説明

ディスプレイ用複合フィルタ及び画像表示装置

【課題】赤外線と電磁波を遮蔽するディスプレイ用複合フィルタにて、可視光の透過率低下を抑制しつつ効率的に近赤外線を遮蔽し、電磁波も遮蔽する。
【解決手段】ディスプレイ用複合フィルタ10は、観察者V側から、可視光は透過し近赤外線Irを反射する近赤外線反射層1、可視光は透過し近赤外線を吸収する近赤外線吸収層2を有し、電磁波遮蔽層3を、近赤外線反射層と近赤外線吸収層間、近赤外線吸収層よりも近赤外線反射層から遠い側、又はこれら両方に、空気層を近赤外線反射層間に設けて配置する。電磁波遮蔽層は透明基材4と導電性凸状パターン層5からなり、導電性凸状パターン層は導電性粒子とバインダ樹脂を含む導電パターン層6と、端角部が突出し中央部が凹陥した金属層7と、金属針状体が突出した黒化層8とからなる。画像表示装置は、このフィルタをプラズマディスプレイパネルの前面に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスプレイパネルの前面に配置して、ディスプレイパネルから出る近赤外線と電磁波を遮蔽する複合フィルタに関し、特に可視光線の透過率低下を抑制しつつ効率的に近赤外線を遮蔽し、なおかつ電磁波も遮蔽できる複合フィルタに関する。また、当該複合フィルタを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(以後PDPとも言う)などの各種薄型ディスプレイ(画像表示装置)が普及してきており、また、最近では低消費電力化の流れが強まっている。
また、プラズマディスプレイは、ディスプレイパネルの前面(画面)に光学フィルタを配置し、光学フィルタにより、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能、ネオン光遮蔽機能、調色機能、コントラスト向上機能、反射防止機能等の光学フィルタ機能、及び必要に応じて更に、帯電防止機能、耐衝撃機能などの各種機能を実現している。これら機能のうち、近赤外線をカットする近赤外線遮蔽機能を実現する光学フィルタでは、リモートコントローラが使用する波長域と干渉する近赤外線領域の光をカットする近赤外線吸収色素(以下、略して、NIRA色素(Near InfraRed Absoubing)色素とも言う)が広く使われている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に記載の近赤外線遮蔽フィルタは、樹脂シート中に、フタロシアニン系化合物、ベンゾピラン系化合物、ジイモニウム系化合物、フッ化アンチモン系有機化合物等の近外線吸収色素について、1種単独で用いるのでなく、2種以上を用いている。これにより、吸収帯域を広くして、PDPの前面から放出される近赤外線の波長帯域800〜1100nmの一部又は全部の波長域に於いて近赤外線を吸収させている。
【0004】
また、近外線吸収色素(NIRA色素)を用いて近赤外線を吸収するのではなく、ディスプレイパネルから放出された近赤外線を、前面に設けたフィルタで反射して元の方向に戻すことで観察者に届く近赤外線をカットする、近赤外線遮蔽フィルタも提案されている(特許文献3)。特許文献3記載の近赤外線遮蔽フィルタは、コレステリック液晶を固化させたコレステリック液晶固化層が、コレステリック液晶の螺旋軸の回転方向によって、右(又は左)円偏光を反射する一方、回転方向が逆向きの左(又は右)円偏光は透過する性質を利用することで、近赤外線を元の方向に反射するものである。
【0005】
なお、PDPに対する電磁波遮蔽機能として、銀やITO(インジウム錫酸化物)などの導電材料を多層スパッタした導電体層を設けた部材を使う場合は、導電体層に近赤外線吸収機能を持たせることが一般的である。しかしながら、スパッタ形成した導電体層の場合は、電磁波遮蔽性能が通常用いられている金属メッシュによる導電体層に比べて劣るため、適用できる機種が限られるという問題がある。そこで、電磁波遮蔽性能を上げるためには、スパッタによる薄膜積層回数を増やせばよいが、その場合、可視光領域の透過率も低下し、且つ製造コストも高くなり、実用的ではない。
【0006】
したがって、電磁波を効果的に遮蔽するには、スパッタ形成した導電体層ではなく、銅箔をエッチング形成してメッシュ状とした金属パターン層などが通常は使用されている。また、この様な金属パターン層はエッチングによる為、高価となることから、安価な印刷法で形成した導電パターン層が注目されている。例えば、本出願人が提案した凹版印刷法である(特許文献4)。
特許文献4の印刷法では、透明基材上に施した流動状態のままのプライマ層(プライマ流動層)上に、銀などの金属粒子とバインダ樹脂からなる導電性組成物のインキを凹版印刷する。その際に、凹版の版面上に透明基材が存在している間に、版面と透明基材間にあるプライマ流動層を紫外線照射などで硬化させてプライマ層として固化形成させた後に透明基材を凹版から離版して、透明基材上にプライマ層を介してパターン状の導電パターン層を印刷形成する。しかも、このプライマ層は流動状態のときに、版から被印刷物へのインキの転移を促進する作用、言い換えると凹版の版面凹部内に充填されたインキを引き抜いて被印刷物(透明基材)に移す作用を有する結果、従来では不可能であった様な細く且つ精細なパターン形成が可能となる。このため、この印刷法は「引抜プライマ方式凹版印刷法」と呼ぶことができる印刷法である。
また、この様にして印刷形成した導電パターン層に、さらに金属めっき層、黒化層を設けることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3457132号公報
【特許文献2】特許第3689998号公報
【特許文献3】特開2000−28827号公報
【特許文献4】特許第4436441号公報(国際公開第2008/149969号のパンフレット)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1、特許文献2に記載の様な、NIRA色素を用いる近赤外線遮蔽フィルタは、該NIRA色素が可視光領域に於いて完全に透明ではなく、可視光領域にも吸収がある。これは、実在のNIRA色素の中には、可視光線領域の長波長端側(大体680〜780nm帯域)と近赤外線領域の短波長端側(大体780〜900nm帯域)との境界(780nm)で透過率が急峻に立ち上がる(乃至は吸収率が急峻に降下する)理想的な特性の透過スペクトル(乃至は吸収スペクトル)を持つものがない為である。このため、吸収すべき近赤外線の帯域の最低波長近傍(780nm近傍)が、可視光領域の最大波長近傍(780nm近傍)と近接する為、近赤外線領域のカット率を高く(透過率を低く)しようとすると、これに合わせて可視光領域の一部で透過率も下がってしまい、表示画像の明るさが低下したり、画像の色相が設計値からシフトしたりするといった、問題がある。また、画像の明るさ低下、画像の色相シフトを防ごうとすると、今度は、近赤外線領域の透過率が上がって吸収率が低下する問題がある。しかも、可視光領域の透過率が高いNIRA色素は限られており、価格や信頼性などの点で未だ課題が多い。そのため、NIRA色素を用いて近赤外線を吸収するタイプの近赤外線遮蔽フィルタは、ディスプレイパネルの発光を効率良く利用できているとは言いがたく、低消費電力化の観点に於いて発光エネルギーが無駄に使われていた。
【0009】
一方、特許文献3に記載の様な、コレステリック液晶固化層を用いた近赤外線遮蔽フィルタは、円偏光の特性によって選択反射する波長帯域がNIRA色素に比べて狭い為に、NIRA色素を複数種用いる場合よりも、より多くの種類の、選択反射する波長帯域を変えた複数種類のコレステリック液晶固化層を積層する必要がある。従って、近赤外線遮蔽フィルタの全体の厚みが厚くなり嵩高となり、また、積層工程も増える為、更にはコレステリック液晶自体の単価が高い為、コレステリック液晶固化層によるフィルタはNIRA色素によるフィルタよりも高価となる問題もある。
【0010】
そこで、この点を改善する為に、本出願人は、本願出願時に未公開である特願2009−260920号にて、コレステリック液晶固化層による近赤外線反射層と、NIRA色素による近赤外線吸収層とを組み合わせたディスプレイ用複合フィルタを提案した。ただ、特に実用性の高い、コレステリック液晶を用いた近赤外線反射層は、右又は左の円偏光の一方のみを反射し他方を透過する為に、原理上、近赤外線の遮蔽率は最大でも50%である。この為、先ずは近赤外線吸収層で吸収させているとは言え、近赤外線吸収層を透過した減衰した近赤外線については、最大でも50%しか遮蔽できず、より効率的に近赤外線を遮蔽できるディスプレイ用複合フィルタが望まれた。
【0011】
すなわち、本発明の課題は、可視光領域、特にその長波長端側での透過率の低下を抑制しつつ且つ効率的に近赤外線領域、特にその短波長端側を遮蔽できる近赤外線遮蔽性能と、電磁波を遮蔽できる電磁波遮蔽性能との両方の性能を有する、ディスプレイ用複合フィルタを提供することである。また、この様なディスプレイ用複合フィルタを用いた画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明では、ディスプレイ用複合フィルタの構成を次の様にした。
(1)ディスプレイパネルの前面に配置してディスプレイパネルから放出される近赤外線と電磁波を遮蔽するディスプレイ用複合フィルタに於いて、
観察者側から順に、可視光線は透過して近赤外線を反射する近赤外線反射層と、可視光線は透過して近赤外線を吸収する近赤外線吸収層とを有し、
さらに、電磁波遮蔽層を、前記近赤外線反射層と前記近赤外線吸収層との間、前記近赤外線吸収層よりも前記近赤外線反射層から遠い側、またはこれら両方の位置に、該電磁波遮蔽層と前記近赤外線反射層との間に空気層を介して有し、
かつ、該電磁波遮蔽層は、透明基材と該透明基材上にパターン状に形成された導電性凸状パターン層からなり、該導電性凸状パターン層は、導電性粒子とバインダ樹脂とを含む導電性組成物層からなる導電パターン層と、該導電パターン層の表面に形成され端角部が突出し中央部が凹陥した金属層と、該金属層の表面に形成され金属針状体からなる黒化層とを有する、構成とした。
(2)また本発明は上記構成に於いて、更に上記電磁波遮蔽層の金属層が溝状凹部を有する構成とした。
【0013】
また、本発明の画像表示装置の構成は、上記いずれかのディスプレイ用複合フィルタを、プラズマディスプレイパネルの前面に配置した構成とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可視光領域での透過率の低下を抑制しつつ極めて効率的に近赤外線を遮蔽できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるディスプレイ用複合フィルタの一形態とそのメカニズムを説明する断面図。
【図2】本発明によるディスプレイ用複合フィルタの別の一形態を例示する断面図。
【図3】近赤外線反射層の透過率と反射率のスペクトルの一例を示す図。
【図4A】導電性凸状パターン層を黒化層側から見た走査型電子顕微鏡写真(図4A〜図4Dの順に高倍率化)。
【図4B】導電性凸状パターン層を黒化層側から見た走査型電子顕微鏡写真。
【図4C】導電性凸状パターン層を黒化層側から見た走査型電子顕微鏡写真。
【図4D】導電性凸状パターン層を黒化層側から見た走査型電子顕微鏡写真。
【図5】透明基材と導電パターン層間にプライマ層を有する形態を例示する断面図。
【図6】本発明による画像表示装置の一形態を例示する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
《要旨》
本発明のディスプレイ用複合フィルタは、図1にその一実施形態を例示するディスプレイ用複合フィルタ10で示せば、観察者V側から順に、可視光線は透過し近赤外線を反射する近赤外線反射層1と、可視光線は透過して近赤外線を吸収する近赤外線吸収層2とをこの順に有する。さらに、同図の形態では、電磁波遮蔽層3を前記近赤外線反射層1と前記近赤外線吸収層2との間に有する。
該電磁波遮蔽層3は、透明基材4と該透明基材4上にパターン状に形成された導電性凸状パターン層5からなる。該導電性凸状パターン層5は、透明基材4上にパターン状に形成された、導電性粒子6aとバインダ樹脂6bとを含む導電性組成物からなる導電パターン層6と、該導電パターン層6頂部表面の両側部に形成され端角部が突出し中央部が凹陥した金属層7と、該金属層7の表面に形成され金属針状体からなる黒化層8とから構成される。透明基材4と導電性凸状パターン層5からなる該電磁波遮蔽層3は、該導電性凸状パターン層5を近赤外線反射層1に向けて配置される。
近赤外線反射層1は、右円偏光又は左円偏光の一方の円偏光を選択的に反射し他方の円偏光を透過する層を用いた場合であり、さらに同図では右円偏光Rを選択的に反射し他方の左円偏光Lを透過する層を用いた場合である。
【0018】
この結果、ディスプレイパネル用複合フィルタ10に入射した光のうち近赤外線は、近赤外線吸収層2で先ず吸収され、近赤外線吸収層2で吸収しきれず透過し電磁波遮蔽層3を透過し近赤外線反射層1に到達した分は、その半分が反射し残りの半分が観察者V側に透過する。また、近赤外線反射層1でディスプレイパネル20(図6参照)側に向かって反射した近赤外線Rも、電磁波遮蔽層3の導電性凸状パターン層5の黒化層8が有する金属針状体で減衰される。金属針状体を有する電磁波遮蔽層3の存在によって、近赤外線反射層1で反射した近赤外線がディスプレイパネル等で反射して、再度、近赤外線反射層1に、円偏光方向が逆転するなど透過可能な光線として戻って来るのを減らせるため、近赤外線吸収層2と近赤外線反射層1との2層だけの場合に比較して、より近赤外線遮蔽性能が向上する。
このため、可視光線の透過率低下を抑制しつつ効率的に近赤外線を遮蔽することができる。従って、可視光線の透過率低下によって画面が暗くなるのを防げることになる。また、同じ明るさであれば、低消費電力にできることになる。また、電磁波も同時に遮蔽することができる。
【0019】
なお、「可視光線は透過し近赤外線を反射する」、「可視光線は透過し近赤外線を吸収する」とは、可視光線と近赤外線とに対する吸収・反射特性を相対的に示したものであり、必ずしも可視光線は全て透過し近赤外線は全て反射乃至は吸収することを意味するものではない。
【0020】
なお、図1では、近赤外線反射層1、近赤外線吸収層2、及び電磁波遮蔽層3の各層の間は、間隔を空けて描いてあり、これらの層間には、空気層Gが存在する。空気層Gを設けることによって、電磁波遮蔽層3を近赤外線反射層1からその分、離せることが出来る。離すことによって、近赤外線をより多く遮蔽できる様になる。その理由は次のとおりである。
電磁波遮蔽層3の導電性凸状パターン層5は可視光及び近赤外線に対して不透明な層であり、ディスプレイパネル用複合フィルタ10に対して、そのフィルタ面の法線に垂直に入射した近赤外線は、導電性凸状パターン層5の図面直上に位置する部分の近赤外線反射層1は、導電性凸状パターン層5が邪魔になって、その影の部分であるから到達しない。したがって、近赤外線反射層1の反射光が、導電性凸状パターン層5に当たるのは、フィルタ面に斜めに入射した近赤外線が主体となる。斜め入射した近赤外線が導電性凸状パターン層5に当たる量を増やすには、近赤外線反射層1と電磁波遮蔽層3との距離が大きい方がよいからである。
【0021】
そして、本発明の画像表示装置100は、図6の様に、上記の様なディスプレイ用赤外線遮蔽フィルタ10をディスプレイパネル20としてのプラズマディスプレイパネルの前面に配置した構成とする。
その結果、ディスプレイパネル20から近赤外線が観察者側に放出されても、画像を構成する可視光線の透過率低下を抑制しつつ効率的に近赤外線を遮蔽することができる。従って、可視光線の透過率低下によって画面が暗くなるのを防げることになる。また、同じ明るさであれば、低消費電力にできることになる。また、電磁波も同時に遮蔽することができる。
【0022】
〔電磁波遮蔽層の位置〕
図1に例示の実施形態では、特に、近赤外線反射層1と電磁波遮蔽層3との間での、近赤外線の反射、減衰のメカニズムを判り易くする意味から、電磁波遮蔽層3を近赤外線反射層1に面する位置となる様に、近赤外線反射層1と近赤外線吸収層2との間に配置してある。
図2に例示の実施形態では、電磁波遮蔽層3の位置が図1とは異なる。電磁波遮蔽層3の位置は、より好ましく、図2に例示する実施形態の様に、近赤外線吸収層2は近赤外線反射層1と電磁波遮蔽層3との間に配置して、電磁波遮蔽層3は、なるべく近赤外線反射層1から遠ざけた位置に配置するのが望ましい。
これらの形態の様に、電磁波遮蔽層3は、近赤外線反射層1と近赤外線吸収層2との間、又は、近赤外線吸収層2よりも近赤外線反射層1から遠い側に配置する。さらに、電磁波遮蔽層3は、これらの何れかの位置に少なくとも配置する必要があるが、これらの両方の位置に配置しても良い。両方に配置することで、より近赤外線遮蔽効果を高め、また電磁波遮蔽性能を高めることも可能となる。
なお、図2の形態では、電磁波遮蔽層3は、それを構成する透明基材4及び導電性凸状パターン層5までは描いていないが、図2の様に、近赤外線反射層1に対して電磁波遮蔽層3を、近赤外線吸収層2よりも離した形態においても、電磁波遮蔽層3はその導電性凸状パターン層5を近赤外線反射層1の方に向けて配置する。
【0023】
〔メカニズム〕
図1を用いて、近赤外線が如何に効率的に遮蔽されるのかを説明する。図1では、近赤外線反射層1は、右円偏光又は左円偏光の一方の円偏光を選択的に反射し他方の円偏光を透過する層の場合であり、さらに、同図では、右円偏光Rを反射し、左円偏光Lを透過する場合である。旋回方向が光の進行方向に向かって右回り(時計回り)の円偏光が右円偏光Rで、この逆に旋回方向が光の進行方向に向かって左回り(反時計回り)の円偏光が左円偏光Lである。近赤外線反射層1で反射前の偏光分離されていない近赤外線は、左円偏光Lと右円偏光Rとが等量混合された光と捉えることができるので、円偏光の旋回方向として「L+R」で示す。
なお、近赤外線反射層1としては、その反射光が右円偏光Rとなる層で形成するか、逆に左円偏光Lとなる層で形成するかは、基本的には何れでも良い。
【0024】
ディスプレイパネルから放射された近赤外線Ir(L+R)は、先ずは近赤外線吸収層2で吸収される。近赤外線吸収層2のみの近赤外線吸収フィルタでは、この段階での性能しか得られない。しかし、本発明では、近赤外線吸収層2を透過した近赤外線もそのまま観察者V側に到達することはない。すなわち、近赤外線吸収層2で吸収しきれずに近赤外線吸収層2を透過した近赤外線は、電磁波遮蔽層3の透明基材4を透過し、近赤外線反射層1に達する。近赤外線反射層1に到達した近赤外線Irのうち、右円偏光Rの成分光が近赤外線反射層1で反射し、左円変更Lの成分光が近赤外線反射層1を透過する。従って、近赤外線反射層1まで到達した近赤外線Irは最大50%が反射し残り50%の近赤外線が観察者Vの目に届く。しがたって、近赤外線吸収層2だけの場合に比べて、その観察者V側に近赤外線反射層1を設けた構成のフィルタとすることで、更に、可視光線の透過率低下を抑制しつつ効率的に近赤外線を遮蔽することができることになる。しかも、近赤外線吸収層2と共に近赤外線反射層1を採用することで、近赤外線吸収層2の吸収波長帯域と、近赤外線反射層1の反射波長帯域とを適切に組み合わせることが可能となる。その結果、可視光領域、特にその長波長端側での透過率の低下を抑制しつつ且つ効率的に近赤外線領域、特にその短波長端側を遮蔽できる、可視光透過性能と近赤外線遮蔽性能とを両立できることになる。
【0025】
さらに、近赤外線反射層1で反射した右円偏光Rの近赤外線が導電性凸状パターン層5に当たると、その表面の多数の金属針状体8の隙間に入り込みそこで散乱して減衰する。この導電性凸状パターン層5が存在しなければ、近赤外線反射層1で反射した右円偏光Rの近赤外線は、ディスプレイパネル面等で正反射して円偏光方向が逆転した左円偏光Lとなって再度観察者Vの方向に進み得る。回転方向が逆転した左円偏光Lは、近赤外線反射層1を透過可能である。ただし、この場合でも、近赤外線吸収層2を再度通過するので、近赤外線吸収層2で減衰して近赤外線反射層1に再度到達することになるので、その分、観察者Vに到達する近赤外線は減らせる。しかし、上記したように、特定の電磁波遮蔽層3を設けることによって、この様な近赤外線も減らせることになる。この結果、可視光線の透過率低下を抑制しつつ効率的に近赤外線を遮蔽することが可能とる。また、電磁波も同時に遮蔽することができる。
【0026】
〔空気層〕
図1及び図2では、近赤外線反射層1、近赤外線吸収層2、及び電磁波遮蔽層3の各層の間は、間隔を空けて描いてあり、それは、これら図面は、これら3層の相対的位置関係を主体に示す図面だからである。これら3層の層間には、空気層Gを存在させることができる。空気層Gを設けることによって、電磁波遮蔽層3を近赤外線反射層1からその分、離せることが可能となる。離すことによって、近赤外線をより多く遮蔽できる様になる。
但し、空気層Gは、電磁波遮蔽層3での近赤外線の吸収作用を高める意味で、電磁波遮蔽層3の導電性凸状パターン層5側の面には少なくとも存在することが好ましい。また、空気層Gの存在により、導電性凸状パターン層5の表面の黒化層8の金属針状体の空気層との界面での屈折率差(密度差)の増大により、近赤外線吸収機能が増大する。
ただ、空気層Gが、前記電磁波遮蔽層3の導電性凸状パターン層5側も含めて、近赤外線反射層1と電磁波遮蔽層3との間に全く存在しなくても、電磁波遮蔽層3の導電性凸状パターン層5の表面による近赤外線吸収機能は相応の機能を発する。このため、空気層Gが近赤外線反射層1と電磁波遮蔽層3との間に全く存在せず、空気層Gの代わりに透明な樹脂層を介在させた形態もあり得る。このとき、該樹脂層として、近赤外線吸収層2を用いることも可能である。例えば、図2に例示の様に、観察者側から順に、近赤外線反射層1、近赤外線吸収層2、電磁波遮蔽層3を有する層的位置関係で、これら各層間には空気層Gが存在しない形態、或いは近赤外線吸収層2と電磁波遮蔽層3との間に空気層Gが存在しない形態である。
【0027】
以下、更に本発明を、各層、各部材毎に詳述する。
【0028】
A.ディスプレイ用近赤外線遮蔽フィルタ:
《近赤外線反射層》
近赤外線反射層1には、可視光を透過するが近赤外線は反射する層であれば特に制限はなく、公知の層を利用できる。例えば、近赤外線反射層には、多層干渉膜、コレステリック液晶固化層、ワイヤグリッド偏光分離膜などを用いることができる。
【0029】
多層干渉膜からなる偏光分離膜の例としては、例えば、特許第3709402号公報の〔0015〕〜〔0020〕、及び図4等に開示されるような物である。これは、所定の波長領域の光に於ける屈折率が表裏面と平行な面内で異方性を有し、或る方向で最大屈折率を有し、これと直交する方向で最小屈折率を有する樹脂Aと、所定の波長領域の光に於ける屈折率が表裏面内の方向如何によらず等方的な樹脂層Bとを交互に、A/B/A/B/A/B/A/Bの如く100〜500層程度で多層積層したものである。ここで、樹脂Aとしては、例えば、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。樹脂Bとしては、例えば、エチレングリコール―ナフタレンジカルボン酸―テレフタル酸共重合体等が挙げられる。
そして、A層の最小屈折率値をB層の屈折率値と合致させ場合、該多層干渉膜に入射する光のうち、A層の最小屈折率を示す面内方向(進相軸方向)に振動する(電場を持つ)偏光成分は該多層干渉膜を透過する。一方、A層の最大屈折率を示す面内方向(遅相軸方向)に振動する(電場を持つ)偏光成分は該多層干渉膜で反射される。
【0030】
ワイヤグリッド偏光分離膜の例としては、例えば、特開昭58−42003号公報、特開昭63−168626号公報、特開2006―330616号公報、米国特許第7158302号公報等に開示されるような物である。これは、所定の波長領域の光の波長よりも長さが長く、且つ所定の波長領域の光の波長よりも幅が狭い金属線条を、多数、間に空隙を介して、平行に配列した構造からなる。通常、硝子板、樹脂シート等の透明基材上に該金属線条群の配列が積層されてなる。
そして、該ワイヤグリッド偏光分離膜に入射する光のうち、該金属線条の長手方向に振動する(電場を持つ)偏光成分は該ワイヤグリッド偏光分離膜で反射する。一方、該金属線条の幅方向に振動する(電場を持つ)偏光成分は該ワイヤグリッド偏光分離膜を透過する。
【0031】
コレステリック液晶固化層の例としては、例えば、特開2002−357717号公報等に開示されるような物である。これは、コレステリック液晶層を架橋反応、冷却固化等によって固化させた層から成る。コレステリック液晶層は、該液晶分子の分子軸の配向方向が、該層の表裏面に平行な面内の特定方向を向き、しかも該層の厚み方向の裏面から表面に進むに従って、該液晶分子の配向方向が連続的に一方向に回転する結果、厚み方向の裏面から表面に進むに従って、該液晶分子軸が螺旋階段の踏板の如く配向した構造(helix(立体螺旋)構造)を有する。そして、該コレステリック液晶固化層は、この様な螺旋的分子配向状態を維持したままで固化されている。この様なコレステリック液晶固化層は、該層の表(乃至裏)面に入射した光のうち、該液晶分子軸螺旋の回転方向と同じ向きに回転する円偏光成分は選択的に反射される。一方、該液晶分子軸螺旋の回転方向と逆きに回転する円偏光成分は選択的に透過する。
この様な円偏光の選択反射の反射率は、次の〔式1〕の波長λ0で最大値を示す。
λ0=nav・p 〔式1〕
なお、ここで、pは螺旋ピッチ(Herical Pitch;ヘリカルピッチとも言う)、navは螺旋軸に直交する平面内の平均屈折率である。これを選択反射波長とも呼称する。
このときの円偏光選択反射の生じる波長帯域幅Δλは、次の〔式2〕で示される。
Δλ=Δn・p 〔式2〕
なお、ここで、Δn=n(平行)−n(直角)であり、n(平行)は螺旋軸に直交する面内における最大の屈折率、n(直角)は螺旋軸に平行な面内における最小の屈折率である。
【0032】
なお、以上で例示の文献自体は、可視光領域中に於いて所定の波長帯域幅内での偏光分離層を開示する。一方、本発明の近赤外線反射層に、これらの技術を適用する際には、これら文献開示の各形態の偏光分離層に於いて、偏光分離の生じる波長を決定する諸元(パラメータ等)を調整して、特定の偏光の選択反射が生じる波長帯域を所望の近赤外線帯域に設定することによって、近赤外線選択反射層として機能する。これらの近赤外線選択反射層のうち何を用いるかは要求物性やコスト等を含めて総合的に選択すれば良いが、なかでも、コレステリック液晶固化層は多層干渉膜やワイヤグリッド偏光膜に比較してコスト的に有利である。以下、更にコレステリック液晶固化層について詳述する。
【0033】
〔コレステリック液晶固化層〕
コレステリック液晶固化層は、コレステリック液晶を架橋反応、重合反応等によって固化させて液晶状態を固定した層であり、前記のように、該層の一方の面から入射する光線のうち、右円偏光成分(又は左円偏光成分)を選択的に反射し、残りの成分である円偏光の向きが逆向きの左円偏光成分(又は右円偏光成分)を透過する光学特性を有する。この様な光学特性は、層がコレステリック構造を有し、該コレステリック構造の螺旋構造に於ける旋回方向を適宜設定することで、その旋回方向と同一の旋光方向を有する円偏光が選択的に反射されるので、旋回方向の設定によって反射する光線を右円偏光又は左円偏光にすることができることが知られている。反射光線の波長、つまり選択反射波長は、螺旋構造のヘリカルピッチに対応し、また、反射光線の選択反射波長に対するバンド幅は層の複屈折率が関係する。この為、コレステリック液晶固化層は一般に狭い波長域の波長帯域(バンド)幅で近赤外線を反射し、また透過する。また、選択反射波長を中心としたバンド幅の範囲外の光線は、反射せずに透過する。
通常のコレステリック液晶を用いた場合、近赤外線波長域に於いて、波長帯域幅Δλは50〜200nm程度とすることが出来る。
【0034】
従って、コレステリック液晶固化層のみを用いて、ディスプレイから放出される近赤外線をカットしようとすると、異なる複数の選択反射波長に対応して、ヘリカルピッチの異なるコレステリック液晶固化層を複数層、重ねて使用しないと実用的でないことは、既に前記〔発明が解決しようとする課題〕で述べた通りである。しかし、本発明では、このコレステリック液晶固化層による近赤外線反射層と近赤外線吸収層の両方の層を所定の配置で用いることで、可視光線は透過しつつ効率的に近赤外線を遮蔽したものであるので、例えば、近赤外線吸収層と近赤外線反射層の両方で最終的な遮蔽性能を出せればよいことになる。
また、バンド幅が狭く立上がり(乃至立下り)が急峻な光学特性を利用して、可視光線帯域の上限波長780nmに近い780〜880nmの帯域の近赤外線領域に選択反射の波長帯域を持ってくれば、可視光領域での(反射による)透過率低下も効率的に回避できることになる。
【0035】
ここで、図3は、コレステリック液晶固化層を用いた近赤外線反射層の反射スペトクル及び透過スペクトルの一例を示す図であり、同図ではλ0=1000nmを中心とした反射帯域幅Δλ=55nm(反射率の半値幅として定義、935〜990nmの波長域)の反射スペクトル及びこれに対応する透過スペクトルを示す。
なお、このスペクトルを示す近赤外線反射層はコレステリック液晶固化層で、実施例1の近赤外線反射層1に相当するものである。
【0036】
ところで、選択反射波長は、要求性能に応じて設定すれば良く、特に限定されるものではないが、リモートコントローラの誤動作を効率的に抑制する観点から、リモートコントローラの受光器の感度特性を考慮するのが好ましい。従って、選択反射波長は800〜1100nmの範囲とするのが好ましい。また、近赤外線反射層に於ける、選択反射波長に於ける光線(近赤外線)の反射率は、なるべく大きい方が好ましいが、円偏光の選択反射特性を利用する点では、右又は左円偏光の一方が反射し他方が透過するのであるから、理想的には半分の50%が最大であるので(この最大値を更に挙げられる点については更に後で詳述する)、40%以上あることが好ましい。
【0037】
なお、コレステリック液晶固化層に用いるコレステリック液晶材料としては、公知のものを適宜使用すれば良く、例えば、重合性モノマー化合物、重合性オリゴマー化合物等の重合性液晶化合物、液晶ポリマーなどの液晶化合物を使用することができる。なお、重合性液晶化合物に於いて重合性を発現する重合性官能基としては、代表的にはアクリレート基、つまり、アクリロイルオキシ基乃至アクリロイル基、などであるが、特に制限はない。この様な重合性官能基は液晶分子の通常、片末端又は両末端に有する。また、コレステリック液晶材料としては、1種又は2種以上の液晶化合物が使用される。
また、コレステリック液晶材料としては、ネマテック液晶性を呈する化合物と、カイラル剤とを併用した液晶材料も好適である。カイラル剤としては、公知の化合物を適宜使用することができる。
【0038】
コレステリック液晶固化層の厚みは、液晶材料、必要な反射特性等に応じて適宜に設定すれば良く特に限定されないが、例えば1〜100μm、より好ましくは3〜10μmである。
【0039】
コレステリック液晶固化層は、その層単独で近赤外線反射層1としても良いが、任意の基材に積層したもの、つまり該基材とコレステリック液晶固化層とから、近赤外線反射層1を構成してもよい。また、基材は、近赤外線吸収層2など電磁波遮蔽層3以外の他の層と共有しても良い。例えば、図示はしないが、近赤外線反射層1と近赤外線吸収層2とがこれらに共通する基材を介して表裏に密接積層している構成である。ただし、この場合は、近赤外線反射層1と電磁波遮蔽層3との間に空気層Gを介在させる必要から、電磁波遮蔽層3の位置は、近赤外線吸収層2に対して近赤外線反射層1よりも遠い側である。
なお、基材としては基本的には透明な基材が好ましいが、例えば色素添加で調色機能を持たせる等、着色された透明な基材でもよい。
透明な基材については、後述する電磁波遮蔽層で説明する透明基材4で列記する材料を用いることができる。
【0040】
この他、各種機能層(後述する)の面にコレステリック液晶固化層を積層しても良い。例えば、反射防止層が備える基材の裏面に積層したり、コントラスト向上層が備える基材の裏面に積層したり、塗工形成した近赤外線吸収層が備える基材の裏面に積層したり、しても良い。なお、ここで「裏面」とは該基材に反射防止層等の機能層が積層された側とは反対側の面を意味し、ディスプレイ側、観察者側とは別の概念である。
或いはまた、機能層の上にコレステリック液晶固化層を積層しても良い。また、コレステリック液晶固化層の上に、各種機能層を積層しても良く、例えば、コレステリック液晶固化層の上に近赤外線吸収層を塗工形成しても良い。
なお、コレステリック液晶固化層の形成は、公知の形成方法、例えば上記の様なコレステリック液晶材料を含む組成物をロールコート、グラビアロールコート、バーコート等の公知の塗工法等によって形成することができる。また、転写法を利用して積層しても良い。
【0041】
なお、コレステリック液晶固化層を用いた近赤外線反射層としては、更に反射する円偏光の向きが逆向きの層を含んだものとしても良い。これにより、第一のコレステリック液晶固化層で右(又は左)円偏光を反射させ、当該層を通過した左(又は右)円偏光は、第一のコレステリック液晶固化層とは反射する円偏光が逆向きの第二のコレステリック液晶固化層で反射させることで、近赤外線反射層全体としては、右(又は左)円偏光の一方の円偏光のみではなく、右及び左の両方の円偏光を反射させることもできる。つまり全反射型の近赤外線選択反射層である。
【0042】
この際、第二のコレステリック液晶固化層として、第一のコレステリック液晶固化層と反射する円偏光の向きが同じものを使い、且つこれら第一と第二のコレステリック液晶固化層の間に位相差層を介在させて、位相差層によって円偏光の向きを逆方向にすることでも、同様に全反射型の近赤外線選択反射層とすることができる。位相差層の位相差、平均リタデーションReは半波長の1/2λでも良いが、これに更に1以上の整数を加えた値、つまり1.5λ、2.5λ、3.5λ、4.5λ等のものが、波長による反射率変化が少ない点で好ましい。また、上記1.5λ等の値は±0.2程度ずれていても良い。
つまり、
Re={(2n+1)/2−0.2}×λ〜{(2n+1)/2+0.2} 〔式3〕
である。
【0043】
《近赤外線吸収層》
近赤外線吸収層2には、可視光を透過するが近赤外線は吸収する層であれば特に制限はなく、公知の層を利用できる。例えば、近赤外線を吸収する近赤外線吸収色素(NIRA色素)をマトリック中に分散させた層であり、マトリックスとしてはバインダ樹脂が代表的である。また、スパッタによる多層スパッタ膜等も利用できる。これらの中でも、樹脂バインダ中に近赤外線吸収色素を分散させた層が代表的である。なお、近赤外線吸収色素としては、有機系、無機系などの色素から適宜選択すれば良く、1種単独又は2種併用するが、吸収波長帯域を広くするには2種以上を併用するのが好ましい。
【0044】
また、近赤外線吸収色素をバインダ樹脂中に分散させた近赤外線吸収層2は、他の機能と複合化した層としても良い。例えば、近赤外線吸収色素を添加する層を、粘着剤層、電磁波遮蔽層として導電性組成物層を後述の引抜プライマ方式凹版印刷で形成する際のプライマ層、コントラスト向上層等として、これらの層と近赤外線吸収層を複合化しても良い。複合化により層数を減らせるので製造工程数が減り、低コスト化に繋がる。或いは、他の機能層と積層しても良く、例えば、反射防止層と積層しても良い。
【0045】
なお、上記した近赤外線吸収色素(NIRA色素)、及びバインダ樹脂としては、公知の材料を適宜選択すればよく、例えば、近赤外線吸収色素としては、有機系化合物としては、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、フタロシアニン系化合物、ジイモニウム系化合物、ジチオニール錯体等が挙げられ、また無機系化合物としては、インジウム錫酸化物、チタン酸化物、特開2006−154516号公報等に開示のセシウム含有タングステン酸化物等が挙げられる。更に、2種以上併用する場合を例示すれば、フタロシアニン系化合物を複数種類併用する以外に、フタロシアニン系化合物とジイモニウム系化合物の併用などは好ましい一例である。フタロシアニン系化合物は吸収帯域が780〜1000nmであり、ジイモニウム系化合物は900〜1100nmでの吸収が大きく可視光透過率も高い為、これらにより、可視光透過率を高くして、効率的に近赤外線を吸収できる。
近赤外線吸収層2が持つ吸収スペクトルの短波長端側(裾野部分)が可視光線の長波長域(650〜780nm近辺)と重複して可視光線域の透過率及び色相に影響することを防ぐ為には、近赤外線吸収色素の吸収極大(peak)波長を850〜900nm帯域よりも長波長側に設定し、それよりも短波長側の近赤外線帯域は反射スペクトルの立上り(乃至立下り)が急峻な近赤外線反射層2で遮蔽する設計とすることが好ましい。
【0046】
また、バインダ樹脂の樹脂としては、粘着剤層とする場合も含めて、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂等挙げられる。
なお、近赤外線吸収色素のバインダ樹脂等マトリックス中の割合は、通常0.001〜15質量%である。また、必要に応じて公知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光反応防止剤などを添加してもよい。
また、この様な材料からなる近赤外線吸収層の形成は、ロールコート、グラビアロールコート、バーコート等の公知塗工法によって形成することができる。
【0047】
《電磁波遮蔽層》
電磁波遮蔽層3は、透明基材4上に、特定の構成からなる導電性凸状パターン層5を有する(図1参照)。電磁波遮蔽層3は近赤外線吸収層2に対して、近赤外線反射層1側、つまり観察者V側でも良く、この逆側でも良い。
【0048】
〔透明基材〕
透明基材4としては、透明であれば、特に制限はなく公知のものを適宜選択使用すれば良い。例えば、樹脂フィルム(乃至シート)、樹脂板、或いは無機材料板等が代表的である。樹脂フィルム(乃至シート)の樹脂は例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、シクロオレフィン重合体などのポリオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、或いは、ポリカーボネート系樹脂、等である。樹脂板の樹脂としては、例えば、前記の樹脂フィルムと同様の樹脂である。無機材料板の材料としては、例えば、硝子、石英、透明セラミックス等である。なかでも、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムはコスト、透明性、機械的強度等の点で好適な材料である。なお、透明基材の厚みは通常12〜5000μm程度である。
【0049】
〔導電性凸状パターン層〕
導電性凸状パターン層5は、基本性能としての電磁波遮蔽機能の他に、近赤外線反射層1から反射されて来る近赤外線を減衰させる機能を有する。この為、導電性凸状パターン層5は、その表面に、多数の金属針状体が放射状に突き出した黒化層8を有する。
このような導電性凸状パターン層5は、透明基材4上に形成された導電パターン層6と、該導電パターン層6の表面に形成された金属層7と、該金属層7の表面に形成され突出した金属針状体を有する黒化層8とを有する。
【0050】
[導電パターン層]
導電パターン層6は、導電性粒子6aとバインダ樹脂6bとを含む導電性組成物層として形成される。このような導電パターン層6は、透明基材4にパターン状に印刷法により形成することができる。
導電パターン層6を印刷形成する場合の印刷法には特に制限はない。例えば、(シルク)スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、凹版印刷などの有版印刷、或いはインクジェット印刷に代表される無版印刷等である。
これらの印刷法の中でも、前記特許文献4で開示された凹版印刷の一種である「引抜プライマ方式凹版印刷法」は、高転移率、微細パターン再現性、及び透明基材との高密着性などの点で特に好ましい印刷方式の一種である。また、当該印刷法では、優れた電磁波遮蔽性と優れた光透過性とを高度に両立させることができる。なお、「引抜プライマ方式凹版印刷法」で形成されるプライマ層については、後述する。
【0051】
(パターン形状)
導電パターン層6の(平面視の)パターン形状は、また結果として導電性凸状パターン層5のパターン形状は、公知の形状など任意であり、例えば、メッシュ形状(六角形や四角形などの格子模様)、ストライプ形状(直線状縞模様、螺旋模様など)などの幾何学形状である。なかでもメッシュ形状、それも正方格子形状が代表的である。導電パターン層6の非形成部に該当する開口部の形状は、メッシュ形状が例えば正方格子形状では正方形、ストライプ形状では帯形状となる。また、パターンの線幅、つまり導電パターン層6の形成部の線幅は、電磁波遮蔽性能とメッシュの不可視性の両立の観点から通常は5〜50μmである。更に、電磁波遮蔽性能と可視光透過性の両立の観点からは、線幅は好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
格子やストライプ等の幾何学模様のパターンの周期は通常100〜500μmである。
また、導電パターン層6の開口率〔(導電パターン層6の開口部の合計面積/導電パターン層6の開口部及び導電パターン層6の形成部を含めた全被覆面積)×100で定義〕は、電磁波遮蔽性能及び可視光透過性との両立の観点から、50〜95%程度である。導電パターン層6の厚みは電磁波遮蔽性の点からは3μm以上、好ましくは10μm以上とする。又、通常最大100μm以下とする。これ以上の厚みでは、通常用途に於いては過剰性能となる上、パターン形成が困難となったり、導電パターン層6が外力を受けて破損し易くなったりする為である。
【0052】
(導電性組成物)
導電パターン層6は、導電性粒子6aと樹脂バインダとを含む液状の導電性組成物(導電性ペースト、導電性インキ等とも呼ばれる)を用いて形成でき、該導電性組成物を溶剤乾燥、電離放射線照射、加熱などのエネルギー付加、化学反応などの固化プロセスによって固化させて得られる。なお、樹脂バインダは、上記導電性組成物から導電性粒子6aを除いた残りの成分であり、また溶剤等の揮発散逸成分を含み得る成分であり、この樹脂バインダ中に含まれる樹脂分がバインダ樹脂6bである。また、樹脂バインダには、安定剤、分散剤、酸化防止剤、粘度調整剤など、公知の各種添加剤を含み得る。なお、バインダ樹脂が硬化性樹脂でその硬化に硬化剤や重合開始剤等を使用する場合、これらの硬化剤はバインダ樹脂の一成分であると捉える。
【0053】
導電性粒子6aは、金、銀、白金、銅、錫、アルミニウム、ニッケルなど高導電性金属(乃至その合金)の粒子やコロイド(粒子)等である。なお、これらの金属粒子としては、樹脂粒子や無機非金属物粒子等の表面を前記高導電性金属で被覆した金属被覆粒子を用いてもよい。なお、導電性粒子6aの粒子径は、平均粒子径で、0.01〜10μm、より低表面抵抗率とする点で好ましくは0.1〜3μmである。
【0054】
バインダ樹脂6bとしては、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを単独使用又は併用する。熱硬化性樹脂は、例えば、メラミン樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などである。また、電離放射線硬化性樹脂には、電離放射線で架橋反応などによって重合硬化するモノマー及び/又はプレポリマーを含む組成物を使用する。なお、電離放射線としては、通常、紫外線、電子線などが使用される。また、該モノマーやプレポリマーにはラジカル重合性やカチオン重合性の化合物を使用する。なかでも、アクリレート系化合物を用いた電離放射性硬化性樹脂が代表的である。
また、熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性アクリル樹脂など、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂等である。
【0055】
そして、樹脂バインダは、印刷適性を調整するために、例えば凹版の版面凹部への充填に適した流動性を得るために、上記の様なバインダ樹脂を有機溶剤に溶解したワニスとして使用することができる。該有機溶剤の種類には特に制限はなく、一般的に印刷インクに用いられる溶剤の中から適宜選択使用すれば良い。
【0056】
[金属層]
金属層7は、導電性凸状パターン層5としての表面抵抗率を導電パターン層6のみによる場合よりも下げるために、導電パターン層6の表面に電解めっきによって形成される層である。
金属層7の金属としては、導電性が高く容易にめっき可能な金属(乃至その合金)であれば特に制限はなく、例えば、銅、銀、金、クロム、ニッケル、錫、などを用いることができる。なかでも、銅は材料費及び導電性に優れているので、好ましい金属の一種である。なお、金属層6の厚さは、用途、要求物性に応じたものとすればよく、例えば、0.1〜10μmである。
【0057】
電解めっきは公知の方法で行うことができる。電解めっき条件は、例えば、浴温度20〜60℃、電流密度0.001〜10A/dm2、めっき時間1〜10min程度である。電流密度を大きくすることによって、導電パターン層5の端角部に電力集中が起こり電解めっきが付きやすくなり、導電パターン層5の表面に形成された金属層6は前記端角部が突出する一方、導電パターン5の頂部に於ける中央部が凹陥した表面形状となる。また、電流密度が大きい程、端角部と中央部とのめっき層成長速度に差が生じ、相対的に端角部の電流密度が高くなって、中央部が凹陥した表面形状となり易い。端角部と中央部との段差は、1〜3μm程度である。また、このような現象を生じさせるには、導電パターン6の断面形状が、半円形状や半楕円形状の様な角のない形状ではなく、図1に例示の様な、台形、或いは長方形、正方形とする方が、端角部の電流密度を相対的に大きくできる。
金属層6の端角部が突出した形状となることで、導電性凸状パターン層5の端角部が突出した形状となる。電磁波遮蔽層3において、導電性凸状パターン層3の突出した端角部がスペーサとして機能することで、電磁波遮蔽層3を連続帯状シートとして製造時に、ロールやシートで重ね合わされた時に、導電性凸状パターン層3に表面の金属針状体が潰れるのを保護することができる。その結果、金属針状体による外光の減衰による反射防止効果を維持し、また、近赤外線反射層1から反射されて来る近赤外線の減衰効果を維持することができる。
【0058】
また、電流密度を大きくすると、金属層7の頂部に於ける表面に、溝状凹部、特に、図4B〜図4Dの走査型電子顕微鏡写真で示す様に、分岐、蛇行、又はこれらの両方を有する渓谷状の溝状凹部が生成し易くなる。なお、図4B〜図4Dの写真は、正方格子状のメッシュパターンがそれと判る撮影倍率の最も小さい図4Aから、図4A〜図4Dの順に倍率が大きして撮影したうちの高倍率の方の3枚である。このような溝状凹部、特に、分岐、蛇行、又はこれらの両方を有する渓谷状の溝状凹部によって、光が溝状凹部の内部に進入すると複雑な経路で反射を多数回繰り返すことで減衰する。この為、溝状凹部によって、外光の反射を防止できる。また、溝状凹部によって近赤外線も減衰させることができる。このため、近赤外線反射層1から反射されて来た近赤外線を溝状凹部で減衰させて、近赤外線の遮蔽性能を向上させることができる。
【0059】
なお、金属層7の端角部を突出させた形状とするには、金属層を形成前の導電パターン層5の端角部自体を突出させた形状としておく方法もある。導電パターン層5を凹版印刷する際の凹版の形状を端角部が凹んだ形状としておけば良い。
【0060】
[黒化層とその金属針状体]
黒化層8は、金属層7の表面に黒化処理によって形成され、外光及び近赤外線を減衰させる。黒化層は、暗色を呈する層であり、暗色であれば良く、黒以外に低明度の色、例えばこげ茶色など有彩色でもよい。
黒化処理は、例えば、硫酸銅五水和物と硫酸を含む水溶液からなる電解浴を用いた陰極電解処理によって、粗面化処理を行うことで、金属層7の表面に、銅からなる金属針状体を有する黒化層8を形成することができる。粗面化処理は、陰極電解で金属の粒状突起物を析出させた後、その上に金属めっきして粒状突起物の脱落を防いだ後、金属皮膜を形成して金属の粗面を形成する。
このような粗面化処理を伴う黒化処理は、粒状突起物形成時の電流密度を大きくすることによって、針状結晶が生成され易いので好ましい。この針状結晶が、最終的に、金属針状体となる。金属針状体の長さは、0.1〜1μm程度である。図4C及び図4Dは、導電性凸状パターン層3の表面に形成されている黒化層8が有する金属針状体が表面に突出している様子を示す走査型電子顕微鏡写真である。
黒化層8が多数の金属針状体を表面に突出して有することよって、黒化層8に入射した光が金属針状体の面間で多重反射することで、吸収、散乱が多数回発生して、光を減衰させて、反射を防止できる。また、金属針状体によって近赤外線も同様に減衰させることができる。このため、近赤外線反射層1から反射されて来た近赤外線を黒化層8で減衰させて、近赤外線の遮蔽性能を向上させることができる。
そして、前記溝状凹部を形成した上で、更にその表面に、金属針状体を有する黒化層8を形成することで、溝状凹部による効果と、金属針状体による効果との相乗効果によって、光反射防止効果がより高まり、近赤外線の遮蔽性能もより高められる。
【0061】
〔プライマ層〕
図5の断面図で示す様に、引抜プライマ方式凹版印刷法では、透明基材4上の導電パターン層6が特有のプライマ層9を介して形成され、このプライマ層に他の印刷法に見られない大きな特徴を有する。それは、同図の様に、プライマ層9と導電パターン層6との界面について、プライマ層9は、導電パターン層6の形成部での厚さが導電パターン層6の非形成部での厚さよりも厚い形状となることである。なお、同図では、プライマ層9に注目した図面であり、導電パターン層6上に形成されている金属層7及び黒化層8の図示は省略してある。
上記非形成部の厚さ、つまり光透過性を確保する為の開口部の厚さは、上記形成部の厚さの影響のない開口部の中央部での厚さで捉える。非形成部の厚さは1〜10μm程度であり、形成部の厚さは非形成部の厚さに較べて1〜10μm程度厚く形成される。
このようなプライマ層9としては、透明な樹脂層からなる。その樹脂には熱可塑性樹脂、硬化性樹脂等を用い、硬化性樹脂には熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂等を用いることができるが、固化が迅速な点で紫外線照射等で硬化する電離放射線硬化性樹脂が好ましい。これらの樹脂は、導電パターン層6で列記したバインダ樹脂と同様の物などを使用できる。
【0062】
このように、電磁波遮蔽層3は、透明基材4と導電性凸状パターン層5との間にプライマ層9を有する形態が、高精細な導電性凸状パターン層5となる点で好ましいが、要求性能次第では、プライマ層9を省略した形態でも構わない。プライマ層9がない形態は、引抜プライマ方式凹版印刷方以外の印刷法、例えば、スクリーン印刷法などによって形成すれば良い。
【0063】
《その他の層》
なお、本発明によるディスプレイ用複合フィルタは、本発明の主旨を逸脱しない範囲内であれば、上記した以外のその他の層を含んでもよい。例えば、各種光学フィルタ機能を付与する光学フィルタ層、光学フィルタ機能以外の機能を付与する機能層などである。これらの層には公知の層を適宜採用することができる。
なお、光学フィルタ層としては、紫外線吸収層、PDPのネオン光を吸収するネオン光吸収層、表示画像を好みの色調に補正する色補正層、反射防止層(防眩、反射防止、防眩及び反射防止兼用のいずれか)、明所コンストラストを向上させる特開2007−272161号公報等に記載のコントラスト向上層(微小ルーバ層など)などである。また、光学フィルタ機能以外の機能を付与する機能層としては、防汚層、帯電防止層、ハードコート層、粘着剤層、該粘着剤層を使用時まで保護する離型フイルム、接着剤層、プライマ層、耐衝撃層などである。なお、これらの層は単層で2以上の機能を兼用することもある。
【0064】
また、電磁波遮蔽層3に属する層として説明した透明基材4で挙げる様な透明基材は、電磁波遮蔽層以外の層、例えば、近赤外線反射層1、近赤外線吸収層2に属する層として構成することもできる。また、異なる機能を有する層に共通の兼用した支持体として構成することもできる。
【0065】
B.画像表示装置:
本発明による画像表示装置は、上記した本発明のディスプレイ用複合フィルタを、プラズマディスプレイパネル等のディスプレイパネルの前面に配置した構成である。ここで、図6はその一形態例を示し、同図の画像表示装置100は、ディスプレイ用複合フィルタ10を、ディスプレイパネル20としてのプラズマディスプレイパネルの前面に、近赤外線吸収層2よりも近赤外線反射層1側を観察者V側にして、配置した構成例である。また、同図のディスプレイ用複合フィルタ10は、観察者V側から順に、少なくとも、近赤外線反射層1、近赤外線吸収層2、電磁波遮蔽層3をこの順に有する構成である。
ディスプレイパネル20としては、特にプラズマディスプレイパネルが、原理的にディスプレイパネル自体からの近赤外線放射が無視できない為、本発明による効果は、プラズマディスプレイパネルに適用する場合に、より顕著である。
なお、プラズマディスプレイパネル以外でも近赤外線をディスプレイパネルから観察者側に放出するものであれば、本発明のディスプレイ用複合フィルタは有用であり、この様なディスプレイパネルに応用しても良い。
【0066】
本発明のディスプレイ用複合フィルタ10を、プラズマディスプレイパネル等のディスプレイパネルの前面に配置することで、ディスプレイパネル20から近赤外線が観察者側に放出されても、画像を構成する可視光領域の透過率はなるべく落とさずに、近赤外線を極めて効率的に遮蔽することができる。従って、可視光線の透過率低下によって画面が暗くなるのを防げることになる。また、同じ明るさであれば、低消費電力にできることになる。
図6では、ディスプレイ用複合フィルタ10とディスプレイパネル20とは間に空間(空気層G)を設けて配置してあるが、間に空間を設けず密着配置してもよい。
【0067】
C.用途:
本発明によるディスプレイ用複合フィルタは、各種用途に使用可能である。特に、PDP、LCDなどの各種ディスプレイパネル、なかでも特に近赤外線放射が顕著なPDP用の前面フィルタ用として好適である。また、この様なディスプレイ用複合フィルタを、PDPなどディスプレイパネルの前面に配置した画像表示装置は、テレビジョン受像装置、測定機器や計器類、事務用機器、医療機器、電算機器、電話機、電子看板、遊戯機器等の表示部等に用いられる。
また、本発明によるディスプレイ用複合フィルタは、電子レンジ等の家電製品、或いは、建築物、乗り物、その他の各種窓における熱線遮断用途に用いてもよい。
【実施例】
【0068】
次に、本発明を実施例及び比較例によって更に詳述する。
【0069】
《実施例1》
〔近赤外線反射層の作製〕
近赤外線反射層1として、透明な基材を支持体として、この一方の面にコレステリック液晶固化層を積層して近赤外線反射層1を形成したものを作製した。
支持体としては、厚み188μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラー(登録商標)U35、東レ株式会社製)を用意した。
なお、この支持体の位相差は、平均リタデーションReが約4083nmであり、近赤外線の波長1200nmに対しては、4083/1200=3.4となり、前記した〔式3〕、つまり、Re={(2n+1)/2±0.2}×λ、を満足する。
【0070】
コレステリック液晶固化層の作製は、コレステレック液晶材料として、分子の両末端に重合可能なアクリレート(アクリロイルオキシ基、以下同様)を有し中央部にはメソゲンと前記アクリレートとの間にスペーサを有する、液晶性モノマー分子(Paliocolor(登録商標)LC1057(BASF社製))96.95質量部と、分子の両末端に重合可能なアクリレートを有するカイラル剤(Paliocolor(登録商標)LC756(BASF社製))3.05質量部とを溶解させたシクロヘキサノン溶液を準備した。なお、当該シクロヘキサノン溶液は、前記液晶性モノマー分子に対して2.5質量%の光重合開始剤(物質名;1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、商品名;イルガキュア(登録商標)184、製造元;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を添加した固形分40質量%の溶液である。
【0071】
そして、前記支持体の一方の面に、配向膜を介さずにバーコーターにて、上記シクロヘキサノン溶液を塗布した後、120℃で2分間加熱し溶液中のシクロヘキサノンを蒸発させて、液晶性モノマー分子を配向させた塗膜を得た。次に、該塗膜に紫外線を照射して、液晶性モノマー分子中のアクリレート及びカイラル剤分子中のアクリレートを3次元架橋してポリマー化し、支持体上にコレステリック構造を固定化することにより膜厚5μmのコレステリック液晶固化層を形成し、支持体とコレステリック液晶固化層とから構成される積層シートとして近赤外線反射層1を作製した。
この近赤外線反射層の反射特性(分光光度計で正反射角5°で計測)は、850nm付近から立ち上がり、約1000nm付近に反射ピークを持つ反射スペクトルが得られ、反射ピークでの反射率は45%、ベース(反射率が大きくなっていない波長領域)の反射率は14%であった。
【0072】
〔近赤外線吸収層の作製〕
近赤外線吸収層2として、NIRA色素(近赤外線吸収色素)を含有する厚み25μmの粘着剤層を、離型フィルム上に作製した。
【0073】
粘着剤層を形成する為の粘着剤組成物には、先ず、アクリル系粘着剤(ヒドロキシルキ基を有しカルボキシル基を実質的に含まないアクリル系共重合体、総研化学株式会社製SK−1811L)100質量部に対して、三種類のNIRA色素(全て株式会社日本触媒製)として、フタロシアニン系化合物(エクスカラー(登録商標)IR−14)0.064質量部、フタロシアニン系化合物(エクスカラー(登録商標)IR12)0.090質量部、フタロシアニン系化合物(エクスカラー(登録商標)IR910)0.162質量部を添加し十分分散した。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(CYTEC INDUSTRIES製、サイアソーブ(登録商標)UV24)を3.34質量部と、ヒンダードアミン系光安定剤(チバ・ジャパン株式会社製、TINUVIN(登録商標)144)1.66質量部を添加した。
更に、芳香族系イソシアネート(キシレンジイソアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体)を固形分で2質量部添加し、希釈剤30質量部で希釈して、粘着剤組成物を調製した。
【0074】
上記粘着剤組成物を、離型フィルムとして厚み100μmの離型処理済みポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製、E7002)の離型面に、乾燥時膜厚25μmとなるようにアプリケーターにて塗工し、70℃で3分乾燥させた後、塗膜の上から、離型フィルムとして厚み75μmの離型処理済みポリエチレンテレフタレートフィルムをラミネートして、近赤外線吸収層2と兼用する粘着剤層の両面に、離型フィルムを積層した粘着フィルムを得た。
なお、この(粘着剤層兼)近赤外線吸収層2を備える粘着フィルムの可視光透過率は56%、近赤外線領域の850nm〜1000nmの透過率は25%であった。
【0075】
〔電磁波遮蔽層の作製〕
電磁波遮蔽層3は、導電パターン層6の印刷に引抜プライマ方式凹版印刷法を利用して、次の様にして作製した。
【0076】
[導電パターン層]
透明基材4として、厚み100μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製A4300)の一方の面に、紫外線硬化性樹脂組成物を固化時厚みが10μmとなる様にグラビアリバースロールコートによる塗工した。紫外線硬化性樹脂組成物は、エポキシアクリレート系プレポリマー、ウレタンアクリレート系プレポリマー、フェノキシエチルアクリレート、及びエチレンオキサイド変性イソシアヌル酸トリアクリレートからなるアクリレート系重合性化合物、光重合開始剤としてイルガキュア(登録商標)184(チバ・スペシャルティ・ケミカル株式会社製、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)を含むものを使用した。プライマ層は塗布後、硬化前の状態において流動性を示すが透明基材4から流れ落ちはしない。
次に、導電パターン層6形成用として、導電性粒子として平均粒子径2μmの銀粒子93質量部を熱可塑性ポリエステルウレタン樹脂7質量部及び溶剤を含む樹脂バインダ中に分散させた導電性組成物からなる銀ペーストを用意した。この銀ペーストを、引抜プライマ方式凹版印刷法によって、透明基材4上の前記プライマ層9を介して印刷して、導電パターン層6を形成した。また、プライマ層9の硬化は、透明基材4が円筒状の凹版版面上にあるうちに紫外線を照射して行った。形成された導電パターン層6は、正方格子のメッシュパターンで、線幅20μm、格子周期300μm、層厚み19μmであり、線の断面形状は略台形形状であると共に、その頂部両側端縁は頂部中央部よりも2μm突出した形状であった。また、硬化したプラマイ層9は、導電パターン層6の形成部の厚みが、導電パターン層6の非形成部に比べて3μm厚かった。
【0077】
[金属層]
次に、導電パターン層6の表面に、銅からなる金属層7を電解めっきして形成した。電解めっき液は、水溶液(3000L)として、硫酸銅五水和物(75g/L)、硫酸(180g/L)、塩酸(60mg/L)、配向調整成分として炭化水素系高分子系めっき添加剤(40mL/L)を含む液を用いた。めっき条件は、浴量(500mL)、攪拌(エアー攪拌)、浴温(25℃)、電流密度(2A/dm2)、めっき時間(5min)の条件である。電解めっき後、120℃で60min間加熱しアニール処理を行った。金属層7の厚みは2μmである。
【0078】
電解めっきでは、被めっき物とアノード電極とが近い部分にめっきが付き易く、角部に電流密度の集中が生じてめっきが厚く付き易い。ここで、被めっき物である導電パターン層6は、断面形状が台形形状で、しかも該台形形状は頂部両側端縁の端角部が尖り、その端角部が頂部の中央部よりも突出している形状となっている。このため、導電パターン層6の表面に形成された金属層7の表面が成す断面形状は、端角部が頂部の中央部よりも突出し該中央部が端角部に対して陥没した形状となった。
【0079】
[黒化層]
次に、金属層7の表面に、次の条件で黒化処理を施し黒化層8を形成して、透明基材4上に導電性凸状パターン層5を有する電磁波遮蔽層3を作製した。
【0080】
(1層目)
硫酸銅五水和物 70g/L
硫酸 100g/L
液温 40℃
電流密度 40A/dm2
電解時間 5s
陽極 白金
(2層目)
硫酸銅五水和物 250g/L
硫酸 100g/L
液温 45℃
電流密度 20A/dm2
電解時間 30s
陽極 白金
【0081】
黒化層8は、(導電性凸状パターン層5としての頂部両側端縁の)端角部が突出し頂部の中央部が凹陥した表面形状であった。また、黒化層8の表面には、図4B〜図4Dの走査型電子顕微鏡写真の如く、分岐しかつ蛇行する渓谷状の溝状凹部を多数観察された。また、黒化層8の表面には、図4B〜図4Dの走査型電子顕微鏡写真の如く、多数の金属針状体が観察された。
【0082】
〔ディスプレイ用複合フィルタ〕
上記で作製した支持体を備えた近赤外線反射層1と、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製A4300)とを、上記で作製した(粘着剤層兼)近赤外線吸収層2を備えた粘着フィルムの両面の離型フィルムを剥がして、該(粘着剤層兼)近赤外線吸収層2を介してラミネートすることにより、近赤外線反射層1と近赤外線吸収層2が積層された積層フィルムを作製した。
そして、上記で作製した電磁波遮蔽層3の導電性凸状パターン層5が形成された面上に、上記積層フィルムを、間に空気層ができる様にして、且つ該ポリエチレンテレフタレートフィルム側が導電性凸状パターン層5側と向き合うように重ねて、目的とするディスプレイ用複合フィルタ10を作製した。
【0083】
《比較例1》
実施例1において、積層フイルムに電磁波遮蔽層3を重ねるのを省略し、積層フィルムのみのディスプレイ用近赤外線吸収フィルタとした。
【0084】
《近赤外線の遮蔽性能の評価》
市販のプラズマテレビから前面のガラスフィルタを取り外し、そのプラズマディスプレイパネル3に画像として白画面を表示させた状態で、上記ディスプレイ用複合フィルタ10を近赤外線反射層1側が観察者V側を向くように配置して、可視光領域と近赤外領域の輝度を測定した。なお、輝度測定は可視光領域では分光放射輝度計を使用し、近赤外領域では近赤外分光放射計を使用した。測定は、ディスプレイ用複合フィルタ10が設置されたときと、設置される前(ブランク)の両方を測定し、設置前後での輝度変化から、所定の波長での透過率を算出した。
【0085】
上記測定の結果、実施例1では、可視光領域の透過率は42%、800〜1000nmでの近赤外線の透過率は13%であった。
一方、実施例1のディスプレイ用複合フィルタ10に代えて、比較例1のディスプレイ用近赤外線吸収フィルタを測定した結果、比較例1では、可視光領域の透過率は45%、800〜1000nmでの近赤外線の透過率は15%であった。
【符号の説明】
【0086】
1 近赤外線反射層
2 近赤外線吸収層
3 電磁波遮蔽層
4 透明基材
5 導電性凸状パターン層
6 導電パターン層
6a 導電性粒子
6b バインダ樹脂
7 金属層
8 黒化層
9 プライマ層
10 ディスプレイ用複合フィルタ
20 ディスプレイパネル(プラズマディスプレイパネル)
100 画像表示装置
G 空気層
Ir 近赤外線
L 左円偏光
R 右円偏光
V 観察者


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイパネルの前面に配置してディスプレイパネルから放出される近赤外線と電磁波を遮蔽するディスプレイ用複合フィルタに於いて、
観察者側から順に、可視光線は透過して近赤外線を反射する近赤外線反射層と、可視光線は透過して近赤外線を吸収する近赤外線吸収層とを有し、
さらに、電磁波遮蔽層を、前記近赤外線反射層と前記近赤外線吸収層との間、前記近赤外線吸収層よりも前記近赤外線反射層から遠い側、またはこれら両方の位置に、該電磁波遮蔽層と前記近赤外線反射層との間に空気層を介して有し、
かつ、該電磁波遮蔽層は、透明基材と該透明基材上にパターン状に形成された導電性凸状パターン層からなり、該導電性凸状パターン層は、導電性粒子とバインダ樹脂とを含む導電性組成物層からなる導電パターン層と、該導電パターン層の表面に形成され端角部が突出し中央部が凹陥した金属層と、該金属層の表面に形成され金属針状体からなる黒化層とを有する、ディスプレイ用複合フィルタ。
【請求項2】
上記電磁波遮蔽層の金属層が溝状凹部を有する、請求項1記載のディスプレイ用複合フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のディスプレイ用複合フィルタをプラズマディスプレイパネルを前面に配置した画像表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−194373(P2012−194373A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58235(P2011−58235)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】