説明

デオキシエポチロンの治療製剤

デオキシエポチロンの製剤は、水性媒体に希釈の前後に安定である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明はデオキシエポチロンの医薬製剤及びそれらの調製方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
エポチロンとして知られるポリケチド類がパクリタキセルと同様の作用機序を有する潜在的治療化合物源として現れた(例えば、Cowden, C. J. and Paterson, I., "Synthetic chemistry. Cancer drugs better than taxol?" Nature 1997, 387, 238-9を参照のこと)。エポチロンとエポチロン類似体の興味は、ある種のエポチロンがパクリタキセルに対して耐性を生じた腫瘍に対して活性であるという所見(Harris, C. R., Balog, A., et al., "Epothilones: microtubule stabilizing agents with enhanced activity against multidrug-resistant cell lines and tumors," Actualites de Chimie Therapeutique 1999 25, 187-206)と望ましくない副作用の可能性の減少(Muhlradt, P. F. and Sasse, F., "Epothilone B stabilizes microtubuli of macrophages like taxol without showing taxol-like endotoxin activity" Cancer Res. 1997 57 (16), 3344-6)によって発展してきた。治療効力が研究されているエポチロン及びエポチロン類似体は、特に、エポチロンB及び半合成エポチロンB類似体、“アザエポチロン(azaepothilone) B”として知られるBMS-247550 (例えば、McDaid et al., "Validation of the Pharmacodynamics of BMS-247550, an Analogue of Epothilone B, during a Phase I Clinical Study," Clin Cancer Res 2002 8 (7), 2035-43を参照のこと)、及びBMS-310705である。
【0003】
エポチロンDとして知られるデオキシエポチロンB(1)は、治療効力が研究されている有望な抗腫瘍特性を有する他のエポチロン誘導体、即ち、パクリタキセルである(Su, D.-S., Meng, D., et al., "Total synthesis of (-)-epothilone B: an extension of the Suzuki coupling method and insights into structure-activity relationships of the epothilones," Ang. Chemie, Int. Ed. Eng. 1997 36 (7), 757-759; Chou, T. C., Zhang, X. G., et al., "Desoxyepothilone B is curative against human tumor xenografts that are refractory to paclitaxel," Proc Natl Acad Sci USA 1998 95 (26), 15798-802; Harris, C. R., Kuduk, S. D., et al., "New Chemical Synthesis of the Promising Cancer Chemotherapeutic Agent 12,13-Desoxyepothilone B: Discovery of a Surprising Long-Range Effect on the Diastereoselectivity of an Aldol Condensation," J. Am. Chem. Soc. 1999 121 (30), 7050-7062.; Chou, T.-C., O'Connor, O. A., et al., "The synthesis, discovery, and development of a highly promising class of microtubule stabilization agents: curative effects of desoxyepothilones B and F against human tumor xenografts in nude mice," Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2001 98 (14), 8113-8118; Danishefsky et al. US 2002/0058817 A1 (2002); Martin, N. and Thomas, E. J., "Total syntheses of epothilones B and D: applications of allylstannanes in organic synthesis," Tetrahedron Letters 2001 42 (47), 8373-8377; and Danishefsky et al. US 2002/0058286 A1 (2002))。この化合物は、また、12、13-エポキシド、例えば、エポチロンB又はBMS-247550を有するエポチロンより毒性が低いことが証明された。
【0004】
【化1】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なエポチロンと特定のデオキシエポチロンは水溶解性が悪く、現在のエポチロン製剤には、典型的には、溶解性を高めるために商品名CREMOPHOR(登録商標)として販売されているヒマシ油誘導体可溶化剤(ポリエトキシル化ヒマシ油; BASF Aktiengesellschaft)が含まれている。CREMOPHOR(登録商標)は、患者の不快感と、部分的にはアレルギー反応による毒性と関連がある。それ故、CREMOPHOR(登録商標)を必要としないデオキシエポチロンの改良された製剤を提供することが好ましい。更に、デオキシエポチロンの16員環構造は、水性媒体中の貯蔵時に加水分解の分解を受けやすい。従って、長期間の貯蔵に化学的且つ物理的に安定であり、また、投与前に水性媒体への希釈時に化学的且つ物理的に安定で十分に許容される溶液を与えるというデオキシエポチロン製剤には満たされていない要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要約)
一態様においては、本発明は、典型的にであって必ずでなく、哺乳動物において、好ましくはヒトにおいて、増殖性疾患を治療する際に有効な医薬組成物を調製するのに用いられる医薬濃縮物を提供する。一実施態様においては、本発明は、デオキシエポチロンと薬学的に許容しうる担体を含む医薬濃縮物を提供する。担体の実施態様は下でより詳細に記載される。本発明の医薬濃縮物は、標準条件下で貯蔵に化学的且つ物理的に安定であり、投与前の水性媒体への適切な希釈時に均一な溶液を与える。
本発明の具体的な実施態様においては、本発明の医薬濃縮物は、少なくとも1つのアルコールを含む。本発明によって得られる医薬濃縮物の更に具体的な実施態様においては、アルコールはエタノールのような水混和性アルコールである。
本発明の他の具体的な実施態様においては、本発明の医薬濃縮物は、少なくとも1つのグリコールを含む。本発明によって得られる医薬濃縮物の更に具体的な実施態様においては、グリコールはグリセロール又はプロピレングリコールのような化合物である。
本発明の他の具体的な実施態様においては、本発明の医薬濃縮物は、少なくとも1つのポリオールを含む。本発明によって得られる医薬濃縮物の更に具体的な実施態様においては、ポリオールはポリ(C2-C3)アルキレングリコールである。
本発明の他の具体的な実施態様においては、本発明の医薬濃縮物は、少なくとも1つの界面活性剤、例えば、ポリソルベート80のようなポリオキシエチレンソルビタンモノエステル(ポリオキシエチレンモノオレエート、Tween(登録商標) 80、BASF Aktiengesellschaft)又はSolutol(登録商標) HS-15 (ポリオキシエチレングリコール660ヒドロキシステアレート、BASF Aktiengesellschaft)を含む。
本発明の他の具体的な実施態様においては、本発明の医薬濃縮物は、少なくとも1つの有機溶媒、例えば、ジメチルアセトアミド又はN-アルキルピロリジノン、例えば、N-メチルピロリジノン、又はメチルスルホキシド(DMSO)を含む。
【0007】
本発明の具体的な実施態様においては、本発明の医薬濃縮物は、約100mg/mlまでの濃度でデオキシエポチロンを含む。本発明の更に具体的な実施態様においては、本発明の医薬濃縮物は、約1mg/ml〜約20mg/mlの濃度でデオキシエポチロンを含む。本発明の更に具体的な実施態様においては、本発明の医薬濃縮物は、約1mg/ml〜約10mg/mlの濃度でデオキシエポチロンを含む。本発明の更に具体的な実施態様においては、本発明の医薬濃縮物は、約8-10mg/mlの濃度でエポチロンDを含む。
他の態様においては、本発明は、上記の医薬濃縮物の水性媒体への希釈によって調製される、治療を必要としている患者にすぐに投与できる医薬組成物を提供する。その医薬組成物は、デオキシエポチロンを治療的に有効な濃度で提供し、その医薬組成物は、デオキシエポチロンの治療的に有効な量を送達するのに有効である。
本発明の他の態様においては、提供される医薬組成物は、デオキシエポチロンに感受性がある増殖性疾患を治療するために用いられる。具体的な実施態様においては、増殖性疾患はがんである。更に具体的な実施態様においては、癌は、転移性乳癌を含む乳癌、膀胱癌、転移性大腸癌を含む結腸直腸癌、肺非小細胞癌、前立腺癌、頭頚部の癌、胆管癌、軟部組織肉腫、胃癌、肝細胞性癌、腎癌、卵巣癌、リンパ腫、及び脳腫瘍からなる群より選ばれる。
他の実施態様においては、提供される医薬組成物は、細胞増殖を特徴とする非癌疾患を治療するために用いられる(例えば、乾癬、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症等)。
他の実施態様においては、本発明は、かかる治療を必要とする患者にデオキシエポチロンの治療的に有効な用量レベルを与えるのに有効な医薬組成物を提供する。具体的な実施態様においては、その組成物は、0.1mg/m2〜約200mg/m2の用量レベルを与えることで有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(発明の詳細な説明)
一態様においては、本発明は、典型的にであって必ずでなく、哺乳動物において、好ましくはヒトにおいて、増殖性疾患を治療する際に有効な医薬組成物を調製するのに用いられる医薬濃縮物を提供する。一実施態様においては、本発明は、デオキシエポチロンと薬学的に許容しうる担体を含む医薬濃縮物を提供する。担体の実施態様は、下でより詳細に記載される。本発明の医薬濃縮物は、標準条件下での貯蔵に化学的に且つ物理的に安定であり、投与前の水性媒体への適切な希釈時に均一溶液を与える。
本明細書に用いられる“デオキシエポチロン”という用語は、下記一般式(I)の化合物を包含する。
【0009】
【化2】

【0010】
[式中、R1は、アリール、ヘテロアリール、又は下記式
【0011】
【化3】

【0012】
(ここで、R3はアリール又はヘテロアリールであり、ZはH、Me又はFである。)
を有する基であり;
R2は、H又はC1-C4アルキルであり;
Xは、O又はNHであり;
A-Bは、CH2-CH2又はtrans-CH=CHである。]
本明細書に用いられる“アリール”という用語は、芳香族単環又は多環ヒドロカルビル基、例えば、フェニル、ナフチル等を包含し、その置換されていない形と置換された形の双方を含む。本明細書に用いられる“ヘテロアリール”という用語は、1以上の非炭素原子を含む芳香族単環式基又は多環式基、例えば、ピリジル、ピリミジニル、キノリル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル等を包含し、その置換されていない形と置換された形の双方を含む。本明細書に用いられる“アルキル”という用語は、直鎖、分枝鎖、環状の飽和ヒドロカルビル基を包含し、その置換されていない形と置換された形の双方を含む。上で定義された基の各々についての置換基の例としては、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、カルボキシ基、カルボニル基、オキソ基、カルボキシアミド基、ニトロ基、シアノ基、アジド基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、ヒドロキシ基、アルキルチオ基が含まれるが、これらに限定されない。
本発明の具体的な実施態様においては、
R1は、下記式
【0013】
【化4】

【0014】
(ここで、R3はアリール又はヘテロアリールであり、ZはMeである。)
を有する基であり、
R2は、CH3又はCF3であり、
A-BはCH2-CH2又はtrans-CH=CHであり、
XはOである。
本発明の更に具体的な実施態様においては、
R1は、下記式
【0015】
【化5】

【0016】
(ここで、R3は4-チアゾリル、2-メチル-4-チアゾリル、2-(ヒドロキシメチル)-4-チアゾリル、2-(アミノメチル)-4-チアゾリル、2-ピリジル、2-キノリル、2-ベンゾチアゾリル、4-オキサゾリル、2-メチル-4-オキサゾリル、3-イソキサゾリル、又はメチルイソキサゾリルであり、ZはMeである。)
を有する基であり、
R2は、CH3又はCF3であり、
A-Bは、CH2-CH2又はtrans-CH=CHであり、
Xは、Oである。
本発明の更に具体的な実施態様においては、デオキシエポチロンは、エポチロンDである。
一実施態様においては、本発明は、デオキシエポチロンを薬学的に許容しうる担体と共に含む濃縮物の形の組成物を提供する。これらの濃縮物は、個体成分に通常存在するより追加された水を含まない。前記濃縮物は、周囲温度以下での貯蔵に化学的且つ物理的に安定であり、患者に投与する前に水性媒体、例えば、水、食塩水又は水性デキストロースに希釈される場合に均一な水溶液を充分な期間与える。本発明のために、濃縮物とそれらの水性希釈液は、物理的形の変化が見られない場合、物理的に安定であると言われ、例えば、物理的に安定な濃縮物又は水性希釈液は、物理的に安定な期間の間、相分離、例えば、1以上の成分の結晶化又は沈殿又は複数の混ざらない液相への分離を受けない。“周囲温度”は、約10℃〜約40℃、好ましくは約15℃〜約35℃、最も好ましくは25℃の温度を意味する。更に、本発明のためのデオキシエポチロンは、指示された期間後の分析時に少なくとも95%の純度を保持する場合に、濃縮物として又は水性希釈液として化学的に安定であると言われる。
【0017】
本発明の一実施態様においては、濃縮物は、水性媒体、例えば、水、水性デキストロース、又は食塩水に約10倍(v/v)まで希釈された場合に、約48時間まで均一な水溶液を与える。本発明の他の実施態様においては、濃縮物は、水性媒体に約5倍(v/v)〜約10倍(v/v)に希釈される場合に、約24時間まで均一な水溶液を与える。薬学的に許容しうる担体は、当該技術において既知であるかかるあらゆる担体から選ぶことができ、個々に又は他の薬学的に許容しうる担体と共に用いることができる。薬学的に許容しうる担体の例としては、単純アルコール、例えば、エタノール; グリコール、例えば、グリセロールやプロピレングリコール; ポリオール、例えば、ポリ(C2-C3)アルキレングリコール、例えば、PEG 400又はPEG 600のようなポリエチレングリコール(PEG); シクロデキストリン、例えば、β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スルホプロピル-β-シクロデキストリン(Captisol(登録商標)、CyDex); 界面活性剤、例えば、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、TWEEN(登録商標) 80、BASF Aktiengesellschaft)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、TWEEN(登録商標) 60、BASF Aktiengesellschaft)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレンソルビトールモノパルミテート、TWEEN(登録商標) 40、BASF Aktiengesellschaft)、又はポリソルベート20(ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、TWEEN(登録商標) 20、BASF Aktiengesellschaft)のようなポリオキシエチレンソルビタンモノエステルやSolutol(登録商標) HS-15(ポリエチレングリコールヒドロキシステアレート、BASF ktiengesellschaft); 及び有機溶媒、例えば、ジメチルアセトアミドやN-メチルピロリジノンが含まれるが、これらに限定されない。
本発明のある種の実施態様においては、医薬濃縮物は、アルコール、グリコール、ポリオール、及び界面活性剤を含む薬学的に許容しうる担体に溶解されるデオキシエポチロンを含む。本発明のある種の具体的な実施態様においては、アルコールはエタノールであり、グリコールはグリセロール及びプロピレングリコールからなる群より選ばれ、ポリオールは分子量が約200〜約600ダルトンのポリエチレングリコールであり、界面活性剤はポリオキシエチレンソルビタンモノエステルである。本発明のある種の具体的な実施態様においては、薬学的に許容しうる担体は、約40%(v/v)〜約70%(v/v)エタノール、約5%(v/v)〜約20%(v/v)グリセロール、約5%(v/v)〜約20%の(v/v)ポリソルベート80、及び約5%(v/v)〜約30%(v/v)ポリエチレングリコールを含む。本発明のある種の更に具体的な実施態様においては、薬学的に許容しうる担体は、約60%(v/v)エタノール、約10%(v/v)グリセロール、約10%(v/v) PEG 400、及び約10%(v/v)ポリソルベート80を含む。本発明の他の更に具体的な実施態様においては、薬学的に許容しうる担体は、約50%(v/v)エタノール、約10%(v/v)プロピレングリコール、約30%(v/v) PEG 400、及び約10%(v/v)ポリソルベート80を含む。
【0018】
本発明のある種の具体的な実施態様においては、アルコールはエタノールであり、グリコールはグリセロール及びプロピレングリコールからなる群より選ばれ、ポリオールは分子量が約200〜約600ダルトンのポリエチレングリコールであり、界面活性剤はSolutol(登録商標) HS-15である。本発明のある種の具体的な実施態様においては、薬学的に許容しうる担体は、約40%(v/v)〜約80%(v/v)エタノール、約10%(v/v)〜約40%(v/v) Solutol(登録商標) HS-15、及び5%(v/v)〜約40%(v/v)ポリエチレングリコールを含む。本発明のある種の更に具体的な実施態様においては、薬学的に許容しうる担体は、約50%(v/v)エタノール、約30%(v/v) PEG400、及び約20%(v/v) Solutol(登録商標) HS-15を含む。本発明の他の更に具体的な実施態様においては、薬学的に許容しうる担体は、約65%(v/v)エタノール、約10%(v/v) PEG400、及び約25%(v/v) Solutol(登録商標) HS-15を含む。
本発明のある種の実施態様においては、デオキシエポチロンは、上記の薬学的に許容しうる担体の1つに約0.1mg/ml〜約100mg/mlの濃度で溶解する。本発明の具体的な実施態様においては、デオキシエポチロンは、上記の薬学的に許容しうる担体の1つに約1mg/ml〜約50mg/mlの濃度で溶解する。本発明の更に具体的な実施態様においては、デオキシエポチロンは、上記の薬学的に許容しうる担体の1つに約1mg/ml〜約10mg/mlの濃度で溶解する。本発明の更に具体的な実施態様においては、デオキシエポチロンは、上記の薬学的に許容しうる担体の1つに約8mg/ml〜約10mg/mlの濃度で溶解する。
上記の医薬濃縮物は、好ましくは、例えば、例えば、0.2ミクロンフィルタを用いて、滅菌ろ過膜による前記製剤のろ過によって滅菌形態で調製される。液体形態のあらゆる組成物の無菌配合、無菌バイアルの調製と充填、無菌条件下での非経口使用のための液体の希釈及び/又は併用は、当業者にとって周知である。
本発明の医薬濃縮物は、前記製剤に非反応性である材料でできている、あらゆる都合のいい容器、例えば、バイアル、二室バイアルシステム、又はアンプルに入れることができる。典型的には、容器は、ガラス、例えば、ホウケイ酸塩ガラス又はソーダ石灰ガラスででき、無色でもよく光分解を防止するために色がついていてもよい。バイアルは、従来技術において慣用のあらゆる容積を有してもよく、好ましくは1〜10mlの濃縮物を収容するのに充分なサイズを有する。より好ましくは、バイアルは、濃縮物と非経口投与に適している医薬組成物の調製に必要とされる希釈剤を収容するのに充分なサイズを有する。容器は、好ましくは、滅菌の条件下で容器に又は容器から液体の移動を可能にすることができる、突き刺すことができるクロージャ、例えば、滅菌ゴム栓又は隔壁キャップを収容することができる。容器は、貯蔵時に酸化分解反応を遅延させるために、例えば、窒素又はアルゴンガスを用いて、不活性雰囲気において充填することができる。
【0019】
非経口投与に適切な形態の本発明の医薬組成物は、滅菌水、食塩水、又は水性デキストロースへの上記の濃縮物の適切な希釈によって得ることができる。本発明の一実施態様においては、濃縮物は、滅菌ろ過された注射用水(WFI)、5%水性デキストロース、0.9%食塩水、又は0.45%食塩水に1:5又は1:10(v/v)に希釈される。
本発明の組成物は、デオキシエポチロン、例えば、凍結物のような結晶形態又はアモルファス固態のあらゆる適切な形態を担体に溶解し、続いて上記の通りに適切な容器に滅菌ろ過することによって調製することができる。本発明の一実施態様においては、デオキシエポチロンは、まず第1賦形剤に溶解されて、エポチロンの適切な量を与えるように適切な容器に分配される濃縮保存溶液を得る。次に、残りの賦形剤が充分に混合しながら適切な量で容器に添加され、最終組成物が最終バイアルに滅菌ろ過される。本発明の具体的な一実施態様においては、デオキシエポチロンは、まずエタノールに約10mg/ml〜約100mg/mlの濃度で溶解され、所望の最終量のデオキシエポチロンを得るように適切なアリコートが最終バイアルへ移される。均一溶液が形成されるような順序で他の賦形剤が添加される。賦形剤の添加の適切な順序は、当業者によって容易に決定することができる。
水性媒体への希釈前か希釈後のデオキシエポチロン製剤の安定性は、例えば、下記の実施例4に示されるように沈殿の形成又は結晶化又は相分離に対する目視検査によって、容易に決定される。或はまた、光散乱に基づく自動化又は半自動化技術を用いることができる。製剤は、また、下記の実施例5に示されるように浸透圧測定を用いて調べることができる。本発明の製剤におけるデオキシエポチロンの安定性は、例えば、下記の実施例1に示されるようにHPLC分析によって容易に求めることができる。
本発明は、以下の実施例によって示され、本発明の範囲を制限することを意味しない。
【実施例】
【0020】
(実施例1−エポチロンDのHPLC分析)
エポチロンDを、以下の通りHPLCを用いて分析した。移動層Aは、450mlの水(逆浸透によって精製される)、550mlのアセトニトリル(HPLCグレード)、及び1.25mlの氷酢酸からなった。移動層B は、100mlの水(逆浸透によって精製される)、900mlのアセトニトリル(HPLCグレード)、及び1.0mlの氷酢酸からなった。10mgのエポチロンDを10mlのメタノールに溶解することによってエポチロンDの1mg/ml標準品を調製した。この1mg/ml標準品をメタノールに希釈することによって、希釈された標準試料を調製した。クロマトグラフィは、ZORBAX 4.6×150 mm Eclipse(登録商標) C8カラム(Agilent)を備えたヒューレットパッカード1100HPLC系を用いて、35℃のカラム温度で1.0ml/分の流速を用いて、250nmでのUV検出を用いて、4nmバンド幅により、基準として360nmを用いて行った。溶媒勾配は、以下の通り: t = 0分、%B = 0; t = 12分、%B = 0%; t = 14分、%B = 100%; t = 20分、%B = 100%; t = 22分、%B = 0%; t = 35分、%B = 0%35分かけて行った。これらの条件下で、エポチロンDが10.1分で溶離した。少量の不純物は、以下の通り: エポチロンC、8.0分; 10,11-デヒドロエポチロンD、8.9分; エポチロンC10、11.9分に溶離することがわかった。エポチロンDは、標準曲線と比較してUVピークの下の面積を用いて定量した。この定量法は、0.4mg/ml溶液の6つの別々の調製物の6回の注入を用いて相対誤差≦2.2%を示した。注入誤差は、同じ0.4mg/ml溶液の6回の注入を用いて≦0.3%であることがわかった。一連の標準溶液の分析から、1回の注入につきエポチロンDの少なくとも1〜10μgで直線性を示した。この方法を用いたエポチロンDの検出の下限は0.08μgであり、定量化の下限は0.23マイクログラムのエポチロンDであった。
【0021】
(実施例2−エポチロンDの確認)
エポチロンD(ロット# K360-38-A)を、変調示差走査熱量測定法(MDSC)によって分析して材料の融解温度と均一性を確認した。エポチロンD(9.5mg)をアルミニウム製鍋に入れ、アルミニウムリッドによって密封した。試料を、MDSCセル(MDSC 2920、TA Instruments)に入れ、次のプログラム: (1) 20.00℃で平衡化する; (2) 5.00分間等温である; (3) 60秒毎に±1.00℃を調整する; (4) データ記憶オン; (5) 200.00℃まで1.00℃/分の傾斜をつける; (6) 200.00℃で平衡化する; (7) 5.00分間等温である; (8) データ記憶オフ; (9) 20.00℃まで10.00℃/分の傾斜をつける; (10) 方法を終了する。得られたサーモグラムは、122.6℃で単一の融解転移を示した。ガラス転移温度も〜66℃であった。
【0022】
(実施例3−種々の製剤におけるエポチロンDの溶解性)
エポチロンD(100mg/ml)の保存溶液を、エタノール中で調製した。次の表に示されるように、エタノール、プロピレングリコール、グリセロール、PEG400、及び/又はTween(登録商標)80の必要量をエポチロンD保存溶液の適切な容積に添加することによって、10mg/mlのエポチロンDを含有するエポチロンD製剤を調製した。各バイアルにおけるエポチロンDの溶解性は、穏やかにかきまわすことによって視覚的に見た。各製剤を、0.2のミクロンPVDF(ポリフッ化ビニリデン)フィルタによってシリンジろ過した。続いて、各製剤を逆浸透脱イオン水(RODI)、5%デキストロース(D5W)又は0.9%食塩水に1:10に希釈した。希釈時に、調製時に、周囲温度でインキュベートした1時間後と19時間又は30時間後に目視観察をした。透明なまま(“透明”)か又は沈殿(“ppt”)か又は結晶化(xtal”)溶液が見られた。
一実験においては、10mg/mlのエポチロンDを含有する製剤において一定の10%Tween(登録商標)80とのエタノール(EtOH)とPEG400(PEG)の割合の変化の影響を、表1に示されるように求めた。(表1と次の表において、パーセントは全て、容積パーセントである。)
【0023】
【表1】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0024】
他の実験においては、10mg/mlのエポチロンDを含有する製剤において一定の10%Tween(登録商標)80とのエタノール(EtOH)とPEG400(PEG)の割合の変化の影響を表2に示されるように求めた。
【0025】
【表2】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0026】
他の実験においては、10mg/mlのエポチロンDを含有する製剤において一定の60%エタノールとのTween(登録商標)80とプロピレングリコール(PG)の割合の変化の影響を表3に示されるように求めた。
【0027】
【表3】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0028】
他の実験においては、10mg/mlのエポチロンDを含有する製剤において一定の40%プロピレングリコール(PG)とのTween(登録商標)80とエタノールの割合の変化の影響を表4に示されるように求めた。
【0029】
【表4】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0030】
他の実験においては、10mg/mlのエポチロンDを含有する製剤において一定の60%PEG400とのTween(登録商標)80とエタノールの割合の変化の影響を表5に示されるように求めた。
【0031】
【表5】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0032】
他の実験においては、10mg/mlのエポチロンDを含有する製剤において一定の60%エタノールとのTween(登録商標)80とPEG400(PEG)の割合の変化の影響を表6に示されるように求めた。
【0033】
【表6】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0034】
他の実験においては、10mg/mlのエポチロンDを含有する製剤において一定の10%Tween(登録商標)80とのエタノール(EtOH)との割合の変化の影響を表7に示されるように求めた。
【0035】
【表7】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0036】
他の実験においては、10mg/mlのエポチロンDを含有する製剤において一定の10%Tween(登録商標)80とのPEG400(PEG)とグリセロール(Glyc)の割合の変化の影響を表8に示されるように求めた。
【0037】
【表8】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化;“imm”= 混ざらない
【0038】
他の実験においては、10%Tween(登録商標)80と種々の量のエタノール、PEG400、プロピレングリコール(PG)、及び/又はグリセロール(Glyc)を含む組成物における10mg/mlエポチロンDの溶解性を表9に示されるように求めた。
【0039】
【表9】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0040】
(実施例4−希釈安定性)
種々の製剤における8-20mg/mlのエポチロンD製剤の希釈安定性を調べた。エポチロンD(100mg/ml)の保存溶液を、エタノール中で調製した。次の表に示されるように、エタノール、PEG400、10%Tween(登録商標) 80、及びプロピレングリコールか又はグリセロールの必要量をエポチロンD保存溶液の適切な容積に添加することによってエポチロンD製剤を調製した。各バイアルにおけるエポチロンDの溶解性を、穏やかにかきまわした後に視覚的に見た。各製剤を、0.2ミクロンPVDFフィルタでシリンジろ過した。続いて、各製剤を逆浸透脱イオン水(RODI)又は0.9%食塩水に1:8、1:10、又は1:12に希釈した。希釈時に、調製時に、周囲温度でインキュベートした1時間後と24時間後に、目視観察した。表10と表11に示されるように、透明なまま(“透明”)か又は沈殿(“ppt”)か又は結晶化(xtal”)溶液が見られた。
【0041】
【表10】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0042】
【表11】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0043】
希釈後48時間までの希釈安定性について、下記の表12及び表13にまとめたように、RODI水か又は0.45%食塩水に1:10に希釈した後の8-11mg/mlのエポチロンDを含有する上記の製剤を調べた。
【0044】
【表12】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0045】
【表13】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0046】
(実施例5−Solutol(登録商標) HS-15を含む製剤)
Solutol(登録商標) HS-15を含む3つの製剤におけるエポチロンDの溶解性を調べた。適切な量の補形剤を併用することによって3つの賦形剤: (1)賦形剤A: 20%のSolutol(登録商標) HS-15、30%のPEG400、及び50%のエタノール; (2)賦形剤C: 20%のSolutol(登録商標) HS-15、20%のPEG400、10%のプロピレングリコール、及び50%のエタノール; 及び賦形剤D: 20%のSolutol(登録商標) HS-15、10%のPEG400、20%のプロピレングリコール及び50%のエタノールを調製した。約25mgのエポチロンDを、3つのガラスバイアルの各々に計量した。適切な容積の3つの賦形剤をバイアルに添加して、10mg/mlの最終エポチロンD濃度を得、それぞれ製剤A、C、Dを得た。
希釈安定性実験については、5つの種々の希釈剤: (1)注射用水(WFI); (2)0.9%の食塩水; (3)0.45%の食塩水; (4)5%デキストロース; (5)2.5%デキストロースを用いて製剤を1:10と1:5に希釈した。希釈された製剤の物理的外観を、72時間かけてモニタし、
水希釈試料中のエポトロンDの濃度とクロマトグラフィ純度を、HPLCによって求めた。希釈された製剤の浸透圧モル濃度を、製造業者の推奨された手順に従ってVapro 5520蒸気圧浸透圧計を用いて測定した。浸透圧モル濃度(ミリオスモル(mOsmol)/kg)を表14の下に示す。
【0047】
【表14】

【0048】
【表15】

略語:“ppt”= 沈殿;“xtal”= 結晶化
【0049】
【表16】

【0050】
【表17】

【0051】
表14-17のこれらの結果は、賦形剤Aと賦形剤Cにおいて10mg/mlでエポチロンDを含む製剤が周囲温度で少なくとも48時間安定である1:10及び1:5の希釈溶液を与えることを示している。これらの希釈液中のエポチロンDの純度は、周囲温度で48時間後に98%より大きいままであった。
本発明のある種の実施態様を上記例によって示してきたが、本願明細書に明確に記載されていない本発明の多く代替的実施態様を本発明が包含していることは、薬理学及び医薬の当業者にとって明らかである。更に、本発明をある種の好ましい実施態様によって特に記載してきたが、本発明はかかる好ましい実施態様に限定されない。むしろ、本発明の範囲は、添付の請求の範囲によって定義される。
参考文献が明確に含まれていない参考文献は全て全体で本願明細書に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシエポチロンの均一な溶液を薬学的に許容しうる担体と共に含む医薬組成物であって、前記薬学的に許容しうる担体がアルコール、グリコール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエステル、ポリ(C2-C3)アルキレングリコール、及びSolutol(登録商標)HS-15からなる群より選ばれた1以上の成分を含み、水性媒体への希釈の前後に物理的且つ化学的に安定な溶液を与える前記医薬組成物。
【請求項2】
前記デオキシエポチロンが約0.1mg/ml〜約100mg/mlで存在し、薬学的に許容しうる担体がエタノール、グリセロール、ポリエチレングリコール、及びポリオキシエチレンソルビタンモノエステルを含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記薬学的に許容しうる担体が、約40%〜約70%のエタノール、約5%〜約15%のグリセロール、約10%〜約40%のPEG 400、及び約5%〜約15%のポリソルベート80を含む、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記薬学的に許容しうる担体が、約60%のエタノール、約10%のグリセロール、約20%のPEG 400、及び約10%のポリソルベート80を含む、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が、約1mg/ml〜約20mg/mlのエポチロンDを含む、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が、約1mg/ml〜約10mg/mlのエポチロンDを含む、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、約10mg/mlのエポチロンDを含む、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記デオキシエポチロンが、約1mg/ml〜約100mg/mlで存在し、前記薬学的に許容しうる担体が、エタノール、プロピレングリコール、PEG400、及びポリソルベート80を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記薬学的に許容しうる担体が、約40%〜約70%のエタノール、約5%〜約15%のプロピレングリコール、約10%〜約40%のPEG400、及び約5%〜約15%のポリソルベート80を含む、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記薬学的に許容しうる担体が、約50%のエタノール、約10%のプロピレングリコール、約30%のPEG400、及び約10%のポリソルベート80を含む、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、約1mg/ml〜約20mg/mlのエポチロンDを含む、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記医薬組成物が、約1mg/ml〜約10mg/mlのエポチロンDを含む、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物が、約10mg/mlのエポチロンDを含む、請求項10記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記デオキシエポチロンが、約1mg/ml〜約100mg/mlで存在し、前記薬学的に許容しうる担体が、エタノール、PEG400、及びSolutol HS-15を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記薬学的に許容しうる担体が、約40%〜約70%のエタノール、約10%〜約40%のPEG400、及び約10%〜約30%のSolutol HS-15を含む、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記薬学的に許容しうる担体が、約50%のエタノール、約30%のPEG400、及び約20%のSolutol HS-15を含む、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記医薬組成物が、約1mg/ml〜約20mg/mlのエポチロンDを含む、請求項16記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記医薬組成物が、約1mg/ml〜約10mg/mlのエポチロンDを含む、請求項16記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物が、約10mg/mlのエポチロンDを含む、請求項16記載の医薬組成物。
【請求項20】
その治療を必要としている患者に対して、デオキシエポチロンでの治療に感受性がある増殖性疾患を治療するための方法であって、
(a) 請求項1記載の医薬組成物を水性媒体で希釈して、注入液を形成する段階; 及び
(b) 治療的に有効な量のデオキシエポチロンを与えるように注入液を患者に非経口的に投与する段階
を含む、前記方法。

【公表番号】特表2007−533739(P2007−533739A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509474(P2007−509474)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/009541
【国際公開番号】WO2005/105081
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(504269110)コーザン バイオサイエンシス インコーポレイテッド (17)
【Fターム(参考)】