説明

テンター装置及び延伸フィルムの製造方法

【課題】延伸に供するポリオレフィン樹脂フィルムから延伸時の加熱により揮発した成分が内部表面に付着して液状物を形成しても、この液状物が粘性の高い液状物に変質することを防止することのできるテンター装置を提供し、さらにこのテンター装置を用いて高い収率で延伸フィルムを製造する延伸フィルムの製造方法をも提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂フィルムの表面に熱風吹き出し口から熱風を吹き付けつつ前記ポリオレフィン樹脂フィルムを延伸するテンター装置において、前記ポリオレフィン樹脂フィルムの上方に位置する装置の内部表面の内の少なくとも前記熱風吹き出し口周辺の表面を亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂の組成物を膜化して得たポリオレフィン樹脂フィルムを加熱延伸して膜特性に優れた延伸フィルムを得るテンター装置及び該テンター装置を用いた延伸フィルムの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、延伸時の加熱温度により揮発する成分を不可避的に含むポリオレフィン樹脂フィルムを延伸するのに好適なテンター装置及び該テンター装置を用いた延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂フィルムをテンター装置を用いて横方向に延伸し、その後、ヒートセット(アニーリング処理)し、更に冷却し、必要により表面をコロナ放電処理することによって、合成紙等を製造することは、公知である(例えば、特許文献1)。
【0003】
周知のように、ポリオレフィン樹脂フィルムを延伸するテンター装置は、通常、フィルムの移動方向に配列した4種の室を有する装置である。すなわち、テンター装置は、フィルムの予熱を行う予熱室、予熱したフィルムの延伸を行う延伸室、延伸したフィルムをアニーリングする熱処理室、アニーリングしたフィルムを冷却する冷却室が連続して配置された構造を有する。なお、最後の冷却室は、他の部屋と別体の冷却装置として設置される場合もある。未延伸フィルムは、連続的に前記4種の室を順次に通過させられて、所望の延伸率へ延伸される。前記4種の室には、全室を貫通する一組のレールが布設されている。この一組のレールはそれぞれ無限軌道を走行するチェーンから構成され、これら一組のレールは進行方向に任意の角度で徐々に拡幅できるように構成されている。この一組のレールの各チェーンにはフィルム側端をクリップするクリップ部が取り付けられている。前記一組のレールとそれに取り付けられているクリップ部とを有する機構はテンターと呼称されている。このテンターのクリップ部に未延伸フィルムの側端を把持し、クリップ部を固定したチェーンを所望の角度で拡幅されたレール軌道に沿って移動させることにより、フィルムは、予熱室から延伸室へと移動されるに伴って移動方向に垂直な方向に、あるいは移動方向および移動方向に垂直な2方向に延伸される。各室には、それぞれ温度調整された空気をフィルム表面に吹き付ける吹き付け口を有するプレナムダクトがフィルムの上方および下方に配置されている。前記予熱室、延伸室および熱処理室では、プレナムダクトには熱風が供給され、冷却室のプレナムダクトには冷風が供給される。
【0004】
上記テンター装置により延伸するポリオレフィン樹脂フィルムには、通常、各種添加剤が配合されており、この添加剤には、テンター装置内の延伸加熱温度(ポリオレフィン樹脂の融点±2℃)にて揮発する成分が不可避的に含まれている。したがって、運転中のテンター装置内の雰囲気には、揮発成分が比較的高い濃度で含まれることになる。かかるテンター装置内の雰囲気中の揮発成分が、テンター装置の内部表面、すなわち、装置内部の壁部、熱風吹き出し口、熱風循環用の吸引ダクト、各種配管等の表面に付着し凝縮して液状物となる。この液状物の蓄積量が多くなると、液滴となって、テンター装置内を走行中のフィルム上に落下する。この液滴が落下したフィルム面は、汚染されて不良となるので、延伸フィルム製造の歩留まりが悪くなる。
【0005】
上記液滴発生および落下に対処するために、従来、幾つかの工夫がなされている。例えば、特許文献2には、加熱ゾーン(熱処理室)と冷却ゾーン(冷却室)との間に中間室を設け、この中間室の仕切壁の下部(フィルムの上方)に落下液滴の受け皿を設けるとともに、中間室の上方に抜気装置を設けた構成のテンター装置が開示されている。
【0006】
特許文献3には、テンター装置内の雰囲気ガスを吸引する吸引装置と、該吸引装置で吸引された前記雰囲気ガスを通過させる処理ダクトと、該処理ダクト内に配設され慣性衝突作用により前記雰囲気ガス中の揮発成分(揮発性飛散物)を捕集する複数の捕集板とを備えた揮発性飛散物除去装置をテンター装置に付設する構成が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特公昭46−40794号公報
【特許文献2】特開平09−109251号公報
【特許文献3】特開2002−219747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、前記テンター装置における液滴形成及び落下に伴って延伸フィルムが汚染される問題点について検討したところ、上記従来の技術では、解消することができない点があることを確認するに到った。
【0009】
テンター装置の内部表面に揮発成分が付着し、凝集し、落下する比較的粘度の低い液滴ばかりでなく、長期的には、粘度の高い液滴が落下する場合がしばしば発生している。フィルム上に付着した粘度の高い液滴は、フィルムが加熱ゾーンにある間は、かろうじて液状であるが、フィルムが冷却されると、それに伴って固化する。このように、フィルム上に落下した粘度の高い液滴は、粘度が高いため嵩高なままに留まり、その後、固化する。さらに、上記テンター装置の内部表面に付着した液状物は、粘着性の固形状物に変質し、落下する場合もある。このフィルム上の固化付着物は、高さが5mmにも達する場合がある。
【0010】
落下する液滴が低粘度の液状物である場合は、その落下部位のみの汚染で済むが、液滴が上述のように粘度の高い液滴となって落下する場合や粘着性の固形状物が落下する場合、その落下部位には嵩高な固化付着物が形成され、この固化付着物のあるフィルムが紙管に巻き取られると、巻面に凹凸が生じて外観が悪くなるだけでなく、他の汚染されていない部分にまで機械的なダメージを与える。また、延伸後のフィルムにコロナ処理等の後処理を施すために、巻き取りロールから送り出したフィルムを送りロール間を通す時点で、前記固化付着物がある部分が通らなくなることがあり、結果として延伸フィルムを後工程にかけることができなくなる。
【0011】
このように、まず、運転中のテンター装置内では、内部の雰囲気中の揮発成分が装置の内部表面に凝集して液状物が形成される。次に、この液状物は、当初、粘度が低いが、時間経過に伴って、粘度の高い液状物に変質する。この粘度の高い液状物が液滴となって延伸中または延伸後のフィルム上に落下し、フィルム上に付着した高粘度の液滴は、嵩高なままに固化する。さらには、前記粘度の高い液状物は、粘性のある固形状物に変質し、これがフィルム上に落下する。フィルム上に嵩高な固化付着物が形成されると、延伸フィルムの製品収率を著しく悪化させることになる。
【0012】
このような、テンター装置内部の雰囲気中の揮発成分がテンター装置の内部表面に凝集し、液状物となり、さらに変質して粘度の高い液状物が形成される現象は、テンター装置の運転が1〜3ヶ月の長期に亘ると、頻繁に発生するようになる。このような揮発成分が凝集して形成された液状物の変質現象は、特にフィルム上方のテンター装置の内部表面の内でも最も低い位置にあり、温度も最も高くなっている熱風吹き出し口周辺の表面部分において、顕著である。
【0013】
このような本発明者らが知見した問題点は、前記従来技術のいずれによっても、適切な解決を与えることができない。
【0014】
前記特許文献2の技術では、加熱ゾーンと冷却ゾーンとの仕切壁に連続する内壁部分に付着した液状物は、仕切壁の下部に設けた受け皿により回収し、延伸フィルムの上に落下することを防止することができる。しかし、テンター装置内で最も粘度の高い液状物が発生しやすい熱風吹き出し口周辺の表面部分からの液滴の落下は、防止することはできない。また、この熱風吹き出し口の下部に、受け皿を設けることは、熱風の吹き出しを妨害することになり、構造的に不可能である。また、曝気装置による雰囲気中の揮発成分の除去効果は、曝気量を高めれば、向上でき、理論的には、液滴発生を防止することが可能であると思われる。しかしながら、曝気量を高めれば高めるほど、テンター装置内の温度制御が不安定になり、物性制御が難しくなることと、エネルギー効率も悪化するので、運転コストなどを勘案すると、現実的には、曝気装置によって液滴の発生を防止することは不可能である。
【0015】
前記特許文献3の技術では、テンター装置内の雰囲気ガスから揮発成分を捕集する揮発性飛散物除去装置をテンター装置に付設することにより、テンター装置内部の表面に液状物が発生するのを防止しようとしているが、揮発性飛散物除去装置の設置コスト及びその運転コストの増大は避けがたく、経済的に実現しがたいという問題点がある。
【0016】
本発明者らは、上記従来の問題点を解決するために、種々実験、検討を重ねたところ、以下のような知見を得るに到った。
【0017】
従来のテンター装置において延伸フィルムの製造収率を大きく低下させている最も大きな原因は、粘度の高い液滴もしくは粘性のある固形状物が延伸中又は延伸後のフィルム表面に落下し、これが嵩高なまま固化して固化付着物となることである。したがって、テンター装置の内部表面に形成された液状物が粘度の高い液状物に変質するのを防止することにより、テンター装置による延伸フィルムの製造収率は大幅に改善できる。粘度が高くなければ、万一液滴が発生し、フィルム上に落下したとしても、フィルムの汚染は、その落下部位のみに止めることができる。つまり、テンター装置内部の表面に揮発成分が凝集し、液状物が発生した場合でも、液状物が変質して粘度の高い液状物にならない方策が極めて重要となる。
【0018】
したがって、本発明の課題は、延伸に供するポリオレフィン樹脂フィルムから延伸時の加熱により揮発した成分が内部表面に付着して液状物を形成しても、この液状物を粘性の高い液状物に変質することを防止することのできるテンター装置を提供することにあり、さらにこのテンター装置を用いて高い収率で延伸フィルムを製造する延伸フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題を解決するために、本発明者らが鋭意実験、検討を重ねたところ、次のような知見を得るに到った。すなわち、テンター装置内部の表面は、従来、亜鉛や銅を含む金属材料から構成されていたが、かかる材料以外の熱的に安定で化学反応性の低い材料、例えば、ステンレス鋼、耐熱性及び耐化学性に優れたプラスチック、セラミックなどを用いてテンター装置内部の表面を構成すれば、発生した液状物は変質せず、経時的に粘度の低いままに止め得ることが判明した。
【0020】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明にかかるテンター装置は、ポリオレフィン樹脂フィルムの表面に熱風吹き出し口から熱風を吹き付けつつ前記ポリオレフィン樹脂フィルムを延伸するテンター装置において、前記ポリオレフィン樹脂フィルムの上方に位置する装置の内部表面の内の少なくとも前記熱風吹き出し口周辺の表面が亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成されていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかる延伸フィルムの製造方法は、ポリオレフィン樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、前記ポリオレフィン樹脂組成物を膜化してポリオレフィン樹脂フィルムを得る膜化工程と、該ポリオレフィン樹脂フィルムを上記本発明のテンター装置を用いて延伸する延伸工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
ポリオレフィン樹脂フィルムには、通常、各種添加物が配合されており、この添加物には、テンター装置の熱風の温度で揮発する成分が含有されている。この揮発性成分がテンター装置の内部表面に凝集して液状物となる。この液状物は、従来のテンター装置では、テンター装置内部の表面を形成している亜鉛又は銅を含む金属材料との接触により経時的に変質し、粘度の高い液状物となる。この粘度の高い液状物が液滴となって延伸中又は延伸後のフィルムの表面に落下すると、その後、嵩高のまま固化する。あるいは、前記粘度の高い液状物がさらに粘性のある固形状物に変質して、これがフィルム上に落下し、付着する。この固化付着物によってテンター装置による延伸フィルムの製造収率が大幅に低下する。
【0023】
これに対して、本発明のテンター装置では、少なくとも熱風吹き出し口周辺の表面が亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成されている。熱風吹き出し口周辺の表面は、テンター装置の内部表面の内で最も液状物が集約しやすく且つ液状物の変質が生じやすい部分である。この部分が亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成されているため、液状物が長期に滞留しても変質して粘度が高くなることがない。すなわち、本発明のテンター装置では、テンター装置内部の表面に形成された液状物が熱風吹き出し口の周辺に集約しても、液状物が粘度の高い液状物に変質することがない。そして、この液状物が、万一、液滴となってフィルム上に落下することがあっても、その液滴は固化することがないので、フィルム汚染領域を最小限に止めることができるとともに他の領域へのダメージを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のテンター装置の特徴は、前述のように、ポリオレフィン樹脂フィルムの上方に位置する装置の内部表面の内の少なくとも前記熱風吹き出し口周辺の表面が亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成されていることにある。また、本発明の延伸フィルムの製造方法の特徴は、延伸時の加熱温度により揮発する成分を不可避的に含むポリオレフィン樹脂フィルムの延伸を本発明のテンター装置を用いて行うことにある。以下、本発明について、さらに詳しく説明する。
【0025】
(テンター装置)
本発明で用いられるテンター装置は、装置の内部表面の少なくとも熱吹き出し口周辺の表面を亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成すること以外、一般的に知られている構成の装置でよい。一般的に知られている構成のテンター装置とは、例えば、図1(平面構成図)及び図2(側面構成図)に概略構成を示すように、ロール状に巻いたオレフィン樹脂フィルム1を巻き戻し機2から巻き戻して、テンター・オーブンと呼称される室3に送り込み、このテンター・オーブン3内でフィルム1を加熱しながら横方向に延伸(一軸延伸)もしくは横方向及び縦方向に延伸(2軸延伸)し、その後フィルム1を冷却装置4により冷却し、得られた延伸フィルムの肉厚な耳部を耳カット装置5により除去した後、巻き取り機6にロール状に巻き取るまでの装置である。
なお、上記フィルムの横方向とは、フィルムの移動方向に垂直な方向であり、縦方向とはフィルムの移動方向である。
また、図1に示す装置では、冷却装置4はテンター・オーブン3と別体として設置されているが、テンター・オーブン3に連接して設置された冷却室として構成される場合もある。
【0026】
図3は、前記テンター・オーブン3の側面図である。この図3に示すように、このテンター・オーブン3は、フィルムの移動方向に配列した3種の室に分割されている。3種の室とは、すなわち、フィルム1の予熱を行う予熱室10、予熱したフィルム1の延伸を加熱しつつ行う延伸室11、延伸したフィルムをアニーリングする熱処理室12であり、図に示すように、熱処理室12を2つ連続して設ける場合もある。
【0027】
未延伸フィルム1は、連続的に前記3種の室を順次に通過させられて、所望の延伸率へ延伸される。前記3種の室には、全室を貫通する一組のレール(不図示)が布設されている。この一組のレールはそれぞれ無限軌道を走行するチェーンから構成され、これら一組のレールは進行方向に任意の角度で徐々に拡幅できるように構成されている。この一組のレールの各チェーンにはフィルム側端をクリップするクリップ装置が取り付けられている。前記一組のレールとそれに取り付けられているクリップ装置とを有する機構はテンターと呼称されている。このテンターのクリップ装置のクリップ部に未延伸フィルム1の側端(耳)を把持し、クリップ装置を固定したチェーンを所望の角度で拡幅されたレール軌道に沿って移動させる。この移動により、フィルムは、予熱室10から延伸室11へと進むに伴って移動方向に垂直な方向に、あるいは移動方向および移動方向に垂直な方向の2方向に延伸される。各室には、それぞれ温度調整された空気をフィルム1の上面に吹き付ける熱風吹き付け口20aを有する上部プレナムダクト20と、フィルム1の下面に吹き付ける熱風吹き付け口21aを有する下部プレナムダクト21が配置されている。前記予熱室10、延伸室11および熱処理室12では、それぞれのプレナムダクト20、21に、それぞれに異なる温度の熱風が供給可能となっている。
【0028】
上記各室の上部プレナムダクト20の上方には、図4に示すように、吸引ダクト22が設けられている。この吸引ダクト22の内部には、不図示の熱源により加熱されるヒーター23と不図示の駆動装置により駆動される吸引ファン24とが設けられており、吸引した室内の雰囲気を所定の温度に温めた後、導管25を介して上部プレナムダクト20と下部プレナムダクト21とに送るようになっている。
【0029】
上記構造のテンター・オーブン3の各室の内部には、先に述べたように、熱風が吹き付けられたフィルム1から揮発成分が揮発して雰囲気中に飛散する。この揮発成分が各室の内部表面に凝集し、液状物が形成されやすい。特に、吸引ダクト22の吸入口周辺を流れる雰囲気中の揮発成分濃度が高くなるので、この吸引ダクト22と、その下に設けられている上部プレナムダクト20の各表面には、揮発成分が凝集しやすく、付着する液状物の量も多くなる。吸引ダクト22の表面に凝縮した液状物は、下方の上部プレナムダクト20に落下する。上部プレナムダクト20の表面に付着した液状物は、上部プレナムダクト20の下面に開口する熱風吹き出し口20a周辺の表面に向かって伝わり流れ、そこに留まる。
【0030】
従来のテンター装置では、上記プレナムダクト20や吸引ダクト22を始めとする各ダクトや、室内の壁部は、加工し易さから亜鉛や銅を含む金属材料から構成されていた。そのため、吸引ダクト22の表面およびプレナムダクト20の表面に付着した液状物は、少しずつ変質しながらプレナムダクト20の下面に開口する熱風吹き出し口20a周辺の表面に向かって流れる。プレナムダクト20の下面に開口する熱風吹き出し口20a周辺の表面に集まった液状物は、加熱下で長時間、亜鉛イオン、銅イオンと接触することになり、さらに変質が進み、粘度の高い液状物となる。この粘度の高い液状物が液滴となって、さらには粘性の高い固形状物となって、下方の延伸中のフィルム上に落下すると、最悪の場合、延伸中のフィルムが切れる場合(延伸切れ)がある。また、延伸切れが生じない場合でも、その後の冷却工程で、フィルム上の粘度の高い液状物あるいは粘性の高い固形状物は嵩高のままに固化するので、フィルムの巻形状を悪くするばかりでなく、固化付着物がある領域以外の他の領域まで損傷させ、製品の収率を大幅に低下させる。
【0031】
これに対して、本発明のテンター装置では、装置の内部表面のうち少なくとも熱風吹き出し口20a周辺の表面が亜鉛、銅のいずれをも含まない材料(例えば、ステンレス鋼)から構成されている。テンター装置の内部表面に付着した液状物のほとんどは、変質を受ける前に壁部等の表面を伝わって流れ落ちてしまうが、内部表面のうち熱風吹き出し口20aの周辺の表面には、液状物が長く留まり、大きく変質を受けることになる。したがって、この部分が亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成されていれば、液状物の高粘度化を大幅に抑制することができる。液状物の変質をさらに一層抑制するには、プレナムダクト20及び吸引ダクト22の表面全体をステンレス鋼などの亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成することが望ましい。
【0032】
テンター装置の内部の全ての表面に付着する液状物の変質を防止するには、装置の内部表面のその他の部分、例えば、天井面、側壁、仕切壁などの表面もステンレス鋼などの亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成することが望ましい。しかし、装置の内部表面の全体に亘ってステンレス鋼などの亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成する場合、装置のコスト高を考慮する必要がある。したがって、上述のように、プレナムダクト20及び吸引ダクト22の表面の一部または全部をステンレス鋼などの亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成するに止め、他の領域に関しては、液滴の受け皿を設けたり、液状物吸収シートを貼り付けるなどの従来技術を適用しても良い。
【0033】
本発明のテンター装置では、上記プレナムダクト20の熱風吹き出し口20a周辺の表面を傾斜面に形成することが望ましい。この傾斜面の傾斜形状としては、フィルムの幅方向の一端から他端にかけて下方に傾斜する形状でも良いし、フィルムの幅方向の中央から両端にかけて下方に傾斜する形状でも良い。このようにプレナムダクト20の熱風吹き出し口20a周辺の表面を傾斜させれば、この熱風吹き出し口20a周辺の表面に付着した液状物は、傾斜面に沿ってプレナムダクト20の側端に移動し、移動した液状物は、粘度の低いままにあるので、その側端から液滴となって落下する。このプレナムダクト20の側端は、下方を移動するフィルム1の両側端(耳)のさらに外側に位置するので、落下する液滴がフィルム上に付着することを避けることができる。このことを可能とするには、液状物の粘度が低いままであることが必要となる。本発明のテンター装置では、少なくともプレナムダクト20の熱風吹き出し口20a周辺の表面が亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成されており、この部分に付着した液状物の変質を抑制することができ、液状物の粘度が大きくなることがない。
【0034】
上述のように、従来のテンター装置では、通常、内部の壁部や、プレナムダクト20などの表面には、耐腐食および組立て加工性を確保するために、亜鉛、亜鉛合金や銅、銅合金からなる鋼材が使用されている。これに対して、本発明のテンター装置では、少なくともプレナムダクト20の熱風吹き出し口20aの周辺の表面を亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成する。より望ましくは、テンター装置の内部表面のできるだけ広い領域を亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成する。加えて、望ましくは、プレナムダクト20の熱風吹き出し口20a周辺の表面を側端に向かって下がるように傾斜させる。
【0035】
(亜鉛又は銅を含む金属材料)
本発明において、亜鉛又は銅を含む金属材料とは、亜鉛、亜鉛合金、亜鉛および亜鉛合金でメッキされた金属、銅、銅合金、あるいは銅、銅合金でメッキされた金属であり、これらにペンキおよび耐酸性塗料が塗装されたものも含む。この場合、表面がペンキおよび耐酸性塗料で塗装されたものも含む意味は、これら表面が被覆された金属材料であっても、その被膜を透過して亜鉛イオン又は銅イオンが表面に移動して、表面に凝集した液状物を変質させ得るからであり、また、被膜は経時的に劣化、剥落しやすく、剥落すれば、亜鉛イオン又は銅イオンが表面に露出するからである。
【0036】
(亜鉛、銅のいずれをも含まない材料)
本発明でいう上記「亜鉛、銅のいずれをも含まない材料」としては、耐熱性及び耐化学性に優れたプラスチック、セラミック、鉄鋼材が挙げられる。これらの中でも、加工性を考慮すると鉄鋼材が好ましい。鉄鋼材としては、例えば、SUS405、SUS430、SUS304、SUS316、SUS444、SUS410、SUS440、SUS347等のステンレス鋼;リムド鋼、キルド鋼などの炭素鋼;Mo鋼、Cr−Mo鋼、Cr−Ni−Mo鋼、Cr−Mo−V鋼などの低合金鋼;SUH21、SUH446などの高Cr鋼などが挙げられる。これらの中でも、テンター装置の内部表面は高温に曝されることを考慮して、高温強度と耐酸化性に優れるSUS304を用いることがより好ましい。
【0037】
(ポリオレフィン樹脂フィルム)
本発明のテンター装置により延伸するポリオレフィン樹脂フィルムは、従来のテンター装置により延伸していたポリオレフィン樹脂フィルムと同様である。ポリオレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンなどの各オレフィンの単独重合体;これらモノマー同士あるいはこれらモノマーと非オレフィン系モノマーとの共重合体が挙げられる。このようなポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン−α−オレフィン共重合体)、高密度ポリエチレン等のエチレン系樹脂;ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のプロピレン系樹脂;ポリ(4−メチルペンテン−1);ポリ(ブテン−1);エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0038】
これらポリオレフィン樹脂をフィルムとするに先だって、樹脂中に、通常、熱安定化剤(抗酸化防止剤)、帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤が配合される。これら添加剤あるいは添加剤中の成分には、テンター装置内で熱風により加熱されると、容易に揮発する成分が多く含まれている。この揮発成分は、テンター装置の雰囲気中に飛散し、従来技術の問題点において説明したように、テンター装置の内部表面に凝集して液状物となりやすい。
【0039】
テンター装置によってオレフィン樹脂フィルムを延伸して多孔性フィルムを得る場合には、オレフィン樹脂に添加剤としてさらに多孔性形成剤が配合される。この多孔性形成剤には、酸性、中性、アルカリ性の各水溶液により溶解可能な無機微粒子(水溶性微粒子)が多用されている。酸性水溶液に可溶な無機微粒子の原料である無機材料としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。アルカリ性水溶液に可溶な無機材料としては、珪酸、酸化亜鉛等が挙げられる。中性水溶液に可溶な無機材料としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、安価であること、種々の粒子径、特に微細な粒子径のものが容易に入手でき、かつ、フィルムから水溶液によって除去する際の除去速度が速いことから、炭酸カルシウムが好適に用いられる。
【0040】
上記無機微粒子は、通常、フィルム母材であるポリオレフィン樹脂組成物への分散性を向上させるために、表面処理されており、この表面処理には、ステアリン酸などの脂肪酸、ステアリン酸ナトリウムなどの脂肪酸金属塩等の有機化合物が表面処理剤として用いられている。この表面処理剤又はその成分には、テンター装置内の熱風温度により揮発するものが多く含まれている。
【0041】
上記無機微粒子及び各種添加剤が配合されたオレフィン樹脂は膜化され、得られたポリオレフィン樹脂フィルムでは、内部に均一分散された無機微粒子によりフィルムを構成する樹脂の組織構造が影響され、フィルムは組織構造的に多孔質となっている。この多孔質ポリオレフィン樹脂フィルムは、洗浄工程を経て、テンター装置により延伸されることにより、そのフィルム強度が高められるとともに所望の空隙率の多孔性に調整されることになる。
【0042】
上述のように、テンター装置による延伸工程の前に、オレフィン樹脂フィルムは水溶液により洗浄される。この洗浄工程によりオレフィン樹脂フィルムに分散されていた無機微粒子は、水溶液中に溶解して除去される。この時、無機微粒子の表面処理剤は、既にオレフィン樹脂中に溶解しており、洗浄工程を経た後も、表面処理剤は、オレフィン樹脂フィルム中に残存している。従って、多孔性の延伸フィルムを製造する場合では、多孔性でない延伸フィルムを製造する場合に比べて、より多くの添加剤がフィルム中に含まれることになり、テンター装置による延伸処理においては、より多くの揮発成分が発生することになる。そのため、本発明のテンター装置は、多孔性の延伸フィルムを製造する場合に、より適していると言うことができる。
【0043】
(延伸フィルムの製造方法)
本発明にかかる延伸フィルムの製造方法は、上記ポリオレフィン樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、前記ポリオレフィン樹脂組成物を膜化してポリオレフィン樹脂フィルムを得る膜化工程と、該ポリオレフィン樹脂フィルムを上記本発明のテンター装置を用いて延伸する延伸工程とを有することを特徴とする。
【0044】
本発明のテンター装置を用いて延伸フィルムを製造する方法は、多孔性の延伸フィルムを製造する場合、例えば、次のようにして製造することができる。
【0045】
(樹脂組成物調製工程)
まず、ポリオレフィン樹脂と、水溶性微粒子および酸化防止剤、必要により非イオン性界面活性剤などの所望の添加剤とを、混合装置(例えば、ロールミキサー、バンバリーミキサー、一軸押出機、二軸押出機など)を用いて混合して水溶性微粒子が含有されたポリオレフィン樹脂組成物を調製する。
【0046】
(膜化工程)
次いで、このポリオレフィン樹脂組成物から、インフレーション加工、カレンダー加工、Tダイ押出加工、スカイフ法等のフィルム成形方法によって、フィルム(未延伸フィルム)を製造する。フィルム成形方法として、より好ましくは、回転する一対のロールで樹脂組成物を圧延してフィルムとする圧延ロール装置を用いる方法が好ましい。この圧延ロール装置を用いる方法によれば、粘度の高い樹脂組成物を用いた時でも、表面が平滑かつ美麗で、膜厚精度の高いフィルムを確実に製造することができ、ひいては、均一性に優れた強度の高い多孔性フィルムを得ることが出来る。
【0047】
(水洗工程)
続いて、この未延伸フィルムを水溶液(好ましくは界面活性剤入りの水溶液)で洗浄してフィルム中に分散している水溶性微粒子を除去する。
この水洗工程における水溶性微粒子の除去方法としては、例えば、(i)未延伸フィルムに上記界面活性剤、あるいは、酸またはアルカリが添加された水溶液を噴霧する方法、(ii)未延伸フィルムに上記水溶液をシャワー状に浴びせる方法、(iii)上記水溶液を入れた槽にフィルムを浸漬させる方法等が挙げられる。
【0048】
前記フィルムの水溶液への接触方法は回分式でも連続式でもよいが、生産性の観点から連続式が好ましく、例えば、複数のロールを中に配置した槽に上記水溶液を入れ、回転するロールによりフィルムを送り、上記水溶液中を通過するようにすることにより、フィルムを水溶液に連続的に接触させることができる。接触させる時の温度、時間は、多孔質となっているポリオレフィン樹脂フィルムの物性を損なわない範囲で適宜選ぶことができる。
【0049】
水溶性微粒子を除去した後のフィルムは、水と接触させて洗浄することが好ましい。洗浄の程度としては、この多孔性の延伸フィルムの用途にもよるが、通常は溶解した塩等が析出してこない程度まで洗浄を行えばよい。水による洗浄後のフィルムは乾燥することが好ましい。乾燥の温度と時間は多孔質ポリオレフィン樹脂フィルムの物性を損なわない範囲に設定すればよい。
【0050】
(延伸工程)
最後に、上述のようにして水溶性微粒子を除去した多孔質の未延伸フィルムを本発明のテンター装置で延伸する。多孔質の未延伸フィルムを延伸することにより、フィルムの強度を高めるとともに、フィルムを多孔化させる。
【0051】
この延伸工程における延伸倍率は、2〜12倍が好ましく、より好ましくは4〜10倍が通気性の面から好ましい。
【0052】
また、延伸温度は、通常、軟化点以上融点以下の温度、好ましくは融点−50℃〜融点の範囲で行う。例えば、使用するポリオレフィン樹脂組成物がポリエチレンを主体とするポリオレフィン樹脂から構成されている場合、延伸温度は80〜130℃、好ましくは90〜120℃で行う。
延伸温度が融点−50℃より小さい場合は延伸時に破膜しやすくなる恐れがある。逆に、融点より高い温度で延伸すると、通気性、イオン透過性が悪くなる。
【0053】
また、フィルムの延伸後は、フィルムのヒートセット(アニーリング処理)を行うことが好ましい。このヒートセットは、本発明のテンター装置では、熱処理室にて行われ、ヒートセット温度は融点未満の温度が好ましい。
【0054】
以上のような方法により多孔性の延伸フィルムが得られる。このようにして得られた多孔性の延伸フィルムは、オムツなどの通気性フィルム、合成紙、さらに、シャットダウン性および耐熱性に優れた二次電池用セパレーターとして、好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0055】
以下に本発明の実施例を説明する。以下に示す実施例は、本発明を説明するための好適な例示であって、なんら本発明を限定するものではない。
【0056】
(実施例1)
長分子鎖ポリエチレン粉末(三井化学(株)製、商品名「ハイゼックスミリオン340M」、重量平均分子鎖長17000nm、重量平均分子量300万、融点136℃)100重量部に対し、低分子量ポリエチレン粉末(三井化学(株)製、商品名「ハイワックス110P」、重量平均分子量1000、融点110℃)42.7重量部、表面処理された炭酸カルシウム(SEM(走査型電子顕微鏡)で求めた平均粒子径0.12μm、表面処理剤:ステアリン酸を含む混合脂肪酸)233.9重量部、試薬(ステアリン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)))1.89重量部、フェノール系酸化防止剤イルガノックス1010(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社)1.05重量部とリン系酸化防止剤イルガフォス168(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社)0.30重量部とをヘンシェルミキサーで混合し、その後、二軸混練機にて230℃で溶融混練して、水溶性微粒子(炭酸カルシウム微粒子)を均一分散状態で含有したポリオレフィン樹脂組成物を得た。
【0057】
次に、フィルムを作成する方法を図5、6に基づき具体的に説明する。まず、図5に示すように、ホッパー(X)に、上記ポリオレフィン樹脂組成物を投入し、押出機(Y)中で溶融混練を行い、Tダイ(Z)よりシート状に押出した。押出されたシート(B)を、回転する一対のロールR1およびロールR2で圧延し、厚さ約33μmの単層のポリオレフィン樹脂フィルム(A)を作製した。
次に、図6のように、先に作成した単層のポリオレフィン樹脂フィルム(A)をロールR2とロールR3の間に挿入し、Tダイ(Z)より押出されてロールR1およびR2で圧延されたフィルムと熱圧着することで、厚さ60μmの積層フィルム(C)を作成した。このとき、ロール表面温度は150℃で成形した。
【0058】
次に、上記積層フィルム(C)を塩酸水溶液(塩酸2〜4モル/L、非イオン系界面活性剤0.1〜0.5重量%)に浸漬し、フィルム(C)から炭酸カルシウム微粒子を除去し、その後フィルムを水で洗浄し、50℃に加熱したロールに接触させて乾燥させ、延伸前の原反フィルム(膜厚60μm×64cm×一巻の長さ1000m)を得た。
【0059】
市販のテンター装置(市金工業社製、商品名「横延伸装置」)のテンター・オーブン内のフィルム上方に位置するプレナムダクトの熱風吹き出し口周辺の表面材料をSUS304に交換した。
【0060】
上記改造テンター装置を用いて、前記延伸前の原反フィルムを6倍に延伸した(予熱温度115℃、延伸温度105℃、熱固定温度115℃)。この延伸加工を1ヶ月間連続して行った後、プレナムダクトの熱風噴き出し口周辺の表面に付着していた液状物を採取して粘度を測定した。粘度測定は、TVB−10M形粘度測定機(東機産業株式会社製)を使用して、回転数は100rpm、液状物の温度は105℃、ローターはNO.2を使用して行った。液状物の温度を105℃に保つために、液状物をビーカーに入れ、ビーカーごとオイルバスに浸し、液状物がオイルバスに完全に浸るようにクランプで固定して測定を行った。さらに液状物は赤外線分析にかけて主成分を同定した。
【0061】
測定の結果、採取した液状物の粘度は、10cPと低粘度のものであった。また、赤外線分析による同定により主成分は、ステアリン酸であった。
【0062】
(比較例1)
テンター・オーブン内のフィルム上方に位置するプレナムダクトの熱風吹き出し口周辺の表面が亜鉛メッキされた市販のテンター装置(市金工業社製、商品名「横延伸装置」)で、実施例1で製作した延伸前の原反シートを実施例1と同様の温度および倍率で連続して延伸する運転を行ったところ、1ヶ月の連続運転で合計5回、ほぼ固体状の油滴がフィルム上へ落下した。
【0063】
落下した油滴も、熱風吹き出し口周辺の表面に付着している粘性のある固形状物も、ほぼ固形状であった。この固体状の油滴の粘度を実施例と同様な方法で測定した結果は、測定限界以上(3P以上)であった。また、この固形状物質を赤外線分析により同定したところ、その主成分は、ステアリン酸亜鉛であった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明にかかるテンター装置は、延伸時の加熱温度により揮発する成分を不可避的に含むポリオレフィン樹脂フィルムを延伸するのに有用であり、特に、添加剤の一種として水溶性微粒子を均一分散させた多孔質のポリオレフィン樹脂フィルムを延伸して多孔性の延伸フィルムを得る場合に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明のテンター装置の全体構成を示す平面構成図である。
【図2】本発明のテンター装置の全体構成を示す側面構成図である。
【図3】本発明のテンター装置を構成するテンター・オーブンの側面構成図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿うテンター・オーブンの断面構成図である。
【図5】本発明の実施例のテンター装置による延伸工程に用いる積層フィルムを構成する単層ポリオレフィン樹脂フィルムの作製方法を示す図である。
【図6】本発明の実施例のテンター装置による延伸工程に用いる積層フィルムを上記単層ポリオレフィン樹脂フィルムを用いて作製する方法を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 フィルム
2 巻き戻し機
3 テンター・オーブン
4 冷却装置
5 耳カット装置
6 巻き取り機
10 予熱室
11 延伸室
12 熱処理室
20 上部プレナムダクト
20a 熱風吹き付け口
21 下部プレナムダクト
21a 熱風吹きつけ口
22 吸引ダクト
23 ヒーター
24 吸引ファン
25 導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂フィルムの表面に熱風吹き出し口から熱風を吹き付けつつ前記ポリオレフィン樹脂フィルムを延伸するテンター装置において、
前記ポリオレフィン樹脂フィルムの上方に位置する装置の内部表面の内の少なくとも前記熱風吹き出し口周辺の表面が亜鉛、銅のいずれをも含まない材料から構成されていることを特徴とするテンター装置。
【請求項2】
前記亜鉛、銅のいずれをも含まない材料がステンレス鋼であることを特徴とする請求項1に記載のテンター装置。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂フィルムが前記熱風の温度で揮発する成分を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のテンター装置。
【請求項4】
前記揮発成分が前記ポリオレフィン樹脂フィルムの原料樹脂組成物中に配合された添加剤に含有されていた成分であることを特徴とする請求項3に記載のテンター装置。
【請求項5】
前記添加剤の少なくとも一種が表面処理剤により表面処理された水溶性微粒子であることを特徴とする請求項4に記載のテンター装置。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、前記ポリオレフィン樹脂組成物を膜化してポリオレフィン樹脂フィルムを得る膜化工程と、該ポリオレフィン樹脂フィルムを請求項1〜5のいずれか1項に記載のテンター装置を用いて延伸する延伸工程とを有することを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂組成物調製工程においてポリオレフィン樹脂組成物中に表面処理剤により処理された水溶性微粒子が混入され、前記膜化工程と前記延伸工程との間に、ポリオレフィン樹脂フィルムを水洗することによりフィルム中の前記水溶性微粒子を除去する水洗工程を有し、得られる延伸フィルムが多孔性であることを特徴とする請求項6に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記水溶性微粒子の表面処理剤に前記テンター装置の熱風温度にて揮発する成分が含まれていることを特徴とする請求項7に記載の延伸フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−42578(P2010−42578A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207594(P2008−207594)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】