説明

テクスチャ加工スラリー及び方法

【課題】基板表面に加工斑や不要の残渣が生じることなく、平均表面粗さ0.10nm以上、0.30nm以下、ライン密度40本/μm以上のテクスチャ条痕を均一に且つ鮮明に形成することができる加工スラリー及び方法を提供する。
【解決手段】Ni−Pメッキしたアルミニウム基板をテクスチャ加工する。基板15を回転させ、基板の表面に加工スラリーを供給し、基板の表面に加工テープ14を押し付け、走行させる。加工スラリーが、研磨材、及び分散媒を含み、研磨材として一次粒子径20nm以下のダイヤモンド粒子からなる二次粒子が含まれ、二次粒子の粒度分布D50が0.10〜0.28μmの範囲にある。分散媒が、添加剤として、グリコール化合物、炭素数8〜22の範囲にある脂肪酸、アルカノールアミン、脂肪酸アマイド、及びリン酸エステル化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム基板にNi-P膜を形成した磁気ハードディスク用の基板をテクスチャ加工するために用いられる加工スラリー及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータなどの情報記録再生機器には、音声、画像などの情報を記録する媒体として、磁気ハードディスクが使用されている。
【0003】
一般に、磁気ハードディスクは、非磁性の基板(例えば、ガラス基板、Ni-Pメッキを施したアルミニウム基板)の表面を鏡面に研磨した後、この基板の表面にほぼ同心円状の条痕を形成するためのテクスチャ加工を施し、このテクスチャ加工面上に、スパッターリングなどの既知の成膜技術を利用して、磁性層、保護膜などを順次積層することによって製造される。
【0004】
テクスチャ加工は、当業者には既知のように、磁気ハードディスクの面内記録において、テクスチャ条痕の方向に沿って磁性膜を磁化させることを主目的として行われるものである。このため、同心円状の線状を磁気ハードディスクの表面に形成する。そして、基板は、磁気ヘッドの浮上に悪影響を及ぼすような突起、スクラッチ、リッジ及び加工残渣がないようにテクスチャ加工されるべきものである。
【0005】
磁気ハードディスクの高密度化、高精度化の近年の要求に対し、磁化を高精度に制御して、記録と再生を高精度に行うために、磁気ハードディスクの表面は、高精度に加工する必要がある。特に、120Gビット/平方インチ以上の高密度記録を達成するための要求品質は、下記(1)〜(4)のような地形学的な条件を満たすことが必要である。
【0006】
・ 表面粗さの低減
・ 均質性の向上(スクラッチ、リッジの低減)
・ テクスチャ条痕の形状と密度の最適化
・ 加工後の表面清浄化
【0007】
上記(1)の表面粗さは、磁気ヘッドの浮上特性に影響する。このため、表面粗さを低減し、磁気ヘッドと磁気ハードディスク表面との間の距離(浮上距離)を小さくし(近年では、7nm以下の浮上距離が要求されている)、記録密度を高くする。
【0008】
上記(2)の均質性の向上は、信号欠陥や磁気ヘッドの素子の損傷の低減に寄与するものである。表面に深いスクラッチがあれば、その部分のスペースが広がることで出力が低下する。リッジ(帯状に高い突起)があれば、磁気ヘッドが接触し、磁気ヘッドが損傷する。リッジは、磁気ヘッドがリッジに接触しなくても、急激な浮上姿勢の変化により出力異常を起こす原因となるものである。
【0009】
上記(3)のテクスチャ条痕の形状と密度の最適化は、Mr・t−OR(Orientation Ratio)(残留磁気・膜厚積の配向性)の向上に寄与するものである。すなわち、磁気ハードディスクの円周方向の残留磁気の比率を半径方向より大きくする(円周方向のOR>1.5が要求されている)。
【0010】
Ni−P層を形成したアルミニウム基板では、Ni−P層にテクスチャ加工を施すが、このアルミニウム基板は、Ni−Pの熱膨張によるひずみが大きく、磁性層が配向しやすいと言われているものである。したがって、テクスチャ加工後の表面粗さを小さくしても、Mr・t−ORを円周方向に大きくすることができる。
【0011】
また、磁気ハードディスクの表面に形成される線状のピッチ幅を小さくすることにより(すなわち、ディスク半径方向の単位長さ当たりの線状の本数を多くすることにより)、磁気ヘッドと向き合う単位面積当たりの線状の凸部分(磁気ヘッドに近い磁気ハードディスクの表面部分)の個数が多くなり、磁気ハードディスクへの磁化を高精度に行えるようになる。(近年では、Ni−P層の表面におけるディスク半径方向の単位長さ当たりの線状の本数、すなわちライン密度を40本/μm以上にすることが要求されている。)
【0012】
上記(4)の加工後の表面清浄化は、テクスチャ加工による砥粒残渣や加工片が、スラリーに含まれる潤滑剤成分と共に基板表面に残渣として付着しないように洗浄性の良いスラリーを選択することが重要視されている。このような残渣をなくすことは、上記(2)と同様に信号欠陥や磁気ヘッドの素子部の損傷の低減に寄与することになる。このような残渣の低減は、記録密度が高くなるほど重要になってきている。
【0013】
このように、磁気記録及び再生を高精度に行うため、テクスチャ条痕を形成した基板表面の平均表面粗さ(Ra)をできるだけ小さくし(Raを0.10nm〜0.25nmの範囲)、ピッチ幅も小さくし(すなわち、ライン密度を高くし)、異常に深い条痕の凹部やスクラッチを形成しないことが要求されている。
【0014】
また、磁気ヘッドを低空で飛行させ且つ磁気ヘッドの損傷を無くすため、異常に高い突起を形成せず、表面の粗さを低くすることが要求され、さらに、磁気ハードディスクの表面への磁気ヘッドの吸着を防止できる程度の粗さが要求されている。すなわち、磁気ハードディスクの表面に、適度な深さの凹部と適度な高さの凸部を有する線状を形成することが要求されている。
【0015】
このような磁気ハードディスクの表面上の地形学的な条件は、基板表面に施されるテクスチャ加工に大きく依存するものであり、さらに、テクスチャ加工おいて重要なことは、加工後に砥粒や潤滑剤が残渣として基板表面に残らないことである。
【0016】
このことは、磁気記録の高密度化が進むにつれ、益々重要となり、基板の材質や表面状態にも注意を払って、加工砥粒の選択、それに合ったスラリー用潤滑剤の調合が必要になっている。
【0017】
一般に、磁気ハードディスクに使用されている代表的な基板は、ガラス(アモルファス系、結晶系)と、Ni−Pメッキを施したアルミニウム基板が使用されている。
【0018】
これらの基板表面にテクスチャ加工を行う場合、基板の材質が異なるため、加工スラリーを構成する砥粒の粒径、形状及び潤滑剤(添加剤)を選択する必要がある。
【0019】
また、高密度記録に適したアルミニウム基板では、テクスチャ加工により、Ni−P膜表面の平均表面粗さ(Ra)を0.1nm以上、0.3nm以下、好ましくは、0.15nm以上、0.25nm以下の非常に微細な範囲にし、且つ基板表面にライン密度40本/μm以上のテクスチャ条痕を形成することが要求され、さらに、基板表面にこのようなテクスチャ条痕を均一且つ鮮明に形成することが要求されている。
【0020】
磁気ハードディスク基板の表面に、微細で異常突起のないテクスチャ条痕を明確に形成するため、加工スラリー中に含まれるべき研磨材の材料、粒径及び形状が検討され、ダイヤモンドが、耐摩耗性、耐熱性、耐酸化性及び耐薬品性などの優れた性質を有することから、研磨材として、ダイヤモンド粒子が広く使用されるようになった。
【0021】
ここで、ダイヤモンド粒子には、単結晶ダイヤモンド粒子と多結晶ダイヤモンド粒子の二種類の粒子がある。単結晶ダイヤモンド粒子は、周囲に角のある多角形状の粒子であり、多結晶ダイヤモンド粒子は、周囲に比較的角のない丸みのある粒子である。特に、人工的に爆発合成法で製造された多結晶ダイヤモンドは粒子周囲に非ダイヤモンド層を有し、丸みのある形状をしている。これら単結晶及び多結晶ダイヤモンド微粒子を使用したテクスチャ加工では、磁気ハードディスク基板の表面に微細なテクスチャ条痕を形成できるが、単結晶ダイヤモンド粒子によると、磁気ハードディスク基板の表面にスクラッチや異常突起が形成されるため、ダイヤモンド粒子として、多結晶ダイヤモンド粒子が使用されている。
【0022】
多結晶ダイヤモンドの人工合成法として、火薬の爆発エネルギーを利用した爆発衝撃法がある。この爆発衝撃法には、(1)ダイヤモンドの原料となるグラファイト(黒鉛)と銅や鉄の金属粉とを混合した材料を爆薬の爆発により生じる衝撃波で高温圧縮することによる方法(黒鉛衝撃圧縮法と呼ばれる)や、(2)TNT(トリニトロトルエン)、RDX(シクロトリメチレントリニトラミン)、HMX(シクロテトラメチレンテトラミン)等のような炭素源として使用できる爆薬を水の容器内で爆発させることによる方法(酸素欠如爆発法と呼ばれる)がある。
【0023】
一般に、より微細なテクスチャ条痕を形成するためには、より小さい粒径の研磨粒子を使用することが知られており、また均一なテクスチャ条痕を形成するためには、研磨材の粒径を揃えることが知られている。そして、単に研磨粒子の粒径を小さくしただけでは、テクスチャ加工中に、織布、不織布及び植毛からなるテープを加工テープとして使用したときに、この加工テープを構成する繊維と繊維との間を研磨粒子が容易に通過してしまい、また、発泡体からなるテープを加工テープとして使用したときに、この加工テープな表面に形成される気泡からなる凹部内に研磨粒子が容易に入り込むので、研磨粒子が磁気ハードディスク基板の表面に均一に作用されず、このため、研削力が基板の表面にわたって局所的に又は全体的に低下し、ムラのある粗さの表面が形成され、微細なテクスチャ条痕を均一かつ明確に形成できない、という問題が生じる。
【特許文献1】特開平11−90810号公報
【特許文献2】特開平11−161946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって、本発明の目的は、アルミニウム基板の表面にNi−P膜を形成した磁気ハードディスク用の基板表面に加工斑や不要の残渣が生じることなく、平均表面粗さ(Ra)0.10nm以上、0.30nm以下、好ましくは、0.15nm以上、0.25nm以下の範囲で、ライン密度40本/μm以上のテクスチャ条痕を均一に且つ鮮明に形成することができるテクスチャ加工スラリー及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記問題を解決する本発明は、アルミニウム基板にNi−P膜を形成した磁気ハードディスク用の基板をテクスチャ加工するために用いられる加工スラリー及び方法である。
【0026】
本発明の加工スラリーは、研磨材、及び研磨材を分散させる分散媒を含み、研磨材として、一次粒子径が20nm以下の範囲にあるダイヤモンド粒子からなる二次粒子が含まれ、二次粒子の粒度分布D50が0.10〜0.28μmの範囲にある。
【0027】
分散媒は、水、及び添加剤を含み、添加剤として、グリコール化合物、炭素数8〜22の範囲にある脂肪酸、アルカノールアミン、脂肪酸アマイド、及びリン酸エステル化合物が含まれる。
【0028】
ここで、脂肪酸として、二塩基酸及びノナン酸(ペラルゴン酸)から選択される一種又は二種の脂肪酸が含まれる。
【0029】
添加剤の含有量は、当該加工スラリーの全量を基準として、1重量%以上、10重量%以下の範囲にある。
【0030】
グリコール化合物として、アルキレングリコールが含まれ、脂肪酸アマイドとして、トール油脂肪酸ジエタノールアマイド、又はヤシ油脂肪酸ジエタノールアマイドが含まれ、リン酸エステル化合物として、アルキルリン酸エステル、又はアルキルエーテルリン酸エステルが含まれ得る。
【0031】
添加剤の全量を基準として、グリコール化合物が20〜50重量%含まれ、炭素数8〜22の範囲にある脂肪酸が1〜20重量%含まれ、アルカノールアミンが20〜50重量%含まれ、脂肪酸アマイドが10〜30重量%含まれ、リン酸エステル化合物が1〜7重量%含まれる。
【0032】
研磨材の含有量は、当該加工スラリーの全量を基準として、0.001重量%以上、0.05重量%以下の範囲にある。
【0033】
アルミニウム基板にNi−P膜を形成した磁気ハードディスク用の基板をテクスチャ加工するための方法は、基板を回転させる工程、基板の表面に上記本発明の加工スラリーを供給する工程、及び基板の表面に加工テープを押し付け、走行させる工程を含む。加工テープとして、ナイロン製又はポリエステル製のマイクロファイバーからなる不織布テープが使用される。
【発明の効果】
【0034】
本発明が以上のように構成されるので、アルミニウム基板の表面にNi−P膜を形成した磁気ハードディスク用の基板表面に加工斑や不要の残渣が生じることなく、平均表面粗さ(Ra)0.10nm以上、0.30nm以下、好ましくは、0.15nm以上、0.25nm以下の範囲で、ライン密度40本/μm以上のテクスチャ条痕を均一に且つ鮮明に形成することができる。その結果、120Gビット/平方インチ以上の高記録密度の磁気ハードディスクの製造が産業的に実施可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明は、Ni−P膜を形成した磁気ハードディスク用のアルミニウム基板の表面に加工斑や不要の残渣を生させることなく、平均表面粗さ(Ra)0.10nm以上、0.30nm以下、好ましくは0.15nm以上、0.25nm以下の範囲で、ライン密度40本/μm以上のテクスチャ条痕を均一に且つ鮮明に形成するためのテクスチャ加工スラリー及び方法である。
【0036】
<加工スラリー> 本発明の加工スラリーは、研磨材、及び研磨材を分散させる分散媒を含むものである。
【0037】
<研磨材> 研磨材として、一次粒子径が20nm以下の範囲にあるダイヤモンド粒子からなる二次粒子が含まれ、二次粒子の粒度分布D50が0.10〜0.28μmの範囲にある。
【0038】
このようなダイヤモンド粒子として、先ず、人工ダイヤモンドの中から粒径及び純水中での粒度分布を選択して、テクスチャ加工を行ったときの平均表面粗さRaが0.1〜0.3nmになるダイヤモンド粒子、すなわち、研磨材として、一次粒子径が20nm以下の範囲にあるダイヤモンド粒子からなる二次粒子が含まれ、二次粒子の粒度分布D50が0.10〜0.28μmの範囲にあるものが選択される。
【0039】
研磨材は、TNT及びRDX等からなる爆薬を爆発させ、爆薬を構成している炭素がダイヤモンドの変換したものが使用される。このダイヤモンドは、一般にナノダイヤモンドと称され、一次粒子が数nm〜10nmの微細粒子から構成されている。また、グラファイトをダイヤモンド生成の原料とする爆発方法よりもクラスター粒子の大きさが小さいことが特徴である。そして、純水もしくは分散媒とした時も、平均粒径が0.1μmから0.3μmの範囲の凝集粒子として存在する。このような凝集粒子はテクスチャ加工中に崩壊しながら被加工表面に作用する。したがって、ガラスのような硬い表面においては研削力が非常に低いが、Ni-Pメッキ膜のようにアモルファスライクの金属表面においては、緻密なテクスチャ加工が形成される特長を有する。
【0040】
これらのダイヤモンド粒子は、爆発生成したダイヤモンドを酸処理、アルカリ処理などの化学処理を行って、不要の炭素や金属不純物を除去し、洗浄、分級したものが使用される。また、場合によっては、粉砕処理によって粗大結合粒子を粉砕した後、酸処理を行う。このようにして、粒径の微細化と結合粒界に含まれる不純物を除去したものが使用される。
【0041】
ダイヤモンド粒子の中から粒径及び純水中での粒度を分級によって採取して、その中から上記のような粒度のものが選択される。
【0042】
この研磨材を分散させるために、分散剤、潤滑剤、浸透剤、濡れ性向上剤及び洗浄性剤などの添加剤を添加し、加工スラリーが調整される。
【0043】
<添加剤> 添加剤として、(A)グリコール系化合物、(B)炭素数が8〜22の脂肪酸、(C)アミン化合物、(D)高級脂肪酸アマイド及び(E)リン酸エステルが含まれる。
【0044】
グリコール系化合物は、ダイヤモンド粒子との濡れ性向上、砥粒凝固防止及び他の添加剤を水に溶かす場合の中間溶剤の役目をするものである。水(純水)に直接添加せず、グリコール化合物に溶かすのがよい。
【0045】
グリコール系化合物として、具体的には、アルキレングリコールが適している。好適には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノモノイソプロピールエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0046】
脂肪酸は、テクスチャ加工時の潤滑剤として添加され、炭素数が8〜22の範囲の脂肪酸が適している。この脂肪酸は炭素数が22よりも多い場合、又は添加量を多くするとテクスチャ加工後の洗浄工程で残渣として残ってしまう。また、粘度の高いものより低い方が残渣となり難い。脂肪酸は水に溶け難いためアミン化合物に溶かして使用される。
【0047】
炭素数8〜22の脂肪酸は、ヒマシ油、トール油、ヤシ油等から抽出した脂肪酸が使用される。また、合成脂肪酸などが使用される。この合成脂肪酸は防腐剤の効果がある。
【0048】
このような脂肪酸として、具体的には、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸等が挙げられる。
【0049】
また、二塩基酸として、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル及びセバシン酸ジイソプロピルなどの高級二塩基酸が使用され得る。この二塩基酸は、反応性の高い2個以上のカルボキシル基をもっているため加工性が向上する。
【0050】
アミン化合物は、脂肪酸の乳化、浸透性向上として添加され、特に脂肪酸を水(純水)に溶かす場合に必要となる。このアミン化合物は、脂肪酸の添加量によって添加量を調整される。
【0051】
アミン化合物として、具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。特に、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミンが好ましい。
【0052】
高級脂肪酸アマイドは、潤滑性を向上し、加工促進剤として添加される。
【0053】
高級脂肪酸アマイドとして、具体的には、トール油脂肪酸ジエタノールアマイド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアマイド、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアマイド、ヤシ油脂肪酸モノイソプロパノールアマイド、脂肪酸モノエタノールアマイド、脂肪酸ジエタノールアマイド、脂肪酸イソプロパノールアマイド、ラウリル酸ジエタノールアマイド、ラウリル酸モノイソプロパノールアマイド等が挙げられる。
【0054】
有機リン酸は、潤滑性と砥粒分散性が良好で、且つ、加工性が向上する。また、アルミニウムやNi金属膜に対して防錆性がある。
【0055】
有機リン酸として、具体的には、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。
【0056】
水として、純水又は蒸留水が使用できる。
【0057】
添加剤は、配合量によって加工性能が変化するため、下記のような配合が適している。
【0058】
添加剤の含有量は、当該加工スラリーの全量を基準として、1重量%以上、10重量%以下の範囲にある。1重量%以下であると、スクラッチや傷が増加する。10重量%以上であると、加工後の残渣が増加する。
【0059】
加工スラリーの添加剤の含有量は、添加剤の全量を基準として、グリコール化合物が20〜50重量%の範囲、炭素数が8〜22の脂肪酸が1〜20重量%の範囲、アミン化合物が20〜50重量%の範囲、高級脂肪酸アマイドが10〜30重量%の範囲、リン酸エステルが1〜8重量%の範囲にあることが好ましい。
【0060】
<加工スラリーの調製> 加工スラリーの調製は、例えば、純水にグリコール化合物を添加し、これに高級脂肪酸アマイド及びリン酸エステルを加える。次に、アミン化合物を加え、これに脂肪酸を加える。次に、必要量のダイヤモンド粒子を加える。そして、最後に純水を加えて所定の濃度になるよう調製する。それぞれの調製作業工程では、スターラーや超音波振動を適用することによって均一に攪拌しながら行われる。
【0061】
加工スラリー中の研磨材の濃度は、0.001〜0.05重量%の範囲にある。研磨材の濃度が0.001以下であると、テクスチャ条痕が不明瞭になり、ムラがでる。また、0.05重量%以上であると、研磨材の凝集による沈殿が生じ、スクラッチが増加する。
【0062】
<テクスチャ加工方法> 図1に、本発明に従ったテクスチャ加工方法を実施できる既知のテクスチャ加工装置10の一例(例えば、特許文献1(図1)及び特許文献2(図1)に記載の研磨装置を参照)を示す。
【0063】
本発明に従った磁気ハードディスク基板の表面のテクスチャ加工は、図示のように、磁気ハードディスク基板15を→Rの方向に回転させる。そして、この磁気ハードディスク基板15の表裏両面にノズル12、12を通じて本発明の加工スラリーを供給し、コンタクトローラ11、11を介して加工テープ14、14を→Tの方向に走行させることによって行われる。
【0064】
テクスチャ加工後は、磁気ハードディスク基板15を回転させたまま、ノズル13、13を通じて水等の洗浄液を磁気ハードディスク基板15の表裏両面に吹きかけて磁気ハードディスク基板15の洗浄を行う。
【0065】
加工テープとして、織布、不織布、植毛布及び、起毛布からなるテープが使用されている。材質として、ポリエステル又はナイロンからなるマイクロファイバーと呼ばれる太さ0.1〜5μmの範囲にある繊維からなる布からなるテープが使用され得る。ここで、ナイロンのマイクロフアバーからなる不織布テープがスクラッチを低減するのに有効である。
【0066】
<加工条件> 加工条件としては、特に限定するものではないが、下記の範囲が適している。
(1)基板回転数: 200〜500rpm
(2)テープ走行速度: 0.5〜2.0インチ/分
(3)加工スラリー供給量: 5〜20ミリリットル/分
(4)コンタクトローラ硬度(ゴム): 45〜60duro
(5)コンタクトローラ押付圧力: 0.5〜3.0kgf
(6)オッシレーション(幅): 2.0〜4.0 Hz(1mm)
(7)テープテンション: 0.5〜1.5kg
(8)加工時間: 10〜20秒
【0067】
上記加工条件において、
(1)基板回転数は、200rpm以下ではテクスチャ条痕にムラができる。500rpm以上では、スラリーの飛散が多くなり効率が悪くなる。
(2)テープ走行速度は、0.5インチ/分以下では加工後の研磨かすやダイヤがテープに残ってしまうため研削性が落ちてしまう。2.0インチ/分でも性能上の差は見られないがテープの使用量が多くなるだけで効果は見られない。
(3)加工スラリー供給量は、0.5ミリリットル/分以下ではテープに十分スラリー供給されないため加工むらができる。20ミリリットル/分以上ではスラリーの使用量が多くなるが加工性の向上は見られなくなり、効率が悪くなる。
(4)コンタクトゴムローラ硬度は、低すぎると加工むらができやすくなり、高いとキズが発生しやすくなる。
(5)コンタクトローラ押付圧力は、低いと加工むらができやすくなり、高いとむらはできにくくなるがスラリーが加工面に届かず、加工性が低くなってしまう。
(6)オッシレーションは、2.0Hz以下では、テクスチャのむらが残る。4.0Hz以上ではテクスチャの凹凸が不明瞭となる。
(7)テープテンションは、低いとオッシレーションと共にテープが動いてしまいオッシレーションの効果が無くなってしまい、高いとテープが変形して加工面に均一に当たらなくなる。
(8)加工時間は、10秒以下では、まだ加工不十分。20秒以上ではテクスチャの山が潰れてしまう。
【0068】
<実施例> 実施例の加工スラリーの組成を下記の表1に示す(実施例1〜6)。これら加工スラリーは、純水にダイヤモンド粒子及び添加剤を加え、攪拌して調製したものである。ダイヤモンド粒子は、爆発合成法により製造された、一次粒子の径が4〜10nmの範囲にあるダイヤモンド粒子を使用した。加工スラリーに含まれるダイヤモンド粒子の二次粒子の粒度分布D50は、0.20〜0.25μmであった。
【0069】
<比較例> 比較例の加工スラリーの組成を下記の表1に示す(比較例1〜7)。
【0070】
【表1】

【0071】
<比較試験> 上記実施例1〜6及び比較例1〜7の加工スラリーを使用して磁気ハードディスク基板をテクスチャ加工した。
【0072】
テクスチャ加工に用いた磁気ハードディスク基板は、直径が2.5インチ、厚さ1.27mmのアルミニウム合金からなる基板にNi−P膜を無電解メッキで施したものを使用した。テクスチャ加工する前に、表面を両面研磨装置を用いて平均表面粗さ(Ra)を0.3nm以下までに仕上げた基板を用いた。加工装置として、図1に示すテープ研磨装置を用いた。
【0073】
加工テープとして、太さ約2μmのナイロン繊維からなる厚さ700μmの不織布からなるテープを使用した。Ni−P表面のテクスチャ加工は、下記の表2の条件で行った。
【0074】
テクスチャ加工条件を下記の表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
なお、実施例1〜6は、添加剤の種類及び配合比率について、残渣、マイクロスクラッチの良い組合せとしたものである。また、比較例1及び2は、添加剤の種類について、残渣、マイクロスクラッチの悪い組合せとしたものであり、比較例3〜7は、配合の割合について、悪い割合としたものである。
【0077】
<比較試験評価> 評価方法を下記にまとめる。
(1)テクスチャ加工後のアルミニウム基板上のNi-P膜の表面の平均表面粗さ(Ra)は、走査型プローブ顕微鏡(ナノスコープ Dimention 3100 シリーズ、デジタルインスツルメント社)を使用して計測した。
【0078】
(2)加工残渣の評価は、光学表面解析装置(製品名:Candela OSA5100、CandelaInstruments社)を使用し、10000rpmで回転する基板表面にレーザーを径方向に照射して計測した。
【0079】
(3)加工後の基板の洗浄は、残渣が評価し易いように、残渣の残るように下記の条件で洗浄した。
【0080】
<洗浄条件> テクスチャ加工後の基板を純水中に浸漬し(5〜10分間)、基板を純水中で2〜3回振り、取り出してスピン乾燥(基板回転数:1600rpm、基板回転時間:30秒)した。
【0081】
この基板を乾燥後の基板表面の残渣を測定した。
【0082】
上記のように洗浄した後の基板表面の残渣が5000個/面未満の基板は、精洗浄を行うことによって、ほぼ10以下になる。
【0083】
(4)マイクロディフェクトの評価は、上記と同様、光学表面解析装置を使用した。
加工後の基板は、精洗浄を行い表面の残渣を除去してマイクロディフェクトを評価した。
【0084】
(5)研磨材の一次粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)(100000〜400000倍)又は走査型電子顕微鏡(SEM)(5000〜100000倍)で観察した画像をパソコンにスキャナで取り入れ計測した。
【0085】
<試験結果> 試験結果を下記の表3に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
表3に示すとおり、下記のような結果が得られた。
【0088】
(1)グリコール系溶剤は、アルキレングリコールの中で、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールを使用したが、どれも使用可能であった。添加量としては、20〜50重量%の範囲が好適であった。
【0089】
20重量%以下になると砥粒の分散性が悪かった。50重量%以下になると他の添加物量が減るため加工性(加工ムラ)が悪かった。
【0090】
(2)高級脂肪酸は、アミン化合物と共に使用することが好ましく、乳化や洗浄性が良好である。高級脂肪酸は、トール油脂肪酸、高級二塩基酸、ノナン酸の一種以上の混合が好ましい。好ましい添加量は、1〜20重量%であった。特に、残渣の低減に好ましい脂肪酸は、高級二塩基酸、ノナン酸であった。1重量%以下になるとスクラッチが増加した。20重量%以上になると基板表面の残渣が増加した。
【0091】
(3)アミン化合物は、エタノールアミン、トリエタノールアミン及びモノイソプロパノールアミンが好適である。好ましい添加量は、20〜50重量%であった。20重量%以下になるとスラリーが白濁した。50重量%以上になると研削性は高いがテクスチャ加工ラインが不鮮明になってくる。
【0092】
(4)高級脂肪酸アマイドは、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアマイド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアマイド、ヤシ油脂肪酸モノイソプロパノールアマイド、ラウリル酸ジエタノールアマイド、ラウリル酸モノイソプロパノールアマイドが適している。好ましい添加量は、10〜30重量%であった。なお、ヒマシ油脂肪酸は、残渣が多かった。10重量%以下になると研削性が低下した。30重量%以上になると目標のRa以上になってしまった(Raが0.3nm以上)。
【0093】
(5)リン酸エステルとしては、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステルが使用できる。好ましい添加量は、1〜8重量%であった。あまり多く添加すると残渣が増加する。1重量%以下になると加工性が劣化した。8%以上になると残渣が増加する。Raを0.15nm〜0.25nmの範囲に加工するには、ダイヤモンド粒子の粒度分布D50を0.18〜0.28μmの範囲にするのが好ましい。また、この範囲の凝集したダイヤモンド(二次粒子)を使用することによってマイクロスクラッチを低減できた。
【0094】
これは、一次粒子が4〜10nmの範囲にあり、スラリー中で凝集したダイヤ粒子を使用することによって、加工中に不織布テープで押し圧されることによって凝集粒子が崩れながら加工されることによるものと考えられる。
【0095】
なお、本発明により、アルミニウム基板をテクスチャ加工した結果、走査型プローブ顕微鏡(ナノスコープ)で評価した、テクスチャ加工ライン密度は、40〜50本/μmであった。同等の表面粗さ(Ra:0.2nm)によるガラス基板よりもテクスチャライン密度は低かった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、テクスチャ加工装置を示す。
【符号の説明】
【0097】
10・・・テクスチャ加工装置
11・・・コンタクトローラ
12、13・・・ノズル
14・・・加工テープ
15・・・基板
R・・・基板回転方向
T・・・テープ走行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基板にNi−P膜を形成した磁気ハードディスク用の基板をテクスチャ加工するために用いられる加工スラリーであって、
研磨材、及び
前記研磨材を分散させる分散媒、
を含み、
前記研磨材として、一次粒子径が20nm以下の範囲にあるダイヤモンド粒子からなる二次粒子が含まれ、
前記二次粒子の粒度分布D50が0.10〜0.28μmの範囲にあり、
前記分散媒が、
水、及び
添加剤、
を含み、
前記添加剤として、
グリコール化合物、
炭素数8〜22の範囲にある脂肪酸、
アルカノールアミン、
脂肪酸アマイド、及び
リン酸エステル化合物、
が含まれ、
前記脂肪酸として、二塩基酸及びノナン酸から選択される一種又は二種の脂肪酸が含まれ、
前記添加剤の含有量が、当該加工スラリーの全量を基準として、1重量%以上、10重量%以下の範囲にある、
ところの加工スラリー。
【請求項2】
請求項1の加工スラリーであって、
前記グリコール化合物として、アルキレングリコールが含まれ、
前記脂肪酸アマイドとして、トール油脂肪酸ジエタノールアマイド、又はヤシ油脂肪酸ジエタノールアマイドが含まれ、
前記リン酸エステル化合物として、アルキルリン酸エステル、又はアルキルエーテルリン酸エステルが含まれる、
ところの加工スラリー。
【請求項3】
請求項1又は2の加工スラリーであって、
前記添加剤の全量を基準として、
グリコール化合物が20〜50重量%含まれ、
炭素数8〜22の範囲にある脂肪酸が1〜20重量%含まれ、
アルカノールアミンが20〜50重量%含まれ、
脂肪酸アマイドが10〜30重量%含まれ、
リン酸エステル化合物が1〜8重量%含まれる、
ところの加工スラリー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1の加工スラリーであって、
前記研磨材の含有量が、当該加工スラリーの全量を基準として、0.001重量%以上、0.05重量%以下の範囲にある、
ところの加工スラリー。
【請求項5】
アルミニウム基板にNi−P膜を形成した磁気ハードディスク用の基板をテクスチャ加工するための方法であって、
前記基板を回転させる工程、
前記基板の表面に加工スラリーを供給する工程、及び
前記基板の表面に加工テープを押し付け、走行させる工程、
を含み、
前記加工スラリーが、
研磨材、及び
前記研磨材を分散させる分散媒、
を含み、
前記研磨材として、一次粒子径が20nm以下の範囲にあるダイヤモンド粒子からなる二次粒子が含まれ、
前記二次粒子の粒度分布D50が0.10〜0.28μmの範囲にあり、
前記分散媒が、
水、及び
添加剤、
を含み、
前記添加剤として、
グリコール化合物、
炭素数8〜22の範囲にある脂肪酸、
アルカノールアミン
脂肪酸アマイド、及び
リン酸エステル化合物、
が含まれ、
前記脂肪酸として、二塩基酸及び/又はノナン酸(ペラルゴン酸)が含まれ、
前記添加剤の含有量が、当該加工スラリーの全量を基準として、1重量%以上、10重量%以下の範囲にある、
ところの方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって、加工テープとして、ナイロン製又はポリエステル製のマイクロファイバーからなる不織布テープが使用される、
ところの方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−264945(P2008−264945A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112280(P2007−112280)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】