説明

ディスクブレーキ

【課題】ブレーキ鳴き、摩擦パッドの偏摩耗、ジャダー等を低減して性能を向上できるようにしたディスクブレーキを提供する。
【解決手段】摩擦パッド7の裏面側にピストン6の環状接触部6Aと当接するシム板11を設ける。このシム板11には、例えばディスク回入側のピストン6の環状接触部6Aと対応する位置に、該シム板11と環状接触部6Aとが接触する接触面積がディスク回入側よりディスク回出側が大きくなるように、第1,第2の回入側切欠部13,14を設ける。これら第1,第2の回入側切欠部13,14は、該各切欠部13,14の周囲と環状接触部6Aとが交差する4箇所の接触端部15を有する。そして、これら4箇所の接触端部15のうち、少なくとも2箇所の接触端部15は、ピストン6の径方向中心01よりもディスク回入側に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に制動力を付与するディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられるディスクブレーキは、車輪と共に回転するディスクの外周側を軸方向に跨ぐように設けたキャリパ本体と、該キャリパ本体からディスクの軸方向に突出可能に設けられ、突出端部に環状接触部を有するピストンと、該ピストンによりディスクに押圧される摩擦パッドとを備えて構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
車両の運転者等がブレーキ操作を行ったときは、例えばピストンを外部からの液圧供給によりディスク側に摺動変位させ、該ピストンによって摩擦パッドをディスクに向けて押圧することにより、該ディスクに制動力を付与する構成となっている。
【0004】
ところで、ブレーキの作動時に、摩擦パッドからディスクに加えられる荷重(面圧)は、ディスクの回転方向入口側(回入側)の方が回転方向出口側(回出側)よりも大きくなり易い。特許文献1によるディスクブレーキは、摩擦パッドの裏面とピストンとの間に金属板等によって形成されたシム板を設けている。そして、シム板のうちピストンの環状接触部が当接する部位に細長い切欠部を設け、この切欠部によってディスクに対する摩擦パッドの面圧を調整するように構成している。
【0005】
具体的には、切欠部は、シム板のうち車両前進時におけるディスク回転方向入口側に配置され、この部位で荷重を低下させるようにしている。これにより、ピストンの環状接触部から摩擦パッドに加えられるディスク回転方向入口側の荷重を低減でき、摩擦パッド(のライニング)が偏摩耗したり、ブレーキ鳴きやジャダーが発生することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−122277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、例えばピストン(環状接触部)の外径(直径)が、シム板の径方向長さおよび周方向長さより小さい構成の場合、単にシム板に細長い切欠部を設けるだけでは、切欠部の周縁を支点にしてピストンが傾く虞がある。
【0008】
この場合、ピストンからの荷重が支点となる部分に集中し、ピストンから摩擦パッドに加えられる荷重が不均一になる虞がある。この結果、摩擦パッドが偏摩耗し易くなったり、経時的にジャダーが発生したりする等の問題がある。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、ブレーキ鳴き、摩擦パッドの偏摩耗、ジャダー等を低減して性能を向上できるようにしたディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明は、車両の車輪とともに回転するディスクの外周を跨ぐように設けたキャリパ本体と、該キャリパ本体から前記ディスクの軸方向に突出可能に設けられ、突出端部に環状接触部を有するピストンと、該ピストンにより前記ディスクに押圧される摩擦パッドと、該摩擦パッドの裏面側に設けられた前記環状接触部と当接するシム板と、からなり、前記環状接触部の直径を前記シム板の径方向長さおよび周方向長さより小さくしたディスクブレーキに適用される。
【0011】
そして、本発明が採用する構成の特徴は、前記シム板に、該シム板と前記環状接触部とが接触する接触面積が車両前進時のディスク回入側よりディスク回出側が大きくなるように切欠部を設け、該切欠部は、該切欠部の周囲と前記環状接触部とが交差する少なくとも4箇所の接触端部を有し、該少なくとも4箇所の接触端部のうち少なくとも2箇所は、前記ピストンの径方向中心よりもディスク回入側に設けられる構成としたことにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブレーキ鳴き、摩擦パッドの偏摩耗、ジャダー等を低減して性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるディスクブレーキを上方からみた平面図である。
【図2】ディスクブレーキを図1中の矢示II−II方向からみた縦断面図である。
【図3】インナ側の摩擦パッドとシム板をインナ側(図2の右方向)からみた正面図である。
【図4】シム板を示す図3と同方向からみた正面図である。
【図5】シム板を図4の裏側からみた背面図である。
【図6】シム板を図5中の矢示VI−VI方向からみた側面図である。
【図7】シム板を図5中の矢示VII−VII方向からみた断面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態によるインナ側の摩擦パッドとシム板を示す図3と同方向からみた正面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態によるインナ側の摩擦パッドとシム板を示す図3と同方向からみた正面図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態によるインナ側の摩擦パッドとシム板を示す図3と同方向からみた正面図である。
【図11】本発明の第5の実施の形態によるインナ側の摩擦パッドとシム板を示す図3と同方向からみた正面図である。
【図12】本発明の第6の実施の形態によるインナ側の摩擦パッドとシム板を示す図3と同方向からみた正面図である。
【図13】インナ側の摩擦パッドとシム板を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態として、自動車等の車両に搭載されるディスクブレーキを例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施の形態]
図1ないし図7は、第1の実施の形態を示している。図中、1はディスクブレーキのベース部分を構成する取付部材(キャリア)で、該取付部材1は、車輪と共に回転するディスク2のインナ側で車両の非回転部分(図示せず)に一体的に取付けられている。
【0016】
ここで、ディスク2は、例えば車両の前進時に図1および図3中の矢示A方向に回転するものであり、図1中の上側および図3中の右側は、ディスク2の回転方向入口側(回入側)となり、図1中の下側および図3中の左側は、回転方向出口側(回出側)となっている。
【0017】
取付部材1は、一対の腕部1A,1Aと、支承部1Bと、補強ビーム1Cとにより大略構成されている。一対の腕部1A,1Aは、ディスク2の回転方向(周方向)に離間してその外周側を跨ぐようにディスク2の軸方向に延びて形成されている。支承部1Bは、該各腕部1Aの基端側を一体化するように連結して厚肉に形成され、ディスク2のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定されるようになっている。補強ビーム1Cは、ディスク2のアウタ側で各腕部1Aの先端側を互いに連結し、ディスク2の周方向に延びて形成されている。
【0018】
各腕部1Aには、ディスク2のインナ側及びアウタ側に位置して凹形状に窪んだパッドガイド部(図示せず)が設けられ、これらのパッドガイド部は、後述のパッドスプリング25と協働して摩擦パッド7,21をディスク2の軸方向に案内するようになっている。
【0019】
3は取付部材1に摺動可能に支持されたキャリパ本体で、該キャリパ本体3は、ディスク2の外周を跨ぐように設けられている。キャリパ本体3は、インナ脚部3Aと、ブリッジ部3Bと、アウタ脚部3Cと、2個の取付部3Dとによって構成されている。インナ脚部3Aは、ディスク2のインナ側に配置されるように形成されている。ブリッジ部3Bは、該インナ脚部3Aからディスク2の外周側を跨ぐようにアウタ側に延びて形成されている。アウタ脚部3Cは、該ブリッジ部3Bの先端側から径方向内向きに延びてディスク2のアウタ側に配置され、先端側が二又状の爪部となって形成されている。2個の取付部3Dは、インナ脚部3Aからディスク回転方向両側へ突出して(図1参照)形成されている。
【0020】
インナ脚部3A内には、例えば2個のシリンダ4(図2に一方のみ図示)がディスク2の回転方向に並んで設けられている。これら各シリンダ4内には、後述のピストン6がそれぞれ摺動可能に挿嵌されている。また、各取付部3Dは、摺動ピン5(図1参照)を用いて取付部材1の各腕部1Aにそれぞれ取付けられている。これにより、キャリパ本体3は、ディスク2の軸方向に対して摺動変位可能となっている。
【0021】
6はキャリパ本体3のインナ脚部3Aからディスク2の軸方向に突出可能に設けられた例えば2個のピストンで、該各ピストン6は、キャリパ本体3の各シリンダ4内にそれぞれ摺動可能に挿嵌されている。ここで、各ピストン6は、それぞれ有底円筒状に形成され、その突出端側となる突出端部には後述のシム板11と当接(接触)する円環状の環状接触部6Aを有している。そして、各ピストン6は、図3に二点鎖線で示すように、ディスク2の回転方向に並ぶとともに離間して配設されている。
【0022】
この場合、図3に示すように、環状接触部6Aの直径(外形寸法)Dは、後述のシム板11の径方向長さWおよび周方向長さLより小さくなっている。換言すれば、ピストン6の環状接触部6Aは、後述するインナ側の摩擦パッド7の裏板9の外縁(周縁)内に収まる(はみ出ない)大きさとなっている。そして、各ピストン6は、各シリンダ4内にブレーキ液圧が供給されることにより、インナ側の摩擦パッド7をディスク2に押圧するものである。
【0023】
即ち、ブレーキの作動時に、キャリパ本体3の各シリンダ4内にブレーキ液圧が供給されると、各ピストン6が移動して、各ピストン6の環状接触部6Aによってインナ側の摩擦パッド7がディスク2に押圧される。このとき、キャリパ本体3は、各ピストン6からの反力によってインナ側に変位する。これにより、アウタ脚部3Cがアウタ側の摩擦パッド21をディスク2に押圧する。これにより、ディスク2の両面に摩擦パッド7,21が押圧されて車両に制動力を付与するようになっている。
【0024】
7はキャリパ本体3のインナ脚部3A(各ピストン6)とディスク2との間に設けられたインナ側の摩擦パッドで、該摩擦パッド7は、ブレーキ作動時(操作時)に各ピストン6によりディスク2に押圧され、アウタ側の摩擦パッド21と共に車両に制動力を付与するものである。
【0025】
ここで、摩擦パッド7は、ディスク2に摩擦接触するライニング8と、該ライニング8の裏面側に固着された裏板9とによって構成されている。そして、裏板9は、ディスク2の回転方向(周方向)に延びる横長の略扇形状に形成されている。裏板9の内周側には、ディスク2の軸方向及び周方向に延びた略円弧状(円筒状)の内周面9Aが設けられると共に、裏板9の外周側にも同様の外周面9Bが設けられている。
【0026】
この場合、各ピストン6の環状接触部6Aの直径(外径)Dは、裏板9の内周面9Aと外周面9Bとの間に収まる大きさとなっている。そして、内周面9Aには、ディスク2の回転方向に離間して例えば2個の取付溝9Cが設けられ、該各取付溝9Cには後述するシム板11の内側爪部19が係止される構成となっている。
【0027】
一方、裏板9の周方向両端側には、凸形状の耳部9Dがそれぞれ突設されている。そして、摩擦パッド7は、裏板9の各耳部9Dが後述のパッドスプリング25を介して取付部材1の各パッドガイド部内にそれぞれ挿嵌され、これらのパッドガイド部によって各腕部1Aの間でディスク2の軸方向に摺動可能に支持されている。この状態で、裏板9の裏面には、後述のシム板11を介して各ピストン6が当接している。
【0028】
次に、裏板9の裏面側に設けられたインナ側のシム板11について説明する。
【0029】
11は摩擦パッド7の裏板9と各ピストン6との間に位置して該摩擦パッド7の裏面側に設けられたインナ側のシム板で、該シム板11は、各ピストン6の環状接触部6Aと当接するものである。そして、シム板11は、ブレーキの作動時にピストン6からの分布荷重を調整して摩擦パッド7のディスク2の面圧を適正化して摩擦パッド7の偏摩耗やブレーキ鳴き等を抑えるものとなっている。
【0030】
シム板11は、図7に示すように、外側シム板部材としての金属シム11Aと、内側シム板部材としての弾性シム11Bとを互いに接着(固着)することにより形成された積層シム板として構成されたものである。ここで、金属シム11Aは、例えば鋼板(ステンレス鋼板)等の金属板により形成されている。一方、弾性シム11Bは、例えば鋼板(ステンレス鋼板)等の金属板11B1の両側面を硬質ゴム、樹脂等の弾性材11B2により被覆(コーティング)することにより形成されている。なお、シム板11における上記のシム11A,11Bの材質や配置は、一例を示すものであり、シム板11は、後述する切欠部を有するシムがピストン6若しくはアウタ脚部3Cに当接する側(外側)となっていれば、金属シムと弾性シムとの内外配置を変えて用いたり、同じ材質のシムを複数用いたり、3枚以上のシムを用いて構成してもよいものである。また、上記では金属シム11Aと弾性シム11Bとを接着してシム板11を構成しているが、金属シム11Aと弾性シム11Bとを接着せずに、重ね合わせて構成するようにしてもよい。この場合には、金属シム11A及び弾性シム11Bのそれぞれに裏板9に係止するための後述するような爪部を形成する。
【0031】
そして、シム板11は、裏面側(外側)となる金属シム11Aがピストン6の環状接触部6Aに対面すると共に、表面側(内側)となる弾性シム11Bが摩擦パッド7の裏板9に対面するように、各ピストン6と摩擦パッド7との間に配設されている。そして、全体として金属シム11Aと弾性シム11Bとを固着することにより形成されたシム板11は、後述する当接板部12と、内側爪部19と,外側爪部20とにより大略構成されている。
【0032】
12はシム板11の本体部分を構成する当接板部で、該当接板部12は、例えば平板状に形成され、ディスク2の回転方向(矢示A方向)を長さ方向としたときに、横長の略扇形状をなして長さ方向に延びている。また、当接板部12の表面(弾性シム11B側の内側面)は、裏板9の裏面に重なり合うように当接し、当接板部12の裏面(金属シム11A側の外側面)は、各ピストン6の環状接触部6Aが当接している。そして、当接板部12は、各ピストン6の環状接触部6Aと対応する位置に、後述する第1,第2の一側切欠部13,14と第1,第2の他側切欠部17,18が設けられている。
【0033】
13,14は当接板部12のうちディスク2の回転方向入口側である回入側(図3で右側)のピストン6に対応する位置に設けられた第1,第2の一側切欠部を示している。これら第1,第2の一側切欠部13,14は、当接板部12のうち回入側のピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側、即ち、図3に示すように、回入側のピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1よりも回入側(右側)にそれぞれ配置されている。
【0034】
ここで、第1,第2の一側切欠部13,14は、図7に示すように、シム板11を構成する金属シム11Aに透孔ないし切欠きを形成することにより設けられている。より具体的には、第1の一側切欠部13は、環状接触部6Aの周方向に関し70度ないし85度の周方向寸法を有する略円弧状の透孔として金属シム11Aに形成されている。また、第2の一側切欠部14は、環状接触部6Aの周方向に関し70度ないし85度の周方向寸法を有する略円弧状の切欠きとして金属シム11Aに形成されている。
【0035】
そして、これら第1,第2の一側切欠部13,14は、ピストン6の環状接触部6Aとシム板11の当接板部12との間(環状接触部6Aと弾性シム11Bとの間)に部分的な隙間を介在させることによって、摩擦パッド7に対するピストン6の面圧を調整し、ブレーキ作動時に摩擦パッド7が偏摩耗等するのを防止する。
【0036】
この場合、第1,第2の一側切欠部13,14は、シム板11の当接板部12とピストン6の環状接触部6Aとが接触する接触面積(金属シム11Aと環状接触部6Aとが接触する接触面積)が車両前進時のディスク回入側(図3で線分X1−X1よりも右側)よりディスク回出側(図3で線分X1−X1よりも左側)が大きくなるように設けられている。このために、第1,第2の一側切欠部13,14は、何れも、当接板部12(金属シム11A)のうちピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側(図3で線分X1−X1よりも右側)に設けられている。
【0037】
また、第1,第2の一側切欠部13,14は、それぞれピストン6の環状接触部6Aに沿って略円弧状に延びるように形成されている。これにより、第1,第2の一側切欠部13,14は、これら第1,第2の一側切欠部13,14の周囲(周縁)とピストン6の環状接触部6Aとが交差する4箇所の接触端部15を有する構成となっている。この場合、これら4箇所の接触端部15は、何れも、シム板11の当接板部12のうちピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側に位置している。
【0038】
また、第1の一側切欠部13と第2の一側切欠部14は、当接板部12(金属シム11A)のうちピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側(図3で線分X1−X1よりも右側)に、ディスク2の径方向に離間して設けられている。より具体的には、第1の一側切欠部13は、ディスク2の径方向外側、即ち、図3の線分X1−X1と直交する線分X2−X2よりもディスク2の径方向の外側(図3の上側)となる部位に設けられている。一方、第2の一側切欠部14は、ディスク2の径方向内側、即ち、図3の線分X2−X2よりも径方向内側(図3の下側)となる部位に設けられている。
【0039】
そして、当接板部12(金属シム11A)のうち第1の一側切欠部13の内端側(図3ないし図5の下端側)と第2の一側切欠部14の外端側(図3ないし図5の上端側)との間は、第1の一側切欠部13と第2の一側切欠部14との間を仕切る仕切部16となっている。この仕切部16は、図3に示すように、ディスク回入側のピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1と直交する線分X2−X2に沿って、言い換えれば、摩擦パッド7の長手方向に沿って延びて形成されている。
【0040】
これにより、4箇所の接触端部15のうち仕切部16の両側に位置する2箇所の接触端部15は、線分X2−X2を挟んで対向する構成となっている。換言すれば、第1の一側切欠部13と第2の一側切欠部14は、ピストン6の環状接触部6Aの回入側端側(図3で線分X1−X1よりも右側)で、該環状接触部6Aと当接する部分となる仕切部16の両側に設けられる構成となっている。
【0041】
これにより、ブレーキの作動時に、ピストン6の環状接触部6Aの回入側は、シム板11の当接板部12のうち2箇所の接触端部15に挟まれた部位である仕切部16と当接する。このため、当接板部12に切欠部13,14が設けられていても、ピストン6が切欠部13,14の周縁を支点として傾斜するのを抑制することができる。
【0042】
17,18はシム板11の当接板部12のうちディスク2の回転方向出口側である回出側(図3で左側)のピストン6に対応する位置に設けられた第1,第2の他側切欠部を示している。これら第1,第2の他側切欠部17,18は、シム板11の当接板部12のうち回出側のピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側、即ち、図3に示すように、回出側のピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1よりも回入側(右側)にそれぞれ配置されている。
【0043】
なお、第1,第2の他側切欠部17,18と第1,第2の一側切欠部13,14とは、回出側のピストン6に対応して設けられているか回入側のピストン6に対応して設けられているかが相違する以外、同様の構成、作用効果を有している。このため、第1,第2の他側切欠部17,18に関しては、第1,第2の一側切欠部13,14と同様の構成に同様の符号を付して、これ以上の説明は省略するものとする。
【0044】
19はディスク2の径方向内側でシム板11の当接板部12に一体形成された2個の内側爪部で、該各内側爪部19は、当接板部12からディスク2の径方向内向きに突出して形成され、裏板9の取付溝9Cに向けて略L字状に折曲げられている。ここで、各内側爪部19のうちディスク2の回入側(図3および図4で右側)の内側爪部19は、弾性シム11Bに設けられ、回出側(図3および図4で左側)の内側爪部19は、金属シム11Aと弾性シム11Bとの両方に設けられている。そして、各内側爪部19は、裏板9の取付溝9Cから離れる方向に弾性変形した状態で該取付溝9Cに適度な締代をもって係止されている。
【0045】
20はディスク2の径方向外側でシム板11の当接板部12に一体形成された2個の外側爪部で、該各外側爪部20は、当接板部12からディスク2の径方向外向きに突出して形成され、裏板9の外周面9Bに向けて略L字状に折曲げられている。ここで、各外側爪部20は、金属シム11Aと弾性シム11Bとの両方に設けられている。そして、各外側爪部20は、裏板9の外周面9Bから離れる方向に弾性変形した状態で該外周面9Bに適度な締代をもって係止されている。
【0046】
21はキャリパ本体3のアウタ脚部3Cとディスク2との間に設けられたアウタ側の摩擦パッド(図1および図2参照)で、該摩擦パッド21は、インナ側の摩擦パッド7とほぼ同様に、ライニング22と裏板23とによって構成され、ブレーキ作動時にアウタ脚部3Cによってディスク2に押圧される。そして、裏板23の裏面にはアウタ側のシム板24(図2参照)が設けられている。
【0047】
25は取付部材1の各パッドガイド部に設けられた一対のパッドスプリングで、これらのパッドスプリング25は、摩擦パッド7,21(裏板9の耳部9D)をパッドガイド部内で軸方向に案内するものである。
【0048】
本実施の形態によるディスクブレーキは上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0049】
まず、車両の運転者等がブレーキを操作したときには、キャリパ本体3の各シリンダ4内にブレーキ液圧が供給され、各ピストン6がインナ側の摩擦パッド7に向けて変位する。これにより、各ピストン6は、シム板11を介して摩擦パッド7をディスク2に押圧し、このときの反力によってキャリパ本体3がインナ側に変位する。この結果、キャリパ本体3のアウタ脚部3Cは、アウタ側のシム板24を介して摩擦パッド21をディスク2に押圧するようになるので、摩擦パッド7,21によってディスク2に両側から押圧力を加えて、車両へ制動力を付与することができる。
【0050】
また、このようなブレーキの作動時(操作時)には、各ピストン6の押圧力がシム板11を介して摩擦パッド7に伝えられる。このとき、シム板11は、切欠部13,14,17,18が設けられていても、各ピストン6の環状接触部6Aの回入側(図3で線分X1−X1よりも右側)が仕切部16と当接することにより、該ピストン6が切欠部13,14,17,18の周縁を支点として傾斜することを抑制することができる。これにより、シム板11を介して摩擦パッド7のディスク回入側への各ピストン6からの荷重を低減して伝達することができ、ブレーキ鳴き、摩擦パッドの偏摩耗、ジャダー等を低減して性能を向上することができる。
【0051】
即ち、本実施の形態によれば、第1,第2の切欠部13,14,17,18の接触端部15のうち、少なくとも2箇所の接触端部15(仕切部16の両側に位置する接触端部15)を、ディスク2の車両前進時のディスク回入側に設ける構成としている。このため、ブレーキの作動時に、シム板11のうち当該2箇所の接触端部15に挟まれた部位である仕切部16とピストン6の環状接触部6Aとが当接することにより、該ピストン6が傾斜することを抑制することができる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、キャリパ本体3に2個のピストン6を設けると共に、それぞれのピストン6毎に(それぞれのピストン6に対応して)第1,第2の切欠部13,14,17,18を設ける構成としている。このため、2個のピストン6をキャリパ本体3に設ける構成でも、各切欠部13,14,17,18によって2個のピストン6の何れもが傾斜するのを抑制することができる。
【0053】
しかも、本実施の形態によれば、第1,第2の切欠部13,14,17,18を各ピストン6の環状接触部6Aの回入側端側で該環状接触部6Aと当接する部分に対応する仕切部16の両側に設ける構成としている。このため、ブレーキの作動時に、各ピストン6の環状接触部6Aと仕切部16とが確実に当接する。
【0054】
そして、第1,第2の切欠部13,14,17,18の大きさを適宜設定することにより(仕切部16の周方向寸法を適宜設定することにより)、摩擦パッド7からディスク2に加わる荷重の分布(面圧分布)を幅広く調整(チューニング)することができる。これにより、この面からも、各ピストン6が傾斜するのを抑制することができる。
【0055】
このように、本実施の形態によれば、各ピストン6が傾斜するのを抑制することができるので、摩擦パッド7に各ピストン6からのディスク回入側の荷重を低減して加えることができる。この結果、ブレーキ鳴き、摩擦パッド7の偏摩耗、ジャダー等を低減することができ、ディスクブレーキのブレーキ性能、耐久性、安定性の向上を図ることができる。
【0056】
[第2の実施の形態]
次に、図8は、第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、切欠部の一部がディスクの回出側となる部位にまで延びるように設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0057】
31はディスク2の回入側(図8で右側)のピストン6に対応する位置で、ディスク2の径方向内側、即ち、図8の線分X2−X2よりもディスク2の径方向の内側(図8の下側)となる部位に設けられた第2の一側切欠部を示している。この第2の一側切欠部31は、上述した第1の実施の形態の第2の一側切欠部14と比較して、各ピストン6の環状接触部6Aの周方向に関する寸法が長くなっている。より具体的には、第2の一側切欠部31は、環状接触部6Aの周方向に関し95度ないし120度の周方向寸法を有する略円弧状の切欠きとしてシム板11(金属シム11A)に形成されている。
【0058】
これにより、第2の一側切欠部31は、その一部が、ディスク2の回出側(図8の線分X1−X1よりも左側)となる部位にまで延びるように設けられている。換言すれば、第2の一側切欠部31の接触端部15,32のうちディスク2の径方向に関して内側に位置する接触端部32は、ディスク2の回出側に位置している。従って、第1,第2の一側切欠部13,31の4箇所の接触端部15,32のうち3箇所の接触端部15が、ディスク2の回出側に位置する構成となっている。
【0059】
ただし、本実施の形態の場合も、上述した第1の実施の形態と同様に、第1,第2の一側切欠部13,31は、シム板11の当接板部12とピストン6の環状接触部6Aとが接触する接触面積(金属シム11Aと環状接触部6Aとが接触する接触面積)が回入側より回出側が大きくなるようにシム板11に設けられている。
【0060】
33は、ディスク2の回出側(図8で左側)のピストン6に対応する位置で、ディスク2の径方向内側、即ち、図8の線分X2−X2よりもディスク2の径方向の内側(図8の下側)となる部位に設けられた第2の他側切欠部を示している。なお、第2の他側切欠部33と上述した第2の一側切欠部31とは、回出側のピストン6に対応して設けられているか回入側のピストン6に対応して設けられているかが相違する以外、同様の構成、作用効果を有しているため、同様の構成に同様の符号を付して、これ以上の説明は省略するものとする。
【0061】
かくして、このように構成される第2の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態によれば、第2の切欠部31,33の寸法を、上述した第1の実施の形態の第2の切欠部14,18よりも長くすることにより、摩擦パッド7からディスク2に加わる荷重の分布(面圧分布)を調整している。これにより、さらなるブレーキ性能、耐久性、安定性の向上を図ることができる。
【0062】
[第3の実施の形態]
次に、図9は、第3の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、仕切部の位置を回入側のピストンの径方向中心を通りディスク2の径方向に延びる線分と直交する線分、すなわち摩擦パッド7の長手方向からディスク径方向内方へずらす構成としたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0063】
41,42はディスク2の回入側(図9で右側)のピストン6に対応する位置に設けられた第1,第2の一側切欠部を示し、43,44はディスク2の回出側(図9で左側)のピストン6に対応する位置に設けられた第1,第2の他側切欠部を示している。ここで、ディスク2の径方向外側(図9の上側)に位置する第1の切欠部41,43は、上述した第1の実施の形態の第1の切欠部13,17と比較して、各ピストン6の環状接触部6Aの周方向に関する寸法が長くなっている。より具体的には、第1の切欠部41,43の周方向寸法を、環状接触部6Aの周方向に関し90度ないし120度に設定している。
【0064】
一方、ディスク2の径方向内側(図9の下側)に位置する第2の切欠部42,44は、上述した第1の実施の形態の第2の切欠部14,18と比較して、各ピストン6の環状接触部6Aの周方向に関する寸法が短くなっている。より具体的には、第2の切欠部42,44の周方向寸法は、環状接触部6Aの周方向に関し10度ないし60度に設定している。
【0065】
これにより、第1の切欠部41,43と第2の切欠部42,44との間を仕切る仕切部45の位置は、ピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1と直交する線分X2−X2からずれる、言い換えれば、摩擦パッド7の長手方向からディスク径方向内方へずれる構成となっている。
【0066】
かくして、このように構成される第3の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態によれば、第1の切欠部41,43の周方向寸法と第2の切欠部42,44の周方向寸法を調整することにより、摩擦パッド7に加わる荷重の分布を調整している。すなわち、キャリパ本体3のシリンダ4内に高いブレーキ液圧が供給されると、キャリパ本体3はインナ脚部3Aとブリッジ部3Bとの接合部分を中心にディスク2に対してピストン6の環状接触部6Aが斜めになる、すなわち、ディスク径方向内方の方がより拡がるように変形する。このため、ピストン6の環状接触部6Aから摩擦パッド7へ加えられる荷重は、環状接触部6Aのディスク径方向内方よりもディスク径方向外方の方が大きくなる。このような場合に、本実施の形態のように、仕切部45が摩擦パッド7の長手方向からディスク径方向内方へずれて設けられることで、環状接触部6Aのディスク径方向外方から摩擦パッド7へ加えられる荷重を低減することができる。これにより、摩擦パッド7のディスク径方向における偏磨耗を抑制することができ、さらなるブレーキ性能、耐久性、安定性の向上を図ることができる。
【0067】
[第4の実施の形態]
次に、図10は、第4の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、ピストンの回入側に3個の切欠部を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0068】
51,52,53はディスク2の回転方向入口側である回入側(図10で右側)のピストン6に対応する位置に設けられた第1,第2,第3の一側切欠部を示している。これら第1,第2,第3の一側切欠部51,52,53は、シム板11の当接板部12のうち回入側のピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側、即ち、回入側のピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1よりも回入側(右側)にそれぞれ配置されている。
【0069】
ここで、第1,第2,第3の一側切欠部51,52,53は、これら切欠部51,52,53の周囲(周縁)とピストン6の環状接触部6Aとが交差する6箇所の接触端部54を有する構成となっている。この場合、これら6箇所の接触端部54は、当接板部12のうちピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側(線分X1−X1よりも右側)に位置している。
【0070】
そして、シム板11の当接板部12のうち第1の一側切欠部51の内端側(下端側)と第2の一側切欠部52の外端側(上端側)との間は、これら第1の一側切欠部51と第2の一側切欠部52との間を仕切る第1の仕切部55となっている。また、シム板11の当接板部12のうち第2の一側切欠部52の内端側(下端側)と第3の一側切欠部53の外端側(上端側)との間は、これら第2の一側切欠部52と第3の一側切欠部53との間を仕切る第2の仕切部56となっている。
【0071】
57,58,59はディスク2の回転方向出口側である回出側(図10で左側)のピストン6に対応する位置に設けられた第1,第2,第3の他側切欠部を示している。なお、これら第1,第2,第3の他側切欠部57,58,59と上述の第1,第2,第3の一側切欠部51,52,53とは、回出側のピストン6に対応して設けられているか回入側のピストン6に対応して設けられているかが相違する以外、同様の構成、作用効果を有している。このため、第1,第2,第3の他側切欠部57,58,59に関しては、第1,第2,第3の一側切欠部51,52,53と同様の構成に同様の符号を付して、これ以上の説明は省略するものとする。
【0072】
本実施の形態によるディスクブレーキは、上述の如き切欠部51,52,53,57,58,59が設けられたシム板11を用いてブレーキ鳴き、摩擦パッドの偏摩耗、ジャダー等を低減するもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
【0073】
特に、本実施の形態によれば、シム板11の当接板部12のうち回入側のピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側に2個の仕切部55,56を有する構成となっている。このため、各ピストン6の環状接触部6Aの回入側が2個の仕切部55,56と当接することによって、該各ピストン6が切欠部51,52,53,57,58,59の周縁を支点として傾斜するのを抑制することができる。これにより、ブレーキ鳴き、摩擦パッドの偏摩耗、ジャダー等のさらなる低減を図ることができる。
【0074】
[第5の実施の形態]
次に、図11は、第5の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、ピストンの回入側に2個の切欠部を設けると共に回出側に1個の切欠部を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0075】
61はディスク2の回転方向入口側である回入側(図11で右側)のピストン6に対応する位置に設けられた第3の一側切欠部で、該第3の一側切欠部61は、シム板11の当接板部12のうち回入側のピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回出側、即ち、回入側のピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1よりも回出側(左側)に設けられている。
【0076】
ここで、第3の一側切欠部61は、環状接触部6Aの周方向に関し20度ないし40度の周方向寸法を有する略円弧状の透孔として金属シム11Aに形成されている。また、第3の一側切欠部61は、ピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1と直交する線分X2−X2と重なる位置に設けられている。
【0077】
なお、本実施の形態の場合も、上述した第1の実施の形態と同様に、第1,第2,第3の一側切欠部13,14,61は、シム板11の当接板部12とピストン6の環状接触部6Aとが接触する接触面積(金属シム11Aと環状接触部6Aとが接触する接触面積)が回入側より回出側が大きくなるようにシム板11に設けられている。
【0078】
また、第1,第2,第3の一側切欠部13,14,61は、これら切欠部13,14,61の周囲(周縁)とピストン6の環状接触部6Aとが交差する6箇所の接触端部62を有する構成となっている。この場合、これら6箇所の接触端部62のうち4箇所の接触端部62は、当接板部12のうちピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側(線分X1−X1よりも右側)に位置している。また、6箇所の接触端部62のうち2箇所の接触端部62は、当接板部12のうちピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回出側(線分X1−X1よりも左側)に位置している。
【0079】
63はディスク2の回転方向出口側である回出側(図11で左側)のピストン6に対応する位置に設けられた第3の他側切欠部を示している。この第3の他側切欠部63と上述の第3の一側切欠部61とは、回出側のピストン6に対応して設けられているか回入側のピストン6に対応して設けられているかが相違する以外、同様の構成、作用効果を有している。このため、同様の構成に同様の符号を付して、これ以上の説明は省略するものとする。
【0080】
かくして、このように構成される第5の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態によれば、第3の切欠部61,63を設けることにより、摩擦パッド7に加わる荷重の分布(面圧分布)を調整している。これにより、さらなるブレーキ性能、耐久性、安定性の向上を図ることができる。
【0081】
[第6の実施の形態]
次に、図12および図13は、第6の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、シム板を分離可能な2枚のシム板部材により構成したことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0082】
71はインナ側の摩擦パッド7と各ピストン6との間に位置して該摩擦パッド7の裏面側に設けられたインナ側のシム板で、該シム板71は、各ピストン6の環状接触部6Aと当接するものである。ここで、シム板71は、互いに分離可能な外側シム板部材72と内側シム板部材73との2枚のシム板部材72,73により構成され、これら外側シム板部材72と内側シム板部材73は、例えば鋼板(ステンレス鋼板)等の金属板により、あるいは、該金属板の両側面を硬質ゴム、樹脂等の弾性材により被覆(コーティング)することにより形成されている。
【0083】
ここで、外側,内側シム板部材72,73のうち各ピストン6側に配設される外側シム板部材72は、ディスク2の回転方向(矢示A方向)に延び外側シム板部材72の本体部分を構成する当接板部72Aと、ディスク2の径方向内側で当接板部72Aに一体形成され裏板9の取付溝9Cに係止される2個の内側爪部72Bと、ディスク2の径方向外側で当接板部72Aに一体形成され裏板9の外周面9Bに係止される1個の外側爪部72Cとにより大略構成されている。そして、当接板部72Aには、各ピストン6の環状接触部6Aと対応する位置に、後述する第1の一側切欠部74と第1の他側切欠部78が設けられている。
【0084】
一方、摩擦パッド7(裏板9)側に配設される内側シム板部材73は、ディスク2の回転方向(矢示A方向)に延び内側シム板部材73の本体部分を構成する当接板部73Aと、ディスク2の径方向内側で当接板部73Aに一体形成され裏板9の内周面9Aに係止される1個の内側爪部73Bと、ディスク2の径方向外側で当接板部73Aに一体形成され裏板9の外周面9Bに係止される2個の外側爪部73Cとにより大略構成されている。そして、当接板部73Aには、各ピストン6の環状接触部6Aと対応する位置に、後述する第2の一側切欠部75と第2の他側切欠部79が設けられている。
【0085】
74,75はシム板71のうちディスク2の回転方向入口側である回入側(図12で右側)のピストン6に対応する位置に設けられた第1,第2の一側切欠部を示している。これら第1,第2の一側切欠部74,75は、シム板71のうち回入側のピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側、即ち、図12に示すように、回入側のピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1よりも回入側(右側)にそれぞれ配置されている。
【0086】
ここで、第1,第2の一側切欠部74,75のうち第1の一側切欠部74は、外側シム板部材72の当接板部75Aのうちピストン6の環状接触部6Aに対応する部位の回入側(線分X1−X1よりも右側)で、線分X1−X1と直交する線分X2−X2よりもディスク2の径方向外側となる部位に設けられている。そして、第1の一側切欠部74は、ピストン6の環状接触部6Aの回入側で線分X2−X2よりもディスク2の径方向外側となる部位と、内側シム板部材73の当接板部73Aとの間に部分的な隙間を介在(形成)させるものである。
【0087】
一方、第2の一側切欠部75は、内側シム板部材73の当接板部73Aのうちピストン6の環状接触部6Aに対応する部位の回入側(線分X1−X1よりも右側)で線分X2−X2よりもディスク2の径方向内側となる部位に設けられている。そして、第2の一側切欠部75は、外側シム板部材72の当接板部75Aのうちピストン6の環状接触部6Aの回入側で線分X2−X2よりもディスク2の径方向下側と対応する部位と、摩擦パッド7の裏板9との間に部分的な隙間を介在(形成)させるものである。
【0088】
即ち、本実施の形態の場合、摩擦パッド7の裏板9とピストン6の環状接触部6Aとの間には、第1,第2の一側切欠部74,75と対応する位置に、それぞれ部分的な隙間が形成されている。これにより、シム板71のうち、摩擦パッド7の裏板9とピストン6の環状接触部6Aとが外側シム板部材72と内側シム板部材73との両方を介して接触する部分、即ち、第1,第2の一側切欠部74,75に対応して形成される隙間を介することなく接触する部分の面積が、回入側(図12で線分X1−X1よりも右側)より回出側(図12で線分X1−X1よりも左側)が大きくなるようにしている。
【0089】
また、第1,第2の一側切欠部74,75は、これら第1,第2の一側切欠部74,75の周囲(周縁)とピストン6の環状接触部6Aとが交差する4箇所の接触端部76を有する構成となっている。この場合、これら4箇所の接触端部76は、シム板71のうちピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側(図12で線分X1−X1よりも右側)に位置している。
【0090】
また、シム板71のうちピストン6の環状接触部6Aと対応する位置で、第1の一側切欠部74の内端側(図12の下端側)と第2の一側切欠部75の外端側(図12の上端側)との間は、摩擦パッド7の裏板9とピストン6の環状接触部6Aとが、外側シム板部材72の当接板部75Aと内側シム板部材73の当接板部73Aとの両方を介して接触する回入側接触部77となっている。
【0091】
この回入側接触部77は、回入側のピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1と直交する線分X2−X2に沿って延びている。換言すれば、4箇所の接触端部76のうち回入側接触部77の両側に位置する2箇所の接触端部76は、線分X2−X2を挟んで対向する構成となっている。これにより、ブレーキの作動時に、ピストン6の環状接触部6Aの回入側(図12で線分X1−X1よりも右側)は、シム板71のうち2箇所の接触端部76に挟まれた部位である回入側接触部77と当接する。このため、シム板71を構成する外側,内側シム板部材72,73にそれぞれ切欠部74,75が設けられていても、ピストン6が回入側接触部77と当接することにより、切欠部74,75の周縁を支点として傾斜するのを抑制することができる。
【0092】
78,79はシム板71のうちディスク2の回転方向出口側である回出側(図12で左側)のピストン6に対応する位置に設けられた第1,第2の他側切欠部を示している。これら第1,第2の他側切欠部78,79は、シム板71のうち回出側のピストン6の環状接触部6Aと対応する部位の回入側、即ち、図12に示すように、回出側のピストン6の径方向中心O1を通りディスク2の径方向に延びる線分X1−X1よりも回入側(右側)にそれぞれ配置されている。
【0093】
なお、第1,第2の他側切欠部78,79と第1,第2の一側切欠部74,75とは、回出側のピストン6に対応して設けられているか回入側のピストン6に対応して設けられているかが相違する以外、同様の構成、作用効果を有している。このため、第1,第2の他側切欠部78,79に関しては、第1,第2の一側切欠部74,75と同様の構成に同様の符号を付して、これ以上の説明は省略するものとする。
【0094】
本実施の形態によるディスクブレーキは、上述の如き切欠部74,75,78,79が設けられたシム板71(外側シム板部材72と内側シム板部材73)を用いてブレーキ鳴き、摩擦パッドの偏摩耗、ジャダー等を低減するものであり、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
【0095】
即ち、本実施の形態によれば、シム板71を構成する外側シム板部材72に第1の一側切欠部74と第1の他側切欠部78を設けると共に、シム板71を構成する内側シム板部材73に第2の一側切欠部75と第2の他側切欠部79を設ける構成となっている。そして、ブレーキの作動時に、各ピストン6の環状接触部6Aの回入側(図12で線分X1−X1よりも右側)は、シム板71のうち2箇所の接触端部76に挟まれた部位である回入側接触部77と当接する。この回入側接触部77は、摩擦パッド7の裏板9とピストン6の環状接触部6Aとが外側シム板部材72の当接板部75Aと内側シム板部材73の当接板部73Aとの両方を介して接触する部分であるため、シム板71に切欠部74,75,78,79が設けられていても、回入側接触部77により、各ピストン6が傾斜するのを抑制することができる。これにより、摩擦パッド7のディスク回入側への各ピストン6からの荷重を低減して伝達することができ、ブレーキ鳴き、摩擦パッド7の偏摩耗、ジャダー等を低減することができる。この結果、ディスクブレーキのブレーキ性能、耐久性、安定性の向上を図ることができる。
【0096】
しかも、本実施の形態によれば、第1,第2の切欠部74,75,78,79を各ピストン6の環状接触部6Aの回入側端側でシム板11と当接する部分に対応する回入側接触部77の両側に設ける構成としている。このため、ブレーキの作動時に各ピストン6の環状接触部6Aが回入側接触部77と確実に当接し、これにより、各ピストン6が傾斜するのを抑制することができる。
【0097】
なお、上述した第1ないし第5の実施の形態では、シム板11を金属シム11Aと弾性シム11Bとを互いに接着することにより形成された積層シム板として構成すると共に、金属シム11Aに透孔ないし切欠きを形成することによりシム板11に切欠部13,14,17,18,31,33,41,42,43,44,51,52,53,57,58,59,61,63を形成する構成とした場合を例に挙げて説明した。
【0098】
しかし、これに限らず、例えば、金属シムに透孔ないし切欠きを設けずに、弾性シムに透孔ないし切欠きを設けることによりシム板に切欠部を形成する構成としてもよい。また、金属シムと弾性シムとの両方に透孔ないし切欠きを設けることによりシム板に切欠部を形成する構成としてもよい。
【0099】
即ち、金属シムと弾性シムとの少なくとも一方に透孔ないし切欠きを設けることによりシム板に切欠部を形成することができる。さらに、シム板を1枚の金属シムまたは弾性シムにより形成した(単一の)シム板として構成してもよいし、3枚以上のシム(シム板部材)を接着することにより形成される積層シム板として形成してもよい。さらには、2枚以上のシム(シム板部材)を単に重ね合わせる構成としてもよい。
【0100】
上述した第6の実施の形態では、シム板71を分離可能な2枚のシム板部材72,73により構成すると共に、これらシム板部材72,73の両方にそれぞれ切欠部74,75,78,79を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。
【0101】
しかし、これに限らず、例えば、2枚のシム板部材を分離できないように接着する構成としてもよい。また、2枚のシム板部材の一方にのみ切欠部を設ける構成としてもよい。また、シム板を1枚のシム板部材により構成してもよいし、3枚以上のシム板部材により構成してもよい。
【0102】
上述した第1の実施の形態では、4箇所の接触端部15のすべてをピストン6の径方向中心O1よりも回入側に設ける構成とし、上述した第2の実施の形態では4箇所の接触端部15,32のうち3箇所の接触端部15をピストン6の径方向中心O1よりも回入側に設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、2箇所の接触端部を回入側に設ける構成としてもよい。即ち、少なくとも2箇所の接触端部は、ピストンの径方向中心よりも回入側に設ける構成とすることができる。
【0103】
上述した各実施の形態では、4箇所ないし6箇所の接触端部15,32,54,62,76を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、切欠部を4個以上設けることにより、8箇所以上の接触端部を設ける構成としてもよい。即ち、接触端部は、少なくとも4箇所設ける構成とすることができる。
【0104】
上述した各実施の形態では、断面形状が円形のピストン6を用いた場合を例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば、断面形状が楕円形等の非円形のピストンを用いる構成としてもよい。
【0105】
上述した各実施の形態では、キャリパ本体3のインナ脚部3Aに2個のピストン6を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、キャリパ本体のインナ脚部に1個のピストンを設ける構成としてもよいし、キャリパ本体のインナ脚部に3個以上のピストンを設ける構成としてもよい。
【0106】
上述した各実施の形態では、キャリパ本体3のインナ脚部3Aにシリンダ4を介してピストン6を摺動可能に設け、キャリパ本体3のアウタ脚部3Cをアウタ側の摩擦パッド21に当接させる構成とした所謂フローティングキャリパ型のディスクブレーキを例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えばキャリパ本体のインナ側とアウタ側とにそれぞれピストンを設ける構成とした所謂対向ピストン型のディスクブレーキに適用してもよい。
【0107】
以上の実施の形態によれば、切欠部の接触端部のうち少なくとも2箇所の接触端部を車両前進時のディスク回入側に設ける構成としているので、ブレーキの作動時に、シム板のうち当該2箇所の接触端部に挟まれた部位とピストンの環状接触部とが当接し、これにより、このピストンが傾斜するのを抑制することができる。このため、摩擦パッドのディスク回入側へのピストンからの荷重を低減して伝達することができ、ブレーキ鳴き、摩擦パッドの偏摩耗、ジャダー等を低減することができる。この結果、ディスクブレーキのブレーキ性能、耐久性、安定性の向上を図ることができる。
【0108】
しかも、実施の形態によれば、ピストンをキャリパ本体に少なくとも2つ設けると共に、それぞれのピストン毎に切欠部を設ける構成としているので、該切欠部によって複数のピストンの何れもが傾斜するのを抑制することができる。これにより、ピストンをキャリパ本体に少なくとも2つ設ける構成でも、摩擦パッドのディスク回入側へのピストンからの荷重を低減して伝達することができ、ブレーキ鳴き、摩擦パッドの偏摩耗、ジャダー等を低減することができる。この結果、ディスクブレーキのブレーキ性能、耐久性、安定性の向上を図ることができる。
【0109】
さらに、実施の形態によれば、切欠部を、ピストンの環状接触部の回入側端側で該環状接触部とシム板とが当接する部分の両側に設ける構成としているので、切欠部に挟まれた部位がピストンの環状接触部と当接する。そして、切欠部の大きさ(当接する部分の大きさ)を適宜設定することにより、摩擦パッドに加わる荷重の分布(面圧分布)を幅広く調整(チューニング)することができる。この結果、ピストンが傾斜することをより確実に抑制することができ、さらなるブレーキ性能、耐久性、安定性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0110】
2 ディスク
3 キャリパ本体
6 ピストン
6A 環状接触部
7 (インナ側の)摩擦パッド
11,71 (インナ側の)シム板
13,41,51,74 第1の一側切欠部
14,31,42,52,75 第2の一側切欠部
15,32,54,62,76 接触端部
17,43,57,78 第1の他側切欠部
18,33,44,58,79 第2の他側切欠部
53,61 第3の一側切欠部
59,63 第3の他側切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪とともに回転するディスクの外周を跨ぐように設けたキャリパ本体と、
該キャリパ本体から前記ディスクの軸方向に突出可能に設けられ、突出端部に環状接触部を有するピストンと、
該ピストンにより前記ディスクに押圧される摩擦パッドと、
該摩擦パッドの裏面側に設けられた前記環状接触部と当接するシム板と、からなり、
前記環状接触部の直径を前記シム板の径方向長さおよび周方向長さより小さくしたディスクブレーキにおいて、
前記シム板に、該シム板と前記環状接触部とが接触する接触面積が車両前進時のディスク回入側よりディスク回出側が大きくなるように切欠部を設け、
該切欠部は、該切欠部の周囲と前記環状接触部とが交差する少なくとも4箇所の接触端部を有し、
該少なくとも4箇所の接触端部のうち少なくとも2箇所は、前記ピストンの径方向中心よりもディスク回入側に設けられることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記ピストンは、前記キャリパ本体に少なくとも2つ設けられ、
前記切欠部は、それぞれのピストン毎に設けられることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記切欠部は、前記環状接触部のディスク回入側端側で前記シム板と当接する部分の両側に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記少なくとも4箇所の接触端部のうち少なくとも2箇所の間には、前記環状接触部が当接する仕切部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
前記仕切部は、前記摩擦パッドの長手方向に沿って延びて形成されていることを特徴とする請求項4に記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
前記仕切部は、前記摩擦パッドの長手方向からディスク径方向内方へずれて形成されていることを特徴とする請求項4に記載のディスクブレーキ。
【請求項7】
前記シム板は、複数のシムが積層されて形成され、
前記切欠部は、前記環状接触部に当接するシムに形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−29157(P2013−29157A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165538(P2011−165538)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】