説明

データ補正装置

【課題】SNR分布の空間的な均一性を維持しつつ空間的に不均一なセンサの感度分布の補正を簡易な処理で行うことによって均一なデータを得ることが可能なデータ補正装置、データ補正方法、磁気共鳴イメージング装置およびX線CT装置を提供することである。
【解決手段】データ補正装置1は、補正対象データSorigを取得するセンサの不均一な感度分布Isensを用いて補正対象データSorigに基いて得られる第1の対象データSorigに対して感度補正S2を行うことにより第1の被処理データSscorを生成する感度補正手段と、補正対象データSorigに基いて得られる第2の対象データSscorから、それぞれ異なる強度の対応するフィルタリングS3およびSNRの分布Wsnrに応じて対応する重み付けを受けた複数の成分データを生成し、複数の成分データを合成S4することにより第2の被処理データSscor.nonuni.filを生成するSNR分布補正手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの感度に空間分布が存在することに起因して空間的に不均一なSNR分布が生じたデータを均一に補正するデータ補正装置、データ補正方法、磁気共鳴イメージング装置およびX線CT(computed tomography)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療現場におけるモニタリング装置として、磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置が利用される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
MRI装置は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石内部にセットされた被検体の撮像領域に傾斜磁場コイルで傾斜磁場を形成するとともに高周波(RF:Radio Frequency)コイルからRF信号を送信することにより被検体内の原子核スピンを磁気的に共鳴させ、励起により生じた核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)信号を利用して被検体の画像を再構成する装置である。
【0004】
近年のMRI装置では、撮影高速化のためにRFコイルが送信用の全身用(WB:whole body)コイルと受信用のフェーズドアレイコイル(phased-array coil)とから構成されている。フェーズドアレイコイルは複数の表面コイルを備えるため、各表面コイルで同時にNMR信号を受信してより多くのデータを短時間で収集することにより撮影時間を短縮することができる。
【0005】
しかし、RFコイルをフェーズドアレイコイルやWBコイルで構成すると、フェーズドアレイコイルやWBコイルの感度の不均一性に依存してNMR信号とともに再構成処理により得られる画像データの信号強度にも不均一性が生じる。一般にWBコイルの感度の不均一性は無視できる程度に十分小さいが、特に目的別コイルとしてのフェーズドアレイコイルにおける表面コイルの感度の不均一性は大きく、画像データに影響を与える。
【0006】
このため、フェーズドアレイコイルの感度不均一性に起因する画像データの信号強度における不均一性を補正する必要がある。
【0007】
そこで、従来、被検体の画像を生成するための本スキャンに先立って感度プレスキャンが実行される。そして、感度プレスキャンによりフェーズドアレイコイルとWBコイルとから画像データを取得し、各画像データの信号強度の除算値である信号強度比に基づいてフェーズドアレイコイルの感度分布が3次元感度マップデータとして推定され、さらに得られたフェーズドアレイコイルの3次元感度マップデータを用いて画像データの信号強度ムラが補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3135592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のような複数の表面コイルを用いたMRイメージングや単一の表面コイルを用いたMRイメージングにおいて、表面コイルの感度分布を補正すると、SNR(signal to noise ratio)に空間的な不均一性が生じるという問題がある。すなわち、補正前における表面コイルの感度分布は、空間的に不均一であるのに対し、画像ノイズのレベルは一定である。
【0010】
従って、表面コイルの感度分布を補正し、空間依存する画像データの信号強度を一定にすると、画像ノイズが空間的に不均一となる。例えば、感度分布の補正により信号強度が増幅された部分の画像ノイズは信号強度が強調されない部分における画像ノイズよりも強度が大きくなる。この結果、SNRが空間的に不均一となり画質の劣化に繋がるため、SNRの空間的な不均一性は診断上好ましくない。
【0011】
また、表面コイルをセンサとするMRI装置に限らず、他の画像診断装置や生体情報の測定器等の医療機器においても、空間的に不均一なセンサの感度分布を補正して収集した信号の強度を一定にすると、ノイズとともにSNRに空間的な不均一性が生じ、画像や測定結果の品質の劣化に繋がる恐れがある。
【0012】
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、SNR分布の空間的な均一性を維持しつつ空間的に不均一なセンサの感度分布の補正を簡易な処理で行うことによって均一なデータを得ることが可能なデータ補正装置、データ補正方法、磁気共鳴イメージング装置およびX線CT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るデータ補正装置は、上述の目的を達成するために、請求項1に記載したように、補正対象データを取得するセンサの不均一な感度分布を用いて、補正対象データに基いて得られる第1の対象データに対して感度補正を行うことにより第1の被処理データを生成する感度補正手段と、補正対象データに基いて得られる第2の対象データから、それぞれ異なる強度の対応するフィルタリング、およびSNRの分布又はノイズ分布に応じて対応する重み付けを受けた複数の成分データを生成し、複数の成分データを合成することにより第2の被処理データを生成するSNR分布補正手段と、を有することを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るデータ補正装置の第1の実施形態を示す機能ブロック図。
【図2】図1に示すデータ補正装置により画像診断装置で撮像された画像データに対し、SNR分布が均一になるように感度補正を行う手順を示すフローチャート。
【図3】本発明に係るデータ補正装置の第2の実施形態を示す機能ブロック図。
【図4】図3に示すデータ補正装置により画像診断装置で撮像された画像データに対し、SNR分布が均一になるように感度補正を行う手順を示すフローチャート。
【図5】本発明に係るデータ補正装置の第3の実施形態を示す機能ブロック図。
【図6】図5に示すデータ補正装置により画像診断装置で撮像された画像データに対し、SNR分布が均一になるように感度補正を行う手順を示すフローチャート。
【図7】本発明に係るデータ補正装置の第4の実施形態を示す機能ブロック図。
【図8】図7に示すデータ補正装置により画像診断装置で撮像された画像データに対し、SNR分布が均一になるように感度補正を行う手順を示すフローチャート。
【図9】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図。
【図10】図9に示すRFコイルの詳細構成の一例を示す図。
【図11】図10に示すWBコイルとフェーズドアレイコイルの配置例を示す断面模式図。
【図12】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図13】図9に示す磁気共鳴イメージング装置により被検体の画像を収集し、収集された画像データに対してSNR分布が均一になるように各表面コイルの感度補正を行う手順を示すフローチャート。
【図14】図1に示すデータ補正装置による画像補正シミュレーションにおいて想定される理想的な感度補正後の腹部画像Sideal_scorを示す図。
【図15】図1に示すデータ補正装置による画像補正シミュレーションに用いられる感度補正前の原画像Sorigを示す図。
【図16】図15に示す原画像Sorigの感度補正に用いられる腹部用コイルの感度分布Isensをプロファイルとともに示す図。
【図17】図15に示す原画像Sorigを感度補正して得られた腹部画像Sorig_scorをプロファイルとともに示す図。
【図18】図1に示すデータ補正装置による画像補正シミュレーションにおいて用いられる感度補正後におけるノイズ分布noise_scorを示す図。
【図19】図17に示す感度補正後の腹部画像Sorig_scorに対して均一なLSIフィルタを用いてSNRの補正を行って得られた画像をプロファイルとともに示す図。
【図20】図17に示す感度補正後の腹部画像Sorig_scorに対してLSIフィルタを用いて重み付け加算を伴うSNRの不均一補正を行って得られた画像をプロファイルとともに示す図。
【図21】図17に示す感度補正後の腹部画像Sorig_scorに対して均一な構造適応型フィルタを用いてSNRの補正を行って得られた画像をプロファイルとともに示す図。
【図22】図17に示す感度補正後の腹部画像Sorig_scorに対して均一な構造適応型フィルタを用いて重み付け加算を伴うSNRの不均一補正を行って得られた画像をプロファイルとともに示す図。
【図23】図1に示すデータ補正装置による画像補正シミュレーションにおいてスムージング強度を変えてフィルタ処理を行った場合のノイズの標準偏差とRMSEの変化を示す図。
【図24】データ補正装置により、不均一なフィルタリングを行う前における感度補正後のノイズの不均一な分布および標準偏差を示す概念図。
【図25】図24に示すノイズの不均一な分布を不均一なフィルタリングにより均一化して得られるノイズの分布および標準偏差を示す概念図。
【図26】データ補正装置における一様フィルタのフィルタ関数をHanning関数とした場合の例を示す図。
【図27】図1に示すデータ補正装置のフィルタ部において、一様フィルタのスムージング強度の最適化を行ってフィルタリングする場合における処理の流れを示すフローチャート。
【図28】本発明に係るX線CT装置の実施の形態を示す構成図。
【図29】図28に示すX線CT装置における撮影領域の位置とX線検出器から出力されるX線検出信号の強度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るデータ補正装置、データ補正方法、磁気共鳴イメージング装置およびX線CT装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明に係るデータ補正装置の第1の実施形態を示す機能ブロック図である。
【0017】
データ補正装置1は、コンピュータにプログラムを読み込ませることにより構築される。ただし、データ補正装置1の全部または一部を回路により構成してもよい。データ補正装置1は、感度補正部2、SNR分布情報取得部3、フィルタ部4、重み付け加算部5を備えている。そして、これらの構成要素によりデータ補正装置1には、画像診断装置や生体情報の測定器等の医療装置において得られたデータに対し、SNR分布の空間的な均一性を維持しつつ空間的に不均一なセンサの感度分布の補正処理を行うことによって均一なデータを得る機能が備えられる。
【0018】
補正対象となるデータを収集するための医療装置としては、例えば脳波計、心電計、シンクロスコープ等の生体情報の測定器、超音波診断装置、X線診断装置、X線CT装置、磁気共鳴イメージング装置、核医学診断装置等の画像診断装置が挙げられる。磁気共鳴イメージング装置のセンサはコイルであり、X線診断装置、X線CT装置、SPECT(single photon emission computed tomography)やPET(positron emission computed tomography)等の核医学診断装置のセンサは検出素子である。X線診断装置、X線CT装置、核医学診断装置の検出素子には、直列変換型や間接変換型といった種類があるが、いずれにせよ検出素子は不均一な感度を有するため、感度補正を行う必要がある。超音波診断装置のセンサは、複数の超音波振動子を備えたプローブである。
【0019】
そして、データ補正装置1では、画像診断装置において収集された画像データのみならず、センサの不均一な感度分布に起因する感度補正が必要な様々なデータを補正対象とすることができる。例えば補正対象データを収集する医療装置が、磁気共鳴イメージング装置である場合には、MR画像データのみならず、k空間データを補正対象とすることができる。また、補正対象データを収集する医療装置が、X線CT装置である場合には、X線CT画像データのみならず、投影データを補正対象とすることができる。
【0020】
また、データ補正装置1の補正対象となるデータは、任意次元のデータとすることが可能である。例えば、空間位置や時間を表す1次元、2次元、3次元または4次元のデータをデータ補正装置1の補正対象とすることができる。時間を次元とするデータの例としては、脳波形、心電計、シンクロスコープまたは超音波診断装置において取得された時間軸を有するデータが挙げられる。また、MRI装置においてT1緩和(縦緩和)時間の差を利用して撮像されるT1強調画像データやT2緩和(横緩和)時間の差を利用して撮像されるT2強調画像データも時間を次元とするデータの例である。T1強調画像データやT2強調画像データは時間的に減衰するため、コイルの感度補正を行うと、時間的にノイズが不均一となる。このため、時間軸方向にもデータの補正処理を行う必要が生じる。
【0021】
以下、補正対象となるデータが画像診断装置6において収集された画像データである場合を例として説明する。画像診断装置6は、センサ7、画像データ収集部8、画像データ保存部9、感度マップ保存部10および表示装置11とを備えている。センサ7は、画像データ収集部8からの制御によりデータを検出し、検出したデータを画像データ収集部8に与えるように構成されている。
【0022】
画像データ収集部8は、センサ7を制御することによってデータを収集し、収集したデータから画像データを生成する機能を備えている。画像データ保存部9は、画像データ収集部8により生成された画像データを保存する機能を備えている。感度マップ保存部10は、センサ7の空間的または時間的な感度分布を示す感度マップを保存する機能を備えている。表示装置11は、ディスプレイを備え、画像データ保存部9から読み込んだ画像データをディスプレイに表示させる機能を有する。
【0023】
感度マップ保存部10に保存される感度マップは、任意の方法で推定により求めてもよいし、測定してもよい。特に、センサ7を用いて感度マップ測定用のデータ収集を行って、収集されたデータに基いて感度マップを作成することもできる。
【0024】
データ補正装置1の感度補正部2は、画像データ保存部9から感度補正の対象となる原画像データを取得する一方、感度マップ保存部10から感度補正に用いるための感度マップを取得し、取得した感度マップを用いて原画像データの感度補正を行うことにより感度補正画像データを得る機能と、得られた感度補正画像データをフィルタ部4および重み付け加算部5に与える機能とを有する。
【0025】
SNR分布情報取得部3は、原画像データの感度補正に伴って生じるSNRの分布を任意の方法で推定または取得し、取得したSNRの分布情報を重み付け加算部5に与える機能を有する。SNRの分布情報は、例えば、SNRの分布を示すSNR分布ウィンドウとすることができる。SNRの分布情報は、感度マップ保存部10に保存された感度マップから推定することができる。そこで、SNR分布情報取得部3には、感度マップ保存部10から感度マップを取得する機能が備えられる。
【0026】
また、SNRの分布情報は、不均一に分布するSNRの補正対象となる原画像データや感度補正後の感度補正画像データに対してローパスフィルタや閾値処理等の各種画像処理を行って算出することもできる。また、別の例として、補正対象となる原画像データを別途取得したファントムの画像データとを比較することによってSNRの分布情報を得ることもできる。従って、SNR分布情報取得部3にこのようなSNRの分布情報を算出するための画像処理機能を設けることもできる。この他、SNR分布情報取得部3には、SNRの分布を測定する機能や、予め測定されたSNRの分布を入力する機能を設けてもよい。
【0027】
フィルタ部4は、感度補正部2から受けた感度補正画像データまたは感度補正画像データを変換して得られる感度補正データに対し、一様フィルタ(uniform filter)を用いてフィルタ処理を行うことによりフィルタ処理画像データあるいはフィルタ処理データを作成する機能と、作成したフィルタ処理画像データあるいはフィルタ処理データを変換して得られるフィルタ処理画像データを重み付け加算部5に与える機能とを有する。フィルタ部4には、必要に応じて互いに異なるフィルタリング強度を有する任意数の一様フィルタが設けられる。そして、フィルタ部4において、一様フィルタによってフィルタ処理された単一のフィルタ処理画像データまたは異なるフィルタリング強度の一様フィルタによってフィルタ処理された複数のフィルタ処理画像データを作成することができるように構成される。
【0028】
ここで、フィルタ処理の対象となる感度補正画像データは、感度補正されているため、SNRが空間的または時間的に不均一となっている。しかし、一様フィルタは、SNRが一定であることを前提とするデータにかける汎用的な通常のフィルタで構成することができる。すなわち、大局的には空間的および/または時間的に均一とみなせる特性を有する従来のフィルタをほぼすべて一様フィルタとして適用することが可能である。例えば、一様なカーネル(フィルタ強度)を有し、時間的および空間的に強度が変わらない線形(linear)フィルタやデータの構造に応じてカーネルを決定する構造適応(structure adaptive)型のフィルタで一様フィルタを構成することができる。
【0029】
また、フィルタ処理の対象となるデータは、r-space(実空間)上実空間データであっても、MRI装置において得られるk-space上のk空間データであってもよい。k空間データをフィルタ処理の対象とする場合には、感度補正画像データがFT(Fourier transform)により感度補正k空間データに変換され、感度補正k空間データがフィルタ処理の対象となる。そして、フィルタ処理後のフィルタ処理kデータがFTによりフィルタ処理画像データに変換されて重み付け加算部5に与えられる。
【0030】
さらに、フレネル変換を応用して周波数帯域分割された特殊なFREBAS (Frenel transform Band Split)空間と、処理空間においてSNRが最適となるようにフィルタ強度を決定するSNR適応型のWiener Filterが提案されている。Wiener Filterは、FREBAS空間の他、フーリエ空間や実空間をWavelet変換により分割して得られる空間を処理空間とすることができる。特にFREBAS空間をWiener Filterの処理空間とすれば、FREBAS空間上のデータに対する一様フィルタとしてノイズをモニタして適切にカーネルを決定することができる。
【0031】
そこで、感度補正画像データを感度補正FREBAS空間データに変換し、Wiener Filterによりフィルタ処理されたフィルタ処理FREBAS空間データをフィルタ処理画像データに変換して重み付け加算部5に与えてもよい。FREBAS空間は、SNRの改善方法のひとつとしてフレネル変換の複式解法や帯域分割を利用した多重解像度解析法による解析に用いられる空間である。
【0032】
尚、structure adaptiveフィルタの詳細については、” Chen, H.G., A. Li, L. Kaufman, and J. Hale. A fast filtering algorithm for image enhancement. IEEE Trans. Medical Imaging 13(3):557-564 (1994)”に記載されている。また、Wiener Filterの詳細については、” 「伊藤聡志, 山田芳文: フレネル変換の複式解法を利用したMR映像のSNR改善法」Med Imag Tech 19(5),355-369 (2001) (英語名:Ito S, Yamada Y. Use of Dual Fresnel Transform Pairs to Improve Signal-to-Noise Ratio in Magnetic Resonance Imaging)”に記載されている。
【0033】
重み付け加算部5は、SNR分布情報取得部3から受けたSNR分布ウィンドウ等のSNR分布情報に基いて、フィルタ部4から受けた単一または複数のフィルタ処理画像データおよび感度補正部2から受けたフィルタ処理前の感度補正画像データの重み付け加算を行うことにより不均一フィルタによりフィルタ処理された画像データと実質的に同等な不均一フィルタ処理画像データを生成する機能と、生成した不均一フィルタ処理画像データを画像診断装置6の画像データ保存部9に書き込む機能とを有する。ただし、フィルタ処理前の感度補正画像データを重み付け加算の対象とせずに、フィルタ部4から受けた複数のフィルタ処理画像データのみを重み付け加算の対象としてもよい。つまり、異なる強度でフィルタリングされた複数のフィルタ処理画像データを重み付け加算の対象としてもよい。
【0034】
次にデータ補正装置1の動作および作用について説明する。
【0035】
図2は、図1に示すデータ補正装置1により画像診断装置6で撮像された画像データに対し、SNR分布が均一になるように感度補正を行う手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0036】
まず予め画像診断装置6において画像データが収集される。すなわち、画像データ収集部8からの制御によりセンサ7において画像生成用のデータが検出される。検出されたデータはセンサ7から画像データ収集部8に与えられ、画像データ収集部8は、データから画像データを生成する。そして、生成された画像データは、画像データ保存部9に原画像データSorigとして書き込まれて保存される。併せて、センサ7の時間的および/または空間的な感度分布が任意の方法で推定または測定される。得られたセンサ7の感度分布は、感度マップIsensとして感度マップ保存部10に書き込まれて保存される。
【0037】
そして、ステップS1において、SNR分布情報取得部3は、感度マップ保存部10から感度補正に用いる感度マップIsensを取得し、感度マップIsensに基いてSNRの分布情報を求める。SNRの分布情報はSNR分布ウィンドウとして機能する重み関数Wsnrとされ、重み関数Wsnrが重み付け加算部5に与えられる。
【0038】
感度マップIsensが3次元的にx方向、y方向およびz方向に空間分布しているものとすると、感度マップIsensは、一般化してIsens(x,y,z)と表すことができる。画像診断装置6がMRI装置である場合には、感度マップIsens(x,y,z)は、コイル感度分布を示す実空間(r-space)データとなる。
【0039】
SNRの分布を表す重み関数Wsnr(x,y,z)は、正規化したセンサ7の感度マップIsens(x,y,z)から様々な方法で求めることができる。例えば、センサ7の感度マップIsens(x,y,z)の最大値max[Isens(x,y,z)]のみ規格化し、重み関数Wsnr(x,y,z)の最大値が1になるようにする場合には、式(1)により重み関数Wsnr(x,y,z)を決定することができる。
【0040】
[数1]
Wsnr(x,y,z)= Isens(x,y,z)/max[Isens(x,y,z)] (1)
ただし、
Wsnr(x,y,z):重み関数(SNR分布関数)
である。
【0041】
また、例えば、重み関数Wsnr(x,y,z)の最大値が1となり、かつ重み関数Wsnr(x,y,z)の最小値がゼロとなるようにする場合には、センサ7の感度マップIsens(x,y,z)の最小値min[Isens(x,y,z)]も用いて式(2)により重み関数Wsnr(x,y,z)を決定することができる。
【0042】
[数2]
Wsnr(x,y,z)
={Isens(x,y,z)-min[Isens(x,y,z)]}/{max[Isens(x,y,z)]-min[Isens(x,y,z)]} (2)
また、MRI装置において、複数のマルチコイルを用いてパラレルイメージング(PI)を行い、マルチコイルからの信号を折り返し展開することによって原画像データSorigを合成する場合には、コイル独立性を有するマルチコイルの感度や信号の折り返し展開による合成の影響を考慮してノイズ分布を決定するために定義されたg-factorの分布g(x,y,z)から式(3)に示すように重み関数Wsnr(x,y,z)を求めることができる。
【0043】
[数3]
Wsnr(x,y,z)=1/g(x,y,z) (3)
次に、ステップS2において、感度補正部2は、画像データ保存部9から感度補正の対象となる原画像データSorigを取得する一方、感度マップ保存部10から感度補正に用いるための感度マップIsensを取得し、取得した感度マップIsensを用いて原画像データSorigに対してセンサ7の感度補正を行うことにより感度補正画像データSscorを求める。そして、感度補正部2は、得られた感度補正画像データSscorをフィルタ部4および重み付け加算部5に与える。
【0044】
感度補正画像データSscorは、式(4)により作成することができる。
【0045】
[数4]
Sscor(x,y,z)=Sorig(x,y,z)/Isens(x,y,z) (4)
ただし、
Isens(x,y,z):感度マップデータ
Sorig(x,y,z) :原画像データ(感度補正前の画像データ)
Sscor(x,y,z) :感度補正画像データ
である。
【0046】
次に、ステップS3において、フィルタ部4は、感度補正部2から受けた感度補正画像データSscorまたは感度補正画像データSscorを変換して得られるk空間やFREBAS空間上の感度補正データに対し、一様フィルタを用いてフィルタ処理を行うことによりフィルタ処理画像データSscor.filあるいはフィルタ処理データを作成する。フィルタ処理画像データSscor.fil以外のフィルタ処理データが作成された場合には、フィルタ処理データがフィルタ処理画像データSscor.filに変換される。
【0047】
そして、フィルタ部4は、得られたフィルタ処理画像データSscor.filを重み付け加算部5に与える。この結果、重み付け加算部5には、少なくともフィルタ処理前の感度補正画像データSscorとフィルタ処理後のフィルタ処理画像データSscor.filとが与えられるが、フィルタ部4において、異なる強度のフィルタリングによって複数のフィルタ処理画像データSscor.filが生成された場合には、フィルタリング強度の種類の数に等しい数のフィルタ処理画像データSscor.filが重み付け加算部5に与えられる。
【0048】
ここで、感度補正画像データSscorが2つの成分からなると仮定し、SNRが悪い成分のみフィルタ部4においてフィルタリングによってスムージングを行う最も単純な場合の計算例について説明する。実用的にはSNRが悪い成分のみスムージングを行えば、十分であると考えられる。
【0049】
フィルタ処理画像データSscor.filは、HをFilter演算子とすると、式(5)により感度補正画像データSscor全体にスムージングフィルタをかけた画像データとして得ることができる。
【0050】
[数5]
Sscor.fil(x,y,z)= H[Sscor(x,y,z)] (5)
次に、ステップS4において、重み付け加算部5は、SNR分布情報取得部3からSNRの分布に応じた重み関数Wsnrを受けて、重み関数Wsnrを用いてフィルタ部4から受けた単一または複数のフィルタ処理画像データSscor.filおよび感度補正部2から受けたフィルタ処理前の感度補正画像データSscorの重み付け加算を行うことにより合成し、不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filを生成する。
【0051】
重み関数Wsnrを用いた重み付けは、式(6−1)、式(6−2)のように実施される。すなわち、SNRの悪い成分のみにフィルタリングが行われるように重みがかけられる。この重み付けにより、感度補正画像データSscorは、SNRの良い成分Sscor.h(x,y,z)と、フィルタリングしたSNRの悪い成分Sscor.l.fil(x,y,z)とに実質的に分割される。
【0052】
[数6]
Sscor.h(x,y,z)=Wsnr(x,y,z)*Sscor(x,y,z) (6-1)
Sscor.l.fil(x,y,z)={1-Wsnr(x,y,z)}*Sscor.fil(x,y,z) (6-2)
続いて、SNRの良い成分Sscor.h(x,y,z)およびフィルタリングしたSNRの悪い成分Sscor.l.fil(x,y,z)の2つの成分が式(7)のように合成され、最終的な補正画像として不均一SNR補正フィルタ処理された画像データ(不均一フィルタ処理画像データ)Sscor.nonuni.fil(x,y,z)が求められる。
【0053】
[数7]
Sscor.nonuni.fil(x,y,z)=Sscor.h(x,y,z)+Sscor.l.fil(x,y,z) (7)
このように生成された不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filは、画像診断装置6の画像データ保存部9に書き込まれる。そうすると、表示装置11は画像データ保存部9から読み込んだ不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filをディスプレイに表示させる。この結果、ユーザはSNR分布が一様になるように感度補正された不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filを確認することができる。
【0054】
尚、異なる強度の一様フィルタによりフィルタリングされたフィルタ処理画像データSscor.filのみを重み付け加算の対象としてもよい。換言すれば、重み付け加算の対象となるSNRの良い成分Sscor.h(x,y,z)のフィルタリング強度を0以外の強度としてもよい。この場合には、感度補正部2から重み付け加算部5に感度補正画像データSscorが与えられないこととなる。
【0055】
つまり以上のようなデータ補正装置1は、コイル等のセンサ7の感度の空間分布または時間分布の推定または測定情報を用いて、感度の不均一性の程度に応じて画像データ等の感度補正後のデータにスムージングを主とした複数の強度の異なる均一なフィルタリングを行って複数のデータを生成し、生成された各データをSNR分布情報に基いてSNRとスムージング強度が逆相関するように互いに重み付け加算するものである。すなわち、フィルタリングにSNR分布が一定であるデータに用いられる通常のフィルタを用いる代わりに、SNRが小さいデータについてはスムージングの強いデータの重みが大きく、逆にスムージングの弱いデータの重みが小さくなるような加算を行うものである。尚、フィルタ処理が行われないデータは、強度ゼロのフィルタ処理が行われたデータと考えることができる。
【0056】
このため、データ補正装置1によれば、SNR分布の空間的な均一性を維持しつつ空間的に不均一なセンサ7の感度分布の補正を簡易な処理で行うことによって均一な画像データを得ることができる。
【0057】
従来、前述のようにデータの感度補正を行うとSNR分布が不均一になるという問題があるが、この問題に対し、空間的な重みを変えたフィルタによりデータをスムージングする方法が考えられる。この場合、フィルタの重みを決定するために、原画像から低周波成分を抽出してノイズ分布を求めるか、或いは別途プリスキャンで事前にノイズ分布を求めることが必要となる。例えばMRI装置では、プリスキャンにより測定されたコイルの感度分布とマルチコイルの独立性に依存してきまるg-factorと称するノイズ分布を用いることができる。そして、実空間でノイズ分布関数に応じてフィルタの重みを滑らかに変えるという方法が考えられる。
【0058】
しかしながら、実空間のフィルタの重み、すなわちカーネルをノイズ分布関数に応じて随時変える方法では、処理やフィルタ構造が煩雑になるという問題がある。特にフィルタのサポートサイズが大きい場合には処理時間の増加に繋がり、画像の端の処理が複雑となる。また、この方法では、不均一なSNRを補正することが可能ではあるものの最適なフィルタの重み分布やスムージング強度等のパラメータを求めるのが困難であり、データ毎に変化するSNR分布に最適にフィルタの重み分布を追随させることが困難である。
【0059】
これに対し、図1に示すデータ補正装置1は、フィルタのカーネルをSNR分布に応じてその都度変化させずに、SNR分布が均一であるデータを対象とする通常の一様フィルタを用いたフィルタリングや重み付き加算等の単純な処理でデータを補正するという補正法を採用している。一様フィルタは、汎用性が高く空間的または時間的なSNR分布を参照する必要がない同一のカーネルを使用するフィルタである。
【0060】
また、フィルタリングの対象となるあるデータに同じスムージング強度の一様フィルタを使用しても、異なるスムージング強度でそれぞれフィルタリングされた複数のデータがフィルタ処理後にSNR分布に応じた重みで加算されるため、加算によって得られるデータについてみると、スムージング強度は、SNRに応じた空間分布および時間分布を有することになる。従って、一様フィルタを用いて、空間的または時間的に分布するSNRに適応させてカーネル強度を変化させる不均一フィルタと等価なフィルタリングを行うことが可能である。
【0061】
このため、前処理や調整用の段階的な他のフィルタが不要となり、単一の種類の一様フィルタを用いたフィルタリングによって最適な画像を提供することが可能となる。これにより、データ補正装置1では、フィルタ構造が比較的簡単でフィルタの実装が容易であるのみならず、高速処理が可能である。つまり、データ補正装置1によれば、上述したフィルタ構造の煩雑化、処理時間の増加といった問題を回避することができる。
【0062】
また、データ補正装置1において用いられる一様フィルタとして、構造適応型フィルタ(structure adaptive filter)、Wiener Filterに代表されるSNR適応型フィルタ(SNR adaptive filter)および構造適応型フィルタとSNR適応型フィルタとを組合せたフィルタを適用すれば、対象データのSNR分布のばらつきを吸収して、フィルタ特性を最適にコントロールすることが可能となる。
【0063】
ただし、単純なLinear Space Invariant (LSI)フィルタを用いてデータをフィルタリングすると、フィルタ処理後に空間分解能の劣化が生じ、空間的または時間的に不均一なデータが生成される恐れがある。
【0064】
そこで、一様フィルタとして、特に空間分解能の劣化を最小限にすることが可能なフィルタ、すなわち画像空間を複数に分割せずに実空間をほぼ保存し、かつノイズ分布を考慮した構造適応型フィルタやWiener Filter等のフィルタを用いれば、SNRに空間分布または時間分布を有するデータであってもフィルタ処理後における空間分解能の劣化という上述した問題を解決することができる。加えて、構造適応型フィルタやWiener Filter等のフィルタを用いれば、SNRの空間分布および時間分布に適応してSNRを向上させることができる。
【0065】
また、MRI装置にて得られるデータに対するフィルタ処理は、r-spaceのみならずk-spaceにおいて行うことができる。このため、特にMRI装置において、マルチコイルを用いた高速イメージング法であるパラレルイメージングを行う場合には、処理時間の短縮化に繋げることができる。例えば、k-spaceでデータ処理を行う方式のGRAPPA(Generalized autocablibrating partially parallel acquisitions)等のSMASH(Simultaneous acquisitionof spatial harmonics)系の処理を行う場合には、k-spaceにおいてフィルタ処理できるため高速処理が可能である。また、SENSE(Sensitivity Encoding)系の処理を行う場合であっても、FFT(Fast Fourier Transform)の回数は2回になるため、トータルでは処理速度が速いことになる。
【0066】
このように一様フィルタは、複素空間での処理が容易であり、低SNR部のSNR向上性能が絶対値空間の処理に比べ優れているため、r-spaceにおいて複素データの処理が困難なMRI装置に対して実装上有利である。
【0067】
また、データ補正装置1は、SNRが時間的および空間的に一定である通常のデータに対してセンサ7の感度補正を行うこともできる。これは、感度分布がフラットである場合には、フィルタリングされたデータの重みが一定となり、一様フィルタによってフィルタリングされたデータのみが感度補正後のデータとなるためである。このため、センサ7の感度分布を求めることができれば、データ補正装置1における処理において、感度分布が一定であるか否か等の感度分布の状態を考慮する必要がない。従って、フィルタの実装上の利便性が高い。
【0068】
図3は本発明に係るデータ補正装置の第2の実施形態を示す機能ブロック図である。
【0069】
図3に示された、データ補正装置1Aでは、データ分割部12を設けた構成および重み付け加算部5に代えて加算部13を設けた構成が図1に示すデータ補正装置1と相違する。他の構成および作用については図1に示すデータ補正装置1と実質的に異ならないため同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0070】
すなわちデータ補正装置1Aは、感度補正部2、SNR分布情報取得部3、フィルタ部4の他、データ分割部12および加算部13を備えている。そして、感度補正部2は、感度補正画像データをデータ分割部12に与え、SNR分布情報取得部3は、SNRの分布情報をデータ分割部12に与えるように構成される。
【0071】
データ分割部12は、SNR分布情報取得部3から取得した画像データに関するSNRの分布情報に基いて、感度補正部2から取得した感度補正画像データから複数の感度補正画像成分データを作成する機能と、作成した一部の感度補正画像成分データをフィルタ部4に、残りのまたは他の一部の感度補正画像成分データを加算部13に与える機能とを有する。具体的には、データ分割部12は、重み付け関数を用いて感度補正画像データをSNRがより大きい成分の感度補正画像成分データとSNRがより小さい成分の感度補正画像成分データとに画像空間上で分割し、SNRが大きい成分の単一または複数の感度補正画像成分データを加算部13に与える一方、SNRが小さい成分の単一または複数の感度補正画像成分データをフィルタ部4に与えるように構成される。
【0072】
フィルタ部4は、一様フィルタを使用してSNRが小さい成分の感度補正画像成分データまたはSNRが小さい成分の感度補正画像成分データを変換して得られる感度補正成分データにフィルタリングを行うことによってフィルタ処理画像データまたはフィルタ処理データを生成し、生成したフィルタ処理画像データまたはフィルタ処理データを変換して得られるフィルタ処理画像データを加算部13に与えるように構成される。
【0073】
加算部13は、データ分割部12から受けた感度補正画像成分データとフィルタ部4から受けたフィルタ処理画像データとを加算して合成することにより、不均一フィルタによりフィルタ処理された画像データと実質的に同等な不均一フィルタ処理画像データを生成する機能と、生成した不均一フィルタ処理画像データを画像診断装置6の画像データ保存部9に書き込む機能とを有する。
【0074】
次にデータ補正装置1Aの動作および作用について説明する。
【0075】
図4は、図3に示すデータ補正装置1Aにより画像診断装置6で撮像された画像データに対し、SNR分布が均一になるように感度補正を行う手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。ただし、図2に示すフローチャートにおけるステップと同等のステップについては同符号を付して詳細な説明を省略する。
【0076】
まず、ステップS1において、SNR分布情報取得部3は、感度マップ保存部10から取得した感度マップIsensに基いて重み関数Wsnrを計算し、得られた重み関数Wsnrをデータ分割部12に与える。この重み関数Wsnr(x,y,z)は、上述のように様々な方法で求めることができる。そして、求められた重み関数Wsnr(x,y,z)は、データ分割部12において、SNR分布に応じてデータを分割するために用いられる。
【0077】
次に、ステップS2において、感度補正部2は、感度マップ保存部10から取得した感度マップIsensを用いて、画像データ保存部9から取得した原画像データSorigの感度補正を行うことにより感度補正画像データSscorを求める。そして、感度補正部2は、得られた感度補正画像データSscorをデータ分割部12に与える。
【0078】
感度補正画像データSscor(x,y,z)は、式(8)により作成することができる。
【0079】
[数8]
Sscor(x,y,z)=Sorig(x,y,z)/Isens(x,y,z) (8)
次に、ステップS10において、データ分割部12は、SNR分布情報取得部3から取得した重み関数Wsnrを用いて、感度補正部2から受けた感度補正画像データSscorをSNRの大きさに応じて複数の感度補正画像成分データに分割する。そして、データ分割部12は、SNRが大きい成分の感度補正画像成分データSscor.hを加算部13に与える一方、SNRが小さい成分の感度補正画像成分データSscor.lをフィルタ部4に与える。
【0080】
重み関数Wsnr(x,y,z)を用いたwindowingによる感度補正画像データSscor(x,y,z)の成分分割は、式(9−1),式(9−2)により行うことができる。式(9−1),式(9−2)によれば、感度補正画像データSscor(x,y,z)は、2つの感度補正画像成分データSscor.h (x,y,z)、Sscor.l(x,y,z)に分割される。
【0081】
[数9]
Sscor.h(x,y,z)=Sscor(x,y,z)*Wsnr(x,y,z) (9-1)
Sscor.l(x,y,z)=Sscor(x,y,z)*{1-Wsnr(x,y,z)} (9-2)
ただし、Sscor.h(x,y,z)は、SNRの良い成分の感度補正画像成分データであり、Sscor.l(x,y,z)は、SNRの悪い成分の感度補正画像成分データである。
【0082】
次に、ステップS3において、フィルタ部4は、データ分割部12から受けたSNRが小さい感度補正画像成分データSscor.lまたは感度補正画像成分データSscor.lを変換して得られる感度成分データに対し、一様フィルタを用いてフィルタ処理を行うことによりフィルタ処理画像成分データSscor.l.filあるいはフィルタ処理成分データを作成する。
【0083】
すなわち、例えばSNRの悪い感度補正画像成分データSscor.l(x,y,z)のみに式(10)に示すようにスムージングフィルタがかけられて、フィルタ処理画像成分データSscor.l.fil(x,y,z)が生成される。
【0084】
[数10]
Sscor.l.fil(x,y,z)=H[Sscor.l(x,y,z)] (10)
ただしHはFilter演算子である。
【0085】
そして、フィルタ部4は、得られたフィルタ処理画像成分データSscor.l.filあるいはフィルタ処理成分データを変換して得られるフィルタ処理画像成分データSscor.l.filを加算部13に与える。
【0086】
次に、ステップS11において、加算部13は、データ分割部12から受けたSNRが大きい感度補正画像成分データSscor.hとフィルタ部4から受けたフィルタ処理画像成分データSscor.l.filとを加算することにより合成し、不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filを生成する。
【0087】
この合成処理は、式(11)により行うことができる。
【0088】
[数11]
Sscor.nonuni.fil(x,y,z)= Sscor.h(x,y,z) + Sscor.l.fil(x,y,z) (11)
すなわち、SNRの良い感度補正画像成分データSscor.h(x,y,z)とフィルタリングしたSNRの悪いフィルタ処理画像成分データSscor.l.fil(x,y,z)とを合成することにより、不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.fil(x,y,z)が最終的な補正画像として算出される。
【0089】
そして、不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filは、画像診断装置6の画像データ保存部9に書き込まれ、表示装置11のディスプレイに表示される。
【0090】
つまり以上のようなデータ補正装置1Aは、感度補正後の画像データを画像空間上でSNRの大きさに応じて重み付け分割し、SNRが小さい画像データに対して異なる強度の一様フィルタでフィルタリングしてから分割した画像データを合成するようにしたものである。一様フィルタによるフィルタリングにおいて実空間で十分に小さいサポートサイズのカーネルを用いれば、フィルタ処理およびデータの重み付け分割は、いずれの処理を先に行っても処理が近似的にはほぼ等価となる。従って、データ補正装置1Aによれば、図1に示すデータ補正装置1と同等な効果を得ることができる。
【0091】
図5は本発明に係るデータ補正装置の第3の実施形態を示す機能ブロック図である。
【0092】
図5に示された、データ補正装置1Bでは、処理の順序が図1に示すデータ補正装置1と相違する。他の構成および作用については図1に示すデータ補正装置1と実質的に異ならないため同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0093】
すなわちデータ補正装置1Bは、感度補正部2、SNR分布情報取得部3、フィルタ部4、重み付け加算部5を備えている。
【0094】
フィルタ部4は、画像データ保存部9から感度補正の対象となる原画像データを取得し、原画像データまたは原画像データを変換して得られる原データに一様フィルタを用いてフィルタ処理を行うことによりフィルタ処理原画像データあるいはフィルタ処理原データを作成する機能と、作成したフィルタ処理原画像データあるいはフィルタ処理原データを変換して得られるフィルタ処理原画像データを重み付け加算部5に与える機能とを有する。
【0095】
重み付け加算部5は、SNR分布情報取得部3から受けたSNR分布情報に基いて、フィルタ部4から受けたフィルタ処理原画像データおよび画像データ保存部9から取得した原画像データの重み付け加算を行うことにより不均一フィルタ処理原画像データを生成する機能と、生成した不均一フィルタ処理原画像データを感度補正部2に与える機能とを有する。
【0096】
感度補正部2は、感度マップ保存部10から感度補正に用いるための感度マップを取得し、取得した感度マップを用いて重み付け加算部5から受けた不均一フィルタ処理原画像データの感度補正を行うことにより不均一フィルタ処理画像データを生成する機能と、得られた不均一フィルタ処理画像データを画像診断装置6の画像データ保存部9に書き込む機能とを有する。
【0097】
次にデータ補正装置1Bの動作および作用について説明する。
【0098】
図6は、図5に示すデータ補正装置1Bにより画像診断装置6で撮像された画像データに対し、SNR分布が均一になるように感度補正を行う手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。ただし、図2に示すフローチャートにおけるステップと同等のステップについては同符号を付して簡易に説明する。従って、符号は処理の順番と一致していない。
【0099】
まず、ステップS1において、SNR分布情報取得部3は、感度マップ保存部10から取得した感度マップIsensに基いて重み関数Wsnrを計算し、得られた重み関数Wsnrを重み付け加算部5に与える。
【0100】
次に、ステップS3において、フィルタ部4は、画像データ保存部9から感度補正の対象となる原画像データSorigを取得し、取得した原画像データSorigまたは原画像データSorigを変換して得られる原データに対し、一様フィルタを用いてフィルタ処理を行うことによりフィルタ処理原画像データSorig.filあるいはフィルタ処理原データを作成する。
【0101】
すなわち、例えば式(12)に示すように原画像データSorig(x,y,z)全体にスムージングフィルタをかけてフィルタ処理原画像データSSorig(x,y,z)を作成する。
【0102】
[数12]
Sorig.fil(x,y,z)= H[Sorig(x,y,z)] (12)
ただし、HはFilter演算子である。
【0103】
そして、フィルタ部4は、フィルタ処理原画像データSorig.filあるいはフィルタ処理原データを変換して得られるフィルタ処理原画像データSorig.filを重み付け加算部5に与える。
【0104】
次に、ステップS4において、重み付け加算部5は、SNR分布情報取得部3から受けた重み関数Wsnrを用いて画像データ保存部9から取得した原画像データSorigおよびフィルタ部4から受けたフィルタ処理原画像データSorig.filの重み付け加算を行うことにより合成し、不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.filを生成する。
【0105】
すなわち、まず式(13−1)および式(13−2)に示すように重み関数Wsnr(x,y,z)を用いて原画像データSorig(x,y,z)からSNRの良い成分Sorig.h(x,y,z)を作成し、フィルタ処理原画像データSorig.fil(x,y,z)からフィルタリングしたSNRの悪い成分Sorig.l.fil(x,y,z)を生成する。すなわち、フィルタリングを行ったフィルタ処理原画像データSorig.fil(x,y,z)に重みをかけてSNRの悪い成分Sorig.l.fil(x,y,z)を生成する。
【0106】
[数13]
Sorig.h(x,y,z)=Wsnr(x,y,z)*Sorig (x,y,z) (13-1)
Sorig.l.fil(x,y,z)={1-Wsnr(x,y,z)}*Sorig.fil(x,y,z) (13-2)
次に式(14)に示すように、2つの成分Sorig.h(x,y,z)、Sorig.l.fil(x,y,z)が合成されて、不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.fil(x,y,z)がSNRの補正画像として得られる。
【0107】
[数14]
Sorig.nonuni.fil(x,y,z)=Sorig.h(x,y,z)+Sorig.l.fil(x,y,z) (14)
このようにSNRの良い成分とフィルタリングしたSNRの悪い成分とが重み付け合成されて、不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.filが生成される。そして、重み付け加算部5は、生成した不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.filを感度補正部2に与える。
【0108】
次に、ステップS1において、感度補正部2は、感度マップ保存部10から取得した感度マップIsensを用いて、重み付け加算部5から受けた不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.filの感度補正を行うことにより不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filを求める。
【0109】
この感度補正は、式(15)に示すように、感度マップIsens(x,y,z)を用いて行われ、不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.fil(x,y,z)から不均一SNR補正フィルタ処理された感度補正後の画像、すなわち不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filが算出される。
【0110】
[数15]
Sscor.nonuni.fil(x,y,z)=Sorig.nonuni.fil(x,y,z)/Isens(x,y,z) (15)
そして、感度補正部2は、不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filを画像診断装置6の画像データ保存部9に書き込む。そうすると、表示装置11は画像データ保存部9から読み込んだ不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filをディスプレイに表示させる。
【0111】
つまり、以上のようなデータ補正装置1Bは、画像データに対する異なる強度のフィルタ処理および重み付け加算後に感度補正を行うようにしたものである。このように、補正前の画像データに対してフィルタ処理と重み付け加算を行い、最後に感度補正を行ってもSNRは変化しない。従って、データ補正装置1Bによれば、図1に示すデータ補正装置1と同等な効果を得ることができる。
【0112】
図7は本発明に係るデータ補正装置の第4の実施形態を示す機能ブロック図である。
【0113】
図7に示された、データ補正装置1Cでは、処理の順序が図3に示すデータ補正装置1Aと相違する。他の構成および作用については図3に示すデータ補正装置1Aと実質的に異ならないため同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0114】
すなわちデータ補正装置1Cは、感度補正部2、SNR分布情報取得部3、フィルタ部4、データ分割部12および加算部13を備えている。
【0115】
データ分割部12は、SNR分布情報取得部3から取得したSNRの分布情報に基いて、画像データ保存部9から取得した原画像データからSNRの大きさに応じた複数の原画像成分データを作成する機能と、SNRが小さい原画像成分データをフィルタ部4に、SNRが大きい原画像成分データを加算部13に与える機能とを有する。
【0116】
また、フィルタ部4は、原画像成分データまたは原画像成分データを変換して得られる原成分データに一様フィルタによるフィルタ処理および必要な変換を施してフィルタ処理原画像成分データを生成するように構成され、加算部13はフィルタ処理原画像成分データとSNRが大きい原画像成分データの加算処理により不均一フィルタ処理原画像データを生成するように構成される。さらに、感度補正部2は、不均一フィルタ処理原画像データに感度補正を施して得られる不均一フィルタ処理画像データを画像診断装置6の画像データ保存部9に書き込むように構成される。
【0117】
次にデータ補正装置1Cの動作および作用について説明する。
【0118】
図8は、図7に示すデータ補正装置1Cにより画像診断装置6で撮像された画像データに対し、SNR分布が均一になるように感度補正を行う手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。ただし、図4に示すフローチャートにおけるステップと同等のステップについては同符号を付して簡易に説明する。従って、符号は処理の順番と一致していない。
【0119】
まず、ステップS1において、SNR分布情報取得部3は、感度マップ保存部10から取得した感度マップIsensに基いて重み関数Wsnrを計算し、得られた重み関数Wsnrをデータ分割部12に与える。
【0120】
次に、ステップS10において、データ分割部12は、SNR分布情報取得部3から取得した重み関数Wsnrを用いて、画像データ保存部9から取得した原画像データSorigをSNRの大きさに応じて複数の原画像成分データに分割する。
【0121】
重み関数Wsnr(x,y,z)を用いたwindowingによる原画像データSorig(x,y,z)の成分分割は、式(16−1),式(16−2)のように行わる。そして、原画像データSorig(x,y,z)は、SNRが大きい成分の原画像成分データSorig.h(x,y,z)およびSNRが小さい成分の原画像成分データSorig.l(x,y,z)の2つの成分に分割される。
【0122】
[数16]
Sorig.h(x,y,z)=Sorig(x,y,z)*Wsnr(x,y,z) (16-1)
Sorig.l(x,y,z)=Sorig(x,y,z)*{1-Wsnr(x,y,z)} (16-2)
そして、データ分割部12は、SNRが大きい成分の原画像成分データSorig.hを加算部13に与える一方、SNRが小さい成分の原画像成分データSorig.lをフィルタ部4に与える。
【0123】
次に、ステップS3において、フィルタ部4は、データ分割部12から受けたSNRが小さい原画像成分データSorig.lまたは原画像成分データSorig.lを変換して得られる原成分データに対し、一様フィルタを用いてフィルタ処理を行うことによりフィルタ処理原画像成分データSorig.l.filあるいはフィルタ処理原成分データを作成する。
【0124】
すなわち、例えば式(17)に示すようにSNR悪い成分の原画像成分データSorig.l(x,y,z)のみにスムージングフィルタがかけられ、フィルタ処理原画像成分データSorig.l.filが求められる。
【0125】
[数17]
Sorig.l.fil(x,y,z)=H[Sorig.l(x,y,z)] (17)
ただし、HはFilter演算子である。
【0126】
そして、フィルタ部4は、得られたフィルタ処理原画像成分データSorig.l.filあるいはフィルタ処理原成分データを変換して得られるフィルタ処理原画像成分データSorig.l.filを加算部13に与える。
【0127】
次に、ステップS11において、加算部13は、データ分割部12から受けたSNRが大きい原画像成分データSorig.hとフィルタ部4から受けたフィルタ処理原画像成分データSorig.l.filとを加算することにより合成し、不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.filを生成する。
【0128】
SNRが大きい原画像成分データSorig.h(x,y,z)とフィルタ処理原画像成分データSorig.l.fil(x,y,z)との合成処理は、式(18)のように行われる。そして、合成処理により、SNRが良い成分とフィルタリングしたSNRが悪い成分を重み付け合成した不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.fil(x,y,z)がSNRの補正画像として求められる。
【0129】
[数18]
Sorig.nonuni.fil(x,y,z)=Sorig.h(x,y,z)+Sorig.l.fil(x,y,z) (18)
そして、加算部13は、不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.filを、感度補正部2に与える。
【0130】
次に、ステップS2において、感度補正部2は、感度マップ保存部10から取得した感度マップIsensを用いて、加算部13から受けた不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.filの感度補正を行うことにより不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filを求める。
【0131】
この感度補正は、式(19)により行われ、感度マップIsens(x,y,z)を用いて不均一フィルタ処理原画像データSorig.nonuni.fil(x,y,z)から感度補正および不均一SNR補正フィルタ処理された画像である不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.fil(x,y,z)が算出される。
【0132】
[数19]
Sscor.nonuni.fil(x,y,z)=Sorig.nonuni.fil(x,y,z)/Isens(x,y,z) (19)
そして、得られた不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filは、画像診断装置6の画像データ保存部9に書き込まれ、表示装置11のディスプレイに表示される。
【0133】
つまり以上のようなデータ補正装置1Cは、画像データの重み付け分割、異なる強度のフィルタ処理および加算合成後に感度補正を行うようにしたものである。前述のように、補正前の画像データに対してフィルタ処理と重み付け処理を行い、最後に感度補正を行ってもSNRは変化しない。従って、データ補正装置1Cによれば、図3に示すデータ補正装置1Aと同等な効果を得ることができる。
【0134】
以上の各実施形態におけるデータ補正装置1、1A、1B、1Cのように、感度補正、一様フィルタによるフィルタ処理および重み付け処理の3種類の処理の順番は任意に変更することが可能である。
【0135】
ただし、フィルタ処理の簡易化の観点から一様フィルタによるフィルタリングを感度補正前に行うことが好都合な場合がある。そこで、一様フィルタとしてFREBAS空間上のデータを対象とするWienerフィルタを使用する場合におけるフィルタ関数の計算例について説明する。
【0136】
一般化した3次元のFREBAS空間(X,Y,Z)は実空間(x,y,z)をほぼ保存している空間である。従って、Wienerフィルタを使用する場合には、ノイズのパワーは一定とされずに、ノイズのパワーPnがFREBAS空間(X,Y,Z)の関数として扱われる。Wienerフィルタを使用したフィルタリングは、感度補正前後のいずれであっても良いが、ノイズのパワーPnを一定として扱うことがフィルタ処理上好都合である。そこで、Wienerフィルタを使用したフィルタリングを感度補正前に行い、ノイズのパワーPnを一定として扱うことができる。
【0137】
すなわち、Wienerフィルタを使用したフィルタリングを感度補正前に行えば、式(20)に示すようにFREBAS空間(X,Y,Z)における画像データの信号強度Ps(X,Y,Z)とノイズのパワーPnとからWienerフィルタのフィルタ関数WF(X,Y,Z)を決定することができる。
【0138】
[数20]
WF(X,Y,Z)=Ps(X,Y,Z)/{Ps(X,Y,Z)+Pn} (20)
一方、Wienerフィルタを使用したフィルタリングを感度補正前に行う場合には、ノイズのパワーPnが空間的に変化するためノイズのパワーPn=Pn(X,Y,Z)として式(21)に示すようにフィルタ関数WF(X,Y,Z)を決定することとなる。
【0139】
[数21]
WF(X,Y,Z)=Ps(X,Y,Z)/{Ps(X,Y,Z)+Pn(X,Y,Z)} (21)
ノイズのパワーPn(X,Y,Z)は、感度分布の逆数に相当する重み関数W(x,y,z)を用いて式(22−1)および式(22−2)により求めることができる。
【0140】
[数22]
W(X,Y,Z)=FR[W(x,y,z)] (22-1)
Pn(X,Y,Z)=W(X,Y,Z)*Pn' (22-2)
ただし、FR[]は、FREBAS変換を表し、Pn'は、FREBAS空間(またはk-space)の端部におけるノイズのパワーである。すなわち、重み関数W(x,y,z)をFREBAS変換して得られる重み関数W(X,Y,Z)とFREBAS空間(またはk-space)の端部におけるノイズのパワーPn'とから式(21)のノイズのパワーPn(X,Y,Z)を求めることができる。
【0141】
ところで、前述のようにデータ補正装置1、1A、1B、1Cは、生体情報の測定器や画像診断装置に付加または内蔵することができる。そこで、具体的な例として、図3に示すデータ補正装置1AをMRI装置に内蔵し、マルチコイルをセンサとして撮像された画像に対する感度補正処理について説明する。
【0142】
図9は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0143】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21と、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイルユニット23およびRFコイル24とを図示しないガントリに内蔵した構成である。
【0144】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0145】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0146】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0147】
傾斜磁場コイルユニット23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイルユニット23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24はガントリに内蔵されず、寝台37や被検体P近傍に設けられる場合もある。
【0148】
また、傾斜磁場コイルユニット23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイルユニット23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0149】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0150】
RFコイル24は、送信器29および受信器30と接続される。RFコイル24は、送信器29から高周波信号を受けて被検体Pに送信する機能と、被検体P内部の原子核スピンの高周波信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0151】
図10は図9に示すRFコイル24の詳細構成の一例を示す図であり、図11は図10に示すWBコイル24aとフェーズドアレイコイル24bの配置例を示す断面模式図である。
【0152】
RFコイル24は、例えば送信用のRFコイル24と受信用のRFコイル24とから構成される。送信用のRFコイル24には、全身用(WB:whole-body)24aコイルが用いられる一方、受信用のRFコイル24には、フェーズドアレイコイル24bが用いられる。フェーズドアレイコイル24bは、複数の表面コイル24cを備え、各表面コイル24cは、それぞれ個別に受信系回路30aと接続される。
【0153】
また、フェーズドアレイコイル24bの各表面コイル24cは、例えば被検体Pの特定関心部位を含む断面Lの周囲となるZ軸周りに対称に配置される。さらにフェーズドアレイコイル24bの外側には、WBコイル24aが設けられる。そして、WBコイル24aにより被検体Pに高周波信号を送信する一方、WBコイル24aまたはフェーズドアレイコイル24bの各表面コイル24cにより多チャンネルで特定関心部位を含む断面LからのNMR信号を受信して各受信器30の各受信系回路30aに与えることができるように構成される。
【0154】
ただし、RFコイル24を各種用途に応じた任意のコイルで構成してもよく、また単一のコイルで構成してもよい。
【0155】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gzおよび高周波信号を発生させる機能を有する。
【0156】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0157】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいて高周波信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0158】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられるとともにデータ補正装置1Aが構築される。ただし、プログラムによらず、特定の回路を設けてコンピュータ32に相当する部分を構成してもよい。
【0159】
図12は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0160】
コンピュータ32は、プログラムによりシーケンスコントローラ制御部40、画像再構成部41、k空間データベース42、実空間データベース43、スキャン制御部44、感度分布推定部45、感度マップデータベース46、画像表示部47およびデータ補正装置1Aとして機能する。
【0161】
シーケンスコントローラ制御部40は、入力装置33またはその他の構成要素からの情報に基づいてシーケンスコントローラ31に所要のシーケンス情報を与えることにより駆動制御させる機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部40は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間(フーリエ空間)に配置する機能を有する。このため、k空間データベース42には、受信器30において生成された各生データがk空間データとして保存され、k空間データベース42に形成されたk空間にk空間データが配置される。
【0162】
画像再構成部41は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで所定の信号処理を施すことにより、画像データ等の実空間データを再構成して実空間データベース43に書き込む機能を有する。すなわち、画像再構成部41は、k空間データベース42のk空間に配置されたk空間データに対して2次元または3次元のフーリエ変換処理等の各種処理を行うことによりk空間データから実空間画像データや各表面コイル24cの感度推定に用いるために実空間データを再構成することができるように構成される。このため、実空間データベース43には、画像データ等の実空間データが保存される。
【0163】
感度分布推定部45は、実空間データベース43から各表面コイル24cの感度推定用の実空間データを読み込んで、各表面コイル24cの空間的および/または時間的な感度分布を推定して合成し、感度マップデータとして感度マップデータベース46に書き込む機能を有する。感度分布の推定は公知の任意の方法で行うことができる。感度分布推定用の感度プレスキャンを実施し、プレスキャンにより得られた実空間データを用いて感度分布を推定する手法が実用的である。例えば、感度プレスキャンにおいて、各表面コイル24cを用いて収集された信号強度と、全身用24aコイルを用いて収集された信号強度との比に基づいて感度分布を求める方法や、コントラストを調整して各表面コイル24cを用いて収集された信号強度に基づいて感度分布を求める方法などがある。
【0164】
このため、感度マップデータベース46には、各表面コイル24cの感度分布を示す感度マップデータが保存される。
【0165】
スキャン制御部44は、感度プレスキャン用のシーケンスや画像収集用の本スキャン用のシーケンスをシーケンスコントローラ制御部40に与えることにより、感度プレスキャンや本スキャンを実行させる機能を有する。
【0166】
画像表示部47は、実空間データベース43から画像データを読み込んで表示装置34に与えることにより、画像データを表示装置34に表示させる機能を有する。
【0167】
データ補正装置1Aは、図3に示す上述した構成であるため説明を省略する。ただし、図1、図5および図7にそれぞれ示した構成のデータ補正装置1、1B、1Cとしてもよい。
【0168】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0169】
図13は、図9に示す磁気共鳴イメージング装置20により被検体の画像を収集し、収集された画像データに対してSNR分布が均一になるように各表面コイル24cの感度補正を行う手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0170】
まず、各表面コイル24cの感度マップデータが求められる。そのために、スキャン制御部44は、感度プレスキャン用のシーケンスをシーケンスコントローラ制御部40に与え、シーケンスコントローラ制御部40から感度プレスキャン用のシーケンスがシーケンスコントローラ31に出力される。そうすると、シーケンスコントローラ31は、感度プレスキャン用のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域にX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gzを形成させるとともに、高周波信号を発生させる。
【0171】
そして、被検体Pの内部において原子核の核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、A/D変換を含む各種信号処理を実行し、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部40に与え、シーケンスコントローラ制御部40は、k空間データベース42に形成されたk空間に生データを配置する。そして、画像再構成部41は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで画像再構成処理により各表面コイル24cの感度推定用の実空間データを再構成し、実空間データベース43に書き込む。
【0172】
そうすると、感度分布推定部45は、実空間データベース43から各表面コイル24cの感度推定用の実空間データを読み込んで、各表面コイル24cの空間的および/または時間的な感度分布を例えばローパスフィルタ等の処理により推定して合成し、感度マップデータとして感度マップデータベース46に書き込む。説明簡易化のため、感度マップデータがx方向の1次元の空間分布を有するものとすると、図13のに示すような各表面コイル24cの感度分布を示す感度マップデータIsens(x)がデータ補正装置1Aへの入力データInput 1として得られる。
【0173】
次に、感度プレスキャンに続いてイメージング用の本スキャンが実施される。そのために、スキャン制御部44は、本スキャン用のシーケンスをシーケンスコントローラ制御部40に与え、シーケンスコントローラ制御部40から本スキャン用のシーケンスがシーケンスコントローラ31に出力される。そうすると、感度プレスキャンと同様な流れで、シーケンスコントローラ31は、本スキャン用のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動制御し、イメージング用の生データが収集される。収集された生データは、k空間データとしてk空間データベース42に形成されたk空間に配置される。
【0174】
そして、画像再構成部41は、k空間データベース42からイメージング用のk空間データを取り込んで画像再構成処理により画像データを再構成し、実空間データベース43に書き込む。この画像データは、Input 1に示すような各表面コイル24cのx方向の感度分布の影響を受けているため、感度補正を行う必要がある。しかしながら、感度補正前におけるノイズのパワーは一定であるため、感度補正を行って感度を一定にしようとすると、ノイズのパワーが不均一となる。そこで、感度補正のみならず、SNRの不均一補正を行う必要がある。そのために、この感度補正前の原画像データSorigは、Input 2としてデータ補正装置1Aに入力される。
【0175】
そうすると、ステップS20において、データ補正装置1AのSNR分布情報取得部3は、Input 1として感度マップデータベース46から取得した感度マップIsens(x)を例えば式(23)により最大感度Isens.maxを用いて最大値が1となるように正規化し、重み関数Wsnr(x)を求める。
[数23]
Wsnr(x) = Isens(x)/Isens.max (23)
この重み関数Wsnr(x)は、イメージング用の本スキャンにおいて撮像された画像データをSNRの高低に応じて2分割するためのWINDOW関数として用いられる。そのため、SNR分布情報取得部3は、求めた重み関数Wsnr(x)をデータ分割部12に与える。
【0176】
次に、ステップS21において、感度補正部2は、感度マップデータベース46から取得した感度マップデータIsens(x)を用いて、実空間データベース43から取得した原画像データSorigの感度補正を行うことにより感度補正画像データSscorを求める。感度補正部2は、求めた感度補正画像データSscorをデータ分割部12に与える。
【0177】
次に、ステップS22において、データ分割部12は、SNR分布情報取得部3から取得した重み関数Wsnr(x)を用いて感度補正部2から取得した感度補正画像データSscorをSNRのレベルの高低に応じて2の成分に分割するための分割関数(Window関数)を決定する。すなわち、SNRのレベルが高い成分を生成するための分割関数をWh(x)、SNRのレベルが低い成分を生成するための分割関数をWl(x)とすると、式(24−1)、式(24−2)のように重み関数Wsnr(x)を用いて分割関数Wh(x)、Wl(x)を決定する。
【0178】
[数24]
Wh(x) = Wsnr(x) (24-1)
Wl(x)= 1 - Wsnr(x) (24-2)
そして、実線に示すような分割関数Wh(x)および一点鎖線で示すような分割関数Wl(x)を用いて式(25−1)および式(25−2)に示す演算により感度補正画像データSscorをSNRのレベルが高い感度補正画像成分データSscor.hとSNRのレベルが低い感度補正画像成分データSscor.lの2つの成分に分割する。
【0179】
[数25]
Sscor.h = Sscor*Wh(x) = Sscor*Wsnr(x) (25-1)
Sscor.l = Sscor*Wl(x) = Sscor*{1 - Wsnr(x)} (25-2)
そして、データ分割部12は、SNRのレベルが高い感度補正画像成分データSscor.hを加算部13に与える一方、SNRのレベルが低い感度補正画像成分データSscor.lをフィルタ部4に与える。
【0180】
次に、ステップS23において、フィルタ部4は、データ分割部12から取得したSNRのレベルが低い感度補正画像成分データSscor.lに空間的に均一なデータのフィルタ処理に用いられる通常のノイズ低減フィルタを施す。ノイズ低減フィルタは、大局的には空間的に均一であり、感度マップデータIsens(x)を利用しないフィルタであればよく、線形フィルタ、Wiener Filterあるいは構造最適化フィルタ等の一様フィルタを用いることができる。フィルタ処理は、k空間において行ってもよい。その場合には、感度補正画像成分データSscor.lが一旦、k空間データに変換されてからフィルタ処理され、フィルタ後のk空間データが実空間データに変換される。そして、フィルタ部4は、フィルタ処理により得られたフィルタ処理画像成分データSscor.l.filを加算部13に与える。
【0181】
次に、ステップS24において、加算部13は、データ分割部12から受けたSNRが大きい感度補正画像成分データSscor.hとフィルタ部4から受けたフィルタ処理画像成分データSscor.l.filとを加算することにより合成し、不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filを生成する。この不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filは、Window関数を用いて強度が強いフィルタをかけたSNRの低い画像成分とフィルタをかけない画像成分を生成し、フィルタをかけた画像成分が大きな重みになるように重み付け加算合成することによって得られた画像データである。従って、結果的には、空間的なSNR分布の不均一性に応じてノイズ低減効果が異なるフィルタ処理を原画像データSorigに対して施すことによって得られた画像データに相当する。
【0182】
そして、この不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filが、データ補正装置1Aの出力Outputとされ、実空間データベース43に書き込まれる。そうすると、画像表示部47は、実空間データベース43から不均一フィルタ処理画像データSscor.nonuni.filを読み込んで表示装置34に与えることにより、不均一フィルタ処理画像を表示装置34に表示させる。この結果、感度補正およびSNRの不均一な分布の補正を施した画像が表示装置34に表示される。
【0183】
尚、前述のように、データ補正装置1Aの代わりに、図1に示すデータ補正装置1、図5に示すデータ補正装置1Bまたは図7に示すデータ補正装置1Cを磁気共鳴イメージング装置20のコンピュータ32に内蔵してもよい。
【0184】
図1に示すデータ補正装置1を磁気共鳴イメージング装置20のコンピュータ32に内蔵した場合には、フィルタをかけた画像データとフィルタをかけない画像データを作成し、SNRが低い成分ほどフィルタリングされた画像データの重みが大きくなるようにWindow関数によりSNRの高低に応じてフィルタをかけた画像データとフィルタをかけない画像データとが合成される。
【0185】
また、図5に示すデータ補正装置1Bまたは図7に示すデータ補正装置1Cを磁気共鳴イメージング装置20のコンピュータ32に内蔵し、感度補正前にSNRの不均一補正を行うようにする場合には、ノイズの空間分布が一定となるのでノイズのパワーを一定としてフィルタリングした後、感度補正することになり、処理が容易となる。
【0186】
(シミュレーション実験)
次に、図1に示すデータ補正装置1によりMRI装置で撮影された被検体の腹部画像の補正を行うシミュレーション結果について説明する。
【0187】
図14は、図1に示すデータ補正装置1による画像補正シミュレーションにおいて想定される理想的な感度補正後の腹部画像Sideal_scorを示す図、図15は、図1に示すデータ補正装置1による画像補正シミュレーションに用いられる感度補正前の原画像Sorigを示す図、図16は、図15に示す原画像Sorigの感度補正に用いられる腹部用コイルの感度分布Isensをプロファイルとともに示す図、図17は、図15に示す原画像Sorigを感度補正して得られた腹部画像Sorig_scorをプロファイルとともに示す図、図18は、図1に示すデータ補正装置1による画像補正シミュレーションにおいて用いられる感度補正後におけるノイズ分布noise_scorを示す図、である。
【0188】
図15に示す感度補正前の原画像Sorigは、8chの腹部用コイルを用いて実際に撮像された画像である。また、図16に示すような実際の腹部用コイルの感度分布を用いて原画像Sorigの感度補正を行って得られた画像が図17に示す腹部画像Sorig_scorである。尚、図16のプロファイルにおいて横軸は正規化された感度分布を示し縦軸は1次元の空間的な位置を示す。また、図17のプロファイルにおいて横軸は腹部画像Sorig_scorの信号強度を示し、縦軸は1次元の空間的な位置を示す。
【0189】
また、図18に示すノイズ分布noise_scorが得られるように、十分SNRの高い画像に標準偏差(SD:standard deviation)が1のガウスノイズをシミュレーションで与え、SNR=50とした。すなわち、感度補正前のノイズnoiseを感度補正前の理想的な画像データSidealの最大値max(Sideal)、ガウスノイズ(Gaussian noise)およびSNR(=50)を用いて式(26)のように設定した。
【0190】
[数26]
noise = max(Sideal)/SNR*(Gaussian noise) (26)
また、重み関数Wsnrは、スライス断面における腹部用コイルの感度分布を用いて最大値max=1、最小値min=0となるように正規化したものである。
【0191】
このような条件のもと一様フィルタとしてLSIフィルタおよび構造適応(structure adaptive)型のDSA(directional structure adaptive)フィルタを使用して画像補正シミュレーションを行った。
【0192】
図19は、図17に示す感度補正後の腹部画像Sorig_scorに対して均一なLSIフィルタを用いてSNRの補正を行って得られた画像をプロファイルとともに示す図、図20は、図17に示す感度補正後の腹部画像Sorig_scorに対してLSIフィルタを用いて重み付け加算を伴うSNRの不均一補正を行って得られた画像をプロファイルとともに示す図、図21は、図17に示す感度補正後の腹部画像Sorig_scorに対して均一な構造適応型フィルタを用いてSNRの補正を行って得られた画像をプロファイルとともに示す図、図22は、図17に示す感度補正後の腹部画像Sorig_scorに対して均一な構造適応型フィルタを用いて重み付け加算を伴うSNRの不均一補正を行って得られた画像をプロファイルとともに示す図である。
【0193】
図19、図20、図21、図22の各プロファイルにおいて横軸は、いずれもフィルタ処理後における腹部画像の信号強度を示し、縦軸は1次元の空間的な位置を示す。
【0194】
図20および図22に示すように、LSIフィルタおよびDSAフィルタを用いたSNRの不均一補正により、実線で囲んだSNRが高い周辺部分ではスムージングが弱く、点線で囲んだSNRが低い中心部分ではスムージングが強くかかった画像が得られた。結果として、図19および図21に示すLSIフィルタおよびDSAフィルタを用いて均一な補正を行って得られた画像と比較して、LSIフィルタを用いたSNRの不均一補正により得られた画像の方が周辺部において高周波部分がより残存し、中心部においてノイズがより強く抑制された。つまり、SNRの不均一補正により、SNRが高い周辺部分でボケが低減される一方、SNRが低い中心部分ではSNRの向上が確認できる。
【0195】
図23は、図1に示すデータ補正装置1による画像補正シミュレーションにおいてスムージング強度を変えてフィルタ処理を行った場合のノイズの標準偏差とRMSEの変化を示す図である。
【0196】
図23において、横軸は、フィルタ処理後におけるノイズの標準偏差noise SDのフィルタ処理前(感度補正後における)の元のノイズの標準偏差noise SDoriginalに対する比noise SD ratioを示し、縦軸は、フィルタ処理後における2乗平均平方根誤差(RMSE:root mean square error)のフィルタ処理前におけるRMSEoriginalに対する比RMSE ratioを示す。ここで、フィルタ処理後におけるRMSEは、図14に示す感度補正後における理想的な画像データに基いて算出したものである。
【0197】
また、図23中の点線および塗りつぶしていない四角印はDSAフィルタを用いて均一なフィルタ処理を行った場合におけるデータを、実線および塗りつぶした四角印はDSAフィルタを用いて不均一なフィルタ処理を行った場合におけるデータを、点線および塗りつぶしていない丸印はLSIフィルタを用いて均一なフィルタ処理を行った場合におけるデータを、実線および塗りつぶした丸印は、LSIフィルタを用いて不均一なフィルタ処理を行った場合におけるデータをぞれぞれ示す。
【0198】
図23によれば、LSIフィルタおよびDSAフィルタを用いた均一なフィルタ処理では、スムージング強度を増加させるとノイズの標準偏差とともにRMSEが次第に小さくなるが、ある強度を超えるとノイズの標準偏差が小さくなるもののRMSEは増加する傾向を示している。これに対し、LSIフィルタを用いて不均一なフィルタ処理を行う場合には、LSIフィルタを用いて均一なフィルタ処理を行う場合に比べてRMSEが改善され、スムージングが強くノイズの標準偏差が小さい場合でもRMSEが比較的小さく抑えられることが確認できる。
【0199】
さらに、DSAフィルタを用いた不均一なフィルタ処理では、LSIフィルタを用いた不均一なフィルタ処理に比べてRMSEの最小値がやや大きくなったが、スムージング強度が強い場合であってもRMSEの劣化が小さいことが確認できる。従って、DSAフィルタを用いた不均一なフィルタ処理では、SNRが低くスムージング強度が強い中心部の画像でもボケを小さくできることが確認できる。
【0200】
また、実際の画像データでは理想的な画像Sideal_scorが未知であり、RMSEを求めることができないため、DSAフィルタによる不均一なフィルタ処理はフィルタ強度の選択に対するロバスト性の点で優れていることが示されている。
【0201】
(フィルタ強度の決定法)
次に上述した一様フィルタにおけるスムージング強度の決定法について説明する。前述のように補正対象となるデータのSNR分布に応じて一様フィルタのスムージング強度を最適に決定することが重要である。そこで、スムージング強度を最適に決定するための方法を2つ説明する。
【0202】
不均一なSNR分布を有するデータに対して不均一なフィルタリングを行い、データの各部における信号成分分布の理想データに対するRMSEを最小化することが理想的である。しかし、理想データの信号分布が未知であるため、通常の処理では、RMSEを最小化することが不可能であるとも言える。一方で、データの信号成分の分布はデータに依存して異なるものとなるが、上述の画像補正シミュレーションの結果に示される通り、感度補正後のデータをLSIフィルタでフィルタリングした場合には無視できない程度に高周波成分が劣化するのに対し、DSAフィルタ等の構造適応型フィルタでフィルタリングした場合には高周波成分の劣化を最小限にできることが判明している。
【0203】
そこで、主に構造適応型フィルタが使用される場合に、データの各部分におけるノイズSDの分布を一定にするためのスムージング強度の最適条件を決定する第1のスムージング強度の決定方法と、LSIフィルタを含む汎用性の高いフィルタの使用を想定し、データの各部における信号成分分布の理想データに対するRMSEを最小化するためのスムージング強度の最適条件を決定する第2のスムージング強度の決定方法とについて説明する。
【0204】
まず、第1のスムージング強度の決定方法について説明する。
【0205】
一般に白色雑音はk空間では周波数軸方向に均等のゲインで分布している。従って、通常のLSIフィルタによるフィルタリング後では、k空間におけるフィルタ関数の空間積分値と実空間の無信号部において測定したノイズのSDとの間に比例関係がある。このため、簡単のためにx軸方向の1次元のLSIフィルタを考え、LSIフィルタのフィルタ関数をH(kx)、実空間の無信号部において測定したノイズのSDをσnとすると、フィルタ関数H(kx)のk空間における積分値AHは、aを比例係数として式(27)のように表すことができる。
【数27】

【0206】
ただし、Kxは、周波数帯域幅を示す。すなわち、周波数帯域幅Kxは、離散系で表現した場合の各軸でのサンプリング周波数帯域-Kx/2〜Kx/2である。また、周波数帯域幅Kxの1/2であるNyquist周波数は対象データが有する最大の周波数に比べ十分大きいとし、折り返し誤差は無視できるものとする。
【0207】
式(27)において、フィルタ関数H(kx)のk空間における積分値AHは、フィルタ関数H(kx)が与えられれば計算可能である。また、ノイズのSD σnは、感度補正前の実空間の無信号部におけるノイズまたはk空間の高周波部におけるノイズのSDから計測可能である。
【0208】
一方、不均一なSNR分布を有するデータのフィルタリング前における最小のSNR部分の最大のSNR部分に対するSNRの比SNRRlhは、感度補正後における最小のSNR部分のノイズのSDをσnl、最大のSNR部分のノイズのSDをσnhとすると、センサ(コイル)の感度分布から求められるSNRの分布Isensを用いて、式(28)のように表すことができる。
【数28】

【0209】
すなわち、SNRの最小値と最大値との比を求めるためにノイズのSDを測定する必要はなく、ノイズの絶対量は感度補正前に測定しておけば得ることができる。
【0210】
図24は、データ補正装置1により、不均一なフィルタリングを行う前における感度補正後のノイズの不均一な分布および標準偏差を示す概念図であり、図25は、図24に示すノイズの不均一な分布を不均一なフィルタリングにより均一化して得られるノイズの分布および標準偏差を示す概念図である。
【0211】
図24および図25において横軸は空間的な位置を示し、縦軸はノイズのパワーおよびノイズの標準偏差を示す。また、図24および図25において実線は、ノイズの分布を示し、点線はノイズのSDを示す。
【0212】
図24に示すように不均一なフィルタリングをデータに対して行う前のノイズは、空間的に不均等に分布しており、ノイズのパワーが小さくSNRが高い部分(high SNR)と、ノイズのパワーが大きくSNRが低い部分(low SNR)とがある。また、SNRが高い部分(high SNR)におけるノイズのSD σnhおよびSNRが低い部分(low SNR)におけるノイズのSD σnlは、図24のように表される。
【0213】
図24に示すようなノイズのSDは不均一フィルタリングによりSNRとともに図25のように変化し、均一化される。すなわち、不均一フィルタリング前におけるSNRが高い部分(high SNR)におけるノイズのSD σnhに合わせて、不均一フィルタリングによりノイズ全体のSDが低減される。この結果、不均一フィルタリング後における全体的にノイズのSDは、一様に不均一フィルタリング前におけるSNRが高い部分(high SNR)のノイズのSD σnhと同等になる。
【0214】
ここで、最小のSNR部分(low SNR)のデータのLSIフィルタによる一様フィルタリング後におけるデータと、最大のSNR部分(high SNR)のデータの一様フィルタリング後におけるデータとが、それぞれ1、0の重みとなるように合成されることにより、データ全体が結果的に不均一フィルタリングされるものとする。そうすると、最小のSNR部分(low SNR)のデータの不均一フィルタリング後における(図25の中央付近における)データのSNRは一様フィルタリング後におけるSNRに相当し、最大のSNR部分(high SNR)のデータの不均一フィルタリング後における(図25の端部付近における)データのSNRは一様フィルタリング前におけるSNRに相当する。つまり、不均一フィルタリング前の最小のSNR部分(low SNR)のSNRは一様フィルタリング前のSNRに相当し、不均一フィルタリング前の最大のSNR部分(high SNR)のSNRは一様フィルタリング後の理想的なSNRに相当することになる。
【0215】
ここで、LSIフィルタによる一様フィルタリング前後におけるSNRの比をSNRRfil.lhとし、SNRの比SNRRfil.lhを最小のSNR部分(low SNR)および最大のSNR部分(high SNR)にそれぞれかけるフィルタ関数の積分値AHl,AHhで表すと、式(29)のようになる。
【数29】

【0216】
そうすると、スムージング強度の最適条件を、図25に示すように「不均一なSNRを有するデータの各部分におけるノイズのSDが最大のSNR部分におけるノイズのSDと同一になるための条件」とした場合の最適条件を求めることは、式(28)の右辺と式(29)の右辺とが互いに等しいかあるいは比例するように最小のSNR部分(low SNR)にかけるフィルタ関数Hl(kx)の積分値AHlを決定するという問題に帰着する。つまり、フィルタリングの対象となるデータのSNR分布を感度補正後における実空間データの無信号部のノイズのSDの逆数とし、SNR分布の最小値と最大値との比にSNRが最小となる部分に対するフィルタ関数の積分値とSNRが最大となる部分に対するフィルタ関数の積分値との比が比例(同一も比例係数倍も含む)するようにフィルタ関数の積分値を制御すればよい。
【0217】
従って、フィルタ関数Hl(kx)の積分値AHlは、式(28)および式(29)から式(30)のように決定すればよいことになる。
【数30】

【0218】
ここで、最大のSNR部分(high SNR)におけるノイズのSDを、LSIフィルタにより変化させないものとすると、最大のSNR部分(high SNR)にかけるLSIフィルタは、ゲイン1のフィルタと等価と考えることができるので、最大のSNR部分(high SNR)にかけるLSIフィルタのフィルタ関数の積分値AHhは、式(31)のように定義することができる。
【数31】

【0219】
従って、式(30)に式(31)の結果を代入すると式(32)が得られる。
【数32】

【0220】
式(32)から最大のSNR部分(high SNR)におけるノイズのSDと最小のSNR部分(low SNR)におけるノイズのSDとの比SNRRlh並びにサンプリング周波数帯域Kxが分かれば、最小のSNR部分(low SNR)にかけるべきフィルタ関数Hl(kx)の積分値AHlを決定することができるということが分かる。
【0221】
ところで、式(32)に示す積分値AHlを与えるようなフィルタ関数Hl(kx)を決定する場合、制約条件が積分値のみであるためフィルタ関数Hl(kx)の設計の自由度は大きい。ただし、一般に、フィルタ関数Hl(kx)は、高周波成分ほどゲインが低下するような関数とすることが望ましい。そこで、例えば、フィルタ関数Hl(kx)を式(33)に示すようなHanning関数とする。
【数33】

【0222】
但し、bxはLSIフィルタのカットオフ周波数を決定するパラメータであり、bx=2のときにカットオフ周波数は、サンプリングの最大/最小周波数±Kx/2と同じになる。
【0223】
図26は、データ補正装置における一様フィルタのフィルタ関数をHanning関数とした場合の例を示す図である。
【0224】
図26において横軸は周波数軸kxを示し、縦軸は、フィルタ関数Hl(kx)を示す。図26に示すように、フィルタ関数Hl(kx)と周波数軸kxとで囲まれた部分の面積は、式(32)により決定されるフィルタ関数Hl(kx)の積分値AHlとなる。また、パラメータbxを調整することにより、LSIフィルタのカットオフ周波数をサンプリングの最大/最小周波数±Kx/2の範囲内で任意に設定することができる。
【0225】
式(33)のようにフィルタ関数Hl(kx)を定義すると、フィルタ関数Hl(kx)の積分値AHlは、式(34)のように表される。
【数34】

【0226】
よって、式(32)および式(34)から式(35)が導かれる。
【数35】

【0227】
そして、式(35)をパラメータbxについて表すと式(36)のようになる。
【数36】

【0228】
式(36)によれば、パラメータbxを式(28)で与えられる最大のSNR部分(high SNR)におけるノイズのSDと最小のSNR部分(low SNR)におけるノイズのSDとの比SNRRlhを用いて決定すればよいことが分かる。
【0229】
このような方法によりLSIフィルタのフィルタ関数Hl(kx)を決定し、上述した重み付け加算による不均一SNR補正を行うようにすれば、ノイズのSD分布を一定とした最適なデータを得ることができる。
【0230】
尚、ノイズが一般的な3次元分布である場合には、フィルタ関数H(Kx,Ky,Kz)のk空間(Kx,Ky,Kz)における積分値AHとノイズのSD σnとの関係は比例係数をaとすると式(37)のようになる。
【数37】

【0231】
ここで、フィルタ関数H(Kx,Ky,Kz)が式(38−1)に示すように直積型で表される関数であるものとすると、最小のSNR部分(low SNR)および最大のSNR部分(high SNR)にそれぞれかけるフィルタ関数H(Kx,Ky,Kz)の積分値AHl,AHhは、それぞれ式(38−2)および式(38−3)のように表される。
【数38】

【0232】
ただし、最大のSNR部分(high SNR)にかけるLSIフィルタをゲイン1のフィルタと仮定した。
【0233】
式(38−3)からノイズが1次元分布する場合と同様に、式(28)で与えられる最大のSNR部分(high SNR)におけるノイズのSDと最小のSNR部分(low SNR)におけるノイズのSDとの比SNRRlhからフィルタ関数H(Kx,Ky,Kz)の積分値AHl,AHhが求められることが分かる。
【0234】
特に、フィルタ関数H(Kx,Ky,Kz)をパラメータbx,by,bzを有するHanning関数で定義すると、式(39)が導かれる。
【数39】

【0235】
従って、式(39)からHanning関数のパラメータbx,by,bzの積bxbybzを求めることができる。ここで、Hanning関数で定義された3次元のフィルタ関数H(Kx,Ky,Kz)が原点対象形の関数である場合には、bx=by=bz=bと置けるため、式(39)は、式(40)のようになる。
【数40】

【0236】
従って、式(40)からフィルタ関数H(Kx,Ky,Kz)のパラメータbは、最大のSNR部分(high SNR)におけるノイズのSDと最小のSNR部分(low SNR)におけるノイズのSDとの比SNRRlhから一意に決定することができる。
【0237】
以上、最適条件をノイズのSDを一定化するとした場合における一様フィルタのスムージング強度の最適決定方法について説明したが、さらには画像データの視覚的な最適性との整合をとるため、あるいは絶対的なSNRと関係づけるために、係数を導入してもよい。この係数は、一定であっても良いし、変数であってもよい。
【0238】
例えば、平均のSNRをSNRmとし、SNRmを式(41)のように表す。
【数41】

【0239】
ただし、S(DC)は、k空間におけるDC近傍の信号の絶対値平均である。すなわち、SNRmをk空間におけるDC近傍の信号の絶対値平均S(DC)とノイズのSD σnとの比とする。
【0240】
そして、絶対的なSNRであるSNRmをパラメータとする係数C(SNRm)を導入し、係数C(SNRm)を、SNRmが小さいほどスムージング強度を大きくするようなSNRmの関数とする。さらに、この係数C(SNRm)を用いて式(32)を式(42)のように変形し、フィルタ関数の積分値AHlに対する条件を補正することもできる。
【数42】

【0241】
また、不均一SNR補正に構造適応型フィルタを使用する場合には、フィルタリング後におけるノイズのSDは本来、実空間におけるデータの信号分布にも依存する。ただし、実空間における信号の平坦部あるいは無信号部のSDによりノイズのSDを定義すれば、LSIフィルタを使用する場合と同様に構造適応型フィルタのフィルタ関数の積分値を決定することができる。LSIフィルタによるフィルタリングではSNRが低い部分ほどスムージングが強くなり空間分解能が劣化するが、構造適応型フィルタによるフィルタリングでは空間分解能を維持しつつノイズ分布の一定化が可能になるため、より理想に近い補正を行うことが可能になる。
【0242】
つまり、以上のような第1のスムージング強度の決定方法は、直流成分のSNRの分母のノイズを用いてフィルタ関数を決定するものである。
【0243】
(Wiener Filterへの適用)
次に、第2のスムージング強度の決定方法について説明する。
【0244】
第2のスムージング強度の決定方法は、前述のようにWiener Filter等の汎用性の高いフィルタを使用してフィルタリングを行う場合に、データのRMSEが最小化されるようにスムージング強度を決定するものである。
【0245】
Wiener Filter(以下WFと表記する)のフィルタ関数Hwは、信号のパワーをPs、ノイズのパワーをPnとすると理想的にはフィルタリングする空間の関数として式(43)のように表すことができる。
【0246】
[数43]
Hw=Ps/(Ps+Pn) (43)
通常、信号のパワーPsはWFをかける空間の関数であるのに対し、ノイズのパワーPnは一定とされる。WFをかける一般的な空間はフーリエ空間で定義され、フーリエ空間で定義されたWFをFT-WFと表記する。ただし、WFをかける対象はFREBAS空間を始めとして、多重解像度に分割されたあらゆるWF空間とすることが可能であり、FREBAS空間で定義されたWFをFR-WFと表記する。
【0247】
不均一なSNRを有するデータの補正において通常、WFはノイズに空間分布が存在する感度補正後のフィルタリングには使用されないが、感度補正後のSNRが最大となる部分およびSNRが最小となる部分におけるそれぞれのノイズのパワーを用いて最適化したWF処理を行い、WF処理後のデータに対して重み付け加算を行えば、空間的に最適なSNR補正が実現されると考えられる。そこで、感度補正後のデータに対してWFを適用する。
【0248】
SNRがある程度大きい場合には、WFのフィルタ関数Hwは、式(43)に示すような理想型として決定することができる。この場合、理想データの信号分布が未知であるため、フィルタリングの対象となるデータから信号のパワーPsを求めることができる。また、SNRがある程度小さい場合には、WFのフィルタ関数Hwは、式(44)に示すような、ある閾値以下をゼロとする閾値型としてもよい。
【0249】
[数44]
Hw=max[Ps-Pn,0]/Ps (44)
さらに、上述したフィルタ関数Hwの決定に際し、信号のパワーPsを隣接ボクセル間の相関から求めることもできる。また、ノイズのパワーPnを補正係数Caを用いて式(45)のように補正してもよい。
【0250】
[数45]
Pn=Ca*Pn (45)
つまり、以上のような第2のスムージング強度の決定方法は、WFでフィルタリングする場合に、データの各部における信号のパワーPsを理想データの信号分布の近似解として用い、理想データに対するデータのRMSEを最小化するものである。
【0251】
そして、上述した第1または第2のスムージング強度の決定方法を採用することによりフィルタのスムージング強度の最適化が可能となる。このスムージング強度の最適化機能は、フィルタ部4に設けることができる。ここで、スムージング強度の最適化を伴うフィルタリングにおける処理の流れについて説明する。例えば、図1に示すデータ補正装置1のフィルタ部4においてスムージング強度の最適化を伴ってフィルタリングを行う場合について説明する。
【0252】
図27は、図1に示すデータ補正装置1のフィルタ部4において、一様フィルタのスムージング強度の最適化を行ってフィルタリングする場合における処理の流れを示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0253】
まずステップS30において、フィルタリングの対象となる実空間のデータをフィルタリング空間のデータに変換する。FT-WFにより画像データをフィルタリングする場合には、式(46−1)に示すように感度補正後の実空間における画像データSscor(x,y,z)をFTしてk空間(kx,ky,kz)におけるデータSscor(kx,ky,kz)に変換する。併せて、後述する処理のために式(46−2)に示すように感度補正前の実空間における画像データSorig(x,y,z)をFTしてk空間(kx,ky,kz)におけるデータSorig(kx,ky,kz)に変換する。
【0254】
[数46]
Sscor(kx,ky,kz) =FT[Sscor(x,y,z)] (46-1)
Sorig(kx,ky,kz) =FT[Sorig(x,y,z)] (46-2)
尚、FR-WFにより画像データをフィルタリングする場合には、FTではなくFREBAS変換によりFREBAS空間上のデータに変換される。以下、FT-WFにより画像データをフィルタリングする場合について説明する。
【0255】
次に、ステップS31において、感度補正前におけるノイズのパワーPnorigとセンサの感度分布Isens(x,y,z)とから感度補正後におけるノイズのパワーの最小値Pnlおよび最大値Pnhを求める。すなわち、感度補正前におけるノイズのパワーPnorigを感度補正前におけるk空間データSorig(kx,ky,kz)の高周波部分から求める。そして、式(47−1)および式(47−2)により感度補正後におけるノイズのパワーの最大値Pnhおよび最小値Pnlを求める。
【0256】
[数47]
Pnl=Pnorig/min[Isens(x,y,z)] (47-1)
Pnh= Pnorig/max[Isens(x,y,z)] (47-2)
次に、ステップS32において、感度補正後におけるノイズのパワーの最小値Pnlおよび最大値PnhからSNRが最大となる部分に対するWFのフィルタ関数Hwh(kx,ky,kz)およびSNRが最小となる部分に対するWFのフィルタ関数Hwl(kx,ky,kz)を式(43)または式(44)により求める。
【0257】
次に、ステップS33において、式(48−1)および式(48−2)に示すように2種類のスムージング強度のフィルタ関数Hwl(kx,ky,kz)、Hwh(kx,ky,kz)で定義されたWFを感度補正後のk空間データSscor(kx,ky,kz)にかけることにより、k空間データSscor(kx,ky,kz)を2つのk空間成分データSscor.fil.l(kx,ky,kz)、Sscor.fil.h(kx,ky,kz)に分割する。
【0258】
[数48]
Sscor.fil.l(kx,ky,kz)=Hwl(kx,ky,kz)*Sscor(kx,ky,kz) (48-1)
Sscor.fil.h(kx,ky,kz)=Hwh(kx,ky,kz)*Sscor(kx,ky,kz) (48-2)
次に、ステップS34において、式(49−1)および式(49−2)に示すようにフィルタリング空間における各k空間成分データSscor.fil.l(kx,ky,kz)、Sscor.fil.h(kx,ky,kz)をそれぞれIFT(inverse Fourier transform)により実空間成分データSscor.fil.l(x,y,z)、Sscor.fil.h(x,y,z)に変換する。
【0259】
[数49]
Sscor.fil.l(x,y,z)=IFT[Sscor.fil.l(kx,ky,kz)] (49-1)
Sscor.fil.h(x,y,z)=IFT[Sscor.fil.h(kx,ky,kz)] (49-2)
そして、得られた実空間成分データSscor.fil.l(x,y,z)、Sscor.fil.h(x,y,z)がフィルタ部4からの出力データとして重み付け加算部5に与えられる。そして、前述のようにSNR分布情報取得部3において求められたSNRの分布を示す重み関数Wsnr(x,y,z)を用いて実空間成分データSscor.fil.l(x,y,z)、Sscor.fil.h(x,y,z)の重み付け加算が行われ、不均一SNR分布を補正した画像データが生成される。
【0260】
このようなフィルタ部4における処理により、不均一なSNR分布が存在するデータに対応して、WFを用いてRMSEが最小化されるようにフィルタリングするという最適化条件の下、スムージング強度の最適化を伴う不均一フィルタリングを行うことができる。尚、図2に示すフローと同様に、不均一フィルタリング後のSNRが不均一フィルタリング前における最大のSNRとなるようにする場合には、フィルタ関数Hwh(kx,ky,kz)で定義されるWFをk空間データSscor(kx,ky,kz)にかけずにフィルタ関数Hwh(kx,ky,kz)で定義されるWFのみをk空間データSscor(kx,ky,kz)にかけてもよい。この場合には、フィルタ部4から実空間成分データSscor.fil.h(x,y,z)が重み付け加算部5に出力される代わりに、感度補正部2から感度補正後の画像データSscor(x,y,z)が重み付け加算の対象として重み付け加算部5に与えられる。
【0261】
また、前述したようにFT-WFを用いたフィルタリングの場合には、空間分解能の劣化が多少生じるがFR-WFを用いてフィルタリングすれば空間分解能の劣化を最小限に抑えることができる。
【0262】
(X線CT装置への適用例)
データ補正装置1、1A、1B、1Cは、X線CT装置に内蔵することもできる。そこで、図1に示すデータ補正装置1をX線CT装置に内蔵し、X線検出器をセンサとして収集された投影データまたはX線CT画像データに対して感度補正を行う例について説明する。
【0263】
図28は本発明に係るX線CT装置の実施の形態を示す構成図である。
【0264】
図28に示すX線CT装置50は、ガントリ部51およびコンピュータ装置52を備えている。ガントリ部51は、X線管53、高電圧発生装置54、X線検出器55、データ収集部(DAS: data acquisition system)56を備えている。尚、図28は、2つのX線管53A、53BおよびX線検出器55A、55Bを備えた多管球CT装置を示しているが、単一のX線管53およびX線検出器55を備えた単管球CT装置であってもよい。
【0265】
各X線管53A、53BおよびX線検出器55A、55Bは、図示しない回転リングに設けられ、被検体Pを挟んで互いに対向する位置に配置される。
【0266】
高電圧発生装置54は各X線管53A、53Bに管電流や管電圧を供給し、各X線検出器55A、55Bは、各X線管53A、53Bから曝射され、被検体Pを透過したX線をそれぞれ検出できるように構成される。さらに、各X線検出器55A、55Bで検出されたX線検出信号はDAS56に与えられてデジタル化され、コンピュータ装置52に与えられる。
【0267】
コンピュータ装置52は、プログラムによりデータ処理部57、投影データ保存部58、CT画像データ保存部59および検出器感度分布保存部60として機能する。また、コンピュータ装置52には、図1に示すデータ補正装置1が内蔵される。
【0268】
データ処理部57は、DAS56からのX線検出信号に各種データ処理を実行することにより投影データおよびX線CT画像データを生成する機能を備えている。データ処理部57により生成された投影データは投影データ保存部58に保存され、X線CT画像データはCT画像データ保存部59に保存される。
【0269】
また、検出器感度分布保存部60には、各X線検出器55A、55Bの空間的な感度分布情報が保存されている。
【0270】
そして、データ補正装置1の感度補正部2は、検出器感度分布保存部60から取得した各X線検出器55A、55Bの空間的な感度分布情報を用いて投影データ保存部58から取得した投影データまたはCT画像データ保存部59から取得したX線CT画像データの感度補正を行うことができるように構成されている。
【0271】
また、SNR分布情報取得部3は、検出器感度分布保存部60から取得した感度分布情報並びに投影データ保存部58またはCT画像データ保存部59から取得した投影データまたはX線CT画像データを用いて投影データまたはX線CT画像データの感度補正に伴って生じるSNRの分布を推定するように構成されている。
【0272】
投影データの空間的なSNR分布は各チャンネルでのX線検出器55A、55Bから出力されるX線検出信号の強度から求めることができる。また、X線CT画像データの空間的なSNR分布は、一旦、粗いマトリクスでの再構成CT画像を作成すれば、再構成CT画像から求めることができる。
【0273】
図29は、図28に示すX線CT装置50における撮影領域の位置とX線検出器55A、55Bから出力されるX線検出信号の強度との関係を示す図である。
【0274】
図29において横軸は、撮影領域の位置を示し、縦軸はX線検出信号の強度を示す。
【0275】
例えば投影データのSNR分布を求める場合には、図29に示すように投影方向に骨等のX線吸収係数の大きな構造物があると、その構造物の部分に相当するX線の線量が低下する。このため、X線検出器55A、55Bから出力されるX線検出信号の強度分布が全ての投影データに対して求められる。そして、X線検出信号の強度分布をSNR分布として用いることができる。
【0276】
また、X線CT画像データのSNR分布(SNR)は、式(50)に示すように粗く再構成したCT画像のCT値(CT#)の逆数に相当する。
【0277】
[数50]
1/CT#∝SNR (50)
そして、X線CT装置50では、データ補正装置1により、各X線検出器55A、55Bにそれぞれ固有の空間的に不均一な感度分布をSNR分布の空間的な均一性を維持しつつ補正することが可能となる。加えて、X線CT装置50では、データ補正装置1により、X線検出器55A、55B間における感度のばらつきも補正することができる。
【0278】
つまり、多管球のX線CT装置50に限らず、複数のセンサを備えた医療装置において収集されたデータをデータ補正装置1、1A、1B、1Cの補正対象とする場合には、各センサの空間的な感度のばらつきのみならず、センサ間における感度のばらつきをも補正することが可能である。
【符号の説明】
【0279】
1、1A、1B、1C データ補正装置
2 感度補正部
3 SNR分布情報取得部
4 フィルタ部
5 重み付け加算部
6 画像診断装置
7 センサ
8 画像データ収集部
9 画像データ保存部
10 感度マップ保存部
11 表示装置
12 データ分割部
13 加算部
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイルユニット
24 RFコイル
24a WBコイル
24b フェーズドアレイコイル
24c 表面コイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
30a 受信系回路
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
40 シーケンスコントローラ制御部
41 画像再構成部
42 k空間データベース
43 実空間データベース
44 スキャン制御部
45 感度分布推定部
46 感度マップデータベース
47 画像表示部
50 X線CT装置
51 ガントリ部
52 コンピュータ装置
53、53A、53B X線管
54 高電圧発生装置
55、55A、55B X線検出器
56 データ収集部(DAS: data acquisition system)
57 データ処理部
58 投影データ保存部
59 CT画像データ保存部
60 検出器感度分布保存部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補正対象データを取得するセンサの不均一な感度分布を用いて、前記補正対象データに基いて得られる第1の対象データに対して感度補正を行うことにより第1の被処理データを生成する感度補正手段と、
前記補正対象データに基いて得られる第2の対象データから、それぞれ異なる強度の対応するフィルタリング、およびSNRの分布又はノイズ分布に応じて対応する重み付けを受けた複数の成分データを生成し、前記複数の成分データを合成することにより第2の被処理データを生成するSNR分布補正手段と、
を有することを特徴とするデータ補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−46833(P2013−46833A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−263650(P2012−263650)
【出願日】平成24年11月30日(2012.11.30)
【分割の表示】特願2006−332466(P2006−332466)の分割
【原出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】