説明

ディジタルサンプル処理方法、ディジタルサンプル処理装置、及びプログラム

【課題】回路構成を簡素化し、また、同一の偏波を捕捉することを防ぐ。
【解決手段】タップ係数演算回路20、21は、キャリア位相が再生可能なブラインドアルゴリズム(例えば、MMA:Multi-modulus Algorithm)を用いて初期収束を行う。MMAを用いることで、バタフライ型FIRフィルタ回路6の出力は、自動的にキャリア位相がリカバリされた状態になる。DD−LMSに切り替えた後も、周波数オフセット演算回路22、23は、同じアルゴリズムのまま動作を続けることになる。タップ係数演算回路20、21は、多値光偏波多重信号の偏波成分であるY偏波の等化係数がX偏波の等化係数と相関を持たないように、バタフライ型FIRフィルタ回路6で用いる等化係数を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント技術を用いたディジタルサンプル処理方法、ディジタルサンプル処理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル信号処理を用いたコヒーレント伝送方式が近年盛んに研究されており、特にQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)を採用したコヒーレント伝送方式の研究がなされている(例えば、非特許文献1参照)。従来の直接検波方式に比べ、受信感度を高感度化でき、さらに受信機内でディジタル信号処理を行うことにより、波長分散や、偏波モード分散などの波形歪みを精度よく等化可能である。このため、特に光デバイスでは、補償が困難で、高速光信号の伝送距離を著しく制限していた偏波モード分散が、補償可能になり、100Gb/s/ch級の光信号の伝送距離が劇的に延伸した。
【0003】
ディジタルコヒーレント方式は、準静的な波長分散を固定のディジタルフィルタで補償し、変動のある偏波モード分散を、ブラインドアルゴリズムに基づいた少数タップの適応フィルタで補償する方法を採用している。これにより、高速で、高周波数利用効率の光チャネルの長距離伝送が可能になった。QPSKのような多値変調技術を用いる他に、周波数利用効率を上昇させるために、偏波多重技術を用いており、受信器において、CMA(Constant modulus Algorithm)に代表されるブラインドアルゴリズムに基づく適応フィルタで偏波分離を行っている。
【0004】
また、さらなる周波数利用効率向上のため、8値以上のQAM(Quadrature Amplitude modulation)フォーマットの研究も行われており(例えば、非特許文献2参照)、光信号の高密度化が進んでいる。これらの方式は、適応等化アルゴリズムとして、判定帰還型最小二乗平均アルゴリズム(DD−LMS:Decision Directed Least mean square)を採用している。
【0005】
DD−LMSアルゴリズムは、光受信信号の等化だけでなく、位相リカバリも行うことが可能なアルゴリズムであるが、キャリア周波数オフセットや、高速な位相オフセットが存在する状況下では、収束が困難である。
【0006】
図7(a)、(b)は、従来技術による光多値偏波多重信号の受信機の構成を示すブロック図である。図7(a)において、光伝送路を介して光フロントエンドに入力された偏波多重光信号は、A/D変換器1〜4において、2サンプル/シンボルでディジタル複素信号列に変換され、波長分散補償回路5で、光伝送路上で受けた波長分散の影響が補償され、バタフライ型の適応フィルタ6で、偏波多重信号の成分分離、偏波モード分散による歪み等化、光フィルタやフロントエンドでの信号歪み要因の等化が行われる。
【0007】
このとき、タップ係数演算回路7、8は、各々、適応等化のタップ係数の初期収束を、CMAベースのアルゴリズムを用いて行い、最尤推定法などのアルゴリズムによって周波数オフセットや位相オフセットを推定する。位相オフセット補償回路9、10では、位相のオフセット補償を行い、周波数オフセット補償回路11、12では、周波数のオフセット補償を行い、最終的に、判定回路13、14で、シンボル点が判定される。
【0008】
その後、安定した状態になると、図7(b)に示すように、タップ係数演算回路7a、7bにおいて、DD−LMSをタップ係数演算に用い、位相オフセット補償回路9、10、及び周波数オフセット補償回路11、12における、周波数オフセット補償、位相オフセット補償のアルゴリズムも、判定指向のアルゴリズムに切り替える。
【0009】
多値QAM信号でCMAを用いる場合、vitervi&viterviアルゴリズムや、最尤推定法で位相オフセット・周波数オフセット推定が可能ではあるものの、アルゴリズムが複雑化し、さらに、これらの推定アルゴリズムは、DD−LMSに移行した際には使用されない。また、CMAは、受信した光信号の状態によっては、送信された偏波多重信号の同一の偏波成分を補足する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】”10 x 111 Gbit/s, 50 GHz Spaced, POLMUX-RZ-DQPSK Transmission over 2375 km Employing Coherent Equalisation”, C.S.R.Flugder et al., OFC2007 paper: PDP22
【非特許文献2】”112-Gb/s polarization-multiplexed 16-QAM on a 25-GHz WDM grid “, Peter J. Winzer et al., ECOC2008, Th3.E.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、従来のブラインドアルゴリズムを初期収束に用いた8値以上の多値のディジタルコヒーレント受信方式では、偏波多重信号を偏波分離する際に、同一偏波補足問題や、タップ係数演算アルゴリズムの切り替え後に、位相オフセット・周波数オフセット推定のアルゴリズムを切り替える必要があり、回路構成が複雑になるという問題があった。また、従来のアルゴリズムでは、偏波分離の際に、X偏波、Y偏波と分離すべき信号を、X偏波、X偏波、またはY偏波、Y偏波と同一の偏波を捕捉する場合があるという問題があった。
【0012】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、回路構成を簡素化することができ、また、同一の偏波を捕捉することを防ぐことができるディジタルサンプル処理方法、ディジタルサンプル処理装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明は、多値光偏波多重信号を受信するコヒーレント受信器で、前記多値光偏波多重信号のディジタルサンプル列を処理する方法であって、前記多値光偏波多重信号の波長分散の補償処理を行う波長分散補償ステップと、前記波長分散補償ステップから出力された信号の偏波分離、偏波モード分散補償、及び残留信号歪み補償を行う等化処理ステップと、前記等化処理ステップで得られた出力信号の周波数オフセットを補償する周波数オフセット補償ステップと、前記周波数オフセット補償ステップで得られた出力信号のシンボル判定を行う信号判定ステップと、前記周波数オフセット補償ステップで用いる周波数オフセット値を、前記周波数オフセット補償ステップで得られた出力信号と前記信号判定ステップで得られた出力信号とを用いて演算する周波数オフセット演算ステップと、前記等化処理ステップで用いる等化係数を、前記信号判定ステップにより得られた出力信号と前記周波数オフセット演算ステップで算出された周波数オフセット値と前記等化処理ステップで得られた出力信号とを用いて算出する係数演算ステップとを含み、前記係数演算ステップは、前記多値光偏波多重信号の偏波成分であるY偏波の等化係数がX偏波の等化係数と相関を持たないように、X偏波成分を用いてY偏波成分を取得するように等化係数を算出することを特徴とするディジタルサンプル処理方法である。
【0014】
本発明は、上記の発明において、前記係数演算ステップは、ディジタルサンプル列の2つの偏波成分の実部(Ich)、及び虚部(Qch)において別個に等化係数の誤差値を演算し、適応的に等化係数を更新し、前記等化処理ステップは、前記係数演算ステップで算出された等化係数を用いて出力信号のキャリア位相を復元することを特徴とする。
【0015】
本発明は、上記の発明において、前記周波数オフセット演算ステップは、等化係数演算の収束の初期段階では、信号判定ステップの出力値の符号のみを用いて周波数オフセット値の推定を行うことを特徴とする。
【0016】
また、上述した課題を解決するために、本発明は、多値光偏波多重信号を受信するコヒーレント受信器で、前記多値光偏波多重信号のディジタルサンプル列を処理するディジタルサンプル処理装置であって、前記多値光偏波多重信号の波長分散の補償処理を行う波長分散補償回路と、与えられる等化係数に基づいて、前記波長分散補償回路から出力された信号の偏波分離、偏波モード分散補償、及び残留信号歪み補償を行う等化処理回路と、前記等化処理回路から出力された信号の周波数オフセットを補償する周波数オフセット補償回路と、前記周波数オフセット補償回路から出力された信号のシンボル判定を行う信号判定回路と、前記周波数オフセット補償回路で用いる周波数オフセット値を、前記周波数オフセット補償回路の出力信号と前記信号判定回路の出力信号とを用いて演算する周波数オフセット演算回路と、前記等化処理回路で用いる等化係数を、前記信号判定回路の出力信号と前記周波数オフセット演算回路で演算された周波数オフセット値と前記等化処理回路の出力信号とを用いて演算する係数演算回路とを備え、前記係数演算回路は、前記多値光偏波多重信号の偏波成分であるY偏波の等化係数がX偏波の等化係数と相関を持たないように、X偏波成分を用いてY偏波成分を取得するように等化係数を算出することを特徴とするディジタルサンプル処理装置である。
【0017】
本発明は、上記の発明において、前記係数演算回路は、ディジタルサンプル列の2つの偏波成分の実部(Ich)、及び虚部(Qch)において別個に等化係数の誤差値を演算し、適応的に等化係数を更新し、前記等化処理回路は、前記係数演算回路で算出された等化係数を用いて出力信号のキャリア位相を復元することを特徴とする。
【0018】
本発明は、上記の発明において、前記周波数オフセット演算回路は、前記係数演算回路による等化係数演算の収束の初期段階では、前記信号判定回路の出力値の符号を用いて周波数オフセット値を算出することを特徴とする。
【0019】
また、上述した課題を解決するために、本発明は、多値光偏波多重信号を受信するコヒーレント受信器で、前記多値光偏波多重信号のディジタルサンプル列を処理するディジタルサンプル処理装置のコンピュータに、前記多値光偏波多重信号の波長分散の補償処理を行う波長分散補償機能、前記波長分散補償機能で得られた出力信号の偏波分離、偏波モード分散補償、及び残留信号歪み補償を行う等化処理機能、前記等化処理機能で得られた出力信号の周波数オフセットを補償する周波数オフセット補償機能、前記周波数オフセット補償機能で得られた出力信号のシンボル判定を行う信号判定機能、前記周波数オフセット補償で用いる周波数オフセット値を、周波数オフセット補償機能で得られた出力信号と前記信号判定機能で得られた出力信号とを用いて演算する周波数オフセット演算機能、前記信号判定機能で得られた出力信号と前記周波数オフセット演算機能で算出された周波数オフセット値と前記等化処理機能で得られた出力信号とを用いて、前記多値光偏波多重信号の偏波成分であるY偏波の等化係数がX偏波の等化係数と相関を持たないように、X偏波成分を用いてY偏波成分を取得するようにして、前記等化処理機能で用いる等化係数を算出する係数演算機能を実行させることを特徴とするプログラムである。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、回路構成を簡素化することができ、また、同一の偏波を捕捉することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態による光コヒーレント受信機の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態によるループフィルタの構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態による光コヒーレント受信機の動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態による偏波多重16QAM信号の復調後コンスタレーションを示す図である。
【図5】本発明の実施形態による偏波多重64QAM信号の復調後コンスタレーションを示す図である。
【図6】本発明の実施形態による偏波多重16QAM信号の伝送実験結果を示す図である。
【図7】従来の光多値偏波多重信号の受信機の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0023】
本発明は、バタフライ型FIRフィルタ回路のタップ係数演算回路に、キャリア位相が再生可能なブラインドアルゴリズム(例えば、MMA:Multi-modulus Algorithm)を用いて初期収束を行うことを特徴とする。MMAを用いることで、FIRフィルタ出力段で、位相オフセットが補償され、DD−LMSに切り替えた後も、周波数オフセット演算回路は同じアルゴリズムのまま動作を続けることになる。また、X偏波側タップ係数演算回路の結果をY偏波側のタップ係数演算回路で用いることを特徴とする。これにより、同一の偏波を捕捉することを防ぐという効果を奏する。以下、詳細に説明する。
【0024】
まず、本実施形態の説明において使用する変数、定数及び記号を示す。
(t),Y(t):波長分差補償回路の出力信号
(t),Y(t):バタフライ型FIRフィルタ回路の出力信号
(t),Y(t):周波数オフセット補償回路の出力信号
xx,Hxy,Hyx,Hyy:バタフライ型FIRフィルタのタップ係数
μ:タップ係数のステップサイズ
ε,ε:X偏波及びY偏波における誤差信号
θxn,θyn:X偏波及びY偏波に対する位相を補正する値
η:時刻の経過により減衰する実数係数
εpol:誤差信号
ν:忘却係数
α(n):X偏波出力とY偏波出力との相関値
(n),S(n):判定回路の出力信号
φ(n),φ(n):位相検出回路の出力信号
φxn,φyn:NCO(Numerically-Controlled Oscillator)への入力信号
K1,K2:位相検出回路における比例経路、積分経路のゲイン
R:等化する信号の多値数に応じた定数
【0025】
図1は、本発明の実施形態による光コヒーレント受信機の構成例を示すブロック図である。なお、図7に対応する部分には同一の符号を付けて説明を省略する。光伝送路を介して光フロントエンドに入力された偏波多重光信号は、A/D変換器1〜4において、2サンプル/シンボルでディジタル複素信号列に変換される。ディジタル複素信号列は、波長分散補償回路5に入力され、光伝送路上で受けた波長分散の影響を補償する。
【0026】
より具体的には、波長分散補償回路5は、例えば、波長分散量から波長分散の伝達関数を演算し、周波数領域で等化を行う。また、波長分散の伝達関数からそのインパルスレスポンスを演算し、時間領域のFIRフィルタで波長分散の補償を行ってもよい。波長分散補償回路5から出力されたディジタル複素信号列は、バタフライ型FIRフィルタ回路6に入力される。
【0027】
波長分散補償回路5から出力される各偏波成分を、信号X(t),信号Y(t)とし、バタフライ型のFIRフィルタの各成分を、Hxx,Hxy,Hyx,Hyyと置くと、バタフライ型FIRフィルタ回路6から出力される信号X(t),信号Y(t)は、次式(1)で与えられる。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、タップ係数Hxx,Hxy,Hyx,Hyyにより表される行列Hは、タップ数LのFIRフィルタを示す行列であり、タップ係数Hxx,Hxyには、タップ係数演算回路20で逐次演算されたタップ係数が設定され、タップ係数Hyx,Hyyには、タップ演算回路21で逐次演算されたタップ係数が設定される。このバタフライ型FIRフィルタ回路6により、偏波多重信号の成分分離、偏波モード分散による歪み等化、光フィルタや、フロントエンドでの信号歪み要因の等化が行われる。
【0030】
次に、周波数オフセット補償回路15、16は、各々、周波数オフセット演算回路22、23で演算された周波数オフセット値を用いて、バタフライ型FIRフィルタ回路6から出力されたディジタル複素信号列X,Yの周波数オフセットを補償し、最後に判定回路13、14によってシンボル点が判定される。
【0031】
次に、本実施形態によるタップ係数演算回路20、21のアルゴリズム切り替えと周波数オフセット補償とについて説明する。タップ係数演算回路20、21では、キャリア位相が再生可能なブラインドアルゴリズム、例えば、MMA(Multi-modulus Algorithm)を用いて初期収束を行う。ここで、タップ係数演算回路21では、X偏波側のタップ係数演算回路20の結果を用いて演算を実行し、同一の偏波成分補足を回避する。
【0032】
MMAを用いることで、バタフライ型FIRフィルタ回路6の出力信号は、自動的にキャリア位相がリカバリされた状態になる。光送信器の光源と受信機内の局部発振光源の周波数オフセットが残留しているため、周波数オフセット補償をバタフライ型FIR型フィルタ回路6の出力段で行う。
【0033】
タップ係数、及び周波数オフセット推定の収束後、DD−LMSアルゴリズムに移行する。MMAを用いて演算されるタップ係数は、入力信号列に対して多値信号のシンボル点を復元するので、DD−LMSにアルゴリズムを切り替えた時に、等化係数をそのまま引き継ぐことができる。
【0034】
DD−LMSに移行した際も、周波数オフセット推定のアルゴリズム切り替えを行う必要はなく、周波数オフセット演算回路22、23は、動作を続け、MMA動作時と同様に周波数オフセットを補償する。
【0035】
タップ係数演算回路20、21で用いる更新式は、数式(2)で与えられる。nは処理するディジタルサンプル列を表す。例えば、行列Hのタップ数が5の場合、波長分散補償回路5の出力の複素共役X(n)は、長さ5の複素信号列ベクトルである。θxn,θynは、X偏波、Y偏波成分それぞれの周波数オフセット演算回路22、23で推定された位相補正項である。μは、係数更新のステップサイズである。ε,εは、誤差信号を表す。従来方式のように、図7(a)、(b)に示す位相オフセット補償回路9、10を別途設けなくても受信が可能になる。
【0036】
【数2】

【0037】
また、各偏波成分の判定回路13、14に入力される信号X,Yは、数式(3)で与えられる。
【0038】
【数3】

【0039】
本実施形態では、アルゴリズムによらず同一の更新式を用いるため、誤差信号ε,εy、及び周波数オフセット演算回路22、23で演算される位相補正項θxn,θynの演算式のみを、初期収束と収束後とで、下記に記述するように切り替えればよい。MMAを用いる場合の誤差信号は、数式(4)を用いて演算する。Re[]は、変数の実部、Im[]は、変数の虚部を出力する関数である。Rは定数で、等化する信号の多値数によって最適値が異なる。
【0040】
【数4】

【0041】
ここで本実施形態の特徴は、X偏波の出力信号Xを用いた数式(5)で表される誤差信号εpolをY偏波の誤差信号に加算することで、同一偏波の補足を回避するところにある。α(n)は、サンプルnにおける、X偏波出力とY偏波出力の相関を表す。ηは、時刻の経過により減衰する実数係数である。νは、1より小さい実数の忘却係数である。
【0042】
【数5】

【0043】
数式(5)では、1シンボルを用いて、同一偏波補足を回避するが、α(n)を拡張して前後の数シンボルのXを用いて誤差信号εpolを演算してもよい。MMAによりタップ係数が収束した後は、数式(6)に従うDD−LMSによりタップ係数の更新演算を行う。S(n),S(n)は、n番目のシンボルの判定回路13、14の出力結果を示す信号である。
【0044】
【数6】

【0045】
次に、周波数オフセット演算回路22、23について説明する。周波数オフセット演算回路22、23は、各々、位相検出回路22−1、23−1、ループフィルタ22−2、23−2、及びNCO(Numerically-Controlled Oscillator)22−3、23−3を備えている。
【0046】
図2は、本実施形態による周波数オフセット演算回路22、23のループフィルタ22−2、23−2の構成例を示すブロック図である。ループフィルタ22−2、23−2として、図2のような一般的なアクティブフィルタを用いる場合、NCO(Numerically-Controlled Oscillator)22−3、23−3に入力される信号φxn,φynは、数式(7)で与えられる。
【0047】
【数7】

【0048】
φ,φは、位相検出回路22−1、23−1の出力である。K,Kは、アクティブフィルタのゲインで、Kは、比例経路、Kは、積分経路のゲインである。K,Kを調整することにより、補償可能な周波数オフセット量、及び収束時間を設定することができる。NCO22−3、23−3の出力位相θxn,θynは、φxn,φynをそれぞれ時間積分して得られる。
【0049】
本実施形態では、収束速度を早めるため、位相検出回路22−1、23−1は、周波数オフセット推定値の収束状態により位相検出方法を切り替える。周波数オフセット推定値が真の値より離れている場合、判定回路13、14の出力の信頼度が低い。このときは、判定回路13、14の出力の符号を用いて、数式(8)に従って位相を検出する。Sign()は、変数の符号を出力する関数である。
【0050】
【数8】

【0051】
周波数オフセット値、及び等化フィルタの係数がある程度収束し、判定回路13、14の出力の信頼度が向上したときには、位相検出回路22−1、23−1は、数式(9)に従い、精度良く位相誤差を検出し、周波数オフセット推定の精度を向上させる。
【0052】
【数9】

【0053】
図3は、本発明の実施形態による光コヒーレント受信機の動作を説明するためのフローチャートである。まず、波長分散補償回路5は、A/D変換器1〜4で2サンプル/シンボルでディジタル複素信号列に変換された光信号の波長分散の補償処理を行う(ステップS1)。次に、バタフライ型FIRフィルタ回路6は、所定の等化係数に従って、波長分散補償回路5から出力される信号の偏波分離、偏波モード分散補償、及び残留信号歪み補償を行う(等化処理)(ステップS2)。
【0054】
次に、周波数オフセット補償回路15、16は、上記等化処理された信号の周波数オフセットを補償し(ステップS3)、判定回路13、14は、周波数オフセット補償された信号のシンボル判定を行う(ステップS4)。次に、周波数オフセット演算回路22、23は、周波数オフセット補償で用いる周波数オフセット値を、周波数オフセット補償回路15、16の出力信号と判定回路13、14の出力信号(シンボル判定結果)とを用いて演算する(ステップS5)。
【0055】
そして、タップ係数演算回路20、21は、判定回路13、14の出力信号(シンボル判定結果)と周波数オフセット演算回路22、23で推定された周波数オフセット値とバタフライ型FIRフィルタ回路6の出力信号とを用いて、等化処理で用いる等化係数を演算する(ステップS6)。このとき、タップ係数演算回路21は、Y偏波の等化係数がX偏波の等化係数と相関を持たないように、X偏波側のタップ係数演算回路20の出力を用いて、偏波多重信号の異なる偏波成分であるY偏波成分を取得するように等化係数を演算する。これにより、同一の偏波成分補足を回避する。
【0056】
図4、及び図5は、本実施形態よる、160Gb/s、16QAM信号、及び240Gb/s、64QAM信号の偏波多重信号を復調したコンスタレーションを示す図である。また、図6は、本実施形態よる、160Gb/sの偏波多重16QAM信号を用いた伝送実験の結果を示す図ある。誤り訂正符号(FEC)の閾値である9.1dBを3120km伝送後で超えており、長距離伝送後でも品質良く多値信号を受信できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明によれば、コヒーレント光伝送システムにおいて、既知信号を用いずに多値光偏波多重信号を同一偏波補足せずに高品質で受信できる。
【符号の説明】
【0058】
1〜4 A/D
5 波長分散補償回路
6 バタフライ型FIRフィルタ回路
13、14 判定回路
15、16 周波数オフセット補償回路
20、21 タップ係数演算回路
22、23 周波数オフセット演算回路
22−1、23−1 位相検出回路
22−2、23−2 ループフィルタ
22−3、23−3 NCO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多値光偏波多重信号を受信するコヒーレント受信器で、前記多値光偏波多重信号のディジタルサンプル列を処理する方法であって、
前記多値光偏波多重信号の波長分散の補償処理を行う波長分散補償ステップと、
前記波長分散補償ステップから出力された信号の偏波分離、偏波モード分散補償、及び残留信号歪み補償を行う等化処理ステップと、
前記等化処理ステップで得られた出力信号の周波数オフセットを補償する周波数オフセット補償ステップと、
前記周波数オフセット補償ステップで得られた出力信号のシンボル判定を行う信号判定ステップと、
前記周波数オフセット補償ステップで用いる周波数オフセット値を、前記周波数オフセット補償ステップで得られた出力信号と前記信号判定ステップで得られた出力信号とを用いて演算する周波数オフセット演算ステップと、
前記等化処理ステップで用いる等化係数を、前記信号判定ステップにより得られた出力信号と前記周波数オフセット演算ステップで算出された周波数オフセット値と前記等化処理ステップで得られた出力信号とを用いて算出する係数演算ステップと
を含み
前記係数演算ステップは、
前記多値光偏波多重信号の偏波成分であるY偏波の等化係数がX偏波の等化係数と相関を持たないように、X偏波成分を用いてY偏波成分を取得するように等化係数を算出する
ことを特徴とするディジタルサンプル処理方法。
【請求項2】
前記係数演算ステップは、
ディジタルサンプル列の2つの偏波成分の実部(Ich)、及び虚部(Qch)において別個に等化係数の誤差値を演算し、適応的に等化係数を更新し、
前記等化処理ステップは、
前記係数演算ステップで算出された等化係数を用いて出力信号のキャリア位相を復元する
ことを特徴とする請求項1記載のディジタルサンプル処理方法。
【請求項3】
前記周波数オフセット演算ステップは、
等化係数演算の収束の初期段階では、信号判定ステップの出力値の符号のみを用いて周波数オフセット値の推定を行う
ことを特徴とする請求項2記載のディジタルサンプル処理方法。
【請求項4】
多値光偏波多重信号を受信するコヒーレント受信器で、前記多値光偏波多重信号のディジタルサンプル列を処理するディジタルサンプル処理装置であって、
前記多値光偏波多重信号の波長分散の補償処理を行う波長分散補償回路と、
与えられる等化係数に基づいて、前記波長分散補償回路から出力された信号の偏波分離、偏波モード分散補償、及び残留信号歪み補償を行う等化処理回路と、
前記等化処理回路から出力された信号の周波数オフセットを補償する周波数オフセット補償回路と、
前記周波数オフセット補償回路から出力された信号のシンボル判定を行う信号判定回路と、
前記周波数オフセット補償回路で用いる周波数オフセット値を、前記周波数オフセット補償回路の出力信号と前記信号判定回路の出力信号とを用いて演算する周波数オフセット演算回路と、
前記等化処理回路で用いる等化係数を、前記信号判定回路の出力信号と前記周波数オフセット演算回路で演算された周波数オフセット値と前記等化処理回路の出力信号とを用いて演算する係数演算回路と
を備え、
前記係数演算回路は、
前記多値光偏波多重信号の偏波成分であるY偏波の等化係数がX偏波の等化係数と相関を持たないように、X偏波成分を用いてY偏波成分を取得するように等化係数を算出する
ことを特徴とするディジタルサンプル処理装置。
【請求項5】
前記係数演算回路は、
ディジタルサンプル列の2つの偏波成分の実部(Ich)、及び虚部(Qch)において別個に等化係数の誤差値を演算し、適応的に等化係数を更新し、
前記等化処理回路は、
前記係数演算回路で算出された等化係数を用いて出力信号のキャリア位相を復元する
ことを特徴とする請求項4に記載のディジタルサンプル処理装置。
【請求項6】
前記周波数オフセット演算回路は、
前記係数演算回路による等化係数演算の収束の初期段階では、前記信号判定回路の出力値の符号を用いて周波数オフセット値を算出する
ことを特徴とする請求項5に記載のディジタルサンプル処理装置。
【請求項7】
多値光偏波多重信号を受信するコヒーレント受信器で、前記多値光偏波多重信号のディジタルサンプル列を処理するディジタルサンプル処理装置のコンピュータに、
前記多値光偏波多重信号の波長分散の補償処理を行う波長分散補償機能、
前記波長分散補償機能で得られた出力信号の偏波分離、偏波モード分散補償、及び残留信号歪み補償を行う等化処理機能、
前記等化処理機能で得られた出力信号の周波数オフセットを補償する周波数オフセット補償機能、
前記周波数オフセット補償機能で得られた出力信号のシンボル判定を行う信号判定機能、
前記周波数オフセット補償で用いる周波数オフセット値を、周波数オフセット補償機能で得られた出力信号と前記信号判定機能で得られた出力信号とを用いて演算する周波数オフセット演算機能、
前記信号判定機能で得られた出力信号と前記周波数オフセット演算機能で算出された周波数オフセット値と前記等化処理機能で得られた出力信号とを用いて、前記多値光偏波多重信号の偏波成分であるY偏波の等化係数がX偏波の等化係数と相関を持たないように、X偏波成分を用いてY偏波成分を取得するようにして、前記等化処理機能で用いる等化係数を算出する係数演算機能
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−199605(P2011−199605A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64339(P2010−64339)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】