説明

テンペ様発酵食品の製造方法

【課題】リゾプス属糸状菌を用いて製造する特に風味に優れたテンペ様発酵食品の製造方法や、かかるテンペ様発酵食品の製造方法に用いることができるスターターを提供すること。
【解決手段】大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦から選ばれた1種又は2種以上の発酵原料を、必要に応じて浸漬後、加熱して殺菌又は滅菌し、その殺菌又は滅菌した発酵原料にリゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)、リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)等のリゾプス(Rhizopus)属糸状菌、及びラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)等のラクトコッカス(Lactococcus)属細菌を接種し、発酵させ、テンペ様発酵食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リゾプス(Rhizopus)糸状菌及びラクトコッカス(Lactococcus)属細菌を用いて製造するテンペ様発酵食品及びリゾプス属糸状菌とラクトコッカス属細菌を含むテンペ様発酵食品製造用スターターに関する。
【背景技術】
【0002】
大豆を用いたテンペは、煮た大豆をハイビスカスなどの葉の表面に付着しているテンペ菌(クモノスカビ)で発酵させたインドネシアの伝統的無塩発酵食品としてよく知られており、大豆一粒一粒が白い菌糸で固まったケーキ状の形状で、ほんのり甘いクリにも似た風味を有し、納豆のような糸引きや臭いがなく、スライスして料理に用いられる。大豆テンペは、良質の植物性タンパク質や、生活習慣病の予防に役立つリノール酸、ビタミンB群、食物繊維、レシチン、サポニン、イソフラボン等を豊富に含んでいることから、近年栄養食品として注目されている。従来、リゾプス属糸状菌(クモノスカビ)を用いて大豆やピーナッツ等を醗酵させた、いわゆるテンペの製造工程では、豆や器具等に付着している乳酸菌を豆浸漬時に自然に発育させたり、あるいは、豆の蒸煮後に、乳酸菌や、酢酸、乳酸等の有機酸を添加して作用させたりすることが行われており、それらにより、雑菌の発育が抑制されたり、醗酵材料のpHが低下し糸状菌の発育が促されるとされてきた。しかしながら、その際に関与する乳酸菌の菌種と効果については、明確な報告が限られていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、酢酸産生バクテリア、乳酸産生バクテリア及びプロピオン酸産生バクテリアから選ばれる酸生成バクテリアを利用することが開示されているが菌種は特定されておらず、非特許文献1には、テンペ菌と乳酸菌で混合発酵させた大豆食品の機能性についての報告がなされているが乳酸菌の菌種は特定されておらず、非特許文献2には、東南アジア製テンペからの分離した乳酸菌をエンテロコッカス・フェカリス Enterococcus faecalis (=Streptococcus faecalis)と同定したことが報告されているに過ぎず、非特許文献3は、発酵食品テンペから分離されたエンテロコッカス・フェカリスの産生するプロテアーゼについての報告であり、非特許文献4には、菌種ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)等のラクトバチルス属の乳酸菌が開示されているが、これら乳酸菌を意図的に添加することは何ら開示されておらず、非特許文献5にも、菌種ラクトバチルス・プランタルムやペディオコッカス属の乳酸菌が開示されているが、これら乳酸菌を意図的に添加することは何ら開示されておらず、非特許文献6にも、菌種ラクトバチルス・プランタルムやラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)が開示されているが、これら乳酸菌を意図的に添加することは何ら開示されていない。
【0004】
その他、蒸したソバの実に、麹、ラギなどのスターターの形態の糸状菌、または糸状菌を直接添加し、ソバの実中のタンパク質を発酵・分解させて大豆加工品であるテンペ様に凝集させ、固形、半固形、または半流動状のソバ食品を得る発酵ソバ食品(例えば、特許文献2参照)や、そばを原料とし、麹菌、酵母、乳酸菌、ビフィズス菌、枯草菌、酢酸菌の中から選ばれる少なくとも1種類の菌を用い、発酵工程を経て製造される血糖値低下作用を持つ健康食品(例えば、特許文献3参照)や、オカラに乳酸菌ラクトバチルス・サケHS1を添加して乳酸発酵させた後に、加熱殺菌して,テンペ菌(リゾープス・オリゴスポラス)を加えて発酵させることを特徴とする乳酸菌とテンペ菌を用いたオカラの食品素材の製造方法(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0005】
【特許文献1】米国特許公開公報第20040146606
【特許文献2】特開2005−218362号公報
【特許文献3】特開2005−224205号公報
【特許文献4】2004−97013号公報
【非特許文献1】2004年9月「日本食品科学工学会」第51回大会 発表要旨(2Ep10)
【非特許文献2】Japanese Journal of Dairy and Food Science Vol.37, No.5, p185-192, 1988
【非特許文献3】第26回日本食品微生物学会学術総会(平成17年11月10日) 一般演題(B08)
【非特許文献4】The complete handbook of Tempe, Second edition, p84, 89, 95, 97 and 111, 2001
【非特許文献5】Food Microbiology, 4, p165-172, 1987
【非特許文献6】International Journal of Food Microbiology, Vol.31, p299-309, 1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、リゾプス属糸状菌を用いて製造する特に風味に優れたテンペ様発酵食品の製造方法や、かかるテンペ様発酵食品の製造方法に用いることができるスターターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究し、リゾプス属糸状菌を用いて製造するテンペ様発酵食品の製造において、加熱により殺菌又は滅菌した豆等の発酵材料に各種乳酸菌を添加して作用させることにより、完成品の風味が変化し、また乳酸菌の菌種により、その効果が異なることを見い出した。そして、リゾプス属糸状菌に、乳酸菌の一種であるラクトコッカス属細菌を併用してテンペ様発酵食品を製造した場合には、食したときに甘味と、ときに酸味が増し、製品の官能面が、リゾプス属糸状菌単独使用時、あるいは他の乳酸菌併用時と比較して高まることを確認し、本発明を完成するに至った。本発明のように、意図的に、特定の乳酸菌ラクトコッカス属細菌を、リゾプス属糸状菌とともに作用させる食品は報告されていない。
【0008】
すなわち本発明は、(1)大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦から選ばれた1種又は2種以上の発酵原料を加熱して殺菌又は滅菌する工程(A)と、前記殺菌又は滅菌した発酵原料にリゾプス(Rhizopus)属糸状菌及びラクトコッカス(Lactococcus)属細菌を接種し、発酵させる工程(B)とを備えたことを特徴とするテンペ様発酵食品の製造方法や、(2)工程(A)で、丸大豆、脱皮大豆、挽割大豆から選ばれる1種又は2種以上を使用することを特徴とする上記(1)記載のテンペ様発酵食品の製造方法や、(3)工程(B)におけるリゾプス属糸状菌として、リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)及び/又はリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)を使用することを特徴とする上記(1)又は(2)記載のテンペ様発酵食品の製造方法や、(4)工程(B)におけるラクトコッカス属細菌として、ラクトコッカス・ラクティス(L. lactis)及び/又はラクトコッカス・ラフィノラクティス(L. raffinolactis)を使用することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載のテンペ様発酵食品の製造方法や、(5)ラクトコッカス・ラクティスとして、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(L. lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホードニエ(L. lactis subsp. hordniae)、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(L. lactis subsp. cremoris)から選ばれる1種又は2種以上を使用することを特徴とする上記(4)記載のテンペ様発酵食品の製造方法や、(6)工程(A)及び/又は工程(B)で、酢酸、乳酸、醸造酢、上新粉から選ばれる1種又は2種以上を添加することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載のテンペ様発酵食品の製造方法や、(7)工程(B)で、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する細菌群から選ばれた細菌の1種又は2種以上を用いることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載のテンペ様発酵食品の製造方法に関する。
【0009】
また本発明は、(8)リゾプス(Rhizopus)属糸状菌及びラクトコッカス(Lactococcus)属細菌を含むことを特徴とするテンペ様発酵食品製造用スターターや、(9)リゾプス属糸状菌が、リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)及び/又はリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)であることを特徴とする上記(8)記載のテンペ様発酵食品製造用スターターや、(10)ラクトコッカス属細菌が、ラクトコッカス・ラクティス(L. lactis)及び/又はラクトコッカス・ラフィノラクティス(L. raffinolactis)であることを特徴とする上記(8)又は(9)記載のテンペ様発酵食品製造用スターターや、(11)ラクトコッカス・ラクティスが、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(L. lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホードニエ(L. lactis subsp. hordniae)、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(L.lactis subsp. cremoris)から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする上記(10)記載のテンペ様発酵食品製造用スターターや、(12)さらに、酢酸、乳酸、醸造酢、上新粉から選ばれる1種又は2種以上を含むことを特徴とする上記(8)〜(11)のいずれか記載のテンペ様発酵食品製造用スターターや、(13)さらに、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する細菌群から選ばれた細菌の1種又は2種以上を含むことを特徴とする上記(8)〜(12)のいずれか記載のテンペ様発酵食品製造用スターターや、(14)テンペ様発酵食品が、大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦から選ばれた1種又は2種以上を発酵原料とすることを特徴とする上記(8)〜(13)のいずれか記載のテンペ様発酵食品製造用スターターや、(15)テンペ様発酵食品が、丸大豆、脱皮大豆、挽割大豆から選ばれる1種又は2種以上を発酵原料とすることを特徴とする上記(8)〜(13)のいずれか記載のテンペ様発酵食品製造用スターターに関する。
【0010】
さらに本発明は、(16)上記(1)〜(7)のいずれか記載の製造方法により得られることを特徴とするテンペ様発酵食品や、(17)大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦から選ばれた1種又は2種以上の発酵原料に、ラクトコッカス(Lactococcus)属細菌と、リゾプス(Rhizopus)属糸状菌とが共存していることを特徴とするテンペ様発酵食品や、(18)上記(16)又は(17)記載のテンペ様発酵食品を、さらに加熱、殺菌、滅菌、凍結、粉砕、調味等加工した食品又は食品素材に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、リゾプス属糸状菌を用いて製造する特に風味に優れたテンペ様発酵食品を安定的に製造することができる方法や、かかる風味に優れたテンペ様発酵食品の製造方法に用いることができるスターターを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のテンペ様発酵食品の製造方法としては、大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦から選ばれた1種又は2種以上の発酵原料を(必要に応じて浸漬後)加熱して殺菌又は滅菌する工程(A)と、前記殺菌又は滅菌した発酵原料にリゾプス属糸状菌及びラクトコッカス属細菌を接種し、発酵させる工程(B)とを工程(A)と工程(B)の順で備えた製法であれば特に制限されず、また、本発明のテンペ様発酵食品製造用スターターとしては、リゾプス属糸状菌及びラクトコッカス属細菌を含む組成物であれば特に制限されず、上記工程(A)における滅菌としては、大豆の場合、1気圧(ゲージ圧)で20分間等の高圧蒸気滅菌を好適に例示することができ、上記工程(B)における発酵としては、好気条件下20〜40℃、好ましくは28〜32℃で、12〜48時間、好ましくは18〜36時間、特に好ましくは20〜28時間の静置発酵を好適に例示することができる。なお、本発明において、滅菌とは全ての微生物が死滅することを、また殺菌とは大部分の微生物は死滅するが一部生菌が残存することを、それぞれ意味する。
【0013】
上記リゾプス属糸状菌の菌種としては、リゾプス属に属する糸状菌であれば特に制限されないが、リゾプス・オリゴスポラス及び/又はリゾプス・オリゼを好適に例示することができる。また、用いるリゾプス属糸状菌の形態としては、栄養菌糸や胞子、又はこれらの混合物等特に制限されないが、テンペ様発酵食品製造用スターターとして用いるときは、特に胞子形態のリゾプス属糸状菌が保存安定性の面で好ましい。これらリゾプス属糸状菌は、蒸煮大豆等の発酵原料100g(湿重量)に対し10〜10個(胞子形態)、好ましくは5×10〜5×10個(胞子形態)の添加割合で用いることができる。また、これらリゾプス属糸状菌は市販のスターターを用いることができ、培養基材や増量剤を含有する市販スターター(例えば、RAGIや秋田今野商店製造品)を用いる場合、蒸煮大豆等の蒸煮発酵原料100重量部(湿重量)に対し0.01〜5重量部(胞子形態)、好ましくは0.05〜1重量部の添加割合で用いることができる。
【0014】
上記ラクトコッカス属細菌としては、ラクトコッカス属に属する乳酸菌であれば特に制限されないが、ラクトコッカス・ラクティス及び/又はラクトコッカス・ラフィノラクティスを好適に例示することができ、上記ラクトコッカス・ラクティスとして、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホードニエ、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリスから選ばれる1種又は2種以上を使用することが特に好ましい。これらラクトコッカス属細菌としては菌株保存機関の分譲菌株を使用することができ、蒸煮大豆等の発酵原料100g(湿重量)に対し10〜1010CFU(colony forming unit)、好ましくは1×10〜1×10CFUの添加割合で用いることができる。これらラクトコッカス属細菌は、上記リゾプス属糸状菌と同時に発酵に用いてもよく、また上記リゾプス属糸状菌と前後して発酵に用いることもできる。
【0015】
また、必要に応じて、ラクトバチルス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、ストレプトコッカス属、及びエンテロコッカス属に属する細菌群から選ばれた乳酸菌の1種又は2種以上を工程(B)で添加することもできる。上記ラクトバチルス属に属する細菌としては、ラクトバチルス・プランタルム(L. plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(L. casei)等を、上記ペディオコッカス属に属する細菌としては、ペディオコッカス・ハロフィルス(P. halophilus)、ペディオコッカス・ペントサセウス(P. pentosaceus)等を、上記ロイコノストック属に属する細菌としては、ロイコノストック・メゼンテロイデス(L. mesenteroides)等を、上記ストレプトコッカス属に属する細菌としては、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等を、上記エンテロコッカス属に属する細菌としては、エンテロコッカス・フェカリス(E. faecalis)等を好適に例示することができる。これら乳酸菌は菌株保存機関の分譲菌株を使用することができる。これら乳酸菌は、上記リゾプス属糸状菌と同時に発酵に用いてもよく、また上記リゾプス属糸状菌と前後して発酵に用いることもできる。
【0016】
上記大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦のうち、大豆、落花生、米、玄米、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦等の発酵原料は、風選等により夾雑物を取り除き、あらかじめ水浸漬等により吸水させたものが好ましく、必要に応じて、蒸煮・殺菌の前に焙煎しておくこともできる。これら発酵原料の中でも丸大豆、脱皮大豆、挽割大豆等の大豆を用いることが好ましく、大豆を用いる場合、テンペ様発酵食品がテンペそのものとなる。
【0017】
本発明のテンペ様発酵食品の製造方法において、工程(A)及び/又は工程(B)で、酢酸、乳酸、醸造酢等の可食性有機酸や、上新粉、バレイショ澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉等の各種澱粉から選ばれる1種又は2種以上を添加することもできる。有機酸は通常、工程(B)で添加され、有機酸の添加によりpHを低下させリゾプス属糸状菌の増殖を助ける上に風味付の面でも寄与する。また、澱粉も通常、工程(B)で添加され、澱粉の添加はリゾプス属糸状菌の増殖を助ける上に風味付の面でも寄与する。また、本発明のテンペ様発酵食品製造用スターターに、酢酸、乳酸、醸造酢等の可食性有機酸やその塩、上新粉、バレイショ澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉等の各種澱粉から選ばれる1種又は2種以上を含ませることができる。
【0018】
本発明のテンペ様発酵食品としては、上記本発明のテンペ様発酵食品の製造方法により得られるものや、大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦から選ばれた1種又は2種以上の発酵原料に、ラクトコッカス属細菌と、リゾプス属糸状菌とが共存しているテンペ様発酵食品、例えば発酵原料に、ラクトコッカス属細菌が10/gの共存下に、リゾプス属糸状菌が繁殖しているテンペ様発酵食品であれば特に制限されず、また、本発明の食品又は食品素材としては、上記本発明のテンペ様発酵食品を、さらに加熱、殺菌、滅菌、凍結、切断、粉砕、調味等の加工処理を1以上施したものであれば特に制限されず、食品や食品素材としては、パン、プリン、クッキー、ケーキ、ゼリー等の洋菓子、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子等を含むパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、チーズ、バター等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜や、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、スポーツ飲料等の各種飲料を具体的に例示することができる。
【0019】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
[材料]
供試した乳酸菌の種類と入手源、菌株名を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
[方法]
上記乳酸菌を、2種の液体培地(1)MRS培地(Merck)及び(2)Bacto peptone2.5g/L(Difco)、Proteose peptone2.5g/L(Difco)、yeast extract5.0g/L(Difco)、glucose5.0g/L(和光純薬)、硫酸マグネシウム(7水和物)5.0g/L(和光純薬)を用いて30℃及び35℃、48時間培養して増菌後、各乳酸菌ごとに混合した。回収した各乳酸菌の細胞を、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)した純水(純水製造装置モデルWEX3、ヤマト科学により製造)を用いて遠沈洗浄し、滅菌純水で再懸濁した。市販大粒丸大豆(トヨホマレ、北海道産)を純水にて洗浄後、重量比3倍量の純水を用いて10℃、16時間浸漬した。浸漬後、再び大豆を純水にて洗浄し水を切ったのち、ステンレス製バットに入れて、121℃、20分間高圧蒸気滅菌した。
【0023】
滅菌終了後30℃まで冷却した大豆に、リゾプス属糸状菌を含むテンペ製造用スターター(株式会社秋田今野商店製)と各乳酸菌を、蒸煮大豆1g(湿重量)につき、それぞれ0.001gと3.6×10〜8.0×10CFU(colony forming unit)となるように接種し、混合した(対照は乳酸菌添加なし)。テンペ製造用スターターは粉状のままで、また乳酸菌は蒸煮大豆1g(湿重量)につき0.05mLの菌懸濁液の形態で、それぞれ接種した。菌接種後の大豆40g(湿重量)を、50g納豆製造用PSP容器に充填し、好気条件下で30℃、24時間発酵させたのち、4℃、16時間冷却した。なお、接種した乳酸菌の菌濃度は、大豆への菌接種当日に、上記各液体培地に寒天(18g/L、和光純薬)を加えた培地を用いて、好気条件下30℃、48時間混釈培養して測定し、値を平均して求めた。そのため、各乳酸菌の接種濃度に、若干の差を生じた。
【0024】
発酵終了後冷却した各試料について、6人のパネルにより、外観(カビの発育、豆の色)、香り、味(甘味、酸味、苦味)について、5点法にて評価した。評価に供した各試料は、テンペ製造用スターター(株式会社秋田今野商店製造)と各乳酸菌を、それぞれ蒸煮大豆(トヨホマレ)1g(湿重量)につき、0.001gと3.6×106〜8.0×106CFUとなるように接種して混合し、好気条件下で30℃、24時間発酵させ、さらに、4℃、16時間冷却したものである。評価は、乳酸菌無添加のものを基準とし、カビ発育、豆の色、香り、総合の各項目については、特に優れるものを5点、優れるものを4点、同等を3点、劣るものを2点、非常に劣るものを1点とした。また甘味、酸味、苦味については、非常に強いものを5点、強いものを4点、同等を3点、弱いものを2点、非常に弱いを1点とした。結果を表2に示す。なお、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティスの接種菌数が上記より1/100程度少ない場合には、発酵後、未添加時と比べて味に変化がなくて苦味が生じやすく、反対に100倍程度多い場合には甘みとともに酸味もより呈するようになった。
【0025】
【表2】

【0026】
表2から、本発明品が、食したときに甘味と、ときに酸味が増し、製品の官能面が、リゾプス属糸状菌単独使用時、あるいは他の乳酸菌併用時と比較して高まることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦から選ばれた1種又は2種以上の発酵原料を加熱して殺菌又は滅菌する工程(A)と、前記殺菌又は滅菌した発酵原料にリゾプス(Rhizopus)属糸状菌及びラクトコッカス(Lactococcus)属細菌を接種し、発酵させる工程(B)とを備えたことを特徴とするテンペ様発酵食品の製造方法。
【請求項2】
工程(A)で、丸大豆、脱皮大豆、挽割大豆から選ばれる1種又は2種以上を使用することを特徴とする請求項1記載のテンペ様発酵食品の製造方法。
【請求項3】
工程(B)におけるリゾプス属糸状菌として、リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)及び/又はリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)を使用することを特徴とする請求項1又は2記載のテンペ様発酵食品の製造方法。
【請求項4】
工程(B)におけるラクトコッカス属細菌として、ラクトコッカス・ラクティス(L. lactis)及び/又はラクトコッカス・ラフィノラクティス(L. raffinolactis)を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のテンペ様発酵食品の製造方法。
【請求項5】
ラクトコッカス・ラクティスとして、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(L. lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホードニエ(L. lactis subsp. hordniae)、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(L. lactis subsp. cremoris)から選ばれる1種又は2種以上を使用することを特徴とする請求項4記載のテンペ様発酵食品の製造方法。
【請求項6】
工程(A)及び/又は工程(B)で、酢酸、乳酸、醸造酢、上新粉から選ばれる1種又は2種以上を添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のテンペ様発酵食品の製造方法。
【請求項7】
工程(B)で、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する細菌群から選ばれた細菌の1種又は2種以上を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のテンペ様発酵食品の製造方法。
【請求項8】
リゾプス(Rhizopus)属糸状菌及びラクトコッカス(Lactococcus)属細菌を含むことを特徴とするテンペ様発酵食品製造用スターター。
【請求項9】
リゾプス属糸状菌が、リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)及び/又はリゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)であることを特徴とする請求項8記載のテンペ様発酵食品製造用スターター。
【請求項10】
ラクトコッカス属細菌が、ラクトコッカス・ラクティス(L. lactis)及び/又はラクトコッカス・ラフィノラクティス(L. raffinolactis)であることを特徴とする請求項8又は9記載のテンペ様発酵食品製造用スターター。
【請求項11】
ラクトコッカス・ラクティスが、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(L. lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種ホードニエ(L. lactis subsp. hordniae)、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(L.lactis subsp. cremoris)から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項10記載のテンペ様発酵食品製造用スターター。
【請求項12】
さらに、酢酸、乳酸、醸造酢、上新粉から選ばれる1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項8〜11のいずれか記載のテンペ様発酵食品製造用スターター。
【請求項13】
さらに、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、及びエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する細菌群から選ばれた細菌の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項8〜12のいずれか記載のテンペ様発酵食品製造用スターター。
【請求項14】
テンペ様発酵食品が、大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦から選ばれた1種又は2種以上を発酵原料とすることを特徴とする請求項8〜13のいずれか記載のテンペ様発酵食品製造用スターター。
【請求項15】
テンペ様発酵食品が、丸大豆、脱皮大豆、挽割大豆から選ばれる1種又は2種以上を発酵原料とすることを特徴とする請求項8〜13のいずれか記載のテンペ様発酵食品製造用スターター。
【請求項16】
請求項1〜7のいずれか記載の製造方法により得られることを特徴とするテンペ様発酵食品。
【請求項17】
大豆、発芽大豆、落花生、米、玄米、発芽玄米、おから、とうもろこし、小麦、大麦、はと麦から選ばれた1種又は2種以上の発酵原料に、ラクトコッカス(Lactococcus)属細菌と、リゾプス(Rhizopus)属糸状菌とが共存していることを特徴とするテンペ様発酵食品。
【請求項18】
請求項16又は17記載のテンペ様発酵食品を、さらに加熱、殺菌、滅菌、凍結、粉砕、調味等加工した食品又は食品素材。

【公開番号】特開2007−175024(P2007−175024A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379902(P2005−379902)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(506004724)株式会社登喜和食品 (1)
【出願人】(506015085)財団法人東京都農林水産振興財団 (4)
【Fターム(参考)】