説明

ディスクモータ及びそれを備えた電動作業機、並びにディスクモータのバランス調整方法

【課題】別部材を追加する場合と比較して部品点数の増加及びコストアップを抑え且つディスクモータの長所である扁平を維持でき、さらにモータ完成品の状態でのバランス取りが可能なディスクモータ及びそれを備えた電動作業機、並びにディスクモータのバランス調整方法を提供する。
【解決手段】コイルパターン92の外周部はバランス取り用領域として確保され、バランス取り用領域に、コイルパターン92とは電気的に絶縁されたバランス取り用パターン93が設けられている。バランス取り用パターン93は、コイルパターン92と同材質であり、絶縁基板90からの高さがコイルパターン92と略同一である。バランス取り用パターン93は、コイルパターン92を囲む連続したリング状である。バランス取り用領域に穴開け加工、切欠加工をしたり、バランス取り用パターン93上にハンダ盛りを形成することで、バランス調整が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルディスクを有して出力軸を回転駆動するディスクモータ及びそれを備えた電動作業機、並びにディスクモータのバランス調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1のディスクモータは、出力軸と、出力軸に固定され略円板状であってコイルパターンが印刷されたコイルディスクと、コイルパターンと接続される整流子と、コイルパターンに対向するように配置される磁石と、整流子に電流を供給するためのブラシとから主に構成される。
【0003】
ディスクモータの回転数は、ブラシから供給される電圧、ディスクモータの電流、コイルディスクのコイルパターン、磁石の磁束、ブラシの数(極数)等により決定される。ブラシから供給される電圧及びディスクモータの電流が一定である場合には、コイルディスクのコイルパターン、磁石の磁束、ブラシの数を変更することによりディスクモータを所望の回転数に設定することが可能となる。
【0004】
ディスクモータを高回転で用いる場合には、モータ(特にロータ)のアンバランス(不釣合い)による振動、騒音の増加、ひいてはモータの出力低下が問題として挙げられる。従って、ディスクモータの製造過程でバランス取りができるような構成にすることが重要である。下記特許文献1のディスクモータでは、コイル基板一枚一枚のコイルパターンの隙間にバランサが設けられている。下記特許文献2、3のディスクモータでは、ロータヨークやフランジに穴を設け又はウェイトを付すことでロータの不釣合い(回転軸に対する重量のアンバランス)を修正するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3636700号公報
【特許文献2】特開2011−78255号公報
【特許文献3】特開2011−78256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のディスクモータは、コイル基板一枚一枚の不釣合いは修正できるが、複数のコイル基板を合わせてロータの組立を完了した後は、バランス修正することができない。特許文献2、3のディスクモータは、ロータの外径に対して出力軸に近い側での修正となるため、大きくバランス調整をする場合に作業(穴開け又はウェイト付加)の量が多くなり、調整作業が困難となる可能性がある。また、特許文献2では、穴を開ける場合、穴の深さ方向の延長上にコイルパターンが存在するため、コイルパターンを傷つけないように穴を形成する困難性がある。
【0007】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、特許文献2及び3と比較して出力軸から遠い位置でバランス調整可能とすることで、少ない作業量で大きくバランス調整をすることができるとともに、コイルパターンを傷つけるリスクが低く、さらにロータの組立完了後にバランス取りが可能なディスクモータ及びそれを備えた電動作業機、並びにディスクモータのバランス調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、ディスクモータである。このディスクモータは、
コイルパターンが形成されたコイルディスクと、
前記コイルパターンに電流を供給する電流供給手段と、
前記コイルパターンに対向する磁束発生部と、
前記コイルディスクの回転力で回転する出力軸とを備え、
前記コイルディスクは、前記コイルパターンの外周部にバランス取り用領域を有する。
【0009】
前記バランス取り用領域に外側パターンが形成されていてもよい。
【0010】
複数の前記コイルディスクを積層した構造を有し、各コイルディスクの前記バランス取り用領域のうち少なくとも他のコイルディスクとの対向する前記バランス取り用領域に外側パターンが形成されていてもよい。
【0011】
他の基板との接触面となっていない前記バランス取り用領域に外側パターンが導電材で形成されていて、前記外側パターン上に導電材からなる突起部が設けられていてもよい。
【0012】
前記外側パターンが前記コイルパターンと同材質からなってもよい。
【0013】
前記外側パターンが前記コイルパターンから絶縁されていてもよい。
【0014】
前記外側パターンは、前記コイルディスクの基板面からの高さが前記コイルパターンと略同一であってもよい。
【0015】
前記バランス取り用領域に穴が形成されていてもよい。
【0016】
前記バランス取り用領域に切欠が形成されていてもよい。
【0017】
本発明のもう一つの態様も、ディスクモータである。このディスクモータは、
整流子ディスク及びコイルパターンが形成された少なくとも1枚のコイルディスクを有するロータと、
前記コイルパターンに電流を供給する電流供給手段と、
前記コイルパターンに対向する磁束発生部と、
前記コイルディスクの回転力で回転する出力軸とを備え、
前記ロータは、外周部にバランス取り用領域を有し、他の基板との接触面となっていない前記バランス取り用領域に外側パターンが導電材で形成されていて、前記外側パターン上に導電材からなる突起部が設けられている。
【0018】
本発明のもう一つの態様は、前記ディスクモータを備えた電動作業機である。
【0019】
本発明のもう一つの態様は、ディスクモータのバランス調整方法である。この方法は、
ディスクモータのバランスを調整する方法であって、
前記ディスクモータは、コイルパターンが形成されたコイルディスクと、前記コイルパターンに電流を供給する電流供給手段と、前記コイルパターンに対向する磁束発生部と、前記コイルディスクの回転力で回転する出力軸とを備え、前記コイルディスクは前記コイルパターンの外周部にバランス取り用領域を有し、
前記バランス取り用領域に穴又は切欠を形成する工程を含む。
【0020】
本発明のもう一つの態様も、ディスクモータのバランス調整方法である。この方法は、
ディスクモータのバランスを調整する方法であって、
前記ディスクモータは、整流子ディスク及びコイルパターンが形成された少なくとも1枚のコイルディスクを有するロータと、前記コイルパターンに電流を供給する電流供給手段と、前記コイルパターンに対向する磁束発生部と、前記コイルディスクの回転力で回転する出力軸とを備え、前記ロータは外周部にバランス取り用領域を有し、他の基板との接触面となっていない前記バランス取り用領域に外側パターンが形成されていて、
前記外側パターン上に導電材からなる突起部を形成する工程を含む。
【0021】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現をシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、外周部にバランス取り用領域を有するため、前記バランス取り用領域を利用してディスクモータのバランスを調整できる。このため、特許文献2及び3と比較して出力軸から遠い位置でバランス調整可能で、少ない作業量で大きくバランス調整をすることができるとともに、コイルパターンを傷つけるリスクが低く、さらにロータの組立完了後にバランス取りが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る電動作業機としての刈払機の斜視図。
【図2】図1に示す刈払機の駆動部の正断面図。
【図3】図2に示すステータの模式的平面図。
【図4】図2に示すロータの、左半分を断面とした正面図。
【図5】図4に示す整流子基板の平面図。
【図6】(A)は、図4に示す第1コイルディスクの平面図。(B)は、同コイルディスクの底面図。
【図7】第1コイルディスクのコイルパターン説明図。
【図8】バランス取り用領域にバランス取り用穴を設けたロータの一部拡大平面図。
【図9】バランス取り用領域にバランス取り用切欠を設けたロータの一部拡大平面図。
【図10】バランス取り用パターン上にバランス取り用突起部を設けたロータの一部拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係る刈払機1の斜視図である。電動作業機の例示である刈払機1は、電源部3と、パイプ部4と、ハンドル部5と、駆動部6と、刈刃7とを備える。
【0026】
電源部3は、電源たるバッテリ301を着脱可能に有する。パイプ部4は、電源部3と駆動部6とを機械的に接続する(連結する)。また、パイプ部4の内部には、電源部3と駆動部6とを電気的に接続する配線(図示せず)が挿通されている。この配線により、電源部3から駆動部6に電力が供給される。駆動部6は、ヘッドハウジング61の内部にディスクモータを収容しており、電源部3からの供給電力により刈刃7を回転駆動する。ディスクモータの構成は後述する。
【0027】
ハンドル部5は、パイプ部4の中間、すなわち電源部3と駆動部6との間に取り付け固定されている。ハンドル部5は、一対のアーム51の先端にそれぞれグリップ52を取り付けてなる。一方のグリップ52には、スロットル53が設けられている。作業者は、スロットル53を操作することにより、駆動部6への供給電力を調整可能、すなわち刈刃7の回転数を調整可能である。刈刃7は、略円板状で、その周縁に鋸歯が形成されている。また、刈刃7中心には後述するディスクモータの出力軸に装着される孔(図には現れず)が形成されている。
【0028】
図2は、図1に示す刈払機1の駆動部6の正断面図である。なお、図2に示すように、出力軸31の延出方向を上下方向と定義する。駆動部6は、ヘッドハウジング61の内部にディスクモータ80を有する。ヘッドハウジング61は、カバー部62及びベース部63を嵌合一体化してなる。ディスクモータ80は、ステータ81と、ロータ82と、一対のブラシ83とを有する。一対のブラシ83は、ディスクモータ80の回転軸(出力軸31)について対称に設けられ、カバー部62のブラシホルダ65に支持される。各ブラシ83は、下面が後述する整流子基板35上の銅等の導体の整流子パターンと当接するように、バネ83Aによって整流子基板35側(下側)に付勢される。ブラシ83は、図1の電源部3に接続されており、ロータ82の後述するコイルパターンに電流を供給する電流供給部として機能する。
【0029】
ステータ81は、磁束発生部としてのマグネット41と、軟磁性体である上ヨーク42及び下ヨーク43とを有する。リング状の上ヨーク42は、カバー部62の下面に例えばネジ622で固定される。上ヨーク42と略同径のリング状の下ヨーク43は、ベース部63の下面に形成されたリング状溝部631内に例えばネジ632で固定される。マグネット41は、ベース部63の上面に形成された穴部633内に嵌め込み固定される。
【0030】
図3は、図2に示すステータ81の模式的平面図である。本図に示すように、例えば円板形状のマグネット41は、例えば10個、円周上に等角度ピッチで並んで配置される(マグネット41を収容する図2の穴部633も円周上に同数並んで存在する)。円周の中心は、ディスクモータ80の回転中心と略一致する。隣り合うマグネット41は、上面の磁極が相互に異なる。マグネット41としては、ネオジム磁石等の希土類磁石が好ましいが、フェライト磁石等の焼結磁石を用いてもよい。上ヨーク42及び下ヨーク43は、後述するロータ82のコイルパターンに印加される磁束密度を高めるものである。
【0031】
図2に示すように、ロータ82は、出力軸31(ロータシャフト)と、整流子基板35と、コイル部36と、フランジ37とを有する。出力軸31は、カバー部62に固定された上側軸受け311及びベース部63に固定された下側軸受け312によって回転自在に支持される。出力軸31の下方側端部には雄ネジ31Aが形成されており、図示せぬ留め具によって図1の刈刃7が固定される。整流子基板35の上面は、ブラシ83の摺動面である。図1に示す電源部3からブラシ83及び整流子基板35を介してコイル部36に電流が供給される。
【0032】
図4は、図2に示すロータ82の、左半分を断面とした正面図である。本図に示すように、出力軸31に同軸的に固定された例えばアルミ等の金属製のフランジ37は、略円筒形状の円筒部37Aと、略円板形状の円板部37Bとから構成される。円板部37Bは、円筒部37Aの側面から出力軸31と垂直に外側に突出する。軸方向視で円板部37Bと同形状の絶縁板38,39が、同じく同形状のシート状の接着層502,503(絶縁性)によって円板部37Bの上下面に接着固定される。絶縁板38の上面には、シート状の接着層501(絶縁性)を介して整流子基板35が接着固定される。絶縁板39の下面には、シート状の接着層505(絶縁性)を介してコイル部36が接着固定される。
【0033】
コイル部36は、第1コイルディスク361〜第4コイルディスク364をシート状の接着層507(絶縁性)を挟んで積層してなる。シート状の接着層507は、各コイルディスクと軸方向視で同形状であり、各コイルディスクの表面略全体を覆う。第1コイルディスク361〜第4コイルディスク364は、円板部37Bよりも大径であり、それぞれ両面に後述のコイルパターンが形成されている。整流子基板35から第4コイルディスク364までを貫く導体ピン40は、整流子基板35の整流子パターンと、第1コイルディスク361〜第4コイルディスク364の少なくともいずれかのコイルパターンとを電気的に接続する。円板部37Bの貫通孔(ピン40の挿通孔)には絶縁パイプ401が嵌め込まれ、ピン40とフランジ37との絶縁を確保する。
【0034】
図5は、図4に示す整流子基板35の平面図である。円板状の整流子基板35(整流子ディスク)の中心にある貫通孔35Aは、図4の円筒部37Aを挿通させるものである。ピン挿通孔35Bは、整流子基板35の中心から等距離に所定数設けられ、図4に示すピン40が一部のピン挿通孔35Bに選択的に挿通される。整流子基板35上に形成された整流子パターン351は、放射状に40セグメントに分かれている。例えば間に7つのセグメントを挟んだ2つのセグメント(1番目と9番目、2番目と10番目等)は、内側に形成された接続パターン352と反対面に形成された不図示の接続パターンにより相互に接続されている。
【0035】
図6(A)は、図4に示す第1コイルディスク361の平面図である。図6(B)は、同コイルディスクの底面図である。なお、他のコイルディスクも第1コイルディスク361と同じ構造であり且つ同じパターン(コイルパターン及びバランス取り用パターン)を有するので、ここでは第1コイルディスク361についてのみ説明する。
【0036】
第1コイルディスク361は、円板状の絶縁基板90(例えばガラス繊維強化エポキシ樹脂基板等の絶縁樹脂基板)の両面にそれぞれコイルパターン92と、外側パターンとしてのバランス取り用パターン93とを有する。絶縁基板90の中心にある貫通孔91は、図4の円筒部37Aを挿通させるものである。ピン挿通孔94は、絶縁基板90の中心からの角度90°おきに4個ずつ、合計16個形成される。各ピン挿通孔94から絶縁基板90の中心までの距離は相互に等しい。各ピン挿通孔94は、整流子基板35に形成されたピン挿通孔35Bのうち1つと連通する。
【0037】
銅その他の導電材からなるコイルパターン92は、相互に近接した略同一幅の2列のパターンからなる部分コイルパターン群920を片面につき20個ずつ有する。部分コイルパターン群920は、内側連絡パターン群92Aと、放射状パターン群92Bと、外側連絡パターン群92Cとを順に接続したものである。両面の内側連絡パターン群92A同士は、端部近傍に形成されたスルーホール921によって相互に電気的に接続される。両面の外側連絡パターン群92C同士は、端部近傍に形成されたスルーホール922によって相互に電気的に接続される。放射状パターン群92Bは、絶縁基板90の中心側から半径方向外側に延びて内側連絡パターン群92Aと外側連絡パターン群92Cとを渡す。両面の放射状パターン群92B同士は、軸方向視で略同一位置に存在する。
【0038】
各々の面の放射状パターン群92Bは、絶縁基板90の中心から等角度ピッチで存在する。したがって、絶縁基板90の表面において、隣り合う放射状パターン群92Bの間には、コイルパターン92の存在しない領域がある。
【0039】
通常、コイルディスクはコイルパターン92を包含する最小半径R1の大きさとするが、本実施の形態ではコイルディスクを最小半径R1よりも大きくし、コイルパターン92の外周部(外側連絡パターン群92Cの外周部)をバランス取り用領域として確保している。そして、リング状のバランス取り用領域に、コイルパターン92とは電気的に絶縁されたバランス取り用パターン93が設けられている。バランス取り用パターン93は、コイルパターン92と同材質であり、絶縁基板90からの高さがコイルパターン92と略同一である。バランス取り用パターン93は、図示の例ではコイルパターン92を囲む連続したリング状である。バランス取り用領域を利用したバランス調整については後述する。
【0040】
図7(A)及び図7(B)は、第1コイルディスク361のコイルパターン説明図である。なお、これらの図は、振られている符号を除き、図6(A)及び図6(B)と同一である。第1コイルディスク361のコイルパターン92は、2つのコイルを含む。一方のコイルの始点をA1−1、終点をA1−2と図7(A)中に示している。また、他方のコイルの始点をA2−1、終点をA2−2と同図中に示している。一方のコイルは、始点A1−1から点P11、P11'、P12'、P12、P13、P13'、・・・P19'、P20'と繋がる。これで上から見て始点A1−1から時計回りに一周となる。そして、さらに点P20'から同様に点P20,P21,P21'、P22'、P22、P23、P23'、・・・、P29'、P30'と繋がる。これで上から見て始点A1−1から時計回りに二周となる。そして、点P30'から点P31'、P31、P32、P32'、P33'と反時計回りに同様に繋がり、点P30'から二周して終点A1−2に至る。他方のコイルも同様に、始点A2−1から終点A2−2まで繋がっている。
【0041】
そして、このように構成される第1コイルディスク361〜第4コイルディスク364が、軸方向(積層方向)に4枚積層されてコイル部36が構成される。異なるコイルディスクのコイル間は、図4で既述のピン40によって電気的に接続される。4枚のコイルディスクの接続を成すのに必要なピン40は12本である。ここで、各コイルディスクの出力軸31周りの角度(位相)を所定角度ずらすことで、各コイルディスクに形成されたコイルパターン92を直列に接続することができる。
【0042】
以下、ディスクモータ80の製造方法について簡単に説明する。
【0043】
円板状の絶縁基板の両面に銅箔等の導電材を積層したものにマスクを被せてエッチング処理する(エッチング工程)。必要なスルーホール及びピン挿通孔は、エッチング処理の前もしくは後に加工する。これにより、図6(A)等に示すコイルパターン92及びバランス取り用パターン93を形成した4枚のコイルディスク361〜364を得る。また、図5に示す整流子パターン351等を形成した整流子基板35も同様に得る。
【0044】
図4に示すように、ピン40を通し、層間にプリプレグ状態のシート状の接着層501〜503,505,507(例えば、ガラス布基材にエポキシ樹脂を含浸させ半硬化状態にした薄いシート)を挟んで各部材をフランジ37に積層し、金型にセットしてホットプレス(加熱した状態で積層方向に加圧)する(接着工程)。なお、ホットプレスに先だって、コイルディスク361〜364を積層した状態でピン40と各コイルディスクとをハンダ付けしておく。また、ホットプレス後、整流子基板35とピン40とをハンダ付けし、突出したピン40の不要部分をカットする。こうして得られた図4のロータ82を、図2に示すようにステータ81及びブラシ83と組み合わせ、ディスクモータ80が完成する。
【0045】
本実施の形態では、バランス取り用領域を利用して、ロータ82の組立完了後にバランス調整が可能である。以下、これについて説明する。
【0046】
まず、上記のように構成したロータ82のバランス計測を行う。バランス計測は、市販のバランスマシンを用いて実施可能である。バランスマシンにより、ロータ82のアンバランス(アンバランス量とアンバランス位置角度)が特定される。そして、当該アンバランスを減じるようにバランス調整を行う。バランス調整では、マイナスバランス方式(マイナス修正)の場合、例えば図8に示すようにバランス取り用領域(バランス取り用パターン93)にバランス取り用穴931(貫通孔であっても非貫通孔であってもよい)をドリル等で穴開け加工して設けるか、例えば図9に示すようにバランス取り用領域にバランス取り用切欠932を削り加工等で設ける。プラスバランス方式(プラス修正)の場合、例えば図10に示すようにバランス取り用パターン93上に導電材からなるバランス取り用突起部933を形成する(例えばハンダ付けによりハンダ盛りを形成する)。なお、バランス計測とバランス調整は複数回繰り返してもよい。また、バランス取り用穴931、バランス取り用切欠932、及びバランス取り用突起部933の2つ以上を組み合わせてもよい。こうして、ロータ82、ひいてはディスクモータ80のアンバランス(不釣り合い)を修正できる。
【0047】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0048】
(1) コイルディスクがコイルパターンの外周部にバランス取り用領域を有するため、前記バランス取り用領域を利用してロータ82ひいてはディスクモータ80のバランスを調整できる。このため、出力軸31から遠い位置でバランス調整が可能で、少ない作業量(少しの加工)で大きくバランスの調整が可能となる。また、ロータ82の組立完了後にバランス取りが可能となる。さらに、バランス調整のために別部材を追加する場合と比較して部品点数の増加及びコストアップを抑え且つディスクモータの長所である扁平(薄型)も維持できる。
【0049】
(2) コイルパターン92を包含する最小半径R1以内の領域でバランス調整をすることを考えると、穴開けの場合は例えばコイルパターンを断線するリスクがあり、ハンダ付けの場合はコイルパターンを短絡するリスクがあり、現実的でない。特にコイルディスクを複数積層する場合、内層のコイルパターン92は目視不可能であり、最小半径R1以内の領域でのバランス調整はリスクが大きいといえる。これに対し、本実施の形態では、コイルディスクを最小半径R1よりも大きくし、コイルパターン92の外周部をバランス取り用領域として確保しているため、当該バランス取り用領域を利用して安全にバランス調整が可能である。
【0050】
(3) バランス取り用領域にバランス取り用パターン93を形成しているため、コイルディスク同士の接着強度が高い。すなわち、バランス取り用パターン93が無い場合、バランス取り用領域はコイルパターン92表面と比較して高さが低くてコイルディスク同士の接着への寄与が小さい(又は寄与がない)ため、コイルディスク同士の接着強度が低いという問題がある。これに対し本実施の形態では、基板面からコイルパターン92と略同一高さのバランス取り用パターン93を設けたことで、バランス取り用パターン93の表面もコイルディスク同士の接着に寄与させることができ、接着強度が高められる。このため、振動の大きな製品や使い方によっては衝撃が加わりやすい製品においても、高い信頼性を確保できる。
【0051】
(4) バランス取り用パターン93を設けたことで、プラスバランス方式(プラス修正)によるバランス調整がハンダ付け等で容易にできる。
【0052】
(5) バランス取り用パターン93がコイルパターン92と同材質かつ基板面から同じ高さであるから、両者を一度のエッチング工程で一括的に形成することができ、製造容易かつコスト安である。すなわち、バランス取り用パターン93の形成のために別途工程が増やす必要がない。
【0053】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0054】
バランス取り用パターン93は、連続したリング状に替えて、例えば複数の小パターンをリング状に配列したものであってもよい。
【0055】
バランス取り用パターン93は、コイルパターン92を短絡(部分的短絡を含む)しない限り、コイルパターン92に接続されていてもよい(すなわちコイルパターン92から絶縁されていなくてもよい)。
【0056】
他のコイルディスクとの接着面となっていない面上のバランス取り用領域にはバランス取り用パターン93を設けなくてもよい。この場合、プラスバランス方式によるバランス調整は難しくなるものの、接着力への影響はない。また、接着力の要求が厳しくない場合は接着面上のバランス取り用領域にもバランス取り用パターン93を設けなくてもよい。
【0057】
尚、プラスバランス方式によるバランス調整であれば、バランス取り用パターンの形成位置はコイルディスクの外周側に限られるものではなく、例えば軸方向の寸法が若干大きくはなるが、コイル部36の最も軸方向外側(第1コイルディスク361の上側)にコイルパターンが形成されないバランス調整用ディスクを設け、その外周側にバランス取り用パターンを設けるようにしてもよい。この場合、バランス取り用パターンは、各コイルディスクの磁石と対向する部分より外周側に、リング状に形成されていてもよい。
【0058】
コイルディスクは1枚又は全てが片面基板であってもよい。
【0059】
コイルディスク及び整流子基板の形状は、厳密な円板状でなくてもよいが、軸方向視で実質的に円とみなせる範囲であるとよい。
【0060】
上記に加え、マグネットの個数とその配置角度ピッチ、コイルパターンの周回数(コイルパターンの列数)、コイルディスクの積層数、ピン挿通孔やスルーホールの数、その他のパラメータは、要求される性能やコストに応じて適宜設定可能である。また、コイルパターンの周回数は、コイルディスクごとに異なってもよい。なお、コイルパターンが1列の場合は、実施の形態の説明における「部分コイルパターン群」、「内側連絡パターン群」、「放射状パターン群」、及び「外側連絡パターン群」の各用語を、「群」を除いて読み替える。
【0061】
電動作業機は、実施の形態で示した刈払機のほか、ディスクモータを搭載したベルトサンダーやロータリバンドソー等、ディスクモータによる回転駆動部を有する種々の電動工具であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 刈払機
3 電源部
4 パイプ部
5 ハンドル部
6 駆動部
7 刈刃
301 バッテリ
31 出力軸(ロータシャフト)
35 整流子基板
36 コイル部
37 フランジ
41 マグネット
42 上ヨーク
43 下ヨーク
51 アーム
52 グリップ
53 スロットル
61 ヘッドハウジング
62 カバー部
63 ベース部
65 ブラシホルダ
80 ディスクモータ
81 ステータ
82 ロータ
83 ブラシ
92 コイルパターン
92A 内側連絡パターン群
92B 放射状パターン群
92C 外側連絡パターン群
93 バランス取り用パターン
920 部分コイルパターン群
361〜364 コイルディスク
501〜503,505,507 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルパターンが形成されたコイルディスクと、
前記コイルパターンに電流を供給する電流供給手段と、
前記コイルパターンに対向する磁束発生部と、
前記コイルディスクの回転力で回転する出力軸とを備え、
前記コイルディスクは、前記コイルパターンの外周部にバランス取り用領域を有する、ディスクモータ。
【請求項2】
前記バランス取り用領域に外側パターンが形成されている請求項1に記載のディスクモータ。
【請求項3】
複数の前記コイルディスクを積層した構造を有し、各コイルディスクの前記バランス取り用領域のうち少なくとも他のコイルディスクとの対向する前記バランス取り用領域に外側パターンが形成されている、請求項1に記載のディスクモータ。
【請求項4】
他の基板との接触面となっていない前記バランス取り用領域に外側パターンが導電材で形成されていて、前記外側パターン上に導電材からなる突起部が設けられている、請求項1に記載のディスクモータ。
【請求項5】
前記外側パターンが前記コイルパターンと同材質からなる請求項2から4のいずれか一項に記載のディスクモータ。
【請求項6】
前記外側パターンが前記コイルパターンから絶縁されている請求項2から5のいずれか一項に記載のディスクモータ。
【請求項7】
前記外側パターンは、前記コイルディスクの基板面からの高さが前記コイルパターンと略同一である、請求項2から6のいずれか一項に記載のディスクモータ。
【請求項8】
前記バランス取り用領域に穴が形成されている請求項1から7のいずれか一項に記載のディスクモータ。
【請求項9】
前記バランス取り用領域に切欠が形成されている請求項1から8のいずれか一項に記載のディスクモータ。
【請求項10】
整流子ディスク及びコイルパターンが形成された少なくとも1枚のコイルディスクを有するロータと、
前記コイルパターンに電流を供給する電流供給手段と、
前記コイルパターンに対向する磁束発生部と、
前記コイルディスクの回転力で回転する出力軸とを備え、
前記ロータは、外周部にバランス取り用領域を有し、他の基板との接触面となっていない前記バランス取り用領域に外側パターンが導電材で形成されていて、前記外側パターン上に導電材からなる突起部が設けられている、ディスクモータ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のディスクモータを備えた電動作業機。
【請求項12】
ディスクモータのバランスを調整する方法であって、
前記ディスクモータは、コイルパターンが形成されたコイルディスクと、前記コイルパターンに電流を供給する電流供給手段と、前記コイルパターンに対向する磁束発生部と、前記コイルディスクの回転力で回転する出力軸とを備え、前記コイルディスクは前記コイルパターンの外周部にバランス取り用領域を有し、
前記バランス取り用領域に穴又は切欠を形成する工程を含む、ディスクモータのバランス調整方法。
【請求項13】
ディスクモータのバランスを調整する方法であって、
前記ディスクモータは、整流子ディスク及びコイルパターンが形成された少なくとも1枚のコイルディスクを有するロータと、前記コイルパターンに電流を供給する電流供給手段と、前記コイルパターンに対向する磁束発生部と、前記コイルディスクの回転力で回転する出力軸とを備え、前記ロータは外周部にバランス取り用領域を有し、他の基板との接触面となっていない前記バランス取り用領域に外側パターンが形成されていて、
前記外側パターン上に導電材からなる突起部を形成する工程を含む、ディスクモータのバランス調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−78189(P2013−78189A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216083(P2011−216083)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】