説明

デジタルデータバス

車軸に夫々の軸回転速度を計測する車軸回転速度センサ1,2,4,5を備える鉄道車両用ブレーキシステム。車軸回転速度センサの出力信号はブレーキ圧を個別かつローカルに制御するデータプロセッサ7に送られる。データープロセッサは各車軸ごと、各台車ごと或いは各車両ごとにブレーキ圧をコントロールするローカル知能を備え、更にデータープロセッサはブレーキ制御ユニットとの間の信号送受を行なうためのデータバス18を備え、各センサからの出力信号は、他の車軸或いは他の台車上に設けられた他のセンサからの出力信号を処理する他のデータプロセッサ17と上記データプロセッサ7との間での通信を可能とするように処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両のためのブレーキシステム、特に車輪を滑り及び/又はスピンから保護するブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車輪滑り制御と車輪スピン制御のための機構を備えた各種の鉄道車両ブレーキシステムは近年になって確立された。車輪の滑りとスピンはいずれも車輪・レール同士の食いつき乃弱さに起因する。普通、車輪の滑りは車両を減速制動するときに起こり、また車輪のスピンは車両を加速するときに起こる。
【0003】
典型的な車輪滑り制御機構は、車軸の回転速度を検出測定するに適した複数のセンサを各車軸に取り付けた構成である。各センサは車両のブレーキ制御盤へそれぞれ個別に結線されている。運転に際しては、このブレーキ制御盤へ各センサからの出力信号が入力され、該盤ではこの信号値を近接した他の車軸のセンサからの値と比較して差の大小を検出するのであり、その差が所定の限界値を超えたときは、それら出力信号値の差が許容範囲内の値となるまで、制動力の開放及び再制動を行なう。
【0004】
この制動機構は実地テストの結果、ブレーキ性能を改良し、車輪及び軌条の損傷の恐れを軽減することが実証された。しかし、この公知方法では、普通は車両運転用の主制御ユニットに組込まれているブレーキ制御盤へ10ミリ秒ごとの検出サイクルで送信せねばならず、多量の資源が必要となる。
【発明の開示】
【0005】
本発明により提供される鉄道車両のためのブレーキシステムは、車両が複数の台車を備え、各台車は少なくとも一つの車軸を有し、少なくともその一部の車軸には、各自の車軸の回転速度を測定し出力信号を第1のデータプロセッサへ供給する車軸回転速度センサが取付けてあり、前記第1のデータプロセッサは、各車軸ごと、各台車ごと或いは各車両ごとにブレーキ圧を個別制御すべくローカル知能を備え、該データプロセッサは、データバスを介してブレーキ制御ユニットと通信するように構成され、上記各センサからの出力信号は、他の車軸或いは他の台車上に設けられた他のセンサからの出力信号を処理する他のデータプロセッサと上記第1のデータプロセッサとの間の通信を可能とするように処理される。
【0006】
望ましくは、各車軸に少なくとも1つの車軸回転速度センサを設けてある。
【0007】
より望ましくは、上記データバスは、ネットワークケーブル若しくは無線リンクを備える。さらに各車両の少なくとも1つの台車は、当該台車上の各車軸の車輪スピン制御及び/又は車輪滑り制御を行うブレーキ制御ユニットを備える。また各台車のためのデータプロセッサは、車軸回転速度センサを介して上記ブレーキ制御ユニットと通信する。更に望ましくは、各台車がそれに属する各車軸のスピン制御と滑り制御を行なうためのブレーキ制御ユニットを備えた構成である。
【0008】
好適な一実施態様においては、上記システムは、列車長さ方向に沿って延設されたデータバスを有する多両連結列車に装備され、その各単位車両の1本の車軸に印加されているブレーキ圧が強制的に解除されて無制動状態での当該単位車両の走行速度を検知できる構成とされる。望ましくは、2本の車軸に対するブレーキ圧を強制的に解除して無制動走行速度を検知する構成であってもよい。さらに望ましくは、上記データバスを別のデータバスと並列に配備し冗長性ないし二重性を付与してあってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下添付図を参照しつつ本発明の実施例を詳しく説明する。図1に略示した鉄道車両10は、車軸3の速度を測定するための第1及び第2回転速度センサ1、2と、同一台車に属した第2車軸6の速度を測定する第3及び第4回転速度センサ4、5を備えている。各センサからの出力信号は、(第1)データプロセッサ7に送られデータ処理される。このデータプロセッサは、速度センサ出力信号の信号処理を行うとともに、ブレーキ付勢機器に対し論理的指令信号を発するものである。
【0010】
鉄道車両10の第2台車も同様に、車軸13の速度を測定するための第1及び第2回転速度センサ11、12と、この台車に属した第2車軸16の速度を測定する第3及び第4回転速度センサ14、15を備えている。各センサからの出力信号は、データプロセッサ17に送られてデータ処理され、次いで単一車両内データバス18を通じて前述の(第1)データプロセッサ7に送られる。
【0011】
データプロセッサ7は、列車全長にわたり延設された車両間バス19に接続されている。安全を図るべく、冗長緊急ループ20も設けてある。この列車が備えている主ブレーキ制御ユニット25には上記の車両間バス19と冗長緊急ループ20とが接続され、運転に際しては両データプロセッサ7、17に対し主制動動作信号を送る。データプロセッサ7、17は、ブレーキシステム上で分散制御を行えるようにローカル知能を有する。このような分散制御系にあっては、従来のブレーキシステムのように単位車両ごとではなく、各車両に属した各台車ごとにブレーキ圧を印加できる。
【0012】
ブレーキの制御はローカルに決定されるので、車軸回転速度センサが、空気圧信号をブレーキシステムへ供給する中央データ処理ユニットへ信号を送る必要がない。従来の方式では、効果的な車輪滑り保護のための車軸回転速度検出は、送信所要速度を考慮して10ミリ秒間隔で頻繁に行なっていた。しかし本発明は、ブレーキ圧をローカル的ないし個別的に制御する方式を導入したので、この検出間隔を顕著に引き延ばすことができ、車輪滑り防止機能は従来の間隔よりも数倍長い検出間隔としても最適に実現できる。
【0013】
ローカル的インテリジェントブレーキ弁とデータプロセッサ7、17との間の通信を可能とすべく、この列車は車両間バス19を用いて効果的にネットワークを形成している。しかし、このバス19に代え、無線リンクを採用してもよい。
【0014】
ブレーキユニットに故障が発生しても、ネットワーク内部でのブレーキ圧のローカル制御は、優れた故障時処理を行えるという点においてより有利である。標準的な制動システムでは、印加されるブレーキ圧は中央で集中的に管理されており、たとえ印加ブレーキ圧を個々の車軸ごとに変えることでブレーキ性能の円滑さを図り得る構成をとっていても、それは所定の一態様でしか行なうことができない。そのため故障が発生すると、即、性能が損失する。ローカル制御であれば、欠陥を検出しても、1本の車軸又は1基の台車でのブレーキ圧の低下により動作していないユニットの失われたブレーキ性能を補償するように、近接した他の数基の台車に対しブレーキ圧を上げることができる。
【0015】
走行中の列車において対地相対速度の測定は、車両1台につき1本の車軸に対して制動を強制解除、つまり該車軸に印加されていたブレーキ圧を開放し、当該列車の当該時点での実際の走行速度にまで当該車軸を再加速して回転数を検出するのが標準的な方法である。この加速が所定値の範囲内に達すると同時に、列車の実際の走行速度が求められる。しかし、この方法を多両連結の場合に適用し、車両ごとにするならば、列車全体に対するブレーキ作用が弱まってしまう、という欠点がある。ところが上述のように、多両連結列車のほゞ全長に亘るデータバスを設けてあれば、列車全体に対し只1本の車軸を制動解除するだけで十分である。分散制御の部分的減損は補償される仕組みになってはいるが、1本の車軸に対するブレーキ圧の解除が列車全体の制動に悪影響を及ぼすことはない。場合によっては、車軸1本に対するブレーキ圧強制解除では不正確な測定結果がでる恐れもある。安全上は、データバスの1区間あたり2本の車軸に対してブレーキ圧解除を行なえば、より一層正確な測定値が得られるであろう。
【0016】
図2〜図5は、ブレーキシステム回路の様々な態様を示した模式図であり、上述本文中の参照番号と同様の番号は同様の部分を示す。
【0017】
図2の構成において、各データプロセッサ7は、各車軸当たり夫々2つの車軸速度センサ1、2または4,5に対応した車輪滑り保護ユニット(保護制御ユニット)を伴なっている。センサ1、2からの出力信号は、データプロセッサ7へ入力される。これらの入力信号を受け取った該プロセッサは、それを適当なディジタル信号に変換したのち、車輪滑り保護ユニット30へ供給する。この保護ユニット30は、車輪スピン現象の制御も可能な構成ではあるが、他の諸例のように別の手段を用いてスピン制御を行なってもよい。センサ4、5からの出力信号は他のデータプロセッサ17へ入力されるが、このプロセッサ17にもやはり専用の車輪滑り及びスピン保護ユニットが付設してある。かくして当該プロセッサ及び滑り保護ユニットはブレーキ制御ユニットとして機能し、主制動ユニット25からは独立してブレーキ圧をコントロールし得る。車輪滑り及びスピン保護ユニットは上記のディジタルデータバスに接続され、運転中はこの車両の他の台車に付設された他の制動ユニットとの間での信号授受が可能である。このように、このシステムは個別的なブレーキ制御方式を提供しているのである。
【0018】
図3は、2台車型車両の回路模式図であり、この例でも各車軸あたり1個ずつ計4個のセンサ1、2、4、5を備えている。各車軸あたり2個ずつのセンサを配備してもよい。この例においては、センサ1、2からの出力信号は第1データプロセッサ7へ供給され、他のセンサ4、5からの出力信号は第2データプロセッサ17へ供給される。配線距離を短くすべく、各プロセッサ7、17は各台車から離してその近傍に配置してある。データ処理後のプロセッサ7、17からの出力信号はデータバス18へ入力される。ブレーキシステムの制御に適した車輪滑り保護ユニット30も該バス18に接続してある。
【0019】
図4は、2台車型車両と更に近接車両の別の台車とのための回路模式図である。この変例においては、車輪滑り保護ユニット30は、これが搭載されている車両のみならず、当該車両に近接した他の車両のためにも車輪滑り保護作用をなし得る。したがって全体性能を損なう恐れなく材料コストの低減と軽量化とが可能、という利点がある。
【0020】
図5は、4個の車軸回転速度センサ1、2、4、5が共通のデータプロセッサ7へ出力する式の単一台車型用の回路模式図である。プロセッサ7は入力された信号を、適宜デジタル化した後、データバス18を通じて車輪スピン及び/又は滑り保護制御ユニット30へ送信する。
【0021】
図6は更に他の実施例を示し、ここでは、各車両あたり単一のデータプロセッサ7と車輪滑り保護ユニット30を備えている。回転速度センサ1、2、4、5は、車軸ごと又は台車ごとに設けてあり、その出力信号はプロセッサ7へ供給され、そのあとデータバス18へ送られる。
【0022】
近年もっとも一般的な形式となっている台車型車両は、支持台板に受支された複数の車軸を備え、この支持台板が車輪/車軸系と車両本体との間の懸架手段を兼ねている構造ではあるが、本書中の「台車」なる語は、車体に対し只1本の車軸を取付けるべく単一軸線式で、しかも上記懸架手段の如き作用もなす構成のものも包含する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】鉄道車両ブレーキシステムの模式図である。
【図2】ブレーキシステムの第1実施例を示した概略回路図である。
【図3】ブレーキシステムの第2実施例を示した概略回路図である。
【図4】ブレーキシステムの第3実施例を示した概略回路図である。
【図5】ブレーキシステムの第4実施例を示した概略回路図である。
【図6】更に他の実施例を示す概略回路図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両のためのブレーキシステムであって、前記車両は複数の台車を備え、各台車は少なくとも一つの車軸を備え、これら車軸の少なくとも一部はその回転数を測定し出力信号を第1のデータプロセッサへ供給する車軸回転速度センサを有し、該データプロセッサは、各車軸ごと、各台車ごと或いは各車両ごとにブレーキ圧をコントロールするローカル知能を備え、更にデータープロセッサは、データバスを介してブレーキ制御ユニットと通信し、各センサからの出力信号は、他の車軸或いは他の台車上に設けられた他のセンサからの出力信号を処理する他のデータプロセッサと上記データプロセッサとの間での通信を可能とするように処理される、ブレーキシステム。
【請求項2】
各車軸が、少なくとも1つの車軸回転速度センサを備えている請求項1に記載のブレーキシステム。
【請求項3】
上記データバスが、ネットワークケーブル又は無線リンクを備える請求項1又は2に記載のブレーキシステム。
【請求項4】
各車両の少なくとも1つの台車はブレーキ制御ユニットを備え、該ユニットが当該台車に属する各車軸の車輪スピン制御及び/又は滑り制御を行なうように構成されている請求項1乃至3の何れかに記載のブレーキシステム。
【請求項5】
車両毎の各台車がそれに属する各車軸の車輪スピン制御及び/又は滑り制御を行なうためのブレーキ制御ユニットを備えている請求項1乃至4の何れかに記載のブレーキシステム。
【請求項6】
列車長さ方向に沿って延設されたデータバスを有する多両連結列車に装備され、その各単位車両の1本の車軸に印加されているブレーキ圧が強制的に解除されて無制動状態での当該単位車両の対地走行速度を検知できる構成とされている請求項1乃至5の何れかに記載のブレーキシステム。
【請求項7】
2本の車軸に対するブレーキ圧を強制的に解除して対地走行速度を検知する構成の請求項6に記載のブレーキシステム。
【請求項8】
前記データバスを別のデータバスと並列に設けて冗長性を備えさせた請求項1乃至7の何れかに記載のブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−527688(P2006−527688A)
【公表日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516427(P2006−516427)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002575
【国際公開番号】WO2004/113140
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(505464914)クノール−ブレームス レール システムス (ユーケー) リミテッド (4)
【Fターム(参考)】