘッドは、エアナイフシステムなどの非接触クリーニングシステムの使用を可能にすることで、全幅アレイヘッドを埋設する必要性を解消し、欠陥のあるサブユニットを噴射試験の後に簡単に交換できる。
【0063】
当該インクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートは、浅い(例えば約5マイクロメートル未満の)溝、柱(またはポスト)、大きなキャップ/張出し凹状構造を備える柱ポストのパターンなどの、テクスチャを持たせたシリコン表面を、ノズル前面に有する。このテクスチャを持たせたノズル前面は、技術的には、低い転落角とともにインクの接触角を大きく増大させる疎油性である。テクスチャを持たせたシリコンノズル前面は低コストで準備でき、前面コーティングとの組合せで使用できる。当該プロセスと、これにより準備されるノズルプレートとは、以下を含むがこれらに限定されないいくつかの長所を提供する。a)凹凸の含有状態を向上させて噴射の再現性を高めるとともに溢れを減少させる、b)溢れが発生するか、他の理由でインクが前面に付いた時に、すぐに転落して、噴射不良または方向のずれを少なくする、c)画像品質を向上させる、d)前面のメンテナンスの頻度を下げることで時間を短縮して供給の無駄を省き、テクスチャを持たせた前面に設けられる前面コーティングの磨耗を最少にする、e)機械的払拭が使用される時に、コーティングは上部のみで磨耗して側壁または床部では磨耗しないので、溝(と柱)が前面コーティングを保護するように作用する、f)ワイヤーボンドの封入中に、疎水性/疎油性の前面は、封入材がノズルプレートに溢れてノズルに付着するのを防止するのに役立つ、g)ノズルプレートの所定部分が、他のエリアがインクを吸着している間にインクをはじき、インクをノズルから離すことが可能である。
【0064】
実施形態において、この前面またはノズルプレート表面の疎インク性の向上が、ワイパブレードクリーニングシステムを不要にする。そのため、ワイパブレードの代わりに、いくつかの長所を有する非接触クリーニングシステムを使用できる。第一に、非接触クリーニングシステムはブレードによる表面の磨耗を解消し、コーティングの選択に一層の柔軟性をもたらす。第二に、全幅アレイヘッドでは一般的に、尖ったダイのエッジがラバーブレードを傷つけるのを防止するため、サブユニット間の隙間が充填される(埋設される)必要があり、この埋設により欠陥または故障のサブユニットを取り除くことが困難である。埋設が取り除かれなければならないがこれは困難であり、新たな、または既存のサブユニットの動きを妨げたり、ダメージを与えたりすることなく交換されなければならない。この非接触メンテナンス方式は、埋設の必要性を低下させるか完全に解消する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、テクスチャを持たせた超疎油性表面(textured superoleophobic surface)を有するインクジェットプリントヘッド前面(ink jet printhead front face)またはノズルプレートを準備するためのプロセス、テクスチャを持たせた、特殊形状の超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレート、インクジェットプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
流体インクジェットシステムは一般的に、流体の液滴を記録媒体に噴射するための複数のインクジェットを有する一つ以上のプリントヘッドを含む。プリントヘッドのインクジェットは、溶融インク容器またはインクカートリッジなどの供給源からインクを受け取るインク供給室またはプリントヘッドのマニホールドから、インクを受け取る。各インクジェットは、インク供給マニホールドと流体連通状態にある一端部を有する通路を含む。インク通路の他端部は、インクの液滴を噴射するためのオリフィスまたはノズルを有する。インクジェットのノズルは、インクジェットのノズルに対応する開口部を有する孔またはノズルプレートに形成されるとよい。動作中には、液滴噴射信号がインクジェットのアクチュエータを起動して、インクジェットノズルから記録媒体へ流体の液滴を放出する。記録媒体および/またはプリントヘッドアセンブリが相対移動する際に、液滴を噴射するインクジェットのアクチュエータを選択的に起動させることにより、付着した液滴が正確にパターン形成されて、特定のテキストまたはグラフィックイメージを記録媒体に形成する。MEMSJet液滴噴射器は、可撓性膜が間に設けられたインク室の下の空気室で構成される。空気室の内部の電極に電圧が印加されると、アースされた可撓性膜を引き下げてインク室の容積を増大させることにより圧力を低下させる。こうして、インク容器からインク室へインクが流入する。次に電極がアースされて膜の復元力がこれを押し上げ、ノズルから液滴を噴射する圧力スパイクをインクキャビティに発生させる。米国特許出願公開第2009/0046125号には、全幅アレイプリントヘッドの例が記載されている。米国特許出願公開第2007/0123606号には、このようなプリントヘッドで噴射される紫外線硬化ゲルインクの例が記載されている。このようなプリントヘッドで噴射される固形インクの例は、Xerox ColorQube(商標)のシアン固形インクである。米国特許第5,867,189号には、プリントヘッドの出口側に電界研磨インク接触・オリフィス表面が組み込まれたインク噴射部品を含むインクジェットプリントヘッドが記載されている。
【0003】
流体インクジェットシステムが直面する問題の一つは、プリントヘッド前面へのインクの濡れ、漏れ、溢れである。プリントヘッド前面のこのような汚れは、インクジェットノズルおよび通路の閉塞を発生させるかその原因となり、閉塞はそれだけで、または濡れて汚れた前面とともに、液滴の不発または無形成、液滴のサイズ不足またはサイズ違い、衛星状の液滴(サテライト)、記録媒体上での液滴の誘導ミスを発生させるかその原因となって、結果的に印刷品質の低下をもたらす。最新のプリントヘッド前面コーティングは一般的に、疎油性コーティング、例えばスパッタリングによるポリテトラフルオロエチレンコーティングで被覆されている。しかし、有機質としてのインクは水とは作用が異なり、前面表面には親インク性が見られる。プリントヘッドが傾くと、約75℃の温度のUVゲルインクと約105℃の温度の固形インクとは、プリントヘッド前面の表面で簡単には滑落しない。むしろこれらのインクは、プリントヘッド前面上を流れてプリントヘッドにインク膜または残留物を残し、これが噴射を妨害する。この理由から、UVおよび固形インクプリントヘッドの前面は、UVおよび固形インクによって汚れやすい。場合によっては、汚れたプリントヘッドをメンテナンスユニットでリフレッシュまたはクリーニングすることができる。しかしこのようなアプローチはシステムの複雑性、ハードウェアのコスト、時には信頼性の問題を招く。さらに、前面コーティングは時にして、インクの化学的性質に対する耐性に問題を抱え、メンテナンス用ワイパブレードによる反復的な払拭がコーティングの多くを除去して、インクの濡れおよびノズルプレート表面での流れにより残留物を生じるというより深刻な結果を生む。そのうえ、一連のサブユニットで構成される全幅アレイプリントヘッドは、サブユニットのエッジによるワイパブレードへのダメージを回避するため、ユニット間の隙間を充填するためサブユニットが埋設されなければならない。埋設材が取り除かれて、新しいサブユニットが挿入された後で再形成されなければならないため、これは、プリントヘッドの再加工を非常に困難にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0046125号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0123606号明細書
【特許文献3】米国特許第5,867,189号明細書
【特許文献4】米国特許第4,889,560号明細書
【特許文献5】米国特許第4,889,761号明細書
【特許文献6】米国特許第5,221,335号明細書
【特許文献7】米国特許第5,230,926号明細書
【特許文献8】米国特許第5,372,852号明細書
【特許文献9】米国特許第5,432,539号明細書
【特許文献10】米国特許第5,621,022号明細書
【特許文献11】米国特許第6,284,377号明細書
【特許文献12】米国特許第6,737,109号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前面またはノズルプレートが超疎油性のみを、または超疎油性とともに超疎水性を呈する、インクジェットプリントヘッドおよびこれを準備するための方法の必要性が残っている。さらに、現在入手可能なインクジェットプリントヘッド前面用のコーティングはその本来の目的には合っているが、プリントヘッド前面におけるUVまたは固形インクの濡れ、漏れ、溢れ、汚れを軽減または解消する改良型プリントヘッド前面を設計する必要性が残っている。さらに、疎インク性つまり疎油性であって、プリントヘッド前面の払拭などのメンテナンス手順に耐えるほど堅牢な(robust)、改良型プリントヘッド前面設計の必要性が残っている。さらに、超疎油性であり、実施形態においては超疎油性かつ超疎水性である改良型プリントヘッド前面設計の必要性が残っている。さらに、クリーニングが容易であるか、自動クリーニング式であってメンテナンスユニットの必要性などハードウェアの複雑性を解消してランニングコストを低下させるとともにシステム信頼性を向上させる、改良型プリントヘッドの必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示されるのは、シリコン基板を用意する工程と、フォトリソグラフィを用いてシリコン基板にテクスチャを持たせたパターンを形成する工程と、任意で、テクスチャを持たせたシリコン表面を加工してテクスチャを持たせた疎油性シリコン材料を用意する工程と、テクスチャを持たせた疎油性シリコン材料からインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成して、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを用意する工程とを含む、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを準備するためのプロセスである。実施形態において、テクスチャを持たせたシリコン表面の加工は、疎油性コンフォーマルコーティングを設けることを含む。様々な実施形態において、テクスチャを持たせたパターンは、柱のアレイ、溝パターン、波状側壁および凹状張出し構造を含む柱のアレイまたは溝パターン、またはその組合せを含む。別の実施形態では、テクスチャを持たせた表面は、選択された流パターンで液体の流れを誘導するのに適した形態を含む。
【0007】
他に開示されるのは、テクスチャを持たせたパターンを含むシリコンであるシリコン基板と、任意で、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられた疎油性コンフォーマルコーティングとを備える、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートである。
【0008】
さらに開示されるのは、テクスチャを持たせたパターンを含むシリコンであるシリコン基板と、任意で、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられる疎油性コンフォーマルコーティングとを含む前面を備えるプリントヘッドを有するインクジェットプリンタである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】プロセス10の実施形態を図示したプロセス流れ図である。
【図2】プロセス200の別の実施形態を図示したプロセス流れ図である。
【図3】シリコン基板上にフッ素化され、テクスチャを持たせた表面を作製するためのプロセス流れ図である。
【図4】液体および波状側壁構造による液体/空気の界面の作用を示した図である。
【図5】テクスチャを持たせた側壁を有する柱アレイ構造を備えるテクスチャを持たせたシリコン表面と、テクスチャを持たせたシリコン表面における水およびヘキサデカンの静止接触角を示す一対の顕微鏡写真である。
【図6】波状側壁の柱構造の詳細を示す、図5の表面の一部の拡大図である。
【図7】テクスチャを持たせたシリコン表面およびフルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面における水とヘキサデカンオクタンとの静止接触角を示す一対の顕微鏡写真である。
【図8】張出し凹状特徴の詳細を示す、図7の表面の一部の拡大図である。
【図9】3.0マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える、超疎油性のテクスチャを持たせたシリコン表面を示す顕微鏡写真である。
【図10】1.1マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える、超疎油性のテクスチャを持たせたシリコン表面を示す顕微鏡写真である。
【図11】フルオロシランコーティングによるシリコン溝を有する構造の顕微鏡写真である。
【図12】張出し凹状構造を形成する溝構造の最上面を備える溝付き波状側壁構造を示す図である。
【図13】凹凸のないPTFE表面とテクスチャを持たせた超疎油性表面との間のインクオフセットの比較の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示されるのは、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを準備するためのプロセスであり、このプロセスは、シリコン基板を用意する工程と、フォトリソグラフィを用いてシリコンにテクスチャを持たせたパターンを作成する工程であって、該テクスチャを持たせたパターンが、表面を超疎油性にする柱のアレイ、溝パターン、他のテクスチャを持たせたパターン、またはその組合せを含む、工程と、フルオロシランコーティングを設けることなどによりテクスチャを持たせた表面を任意で加工して、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを用意する工程と、を含む。特定の実施形態では、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMSJet)に基づく液滴噴射プリントヘッドのための前面またはノズルプレート表面として、可撓性の超疎油性手段が用いられる。
【0011】
開示されるのは、シリコン基板を用意する工程と、フォトリソグラフィを用いて、実施形態では柱のアレイを含むテクスチャを持たせたパターンである、テクスチャを持たせたパターンをシリコン基板に作成する工程と、任意で、疎油性コンフォーマルコーティングを設けることによりテクスチャを持たせた表面を任意で加工して、テクスチャを持たせた疎油性シリコンを用意する工程と、テクスチャを持たせた疎油性シリコンからインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成する工程とを含む、テクスチャを持たせた高疎油性または超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを準備するためのプロセスである。実施形態において、テクスチャを持たせた表面は、高疎油性表面または超疎油性表面、あるいは超疎油性であるとともに超疎水性である表面である。
【0012】
ここで使用される際に、高疎油性は、炭化水素系の液体、例えばインクの液滴が、130°から175°、135°から170°の接触角(contact angle)など、高い接触角を表面とともに形成する時として説明できる。ここで使用される際に、超疎油性は、炭化水素系の液体、例えばインクの液滴が、150°より大きいか、または150°から175°、150°から160°の接触角などの高い接触角を表面とともに形成する時として説明できる。
【0013】
超疎油性はまた、炭化水素系の液体、例えばヘキサデカンの小滴が、1°から30°未満または1°から25°の転落角(sliding angle)、25°未満の転落角、15°未満の転落角、10°未満の転落角を表面とともに形成する時としても説明できる。
【0014】
高疎水性は、水の小滴が130°から180°の接触角などの高い接触角を表面とともに形成する時として説明できる。超疎水性は、水の小滴が150°より大きいか150°から180°の接触角など高い接触角を表面とともに形成する時としても説明できる。
【0015】
超疎水性は、水の小滴が1°から30°、1°から25°の転落角、15°未満の転落角、10°未満の転落角などの転落角を表面とともに形成する時として説明できる。
【0016】
インクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成するための超疎油性表面を有するシリコン材料は、適当な方法で準備される。図1を参照すると、プロセス流れ図は当該プロセス10の実施形態を図示したもので、左側には、波状側壁を有する柱のアレイを備える、テクスチャを持たせたシリコン表面を準備するためのプロセスが描かれ、右側には、柱の最上部に張出し凹状構造を有する柱のアレイを含む、テクスチャを持たせたシリコン表面を準備するためのプロセスが描かれている。選択された実施形態では、シリコンであるシリコン基板12の上には、シリコン基板12を侵食せずに選択的なエッチングが可能である材料14が設けられている。実施形態では、シリコン基板12をまたは第1材料14を侵食せずに選択的なエッチングが可能である第2材料16が蒸着されて、周知のリソグラフィ方法を用いてシリコン基板にノズル孔を作成するようにエッチングされる。周知のフォトリソグラフィ方法を用いて所望のパターンがエッチングされて、柱または溝のアレイ18を有する、テクスチャを持たせたシリコン基板(左側)が準備されるか、張出し凹状構造(overhang re-entrant structure)20を備える柱または溝のアレイ18を有する、テクスチャを持たせたシリコン表面(右側)が準備される。
【0017】
図2を参照すると、プロセス流れ図は当該プロセス200の別の実施形態を図示したもので、超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートがシリコン基板204を用いることで準備される。
【0018】
柱のアレイを含む、テクスチャを持たせたパターンが、シリコン基板に用意される。柱のアレイは、テクスチャを持たせた、または波状の垂直側壁を有する、柱の上部に画定される張出し凹状構造を有する、またはその組合せである柱のアレイとして規定される。ここで使用される際に、テクスチャを持たせた、または波状の側壁は、サブミクロン範囲で明らかとなる側壁の凹凸を意味する。波状の側壁は、250ナノメートルの波状構造を有し、各波は後述するエッチングサイクルに対応する。
【0019】
柱のアレイを含む、テクスチャを持たせたパターンは、フォトリソグラフィ技術を用いてシリコンに作成される。シリコン基板204は、周知のフォトリソグラフィ方法に従って準備されクリーニングされる。次に、フォトレジスト材料206をシリコン204にスピンコーティングまたはスロットダイコーティングすることなどにより、フォトレジスト206が塗布される。適当なフォトレジストが選択されればよい。フォトレジストは、Mega(商標)Posit(商標)SPR(商標)700フォトレジストでよい。
【0020】
次に、一般的には紫外線への露光と、水酸化ナトリウム含有現像液などの有機現像液またはテトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの無金属イオン現像液への露出とにより、フォトレジスト206が露光および現像される。
【0021】
柱のアレイ208を含む、テクスチャを持たせたパターンは、当該技術で周知の適当な方法によりエッチングされる。概してエッチングは、液体またはプラズマ化学薬品を用いて、マスク206で保護されていないシリコンの層を除去する工程を含む。シリコン基板204に柱アレイ208を製造するのに、ディープ反応性イオンエッチング技術を採用できる。
【0022】
エッチングプロセスの後、液体レジストストリッパまたは酸素含有プラズマなどを用いる適当な方法により、フォトレジストが除去される。GaSonics Aura 1000アッシングシステムなどのO2プラズマ処理を用いて、フォトレジストが剥離される。剥離に続いて、高温ピラニア(piranha(硫酸過酸化水素水混合溶液))洗浄プロセスなどにより基板がクリーニングされる。
【0023】
シリコン基板に表面テクスチャ(surface texture)が作成された後、化学的加工など、表面テクスチャが加工されてもよい。シリコン基板の化学的加工は、テクスチャを持たせた表面に疎油性の品質を与えるか高めるためなど、基板の適当な化学的処理を含む。柱表面208にフルオロシランコンフォーマルコーティング210が設けられてもよい。実施形態では、テクスチャを持たせた基板表面の化学的加工は、過フッ素アルキル鎖で構成される自己組織化層を、テクスチャを持たせたシリコン表面に設ける工程を含む。過フッ素アルキル鎖の自己組織化層を、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けるには、分子蒸着、化学蒸着、溶液コーティングなど様々な技術が使用される。実施形態では、テクスチャを持たせたシリコン基板の化学的加工は、分子蒸着、化学蒸着、溶液自己組織化を介して、フルオロシランコーティングを、テクスチャを持たせたシリコン表面にコンフォーマルに(conformal)自己組織化することによる化学的加工を含む。特定の実施形態において、テクスチャを持たせたシリコン基板の化学的加工は、分子蒸着技術または溶液コーティング技術を用いて、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン(非公式にはフルオロオクチルトリクロロシラン(FOTS)として知られる)、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン、その組合せなどにより組織化された層を設ける工程を含む。あるいは、ポリテトラフルオロエチレンなどのコーティングまたは材料を設けることにより、テクスチャを持たせたシリコン基板が加工されてもよい。
【0024】
特定の実施形態では、テクスチャを持たせたシリコン表面を形成するのに、パルス式または時間多重式エッチングを含み、ボッシュ(Bosch)のディープ反応性イオンエッチングプロセスが採用される。ボッシュプロセスは、1)保護不動態化層の蒸着と、2)エッチング1:谷底など所望の箇所の不動態化層を除去するエッチングサイクルと、3)エッチング2:シリコンを等方的にエッチングするエッチングサイクルとを含む、一つのサイクルに三つの別々のステップを含む複数エッチングサイクルを用いて垂直エッチングを形成する工程を含む。各ステップは数秒で終了する。不動態化層は、テフロン(登録商標)に類似したC4F8により作製され、さらなる化学的侵食から基板全体を保護するとともに、さらなるエッチングを阻止する。しかし、エッチング1段階の間に、基板に衝撃を与える方向性イオンが谷底で不動態化層を侵食する(柱側壁に沿っては顕著ではない)。エッチング2の間に、イオンが不動態化層と衝突してこれをスパッタリングし、基板の谷底を化学エッチング剤に露出させる。エッチング2は、短時間(例えば約5から約10秒間)、シリコンを等方的にエッチングするのに役立つ。短いエッチング2ステップは小さい波周期(5秒だと約250ナノメートル)をもたらし、長いエッチング2は、長い波周期(10秒だと約880ナノメートル)をもたらす。このエッチングサイクルは、所望の柱高が得られるまで反復される。このプロセスでは、テクスチャを持たせた、または波状の側壁を有する柱が作成され、各波は一つのエッチングサイクルに対応する。
【0025】
周期的「波」構造の大きさは適当な大きさでよい。実施形態では、波状側壁の各「波」の大きさは100から1,000ナノメートル、または250ナノメートルである。
【0026】
当該プロセスの実施形態は、張出し凹状構造を有する柱のアレイを含むシリコン基板に、テクスチャを持たせた表面を作成する工程を含む。このプロセスは、二つのフッ素エッチングプロセス(CH3F/O2およびSF6/O2)の組合せを用いた類似プロセスを含む。図3を参照すると、プロセスはシリコン基板300を用意する工程を含む。プラズマ強化化学蒸着または低圧化学蒸着などを介して、シリコン基板300の上には薄いシリコン酸化層302が設けられる。クリーニングされたシリコン酸化302層に、フォトレジスト材料304が塗布される。このプロセスはさらに、SPR(商標)700−1.2フォトレジストを用いた5:1フォトリソグラフィなどによりフォトレジスト材料304を露光および現像させ、フッ素系反応性イオンエッチング(CH3F/O2)を使用し、第2フッ素系(SF6/O2)反応性イオンエッチングプロセスを用いてシリコン酸化層302に、テクスチャを持たせたパターンを画定した後、高温剥離またはピラニア洗浄によって張出し凹状構造310を有する、テクスチャを持たせた柱308を形成する工程を含む。テクスチャを持たせた柱308の張出しの程度を高めるため、キセノン二フッ化酸素等方性エッチングプロセスが適用されてもよい(図3には図示されていない)。XeF2気相エッチングでは、シリコンからキャップ材料である二酸化ケイ素までほぼ無限の選択性が見られる。次に、パターン形成されたアレイが疎油性コンフォーマルコーティング312でコーティングされて、張出し凹状構造310を有する、テクスチャを持たせた柱パターンを有する超疎油性シリコンが用意される。
【0027】
このプロセスはさらに、テクスチャを持たせた疎油性シリコンからインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成して、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するシリコンインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを用意する工程を含む。
【0028】
凹凸表面上の液体小滴の間の液体・気体混合の界面を説明するのに、普通は、カシー−バクスター(Cassie-Baxter)状態とウェンゼル(Wenzel)状態の二つの状態が使用される。カシー−バクスター状態(θCB)とウェンゼル状態(θW)における小滴の静止接触角は、それぞれ方程式(1)および(2)によって求められる。
【0029】
cosθCB=Rffcosθγ+f−1 (1)
【0030】
cosθw=rcosθγ (2)
【0031】
fは突出した湿潤エリアの面積画分、Rfは湿潤エリアの凹凸比、Rffは固体面積画分、rは凹凸比、θγは液体小滴と平坦面との接触角である。
【0032】
カシー−バクスター状態では、液体小滴は主として空気に「接して」おり、接触角(θCB)は非常に大きい。方程式によれば、例えばθγ≧90°である時に液体と表面とが高度の非親和性を持つ場合に、液体小滴はカシー−バクスター状態にある。
【0033】
実施形態において、テクスチャを持たせた表面には二つの一般形状が設けられ、その各々は、張出し凹状構造を備える、形状に基づく(表面コーティングに基づくものと反対の)二つのタイプの疎インク性表面のうち一方を表す。凹状構造はインクをカシー状態に維持し、これは、空気と固体とで構成される(抗湿状態:凹凸表面の谷/溝に液体が充填されず、高い接触角、低い接触角ヒステリシス、低い転落角を特徴とする)複合表面にインクが付着して、接触面積が著しく減少することを意味する。凹状構造により、インクがウェンゼル状態になるのを最初の親インク性表面が妨げる表面凹凸が設けられる(湿潤状態:液体が凹凸面の溝を充填し、液滴が固定され、高い接触角と高い接触角ヒステリシスと高い転落角を特徴とするか、固定される)。ウェンゼルおよびカシーの両方の状態について、両状態の接触角は著しく増大するが、インクと、テクスチャを持たせた表面との間の低い転落角および低い付着力のため、カシー状態が望ましい。
【0034】
0.2という固体面積画分(“f”)値についてのカシー−バクスター方程式は、検査用液体(probing liquids)が固体表面積の20%に接触するに過ぎないことを意味する。重要なのは湿潤固体エリアであるため、凹凸についての正確な性質(正弦波、方形波など)は重大でないが、凹状構造はインクをカシー状態に維持する。そのため例えば、固体面積画分が20%であると仮定して108°の接触角(水)を達成するのに表面コーティングが使用された場合には、当該テクスチャを持たせたコーティング(凹凸)はこの接触角を約150°まで増加させる。さらに、固体面積画分が20%であると仮定して、ヘキサデカンまたはインクの同じ表面コーティングの接触角が73°であると、このテクスチャを持たせたコーティング(凹凸)は接触角を約138°まで増加させる。
【0035】
図4は、液体および波状側壁構造(波状上部に凹状張出し構造を形成)による液体/空気の界面の作用を図示している。テクスチャを持たせた凹凸表面は、簡単なDRIEエッチングプロセスで作成された波状側壁ポストを有する凹状張出し構造を備える柱(ポスト、隆起部、溝)を有する。第1対の波は、液体が柱を塗らすのを妨げるエネルギーバリヤとして機能する。第1対の波から形成された凹状張出し構造は、図4に示されたように液体と相互作用するキャップとして機能し、これはカシー状態/モデルに対応する。カシー状態では、液体/空気界面が張出し構造の下に移動するには、表面は大きく変形しなければならず、毛細管力よりはるかに高い力を必要とするため、液滴は最後には張出し構造(またはキャップ)の上部に残る。
【0036】
実施形態では、テクスチャを持たせた表面を有するシリコンノズルプレートは、150°より大きい非常に高い水接触角と、10°未満か10°と等しい低い転落角とを有する超疎水性である。
【0037】
炭化水素系液体、例えばヘキサデカンを一例とするインクに関しては、柱の上面に形成された張出し凹状構造を有する柱のアレイを備える、テクスチャを持たせたシリコン表面は、テクスチャを持たせた疎油性表面の液体・固体界面でヘキサデカン小滴がカシー−バクスター状態を形成する結果となるのに充分なだけ(つまりθγ=73°)、表面を「非親和性」にする。実施形態では、表面テクスチャと化学的加工との組合せ、例えばテクスチャを持たせたシリコンに設けられたFOTSコーティングの結果、超疎油性となるテクスチャを持たせたシリコン表面が得られる。平坦な表面では、疎油性コーティングは、水の接触角が100°より大きく、ヘキサデカンの接触角が50°より大きいコーティングを意味する。実施形態において、疎油性はθγ=73°を意味する。
【0038】
図5には、テクスチャを持たせた(波状の)側壁を有する柱アレイ構造を備えるフルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面の顕微鏡写真と、フルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面における水およびヘキサデカンの静止接触角を示す一対の写真とが設けられている。波状側壁FOTSコーティング表面と水およびヘキサデカンとの接触角は、それぞれ156°と158°である。図6には、波状側壁の柱構造の詳細を示す、図5の表面の一部の拡大図が設けられている。
【0039】
図7には、柱の上部に画定された第2材料(二酸化ケイ素)から張出し凹状構造が形成される、張出し凹状構造を有する柱のアレイを備えるフルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面の顕微鏡写真と、フルオロシランコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面における水とヘキサデカンオクタンとの静止接触角を示す一対の写真とが設けられている。FOTSコーティングによる、テクスチャを持たせたシリコン表面と水およびヘキサデカンとの接触角は、それぞれ153°と151°である。図8には、張出し凹状特徴の詳細を示す、図7の表面の一部の拡大図が設けられている。
【0040】
柱アレイは、適当な間隔または柱密度または固体面積被覆率を有する。実施形態において、柱のアレイは、0.5%から40%または1%から20%の固体面積被覆率を持つ。柱アレイは、適当な間隔または柱密度を有する。特定の実施形態では、柱のアレイは約6マイクロメートルの柱中心−柱中心間隔を有する。
【0041】
柱アレイは、円形、長円形、方形、矩形、三角形、星形、その他を含む適当な形状を有する。
【0042】
柱アレイは、0.1から約10マイクロメートル、または1から約5マイクロメートルの直径を含む適当な直径または同等の直径を有する。
【0043】
柱は、適当な、または所望の高さで画定される。実施形態では、テクスチャを持たせたシリコンは、0.3から10マイクロメートル、または0.5から5マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える。
【0044】
図9において、顕微鏡写真は、3.0マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える、超疎油性の、テクスチャを持たせたシリコン表面を示す。図10の顕微鏡写真は、1.1マイクロメートルの柱高を有する柱のアレイを備える、超疎油性の、テクスチャを持たせたシリコン表面を示す。
【0045】
別の実施形態では、超疎油性の、テクスチャを持たせたシリコン表面は溝構造を有する。図11には、幅が3マイクロメートルでピッチが6マイクロメートルのフルオロシランコーティングによるシリコン溝を有する本開示による構造の顕微鏡写真が載っている。図12には、張出し凹状構造を形成する溝構造の最上面を備える溝付き波状側壁構造を示す、図11の構造の代替図が挙げられている。
【0046】
溝構造は、適当な間隔または柱密度(pillar density)または固体面積被覆率(solid area coverage)を有する。実施形態では、溝構造は0.5%から40%、または1%から20%の固体面積被覆率を有する。
【0047】
溝構造は、適当な幅およびピッチを有する。特定の実施形態では、溝構造は0.5から10マイクロメートル、または1から5マイクロメートル、または3マイクロメートルの幅を有する。さらに実施形態において、溝構造は、2から15マイクロメートル、または3から12マイクロメートル、約6マイクロメートルの溝ピッチを有する。
【0048】
テクスチャを持たせたパターンの構造、実施形態では柱または溝の構造は、何らかの適当な形状を持てばよい。実施形態において、テクスチャを持たせた構造全体は特定のパターンを形成するようにデザインされた形態を有するかこれを形成する。実施形態において、柱または溝構造は、選択された流パターンで液体の流れを誘導するように選択された形態を有するように形成されるとよい。
【0049】
溝構造は、適当な、または所望の全高で画定される。実施形態において、テクスチャを持たせた表面は、0.3から10マイクロメートル、0.3から5マイクロメートル、0.5から5マイクロメートルの全高を有する溝パターンを含む。
【0050】
理論による制約を望んではいないが、テクスチャを持たせたFOTS表面(FOTS textured surface)と水およびヘキサデカンとについて観察された高い接触角は、表面テクスチャおよびフッ素化の組合せの結果である。特定の実施形態では、テクスチャを持たせたデバイスは、可撓性の超疎油性デバイスを設けるため溝または柱構造の上面に、波状側壁特徴または張出し凹状構造のうち少なくとも一方を有する。理論による制約を望んではいないが、溝または柱の上部の凹状構造は、超疎油性にとって重要な要因である。
【0051】
表1は、いくつかの関連表面について、水、ヘキサデカン、固形インク、そして紫外線硬化ゲルインク(UVインク)との接触角データをまとめたものである。サンプル1は、米国特許第5,867,180号に記載されたプリントヘッドを含む。サンプル2は、凹凸のないポリテトラフルオロエチレン表面である。サンプル3は、直径が3マイクロメートルで高さが7マイクロメートル、中心間の間隔が約6マイクロメートルで波状側壁の柱のアレイを備える、テクスチャを持たせた表面を有する、本開示に従って準備された超疎油性表面である。サンプル4は、溝方向と平行に小滴が滑落する波状側壁の溝を有する溝構造である。このテクスチャを持たせた表面では、水とヘキサデカンの両方が約158°の接触角を達成し、波状側壁ポストでの転落角は約10°であって、水および油を非常に良くはじく超疎水性および超疎油性の表面特徴を示した。このテクスチャを持たせた表面も、表1に示されているように約155°の接触角で固形インクに対して優れた抗湿性を示した。溝構造表面については、転落角は柱構造表面よりもさらに低く、ヘキサデカンは4°の転落角を有し、固形インクの転落角は25°である。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材料は疎水性かつ親油性であって、水とヘキサデカンの両方について、界面の強い付着力に対応する非常に高い転落角を持つ。固形インクは90°より低い接触角を有して本質的な親和性を示し、90°まで傾いても逆さまになっても動かなかった。データは、表1にまとめられている。
【0052】
【表1】
【0053】
図13は、本開示による凹凸のないPTFE(Teflon(登録商標))表面と、テクスチャを持たせた超疎油性表面との間のインクオフセットの比較の一つを示す。この材料の顕著な湿潤性能を説明するため、Xerox ColorQube(商標)のシアン固形インクの固形インク小滴が、波状側壁(上列)とPTFE表面(下列)とを有する当該超疎油性表面からXerox(登録商標)4200(登録商標)紙に写された。固形インクの液滴は紙とPTFEの両方に付着して最終的には二つの塊に分かれて、PTFE表面の「オフセット」を示した。作用は大きく異なるが、固形インク小滴は単に当該超疎油性表面から離れて、紙に完全に転写された。
【0054】
実施形態において、テクスチャを持たせた疎油性シリコンインクジェットプリントヘッドノズルプレートは、機械的に堅牢またはロバストである。超疎水性および超疎油性に対する柱高の効果は、エッチング時間を制御することによって決定された。大きさ(直径)が3マイクロメートル、ピッチ(ピッチとは柱の中心間距離を意味する)が12マイクロメートルで、7マイクロメートル、3マイクロメートル、1.5マイクロメートル、1.1マイクロメートル、0.8マイクロメートルの異なる高さを有するパターンが選択された。3マイクロメートルの柱が図9に示されており、高さ1.1マイクロメートルの柱が図10に示されている。1.1マイクロメートル(波周期3)の柱高の場合でも、7マイクロメートルまでの異なる高さを持つ対応の柱と比較して一貫した高い接触角と低い転落角が見られることにより、超疎水性と超疎油性の両方が証明された。柱高が約0.8マイクロメートル(波周期2)まで減少すると、超疎水性および超疎油性が維持されなくなる。水とヘキサデカンの両方について、側壁の第1対の波のみが濡れ、超疎水性および超疎油性を達成するのに極めて高い柱高は必要ないとの結論が得られる。このようにして、柱高さの低い、当該のテクスチャを持たせたシリコン材料は、これらの柱の機械的ロバスト性を向上させる(アスペクト比を低下させる)。シリコンノズルプレートなどの実施形態では、柱の側面でインクを落下させる外部圧力は印加されず、柱高は5マイクロメートル未満まで減少し、シリコンノズルプレート表面の機械的ロバスト性をさらに高める。
【0055】
特定の実施形態において、プリントヘッドシリコンノズルプレートは、ディープ反応性イオンエッチング(DRIE)ノズルを備えるシリコンノズルプレートを含む。ノズルプレートは、20から30マイクロメートルなどだがこれに限定されない所望の厚さに研削および研磨された絶縁体上シリコンウェハで構成されるが、さらにフォトリソグラフィおよび加工を行うのに十分なほど平坦な材料にする厚さならば、いかなる厚さでも適している。残りのプロセスは、表面加工特徴(surface modification features)のパターン形成およびエッチングと、ノズルのパターン形成およびエッチングを含む。問題は、ノズルはその後のフォトリソグラフィを妨げる(深い孔はフォトレジストのスピニング加工を妨害する)ため、ノズルを最初に加工できず、結果的に生じる疎水性表面にフォトレジストが付着しないため、表面加工を最初に実施できないことである。
【0056】
図1を参照すると、当該プロセスは、例えばパターン情報を一時的に「保管する」のにマスキング層を使用してからエッチングを実施することにより、プロセスの開始時にパターン形成ステップ、表面加工、ノズル形成の両方を実施する工程を含む。図1の左側は、エッチングの詳細に応じて、波状側壁を有する標準的な柱、ポスト、溝についてのものである。図1の右側では、張出し凹状構造を有する柱、またはキャップを備える「頂上がT字の」ポスト/柱/溝となる。実施形態では、12はシリコンを指し、14はシリコン(二酸化シリコン)を侵食せずに選択的にエッチングされる材料を指し、16は他の二つの層(窒化ケイ素など)を侵食せずにエッチングされる別の材料を指す。上で詳しく説明したように、張出し凹状構造を作成するため、エッチングマスクを切り取る等方性シリコンエッチングが追加される。次にエッチングマスクが所定箇所に残される。両図の終わりで、テクスチャを持たせた表面(不図示)に抗湿性コーティングが設けられる。
【0057】
図1に示されたプロセスの左側は最も減算的である、つまり材料をエッチングすることにより構造が画定される。しかし、このプロセスは加算的プロセスも含む。例えばノズルプレートは、酸化ケイ素などの酸化物、窒化ケイ素などの窒化物、ポリマー、金属層、SU−8またはKMPR(登録商標)フォトレジストでコーティングされてから、ポストまたは隆起部を作成するようにパターン形成される。張出し凹状構造を作成するには、多数の材料が使用され、張出し凹状プロフィールを作成するように材料が選択的にエッチングされる。例えば、金属層が酸化層の上部に蒸着される。金属はパターン形成されてから、酸化物に対して湿潤または蒸気HFエッチングが行われ、張出し凹状プロフィールを作成するように金属が切除される。
【0058】
さらなる実施形態では、ノズルからのインクが横移動して柱の下に入るのを回避するように、ノズルの周囲に隙間のない中実の(エッチングされていない)リングが設けられる。この形態により、インクが表面から溢れると、パターン形成された形状で側面でなく上部から入る(ウェンゼル状態に退化する)。減算的(エッチングによる)製造プロセスでは、リングがシリコンに直接エッチングされるため、それ自体が「装着される」わけではない。この場合、ノズルとリングはともに同じシリコン層から削られる。またあるいは、凹状構造を作成するため、二酸化ケイ素、金属、他の異なる材料による幅広の上部をシリコンリングが有してもよい。
【0059】
あるいは、(層が蒸着される)加算的なケースでは、蒸着されたシリコン、酸化物、ポリマー、金属などでリングが製作される。この実施形態では、シリコンの上部に層が蒸着されるため、接着剤が必要ない(リング材料が適切に接着されるように注意が必要)。
【0060】
シリコンウェハに対する単純なフォトリソグラフィおよび表面加工技術により、超疎油性表面(例えば、ヘキサデカン小滴は、表面と150°より大きい接触角と10°未満の転落角とを形成する)が製造されることを、当該発明者らは証明した。準備される超疎油性シリコン表面は非常に「疎インク性」であって、インクジェットプリントヘッドの前面またはノズルプレートにとって非常に望ましい表面特性、例えば、超抗湿性のためのインクとの高い接触角と、高い保持圧力と、自動クリーニングおよび簡易クリーニングのための低い転落角とを有する。一般的にインクの接触角が大きくなるほど、保持圧力は良く(高く)なる。保持圧力は、インクタンク(容器)の圧力が上昇する時にノズル開口部からのインク漏れを回避する孔プレートの能力を左右する。
【0061】
ここで説明する超疎油性表面は、インクジェットプリントヘッドのための前面材料としての使用に特に適している。実施形態において、インクジェットプリントヘッドは、テクスチャを持たせたパターンを有するシリコンであるシリコンと、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられる任意のフルオロシランコーティングとを含むノズルプレートを備える。別の実施形態において、インクジェットプリントヘッドは、テクスチャを持たせたパターンを有するシリコンであるシリコンと、テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられる任意のフルオロシランコーティングとを含む前面またはノズルプレートを備える。
【0062】
実施形態において、ワイパブレードまたは他の接触クリーニング機構が必要ないように、当該インクジェットプリントヘッドは自動クリーニング式である。あるいは、当該インクジェットプリントヘッドは、エアナイフシステムなどの非接触クリーニングシステムの使用を可能にすることで、全幅アレイヘッドを埋設する必要性を解消し、欠陥のあるサブユニットを噴射試験の後に簡単に交換できる。
【0063】
当該インクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートは、浅い(例えば約5マイクロメートル未満の)溝、柱(またはポスト)、大きなキャップ/張出し凹状構造を備える柱ポストのパターンなどの、テクスチャを持たせたシリコン表面を、ノズル前面に有する。このテクスチャを持たせたノズル前面は、技術的には、低い転落角とともにインクの接触角を大きく増大させる疎油性である。テクスチャを持たせたシリコンノズル前面は低コストで準備でき、前面コーティングとの組合せで使用できる。当該プロセスと、これにより準備されるノズルプレートとは、以下を含むがこれらに限定されないいくつかの長所を提供する。a)凹凸の含有状態を向上させて噴射の再現性を高めるとともに溢れを減少させる、b)溢れが発生するか、他の理由でインクが前面に付いた時に、すぐに転落して、噴射不良または方向のずれを少なくする、c)画像品質を向上させる、d)前面のメンテナンスの頻度を下げることで時間を短縮して供給の無駄を省き、テクスチャを持たせた前面に設けられる前面コーティングの磨耗を最少にする、e)機械的払拭が使用される時に、コーティングは上部のみで磨耗して側壁または床部では磨耗しないので、溝(と柱)が前面コーティングを保護するように作用する、f)ワイヤーボンドの封入中に、疎水性/疎油性の前面は、封入材がノズルプレートに溢れてノズルに付着するのを防止するのに役立つ、g)ノズルプレートの所定部分が、他のエリアがインクを吸着している間にインクをはじき、インクをノズルから離すことが可能である。
【0064】
実施形態において、この前面またはノズルプレート表面の疎インク性の向上が、ワイパブレードクリーニングシステムを不要にする。そのため、ワイパブレードの代わりに、いくつかの長所を有する非接触クリーニングシステムを使用できる。第一に、非接触クリーニングシステムはブレードによる表面の磨耗を解消し、コーティングの選択に一層の柔軟性をもたらす。第二に、全幅アレイヘッドでは一般的に、尖ったダイのエッジがラバーブレードを傷つけるのを防止するため、サブユニット間の隙間が充填される(埋設される)必要があり、この埋設により欠陥または故障のサブユニットを取り除くことが困難である。埋設が取り除かれなければならないがこれは困難であり、新たな、または既存のサブユニットの動きを妨げたり、ダメージを与えたりすることなく交換されなければならない。この非接触メンテナンス方式は、埋設の必要性を低下させるか完全に解消する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを準備するためのプロセスであって、
シリコン基板を用意する工程と、
フォトリソグラフィを用いて前記シリコン基板にテクスチャを持たせたパターンを作成する工程と、
任意で、疎油性コンフォーマルコーティングを設けることにより前記テクスチャを持たせたシリコン表面を加工する工程と、
前記テクスチャを持たせた疎油性シリコン材料からインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成して、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを用意する工程と、
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記テクスチャを持たせたパターンが、所望の流パターンで液体の流れを誘導する形態を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
テクスチャを持たせたパターンを有するシリコン基板と、
任意で、前記テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられた疎油性コンフォーマルコーティングであって、前記テクスチャを持たせたパターンが、柱のアレイと、前記柱に設けられた張出し凹状構造を有する柱のアレイと、テクスチャを持たせた波状側壁を有する柱のアレイと、以上の組合せと、を含み、前記テクスチャを持たせたパターンが、溝パターンと、張出し凹状構造を含む溝パターンと、テクスチャを持たせた波状側壁を含む溝パターンと、以上の組合せと、を含む、疎油性コンフォーマルコーティングと、
を備える、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレート。
【請求項4】
テクスチャを持たせたパターンを備えるシリコン基板と、任意で、前記テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられた疎油性コンフォーマルコーティングと、を備える、テクスチャを持たせた疎油性インクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートであって、
前記テクスチャを持たせたパターンが、柱のアレイと、前記柱に設けられた張出し凹状構造を有する柱のアレイと、テクスチャを持たせた波状側壁を有する柱のアレイと、以上の組合せとを含む、テクスチャを持たせた疎油性インクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを含み、
前記テクスチャを持たせたパターンが、溝パターンと、張出し凹状構造を含む溝パターンと、テクスチャを持たせた波状側壁を含む溝パターンと、以上の組合せと、を含む、インクジェットプリントヘッド。
【請求項1】
テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを準備するためのプロセスであって、
シリコン基板を用意する工程と、
フォトリソグラフィを用いて前記シリコン基板にテクスチャを持たせたパターンを作成する工程と、
任意で、疎油性コンフォーマルコーティングを設けることにより前記テクスチャを持たせたシリコン表面を加工する工程と、
前記テクスチャを持たせた疎油性シリコン材料からインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを形成して、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを用意する工程と、
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記テクスチャを持たせたパターンが、所望の流パターンで液体の流れを誘導する形態を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
テクスチャを持たせたパターンを有するシリコン基板と、
任意で、前記テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられた疎油性コンフォーマルコーティングであって、前記テクスチャを持たせたパターンが、柱のアレイと、前記柱に設けられた張出し凹状構造を有する柱のアレイと、テクスチャを持たせた波状側壁を有する柱のアレイと、以上の組合せと、を含み、前記テクスチャを持たせたパターンが、溝パターンと、張出し凹状構造を含む溝パターンと、テクスチャを持たせた波状側壁を含む溝パターンと、以上の組合せと、を含む、疎油性コンフォーマルコーティングと、
を備える、テクスチャを持たせた超疎油性表面を有するインクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレート。
【請求項4】
テクスチャを持たせたパターンを備えるシリコン基板と、任意で、前記テクスチャを持たせたシリコン表面に設けられた疎油性コンフォーマルコーティングと、を備える、テクスチャを持たせた疎油性インクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートであって、
前記テクスチャを持たせたパターンが、柱のアレイと、前記柱に設けられた張出し凹状構造を有する柱のアレイと、テクスチャを持たせた波状側壁を有する柱のアレイと、以上の組合せとを含む、テクスチャを持たせた疎油性インクジェットプリントヘッド前面またはノズルプレートを含み、
前記テクスチャを持たせたパターンが、溝パターンと、張出し凹状構造を含む溝パターンと、テクスチャを持たせた波状側壁を含む溝パターンと、以上の組合せと、を含む、インクジェットプリントヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−136561(P2011−136561A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293181(P2010−293181)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】
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