ディスクブレーキのパッド保持装置
【課題】 鉄道車両等のディスクブレーキ装置における制動用パッドの保持装置であって、走行中等におけるパッドのガタツキを防止すること。
【解決手段】 車両の台車に取り付けられ、車軸側のディスクにバッドホルダに保持させた一対のパッドを介して制動力を付与するディスクブレーキ装置において、前記パッドとパッドホルダの一方に磁石又は磁性体を取り付けるとともに、他方には上記磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を取り付け、磁力によって両者を互いに吸着固定するように構成した。
【解決手段】 車両の台車に取り付けられ、車軸側のディスクにバッドホルダに保持させた一対のパッドを介して制動力を付与するディスクブレーキ装置において、前記パッドとパッドホルダの一方に磁石又は磁性体を取り付けるとともに、他方には上記磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を取り付け、磁力によって両者を互いに吸着固定するように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等のディスクブレーキ装置における制動用パッドの保持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両では、古くから、車輪に直接摩擦材を押し当てて制動するブレーキ装置が使用されてきたが、近年は、車輪に摩擦材を押し当てる代わりに、車軸に取り付けたディスクに制動力を付与するディスクブレーキ装置が広く使用されるようになっている。このディスクブレーキ装置は、ディスクを両側から摩擦材(パッド)で挟み付けて制動するものである。
【0003】
図10は、この種の一般的なディスクブレーキ装置を例示するもので、車軸AにブレーキディスクDが取り付けられており、このディスクDを挟むように二股形状のクランプレバー(「ブレーキ用梃」、「キャリパー」とも呼ばれる)K,Kが設けられている。クランプレバーKの基部は、車両の支持フレームに支持されている。
【0004】
クランプレバーKの先端部には制動子(パッド)Pが取り付けられており、高圧エアをダイヤフラムBに注入して該ダイヤフラムを膨張させることにより、クランプレバーKを制動方向に回動させて、パッドP,Pで左右からディスクDを挟圧し該ディスクを制動するのである。
【0005】
上記パッドは、パッドホルダで支持されるが、その支持構造については種々の方式が提案されている。これらのなかには、特許文献1に開示されているように、パッドとパッドホルダとを凹凸嵌合して支持するものもある。
【0006】
【特許文献1】特開2003−14012号公報
【0007】
上記特許文献1に記載されている構造は、パッドに設けたキー部をパッドホルダに設けたキー溝に鉛直下方から沿わせることによりパッドの着脱を行うもので、パッドの落下をパッドの着脱方向とは異なる方向に付勢されるラッチで防止するようになっている。
【0008】
この特許文献1に記載の構造によると、パッドの着脱作業を容易に行うことができるとされているが、このように、パッドとパッドホルダとを凹凸嵌合により保持する構造では、両者の間に若干のガタツキが避けられないため、車両の走行中における振動、騒音や、部品の早期摩耗が生じる可能性がある。
【0009】
一方、車輪に取り付けたディスクにピストンでパッドを押し付ける構造のものであって、当該ピストンの内側に埋設したマグネットによって吸引させておくようにしたものがある(特許文献2、特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献2】実開昭64−24734号公報
【特許文献3】特開平11−241741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の構造では、上記のとおり、凹凸嵌合部のガタツキにより、振動、騒音、摩耗等が生じるおそれがあるという問題点がある。また、特許文献2及び3に記載の構造は、ピストンにパッドを磁石で吸着しておくものであるから、パッドをパッドホルダに装着する構造の鉄道車両等のブレーキ装置には適用できない。
【0012】
そこで本発明は、パッドをパッドホルダに取り付けて支持するディスクブレーキ装置において、パッドとパッドホルダの取り付け部のガタツキを効果的に防止するとともに、当該パッドとパッドホルダの離脱の容易性を損なわないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用した。すなわち、請求項1に記載のパッド保持装置は、車両の台車に取り付けられ、車軸側のディスクにバッドホルダに保持させた一対のパッドを介して制動力を付与するディスクブレーキ装置において、前記パッドとパッドホルダの一方に磁石又は磁性体を取り付けるとともに、他方には上記磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を取り付け、磁力によって両者を互いに吸着固定するように構成したことを特徴としている。
【0014】
また、請求項2に記載のパッド保持装置は、上記請求項1に記載の構成に加えて、パッドホルダに磁石又は磁性体を揺動自在に取り付け、その揺動により、パッドの裏面側に設けた磁性体又は磁石に吸着又は離脱させるように構成したものである。
【0015】
さらに、請求項3に記載のパッド保持装置は、請求項2に記載の構成に加えて、パッドをパッドホルダに設けたパッド装着用の溝に下側から嵌合して取り付け、当該パッドホルダの溝の下側開口部を落下防止部材で開閉するように構成するとともに、前記落下防止部材をパッド装着用の溝を閉塞する閉位置から当該溝を開放する開位置まで揺動自在に支持軸で軸支し、かつ当該支持軸に設けた支持部材でパッドの磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を支持することにより、前記落下防止部材の閉位置への移動とともにパッドを磁力によって吸着固定するようにした。
【0016】
また、請求項4に記載のパッド保持装置は、上記請求項1乃至3に記載の構成に加えて、さらにパッドの上端部を下向きに弾性的に押圧するバネを設けた。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載のパッド保持装置は、パッドとパッドホルダとを磁力で吸着させるので、装着部に多少のギャップがあっても走行中にガタツキが生じない。このため、振動や騒音が少なく、部品の早期摩耗も防止できる。また、請求項2に記載のパッド保持装置は、磁石又は磁性体を揺動させて他方に吸着させるものであるから、吸着操作や離脱操作が容易である。さらに、請求項3に記載のパッド保持装置は、パッド装着用の溝の下側開口部を開閉する落下防止部材の回動とともに前記磁石又は磁性体を回動させて吸着・離脱させるので、その吸着・離脱操作がより簡単である。また、請求項4に記載のパッド保持装置は、パッドホルダに下側から装着されたパッドの上端部をバネで弾性的に押さえるので、ガタツキがより確実に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施形態について、具体的に説明する。図は本発明の実施形態を例示するもので、このパッド保持装置1は、ブレーキディスクDに対面する作用面に上下方向のアリ溝2aが切られたパッドホルダ2を備えている。パッドホルダ2の背面側には上下一対の軸受け3,3が所定間隔で突設され、この軸受け3,3に案内ピン4が支持されている。このパッドホルダ2は、前記軸受け3,3に支持される案内ピン4がディスクブレーキ装置のキャリパ(ブレーキ用梃)Kに連結され、該キャリパの開閉動作によって作動する。図中の5はブッシュであり、6はピン4の逸脱を防止する割りピンである。
【0019】
パッドホルダ2の上部には表裏に通じる横方向の細長いスリット7が形成されていて、このスリット7を通して図に示す屈曲板バネからなるパッドガタツキ防止バネ9が背面側から挿入されている。また、パッドホルダ2の背面側には、左右一対の上下方向の補強リブ11,11が設けられている。さらに、この補強リブ11の側方には、該リブと平行なマグネット支持軸13がブラケット14,14によって軸回りに回動自在に支持されている。このマグネット支持軸13には、上下のマグネット15,15がアーム15a,15aを介して取り付けられている。これら両マグネットは、パットホルダ2に設けた通孔16,16を通してパッドの裏側に接触可能なように設けられている。
【0020】
パッドホルダ2の下部には、前記マグネット支持軸13の端部を受ける軸受け17と、ブラケット18が設けられている。前記支持軸13の端部にはパッドの落下を防止する落下防止部材(ラッチ)20が取り付けられ、該支持軸13の回動により当該支持軸を中心として回動するようになっている。
【0021】
図5は上記パッド落下防止部材20を表すもので、この落下防止部材20の先端部にはピン穴21が設けられ、中間部にはパッドホルダ2の表面側へ突出する凸部20aが設けられるとともに、該突出部の端部寄りの位置にはバネ挿通穴22が設けられている。落下防止部材20の前記ピン穴21よりも先端側の部分は、先端側の肉厚が次第に薄くなるようなテーパ部20bとして形成されている。落下防止部材20の中間部のバネ挿通穴22にはU状のバネ25の基部が挿入され、その端部はパッド落下防止部材20の板面に沿うように屈曲されていて、抜け出しが防止されている。また、U状のバネ25の反対側の端部は、前記ブラケット18に設けた通孔18aに挿入されている。落下防止部材20が、開位置(パッドホルダ表面から離れる位置)と閉位置(その中間部の凸部20aがパッドホルダ2の表面側に突出する位置)との間を移動するときにU状バネ25は、最も圧縮される点を通過する。このため、落下防止部材20は、開位置でも閉位置でもU状バネ25の付勢力によって保持される。
【0022】
ブラケット18には、係止部材として、コイルバネとピンを有するスプリングプランジャ27が取り付けられている。このプランジャのピン28は前記落下防止部材20側に突出する方向にコイルバネによって付勢されていて、突出した状態では、係合部である前記ピン穴21に嵌合する。プランジャ27は、位置決め用のインデックスプランジャとして機能するもので、そのピン28の後端部には、ピン引き抜き用のリング29が取り付けられている。係止部材としては、他の適当な係止手段を有するものを用いてもよい。また、上記係止部材(プランジャ)27を落下防止部材20側に設け、係合部(ピン穴)21をパッドホルダ側に設けてもよい。
【0023】
パッドホルダ2の表面(作用面)側に切られた上下方向のアリ溝2aには、図6及び図7に示すように、該アリ溝2aに摺動自在に嵌合するアリ(キー)30aを備えたパッド30が取り付けられる。その取り付けは、下方からパッド30のアリ30aをアリ溝2aに挿入することにより行われる。図中の30bはパッド裏面に装着された磁性体(鉄板)のライナーである。
【0024】
パッドホルダ2に取り付けられたパッド30の下端部は、U状バネ25によってアリ溝2aの下端部を閉塞する方向、すなわち、アリ溝側に突出する閉方向に付勢された落下防止部材20によって支持される。このため、パットホルダ2に取り付けられたパッド30が逸脱することはない。
【0025】
さらに、上記落下防止部材20が、閉位置すなわちアリ溝2aの下端部を閉塞する作用位置では、内部のコイルバネによって付勢されているスプリングプランジャ27のピン28が当該落下防止部材20のピン穴21に嵌合するため、落下防止部材20の移動(図示例では揺動)が規制される。このため、落下防止部材20が作用位置から外れることはなく、パッド30の逸脱防止機能がより確実となる。なお、図示例では、落下防止部材20が軸13を中心に回動するようになっているが、横方向や前後方向に移動してアリ溝を開閉するようにしてもよい。
【0026】
上記アリ30aとアリ溝2aの嵌合を介してパッドホルダ2に取り付けられたパッド30の上端部は、前記スリット7からアリ溝側に突出するガタツキ防止バネ9によって弾力的に押さえられるため、車両の走行中におけるそのガタツキが防止される。このため走行中における騒音や振動が少なく、部品の損傷も抑制される。
【0027】
一方、このパッド保持装置では、パッド装着用の溝2aの開口部を開閉する落下防止部材20を回動させる軸13に該軸と直角方向に突出するアーム15aを介してマグネット15が取り付けられており、落下防止部材20の回動とともに前記アーム15aが回動するようになっている。このため、落下防止部材20が溝端部を閉塞する閉位置に移動するときは、同時にマグネット15が通孔16内を移動してパッド30の裏面に吸着する。また、落下防止部材20が開方向に移動するときは、マグネット15がパッド30から離脱する方向に移動する。マグネットがパッドに吸着した状態では、パッドの遊動が規制され、上記ガタツキ防止バネとともに、振動や騒音の発生を抑制する。図示例のように、マグネットを落下防止部材20の回動とともに回動させてパッドに吸着・離脱させるので、操作はきわめて簡単である。なお、マグネットをパッド側に設け、これに吸着する磁性体を回動(移動)させて吸着・離脱を行うようにしてもよい。
【0028】
このディスクブレーキ装置の制動用パッド30を交換するときは、車両の下側空間内に潜って、パッド30を受ける用意をしてから、リング29を引くことによりプランジャ27のピン28をピン穴21から引き抜き、落下防止部材20をU状バネ25の付勢力に抗して開方向すなわちアリ溝2aの下端部を開放する方向に回動させる。すると、落下防止部材20は、U状バネ25によってその開状態で保持され、パッド30がアリ溝2aに沿って下降するので、これを受け取って取り出せばよい。
【0029】
新たなパッド30をパッドホルダ2に取り付けるときは、落下防止部材20を開方向に回動させた状態で、パッドホルダ2の下側からパッド30をアリ溝2aに沿わせて挿入する。しかるのち、落下防止部材20を閉方向に回動させれば、落下防止部材20はU状バネ25の付勢力により、アリ溝2aを閉じる閉位置で保持される。落下防止部材20が一杯に移動すると、そのピン穴21がプランジャ27のピン28の位置にくるため、該ピン28が内部のコイルバネの付勢力により突出しつつ落下防止部材20のテーパ部20bによって案内され、落下防止部材20のピン穴21に挿入される。これにより、落下防止部材20の移動は規制され、パッド30が確実にパッドホルダ2に保持されるのである。
【0030】
このパッド保持装置は、パッドの取り付けのための挿入方向と異なる方向(図示例では直角方向)に移動する落下防止部材20によりパッド取り付け用の溝の端部を閉塞するので、作業は簡単である。しかも、落下防止部材20の開方向への移動を規制する手段としてスプリングプランジャ27が設けられているので、落下防止部材20による取り付け溝の閉塞と同時に該落下防止部材20の移動をロックすることができる。このため、落下防止操作をきわめて簡単かつ確実に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明に係るディスクブレーキのパッド保持装置は、ディスクを挟圧制動するパッドをパッドホルダに取り付けて保持させるものであり、その取り付け状態においてパッドとパッドホルダ側の部材とを磁力で吸着させてパッドを固定することにより、振動、騒音、部品の早期摩耗等を効果的に防止できるので、鉄道車両等のブレーキ装置に採用するに適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】パッドホルダの背面図である。
【図2】その左側面図である。
【図3】その平面図である。
【図4】その下面図である。
【図5】落下防止部材の正面図(a)および側面図(b)である。
【図6】パッドの正面図である。
【図7】その取り付け状態を表す断面図である。
【図8】ガタツキ防止バネ取り付け部の拡大図である。
【図9】ガタツキ防止バネの外観図である。
【図10】ディスクブレーキ装置の説明図である。
【図11】マグネット取り付け部の側面図である。
【図12】その正面図である。
【図13】その断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 落下防止装置
2 パッドホルダ
4 ピン
9 ガタツキ防止バネ
13 支持軸
15 マグネット
15a アーム
20 落下防止部材
21 ピン穴(係合部)
27 スプリングプランジャ(係止部材)
30 パッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等のディスクブレーキ装置における制動用パッドの保持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両では、古くから、車輪に直接摩擦材を押し当てて制動するブレーキ装置が使用されてきたが、近年は、車輪に摩擦材を押し当てる代わりに、車軸に取り付けたディスクに制動力を付与するディスクブレーキ装置が広く使用されるようになっている。このディスクブレーキ装置は、ディスクを両側から摩擦材(パッド)で挟み付けて制動するものである。
【0003】
図10は、この種の一般的なディスクブレーキ装置を例示するもので、車軸AにブレーキディスクDが取り付けられており、このディスクDを挟むように二股形状のクランプレバー(「ブレーキ用梃」、「キャリパー」とも呼ばれる)K,Kが設けられている。クランプレバーKの基部は、車両の支持フレームに支持されている。
【0004】
クランプレバーKの先端部には制動子(パッド)Pが取り付けられており、高圧エアをダイヤフラムBに注入して該ダイヤフラムを膨張させることにより、クランプレバーKを制動方向に回動させて、パッドP,Pで左右からディスクDを挟圧し該ディスクを制動するのである。
【0005】
上記パッドは、パッドホルダで支持されるが、その支持構造については種々の方式が提案されている。これらのなかには、特許文献1に開示されているように、パッドとパッドホルダとを凹凸嵌合して支持するものもある。
【0006】
【特許文献1】特開2003−14012号公報
【0007】
上記特許文献1に記載されている構造は、パッドに設けたキー部をパッドホルダに設けたキー溝に鉛直下方から沿わせることによりパッドの着脱を行うもので、パッドの落下をパッドの着脱方向とは異なる方向に付勢されるラッチで防止するようになっている。
【0008】
この特許文献1に記載の構造によると、パッドの着脱作業を容易に行うことができるとされているが、このように、パッドとパッドホルダとを凹凸嵌合により保持する構造では、両者の間に若干のガタツキが避けられないため、車両の走行中における振動、騒音や、部品の早期摩耗が生じる可能性がある。
【0009】
一方、車輪に取り付けたディスクにピストンでパッドを押し付ける構造のものであって、当該ピストンの内側に埋設したマグネットによって吸引させておくようにしたものがある(特許文献2、特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献2】実開昭64−24734号公報
【特許文献3】特開平11−241741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の構造では、上記のとおり、凹凸嵌合部のガタツキにより、振動、騒音、摩耗等が生じるおそれがあるという問題点がある。また、特許文献2及び3に記載の構造は、ピストンにパッドを磁石で吸着しておくものであるから、パッドをパッドホルダに装着する構造の鉄道車両等のブレーキ装置には適用できない。
【0012】
そこで本発明は、パッドをパッドホルダに取り付けて支持するディスクブレーキ装置において、パッドとパッドホルダの取り付け部のガタツキを効果的に防止するとともに、当該パッドとパッドホルダの離脱の容易性を損なわないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用した。すなわち、請求項1に記載のパッド保持装置は、車両の台車に取り付けられ、車軸側のディスクにバッドホルダに保持させた一対のパッドを介して制動力を付与するディスクブレーキ装置において、前記パッドとパッドホルダの一方に磁石又は磁性体を取り付けるとともに、他方には上記磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を取り付け、磁力によって両者を互いに吸着固定するように構成したことを特徴としている。
【0014】
また、請求項2に記載のパッド保持装置は、上記請求項1に記載の構成に加えて、パッドホルダに磁石又は磁性体を揺動自在に取り付け、その揺動により、パッドの裏面側に設けた磁性体又は磁石に吸着又は離脱させるように構成したものである。
【0015】
さらに、請求項3に記載のパッド保持装置は、請求項2に記載の構成に加えて、パッドをパッドホルダに設けたパッド装着用の溝に下側から嵌合して取り付け、当該パッドホルダの溝の下側開口部を落下防止部材で開閉するように構成するとともに、前記落下防止部材をパッド装着用の溝を閉塞する閉位置から当該溝を開放する開位置まで揺動自在に支持軸で軸支し、かつ当該支持軸に設けた支持部材でパッドの磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を支持することにより、前記落下防止部材の閉位置への移動とともにパッドを磁力によって吸着固定するようにした。
【0016】
また、請求項4に記載のパッド保持装置は、上記請求項1乃至3に記載の構成に加えて、さらにパッドの上端部を下向きに弾性的に押圧するバネを設けた。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載のパッド保持装置は、パッドとパッドホルダとを磁力で吸着させるので、装着部に多少のギャップがあっても走行中にガタツキが生じない。このため、振動や騒音が少なく、部品の早期摩耗も防止できる。また、請求項2に記載のパッド保持装置は、磁石又は磁性体を揺動させて他方に吸着させるものであるから、吸着操作や離脱操作が容易である。さらに、請求項3に記載のパッド保持装置は、パッド装着用の溝の下側開口部を開閉する落下防止部材の回動とともに前記磁石又は磁性体を回動させて吸着・離脱させるので、その吸着・離脱操作がより簡単である。また、請求項4に記載のパッド保持装置は、パッドホルダに下側から装着されたパッドの上端部をバネで弾性的に押さえるので、ガタツキがより確実に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施形態について、具体的に説明する。図は本発明の実施形態を例示するもので、このパッド保持装置1は、ブレーキディスクDに対面する作用面に上下方向のアリ溝2aが切られたパッドホルダ2を備えている。パッドホルダ2の背面側には上下一対の軸受け3,3が所定間隔で突設され、この軸受け3,3に案内ピン4が支持されている。このパッドホルダ2は、前記軸受け3,3に支持される案内ピン4がディスクブレーキ装置のキャリパ(ブレーキ用梃)Kに連結され、該キャリパの開閉動作によって作動する。図中の5はブッシュであり、6はピン4の逸脱を防止する割りピンである。
【0019】
パッドホルダ2の上部には表裏に通じる横方向の細長いスリット7が形成されていて、このスリット7を通して図に示す屈曲板バネからなるパッドガタツキ防止バネ9が背面側から挿入されている。また、パッドホルダ2の背面側には、左右一対の上下方向の補強リブ11,11が設けられている。さらに、この補強リブ11の側方には、該リブと平行なマグネット支持軸13がブラケット14,14によって軸回りに回動自在に支持されている。このマグネット支持軸13には、上下のマグネット15,15がアーム15a,15aを介して取り付けられている。これら両マグネットは、パットホルダ2に設けた通孔16,16を通してパッドの裏側に接触可能なように設けられている。
【0020】
パッドホルダ2の下部には、前記マグネット支持軸13の端部を受ける軸受け17と、ブラケット18が設けられている。前記支持軸13の端部にはパッドの落下を防止する落下防止部材(ラッチ)20が取り付けられ、該支持軸13の回動により当該支持軸を中心として回動するようになっている。
【0021】
図5は上記パッド落下防止部材20を表すもので、この落下防止部材20の先端部にはピン穴21が設けられ、中間部にはパッドホルダ2の表面側へ突出する凸部20aが設けられるとともに、該突出部の端部寄りの位置にはバネ挿通穴22が設けられている。落下防止部材20の前記ピン穴21よりも先端側の部分は、先端側の肉厚が次第に薄くなるようなテーパ部20bとして形成されている。落下防止部材20の中間部のバネ挿通穴22にはU状のバネ25の基部が挿入され、その端部はパッド落下防止部材20の板面に沿うように屈曲されていて、抜け出しが防止されている。また、U状のバネ25の反対側の端部は、前記ブラケット18に設けた通孔18aに挿入されている。落下防止部材20が、開位置(パッドホルダ表面から離れる位置)と閉位置(その中間部の凸部20aがパッドホルダ2の表面側に突出する位置)との間を移動するときにU状バネ25は、最も圧縮される点を通過する。このため、落下防止部材20は、開位置でも閉位置でもU状バネ25の付勢力によって保持される。
【0022】
ブラケット18には、係止部材として、コイルバネとピンを有するスプリングプランジャ27が取り付けられている。このプランジャのピン28は前記落下防止部材20側に突出する方向にコイルバネによって付勢されていて、突出した状態では、係合部である前記ピン穴21に嵌合する。プランジャ27は、位置決め用のインデックスプランジャとして機能するもので、そのピン28の後端部には、ピン引き抜き用のリング29が取り付けられている。係止部材としては、他の適当な係止手段を有するものを用いてもよい。また、上記係止部材(プランジャ)27を落下防止部材20側に設け、係合部(ピン穴)21をパッドホルダ側に設けてもよい。
【0023】
パッドホルダ2の表面(作用面)側に切られた上下方向のアリ溝2aには、図6及び図7に示すように、該アリ溝2aに摺動自在に嵌合するアリ(キー)30aを備えたパッド30が取り付けられる。その取り付けは、下方からパッド30のアリ30aをアリ溝2aに挿入することにより行われる。図中の30bはパッド裏面に装着された磁性体(鉄板)のライナーである。
【0024】
パッドホルダ2に取り付けられたパッド30の下端部は、U状バネ25によってアリ溝2aの下端部を閉塞する方向、すなわち、アリ溝側に突出する閉方向に付勢された落下防止部材20によって支持される。このため、パットホルダ2に取り付けられたパッド30が逸脱することはない。
【0025】
さらに、上記落下防止部材20が、閉位置すなわちアリ溝2aの下端部を閉塞する作用位置では、内部のコイルバネによって付勢されているスプリングプランジャ27のピン28が当該落下防止部材20のピン穴21に嵌合するため、落下防止部材20の移動(図示例では揺動)が規制される。このため、落下防止部材20が作用位置から外れることはなく、パッド30の逸脱防止機能がより確実となる。なお、図示例では、落下防止部材20が軸13を中心に回動するようになっているが、横方向や前後方向に移動してアリ溝を開閉するようにしてもよい。
【0026】
上記アリ30aとアリ溝2aの嵌合を介してパッドホルダ2に取り付けられたパッド30の上端部は、前記スリット7からアリ溝側に突出するガタツキ防止バネ9によって弾力的に押さえられるため、車両の走行中におけるそのガタツキが防止される。このため走行中における騒音や振動が少なく、部品の損傷も抑制される。
【0027】
一方、このパッド保持装置では、パッド装着用の溝2aの開口部を開閉する落下防止部材20を回動させる軸13に該軸と直角方向に突出するアーム15aを介してマグネット15が取り付けられており、落下防止部材20の回動とともに前記アーム15aが回動するようになっている。このため、落下防止部材20が溝端部を閉塞する閉位置に移動するときは、同時にマグネット15が通孔16内を移動してパッド30の裏面に吸着する。また、落下防止部材20が開方向に移動するときは、マグネット15がパッド30から離脱する方向に移動する。マグネットがパッドに吸着した状態では、パッドの遊動が規制され、上記ガタツキ防止バネとともに、振動や騒音の発生を抑制する。図示例のように、マグネットを落下防止部材20の回動とともに回動させてパッドに吸着・離脱させるので、操作はきわめて簡単である。なお、マグネットをパッド側に設け、これに吸着する磁性体を回動(移動)させて吸着・離脱を行うようにしてもよい。
【0028】
このディスクブレーキ装置の制動用パッド30を交換するときは、車両の下側空間内に潜って、パッド30を受ける用意をしてから、リング29を引くことによりプランジャ27のピン28をピン穴21から引き抜き、落下防止部材20をU状バネ25の付勢力に抗して開方向すなわちアリ溝2aの下端部を開放する方向に回動させる。すると、落下防止部材20は、U状バネ25によってその開状態で保持され、パッド30がアリ溝2aに沿って下降するので、これを受け取って取り出せばよい。
【0029】
新たなパッド30をパッドホルダ2に取り付けるときは、落下防止部材20を開方向に回動させた状態で、パッドホルダ2の下側からパッド30をアリ溝2aに沿わせて挿入する。しかるのち、落下防止部材20を閉方向に回動させれば、落下防止部材20はU状バネ25の付勢力により、アリ溝2aを閉じる閉位置で保持される。落下防止部材20が一杯に移動すると、そのピン穴21がプランジャ27のピン28の位置にくるため、該ピン28が内部のコイルバネの付勢力により突出しつつ落下防止部材20のテーパ部20bによって案内され、落下防止部材20のピン穴21に挿入される。これにより、落下防止部材20の移動は規制され、パッド30が確実にパッドホルダ2に保持されるのである。
【0030】
このパッド保持装置は、パッドの取り付けのための挿入方向と異なる方向(図示例では直角方向)に移動する落下防止部材20によりパッド取り付け用の溝の端部を閉塞するので、作業は簡単である。しかも、落下防止部材20の開方向への移動を規制する手段としてスプリングプランジャ27が設けられているので、落下防止部材20による取り付け溝の閉塞と同時に該落下防止部材20の移動をロックすることができる。このため、落下防止操作をきわめて簡単かつ確実に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明に係るディスクブレーキのパッド保持装置は、ディスクを挟圧制動するパッドをパッドホルダに取り付けて保持させるものであり、その取り付け状態においてパッドとパッドホルダ側の部材とを磁力で吸着させてパッドを固定することにより、振動、騒音、部品の早期摩耗等を効果的に防止できるので、鉄道車両等のブレーキ装置に採用するに適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】パッドホルダの背面図である。
【図2】その左側面図である。
【図3】その平面図である。
【図4】その下面図である。
【図5】落下防止部材の正面図(a)および側面図(b)である。
【図6】パッドの正面図である。
【図7】その取り付け状態を表す断面図である。
【図8】ガタツキ防止バネ取り付け部の拡大図である。
【図9】ガタツキ防止バネの外観図である。
【図10】ディスクブレーキ装置の説明図である。
【図11】マグネット取り付け部の側面図である。
【図12】その正面図である。
【図13】その断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 落下防止装置
2 パッドホルダ
4 ピン
9 ガタツキ防止バネ
13 支持軸
15 マグネット
15a アーム
20 落下防止部材
21 ピン穴(係合部)
27 スプリングプランジャ(係止部材)
30 パッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の台車に取り付けられ、車軸側のディスクにバッドホルダに保持させた一対のパッドを介して制動力を付与するディスクブレーキ装置において、前記パッドとパッドホルダの一方に磁石又は磁性体を取り付けるとともに、他方には上記磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を取り付け、磁力によって両者を互いに吸着固定するように構成したことを特徴とするディスクブレーキのパッド保持装置。
【請求項2】
パッドホルダに磁石又は磁性体を揺動自在に取り付け、その揺動により、パッドの裏面側に設けた磁性体又は磁石に吸着又は離脱させるように構成した請求項1に記載のディスクブレーキのパッド保持装置。
【請求項3】
パッドをパッドホルダに設けたパッド装着用の溝に下側から嵌合して取り付け、当該パッドホルダの溝の下側開口部を落下防止部材で開閉するように構成するとともに、前記落下防止部材をパッド装着用の溝を閉塞する閉位置から当該溝を開放する開位置まで揺動自在に支持軸で軸支し、かつ当該支持軸に設けた支持部材でパッドの磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を支持することにより、前記落下防止部材の閉位置への移動とともにパッドを磁力によって吸着固定するようにした請求項2に記載のディスクブレーキのパッド保持装置。
【請求項4】
パッドの上端部を下向きに押圧するバネを設けた請求項1乃至3のいずれかに記載のディスクブレーキのパッド保持装置。
【請求項1】
車両の台車に取り付けられ、車軸側のディスクにバッドホルダに保持させた一対のパッドを介して制動力を付与するディスクブレーキ装置において、前記パッドとパッドホルダの一方に磁石又は磁性体を取り付けるとともに、他方には上記磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を取り付け、磁力によって両者を互いに吸着固定するように構成したことを特徴とするディスクブレーキのパッド保持装置。
【請求項2】
パッドホルダに磁石又は磁性体を揺動自在に取り付け、その揺動により、パッドの裏面側に設けた磁性体又は磁石に吸着又は離脱させるように構成した請求項1に記載のディスクブレーキのパッド保持装置。
【請求項3】
パッドをパッドホルダに設けたパッド装着用の溝に下側から嵌合して取り付け、当該パッドホルダの溝の下側開口部を落下防止部材で開閉するように構成するとともに、前記落下防止部材をパッド装着用の溝を閉塞する閉位置から当該溝を開放する開位置まで揺動自在に支持軸で軸支し、かつ当該支持軸に設けた支持部材でパッドの磁石又は磁性体に吸着する磁性体又は磁石を支持することにより、前記落下防止部材の閉位置への移動とともにパッドを磁力によって吸着固定するようにした請求項2に記載のディスクブレーキのパッド保持装置。
【請求項4】
パッドの上端部を下向きに押圧するバネを設けた請求項1乃至3のいずれかに記載のディスクブレーキのパッド保持装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−2853(P2006−2853A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180049(P2004−180049)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】
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