説明

デオキシムギネ酸合成酵素およびその利用

【課題】ニコチアナミンのケト体(3”−Keto intermediate)を2’−デオキシムギネ酸(2’−Deoxymugineic Acid)に還元する酵素(DMAS)および当該酵素をコードする遺伝子を提供する。
【解決手段】ニコチアナミンアミノ基転移酵素(NAAT)によりニコチアナミン(Nicotinanamne)からニコチアナミンのケト体を合成する。試料をニコチアナミンのケト体とともにインキュベートし、合成された2’−デオキシムギネ酸の量を測定する。以上により上記試料が、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素活性を有するかを測定する。マイクロアレイ解析より得たデオキシムギネ酸合成酵素の候補タンパク質に対し、上記の測定を行うことによりデオキシムギネ酸合成酵素を同定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物が土壌から鉄を獲得する機構に関与する酵素に関するものであり、より詳細には、イネ科植物のムギネ酸類を生合成する経路において、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物は、細胞での様々な事象(例えば、呼吸、クロロフィルの生合成、光合成における電子伝達等)に必要とされる重要な元素である鉄を、土壌より取り込んで利用する。
【0003】
鉄は、土壌中に豊富に含まれているが、主に三価鉄化合物として存在するために、中性あるいはアルカリ性の土壌では土壌溶液中にほとんど溶解していない。そのため、植物は、鉄を土壌から獲得するための機構を発展させた。
【0004】
非イネ科植物では、まず、根圏へのプロトンの排出を強化することによって、土壌のpHを低下させる。また、三価鉄還元酵素の発現を誘導し、根の表面において、鉄を鉄(II)形態へ還元して可溶性をより向上させる。そして、生成された鉄(II)イオンを根の原形質膜に存在する二価鉄トランスポーターを介して体内へ輸送する。
【0005】
一方、イネ科植物では、ムギネ酸ファミリーファイトシデロフォア(MAs:以下ムギネ酸類)と呼ばれる鉄キレート物質を根から分泌して土壌中の鉄を可溶化する。生成された鉄(III)−MAs複合体は特定のトランスポーターを介して根へと再吸収される。ここで、ムギネ酸類の合成および分泌は、鉄の欠乏に応じて著しく増加する。そして、イネ科植物における鉄欠乏耐性は、分泌されるムギネ酸類の量および質と強く相関する。例えば、イネ、コムギおよびトウモロコシは、2’−デオキシムギネ酸(DMA)のみを比較的少量分泌するため、鉄の供給低下に対し感受性が高い。反対に、オオムギは、ムギネ酸(MA)、3−ヒドロキシムギネ酸(HMA)および3−エピヒドロキシムギネ酸(epi−HMA)を含む様々なムギネ酸類を大量に分泌するため、利用可能な鉄が少ない状況であっても生育可能である。
【0006】
ムギネ酸類に関する生合成経路を図1に示す。ムギネ酸類はL−メチオニンから合成が開始される。ニコチアナミン合成酵素(NAS)は、S−アデノシル−L−メチオニン(SAM)の三量化を触媒して、ニコチアナミン(NA)を形成させる。NAは、ニコチアナミンアミノ基転移酵素(NAAT)によって、アミノ基が転移され、3”−ケト中間体へと変換される。続いて上記ケト中間体の3”−炭素が還元されることにより、DMAが生産される。DMAは、上記経路中において初めて合成されるMAsである。全てのムギネ酸類の生合成経路は、L−メチオニンからDMAまでは共通であるが、DMAより後のステップは、植物の品種に依存して変化する。ムギネ酸類の生合成経路に関与するほぼ全ての遺伝子が、本発明者らの研究室において同定されており、現在までに、7種類のムギネ酸類が同定されている。
【0007】
現在までに単離された、鉄欠乏により誘導されるオオムギのムギネ酸類生合成に関わる全ての遺伝子の発現は、ほぼ根に限られている。このことは、これらの遺伝子の根特異的な発現が、鉄欠乏に対するオオムギの強い耐性にとって重要であることを示唆する。一方、鉄欠乏により誘導されるムギネ酸類生合成に関わるイネの遺伝子の多くは、根と地上部との両方で発現している。
【0008】
ムギネ酸類の生合成経路において、3”−ケト中間体をDMAへと変換する酵素の存在が提案されており、本酵素が同定されればムギネ酸類の生合成経路は完全に解明される。この3”−ケト中間体をDMAへと変換する酵素は、その活性がNAD(P)Hに依存することが報告された。特に、特許文献1には、上記3”−ケト中間体をDMAへと変換する酵素が記載されており、本酵素の配列情報はデータベース登録されている(非特許文献1−2)。
【特許文献1】国際公開WO2002/077240パンフレット(平成14年10月3日公開)
【非特許文献1】http://srs.ddbj.nig.ac.jp/cgi−bin/wgetz?−id+4Xl771StX6D+−e+[DADRELEASE:’BAC10594.1’]
【非特許文献2】http://srs.ddbj.nig.ac.jp/cgi−bin/wgetz?−id+4Xl771StX6l+−e+[DADRELEASE:’BAC10595.1’]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1に記載の酵素が上記3”−ケト中間体をDMAへと変換する活性を有していないことを確認した。すなわち、上記活性を有する酵素は未だ同定されていない。そのため、上記酵素および当該酵素をコードする遺伝子を利用することは不可能であった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これまでは、ニコチアナミンのケト体から2’−デオキシムギネ酸への還元活性については、不正確な測定方法しか知られていなかった。この原因としては、ニコチアナミンの3”−ケト中間体が不安定な化合物であり、化学的に合成することが容易ではないこと、および、上記酵素が得られていない状態では当該酵素の最適反応条件は不明であったことなどが挙げられる。
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素活性を測定する方法を確立し、当該方法を用いて、種々のイネ科植物のデオキシムギネ酸合成酵素を同定することにより、本発明を完成させた。
【0013】
なお、本明細書中で使用される場合、「ニコチアナミンのケト体」とは、「ニコチアナミンの3”−炭素がケトンである中間体」をいい、本明細書中において、「3”−ケト中間体」と交換可能に用いられる。また、本明細書中で使用される場合、「ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する」とは、上記3”−炭素を還元することをいう。
【0014】
すなわち、本発明に係るポリペプチドは、配列番号1、3、5または7の何れかに示されるアミノ酸配列からなることを特徴としている。
【0015】
また、上記ポリペプチドは、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元するものであれば、配列番号1、3、5または7の何れかに示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。
【0016】
本発明に係るポリヌクレオチドは上記ポリペプチドをコードすることを特徴としている。
【0017】
また、上記ポリヌクレオチドは、配列番号2、4、6または8の何れかに示される塩基配列からなることが好ましい。
【0018】
さらに、上記ポリヌクレオチドは、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素をコードするものであれば、配列番号2、4、6または8の何れかに示される塩基配列において、1または数個の塩基が置換、欠失または付加されている塩基配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。
【0019】
また、上記ポリヌクレオチドは、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素をコードするものであれば、配列番号2、4、6または8の何れかに示される塩基配列の相補配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドであってもよい。
【0020】
本発明に係るベクターは上記ポリヌクレオチドを含むことを特徴としている。
【0021】
本発明に係る形質転換体は、上記ポリヌクレオチドが導入されていることを特徴としている。
【0022】
本発明に係る鉄欠乏耐性を有する植物の作製方法は、上記ポリヌクレオチドを植物に導入する工程を含むことを特徴としている。
【0023】
上記鉄欠乏耐性を有する植物の作製方法は、ニコチアナミンアミノ基転移酵素遺伝子、ニコチアナミン合成酵素遺伝子およびS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素遺伝子からなる群から選ばれるポリヌクレオチドの少なくとも一つを植物に導入する工程をさらに含むことが好ましい。
【0024】
本発明に係る抗体は、上記ポリペプチドと特異的に結合することを特徴としている。
【0025】
本発明に係る2’−デオキシムギネ酸を合成する方法は、上記ポリペプチドをニコチアナミンのケト体とともにインキュベートする工程を含むことを特徴としている。
【0026】
本発明に係る2’−デオキシムギネ酸を合成する方法は、上記ポリペプチドを、ニコチアナミンおよびニコチアナミンアミノ基転移酵素とともにインキュベートする工程を含むことが好ましい。
【0027】
本発明に係る2’−デオキシムギネ酸を合成するための酵素組成物は、上記ポリペプチドを含んでいることを特徴としている。
【0028】
本発明に係る2’−デオキシムギネ酸を合成するための酵素キットは、上記ポリペプチドを備えていることを特徴としている。
【0029】
上記酵素キットはニコチアナミンアミノ基転移酵素をさらに備えていることが好ましい。
【0030】
本発明に係る酵素活性を測定する方法は、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素活性を測定する方法であって、測定すべき試料をニコチアナミンのケト体とともにインキュベートする工程と、当該インキュベートする工程によって生成された2’−デオキシムギネ酸の量を測定する工程と、を含むことを特徴としている。
【0031】
本発明に係る酵素活性を測定する方法は、コチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素活性を測定する方法であって、測定すべき試料をニコチアナミンおよびニコチアナミンアミノ基転移酵素とともにインキュベートする工程と、当該インキュベートする工程によって生成された2’−デオキシムギネ酸の量を測定する工程と、を含むことが好ましい。
【0032】
本発明に係る鉄欠乏耐性を有する植物のスクリーニング方法は、植物の抽出物を上記抗体とともにインキュベートする工程を含むことを特徴としている。
【0033】
上記スクリーニング方法では、上記抽出物を、ニコチアナミンアミノ基転移酵素、ニコチアナミン合成酵素またはS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素に対する抗体の少なくとも一つとともにインキュベートする工程をさらに含むことが好ましい。
【0034】
本発明に係る鉄欠乏耐性を有する植物のスクリーニング方法は、また、植物の抽出物を、上記ポリヌクレオチドとインキュベートする工程を含むものであってもよい。
【0035】
上記スクリーニング方法では、上記抽出物を、ニコチアナミンアミノ基転移酵素遺伝子、ニコチアナミン合成酵素遺伝子またはおよびS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素遺伝子の少なくとも一つとインキュベートする工程をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明を使用すれば、鉄欠乏耐性を有する植物を容易にスクリーニングまたは作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
〔1:デオキシムギネ酸合成酵素〕
1つの局面において、本発明は、デオキシムギネ酸合成酵素を提供する。本明細書中で使用される場合、「デオキシムギネ酸合成酵素」は、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する活性を有するポリペプチドが意図される。
【0038】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
【0039】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0040】
本発明の理解を容易にするために、2’−デオキシムギネ酸(2’−Deoxymugineic Acid)の合成経路を図1に示す。図1を参照すれば、本明細書を読んだ者は、デオキシムギネ酸合成酵素(DMAS)とは、ニコチアナミンのケト体(3”−Keto intermediate)を2’−デオキシムギネ酸(2’−Deoxymugineic Acid)に還元する酵素であることが容易に理解し得る。
【0041】
本発明に係るポリペプチドは、イネ科植物のデオキシムギネ酸合成酵素であることが好ましく、配列番号1、3、5または7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドあるいはその変異体であることがより好ましい。
【0042】
本明細書中においてタンパク質またはポリペプチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、目的のポリペプチドが有する特定の活性を保持したポリペプチドが意図され、「配列番号1、3、5または7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体」は、デオキシムギネ酸合成酵素活性(すなわち、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する活性)を有するポリペプチドが意図される。
【0043】
ポリペプチドを構成するアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0044】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体がデオキシムギネ酸合成酵素活性を有するか否かを容易に決定し得る。
【0045】
好ましい変異体は、保存性または非保存性アミノ酸置換、欠失、または付加を有する。これらは、本発明に係るポリペプチドのデオキシムギネ酸合成酵素活性を変化させない。
【0046】
このように、本実施形態に係るポリペプチドは、デオキシムギネ酸合成酵素活性を有するポリペプチドであって、(1)配列番号1、3、5もしくは7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、(2)配列番号1、3、5もしくは7に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、であることが好ましい。
【0047】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0048】
本発明に係るポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖およびイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0049】
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、His、Myc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0050】
他の局面において、本発明は、デオキシムギネ酸合成酵素(すなわち、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する活性を有するポリペプチド)の生産方法を提供する。
【0051】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いることを特徴とする。
【0052】
本実施形態の1つの局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターが組換え発現系において用いられることが好ましい。組換え発現系を用いる場合、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能な宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られるポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを宿主に導入する工程を包含する。
【0053】
このように宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0054】
本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドを含む細胞または組織の抽出液から当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
【0055】
本実施形態の他の局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターが無細胞タンパク質合成系において用いられることが好ましい。無細胞タンパク質合成系を用いる場合、種々の市販のキットが用いられ得る。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターと無細胞タンパク質合成液とをインキュベートする工程を包含する。
【0056】
無細胞タンパク質合成系は細胞内mRNAやクローニングされたcDNAにコードされているさまざまなタンパク質の同定等に広く用いられる手法であり、無細胞タンパク質合成系(無細胞タンパク質合成法、無細胞タンパク質翻訳系とも呼ぶ)に用いられるのが無細胞タンパク質合成液である。
【0057】
無細胞タンパク質合成系としては、コムギ胚芽抽出液を用いる系、ウサギ網状赤血球抽出液を用いる系、大腸菌S30抽出液を用いる系、および植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液が挙げられる。一般的には、真核生物由来遺伝子の翻訳には真核細胞の系、すなわち、コムギ胚芽抽出液を用いる系またはウサギ網状赤血球抽出液を用いる系のいずれかが選択されるが、翻訳される遺伝子の由来(原核生物/真核生物)や、合成後のタンパク質の使用目的を考慮して、上記合成系から選択されればよい。
【0058】
なお、種々のウイルス由来遺伝子産物は、その翻訳後に、小胞体、ゴルジ体等の細胞内膜が関与する複雑な生化学反応を経て活性を発現するものが多いので、各種生化学反応を試験管内で再現するためには細胞内膜成分(例えば、ミクロソーム膜)が添加される必要がある。植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液は、細胞内膜成分を保持した無細胞タンパク質合成液として利用し得るのでミクロソーム膜の添加が必要とされないので、好ましい。
【0059】
本明細書中で使用される場合、「細胞内膜成分」は、細胞質内に存在する脂質膜よりなる細胞小器官(すなわち、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、葉緑体、液胞などの細胞内顆粒全般)が意図される。特に、小胞体およびゴルジ体はタンパク質の翻訳後修飾に重要な役割を果たしており、膜タンパク質および分泌タンパク質の成熟に必須な細胞成分である。
【0060】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドを天然に発現する細胞または組織から当該ポリペプチドを精製することが好ましい。本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、後述する抗体またはオリゴヌクレオチドを用いて本発明に係るポリペプチドを天然に発現する細胞または組織を同定する工程を包含することが好ましい。また、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。
【0061】
さらに他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを化学合成することを特徴とする。当業者は、本明細書中に記載される本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて周知の化学合成技術を適用すれば、本発明に係るポリペプチドを化学合成できることを、容易に理解する。
【0062】
以上のように、本発明に係るポリペプチドを生産する方法によって取得されるポリペプチドは、天然に存在する変異ポリペプチドであっても、人為的に作製された変異ポリペプチドであってもよい。
【0063】
このように、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、少なくとも、当該ポリペプチドのアミノ酸配列、または当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて公知慣用技術を用いればよいといえる。つまり、上述した種々の工程以外の工程を包含する生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0064】
なお、本発明に係るポリペプチドの変異体が所望のデオキシムギネ酸合成酵素活性を有するか否かを決定するための方法としては、〔7〕に後述するデオキシムギネ酸合成酵素活性の測定方法を用いることができる。
【0065】
〔2:デオキシムギネ酸合成酵素遺伝子〕
1つの局面において、本発明は、デオキシムギネ酸合成酵素をコードする遺伝子を提供する。本明細書中で使用される場合、「デオキシムギネ酸合成酵素をコードする遺伝子」は、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図される。
【0066】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0067】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするものであることが好ましい。特定のポリペプチドのアミノ酸配列が得られた場合、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を容易に設計することができる。
【0068】
本発明に係るポリヌクレオチドは、イネ科植物のデオキシムギネ酸合成酵素をコードする遺伝子であることが好ましく、配列番号2、4、6または8に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドあるいはその変異体であることがより好ましい。
【0069】
本明細書中においてポリヌクレオチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、特定のポリペプチドの活性と同じ活性を保持しているポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図され、「配列番号2、4、6または8の何れかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの変異体」は、デオキシムギネ酸合成酵素活性(すなわち、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する活性)を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図される。すなわち、本明細書中で使用される場合、ポリヌクレオチドの観点における変異体は、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、
・配列番号2、4、6または8の何れかに示される塩基配列において、1または数個の塩基が置換、欠失または付加されている塩基配列からなるポリヌクレオチド;あるいは
・配列番号2、4、6または8の何れかに示される塩基配列の相補配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチド
であり得る。
【0070】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、または、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0071】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
【0072】
本発明に係るポリヌクレオチドはまた、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0073】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。
【0074】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30ntより長いポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。このようなポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、本明細書中においてより詳細に考察されるような検出用プローブとしても有用である。
【0075】
以上のように、本発明に係るポリヌクレオチドは、デオキシムギネ酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下のいずれかであることが好ましい:(1)配列番号2、4、6もしくは8に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;(2)配列番号2、4、6もしくは8に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が置換、欠失もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、(3)配列番号2、4、6もしくは8に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が置換、欠失もしくは付加された塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0076】
本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列またはベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0077】
なお、本発明に係るベクターは、周知の遺伝子組換え技術により、本発明に係るポリヌクレオチドを所定のベクターに挿入することにより作製することができる。上記ベクターとしては、これに限定されるものではないが、後述する組換え発現ベクターの他に、クローニングベクターを用いることができる。
【0078】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、生物材料であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「生物材料」は、生物学的サンプル(生物体から得られた組織サンプルまたは細胞サンプル)が意図され、下述する実施例においては、イネ科植物(特に、イネ、オオムギ、コムギおよびトウモロコシ)が用いられているが、これらに限定されない。
【0079】
〔3:抗体〕
本発明は、デオキシムギネ酸合成酵素(すなわち、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する活性を有するポリペプチド)と特異的に結合する抗体を提供する。本発明に係る抗体は、上記ポリペプチドと特異的に結合し得るものであれば限定されず、当該ポリペプチドに対するポリクローナル抗体等でもよいが、当該ポリペプチドに対するモノクローナル抗体であることが好ましい。モノクローナル抗体は、性質が均一で供給しやすい、ハイブリドーマとして半永久的に保存ができるなどの利点を有する。
【0080】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体および抗イディオタイプ抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0081】
なお、「抗体」は、種々の公知の方法に従えば作製され得る。例えば、モノクローナル抗体は、当該分野において公知の技術(例えば、ハイブリドーマ法(Kohler,G.およびMilstein,C.,Nature 256,495−497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,Immunology Today 4,72(1983))およびEBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss,Inc.,77−96(1985))などを参照のこと)を用いれば容易に作製され得る。
【0082】
また、ペプチド抗体は、当該分野に公知の方法(例えば、Chow,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:910−914;およびBittle,F.J.ら、J.Gen.Virol.66:2347−2354(1985)(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。)に従えば容易に作製され得る。
【0083】
FabおよびF(ab’)ならびに本発明に係る抗体の他のフラグメントが、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることは、当業者には明白である。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生され得る。あるいは、本発明に係るポリペプチドに結合するフラグメントは、組換えDNA技術の適用または化学合成によって産生され得る。
【0084】
このように、本実施形態に係る抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合するフラグメント(例えば、FabフラグメントおよびF(ab’)フラグメント)を備えていればよく、異なる抗体分子のFcフラグメントとからなる免疫グロブリンも本発明に含まれることに留意すべきである。
【0085】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合する抗体およびその利用を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)、抗体作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0086】
〔4:鉄欠乏耐性が付与された植物の作製〕
本発明は、鉄欠乏耐性が付与された植物体を作製するための方法を提供する。本発明に係る植物体の作製方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを植物体内に導入する工程を包含していればよい。一実施形態において、本発明に係る植物体の作製方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを発現していない植物体を、本発明に係るポリヌクレオチドを発現している植物体と交配させる工程を包含する方法であり、形質転換体ではない植物体を作製するに好ましい方法である。
【0087】
他の実施形態において、本発明に係る植物体の作製方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入する工程を包含する方法であり、本実施形態に係る方法に従って鉄欠乏耐性が付与された植物体は、植物形質転換体であり得る。
【0088】
組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられるべきベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクター、または外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。
【0089】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)または植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されないが、イネ科植物であることが好ましく、イネ、オオムギ、コムギまたはトウモロコシであることがさらに好ましい。
【0090】
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられ、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法とに大別される。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著、植物遺伝子操作マニュアル(1990)27〜31頁、講談社サイエンティフィック、東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagelらの方法(Micribiol.Lett.、67、325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlantMolecular Biology Manual(S.B.Gelvinら、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞または植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行う場合には、pBI系のバイナリーベクター(例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221、およびpPZP202など)が使用され得る。
【0091】
また、遺伝子を直接植物細胞または植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。遺伝子銃を用いる場合は、遺伝子を導入する対象として、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS−1000(BIO−RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物または試料によって異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
【0092】
遺伝子が導入された細胞または植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。選択マーカーとしては、ハイグロマイシン耐性に限定されず、例えば、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコールなどに対する薬剤耐性が挙げられる。
【0093】
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法などによって組換えベクターが培養細胞に導入されて形質転換される。形質転換の結果として得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養または器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0094】
遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0095】
本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた形質転換植物体が一旦取得されれば、当該植物体の有性生殖または無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該植物体またはその子孫、あるいはこれらのクローンから、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物体を量産することができる。したがって、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された植物体、または、当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、またはこれら由来の組織も含まれる。
【0096】
また、上述したように、メチオニンから2’−デオキシムギネ酸を生合成する経路には、他のいくつかの酵素が関与している。それらの酵素をコードするポリヌクレオチドを共に植物に導入することにより、さらに鉄欠乏耐性が向上した植物を作製することができる。上記酵素としては、具体的には、ニコチアナミンアミノ基転移酵素、ニコチアナミン合成酵素およびS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素などが挙げられる。
【0097】
これらの酵素は当該分野において周知であり、例えば、イネについては、ニコチアナミンアミノ基転移酵素であるOsNAAT−1が、配列番号19(アミノ酸配列)および配列番号20(塩基配列)に示され、ニコチアナミン合成酵素であるOsNAS1、OsNAS2およびOsNAS3が、それぞれ配列番号21、23および25(アミノ酸配列)ならびに配列番号22、24および26(塩基配列)に示され、S−アデノシル−L−メチオニン合成酵素であるOsSAMS1およびOsSAMS2が、それぞれ配列番号27および29(アミノ酸配列)ならびに配列番号28および30(塩基配列)に示される。
【0098】
なお、イネ以外の植物における上記酵素としては、オオムギのS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素であるHvSAMSが、配列番号31(アミノ酸配列)および配列番号32(塩基配列)に示される。また、以下に示すアクセッション番号(DDBJ/EMBL/GenBank)を参照すれば、所望の酵素のアミノ酸配列および塩基配列を容易に入手することができる:ニコチアナミンアミノ基転移酵素(例えば、D88273およびAB005788(共にオオムギ));ニコチアナミン合成酵素(例えば、AB061270、AB061271、AB042551(以上トウモロコシ)、AB010086、AB011265、AB011264、AB011266、AB011268、AB011269、AB019525、AF136941、AF136942(以上オオムギ)、AB021934、AB021935、AB021936(以上シロイヌナズナ)、AJ242045(トマト))など。
【0099】
なお、ニコチアナミンアミノ基転移酵素、ニコチアナミン合成酵素およびS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素についても、上述した配列番号またはアクセッション番号によって提供される配列を有するものに限定されず、それぞれの酵素活性を有する変異体であってもよい。なお、変異体については、本明細書中での用語定義を参照のこと。また、各ポリヌクレオチドの植物体への導入方法は、上述した本発明に係るポリヌクレオチドの植物体への導入方法に従えばよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0100】
〔5:デオキシムギネ酸合成酵素および遺伝子の利用/鉄欠乏耐性を有する植物のスクリーニング〕
本発明は、鉄欠乏耐性を有する植物をスクリーニングするための方法を提供する。本発明に係る植物のスクリーニング方法は、植物体内で発現されているデオキシムギネ酸合成酵素を検出する工程を包含していればよく、本発明に係るポリペプチドの発現の有無に基づいて、鉄欠乏耐性を有する植物を選抜するものである。
【0101】
上述したように、本発明に係るポリペプチドは、植物が土壌から鉄を獲得する際に重要な働きを有する化合物を合成する。従って、上記ポリペプチドを発現する植物は鉄を獲得する能力が高く、鉄欠乏耐性である。なお、本発明に係る方法に従ってスクリーニングされた植物体は、天然の植物体であっても形質転換体であってもよい。
【0102】
一実施形態において、本発明に係る鉄欠乏耐性を有する植物のスクリーニング方法は、植物からの抽出物を本発明に係る抗体と反応させることにより、本発明に係るポリペプチドを検出する。上述したように上記抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合して免疫複合体を形成するので、当該複合体の形成を検出することにより、植物体内において発現されているデオキシムギネ酸合成酵素を容易に検出することができる。上記複合体の形成は、例えば、上記抗体を予め同位体などで標識する方法、あるいは、上記抗体に対する2次抗体を用いる方法などを用いて検出することができる。具体的には、上記スクリーニング方法は、周知のウェスタンブロット法を用いることができるがこれに限定されない。また、上記植物からの抽出物は、液体窒素を用いた凍結破砕法や、市販の抽出キットを用いて作製することができるが、これらに限定されない。また、本明細書中で使用される場合、「抽出物」は、粗精製物であってもいくつかの精製工程を経た精製標品であってもよい。
【0103】
上述したように、メチオニンから2’−デオキシムギネ酸を生合成する経路には、他のいくつかの酵素が関与している。よって、本発明に係るスクリーニング方法は、デオキシムギネ酸合成酵素以外の酵素をさらに検出することが好ましい。具体的には、本発明に係るスクリーニング方法は、ニコチアナミンアミノ基転移酵素、ニコチアナミン合成酵素およびS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素などに対する抗体を用いて、植物体内における各酵素の発現を検出する工程をさらに包含する。なお、各酵素の発現の検出方法は、上述の本発明に係るポリペプチドの発現の検出方法に従う。
【0104】
他の実施形態において、本発明に係るスクリーニング方法は、本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを、植物からの抽出物とインキュベートする工程を包含する。好ましくは、本発明に係るスクリーニング方法は、植物からの抽出物を目的の植物由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴としている。
【0105】
本発明に係るスクリーニング方法を用いれば、ハイブリダイズする標的ポリヌクレオチドを検出することによって、デオキシムギネ酸合成酵素活性を有するポリペプチドを発現する植物体を容易に検出(スクリーニング)することができる。
【0106】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個または数百個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マー(30塩基、30ヌクレオチドともいわれる。)または100マー(100塩基、100ヌクレオチドともいわれる。)というように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
【0107】
本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドは、本発明に係るポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを得るためのPCRプライマーまたはハイブリダイゼーションプローブとして使用され得る。
【0108】
なお、当業者は、上述した用途がいずれも、本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドと目的の遺伝子(ポリヌクレオチド)との間で生じるハイブリダイゼーションに起因しており、当該オリゴヌクレオチドが、目的の遺伝子(ポリヌクレオチド)とハイブリダイズさせるために用いられることを容易に理解する。
【0109】
本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントは、少なくとも7nt(ヌクレオチド)、10nt、12nt、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントが意図されるが、当業者は、上述した用途に応じて好ましい長さを適宜設定し得る。「少なくとも20ntの長さのフラグメント」によって、例えば、配列番号2に示される塩基配列からの20以上の連続した塩基配列またはその相補配列を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号2に示される塩基配列が提供されるので、当業者は,配列番号2に基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
【0110】
上述したように、メチオニンから2’−デオキシムギネ酸を生合成する経路には、他のいくつかの酵素が関与している。よって、本発明に係るスクリーニング方法は、デオキシムギネ酸合成酵素以外の上記各酵素をコードするポリヌクレオチドをさらに検出することが好ましい。具体的には、本発明に係るスクリーニング方法は、ニコチアナミンアミノ基転移酵素遺伝子、ニコチアナミン合成酵素遺伝子およびS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素遺伝子などのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを目的の植物由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとさらにハイブリダイズさせる工程をさらに包含する。
【0111】
本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。上記オリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。アンチセンスRNA技術によって、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物が減少する。上記オリゴヌクレオチドを導入することによって、デオキシムギネ酸合成酵素活性を有するポリペプチドの含量を低下させ得、その結果、植物中の鉄欠乏耐性を制御することができる。
【0112】
このように、本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドを、デオキシムギネ酸合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するハイブリダイゼーションプローブまたは当該ポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして利用することによって、当該活性を有するポリペプチドを発現する植物体または組織を容易に検出(スクリーニング)することができる。さらに、上記オリゴヌクレオチドをアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用して、植物体またはその組織または細胞におけるデオキシムギネ酸合成酵素活性を有するポリペプチドの発現を制御することができる。
【0113】
〔6:デオキシムギネ酸を合成するための方法、酵素組成物および酵素キット〕
本発明はさらに、デオキシムギネ酸を合成する方法を提供する。
【0114】
上述したように、本発明に係るポリペプチドは、イネ科植物のムギネ酸類を生合成する経路において、ニコチアナミンのケト体を還元して2’−デオキシムギネ酸を生成する活性を有している。従って、上記ポリペプチドをニコチアナミンのケト体および補酵素とともにインキュベートすることにより2’−デオキシムギネ酸を合成することができる。なお、上記補酵素としては、NADHまたはNADPHを用いることが好ましく、上記インキュベーションは、pHが8.0〜9.5の範囲であることが好ましく、pHが8.5〜9.0の範囲であることがより好ましい。また、上記インキュベーションは、20℃〜30℃の温度範囲内で行うことが好ましく、25℃〜26℃の温度範囲内で行うことがより好ましい。
【0115】
なお、ニコチアナミンのケト体は、不安定な化合物である。従って、本発明に係るデオキシムギネ酸を合成する方法において、上記ケト体はそのものとして提供されるよりもむしろニコチアナミンから生成されることが好ましい。すなわち、本発明に係るデオキシムギネ酸を合成する方法において、本発明に係るポリペプチドをニコチアナミンのケト体とともにインキュベートする工程は、本発明に係るポリペプチドを、ニコチアナミン、ニコチアナミンアミノ基転移酵素及び補酵素並びに基質とともにインキュベートする工程であってもよい。上記補酵素としては、ピリドキサール5’−リン酸(PLP)を用いることが好ましく、上記基質としては2−オキソグルタル酸を用いることが好ましい。なお、上記インキュベーションは、pHが8.0〜9.5の範囲であることが好ましく、pHが8.5〜9.0の範囲であることがより好ましい。また、上記インキュベーションは、15℃〜35℃の温度範囲内で行うことが好ましく、24℃〜26℃の温度範囲内で行うことがより好ましい。
【0116】
本発明はさらに、デオキシムギネ酸を合成するための酵素組成物および酵素キットを提供する。本発明に係る酵素組成物は、本発明に係るポリペプチドを含んでいることを特徴としており、本発明に係る酵素キットは、本発明に係るポリペプチドを備えていることを特徴としている。なお、本発明に係るポリペプチドは、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素活性を有しているので、この酵素活性を利用するための組成物およびキットを、本明細書中において「酵素組成物」および「酵素キット」と称する。
【0117】
なお、本明細書中で使用される場合、「組成物」は各種成分が一物質中に含有されている形態であり、「キット」は各種成分の少なくとも1つが別物質中に含有されている形態であることが意図される。
【0118】
上述したように、デオキシムギネ酸を合成するための酵素反応を実行するためには、本発明に係るポリペプチド(またはポリヌクレオチド)が存在していればよく、本明細書中に記載した他の酵素、補酵素および基質などは必要に応じて存在すればよい。よって、本発明に係る酵素キットは、本発明に係るポリペプチド(またはポリヌクレオチド)、並びに他の酵素、補酵素などが同一容器内に備えられていても、別々に備えられていてもよい。
【0119】
〔7:デオキシムギネ酸合成酵素活性の測定方法〕
本発明はデオキシムギネ酸合成酵素の酵素活性を測定する方法を提供する。本発明に係る酵素活性測定方法は、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素活性を測定するために、測定すべき試料を当該ケト体とともにインキュベートする工程、および、当該試料をインキュベートする工程により合成された2’−デオキシムギネ酸の量を測定する工程を含んでいればよい。なお、試料とともに各種コントロールについても測定を行うことが好ましい。各種コントロールとしては、測定すべき酵素が含まれていないことが明らかなネガティブコントロール、本発明に係るポリペプチドを含まれていることが明らかなポジティブコントロール、NaBHを用いた化学的コントロールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0120】
また、上述したように、ニコチアナミンのケト体は、不安定な化合物であり、化学的には合成が非常に困難である。そのため、ニコチアナミンをニコチアナミンアミノ基転移酵素及び補酵素並びに基質とともにインキュベートすることによって、ニコチアナミンのケト体を生成させる工程をさらに含むことが好ましい。上記試料を当該ケト体とともにインキュベートする工程、および、ニコチアナミンのケト体を生成させる工程における条件は、〔6〕において上述した記載に従うことが好ましい。
【0121】
上記試料を当該ケト体とともにインキュベートする工程により合成された2’−デオキシムギネ酸の量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定することができるが、これに限定されない。上記測定結果を用いれば、各試料におけるニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素活性を測定することができる。
【0122】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0123】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0124】
〔実施例1:酵素活性の測定〕
ニコチアナミンアミノ基転移酵素(NAAT)および候補タンパク質を精製し、酵素活性の測定に供した。候補タンパク質については、実施例2を参照のこと。
【0125】
HvNAAT−Aの部分配列を、Hisタグ融合タンパク質としてpET15b(Novagen)にクローニングした。そして、大腸菌BL21(Lys)株に導入した。タンパク質の発現の誘導及び精製は製造業者の指示書に従った。上記タンパク質を、ブラッドフォード法を用いて定量した。なお、シグナルペプチドを除いたことにより、ニコチアナミンアミノ基転移酵素(NAAT)タンパク質を大量に得ることができた。
【0126】
次に、5’末端にXbaIサイトを、3’末端にHindIIIサイトを有するプライマーを用いて候補タンパク質をコードするORFを増幅した。そして、増幅されたORFをpCR−BluntII−TOPO(Invitrogen、Carlsbad、CA)にサブクローニングし、シーケンスを確認した。作製したプラスミドをXbaIおよびHindIIIにより切断し、上記ORFを含む断片をpMAL−c2(New England Biolabs)にサブクローニングした。そして、これらのpMAL−c2プラスミドを大腸菌XLI−Blue株に導入した。上記大腸菌細胞に対して、誘導を行い、組換え融合タンパク質を生産させた。そして、得られたタンパク質を精製した。以上により、候補タンパク質について、大量の精製タンパク質を得ることができた。
【0127】
次に、それぞれのタンパク質について酵素活性の測定を行った。ここで、NaBHは、ニコチアナミンのケト体をDMAへと化学的に還元することができるため、化学的コントロールとして用いた。
【0128】
一反応当たり5μgのHvNAAT−A融合タンパクをフィルターユニット(Amicon Ultrafree−MC 30−kDa−cutoff Filter Unit、Millipore)内に入れ、6200×g、4℃で15分間、遠心分離した。流出物を破棄し、50μlのN−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−3−アミノプロパンスルホン酸緩衝液(50mM TAPS、5mM KCl、5mM MgCl、10mM 2−オキソグルタル酸、10μMピリドキサール5’−リン酸(PLP)および150μMニコチアナミン)を上記フィルターユニットに加えた。ピペッティングにより溶液を数回混合した後、26℃で30分間インキュベートした。以上により、ニコチアナミンのケト体を生成させた。続いて、上記フィルターユニットを新しいエッペンドルフチューブ内に載置し、6200×g、4℃で、1分間、遠心分離した。流出物を回収し、NADPHを最終濃度が25μMとなるように加えた。
【0129】
ここで、活性を測定するタンパク質の試料を、一反応当たり1μgずつ新たなフィルターユニットに載置し、6200×g、4℃で、1分間、遠心分離した。なお、各試料は別々に調整を行った。
【0130】
そして、前述のように調製された3”−ケト中間体およびNADPHを含む上記流出物を、各試料を含むフィルターユニットに46μlずつ加えた。続いて2、3度のピペッティングにより混合し、26℃で30分間インキュベートした。また、化学的コントロールとして、0.25MのNaBHを4μl加え、混合物を1分間遠心分離した後、26℃で5分間保持した。
【0131】
その後、上記フィルターユニットを新たなエッペンドルフチューブに載置し、6200×g、4℃で、5分間遠心分離して、流出物を回収した。そして、DMAを標準として用いたHPLCにより、各50μlの試料を解析した。以上の方法をDMAS候補タンパク質に対して実施することにより、後述するように、イネ、オオムギ、コムギおよびトウモロコシのDMASを同定することができた。
【0132】
なお、上述した酵素活性測定を行っている段階で、デオキシムギネ酸合成酵素の至適pHが予想外の範囲にあることがわかった。この至適pHを見出したことが測定法を確立し得た大きな要因である。
【0133】
図5に示すように、デオキシムギネ酸合成酵素のpH8での酵素活性は、生理的なpH(pH7)における酵素活性の6.5〜14.9倍であった。また、pH8およびpH9での酵素活性はほぼ同程度であった。すなわち、DMASを反応させる際のpHは7より大きいことが好ましく、8〜9であることが最も好ましい。なお、これらの結果は、DMASの活性が、細胞質の中性のpH下においては大きく低下することを示し、粗面小胞体に由来する細胞内小胞においてDMAが合成されるという仮説を補強する。なお、NASに最適なpHは9である。NAATは、8.5から9である。
【0134】
ムギネ酸類は、根組織において、粗面小胞体由来の小胞内で合成されると考えられている。これらの小胞はMAsの分泌開始まで、膨張した状態であり、分泌終了までには収縮する。上記小胞の極性移動は鉄欠乏オオムギの根におけるファイトシデロフォアの分泌に関与する。NAS及びNAATは上記小胞に局在すると考えられている。DMAS活性の最適pHは、DMAが合成され、分泌されるまで貯蔵されるこれらの細胞内小胞に、DMASタンパク質が局在することを示唆している。後述するように、アミノ酸配列の相同性から、DMASは、アルド−ケト還元酵素スーパーファミリー(AKRs)に属するAKR4ファミリーのメンバーと考えられる。ここで、AKRsは、pH6.8から11の間で活性を有することが報告されているが、既に決定されたH.vulgareアルデヒド還元酵素、P.somniferumコデイノン還元酵素およびDigitalis purpureaアルドース還元酵素のように、AKR4タンパク質は、至適pHが7付近である。すなわち、既知のタンパク質とのアミノ酸配列の相同性に基づいてDMASの至適pHを予測することは困難であった。
【0135】
〔実施例2:DMASの単離〕
イネ完全長cDNAプロジェクトから得られた配列データを含むイネ22kカスタムオリゴDNAマイクロアレイを用いて、鉄欠乏条件下において誘導されるタンパク質の解析を行った。得られたタンパク質の内、アルド−ケト還元酵素スーパーファミリーに属すると推定されるタンパク質を、デオキシムギネ酸合成酵素(DMAS)の候補タンパク質とした。
【0136】
上述したように、デオキシムギネ酸合成酵素活性は、NAD(P)Hに依存する。このことは、上記酵素がアルド−ケト還元酵素スーパーファミリー(AKRs)のメンバーである可能性を示唆する。AKRsは、NAD(P)(H)依存性酸化還元酵素を含む酵素スーパーファミリーであり、アルデヒド、ケトン、単糖類、ケトステロイドおよびプロスタグランジンの還元を触媒することが知られている。
【0137】
このスーパーファミリーは120以上の酵素を含み、それらは15個のファミリーに分割され、そのうちの9つのファミリーは、複数のサブファミリーを有する。しかし、このように分類されるとはいえ、このファミリー内での相同性は非常に低く、所望の活性を有する酵素を配列類似性から見出すことは困難である。また、イネ科植物のAKRsについては殆ど特徴付けられていなかったので、アルド−ケト還元酵素スーパーファミリーに属すると推定されるタンパク質が実際にAKRsのメンバーであるのか、さらにはDMASであるのかを知るためには、酵素活性を実際に測定するしかない。しかし、これまでには有効な酵素活性測定方法がなかった。
【0138】
各候補タンパク質について、鉄欠乏状態のイネの根から調製したcDNAライブラリーを用いてORFを調製した。各ORFを用いて、実施例1に記載の方法により各候補タンパク質のデオキシムギネ酸合成酵素活性を測定した。測定の結果、AK073738(推定NADPH依存性酸化還元酵素)が、デオキシムギネ酸合成酵素活性を有することが判った。これを、OsDMAS1と名づけた。図4bは、OsDMAS1の実施例1におけるHPLCの測定結果を示す図である。同図に示すように、OsDMAS1により確かにDMAが合成されている。
【0139】
次に、Oryza sativa NADPH依存性酸化還元酵素(OsDMAS1、AK073738)との相同性に基づいて、各種データベースよりオオムギの候補タンパク質を選定した。各候補タンパク質について、鉄欠乏状態のオオムギの根から調製したcDNAライブラリーを用いてORFを調製した。各ORFを用いて、実施例1に記載の方法により各候補タンパク質のデオキシムギネ酸合成酵素活性を測定した。測定の結果、HarvESTデータベース(Version 1.35; http://harvest.ucr.edu)のユニジーン6858番が、デオキシムギネ酸合成酵素活性を有することが判った。これを、HvDMAS1と名づけた。図4cは、HvDMAS1の実施例1におけるHPLCの測定結果を示す図である。図に示すように、HvDMAS1によりデオキシムギネ酸(DMA)が合成されていることがわかる。
【0140】
さらに、OsDMAS1との相同性に基いて、各種データベースよりコムギおよびトウモロコシの候補タンパク質を選定した。各候補タンパク質について、鉄欠乏状態のコムギまたはトウモロコシの根から調製したcDNAライブラリーを用いてORFを調製した。各ORFを用いて、実施例1に記載の方法により各候補タンパク質のデオキシムギネ酸合成酵素活性を測定した。測定の結果、BLAST(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)により得たコムギとトウモロコシとの候補タンパク質がそれぞれ、デオキシムギネ酸合成酵素活性を有することが判った。これらを、TaDMAS1およびZmDMAS1と名づけた。
【0141】
図4は、上記4種のDMASタンパク質について実施例1に記載したHPLC分析の結果を示す図である。図に示すように、試験管内では、上記全4種のタンパク質は、3”−ケト中間体をDMAへと変換することができた。なお、最も高い酵素活性を示したのは、TaDMAS1であり、OsDMAS1、ZmDMAS1、HVDMAS1と続いた。
【0142】
このように、全てのDMASタンパク質が、試験管内において、3”−ケト中間体からDMAを合成することができた。また、TaDMAS1が最も高い酵素活性を示した。そして、オオムギが最も多くのムギネ酸類を分泌する。イネの根では、NAの量はオオムギの根よりも多く、DMAの量はオオムギの根より少ない。これは、HvDMAS1により高い活性があり、DMAの生産のためにより多くのNAを使用することを示唆している。興味深いことに、内因性のニコチアナミン合成酵素(NAS)の活性もまた、コムギにおける活性の方がオオムギにおける活性よりも高い。デオキシムギネ酸合成酵素(DMAS)はニコチアナミンアミノ基転移酵素(NAAT)よりも見た目上活性が高い。すなわち、各反応につきNAATは5μg用いられたのに対し、各DMASは1μg用いられた。それでもなお、TaDMAS1及び化学的コントロールでは、3”−ケト中間体が制限因子となっているようである(図5)。
【0143】
なお、NaBHによる、3”−ケト中間体の3”−炭素の還元は、酵素的な還元の場合のような立体構造特異的なものとは考えられていない。そして、全ての化学的に生産されたDMAが、3”−炭素において、天然のDMAと同じ立体構造を有しているとは限らない。
【0144】
以上のように、イネ科植物のDMAS遺伝子を単離したことによって、S−アデノシル−L−メチオニン合成酵素(SAMS)、NAS、NAAT、IDS2およびIDS3を含む、ムギネ酸類の生合成経路に関与する酵素をコードする遺伝子の全てが単離された。
【0145】
また、OsDMAS1のcDNA配列を用いて、イネゲノムデータベース(KOME)を検索した。これにより、OsDMAS1遺伝子の構造およびゲノム上の位置を得た。さらに、OsDMAS1遺伝子のプロモーター領域について塩基配列を解析した。
【0146】
図2aは、OsDMAS1の遺伝子の構造を示す模式図である。同図に示すように、OsDMAS1はイネ染色体3上に位置し、4個のエクソンと3個のイントロンとによって構成される。
【0147】
また、ゲノム断片の長さは2706bpであり、ORFは957bpである。上記遺伝子のプロモーター領域は鉄欠乏応答因子2(IDE2:Fe−deficiency responsive element2)に似た配列を含む。
【0148】
〔実施例3:アミノ酸配列の解析〕
鉄欠乏状態のイネの根から調製したcDNAライブラリーから、配列番号9に示すフォワードプライマーおよび配列番号10に示すリバースプライマーを用いてOsDMAS1のORFを増幅した。
【0149】
鉄欠乏状態のオオムギの根から調製したcDNAライブラリーから、配列番号11に示すフォワードプライマー及び配列番号12に示すリバースプライマーを用いてHvDMAS1のORFを増幅した。
【0150】
鉄欠乏状態のコムギの根から調製したcDNAプールから、配列番号13に示すフォワードプライマー及び配列番号14に示すリバースプライマーを用いてTaDMAS1のORFを増幅した。
【0151】
鉄欠乏状態のトウモロコシの根から調製したcDNAライブラリーから、配列番号15に示すフォワードプライマー及び配列番号16に示すリバースプライマーを用いてZmDMAS1のORFを増幅した。
【0152】
以上のように増幅されたDMASのcDNAを、pENTR/D−TOPO(Invitrogen、Carlsbad、CA)にサブクローニングし、Thermo Sequenase Cycle Sequencing Kit(島津製作所、京都、日本)およびDNAシーケンサー(DSQ−2000L、島津製作所)を用いてシーケンスした。
【0153】
ここで、AKRファミリーの各サブファミリーを代表するアミノ酸配列をアラインメントした。また、NADPH結合ドメインおよび推定DMAS活性部位を認識した。さらに、系統的類縁関係を決定した。図2bに、アルド−ケト還元酵素スーパーファミリー(AKR4)の系統樹を示す。
【0154】
OsDMAS1は、Papaver somniferumコデイノン還元酵素(AKR4B2−3)と54.7%の相同性を示し、Medicago sativaカルコンポリケチド還元酵素(AKR4A2)およびGlycine maxカルコンポリケチド還元酵素(AKR4A1)と、それぞれ48%および50%の相同性を示す。配列の相同性に基づけば、DMASはAKR4グループのメンバーである。しかしながら、DMASは既に定義された如何なるサブファミリーにも分類されない。すなわち、配列の相同性は60%以下であり、アミノ酸配列および基質の特殊性に基づけば、DMASが新規サブファミリーに属することが示された。この結果は、所望の活性を有する酵素を配列類似性から見出すことが困難であるという事実を裏付けている。
【0155】
また、図3はOsDMAS1、HvDMAS1、TaDMAS1およびZmDMAS1の配列の比較図である。同図に示されるように、HvDMAS1は、イネNADPH依存性酸化還元酵素の相同体である。OsDMAS1とHvDMAS1は、86%の相同性を示す。上記各DMASに対応する塩基配列によれば、OsDMAS1は推定318アミノ酸のポリペプチドをコードしており、他のDMASクローンは、それぞれ推定314アミノ酸のポリペプチドをコードしている。これらのイネ科植物のDMAS遺伝子の配列は、高く保存されている(82〜97%)。HvDMAS1とTaDMAS1は最も高い相同性(97%)を示す。全てのDMASタンパク質は、他のAKRsのようにNADPH結合ドメインを有する。ZmDMASにおいては、ポジション123でリジンがスレオニンと置換されているが、上記タンパク質の活性部位の配列は、高度に保存されている。
【0156】
イネ科植物のDMASにはある程度のバリエーションが存在するが、基質結合ドメインは高度に保存されている(図3)。ZmDMASのアミノ酸123位におけるアミノ酸の基質認識に果たす役割はあまりわかっていないが、同位でのリジンからスレオニンへの置換(図3)は、酵素活性には何の影響も与えていない(図4)。NADPH結合ドメインもまた保存されている。これは、AKRsにとって最大の特徴点である。
【0157】
このように、デオキシムギネ酸合成酵素(DMAS)と既知のAKRメンバーとの間でのアミノ酸配列のアラインメントは、DMASsがAKR4グループに属することを明らかにし、DMASと、P.somniferumコデイノン還元酵素(AKR4B2−3)並びにMedicago sativaカルコンポリケチド還元酵素(AKR4A2)およびGlycine maxカルコンポリケチド還元酵素(AKR4A1)との相同性を明らかにした。しかし、イネ科植物のDMASは既存のサブファミリーには分類されない。これは、AKR4ファミリー内に新たなサブファミリーを定義できることを示している。
【0158】
なお、HvNAS、OsNAS、HvNAATおよびOsNAATについて複数の遺伝子が存在する。このことは、複数のDMAS遺伝子が存在する可能性を示唆する。しかし、OsDMAS1と配列相同性が63%であるイネ遺伝子AK102609(推定NADPH依存性酸化還元酵素1)は、DMASの酵素活性を示さなかった。このことはまた、DMASを配列相同性から見出すことの困難性を示している。
【0159】
〔実施例4:ノーザンブロット法による解析〕
オオムギ(Hordeum Vulgare L.cv.Ehimehadaka no.1)、コムギ(Triticum aestivum L.cv.Chinese spring)、トウモロコシ(Zea mays cv.Alice)およびイネ(Oryza sativa L.cv.Nipponbare)の種子を湿った濾紙上で発芽させ、培養した。鉄欠乏処理を施すために、鉄を欠いた培養液に上記植物を移植した。2週間後に根および葉を取り入れ、液体窒素で冷凍し、使用するまで−80℃で保存した。
【0160】
根および地上部からトータルRNAを抽出した。そして、0.66Mホルムアルデヒドを含む1.2%(w/v)アガロースゲルを用いて、各レーンにつき10μgずつの電気泳動を行った。その後、Hybond−N+メンブレン(Amersham、USA)に転移させた。ジゴキシゲニン(DIG)により標識したHvDMAS1のORFを、上記メンブレンとともに68℃にてインキュベートし、ノーザンブロット法による解析を行った。図6は上記ノーザンブロット法の結果を示す図である。
【0161】
OsDMAS1は、上述したように、鉄欠乏条件下で発現が促進される遺伝子として同定された。上記遺伝子の発現パターンはノーザンブロット解析によりさらに特徴付けられた。図6に示すように、鉄欠乏条件下において、根においては、すべてのDMAS遺伝子の発現が促進され、地上部においては、OsDMAS1およびTaDMAS1の発現のみが促進された。
【0162】
〔実施例5:イネの形質転換および生育条件〕
ゲノムDNAをテンプレートにしたPCR法により、OsDMAS1遺伝子の5’上流に位置する1.3kbの領域を増幅した。プライマーとして、配列番号17に示すフォワードプライマー及び配列番号18に示すリバースプライマーを用いた。それぞれのプライマーは、XbaIおよびHindIIIの制限サイトを含む。増幅した断片をpBluescriptII SK+ベクターに組み込み、シーケンスを確かめた。次いで、pIG121HmベクターのuidA ORFの上流に、上記1.3kbXbaI−HindIII断片をサブクローニングした。なお、uidA ORFは、βグルクロニダーゼ(GUS)をコードする。上記のように作製したベクターを保持するAgrobacterium tumefaciens株(C58)を用いてイネ(Oryza sativa L.cv.Tsukinohikari)を形質転換した。以上により、OsDMASプロモーター−GUS断片が導入された形質転換イネを6系統得た。そして、50mgL−1のハイグロマイシンを含むMS培地上で、T1種子を発芽させた。4週間後、上記植物を鉄十分あるいは鉄欠乏の培地へと移動し、2週間置いた。そして、GUS活性に基づく染色を観察することにより発現を解析した。図7は上記染色結果を示す図である。
【0163】
OsDMAS遺伝子の発現は、鉄十分な根において検出され、鉄の欠乏に応じて強く誘導された。鉄十分植物の根においては、OsDMAS1プロモーター活性に由来するGUS活性に基づく染色が中心柱内にて観察された。しかし、表皮、外皮および皮層の細胞では何の染色も観察されなかった(図7a)。拡大すると、原生木部および後生木部に隣接する内鞘細胞において、強い染色が検出された(図7b)。つまり、鉄十分な植物の根におけるOsDMAS1プロモーターの活性は、長距離輸送に関与する細胞に局在する(図7c)。
【0164】
鉄欠乏植物の根において、OsDMAS1プロモーターは、表皮、外皮、皮相および全中心柱を含む全組織において活性を有する(図7e)。鉄十分な根での結果のように、原生木部および後生木部に隣接する内鞘細胞において、特に強い染色が検出された(図7f)。さらに、強い染色が半細胞において観察された。興味深いことに、鉄十分および鉄欠乏の両方の根において、後生木部Iを取り囲む細胞、すなわち、側根が生える領域で強いGUS活性が検出された。
【0165】
鉄十分な植物の葉では、GUSの発現は観察されなかった(図7g)。一方、鉄欠乏条件下では、後生木部Iと篩部要素との間の細胞においてGUSの活性が検出された(図7h)。これは、DMAが鉄ホメオスタシスにおいて何らかの役割を担っていることを示唆している。
【0166】
ムギネ酸類は明確な日周リズムによって、朝に分泌されることが知られている。また、ムギネ酸類の生合成に関与する遺伝子も同様に日周的に発現される。OsDMAS1のプロモーター領域は、IDE2様配列(−1408から−1434)およびeveningエレメント(−262から−201、−667から−734、−702から−752;EE;AATATCT)を含むシスエレメントを含んでいる。このことは、OsDMASの発現が鉄欠乏により日周的に制御されることを示唆している。
【0167】
MAsの生合成経路に関与する他の遺伝子全てのように、鉄欠乏下の根組織において、発現が促進される。鉄欠乏下の地上部では、イネ及びコムギにおいてDMASの発現が促進され、オオムギ及びトウモロコシにおいては全く発現が見られない(図6)。興味深いことに、イネにおいては、MAsの生合成経路に関与する殆どの遺伝子が根および地上部の両方で発現しているのに対し、イネ科植物の中で鉄欠乏に最も耐性があるオオムギにおいては、それらの遺伝子の発現は根に限られている。OsDMAS1のプロモーターはIDE2様配列を有しており、これは、当該遺伝子の発現が鉄欠乏により制御されることを示唆している。OsDMAS1の発現は鉄十分の根において検出された(図7)。これは、鉄が十分なイネ及びオオムギの根においてDMAを検出したという報告と一致する。OsNAS1−2およびOsNAAT1も、同様に鉄十分条件下において、長距離輸送に関与する細胞で発現する。対照的に、NAを3”−ケト中間体へと変換するタンパク質をコードするHvNAAT−Aは、鉄の存在下においては発現しない。一方、HvNAAT−Bは、基底レベルの発現を示す。上記両遺伝子の発現は、鉄欠乏条件下で増加する。DMASの発現は、鉄欠乏条件の根組織において促進される(図6)。これは、DMAの生産及び分泌に重要である。イネ及びオオムギの地上部においては、DMAは鉄十分条件下において検出され、鉄欠乏条件下において増加する。オオムギの方が、多くの量のムギネ酸類を分泌するにもかかわらず、葉においては、鉄十分条件及び鉄欠乏条件ともに、オオムギよりイネでの方が多くのDMAを検出した。OsDMAS1プロモーター−GUS活性は、鉄十分のイネの地上部においては検出されなかった。鉄十分のイネの葉において検出されたDMAは、鉄との複合体の形で、根から輸送されてきた可能性がある。この仮説は、鉄十分条件下では、OsDMAS1の発現は、根の、長距離輸送に関与する部分においてのみ観察されるという事実により強化される。鉄欠乏条件下において、DMASの量はイネの地上部において増加する。このDMASの発現は、DMAは少なくとも一部は葉において合成されることを示唆する。このDMAは、鉄ホメオスタシスに関与しており、土壌からの鉄の獲得には関わっていないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明を用いれば、可溶化した鉄分が少ないアルカリ土壌においても生育可能な植物を作製できるので有用である。また、本発明を用いれば、鉄欠乏耐性を有する植物をスクリーニングすることができるので有用である。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】イネ科のムギネ酸類の生合成経路の一部を示す図である。
【図2】aは、OsDMAS1の遺伝子の構造を示す模式図であり、bは、アルド−ケト還元酵素スーパーファミリー(AKR4)の系統樹を表す図である。
【図3】イネ科のデオキシムギネ酸合成酵素のアミノ酸配列の比較図である。
【図4】aはNaBHに係るHPLCの測定結果を示す図であり、bはOsDMAS1に係るHPLCの測定結果を示す図であり、cはHvDMAS1に係るHPLCの測定結果を示す図であり、dはTaDMAS1に係るHPLCの測定結果を示す図であり、eはZmDMAS1に係るHPLCの測定結果を示す図であり、fはネガティブコントロールに係るHPLCの測定結果を示す図であり、gは精製されたDMAに係るHPLCの測定結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る各デオキシムギネ酸合成酵素の活性に対するpHの影響を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例に係るノーザンブロッティングの結果を示す図である。
【図7】aは鉄十分条件下の根の横断面図であり、bは鉄十分条件下の根の拡大横断面図であり、cは鉄十分条件下の根の縦断面図であり、dは鉄欠乏条件下の根の縦断面図であり、eは鉄欠乏条件下の根の横断面図であり、fは鉄欠乏条件下の根の拡大横断面図であり、gは鉄十分条件下の葉の縦断面図であり、hは鉄欠乏条件下の葉の縦断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、3、5または7の何れかに示されるアミノ酸配列からなることを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1、3、5または7の何れかに示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失または付加されているアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元することを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号2、4、6または8の何れかに示される塩基配列からなることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号2、4、6または8の何れかに示される塩基配列において、1または数個の塩基が置換、欠失または付加されている塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素をコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号2、4、6または8の何れかに示される塩基配列の相補配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドであって、ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素をコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項3〜6の何れか一項に記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項8】
請求項3〜6の何れか一項に記載のポリヌクレオチドが導入されていることを特徴とする形質転換体。
【請求項9】
請求項3〜6の何れか一項に記載のポリヌクレオチドを植物に導入する工程を含むことを特徴とする鉄欠乏耐性を有する植物の作製方法。
【請求項10】
ニコチアナミンアミノ基転移酵素遺伝子、ニコチアナミン合成酵素遺伝子またはS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素遺伝子の少なくとも一つを植物に導入する工程をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載のポリペプチドと特異的に結合することを特徴とする抗体。
【請求項12】
請求項1または2に記載のポリペプチドをニコチアナミンのケト体とともにインキュベートする工程を含むことを特徴とする2’−デオキシムギネ酸を合成する方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載のポリペプチドを、ニコチアナミンおよびニコチアナミンアミノ基転移酵素とともにインキュベートする工程を含むことを特徴とする2’−デオキシムギネ酸を合成する方法。
【請求項14】
請求項1または2に記載のポリペプチドを含んでいることを特徴とする2’−デオキシムギネ酸を合成するための酵素組成物。
【請求項15】
請求項1または2に記載のポリペプチドを備えていることを特徴とする2’−デオキシムギネ酸を合成するための酵素キット。
【請求項16】
ニコチアナミンアミノ基転移酵素をさらに備えていることを特徴とする請求項15に記載の酵素キット。
【請求項17】
ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素活性を測定する方法であって、
測定すべき試料をニコチアナミンのケト体とともにインキュベートする工程と、
当該インキュベートする工程によって生成された2’−デオキシムギネ酸の量を測定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
ニコチアナミンのケト体を2’−デオキシムギネ酸に還元する酵素活性を測定する方法であって、
測定すべき試料をニコチアナミンおよびニコチアナミンアミノ基転移酵素とともにインキュベートする工程と、
当該インキュベートする工程によって生成された2’−デオキシムギネ酸の量を測定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
植物からの抽出物を請求項11に記載の抗体とともにインキュベートする工程を含むことを特徴とする鉄欠乏耐性を有する植物のスクリーニング方法。
【請求項20】
上記抽出物を、ニコチアナミンアミノ基転移酵素、ニコチアナミン合成酵素またはS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素に対する抗体の少なくとも一つとともにインキュベートする工程をさらに含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
植物からの抽出物を、請求項3〜6の何れか一項に記載のポリヌクレオチドとインキュベートする工程を含むことを特徴とする鉄欠乏耐性を有する植物のスクリーニング方法。
【請求項22】
上記抽出物を、ニコチアナミンアミノ基転移酵素遺伝子、ニコチアナミン合成酵素遺伝子またはおよびS−アデノシル−L−メチオニン合成酵素遺伝子の少なくとも一つとインキュベートする工程をさらに含むことを特徴とする請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−43203(P2008−43203A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218548(P2006−218548)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】