説明

ディスクブレーキおよびその製造方法

【課題】キャリパの製造効率を向上させることができるディスクブレーキおよびその製造方法の提供。
【解決手段】シリンダ部35の底部41側に設けられた開口周縁部と、開口周縁部に嵌合される底蓋部材92とを摩擦攪拌接合により一体に接合することでボア40の底部41が形成されるもので、底蓋部材92は、円盤状に形成され、ボア40内に臨む一面側に凸部68が設けられるとともに、ボア40に液圧を供給するための流入孔58が凸部68の範囲内で一面71と他面63とを連通して設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダのボアの底部に底蓋部材を摩擦攪拌接合により一体に接合するキャリパを有するディスクブレーキがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−10136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ディスクブレーキのキャリパには、液圧を供給するための流入孔がシリンダのボアの底部に設けられるものがある。このような構造のキャリパに、上記した摩擦攪拌接合を適用した場合に、製造効率が低下する可能性があった。
【0005】
したがって、本発明は、キャリパの製造効率を向上させることができるディスクブレーキおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のディスクブレーキは、シリンダ部の開口周縁部に嵌合され摩擦攪拌接合により一体に接合される底蓋部材が、円盤状に形成され、ボア内に臨む一面側に凸部が設けられるとともに、前記ボアに液圧を供給するための流入孔が前記凸部の範囲内で前記一面と他面とを連通して設けられている。
【0007】
本発明のディスクブレーキの製造方法は、両端が開口となっているシリンダ部と、ディスクを跨ぐために前記シリンダ部の径方向外方でその軸方向へ延びるブリッジ部とを有するキャリパボディ本体を準備する工程と、円盤状に形成され、一面側に凸部が設けられる底蓋部材を準備する工程と、前記シリンダ部の底部側の開口周縁部に、前記凸部を前記シリンダ部の内側に配置した状態で前記底蓋部材を摩擦攪拌接合により一体的に接合する工程と、キャリパ本体に接合された前記底蓋部材に、前記凸部の範囲内で前記一面と他面とを連通する流入孔を切削加工する工程とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キャリパの製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキを示す平面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキを示す正面図である。
【図3】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのキャリパボディを示す背面図である。
【図4】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのキャリパボディを示す正面図である。
【図5】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのキャリパボディ、ピストンおよび配管類を示す断面図である。
【図6】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのキャリパボディ本体を示す断面図である。
【図7】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキの底蓋部材を示す断面図である。
【図8】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのキャリパボディの摩擦攪拌接合の状況を示す断面図である。
【図9】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのキャリパボディを示す断面図である。
【図10】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのキャリパボディおよびピストンを示す断面図である。
【図11】本発明に係る第2実施形態のディスクブレーキのキャリパボディおよびピストンを示す断面図である。
【図12】本発明に係る第3実施形態のディスクブレーキのキャリパボディ、ピストンおよび配管類を示す断面図である。
【図13】本発明に係る第3実施形態のディスクブレーキの回止ピンを示す斜視図である。
【図14】本発明に係る第3実施形態のディスクブレーキのキャリパボディを示す背面図である。
【図15】本発明に係る第4実施形態のディスクブレーキのキャリパボディ、ピストンおよび配管類を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態を図1〜図10に基づいて説明する。
【0012】
第1実施形態のディスクブレーキは、四輪自動車の制動用のディスクブレーキである。図面では、車両の左右方向一側に配置されるものを図示しており、これに対し車両の左右方向逆側に配置されるものは鏡面対称形状をなすことになる。
【0013】
図1に示すように、このディスクブレーキ11は、キャリア13と、一対のブレーキパッド14と、キャリパ15とを備えている。キャリア13は、制動対象となる図示略の車輪(回転体)とともに回転するディスク12の外径側を跨ぐように配置されて車両の非回転部に固定される。一対のブレーキパッド14は、ディスク12の両面に対向配置された状態でディスク12の軸線方向に摺動可能となるようにキャリア13に支持される。キャリパ15は、ディスク12の外径側を跨いだ状態でディスク12の軸線方向に摺動可能となるようにキャリア13に支持されてブレーキパッド14をディスク12に押圧することによりディスク12に摩擦抵抗を付与する。なお、以下においては、ディスク12の半径方向をディスク半径方向と称し、ディスク12の軸線方向をディスク軸線方向と称し、ディスク12の回転方向をディスク回転方向と称す。
【0014】
キャリア13は、図2に示すように、基板部22と、一対のインナ側パッド支持部23と、一対の連結部24と、一対のアウタ側パッド支持部25と、ビーム部26とを有して一体的に構成されている。基板部22は、ディスク回転方向に延在する姿勢でディスク12よりも車両内側(インナ側)に配置されるとともにそのディスク回転方向の両端側に車両への取付穴21が形成されている。一対のインナ側パッド支持部23は、基板部22のディスク回転方向両端からディスク半径方向外側に延出して設けられている。一対の連結部24は、図1に示すように、インナ側パッド支持部23のディスク半径方向外端からディスク12の半径方向外側を越えるようにディスク軸線方向に沿って車両外側(アウタ側)に突出して形成されている。一対のアウタ側パッド支持部25は、一対の連結部24のインナ側パッド支持部23とは反対側から図2に示すようにディスク半径方向内方にそれぞれ延出して形成されている。ビーム部26は、アウタ側パッド支持部25のディスク半径方向内側同士を連結するように形成されている。そして、図1に示すように、一対のインナ側パッド支持部23がインナ側のブレーキパッド14を摺動可能に支持し、一対のアウタ側パッド支持部25がアウタ側のブレーキパッド14を摺動可能に支持する。
【0015】
ここで、キャリア13には、ディスク回転方向の両端におけるディスク半径方向外側となる一対の連結部24の位置に、ディスク軸線方向に摺動可能となるように支持ピン28がそれぞれインナ側から嵌合されている。これら支持ピン28を介してキャリパ15がキャリア13に取り付けられる。なお、一対の支持ピン28のキャリパ15とキャリア13との間部分は伸縮可能な一対のブーツ29で被覆されている。
【0016】
キャリパ15は、ディスク12を跨いだ状態でキャリア13に支持ピン28を介して支持されるキャリパボディ32と、キャリパボディ32に保持されてディスク12の一面側に対向するように配置される図2に示すピストン33とを有している。
【0017】
キャリパボディ32は、図1に示すように、シリンダ部35と、ブリッジ部36と、爪部37とを有して一体的に構成されている。シリンダ部35は、ディスク12の一方の面側であるインナ側に対向配置されている。ブリッジ部36は、ディスク12を跨ぐためにシリンダ部35の径方向外方でディスク12の軸方向へ延びて形成されている。爪部37は、ブリッジ部36のシリンダ部35とは反対側からディスク半径方向内方に延出してディスク12の他方の面側であるアウタ側に対向するようになっている。つまり、キャリパ15は、そのキャリパボディ32が、ディスク12の一方の面側にシリンダ部35が設けられ、ディスク12の他方の面側に爪部37が設けられ、爪部37とシリンダ部35とを接続するブリッジ部36がディスク12を跨いで設けられるフィスト型となっている。
【0018】
図2に示すように、シリンダ部35は、ディスク12側に開口するようにディスク軸線方向に沿うボア40が内部に形成された有底筒状をなしており、このボア40内にピストン33が挿入されている。そして、キャリパ15は、ボア40内に導入される液圧によりピストン33をディスク12側に前進させ、ピストン33でインナ側のブレーキパッド14を押圧してディスク12に接触させる。そして、ピストン33の押圧反力でキャリア13に対して支持ピン28を摺動させてシリンダ部35をディスク12から離す方向に移動して、爪部37でアウタ側のブレーキパッド14を押圧してディスク12に接触させる。このようにして、ピストン33と爪部37とで両側のブレーキパッド14を挟持してディスク12に押圧して摩擦抵抗を発生させ、制動力を発生させる。
【0019】
ここで、キャリパボディ32は、車両への左右の取付勝手の違いに対しても、共通の鋳物素材が用いられる。これによって鋳物素材は、キャリパボディ32のディスク回転方向の中央を基準として対称の形状をなしている。このため、シリンダ部35の底部41側のディスク半径方向外側には、図1に示すエア抜き用のブリーダプラグ43を取り付けるためのブリーダボス44がディスク回転方向に離間して一対形成されている。そして、車両の左右方向一側に配置される図1に示すキャリパボディ32には、これら一対のブリーダボス44のうちの一方のみにブリーダプラグ43を取り付けるためのネジ穴からなるプラグ取付穴45が形成されており、他方にはプラグ取付穴45は形成されていない。なお、図1に示すキャリパボディ32と取付勝手が違う、車両の左右方向他側に配置されるキャリパボディ32には、一対のブリーダボス44のうち上記した他方のみにプラグ取付穴45が形成されることになる。
【0020】
図1に示すように、キャリパボディ32のシリンダ部35におけるディスク軸線方向の中間部には、ディスク回転方向両側に突出する一対のピン取付部48が、図3に示すようにボア40の中心よりもディスク半径方向のやや外側に形成されている。これらピン取付部48にはディスク軸線方向に沿ってピン取付穴49が形成されている。これらのピン取付穴49に図1に示す上記した支持ピン28が挿入状態で固定されることになる。
【0021】
図1に示すように、キャリパボディ32には、これらピン取付部48よりも爪部37側に、上記したブリッジ部36が、ディスク12の外周面に沿って湾曲する板状をなしてディスク回転方向に略一定幅で形成されている。このブリッジ部36の爪部37とは反対側の一部はシリンダ部35とディスク軸線方向にラップしている。ブリッジ部36には、主にこのラップ部分に、ディスク半径方向外側に突出しディスク軸線方向に延在するリブ51がディスク回転方向に並べられて複数形成されている。また、ブリッジ部36には、リブ51よりも爪部37側に、ディスク軸線方向に貫通する矩形状の窓部52がディスク回転方向の中央位置に形成されており、爪部37側の端部のディスク回転方向の中央位置にはディスク半径方向内方に凹む矩形状の段差部53が形成されている。
【0022】
また、キャリパボディ32には、ブリッジ部36のシリンダ部35とは反対側に、上記した爪部37が、図4に示すように板状をなしてディスク回転方向に略一定幅をなすように形成されている。なお、爪部37は、そのディスク半径方向内側の内端縁部54が、キャリパボディ32のディスク回転方向における中央を通るディスク半径線に対して直交する直線状(言い換えれば両側のピン取付穴49を結ぶ直線に平行する直線状)をなしており、この直線状の内端縁部54が、正面視でボア40の中心つまりシリンダ部35の中心よりもディスク半径方向内側をシリンダ部35の全体にわたって横断するように延在している。これにより、爪部37におけるシリンダ部35のボア40が対向する部分は、シリンダ部35の中心を覆うように形成されている。そして、爪部37には、シリンダ部35のボア40を切削加工する工具を通過させるための、ディスク半径方向の内端縁部54からディスク半径方向外方に向けて凹むディスク軸線方向に貫通するリセスが設けられていない。これにより、爪部37の内端縁部54が、ディスク回転方向においてボア40を全体にわたって連続する直線状に横断する。
【0023】
また、図1に示すキャリパボディ32のシリンダ部35は、ピン取付部48よりも爪部37とは反対側の部分、つまり、図3に示すボア40の底部41を含む部分が、全体として略円形状をなしており、略円形状をなすボア40の底部41には、上記した一対のブリーダボス44が、ディスク半径方向外方に、先端側ほど互いの距離が大きくなるように傾斜しつつ突設されている。これらブリーダボス44は、キャリパボディ32のディスク回転方向における中央を通るディスク半径線に対し同じ角度の鋭角をなして突出している。ここで、上記したように、左右の取付勝手に応じたディスク回転方向一側のブリーダボス44には、その中心上に、ブリーダプラグ43(図1参照)が取り付けられる外側のプラグ取付穴45とプラグ取付穴45をボア40に連通させる内側のブリーダ連通穴55とが形成されている。他方、ディスク回転方向他側のブリーダボス44には、プラグ取付穴45およびブリーダ連通穴55は形成されていない。つまり、シリンダ部35は、ボア40の底部41の外周側にいずれか一の方向にのみブリーダプラグ43が配設される。
【0024】
そして、キャリパボディ32のシリンダ部35には、一対のブリーダボス44のうち、プラグ取付穴45が形成されていない(つまりブリーダプラグ43が配設されない)上記した他方のブリーダボス44に、後述する摩擦攪拌接合(FSW)によりボア40の底部を形成する際に生じる残存穴部56が残存形成されている。この残存穴部56は、ディスク軸線方向に沿って途中位置まで凹んでおり、その位置は、ボア40の半径方向においてボア40よりも外側となっている。
【0025】
また、シリンダ部35のボア40の底部41には、ボア40の径方向内側であってボア40の中心からずれた位置に、ボア40に液圧を供給するための流入孔58がディスク軸線方向に沿って貫通形成されている。この流入孔58は、キャリパボディ32のディスク回転方向における中央を通るディスク半径線上であって、ボア40の中心よりもディスク半径方向内側(ブリッジ部36とは反対側)に全体としてずれて形成されている。この流入孔58は、ネジ孔となっており、図5に示すように配管60をその口金61において底部41に固定しつつボア40に連通させるユニオンボルト62が螺合されるようになっている。なお、底部41の外面63側には流入孔58と同軸で深さの浅い座ぐり64が形成されている。
【0026】
また、図3に示すように、シリンダ部35のボア40の底部41には、ボア40の径方向内側であってボア40の中心からずれた位置に、回止穴65がディスク軸線方向に沿って外側から途中位置まで形成されている。この回止穴65は、キャリパボディ32のディスク回転方向における中央を通るディスク半径線上であって、ボア40の中心よりもディスク半径方向外側(ブリッジ部36側)に全体としてずれて形成されている。この回止穴65には、図5に示すように配管60の口金61の先端に固定された屈曲形状の回止フック66が係合されることになり、これにより、ユニオンボルト62の流入孔58への螺合時に口金61の連れ回りを規制する。
【0027】
シリンダ部35のボア40の底部41には、ボア40内に突出する凸部68が形成されている。この凸部68の周囲は、ボア40の中で最も深さが深くボア40の中心線に対して直交する平面からなりボア40の中心線と同軸の円環状をなす底面69となっている。凸部68は、この底面69の内端縁部からボア40の中心線と同軸のテーパ状をなしてボア40の軸線方向に突出する円錐外面70と、円錐外面70の底面69とは反対側にあって底面69と平行をなす、ボア40の中心線と同軸の円形状の平面からなる頂面71とを有する切頭円錐状をなしている。そして、上記した流入孔58は、ボア40の軸線方向に沿って底部41の外面63から凸部68の頂面71に連通しており、凸部68の範囲内、より具体的には凸部68の頂面71の範囲内に形成されている。加えて、回止穴65も、ボア40の軸線方向に沿って底部41の外面63から形成されており、凸部68の範囲内、より具体的には凸部68の頂面71の範囲内に形成されている。
【0028】
ボア40は、ピストン33を摺動可能に嵌合させる一定径の嵌合内径部74と、嵌合内径部74よりも底部41側であってボア40の最も底部41側にある、嵌合内径部74よりも大径の大径内径部75とを有している。また、嵌合内径部74の軸線方向における中間位置には、嵌合内径部74よりも大径で図示略のピストンシールを保持するための円環状のシール周溝76が形成されている。さらに、嵌合内径部74の軸線方向における最も底部41とは反対側には、ピストン33との間に介装される図示略のブーツの一端側を嵌合保持するための円環状のブーツ周溝77およびブーツを収容するための収容段差部78が形成されている。
【0029】
ピストン33は、略円筒状の円筒状部80と、円筒状部80の軸線方向の中間位置に円筒状部80の内側を閉塞するように軸線方向一側に偏って形成された略円板状の円板状部81とを有するカップ状に形成されており、円筒状部80の外周面においてボア40の嵌合内径部74に摺動可能に嵌合する。このようにボア40に嵌合した状態でピストン33はボア40と同軸状をなす。ピストン33には、円筒状部80における円板状部81が偏った側の端部と円板状部81とで外底部82が形成されることになり、このピストン33の外底部82には、軸線方向に凹む凹部83が形成されている。また、ピストン33の外底部82とは反対側の外周面には、シリンダ部35の上記した図示略のブーツの他端側を嵌合保持するブーツ周溝84が形成されている。
【0030】
ここで、ピストン33の外底部82の端面85は、ピストン33の中心線に対して直交する平面からなりピストン33の中心線と同軸の円環状をなしている。ピストン33の凹部83は、この端面85の内端縁部から軸線方向内側に、内側ほど縮径するようにピストン33の中心線と同軸のテーパ状に形成された円錐内面86と、円錐内面86の端面85とは反対側にあって中央側ほど端面85側に位置するようにピストン33の中心線と同軸の略球面状をなす球状底面87とを有している。ここで、ピストン33は端面85においてボア40の底面69に面接触で当接することになり、凹部83は、このようにピストン33が端面85においてボア40の底面69に当接した状態で、上記したボア40の底部41の凸部68を格納するようになっている。そして、この格納状態で凸部68の円錐外面70と凹部83の円錐内面86との間には全面的に隙間が形成され、凸部68の頂面71と凹部83の球状底面87との間にも全面的に隙間が形成される。
【0031】
そして、第1実施形態においては、キャリパボディ32が、図6に示すように、爪部37と、ブリッジ部36と、シリンダ部35の底部41の一部を除いたシリンダ構成部90とからなるキャリパボディ本体91と、シリンダ部35の底部41を形成する図7に示す底蓋部材92とを摩擦攪拌接合することにより形成される。これらキャリパボディ本体91および底蓋部材92は、それぞれアルミニウム合金で個別に鋳造で一体成形されることになり、よって、これらを接合したキャリパボディ32もアルミニウム合金で形成されることになる。なお、図3に示す上記した一対のブリーダボス44も鋳造による一体成形時にキャリパボディ本体91に形成されることになる。
【0032】
図6に示すキャリパボディ本体91には、図5に示すシリンダ部35のボア40の底面69の外径側の一部を構成する、ボア40の中心線に対し直交する平面からなりボア40と同軸の円環状をなす一定幅の底面構成面94が形成されている。また、キャリパボディ本体91には、この底面構成面94の内周縁部から、ボア40と同軸をなし一定径でボア40の軸線方向に沿って外側まで円筒面状に延出する嵌合円筒面95が形成されている。そして、嵌合円筒面95の底面構成面94とは反対側の外周縁部から外側に広がるように、図5に示す外面63の外側の一部を構成する、ボア40の中心線に対し直交する平面からなる外面構成面96が形成されている。よって、嵌合円筒面95の内側がボア40の底部41を貫通する開口部97となり、嵌合円筒面95を含むその周縁部が開口周縁部98となっている。その結果、キャリパボディ本体91に形成されるシリンダ部35のシリンダ構成部90は、有底筒状ではなく、両端が開口する無底筒状に形成されている。このキャリパボディ本体91の鋳物素材は、そのディスク回転方向の中央を基準として前後が対称の形状をなす。
【0033】
図7に示す底蓋部材92は、円盤状に形成され、図8に示すようにキャリパボディ本体91のシリンダ構成部90の嵌合円筒面95に嵌合させられる。つまり、底蓋部材92は、図9に示すように、最大外径部分となる一定径の円筒面状をなす嵌合円筒面100と、この嵌合円筒面100の軸線方向の一端縁部から軸線方向に直交して内側に一定幅で形成される、図5に示すボア40の底面69の内径側の一部を構成する円環状の平面からなる底面構成面101と、この底面構成面101の内周縁部から嵌合円筒面100と同軸をなして軸線方向一側に突出するテーパ状の上記した円錐外面70と、この円錐外面70の底面構成面101とは反対側にあって底面構成面101と平行をなす上記した頂面71とを有している。また、底蓋部材92は、嵌合円筒面100の軸線方向の他端縁部から軸線方向に直交して内側に形成される円形状の平面からなる、図5に示す外面63の外側の一部を構成する外面構成面102を有している。よって、底蓋部材92は、円錐外面70および頂面71を有する凸部68が形成された一面に対して他面である外面構成面102が軸直交方向に沿う平坦面となっている。以上により、この底蓋部材92は、中心軸線を含む断面がいずれの断面においても一定形状をなしている。言い換えれば、底蓋部材92は、この断面を中心軸線を中心に回転させることにより形成される形状をなしている。よって、底蓋部材92の鋳物素材もそのディスク回転方向の中央を基準として対称の形状をなす。
【0034】
そして、キャリパボディ32を形成する際には、アルミニウム合金で図6に示すキャリパボディ本体91を形成するための鋳物素材を一体成形する。キャリパボディ本体91の鋳物素材には、鋳造段階で、爪部37と、ブリッジ部36と、内側に下穴を有する無底筒状のシリンダ構成部90とが形成されている。そして、シリンダ構成部90内の下穴内を、嵌合円筒面95の下穴部分を介して爪部37とは反対側から挿入される切削工具により切削加工して、ボア40の内部の嵌合内径部74、シール周溝76、ブーツ周溝77、収容段差部78および嵌合円筒面95を切削する。これにより、キャリパボディ本体91には、図6に示すように、筒状に形成され両端が開口となっているシリンダ構成部90が形成されることになる。なお、大径内径部75、底面構成面94および外面構成面96は、鋳造時に形成されることになるが、これらを切削加工により形成しても良い。このようにして、アルミニウム合金の一体成形された鋳物素材を切削加工することにより形成される、シリンダ構成部90と、ディスク12を跨ぐためにシリンダ構成部90の径方向外方でその軸方向へ延びるブリッジ部36と、ブリッジ部36のシリンダ構成部90とは反対側の爪部37とを有するキャリパボディ本体91を準備する(キャリパボディ本体準備工程)。
【0035】
また、アルミニウム合金で一体成形された円盤状の素材から、嵌合円筒面100を切削加工することにより、図7に示すように、円盤状に形成され、一面側に凸部68が設けられた底蓋部材92を準備する(底蓋部材準備工程)。なお、底面構成面101、円錐外面70、頂面71および外面構成面102は鋳造時に形成されることになるが、これらを切削加工により形成しても良い。
【0036】
そして、上記のキャリパボディ本体準備工程で準備した図8に示すキャリパボディ本体91のボア40に中子治具A,Bを挿入し一体的に保持する。この状態のキャリパボディ本体91を爪部37を下側にして摩擦攪拌接合装置にセットする。続いて、上記した底蓋部材準備工程で準備した底蓋部材92を凸部68を下側にしてその嵌合円筒面100において、キャリパボディ本体91のシリンダ構成部90の嵌合円筒面95に嵌合させる。これにより、底蓋部材92はボア40内に臨む一面側に凸部68が設けられた状態になる。このとき、図示略の中子治具の同じ基準面にキャリパボディ本体91の底面構成面94と底蓋部材92の底面構成面101とが当接することになり、キャリパボディ本体91に対して底蓋部材92が、嵌合円筒部95,100同士の嵌合と合わせて位置決めされる。
【0037】
この状態で、シリンダ構成部90の底部41側を構成する、嵌合円筒面95を含む開口周縁部98に、凸部68をシリンダ構成部90の内側に配置した状態の底蓋部材92の嵌合円筒面100を含む外周縁部103を、摩擦攪拌接合により一体的に接合して、ボア40の底部41を形成する(摩擦攪拌接合工程)。
【0038】
ここで、この摩擦攪拌接合工程で使用される接合工具110は、円柱状の大径軸部111と、この大径軸部111よりも小径でこの大径軸部111と同軸の先端軸部112とを有しており、先細の切頭円錐状をなす先端軸部112が高速回転することにより、シリンダ構成部90の開口周縁部98および底蓋部材92の外周縁部103を摩擦により溶融させて攪拌し接合する。
【0039】
上記した摩擦攪拌接合工程においては、高速回転する接合工具110の先端軸部112を、一対のブリーダボス44のうちプラグ取付穴45が形成される予定でないブリーダボス44側を開始点として、シリンダ構成部90の開口周縁部98と底蓋部材92の外周縁部103との接合境界に沿って所定方向に連続的に移動させ開口周縁部98および外周縁部103の全周に亘って円形状に摩擦攪拌接合を行うことで、底蓋部材92とキャリパボディ本体91との境界部分を一体化する。つまり、底蓋部材92とキャリパボディ本体91との境界部分に倣ってループ状の摩擦攪拌接合の接合軌跡を形成するように接合工具110を移動させる。
【0040】
そして、接合工具110を、これが接合開始点に近いプラグ取付穴45が形成される予定でないブリーダボス44の位置に戻ったところで、このブリーダボス44側に逃がした後、キャリパボディ32から引き抜く。その結果、接合工具110の先端軸部112により、図3に示すように、このプラグ取付穴45が形成される予定でないブリーダボス44の位置に、ボア40よりも外側に位置して残存穴部56が形成されることになる。
【0041】
なお、図8に示すシリンダ構成部90の開口周縁部98と底蓋部材92の外周縁部103とは中子治具A,Bによって位置決め状態のまま摩擦攪拌接合により接合されることになり、底面構成面94と底面構成面101とで図9に示す底面69が、図8に示す外面構成面96と外面構成面102とで図9に示す外面63が形成される。摩擦攪拌接合により一端溶融状態となって一体化された後に固化する接合部115は、ボア40の中心軸線を中心とした略円環状をなし、ボア40の中心軸線を含む断面の形状が、ボア40側ほど幅が狭くなる形状をなすことになる。
【0042】
上記の摩擦攪拌接合工程で接合されたキャリパボディ本体91および底蓋部材92からなるキャリパボディ32には、ボア40の底面69よりもボア40の内部側に突出する凸部68が形成されている。言い換えれば、図9に示す外面63から底面69までの厚さt1よりも外面63から凸部68のボア40の内部側の端面である頂面71までの厚さt2の方が厚くなっている。
【0043】
上記した摩擦攪拌接合工程で接合されたキャリパボディ本体91および底蓋部材92からなるキャリパボディ32に対して、底蓋部材92で構成されるそのシリンダ部35の底部41に、図9に示すように、上記したボア40に液圧を供給するための流入孔58と、座ぐり64と、回止穴65とを外側から穿設する(流入孔等穿設工程)。つまり、図3に示すようにキャリパボディ32のディスク回転方向における中央を通るディスク半径線上であって、ボア40の中心よりもディスク半径方向内側にずれた位置に、図9に示すように凸部68の範囲内で、凸部68が形成された一面を構成する頂面71と他面を構成する外面63とを連通するようにネジ孔からなる流入孔58を切削加工するとともに、これと同軸に座ぐり64を切削加工する。合わせて、図3に示すように、キャリパボディ32のディスク回転方向における中央を通るディスク半径線上であって、ボア40の中心よりもディスク半径方向外側にずれた位置に回止穴65を、図9に示すように途中位置まで穿設する。加えて、図3に示すように、一対のブリーダボス44のうち取付方向に応じて決まるブリーダプラグ43(図1参照)の取付側のブリーダボス44に、その突出方向に沿ってプラグ取付穴45およびブリーダ連通穴55を穿設してボア40を径方向外側に連通させる。なお、プラグ取付穴45およびブリーダ連通穴55は、上記したキャリパボディ本体準備工程において形成しても良い。
【0044】
以上のように形成された図10に示すキャリパボディ32に対して、爪部37とシリンダ部35との間から、シール周溝76に図示略のピストンシールを嵌合し、ブーツ周溝77にブーツをの一端側を嵌合して、同じく爪部37とシリンダ部35との間から、ピストン33をボア40内に嵌合し、ブーツの他端側をブーツ周溝84に嵌合する。また、プラグ取付穴45に図1に示すブリーダプラグ43を取り付ける。このようにして、キャリパ15が組み上がる。
【0045】
このようにして組み上がったキャリパ15に、図5に示すように、配管60を取り付ける。つまり、回止穴65に、配管60の口金61に固定された屈曲形状の回止フック66を係合させた状態で、ユニオンボルト62を口金61に挿入しつつ流入孔58に螺合させる。すると、回止フック66および回止穴65で回り止めされた状態で配管60の口金61がユニオンボルト62とともにキャリパ15に固定され、ボア40内に配管60が連通する。なお、このとき、口金61は座ぐり64に当接することになり流入孔58に対する垂直度を確保する。
【0046】
そして、キャリパ15を車両へ装着し、真空引きにてブレーキフルードをキャリパボディ32のボア40内に充填する。このとき、真空引きの負圧で、ピストン33がボア40の内方に引っ張られ、その端面85がボア40の底面69に当接することになるが、この状態でも、ボア40の底部41の凸部68を格納するピストン33の凹部83が凸部68に対して隙間をもっているため、ピストン33のボア40の底部41への張り付きが規制される。
【0047】
ここで、上記した特許文献1のディスクブレーキでは、ボアを形成するシリンダ部が筒状に形成されるとともに、シリンダ部の底部側に設けられた開口周縁部とこの開口周縁部に嵌合される底蓋部材とを摩擦攪拌接合により一体に接合することでボアの底部を形成するようになっているが、主に二輪車用のものであるため、ボアに液圧を供給する流入孔はキャリパのディスク半径方向外側に設けられている。これに対して、一般に四輪自動車用のディスクブレーキでは、流入孔をボアの底部に形成するようになっている。このように流入孔をボアの底部に形成するものであると、流入孔を形成するためのボス部(突起)が底部の外面に形成されることになるため、この部分が摩擦攪拌接合の接合工具に当たる可能性があり、摩擦攪拌接合が困難で、製造効率が低下する可能性があった。
【0048】
これに対して、第1実施形態のディスクブレーキ11によれば、底蓋部材92が、円盤状に形成され、ボア40内に臨む一面側に凸部68が設けられるとともに、ボア40に液圧を供給するための流入孔58が凸部68の範囲内で一面側の頂面71と他面である外面63とを連通して設けられているため、流入孔58を形成するための凸部68がボア40内に形成されることになり、ボア40の外側から接合工具110で行われる摩擦攪拌接合が容易となり、キャリパ15の製造効率を向上させることができる。
【0049】
また、ボア40に形成された凸部68の範囲内で流入孔58を形成すれば良いため、流入孔58の位置つまり配管60の配置を含む取り回しの自由度を向上できる。
【0050】
また、爪部37とシリンダ部35とを接続するブリッジ部36がディスク12を跨いで設けられるフィスト型(フローティング型)のキャリパ15のキャリパボディ32であって、爪部37におけるシリンダ部35のボア40が対向する部分は、シリンダ部35の中心を覆うように形成されているため、爪部37の強度や剛性を向上することができる。これにより、爪部37の剛性不足によるブレーキ鳴きの発生を抑制することができ、ディスクブレーキの信頼性が向上する。
【0051】
また、爪部37側からボア40内を加工するのではなく、シリンダ部35の底部41側からボア40内を切削加工することができるため、切削工具の固定部から先端までのオーバーハングを短くすることができ、加工精度を確保した上で加工時間を短縮することができる。
【0052】
また、左右の取付勝手の違いに対しても共通の鋳物素材を用いることで、シリンダ部35に一対のブリーダボス44が外方に突設されることになるが、底部41を形成する際の摩擦攪拌接合の終了位置を、一対のブリーダボス44のうち、ブリーダプラグ43が配設されないブリーダボス44に設定したため、残存穴部56をボア40およびボア40に連通するブリーダ連通穴55およびプラグ取付穴45から離すことができる。よって、残存穴部56により薄肉部分が生じるのを防止することができる。また、摩擦攪拌接合の終了位置のための専用部位をキャリパ15に形成する必要がないため、キャリパ15の軽量化、ひいてはディスクブレーキの軽量化を図ることができる。
【0053】
また、底蓋部材92は、外面63を構成する他面である外面構成面102が平坦となっているため、ボア40の外側から接合工具110で行われる摩擦攪拌接合がさらに容易となり、キャリパ15の製造効率をさらに向上させることができる。加えて、外面63の全体が平坦となっているため、摩擦攪拌接合が一層容易となり、キャリパ15の製造効率を一層向上させることができる。
【0054】
また、キャリパボディ32が、アルミニウム合金で形成されているため、摩擦攪拌接合がさらに容易となり、キャリパ15の製造効率をさらに向上させることができる。また、キャリパ15を軽量化することができる。
【0055】
また、ピストン33が、カップ状に形成されるとともに、外底部82に凸部68を格納する凹部83が形成されているため、ボア40の底部41に凸部68があっても、シリンダ部35の軸線方向長さひいてはキャリパ15の軸線方向長さが長大化することを抑制することができる。したがって、ディスクブレーキの小型化を図ることが可能となる。
【0056】
また、底蓋部材92の流入孔58が、底蓋部材92の中心からずれているため、流入孔58を底蓋部材92の中心からずらすことにより、回止穴65を底蓋部材92の中心寄りに形成することができ、これらが形成される凸部68の径(図9のL寸法)を小さくすることができる。よって、摩擦攪拌接合時に中子治具で支持される底面構成面101を広くでき、支持剛性を確保できるので、摩擦攪拌接合の品質を安定させることができる。しかも、シリンダ部35の鋳物外径部を大きく膨らまして設定する必要がなくなるので、質量増を抑制できる。したがって、ディスクブレーキの軽量化を図ることができる。
【0057】
第1実施形態のディスクブレーキ11の製造方法によれば、ボア40の内部を切削加工されて筒状に形成され両端が開口となっているシリンダ部35と、ディスク12を跨ぐためにシリンダ部35の径方向外方でその軸方向へ延びるブリッジ部36とを有するキャリパボディ本体91を準備する工程と、円盤状に形成され、一面側に凸部68が設けられる底蓋部材92を準備する工程と、シリンダ部35の底部41側の開口周縁部98に、凸部68をシリンダ部35の内側に配置した状態で底蓋部材92を摩擦攪拌接合により一体的に接合する工程と、キャリパボディ本体91に接合された底蓋部材92に、凸部68の範囲内で一面側の頂面71と他面である外面63とを連通する流入孔58を切削加工する工程とからなるため、流入孔58を形成するための凸部68がボア40内に形成されることになり、ボア40の外側から接合工具110で行われる摩擦攪拌接合が容易となり、キャリパ15の製造効率を向上させることができる。
【0058】
また、シリンダ部35に底蓋部材92を摩擦攪拌接合により一体的に接合する工程の後、凸部68の範囲内で一面側の頂面71と他面である外面63とを連通する流入孔58を切削加工する工程を行うため、摩擦攪拌接合時に底蓋部材92のシリンダ部35に対する回転方向の位置決めが不要となり、摩擦攪拌接合がさらに容易となって、キャリパ15の製造効率をさらに向上することができる。
【0059】
加えて、シリンダ部35に底蓋部材92を摩擦攪拌接合により一体的に接合する工程の後に、配管60の口金61のシート面を形成する座ぐり64も行うため、座ぐり64に傷や圧痕を付けてしまうことを防止できる。つまり、底蓋部材92をキャリパボディ本体91にセットしたり、摩擦攪拌接合したり、接合後にキャリパボディ32を摩擦攪拌接合装置から取り外したりする際等に傷や圧痕を付け易いが、これを防止できることになる。
【0060】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に図11に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。
【0061】
図11は、本発明に係る第2実施形態のディスクブレーキのキャリパボディおよびピストンを示す断面図である。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0062】
第2実施形態においては、底蓋部材92の形状が第1実施形態と相違している。つまり、第2実施形態では、底蓋部材92に、ボア40内に突出する凸部68に加えてボア40外に突出する凸部120が形成されており、凸部120の分、凸部68の突出高さが小さくなっている。その結果、シリンダ部35のボア40の底部41に、ディスク軸線方向両側に凸部68および凸部120が形成されている。
【0063】
凸部68は、頂面71と底面69との間に、円錐外面ではなく、頂面71側ほど小径となるように断面円弧状に湾曲する湾曲面121が形成されている。
【0064】
凸部120は、ボア40の軸線方向に直交する平坦な頂面123と、頂面123側ほど小径となるように断面円弧状に湾曲する湾曲面124とを有しており、底蓋部材92の湾曲面124の周囲が、頂面123と平行な平坦面で円環状をなす外面構成面102となっている。
【0065】
そして、凸部68および凸部120は、同軸同径となっており、これらの範囲内に、第1実施形態と同様の流入孔58、座ぐり64および回止穴65が形成されている。
【0066】
ここで、凸部120は、摩擦攪拌接合の接合工具110との干渉を避ける形状に形成されている。
【0067】
以上に述べた第2実施形態によれば、ボア40の底部41に、ボア40内に突出する凸部68に加えてボア40外に突出する凸部120が形成されているため、ボア40内に突出する凸部68の突出高さを低くできる。よって、ブレーキフルードをその分だけ多くボア40内に充填することができ、制動時のブレーキフルードの温度上昇を抑制することができる。
【0068】
なお、凸部68および凸部120の突出高さを同等に設定すれば、底蓋部材92が表裏対称形状になり、キャリパボディ本体91への摩擦攪拌接合時に表裏を確認する必要がなくなるため、キャリパ15の製造効率をさらに向上させることができる。
【0069】
「第3実施形態」
次に、第3実施形態を主に図12〜図14に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0070】
第3実施形態は、第1実施形態の配管60の回止フック66および回止穴65が設けられていない。そして、シリンダ部35のボア40の底部41には、ボア40の径方向内側であってボア40の中心からずれた位置に、第1実施形態と同様の流入孔58および座ぐり64がディスク軸線方向に沿って貫通形成されている。第3実施形態では、流入孔58が、図14に示すように、キャリパボディ32のディスク回転方向における中央を通るディスク半径線上であって、ボア40の中心よりもディスク半径方向外側(ブリッジ部36側)に全体としてずれて形成されている。
【0071】
また、シリンダ部35のボア40の底部41には、ボア40の径方向内側であってボア40の中心からずれた位置に、一対の回止ピン取付穴130がディスク軸線方向に沿って外側から途中位置まで形成されている。一対の回止ピン取付穴130は、互いを結んだ線の中心が、キャリパボディ32のディスク回転方向における中央を通るディスク半径線上であって、ボア40の中心よりもディスク半径方向内側に全体としてずれて形成されている。この一対の回止ピン取付穴130には、図13に示す一対の平行なピン部132と、一対のピン部132を連結する連結部133とを有するH字状の回止ピン134が、一対のピン部132の連結部133より一側において圧入される。この回止ピン134は、一対のピン部132の連結部133より他側が底部41からボア40の軸線方向に沿って外側にディスク回転方向に並んで突出することになり、これらの間に配管60を挿通させることで、ユニオンボルト62の流入孔58への螺合時における口金61の連れ回りを規制する。
【0072】
なお、第3実施形態の流入孔58も、底部41の外面63と凸部68の頂面71とを連通しており、凸部68の範囲内に形成されている。加えて、一対の回止ピン取付穴130も凸部68の範囲内に形成されている。
【0073】
「第4実施形態」
次に、第4実施形態を主に図15に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。
【0074】
図15は、本発明に係る第4実施形態のディスクブレーキのキャリパボディ、ピストンおよび配管類を示す断面図である。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0075】
第4実施形態では、ピストン33の球状底面87の中央部に当接凸部140が、ピストン33の軸線方向に沿って突出している。そして、この当接凸部140において、シリンダ部35のボア40の底部41に当接する。具体的には、底部41の凸部68の頂面71における流入孔58と重ならない位置に当接する。
【0076】
ここで、ピストン33が当接凸部140において、シリンダ部35のボア40の底部41に当接した状態で、ピストンの凹部83は底部41の凸部68を格納するようになっており、このとき、ピストン33の端面85はボア40の底面69に対し離間している。この状態で、凸部68の円錐外面70と凹部83の円錐内面86との間には全面的に隙間が形成され、凸部68の頂面71と凹部83の球状底面87との間にも当接凸部140以外には隙間が形成される。
【0077】
以上に述べた第4実施形態のディスクブレーキ11によれば、キャリパボディ32を車両へ装着し、真空引きにてブレーキフルードをキャリパボディ32のボア40内に充填する際に、真空引きの負圧でシリンダ部35の底部41にピストン33が当接することになるが、ピストン33は、中央部に設けられた当接凸部140において底部41に当接することから、底部41への張り付きを防止することができる。また、ピストン33を樹脂製とした場合に、真空引き時の衝突の衝撃でピストン33の外底部82に生じる損傷を防止できる。
【0078】
また、真空引きにてブレーキフルードをキャリパボディ32のボア40内に充填する際に、ピストン33は、当接凸部140において、底部41のうち凸部68が形成された厚肉部分に当接することになるため、衝突の衝撃で底部41に生じる損傷を防止できる。
【0079】
なお、以上の第1〜第4実施形態においては、シリンダ部35がディスク12の一面側のみに配置され、ディスク12の他面側には爪部37が形成され、液圧によりディスク12の一面側のみに設けられた1つのピストン33でブレーキパッド14を押圧するフィスト型のキャリパ15を例にとり説明したが、シリンダ部35がディスク12の両面側に配置される対向型のキャリパにも適用可能である。このように対向型のキャリパに適用する場合には、対向する一対のシリンダ部のうち流入孔が設けられる側のシリンダ部に摩擦攪拌接合を適用すればよく、必要があれば、両側のシリンダ部に摩擦攪拌接合を適用してもよい。また、ディスク12の一面側に2つ以上のピストンを設けたフィスト型のキャリパや対向型のキャリパにも適用可能である。さらに、第1〜第4実施形態においては、ディスク12の両面側に一対のブレーキパッド14を設けるようにしているが、二対又はそれ以上の対のブレーキパッドを設けたディスクブレーキにも適用が可能である。
【0080】
上記実施の形態のディスクブレーキによれば、ディスクの両面に配置された一対のブレーキパッドのうち、少なくとも一方側のブレーキパッドを液圧により押圧するピストンが挿入されるボアが内部に形成されるシリンダ部を有するキャリパボディを備え、前記シリンダ部は、筒状に形成されるとともに、底部側に設けられた開口周縁部と該開口周縁部に嵌合される底蓋部材とを摩擦攪拌接合により一体に接合することで前記ボアの底部が形成され、前記底蓋部材は、円盤状に形成され、前記ボア内に臨む一面側に凸部が設けられるとともに、前記ボアに液圧を供給するための流入孔が前記凸部の範囲内で前記一面と他面とを連通して設けられるようになっている。これにより、ボアの外側から接合工具で行われる摩擦攪拌接合が容易となり、ディスクブレーキの製造効率を向上させることができる。
【0081】
上記実施の形態のディスクブレーキによれば、キャリパボディは、前記ディスクの一方の面側に前記シリンダ部が設けられ、前記ディスクの他方の面側に爪部が設けられ、該爪部と前記シリンダ部とを接続するブリッジ部が前記ディスクを跨いで設けられるフィスト型キャリパのキャリパボディであって、前記爪部における前記シリンダ部の前記ボアが対向する部分は、前記シリンダ部の中心を覆うように形成されている。これにより、爪部の強度や剛性を向上することができ、爪部の剛性不足によるブレーキ鳴きの発生を抑制することができてディスクブレーキの信頼性が向上する。
【0082】
上記実施の形態のディスクブレーキによれば、シリンダ部は、底部の外周側にいずれか一の方向にブリーダプラグが配設され、前記シリンダ部には、一対のブリーダボスが外方に突設され、前記底部を形成する際の摩擦攪拌接合の終了位置を、前記一対のブリーダボスのうち、前記ブリーダプラグが配設されないブリーダボスに設定している。これにより、摩擦攪拌接合の終了位置に生じる残存穴部により薄肉部分が生じるのを防止することができる。また、摩擦攪拌接合の終了位置のための専用部位をキャリパボディに形成する必要がないため、キャリパボディの軽量化、ひいてはディスクブレーキの軽量化を図ることができる。
【0083】
上記実施の形態のディスクブレーキよれば、底蓋部材の他面を平坦に形成するようにしている。これにより、ボアの外側から接合工具で行われる摩擦攪拌接合が容易となり、ディスクブレーキの製造効率を向上させることができる。
【0084】
上記実施の形態のディスクブレーキよれば、キャリパボディは、アルミニウム合金で形成されている。これにより、キャリパボディの軽量化、ひいてはディスクブレーキの軽量化を図ることができる。
【0085】
上記実施の形態のディスクブレーキよれば、ピストンは、カップ状に形成されるとともに、外底部に前記凸部を格納する凹部が形成されている。これにより、ボアの底部に凸部があっても、シリンダ部の軸線方向長さひいてはキャリパの軸線方向長さが長大化することを抑制することができ、ディスクブレーキの小型化を図ることが可能となる。
【0086】
上記実施の形態のディスクブレーキよれば、底蓋部材の前記流入孔は、前記底蓋部材の中心からずれて形成されている。これにより、配管接続のための回止穴を底蓋部材の中心寄りに形成することができ、これらが形成される凸部の径を小さくすることができる。これにより、摩擦攪拌接合時に中子治具で支持される底面構成面を広くでき、支持剛性を確保できるので、摩擦攪拌接合の品質を安定させることができる。しかも、シリンダ部の鋳物外径部を大きく膨らまして設定する必要がなくなるので、質量増を抑制できる。したがって、ディスクブレーキの軽量化を図ることができる。
【0087】
上記実施の形態のディスクブレーキによれば、キャリパボディを車両へ装着し、真空引きにてフルードを前記キャリパボディの前記ボア内に充填する際に、前記シリンダ部に当接する当接凸部が、前記ピストンの中央部に設けられるようになっている。これにより、ピストンのボア底部への張り付きを防止することができる。また、ピストンを樹脂製とした場合に、真空引き時の衝突の衝撃でピストンの外底部に生じる損傷を防止できる。
【0088】
上記実施の形態のディスクブレーキによれば、ボア内部を切削加工されて筒状に形成され両端が開口となっているシリンダ部と、ディスクを跨ぐために前記シリンダ部の径方向外方でその軸方向へ延びるブリッジ部とを有するキャリパボディ本体を準備する工程と、円盤状に形成され、一面側に凸部が設けられる底蓋部材を準備する工程と、前記シリンダ部の底部側の開口周縁部に、前記凸部を前記シリンダ部の内側に配置した状態で前記底蓋部材を摩擦攪拌接合により一体的に接合する工程と、前記キャリパボディ本体に接合された前記底蓋部材に、前記凸部の範囲内で前記一面と他面とを連通する流入孔を切削加工する工程とを含んで製造されるようになっている。これにより、流入孔を形成するための凸部がボア内に形成されることになり、ボアの外側から接合工具で行われる摩擦攪拌接合が容易となって、キャリパの製造効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0089】
12 ディスク
14 ブレーキパッド
15 キャリパ
32 キャリパボディ
33 ピストン
35 シリンダ部
36 ブリッジ部
37 爪部
40 ボア
41 底部
43 ブリーダプラグ
44 ブリーダボス
58 流入孔
68 当接凸部
82 外底部
83 凹部
91 キャリパボディ本体
92 底蓋部材
98 開口周縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクの両面に配置された一対のブレーキパッドのうち、少なくとも一方側のブレーキパッドを液圧により押圧するピストンが挿入されるボアが内部に形成されるシリンダ部を有するキャリパボディを備え、
前記シリンダ部は、筒状に形成されるとともに、底部側に設けられた開口周縁部と該開口周縁部に嵌合される底蓋部材とを摩擦攪拌接合により一体に接合することで前記ボアの底部が形成され、
前記底蓋部材は、円盤状に形成され、前記ボア内に臨む一面側に凸部が設けられるとともに、前記ボアに液圧を供給するための流入孔が前記凸部の範囲内で前記一面と他面とを連通して設けられることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記キャリパボディは、前記ディスクの一方の面側に前記シリンダ部が設けられ、前記ディスクの他方の面側に爪部が設けられ、該爪部と前記シリンダ部とを接続するブリッジ部が前記ディスクを跨いで設けられるフィスト型キャリパのキャリパボディであって、
前記爪部における前記シリンダ部の前記ボアが対向する部分は、前記シリンダ部の中心を覆うように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記シリンダ部は、前記底部の外周側にいずれか一の方向にブリーダプラグが配設されるもので、
前記シリンダ部には、一対のブリーダボスが外方に突設され、前記底部を形成する際の摩擦攪拌接合の終了位置を、前記一対のブリーダボスのうち、前記ブリーダプラグが配設されないブリーダボスに設定したことを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記ピストンは、カップ状に形成されるとともに、外底部に前記凸部を格納する凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
前記底蓋部材の前記流入孔が、前記底蓋部材の中心からずれていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
前記キャリパボディを車両へ装着し、真空引きにてフルードを前記キャリパボディの前記ボア内に充填する際に、前記シリンダ部に当接する当接凸部が、前記ピストンの中央部に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のディスクブレーキ。
【請求項7】
ボア内部を切削加工されて筒状に形成され両端が開口となっているシリンダ部と、ディスクを跨ぐために前記シリンダ部の径方向外方でその軸方向へ延びるブリッジ部とを有するキャリパボディ本体を準備する工程と、
円盤状に形成され、一面側に凸部が設けられる底蓋部材を準備する工程と、
前記シリンダ部の底部側の開口周縁部に、前記凸部を前記シリンダ部の内側に配置した状態で前記底蓋部材を摩擦攪拌接合により一体的に接合する工程と、
前記キャリパボディ本体に接合された前記底蓋部材に、前記凸部の範囲内で前記一面と他面とを連通する流入孔を切削加工する工程とからなることを特徴とするディスクブレーキの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−281429(P2010−281429A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137328(P2009−137328)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】