説明

データ転送装置及びデータ転送方法

【課題】冗長データを用いずにデータ転送の速度の低下を抑え、かつ実装面積の拡大を可及的に抑制することができるデータ転送装置及びデータ転送方法を提供すること。
【解決手段】2の半導体素子2,3間でデータ転送を行うためのデータ転送装置1において、2値の自然乱数Sig2を順次発生して出力する乱数発生器11と、送信用データを順次入力し、この送信用データを自然乱数Sig2によりスクランブルするスクランブル器12と、スクランブルされたデータ信号Sig3−1〜nを第1伝送線17−1〜nへ順次送信する第1送信器14−1〜nと、乱数発生器11から出力される自然乱数Sig2を第2伝送線18へ順次送信する第2送信器16とを有するデータ送信部10を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ転送の技術に関し、特に異なる2以上の半導体素子間でのデータ転送に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来より、ICチップなどの半導体素子同士を通信接続するためにデータ転送技術が用いられている。データ転送として大きく2つに分けて考えることができる。一つはシリアル転送であり、もう一つは、パラレル転送である。
【0003】
一般的に、シリアル転送の特徴は、長距離伝送で用いられ、伝送路の数が少なく、データレートが高いという点であり、一方、パラレル転送の特徴は、短距離伝送で用いられ、伝送路の数が多く、データレートが低いという点である。
【0004】
昨今、これまでのパラレル転送の技術に行き詰まりが生じ、より高いデータレートでの転送を実現するために、シリアル転送で開発された技術を、これまでパラレル転送技術がカバーしていた距離のところまで使用されるようになった。例えば、PCI−SIG(Special Interest Group)によって策定されたPCI Expressなどがある。
【0005】
ところで、データ線やクロック線などの伝送路は一般に、導体の表皮効果や誘電体損失によって、高周波成分が減衰してしまうという問題がある。例えば、データ転送速度が5Gbpsを超えるようなデータレートの領域では、近距離と言っても、高周波成分の減衰は無視できず、シンボル間干渉によって、データの「0」と「1」を明確に区別することが難しくなってくる。そこで、近距離でのデータ転送であっても、伝送路の適応等化器を使用し、減衰した高周波成分を回復して、データ転送を確実に行えるようにする技術が一般化しつつある。(例えば、VLSI sympo 2006,C-9.5 Power/Performance/Channel Length Tradeoffs in 1.6 to 9.6Gbps I/O Links in 90nm CMOS for Server, Desktop, and Mobile Applications)
【0006】
この適応等化器は内部にパラメータを有しており、温度などの変化に応じて、常にパラメータを最適になるようにすることが望ましい。このパラメータの自動調整が正常に動作するには、ある程度ランダムに「0」,「1」が入力される必要があり、長時間「0」が連続するような場合には、パラメータを調整することはできない。
【0007】
そこで、パラメータを適切に調整する方法として、(1)冗長データで符号化を行う方法(例えば、8B10B符号化など)、(2)時々、本来のデータ転送を停止して、伝送路のパラメータを再調整する期間を設ける方法(たとえば、特許文献1参照)、(3)Nビットの転送を行うのに、N+1本のデータ線を確保して、その中の1本のデータ線を順番に選んでパラメータ調整を行い、残りのN本のデータ線でデータ転送を行うという方法(たとえば、特許文献2参照)などが知られている。
【特許文献1】米国特許第7076377号明細書
【特許文献2】米国特許第7072355号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、冗長データで符号化を行う方法では、例えば、8ビットの実データを転送するのに、10ビットのデータを転送しなければならず、転送されるデータの約20%は使えないことになり、転送効率が低下してしまう。
【0009】
また、特許文献1に記載の方法では、長時間連続してデータ転送を行うときには、強制的にデータ転送を中断して、パラメータの再調整を行う必要があり、結果的にデータ転送速度が低下してしまう。
【0010】
また、特許文献2に記載の方法では、余分なデータ線を確保する必要がある上に、NビットをN+1本に分配し、更に元に戻す回路を付加する必要があり、実装面積が大きくなってしまう。
【0011】
そこで、本発明は、冗長データを用いずにデータ転送の速度の低下を抑え、かつ実装面積の拡大を可及的に抑制することができるデータ転送装置及びデータ転送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、2以上の半導体素子間でデータ転送を行うためのデータ転送装置において、データ送信部とデータ受信部とを有し、前記データ送信部は、2値の自然乱数を順次発生して出力する乱数発生器と、送信用データを順次入力し、この送信用データを前記自然乱数により順次論理演算することによって前記送信用データをスクランブルして出力するスクランブル器と、前記論理演算された送信用データを1以上の第1伝送線へ順次送信する第1送信器と、前記乱数発生器から出力される自然乱数を第2伝送線へ順次送信する第2送信器とを備え、前記データ受信部は、前記第1伝送線を介して前記論理演算された送信用データを受信する第1受信器と、前記第2伝送線を介して前記自然乱数を受信する第2受信器と、前記第1受信器で受信した前記論理演算された送信用データを前記第2受信器で受信した自然乱数で論理演算することにより前記送信用データを復元するデスクランブル器とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記データ送信部は、前記第1送信器及び前記第2送信器の送信タイミングを規定する基準クロックを生成するクロック源と、前記基準クロックを前記自然乱数で順次符号化する符号化器と、を備え、前記第2送信器は、前記自然乱数の前記第2伝送線への送信を、前記符号化器によって符号化された基準クロックを前記第2伝送線へ送信することによって行い、前記データ受信部は、前記第2伝送線を介して受信した信号から前記基準クロックを抽出するクロック抽出器を備え、前記第1受信器は、前記クロック抽出器によって抽出した基準クロックに基づいて前記論理演算された送信用データを受信することを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記データ送信部は、前記第1送信器及び前記第2送信器の送信タイミングを規定する基準クロックを生成するクロック源と、前記基準クロックを第3伝送線へ順次送信する第3送信器を備え、前記データ受信部は、前記第3伝送線を介して前記基準クロックを受信する第3受信器と、を備え、前記第1受信器は、前記第3受信器によって受信した基準クロックに基づいて前記論理演算された送信用データを受信することを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記乱数発生器は、前記データ送信部を有する半導体素子の内部において発生する雑音に基づいて、前記自然乱数の列を生成することを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記乱数発生器は、段数が互いに素であり、かつ互いに段数が異なる複数のリングオシレータと、前記複数のリングオシレータの出力信号の排他的論理和を演算する排他的論理和器とを備え、前記排他的論理和器の出力を前記自然乱数としたことを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記第1伝送線は、その中途部において容量素子が直列に接続されたことを特徴とする。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記第1受信器は、前記論理演算された送信用データを受信して取り込むタイミングを動的に調整するタイミング調整器を有し、前記タイミング調整器は、前記論理演算された送信用データの立ち上り又は立ち下がりタイミングに基づいて、前記論理演算された送信用データを取り込むタイミングを調整することを特徴とする。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記第1受信器は、前記第1伝送線での信号劣化を所定のパラメータに基づいて回復する適応等化器を有しており、前記適応等化器は、前記論理演算された送信用データの状態遷移に基づいて、前記所定のパラメータを動的に調整することを特徴とする。
【0020】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記乱数発生器は、前記論理演算された送信用データが前記第1送信器からmビット分送信される毎に、一つの自然乱数を生成し、前記スクランブル器は、前記乱数発生器から順次出力される最新のmビット分の自然乱数の列を蓄積する乱数記憶部を有し、前記送信用データをmビット単位で前記乱数記憶部に記憶したmビット分の自然乱数の列に基づいて論理演算してスクランブルすることを特徴とする。
【0021】
また、請求項10に記載の発明は、2以上の半導体素子間でデータ転送を行うためのデータ転送方法において、2値の自然乱数を順次発生して出力するステップと、送信用データを順次入力し、この送信用データを前記自然乱数により順次論理演算することによって前記送信用データをスクランブルして出力するステップと、前記論理演算された送信用データを1以上の第1伝送線へ順次送信するステップと、前記自然乱数を第2伝送線へ順次送信するステップと、前記第1伝送線を介して前記論理演算された送信用データを受信するステップと、前記第2伝送線を介して前記自然乱数を受信するステップと、前記受信した前記論理演算された送信用データを前記受信した自然乱数で論理演算することにより前記送信用データを復元するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、送信用データに対して乱数を用いてスクランブルをかけるので、伝送線であるデータ線に送信されるデータにおいて「0」と「1」の出力バランスをとることができる。しかも、スクランブルに用いる乱数は、規則性や前後の相関性、周期性などを有する擬似乱数ではなく、乱数の確率値及び出現率に差異が生じない真性乱数に近い自然乱数を用いる。その結果、送信用データがどのような値であっても、スクランブル後のデータは、自然乱数の列が持つ特徴(「0」と「1」とが同じ頻度で発生する特徴)を持つことができる。従って、例えば、受信器に適応等化器を設けたとき、冗長コードを用いることなく、この適応等化器において内部パラメータの自動調整を正常に動作させることができる。また、データ送信部とデータ受信部との電源電圧が異なる場合であっても、冗長コードを用いることなく中途部を容量結合した伝送路を用いることができる。また、スクランブルに用いた自然乱数をデータ受信部からデータ受信部へ送信するようにしているので、データ受信部ではデータ送信部から受信した自然乱数を用いて送信用データを復元することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本実施形態におけるデータ転送装置は、2以上の半導体素子間でデータ転送を行うためのデータ転送装置であり、データ送信部とデータ受信部とを有している。
【0024】
データ送信部は、2値の自然乱数を順次発生して出力する乱数発生器と、送信用データを順次入力し、この送信用データを自然乱数により順次論理演算することによって送信用データをスクランブルして出力するスクランブル器と、論理演算された送信用データを1以上の第1伝送線へ順次送信する第1送信器と、乱数発生器から出力される自然乱数を第2伝送線へ順次送信する第2送信器とを備えている。
【0025】
また、データ受信部は、第1伝送線を介して論理演算された送信用データを受信する第1受信器と、第2伝送線を介して自然乱数を受信する第2受信器と、第1受信器で受信した論理演算された送信用データを第2受信器で受信した自然乱数で論理演算することにより送信用データを復元するデスクランブル器とを備えている。
【0026】
このように、送信用データに対して乱数を用いてスクランブルをかけるので、伝送線であるデータ線に送信されるデータにおいて「0」と「1」の出力バランスをとることができる。しかも、スクランブルに用いる乱数は、規則性や前後の相関性、周期性などを有する擬似乱数ではなく、乱数の確率値及び出現率に差異が生じない真性乱数に近い自然乱数を用いている。その結果、擬似乱数と異なり、乱数が「0」、「1」のどちらであるかは、常に予測できない状態にすることができる。例えば、100ビット同じデータが連続する確率は、2-100(2の−100乗)であり、およそ7.9×10-31(10の−31乗に7.9を乗算した値)になる。そのため、10Gbpsのデータ転送速度で10年間データを送りつづけても、3.2×1018(10の18乗に3.2を乗算した値)ビットであることを考えると、現実的に100ビット同じデータが連続することはないと考えられる。そのため、送信用データがどのような値であっても、スクランブル後のデータは、自然乱数の列が持つ特徴(「0」と「1」とが同じ頻度で発生する特徴)を持つことができる。従って、受信器に適応等化器を設けたとき、冗長コードを用いることなく、この適応等化器において内部パラメータの自動調整を正常に動作させることができる。
【0027】
また、スクランブルに用いた自然乱数をデータ送信部からデータ受信部へ送信するようにしているので、データ受信部ではデータ送信部から受信した自然乱数を用いて送信用データを復元することができる。
【0028】
また、データ送信部は、第1送信器及び第2送信器の送信タイミングを規定する基準クロックを生成するクロック源と、基準クロックを自然乱数で順次符号化する符号化器とを備えており、この第2送信器は、自然乱数の第2伝送線への送信を、符号化器によって符号化された基準クロックを第2伝送線へ送信することによって行う。また、データ受信部は、第2伝送線を介して受信した信号から基準クロックを抽出するクロック抽出器を備え、この第1受信器は、クロック抽出器によって抽出した基準クロックに基づいて論理演算された送信用データを受信する。なお、符号化器による符号化は、例えばマンチェスター符号化などの方法で自然乱数を符号化する。
【0029】
このように基準クロックと自然乱数とを一つの伝送線で送信するので、半導体素子間の配線を簡素化することできる。
【0030】
なお、自然乱数の列を送信する特別な伝送路を準備するようにしてもよい。例えば、データ送信部に、基準クロックを第3伝送線へ順次送信する第3送信器を設け、一方、データ受信部は、第3伝送線を介して基準クロックを受信する第3受信器を設けて、第1受信器において、この第3受信器によって受信した基準クロックに基づいて論理演算された送信用データを受信する。このように構成することにより、符号化器やクロック抽出器を設ける必要がなくなり、データ転送装置の実装面積を低減させることができる。
【0031】
また、乱数発生器として、半導体素子の内部の雑音を用いたものやリングオシレータを用いるものがある。例えば、データ送信部を有する半導体素子の内部において発生する雑音に基づいて自然乱数の列を生成する乱数発生器を用いることができる。半導体素子の内部において発生する雑音としては、微弱放射線、抵抗やダイオードの熱雑音、フリッカー雑音、ショット雑音などの自然現象により発生する雑音がある。リングオシレータを用いるものとして、段数が互いに素であり、かつ互いに段数が異なる複数のリングオシレータと、複数のリングオシレータの出力信号の排他的論理和を演算する排他的論理和器とを備え、排他的論理和器の出力を自然乱数とする乱数発生器がある。
【0032】
このように半導体素子の内部の雑音やリングオシレータを用いることにより、自然乱数を容易に生成することができる。
【0033】
また、上述のように「0」と「1」の発生頻度を等しくすることができるため、第1伝送線は、その中途部において容量素子が直列に接続することができる。
【0034】
このように第1伝送線の中途部を容量素子でAC結合することにより、データ送信部とデータ受信部の信号電位が異なっていても動作させることができる。これは、例えば、長さ10,000の自然乱数の列の平均値が1/2から0.05以上ずれる確率は、1.6×10-23(10の−23乗に1.6を乗算した値)であり、通常AC結合で用いる容量(例えば、100nF)であれば、この程度のズレは動作上問題無いレベルであるからである。
【0035】
また、第1受信器は、論理演算された送信用データを受信して取り込むタイミングを動的に調整するタイミング調整器を有しており、このタイミング調整器は、論理演算された送信用データの立ち上り又は立ち下がりのタイミングに基づいて、論理演算された送信用データを取り込むタイミングを調整している。
【0036】
また、第1受信器は、第1伝送線での信号劣化を所定のパラメータに基づいて回復する適応等化器を有しており、この適応等化器は、論理演算された送信用データの状態遷移に基づいて、所定のパラメータを動的に調整する。
【0037】
このようにデータ受信部に適応等化器(Adaptive Equalizer)を設けることにより、データ転送を中断することなく、伝送線の減衰特性に柔軟に対応することができる。また、他のアナログフィルターと異なり、ノイズの増幅を抑えることができる。
【0038】
また、乱数発生器は、論理演算された送信用データが第1送信器からmビット分送信される毎に、一つの自然乱数を生成し、スクランブル器は、乱数発生器から順次出力される最新のmビット分の自然乱数の列を蓄積する乱数記憶部を有し、送信用データをmビット単位で乱数記憶部に記憶したmビット分の自然乱数の列に基づいて論理演算してスクランブルする。
【0039】
その結果、乱数発生器による自然乱数の発生速度をデータ転送の速度に合わせる必要がなくなり、回路設計が容易になる。しかも、自然乱数の転送周波数を低減することができるので、不要輻射などの外部への影響を抑えることができる。
【0040】
なお、2値の自然乱数を順次発生して出力するステップと、送信用データを順次入力し、この送信用データを自然乱数により順次論理演算することによって送信用データをスクランブルして出力するステップと、論理演算された送信用データを1以上の第1伝送線へ順次送信するステップと、自然乱数を第2伝送線へ順次送信するステップと、第1伝送線を介して論理演算された送信用データを受信するステップと、第2伝送線を介して自然乱数を受信するステップと、受信した論理演算された送信用データを受信した自然乱数で論理演算することにより送信用データを復元するステップとを有するデータ転送方法であれば、上記データ転送装置の構成に限られるものではない。
【0041】
(第1実施形態)
以下、図面に基づいて本発明の第1実施形態を詳説する。図1は、本第1実施形態のデータ転送装置1の概略構成図、図2は本第1実施形態のデータ転送装置1の動作説明図である。
【0042】
図1に示すように、データ転送装置1は、2以上の半導体素子間でデータ転送を行うためのデータ転送装置であり、Chip−to−Chipインタフェースとも呼ばれる。このデータ転送装置1は、第1半導体素子2に内蔵されるデータ送信部10と第2半導体素子3に内蔵されるデータ受信部20とから構成される。
【0043】
データ送信部10は、乱数の確率値及び出現率に差異が生じない2値(「0」,「1」)の真性乱数に近い自然乱数Sig2を順次発生して出力する乱数発生器11と、第1半導体素子2から第2半導体素子3へ送信するデータ(以下、「送信用データ」と呼ぶ。)を順次入力し、この送信用データをこの乱数発生器11から出力される自然乱数Sig2により順次論理演算することによって送信用データをスクランブルして出力するスクランブル器12と、基準クロックSig1を生成するクロック源13と、スクランブル器12によって論理演算された送信用データをn個(nは自然数)のデータ線である第1伝送線17−1〜17−nへ順次送信する第1送信器14−1〜14−nと、基準クロックSig1を自然乱数Sig2で順次符号化した信号Sig4を出力する符号化器15と、符号化器15から出力される信号Sig4を第2伝送線18へ順次送信する第2送信器16とを有している。なお、基準クロックSig1は、第1送信器14及び第2送信器16の送信タイミングを規定するクロックである。また、第2伝送線18は、クロック線と乱数伝送線とが共用された伝送線となる。すなわち、基準クロックSig1を自然乱数Sig2で順次符号化することにより、一つの第2伝送線18で基準クロックSig1と自然乱数Sig2とを同時に送信するようにしている。
【0044】
ここで、データ送信部10に入力される送信用データは、pビットのパラレルデータであるものとする。そして、スクランブル器12は、pビットの送信用データをn個のシリアルデータに変換するパラレル−シリアル変換器を有している。例えば、p=24とし、n=4とすることができる。スクランブル器12においては、送信用データをパラレル−シリアル変換することによって生成したn個のシリアルデータ(以下、「送信用シリアルデータ」と呼ぶ。)をそれぞれ自然乱数Sig2により順次論理演算することによって送信用データをスクランブルする。
【0045】
データ受信部20は、第1伝送線17−1〜17−nに接続され、この第1伝送線17−1〜17−nを介してデータ送信部10から送信される転送データSig10−1〜Sig10−nをそれぞれ受信して2値化し、このように2値化した信号Sig21−1〜Sig21−nを出力するデータ受信器である第1受信器21−1〜21−nと、基準クロックSig1を自然乱数Sig2により符号化した信号Sig11を第2伝送線18を介して受信して2値化し、このように2値化した信号Sig22を出力する第2受信器22と、2値化信号Sig22から基準クロックSig1を抽出し基準クロックSig23として出力するクロック抽出器としての機能と、2値化信号Sig22から自然乱数Sig2を抽出して自然乱数Sig24として出力する機能を有するCDR(Clock Data Recovery)器23と、2値化信号Sig21−1〜Sig21−nを自然乱数Sig24で論理演算することにより送信用データを復元するデスクランブル器24とを備えている。なお、第1受信器21−1〜21−nは、基準クロックSig23に基づいて転送データSig10−1〜Sig10−nを受信する。また、デスクランブル器24によって復元された送信用データは復帰データとして第2半導体素子3内部の他の回路へ出力される。
【0046】
ここで、デスクランブル器24は、n個のシリアルデータを自然乱数Sig24でデスクランブルした後のデータ(以下、「復帰シリアルデータ」と呼ぶ。)をpビットのパラレルデータである復帰データに変換するシリアル−パラレル変換器を有している。例えば、p=24とし、n=4とすることができる。
【0047】
図2は、データ転送装置1によってデータ転送されるデータや自然乱数の状態を示しており、以下、図1及び図2を参照してデータ転送装置1によるデータ転送の動作を説明する。なお、理解を容易にするため、ここではデータ転送装置1におけるn本の第1伝送線17−1〜17のうち、第1伝送線17−1に関連する動作を主に説明するが、他の第1伝送線に関連する動作も同様である。
【0048】
図2(a)は、データ送信部10における各信号の状態遷移を示しており、上段にスクランブル器12のパラレル−シリアル変換器から出力される複数の送信用シリアルデータのうちの一つの送信用シリアルデータが[dk-1],[dk],[dk+1](kは任意の自然数)が順に出力されていることを示しており、中段は乱数発生器11から出力される自然乱数Sig2が[rk-1],[rk],[rk+1]の順に出力されていることを示しており、下段はスクランブル器12から出力される信号Sig3−1〜Sig3−nのうち信号Sig3−1が[dk-1^rk-1],[dk^rk],[dk+1^rk+1]の順に出力されていることを示している。なお、[dk-1^rk-1]は送信用シリアルデータ[dk-1]を自然乱数[rk-1]により論理演算したスクランブルデータであり、同様に[dk^rk]は[dk]を[rk]により、[dk+1^rk+1]は[dk+1]を[rk+1]により、それぞれ論理演算したスクランブルデータである。
【0049】
信号Sig3−1〜Sig3−nは、第1送信器14−1〜14−nによって第1伝送線17−1〜17−nに信号Sig10−1〜Sig10−nとして出力される。また、基準クロックSig1は、乱数発生器11から出力される自然乱数Sig2によって順次符号化され、信号Sig4として出力される。この信号Sig4は第2送信器16によって信号Sig11として第2伝送線18へ順次送信される。
【0050】
図2(b)は、第1伝送線17−1及び第2伝送線18の状態遷移を表しており、この図の上段は第1伝送線17−1に信号Sig10−1が[dk-1^rk-1],[dk^rk],[dk+1^rk+1]の順に出力されていることを示しており、下段は第2伝送線18に信号Sig11に符号化により含まれる自然乱数Sig2が[rk-1],[rk],[rk+1]の順に出力されていることを示している。
【0051】
データ受信部20では、第2伝送線18上の信号Sig11を第2受信器22を介して受信し、CDR器23を用いて、基準クロックSig1及び自然乱数Sig2をそれぞれSig23,Sig24として再生する。第1受信器21−1〜21−nは、この基準クロックSig23を用いて、第1伝送線17−1〜17−nの信号Sig10−1〜Sig10−nを受信し、Sig21−1〜Sig21−nとして出力する。第1受信器21−1〜21−nから出力されるSig21−1〜Sig21−nは、デスクランブル器24において、自然乱数Sig24と排他的論理和をとる。この時、データ送信部10でデータ[dk]に対して、スクランブルに用いた自然乱数[rk]は、クロック線を用いてデータ受信部20内に到着している。スクランブルされたデータ[dk^rk]に再度[rk]で排他的論理和をとると、[dk^rk]^[rk]=[dk]なので、元のデータを復帰することができる。
【0052】
図2(c)は、データ受信部20における各信号の状態遷移を示しており、上段に第1受信器21−1から受信信号Sig21−1が[dk-2^rk-2],[dk-1^rk-1],[dk^rk],[dk+1^rk+1]が順に出力されていることを示しており、中段はCDR器23から出力される自然乱数Sig24が[rk-2],[rk-1],[rk],[rk+1]の順に出力されていることを示しており、下段はデスクランブル器24によって受信信号Sig21−1である[dk-2^rk-2],[dk-1^rk-1],[dk^rk],[dk+1^rk+1]が自然乱数Sig24である[rk-2],[rk-1],[rk],[rk+1]によってそれぞれ論理演算されデスクランブルされた復帰シリアルデータが[dk-2],[dk-1],[dk],[dk+1]の順に出力されている様子を示しており、この復帰シリアルデータは他の復帰シリアルデータと共にデスクランブル器24のシリアル−パラレル変換によって復帰データとしてデスクランブル器24から出力される。
【0053】
以上のように本実施形態におけるデータ転送装置1によれば、スクランブル器12において、送信用シリアルデータ列{…,dk-1,dk,dk+1,…}と、自然乱数の列{…,rk-1,rk,rk+1,…}があったとき、送信用シリアルデータ[dk]と自然乱数[rk]の排他的論理和[dk^rk]をそれぞれデータ毎に演算している。[rk]の値は確率で決まり、「0」,「1」の発生確率は、どちらも1/2なので、[dk]が「0」,「1」のどちらの値であっても、[dk^rk]における「0」,「1」の発生確率はどちらも1/2になる。従って、伝送線であるデータ線に送信されるデータについて「0」と「1」の出力バランスをとることができ、冗長コードを用いる必要がない。しかも、スクランブルに用いた自然乱数をデータ送信部10からデータ受信部20へ送信するようにしているので、データ受信部20ではデータ送信部10から受信した自然乱数を用いて送信用データを復元することができる。
【0054】
また、本実施形態におけるデータ転送装置1によれば、第1伝送線17−1〜17−nによって伝送するデータ信号において「0」と「1」のバランスが取れているので、図3に示すように、第1伝送線17−1〜17−nの中途部において容量素子C1−1〜C1−nを直列に接続することができる。このとき、データ送信部10では、第1送信器14−1〜14−nの出力を第1半導体素子2の電源電圧Vcc1に抵抗R1−1〜R1−nでプルアップする。データ受信部20では、第1受信器21−1〜21−nの入力を第2半導体素子3の電源電圧Vcc2に抵抗R2−1〜R2−nでプルアップする。
【0055】
このように第1伝送線の中途部を容量素子でAC結合することにより、第1半導体素子2の電源電圧Vcc1と第2半導体素子3の電源電圧Vcc2の電位が異なっていても動作させることができる。
【0056】
ここで、乱数発生器11の具体的構成を説明する。図4は第1半導体素子2の内部の雑音を用いた乱数発生器11の構成を示している。
【0057】
図4に示すように乱数発生器11は、第1半導体素子2内の熱雑音を増幅するアンプ31と、基準クロックSig1に同期して動作するレジスタであり、アンプ31からの出力を保持し、自然乱数Sig2として出力するレジスタ32と、レジスタ32から出力される自然乱数Sig2を反転帰還(Negative Feedback)してアンプ31に入力するフィルタ回路33とを備えている。この乱数発生器11においては、熱雑音によってアンプ31の入力に微小電圧信号が発生する。この微小電圧信号をアンプ31を用いて増幅する。レジスタ32は、アンプ31によって増幅された信号を基準クロックSig1に同期して保持及び出力して、「0」,「1」をランダムに出力する。なお、フィルタ回路33は、「0」,「1」の発生頻度が両方とも1/2になるよう反転帰還を行う。
【0058】
また、第1半導体素子2の内部の雑音を用いた乱数発生器11に代えて、リングオシレータを用いた乱数発生器を用いてもよい。図5にリングオシレータを用いた乱数発生器11’の構成を示す。
【0059】
図5に示すように、段数がN1段(N1は素でN2より小さい)のリングオシレータ34と、段数がN2段(N2は素でN3より小さい)のリングオシレータ35と、段数がN3段(N3は素)のリングオシレータ36と、これらのリングオシレータ34〜36の出力信号の排他的論理和を基準クロックSig1に同期して演算する排他的論理和器37とを備えており、この排他的論理和器37の出力を自然乱数Sig2’としている。
【0060】
次に、スクランブル器12の構成について具体的に説明する。図6はスクランブル器12の構成を示す図である。
【0061】
図6に示すように、スクランブル器12は、pビットのパラレルデータである送信用データDa_0〜Da_p-1をn本の送信用シリアルデータDb_0〜Db_n-1に変換するパラレル−シリアル変換器40と、n本の送信用シリアルデータDb_0〜Db_n-1を自然乱数Sig2により順次論理演算することによってスクランブルして出力する論理演算部41とを有している。
【0062】
論理演算部41は、各送信用シリアルデータDb_0〜Db_n-1をビット毎に自然乱数Sig2で排他的論理和をとる排他的論理和器43−1〜43−nと、この排他的論理和器43−1〜43−nから出力される信号を基準クロックSig1に同期してそれぞれ出力するDFF(データ・フリップ・フロップ)44−1〜44−nを有している。
【0063】
なお、上記スクランブル器12においては、送信用データDa_0〜Da_p-1をn本の送信用シリアルデータDb_0〜Db_n-1にパラレル−シリアル変換し、各送信用シリアルデータDb_0〜Db_n-1をそれぞれビット単位で自然乱数Sig2で排他的論理和をとったが、図7に示すように、送信用データDa_0〜Da_p-1をqビット単位(例えば、q=p/n)のブロックに分け、各ブロック単位に自然乱数Sig2で排他的論理和をとった後に、パラレル−シリアル変換して、Sig3−1〜3−nを出力するスクランブル器12’としてもよい。図7はスクランブル器12’の一ブロックの構成を示す図であり、自然乱数Sig2を基準クロックSig1に同期して順次後段のDFFに出力するDFF42−1〜42−qと、ブロック分けした送信用データ(例えば、Da_0〜Db_q-1)を各DFF42−1〜42−nの出力で排他的論理和をとる排他的論理和器43’−1〜43’−nと、この排他的論理和器43’−1〜43’−nから出力される信号を基準クロックSig1に同期してそれぞれ出力するDFF(データ・フリップ・フロップ)44’−1〜44’−nを有しており、各ブロック単位に自然乱数Sig2で排他的論理和をとった後に、パラレルシリアル変換器40’でパラレル−シリアル変換して、Sig3−1〜3−nを出力する。
【0064】
次に、符号化器15について図面を参照して説明する。図8は符号化器15の構成を示す図である。図9(a)は符号化器15における各信号の状態遷移を示す図であり、図9(b)はCDR器23における各信号の状態遷移を示す図である。
【0065】
図8に示すように、符号化器15は、DFF51,52と排他的論理和器53とを有しており、自然乱数Sig2を基準クロックSig1によって同期して排他的論理和器53へ入力する。また、符号化用クロックを基準クロックSig1によって同期して排他的論理和器53へ出力する。排他的論理和器53は、DFF51,52から出力される信号の排他的論理和をとって信号Sig4として出力する(図9(a)参照)。ここで符号化用クロックは、基準クロックSig1から位相を若干ずらしたクロックであり、これにより簡単に信号Sig4をマンチェスター符号化した信号として出力することができる。なお、基準クロックSig1及び自然乱数Sig2が625Mbpsである場合、自然乱数Sig2のビットを2ビットで表現するので、信号Sig4は625Mbps×2=1.25Gbpsのレートで伝送することになる。また、図9(a)においては、マンチェスター符号化を、入力信号が「0」の時(0,1)、入力信号が「1」の時(1,0)のように2ビットで表現している。このような符号化をすることで、エッジの発生頻度を保障することができる。なお、エッジとは、データ信号が「0」→「1」又は「1」→「0」と遷移するタイミングを意味する。
【0066】
データ送信部10から送信される信号Sig4は、第2伝送線18及び第2受信器22を介して、CDR器23に信号Sig22として入力される。CDR器23では、Sig22から復号用クロック及び基準クロックSig23を生成する。図9(b)に示すように、CDR器23は、この復号用クロックの立ち上りタイミングが入力信号Sig22のエッジタイミングとなるように構成され、復号用クロックの立下りタイミングは信号Sig22の腹にくるように構成される。なお、マンチェスター符号化方法であることから、データ受信部20では、最初のデータを検出することにより符号化する前のデータが「0」か「1」かを判定し、復号化した信号Sig24を出力している。なお、データ受信部20では、このように2ビットを一組として扱う必要があるため、これらの組の境界がどちらであるかは、データ転送装置1における起動時のトレーニング期間中に設定することになる。
【0067】
次に、第1受信器21−1〜21−n及び第2受信器22の構成について、図面を参照して具体的に説明する。図10は各第1受信器21−1〜21−nにおけるタイミング調整器の構成を示す図、図11は各第1受信器21−1〜21−nにおける適応等化器70の構成を示す図である。なお、各第1受信器21−1〜21−n及び第2受信器22は、共に同様の構成であるため、ここでは第1受信器21−1についてのみ説明する。
【0068】
第1受信器21−1は、信号Sig10−1を受信して取り込むタイミングを動的に調整するタイミング調整器60と、タイミング調整器60から出力される信号について第1伝送線17−1での信号劣化を所定のパラメータに基づいて回復する適応等化器70とを有している。
【0069】
タイミング調整器60は、図10に示すように、信号Sig10−1を増幅するエッジ検出用のアンプ61と、同様に信号Sig10−1を増幅するデータ検出用のアンプ62と、後述の位相補間器65からの信号の立ち上りエッジ(又は立ち下がりエッジ)とエッジ検出用のアンプ61の出力の立ち上りエッジ(又は立ち下がりエッジ)のタイミングを比較して、その結果に応じた電圧を出力する位相比較器63と、この位相比較器63による位相比較結果をフィルタリングして出力するフィルタ64と、6相クロック生成部67から基準クロックSig1の6相のクロック(0deg,60deg,120deg,180deg,240deg,300deg)を入力し、この基準クロックの6相のクロックから2つのクロックを選択して(例えば、60degと120deg)2つのクロックの位相の内挿をとることで、任意の位相のクロック(例えば、60degから120degの間の任意の位相)を生成する位相補間器65と、データ検出用のアンプ62から出力される信号を入力し、位相補間器65から出力されるクロックにより、信号Sig10−1を受信して取り込み、適応等化器70へ出力するレジスタ66とを備えている。
【0070】
位相補間器65は、フィルタ64から出力される信号を入力し、この信号に応じた位相のエッジ検出用クロックClock1及び受信用クロックClock2を生成する。また、位相補間器65は、エッジ検出用クロックClock1を位相比較器63に出力し、受信用クロックClock2をレジスタ66に出力する。位相比較器63は、エッジ検出用クロックClock1の立ち上りエッジ(又は立ち下がりエッジ)のタイミングとエッジ検出用のアンプ61の立ち上りエッジ(又は立ち下がりエッジ)のタイミングを比較する。レジスタ66は、受信用クロックClock2に同期してデータ検出用のアンプ62から出力される信号を保持及び出力する。なお、位相補間器65は、受信用クロックClock2とエッジ検出用クロックClock1とを90degの違いを持たせて出力する。例えば、受信用クロックClock2が70deg,250degの位相を持つ場合、エッジ検出用クロックClock1を160deg,340degにする。
【0071】
このようにタイミング調整器60は、信号Sig10−1のエッジ(立ち上り又は立ち下がり)のタイミングに基づいて、信号Sig10−1を取り込むタイミングを調整するようにしている。なお、基準クロックの周波数を5GHzとすると、データ受信部20の第2受信器22は、信号Sig11を10Gbpsで受信することになる。このレベルの周波数になると、CMOSで10GHz動作のアンプを作ることはコストがかかることから、上述のように、必要最低限の周波数として基準クロックの周波数で動作させることができるように構成している。
【0072】
適応等化器70は、第1伝送線17−1での信号劣化を所定のパラメータに基づいて回復する機能を有しており、第1伝送線17−1を介して第1受信器21に入力され、タイミング調整器60によって取り込まれた信号の状態遷移に基づいて、所定のパラメータを動的に調整する等化器である。この適応等化器70は、図11に示すように構成されており、数サイクル過去に受信したデータがレジスタチェーン(Register Chain)73内に保存されている。このレジスタチェーン73に保存された過去のデータに応じた信号をそれぞれ加算器71に帰還することで、過去のサイクルからの影響をキャンセルし、現在のサイクルでのデータを取り出している。ここで、スライサー72は、加算器71から出力される信号が「0」であるか「1」であるかを判定する機能を有している。また、エラーアンプ74及びパラメータコントローラ75は、加算器71によって過去のサイクルからの影響をキャンセルするときの係数(図11中のh(1),h(2),・・・,h(i))が常に最適になるように制御をしている。
【0073】
この適応等化器70の制御が正しく行われるためには、現時点のサイクルのデータと、過去のサイクルのデータとの間の相関が十分小さいことが重要である。もし、相関が強ければ、上記の係数を正しい値に維持することができない。本実施形態のデータ転送装置1においては、自然乱数を用いてデータを送信しているために、各サイクルでの受信データの相関が十分小さくなり、冗長コードを用いる必要がない。
【0074】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態におけるデータ転送装置1’について図面を参照して説明する。図12は、本第2実施形態におけるデータ転送装置1’の概略構成図である。なお、第1実施形態と同一の構成のものは第1実施形態と同一符号を付し、説明を省略する。
【0075】
第2実施形態のデータ転送装置1’は、上記第1実施形態のデータ転送装置1’と自然乱数Sig2の転送方法が異なる。すなわち、第1実施形態のデータ転送装置1’は、自然乱数Sig2を基準クロックSig1にのせた形で第2伝送線18から送信することにしたが、本第2実施形態では、基準クロックSig1と自然乱数Sig2とは別々の伝送線を用いて転送するようにしており、符号化器15とCDR器23とを外し、後述の第3送信器16’と第3受信器25を設けている。
【0076】
データ転送装置1’は、図12に示すように、データ送信部10’において、乱数発生器11で生成した自然乱数Sig2を第2送信器16によって第2伝送線18を介して信号Sig11として転送する。又、基準クロック源13で生成した基準クロックSig1を第3送信器16’によって第3伝送線19を介して信号Sig12として転送する。一方、データ受信部20’においては、第2伝送線18を介して入力される信号Sig11を第2受信器22で受信してデスクランブル用の自然乱数Sig23としてデスクランブル器24へ出力する。また、第3伝送線19を介して入力される信号Sig12を第3受信器25で受信して第1受信器21−1〜21−nの基準クロックSig23として出力する。なお、第3送信器16’は第1送信器14−1〜14−nや第2送信器16と同様の構成であり、第3受信器25は第1受信器21−1〜21−nや第2受信器22と同様の構成である。なお、第3受信器25において第2受信器22等と同様の構成にせず、PLLを用いるようにしてもよい。
【0077】
このように第2実施形態におけるデータ転送装置1’を構成しているので、第1実施形態のように符号化器やクロック抽出器を設ける必要がなく、データ転送装置の実装面積を低減させることができる。
【0078】
(他の実施形態)
上述の第1実施形態や第2実施形態においては、自然乱数Sig2の生成タイミングを基準クロックSig1のクロック周期と同一としたが、自然乱数Sig2の生成タイミングを基準クロックSig1のクロック周期よりも遅くすることができる。
【0079】
すなわち、データ転送のレートと自然乱数を第2半導体素子3に送信するレートの比をm(mは2以上の整数):1とする。より具体的には、乱数発生器11,11’において、スクランブル器12から出力される信号Sig3−1〜Sig3−nが第1送信器14−1〜14−nからmビット分送信される毎に、一つの自然乱数Sig2を生成させる。また、スクランブル器12において、乱数発生器11,11’から順次出力される最新のmビット分の自然乱数Sig2の列を蓄積する送信側乱数記憶部を設け、送信用データをmビット単位で送信側乱数記憶部に記憶したmビット分の自然乱数の列に基づいて論理演算してスクランブルするようにするのである。また、データ送信部10,10'からの自然乱数Sig2の転送は、乱数発生器11,11’が自然乱数を生成する毎に順次送信する。一方、データ受信部20,20’側では、デスクランブル器24において、データ送信部10,10'から順次転送される最新のmビット分の自然乱数の列を蓄積する受信側乱数記憶部を設け、受信した信号Sig21−1〜21−nをmビット単位で受信側乱数記憶部に記憶したmビット分の自然乱数の列に基づいて論理演算してスクランブルするようにするのである。
【0080】
図13にはこのような構成にしたときの各信号の状態遷移を示している。図13(a)はデータ送信部10,10'における各信号の状態遷移を示しており、データ転送のレートと自然乱数を第2半導体素子3に送信するレートの比がm:1であるため、データをm個送っている間に、自然乱数は1個だけ送られる。この場合、図13に示すように、転送するデータm個を1組のブロックとして考える。図13(a)に示すブロックAでは、自然乱数として{rk-1,rk,,…rk+n-2}のm個の自然乱数の列を使っており、ブロックBでは、乱数として{rk,rk,…rk+n-1}のn個の自然乱数の列を使っている。つまり、ブロックBでは、生成時間が最も古い自然乱数[rk-1]を捨てて新たに生成された自然乱数[rk+m-1]を用いている。この新たに生成された自然乱数[rk+m-1]は、図13(b),(c)に示すように、伝送路を介して、データ受信部20,20’に転送され、デスクランブルに使用されている。新しい自然乱数[rk+m-1]を追加する位置は、図13では各ブロックの最後になっているが、各ブロックの先頭であってもよい。つまり、データ送信部10,10'とデータ受信部20,20’とでその位置が整合するようにすれば、新しい自然乱数[rk+m-1]をどの位置に追加してもよい。
【0081】
このような形で自然乱数を再利用しても、例えば、m=8の時、1〜7サイクル離れたサイクル間での自然乱数は独立であり、適応等化器70に使用するには十分離れていることになる。但し、伝送路を図3に示すようにAC結合を行う場合は、mを十分に大きくする必要がある。なぜなら、独立な乱数の数が1/mに圧縮されてしまうからである。
【0082】
以上のように構成することにより、乱数発生器11,11’による自然乱数Sig2の発生速度をデータ転送のレート(速度)に合わせる必要がなくなり、回路設計が容易になる。しかも、自然乱数Sig2の転送周波数を低減することができるので、不要輻射などの外部への影響を抑えることができる。
【0083】
以上、本発明の実施の形態のうちのいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【0084】
例えば、データ送信部10において、一つの自然乱数を複数の第1伝送線で用いる例を挙げて説明したが、これに限られず、一つの第1伝送線に一つの乱数発生器を持たせるようにしてもよい。この場合、第1伝送線の数に相当するだけ、自然乱数をデータ受信部20へ送信する伝送路を持たせる必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】第1実施形態のデータ転送装置の概略構成図である。
【図2】第1実施形態のデータ転送装置の動作説明図である。
【図3】中途部を容量素子で結合したAC結合伝送線を用いた例を説明するための図である。
【図4】第1半導体素子の内部の熱雑音を用いた乱数発生器の構成を示す図である。
【図5】リングオシレータを用いた乱数発生器の構成を示す図である。
【図6】第1実施形態におけるスクランブル器の構成を示す図である。
【図7】第1実施形態におけるスクランブル器の他の構成を示す図である。
【図8】第1実施形態における符号化器の構成を示す図である。
【図9】第1実施形態における符号化器における各信号の状態遷移を示す図である。
【図10】第1実施形態における第1受信器のタイミング調整器の構成を示す図である。
【図11】第1実施形態における第1受信器における等化器の構成を示す図である。
【図12】第2実施形態のデータ転送装置の概略構成図である。
【図13】その他の実施形態における各部の信号の状態遷移を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1 データ転送装置
2 第1半導体素子
3 第2半導体素子
10,10’ データ送信部
11 乱数発生器
12 スクランブル器
13 基準クロック源
14 第1送信器
15 符号化器
16 第2送信器
16’ 第3送信器
17 第1伝送線
18 第2伝送線
19 第3伝送線
20,20’ データ受信部
21 第1受信器
22 第2受信器
23 CDR器
24 デスクランブル器
25 第3受信器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の半導体素子間でデータ転送を行うためのデータ転送装置において、
データ送信部とデータ受信部とを有し、
前記データ送信部は、
2値の自然乱数を順次発生して出力する乱数発生器と、
送信用データを順次入力し、この送信用データを前記自然乱数により順次論理演算することによって前記送信用データをスクランブルして出力するスクランブル器と、
前記論理演算された送信用データを1以上の第1伝送線へ順次送信する第1送信器と、
前記乱数発生器から出力される自然乱数を第2伝送線へ順次送信する第2送信器と、を備え、
前記データ受信部は、
前記第1伝送線を介して前記論理演算された送信用データを受信する第1受信器と、
前記第2伝送線を介して前記自然乱数を受信する第2受信器と、
前記第1受信器で受信した前記論理演算された送信用データを前記第2受信器で受信した自然乱数で論理演算することにより前記送信用データを復元するデスクランブル器と、を備えた
ことを特徴とするデータ転送装置。
【請求項2】
前記データ送信部は、
前記第1送信器及び前記第2送信器の送信タイミングを規定する基準クロックを生成するクロック源と、
前記基準クロックを前記自然乱数で順次符号化する符号化器と、を備え、
前記第2送信器は、
前記自然乱数の前記第2伝送線への送信を、前記符号化器によって符号化された基準クロックを前記第2伝送線へ送信することによって行い、
前記データ受信部は、
前記第2伝送線を介して受信した信号から前記基準クロックを抽出するクロック抽出器を備え、
前記第1受信器は、前記クロック抽出器によって抽出した基準クロックに基づいて前記論理演算された送信用データを受信する
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ転送装置。
【請求項3】
前記データ送信部は、
前記第1送信器及び前記第2送信器の送信タイミングを規定する基準クロックを生成するクロック源と、
前記基準クロックを第3伝送線へ順次送信する第3送信器と、を備え、
前記データ受信部は、
前記第3伝送線を介して前記基準クロックを受信する第3受信器を備え、
前記第1受信器は、前記第3受信器によって受信した基準クロックに基づいて前記論理演算された送信用データを受信する
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ転送装置。
【請求項4】
前記乱数発生器は、
前記データ送信部を有する半導体素子の内部において発生する雑音に基づいて、前記自然乱数の列を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のデータ転送装置。
【請求項5】
前記乱数発生器は、
段数が互いに素であり、かつ互いに段数が異なる複数のリングオシレータと、
前記複数のリングオシレータの出力信号の排他的論理和を演算する排他的論理和器とを備え、
前記排他的論理和器の出力を前記自然乱数とした
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のデータ転送装置。
【請求項6】
前記第1伝送線は、その中途部において容量素子が直列に接続された
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のデータ転送装置。
【請求項7】
前記第1受信器は、前記論理演算された送信用データを受信して取り込むタイミングを動的に調整するタイミング調整器を有し、
前記タイミング調整器は、前記論理演算された送信用データの立ち上り又は立ち下がりのタイミングに基づいて、前記論理演算された送信用データを取り込むタイミングを調整する
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のデータ転送装置。
【請求項8】
前記第1受信器は、前記第1伝送線での信号劣化を所定のパラメータに基づいて回復する適応等化器を有しており、
前記適応等化器は、前記論理演算された送信用データの状態遷移に基づいて、前記所定のパラメータを動的に調整する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のデータ転送装置。
【請求項9】
前記乱数発生器は、前記論理演算された送信用データが前記第1送信器からmビット分送信される毎に、一つの自然乱数を生成し、
前記スクランブル器は、前記乱数発生器から順次出力される最新のmビット分の自然乱数の列を蓄積する乱数記憶部を有し、前記送信用データをmビット単位で前記乱数記憶部に記憶したmビット分の自然乱数の列に基づいて論理演算してスクランブルする
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のデータ転送装置。
【請求項10】
2以上の半導体素子間でデータ転送を行うためのデータ転送方法において、
2値の自然乱数を順次発生して出力するステップと、
送信用データを順次入力し、この送信用データを前記自然乱数により順次論理演算することによって前記送信用データをスクランブルして出力するステップと、
前記論理演算された送信用データを1以上の第1伝送線へ順次送信するステップと、
前記自然乱数を第2伝送線へ順次送信するステップと、
前記第1伝送線を介して前記論理演算された送信用データを受信するステップと、
前記第2伝送線を介して前記自然乱数を受信するステップと、
前記受信した前記論理演算された送信用データを前記受信した自然乱数で論理演算することにより前記送信用データを復元するステップと、を有する
ことを特徴とするデータ転送方法。










【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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