説明

デセルピジンの半合成法

本発明は、レセルピン酸ラクトン(II)を出発物質として、11−O−デメチルレセルピン酸ラクトン(III)を中間体として介する、デセルピジン(Ia)の合成の効率的な手順に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インドールアルカロイド、特にデセルピジンの合成方法に関する。
【0002】
背景技術
レセルピン(Ib):
【0003】
【化9】

【0004】
は、1952年に初めて、Schlitterによって、インドジャボク(Rauwolfia serpentina)の抽出物から単離され(Muller et.al, Experientia 1952, 8, 338)、ラウウォリフィア属抽出物の降圧機能(ipotensive activity)の主因であることが特定された。
【0005】
デセルピジン(Ia):
【0006】
【化10】

【0007】
は、1955年に初めて、Hofmannによって、ラウウォルフィア・カネスケンス(Rauwolfia canescens)の根から単離された(Stoll and Hofmann,J.Am.Chem. Soc. 1955,77, 820)。
【0008】
長年にわたって、レセルピンとデセルピジンのような同類のインドールアルカロイドとは、高血圧、神経及び精神疾患の処置に重要な役目を演じてきた。デセルピジンが、興味深い薬理学的特性を有しているとしても、現実に入手可能性が低いことから、その使用はレセルピンに比較して常に限られていた。事実、根の皮質部分におけるデセルピジンの力価は約0.0003〜0.005%であるが、一方、レセルピンの力価は約0.1〜0.2%である。
【0009】
デセルピジンは、構造的に、レセルピン(Ib)及びレシナミン(Ic):
【0010】
【化11】

【0011】
に関係付けられる。
【0012】
レセルピンと比較して、デセルピジンは、11位にメトキシ基を欠く。レシナミンと比較して、デセルピジンは、11位にメトキシ基を欠き、18位が3,4,5−トリメトキシケイ皮酸残基の代わりに3,4,5− トリメトキシ安息香酸残基でエステル化されている。
【0013】
理論的には、レセルピンのデセルピジンへの変換は、11位の脱メトキシ化を介して行うことができる。既知の有機化学の方法によれば、最も簡単なやり方は、レセルピンを直接、脱メトキシ化することか、11位のメトキシ基をヒドロキシ基に変換し、次いでフェノール環をベンゼン環に還元することのいずれかである。
【0014】
当業者には、レセルピン、レシナミン及びメチルレセルパート(Id):
【0015】
【化12】

【0016】
の多官能化が、11位の水酸基のO−デメチル化を選択的に与えないことを知られている。11位の直接の脱メトキシ化又は11位のO−デメチル化の既知の方法は、位置選択性及び/又は化学選択性を欠く。
【0017】
これらの問題は、レセルピン酸ラクトンを前駆体として使用することにより克服できることが見出された。
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、レセルピン酸ラクトンの脱メチル化、フェノール環のベンゼン環への変換及び18位のヒドロキシ基の再エステル化を含むデセルピジンの合成方法に関する。
【0019】
より詳細には、本方法は、下記の工程:
(a)レセルピン酸ラクトン(II):
【0020】
【化13】

【0021】
の脱メチル化により、11−O−デメチルレセルピン酸ラクトン(III):
【0022】
【化14】

【0023】
を得る工程;
(b)化合物(III)を、デセルピジン酸ラクトン(V):
【0024】
【化15】

【0025】
に変換する工程;
(c)デセルピジン酸ラクトン(V)を、メチルデセルピダート(VI):
【0026】
【化16】

【0027】
に加水分解する工程;
(d)メチルデセルピダート(VI)を、3,4,5−トリメトキシ安息香酸を用いてエステル化し、デセルピジン(Ia):
【0028】
【化17】

【0029】
を得る工程
を含む。
【0030】
レセルピン酸ラクトンは、既知の化合物であり、レセルピン若しくはレシナミン、又はそれらの混合物をナトリウムメトキシドで加水分解して、メチルレセルパート(Id):
【0031】
【化18】

【0032】
とし、その後、Woodward(R. B. Woodward et al, Tetrahedron 1958,2, 1-57)によって報告されたものと類似の手順で、対応するラクトンに環化することによって、都合よく調製することができる。あるいは、文献(H. B. MacPhillamy et. al., J. Am. Chem. Soc., 1955, 77, 4335-4343)に従って、レセルピン及びレシナミンを直接、それらの対応するラクトンに変換することができる。
【0033】
選択的なレセルピン酸ラクトン(工程(a))は、ラクトンの安定性は確保されていることを条件として、従来の脱メチル化剤(好ましくは、三臭化ホウ素、ヨードトリメチルシラン及びヨウ化水素酸から選択される)を用いて、熟練した化学者にとって容易に最適化することができる反応条件下で実施することができる。報告例中で記載されたように、三臭化ホウ素の使用が特に好ましい。
【0034】
工程(b)は、フェノールをベンゼンに還元するのに適切な方法によって実施することができる。好ましくは、この工程は、化合物(III)を、式(IV)の化合物に変換し、式(IV)を還元する。
【0035】
【化19】

【0036】
(式中、R’は、脱離基である)
【0037】
脱離基のなかでも、スルホン酸エステル、例えばトシラート又はメシラート、イソウレイド基(Vowinkel によるE. Vowinkel et al., Chem. Ber. 1974,107, 907-914に記載の条件下)が好ましく、例えばジシクロヘキシルカルボジイミド若しくはジイソプロピルカルボジイミド、又は(5−フェニル−テトラゾリル)オキソ基(W. J. Musliner et al.J. Am. Chem. Soc. 1959,81, 4271-4273に記載の条件下で1−クロロ−5−フェニル−テトラゾールによる処理で得られる)での処理により得られるものである。特に好ましくは、報告例に記載されたようにトシラート基である。
【0038】
還元剤は、例えば、ラネーニッケル、パラジウム担持チャコール及び白金から選択される。 ラネーニッケルは、スルホン酸エステルを還元するのに使用しなければならず、一方、パラジウム担持チャコールは、イソウレア、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド又はジイソプロピルカルボジイミドによって得られるものの還元に好ましい。
【0039】
デセルピジン酸ラクトンのメチルデセルピダートへの加水分解(工程(c))は、アルコール中、ナトリウムメトキシドで実施することができ、メチルデセルピダートのデセルピジンへのエステル化(工程(d))は、文献(H. B. MacPhillamy et al., J.Am. Chem. Soc., 1955,77, 4335-4343 ; M. Lounasmaa et. al. , Heterocycles 1985, 23,371-375 ; R. H. Levin et al., J. Org. Chem. 1973, 38, 1983-1986)に報告された条件と類似の条件で実施することができる。
【0040】
したがって、レセルピン酸ラクトンの前駆体としての使用は、既知の方法の位置選択性及び化学選択性の問題を克服を可能にする。
【0041】
事実、ラクトンにおいて、16、17及び18位の置換基、例えば17位のメトキシ基のコンフォメーションはアキシアル配座であるが、前駆体ではエクアトリアル配座であり、アキシアルコンフォメーションは、メトキシ基を脱メチル化剤から保護し、17位に対して11位での選択的脱メチル化を可能にする。本発明の方法は、最低でも収率40%を与える。
【0042】
下記の例により、本発明をより詳細に説明する。
【0043】
実施例
例1.メチルレセルパートの合成
ナトリウムメトキシド(0.150g、4.8mmol)のメタノール(50ml)溶液中のレセルピン(1g、0.16mmol)の懸濁液を、出発物質が消失するまで還流させ(1時間)、次いで冷却し、減圧下で、体積が3分の1になるまで濃縮した。溶液を水(60ml)で希釈し、濃塩酸でpHを1に調整した。次いで、水溶液を繰り返しエチルエーテルで洗浄した。次いで水相を濃アンモニアでアルカリ化し、塩化メチレン(4X30ml)で繰り返し抽出した。あわせた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で濃縮し、無定形の残渣(0.66g)を得て、精製することなく、次工程で使用した。
【0044】
当量のレシナミンから出発して同様の工程をたどった。
【0045】
例2.レセルピン酸ラクトンの合成
(A)レセルピンより
レセルピン(4.1g、6.74mmol)を、キシレン(175ml)中のアルミニウムイソプロポキシド(10.5g、51.4mmol)の溶液に、撹拌下で添加し、得られた混合物を、6時間、窒素下で還流させた。溶液から沈殿したレセルピン酸ラクトンをろ過し、ベンゼン(3X40ml)、次いでエチルエーテル(4X40ml)で洗浄した。残渣を、CHCl3から再結晶し、2.07g(5.45mmol、81%)の所望の生成物を得た。レシナミンについても同様の手順を適用した。
【0046】
(B)メチルレセルパートより
アルミニウムイソペルオキシド(0.747g、3.65mmol)を、窒素下に、キシレン(11.0ml)中に溶解させた。メチルレセルパート(0.200g、0.483mmol)を添加し、反応混合物を撹拌しながら還流させた。エステルを手早く溶解させて、ラクトンが5'後に白色固体として単離し始めた。還流下で2時間後に、生成物をろ過により単離して、キシレン(3X20ml)及びエーテル(3X20ml)で洗浄した。残渣をCHCl3から再結晶して、所望の生成物0.168g(0.440mmol、91%)を得た。
【0047】
【表1】

【0048】
例3.11−O−デメチルレセルピン酸ラクトンの合成
レセルピン酸ラクトン(0.210g、0.550mmol)を、アルゴン下に、無水CH2Cl2(8.0ml)中に懸濁させ、混合物を0℃に冷却した。15’後、三臭化ホウ素を添加し(1.4ml、1.37mmol、1.0M溶液、CH2Cl2中)、溶液は赤れんが色に変わった。5時間後、反応をNaHCO3飽和溶液でクエンチし、CH2Cl2で抽出した。水相を集めて、再びAcOEt(3X15.0ml)で抽出した。有機相をあわせて、乾燥させた。水相をろ過し、沈殿物をTHF/MeOH混合物(1:1)に再溶解させ、先に得られた有機溶液に添加した。ろ過及び減圧下での濃縮後、固体の残渣をクロマトグラフィーに付して(シリカゲル、CH2Cl2/MeOH=15:1、次いで16:1)、所望の生成物(0.187g、0.51mmol、92%)を得た。
【0049】
【表2】

【0050】
例4.11−O−p−トルエンスルホニル−11−O−デメチルレセルピン酸ラクトンの合成
11−O−デメチルレセルピン酸ラクトン(0.700g、1.90mmol)を、窒素下に、65mlの無水THFに溶解させ、次いでトリエチルアミンを添加した(1.86ml、13.32mmol)。反応混合物を10'間反応させ、p−トルエンスルホニルクロリド(1.09g、5.71mmol)を添加し、次いで42時間還流させた。反応混合物を、減圧下で、溶媒を留去し、残渣をクロマトグラフィー(シリカゲル、CH2Cl2/MeOH=17:1)に付し、0.75gの所望の化合物(0.75g、1.44mmol76%)を得た。
【0051】
【表3】

【0052】
例5.デセルピジン酸ラクトンの合成
あらかじめH2O(2回)、MeOH(2回)及びEtOH(1回)で洗浄したラネーニッケル(4.86g、湿潤)、次いで14mlの無水THF及び16.0mlのEtOHに溶解させた11−O−p−トルエンスルホニル−11−O−デメチルレセルピン酸ラクトン(0.300g、0.58mmol)を、アルゴン下に、水素化反応器に導入した。水素化を、50psiの圧力下で実施した。8時間後、セライトを介して溶液をろ過し、CHCl3(6X40ml)及び100mlのMeOHで浄した。減圧下に、溶媒を留去し、残渣をクロマトグラフィー(シリカゲル、CH2Cl2/MeOH=20:1)に付し、0.17gの所望の化合物(0.170g、0.49mmol、85%)を得た。
【0053】
【表4】

【0054】
例6.メチルデセルピダートの合成
デセルピジン酸ラクトン(0.140g、0.398mmol)を、窒素下に、27.0mlの無水MeOHに溶解させた。この懸濁液に、MeONa(0.032g、0.597mmol)を添加し、次いで混合物を90'間還流下に反応させた。反応を0.2mlの氷酢酸を添加してクエンチし、溶媒を減圧下に留去した。生成物を0.2MNaOH溶液に再溶解させて、CHCl3(4X25ml)で抽出し、有機相を乾燥させて、ろ過した。溶媒を減圧下に留去し、残渣をクロマトグラフィー(シリカゲル、CH2Cl2/MeOH=10:1)に付し、0.17gの所望の生成物(0.170g、0.38mmol、95%)を得た。
【0055】
【表5】

【0056】
例7.デセルピジンの合成
メチルデセルピダート(0.5g、1.30mmol)を、窒素下に、乾燥ピリジン(4.0ml)に溶解させた.。ベンゼン(2ml)中に3,4,5−トリメトキシベンゾイルクロリド(0.5g、2.17mmol)を溶解させ、次いでゆっくりと反応混合物に滴下した。反応を、撹拌下に、5日間、5℃に保持し、次いで50mlの水でクエンチした。この溶液に、10mlのH2O中の濃NH(2ml)の混合物を添加した。次いで溶液をCH2Cl2(3X25ml)で抽出し、有機相を乾燥させて、ろ過した。溶媒を減圧下に留去し、得られた残渣を、アセトンから再結晶させ、0.168g(0.440mmol、91%)の所望の生成物を得た。
【0057】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デセルピジン(Ia):
【化1】


の製造方法であって、
(a)レセルピン酸ラクトン(II):
【化2】


を、脱メチル化して、11−O−デメチルレセルピン酸ラクトン(III):
【化3】


を得る工程;
(b)化合物(III)を、デセルピジン酸ラクトン(V):
【化4】


に変換する工程;
(c)デセルピジン酸ラクトン(V)を、メチルデセルピダート(VI):
【化5】


に加水分解する工程;
(d)メチルデセルピダート(VI)を、3,4,5−トリメトキシ安息香酸でエステル化して、デセルピジン(Ia)を得る工程
を含む、方法。
【請求項2】
化合物(III)のデセルピジン酸ラクトン(V)の変換が、化合物(III)を、式(IV):
【化6】


(式中、R’は、脱離基である)の化合物に変換し、化合物(IV)を還元することによって実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
化合物(IV)のR’ 基が、スルホナート、イソウレイド又は(5−フェニル−テトラゾリル)オキソ基から選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
R’基が、p−トルエンスルホナート又はメタンスルホナートである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
R’基が、p−トルエンスルホナートである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
化合物(IV)の還元が、ラネーニッケルを用いて実施される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
R’基が、イソウレイド基である、請求項3記載の方法。
【請求項8】
化合物(IV)の還元が、パラジウム担持チャコールを用いて実施される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
式(III):
【化7】


の化合物。
【請求項10】
式(IV):
【化8】


(式中、R’は、p−トルエンスルホナートである)の化合物。

【公表番号】特表2007−530467(P2007−530467A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504281(P2007−504281)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/002190
【国際公開番号】WO2005/095394
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(397068654)インデナ・ソチエタ・ペル・アチオニ (20)
【Fターム(参考)】