説明

ディーゼル排ガス浄化用フィルター

【課題】ディーゼルエンジン排気ガス中の粒子状浮遊物を除去するフィルターにおいて、圧力損失が低減されるとともに、耐久性に優れたものを提供する。
【解決手段】本発明は、断面波形に成形された金属繊維製不織布と平板状の金属繊維製不織布とを積層、又は、両者を重ね合わせて巻回することで断面ハニカム構造を有し、一の流路の端部が封止され、前記一の流路に隣接する流路の他方の端部が封止されたディーゼル排ガス浄化用フィルターであって、セル密度を80〜150CPSIとし、更に、フィルターを構成する金属繊維製不織布として、厚さ0.3〜0.9mm、平均繊維径10〜50μm、気孔率60〜75%のものを用いるものである。このようにすることで、フィルターの粒子捕集率を50〜80%の適正な範囲にしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンから排出される排ガスに含まれる粒子状浮遊物を除去するためのフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンからの排ガス処理においては、NOx等のガス状物質の分解処理に加えて、固体又は液体の粒子状浮遊物の除去が必要となる。粒子状浮遊物とは、主に固体の炭素粒子と、固体又は液体の不燃炭化水素系燃料粒子と、燃料中の硫黄由来の硫化物とにより構成されている。この粒子状浮遊物は、粒径が極めて細かいため大気中に浮遊しやすく、人体へ取り込まれやすいという問題があり、最近の環境問題への高い関心から効果的な除去が求められている。
【0003】
ディーゼル排ガスからの粒子状浮遊物の除去については、フィルターによる捕集が一般的となっており、従来から多くのフィルターが報告されている。従来のディーゼル排ガス処理用のフィルターとしては、例えば、特許文献1では、コージェライト等のセラミックからなるハニカム構造を有する筒状のフィルターが記載されている。このフィルターは、一部の流路の端部を目封止材で封止する一方、残った流路の反対側の端部を目封止しており、流路間の壁面に排ガスを通過させ、セラミックの微細な孔で粒子を捕集するようにしている。
【特許文献1】特開平9−29022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のフィルターは、粒子の捕集率が95%以上と極めて高いものの、その分、圧力損失が大きくなる傾向がある。特に、使用に伴い壁面に目詰りが生じた場合の圧力損失が極めて大きくなり、フィルターの破壊やエンジンへの悪影響が懸念される。
【0005】
また、排ガス浄化用フィルターは、所定期間使用した後に捕集した煤を燃焼するための加熱処理を施して再生・使用されている。しかし、セラミックは熱伝導率が低いため、再生時にヒートスポットが生じ易く、溶損・クラック発生等により破損することがあり、耐久性の観点からも問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ディーゼルエンジン排気ガス中の粒子状浮遊物を除去するフィルターにおいて、圧力損失が低減されるとともに、耐久性に優れたものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記したフィルターを改良すべく鋭意検討を行い、まず、粒子捕集率の適正範囲について検討を行った。従来のフィルターにおいては、粒子の捕集率は高い程好ましいとされていた。しかし、最近のディーゼルエンジン自体の改良により、粒子の発生量は低下しており、捕集率のみを単純に上昇させることが最適であるとはいえない状況となっている。また、完全に粒子を捕集しなくとも(捕集率が100%でなくとも)、フィルターの後段に触媒を置くことで通過した粒子を燃焼させ、最終的には大気への粒子の放出は抑制できる。むしろ、排気系全体への負担、浄化効率を考慮すれば、このような構成の方が好ましいといえる。本発明者等は、かかる背景を考慮し、最適な粒子捕集率として、50〜80%を想定した。50%未満ではフィルター本来の機能を発揮することができない一方、80%を超える程の捕集率は不要とするものである。
【0008】
そして、本発明者等は更なる検討を行い、粒子捕集率を上記適正範囲内にすることのできるフィルターとして、その構成材料として金属不織布を使用するものを見出し、本発明に想到した。
【0009】
即ち、本発明は、断面波形に成形された金属繊維製不織布と平板状の金属繊維製不織布とを積層、又は、両者を重ね合わせて巻回することで断面ハニカム構造を有し、一の流路の端部が封止され、前記一の流路に隣接する流路の他方の端部が封止されたディーゼル排ガス浄化用フィルターであって、セル密度が80〜150CPSIであり、前記金属繊維製不織布は、厚さ0.3〜0.9mm、平均繊維径10〜50μm、気孔率60〜75%とすることで粒子捕集率が50〜80%であるディーゼル排ガス浄化用フィルターである。本発明に係るフィルターは、その構造として流路(セル)間の壁面に排ガスを通過させるものとしつつ、構成材料として所定の物性の金属不織布を適用する。この構造と構成材料との組み合わせにより、好適範囲の煤捕集率を実現している。
【0010】
金属不織布は、金属繊維を積層し、焼結させて製造されるものである。金属不織布の物性は、構成する金属繊維の繊維径、及び、金属繊維使用量と焼結条件との相関により、その厚さ、気孔率が調整される。本発明においては、平均繊維径10〜50μmの金属繊維を使用した厚さ0.3〜0.9mm、気孔率60〜75%の金属不織布を適用することで捕集率を適正範囲とすることができる。そして、これらの物性において、より好ましい範囲は、平均繊維径20〜40μmの金属繊維を使用した厚さ0.4〜0.6mm、気孔率65〜75%の不織布であり、これにより運転条件を問わず捕集率を50〜80%とすることができる。
【0011】
また、金属不織布は熱伝導性が良好であることから、煤捕集後の再生処理(熱処理)においても、ヒートスポットを生じさせることがない。また、金属故に耐熱性も良好であるから耐久性にも優れ、使用と再生とのサイクルを繰返し受けても長期使用可能である。この金属不織布を構成する金属としては、ステンレス、ニッケル基合金等が好ましい。
【0012】
一方、本発明のフィルターの構造面については、その両端面で部分的に流路を封止し、流路壁面に排ガスを通過させる形式(ウォールフロー)のものであり、基本的には、上記した従来のフィルターと同様のものである。但し、本発明では、捕集率を適正範囲内とするために、流路の密度であるセル密度を80〜150CPSIとする。セル密度については、これを増大させると捕集率が上昇する傾向がある。本発明においては、過度に高い捕集率を回避する必要があることから、その上限値を150CPSIとする。尚、80CPSI未満とすると、金属不織布の物性を調製しても捕集率が低くなることから、80CPSIを下限とする。
【0013】
流路の封止は、所定の流路端部に封止材を充填しても良い。好ましくは、フィルターを構成する断面波形の金属繊維製不織布の両端付近の山部及び谷部を両面から押潰すものである。このようにすることで容易に封止部分を形成することができる。
【0014】
本発明に係るフィルターは、金属不織布に触媒が担持されているものが好ましい。触媒を備えることで、フィルターの再生時に捕集された粒子状浮遊物を効率的に燃焼させることができる。触媒としては、粒子状浮遊物を燃焼させることができるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、銀、金、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウムといった貴金属を含む貴金属触媒又は貴金属合金触媒が知られており、特に白金及びイリジウムを主成分とするものが好ましい。
【0015】
尚、触媒の担持の際には、触媒となる貴金属粒子を分散させるため、貴金属をアルミナ、シリカ、セリア、ジルコニア等の酸化物を少なくとも1つ含む多孔質酸化物に担持させた触媒粉末をフィルターに担持させることが好ましい。また、予めフィルターにこれら多孔質酸化物を下地層(ウォッシュコートと称されることが多い)として塗布し、その後貴金属を担持しても良い。
【0016】
触媒を担持させる場合の、触媒担持量は、貴金属換算でフィルターの容量を基準として触媒全体の重量(異なる触媒を使用する場合にはその合計重量)が、0.1〜6g/Lとするのが好ましく、1〜3g/Lとするのがより好ましい。また、多孔質酸化物を使用する場合、多孔質酸化物の使用量は、5〜150g/Lとするのが好ましい。そして、このときの触媒担持量は、多孔質酸化物の重量に対して0.1〜60%とするのが好ましく、1〜40%とするのがより好ましい。
【0017】
本発明に係る排ガス浄化用フィルターの製造は、まず、金属不織布を断面波形となるように加工し、これと平板上の金属不織布とを順次積層することで製造できる。金属不織布の成型加工は、ギア付きのロールで圧延することで容易に可能である。
【0018】
また、流路の封止は、金属不織布の両端の山部及び谷部を押潰すものが好ましいが、この加工は加工部位について型プレス、ローラー加圧等を行うのが好ましい。
【0019】
金属不織布を積層する際には、各層を固定するため、所定の型を用意しこれに波形金属不織布、平板金属不織布を順次はめ込みつつ積層する、積層させた金属不織布の接触部分を溶接して固定しても良い。また、波形金属不織布と平板金属不織布とを重ねたものを巻回し、その終端部を接合しても良い。
【0020】
フィルターに触媒を担持させる場合、多孔質酸化物を貴金属の金属塩溶液に浸漬し、乾燥、焼成することで触媒粉末を予め製造し、これをスラリー化したものにフィルターを浸漬させることで触媒が担持される。また、成形したフィルターを、多孔質酸化物のゾルに浸漬又は塗布し、更に、触媒金属を含む金属塩溶液に浸漬後、乾燥、焼成することでも触媒を担持させることができる。
【0021】
以上のように形成されたフィルターは、筒状のケースにフィルターを挿入し、通電加熱・温度管理のための電極・センサー等を必要に応じて装着することで排ガス浄化に供することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、ディーゼルエンジン排ガス中の粒子状浮遊物を効率的に除去することができる。本発明に係るフィルターは、排ガスの圧力損失を増大させることなく浄化が可能であり、エンジンへのダメージを防止することができ、更に再生時の破損のおそれもなく耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を比較例と共に説明する。
【0024】
図1は、本実施形態におけるフィルターの製造工程を説明するものである。金属不織布をギア付ロールにより断面波形に成形した。次に、成形し金属繊維製不織布の一方の端部の山部を押潰し、他方の端部の谷部を裏面から押潰して流路の封止部を形成した。
【0025】
そして、上記加工を行った金属不織布と、平板状の金属不織布を円筒状のケースに挿入し、順次積層してハニカム構造を有する円柱状の排ガス浄化用フィルターとした(寸法φ144mm×150mm)。
【0026】
次に、アルミナ粉末をジニトロジアミン白金溶液に浸漬し、乾燥、焼成して5%白金触媒を調整し、これをスラリー化した後、上記で製造したフィルターを浸漬して触媒を担持させ、触媒付きのフィルターを製造した(触媒担持量2g/L)。図2は、フィルターの外観を示す。
【0027】
比較例:市販のコージェライト製のハニカム構造体(寸法:直径144×150mm、セル密度200cpsi)に、一方の端部について半分の流路を封止し、他方の端部の流路を封止したフィルターを用意し、これを本実施形態と同じ触媒スラリーに浸漬し排ガス浄化用フィルターを製造した(触媒担持量2g/L)。
【0028】
以上の製造方法に基づき、繊維径・厚さの異なる金属不織布を用いて複数の排ガス浄化用フィルターを製造した。そして、それらについて、ディーゼルエンジンを用いた評価試験を行い、粒子状物質の浄化性能及を比較検討した。この評価試験では、製造した浄化用フィルターを排気量2771ccのディーゼルエンジンに取り付け、D13モードの状態で連続運転を行い、粒子状浮遊物の捕集率をマイクロトンネルで測定した。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
また、上記評価試験では、圧力損失の経時変化についても評価を行っている。この圧力損失は、フィルター前後に取り付けた差圧計により測定した。図3は、その結果を示す。
【0031】
以上の評価試験において、比較例のセラミック製フィルターは、粒子状浮遊物の捕集率は95%と高いものの(表1)、圧力損失は高い傾向にありその上昇率も高い(図3)。これに対し、実施例、参考例金属不織布からなるフィルターは、圧力損失が低減されている(図3)。但し、セル密度や金属不織布の構成(繊維径等)を適正なものとしないと、捕集率が低く過ぎ十分な効果が期待できないことがわかる(表1)。
【0032】
捕集率の好適範囲について考察すると、比較例のような捕集率が90%を超えるようなフィルターを使用すると、長期使用により粒子状浮遊物、及び、エンジン潤滑油等に含まれるカルシウム等からなるアッシュの蓄積によりフィルターの閉塞が生じると考えられる。また、本実施形態で行った評価試験は、エンジンの運転モードD13モードとしたが、より高負荷の運転では短時間で圧力損失が限界となりエンジンストップの可能性が有る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態に係るフィルターの製造工程を説明する図。
【図2】本実施形態に係るフィルターの外観。
【図3】各実施例の圧力損失の時間変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面波形に成形された金属繊維製不織布と平板状の金属繊維製不織布とを積層、又は、両者を重ね合わせて巻回することで断面ハニカム構造を有し、
一の流路の端部が封止され、前記一の流路に隣接する流路の他方の端部が封止されたディーゼル排ガス浄化用フィルターであって、
セル密度が80〜150CPSIであり、
前記金属繊維製不織布は、厚さ0.3〜0.9mm、平均繊維径10〜50μm、気孔率60〜75%とすることで粒子捕集率が50〜80%であるディーゼル排ガス浄化用フィルター。
【請求項2】
断面波形に成形された金属繊維製不織布の一方の端部の山部を押潰すと共に、他方の端部の谷部を裏面から押潰すことにより、閉塞された流路が形成される請求項1記載のディーゼル排ガス浄化用フィルター。
【請求項3】
金属繊維製不織布には触媒が担持され、前記触媒は、銀、金、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、ロジウムを含む貴金属触媒又は貴金属合金触媒である請求項1又は請求項2記載のディーゼル排ガス浄化用フィルター。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−11921(P2009−11921A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175847(P2007−175847)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】