説明

テラヘルツ分光装置

【課題】試料の測定精度を向上し得るテラヘルツ分光装置を提案する。
【解決手段】このテラヘルツ分光装置10におけるテラヘルツ波伝播光学系には、テラヘルツ波発生部13から放物面鏡21を経て入射されるテラヘルツ波を透過する偏光子31と、該偏光子31から入射される直線偏光のテラヘルツ波に対して90度の位相差を与えて円偏光に変換するフレネルロムプリズム32と、該フレネルロムプリズム32を経て入射される円偏光のテラヘルツ波を照射面に集光する放物面鏡22とが配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おおよそ0.1×1012[Hz]〜100×1012[Hz]帯域の電磁波(テラヘルツ波)を用いる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テラヘルツ波分光技術として、テラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS:Terahertz
Time-Domain Spectoroscopy)がある。テラヘルツ時間領域分光法は、試料のイメージングに適していることが知られており、工業、医療、バイオ、農業又はセキュリティなどの様々な技術分野において注目されている。
【0003】
このテラヘルツ時間領域分光法では、超短レーザ光源からパルス光がポンプ光及びプローブ光に分光され、ポンプ光はテラヘルツ波発生部に集光される。これによりテラヘルツ波発生部ではサブピコ秒程度の電流又は電気分極が生成され、当該時間微分に比例した電界振幅をもつテラヘルツ波が発生する。このテラヘルツ波は、光学系を介して、測定試料を透過又は測定試料で反射した後、テラヘルツ波検出部に集光される。このとき、テラヘルツ波検出部にプローブ光が照射されるとキャリアが生成され、テラヘルツ波の電場によって加速されて電流が生じ、パルス状の電気信号となる。プローブ光がテラヘルツ波検出部に到達するタイミングをずらすことによって、テラヘルツ波の振幅電場の時間波形を測定し、該時間波形をフーリエ変換することによってテラヘルツ波帯域の透過又は反射スペクトルを得ることができる。
【0004】
このテラヘルツ時間領域分光法を用いた装置として、放射アンテナ3から半球形レンズ43及び放物面鏡4を経て導かれるテラヘルツ電磁波20を、ワイヤーグリッド製の偏光子30において特定の偏光電磁波だけ透過させた後に試料に対して斜めに入射させ、該試料5を反射したテラヘルツ電磁波21を、偏光子30と同様でなるワイヤーグリッド製の検光子31を経て受信アンテナ7に導くようにしたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3550381号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる装置では、偏光子30を経た直線偏光のテラヘルツ波を試料5に導くので、例えば試料5が繊維状の構造物等といったように配向特性をもつ場合、該直線偏光の偏光方向に応じて試料5での反射率が大幅に変動する。またテラヘルツ波は視認できず、試料5の配向特性は一般に分からないため、直線偏光の偏光方向と、試料5の配向特性との関係を考慮しながら試料5を配置するといったことは困難である。
【0006】
したがって、かかる装置では、直線偏光の偏光方向と、試料5の配向特性との関係によって試料5での反射率が変動し、これが測定結果に反映されるといった問題があった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、試料の配向特性にかかわらず測定精度を向上し得るテラヘルツ分光装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明は、テラヘルツ分光装置であって、直線偏光のテラヘルツ波を透過又は反射する偏光ビームスプリッタと、入射されるテラヘルツ波に対して90度の位相差を与える1/4波長と、偏光ビームスプリッタから1/4波長板を経て入射される円偏光のテラヘルツ波を照射面に導く光学部材とをもつ構成とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、照射面に対して、繊維状の構造をもつ等のように配向特性をもつ試料が配された場合であっても、円偏光のテラヘルツ波が照射面に導かれるので、該試料に対するテラヘルツ波の反射率を、配向特性がない試料と同等のものとして得ることができる。つまり、試料の配向状態にかかわらず反射率の変動を低減することで測定再現性を向上することができ、かくして測定精度を向上し得るテラヘルツ分光装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下図面について本発明の一実施の形態を詳述する。
【0011】
(1)テラヘルツ分光装置の全体構成
図1において、本実施の形態によるテラヘルツ分光装置10の全体構成を示す。このテラヘルツ分光装置10は、超短パルス発振器11、偏光ビームスプリッタ12、テラヘルツ波発生部13、時間遅延部14、テラヘルツ波検出部15及びコンピュータ16を含む構成とされる。
【0012】
超短パルス発振器11は、例えば、60[fs]程度のパルス幅、100[MHz]程度の繰り返し周期、800[nm]程度の中心波長をもつパルス光を出射する。この超短パルス発振器11として、具体的には、チタンサファイアフェトム秒パルスレーザチタンやファイバーサフェトム秒レーザなどが適用される。
【0013】
ビームスプリッタ12は、超短パルス発振器11から出射されるパルス光をポンプ光と、プローブ光とに分離する。ポンプ光は、所定の光学系を経てテラヘルツ波発生部13に集光される。一方、プローブ光は、時間遅延部14や所定の光学系を経てテラヘルツ波検出部15に導かれる。
【0014】
テラヘルツ波発生部13は、ポンプ光をトリガとして電界振幅をもつテラヘルツ波を発生させる。このテラヘルツ波発生部13として、具体的には、半絶縁性GaAs等でなる半導体基板、該半導体基板上に形成される1対の電極及びその電極にバイアス電圧を印加する印加部を含む構成の光伝導アンテナなどが適用される。差周波混合によるテラヘルツ波発生法として用いられるZnTe等の電気光学結晶を適用することも可能である。
【0015】
テラヘルツ波発生部13から発生したテラヘルツ波は、テラヘルツ波伝播光学系TPOSを経て、可動ステージSTに配置される試料SPLに導かれ、該試料SPLを反射(散乱を含む)したテラヘルツ波は、テラヘルツ波伝播光学系TPOSを経てテラヘルツ波検出部15に集光される。
【0016】
時間遅延部14は、偏光ビームスプリッタ12及びテラヘルツ波検出部15間における光路長を可変することによって、テラヘルツ波検出部15に対するプローブ光の到達時間(テラヘルツ波検出部15に対する励起タイミング)を遅延させる。時間遅延部14として、具体的には、リトロリフレクタやルーフミラー等のミラーが配されたステージを、直角プリズム等に対して近づく方向又は離れる方向に所定速度で動作させるといった構成等が適用される。
【0017】
テラヘルツ波検出部15は、試料SPLを反射した後にテラヘルツ波伝播光学系TPOSを経て導かれるテラヘルツ波を検出する。すなわちテラヘルツ波検出部15は、テラヘルツ波伝播光学系TPOSを経て導かれるテラヘルツ波に応じた電場を生じさせ、時間遅延部14によって遅延されたプローブ光の到達タイミングで、当該テラヘルツ波の振動電場の波形をサンプリングする。このテラヘルツ波検出部15は、具体例として、テラヘルツ波発生部13と同様に、光伝導アンテナや、ZnTe等の電気光学結晶などが適用される。
【0018】
コンピュータ16は、試料SPLとして測定対象が配置面に配された状態でテラヘルツ波検出部15によって計測されるテラヘルツ波の振動電場の波形(以下、これを第1のテラヘルツ波形とも呼ぶ)と、該試料SPLとして測定基準とされる物体(例えば金属鏡又はシリコン基板等)が配置面に配された状態でテラヘルツ波検出部15によって計測されるテラヘルツ波の振動電場の波形(以下、これを第2のテラヘルツ波形とも呼ぶ)とを取得する。ちなみに、第2の検出信号については、コンピュータ16内の記憶部に予め記憶させ、該記憶部から取得するようにしてもよい。
【0019】
コンピュータ16は、第1のテラヘルツ波形及び第2のテラヘルツ波形を取得した場合、これら双方のテラヘルツ波形をフーリエ変換し、その変換結果として得られるスペクトルの比から、広範囲となるテラヘルツ帯での反射スペクトルを取得する。そしてコンピュータ16は、この反射スペクトルに基づいて、測定対象の複素誘電率あるいは光学定数を算出し、該算出結果から測定対象の成分、濃度又は状態(形状)などに関連する情報を生成するようになされている。
【0020】
このようにこのテラヘルツ分光装置10は、テラヘルツ時間領域分光法を採用することで、遠赤外光を用いたフーリエ分光法と比べて、この周波数帯域におけるS/N比が高く、また振幅情報と位相情報とを同時に得ることができ、この結果、高い精度で測定対象に関する情報を取得できるようになされている。
【0021】
(2)テラヘルツ波伝播光学系の構成
次に、この実施の形態におけるテラヘルツ波伝播光学系TPOSの構成について図2を用いて説明する。テラヘルツ波伝播光学系TPOSは、3つの放物面鏡21、22、23と、偏光ビームスプリッタ31と、フレネルロムプリズム32との各光学部材によって構成される。
【0022】
放物面鏡21は、テラヘルツ波発生部13から放射状に発生するテラヘルツ波を平行光線の束として偏光ビームスプリッタ31に導く。
【0023】
偏光ビームスプリッタ31は、金属性のワイヤーが所定間隔ごとに同一方向へ並べられた板状の偏光子であり、放物面鏡21から入射されるテラヘルツ波の光軸に対して45度傾けられる。これによりこの偏光ビームスプリッタ31は、偏光ビームスプリッタとして機能することとなり、放物面鏡21から入射されるテラヘルツ波から、特定の偏光成分として例えばP偏光成分(図2では紙面に対して平行な偏光方向)のテラヘルツ波を透過させる。
【0024】
フレネルロムプリズム32は、4回の全反射を用いて位相を変換させるものであり、ポリエチレン、テフロン(登録商標)、ポリメチルペンテン、シクロオレフィンポリマー又はシクロオレフィンコポリマー等のプラスチック(有機ポリマー)によって成形される。
【0025】
このフレネルロムプリズム32は、偏光ビームスプリッタ31におけるワイヤーの並び方向に対して全反射面が45度をなす状態に傾けられている(図2では紙面に対して上側方向に45度傾けられている)。これによりフレネルロムプリズム32は、1/4波長板として機能することとなり、偏光ビームスプリッタ31から入射される直線偏光のテラヘルツ波を内部で4回全反射させて90度の位相を与える。したがって、このフレネルロムプリズム32から出射されるテラヘルツ波は、円偏光(円偏光に近い楕円偏光も含む)に変換されていることとなる。
【0026】
ここで、フレネルロムプリズム32の全反射面に対する入射角について説明する。P偏光とS偏光との位相差をδとし、空気の屈折率をnとし、プリズムにおける硝材の屈折率をnとし、全反射面での入射角をθとすると、次式
【0027】
【数1】

【0028】
で与えられる。ここで、「n」を1とし、「n」を1.5としたときの位相差δと入射角θとの関係を図3に示す。この図3からも明らかなように、4回の全反射を用いて90度の位相を与える場合、偏光ビームスプリッタ31からの入射角は、42度又は75度であればよいこととなる。
【0029】
放物面鏡22は、フレネルロムプリズム32から入射される円偏光のテラヘルツ波を、照射面に対して垂直となる方向から当該放物面の焦点位置に集める。この焦点位置には、可動ステージSTによって試料SPLの測定対象とされる面が位置決めされる。
【0030】
試料SPLを反射した円偏光のテラヘルツ波は偏光面の回転方向が逆方向なり、放物面鏡22により平行光線の束としてフレネルロムプリズム32に導かれる。このフレネルロムプリズム32に入射される円偏光のテラヘルツ波は、該フレネルロムプリズム32内部で4回全反射して90度の位相が与えられ、偏光ビームスプリッタ31からフレネルロムプリズム32に入射する直線偏光(P偏光)の偏光方向とは直交する直線偏光(S偏光)に変換される。したがって、フレネルロムプリズム32から偏光ビームスプリッタ31に入射する直線偏光(S偏光)のテラヘルツ波は、該偏光ビームスプリッタ31を透過せずに反射し、放物面鏡23に導かれることとなる。
【0031】
放物面鏡23は、偏光ビームスプリッタ31から入射される円偏光のテラヘルツ波を、当該放物面の焦点位置に配されるテラヘルツ波検出素子15に集める。
【0032】
このようにしてこのテラヘルツ波伝播光学系TPOSは、テラヘルツ波発生部13から発生するテラヘルツ波を試料SPLに導くとともに、該試料SPLを反射したテラヘルツ波をテラヘルツ波検出部15に集光するようになされている。
【0033】
(3)動作及び効果
以上の構成において、このテラヘルツ分光装置10におけるテラヘルツ波伝播光学系TPOSには、テラヘルツ波発生部13から放物面鏡21を経て入射されるテラヘルツ波を透過する偏光ビームスプリッタ31と、該偏光ビームスプリッタ31から入射される直線偏光のテラヘルツ波に対して90度の位相差を与えて円偏光に変換するフレネルロムプリズム32と、該フレネルロムプリズム32を経て入射される円偏光のテラヘルツ波を照射面に集光する放物面鏡22とが配置される(図2)。
【0034】
したがってこのテラヘルツ分光装置10は、照射面に対して、繊維状の構造をもつ等のように配向特性をもつ試料SPLが配された場合であっても、円偏光のテラヘルツ波を照射面に集光するので、該試料SPLに対するテラヘルツ波の反射率を、配向特性がない試料SPLと同等のものとして得ることができる。つまり、このテラヘルツ分光装置10は、試料SPLの配向状態にかかわらず反射率の変動を低減できることから、その分だけ測定再現性を向上でき、この結果、測定精度を向上できる。
【0035】
なお、試料SPLの配向状態にかかわらず反射率の変動を低減できるということは、工業、医療、バイオ、農業又はセキュリティなどの様々な技術分野において用いられる試料SPL(測定対象)にも対応できるので有用となる。
【0036】
また、このテラヘルツ分光装置10における放物面鏡22は、円偏光のテラヘルツ波を照射面に集光するとともに、該照射面に配される試料SPLを反射する円偏光のテラヘルツ波をフレネルロムプリズム32に導くようになされており、テラヘルツ波検出部15は、該フレネルロムプリズム32及び偏光ビームスプリッタ31を順に経て、偏光ビームスプリッタ31を透過する直線偏光(P偏光)とは直交する直線偏光(S偏光)として入射されるテラヘルツ波を検出する(図2)。つまり、偏光ビームスプリッタ31から放物面鏡22までの経路が往路(試料SPLへの入射波路)と、復路(試料SPLからの出射経路)として用いられる。
【0037】
このように用いた場合、フレネルロムプリズム32が、往路(試料SPLへの入射波路)でのテラヘルツ波を円偏光に、復路(試料SPLからの出射経路)でのテラヘルツ波を直線偏光に変換することで、往復路でのテラヘルツ波の偏光状態を区別するため、テラヘルツ波の伝播経路を共用化することになり、その構成部品数を減らして、光学系の簡略化を図ることができる。
【0038】
これに加えて、試料SPLを反射したテラヘルツ波については、偏光ビームスプリッタ31を透過するのではなく反射しているためその強度を低減させずにテラヘルツ波検出部15に検出させることができる。この点、例えば、上述した引用文献(特許第3550381明細書)では、試料5を経たテラヘルツ波は、検光子31を経ることでその強度が低減された状態で受信アンテナ7に導かれることなり、信号雑音比(SNR(Signal Noise Ratio))が劣化することになる。したがってこのテラヘルツ分光装置10では、偏光ビームスプリッタ31から放物面鏡22までの経路を往路と復路とで共用しても、試料SPLを反射するテラヘルツ波を無駄なく(信号雑音比が劣化しない状態で)検出することができ、その分だけ測定精度を向上することができる。
【0039】
また、このテラヘルツ分光装置10では、照射面に集光されるテラヘルツ波は、該照射面に対して垂直となる方向から導かれる(図2)。斜め照射する場合、計測信号の解析において照射面に対する入射角を考慮した演算を要することになるが、垂直照射では必要とはならないことから、当該演算に依存する誤差等を回避することができ、その分だけ測定精度を向上できる。
【0040】
さらに、斜め照射する場合に比べて、垂直照射するほうが高い分解能を得やすいという利点がある。一般に、光の回折限界により分解能の下限が必然に決まる。レイリー分解能は、波長をλ、光学部材の開口数をNAとすると、「0.62・λ/NA」となる。例えば、テラヘルツ波検出素子15に集光すべき光学系の開口数を「0.5」として、1[THz]のテラヘルツ波を用いる場合、該テラヘルツ波の波長は300[μm]であるので、レイリー分解能は370[μm]となる。
【0041】
ここで、高い分解能を得ようとする場合、光学系の開口数を固定とすると、波長を短くしなければならないが、波長を短くするほど、広範囲となるテラヘルツ帯のなかで測定可能となる帯域が制限される。一方、波長を固定とすると、光学系の開口数を上げなければならないが、開口数を上げるほど、焦点距離が短く有効径を大きい光学系を選定しなければならないので、斜め照射する場合、照射レンズと、受光レンズとの接触を回避させるためには双方のレンズの入射角を大幅に大きくしなければならない。したがって、テラヘルツ波分光装置10をイメージング装置、特に顕微鏡として用いる場合には、レンズ配置の制約により分解能を上げることができないといったことを回避できる点で垂直照射するほうが有用となる。
【0042】
また、このテラヘルツ分光装置10におけるフレネルロムプリズム32は、4回の全反射を用いて位相を変換させるものであり、ポリエチレン、テフロン(登録商標)、ポリメチルペンテン、シクロオレフィンポリマー又はシクロオレフィンコポリマーなどのプラスチック(有機ポリマー)によって成形される。これらの屈折率はテラヘルツ波帯域において屈折率が小さく波長依存性が少ない。
【0043】
したがって、このテラヘルツ分光装置10は、フレネルロムプリズム32でのフルオネル反射を極力抑えて、広範囲となるテラヘルツ帯であっても反射損失を低減した状態で、該テラヘルツ帯を検出することができ、その分だけ信号対雑音比を大きくすることが可能なので測定精度を向上できる。
【0044】
これに加えて、1/4波長板としてフレネルロムプリズム32を用いることで、入射光と出射光との光軸を同軸とすることができ、視認できないテラヘルツ波を用いる場合であっても、1/4波長板としての方位の位置決めを容易に行うことが可能となる。また、このテラヘルツ分光装置10では、視認可能なワイヤーをもつ偏光ビームスプリッタ31を偏光ビームスプリッタとしているので、該偏光ビームスプリッタ31との関係においても、1/4波長板としての方位の位置決めを容易に行うことが可能となる。
【0045】
以上の構成によれば、波長依存性のないフレネルロムプリズム32を1/4波長板として作用させて円偏光のテラヘルツ波を照射面に対して垂直方向から導くようにしたことにより、試料SPLの測定精度を向上し得るテラヘルツ分光装置10を実現できる。
【0046】
(4)他の実施の形態
上述の実施の形態においては、1/4波長板としてフレネルロムプリズム32を用いる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これ以外の光学部材を用いるようにしてもよい。
【0047】
例えば、内部で2回の全反射を経て直線偏光を円偏光又は円偏光を直線偏光に変換するフレネルロムプリズムを用いることができる。なお、このフレネルロムプリズムを用いる場合、偏光子31におけるワイヤーの並び方向に対して全反射面が45度をなす状態に傾ける点については同じであるが、該フレネルロムプリズムの全反射面に対する入射角については、42度又は74.8度に変更する必要がある。
【0048】
また例えば、厚さの異なる水晶板6枚を各々の結晶方位も調整して張り合わせたアクロマティック1/4波長板を用いることができる(J.Masson
and G.Gallot: Opt. Lett., Vol.31, NO.2, 265(2006))。ただし、フレネルロムプリズム32は、このアクロマティック1/4波長板に比して、90度の位相シフトの調整が簡易である。
【0049】
また例えば、高抵抗シリコンプリズムと呼ばれるものを用いることができる(「テラヘルツ技術総覧」、廣本宣久 編著、エヌジーティー 2007年11月29日発行、第7章 テラヘルツ計測システム、7.4.2偏光センシング、p462、図4)。ただし、シリコンは、プラスチックに比して屈折率が高いため反射損失が大きくなる点で、プラスチック製のフレネルロムプリズム32のほうが測定精度の向上には適す。
【0050】
ちなみに、反射率は、屈折率をrとすると、((r−1)/(r+1))として簡易的に表すことができ、またシリコンの屈折率は「3.4」であるから、シリコンの反射率はおよそ30[%]となる。したがってこのプリズムを採用した場合、往路と復路との反射損失はおよそ60[%]である。一方、フレネルロムプリズム32の屈折率を「2」とすると、シリコンの場合に比べて、反射損失を11[%]以下に抑え、往路と復路との合計で20[%]以下に抑えることが可能となる。
【0051】
なお、フレネルロムプリズム32の材質としてプラスチックを適用するようにしたが、テラヘルツ帯に対して透明となるものであれば、種々の誘電体を用いることは可能である。ちなみに、シリコンが屈折率が高いことを述べたが、該シリコンを適用できないことを意味するものではない。
【0052】
また、フレネルロムプリズム32内での全反射面に対して鏡面研磨を施すようにすれば、より屈折率を小さくして反射損失を抑えることができ、フレネルロムプリズム32の入射面及び出射面を、テラヘルツ波の波長よりも小さい凹凸をもつ砂面(モスアイ状)としても、より屈折率を小さくして反射損失を抑えることができる。
【0053】
また上述の実施の形態においては、直線偏光(P偏光)のテラヘルツ波を透過させ、フレネルロムプリズム32を往復して導かれる直線偏光(S偏光)のテラヘルツ波を反射させるテラヘルツ波伝播光学系TPOSを構築するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、直線偏光(S偏光)のテラヘルツ波を反射させ、フレネルロムプリズム32を往復して導かれる直線偏光(P偏光)のテラヘルツ波を透過させるテラヘルツ波伝播光学系TPOSを構築するようにしてもよい。
【0054】
このようにする場合、図2との対応部分に同一符号を付して示す図4に示すように、テラヘルツ波発生部13と、テラヘルツ波検出部15とを入れ換えるとともに、偏光ビームスプリッタ31におけるワイヤーの並び方向に対して全反射面が−45度をなす状態に傾ける(図4では紙面に対して下側方向に45度傾ける)ようにすれば、上述の実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0055】
また上述の実施の形態においては、放物面鏡21〜23を用いて、テラヘルツ波伝播光学系TPOSを構築するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、光学レンズを用いて、テラヘルツ波伝播光学系TPOSを構築するようにしてもよい。
【0056】
例えば図2との対応部分に同一符号を付した図5に示すテラヘルツ波伝播光学系を構築することができる。この図5におけるテラヘルツ波伝播光学系では、放物面鏡21、23(図2)に代えてコリメータレンズ41、44が採用された点、放物面鏡22に代えてビームエキスパンダ42及び対物レンズ43が採用された点で相違する。このテラヘルツ波伝播光学系は、レンズを採用しているので、図2に示したテラヘルツ波伝播光学系TPOSに比して光学調整が容易となる。
【0057】
さらに上述の実施の形態においては、テラヘルツ波検出部15に対するプローブ光の到達時間を、偏光ビームスプリッタ12及びテラヘルツ波検出部15間の光路長を可変することで遅延させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、偏光ビームスプリッタ12及びテラヘルツ波発生部13間の光路長を可変することで遅延させるようにしてもよい。つまり、偏光ビームスプリッタ12及びテラヘルツ波発生部13間の光路長と、偏光ビームスプリッタ12及びテラヘルツ波検出部15間の光路長とを相対的に可変するのであれば、テラヘルツ波検出部15に対するプローブ光の到達時間を遅延させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、工業、医療、バイオ、農業、セキュリティ又は情報通信・エレクトロニクスなどの産業上において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施の形態によるテラヘルツ分光装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】テラヘルツ波伝播光学系の構成を示す略線図である。
【図3】P偏光とS偏光の位相差と、プリズムの全反射面での入射角との説明に供するグラフである。
【図4】他の実施の形態によるテラヘルツ波伝播光学系の構成(1)を示す略線図である。
【図5】他の実施の形態によるテラヘルツ波伝播光学系の構成(2)を示す略線図である。
【符号の説明】
【0060】
10……テラヘルツ分光装置、11……超短パルス発振器、12……ビームスプリッタ、13……テラヘルツ波発生部、14……時間遅延部、15……テラヘルツ波検出部、16……コンピュータ、21、22、23……放物面鏡、31……偏光ビームスプリッタ、32……フレネルロムプリズム、41、44……コリメータレンズ、42……ビームエキスパンダ、43……対物レンズ、TPOS……テラヘルツ波伝播光学系、SPL……試料、ST……可動ステージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波を透過又は反射する偏光ビームスプリッタと、
入射されるテラヘルツ波に対して90度の位相差を与える1/4波長板と、
上記偏光ビームスプリッタから上記1/4波長板を経て入射される円偏光のテラヘルツ波を照射面に導く光学部材と
を有するテラヘルツ分光装置。
【請求項2】
上記光学部材は、
上記1/4波長板から入射される円偏光のテラヘルツ波を照射面に導き、該照射面に配される試料を反射する円偏光のテラヘルツ波を上記1/4波長板に導くものであり、
上記光学部材から上記1/4波長板及び上記偏光ビームスプリッタを順に経て、上記偏光ビームスプリッタから上記1/4波長板に入射される直線偏光とは直交する直線偏光として入射されるテラヘルツ波を検出する検出部
を有する請求項1に記載のテラヘルツ分光装置。
【請求項3】
上記光学部材は、
上記1/4波長板から入射される円偏光のテラヘルツ波を、照射面に対して垂直となる方向から導くものである、
請求項2に記載のテラヘルツ分光装置。
【請求項4】
上記1/4波長は、
全反射を用いたフレネルロムプリズムでなり、上記偏光ビームスプリッタから上記1/4波長板に入射される直線偏光の偏光面に対して全反射面が45度又は−45度をなす状態に傾けられたものである、
請求項2に記載のテラヘルツ分光装置。
【請求項5】
上記偏光ビームススプリッタは、
複数のワイヤーが所定間隔ごとに同一方向へ並べられた板状のものであり、
上記フレネルロムプリズムは、
上記ワイヤーの並び方向に対して全反射面が45度又は−45度をなす状態に傾けられたものである、
請求項4に記載のテラヘルツ分光装置。
【請求項6】
上記フレネルロムプリズムは、該フレネルロムプリズム内での全反射回数が4回となるものである、
請求項4に記載のテラヘルツ分光装置。
【請求項7】
上記フレネルロムプリズムは、テラヘルツ波帯に対して透明となる誘電体を用いたものである、
請求項4に記載のテラヘルツ分光装置。
【請求項8】
上記フレネルロムプリズムは、該フレネルロムプリズム内での全反射面が鏡面研磨され、入射面及び出射面が砂面とされる、
請求項4に記載のテラヘルツ分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−300108(P2009−300108A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152046(P2008−152046)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】