説明

テトラヒドロ葉酸合成酵素遺伝子

新規テトラヒドロ葉酸合成酵素遺伝子および該遺伝子がコードする蛋白質を見出し、該蛋白質の細胞増殖促進活性を阻害する化合物の同定方法を提供し、大腸癌の判定方法、防止方法および治療方法を提供する。配列表の配列番号1の塩基配列の94番目から2934番目の塩基配列を含むDNA;該DNAに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド;該DNAがコードする蛋白質;該DNAを含有する組換えベクター;該組換えベクターを含有する形質転換体;該蛋白質に対する抗体;該蛋白質の製造方法:該蛋白質が有する細胞増殖促進活性を阻害する化合物の同定方法;該DNAの発現量を測定することを特徴とする大腸癌の判定方法;大腸癌の判定キット;大腸癌の防止剤および/または治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、テトラヒドロ葉酸合成酵素遺伝子、該遺伝子に係るDNA、該DNAがコードする蛋白質に関する。また、該DNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、該遺伝子に係るDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つにハイブリダイズするDNAに関する。さらに、該遺伝子に係るDNAを含有する組換えベクター、該ベクターを含有する形質転換体、該形質転換体を用いた該蛋白質の製造方法、該蛋白質に対する抗体に関する。また、該蛋白質が有する細胞増殖促進活性を阻害する化合物の同定方法に関する。さらに、ある組織が大腸癌由来組織であるか否かを判定する方法に関する。また、該蛋白質の阻害剤を含んでなる癌の防止剤および/または治療剤に関する。さらに、該遺伝子に係るDNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、該遺伝子に係るDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つにハイブリダイズするDNAおよび/または該抗体を含有する大腸癌の判定キットに関する。
【背景技術】
テトラヒドロ葉酸合成酵素(以後、C1−THFSという)は、様々な代謝反応に必要なC1基を供与するテトラヒドロ葉酸誘導体を合成する酵素である(非特許文献1、以後、テトラヒドロ葉酸をTFとテトラヒドロ葉酸誘導体をTF誘導体という)。具体的にはTF誘導体は、プリン、チミジル酸、ヒスチジンおよびパントテン酸等の生合成反応にC1基を供与する。すなわちTFおよびTF誘導体は、核酸代謝およびアミノ酸代謝等に深く関与している。そのためTFおよびTF誘導体は、細胞分裂が盛んな組織に多くみられ、細胞増殖および成長に不可欠である。
C1−THFSは、3種の機能を有するトリ酵素である。具体的には、C1−THFSは、10−ホルミルテトラヒドロ葉酸合成酵素(10−formyl−THF synthetase、EC 6.3.4.3)、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドロラーゼ(5,10−methenyl−THF cyclohyrolase、EC 3.5.4.9)および5、10−メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ(5,10−methylene−THF dehydrogenase、EC 1.5.1.5)の機能を有する。C1−THFSは、これらの機能を発揮することにより、様々な代謝反応に必要なTF誘導体の合成を促進する。
C1−THFSは、ヒト、マウス、酵母等の真核生物、大腸菌等の原核生物など様々な生物種を対象に、その解析が進められている(非特許文献2−5)。酵母については、その細胞質およびミトコンドリアに存在し機能するC1−THFSの存在が知られている。また、ヒトについては、その細胞の細胞質に存在し機能するC1−THFSが知られている。
しかし、ヒトについてその細胞のミトコンドリアに存在し機能するC1−THFSは知られておらず、唯一、非特許文献19の報告があるのみである。また大腸癌組織において正常大腸組織と比較し発現が亢進するヒトC1−THFS遺伝子も知られていない。
以下に、本明細書で引用した文献を列記する。
【非特許文献1】 ハム(Hum DW)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリ(The Journal of Biological Chemistry)」、1988年、第263巻、第31号、p.15946−15950。
【非特許文献2】 スタベン(Staben,C)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリ(The Journal of Biological Chemistry)」、1984年、第261巻、p.4629−4637。
【非特許文献3】 シャノン(Shannon、K.W.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリ(The Journal of Biological Chemistry)」、1986年、第261巻、p.12266−12271。
【非特許文献4】 シグペン(Thigpen、A.E.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリ(The Journal of Biological Chemistry)」、1990年、第265巻、p.7907−7913。
【非特許文献5】 デブ(Dev,I.K.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリ(The Journal of Biological Chemistry)」、1978年、第253巻、p.4245−4253。
【非特許文献6】 ラジら(Raj SKら)「バイオケミストリ アンド モレキュラ バイオロジ インターナショナル(Biochemistry and molecular biology international)」、第44巻、第1号、p.89−95。
【非特許文献7】 フローマンら(Frohman M.A.et al.)「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002。
【非特許文献8】 「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」,1977年、第74巻、p.5463−5467。
【非特許文献9】 「メソッズ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、1980年、第65、p.499−。
【非特許文献10】 クラロス(Claros MG)ら、ヨーロピアン ジャーナル オブ バイオケミストリ(European Journal of Biochemistry)、1996年、第241巻、第3号、p.779−786。
【非特許文献11】 キム(Kim PJ)ら、「ランセット(Lancet)」 2003年、第362巻、p.205−209。
【非特許文献12】 ギルズ(R.H.Giles)ら、「バイオシミカ イト バイオフィジカ アクタ(Biochimica et Biophysica Acta)」,2003年、第1653巻、p.1−24。
【非特許文献13】 ヘイ(He TC)ら、「サイエンス(Science)」、1998年、第128巻、p.1509−1515。
【非特許文献14】 レベンス(Levens DL)、「ジーンズ アンド デベロップメント(Genes and Development)」,2003年、第17号、p.1071−1077。
【非特許文献15】 ガロウ(Garrow TA)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリ(The Journal of Biological Chemistry)」、1993年、第268巻、p.11910−11916。
【非特許文献16】 ニキフォロフ(Nikiforov MA)ら、「モレキュラー アンド セルラー バイオロジー(Molecular and Cellular Biology)」、2002年、第22巻、p.5793−5800。
【非特許文献17】 タブチジアン(Tavtigian SV)ら、「モレキュラー バイオロジー オブ ザ セル(Molecular Biologyaof the Cell)」、1994年、第5巻、p.375−388。
【非特許文献18】 ビラー(Villar E)「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリ(The Journal of Biological Chemistry)」,1985年、第260巻、第4号、p.2245−2252
【非特許文献19】 プラサンナン(Prasannan P)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリ(The Journal of Biological Chemistry)」、2003年、第278巻、第44号、p.43178−43187。
【非特許文献20】 杉浦ら、「バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochem Biophys Res Commun.)2004年、第315巻、第1号、p.204−211)
【発明の開示】
本発明が解決しようとする課題は、新規C1−THFS遺伝子に係るDNAおよび該DNAがコードする蛋白質を見出して提供することである。さらに、該遺伝子に係るDNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、該遺伝子に係るDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つにハイブリダイズするDNAを提供することも課題に含まれる。また、該遺伝子に係るDNAを含有する組換えベクター、該組換えベクターを用いて形質転換させてなる形質転換体、該蛋白質に対する抗体、該蛋白質の製造方法および該蛋白質の細胞増殖促進活性を阻害する化合物の同定方法を提供することも課題に含まれる。さらに、該遺伝子に係るDNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、該遺伝子に係るDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つにハイブリダイズするDNAおよび/または該抗体を含有する大腸癌の判定キットおよびある組織が大腸癌由来組織であるか否かを判定する方法を提供することも課題に含まれる。また、大腸癌の防止剤および/または治療剤を提供することも課題に含まれる。
本発明者らは上記課題のために鋭意努力し、新規C1−THFS遺伝子を見出し、該遺伝子に係るDNAを用いて新規C1−THFSを取得することに成功した。そして、該DNAの塩基配列を解析することにより、該C1−THFSが、細胞質からミトコンドリアに移行し、ミトコンドリアにおいて機能することを見出した。また、該C1−THFSが細胞増殖促進活性を有することを実証した。さらに、該C1−THFS遺伝子の発現が、大腸癌組織において正常大腸組織と比較し有意に亢進することを実証して、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)以下の(a)、(b)のいずれかのDNA:
(a)配列表の配列番号1に記載の塩基配列の94番目から2934番目の塩基配列で表されるDNA、
(b)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNA。
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列の94番目から2934番目の塩基配列を含み、かつ、10−ホルミルテトラヒドロ葉酸合成酵素活性、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドロラーゼ活性および5、10−メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ活性の3つの活性、および/または、細胞増殖促進活性を有する蛋白質をコードするDNA。
(3)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAである、(2)に記載のDNA。
(4) (1)から(3)のいずれかに記載のDNAのDNA配列において1ないし複数のDNAの欠失、置換、付加された塩基配列を有し、かつ細胞増殖促進活性を有する蛋白質をコードするDNA。
(5) (1)から(4)のいずれか1項に記載のDNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、(1)から(4)のいずれか1項に記載のDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
(6) 以下の群より選ばれるDNAであって、(1)から(4)のいずれか1項に記載のDNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、(1)から(4)のいずれか1項に記載のDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つを増幅するためのプライマーおよび/または検出するためのプローブである(5)に記載のDNA;
(i)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるDNA、
(ii)配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるDNA、
(iii)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるDNA
および
(iv)配列表の配列番号6に記載の塩基配列で表されるDNA。
(7) (1)から(4)のいずれか1項に記載のDNAを含有する組換えベクター。
(8) プラスミドFERM BP−8419号。
(9) (7)に記載の組換えベクターまたは(8)に記載のプラスミドにより形質転換された形質転換体。
(10) 以下の(a)から(b)のいずれかの蛋白質。
(a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列の32番目から978番目のアミノ酸配列で表される蛋白質。
(b)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質。
(11) (4)に記載のDNAがコードする蛋白質。
(12) (7)に記載の組換えベクターまたは(8)に記載のプラスミドにより形質転換された形質転換体を培養する工程を含む、(10)または(11)に記載の蛋白質の製造方法。
(13) (10)または(11)に記載の蛋白質または該蛋白質の断片を抗原とする抗体。
(14) (10)または(11)に記載の蛋白質が有する細胞増殖促進活性を阻害する化合物の同定方法であって、ある化合物と(10)または(11)に記載の蛋白質との相互作用を可能にする条件下で、細胞増殖促進活性の存在、非存在または変化を検出することにより、該化合物が(10)または(11)に記載の蛋白質の細胞増殖促進活性を阻害するか否かを判定することを特徴とする同定方法。
(15) (10)または(11)に記載の蛋白質が有する細胞増殖促進活性を阻害する化合物の同定方法であって、(10)または(11)に記載の蛋白質、(1)から(4)のいずれか1項に記載のDNA、(5)または(6)に記載のDNA、(7)に記載の組換えベクターまたは(8)に記載のプラスミド、(9)に記載の形質転換体および(13)に記載の抗体のうちすくなくともいずれか1つを用いることを特徴とする同定方法。
(16) ある組織が大腸癌由来組織であるか否かを判定する方法であって、ある組織における(1)から(4)のいずれか1項に記載のDNAの発現量を測定することを特徴とする判定方法。
(17) (16)に記載の判定方法であって、ある組織における(1)から(4)のいずれか1項に記載のDNAの発現量が、対照である正常大腸由来組織における(1)から(4)のいずれか1項に記載のDNAの発現量の3倍以上である場合に、ある組織が大腸癌由来組織であると判定することを特徴とする判定方法。
(18) (17)に記載の判定方法であって、ある組織における(1)から(4)のいずれか1項に記載のDNAの発現量を以下の工程により測定することを特徴とする判定方法;
(i)ある組織に含まれるRNAを鋳型に、逆転写反応を行う工程、
(ii)逆転写反応により合成されたcDNAを鋳型に、配列表の配列番号5および6に記載の塩基配列で表されるDNAをプライマーとして、ポリメラーゼ連鎖反応を行う工程および
(iii)ポリメラーゼ連鎖反応により増幅されたDNAの量を測定する工程。
(19) (5)または(6)に記載のDNAおよび(13)に記載の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有することを特徴とする大腸癌の判定キットであって、(16)から(18)のいずれか1項に記載の判定方法に用いることを特徴とする大腸癌の判定キット。
(20) (10)または(11)に記載の蛋白質の阻害剤を含んでなる大腸癌の防止剤および/または治療剤。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子のcDNAおよび該遺伝子がコードする蛋白質の一次構造を示す図である。上段にcDNA、下段に蛋白質の一次構造を示す。
NDはN末端部分DNAを、NTは、N末端欠損DNAを、SPはターゲット配列(シグナルペプチド)を示す。
図2は、ヒトC1−THFS(Human C−1 tertahydrofolate synthetase)および本発明で提供されるDNAに係る遺伝子(DKFZP)の一次構造を示す。D/C ドメインは、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドロラーゼおよび5、10−メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼの酵素活性に対応する部分構造を意味する。S ドメインは、10−ホルミルテトラヒドロ葉酸合成酵素の酵素活性に対応する部分構造を意味する。
図3は、pCMV−Tag4A−hC1Sの構造を示す図である。図中、BamHI687およびXhoI3630は、制限酵素BamHIおよびXhoIの認識部位を示す。CMVプロモーターは、サイトメガロウイルスプロモーター領域、Neo r/Kan rは、ネオマイシンおよびカナマイシン耐性遺伝子部位を示す。hC1Sは,本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の挿入部位を示す。
図4は、正常大腸細胞および大腸癌細胞内における本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の発現量を示す写真である。上段に本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の発現量、下段に対照であるグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素遺伝子の発現量を示す。
1は大腸癌細胞HCT116、2は大腸癌細胞SW620、3は正常大腸細胞CCD841CoNを表す。DKFZPは、本発明で提供される遺伝子の発現量を、GAPDHは、グリセリンアルデヒド三リン酸脱水素酵素の発現量を示す。
図5は、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質の発現を確認したウエスタンブロッティングの結果の写真である。図中、lysateは293細胞の溶解溶液のサンプルであること、IPPは293細胞の溶解溶液中で抗FLAG抗体により免疫沈降させた後の沈降物のサンプルであることを示す。
−は、遺伝子導入されない動物細胞由来のサンプル、Eは、pCMV−Tag4Vectorが導入された動物細胞由来のサンプル、FLは、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子組換えpCMV−Tag4Vectorが導入された動物細胞由来のサンプルを示す。
図6は、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子によりコードされる蛋白質が、細胞増殖を促進することを示す写真である。24 well plate→10 cm plateレーンは、24穴のプレートに播種した293細胞に本発明で提供されるDNAに係る遺伝子を導入後10cmプレートに播き直したサンプルを示す。12 well plate→10 cm plateレーンは、12穴のプレートに播種した293細胞に本発明で提供されるDNAに係る遺伝子を導入後10cmプレートに播き直したサンプルを示す。
DKFZPは、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子組換えpCMV−Tag4Vectorが導入された動物細胞の増殖を、Empty Vectorは、pCMV−Tag4Vectorが導入された動物細胞の増殖を示す。
図7は、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質の細胞内局在を示す写真である。図中、Mは、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子を導入した293細胞から単離したミトコンドリア画分、Cはその細胞質画分を示す。上段は抗FLAGによるイムノブロッティングの結果、下段は抗ミトコンドリアHSP70抗体による結果を示す。
図8は、既存の抗癌剤標的遺伝子と本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の発現パターンを比較した図である。左図は本発明で提供されるDNAに係る遺伝子、中図はDHFR遺伝子、右図はTS遺伝子の発現パターンで、それぞれ左から正常大腸組織、大腸癌および胸腺での発現強度が示されている。各ドットは、各臓器サンプルでの強度を示し、バーはそれらの平均値を示す。
図9は、ミトコンドリア1炭素単位代謝系活性化のカスケード仮説を示す図である。βカテニンの活性化に始まり、段階を経て、ミトコンドリアのC1単位代謝の活性化が引き起こされることを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本願明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC、0.5%SDSおよび50%ホルムアミドの溶液中で42℃にて加温した後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄する場合を意味する。
ハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング、ア・ラボラトリー・マニュアル((Molecular cloning、A Laboratory Manual、T.マニアティス(T.Maniatis)他著、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、1989年発行)等に記載されている方法に準じて行った場合を意味する。
本願明細書において、「相同性」とは、例えば、BLAST(National Center for Biotechnology Information)を用いて計算される数値を意味する。
本願明細書において、「組織」とは1以上の細胞を含んでいれば良く、単一の細胞も、「組織」の定義に含まれる。
(遺伝子の取得)
本遺伝子に係るDNAは、自体公知のDNAクローニング方法、RT−PCR法(非特許文献6)およびRACE法(非特許文献7)等を利用して、取得され得る。例えば、RT−PCR法を用いる場合には、まず本遺伝子に係るDNAの発現が確認されている適当な起源から全てのRNAを自体公知のRNA調整法を利用して抽出する。本遺伝子は、ヒト大腸癌組織において正常大腸組織と比較し、その発現が亢進していることより、該起源としてヒト大腸癌組織が例示される。次に、抽出されたRNAから、自体公知の逆転写酵素反応を利用してcDNAを合成する。逆転写酵素反応用のプライマーとしては、オリゴ(dT)プライマー、ランダムプライマー等が例示できる。これらのプライマーは、常法に従って合成により得ることができる。合成されたcDNAを、cDNAの塩基配列に特有なプライマー(センスプライマーおよびアンチセンスプライマーの2種類のプライマー)を用いて、自体公知のPCR法を利用して増幅する。PCR用のプライマーは、cDNAの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により得ることができる。センスプライマーとしては、配列表の配列番号3に記載のDNA配列からなるDNAを例示することができる。アンチセンスプライマーとしては、配列表の配列番号4に記載のDNA配列からなるDNAを例示することができる。増幅したcDNAの単離精製は、常法により行うことができる。例えば、ゲル電気泳動法により実施可能である。増幅後、単離精製されたcDNAとして、本遺伝子に係るDNAを取得することができる。
取得されたDNAの塩基配列は、公知の方法を利用して決定することができる。例えば、ジデオキシ法(非特許文献8)、マクサム・ギルバート法(非特許文献9)を用いて塩基配列を決定することができる。
(遺伝子の機能)
本遺伝子は、ORF2934bp、978アミノ酸をコードする新規の遺伝子であることが明らかとなった。このうち、1番目から31番目のアミノ酸配列がミトコンドリアターゲット配列であり、32番目から978番目のアミノ酸配列で表される蛋白質が成熟蛋白質である。
本遺伝子に係るDNAの5´末端部分の一部(以後、N末端部分DNAという)が欠落したDNA(以後、N末端欠損DNAという)の塩基配列は、ヌクレオチドデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に登録され、公開されている(図1)。N末端欠損DNAは、既知のヒトC1−THFS遺伝子に係るDNAと、塩基配列上において高い相同性を有することが分かっている(図2)。
N末端欠損DNAと既知のヒトC1−THFS遺伝子に係るDNAとのアミノ酸配列上における相同性検索の結果、N末端欠損DNAは、既知のヒトC1−THFSが有する3種類の酵素活性に対応する既知ヒトC1−THFS遺伝子上の部分配列のうち、10−ホルミルテトラヒドロ葉酸合成酵素の酵素活性に対応する部分配列に対し75.7%程度の相同性を有し、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドロラーゼの酵素活性に対応する部分配列に対し33.2%程度の相同性を有し、5、10−メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼの酵素活性に対応する部分配列に対し33.2%程度の相同性を有することが、明らかとなった。
また、ヒトC1−THFSオルソログが既に発見されている。ヒトC1−THFSオルソログ遺伝子と既知のヒトC1−THFS遺伝子との塩基配列上における相同性検索の結果、ヒトC1−THFSオルソログ遺伝子は、既知ヒトC1−THFSが有する3種類の酵素活性に対応する部分配列のうち、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドロラーゼの酵素活性に対応する部分配列および5、10−メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼの酵素活性に対応する部分配列への相同性と比較し、10−ホルミルテトラヒドロ葉酸合成酵素の酵素活性に対応する部分配列への相同性が高いことが分かっている。さらに、ヒトC1−THFSオルソログ遺伝子がコードする蛋白質は、既知のヒトC1−THFSが有する3種類の酵素活性すべてを有していることも、明らかとなっている。
すなわち、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドロラーゼの酵素活性に対応する部分構造および5、10−メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼの酵素活性に対応する部分構造は、10−ホルミルテトラヒドロ葉酸合成酵素の酵素活性に対応する部分構造に比べ、DNA変異等の原因によるアミノ酸配列の変化に対し、活性が失われにくい部分構造であると考えられている。
これらのことより、本遺伝子に係るDNAがコードする蛋白質も、C1−THFSが有する3種類の酵素活性すべてを有していると考えられる。すなわち本遺伝子に係るDNAがコードする蛋白質は、ヒトC1−THFSのアイソザイムであると考えられる。
一方、リボソームにおいて合成された蛋白質の中には、N末端部分に特有のターゲット配列を有しているものがある。それら蛋白質は、ターゲット配列に応じてゴルジ体、ミトコンドリアなどの細胞小器官へ輸送されることがわかっている。ミトコンドリアへ輸送される全ての蛋白質が有するターゲット配列に、アミノ酸配列上のコンセンサスがあるということではない。しかし、ミトコンドリアへ輸送される全ての蛋白質が有するターゲット配列は、共通して、塩基性アミノ酸の含有率が高く、ターゲット配列全体は疎水的であることがわかっている(非特許文献10)。そこで、本傾向を指標に、アミノ酸配列が明らかな任意の蛋白質がミトコンドリアへ輸送されるためのターゲット配列を有しているか否かを予測することは、可能である。
N末端DNAがコードするポリペプチドがターゲット配列を有するか否かを、そのアミノ酸配列から予測した結果、N末端DNAがコードするポリペプチドは、ターゲット配列を有していることが明らかとなった。よって、本遺伝子に係るDNAがコードする蛋白質は、リボソームにおいて合成された後、ミトコンドリアへ輸送され、さらにミトコンドリアにおいてターゲット配列に係るペプチドが切断され、その結果、ターゲット配列に係るペプチドが除かれたポリペプチドが成熟蛋白質として機能すると考えられる。下記実施例で示すように、配列2のアミノ酸配列の1番目から31番目のアミノ酸配列がミトコンドリアターゲット配列であることを確認している。
また、本遺伝子に係るDNAをヒト胎児腎臓由来の細胞株にリポソームを用いて導入した結果、導入しない場合と比較し、細胞増殖が促進された。本遺伝子に係るDNAがコードする蛋白質が、C1−THFSの3種類の酵素活性を有していると予想されることから、細胞増殖促進の結果は、本遺伝子に係るDNAがコードする蛋白質が、核酸合成に関与していると考えられる。
本遺伝子に係るDNAは、N末端欠損DNAと比較し、N末端部分DNA、すなわち細胞質からミトコンドリアへの移行のためのターゲット配列に係るDNAを含むDNAを有している。このことは、本遺伝子が、既知の細胞質に存在し機能しているヒトC1−THFSをコードする遺伝子とは異なり、ミトコンドリア局在性のヒトC1−THFSをコードする遺伝子であることを意味している。また、正常大腸組織と比較し大腸癌組織において、本遺伝子の発現が有意に亢進している。以上のことから、本発明はC1−THFSの代謝反応のさらなる解明に寄与するものである。また、本遺伝子は、従来のC1−THFS遺伝子にはない抗癌剤が標的とする蛋白質をコードする遺伝子として、新たな抗癌剤の開発に寄与することができる。
(DNA)
本発明に係るDNAは、配列表の配列番号1に記載の塩基配列の94番目から2934番目の塩基配列を含むDNAであり、好ましくは、配列表の配列番号1に記載の塩基配列の94番目から2934番目の塩基配列で表されるDNA、また、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAである。
また、本発明に係るDNAには、配列表の配列番号1の塩基配列の94番目から2934番目の塩基配列を含み、かつ、10−ホルミルテトラヒドロ葉酸合成酵素活性、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドロラーゼ活性および5、10−メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ活性の3つの活性、および/または、細胞増殖促進活性を有する蛋白質をコードするDNAも含まれ、好ましくは、配列表の配列番号1に記載の塩基配列の94番目から2934番目の塩基配列で表されるDNA、また、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAである。
さらに、本発明に係るDNAには、上記DNAのDNA配列において1ないし複数のDNAの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異などを有し、かつ細胞増殖促進活性を有する蛋白質をコードするDNAも含まれる。該DNAは、天然に存在するものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たDNAであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、エキソヌクレアーゼを用いた欠失変異体の作製法、部位特異的突然変異誘発法などが挙げられる。
「1ないし複数」とは、一般には、1個から20個、好ましくは、1個から10個、さらに好ましくは、1個から数個である。数個とは、一般には1個から5個、好ましくは、1個から3個、さらに好ましくは、1個から2個である。
本明細書において、上記DNAを本遺伝子に係るDNAという。
また、本発明に係るDNAには、本遺伝子に係るDNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、本遺伝子に係るDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAも含まれる。該DNAは、その最小単位として好ましくは5個以上のヌクレオチド、より好ましくは10個以上のヌクレオチド、さらに好ましくは20個以上のヌクレオチドからなるDNAである。該DNAは、本発明に係るDNAに固有な塩基配列領域を有することが好ましい。該DNAは、該DNAの塩基配列情報に基づいて、自体公知の化学合成方法(参照:ジーン(Gene)、第60(1)巻、第115−127頁(1987))を利用して製造可能である。該DNAは、本遺伝子に係るDNAを増幅するためのプライマーまたは本遺伝子に係るDNAの検出用プローブなどに用いられる。
本遺伝子に係るDNAを含有するDNAとしては、本遺伝子に係るDNAのN末端および/またはC末端に付加配列を有するDNAが挙げられる。かかるDNAがコードする蛋白質が細胞増殖活性および/または前期3種の酵素活性を有する限りにおいて付加配列は限定されない。
また、本発明に係るDNAには、本遺伝子に係るDNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、本遺伝子に係るDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つを増幅するためのプライマーおよび/または検出するためのプローブであるDNAも含まれる。該DNAは、本遺伝子の取得、本遺伝子の転写物量の測定などに用いられる。例えば、該DNAは、配列表の配列番号3から6のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNAである。例えば、配列表の配列番号3および4に記載の塩基配列からなるDNAは、本遺伝子に係るDNAの取得の際、本遺伝子に係るDNAを含有するDNAおよび該DNAの相補鎖を増幅するためのプライマーとして用いられる。例えば、配列表の配列番号5および6に記載の塩基配列からなるDNAは、本遺伝子に係るDNAの断片および該断片DNAの相補鎖を増幅するためのプライマーならびに本遺伝子に係るDNAおよび該DNAの相補鎖を検出するためのプローブとして用いられる。
本明細書において、上記DNAのうち本遺伝子に係るDNAを除くDNAを本遺伝子等にハイブリダイズするDNAという。
(蛋白質)
本発明の一つの態様は、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列の32番目から978番目のアミノ酸配列で表される蛋白質、または、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質である。さらに、本発明に係る蛋白質には、本遺伝子に係るDNAがコードする蛋白質、例えば、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAのDNA配列において1ないし複数のDNAの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有するDNAがコードする蛋白質であって、細胞増殖促進活性を有する蛋白質も含まれる。
これらの蛋白質は、その構成アミノ基もしくはカルボキシル基などを修飾するなど、機能の著しい変更を伴わない程度に改変が可能である。例えば、N末端やC末端に別の蛋白質等を、直接的にまたはリンカー蛋白質を介して間接的に遺伝子工学的手法などを用いて付加することにより標識化した蛋白質も本発明に含まれる。付加される蛋白質等としては、例えばグルタチオン S−トランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼなどの酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagなどのタグペプチド類、フルオレセインイソチオシアネート等の蛍光物質類等が例示できる。これら蛋白質等の付加により、本発明に係る蛋白質の精製、検出を容易にすることが可能となる。
本発明が提供する蛋白質は、該蛋白質をコードするDNAを遺伝子工学的手法により発現させた細胞、無細胞系合成産物、化学合成産物、または生体生物由来の生物学的試料から調製したものであってよく、これらからさらに精製されたものであってよい。
本発明が提供する蛋白質は、該蛋白質の活性を阻害する阻害剤のスクリーニングに有用である。例えば、該蛋白質の活性として、細胞増殖促進活性が挙げられる。
本遺伝子を提供する本発明を完成させることにより、本遺伝子に係るDNAがコードする蛋白質を、そのC1−THFS活性を保持したまま、発現させることができる。また、該蛋白質の精製、該蛋白質を標的とした薬剤スクリーニングを可能にすることができる。
一方、本遺伝子に係るDNAは、N末端欠損DNAと比較し、N末端部分DNAすなわち細胞質からミトコンドリアへの移行のためのターゲット配列に係るDNAおよび構造遺伝子に係るDNAの部分塩基配列で表されるDNAを有している。よって、仮にN末端欠損DNAを用いて動物細胞等において強制的に該DNAを発現させた場合、N末端欠損DNAは構造遺伝子にかかるDNAを全て含んでいないため、発現させた蛋白質がC1−THFS活性を示さないと考えられる。また、N末端欠損DNAはミトコンドリアへの移行のためのターゲット配列に係るDNAを有していないため、発現させた蛋白質が細胞質からミトコンドリアへ移行しそこでC1−THFS活性を呈することも考えにくい。
(組換えベクター)
本発明は一つの態様として、本遺伝子に係るDNAを含有する組換えベクターを提供する。組換えベクターは、本遺伝子に係るDNA等を適当なベクターDNAに挿入することによって得ることができる。
ベクターDNAは、導入する細胞の種類等により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するものを抽出したもののほか、増殖に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落したものでもよい。例えば、プラスミド、バクテリアファージおよびウイルス由来のベクターが例示できる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミドおよび酵母由来のプラスミドが例示される。バクテリアファージDNAとしては、λファージなどが例示される。ウイルス由来のベクターDNAとしては、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40およびバキュロウイルスなどが例示される。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来のベクターDNAなどが例示される。あるいは、これらを組合わせて作成されるベクターDNA(コスミドなど)が例示される。組換えベクターは、目的の遺伝子配列と複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列、例えば、プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー、選択マーカー等を構成要素とし、これらを自体公知の方法に基づき組合わせて作製される。選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などが例示できる。
ベクターDNAに目的の遺伝子を組み込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、適当な制限酵素を選択、処理して目的の遺伝子を特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターとして用いるDNAと混合し、リガーゼによって再結合する方法が用いられる。あるいは、目的の遺伝子に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望のベクターが得られる。
後述の実施例に示すpCMV−Tag4A−hC1S(図3)では、ベクターDNAとして、pCMV−Tag4(STRATAGEN社製)を用いた。pCMV−Tag4A−hC1Sは、平成15年6月25日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM BP−8419号として寄託されている。プラスミドFERM BP−8419号も本発明に含まれる。
(形質転換体)
本発明は一つの態様において、本発明に係る組換えベクターを、宿主に導入して得られる形質転換体を提供する。ベクターDNAとして発現ベクターを使用すれば、本発明に係る蛋白質を提供することが可能である。該形質転換体には、本発明に係るDNA以外の所望の遺伝子を組み込んだベクターDNAの1つまたは2つ以上をさらに導入することもできる。宿主に導入するベクターDNAは、1種のベクターであってもよいし、2種以上のベクターDNAでもあってもよい。
宿主としては、原核生物および真核生物のいずれをも用いることができる。原核生物としては、大腸菌、枯草菌等が例示できる。真核生物としては酵母、昆虫細胞、あるいはサル腎由来細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞、293EBNA細胞などの動物細胞が例示できる。好ましくは動物細胞を用いる。より好ましくは、ヒト細胞を用いる。
形質転換は、自体公知の方法を利用して行うことができる。好ましくは、遺伝子の安定性を考慮し、宿主の染色体へのインテグレート法が挙げられるが、簡便には核外遺伝子を用いた自立複製系を利用する。本発明が提供するDNAの導入は、それ自体公知の方法を利用して行われる。例えば、リン酸カルシウム法、エレクトポレーション法、リポフェクション法が例示できるが、これらの方法に限定されない。導入効率および簡便性の観点から、好ましくはリポフェクション法が挙げられる。なお、後述の実施例では、pCMV−Tag4A−hC1Sを293細胞へリポフェクション法により導入し、形質転換させた結果得られた形質転換体を用いて、本発明に係る蛋白質を発現させた。293細胞は、アデノウイルス5型の癌遺伝子E1でトランスフォームされたヒト胎児腎細胞を意味する。
(蛋白質の製造方法)
本発明は一つの態様において、本発明に係る形質転換体を培養する工程を含む本発明に係る蛋白質の製造方法を提供する。本発明に係る蛋白質の発現は、無細胞蛋白質発現系を用いて行うことができる。その他、大腸菌、酵母、枯草菌、昆虫細胞、動物細胞等の自体公知の宿主を利用した遺伝子組換え技術を用いて、本発明に係る蛋白質を発現させることができる。例えば、本発明に係る形質転換体を培養し、次いで培養で得られる培養物から目的とする蛋白質を回収することにより、本発明に係る蛋白質を製造することができる。本発明に係る形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法を利用して行うことができる。培養は、形質転換体により発現される該蛋白質の細胞増殖促進活性を指標にして実施することができる。また、該蛋白質が有する前記3種類の酵素活性を指標に実施することもできる。これらの酵素活性は、自体公知の方法(非特許文献18)を用いて測定可能である。あるいは、宿主中または宿主外に産生された該蛋白質量を指標にしてもよい。発現させた蛋白質は、自体公知の精製方法を利用して、精製回収することができる。例えば、分子篩、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の組み合わせにより、精製回収することができる。その他、硫安、アルコール等の分画手段によっても精製回収することができる。好ましくは、本発明に係る蛋白質に対する抗体を作製し、本発明に係る蛋白質の該抗体への特異的な吸着性を利用し、精製回収することができる。
(抗体)
本発明は一つの態様において、本発明に係る蛋白質に対する抗体を提供する。抗体は、本発明に係る蛋白質またはその断片を抗原として用いて作製する。抗原は、該蛋白質またはその断片でもよく、少なくとも8個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも12個、さらに好ましくは15個以上のアミノ酸で構成される。該蛋白質に特異的な抗体を作製するためには、該蛋白質および/またはその断片に固有なアミノ酸配列からなる領域を用いることが好ましい。この領域のアミノ酸配列は、必ずしも本発明に係る蛋白質またはその断片に係るアミノ酸配列と同一または相同である必要がなく、該蛋白質の立体構造上の外部への露出部位であればよく、露出部位のアミノ酸配列が一次構造上不連続であっても、露出部位について連続的なアミノ酸配列であればよい。抗体は、免疫学的に本発明が提供する蛋白質および/またはその断片を特異的に結合または認識する限り特に限定されない。この結合または認識の有無は、公知の抗原抗体結合反応を利用して決定できる。
抗体は、自体公知の抗体作製方法を利用して、産生される。抗体を産生するためには、本発明が提供する蛋白質またはその断片を、アジュバンドの存在または非存在下で、単独または担体に結合して動物に投与し、動物に対して体液性応答および/または細胞性応答等の免疫誘導を行う。担体は、自身が宿主に対して有害作用を起こさず抗原性を増強せしめるものであれば特に限定されず、例えばセルロース、重合アミノ酸、アルブミン等が例示される。免疫される動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、馬等が好適に用いられる。ポリクローナル抗体は、上記免疫手段を施された動物の血清から自体公知の抗体回収法を利用して取得する。好ましい抗体回収法としては、免疫アフィニティクロマトグラフィー法が例示できる。
モノクローナル抗体を生産するためには、上記免疫手段を施された動物から抗体産生細胞(例えば脾臓またはリンパ節由来のリンパ球)を回収し、自体公知の永久増殖性細胞への形質転換手段を導入することによって行われる。例えば、抗体産生細胞と永久増殖性細胞とを自体公知の方法で融合させてハイブリドーマを作成してこれをクローン化し、本発明が提供する蛋白質でおよび/またはその断片を特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマを選別し、該ハイブリドーマの培養液から抗体を回収する。
かくして得られたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、直接本発明が提供する蛋白質の精製用抗体、標識マーカー等として用いることができる。また、該ポリクローナル抗体または該モノクローナル抗体は、直接本発明が提供する蛋白質と結合し、その活性を制御することができる。よって、本発明に係る蛋白質の活性が関与する疾病の治療または/および防止のために有用である。例えば、ヒト正常大腸組織と比較してヒト大腸癌組織において、本遺伝子に係るDNAはその発現が亢進しているため、該ポリクローナル抗体または該モノクローナル抗体は、大腸癌の治療または/および防止に有用である。さらには該ポリクローナル抗体または該モノクローナル抗体は、該蛋白質の標識マーカーとして大腸癌の診断手段を提供することもできる。
(化合物の同定方法)
本発明は一つの態様において、本発明に係る蛋白質が有する細胞増殖促進活性を阻害する化合物の同定方法を提供する。該化合物の同定方法は、本発明に係る蛋白質、本発明に係るDNA、本発明に係る組換えベクターまたは本発明に係るプラスミド、本発明に係る形質転換体および本発明に係る抗体のうちすくなくともいずれか1つを用いて、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して実施可能である。本発明に係る同定方法により、該蛋白質の立体構造に基づくドラッグデザインによる拮抗剤の選別または該抗体を利用した抗体認識物質の選別などが可能である。該同定方法により同定された化合物は、本発明に係る蛋白質の活性が関与する疾病の治療または/および防止のために有用である。ヒト正常大腸組織と比較してヒト大腸癌組織において本遺伝子に係るDNAはその発現が亢進している。よって、該化合物は大腸癌の治療または/および防止などに有用である。
例えば、本発明に係る蛋白質の細胞増殖促進活性を測定する実験系において、該蛋白質と被検化合物の相互作用を可能にする条件下で、該蛋白質と被検化合物とを共存させて該活性を測定する。ついで、被検化合物の非共存下での測定結果との比較における該活性の存在、非存在または変化、例えば低減、増加、消失、出現などを検出することにより、該蛋白質の該活性を阻害する化合物を同定可能である。活性の測定は、活性の直接的な検出により行うこともできるし、例えば活性の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより実施可能である。シグナルとして、グルタチオン S−トランスフェラーゼ、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagなどのタグペプチド類等を用いることができる。
披検化合物を共存させた場合の該蛋白質の該活性を、被検化合物を共存させなかった場合の該蛋白質の該活性と比較することにより、該披検化合物が該活性に及ぼす効果を測定することができる。該披検化合物を共存させた場合の該活性が、該披検化合物を共存させなかった場合の該蛋白質の該活性と比較して低減した場合には、該披検化合物には該蛋白質の活性を阻害する作用があると判定できる。
一例として、本発明に係る蛋白質の細胞増殖促進活性を指標にして、該活性に影響を与え得る化合物を選別することができる。該細胞増殖促進活性は、本発明に係る蛋白質が発現する細胞を培養し、培養後に増殖した細胞数を計測することで定量化が可能である。細胞数は、バイオレッド、ニュートラルレッド等を用いて、生細胞を染色することにより計測され得る。また、生細胞による放射標識されたチミジンの取り込みを指標に、細胞数を計測することも可能である。
(大腸癌の判定方法)
また、本発明は一つの態様において、ある組織が大腸癌由来組織であるか否かを判定する方法であって、ある組織における本遺伝子に係るDNAの発現量を測定することを特徴とする判定方法を提供する。すなわち、本遺伝子に係るDNAは、大腸癌組織において正常大腸組織と比較し、有意にその発現が亢進している。よって、本遺伝子に係るDNAの発現量を指標に、ある組織が大腸癌由来組織であるか否かを判定することが可能である。
披検試料としては、本発明で提供される遺伝子および/またはその変異遺伝子の核酸および/または核酸断片を含むものである限り制限されない。例えば大腸組織細胞、大腸組織生検などの生体生物由来の生物学的試料を披検試料として例示できる。該核酸として、本遺伝子に係るDNAを含有するDNA,該DNAの相補鎖、本遺伝子に係るDNAの断片、該断片DNAの相補鎖およびこれらDNAが転写されてなるRNAなどが例示される。披検試料は、試料中に含まれる核酸の検出を容易ならしめる種々の方法、例えば変性、制限消化、電気泳動またはドットブロッティングなどの方法を用いて調製され得る。
該核酸の検出および該核酸量の測定は、自体公知の遺伝子検出方法および測定方法を利用して行い得る。該検出方法として、例えばin situハイブリダイゼーション法、ノザンブロット法などが例示される。該測定方法として、ノザンブロット法、定量的RT−PCR法および分光分析法などが例示される。例えば、次の工程により本遺伝子に係るDNAの発現量を測定することが可能である。
(i)ある組織に含まれるRNAを鋳型に、逆転写反応を行う工程、(ii)逆転写反応により合成されたcDNAを鋳型に、配列表の配列番号5および6に記載の塩基配列で表されるDNAをプライマーとして、ポリメラーゼ連鎖反応を行う工程
および(iii)ポリメラーゼ連鎖反応により増幅されたDNAの量を測定する工程。
該検出方法においては、本発明に係る遺伝子またはその変異遺伝子の同定および/または該遺伝子に係るDNAの増幅の実施に、本遺伝子に係るDNAまたは該DNAの相補鎖の断片であってプローブとしての性質を有するものまたはプライマーとしての性質を有するものが有用である。プローブとしての性質を有するDNA断片とは、本遺伝子に係るDNAのみに特異的にハイブリダイゼーションできるDNAを意味する。プライマーとしての性質を有するものは、本遺伝子に係るDNAのみを特異的に増幅できるDNAを意味する。プローブまたはプライマーとしては、塩基配列長が一般的に5ないし50ヌクレオチド程度であるものが好ましく、10ないし35ヌクレオチド程度であるものがより好ましく、15ないし30ヌクレオチド程度であるものがさらに好ましい。一般的に、プローブは標識されたものを用いるが、非標識であってもよい。適当な標識としては、放射性同位体、ビオチン、蛍光物質、化学発光物質、酵素、抗体などが例示できる。プローブを標識する方法は、ニックトランスレーション、ランダムプライミングまたはキナーゼ処理を利用する方法などを例示することができる。例えば、該プローブおよび/またはプライマーとして、本発明に係るポリヌクレオチドが例示される。
また、上記同定方法における発現量は、対照である正常大腸由来組織における本遺伝子に係るDNAの発現量と比較し、2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは8倍以上である場合に、ある組織が大腸癌由来組織であると判定することが可能である。後述の実施例において、大腸癌細胞における該DNAの発現量は正常大腸細胞における該DNAの発現量のおよそ2.38倍であった。
(大腸癌の判定キット)
また、本発明は一つの態様において、本遺伝子等にハイブリダイズするDNAおよび本発明に係る抗体のうち少なくともいずれか1つを含有することを特徴とする大腸癌の判定キットを提供する。例えば、ヒト大腸癌組織においてヒト正常大腸組織と比較して本遺伝子に係るDNAの発現の亢進が見られることから、被検組織における該DNAの発現産物を、本発明に係る大腸癌の判定キットに含有されるDNAをプローブとして用いることにより検出し、該DNAの発現量を測定することにより、ある組織が大腸癌由来組織であるか否かを判定することが可能である。該判定キットには、緩衝液、塩、安定化剤および/または防腐剤などの物質を含んでいてもよい。なお、製剤化にあたっては、本遺伝子等にハイブリダイズするDNAおよび該抗体の性質に応じた自体公知の製剤化手段を導入すればよい。
(大腸癌の防止剤および/または治療剤)
本発明は一つの態様において、本発明に係る蛋白質の阻害剤を含んでなる大腸癌の防止剤および/または治療剤を提供する。本発明に係る蛋白質の阻害剤としては、本発明に係る抗体および本発明に係る化合物の同定方法により同定された化合物が例示される。大腸癌細胞において本遺伝子にかかるDNAの発現が正常大腸細胞と比較し亢進しているため、本発明に係る蛋白質の阻害剤は大腸癌の防止および/または治療に有用である。
医薬の製造には、1種または2種以上の医薬用担体を用いることが好ましい。本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%の範囲とするのが適当である。
医薬用担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤や賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択される。
例えば、水、医薬に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。これらは、本発明に係る剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合せて使用される。
所望により、通常の製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤などを適宜使用して調整することもできる。
安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体などを例示でき、これらは単独でまたは界面活性剤などと組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。上記L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸などのいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖などの単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖などの二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン酸、ヒアルロン酸などの多糖類などおよびそれらの誘導体などのいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセスロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのいずれでもよい。界面活性剤も特に限定はなく、イオン性および非イオン性界面活性剤のいずれでも使用できる。これには、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系などが包含される。
緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩)などを例示できる。
等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンなどを例示できる。
キレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸などを例示できる。
本発明に係る医薬および医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水などを含む緩衝液などで溶解して適当な濃度に調整した後に使用することも可能である。
医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、本発明の医薬組成物の有効性、投与形態、疾病の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用有無等)および担当医師の判断により適宜選択することが望ましい。
一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg乃至100mg程度、好ましくは0.1μgから1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いて、これらの用量の変更を行うことができる.上記投与量は、1日1〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与しても良い.
処方は投与形態に適したものを選択すればよく、該処方は当業者によく知られたものを用いればよい。また、処方するときには、これらを単独で使用してもよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。例えば、他の抗腫瘍用医薬の有効成分等を配合してもよい。
投与形態は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与形態を選択する。例えば、通常の静脈内投与、動脈内投与のほか、皮下、皮内、筋肉内等に投与することもできる。大腸癌組織に直接投与することもできる。
医薬形状は投与形態に応じて選択することができ、遺伝子治療剤、シクロデキストリン等の包接体、溶液剤、けん濁剤、脂肪乳剤、散剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤丸剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、座剤、吸入剤、点眼剤、点耳剤等の作製も可能である。しかし、本発明の医薬の形態は、これに限定されない。
製剤化にあたっては、その形態に応じて適切な製剤用添加物を用いることができ、常法に従って製剤化することができる。
リポソーム化は、例えばリン脂質を有機溶媒(クロロホルム等)に溶解した溶液に、目的とする物質を溶媒に溶解した溶液を加えた後、溶媒を留去し、これにリン酸緩衝液を加え、振とう、超音波処理および遠心処理した後、上清をろ過処理して回収することにより行い得る。
シクロデキストリン包接化は、例えば目的とする物質を溶媒に溶解した溶液に、シクロデキストリンを水等に加温溶解した溶液を加えた後、冷却して析出した沈殿をろ過し、滅菌乾燥することにより行い得る。このとき、使用されるシクロデキストリンは、当該物質の大きさに応じて、空隙直径の異なるシクロデキストリン(α、β、γ型)を適宜選択すればよい。
注射用の溶液剤は、塩溶液、グルコース溶液、または塩水とグルコース溶液の混合物からなる担体を用いて調製可能である。
けん濁剤は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトース等の糖類、ポリエチレングリコール等のグリコール類、油類を使用して製造できる。
脂肪乳剤化は、例えば目的とする物質、油成分(大豆油、ゴマ油、オリーブ油等の植物油、MCT等)、乳化剤(リン脂質等)等を混合、加熱して溶液とした後に。必要量の水を加え、乳化機(ホモジナイザー、例えば高圧噴射型や超音波型等)を用いて、乳化・均質化処理して行い得る。また、これらを凍結乾燥化することも可能である。なお、脂肪乳剤化するとき、乳化助剤を添加してもよく、乳化助剤としては、例えばグリセリンや糖類(例えばブトウ糖、ソルビトール、果糖等)が例示される。
散剤、丸剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、点滴剤、座剤、吸入剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸入剤、経粘膜吸収剤等についても、通常用いられる方法により調製可能である。
【実施例】
以下、実施例により本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(正常大腸細胞と比較し、大腸癌細胞において発現が亢進している遺伝子の同定)
正常細胞と比較し、癌細胞において発現が亢進している遺伝子は、バイオエクスプレス(Genelogic社)のマイクロアレイデータベースを利用して、同定された。マイクロアレイデータベースには、正常大腸組織細胞117サンプル、大腸癌細胞77サンプルの各細胞内の発現プロファイルデータが含まれている。発現プロファイルデータはアフィメトリクスヒト遺伝子オリゴチップHG−U133を用いた各細胞内の発現データベースとして格納されている。正常大腸組織細胞内での発現量よりも大腸癌細胞内での発現量が多い遺伝子のうち、ヌクレオチドデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に遺伝子の全長の塩基配列が登録されていない本発明で提供されるDNAに係る遺伝子を同定した。117サンプルの正常大腸組織細胞内における本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の発現平均量に対する77サンプルの大腸癌細胞内における本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の発現平均量の比は、約2.38となった。有意水準は、0.0000001未満であった。本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の発現量の比を他の癌細胞において同様に調査した結果、乳癌の場合には約1.22(有意水準0.00243)、肺癌の場合には約1.52(有意水準0.0000001未満)、胃癌の場合には約1.98(有意水準0.00003)、膵癌の場合には約1.37(有意水準0.0019)の発現量の比を示した。
(遺伝子の取得)
マイクロアレイデータベースのプローブ配列情報に相当する遺伝子として、公共ヌクレオチドデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)中には、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子のN末端欠損DNAの塩基配列が登録されていた。よって、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子のN末端DNAの塩基配列は、不明であった。
そこで、本発明で提供されるDNAの全長配列を次のように決定した。まず、本発明で提供されるDNAの全長配列を推定した。最初に、N末端欠損DNAの5´末端30ポリヌクレオチドに係る塩基配列をクエリーとして、ヌクレオチドデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に対し相同性検索を行った。検索の結果、ヒトゲノムDNA断片(アクセッション番号、AL035086)と高い相同性を示した。ヒトゲノムDNA断片の塩基配列のうち、N末端欠損DNAの塩基配列と相同性を有する部分配列を除いて得られる塩基配列(以後、塩基配列Aという)を対象として、塩基配列Aに含まれる開始コドンのうち最も5’末端に近く存在する開始コドンを同定し、塩基配列Aのうち該開始コドン以降の部分配列(以後、推定N末端塩基配列という)を同定した。推定N末端塩基配列の配列長は、183であり、61アミノ酸をコードする部分配列であることが推定された。さらに、N末端欠損DNAの塩基配列をアミノ酸配列に変換したものをクエリーに、ヌクレオチドデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に対して相同性検索を行った。その結果、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子のマウスオルソログと推察される遺伝子に係るDNAと高い相同性を示した。該DNAの5‘末端部分配列(配列長183)をアミノ酸配列に変換したものと、推定N末端塩基配列をアミノ酸配列に変換したものとで相同性検索を行ったところ、良好な相同性(56.1%)を示した。よって、推定N末端塩基配列は、N末端部分DNAの塩基配列であることが推定された。
さらに、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子のcDNAクローニングを行った。センスプライマーとして配列表の配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAを、アンチセンスセンスプライマーとして配列表の配列番号4に記載の塩基配列からなるDNAを使用した。鋳型は、QUICK−Clone cDNA(Clontech社)を用い、DNAポリメラーゼとして、KOD−Plus−DNA polymerase(東洋紡社)を用いた。PCR増幅反応は、94℃2分間、94℃30秒、68℃4分を40サイクル行い、続いて68℃3分間処理を行った。得られた増幅産物をpCR4Blunt−TOPOVector(東洋紡社)へライゲーションした。得られた組換えベクター(以後、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子組換えpCR4Blunt−TOPO Vectorという)に含まれる本遺伝子に係るDNAの塩基配列の決定は、Long−Read Tower(Amersham Biosciences社)を用いて行った。その結果、本遺伝子にかかるDNAの塩基配列は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列であることが判明した。
(正常大腸細胞および大腸癌細胞内における発現量比較)
正常大腸細胞における本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の転写産物量が、大腸癌細胞における本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の転写産物量よりも少ないことを、以下の手順で確認した。まず、大腸癌細胞HCT116及びSW620を大日本製薬より購入し、両細胞を10%ウシ胎児血清(FCS、岩城硝子社)を含むDMEM培地(Invitrogen)で培養した。一方、正常大腸上皮細胞CCD841CoNをAmerican Tissue Culture Collectionより購入し、該細胞をACL−4無血清培地で培養した。これらの細胞から、アイソゲン(日本ジーン社)を用いて、全RNAを抽出した。1μgの全RNAから、RNA PCR Kit(AMV社)Ver.2.1(TAKARA社)を用いて30℃10分、42℃30分、99℃5分、5℃5分の条件の下、逆転写反応を行った。次に逆転写反応で得られたcDNAのPCR増幅反応を行った。反応は、得られたcDNAの1/10が溶解している溶液に、配列表の配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマーおよび配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマーを加えて、Advantage polymerase mix(Clontech社)を用いて行った。反応条件は、94℃1.5分、94℃30秒、60℃30秒、72℃1分を30サイクル、最後に72℃3分処理とした。反応液を1%アガロースゲルに供与し、電気泳動を行った。泳動後、エチジウムブロマイド染色により、PCR増幅産物を検出した。
対照として、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素の発現を、同様の方法で、検出した。その結果、対照のグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素の発現量については、正常大腸細胞および大腸癌細胞間で有意な差異は認められなかった。しかし、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の発現量については、大腸癌細胞内における発現量が正常大腸細胞内における発現量よりも多いことが明らかとなった(図4)。
(蛋白質の取得)
本遺伝子に係るDNAを組み込んだ発現ベクターを導入した動物細胞を培養することにより、本遺伝子がコードする蛋白質を発現させ、その分子量を、ウエスタンブロット法を用いて測定した。発現ベクターとして、pCMV−Tag4 Vector(Stratagene社)を使用した。本発明で提供されるDNAに係る遺伝子組換えpCR4Blunt−TOPO VectorをBamHIおよびXhoIで切断し得られたDNAフラグメントと、BamHIおよびXhoIで切断されたpCMV−Tag4 Vectorとを混合し、本遺伝子に係るDNA(以後、hC1Sという)を組み込んだ発現ベクター(以後、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子組換えpCMV−Tag4 Vectorという)を得た。動物細胞には、293細胞を用いた。まず、10% FCS含有DMEM培地(Invitrogen社)で293細胞をサブコンフルエント状態に至るまで、培養した。培養後、培地をオプティMEMI(Invitrogen社)に交換した。交換後、4μgの本発明で提供されるDNAに係る遺伝子組換えpCMV−Tag4 Vectorを、リポフェクトアミンプラス(Invitrogen社)を用い、リポフェクション法により、293細胞に導入した。対照として本遺伝子が組み込まれていないpCMV−Tag4 Vectorを、リポフェクトアミンプラス(Invitrogen社)を用い、リポフェクション法により、293細胞に導入した。
導入時から5時間経過後、遺伝子導入された細胞の培養液に20% FCS含有オプティMEMI培地を、培養液の最終血清濃度が10%になるように、加えた。更に翌日、遺伝子導入された細胞の培地を10% FCS含有DMEM培地に交換した。遺伝子導入時から48時間経過後、細胞を溶解するための溶液(1% トリトンX、50mM Tris塩酸pH7.4、300mM NaCl、5mM EDTA、コンプリートプロテアーゼ阻害剤カクテルEDTAフリー、ロッシュ社)を加え、遺伝子導入された細胞を溶解した。氷冷下30分間放置した後、溶液(以後、溶解後溶液という)を回収、遠心処理(15000回転、15分間)した。遠心処理後、上清にBSA処理IgGアガロースゲル(シグマ)を加え、一晩4℃で放置した。翌日、上清に抗FLAGM2アガロースゲル(シグマ社)を加え、3.5時間4℃で抗原抗体反応させた後、洗浄液(0.1% トリトンX、50mM Tris塩酸pH7.4、300mM NaCl、5mM EDTA)で3回、リン酸緩衝液で1回洗浄した。抗FLAGM2アガロースゲルと結合した蛋白質は、10% 2−メルカプトエタノール含有サンプル緩衝液で回収した。回収溶液ならびに溶解後溶液を、4−20%SDSゲルに供与し、電気泳動を行った。泳動後、泳動産物をニトロセルロースフィルター(Scleicher and Shcuell社)へ転写した。転写後、BSAブロッキングを行い、抗FLAGM2抗体(シグマ社)および過酸化水素脱水素酵素で標識された抗マウスIg抗体(Amersham社)と泳動産物を反応させ、4−クロロ−1−ナフトールで発色させた。免疫沈降させずに溶解後溶液を直接用いた場合には、本発明で提供される蛋白質を検出することができなかった。しかし、抗FLAGM2アガロースゲルで免疫沈降させた場合には、本発明で提供される蛋白質を、検出できた。検出の結果、本発明で提供される蛋白質の分子量は、約110kDaであることが明らかとなった(図5)。
(本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質の細胞増殖促進活性)
24および12穴のプレート上に、10% FCS含有DMEM培地を用いて293細胞を播種し、サブコンフルエント状態になるまで培養を行った。培養後、0.4μg(24穴)あるいは0.7μg(12穴)の本発明で提供されるDNAに係る遺伝子組換えpCMV−Tag4 Vectorを、リポフェクトアミンプラス(Invitrogen社)を用い、293細胞へ導入した。対照として本発明で提供されるDNAに係る遺伝子が組み込まれていないpCMV−Tag4 Vectorを、リポフェクトアミンプラス(Invitrogen社)を用い、293細胞へ導入した。翌日、細胞を10%FCS含有DMEM培地中、10cmプレートに巻きなおし、G418(Promega社)を終濃度1mg/mlとなるように、追加した。1mg/ml濃度のG418(Promega社)を含んだ培地を3ないし4日ごとに交換し、10−14日間培養することによりコロニーを形成させた。形成したコロニーを0.2%クリスタルバイオレットで染色した。その結果、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子を細胞に導入し、強制発現させると、細胞増殖促進させることがわかった。この結果は、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質が、細胞増殖促進活性を有することを示すものである(図6)。
(本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質の細胞内局在性)
本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質の細胞内での局在を以下の手順で決定した。10cmプレートでサブコンフルエント状態の293細胞に前述の方法で、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子組換えベクター、pCMV−Tag4、を導入した。48時間後、細胞を0.5mlのミトコンドリア単離緩衝液(MIB;200mMマンニトール、70mMスクロース、35mM 2−メルカプトエタノール、5mM EDTA、50mM リン酸カリウム、コンプリートプロテアーゼ阻害剤カクテルEDTAフリー、pH7.3)中に回収した。細胞をホモジナイザーで破砕懸濁した後、600g 4°Cで2回迷心沈殿を行った。上清をさらに15000rpm 4°Cで20分間遠心した。上清(細胞質分画)、沈殿(ミトコンドリア分画)おのおの、最初の懸濁液の1/5相当量を抗FLAG抗体を用いた前述のウエスタンブロット、あるいは抗ミトコンドリアHSP70抗体(1/500希釈、Affinity Bioreagent)を用いたウエスタンブロットに供した。本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質と思われるバンドはミトコンドリア分画にだけ検出され、本遺伝子の配列分析から予測されたミトコンドリア局在性を示した(図7上段)。また、抗ミトコンドリアHSP70もミトコンドリア分画にのみ検出され、分画実験操作の妥当性は証明された(図7下段)。
(本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質のシグナルペプチド切断部位)
前述の方法で、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質を293細胞で発現し、抗FLAGM2アガロースゲルにより精製し、4−20%SDSゲル電気泳動で分離した。その後、ゲル内の蛋白質をPVDF膜(ファルマシア)に転写し、クマジーR250液で染色した。110Kda付近のバンドで示され、かつ本発明で提供されるDNAに係る遺伝子がコードする蛋白質と考えられる蛋白質のN末を東レリサーチセンターで決定した。結果はSSGGGであり、予想通り、ミトコンドリアターゲット配列と考えられた位置(配列表2の31番目Alaと32番目Serの間)で切断されていた。
(発現パターンに基づく、DHFR、TSなど既存の抗癌剤標的に対し、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の標的としての優位性)
既存の抗癌剤標的であるジヒドロ化葉酸還元化酵素(DHFR:メトトレキセートの標的)、チミジル酸合成酵素(TS:5−フルオロウリジンの標的)と本発明で提供されるDNAに係る遺伝子間で、ヒト臓器における発現パターンをバイオエクスプレスのマイクロアレイデータベースを用いて比較した(図8)。正常大腸組織と比べ、大腸癌における発現強度はDHFR遺伝子で1.1倍、TS遺伝子で1.5倍の上昇であった。一方、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子は前述の通り2.38倍発現が亢進していた。さらに、増殖細胞を多く抱える正常組織、胸腺に注目すると、ここでのDHFR遺伝子の発現は、正常大腸組織に対し2.5倍という値であった。同様に、TS遺伝子の胸腺での発現は5.5倍の値であった。胸腺でこれらの遺伝子の発現が高いために、これら遺伝子を標的とする抗癌剤、メトトレキセートや5−フルオロウリジンの副作用が発現しやすくなっていると考えられる。ところが、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子の発現は、胸腺でも正常大腸組織での1.4倍という値であった。このように、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子は癌組織で発現が亢進している上に、通常増殖に関与する遺伝子(例えばDHFRやTS遺伝子)の発現が上昇する、胸腺のような組織においても、顕著な高発現がみられない。従って、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子は、ここで比較した他の2種の抗癌剤標的よりも、副作用の少ない抗がん剤の提供などの点において有利な抗癌剤標的とみなせる。
(大腸癌の発癌過程における、Wnt経路を通したミトコンドリアでのC1代謝の活性化と本発明の遺伝子の有用性)
大腸癌の場合、ポリープ状の前がん状態からβカテニンによる遺伝子発現撹乱により癌状態へ移行することで発癌すると考えられている(非特許文献11)。Wnt遺伝子シグナル経路の活性化を引き起こす変異、換言すればAPC遺伝子を不活性化する、あるいはβカテニンを活性化するような変異は、βカテニンの核内蓄積をもたらし、ひいてはβカテニンと転写因子Tcf/LEFの複合体を形成させる。約90%の大腸癌でWnt遺伝子シグナル経路の活性化を引き起こす変異がみられることが知られている(非特許文献12)。このβカテニン経路の標的遺伝子のひとつとしてc−myc癌遺伝子が存在する(非特許文献13)。mycは細胞増殖、分化、アポトーシスに関わる重要な転写因子であるが(非特許文献14)、詳細なメカニズムは未だ詳らかではない。最近、ミトコンドリアセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(mtSHMT)がmycの標的遺伝子であることが明らかとなってきたが(非特許文献15、16)、この遺伝子産物はセリンとテトラヒドロ葉酸からグリシンと5,10メチレンテトラ葉酸を合成する反応およびその逆反応を触媒し、C1−THFSとともに1炭素単位代謝に関わっている。また、他の研究において、マウスでc−mycが転写を引き起こす遺伝子としてU06665というクローンが同定されてきたが(非特許文献17)、この遺伝子は、本発明で提供されるDNAに係る遺伝子のマウスオルソログの一部であることが発明者の分析により明らかとなった。こういった事実を総合的に考えてみると、ミトコンドリアという同じ細胞内部位で、しかも一つの代謝経路中で協力している遺伝子群が、協調的な遺伝子の制御下にあると考えるのはたいへん理にかなったことといえる。そこで、発明者は、Wntシグナル経路が活性化することでミトコンドリアの炭素単位代謝が活性化される現象が大腸癌の発癌過程で重要な役目を担っていると考えている(図9)。本発明で提供されるDNAに係る遺伝子はこの過程の根幹をなす遺伝子といえ、それゆえ、抗癌剤標的となりうる(非特許文献20)。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年9月30日出願の日本特許出願(特願2003−341245)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明は、癌細胞において正常細胞と比較し発現が亢進している新規C1−THFS遺伝子を提供するものである。本遺伝子に係るDNAは、細胞増殖促進活性を有する蛋白質をコードする。本特性を利用した新規医薬組成物、診断手段の提供は、大腸癌の臨床・基礎の医用領域において大きな有用性を提供する。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1: (1):(2934)本蛋白質全長をコードする領域
配列番号1: (1):(183) N末端部分DNA
配列番号1: (184):(2934) N末端欠損DNA
【配列表】











【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)のいずれかのDNA:
(a)配列表の配列番号1に記載の塩基配列の94番目から2934番目の塩基配列で表されるDNA、
(b)配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNA。
【請求項2】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列の94番目から2934番目の塩基配列を含み、かつ、10−ホルミルテトラヒドロ葉酸合成酵素活性、5,10−メテニルテトラヒドロ葉酸シクロヒドロラーゼ活性および5、10−メチレンテトラヒドロ葉酸デヒドロゲナーゼ活性の3つの活性、および/または、細胞増殖促進活性を有する蛋白質をコードするDNA。
【請求項3】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAである、請求項2に記載のDNA。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のDNAのDNA配列において1ないし複数のDNAの欠失、置換、付加された塩基配列を有し、かつ細胞増殖促進活性を有する蛋白質をコードするDNA。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA。
【請求項6】
以下の群より選ばれるDNAであって、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNAを含有するDNA、該DNAの相補鎖、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNAの部分塩基配列で表されるDNAおよび該DNAの相補鎖のうちすくなくともいずれか1つを増幅するためのプライマーおよび/または検出するためのプローブである請求項5に記載のDNA;
(i)配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるDNA、
(ii)配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるDNA、
(iii)配列表の配列番号5に記載の塩基配列で表されるDNA
および
(iv)配列表の配列番号6に記載の塩基配列で表されるDNA。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNAを含有する組換えベクター。
【請求項8】
プラスミドFERM BP−8419号。
【請求項9】
請求項7に記載の組換えベクターまたは請求項8に記載のプラスミドにより形質転換された形質転換体。
【請求項10】
以下の(a)から(b)のいずれかの蛋白質。
(a)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列の32番目から978番目のアミノ酸配列で表される蛋白質。
(b)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質。
【請求項11】
請求項4に記載のDNAがコードする蛋白質。
【請求項12】
請求項7に記載の組換えベクターまたは請求項8に記載のプラスミドにより形質転換された形質転換体を培養する工程を含む、請求項10または11に記載の蛋白質の製造方法。
【請求項13】
請求項10または11に記載の蛋白質または該蛋白質の断片を抗原とする抗体。
【請求項14】
請求項10または11に記載の蛋白質が有する細胞増殖促進活性を阻害する化合物の同定方法であって、ある化合物と請求項10または11に記載の蛋白質との相互作用を可能にする条件下で、細胞増殖促進活性の存在、非存在または変化を検出することにより、該化合物が請求項10または11に記載の蛋白質の細胞増殖促進活性を阻害するか否かを判定することを特徴とする同定方法。
【請求項15】
請求項10または11に記載の蛋白質が有する細胞増殖促進活性を阻害する化合物の同定方法であって、請求項10または11に記載の蛋白質、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNA、請求項5または6に記載のDNA、請求項7に記載の組換えベクターまたは請求項8に記載のプラスミド、請求項9に記載の形質転換体および請求項13に記載の抗体のうちすくなくともいずれか1つを用いることを特徴とする同定方法。
【請求項16】
ある組織が大腸癌由来組織であるか否かを判定する方法であって、ある組織における請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNAの発現量を測定することを特徴とする判定方法。
【請求項17】
請求項16に記載の判定方法であって、ある組織における請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNAの発現量が、対照である正常大腸由来組織における請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNAの発現量の3倍以上である場合に、ある組織が大腸癌由来組織であると判定することを特徴とする判定方法。
【請求項18】
請求項17に記載の判定方法であって、ある組織における請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDNAの発現量を以下の工程により測定することを特徴とする判定方法;
(i)ある組織に含まれるRNAを鋳型に、逆転写反応を行う工程、
(ii)逆転写反応により合成されたcDNAを鋳型に、配列表の配列番号5および6に記載の塩基配列で表されるDNAをプライマーとして、ポリメラーゼ連鎖反応を行う工程および
(iii)ポリメラーゼ連鎖反応により増幅されたDNAの量を測定する工程。
【請求項19】
請求項5または6に記載のDNAおよび請求項13に記載の抗体のうち少なくともいずれか1つを含有することを特徴とする大腸癌の判定キットであって、請求項16から請求項18のいずれか1項に記載の判定方法に用いることを特徴とする大腸癌の判定キット。
【請求項20】
請求項10または11に記載の蛋白質の阻害剤を含んでなる大腸癌の防止剤および/または治療剤。

【国際公開番号】WO2005/030953
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514328(P2005−514328)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014812
【国際出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】