説明

デジタル傷検出システム

爆破または弾道投射物による衝撃エネルギーを検出し、定量化し、かつ記録する超小型で超低電力型の衝撃記録器(24)のための方法および装置。一実施形態では、この衝撃記録器は、衝撃を受けた物質または身体組織を通って進んだ後でも、弾道衝撃事象(54)に起因するショック波に特徴的なスペクトル署名に近い選択された個別の周波数範囲で生じる振動に反応する電気機械共振器(34)の配列(32)から構成されたセンサ(30)を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、デジタル傷検出に関係する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最新の自動化された戦場では、遠隔監視、兵器システムの発射および精度、通信、兵士個人の保護などの領域で、革新および進歩が広がってきた。遅れをとっている1つの領域は、傷を負った兵士の診断および治療であり、この領域では依然として、訓練を受けた医療従事者が、多くの場合質問に返答できない意識不明の兵士に関して、戦場で受けた負傷の重大度を正確に診断し、また正確でかつ効果的な治療に優先順位をつける選別を行う必要がある。
【0003】
診断するのが特に困難な1つの負傷は、外傷性脳損傷(TBI)であり、これは、個人の頭部への衝撃または爆破エネルギーの大きさに関する正確な判断に依拠する。民間部門では、負傷の重大度は、事後、地域の病院で、その結果生じた損傷の内部画像を提供するX線、MRI、またはCAT走査を用いて正しく判別できることが多い。残念ながら、これらの重くかさばる装置は通常、戦場付近では利用することができず、また傷を負った戦闘兵を類似の判定施設へ搬送できるまでには、数時間またさらには数日もかかる可能性がある。しかし、検出されずに放置された場合、無症候性のTBIの結果、より早期の治療で防止できたはずの脳の腫れなどのため、遅発性の神経学的損傷が生じる可能性がある。したがって、兵士が受けた衝撃または爆破エネルギーの重大度を正確に測定しかつ記録し、また改善された診断および治療の選択のために戦場環境でデータにアクセスする方法およびシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
従来技術に固有の問題および欠陥を考慮して、本発明は、弾道衝撃事象によって生じた戦闘兵の負傷の重大度を診断する方法を提供することによって、これらを克服しようと努める。この方法は、1つまたは複数の衝撃記録器を兵士に提供するステップを含み、各衝撃記録器は、その芯部に、弾道衝撃事象のショック値に比例する電気信号を生成するように構成された自己給電式ショックセンサを有する。衝撃記録器はさらに、電気信号を、電子信管、磁気ベースの記憶装置、またはマイクロプロセッサなどのラッチ可能な記憶装置へ移送するように構成され、このラッチ可能な記憶装置は、後で取り出すために、弾道衝撃事象の最大ショック値を取り込んで記憶する。この方法はまた、場合によっては携帯型のデータ収集器または読出し装置を用いて、取り込んだ最大ショック値を取り出すステップと、兵士へのショック衝撃の大きさを利用して、弾道衝撃事象によって生じた負傷の重大度を診断するステップとを含む。
【0005】
本発明はまた、戦闘兵が受けた弾道衝撃の重大度を測定する衝撃記録器を含むことができる。衝撃記録器は、弾道衝撃によって励起された周波数範囲に対応する周波数範囲内の共振振動に合わせて構成された自己給電式ショックセンサまたは電気機械共振器の配列を含むいくつかの構成要素から構成することができ、この共振振動を使用して、弾道衝撃の大きさに比例する電気信号を自己生成する。衝撃記録器はまた、ショックセンサから電気信号を運び去るように構成された電子回路と、弾道衝撃のショック値に比例する電気信号の最大値を取り込んで記憶するように構成されたラッチ可能な電子メモリとを含むことができる。
【0006】
本発明はまた、任意の衝撃事象の重大度を測定するように構成された衝撃記録器を備えることができ、衝撃記録器は、その芯部に、圧電片持ち梁または微小片持ち梁の配列から構成された自己給電式ショックセンサを有する。圧電片持ち梁の配列は、衝撃事象によって励起された周波数範囲に対応する周波数範囲内の共振振動に合わせて調整することができ、またこの共振振動によって、衝撃事象のショック値に比例する電気信号を自己生成することができる。衝撃記録器はまた、ショックセンサから電気信号を運び去るように構成された電子回路と、圧電片持ち梁の配列によって生成された電気信号の最大値を取り込んで記憶するように構築されたラッチ可能な電子メモリとを含むことができる。
【0007】
本発明の特徴および利点は、添付の図面と併せて本発明の特徴を例示する以下の詳細な説明から明らかになるであろう。これらの図面は、単に本発明の例示的な実施形態を示すにすぎず、したがって、その範囲を制限するものとして見なすべきではないことが理解される。またさらに、本明細書の図に概略的に説明しかつ図示する本発明の構成要素は、様々な異なる構成で配置しまた設計することもできることが容易に理解されるであろう。それでもなお、本発明について、添付の図面を使用し、さらなる特定性および詳細を用いて説明しかつ解説する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の例示的な実施形態による、戦場環境におけるデジタル傷検出システムの応用例の概略図である。
【図2】本発明の例示的な実施形態による自己給電式ショックセンサの斜視図である。
【図3】図3aは例示的な弾道衝撃事象および非弾道衝撃事象の時間波形およびその結果生じるスペクトルFFTの図である。図3bは例示的な弾道衝撃事象および非弾道衝撃事象の時間波形およびその結果生じるスペクトルFFTの図である。図3cは例示的な弾道衝撃事象および非弾道衝撃事象の時間波形およびその結果生じるスペクトルFFTの図である。
【図4】本発明の例示的な実施形態による、図3の弾道衝撃事象の振動特性に応答するように適合されたショックセンサの上面図である。
【図5】本発明の例示的な実施形態によるデジタル傷検出システムの斜視図である。
【図6】本発明の別の例示的な実施形態によるデジタル傷検出システムの斜視図である。
【図7】本発明の例示的な実施形態による、弾道衝撃事象によって生じた戦闘兵の負傷の重大度を診断する方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明についての以下の詳細な説明では、その一部を形成する添付の図面を参照する。図面では、例として、本発明を実施できる例示的な実施形態を示す。これらの例示的な実施形態について、当業者なら本発明を実施できるように十分詳細に説明するが、他の実施形態も実現できること、そして本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更を本発明に加えることができることを理解されたい。したがって、本発明の例示的な実施形態についての以下のより詳細な説明は、主張する本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の特徴および特性について説明するため、そして当業者なら本発明を十分に実施できるようにするために、例示のみを目的として提示する。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ定義されるものである。
【0010】
詳細な説明に記載の本発明のデジタル傷検出システムの例示的な実施形態は、添付の図面を参照すれば、最もよく理解されるであろう。図面では全体にわたって、本発明の要素および特徴を数字で指定する。
【0011】
戦場環境で適用されるデジタル傷検出システムの例示的な実施形態10の概略図を図1に示す。本発明の検出システムは、とりわけ、戦場での兵士の外傷性脳損傷(TBI)の選別および診断に役立つように、頭部への爆破または衝撃の最大エネルギーを検出し、定量化し、記録し、かつ伝送することが可能な超低電力型の衝撃記録器を備えることができる。
【0012】
本発明の実施形態10は、ヘルメット22を装着する戦闘兵20を含むことができ、ヘルメット22には、付近の爆発からの投射物またはショック波の衝撃に応答して、兵士の頭部に受けたショックの最大値または絶対的な大きさを検出し、定量化し、かつ記録できる衝撃記録器24が取り付けられる。理解できるように、複数の衝撃記録器を、ヘルメットの外側に、内側ウェビングに、または兵士の頭部に直接接触するように配置されたヘッドバンドもしくはカバーに装着することができる。本発明の他の態様では、衝撃記録器はまた、身体の他の部分への一撃または弾道衝撃によって生じた負傷の重大度を記録するために、甲冑内に組み込んだり、または兵士が装着する衣服内に縫い付けたりすることができる。
【0013】
以下の説明の目的で、「弾道衝撃(複数可)」および「弾道衝撃事象(複数可)」という用語は、走ること、跳躍、地面への降下、および兵器の発射などの通常の兵役活動に起因する非事象性のショック、動揺、または衝撃とは対照的に、地雷、IED、手榴弾、または他の付近の爆発からの高速の「弾道」投射物とショック波の両方によって生じた衝撃を指す。
【0014】
弾道衝撃に入れられた負傷を受けた後、傷を負った兵士は意識不明であったり、またそうでない場合は、自身の負傷の程度を医療従事者に正確に伝えることができなかったりする可能性がある。本発明では、衛生兵28が、読出し装置26を使用して、記録器(複数可)24によって取り込まれた最大ショック値を見て、TBIまたは肉眼では見えない他の内部の負傷の可能性を判定することができる。この情報を検討して、次いで衛生兵は、兵士が受けた特有の負傷により適した早期の治療計画を処方することができ、また場合によっては、普通なら検出されないままになりうる頭部の外傷に起因する遅発性の神経学的損傷の発症を防止することができる。
【0015】
本発明のデジタル傷検出システムは、従来の関連する自動化された診断システムに比べていくつかの重要な利点を提供する。その一部について、ここに、また以下のより詳細な説明全体にわたって記載する。まず、本発明は、負傷した戦闘兵の医療診断および治療に衝撃記録器を適用するのを妨げてきた複数の障害を克服する。それらの障害の一部は、ショック事象の正確な測定に関係する。
【0016】
ショックまたは衝撃事象は、不規則なまたは非反復性の大きくて持続時間の短い事象として一般化することができる。こうした事象のデータ取込みは、歴史的に問題となってきた。不規則に発生しかつ速く持続時間の短い事象を検出するには、通常、高速の連続データ取得システムを、そのような事象に関連する特徴的なセンサ信号パターンを判別する高速の電子データ処理および分析装置に結合する必要がある。そのような課題に必要な電子機器およびコンピュータ資源は、電力消費が大きく、したがって装着可能でかつ/または遠隔操作式の装置には実用的でない。
【0017】
本発明は、衝撃事象の大きさを検出して記録するのに外部電力を必要としない効率的で信頼性が非常に高い衝撃記録器に事象特有の誘因を提供することによって、これらの障害を克服する。複雑なデータ収集および処理をなくして電力要件を最小限にし、また有害な事象を検出したときのみ電力を利用すると、不規則に発生する弾道衝撃の従事者による監視または遠隔計測式の監視として衝撃記録器を使用することができる。本発明の衝撃記録器はまた、橋および道路を通る車両交通の遠隔検出および特性化、車両事故データ記録器、貨物用コンテナ衝撃監視など、他の軍事ベースおよび民間ベースの適用分野に適用することができる。
【0018】
本発明の衝撃記録器は、弾道衝撃によって励起された周波数範囲に対応する周波数範囲内の共振振動に合わせて構成された電気機械共振器の調整可能な配列を含む自己給電式ショックセンサからその能力を導出する。弾道衝撃事象は、衝撃を受けた物質または身体組織を通って進むときでも、独特の周波数衝撃署名を生成できることが明らかにされている。電気機械共振器の励起およびその結果生じる共振振動を、最も重要なこれらの衝撃事象だけに制限すると、扱いにくい従来技術の電子システムの検出およびフィルタリング機能が1つの電気機械感知装置内に組み込まれ、処理なしの正確な測定につながる。したがって、兵士が受けたすべての衝撃を電子的に取り込み、処理し、かつ分析し、そして走ること、跳躍、地面への降下、または兵器の発射などの通常の兵役活動に起因するこれらの非弾道衝撃事象を除去する必要がなくなる。
【0019】
個々の電気機械共振器はまた、振動する構造が受けた曲げの程度に比例する電気信号を生成する、共振器の表面と共形の圧電層、圧電センサ、または圧電カバーを備えることができる。前述のように正しく構成された場合、電気機械共振器の配列は、非事象性のものではなく、弾道衝撃事象に応答した電気信号だけを生成するであろう。この電気信号は単に、圧電層の屈曲によって生成されるので、センサには外部電源が必要とされない。したがって、本発明の調整可能なショックセンサは、持続時間が非常に短い衝撃事象を取り込んで処理する従来技術の電子データ取得および分析システムに特徴的な、給電式のセンサによって生じる外部電源ならびに高速の信号デジタル化およびデジタル信号処理(DSP)に対する要件をうまく取り除く。
【0020】
ショックセンサは、電気機械共振器の配列によって生成された電気信号の最大値または大きさを取り込んで保持できる様々なラッチ可能な電子記憶装置に結合させることができる。ラッチ可能な記憶装置は、外部電源なしで機能し、またショックセンサによって生成された電気信号だけに動作するように構成することができる。電子記憶装置はまた、取り込んだショック値の簡単な視覚表示を提供するように構成することができ、ならびにデータ収集器26によって生成された、入ってくる無線周波数信号から十分な電力を集めて記録された情報を運ぶ応答を伝送するための受動RFIDタグまたは類似の装置を装備することができる。
【0021】
外部電源をなくして、ショックセンサの寸法を小さくすると、本発明の衝撃記録器は、ヘルメットまたは身体用甲冑品などの剛性の物体への接着片を用いた一体化および取付けを可能にするのに十分なほど小さくかつ軽量なものとすることができる。衝撃記録器はまた、兵士が装着する衣服、機器のハーネス、または他の布製の装備内に縫い付けることもできる。寸法を小さくすると、複数のショック記録器を、3次元測定のために兵士の身体および頭部に取り付けることができる。最新のシステムは、弾道衝撃事象の衝撃位置ならびにその大きさを特定する三角測量機能を提供するために、センサ間の一体化をさらに含むことができる。さらに、弾道衝撃事象の大きさおよび人体上のその位置を要因として考慮するアルゴリズムを使用して、負傷の重大度を遠隔で推定することができる。
【0022】
前述の利点はそれぞれ、添付の図面を参照して以下に記載の詳細な説明を考慮すれば明らかであろう。これらの利点は、何ら限定するものではない。実際には、本発明を実施すると、本明細書に特に記載したこれらの利点以外の他の利点も実現できることが、当業者には理解されるであろう。
【0023】
図2を参照すると、兵士の頭部または身体への弾道衝撃によって励起された周波数範囲に対応する固有周波数で構成または調整された電気機械共振器34の配列32を備えることができる自己給電式ショックセンサ30の斜視図を示す。個々の電気機械共振器は、所定の密度(ρ)およびヤング弾性率(E)、ならびに所定の長さ(l)、幅(w)、および厚さ(t)を有する剛性材料から作られた小型片持ち梁または微小片持ち梁36から形成することができる。剛性材料および寸法の適切な選択によって、片持ち梁を、以下の式に従って、特定の固有周波数fで「調整」することができる。
【0024】
【数1】

【0025】
上式で、
【0026】
【数2】

【0027】
理解することができるように、配列32内の各梁の厚さおよび幅が一定であるものとすると、最低の固有周波数に調整された片持ち梁36が、最長の長さを有するであろう。しかし、片持ち梁36を特有の固有周波数に調整するとき、3つの寸法すべてを調整できることが理解されよう。最低の固有周波数をもつ梁が最長の長さを有し、一方最高の固有周波数をもつ梁が最短の長さを有する片持ち梁36の配列32はまた、昇順または降順で構成することができる。図2に示す実施形態30では、個々の共振器34は、左から右へ、固有周波数の昇順および片持ち梁の長さの降順で構成することができる。
【0028】
片持ち梁36の配列32は、梁の上面38、底面、または上面と底面の両方に取り付けられまたは組み込まれた圧電センサ40を有するように構成することができる。圧電センサは、2つの電極層間に挟まれた圧電材料を備えることができる。これらの電極層は、白金とすることができ、また圧電材料は、PZT、BaTiO3、ZnO、AlN、またはPbNiNbOなどとすることができる。電極および圧電材料向けの他の類似のまたは適合する材料も、本発明の範囲内に入るものと見なすことができる。
【0029】
片持ち梁の屈曲、したがって同時に起こる圧電センサの屈曲により、圧電材料内に電荷が生成され、この電荷が電極によって取り込まれて運び去られる。したがって、圧電センサ40を有するように構成された片持ち梁36は、振動中に発生する片持ち梁36の曲げの大きさに比例する電荷を生成する電気機械共振器34をともに形成することができる。非共振振動の場合、生成される電荷の量は少なくかつ過渡的なものとなりうるが、共振振動の場合、共振振動が消失するかまたはゼロまで減衰するまで、電荷は強く測定可能で、かつ持続的なものとなりうる。この信号を生成するのに電池または外部電源を必要としないので、圧電片持ち梁センサの配列は自己給電式とすることができる。
【0030】
電気機械共振器34の配列32から構成されたショックセンサ30は、配列の平面に垂直な方向など、1方向のショック波だけに反応できることを理解されたい。この制限により、弾道衝撃事象を正確に測定するには、横断軸に沿って整合された複数のセンサからの信号を組み合わせることを必要とする可能性があるが、各センサ群によって提供される情報は、必然的に、衝撃の大きさと方向の両方を含む。最新の実施形態では、この情報を使用して、弾道衝撃事象の衝撃位置ならびにその大きさを特定する三角測量機能を提供することができる。弾道衝撃の位置および大きさを使用するアルゴリズムを使用して、負傷の重大度を遠隔で推定することもできる。
【0031】
次に、弾道衝撃によって生じる励起の性質に移ると、兵士の身体または頭部を通って進んだ後に本発明の衝撃記録器の位置で受け取った、非弾道衝撃事象52および弾道衝撃事象54によって生じるショック波を示す例示的な時間波形を図3aおよび3bに示す。各y軸は、最高±50gの範囲内のショック衝撃の振幅(A)を特定することができ、またx軸は、時間(t)の経過を示すことができる。この時間(t)は、持続時間が短い衝撃事象の場合、50msから10ms程度に短い可能性がある。2つの時間波形グラフを比較すると、弾道衝撃事象が非弾道衝撃事象より大きな全体的な強度およびさらに高い周波数成分を有する可能性があることが理解されよう。
【0032】
生の時間波形は、加速度計などの振動センサによって提供されるアナログ信号とすることができる。このアナログ信号を、DSP電子機器および技法を用いてデジタル化して処理した場合、その結果得られる2つの衝撃事象のスペクトルFFT(高速フーリエ変換)を図3c内で重ね合わせることができる。図3cでは、y軸は振動の振幅(A)を特定し、またx軸は周波数(f)を表示する。弾道衝撃事象の場合、y軸の範囲は、50g程度の高さまで到達する可能性があり、またx軸の範囲は、0Hzから25khzとなる可能性がある。
【0033】
両事象に共通の低周波成分62、非弾道衝撃事象52だけに存在する中域成分64、および弾道衝撃事象54だけに存在する複数のより高周波の成分66を含む、2つの時間波形内に存在する様々な周波数成分60を図3cに示す。弾道衝撃事象の独自のスペクトル特性を使用して、有害な衝撃または爆発と有害でない動揺、衝突、またはショックを区別すると、非弾道衝撃事象52によって生成された誤検出信号を自動的に除去できる実行可能なショック記録器を作ることが可能になる。これは、弾道衝撃事象54のスペクトル署名68のみに対応する固有周波数範囲で、本明細書に前述の電気機械共振器の配列を調整することによって行うことができる。
【0034】
図3cの弾道衝撃事象の振動特性に応答するように適合されたショックセンサ70の上面図を図4に示す。本発明のこの例示的な実施形態は、4つの電気機械共振器74からなる配列72を含むことができ、電気機械共振器74はそれぞれ、図3cに特定した周波数成分のうちの1つに調整された固有周波数を有する片持ち梁76に結合された圧電センサ80をさらに備える。片持ち梁76の長さ、幅、厚さ、および間隔は、片持ち梁が、スペクトル衝撃署名の周波数成分と整合する共振固有周波数を有するだけでなく、その周波数成分周辺の特有の帯域幅も包含することを確実にするように個々に調整することができる。たとえば、電気機械共振器74が包含する帯域幅は、個々の共振器の片持ち梁の長さ、幅、厚さ、および材料特性に応じて、1kHz、2kHz、または4kHzとすることができる。
【0035】
圧電センサ80はまた、片持ち梁76の共振周波数を変化させることができる減衰効果を提供することによって、電気機械共振器の振動特性に影響を与えることができる。たとえば、片持ち梁の上面78のうちのより多くの部分を覆うように圧電センサ80を延ばすと、センサの電極間に挟まれた圧電層によって提供される減衰効果をより大きく制御することが可能になる。そのような減衰を適用して、電気機械共振器74の振動を一次曲げモードに制限できるように、各片持ち梁76内に存在するより高次の振動モードを減衰させることができると有益である。圧電センサ80はまた、両方向への曲げが同時に起こるとより高次のモードで自己取消しする信号を生成するように構成することができる。
【0036】
本発明の一目的は、前述の原理を使用して、個々の電気機械共振器74が選択された周波数範囲に対して最大の感度を有し、範囲外周波数刺激の少なくとも20dBを阻止したショックセンサ70を提供することである。
【0037】
本発明の例示的な実施形態100によるデジタル傷検出システムの斜視切欠図を図5に示す。この実施形態は、弾道衝撃のショック値に比例する電気信号を自己生成するように構成された自己給電式ショックセンサ110と、ショックセンサから電気信号を運び去るように構成された電子回路130と、弾道衝撃のショック値に比例する電気信号の最大値を取り込むように構成されたラッチ可能な電子メモリ150とを含むことができる。
【0038】
ショックセンサ110は、薄膜圧電堆積処理および標準的な半導体製作技法を使用して薄膜圧電微小片持ち梁を形成することによって製作することができる。図5に示すように、シリコンウェーハ102を、複数の表面層104、106で覆うことができる。複数の表面層104、106は、この詳細な説明の目的で、窒化シリコンおよび/または二酸化シリコンから形成された構造層104と、金属電極および圧電材料から形成された圧電センサ層106とを含む複数の副層を表すことができる。VLSI(超大規模集積回路)またはMEMS(微小電子機械システム)製作技法を使用して、パターンを上部圧電センサ層106および下部構造層104内に堆積させかつエッチングし、複数の電気機械共振器112または微小片持ち梁114を有するショックセンサ110を形成することができる。電気機械共振器112または微小片持ち梁114は、表面層104、106の両方を貫通して切り落とした3辺外周溝116によって画定される。空胴120のパターンをシリコンウェーハ102の裏側に形成して、表面層104、106内に形成された梁構造を解放し、振動させることもできる。したがって、微小片持ち梁114は、より堅くかつより頑丈な構造層104の上部に形成された圧電センサ層106の組合せとすることができる。代替実施形態では、微小片持ち梁は、圧電材料および堆積させた電極の層106だけから形成することができる。
【0039】
前述のように、ショックセンサ110は、付近の爆発によって生じる「弾道」投射物衝撃またはショック波によって生じる事象など、選択された弾道衝撃事象のスペクトル署名に調整された微小片持ち梁114の配列から構成することができる。これらの弾道衝撃に含まれるエネルギーの一部分は、微小片持ち梁114へ伝達することができ、このエネルギーは、梁を、最低の固有周波数または一次「曲げ」モードで共鳴させる。微小片持ち梁の曲げにより、共形層106内に含まれる圧電材料内に電荷を生成することができ、電荷は、周囲の電極に取り込まれて、電子回路130によってショックセンサから運び去られる。この電荷または信号142は、微小片持ち梁が調整された狭いスペクトル帯域内に含まれるすべての衝撃エネルギーの電力密度に比例することができる。
【0040】
図5にさらに示すように、個々の微小片持ち梁114それぞれによって生成される電気信号142は、出力回路区分132によってショックセンサ110から運び去ることができ、また全体的な出力回路134内の他の梁からの出力回路と組み合わせることができる。この結果、全体的な、すなわち絶対的な電気信号144を、すべての電気機械共振器によって検出された衝撃エネルギーの電力密度に比例したものとすることができる。組み合わせた回路134によって運ばれる全体的な電力密度信号144の大きさは、電気機械共振器112の配列全体から導出されるので、兵士が受けた弾道衝撃エネルギーの大きさを正確に示すことができる。
【0041】
組み合わせた後、絶対的または全体的な電力密度信号144を、ラッチ可能な記憶装置150へ移送することができる。ラッチ可能な記憶装置150は、後で取り出すために絶対的な電力密度信号の最高または最大レベルを取り込んで保持する任意の装置を備えることができる。本発明の一実施形態では、ラッチ可能な記憶装置は、ヒュージブルリンクまたは絶縁破壊セルなどの一度だけプログラム可能な記憶装置とすることができる。ヒュージブルリンクは、複数の記憶セルから構成することができ、ヒュージブルリンクの容量は、累進的により高くなる。全体的な電力密度信号144内に含まれる蓄積された電荷は、分圧器によって電圧に変換され、次いで記憶セルを通って誘導することができる。記憶セルは、ショックセンサ110からの電圧レベルが高まるにつれて累進的に焼損する。リンクを焼損すると、記憶セルの状態は恒久的に変化し、この変化を、外部データ収集器または読出し装置によって読み出すことができる。絶縁破壊セルは、ショックセンサ110によって生成される電圧ではなく、電荷のレベルが高まるのに応答して状態を恒久的に変化させることによって、同様に機能することができる。
【0042】
別の実施形態では、ラッチ可能な記憶装置150は、磁気バブル記憶(MBM)装置または薄膜記憶セル(TFMC)など、消去可能でかつプログラム可能なものとすることができる。MBMを用いると、蓄積された電荷を電流パルスに変換することができ、これにより、シフトレジスタと同様に、「磁化」バブルをあるメモリ位置から次の位置へ進める。TFMCを用いると、圧電センサで生成された電荷によって、薄膜サンドイッチ構造内の抵抗の変化が誘発され、それによって情報を保持する。MBMとTFMCはどちらも、消去可能でかつプログラム可能なものであり、このことは、兵士が装着する再使用可能な機器または衣服にこれらのデータ記録器を取り付けるとき、重要な考慮すべき点となりうる。
【0043】
前述のラッチ可能な記憶装置150のそれぞれの実施形態では、さらなる電源または電池を必要とせず、また記憶装置は、事前定義された閾値を超える弾道衝撃事象が発生したときだけ活性状態にすることができる。さらに、低コストで大容量のVLSI製造方法を使用して、記憶装置150をショックセンサ110および電子回路130と同時に製作して1つの一体型センサ100とすることができる。
【0044】
内部電源を使用するが、従来技術システムのレベルよりはるかに低い電力使用レベルで使用する、本発明の衝撃記録器の例示的な実施形態200を図6に示す。実施形態200では、ショックセンサ210は、シリコン基板202上に重ね合わせた複合圧電センサ層206および構造層204から形成された電気機械共振器または微小片持ち梁212の配列を備えることができる。前述のように、配列内の各微小片持ち梁212からの電気出力242を組み合わせて1つの全体的な電気信号にするのではなく、マイクロプロセッサ250などのラッチ可能な記憶装置の別の実施形態の別々の入力チャネル252に到達するまで、個々の梁それぞれからの電気信号を、分離された電子回路132に沿って誘導することができる。マイクロプロセッサ250は、衝撃署名分析など、前述の簡単な記憶装置を超えたさらなる処理を提供することによって、さらに有利なものとすることができる。
【0045】
マイクロプロセッサ250は、その動作サイクル中の大部分では低電力休止状態または休眠モードのままになるように構成されているが、必要に応じて内部電池260によって給電することができる。微小片持ち梁212によって生成された電気信号242がマイクロプロセッサの入力チャネル252に到達すると、起動して署名評価を実行するようにマイクロプロセッサを誘発しながら、標本および保持増幅器内にデータを一時的に記憶することができる。マイクロプロセッサ250は、電気信号242を受け取ってから1.0ms以内に起動して、受け取った応答の大きさの評価を実行し、所定の署名雛型との比較によって、励起している衝撃の性質が弾道衝撃事象であったか、それとも非事象性のものであったかを判別するように構成することができる。衝撃が事象であると判別された場合、マイクロプロセッサは、電池260から電力を引き込んで、各入力信号242をアナログからデジタルへ急速に変換し、さらなるDSPおよび分析を行って衝撃の詳細をさらに定義し、またその結果得られるデータをプログラム可能なメモリ内に記憶することができる。記憶されたデータは、各チャネルからの正規化された電力密度スペクトル情報、ならびに弾道衝撃事象の全体的な絶対ショック値を含むことができる。衝撃が非事象性であると判別された場合、マイクロプロセッサ250は、休眠状態に戻って、次の誘発する衝撃までエネルギーを節約することができる。
【0046】
低周波微小片持ち梁214は、0から1.0kHzの範囲内の周波数に対して感度を高めることができる。このスペクトル帯域は、事象性の衝撃と非事象性の衝撃の両方によって与えられるエネルギーの大部分を含む。その結果、低周波微小片持ち梁214は振動して電気信号244を生成していることが多く、一方中域および高周波電気機械共振器212は遊休状態のままである。マイクロプロセッサによって評価されていないときは、電気信号244内に含まれる少量の回収したエネルギーを電子回路234に沿って誘導し、次の評価サイクルに備えて電池260を充電することができる。したがって、マイクロプロセッサ250と電池260などの内部電源をどちらも使用する衝撃記録器の超低電力型の実施形態200は、外部電源への接続を必要とすることなく、長期間にわたって信頼性の高い動作を継続することができる。
【0047】
弾道衝撃事象によって生じた戦闘兵の負傷の重大度を診断する方法300を示す流れ図を図7に示す。この方法は、弾道衝撃事象のショック値に比例する電気信号を生成するように構成された自己給電式ショックセンサを有する衝撃記録器を兵士に提供する動作302を含むことができる。衝撃記録器はまた、この電気信号を、電子信管、磁気ベースの記憶装置、またはマイクロプロセッサなどのラッチ可能な記憶装置へ移送して、弾道衝撃事象の最大ショック値を取り込むように構成することができる。方法は、視覚的にまたは携帯型のデータ収集器もしくは読出し装置を用いて、取り込んだ最大ショック値を衝撃記録器から取り出すステップ304と、最大ショック値を利用して、弾道衝撃事象によって生じた負傷の重大度を診断するステップ306とをさらに含むことができる。
【0048】
上記の詳細な説明では、特有の例示的な実施形態を参照して本発明について説明した。しかし、添付の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正および変更を加えることができることが理解されるであろう。詳細な説明および添付の図面は、限定的なものではなく、単なる例示的なものとして見なされるべきであり、またそのような修正または変更があればそれらはすべて、本明細書に記載の本発明の範囲内に入るものとする。
【0049】
より具体的には、本発明の例示的な実施形態について本明細書に説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、上記の詳細な説明に基づいて当業者には理解されるはずの修正、省略、組合せ(たとえば、様々な実施形態にわたる態様の組合せ)、適合、および/または改変を有するあらゆる実施形態を含む。特許請求の範囲の限定は、特許請求の範囲で使用される言語に基づいて広く解釈すべきであり、上記の詳細な説明に記載の例または応用例の実施中に限定されるものではない。これらの例は、排他的ではないものとして解釈すべきである。たとえば、本開示では、「好ましい」という用語は排他的ではなく、「好ましいが、それに限定されるものではない」を意味するものである。あらゆる方法またはプロセス請求項に記載のあらゆるステップは、任意の順序で実行することができ、特許請求の範囲に提示される順序に限定されるものではない。ミーンズ・プラス・ファンクションまたはステップ・プラス・ファンクションの限定は、特有の特許請求の範囲の限定に対して、a)「手段」または「ステップ」が明白に記載されている、またb)対応する機能が明白に記載されている、という条件がすべて存在する場合のみ、使用される。ミーンズ・プラス・ファンクションを支持する構造、材料、または作用は、本明細書の説明に明白に記載される。したがって、本発明の範囲は、上記の説明および例ではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの法律上の等価物によってのみ決定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾道衝撃事象によって生じた戦闘兵の負傷の重大度を診断する方法であって、
前記弾道衝撃事象のショック値に比例する電気信号を生成するように構成された自己給電式ショックセンサを有し、前記電気信号をラッチ可能な記憶装置へ移送して前記弾道衝撃事象の最大ショック値を取り込むようにさらに構成された衝撃記録器を提供するステップと、
前記取り込んだ最大ショック値を取り出すステップと、
前記最大ショック値を利用して、前記弾道衝撃事象によって生じた前記負傷の前記重大度を診断するステップとを含む、方法。
【請求項2】
衝撃記録器を提供するステップが、前記弾道衝撃事象によって生成された周波数範囲に対応する固有周波数範囲を有する圧電片持ち梁の配列を提供するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
衝撃記録器を提供するステップが、投射物および爆発性ショック波の弾道衝撃によって生成される周波数範囲に調整されたショックセンサを提供するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
衝撃記録器を提供するステップが、前記衝撃記録器をヘルメットまたは前記兵士の身体上に取り付けるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
衝撃記録器を提供するステップが、前記弾道衝撃の前記ショック値に比例する電力スペクトル密度を生成するように構成されたショックセンサを提供するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
衝撃記録器を提供するステップが、磁気バブル記憶セル、抵抗性ヒュージブルリンク、薄膜記憶セル、および絶縁破壊セルからなる群から選択されたラッチ可能な記憶装置を提供するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
衝撃記録器を提供するステップが、低電力休眠状態で休止するように構成可能なマイクロプロセッサを提供するステップをさらに含み、前記ショックセンサによって生成された前記電気信号が、前記マイクロプロセッサを起動させるのに十分な電力を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
衝撃記録器を提供するステップが、低周波電力を回収するように構成された自己給電式ショックセンサを提供するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
戦闘兵が受けた弾道衝撃の重大度を測定する衝撃記録器であって、
前記弾道衝撃のショック値に比例する電気信号を自己生成するために、前記弾道衝撃によって励起された周波数範囲に対応する周波数範囲内の共振振動に合わせて構成された複数の電気機械共振器を備える自己給電式ショックセンサと、
前記ショックセンサから前記電気信号を運び去るように構成された電子回路と、
前記弾道衝撃の前記ショック値に比例する前記電気信号の最大値を取り込むように構成されたラッチ可能な電子メモリとを備える、記録器。
【請求項10】
前記複数の電気機械共振器が、圧電片持ち梁の配列をさらに備える、請求項9に記載の記録器。
【請求項11】
前記複数の電気機械共振器のうちの少なくとも1つが、投射物または爆発性ショック波の弾道衝撃によって生成された前記周波数範囲内で共振するように構成される、請求項9に記載の記録器。
【請求項12】
前記電気信号が、前記弾道衝撃の前記ショック値に比例する電力スペクトル密度をさらに含む、請求項9に記載の記録器。
【請求項13】
前記ラッチ可能な電子メモリが、磁気バブル記憶セル、抵抗性ヒュージブルリンク、薄膜記憶セル、および絶縁破壊セルからなる群から選択される、請求項9に記載の記録器。
【請求項14】
前記ラッチ可能な電子メモリが、低電力休眠状態で休止するように構成可能なマイクロプロセッサであり、前記自己生成された電気信号が、前記マイクロプロセッサを起動させるのに十分な電力を提供する、請求項9に記載の記録器。
【請求項15】
前記複数の電気機械共振器のうちの少なくとも1つが、低周波電力を回収するように構成される、請求項14に記載の記録器。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−526588(P2010−526588A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507622(P2010−507622)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/062908
【国際公開番号】WO2008/137934
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(508177024)レイセオン・サルコス・エルエルシー (22)
【Fターム(参考)】