説明

データ解析方法

【課題】マイクロアレイのデータ解析方法であり、従来の手法に比較し、格段に解析の速度が速い、解析手法を提供する。
【解決手段】マイクロアレイ上に存在するプローブと標的物質が平衡状態に達する前に信号値を解析し、その解析結果から平衡状態における信号値を予測することで、短時間での結果出力が可能であることを見出した。すなわち、反応が完了する前の段階で、信号値の上昇加速度、変化率、あるいは事前に得ておいたプロファイルあるいは理想増幅曲線を参照して、最終的に得られる輝度や標的物質の濃度を推定することが可能であることを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAマイクロアレイなどの実験から得られるデータの解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2003年のヒトゲノム解読をきっかけとして、生命現象の遺伝子レベルでの理解が急速に進んでいる。それに伴い、またそれを支える技術として様々な核酸解析技術が開発されている。主な技術としては、キャピラリー電気泳動を利用した高速シーケンサー、高密度に核酸プローブを配置したDNAマイクロアレイなどが代表的である。これらの技術はきわめて高速に核酸の配列や量的な情報の獲得を可能にし、また、情報技術の進歩により得られた核酸の情報から多くの機能解明が進んだ。
【0003】
これらの技術により、様々な病気や体質にかかわる重要な遺伝子の存在が次々に明らかになっている。その結果、今まで同じと考えられていた様々な病気も個性や特徴があることが判明してきており、核酸での診断が重要な位置づけとなってきている。すなわち個々の病気や個人に最適な医療を行う「テーラーメード医療」の実現が現実的なものとなりつつある。
【0004】
また、人間に対して有害な感染症の診断においても核酸配列の解析は威力を発揮しつつある。先にあげた技術の進歩により、感染症の原因となるウィルスや菌種の核酸配列の解析が効率的に行われるようになり、様々な菌種やウィルスの核酸レベルでの解明が進んできた。それにより菌種やウィルス種の特定、すなわち感染症診断が、核酸配列を解析することにより可能となりつつある。
【0005】
たとえば特許文献1において、肺炎クラミジアの発現解析を行うマイクロアレイを作製し、対象菌の有無や詳細な発現解析にも応用可能な技術を提供している。また特許文献2においては、癌と正常細胞を見分けるためのマイクロアレイを提供している。このマイクロアレイは抗体とDNAをプローブとしており、提供されたマイクロアレイにより詳細な検体評価を行っている。
【0006】
また、ロシュ・ダイアグノスティックス社では研究用試薬として「遺伝子多型解析キットAmpliChip CYP 450」を販売している。この製品は米国Affymetrix社のマイクロアレイGeneChipをベースとしたキットであり、核酸のわずか1塩基の違いから分類される多型を評価し、個人により異なる薬剤代謝能力を評価している。
【特許文献1】特開2003−310257号公報
【特許文献2】特開2004−226255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に例示した核酸解析技術、すなわちマイクロアレイは、各種の病気の診断において有効であり、医療の質や効率向上のためにも、臨床現場での早期の実用化が望まれている。これらのマイクロアレイを用いた試験は、一般的に次のような手順に従って実施される。
(1)組織片や血液など対象となる検体を採取する工程
(2)DNAやRNAなど解析対象物を検体から抽出する工程
(3)解析対象物の処理を行いマイクロアレイに供するサンプルとする工程
(4)処理済みのサンプルをマイクロアレイにアプライし反応させる工程
(5)アプライ後のマイクロアレイを解析し結果を出力する工程。
【0008】
これらの工程のうち、(1)の検体採取工程については反応を伴わないため、比較的短時間に完了する。(2)の抽出工程や(3)の処理工程については、各種のキットが市販され、また自動化装置も市販されるなど、簡便化、短時間化が進んでいる。(5)の解析に関しても、高速演算処理技術の進歩により、極めて迅速に複雑なデータ処理が完了し結果を出力する事が可能となっている。しかし(4)のアプライ工程は半日から2日程度の時間を要する事が一般的であり、短時間化の開発が遅れており課題となっている。
【0009】
一方、マイクロアレイ技術を医療現場で実用化していくためには、短時間化、簡便化のニーズは高く、この技術の普及には必要である。例えば手術中に回収された検体の解析では、術中に検体の解析を行い、その結果を受けて術式や治療方針の決定がなされることも多い。また、感染症などの菌種、ウィルス種の同定では、患者にとって致命的な状態に病状が悪化する前に処置を施すことが必要であり、検体を分析するための時間に全く余裕はない。さらに、主として日帰りの外来患者を対象とした検査では、当日中の検査結果の提示と、それに応じた処方が医療効率の観点からも強く望まれている。
【0010】
(4)のアプライ工程の短時間化についてはこれまでも様々な取り組みがなされている。例えばサンプル中のDNAを対象としたDNAマイクロアレイによるアプライ工程、すなわちハイブリダイゼーション工程での短時間化としては、より効率的に反応を行わせるために、塩濃度を高める、反応温度を下げるなどの試みが行われている。しかし、これらのハイブリダイゼーション条件の変更は、反応に要求される特異性や選択性に影響を与えることになり、わずかな違いを識別するような検査においては回避したい条件変更である。特にペプチドやタンパク質をプローブとした反応では、プローブの立体構造の変化を伴う事が予想される。従って、プローブがその機能を充分発揮できるような最適な条件下での効果的な短時間化が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、マイクロアレイ上に存在するプローブと標的物質が平衡状態に達する前に信号値を解析し、その解析結果から平衡状態における信号値を予測することで、短時間での結果出力が可能であることを見出した。
【0012】
すなわち、反応が完了する前の段階で、信号値の上昇加速度、変化率、あるいは事前に得ておいたプロファイルあるいは理想増幅曲線を参照して、最終的に得られる輝度や標的物質の濃度を推定することが可能であることを見いだした。
【0013】
すなわち本発明による解析方法は、時間ゼロにおける信号値s0と、一定時間t1が経過した時点での信号値s1と、さらに一定時間が経過した時点での信号値s2と、の3つの信号値により解析される、マイクロアレイデータの解析方法である。
【0014】
解析のために使用されるデータは、多少に関わらず利用可能であり、時間t1がゼロに等しく、解析する信号値が時間ゼロにおける信号値s0と時間t2における信号値s2の2つの信号値により解析することも可能である。さらには、一般的に時間0における信号値は実質的に0もしくはバックグランド相当であることから、近似的に0とし、1つの信号値のみによってなされる解析も可能である。
【0015】
得られた信号値の解析は、各種の推定方法が適用可能である。事前に標的物質に対する該当プローブの挙動を得ておき、その挙動特性に応じた信号値の推測を行い、結果を出力する解析方法を提案する。さらには時間0から時間t1までの信号値の変化率v1と、時間t1から時間t2までの信号値の変化率v2のうち少なくとも一つの変化率を利用して結果を出力する解析方法も提供する。
【0016】
本発明による解析方法により出力される結果は、例えば最終的に得られる信号値、時間t3における信号値s3、標的物質の濃度、または事前に定められた信号値よりも大きいか否かの判定、である。
【0017】
マイクロアレイに標的物質捕捉用に搭載されているプローブとしてはいかなるプローブであっても適用可能であるが、cDNA、BAC、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、抗体などは本発明のプローブとして特に好ましい。
【0018】
さらに本発明は、信号値の測定方法として標的物質とプローブの結合反応中に反応を継続させながらリアルタイムに信号値を測定することを特徴とする、上記のマイクロアレイデータの解析方法である。
【0019】
また、複数回の信号値を測定することに対応し、同一検体に対して複数のマイクロアレイを用いて平行して反応させ、異なる反応経過時間において回収し信号値を測定する事を特徴とする、マイクロアレイデータの解析方法についても提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のデータ解析手法を用いることにより、長時間に及ぶプローブと標的物質の平衡反応を行うことなく、マイクロアレイ結果の出力が可能となった。短時間で標的物質の結合量を推測することが可能となった。これにより迅速性が要求される医療現場などにおいてマイクロアレイの利用がより可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明により提示するマイクロアレイデータの解析方法は、最終結果が得られる前の少なくとも2つの時間における信号値を得ておき、それらの信号値群から最終的に得られる結果の値を推定する、マイクロアレイの解析方法である。ここで少なくとも2つの時間とは最終結果が得られる前の任意の2つの時間でよく、時間t1における信号値s1と、時間t2における信号値s2を得る。さらに、そのうちの一つが時間0であってもよい。ただしここで述べる時間0とは、標的物質を含む検体がマイクロアレイにアプライされ、すなわち検体とマイクロアレイを接触させた、プローブと標的物質の反応が開始する時間である。したがって、時間0における信号値はマイクロアレイ自体が有する信号値、すなわちバックグランドに相当する値となる事が一般的である。
【0022】
マイクロアレイに搭載されているプローブは、供給される標的物質と反応し、最終的に化学平衡に達して結合体や複合体を形成するが、一般的に固相表面に固定されたプローブの反応速度は液体中の反応と比べ反応効率が低い。従ってプローブに固定された標的物質量は時間の経過と共に徐々に増加し、最終的に一定の値となり化学平衡に達する。時間変化プロファイルは各プローブあるいは標的物質の濃度により異なるが、事前にそれらのプロファイルを把握しておくことで、初期の信号値の解析から最終的に得られる結果の予測が可能となる。たとえば、様々な既知の標的物質濃度に対する信号値の時間変化プロファイルを予め得ておき、得られた信号値をそれらのプロファイルに当てはめ、最も近似するプロファイルを適用することで、最終結果や標的物質の濃度の推定が可能となる。複数の近似プロファイルが存在する場合には、それらの平均や相関係数等の相関度に応じた係数配分を行い、既知プロファイルからの解析結果を算出することが可能である。
【0023】
プロファイルの取得はいかなる方法によっても可能であるが、想定しうる状況を出来る限りカバーできるような幅広いプロファイルの取得が望ましい。また精度の高い推定を行うためには多数のプロファイルを取得しておく方が望ましい。つまり、マイクロアレイの濃度依存性(特性)を把握するため、事前に複数の標的濃度でプロファイルを得ておくことが必要であるが、その際、低い標的濃度から高い標的濃度まで幅色意プロファイルを得ておくことが望ましい。また、その濃度範囲でなるべく多くのプロファイルを得ておくことが、より精度の高い測定が可能になると考えられるため望ましい。
【0024】
最終結果の推定は、事前にプロファイルを取得しない方法でも可能である。時間0から時間t1までの信号値の変化率v1と、時間t1から時間t2までの変化率v2を得て、それらの数値から信号値と変化率の連続的な変化を仮定して最終的な収束状態、すなわち一定の信号値と変化率0の状態を推定することが可能である。プローブと標的物質の実効濃度およびその結合量の時間的な変化は、適切なパラメーターの設定を行うことにより一定の計算式に従うことがわかっており、各種の計算式が適用可能である。
【0025】
推定により得られる解析結果は、いかなる形態であってもよい。一般的には標的物質とプローブの平衡状態で得られる信号値であるが、平衡に達する前の任意の時間t3における信号値s3の推定であっても良い。さらには、規定量以上の標的物質が存在するかを判定するための、事前に定められた判定値を上回るか否かの推定や比較判定であっても良い。また、推定される信号値を標的物質濃度に換算し、検体中の標的物質濃度を解析結果として出力することも可能である。すなわち定量的な使用法、定性的な使用法、いずれの場合であっても本発明による解析方法は適用可能である。
【0026】
本発明で想定するマイクロアレイは通常用いられるいかなるものであってもよい。一般的に利用されているマイクロアレイとしては、配列の決定や、特定の核酸配列の定量を目的としたDNAマイクロアレイが多いが、本発明の解析方法はいずれにおいても適用可能である。DNAマイクロアレイのプローブとしては、オリゴヌクレオチド、cDNA、BAC(細菌人工染色体:Bacterial Artificial Chromosomes)などを挙げることができるが、これらをプローブとするマイクロアレイは全て利用可能である。また、核酸と類似した機能を有するプローブとしてPNA(peptide nucleic acid)を挙げることができるが、PNAをプローブとするマイクロアレイも利用可能である。
【0027】
マイクロアレイとしては、DNA、RNA、PNAなどをプローブとして、各種の核酸を検出するマイクロアレイの他に、ペプチドやタンパク質をプローブとして、同じく各種のペプチドやタンパク質を検出するマイクロアレイも含む。
【0028】
ペプチド間、タンパク質間あるいは相互の親和性により検出をおこなうタンパク質アレイ、ペプチドアレイ、抗体アレイなども本発明による方法で解析可能である。プローブとしては、例えばタンパク質、ペプチド、抗体を挙げることができ、それらはいずれも利用可能である。
【0029】
本発明における標的物質としては、核酸類としてDNA、RNA、PNAなどがあり、いずれもPCR、逆転写など、調製手法は問わず適用可能である。また、タンパク質としては、分子量が小さいペプチドから分子量の大きいタンパク質まで適用可能である。核酸、タンパク質いずれであっても、検出のために蛍光物質、放射線同位体などの標識物質を結合してもよい。
【0030】
本発明の解析方法の実施にあたっては、複数回の信号値の測定が要求されるが、測定は様々な方法により行うことが可能である。
【0031】
一般的には、標的物質を含む検体は標識されており、プローブに結合しない標的物質等を洗い流す操作、すなわちB/F分離が必要となる。従って本発明の複数回の測定を行うためには通常とは異なる方法によりマイクロアレイの測定がされる。
【0032】
その中でも最も簡便な方法として、マイクロアレイ反応におけるリアルタイム計測が挙げられる。この方法は、標的物質とプローブの反応中に、洗浄等のB/F分離とを行うことなく測定する方法である。測定対象をプローブが固定されている固相表面に限定した測定系を設定することにより、プローブに捕捉されない検体中の標識物質からの信号を排除して測定することが可能である。このような測定系はコンフォーカル顕微鏡に応用されている技術であるが、標識物質が蛍光物質の場合に特に有効であり、共焦点光学系の測定技術により実現可能なこの測定方法は、本発明の複数回測定には好適に利用される。
【0033】
また、そのような方法が困難な場合には複数のマイクロアレイを利用してデータを得ることも可能である。標識や増幅等の調製を行った検体を、同一のマイクロアレイに分けてアプライする。測定したい時間が経過した段階で、そのうちの少なくとも1つのマイクロアレイを測定し、信号値を得る。次の測定時間には別のマイクロアレイの測定を行い、複数の測定時間における信号値を得ることができる。複数回の測定にあたっては、マイクロアレイの洗浄条件等を同一にし、測定方法の誤差をなくすことが好ましい。
【0034】
共焦点光学系や複数枚の使用を行わず、通常のマイクロアレイ使用法に則って実施する事も可能である。この場合にはマイクロアレイにアプライした検体液を確実に回収し、マイクロアレイの測定を行った後、回収した検体液を再びアプライすることで実施可能である。この場合、プローブと標的物質の反応が中断し、また反応条件も影響されることから、出来る限り操作を速やかに行う必要がある。
【実施例】
【0035】
以下実施例においては、本文中で記載した解析方法の利用事例を挙げ、本発明を詳細に説明する。なお、本実施例に記載した内容は本発明の説明においての一例であり、他の実施方法に対し何ら制限するものではない。
【0036】
(実施例1)
・チップの準備
DNAマイクロアレイ作製
下記の配列のオリゴヌクレオチドをプローブとする、石英ガラス製のDNAマイクロアレイの作製を行った。
プローブA: 5' CGTACGATCGATGTAGCTAGCATGC 3'(配列番号1)
プローブとなるオリゴヌクレオチドと、マイクロアレイ担体である石英ガラスとの結合は、チオール−マレイミド反応によりおこない、共有結合させた。すなわち、オリゴヌクレオチドは、その5’末端にチオール標識を行い、担体である石英ガラスはシランカップリング剤処理によりアミノ基を導入した後、EMCSを反応させてマレイミド基を導入した。さらにチオール基とマレイミド基を結合させることにより、オリゴヌクレオチドプローブを共有結合させたマイクロアレイを作製した。マイクロアレイの作製方法については、特開2004−313181号公報に記載の方法に従い、インクジェットプリンターを利用した方法により作製した。
【0037】
・標準標的物質の準備
プローブAに相補多的な配列を有する標的物質として、下記配列を有するオリゴヌクレオチドを合成した。
標的物質B: 5’ GCATGCTAGCTACATCGATCGTACG 3' (配列番号2)
なお、この標的物質オリゴヌクレオチドは、マイクロアレイ上でハイブリダイゼーションした際に、マイクロアレイスキャナーで検出が出来るよう、5’末端にCy3標識を行った。なお、Cy3標識は、GEヘルスケアバイオサイエンス社のキットを用いて定法に従って行い、得られたCy3標識標的物質B(B−Cy3)はHPLCにより精製を行った。
【0038】
・ハイブリダイゼーション実験
上記で得られたマイクロアレイと標識標的物質を用いてハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション反応に先立ち、蛍光色素等の影響による非特異的吸着を防ぐため、事前にブロッキング処理を行った。
【0039】
BSA(牛血清アルブミンFraction V:Sigma社製)を1wt%となるように100mM NaCl/10mM リン酸バッファーに溶解した。次に、この溶液に先に作製したDNAマイクロアレイを室温で2時間浸し、ブロッキングを行った。ブロッキング終了後、以下の洗浄液で洗浄を行った後、純水でリンスしてからスピンドライ装置で水切りを行った。
洗浄液:
0.1wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む2×SSC溶液(NaCl 300mM、Sodium Citrate(trisodium citrate dihydrate,C65Na3・2H2O)30mM、p.H. 7.0)。
【0040】
続いて行ったハイブリダイゼーション反応は、市販のハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc.Hybridization Station)を用い、以下に示す溶液条件で行った。
【0041】
・溶液組成
6xSSPE / 10% Formamide / 標的物質B(最終濃度は下記)/ 0.05wt% SDS
(6xSSPE:NaCl 900mM、NaH2PO4・H2O 50mM、EDTA 6mM、p.H. 7.4)。
【0042】
・温度条件
65℃ 3min → 55℃ (時間は下記に記載) → Wash 2xSSC / 0.1% SDS at 50℃ → Wash 2xSSC at 20℃ → (Rinse with H2O : Manual) → Spin dry
なお、ここで標的物質Bの最終濃度とハイブリダイゼージョン時間は表1の組み合わせで行った。マイクロアレイのスキャンは、Axon社のGenePix4000Bを使用して定法に従ってスキャンした。表1には合わせてスキャン後の蛍光輝度データを示す。
【0043】
【表1】

【0044】
・濃度別輝度上昇プロファイル作成
上記のハイブリダイゼーション実験で得られた結果をもとに、標的物質濃度ごとに、時間に対する蛍光強度上昇曲線をプロットし、その結果を図1に示す。
【0045】
(実施例2)
濃度が未知の標的物質Bの水溶液Cを準備した。この水溶液は、標的物質B以外はハイブリダイゼーションに影響する物質は何も含まれていない。水溶液Cを、実施例1で作製したマイクロアレイにハイブリダイゼーションした。マイクロアレイに供するハイブリダイゼーション液は実施例1に記載の成分を添加する必要があるため希釈され、最終濃度として水溶液Cは4倍希釈された。
【0046】
4倍希釈された水溶液Cのハイブリダイゼーションは実施例1と同一条件で行われた。ハイブリダイゼーション時間は1時間とし、実施例1と同様の方法によりマイクロアレイはスキャンされ、測定を行った。測定の結果、プローブAからの輝度は1250であった。
【0047】
実施例1でプロットした図1で、1時間のハイブリダイゼーションにおける輝度値を当てはめると、ハイブリダイゼーション溶液に含まれる標的物質Bの濃度は、概ね5nMであることが推定された。従って、ハイブリダイゼーション溶液に希釈する前の水溶液Cの濃度は約20nMであると推定された。
【0048】
続いて、水溶液Cに含まれる標的物質Bの濃度について、蛍光光度計を用いた測定を行った。使用した蛍光光度計は日立社製のF4500であった。測定される蛍光強度からの標的物質Bの濃度、すなわちCy3の濃度の算出は、モル吸光係数や標的物質Bの濃度に対する蛍光輝度の検量線等から行った。充分に希釈された水溶液Cの測定の結果、標的物質Bの濃度は19.5nMであることが判明した。この結果は、マイクロアレイによる測定結果20nMとほぼ一致しており、1時間の短時間ハイブリダイゼーションによる結果が正しい測定値であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】プローブAに対して標的物質Bをアプライしたときの時間変化を示す図であり、標的物質Bの濃度別にプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質を捕捉するためのプローブを少なくとも1つ有するマイクロアレイの試験により得られた、各プローブからの信号値の解析方法であって、
検体とマイクロアレイを接触させた時間を0とし、時間t1における信号値s1と、時間t2における信号値s2とを含む信号値群から、該試験における信号値の解析結果を出力することを特徴とするマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項2】
時間t1が0である、請求項1に記載のマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項3】
時間0から時間t1までの信号値の変化率v1と時間t1から時間t2までの信号値の変化率v2との少なくとも1つの変化率から、前記信号値の解析結果を出力することを特徴とする、請求項1または2に記載のマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項4】
標的物質の既知の濃度に対する信号値の時間変化プロファイルを作成すること、前記時間t1における信号値s1と時間t2における信号値s2とを含む信号値群から得られる解析結果と該時間変化プロファイルとから標的物質の濃度を出力することを特徴とする、請求項1または2に記載のマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項5】
前記解析結果が、プローブと標的物質の反応が平衡状態のときの信号値である、請求項1から4のいずれかに記載のマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項6】
前記解析結果が、時間t3における信号値s3である、請求項1から4のいずれかに記載のマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項7】
前記解析結果を事前に定められた信号値と比較判定することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項8】
前記解析結果から最終的に捕捉する標的物質の濃度を得ることを特徴とする、請求項1から4に記載のマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項9】
前記マイクロアレイのプローブがオリゴヌクレオチドである、請求項1から8のいずれかに記載のマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項10】
前記マイクロアレイのプローブがcDNAまたはBACである、請求項1から8のいずれかに記載のマイクロアレイデータの解析方法
【請求項11】
前記信号値が、標的物質とプローブの反応中にリアルタイムに測定されることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載のマイクロアレイデータの解析方法。
【請求項12】
複数回のマイクロアレイデータの測定において、同一の検体を複数のマイクロアレイと反応させ、異なる時間にそれぞれ信号値を測定することを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載のマイクロアレイデータの解析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−162550(P2009−162550A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340398(P2007−340398)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】