説明

ディスク成形用金型、インナホルダ及びディスク成形用金型の製造方法

【課題】ディスク基板の外観を良くすることができ、ディスク基板の品質を向上させるようにする。
【解決手段】鏡面盤16と、中央に穴が形成され、前記鏡面盤16の前端面s1に取り付けられるスタンパ29と、前記穴への圧入が行われることによって前記スタンパ29を保持するインナホルダ60とを有する。該インナホルダ60は、インナホルダ本体61、及び該インナホルダ本体61の前端の外周縁に、径方向外方に向けて突出させて、インナホルダ60と一体に形成された張出部を備える。前記スタンパ29及びインナホルダ60のうちの少なくとも一方は、前記圧入が行われるのに伴って、塑性変形させられるので、スタンパ29と張出部との間に形成される段差を大きくすることなく、インナホルダ60によってスタンパ29を安定した状態で保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク成形用金型、インナホルダ及びディスク成形用金型の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスク基板を成形するための射出成形機においては、加熱シリンダ内において加熱され、溶融させられた樹脂を、金型装置、すなわち、ディスク成形用金型内のキャビティ空間に充填し、該キャビティ空間内において冷却し、穴開け加工を行うことによってディスク基板を得るようにしている。
【0003】
前記ディスク成形用金型においては、固定側の金型組立体又は可動側の金型組立体の鏡面盤に対して着脱自在に環状のスタンパが配設され、該スタンパの微細パターンがキャビティ空間内の樹脂に転写される。前記スタンパは、内周縁においてインナスタンパホルダによって鏡面盤に取り付けられる。
【0004】
図2は従来のディスク成形用金型の要部を示す断面図である。
【0005】
図において、16は固定側の金型組立体に配設された鏡面盤、29は該鏡面盤16の前端面に着脱自在に配設されたスタンパ、30は該スタンパ29を鏡面盤16に取り付けるためのインナホルダ、36は可動側の金型組立体に配設された鏡面盤、Cはキャビティ空間である。
【0006】
前記インナホルダ30は、型開き時に前記キャビティ空間C内において成形されたディスク基板をスタンパ29から離型させる際に、スタンパ29が鏡面盤16から離れて脱落することがないように環状の押え代58を備え、該押え代58によってスタンパ29の内周縁を機械的に保持し、鏡面盤16に押し付けるようになっている。
【0007】
ところで、前記スタンパ29及びインナホルダ30の製造上の寸法公差により、また、スタンパ29及びインナホルダ30の取付けを容易にするために、鏡面盤16の前端面と押え代58の後端面との間にクリアランスCL1が、スタンパ29の内周面とインナホルダ30の外周面との間にクリアランスCL2が形成されるが、前記クリアランスCL1が不要に大きい場合、クリアランスCL1に樹脂が進入し、ディスク基板にバリが発生するので、ディスク基板の品質が低下してしまう。
【0008】
そこで、スタンパ29とインナホルダ30との間に樹脂が進入してバリが発生することがないように、インナホルダ30の前端の外周縁に、前方に、かつ、径方向外方に向けて突出させて、前記押え代58が形成される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−117937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記従来のディスク成形用金型においては、スタンパ29が鏡面盤16から離れて脱落することがないように、前記押え代58を十分に大きくする必要があるので、スタンパ29と押え代58との間に大きな段差が形成されてしまう。
【0011】
それに伴って、成形されたディスク基板にも大きな段差が形成されるので、ディスク基板の外観を悪くしてしまう。
【0012】
また、前記キャビティ空間Cにおける押え代58が形成された箇所が狭くなり、キャビティ空間Cに充填される樹脂の流れに乱れが発生してしまう。その結果、ディスク基板の品質が低下してしまう。
【0013】
本発明は、前記従来のディスク成形用金型の問題点を解決して、ディスク基板の外観を良くすることができ、ディスク基板の品質を向上させることができるディスク成形用金型、インナホルダ及びディスク成形用金型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そのために、本発明のディスク成形用金型においては、鏡面盤と、中央に穴が形成され、前記鏡面盤の前端面に取り付けられるスタンパと、前記穴への圧入が行われることによって前記スタンパを保持するインナホルダとを有する。
【0015】
そして、該インナホルダは、インナホルダ本体、及び該インナホルダ本体の前端の外周縁に、径方向外方に向けて突出させて、インナホルダと一体に形成された張出部を備える。
【0016】
また、前記スタンパ及びインナホルダのうちの少なくとも一方は、前記圧入が行われるのに伴って、降伏点を超える応力によって塑性変形させられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ディスク成形用金型においては、鏡面盤と、中央に穴が形成され、前記鏡面盤の前端面に取り付けられるスタンパと、前記穴への圧入が行われることによって前記スタンパを保持するインナホルダとを有する。
【0018】
そして、該インナホルダは、インナホルダ本体、及び該インナホルダ本体の前端の外周縁に、径方向外方に向けて突出させて、インナホルダと一体に形成された張出部を備える。
【0019】
また、前記スタンパ及びインナホルダのうちの少なくとも一方は、前記圧入が行われるのに伴って、降伏点を超える応力によって塑性変形させられる。
【0020】
この場合、インナホルダが穴に圧入されることによって、前記スタンパが保持されるとともに、スタンパ及びインナホルダのうちの少なくとも一方が塑性変形させられるので、スタンパと張出部との間に形成される段差を大きくすることなく、前記インナホルダによってスタンパを安定した状態で保持することができる。また、ディスク基板の外観を良くすることができる。
【0021】
そして、インナホルダとスタンパとの間に成形材料が進入するのを阻止することができるので、ディスク基板にバリが発生するのを防止することができるだけでなく、キャビティ空間における張出部が形成された箇所が狭くならないので、キャビティ空間に充填される成形材料の流れに乱れが発生するのを抑制することができる。したがって、ディスク基板の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるディスク成形用金型の要部を示す断面図である。
【図2】従来のディスク成形用金型の要部を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態におけるディスク成形用金型の断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態におけるディスク成形用金型の変形例を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態におけるディスク成形用金型の要部を示す断面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態におけるディスク成形用金型の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この場合、金型装置としてのディスク成形用金型について説明する。
【0024】
図1は本発明の第1の実施の形態におけるディスク成形用金型の要部を示す断面図、図3は本発明の第1の実施の形態におけるディスク成形用金型の断面図、図4は本発明の第1の実施の形態におけるディスク成形用金型の変形例を示す図である。
【0025】
図において、12は、図示されない固定プラテンに図示されないボルトによって取り付けられた第1の金型としての固定側の金型組立体、32は、図示されない可動プラテンに図示されないボルトによって取り付けられた第2の金型としての可動側の金型組立体であり、前記金型組立体12、32によって金型装置としてのディスク成形用金型が構成される。なお、該ディスク成形用金型について説明するに当たり、前記金型組立体12においては、成形材料としての樹脂の流れに従って、金型組立体32側を前方とし、固定プラテン側を後方とする。また、前記金型組立体32においては、可動プラテンの動作に従って、金型組立体12側を前方とし、可動プラテン側を後方とする。
【0026】
前記可動プラテンの後方には、図示されない型締機構が配設され、該型締機構を作動させることによって前記可動プラテンを進退させて、前記金型組立体32を進退させ、金型組立体12に対して接離させることによって、ディスク成形用金型の型閉じ、型締め及び型開きを行うことができる。そして、型閉じ及び型締めが行われると、前記金型組立体12と金型組立体32との間にキャビティ空間Cが形成される。
【0027】
なお、前記固定プラテン、可動プラテン、型締機構等によって型締装置が構成される。また、前記ディスク成形用金型、型締装置、図示されない射出装置等によって成形機としての射出成形機が構成される。
【0028】
前記金型組立体12は、ベースプレート15、該ベースプレート15にボルト17によって取り付けられた鏡面盤16、該鏡面盤16より径方向外方に配設され、前記ベースプレート15にボルト19によって取り付けられた環状のガイドリング18、前記ベースプレート15内において前記固定プラテンに臨ませて配設され、ベースプレート15を固定プラテンに対して位置決めするロケートリング23、並びに該ロケートリング23に隣接させて配設され、ベースプレート15及び鏡面盤16を貫通して前方に向けて延在させられるスプルーブッシュ24を備える。
【0029】
該スプルーブッシュ24の中心には、前記射出装置の射出ノズルから射出された樹脂を通すスプルー26が形成される。また、前記スプルーブッシュ24は、前端をキャビティ空間Cに臨ませて配設され、前端に凹部から成るカット部28が形成される。
【0030】
前記鏡面盤16の前端面に、中央に穴が形成された環状のスタンパ29が取り付けられ、該スタンパ29は、前端面に微小な凹凸から成る微細パターンが形成される。前記スタンパ29は、外周縁が図示されないアウタホルダによって、内周縁がインナホルダ60によって、鏡面盤16に押し付けられ、保持される。なお、前記金型組立体12には、図示されない固定側エアブローブシュ等も配設される。
【0031】
一方、前記金型組立体32は、ベースプレート35、該ベースプレート35にボルト37によって取り付けられた支持部材としての中間プレート40、該中間プレート40にボルト42によって取り付けられた鏡面盤36、該鏡面盤36より径方向外方に配設され、前記中間プレート40にボルト39によって取り付けられた環状のガイドリング38、前記ベースプレート35内において前記可動プラテンに臨ませて配設され、中間プレート40にボルト45によって取り付けられた案内部材44、及び前記スプルーブッシュ24と対向させて、かつ、前記案内部材44に対して進退自在に配設されたカットパンチ48を備え、該カットパンチ48の前端は前記カット部28に対応する形状を有する。
【0032】
また、前記鏡面盤36における鏡面盤16と対向する面の外周縁には、成形されるディスク基板の厚さに対応する分だけ鏡面盤16側に突出させて、環状のキャビリング33が配設される。なお、図3において、キャビリング33は、前記鏡面盤36と一体に示されているが、実際は、鏡面盤36とは別体に形成され、付勢部材としての図示されないスプリングを介して鏡面盤36に対して進退自在に配設される。
【0033】
そして、前記キャビリング33より径方向内方に凹部が形成され、該凹部は、前記型閉じが行われたときに、金型組立体12と共にキャビティ空間Cを形成する。
【0034】
前記案内部材44内には、前記カットパンチ48と一体に形成されたフランジ51が進退自在に配設され、該フランジ51の後方には駆動部としての図示されない駆動シリンダが配設され、該駆動シリンダを駆動することによって前記フランジ51を前方に移動させることができる。また、フランジ51の前方には、中間プレート40との間にカットパンチ戻し用ばね52が配設され、該カットパンチ戻し用ばね52は前記フランジ51を後方に向けて所定の付勢力で付勢する。
【0035】
なお、前記金型組立体32には、図示されないエジェクタブシュ、エジェクタピン、可動側エアブローブシュ等も配設される。
【0036】
前記構成のディスク成形用金型において、前記型締機構を作動させて前記可動プラテンを前進させて、金型組立体32を前進させると、型閉じが行われるとともに、ガイドリング18、38がいんろう結合され、キャビリング33と鏡面盤16及びスタンパ29との心合せが行われる。そして、前記型締機構を更に作動させて型締めを行い、型締状態において、前記射出ノズルから溶融させられた樹脂が射出されると、該樹脂は、前記スプルー26を介してキャビティ空間Cに充填され、このとき、前記スタンパ29の微細パターンが樹脂に転写される。続いて、樹脂は冷却され固化させられて、成形品としてのディスク基板の原型となる原型基板が形成される。なお、前記ガイドリング18、38をいんろう結合するために、ガイドリング18の内周側及びガイドリング38の外周側に環状の凹部18a、38aがそれぞれ形成される。また、前記キャビティ空間C内の樹脂を冷却するために、前記鏡面盤16内に温調用流路55が、鏡面盤36内に温調用流路56が形成され、各温調用流路55、56内に図示されない温調器から供給された温調用の媒体が流される。
【0037】
続いて、前記駆動シリンダを駆動することによってフランジ51を前進させると、前記カットパンチ48が前進させられ、該カットパンチ48の前端がカット部28内に進入し、前記キャビティ空間C内の原型基板に穴開け加工が行われる。そして、穴開け加工が行われた原型基板を更に冷却することによって、ディスク基板が成形される。
【0038】
次に、前記型締機構を作動させて、可動プラテンを後退させて金型組立体32を後退させると、型開きが行われてディスク基板がスタンパ29から離型させられる。続いて、前記エジェクタピンを前進させ、ディスク基板を突き出して金型組立体32から離型させる。このようにして、ディスク基板が成形される。
【0039】
ところで、型開き時に前記キャビティ空間C内において成形されたディスク基板をスタンパ29から離型させる際に、該スタンパ29が鏡面盤16から離れて脱落することがないように、前記インナホルダ60はスタンパ29を保持する。
【0040】
そのために、前記ベースプレート15内に図示されない係止機構が配設される。該係止機構は、ディスク成形用金型の外側からインナホルダ60の外周面の近傍にかけて回転自在に延在させられた操作ロッド、該操作ロッドの先端に形成され、所定の形状、本実施の形態においては、半円形の形状を有する係止部等を備え、前記操作ロッドを回転させることによって、前記係止部とインナホルダ60の後端とが係止させられ、インナホルダ60が後退させられる。そのために、前記インナホルダ60の後端に、前記係止部に対応させて被係止部が形成される。なお、インナホルダ60の後退量を規制するために、ベースプレート15又は鏡面盤16における所定の箇所、本実施の形態においては、ベースプレート15におけるインナホルダ60より後方の所定の箇所に、停止部材としての図示されないストッパが配設される。
【0041】
そして、スタンパ29を鏡面盤16に押し付けた状態で、スタンパ29及び鏡面盤16に形成された穴にインナホルダ60を挿入し、インナホルダ60の後端と前記係止部とを係止させ、係止機構を作動させると、インナホルダ60は、後退させられ、それに伴って、スタンパ29を保持し、鏡面盤16に押し付ける。
【0042】
ところで、スタンパ29の中央には穴が形成されるが、該穴を打抜きによって形成すると、図1に示されるように、スタンパ29の前端部における穴の近傍が斜め後方に向けて変形する。したがって、インナホルダ60とスタンパ29との間にわずかにクリアランスCL3が形成されることがあり、その場合、クリアランスCL3に樹脂が進入すると、ディスク基板にバリが発生してしまう。
【0043】
そこで、本実施の形態においては、インナホルダ60の本体、すなわち、インナホルダ本体61の前端の外周縁に、張出部としての環状の突起部62が、径方向外方に向けて突出させて、かつ、インナホルダ本体61と一体に形成されるようになっている。また、インナホルダ60が前方から打ち込まれ、スタンパ29の穴に圧入される。
【0044】
そして、前記突起部62は、インナホルダ本体61の平坦な前端面s1の外周縁から径方向外方に向けて直線状に形成され、平坦部を構成する前端面s2、該前端面s2の外周縁から後方に向けて形成された筒状面s3、及び該筒状面s3の後端から斜め後方に向けて、かつ、径方向内方に向けて湾曲させて形成された円錐状の傾斜面s4を備える。
【0045】
本実施の形態において、該傾斜面s4は、前記筒状面s3の後端から斜め後方に向けて、かつ、径方向内方に向けて形成され、前記突起部62の筒状面s3の後端の点p1とインナホルダ本体61の筒状面s5の前端の点p2との間において、所定の曲線を描くとともに、インナホルダ60の中心からの距離を表す径が、連続的に変化させられ、点p1に近いほど大きく、点p2に近いほど小さくされる。なお、傾斜面s4は、点p1における接線がスタンパ29の前端面とほぼ一致するように、かつ、点p2における接線がインナホルダ本体61の筒状面s5と一致するように、所定の曲率半径で形成される。そして、点p1において、筒状面s3と傾斜面s4とは、ほぼ90〔°〕の角度で交差させられる。
【0046】
また、前記傾斜面s4、並びにスタンパ29の穴の内周面s6及びスタンパ29の前端面における穴の周縁部q1(図1において破線より径方向における外側の部分)に圧入変形部分が設定され、該圧入変形部分においてインナホルダ60の圧入が行われる。そして、該圧入が行われるのに伴って、インナホルダ60及びスタンパ29のうちの少なくとも一方、本実施の形態においては、スタンパ29内に、該スタンパ29を形成する材料の降伏点を超える応力が発生する。その結果、スタンパ29は塑性変形させられ、前記穴の内周面s6及び周縁部q1が、傾斜面s4の形状に沿って変形させられる。なお、s6’は変形後の穴の内周面を、q1’は変形後の穴の周縁部を表す。
【0047】
そのために、前記スタンパ29は、塑性変形するのに適した第1の材料、例えば、純粋ニッケルによって形成され、前記インナホルダ60は、純粋ニッケルより硬度が高い第2の材料、例えば、ステンレス鋼によって形成される。そして、前記スタンパ29を塑性変形させるために、図1に示されるように、前記点p2より前方における軸方向の各位置において、前記傾斜面s4の径が前記穴の内周面s6の径より大きくされる。
【0048】
このように、本実施の形態においては、インナホルダ60が前方から打ち込まれ、スタンパ29の穴に圧入されるので、突起部62を大きくすることなく、スタンパ29の内周縁を保持するとともに、スタンパ29を鏡面盤16に押し付けることができる。
【0049】
また、突起部62を大きくする必要がないので、スタンパ29と突起部62との間に形成される段差を小さくすることができる。したがって、ディスク基板の外観を良くすることができる。また、キャビティ空間Cにおける突起部62が形成された箇所が狭くならないので、キャビティ空間Cに充填される樹脂の流れに乱れが発生するのを抑制することができる。したがって、ディスク基板の品質を向上させることができる。
【0050】
そして、本実施の形態においては、突起部62の傾斜面s4における点p1の接線がスタンパ29の前端面とほぼ一致するように形成され、突起部62の外周縁において、点p1から前方にかけて所定の距離にわたり軸方向に延びる筒状面s3が形成され、点p1において、筒状面s3と傾斜面s4とが、ほぼ90〔°〕の角度で交差させられる。
【0051】
この場合、インナホルダ60がスタンパ29の穴に圧入されたときに、スタンパ29が塑性変形させられると、わずかな量だけ筒状面s3がスタンパ29内に進入するが、これに伴って、スタンパ29内において、筒状面s3と傾斜面s4とが、ほぼ90〔°〕の角度で交差することになる。
【0052】
したがって、インナホルダ60とスタンパ29との間にわずかにクリアランスCL3が形成されても、筒状面s3と傾斜面s4とが交差する部分で樹脂の進入が阻止されるので、ディスク基板にバリが発生するのを防止することができる。その結果、ディスク基板の品質を向上させることができる。
【0053】
本実施の形態においては、スタンパ29の軸方向における点p2より前方に、局部的に圧入変形部分が形成されるようになっているが、図4に示されるように、スタンパ29の軸方向の各位置において、前記傾斜面s4の径を前記穴の内周面s6の径より大きくすることによって、スタンパ29の軸方向における全体に圧入変形部分を形成することができる。
【0054】
また、本実施の形態において、前記圧入変形部分は、スタンパ29及びインナホルダ60の円周方向における全体にわたって形成されるが、スタンパ29及びインナホルダ60の円周方向における所定の部分(例えば、等ピッチ角を置いた複数箇所)に局部的に形成することができる。
【0055】
ところで、本実施の形態においては、インナホルダ60の圧入が行われるのに伴ってスタンパ29が塑性変形させられるようになっているが、塑性変形は、外から加えられる力によって、スタンパ29内に発生する応力がスタンパ29を形成する材料の弾性変形の限界となる降伏点より大きくなると発生する。
【0056】
そして、前記弾性変形においては、外から力が加えられると、加えられた力に対応する歪みが発生し、内部に応力が発生するが、外から力が加えられなくなると、元の形状に戻り、歪みは零(0)になり、内部の応力も零になる。したがって、仮に、スタンパ29を弾性変形させて、インナホルダ60の圧入を行うと、外から力が加わったままになり、スタンパ29内に発生した応力は、そのまま残留する。
【0057】
これに対して、前記塑性変形においては、外から力が加えられると、加えられた力に対応する歪みが発生し、歪み量が変化している間は、内部に応力が発生するが、歪み量が変化しなくなると、内部の応力は零になる。そして、外から力が加えられなくなっても、元の形状に戻らず、歪みは零にならない。また、内部の応力は零のままである。したがって、インナホルダ60がスタンパ29の穴に圧入されるのに伴ってスタンパ29内に発生した応力は零になり、残留しない。
【0058】
その結果、一旦インナホルダ60が鏡面盤16に取り付けられ、圧入が行われると、塑性変形した部分においてスタンパ29内に応力が残留しないので、スタンパ29をその分安定した状態で取り付けることができる。
【0059】
なお、インナホルダ60の圧入が行われるのに伴って、スタンパ29において塑性変形させられる部分の周辺に、降伏点より小さい応力が加わる部分が存在すると、その部分においてスタンパ29は弾性変形させられてしまう。また、インナホルダ60には、該インナホルダ60を形成する材料の降伏点を超える応力が発生せず、インナホルダ60は弾性変形させられてしまう。
【0060】
その結果、インナホルダ60がスタンパ29の穴に圧入された後、傾斜面s4と穴の内周面s6’との間に、わずかなクリアランスが形成されることがあるが、本実施の形態においては、前述されたように、筒状面s3と傾斜面s4とが交差する部分で樹脂の進入が阻止されるので、ディスク基板にバリが発生するのを防止することができる。
【0061】
なお、前記突起部62において、傾斜面s4は、圧入変形部分を形成し、前記スタンパ29の内周縁を保持する機能を有するのに対して、筒状面s3は、樹脂の進入を阻止する機能を有するだけであるので、軸方向における筒状面s3の寸法L1(突起部62の先端の厚さ)を大きくする必要はない。したがって、本実施の形態において、前記寸法L1は、前記従来の押え代58(図2)の先端の厚さより小さくされる。なお、点p1の接線とスタンパ29の前端面とがほぼ一致するように、突起部62の張出し量(インナホルダ60の径方向における筒状面s3、s5間の距離)L2は、従来の押え代58の張出量より大きくされる。
【0062】
本実施の形態においては、前記寸法L1が小さくされるので、キャビティ空間Cが狭くならない。したがって、キャビティ空間Cに充填された樹脂の流動性が良くなり、ディスク基板の表面にフローラインが形成されたり、ディスク基板に反りが発生するのを防止することができる。その結果、ディスク基板の品質を向上させることができる。
【0063】
また、径方向において、スタンパ29とインナホルダ60との間にクリアランスが形成されないので、スタンパ29が径方向において鏡面盤16に対して偏心することがない。したがって、ディスク基板の中心と樹脂に転写された微細パターンから成る情報面の中心との間にずれが発生することがなく、ディスク基板の品質を一層向上させることができる。
【0064】
さらに、前記傾斜面s4の径が、点p1に近いほど大きくされるので、スタンパ29に力が加わっても、スタンパ29がインナホルダ60の前端側から脱落することがない。したがって、スタンパ29を確実に保持することができる。この場合、前記突起部62によって、スタンパ29がインナホルダ60から抜けるのを防止する抜け防止部が構成される。
【0065】
なお、スタンパが弾性変形させられる場合には、スタンパがインナホルダによって強固に保持されず、スタンパが径方向において偏心することがあるのに対して、本実施の形態においては、前記スタンパ29が塑性変形させられ、スタンパ29がインナホルダ60によって強固に保持されるので、スタンパ29が径方向において偏心することはない。したがって、ディスク基板の中心と樹脂に転写された微細パターンから成る情報面の中心との間にずれが発生することがなく、ディスク基板の品質を一層向上させることができる。
【0066】
また、前記スタンパ29を形成するに当たり、純粋ニッケル製の円板に、プレス加工を行うことによってパンチ穴が形成されるようになっている。このとき、パンチ穴の精度が高くなくても、スタンパ29を鏡面盤16に取り付ける際に、情報面に基づいてスタンパ29の鏡面盤16に対する位置決めを行い、その状態でインナホルダ60の圧入を行うことによって、スタンパ29の位置決め精度を高くすることができる。したがって、スタンパ29が径方向において偏心することがなくなる。
【0067】
なお、本実施の形態においては、前記スタンパ29及びインナホルダ60のうちのスタンパ29だけを塑性変形させるようになっているが、該スタンパ29を塑性変形させることなく、インナホルダ60を塑性変形させて圧入を行うこともできる。その場合、インナホルダ60は、スタンパ29と接触し、塑性変形する表面の近傍の部分を交換部品とし、該交換部品を他の部分に対して着脱自在に配設することによって構成される。したがって、スタンパ29を円滑に圧入することができない場合に、高価なスタンパ29を交換することなく、安価なインナホルダ60の前記交換部品だけを交換して圧入を可能にすることができる。さらに、スタンパ29及びインナホルダ60を塑性変形させて圧入を行うこともできる。
【0068】
ところで、例えば、完成品としてのディスクがブルーレイディスクである場合、情報面と対向させて、ディスク基板上に反射膜、カバー層、ハードコート層等が積層され、カバー層、ハードコート層等は、紫外線(UV)硬化樹脂をスピンコート法によって塗布することにより形成される。
【0069】
このとき、本実施の形態においては、前述されたように、ディスク基板にバリが発生するのが防止され、しかも、スタンパ29と突起部62との間に形成される段差を小さくすることができるので、スピンコート法によって紫外線硬化樹脂をディスク基板、カバー層等に塗布する際に、前記バリ、段差等によって空気がディスク基板と紫外線硬化樹脂との間、カバー層と紫外線硬化樹脂との間等に巻き込まれることがなくなる。したがって、紫外線硬化樹脂をディスク基板、カバー層等に安定させて塗布することができるので、ディスク基板の外観が悪くなるのを防止することができる。
【0070】
次に、前記圧入変形部分の形状を異ならせた本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0071】
図5は本発明の第2の実施の形態におけるディスク成形用金型の要部を示す断面図である。
【0072】
この場合、張出部としての環状の突起部62は、インナホルダ本体61の平坦な前端面s11の外周縁から斜め後方に向けて、かつ、径方向外方に向けて直線状に形成された傾斜面s12、該傾斜面s12の外周縁から後方に向けて形成された筒状面s3、及び該筒状面s3より後方において、斜め後方に向けて、かつ、径方向内方に向けて湾曲させて形成された円錐状の傾斜面s4を備える。なお、前記傾斜面s12によってテーパ部が構成される。
【0073】
本実施の形態においては、突起部62が中央に近いほど厚くされるので、突起部62の強度を大きくすることができる。したがって、インナホルダ60の耐久性を向上させることができる。
【0074】
次に、前記圧入変形部分の形状を更に異ならせた本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0075】
図6は本発明の第3の実施の形態におけるディスク成形用金型の要部を示す断面図である。
【0076】
この場合、張出部としての環状の突起部62は、インナホルダ本体61の平坦な前端面s1の外周縁から径方向外方に向けて直線状に形成され、平坦部を構成する前端面s2、該前端面s2の外周縁から後方に向けて形成された筒状面s3、該筒状面s3より後方において、斜め後方に向けて、かつ、径方向内方に向けて湾曲させて形成された円錐状の傾斜面s4、及び前記筒状面s3の後端と傾斜面s4の前端との間に、径方向内方に向けて形成された環状の平面s7を備える。
【0077】
そして、前記傾斜面s4は、前記平面s7の内周縁の点p3とインナホルダ本体61の筒状面s5の前端の点p2との間において、所定の曲線を描くように形成され、インナホルダ60の中心からの距離を表す径が、連続的に変化させられ、点p3に近いほど大きく、点p2に近いほど小さくされる。なお、傾斜面s4は、点p3における接線がスタンパ29の前端面とほぼ一致するように、かつ、点p2における接線がインナホルダ本体61の筒状面s5と一致するように、所定の曲率半径で形成される。
【0078】
また、点p1において、筒状面s3と平面s7とは、90〔°〕の角度で交差させられる。
【0079】
本実施の形態においては、インナホルダ60がスタンパ29の穴に圧入されたときに、スタンパ29が塑性変形させられると、わずかな量だけ筒状面s3がスタンパ29内に進入するが、これに伴って、スタンパ29内において、筒状面s3と平面s7とが、90〔°〕の角度で交差することになる。
【0080】
したがって、傾斜面s4と穴の内周面s6’との間に、わずかな隙間が形成されても、筒状面s3と平面s7とが交差する部分で樹脂の進入が阻止されるので、ディスク基板にバリが発生するのを防止することができる。その結果、ディスク基板の品質を向上させることができる。
【0081】
本実施の形態においては、前端面s1の外周縁から径方向外方に向けて、平坦部を構成する前端面s2が、該前端面s2の外周縁から後方に向けて筒状面s3が形成されるようになっているが、第2の実施の形態と同様に、前端面s11と筒状面s13との間に傾斜面s12を形成することもできる。
【0082】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0083】
12、32 金型組立体
16、36 鏡面盤
29 スタンパ
60 インナホルダ
61 インナホルダ本体
62 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)鏡面盤と、
(b)中央に穴が形成され、前記鏡面盤の前端面に取り付けられるスタンパと、
(c)前記穴への圧入が行われることによって前記スタンパを保持するインナホルダとを有するとともに、
(d)該インナホルダは、インナホルダ本体、及び該インナホルダ本体の前端の外周縁に、径方向外方に向けて突出させて、インナホルダと一体に形成された張出部を備え、
(e)前記スタンパ及びインナホルダのうちの少なくとも一方は、前記圧入が行われるのに伴って、降伏点を超える応力によって塑性変形させられることを特徴とするディスク成形用金型。
【請求項2】
前記圧入が行われるのに伴って前記スタンパが塑性変形させられる請求項1に記載のディスク成形用金型。
【請求項3】
前記張出部は、外周縁において軸方向に延びる筒状面、及び該筒状面より後方において、斜め後方に向けて、かつ、径方向内方に向けて形成された傾斜面を備える請求項1に記載のディスク成形用金型。
【請求項4】
前記傾斜面は、前記筒状面の後端から斜め後方に向けて、かつ、径方向内方に向けて形成される請求項3に記載のディスク成形用金型。
【請求項5】
前記筒状面の後端と、前記傾斜面の前端との間に、径方向内方に向けて環状の平面が形成される請求項3に記載のディスク成形用金型。
【請求項6】
(a)インナホルダ本体と、
(b)該インナホルダ本体の前端の外周縁に、径方向外方に向けて突出させてインナホルダと一体に形成された張出部とを有するとともに、
(c)該張出部は、外周縁において軸方向に延びる筒状面、及び該筒状面より後方において、斜め後方に向けて、かつ、径方向内方に向けて形成された傾斜面を備えることを特徴とするインナホルダ。
【請求項7】
前記張出部の前端面によってテーパ部が構成される請求項6に記載のインナホルダ。
【請求項8】
前記張出部の前端面によって平坦部が構成される請求項6に記載のインナホルダ。
【請求項9】
鏡面盤、中央に穴が形成され、前記鏡面盤の前端面に取り付けられるスタンパ、及び前記スタンパを保持するインナホルダを有するとともに、該インナホルダは、インナホルダ本体、及び該インナホルダ本体の前端の外周縁に、径方向外方に向けて突出させてインナホルダと一体に形成された張出部を備えるディスク成形用金型の製造方法において、
(a)前記インナホルダが前記スタンパの穴に圧入するとともに、
(b)前記スタンパ及びインナホルダのうちの少なくとも一方は、前記インナホルダのスタンパの穴への圧入が行われるのに伴って、降伏点を超える応力によって塑性変形させられることを特徴とするディスク成形用金型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−284933(P2010−284933A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142022(P2009−142022)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000147350)株式会社精工技研 (154)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】