説明

デスモシンおよびイソデスモシンの測定法

【課題】生体サンプル中のデスモシンおよびイソデスモシンを感度よく測定する技術を提供すること。
【解決手段】デスモシンまたはイソデスモシンを、陽イオン交換樹脂を用いてサンプルから精製する工程、および精製画分を測定する工程を包含し、陽イオン交換樹脂からの溶出を自然落下にて行う測定方法を用いてデスモシンまたはイソデスモシンを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デスモシンおよびイソデスモシンを測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デスモシンおよびイソデスモシンは、特徴的なアミノ酸であり、肺胞を構成するタンパク質であるエラスチンがエラスターゼによって加水分解されて生成する。慢性閉塞性肺疾患(COPD)ではエラスチンの分解が生じる。肺疾患患者の尿中には、肺胞が破壊されたことによって溶出したエラスチンおよびその分解物であるデスモシンおよびイソデスモシンが含まれていることが報告されており、肺疾患の診断バイオマーカーとしてデスモシンおよびイソデスモシンが注目されている。
【0003】
このように、診断のバイオマーカーとして利用するために、生体サンプル中のデスモシンおよびイソデスモシンを正確に測定することが求められており、デスモシンおよびイソデスモシンを検出/測定するための技術が報告されている(例えば、特許文献1〜3および非特許文献1〜2参照)。特許文献1には、人工抗原を用いたEIAによる高感度な測定法が開示されている。特許文献2には、アイソトープで標識したサンプルから精製したデスモシンおよびイソデスモシンを測定する技術が開示されている。特許文献3には、誘導体化したデスモシンおよびイソデスモシンをLC/MS/MS法によって測定する技術が開示されている。非特許文献1には、LC/MS法によってヒトの尿中のデスモシンおよびイソデスモシンを測定する技術が開示されている。非特許文献2には、LC/MS/MS法によってヒトの尿中のデスモシンおよびイソデスモシンを測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−5962号公報(昭和62年1月12日公開)
【特許文献2】特表平5−508710号公報(平成5年12月2日公表)
【特許文献3】特開2005−249493号公報(平成17年9月15日公開)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shuren Ma et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 100: 12941-12943 (2003)
【非特許文献2】Shuren Ma et al., Chest; 131; 1363-1371 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これまでに報告されている測定方法では、検出感度が不十分である。感度不足の理由としては、サンプル中のデスモシンおよびイソデスモシンの含量が非常に少ないことや、デスモシンおよびイソデスモシンの物性に起因して、一般的な前処理法および測定法の適用が困難であることが挙げられる。デスモシンおよびイソデスモシンの分離が困難であることもまた、感度不足の理由として挙げられる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体サンプル中のデスモシンおよびイソデスモシンを感度よく測定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、デスモシンまたはイソデスモシンを測定する方法に関し、陽イオン交換樹脂を用いてサンプルからデスモシンまたはイソデスモシンを精製する工程、および精製画分を測定する工程を包含し、陽イオン交換樹脂からの溶出を非酸性条件下にて自然落下によって行うことを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明は、デスモシンまたはイソデスモシンを定量する方法に関し、陽イオン交換樹脂を用いてサンプルからデスモシンまたはイソデスモシンを精製する工程、精製画分を測定する工程、および該サンプルとして生体サンプルを用いて得られた第1の測定値を、該サンプルとして標準溶液を用いて得られた第2の測定値と比較する工程を包含し、陽イオン交換樹脂からの溶出を非酸性条件下にて自然落下によって行うことを特徴としている。
【0010】
なおさらに、本発明は、呼吸器疾患を処置する薬剤をスクリーニングする方法に関し、
陽イオン交換樹脂を用いてサンプルからデスモシンまたはイソデスモシンを精製する工程、精製画分を測定する工程、および候補物質を投与したモデル動物から採取した生体サンプルを用いて得られた第1の測定値を、候補物質を投与していないモデル動物から採取した生体サンプルを用いて得られた第2の測定値と比較する工程を包含し、陽イオン交換樹脂からの溶出を非酸性条件下にて自然落下によって行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、サンプル中のデスモシンおよびイソデスモシンを感度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に従って得られた測定値に基づいて作成したデスモシンの検量線を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に従って得られた測定値に基づいて作成したイソデスモシンの検量線を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に従って得られたデスモシン、イソデスモシン、および内部標準についてのクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、デスモシンまたはイソデスモシンを測定する方法を提供する。本発明に係る測定方法は、陽イオン交換樹脂を用いてサンプルからデスモシンまたはイソデスモシンを精製する工程、および精製画分を測定する工程を包含しており、陽イオン交換樹脂からの溶出が非酸性条件下にて自然落下によって行われることを特徴としている。
【0014】
タンパク質およびペプチドの精製に陽イオン交換樹脂を用いること、カラムからの溶出を遠心分離によって行うこと、およびカラムからの溶出を酸性条件下にて行うことは、陽イオン交換樹脂の一般的な操作手順であり、デスモシンおよびイソデスモシンにおいても採用されている(例えば、特許文献3、非特許文献2等参照)。デスモシンまたはイソデスモシンの分析を行うための前処理を鋭意検討した結果、本発明者らは、カラムからの溶出を酸性条件下で行うと再現性が悪く、定量の精度が悪いことを見出した。そして、非酸性条件下(すなわち、中性〜アルカリ性)にて自然落下によって溶出するという工程を採用することによって、デスモシンおよびイソデスモシンの高感度測定を実現することができることを、本発明者らは見出した。非酸性条件下(すなわち、中性〜アルカリ性)にて自然落下によって溶出することによってデスモシンおよびイソデスモシンを高感度で精度よく測定し得る程度にまで精製し得るということは、本発明者らの独自の観点によって見出された事項であり、当業者が容易に導き得る事項ではない。
【0015】
本発明において陽イオン交換樹脂は、当該分野において周知の種々の樹脂が利用可能である。また、溶出に用いられる溶媒は、非酸性(すなわち、中性〜アルカリ性)であれば単一溶媒であってもよいし、混合溶媒であってもよい。非酸性条件とは、本明細書中においてはpH6以上が意図され、好ましくはpHが6.5以上、より好ましくはpHが7.0以上、さらに好ましくはpHが8以上の条件が意図される。好ましい溶媒としては、例えば、弱アルカリ性の溶媒と低級アルコールとの混合溶媒が挙げられ、アンモニア水とメタノールとの混合溶媒が好ましい。この精製処理により、サンプル中に含まれるタンパク質分解物を首尾よく除去することができる。
【0016】
精製に供するためのサンプルは、予め酸処理されていることが好ましい。上述したように、肺疾患患者の尿中には、肺胞が破壊されたことによって溶出したエラスチンおよびその加水分解産物であるデスモシンおよびイソデスモシンが含まれている。溶出したエラスチンを酸処理(すなわち加水分解処理)することによってエラスチンを測定することなく肺胞の破壊の有無およびその程度を知ることができる。酸処理に用いられる酸としては、例えば、塩酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられるがこれらに限定されない。処理時間は用いられる酸によって異なるが、1〜72時間が好ましく、5〜24時間がより好ましい。処理温度もまた用いられる酸によって異なるが、0〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。このような条件下での酸処理によって、サンプル中に含まれているエラスチンを分解して、デスモシンおよび/またはイソデスモシンを遊離させることができる。
【0017】
本発明に係る測定方法において、上記サンプルは哺乳動物から採取した生体サンプルであることが好ましい。生体サンプルとしては、尿、血液、血漿、血清、喀痰、気管支肺胞洗浄液および組織抽出物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい生体サンプルは、ヒトから採取した尿であり、健常人から採取したものであっても、呼吸器疾患に罹患した患者から採取したものであってもよい。呼吸器疾患としては、肺炎、気管支炎、慢性気管支炎、喘息、急性肺障害、肺気腫、肺水腫、閉塞性肺疾患(慢性閉塞性肺疾患を含む。)、全身性炎症反応症候群、急性呼吸窮迫症候群、突発性肺線維症、エンドトキシン誘発性肺損傷および非細胞肺癌が挙げられるがこれらに限定されない。
【0018】
本発明に係る測定方法において、精製画分を測定する工程は、デスモシンまたはイソデスモシンが測定可能であれば特に限定されないが、液体クロマトグラフィーと質量分析とを組み合わせて上記精製画分を測定することが好ましく、例えば、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC/MS)法、液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析(例えばLC/MS/MS、LC/MS/MS/MS等)法などが挙げられ、本発明において、検出/測定の感度をより向上させるためには、タンデム型質量分析を用いることがより好ましい。なお、測定に供される精製画分は、溶出画分のすべてであってもよいが、市販の化合物を用いたコントロール溶液(標準溶液)を用いて溶出画分を予め調べておくことにより、高度に精製された画分を得ることができる。
【0019】
LC/MS/MS法を用いる場合、液体クロマトグラフィーの条件は供されるサンプルによって異なるが、移動相にアセトニトリルとヘプタフルオロ酪酸との混合溶液を用いることが好ましい。また、用いられる質量分析計としては、二重収束磁場型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、四重極型質量分析計などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
このような測定方法を用いれば、デスモシンおよび/またはイソデスモシンを高感度で測定することができるので、サンプル中のデスモシンおよび/またはイソデスモシンの測定値(第1の測定値)を標準溶液の測定値(第2の測定値)と比較することによって、生体サンプル中に由来するデスモシンおよび/またはイソデスモシンを精度よく定量することができる。
【0021】
すなわち、本発明は、デスモシンまたはイソデスモシンを定量する方法を提供する。本発明に係る定量方法は、陽イオン交換樹脂を用いてサンプルからデスモシンまたはイソデスモシンを精製する工程、精製画分を測定する工程、および定量すべきサンプルを用いて得られた第1の測定値を、標準溶液をサンプルとして用いて得られた第2の測定値と比較する工程を包含しており、陽イオン交換樹脂からの溶出を非酸性条件下にて自然落下によって行うことを特徴としている。
【0022】
本発明において、第1の測定値と第2の測定値とを比較してサンプル中のデスモシンまたはイソデスモシンの濃度を算出することによって、デスモシンまたはイソデスモシンの定量が可能になる。濃度を算出するための手段としては、例えば、所定濃度のデスモシンまたはイソデスモシンを含んだ標準溶液を上記測定方法におけるサンプルとして用いて得られた測定値に基づいて作成した検量線を用いることが好ましい。より精度の高い検量線を作成するために、サンプルおよび標準溶液に内部標準物質を含ませておくことが好ましい。内部標準物質としては、安定同位体標識されたデスモシンまたはイソデスモシンが最適であるが、液体クロマトグラフィーにおける保持時間がこれらに比較的近く、かつ生体中に存在しない物質であるという観点からPE−システインもまた好適に用いられる。測定したデスモシンまたはイソデスモシンのピーク面積と内部標準物質のピーク面積との比をグラフ上にプロットすることによって、信頼性の高い検量線を作成することができる。また、特許文献3に記載されているように、標準溶液は、標準物質を生理食塩液に溶解することによって調製されてもよい。真度は、定量値の平均から添加濃度を減じた値を添加濃度で除することで算出される。
【0023】
本発明に係る定量方法を用いれば、エラスチンの溶出(および分解)を伴う疾患を診断することができる。診断可能な疾患としては、上述したような呼吸器疾患が挙げられる。また、本発明に係る定量方法を用いれば、デスモシンおよび/またはイソデスモシンを精度よく定量することができるので、エラスチンの溶出(および分解)を伴う疾患を処置し得る薬剤をスクリーニングすることができる。すなわち、本発明は、呼吸器疾患を処置する薬剤をスクリーニングする方法を提供する。本発明に係るスクリーニング方法は、陽イオン交換樹脂を用いてサンプルからデスモシンまたはイソデスモシンを精製する工程、精製画分を測定する工程、および候補物質を投与したモデル動物から採取した第1の生体サンプルを用いて得られた第1の測定値を、候補物質を投与していないモデル動物から採取した第2の生体サンプルを用いて得られた第2の測定値と比較する工程を包含しており、陽イオン交換樹脂からの溶出を非酸性条件下にて自然落下によって行うことを特徴としている。
【0024】
本発明において、精製する工程に供されるサンプルは、モデル動物から採取されたサンプルであり、呼吸器疾患を処置する薬剤としての候補物質を投与する(または投与した)モデル動物から採取されたものである。第1の生体サンプルは候補物質を投与したモデル動物から採取したものであり、第2の生体サンプルは候補物質を投与していないモデル動物から採取したものである。ここで、第1および第2の生体サンプルは、同一の動物群から、候補物質の投与前後に採取されてもよく、異なる動物群(すなわち、投与群および非投与群)から採取されてもよい。本発明が適用可能なモデル動物は、当該分野において周知の種々のモデル動物であり得る。候補物質は、天然の化合物であっても合成された化合物であってもよく、組成物(例えば、抽出物、培養物など)であってもよい。候補物質は、は、モデル動物に対して経口または非経口にて投与されればよく、非経口投与の形態としては、種々の経路(鼻腔内投与、粘膜投与、経口投与、腟内投与、尿道投与または眼内投与)による注射(皮下および筋肉内注射を含む。)または坐剤の形態、あるいは吸入のための鼻腔スプレーまたはエアロゾルの形態であり得る。第1の生体サンプルは、投与の所定期間後に採取されればよく、投与後の一定期間内に連続的に採取されてもよい。
【実施例】
【0025】
〔1.標準溶液(STD溶液)の調製〕
デスモシン(DES)1μmolを内包したガラスバイアルに水1mLを添加し、十分に混和してデスモシン標準原液(1μmol/mL)を調製した。また、イソデスモシン(IDE)1μmolを内包したガラスバイアルに水1mLを添加し、十分に混和してイソデスモシン標準原液(1μmol/mL)を調製した。各標準原液0.1mLを混合した後に水を添加して希釈混合液(4mL)を調製した(25nmol/mL)。希釈混合液に水を添加し、DESおよびIDEの混合標準溶液を調製した(最終濃度が1250、500、250、50、25、10および5pmol/mL)。
【0026】
〔2.内部標準溶液(I.S.溶液)の調製〕
内部標準物質としてのPE−システイン5mgを少量の水で溶解した後、さらに水を添加して10mLの内部標準原液(500μg/mL)を調製した。この内部標準原液を水で希釈して0.04μg/mLの内部標準溶液を調製した。
【0027】
〔3.検量線作成用のサンプル調製〕
健常人から採取したヒト尿約100μLを、ガラス製のバイアルに分取した。バイアルにSTD溶液または水(BlankおよびSTD.0)20μLおよび濃塩酸120μLを添加した。次いで、バイアルに水2mL、およびI.S.溶液または水(Blank)10μLを添加した後に、ボルテックスにて約10秒間攪拌して、検量線作成用の混合液を得た。
【0028】
陽イオン交換カラム(Oasis(登録商標)MCXカラム、Waters社製、150mg/6mL)を、メタノール2mL×1回および水2mL×1回で予め平衡化した。カラムの平衡化を、4℃にて1000rpmで2分間の遠心分離によって行った。平衡化した後のカラムに上記混合液をアプライした後、水3mL×2回およびメタノール3mL×1回の洗浄を、4℃にて1000rpmで2分間の遠心分離によって行った。洗浄後のカラムに25%アンモニア水/メタノール(1:1)3mLをアプライし、溶出を自然落下にて行った。溶出液を窒素ガス気流下にて60℃で蒸発乾固した後、ヘプタフルオロn−酪酸溶液(5mmol/L)100μLを添加し、ボルテックスにて約10秒間攪拌した。得られた溶液を前処理後サンプル(注入サンプル)として、液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析に供した。
【0029】
〔4.液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析〕
分析カラム:AccQ-TagTM Ultra column,2.1 mm I.D.×100 mm L.,1.7 μm (Waters Corp.)
カラム温度:設定値50℃
保持時間:DES 約6.6分
IDE 約6.4分
I.S. 約4.1分
ガードカラム:VanGuard Pre-Column,2.1 mm I.D.×5 mm L.,1.7 μm, (Waters Corp.)
液体クロマトグラフシステム:Ultra Performance LC システム(ACQUITY) (Waters Corp.)
オートサンプラー設定温度:10℃
移動相:A:5mmol/Lヘプタフルオロn−酪酸溶液
B:アセトニトリル
グラジエント条件:
【0030】
【表1】

【0031】
注入量: 5 μL
スイッチングタイムプログラム:
0 min 廃棄
3 min 質量分析計
10 min 廃棄

タンデム質量分析計:API 5000, Applied Biosystems /MDS SCIEX
Ionization:Electrospray ionization (ESI)
Ionspray voltage:5500 V
Heated gas temperature:600℃
Nebulizer gas pressure (GS1):60 psi (414 kPa), air
Heated gas pressure (GS2):80 psi (552kPa), air
Curtain gas pressure:40 psi (276 kPa), N2
Collision gas pressure:設定値 6, N2
Scan mode:Multiple reaction monitoring (MRM) mode
Monitor ion and parameter:
【0032】
【表2】

【0033】
〔5.検量線の作成〕
液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析で得られた検量線用サンプルのピーク面積比(DESまたはIDEのピーク面積/I.S.のピーク面積)をY、添加濃度をXとし、解析用ソフトウエアMicrosoft(登録商標) Excel 2002を用いて算出した一次回帰式(Y=aX+b;1/Yで重み付け)に基づく検量線を作成した。デスモシンの検量線を図1に、イソデスモシンの検量線を図2に示す。さらに、この検量線について、真度(%)を算出した。デスモシンについての結果を表3に、イソデスモシンについての結果を表4に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
なお、表中に示したSTD.1の場合の、デスモシン、イソデスモシンおよび内部標準(PE−システイン)についてのクロマトグラムを、図3に示す。
【0037】
〔6.測定用のサンプル調製(加水分解を含むトータル量)〕
健常人から採取したヒト尿約100μLを、ガラス製のバイアルに分取した。バイアルに水20μLおよび濃塩酸120μLを添加した後、ボルテックスにて約10秒間攪拌した。混合液を110℃で48時間インキュベートした。バイアルに水2mLおよびI.S.溶液10μLを添加した後に、ボルテックスにて約10秒間攪拌した。4℃にて3000rpmで2分間の遠心分離を行い、上清を回収した。
【0038】
陽イオン交換カラム(Oasis(登録商標)MCXカラム、Waters社製、150mg/6mL)を、メタノール2mL×1回および水2mL×1回で予め平衡化した。カラムの平衡化を、4℃にて1000rpmで2分間の遠心分離によって行った。平衡化した後のカラムに上記上清をアプライした後、水3mL×2回およびメタノール3mL×1回の洗浄、4℃にて1000rpmで2分間の遠心分離によって行った。洗浄後のカラムに25%アンモニア水/メタノール(1:1)3mLをアプライし、溶出を自然落下にて行った。溶出液を窒素ガス気流下にて60℃で蒸発乾固した後、ヘプタフルオロn−酪酸溶液(5mmol/L)100μLを添加し、ボルテックスにて約10秒間攪拌した。得られた溶液を前処理後サンプル(注入サンプル)として、液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析に供した。
【0039】
〔7.測定用のサンプル調製(加水分解を含まないフリー体量)〕
健常人から採取したヒト尿約100μLを、ガラス製のバイアルに分取し、DESおよびIDEの標準溶液20μL、濃塩酸120μL、水2mL、およびI.S.溶液10μLを添加した後、ボルテックスにて約10秒間攪拌した。なお、標準溶液は、検量線作成用のサンプル調製時および同時再現性試験用のサンプル調製時にのみ添加し、測定用のサンプルのサンプル調製時には添加しない。
【0040】
陽イオン交換カラム(Oasis(登録商標)MCXカラム、Waters社製、150mg/6mL)を、メタノール2mL×1回および水2mL×1回で予め平衡化した。カラムの平衡化を、4℃にて1000rpmで2分間の遠心分離によって行った。平衡化した後のカラムに上記上清をアプライした後、水3mL×2回およびメタノール3mL×1回の洗浄、4℃にて1000rpmで2分間の遠心分離によって行った。洗浄後のカラムに25%アンモニア水/メタノール(1:1)3mLをアプライし、溶出を自然落下にて行った。溶出液を窒素ガス気流下にて60℃で蒸発乾固した後、ヘプタフルオロn−酪酸溶液(5mmol/L)100μLを添加し、ボルテックスにて約10秒間攪拌した。得られた溶液を前処理後サンプル(注入サンプル)として、液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析に供した。
【0041】
〔8.同時再現性試験〕
上述したように、検量線作成用のサンプルおよび測定用のサンプルを、加水分解を実施しない方法にて調製し、ヒト尿中のDESおよびIDEの定量を5回繰り返し行った。得られた定量値から、定量値の平均値、真度および精度を算出した。DESについての結果を表5に、IDEについての結果を表6に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
なお、DESおよびIDEの分析を行うための前処理におけるカラムからの溶出条件を検討した結果を以下に示す。具体的には、カラムをメタノール3mLで1回洗浄した後に25%アンモニア水/メタノール(1:1)3mLにて溶出した結果を表7(DES)および表8(IDE)に示し、カラムをメタノール3mLで1回洗浄した後に0.1mol/LのHCl3mLでさらに洗浄し、次いで、2mol/LのHCl3mLにて溶出した結果を表9(DES)および表10(IDE)に示す。
【0045】
【表7】

【0046】
【表8】

【0047】
【表9】

【0048】
【表10】

【0049】
非酸性条件下で溶出した場合には、表7〜8に示すように、精度が非常に高いことがわかった(最大で16.5%)。これに対して、酸性条件下で溶出した場合には、表9〜10に示すように、精度が最大で59.3%となり、測定結果が非常にばらつくことがわかった。
【0050】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、サンプル中のデスモシンおよびイソデスモシンを感度よく測定することができるので、デスモシンおよびイソデスモシンの定量、呼吸器疾患を処置する薬剤のスクリーニングに利用可能である。このように、本発明は、医薬分野に大いに貢献し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デスモシンまたはイソデスモシンを測定する方法であって、
陽イオン交換樹脂を用いてサンプルからデスモシンまたはイソデスモシンを精製する工程、および
精製画分を測定する工程
を包含し、
陽イオン交換樹脂からの溶出を非酸性条件下にて自然落下によって行うことを特徴とする測定方法。
【請求項2】
上記サンプルが、哺乳動物から採取した生体サンプルであることを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
上記哺乳動物が、呼吸器疾患に罹患していることを特徴とする請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
液体クロマトグラフィーと質量分析とを組み合わせて上記精製画分を測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
上記質量分析がタンデム型であることを特徴とする請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
上記サンプルが、酸処理後のサンプルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
デスモシンまたはイソデスモシンを定量する方法であって、
陽イオン交換樹脂を用いてサンプルからデスモシンまたはイソデスモシンを精製する工程、
精製画分を測定する工程、および
定量すべきサンプルを用いて得られた第1の測定値を、標準溶液をサンプルとして用いて得られた第2の測定値と比較する工程
を包含し、
陽イオン交換樹脂からの溶出を非酸性条件下にて自然落下によって行うことを特徴とする定量方法。
【請求項8】
呼吸器疾患を処置する薬剤をスクリーニングする方法であって、
陽イオン交換樹脂を用いてサンプルからデスモシンまたはイソデスモシンを精製する工程、
精製画分を測定する工程、および
候補物質を投与したモデル動物から採取した生体サンプルを用いて得られた第1の測定値を、候補物質を投与していないモデル動物から採取した生体サンプルを用いて得られた第2の測定値と比較する工程
を包含し、
陽イオン交換樹脂からの溶出を非酸性条件下にて自然落下によって行うことを特徴とするスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−210564(P2010−210564A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59388(P2009−59388)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【Fターム(参考)】