説明

テラヘルツ波集積回路およびこれを用いたテラヘルツ吸収特性計測装置

【課題】本発明は、THz波光源と半導体集積回路とを基板に集積化して、室温動作のコンパクトなテラヘルツ波集積回路を提供すること、さらにこれを用いて試料からのTHz帯での物理・化学的な情報を取得できるようにする。
【解決手段】
半導体集積回路を有する基板に、室温動作のテラヘルツ波発光素子を備え、これからのテラヘルツ波と半導体集積回路とを結合させ、テラヘルツ波検出器を搭載してあり、さらに、必要に応じて、ミキサ、THz周波数動作可能なトランジスタをも搭載して、コンパクトなテラヘルツ波集積回路とすると共に、外部に発光したTHz波を取り出し、被計測用試料に照射して、そこから戻るTHz信号を基板に戻して信号処理をする。必要に応じて画像化できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテラヘルツ波で動作する集積回路とその応用に関する。従来、おおよそ0.1THzから10THz程度の電磁波をテラヘルツ波と呼んでおり、本発明は、主に室温で動作するテラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波を利用する集積回路と従来の半導体集積回路とを同一基板に集積化するテラヘルツ波集積回路と、これを利用して生体試料など試料のテラヘルツ(THz)周波数帯での吸収特性などを計測する装置への応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波(THz波)は、従来のマイクロ波領域の電磁波としては、周波数が高すぎ(波長が短すぎ)、また、光の周波数から見れば周波数が低く(波長が長い)、従来の技術では、取り扱いが困難であった。最近、テラヘルツ波(THz波)領域で動作するトランジスタ(特に静電誘導型トランジスタなど)が提案されている(非特許文献1)。また、従来、シリコンチップの上に光導波路を形成し、位相変調器や光検出器をシリコンチップに組み込んだサニャック効果による位相変位を測定することによって回転速度を感知する光ファイバジャイロスコープに使用する光集積回路があった(特許文献1)。また、従来、半導体基板上に形成された化合物半導体からなるコア層およびクラッド層を少なくとも具備し、レーザ、光増幅器、光導波路、光変調器、光スイッチおよび光検出器からなる群から選択された少なくとも2種を具備している半導体光素子があった(特許文献2)。本発明者は、先に、半導体基板に、少なくとも1つのpn接合からの不純物を介したテラヘルツ波(遠赤外線)放射デバイスを発明し(特許文献3)、さらに、pn接合を構成するp型またはn型の導電型のうちの少なくとも一方の導電型領域には活性領域を備え、この活性領域には、この導電型を形成するための不純物Aと、他方の導電型になる不純物Bを前記不純物Aよりも少なく、かつ縮退しない程度に添加してあり、pn接合に順方向バイアスを印加したときに、活性領域に注入された少数キャリアが不純物Bの不純物準位を介して再結合するときに放射する電磁波がテラヘルツ域になるようにしたことを特徴とする室温で動作するテラヘルツ波発生ダイオードを提案し(特許文献4)、また、その後、さらに、深い準位を有した半導体でのテラヘルツ波発生ダイオード(特許文献5)を発明した。また、半導体チップを光励起してテラヘルツ波を放射させるようにした光励起型のテラヘルツ波放射素子において、光励起用光源を備えていること、光励起用光源の光エネルギーは、半導体チップのバンドギャップエネルギー以上であること、この半導体チップは活性化エネルギーEAの浅い不純物準位を有し、かつ室温状態でテラヘルツ波の放射ができるようにした材料であること、テラヘルツ波は、半導体チップの伝導帯もしくは価電子帯に、これらのバンド間遷移に基づき光励起されたキャリアが励起準位を含む浅い不純物準位を通して再結合する時に放射されるテラヘルツ波であること、を特徴とする室温動作のテラヘルツ波放射素子を提案した(特願2008-102962)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−517779公報
【特許文献2】特開平8−288583公報
【特許文献3】特開昭56−135993公報
【特許文献4】特開2005−322733公報
【特許文献5】特開2007−129043公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Nishizawa, Proc. Of 1979International Conf. on Solid State Devices, pp.3-11, Aug. 1979, Tokyo, Japan
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
テラヘルツ波(THz波)は、マイクロ波と赤外線を含む光との中間領域の周波数帯であり、従来、これらのマイクロ波と光では、検出できなかった物質等の検出や容器の中身を画像又は信号として取り出すことができるなどの利点があるが、その光源の出力も小さく、特に室温でのテラヘルツ光源の超小型化が困難であった。また、マイクロ波と光との中間周波数域であるために、検出器や変調器および導波路の開発が遅れていた。本発明は、シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)などの結晶を利用したpn接合ダイオードなどの電流注入型や光励起によるフォトルミネセンスのTHz波光源は、極めて小型にできることから、光集積回路のように、単一基板や複合基板にテラヘルツ波集積回路を形成すること、及びこのテラヘルツ波集積回路を試料からのTHz帯での物理・化学的な情報を取得できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わるテラヘルツ波集積回路は、半導体集積回路を有する基板に、電磁波放射がテラヘルツ波領域であるテラヘルツ波発光素子を備え、このテラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波と前記半導体集積回路とを結合させると共に、テラヘルツ波の検出器を搭載したことを特徴とするものである。
【0007】
最近、テラヘルツ領域で動作するトランジスタ(テラヘルツ用トランジスタ)(静電誘導型トランジスタなど)が開発された。このトランジスタを用いれば、テラヘルツ波(THz波)の増幅、変調、スイッチング、ミキシングなどが可能になった。THz波は、純粋なシリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)、ガリウム砒素(GaAs)などの一般の半導体結晶を透過するし、屈折率が大きいので、空気中の伝搬よりもこれらの結晶中を通過または導波した方が良い。このことは、THz波の導波路として作用させることができることを意味する。
【0008】
本発明のテラヘルツ波集積回路では、従来のトランジスタ、ダイオードや抵抗などの素子を集積化する集積回路とTHz波を導波する導波路、及び半導体の浅い準位を介しての発光、非線形材料による赤外線の差周波THz発生、パラメトリックTHz発生などのテラヘルツ波発光素子とを同一基板に集積化するもので、上述のシリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)、ガリウム砒素(GaAs)などの一般の半導体結晶基板や半導体以外の基板に半導体層を形成した基板、更に、これらを二次元又は三次元的に複合した基板を用いることができるものである。
【0009】
本発明のテラヘルツ波集積回路では、同一基板に上述のテラヘルツ波発光素子とTHzで動作できるテラヘルツ波の検出器ともなり得るトランジスタ(テラヘルツ用トランジスタ)やダイオード(ショットキダイオードなど)と更に各種のTHz域動作可能な機能素子や装置の集積化によりコンパクトなデバイスを製作して、情報通信用や画像処理用デバイス、分析機器、更には、セキュリティ応用などとして利用するものである。
【0010】
本発明の請求項2に係わるテラヘルツ波集積回路は、テラヘルツ波発光素子として、伝導帯または価電子帯と励起準位を含む不純物準位との間、該不純物の励起準位間もしくは該不純物の励起準位と基底状態間でのエネルギー間隔に対応する電磁波放射がテラヘルツ波領域であるようにした場合である。
【0011】
ここでは、特に、室温で動作し、特殊な構造にする必要がなく、一般の半導体として用いられているSi、Ge、GaAsやGaPの結晶に浅い不純物(エネルギー的に浅い)であるドナやアクセプタを添加したものでよく、これらの半導体の浅い準位を介してのTHz発光をさせたテラヘルツ波発光素子を用いた場合である。
【0012】
本発明の請求項3に係わるテラヘルツ波集積回路は、テラヘルツ波発光素子として、電流注入型によるテラヘルツ波発光を利用した場合である。
【0013】
本願発明者は、先にテラヘルツ波発生ダイオードを発明(特開2005−322733公報)し、そこでは、浅い不純物準位を経由して、注入された電子と正孔がバンド間で再結合するときに浅い不純物準位のエネルギーに対応して発光するテラヘルツ波発光素子がかのうであることを提案した。本発明は、このような電流注入型によるテラヘルツ波発光利用した場合のテラヘルツ波集積回路である。
【0014】
信号として電流注入変化を作り、テラヘルツ波発光の強度変化に変換して、更にキャリア(搬送波)としての光を変調することもできるし、むしろ、テラヘルツ波発光を一定の強度に維持し、マイクロ波の信号を用いて変調することもできる。
【0015】
本発明の請求項4に係わるテラヘルツ波集積回路は、テラヘルツ波発光素子が、フォトルミネセンスによるテラヘルツ波発光を利用した場合である。
【0016】
本願発明者は、先に半導体チップを光励起してテラヘルツ波を放射させるようにした光励起型のテラヘルツ波放射素子を発明(特願2008-102962)し、そこでは、浅い不純物準位を経由して、光励起により生成した電子と正孔がバンド間で再結合するときに浅い不純物準位のエネルギーに対応してフォトルミネセンスとして発光するテラヘルツ波発光素子が可能であることを提案した。本発明は、このようなフォトルミネセンスによるテラヘルツ波発光を利用した場合のテラヘルツ波集積回路である。
【0017】
光励起用光源としては、テラヘルツ波放射素子としての半導体チップのバンドギャップよりも少し大きいフォトンエネルギーのレーザ光(バンドギャップ光より少し短い波長の励起光)やLED光を用いる方が、半導体チップの深くまで励起光が到達すると共に、吸収係数も大きいので、効率よく励起できる。例えば、半導体チップとして、シリコン(Si)単結晶を用いた場合、励起光として、1.06μm程度のレーザ光が良い。また、この場合、ドナとしてリン(P)を用いることができ、5−6THz程度のテラヘルツ波放が得られている。
【0018】
例えば、信号として励起光源である赤外線レーザ光をニオブ酸リチウム結晶などの電気光学(EO)結晶を利用して、テラヘルツ波発光の強度変化に変換して、更にキャリア(搬送波)としての光を変調することもできるし、むしろ、テラヘルツ波発光を一定の強度に維持し、マイクロ波の信号を用いて変調することもできる。
【0019】
励起光源を前記基板に形成しても良いし、前記基板の外部に別に設け、励起光源からの励起光をテラヘルツ波放射素子の発光部(フォトルミネセンス発光部)に照射できるようにする。この場合、前記基板に励起光源からの光を導波する導波路を設けておき、テラヘルツ波放射素子の発光部に照射できるようにしても良い。
【0020】
さらに、この励起光源からの光を光導波路の分岐を設けて、その一部の光を分岐して、発光したテラヘルツ波(THz波)とミキシングするための光キャリア(搬送波)として利用することもできる。この場合、薄い導波路に励起光を結合する観点からも、また、光キャリアとしてコヒーレントである方が良いという観点からも、レーザ光が好適であるので、前記基板がシリコン(Si)単結晶で構成され、THz発光部の材料も単結晶シリコン(Si)である場合は、励起光源として赤外線レーザ光を用いることが望ましい。
【0021】
本発明の請求項5に係わるテラヘルツ波集積回路は、半導体集積回路を有する基板に、光回路が備えてあり、別に設けた光源からの光が前記光回路に導入されて、この導波光とテラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波とのミキシングによる光変調ができる光変調部を前記基板に備えた場合である。
【0022】
テラヘルツ波よりも周波数が高い光を、半導体集積回路に集積化してある光回路に導き、半導体集積回路の基板に設けてあるテラヘルツ波発光素子から発光させたテラヘルツ波で変調するようにした場合である。例えば、半導体集積回路を有する基板としてシリコン(Si)単結晶基板を利用した場合は、可視光線や波長1.1マイクロメートル(μm)以下の光のようなSiのバンドギャップエネルギーを超える周波数の光は、Siの酸化物であるSiO(石英)をこの光は導波光として利用できるが、テラヘルツ光は、吸収されてしまうので、テラヘルツ波の光導波路としては使用できない。逆に、テラヘルツ波は、高抵抗率のSi基板を導波路として利用できるが、可視光線などは導波路として利用できない。このように、テラヘルツ波用導波路と光回路用導波路とは、材質が異なるので、容易に分離することができると共に、光とテラヘルツ波とをミキシングする光変調部は、これらの会合部で形成することができる。
【0023】
光とテラヘルツ波とをミキシングする光変調部は、光とテラヘルツ波との少なくとも会合部を非線形光学材料として、光とテラヘルツ波との和又は差の周波数の光が発生するようにする。非線形光学材料として人工的結晶である量子井戸構造を用いることもできるし、単結晶でも、有機と無機の複屈折性を有する結晶が最適である。もちろん、これらの光に対して透明である方が良い。
【0024】
本発明の請求項6に係わるテラヘルツ波集積回路は、光変調部からの変調光を検出する光検出部を、前記基板に集積化して備えた場合である。
【0025】
ここでは、テラヘルツ波が信号で、赤外線も含む光をキャリア(搬送波)として用いる場合である。そして、光を受光する素子は、フォトダイオードなど多くあるが、信号であるテラヘルツ波をここから取り出す(出力させる)必要があることから、所謂、普通のフォトダイオードを用いても意味がない。テラヘルツ波と光の変調方式により光変調部の動作が異なるが、例えば、強度(振幅)変調の場合は、光検出部で電子・正孔対の発生量に変換して、テラヘルツ波の周波数での信号に対応して発生した電子または正孔を直接、高速にテラヘルツ(THz)トランジスタのゲートの供給できるようにして、THzトランジスタを動作させるようにすると良い。
【0026】
位相変調であっても強度(振幅)変調に変換して上述のようにTHzトランジスタを利用することができる。
【0027】
もちろん、THz波で変調された導波光を、もう一度、非線形光学材料に導入し、信号であるTHz波を分離することもできる。更に、このTHz波がコヒーレントなTHz波の場合には、これをTHzトランジスタの入力(ゲート)に導き増幅することも可能であるが、別に設けた信号のTHz波に極めて近い周波数の中間周波(基準周波数)を発生させておき、この周波数との非線形材料で差周波数を発生させて、この差周波数が例えば、ギガヘルツ(GHz)帯であるマイクロ波であるように周波数逓減すれば、容易にトランジスタで増幅できるようにすることができる。基準周波数には、非線形光学材料の複屈折性材料を用いたパラメトリック発生などでTHz波を発生させることもできる。
【0028】
本発明の請求項7に係わるテラヘルツ波集積回路は、テラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波を、別に設けたマイクロ波発生器で変調できるようにした場合である。
【0029】
ここでは、マイクロ波が信号であり、テラヘルツ波をキャリア(搬送波)として用いる場合である。マイクロ波とテラヘルツ波との変調方式により変調部の動作が異なるが、テラヘルツ波のカットフィルタを用いたり、非線形素子を通して、信号であるマイクロ波成分のみ取出すようにするとよい。取出されたマイクロ波成分は、高速トランジスタで信号増幅することができる。この場合、テラヘルツ波の上述のような単結晶の薄膜などの基板に形成した導波路を用いて、信号を含むテラヘルツ波を導波することができる。
【0030】
本発明の請求項8に係わるテラヘルツ波集積回路は、変調されたテラヘルツ(THz)波を検出するテラヘルツ波検出器を前記基板に備えた場合である。
【0031】
キャリア(搬送波)としてのTHz波には、マイクロ波の信号が乗っているので、テラヘルツ(THz)波を検出するテラヘルツ波検出器では、検出後、マイクロ波の信号を取出す必要がある。このためには、単にTHz波を検出するというのではなく、マイクロ波に応答する高速受信が可能な検出器で無ければならない。従って、熱型の検出器ではなく、量子型の検出器、プラズモンとの結合や非線形性材料を利用して、マイクロ波信号を取出すようにすると良い。
【0032】
本発明の請求項9に係わるテラヘルツ波集積回路は、テラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波を、外部に出力させ、この出力を試料に照射して、その応答のテラヘルツ波信号を再度、テラヘルツ波集積回路に戻すようして、前記試料のテラヘルツ波情報を得ることができるようにした場合である。
【0033】
テラヘルツ波集積回路中のテラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波を、外部に出力させることにより、THz周波数帯での画像情報は、可視域とは全く異なった場合が多く、種々の応用が期待できる。外部に出力する箇所を、アレー化することにより、同時に2次元画像を取得することもできる。
【0034】
本発明の請求項10に係わるテラヘルツ吸収特性計測装置は、請求項9記載のテラヘルツ波集積回路を用い、前記試料からの透過もしくは反射テラヘルツ光を検出して、テラヘルツ波域での吸収特性から前記試料を分析できるようにしたことを特徴とするものである。
【0035】
テラヘルツ波は、蛋白質やDNAなどの生体物質に特定の波長で吸収や透過を生じるので、試料の分析や画像化に適している。テラヘルツ波集積回路から放射されるテラヘルツ波を被分析試料に照射して、その試料からのテラヘルツ波の透過波や反射波をテラヘルツ波集積回路に戻して、データ処理、メモリ機能と組み合わせて画像処理などを行うようにするものである。必要に応じて、ブロードなテラヘルツ波発光の場合は、テラヘルツ波の特定の波長を選択できるフィルタ、干渉計や回折格子を設けると良い。
【発明の効果】
【0036】
半導体集積回路を有する基板に、テラヘルツ波発光素子やテラヘルツ波の導波路や変調部を設けた固体一体型のデバイスとなるので、コンパクトで極めて高速の信号処理回路が実現できる。
【0037】
半導体集積回路を有する基板として、例えば、各層ごとに光回路の層、変調回路部、メモリ部、演算部、THz波や光の検出部など機能が異なる3次元的な立体回路が構築できる複合基板が利用できるので、テラヘルツ波集積回路としてコンパクトなシステムが構成できる。
【0038】
レーザ光などの光源を、同一基板に形成することもできるが、外部から導入することができるので、大きなパワーのレーザ光が利用できる。 従って、例え、弱いテラヘルツ波信号であっても、大きなテラヘルツ波信号を得ることもできるという利点がある。
【0039】
同一基板に、信号処理用のTHzトランジスタが形成できるので、例えば、導波されたTHz信号を含む光で発生した電子・正孔のキャリアを直接、THzトランジスタのゲートに導くこともできる。従って、高効率でTHzトランジスタを動作できるという利点がある。
【0040】
テラヘルツ波発光素子からのTHz波の発光をフォトルミネセンスによる場合は、励起光源が必要であり、この励起光源の一部を発光したTHz波とミキシングする光キャリア(搬送波)としても利用できると言う利点がある。
【0041】
テラヘルツ波発光素子からのTHz波の発光を外部に取り出し、試料に照射後、再びテラヘルツ波集積回路に戻して、信号処理をすることにより、生体物質などの試料からのTHz周波数領域の情報を容易に取り出すことができるので、コンパクトなTHz波画像を得ることができる。また、THz波の発光を外部に取り出しと受光をアレー化することにより、簡単に2次元、または、必要に応じて3次元画像を得る事ができると言う利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明のテラヘルツ波集積回路をテラヘルツ吸収特性計測装置に応用した一実施例を示す平面外略図である。(実施例1)
【図2】図1のX−X’線における横断面概略図である。(実施例1)
【図3】本発明のテラヘルツ波集積回路をテラヘルツ吸収特性計測装置に応用した他の一実施例を示す平面外略図である。(実施例2)
【図4】図3のX−X’線における横断面概略図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明のテラヘルツ波集積回路は、半導体集積回路を有する基板として、例えば、シリコン(Si)単結晶基板を利用し、入力信号の増幅、信号処理、演算、メモリ機能などを有する高周波用の集積回路を搭載しておき、光やテラヘルツ波の変調や検波、更には、マイクロ波の発生の制御、データの保管、テラヘルツ用トランジスタの駆動と制御などを行わせる。基板には、光回路を形成する領域の層や演算やメモリ機能を有する層、テラヘルツ波が伝搬する層など多層化することも良い。テラヘルツ波は、蛋白質やDNAなどの生体物質に特定の波長で吸収や透過を生じるので、試料の分析や画像化に適している。ここでは、このような実施に好適な形態の例を取り上げる。このシリコン(Si)基板を用いて製作した場合の図面を参照して、実施例に基づきその概要を説明する。
【実施例1】
【0044】
図1は、本発明のテラヘルツ波集積回路を生体組織などの試料700(図2参照)を分析や組織画像の表示を行うためのテラヘルツ吸収特性計測装置に応用した一実施例を示す平面外略図である。図2は、図1に示した本発明のテラヘルツ波集積回路と被分析用の試料700のテラヘルツ波(THz波)透過光を検出するようにしたときのX−X’線における横断面概略図である。
【0045】
本来、試料700(図2参照)を分析や画像の表示を行うためのTHz波のテラヘルツ吸収特性計測装置では、最低、テラヘルツ波発光素子2とこの集光部であるレンズ550及びテラヘルツ(THz)波検出器があれば足りるが、本システムでは、励起光源100を用いたTHz波のフォトルミネセンス光をテラヘルツ波発光素子2として用いると共に、赤外線レーザダイオードなどの励起光源100からの赤外線の励起光110の一部を分岐して光キャリア(搬送波)として利用している。そして、ミキサ30を用いて、試料700を透過した信号としてのテラヘルツ波(THz波)と混合させて、光キャリア(搬送波)のTHz波による変調光35を、例えば、ショットキダイオードなどのテラヘルツ波検出器40としての光検出部45で検出して、そのときの光検出部45で発生したTHz波の信号電圧を直接、静電誘導型トランジスタなどのテラヘルツ用トランジスタ15で増幅して検出するようにした場合である。なお、この実施例では、更に、励起光110をニオブ酸リチュウムなどの電気光学材料から成る光変調部20を通して強度変調できるようにしてあり、テラヘルツ波発光素子2での極めて高速に応答するTHz波のフォトルミネセンス光が強度変調できるようにしている。このときの光変調部20を駆動するのに、同一基板に備えてある半導体集積回路10で信号処理をしてトランジスタ13を駆動したり、直接、信号入力端子50に所定の信号を加えることも出来るようにしている。また、このとき、例えば、トランジスタ13をテラヘルツ用トランジスタ15に換えて、THzで応答できるようにしておき、テラヘルツ波発光素子2の出力の一部を信号入力端子50に加えるようにして光変調部20を駆動して、位相シフターをトランジスタ13に組み込むことにより、所定のTHz帯もしくは、それに近い周波数での発振器を構成することもできる。このとき発生する所定の周波数で断続するフォトルミネセンス光としてのTHz波を図2に示すレンズ550を通して外部に放射させることもできる。このように、本実施例のテラヘルツ波集積回路は、種々の機能を持たせることができるようにしたものである。
【0046】
本実施例1のテラヘルツ波集積回路は、THz波のフォトルミネセンス光を放出するテラヘルツ波発光素子2への励起光110の強度を変調できるように、光変調部20を有しており、これを制御するためのトランジスタ13、更にこのときの信号1を処理するための半導体集積回路10を有しており、また、テラヘルツ波とレーザ光などの光キャリア(搬送波)とを混合するミキサ30を経由した後、光検出部45で光キャリア(搬送波)を検出して、そこに含まれている信号2であるテラヘルツ波成分と光変調部20からの信号1の成分を、光検出部45に直結接続してあるテラヘルツ用トランジスタ15で検出できるようにしている。その出力信号をそこに直結した半導体集積回路10で信号処理をして、演算とメモリ回路を利用して、最終的には、出力端子70から出力を取り出すようにしている。また、必要に応じて、出力端子70には、アンテナを取り付けて無線で送信することもできるものである。このように本実施例のテラヘルツ波集積回路は、種々のテラヘルツ波の応用に利用できるテラヘルツ波集積回路であり、これを本実施例では、テラヘルツ吸収特性計測装置に応用したものである。
【0047】
図2に示すように、本実施例では、生体組織などの試料700を分析や組織画像の表示を行うためのテラヘルツ吸収特性計測装置のために、試料700とその裏に金属板などのTHzのミラー500を配置してあり、この試料700とミラー500とのセットを、XYステージ(2次元移動ステージ)に取り付けるなど、スキャンすることにより、2次元画像を得ることができる。
【0048】
本実施例では、試料700とミラー500とのセットを用いたが、ミラー500を用いないと、THzの反射光を受光し、その情報を元にして吸収とは異なった画像を得ることもできる。
【0049】
本実施例では、THz波の発光を外部への放出とそのTHz波信号の受光の光学系を単一のワンセットにしている例であるが、これらのセットをアレー化することにより、スキャンを節約して簡単に2次元、または、必要に応じて3次元画像を得る事ができる。
【0050】
また、本実施例では、THzの波長選択機能を有しない場合であるが、テラヘルツ波発光素子2の後の光学系の中に、波長選択機能であるフィルタや回折格子などをコンパクトに挿入することにより波長選択が達成される。
【実施例2】
【0051】
図3は、前述の実施例1とほぼ同様で、本発明のテラヘルツ波集積回路を生体組織などの試料700を分析や組織画像の表示を行うためのテラヘルツ吸収特性計測装置に応用した他の一実施例を示す平面外略図である。図4は、図3に示した本発明のテラヘルツ波集積回路と被分析用の試料700のテラヘルツ波(THz波)透過光を検出するようにしたときのX-X’線に沿う横断面概略図である。本実施例と前述の実施例1との大きな違いの一つは、実施例1では、THz波の発光の室温動作のテラヘルツ波発光素子2として、THz波フォトルミネセンスを利用した場合であり、そのために外部から赤外線などの励起光源100を設ける必要があり、そのための光導波路210を基板1に具備する必要があった。しかし、本実施例2では、室温動作のテラヘルツ波発光素子2として、浅いドナやアクセプタを含むpn接合ダイオードを用いた場合であり、注入された電子と正孔が再結合する時に、これらのドナやアクセプタを介して再結合し、そのときにこれらの準位間遷移などに対応したTHz光が発光する原理を利用したものである。したがって、励起光源100を設ける必要がなく、更に、これらの光を導波する導波路210が不必要となった場合である。次の大きな違いは、テラヘルツ波発光素子2からのTHz光を、マイクロ波発生器400からのマイクロ波信号で変調できるようにしたことである。このために、ミキサ30もTHz波とマイクロ波との混合を意図したものであり、これに合う非線形素子を用いる必要がある。
【0052】
このように、励起光110が不必要になったので、本実施例では、単純な構成になり、ガンダイオードなどのマイクロ波発生器やタンネットによるマイクロ波発生器などをシリコン(Si)などの基板1に搭載できるようにしている。もちろん、ガンダイオードは、GaAs結晶などの単結晶が必要であるが、最近の技術により、Si単結晶上にも成長できるようになって来ている。
【0053】
テラヘルツ波発光素子2からのTHz波発光と外部取り出し以降の動作は、実施例1とほぼ同様であるので、説明は省略する。本実施例では、波長選択機能として、干渉フィルタなどのフィルタ560をシリコンなどのレンズ550の外側に取り付けて、必要なTHz波長が選択できるようにしている。このフィルタ560により、その波長で見た試料700の透過特性が検出されて、出力端子70から取り出すことができる。
【0054】
前記実施例でも述べたように、本実施例の図3および図4では、THz波の発光を外部に取り出しと受光の光学系を単一のセットにしている例を示しているが、これらのセットをアレー化することにより、簡単に2次元、または、必要に応じて3次元画像を得る事ができる。したがって、画像を得るためのスキャンが単純になる。
【0055】
本発明のテラヘルツ波集積回路およびこれを用いたテラヘルツ吸収特性計測装置は、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、種々の変形がありうる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
最近、THz波が、がん細胞の識別、藥物の識別、封筒などの中身の検出などが可能であることが判明し、コンパクトなTHz波画像処理装置が求められていた。また、情報通信技術の発達に伴い、より高速な情報処理が求められており、THz周波数帯での伝送信号が求められて。来ているこのような中にあって、高速なTHz周波数で動作するトランジスタが出現し始め、これを搭載して、更に本発明者によるTHz波が室温でSiやGeなどからコンパクトで容易に発光させることが可能になったので、単一の基板上に集積化できるようになったもので、今後、本発明のテラヘルツ波集積回路およびその応用が重要な役割を果たすと考えている。
【符号の説明】
【0057】
1 基板
2 テラヘルツ波発光素子
10 半導体集積回路
13 トランジスタ
15 テラヘルツ用トランジスタ
20 光変調部
30 ミキサ
35 変調光
40 テラヘルツ波検出器
45 光検出部
50 信号入力端子
70 出力端子
100 励起光源
110 励起光
200 光回路
210 光導波路
300 テラヘルツ(THz)波導波路
310 テラヘルツ(THz)光
400 マイクロ波発生器
500 ミラー
510 半透明ミラー
550 レンズ
560 フィルタ
600 不活性膜
700 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路を有する基板に、電磁波放射がテラヘルツ波領域であるテラヘルツ波発光素子を備え、該テラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波と前記半導体集積回路とを結合させると共に、テラヘルツ波の検出器を搭載したことを特徴とするテラヘルツ波集積回路。
【請求項2】
テラヘルツ波発光素子は、伝導帯または価電子帯と励起準位を含む不純物準位との間、該不純物の励起準位間もしくは該不純物の励起準位と基底状態間でのエネルギー間隔に対応する電磁波放射がテラヘルツ波領域である請求項1記載のテラヘルツ波集積回路。
【請求項3】
テラヘルツ波発光素子は、電流注入型によるテラヘルツ波発光を利用した請求項1もしくは2のいずれかに記載のテラヘルツ波集積回路。
【請求項4】
テラヘルツ波発光素子は、フォトルミネセンスによるテラヘルツ波発光を利用した請求項1もしくは2のいずれかに記載のテラヘルツ波集積回路。
【請求項5】
半導体集積回路を有する基板には、光回路が備えてあり、別に設けた光源からの光が前記光回路に導入されて、この導波光とテラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波とのミキシングによる光変調ができる光変調部を前記基板に備えた請求項1から4のいずれかに記載のテラヘルツ波集積回路。
【請求項6】
光変調部からの変調光を検出する光検出部を、前記基板に集積化して備えた請求項5記載のテラヘルツ波集積回路。
【請求項7】
テラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波を、別に設けたマイクロ波発生器で変調できるようにした請求項1から4のいずれかに記載のテラヘルツ波集積回路。
【請求項8】
変調されたテラヘルツ波を検出する検出部を前記基板に備えた請求項7記載のテラヘルツ波集積回路。
【請求項9】
テラヘルツ波発光素子からのテラヘルツ波を、外部に出力させ、該出力を試料に照射して、その応答のテラヘルツ波信号を再度、テラヘルツ波集積回路に戻すようして、前記試料のテラヘルツ波情報を得ることができるようにした請求項1から8のいずれかに記載のテラヘルツ波集積回路。
【請求項10】
請求項9記載のテラヘルツ波集積回路を用い、前記試料からの透過もしくは反射テラヘルツ光を検出して、テラヘルツ波域での吸収特性から前記試料を分析できるようにしたことを特徴とするテラヘルツ吸収特性計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−223843(P2010−223843A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73053(P2009−73053)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(391025741)
【出願人】(591172504)
【出願人】(506060708)株式会社テラヘルツ研究所 (10)
【Fターム(参考)】