ディジタル保護制御装置
【課題】A/D変換手段を複数備えて並列処理を実行するときに、アナログ信号処理回路のオフセット誤差、ゲイン誤差を補正する。
【解決手段】電力系統から得たアナログ信号をフィルタリングする複数のアナログフィルタ手段と、該手段の後段に設けられアナログフィルタリングされた信号をディジタル信号に変換する複数のA/D変換手段と、A/D変換手段からのディジタル信号をフィルタリングする複数のディジタルフィルタ手段とを備え、ディジタルフィルタ手段からのディジタル信号を用いて所定の保護継電演算アルゴリズムを実行するディジタル保護制御装置において、アナログフィルタ手段の前段に既知の大きさの直流信号を加え、A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる直流信号成分を抽出し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値を用いて複数備えたA/D変換手段の出力を補正する機能を備えた。
【解決手段】電力系統から得たアナログ信号をフィルタリングする複数のアナログフィルタ手段と、該手段の後段に設けられアナログフィルタリングされた信号をディジタル信号に変換する複数のA/D変換手段と、A/D変換手段からのディジタル信号をフィルタリングする複数のディジタルフィルタ手段とを備え、ディジタルフィルタ手段からのディジタル信号を用いて所定の保護継電演算アルゴリズムを実行するディジタル保護制御装置において、アナログフィルタ手段の前段に既知の大きさの直流信号を加え、A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる直流信号成分を抽出し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値を用いて複数備えたA/D変換手段の出力を補正する機能を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統を保護するディジタル保護制御装置に係り、特に入力したアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換手段を複数備えたディジタル保護制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル保護制御装置では、電力系統のアナログ信号をディジタルデータに変換し、このディジタルデータに対してディジタルフィルタ演算処理を行い、ディジタルフィルタ演算処理の結果得られたデータを基に保護リレー演算処理を行い、リレー演算処理結果を基に電力系統に設置された遮断器の開閉操作を行う。
【0003】
係る機能の実現のために、従来のディジタル保護制御装置では、特許文献1に記載のように、信号入力部分に、アナログ入力部、折り返し誤差防止用のアナログフィルタ、サンプルホールド回路、マルチプレクサ、A/D変換器及びバッファを備えている。そして、電力系統からの複数の入力信号をマルチプレクサにより所定周期で切り替え、所定周期毎にサンプルホールドされているアナログ信号をディジタルデータにA/D変換してディジタル信号処理する。
【0004】
このように、特許文献1に記載の従来のディジタル保護制御装置では、要するに複数の入力に対して1つのA/D変換器を備え、マルチプレクサにより所定周期で切り替えてA/D変換を実施している。
【0005】
しかし、マルチプレクサを用いた手法では、複数のアナログ入力に対して時分割で処理するため、A/D変換のタイミングがアナログ入力チャンネル毎に異なることから保護制御演算に誤差が生じるという問題がある。
【0006】
このため、特許文献2に記載のように、複数のアナログ信号を、複数備えたA/D変換手段を用いることで並列的にディジタルデータに変換する手法が提案されている。但し、特許文献2は一般の入力回路を記載したものであり、ディジタル保護制御装置を適用事例として記載されたものではない。
【0007】
ところで、ディジタル保護制御装置の信号入力部分の健全性を判断する手法として、幾つかのものが知られている。
【0008】
例えば特許文献3では、基本的に特許文献1のように構成された信号入力部分(1つのA/D変換器を備え、マルチプレクサにより所定周期で切り替えてA/D変換を実施)を備えるディジタル保護制御装置において、そのアナログ入力部に、外部生成した信号を含有させる手法を紹介している。具体的には、fn高調波信号をアナログ入力部に重畳させ、A/D変換されたディジタル信号からディジタルフィルタを用いてfn高調波信号を抽出し、抽出したfn高調波信号を重畳させた信号と比較する。
【0009】
特許文献4では、基本的に特許文献1のように構成された信号入力部分(1つのA/D変換器を備え、マルチプレクサにより所定周期で切り替えてA/D変換を実施)を備えるディジタル保護制御装置において、そのA/D変換手段の出力レベルを補正する。具体的には、アナログ信号処理回路に一般的に用いられているアナログフィルタ(オペアンプ)の出力側に重畳する直流成分をディジタル変換後の信号からディジタルフィルタを用いて抽出し、この抽出した直流成分をディジタル信号から減算する。
【0010】
また特許文献5では、基本的に特許文献1のように構成された信号入力部分(1つのA/D変換器を備え、マルチプレクサにより所定周期で切り替えてA/D変換を実施)を備えるディジタル保護制御装置において、高精度発信器を用い入力変換器とマルチプレクサに基準信号を入力しアナログ信号処理回路を介し変換されたディジタル信号を基準信号と比較し、ディジタル信号のオフセット誤差、ゲイン誤差、位相誤差を調整する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−312551号公報
【特許文献2】特開2002−94379号公報
【特許文献3】特開2007−312525号公報
【特許文献4】特開2000−312431号公報
【特許文献5】特開平9−149536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明においては、ディジタル保護制御装置の入力部分を特許文献2の構成としたい。つまり、複数のA/D変換手段を備えて並列的にディジタルデータに変換する構成としたい。しかし、この場合にも解決すべき技術課題があり、それは複数備えたA/D変換手段の基板配置の違いや温度特性の違い、更にはA/D変換手段の特性のバラツキにより、A/D変換手段の間の出力値に誤差が発生するという問題である。この誤差は、A/D変換処理結果に基づいて行う保護制御演算結果が整定値に対して無視できないほど大きく、最悪の場合ディジタル保護制御装置の誤出力にいたるという可能性がある。
【0013】
このA/D変換手段の間の出力値に誤差が発生するという問題は、1つのA/D変換手段を備えて切替使用する特許文献1、3,4,5には存在し得ない課題である。そのうえ、特許文献1、3,4,5に記載の手法を適用しても解決することができない問題である。
【0014】
例えば、特許文献3に記載された手法では、高調波成分の周波数特性及びゲインが、オペアンプで構成されるアナログフィルタの影響で変化してしまう為、ディジタル信号から抽出したfn高調波信号のレベルは小さくなり、アナログ信号処理回路の出力レベルの補正や品質や経年劣化などのハードウェア状態の判断材料に用いることができなかった。
【0015】
特許文献4に記載の手法では、出力信号に重畳するオフセット分(直流成分)の補正は可能であるが、アナログフィルタや複数備えたA/D変換手段の間の出力レベルを補正することができなかった。
【0016】
また、特許文献5に記載の手法では、試験調整の段階で最初の一回のみ調整するので、アナログフィルタやA/D変換手段の温度特性や経年劣化による変化が考慮されておらず、装置運用状態や外部環境の変化による特性の変化に随時対応した補正手段となっていなかった。
【0017】
本発明の目的は、A/D変換手段を複数備えて並列処理を実行するときに、夫々のA/D変換処理誤差を連続して補正することによりアナログ信号処理回路のオフセット誤差、ゲイン誤差を補正することが可能なディジタル保護制御装置を提供する。
【0018】
また本発明の実施例による他の目的は、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質(性能)の判断が可能なディジタル保護制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明は電力系統から得たアナログ信号をフィルタリングする複数のアナログフィルタ手段と、該手段の後段に設けられアナログフィルタリングされた信号をディジタル信号に変換する複数のA/D変換手段と、A/D変換手段からのディジタル信号をフィルタリングする複数のディジタルフィルタ手段とを備え、ディジタルフィルタ手段からのディジタル信号を用いて所定の保護継電演算アルゴリズムを実行するディジタル保護制御装置において、アナログフィルタ手段の前段に既知の大きさの直流信号を加え、A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる直流信号成分を抽出し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値を用いて複数備えたA/D変換手段の出力を補正する機能を備えた。
【0020】
また、A/D変換手段の出力を補正する処理は、複数備えたA/D手段のそれぞれに対して実施される。
【0021】
また、複数備えたA/D変換手段の出力を補正する処理は、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分が所定の閾値内にあるときに実行し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値がかけ離れているときには実行しない。
【0022】
また、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値がかけ離れているときには、所定の保護継電演算アルゴリズムの結果を利用しない。
【0023】
また、A/D変換手段の出力ゲイン補正は、アナログフィルタ手段とA/D変換手段とを含むアナログ信号処理回路の異常検出時には行わない。
【0024】
また、ディジタルフィルタ手段は、高調波成分除去機能と直流成分除去機能を備えている。
【0025】
また、アナログフィルタ手段の前段に高調波信号を加え、A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる高調波信号成分を抽出し、ハードウェアの異常を監視する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、複数備えたA/D変換手段の出力を補正する機能及び、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質状態の判断機能をそなえる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のディジタル保護制御装置の一実施例を示すブロック構成図。
【図2】ディジタル保護制御装置の処理機能を示すフロー図。
【図3a】ディジタルフィルタで抽出した直流成分信号のゲイン特性例を示す図。
【図3b】高調波と直流成分を除去した後のを介したディジタル信号を示す図。
【図3c】ディジタル信号を補正した波形例を示す図。
【図3d】減衰する直流成分信号のゲイン特性例を示す図。
【図3e】ゲインが減衰するときのディジタル信号の波形例を示す図。
【図3f】減衰したディジタル信号をゲイン補正した波形例を示す図。
【図4a】直流成分信号を含む高調波重畳信号のディジタル信号の波形例を示す図。
【図4b】ディジタルフィルタで抽出したfn高調波信号の波形例を示す図。
【図4c】ディジタルフィルタで抽出した直流成分信号の波形例を示す図。
【図5a】アナログ及びディジタルフィルタとサンプリング周波数の関係を示す図。
【図5b】アナログフィルタとノイズ除去ディジタルフィルタの周波数特性を示す図。
【図5c】高調波除去ディジタルフィルタと直流成分除去ディジタルフィルタの周波数特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図示した実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0029】
図1は、本発明のディジタル保護制御装置の実施例を示すブロック構成図である。本発明のディジタル保護制御装置1000では、大前提としてA/D変換手段を複数備えている。
【0030】
ディジタル保護制御装置1000には、図示せぬ保護対象電力系統の電流、電圧を電圧変成器PT,変流器CTで検出した系統信号が、入力変換器10a〜10mにより電子回路で取り扱いやすい数Vの電圧信号に変換されて取り込まれている。また、取り込まれた数Vの電圧信号は、サンプリングによる折り返し防止用の複数のアナログフィルタ210a〜210mを介して、複数のA/D変換手段220a〜220p(例えばマルチチャンネルA/D変換器)に取り込まれ、ディジタル信号に変換される。
【0031】
なお、各アナログフィルタ210a〜210mは、サンプリング時の折り返し誤差を防止するために高周波領域を低減させるローパスフィルタ、例えば一次遅れ要素のローパスフィルタで構成されている。
【0032】
各A/D変換手段220a〜220pは、タイミング制御回路120からのA/D変換開始信号120aに従い、各アナログフィルタ210a〜210mを通過した信号を同タイミングでディジタル化し、ディジタルデータをディジタルフィルタ230に出力する。ディジタルフィルタ230では、高調波成分と直流成分を除去するが、このことについては図5を用いて後述する。
【0033】
本発明においては、A/D変換手段を複数備えたうえで、更にA/D変換手段220a〜220pの前段に、既知の入力値を入力する。既知の入力値を入力する目的は、A/D変換手段220a〜220pの出力ゲイン補正を行う為である。既知の入力とは、直流成分信号生成回路100において生成させた直流成分信号100a(例えば0.5V程度の電圧)であり、これを加算回路ADa〜ADmにおいて入力変換器10a〜10mの出力に加算し、各アナログフィルタ210a〜210mを介して、A/D変換手段に既知の入力値として入力する。
【0034】
なお、図1の実施例では、参考としてfn(n:高調波次数)高調波信号生成部110においてfn高調波信号110aを発生させ、これを加算回路ADa〜ADmにおいて入力変換器10a〜10mの出力に加算している。この回路手法は、特許文献3で紹介された手法であり、アナログフィルタ210a〜210m以降のアナログ信号処理回路の健全性を確認するために従来から用いられているが、本発明で対策しようとしているA/D変換手段の出力ゲイン補正には効力を発揮し得ない。
【0035】
特許文献3のfn高調波信号が、本発明の目的とするA/D変換手段の出力ゲイン補正のための既知の入力として用いることができない理由は、高調波成分の周波数特性及びゲインがオペアンプで構成されるアナログフィルタ210a〜210mの影響で変化してしまうことにある。この為、ディジタル信号から抽出したfn高調波信号のレベルが小さくなり、既知の入力に対して比較することができないからである。
【0036】
これに対し、直流成分信号100a(例えば0.5V程度の電圧)は、オペアンプで構成されるアナログフィルタによって周波数特性及びゲインが変化しないという特徴がある。このため、A/D変換後のディジタル信号から抽出した直流成分信号と、直流成分信号生成回路100で生成した直流成分信号100aの比較によってA/D変換手段の入出力レベルを知ることができ、A/D変換手段の入出力レベルを用いてA/D変換手段の出力レベルの補正が可能となる。また。抽出した直流成分信号のレベルを常時監視することで、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質(性能)の判断が可能となる。
【0037】
直流成分信号生成部100から生成される直流成分信号100aは、fn高調波信号生成部110から生成されるfn高調波信号110aと加算回路AD0において加算された後に、入力変換器10a〜10mにおいて変換された電力系統の電圧信号と加算回路ADa〜ADmにおいて重畳される。
【0038】
この直流成分信号を含む高調波重畳信号101a〜101mは、アナログフィルタ210a〜210mを介してA/D変換手段220a〜220pに与えられてディジタル変換される。その後、ディジタルフィルタ230において、保護リレー演算、常時監視処理、A/D変換手段の出力レベルの補正に用いられるデータが抽出され、順次バッファメモリ240に格納される。
【0039】
ディジタルフィルタ230は、k倍のオーバーサンプリングでA/D変換手段220a〜220pを動作させた場合、kサンプル移動平均化のディジタルフィルタとなり、タイミング制御回路120のディジタルフィルタ演算制御信号120bに従いディジタルフィルタ処理が実行される。図2を用いて後述するが、ディジタルフィルタ230は高調波重畳信号からfn調波信号の抽出、直流成分信号の抽出、高調波信号と直流成分信号の除去するための機能を備えている。
【0040】
ディジタルフィルタ230の出力データは、順次バッファメモリ240に格納される。バッファメモリ240への書き込み動作は、タイミング制御回路120からの書き込み信号及び書き込みアドレス信号120cに従う。A/D変換手段220a〜220mとディジタルフィルタ230の動作タイミングは、オシレータ130をクロック源として基本サンプリング周波数fsのそれぞれo倍で動作し、バッファメモリ240のデータ書き込みタイミングは基本サンプリング周波数fsで動作し、それぞれの動作が同期するようにタイミング制御回路120で制御する。
【0041】
バッファメモリ240にデータ書き込み後、タイミング制御回路120はCPU260にフィルタ処理及び保護演算開始信号を示す割込信号120dを出力する。
【0042】
CPU260は、タイミング制御回路120から繰り返し出力される割込信号120dに応答し、システムバス250を経由してバッファメモリ240からデータを読み出して、電力系統の信号に重畳する高調波信号及び、直流成分信号を除去するディジタルフィルタ処理と保護演算・シーケンス処理を行い、処理結果から入出力部310を介して、外部装置410に対し入出力制御を実行する。また、ディジタル保護制御装置の装置状態は通信部320を介し、インタフェース用PC420に通信される。
【0043】
バッファメモリ240の読み書きはタイミング制御回路120からの信号に従い、システムバス250を通してCPU260や通信部320、入出力部310、メインメモリ330とやり取りできるものである。
【0044】
上記の処理を通じてCPU260は、システムバス250を介して、入出力部310、通信部320、メインメモリ330、外部装置410、インタフェース用PC420などに接続され、保護リレー演算結果により外部装置410により電力系統の遮断器を開閉操作し、常時監視処理、A/D変換手段の出力レベルの補正結果などとともにインタフェース用PC420の画面に表示する。なお、図1に示す構成要素は、1枚のプリント基板1000に搭載される。
【0045】
図2は、図1のディジタル保護制御装置の処理機能を示すフロー図である。この図を用いて、特にディジタルフィルタとCPUで実施している処理を説明する。
【0046】
図2によれば、まずステップS11においてA/D変換手段220a〜220pの出力であるディジタル値V1〜Vmを取り込む。取り込んだディジタル値V1〜Vmを用いて、ディジタルフィルタ230において3つの処理を実行する。
【0047】
第1の処理は、保護リレー演算に使用する信号を抽出することであり、電力系統の基本周波数成分のみを抽出する。例えば基準周波数が50Hzであれば、50Hz以外の周波数成分を除去する。具体的にはステップS21においてノイズ成分を除去し、ステップS24において高調波成分を除去しステップS25において直流成分を除去することで、電力系統の基本周波数成分のみを抽出する。なお、これらの一連の処理によって、加算回路ADa〜ADmを介して注入されたfn高調波信号110aと直流成分信号100aも除外されていることは言うまでもない。
【0048】
ディジタルフィルタ230における第2の処理は、加算回路ADa〜ADmを介して注入した直流成分信号100aのみを再現する処理であり、ステップS23において直流成分のみ導出する。尚、再現された直流成分は、オペアンプで構成されたアナログフィルタやA/D変換手段におけるゲイン特性の影響を受けていると考えられ、入力した0.5ボルトの大きさが変化していると考えられる。このため、直流成分の入力と出力の比を確認することで、回路のゲインが明確になる。
【0049】
ディジタルフィルタ230における第3の処理は、加算回路ADa〜ADmを介して注入したfn高調波信号110aのみを再現する処理であり、ステップS22においてfn高調波成分のみ導出する。
【0050】
尚、第2の処理に関し、具体的には以下のようにして実現することができる。直流成分検出処理(ステップS23)では、ノイズ除去ディジタルフィルタ演算(ステップS21)を介し、デシメーションによりサンプリング周波数fs2(4800Hz)に変換されたディジタルデータからA/D変換手段の出力レベルの補正に用いる直流成分信号の抽出を行う。直流成分信号の抽出には例えばFFT演算(高速フーリエ変換)を行い抽出する。抽出した直流成分信号はNサンプル分(今回の例ではN=8)の移動平均化され、CPU260内のゲイン演算(ステップS27)で直流成分信号とされる。
【0051】
ディジタルフィルタ230における以上の3つの処理は、要するにアナログ信号処理回路のハードウェア健全性の確認に用いるfn高調波信号を導出すること(第3の処理)、A/D変換手段の出力レベルを補正するために用いる直流成分信号を導出すること(第2の処理)、並びにディジタルデータから高調波信号や直流成分信号を除去して、電力系統信号のディジタルデータを生成すること(第1の処理)である。
【0052】
次に、以上の検出あるいは演算の結果を受けて実行されるCPU260内での処理フローについて説明する。
【0053】
まず、ゲイン演算(ステップS27)では、直流成分検出(ステップS23)により抽出した直流成分信号を用いて、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質状態の判断を行い、出力ゲイン補正(ステップS26)によりA/D変換手段の出力レベルの補正を行う。ゲイン演算(ステップS27)と、出力ゲイン補正(ステップS26)の手順について、図3を用いて詳述する。
【0054】
図3aは、ディジタルフィルタで例えばフーリエ変換により抽出した直流成分信号のゲイン特性例を示す図である。横軸に時間、縦軸に大きさを示したものであり、直流成分検出(ステップS23)によって抽出した直流成分信号のゲイン値を示す。点線の基準ゲイン(1.0)に対して、実際の直流成分としては実線の大きさが検出されたものとする。この場合、CPU260内で保護継電演算に使用するデータの大きさとしては、補正をかける必要がある。
【0055】
この直流成分信号のゲイン値は、Nサンプル(今回の例ではN=8)で移動平均化されたものであり、サンプリング周波数fs3(600Hz)のタイミングで出力されゲイン演算(ステップS27)で処理される。ゲイン演算(ステップS27)では、1/600(s)毎に随時更新される直流成分信号のゲイン値に対し、予め設定された閾値と比較することで直流成分信号のゲイン値が正常かどうか判断を行う。なお、サンプリング周波数fs3が600Hzであるということは、交流電力系統の50Hzの電圧、電流に対して、その1周期ないで12回のサンプリングを実行することを意味する。
【0056】
ステップS33では直流成分信号のゲイン値と閾値を比較し、閾値を越える場合には、ゲインが正常ではないので出力処理(ステップS28)に移り、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質状態の低下に応じた警報情報を、図1の通信部320を用いてインタフェース用PC420に出力する。閾値以内であれば正常と考えられるので出力ゲイン補正(ステップS26)において、高調波除去ディジタルフィルタ演算(ステップS24)と直流成分除去用ディジタルフィルタ演算(ステップS25)を介したディジタル信号に対して出力レベルの補正を行う。
【0057】
出力ゲイン補正(ステップS26)では、高調波除去ディジタルフィルタ演算(ステップS24)と直流成分除去用ディジタルフィルタ演算(ステップS25)を介したディジタル信号をS、直流成分信号のゲインをG、出力レベルを補正したディジタル信号をH)H=S/Gの計算式によってディジタル信号の出力レベルを補正する。
【0058】
図3bは、高調波と直流成分を除去した後のディジタル信号を示す図である。ここでは説明の都合上、ディジタル信号を時間軸上にアナログの交流信号として表記している。本来の基準ゲインであれば点線の大きさに観測されるべきところ、実線が計測されている。
【0059】
図3cは、上記した出力ゲイン補正(ステップS25)によって、A/D変換手段の出力レベルを補正したディジタル信号を示す図である。つまり、図3aのゲインを、図3bの計測信号に対して補正することで、図3cのゲイン補正信号を得たことを示している。
【0060】
図3a,b,cでは、ゲインが時間経過に対して一定であることを前提に波形を示したが、実際には時間経過と共にゲイン変化すると考えられる。図3d、e、fは、ゲインが時系列的に変化(この場合には減衰が増大する方向への変化)するときの各部波形を示している。
【0061】
図3dのように、直流成分信号のゲイン値が減衰していく場合には、例えば1/600(s)毎に随時更新される直流成分信号のゲイン値を用いて出力レベルの補正を行えば、図3eのように経年劣化や温度特性などによって随時変化するA/D変換手段の出力レベルの変化に対しても、図3fに示す図のように出力レベルの補正を行い、理想的なA/D変換手段の出力値を得ることが可能である。なお、図3dにおいて、ゲインが減衰した結果閾値を逸脱する場合には、図2のステップS28において警告出力を行う。
【0062】
また、ステップS34において、アナログ信号処理回路やCPU等の常時監視不良時や、直流成分信号のゲイン値が閾値を越える場合に該当するかを判断し、この事態に該当する場合にはゲイン補正を中止(ステップS33)し、出力ゲイン補正(ステップS26)を行わないものとする。これにより、前記異常時には高調波除去ディジタルフィルタ演算(ステップS24)と直流成分除去用ディジタルフィルタ演算(ステップS25)を介したディジタル信号を用いてリレー演算(ステップS29)を行うため、前記異常時のゲイン補正によってリレー演算(ステップS29)に悪影響を与えないようにできる。
【0063】
図4aは、系統信号にfn高調波信号と直流成分信号が重畳した波形例、図4bはディジタルフィルタで抽出したfn高調波信号波形例、図4cは、ディジタルフィルタで抽出した直流成分信号波形例を各々示す。
【0064】
図4aは直流成分信号を含む高調波重畳信号101a〜101mがアナログフィルタ210a〜210mを介し、A/D変換手段220a〜220pによりディジタル変換されたディジタル信号の波形、図4bはディジタルフィルタ230によって抽出したfn高調波信号波形、図4Cはディジタルフィルタ230によって抽出した直流成分信号波形を示すものである。
【0065】
図4aでは電力系統から入力変換器(PT,CT)10a〜10mを通して変換された電圧信号に対し、fn高調波信号が重畳した様子と、直流成分信号がオフセット成分となって電圧信号に影響を与えている様子が示されている。図4b、図4cは直流成分信号を含む高調波重畳信号からディジタルフィルタ230によって抽出したfn高調波信号、直流成分信号が示されている。
【0066】
ステップS22において、ディジタルフィルタ230によって抽出したfn高調波信号は、ステップS30において実行地演算されてその信号レベルを導出し、ステップS31において常時監視し、ステップS32において出力処理がされることによりアナログ信号処置回路の健全性の判断に用いられる。
【0067】
同じくディジタルフィルタ230のステップS23において抽出した直流成分信号は、ステップS27において直流成分信号100aのレベルと比較することでステップS26のA/D変換手段の出力レベルの補正に用いられる。さらに、ステップS33において、抽出した直流成分信号のレベルを常時監視しステップS28において出力処理することでアナログ信号処理回路の経年劣化や品質状態の判断が可能となる。
【0068】
次に図5aを用いて、アナログ及びディジタルフィルタの構成とサンプリング周波数との関係を示す。この例では、アナログフィルタ210a〜210m、A/D変換手段220a〜220p、ノイズ除去ディジタルフィルタ21、デシメーション1、高調波除去ディジタルフィルタ24、直流成分除去ディジタルフィルタ25、デシメーション2がカスケードに接続されている。
【0069】
A/D変換手段220a〜220pとノイズ除去ディジタルフィルタ21は、サンプリング周波数fs1(4800Hz×k)で動作し、デシメーション1により信号は1/kに間引かれ、高調波除去ディジタルフィルタと直流成分除去ディジタルフィルタ25はサンプリング周波数fs2(4800Hz)で動作する。
【0070】
さらにデシメーション2により信号は1/8に間引かれ、CPU600による保護演算はサンプリング周波数fs3(600Hz)で動作する。以上のfs1、fs2及びfs3のサンプリング周波数は電力系統の周波数が50Hzのときであり、60Hzの時は各々1.2倍となる。
【0071】
図5bに、アナログフィルタ210a〜210mとノイズ除去ディジタルフィルタ21の特性を示す。アナログフィルタ210a〜210mは、A/D変換手段のサンプリング周波数fs1の折り返しノイズ領域を除去するためfs1を基準に減衰させる特性となり、ディジタルフィルタは、次段のサンプリング周波数fs2の折り返しノイズ領域を除去するため、fs2を基準に減衰させる特性になっている。
【0072】
図5cに、高調波除去ディジタルフィルタ24の特性と直流成分除去ディジタルフィルタ25の特性を示す。高調波除去ディジタルフィルタ24と直流成分除去ディジタルフィルタ25は、高調波信号と直流成分信号の除去と次段サンプリング周波数fs3の折り返しノイズ領域を除去するためfs3を基準に減衰させる特性になっている。
【0073】
このように、デシメーションを複数設けて多段階なサンプリングレートになる構成において、次段のサンプリングによる折り返しノイズを除去するために、フィルタは次段のサンプリング周波数を基準に減衰させる特性としている。
【0074】
このように、A/D変換器手段220a〜220pとノイズ除去ディジタルフィルタ21は、基準サンプリング周波数fs2(4800Hz)に対してk倍のオーバーサンプリング周波数fs1で動作させ、ノイズ除去ディジタルフィルタ21の特性は、次段の基準サンプリング周波数fs2を基準にして折り返しノイズを除去する特性にする。
【0075】
その結果、アナログフィルタ210a〜210mは、基準サンプリング周波数のk倍以上の周波数領域を減衰させればよいので穏やかな周波数特性にでき、部品バラツキや素子の劣化による特性変動は、基本波である50Hz、60Hzにおいてほとんど発生しない。またアナログフィルタ210a〜210mは、遮断周波数が高いことから小容量なコンデンサを使用できる為に小型化が可能で、小型化に伴う高密度実装が可能となる。
【0076】
また、直流成分信号生成100で生成した直流成分信号100aは従来から備えるfn高調波信号110aや電力系統信号を入力変換器10a〜10mを通して変換した電圧信号に対して影響を与えない程度の電圧信号とし、検出したfn調波はfn実効値検出30を介し、アナログフィルタ210a〜210m以降のハードウェアの常時監視処理31と異常出力処理32機能を従来通り備えるものとする。
【符号の説明】
【0077】
10a〜10m:入力変換器
100:直流成分信号生成
100a:直流成分信号
110:fn高調波信号生成
110a:fn高調波信号
101a〜101m:直流成分信号を含む高調波重畳信号
120:タイミング制御回路
120a:A/D変換開始信号
120b:ディジタルフィルタ演算制御信号
120c:書き込み信号及び書き込みアドレス信号
120d:演算開始信号
130:オシレータ
210a〜210m:アナログフィルタ
220a〜220p:A/D変換手段
230:ディジタルフィルタ
240:バッファメモリ
250:システムバス
260:CPU
310:入出力部
320:通信部
330:メインメモリ
410:外部装置
420:インターフェース用PC
1000:プリント基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統を保護するディジタル保護制御装置に係り、特に入力したアナログ信号をディジタル信号に変換するA/D変換手段を複数備えたディジタル保護制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル保護制御装置では、電力系統のアナログ信号をディジタルデータに変換し、このディジタルデータに対してディジタルフィルタ演算処理を行い、ディジタルフィルタ演算処理の結果得られたデータを基に保護リレー演算処理を行い、リレー演算処理結果を基に電力系統に設置された遮断器の開閉操作を行う。
【0003】
係る機能の実現のために、従来のディジタル保護制御装置では、特許文献1に記載のように、信号入力部分に、アナログ入力部、折り返し誤差防止用のアナログフィルタ、サンプルホールド回路、マルチプレクサ、A/D変換器及びバッファを備えている。そして、電力系統からの複数の入力信号をマルチプレクサにより所定周期で切り替え、所定周期毎にサンプルホールドされているアナログ信号をディジタルデータにA/D変換してディジタル信号処理する。
【0004】
このように、特許文献1に記載の従来のディジタル保護制御装置では、要するに複数の入力に対して1つのA/D変換器を備え、マルチプレクサにより所定周期で切り替えてA/D変換を実施している。
【0005】
しかし、マルチプレクサを用いた手法では、複数のアナログ入力に対して時分割で処理するため、A/D変換のタイミングがアナログ入力チャンネル毎に異なることから保護制御演算に誤差が生じるという問題がある。
【0006】
このため、特許文献2に記載のように、複数のアナログ信号を、複数備えたA/D変換手段を用いることで並列的にディジタルデータに変換する手法が提案されている。但し、特許文献2は一般の入力回路を記載したものであり、ディジタル保護制御装置を適用事例として記載されたものではない。
【0007】
ところで、ディジタル保護制御装置の信号入力部分の健全性を判断する手法として、幾つかのものが知られている。
【0008】
例えば特許文献3では、基本的に特許文献1のように構成された信号入力部分(1つのA/D変換器を備え、マルチプレクサにより所定周期で切り替えてA/D変換を実施)を備えるディジタル保護制御装置において、そのアナログ入力部に、外部生成した信号を含有させる手法を紹介している。具体的には、fn高調波信号をアナログ入力部に重畳させ、A/D変換されたディジタル信号からディジタルフィルタを用いてfn高調波信号を抽出し、抽出したfn高調波信号を重畳させた信号と比較する。
【0009】
特許文献4では、基本的に特許文献1のように構成された信号入力部分(1つのA/D変換器を備え、マルチプレクサにより所定周期で切り替えてA/D変換を実施)を備えるディジタル保護制御装置において、そのA/D変換手段の出力レベルを補正する。具体的には、アナログ信号処理回路に一般的に用いられているアナログフィルタ(オペアンプ)の出力側に重畳する直流成分をディジタル変換後の信号からディジタルフィルタを用いて抽出し、この抽出した直流成分をディジタル信号から減算する。
【0010】
また特許文献5では、基本的に特許文献1のように構成された信号入力部分(1つのA/D変換器を備え、マルチプレクサにより所定周期で切り替えてA/D変換を実施)を備えるディジタル保護制御装置において、高精度発信器を用い入力変換器とマルチプレクサに基準信号を入力しアナログ信号処理回路を介し変換されたディジタル信号を基準信号と比較し、ディジタル信号のオフセット誤差、ゲイン誤差、位相誤差を調整する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−312551号公報
【特許文献2】特開2002−94379号公報
【特許文献3】特開2007−312525号公報
【特許文献4】特開2000−312431号公報
【特許文献5】特開平9−149536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明においては、ディジタル保護制御装置の入力部分を特許文献2の構成としたい。つまり、複数のA/D変換手段を備えて並列的にディジタルデータに変換する構成としたい。しかし、この場合にも解決すべき技術課題があり、それは複数備えたA/D変換手段の基板配置の違いや温度特性の違い、更にはA/D変換手段の特性のバラツキにより、A/D変換手段の間の出力値に誤差が発生するという問題である。この誤差は、A/D変換処理結果に基づいて行う保護制御演算結果が整定値に対して無視できないほど大きく、最悪の場合ディジタル保護制御装置の誤出力にいたるという可能性がある。
【0013】
このA/D変換手段の間の出力値に誤差が発生するという問題は、1つのA/D変換手段を備えて切替使用する特許文献1、3,4,5には存在し得ない課題である。そのうえ、特許文献1、3,4,5に記載の手法を適用しても解決することができない問題である。
【0014】
例えば、特許文献3に記載された手法では、高調波成分の周波数特性及びゲインが、オペアンプで構成されるアナログフィルタの影響で変化してしまう為、ディジタル信号から抽出したfn高調波信号のレベルは小さくなり、アナログ信号処理回路の出力レベルの補正や品質や経年劣化などのハードウェア状態の判断材料に用いることができなかった。
【0015】
特許文献4に記載の手法では、出力信号に重畳するオフセット分(直流成分)の補正は可能であるが、アナログフィルタや複数備えたA/D変換手段の間の出力レベルを補正することができなかった。
【0016】
また、特許文献5に記載の手法では、試験調整の段階で最初の一回のみ調整するので、アナログフィルタやA/D変換手段の温度特性や経年劣化による変化が考慮されておらず、装置運用状態や外部環境の変化による特性の変化に随時対応した補正手段となっていなかった。
【0017】
本発明の目的は、A/D変換手段を複数備えて並列処理を実行するときに、夫々のA/D変換処理誤差を連続して補正することによりアナログ信号処理回路のオフセット誤差、ゲイン誤差を補正することが可能なディジタル保護制御装置を提供する。
【0018】
また本発明の実施例による他の目的は、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質(性能)の判断が可能なディジタル保護制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明は電力系統から得たアナログ信号をフィルタリングする複数のアナログフィルタ手段と、該手段の後段に設けられアナログフィルタリングされた信号をディジタル信号に変換する複数のA/D変換手段と、A/D変換手段からのディジタル信号をフィルタリングする複数のディジタルフィルタ手段とを備え、ディジタルフィルタ手段からのディジタル信号を用いて所定の保護継電演算アルゴリズムを実行するディジタル保護制御装置において、アナログフィルタ手段の前段に既知の大きさの直流信号を加え、A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる直流信号成分を抽出し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値を用いて複数備えたA/D変換手段の出力を補正する機能を備えた。
【0020】
また、A/D変換手段の出力を補正する処理は、複数備えたA/D手段のそれぞれに対して実施される。
【0021】
また、複数備えたA/D変換手段の出力を補正する処理は、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分が所定の閾値内にあるときに実行し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値がかけ離れているときには実行しない。
【0022】
また、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値がかけ離れているときには、所定の保護継電演算アルゴリズムの結果を利用しない。
【0023】
また、A/D変換手段の出力ゲイン補正は、アナログフィルタ手段とA/D変換手段とを含むアナログ信号処理回路の異常検出時には行わない。
【0024】
また、ディジタルフィルタ手段は、高調波成分除去機能と直流成分除去機能を備えている。
【0025】
また、アナログフィルタ手段の前段に高調波信号を加え、A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる高調波信号成分を抽出し、ハードウェアの異常を監視する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、複数備えたA/D変換手段の出力を補正する機能及び、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質状態の判断機能をそなえる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のディジタル保護制御装置の一実施例を示すブロック構成図。
【図2】ディジタル保護制御装置の処理機能を示すフロー図。
【図3a】ディジタルフィルタで抽出した直流成分信号のゲイン特性例を示す図。
【図3b】高調波と直流成分を除去した後のを介したディジタル信号を示す図。
【図3c】ディジタル信号を補正した波形例を示す図。
【図3d】減衰する直流成分信号のゲイン特性例を示す図。
【図3e】ゲインが減衰するときのディジタル信号の波形例を示す図。
【図3f】減衰したディジタル信号をゲイン補正した波形例を示す図。
【図4a】直流成分信号を含む高調波重畳信号のディジタル信号の波形例を示す図。
【図4b】ディジタルフィルタで抽出したfn高調波信号の波形例を示す図。
【図4c】ディジタルフィルタで抽出した直流成分信号の波形例を示す図。
【図5a】アナログ及びディジタルフィルタとサンプリング周波数の関係を示す図。
【図5b】アナログフィルタとノイズ除去ディジタルフィルタの周波数特性を示す図。
【図5c】高調波除去ディジタルフィルタと直流成分除去ディジタルフィルタの周波数特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図示した実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0029】
図1は、本発明のディジタル保護制御装置の実施例を示すブロック構成図である。本発明のディジタル保護制御装置1000では、大前提としてA/D変換手段を複数備えている。
【0030】
ディジタル保護制御装置1000には、図示せぬ保護対象電力系統の電流、電圧を電圧変成器PT,変流器CTで検出した系統信号が、入力変換器10a〜10mにより電子回路で取り扱いやすい数Vの電圧信号に変換されて取り込まれている。また、取り込まれた数Vの電圧信号は、サンプリングによる折り返し防止用の複数のアナログフィルタ210a〜210mを介して、複数のA/D変換手段220a〜220p(例えばマルチチャンネルA/D変換器)に取り込まれ、ディジタル信号に変換される。
【0031】
なお、各アナログフィルタ210a〜210mは、サンプリング時の折り返し誤差を防止するために高周波領域を低減させるローパスフィルタ、例えば一次遅れ要素のローパスフィルタで構成されている。
【0032】
各A/D変換手段220a〜220pは、タイミング制御回路120からのA/D変換開始信号120aに従い、各アナログフィルタ210a〜210mを通過した信号を同タイミングでディジタル化し、ディジタルデータをディジタルフィルタ230に出力する。ディジタルフィルタ230では、高調波成分と直流成分を除去するが、このことについては図5を用いて後述する。
【0033】
本発明においては、A/D変換手段を複数備えたうえで、更にA/D変換手段220a〜220pの前段に、既知の入力値を入力する。既知の入力値を入力する目的は、A/D変換手段220a〜220pの出力ゲイン補正を行う為である。既知の入力とは、直流成分信号生成回路100において生成させた直流成分信号100a(例えば0.5V程度の電圧)であり、これを加算回路ADa〜ADmにおいて入力変換器10a〜10mの出力に加算し、各アナログフィルタ210a〜210mを介して、A/D変換手段に既知の入力値として入力する。
【0034】
なお、図1の実施例では、参考としてfn(n:高調波次数)高調波信号生成部110においてfn高調波信号110aを発生させ、これを加算回路ADa〜ADmにおいて入力変換器10a〜10mの出力に加算している。この回路手法は、特許文献3で紹介された手法であり、アナログフィルタ210a〜210m以降のアナログ信号処理回路の健全性を確認するために従来から用いられているが、本発明で対策しようとしているA/D変換手段の出力ゲイン補正には効力を発揮し得ない。
【0035】
特許文献3のfn高調波信号が、本発明の目的とするA/D変換手段の出力ゲイン補正のための既知の入力として用いることができない理由は、高調波成分の周波数特性及びゲインがオペアンプで構成されるアナログフィルタ210a〜210mの影響で変化してしまうことにある。この為、ディジタル信号から抽出したfn高調波信号のレベルが小さくなり、既知の入力に対して比較することができないからである。
【0036】
これに対し、直流成分信号100a(例えば0.5V程度の電圧)は、オペアンプで構成されるアナログフィルタによって周波数特性及びゲインが変化しないという特徴がある。このため、A/D変換後のディジタル信号から抽出した直流成分信号と、直流成分信号生成回路100で生成した直流成分信号100aの比較によってA/D変換手段の入出力レベルを知ることができ、A/D変換手段の入出力レベルを用いてA/D変換手段の出力レベルの補正が可能となる。また。抽出した直流成分信号のレベルを常時監視することで、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質(性能)の判断が可能となる。
【0037】
直流成分信号生成部100から生成される直流成分信号100aは、fn高調波信号生成部110から生成されるfn高調波信号110aと加算回路AD0において加算された後に、入力変換器10a〜10mにおいて変換された電力系統の電圧信号と加算回路ADa〜ADmにおいて重畳される。
【0038】
この直流成分信号を含む高調波重畳信号101a〜101mは、アナログフィルタ210a〜210mを介してA/D変換手段220a〜220pに与えられてディジタル変換される。その後、ディジタルフィルタ230において、保護リレー演算、常時監視処理、A/D変換手段の出力レベルの補正に用いられるデータが抽出され、順次バッファメモリ240に格納される。
【0039】
ディジタルフィルタ230は、k倍のオーバーサンプリングでA/D変換手段220a〜220pを動作させた場合、kサンプル移動平均化のディジタルフィルタとなり、タイミング制御回路120のディジタルフィルタ演算制御信号120bに従いディジタルフィルタ処理が実行される。図2を用いて後述するが、ディジタルフィルタ230は高調波重畳信号からfn調波信号の抽出、直流成分信号の抽出、高調波信号と直流成分信号の除去するための機能を備えている。
【0040】
ディジタルフィルタ230の出力データは、順次バッファメモリ240に格納される。バッファメモリ240への書き込み動作は、タイミング制御回路120からの書き込み信号及び書き込みアドレス信号120cに従う。A/D変換手段220a〜220mとディジタルフィルタ230の動作タイミングは、オシレータ130をクロック源として基本サンプリング周波数fsのそれぞれo倍で動作し、バッファメモリ240のデータ書き込みタイミングは基本サンプリング周波数fsで動作し、それぞれの動作が同期するようにタイミング制御回路120で制御する。
【0041】
バッファメモリ240にデータ書き込み後、タイミング制御回路120はCPU260にフィルタ処理及び保護演算開始信号を示す割込信号120dを出力する。
【0042】
CPU260は、タイミング制御回路120から繰り返し出力される割込信号120dに応答し、システムバス250を経由してバッファメモリ240からデータを読み出して、電力系統の信号に重畳する高調波信号及び、直流成分信号を除去するディジタルフィルタ処理と保護演算・シーケンス処理を行い、処理結果から入出力部310を介して、外部装置410に対し入出力制御を実行する。また、ディジタル保護制御装置の装置状態は通信部320を介し、インタフェース用PC420に通信される。
【0043】
バッファメモリ240の読み書きはタイミング制御回路120からの信号に従い、システムバス250を通してCPU260や通信部320、入出力部310、メインメモリ330とやり取りできるものである。
【0044】
上記の処理を通じてCPU260は、システムバス250を介して、入出力部310、通信部320、メインメモリ330、外部装置410、インタフェース用PC420などに接続され、保護リレー演算結果により外部装置410により電力系統の遮断器を開閉操作し、常時監視処理、A/D変換手段の出力レベルの補正結果などとともにインタフェース用PC420の画面に表示する。なお、図1に示す構成要素は、1枚のプリント基板1000に搭載される。
【0045】
図2は、図1のディジタル保護制御装置の処理機能を示すフロー図である。この図を用いて、特にディジタルフィルタとCPUで実施している処理を説明する。
【0046】
図2によれば、まずステップS11においてA/D変換手段220a〜220pの出力であるディジタル値V1〜Vmを取り込む。取り込んだディジタル値V1〜Vmを用いて、ディジタルフィルタ230において3つの処理を実行する。
【0047】
第1の処理は、保護リレー演算に使用する信号を抽出することであり、電力系統の基本周波数成分のみを抽出する。例えば基準周波数が50Hzであれば、50Hz以外の周波数成分を除去する。具体的にはステップS21においてノイズ成分を除去し、ステップS24において高調波成分を除去しステップS25において直流成分を除去することで、電力系統の基本周波数成分のみを抽出する。なお、これらの一連の処理によって、加算回路ADa〜ADmを介して注入されたfn高調波信号110aと直流成分信号100aも除外されていることは言うまでもない。
【0048】
ディジタルフィルタ230における第2の処理は、加算回路ADa〜ADmを介して注入した直流成分信号100aのみを再現する処理であり、ステップS23において直流成分のみ導出する。尚、再現された直流成分は、オペアンプで構成されたアナログフィルタやA/D変換手段におけるゲイン特性の影響を受けていると考えられ、入力した0.5ボルトの大きさが変化していると考えられる。このため、直流成分の入力と出力の比を確認することで、回路のゲインが明確になる。
【0049】
ディジタルフィルタ230における第3の処理は、加算回路ADa〜ADmを介して注入したfn高調波信号110aのみを再現する処理であり、ステップS22においてfn高調波成分のみ導出する。
【0050】
尚、第2の処理に関し、具体的には以下のようにして実現することができる。直流成分検出処理(ステップS23)では、ノイズ除去ディジタルフィルタ演算(ステップS21)を介し、デシメーションによりサンプリング周波数fs2(4800Hz)に変換されたディジタルデータからA/D変換手段の出力レベルの補正に用いる直流成分信号の抽出を行う。直流成分信号の抽出には例えばFFT演算(高速フーリエ変換)を行い抽出する。抽出した直流成分信号はNサンプル分(今回の例ではN=8)の移動平均化され、CPU260内のゲイン演算(ステップS27)で直流成分信号とされる。
【0051】
ディジタルフィルタ230における以上の3つの処理は、要するにアナログ信号処理回路のハードウェア健全性の確認に用いるfn高調波信号を導出すること(第3の処理)、A/D変換手段の出力レベルを補正するために用いる直流成分信号を導出すること(第2の処理)、並びにディジタルデータから高調波信号や直流成分信号を除去して、電力系統信号のディジタルデータを生成すること(第1の処理)である。
【0052】
次に、以上の検出あるいは演算の結果を受けて実行されるCPU260内での処理フローについて説明する。
【0053】
まず、ゲイン演算(ステップS27)では、直流成分検出(ステップS23)により抽出した直流成分信号を用いて、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質状態の判断を行い、出力ゲイン補正(ステップS26)によりA/D変換手段の出力レベルの補正を行う。ゲイン演算(ステップS27)と、出力ゲイン補正(ステップS26)の手順について、図3を用いて詳述する。
【0054】
図3aは、ディジタルフィルタで例えばフーリエ変換により抽出した直流成分信号のゲイン特性例を示す図である。横軸に時間、縦軸に大きさを示したものであり、直流成分検出(ステップS23)によって抽出した直流成分信号のゲイン値を示す。点線の基準ゲイン(1.0)に対して、実際の直流成分としては実線の大きさが検出されたものとする。この場合、CPU260内で保護継電演算に使用するデータの大きさとしては、補正をかける必要がある。
【0055】
この直流成分信号のゲイン値は、Nサンプル(今回の例ではN=8)で移動平均化されたものであり、サンプリング周波数fs3(600Hz)のタイミングで出力されゲイン演算(ステップS27)で処理される。ゲイン演算(ステップS27)では、1/600(s)毎に随時更新される直流成分信号のゲイン値に対し、予め設定された閾値と比較することで直流成分信号のゲイン値が正常かどうか判断を行う。なお、サンプリング周波数fs3が600Hzであるということは、交流電力系統の50Hzの電圧、電流に対して、その1周期ないで12回のサンプリングを実行することを意味する。
【0056】
ステップS33では直流成分信号のゲイン値と閾値を比較し、閾値を越える場合には、ゲインが正常ではないので出力処理(ステップS28)に移り、アナログ信号処理回路の経年劣化や品質状態の低下に応じた警報情報を、図1の通信部320を用いてインタフェース用PC420に出力する。閾値以内であれば正常と考えられるので出力ゲイン補正(ステップS26)において、高調波除去ディジタルフィルタ演算(ステップS24)と直流成分除去用ディジタルフィルタ演算(ステップS25)を介したディジタル信号に対して出力レベルの補正を行う。
【0057】
出力ゲイン補正(ステップS26)では、高調波除去ディジタルフィルタ演算(ステップS24)と直流成分除去用ディジタルフィルタ演算(ステップS25)を介したディジタル信号をS、直流成分信号のゲインをG、出力レベルを補正したディジタル信号をH)H=S/Gの計算式によってディジタル信号の出力レベルを補正する。
【0058】
図3bは、高調波と直流成分を除去した後のディジタル信号を示す図である。ここでは説明の都合上、ディジタル信号を時間軸上にアナログの交流信号として表記している。本来の基準ゲインであれば点線の大きさに観測されるべきところ、実線が計測されている。
【0059】
図3cは、上記した出力ゲイン補正(ステップS25)によって、A/D変換手段の出力レベルを補正したディジタル信号を示す図である。つまり、図3aのゲインを、図3bの計測信号に対して補正することで、図3cのゲイン補正信号を得たことを示している。
【0060】
図3a,b,cでは、ゲインが時間経過に対して一定であることを前提に波形を示したが、実際には時間経過と共にゲイン変化すると考えられる。図3d、e、fは、ゲインが時系列的に変化(この場合には減衰が増大する方向への変化)するときの各部波形を示している。
【0061】
図3dのように、直流成分信号のゲイン値が減衰していく場合には、例えば1/600(s)毎に随時更新される直流成分信号のゲイン値を用いて出力レベルの補正を行えば、図3eのように経年劣化や温度特性などによって随時変化するA/D変換手段の出力レベルの変化に対しても、図3fに示す図のように出力レベルの補正を行い、理想的なA/D変換手段の出力値を得ることが可能である。なお、図3dにおいて、ゲインが減衰した結果閾値を逸脱する場合には、図2のステップS28において警告出力を行う。
【0062】
また、ステップS34において、アナログ信号処理回路やCPU等の常時監視不良時や、直流成分信号のゲイン値が閾値を越える場合に該当するかを判断し、この事態に該当する場合にはゲイン補正を中止(ステップS33)し、出力ゲイン補正(ステップS26)を行わないものとする。これにより、前記異常時には高調波除去ディジタルフィルタ演算(ステップS24)と直流成分除去用ディジタルフィルタ演算(ステップS25)を介したディジタル信号を用いてリレー演算(ステップS29)を行うため、前記異常時のゲイン補正によってリレー演算(ステップS29)に悪影響を与えないようにできる。
【0063】
図4aは、系統信号にfn高調波信号と直流成分信号が重畳した波形例、図4bはディジタルフィルタで抽出したfn高調波信号波形例、図4cは、ディジタルフィルタで抽出した直流成分信号波形例を各々示す。
【0064】
図4aは直流成分信号を含む高調波重畳信号101a〜101mがアナログフィルタ210a〜210mを介し、A/D変換手段220a〜220pによりディジタル変換されたディジタル信号の波形、図4bはディジタルフィルタ230によって抽出したfn高調波信号波形、図4Cはディジタルフィルタ230によって抽出した直流成分信号波形を示すものである。
【0065】
図4aでは電力系統から入力変換器(PT,CT)10a〜10mを通して変換された電圧信号に対し、fn高調波信号が重畳した様子と、直流成分信号がオフセット成分となって電圧信号に影響を与えている様子が示されている。図4b、図4cは直流成分信号を含む高調波重畳信号からディジタルフィルタ230によって抽出したfn高調波信号、直流成分信号が示されている。
【0066】
ステップS22において、ディジタルフィルタ230によって抽出したfn高調波信号は、ステップS30において実行地演算されてその信号レベルを導出し、ステップS31において常時監視し、ステップS32において出力処理がされることによりアナログ信号処置回路の健全性の判断に用いられる。
【0067】
同じくディジタルフィルタ230のステップS23において抽出した直流成分信号は、ステップS27において直流成分信号100aのレベルと比較することでステップS26のA/D変換手段の出力レベルの補正に用いられる。さらに、ステップS33において、抽出した直流成分信号のレベルを常時監視しステップS28において出力処理することでアナログ信号処理回路の経年劣化や品質状態の判断が可能となる。
【0068】
次に図5aを用いて、アナログ及びディジタルフィルタの構成とサンプリング周波数との関係を示す。この例では、アナログフィルタ210a〜210m、A/D変換手段220a〜220p、ノイズ除去ディジタルフィルタ21、デシメーション1、高調波除去ディジタルフィルタ24、直流成分除去ディジタルフィルタ25、デシメーション2がカスケードに接続されている。
【0069】
A/D変換手段220a〜220pとノイズ除去ディジタルフィルタ21は、サンプリング周波数fs1(4800Hz×k)で動作し、デシメーション1により信号は1/kに間引かれ、高調波除去ディジタルフィルタと直流成分除去ディジタルフィルタ25はサンプリング周波数fs2(4800Hz)で動作する。
【0070】
さらにデシメーション2により信号は1/8に間引かれ、CPU600による保護演算はサンプリング周波数fs3(600Hz)で動作する。以上のfs1、fs2及びfs3のサンプリング周波数は電力系統の周波数が50Hzのときであり、60Hzの時は各々1.2倍となる。
【0071】
図5bに、アナログフィルタ210a〜210mとノイズ除去ディジタルフィルタ21の特性を示す。アナログフィルタ210a〜210mは、A/D変換手段のサンプリング周波数fs1の折り返しノイズ領域を除去するためfs1を基準に減衰させる特性となり、ディジタルフィルタは、次段のサンプリング周波数fs2の折り返しノイズ領域を除去するため、fs2を基準に減衰させる特性になっている。
【0072】
図5cに、高調波除去ディジタルフィルタ24の特性と直流成分除去ディジタルフィルタ25の特性を示す。高調波除去ディジタルフィルタ24と直流成分除去ディジタルフィルタ25は、高調波信号と直流成分信号の除去と次段サンプリング周波数fs3の折り返しノイズ領域を除去するためfs3を基準に減衰させる特性になっている。
【0073】
このように、デシメーションを複数設けて多段階なサンプリングレートになる構成において、次段のサンプリングによる折り返しノイズを除去するために、フィルタは次段のサンプリング周波数を基準に減衰させる特性としている。
【0074】
このように、A/D変換器手段220a〜220pとノイズ除去ディジタルフィルタ21は、基準サンプリング周波数fs2(4800Hz)に対してk倍のオーバーサンプリング周波数fs1で動作させ、ノイズ除去ディジタルフィルタ21の特性は、次段の基準サンプリング周波数fs2を基準にして折り返しノイズを除去する特性にする。
【0075】
その結果、アナログフィルタ210a〜210mは、基準サンプリング周波数のk倍以上の周波数領域を減衰させればよいので穏やかな周波数特性にでき、部品バラツキや素子の劣化による特性変動は、基本波である50Hz、60Hzにおいてほとんど発生しない。またアナログフィルタ210a〜210mは、遮断周波数が高いことから小容量なコンデンサを使用できる為に小型化が可能で、小型化に伴う高密度実装が可能となる。
【0076】
また、直流成分信号生成100で生成した直流成分信号100aは従来から備えるfn高調波信号110aや電力系統信号を入力変換器10a〜10mを通して変換した電圧信号に対して影響を与えない程度の電圧信号とし、検出したfn調波はfn実効値検出30を介し、アナログフィルタ210a〜210m以降のハードウェアの常時監視処理31と異常出力処理32機能を従来通り備えるものとする。
【符号の説明】
【0077】
10a〜10m:入力変換器
100:直流成分信号生成
100a:直流成分信号
110:fn高調波信号生成
110a:fn高調波信号
101a〜101m:直流成分信号を含む高調波重畳信号
120:タイミング制御回路
120a:A/D変換開始信号
120b:ディジタルフィルタ演算制御信号
120c:書き込み信号及び書き込みアドレス信号
120d:演算開始信号
130:オシレータ
210a〜210m:アナログフィルタ
220a〜220p:A/D変換手段
230:ディジタルフィルタ
240:バッファメモリ
250:システムバス
260:CPU
310:入出力部
320:通信部
330:メインメモリ
410:外部装置
420:インターフェース用PC
1000:プリント基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統から得たアナログ信号をフィルタリングする複数のアナログフィルタ手段と、該手段の後段に設けられアナログフィルタリングされた信号をディジタル信号に変換する複数のA/D変換手段と、該A/D変換手段からのディジタル信号をフィルタリングする複数のディジタルフィルタ手段とを備え、ディジタルフィルタ手段からのディジタル信号を用いて所定の保護継電演算アルゴリズムを実行するディジタル保護制御装置において、
前記アナログフィルタ手段の前段に既知の大きさの直流信号を加え、前記A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる直流信号成分を抽出し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値を用いて複数備えたA/D変換手段の出力を補正する機能を備えたことを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のディジタル保護制御装置において、
前記A/D変換手段の出力を補正する処理は、複数備えたA/D手段のそれぞれに対して実施されることを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のディジタル保護制御装置において、
複数備えたA/D変換手段の出力を補正する処理は、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分が所定の閾値内にあるときに実行し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値がかけ離れているときには実行しないことを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項4】
請求項3記載のディジタル保護制御装置において、
既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値がかけ離れているときには、所定の保護継電演算アルゴリズムの結果を利用しないことを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載のディジタル保護制御装置において、
前記A/D変換手段の出力ゲイン補正は、アナログフィルタ手段とA/D変換手段とを含むアナログ信号処理回路の異常検出時には行わないことを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のディジタル保護制御装置において、
ディジタルフィルタ手段は、高調波成分除去機能と直流成分除去機能を備えていることを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のディジタル保護制御装置において、
前記アナログフィルタ手段の前段に高調波信号を加え、前記A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる高調波信号成分を抽出し、ハードウェアの異常を監視することを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項1】
電力系統から得たアナログ信号をフィルタリングする複数のアナログフィルタ手段と、該手段の後段に設けられアナログフィルタリングされた信号をディジタル信号に変換する複数のA/D変換手段と、該A/D変換手段からのディジタル信号をフィルタリングする複数のディジタルフィルタ手段とを備え、ディジタルフィルタ手段からのディジタル信号を用いて所定の保護継電演算アルゴリズムを実行するディジタル保護制御装置において、
前記アナログフィルタ手段の前段に既知の大きさの直流信号を加え、前記A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる直流信号成分を抽出し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値を用いて複数備えたA/D変換手段の出力を補正する機能を備えたことを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のディジタル保護制御装置において、
前記A/D変換手段の出力を補正する処理は、複数備えたA/D手段のそれぞれに対して実施されることを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のディジタル保護制御装置において、
複数備えたA/D変換手段の出力を補正する処理は、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分が所定の閾値内にあるときに実行し、既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値がかけ離れているときには実行しないことを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項4】
請求項3記載のディジタル保護制御装置において、
既知の大きさの直流信号と抽出した直流信号成分の値がかけ離れているときには、所定の保護継電演算アルゴリズムの結果を利用しないことを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載のディジタル保護制御装置において、
前記A/D変換手段の出力ゲイン補正は、アナログフィルタ手段とA/D変換手段とを含むアナログ信号処理回路の異常検出時には行わないことを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のディジタル保護制御装置において、
ディジタルフィルタ手段は、高調波成分除去機能と直流成分除去機能を備えていることを特徴とするディジタル保護制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のディジタル保護制御装置において、
前記アナログフィルタ手段の前段に高調波信号を加え、前記A/D変換手段からのディジタル信号に含まれる高調波信号成分を抽出し、ハードウェアの異常を監視することを特徴とするディジタル保護制御装置。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図3f】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図3e】
【図3f】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【公開番号】特開2012−222846(P2012−222846A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82572(P2011−82572)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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