説明

トグル式型締装置の型厚調整方法

【課題】1ランク下の容量の小さい型厚調整用モータによっても、型厚調整ができるトグル式型締装置の型厚調整方法を提供する。
【解決手段】型厚調整用モータにより、型厚調整をするときは、タイバーナットを「型厚減」または「型厚増」の方向に駆動しなければならないが、「型厚減」の方向への初動回転抵抗は大きい。これに対し「型厚増」の方向への駆動抵抗は一般に小さい。そこで、型厚調整をするときは、タイバーナットを一旦「型厚増」の方へ設定時間あるいは設定角度だけ駆動して初動回転抵抗を取り去っておいてから、実際の調整を実施する。または、許容始動電流値と、計測される始動電流値とを比較して、始動電流値が小さいときはそのまま調整し、大きいときは逆方向に所定量駆動してから調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トグル式型締装置の型厚調整方法に関するもので、さらに具体的には、固定側金型が取り付けられる固定盤と、可動側金型が取り付けられる可動盤と、固定盤と可動盤とを連結している複数本のタイバーと、可動盤と型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とを備え、このトグル機構のクロスヘッドを駆動することにより型開閉が、そしてタイバーに設けられているタイバーナットを駆動することにより型厚調整あるいは型締力調整ができるようになっているトグル式型締装置の型厚調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トグル式型締装置は、従来周知のように型締ベット上に固定されている固定盤、型締ベット上に軸方向に移動自在に設けらている型締ハウジング、固定盤と型締ハウジングとの間に設けられている4本のタイバー、これらのタイバーの端部に設けられているタイバーナット、タイバーが挿通されている可動盤、型締ハウジングと可動盤との間に設けられているトグル機構、トグル機構を駆動する型開閉用モータ、タイバーナットを回転駆動する型厚調整用モータ等から構成されている。トグル機構も、従来周知で、クロスヘッドと、複数本のトグルリンクとから構成されている。トグルリンクの一方の端部は型締ハウジングに取り付けられている。
【0003】
従来のトグル式型締装置は、上記のように構成されているので、クロスヘッドを型開閉用モータで駆動すると、可動盤が固定盤の方へ移動し、可動盤に取り付けられている可動側金型が、固定盤に取り付けられている固定側金型に対して型開閉される。このときの型締力は、タイバーの延びで発生した弾性復元力で得られる。したがって、従来のトグル式型締装置によっても周知のようにして型締めし、そして溶融樹脂を射出充填して成形品を得ることができる。
【0004】
ところで、金型を別の金型に交換すると、型厚調整をしなければならないが、その調整は手動的にも実施され、また特許文献1にも記載されているように、半自動的にも実施されている。すなわち、可動盤と固定盤との距離である型厚を、固定側金型と可動側金型の金型厚より大きく調整して、換言するとトグル機構を縮めた状態で、可動盤と固定盤の間に金型を挟み、そして、型開閉用モータによりトグル機構を駆動し可動盤が開かないように保持し、この保持した状態で、型厚調整用モータによりタイバーナットを回転駆動して型締ハウジングを、トグルリンクが伸びる方向に駆動する。そうすると、クロスヘッドがコントローラ内に記憶されている所定型締力に対するクロスヘッド位置に達する。これにより所定の型締力が得られる。型厚調整用モータおよび型開閉用モータを停止して型締力の調整を終わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−272823号
【0006】
このようにして型厚調整をするとき、型締ハウジング位置検出器を備えている型締装置では、図6のフローチャートに示されているようにして、自動的に型厚調整をすることもできる。すなわち、トグル機構を縮めて可動盤を開いた状態にして、新しい金型厚、換言すると金型厚位置iKK・Pをコントローラに入力する(ステップS1’)。ステップS2’において、型締ハウジング位置検出器で検出される現在の型厚位置nK・Pと、入力した金型厚位置iKK・Pとを比較する。現在位置nK・Pが金型厚位置iKK・Pより大きいときは、型厚調整用モータによりタイバーナットを正転して型締ハウジングを型厚減の方向に駆動する(ステップS3’)。小さいときは、逆転させて型厚増の方向に駆動する。一致すると型厚調整を終わる(ステップS4’、S5’)。
【0007】
また、自動運転中の型締力の補正は、次のように行われている。射出成形サイクルで実際の型締力を型締力検出機により検出し、予め設定された型締力設定値から型締力補正量を求めると共に、予め設定された上下限警報設定範囲と比較し、前述の上下限警報設定範囲を越えているときは、次のサイクル移行前にトグル機構を格納し、可動盤を開いた状態から設定された時間だけ型閉じを行こない、可動側金型が固定側金型に接している状態にする。この状態で型厚調整用モータを起動して型締ハウジングを型厚増方向に駆動すると共に可動側金型と固定側金型が常にタッチするように型閉じを行い、金型タッチ位置になるまで駆動することにより、型締め力の自動設定が行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のトグル式型締装置を備えた射出成形機においても上記のようして、型厚調整あるいは型締力調整をすることはできるが、調整するためには、タイバーナットを駆動する型厚調整用モータすなわちブレーキ付きモータには容量の大きいモータを必要とし、コスト高になる欠点がある。
【0009】
以下、その理由を説明する。可動盤を固定盤に対して型締めするときの型締力は、前述もしたように、タイバーの延びで発生した弾性復元力で得られるので、タイバーには縮む方向に作用する。換言すると、タイバーに螺合しているタイバーナットが型締ハウジングに当接する方向に作用する。一方、トグル機構のトグルリンクの一方の端部は型締ハウジングに取り付けられているので、型締ハウジングがタイバーナットに当接する方向に作用する。このように、型締めすると、型締力はタイバーナットと型締ハウジングとが互いに接する方向に作用するので、タイバーナットと型締ハウジングは密着する。長期間にわたって成形し、油膜切れが生じているようなときは、タイバーナットは型締ハウジングに固着し、型厚調整のためにタイバーナットを回転することができないような状態にもなっている。タイバーナットと型締ハウジングとの間にワッシャ、スペーサ等が介在されているときでも、同様に固着状態になる。特に、タイバーナットを「型厚減」の方向に駆動するときは、タイバーナットが型締ハウジングに接する方向、つまり密着する方向の回転になるので、タイバーナットの回転駆動は一層困難になる。このように固着状態になっていても、一旦、タイバーナットは回り出すと、比較的小さなトルクで回転駆動することができるが、初動の段階では大きなトルクを必要とする。そこで、型厚調整用モータには容量の大きいモータが採用されている。その様子が図7に示されている。図7において、太い鎖線Y’はブレーキ付きモータすなわち型厚調整用モータの定格電流値の波形を、細い実線X’は、型厚調整時の電流値の波形を、そして太い鎖線Z’は内部設定許容ピーク電流値の波形をそれぞれ示している。「型厚減」方向にも、換言すると正転中にも一旦回り出すと、こびりついたタイバーナットも定格電流値Y’の約半分の電流値X’で駆動できるが、始動時の電流値Pea’は定格電流値X(A)の4〜5倍の電流5X(A)を必要としている。そのため、容量の大きい型厚調整用モータが採用され、トグル式型締装置が高価になっている。
【0010】
本発明は、上記したようなトグル式型締装置の型厚調整時に特有の問題を解決しようとするもので、比較的容量が小さくて安価な型厚調整用モータによっても、型厚調整あるいは型締力調整ができる、トグル式型締装置の型厚調整方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
型厚調整用モータにより、型厚調整あるいは型締力調整をするときは、いずれにしてもタイバーナットを「型厚減」または「型厚増」の方向に駆動しなければならない。ところで、前述もしたように、「型厚減」の方向への駆動はタイバーナットを型締ハウジングに密着する方向への駆動であり、初動回転抵抗は大きい。これに対し「型厚増」の方向への駆動はタイバーナットが型締ハウジングから離間する方向への駆動であり、抵抗は一般に小さい。一方、タイバーナットの初動には大きなトルクが必要であるが、その後は比較的小さなトルクで足りる。
そこで、本発明は上記目的を達成するために、前記調整をするときは、タイバーナットを、とにかく一旦「型厚増」の方へ設定時間あるいは設定角度すなわち設定量だけ駆動して初動回転抵抗を取り去っておいてから、実際の調整を実施するように構成される。
【0012】
他の発明は、計測される現在の型締ハウジングの位置と、入力した金型厚の位置とを比較した結果、「型厚減」の方向へ駆動しなければならないときは、タイバーナットを一旦「型厚増」の方へ設定量だけ駆動して初動回転抵抗を取り去り、その後「型厚減」の方向へ駆動するように構成される。
【0013】
さらに他の発明は、タイバーナットを「型厚増」あるいは「型厚減」方向へ駆動する型厚調整用モータの許容始動電流値と計測される始動電流値とを比較し、始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、そのまま型厚調整を実施し、大きいときは型厚調整用モータによりタイバーナットを逆方向に駆動し、逆転始動電流値を測定して許容始動電流値と比較し、逆転始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、設定量だけ逆転してから型厚調整を実施し、大きいときは警報を発し、調整を中止するように構成される。また、他の発明は、調整を中止する前に、潤滑用のグリースを給脂して調整を実施できるかどうか再度判断するように構成される。
【0014】
すなわち、請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、固定側金型が取り付けられる固定盤と、可動側金型が取り付けられる可動盤と、前記固定盤と前記可動盤とを連結している複数本のタイバーと、前記可動盤と型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とを備え、前記トグル機構のクロスヘッドを駆動することにより型開閉が、そして型厚調整用モータにより前記タイバーに設けられているタイバーナットを、前記固定盤と前記型締ハウジングとの間の型厚が減る「型厚減」方向あるいは増す「型厚増」方向に駆動することにより型厚調整あるいは型締力調整ができるようになっているトグル式型締装置の調整方法において、前記調整をするときは、前記型厚調整用モータにより前記タイバーナットを一旦「型厚増」の方へ設定量だけ駆動して前記タイバーナットの初動回転抵抗を取り去り、その後、前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して調整するように構成される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、固定側金型が取り付けられる固定盤と、可動側金型が取り付けられる可動盤と、前記固定盤と前記可動盤とを連結している複数本のタイバーと、前記可動盤と型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とを備え、前記トグル機構のクロスヘッドを駆動することにより型開閉が、そして型厚調整用モータにより前記タイバーに設けられているタイバーナットを、前記固定盤と前記型締ハウジングとの間の型厚が減る「型厚減」方向あるいは増す「型厚増」方向に駆動することにより型厚調整あるいは型締力調整ができるようになっているトグル式型締装置の調整方法において、計測される現在の型締ハウジングの位置と入力した金型厚の位置とを比較し、現在の型締ハウジングの位置が入力した金型厚の位置より大きいときは、前記型厚調整用モータにより前記タイバーナットを一旦「型厚増」の方へ設定量だけ駆動して前記タイバーナットの初動回転抵抗を取り去り、その後前記タイバーナットを「型厚減」の方向へ駆動し、現在の型締ハウジングの位置が入力した金型厚の位置より小さいときは、そのまま前記タイバーナットを「型厚増」の方向へ駆動して調整するように構成される。
【0016】
請求項3に記載の発明は、固定側金型が取り付けられる固定盤と、可動側金型が取り付けられる可動盤と、前記固定盤と前記可動盤とを連結している複数本のタイバーと、前記可動盤と型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とを備え、前記トグル機構のクロスヘッドを駆動することにより型開閉が、そして型厚調整用モータにより前記タイバーに設けられているタイバーナットを、前記固定盤と前記型締ハウジングとの間の型厚が減る「型厚減」方向あるいは増す「型厚増」方向に駆動することにより型厚調整あるいは型締力調整ができるようになっているトグル式型締装置の調整方法において、前記タイバーナットを駆動する型厚調整用モータの許容始動電流値と、計測される始動電流値とを比較し、始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、そのまま前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して型厚調整を実施し、始動電流値が許容始動電流値より大きいときは、前記型厚調整用モータにより前記タイバーナットを逆方向に駆動して逆転始動電流値を測定し、許容始動電流値と比較し、逆転始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、前記タイバーナットを逆方向へ設定量だけ駆動して、その後前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して型厚調整を実施し、逆転始動電流値が許容始動電流値より大きいときは型厚調整を中止するように構成され、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の調整方法において、前記逆転始動電流値が許容始動電流値より大きいときは、型厚調整を中止する前に、潤滑用のグリースを給脂して、給脂後の始動電流値を計測して、許容始動電流値と給脂後の始動電流値とを比較し、給脂後の始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、そのまま前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して型厚調整を実施し、給脂後の始動電流値が許容始動電流値より大きいときは、前記型厚調整用モータにより前記タイバーナットを逆方向に駆動し、給脂後の逆転始動電流値を測定して許容始動電流値と比較し、給脂後の逆転始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、前記タイバーナットを逆方向へ設定量だけ駆動して、その後前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して型厚調整を実施し、給脂後の逆転始動電流値が許容始動電流値より大きいときは型厚調整を中止して終了するように構成される。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によると、型厚調整用モータによりタイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して調整するとき、前記タイバーナットを一旦「型厚増」の方へ設定量だけ駆動して前記タイバーナットの初動回転抵抗を取り去り、その後、前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して調整するので、あるいは「型厚減」の方向へ駆動して調整するときは、一旦「型厚増」の方へ設定量だけ駆動して前記タイバーナットの初動回転抵抗を取り去り、その後、前記タイバーナットを「型厚減」の方向へ駆動して調整するので、いきなり型厚調整を実施する従来の型厚調整用モータに比較して容量の小さい型厚調整用モータにより型厚調整あるいは型締力の調整ができる。したがって、本発明によると、より安価にトグル式型締装置ひいては射出成形機を提供できるという効果が得られる。
【0018】
また、他の発明によると、型厚調整用モータの許容始動電流値と、計測される始動電流値とを比較し、始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、そのまま型厚調整を実施し、始動電流値が許容始動電流値より大きいときは、タイバーナットを逆方向に駆動し、逆転始動電流値を測定して許容始動電流値と比較し、逆転始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、所定量だけ逆転してから、型厚調整を実施し、大きいときは型厚調整を中止するように構成されているので、あるいは中止する前に、潤滑用のグリースを給脂して調整を完了できるか否かを再度判断するので、容量の小さいより適切な型厚調整用モータを適用できるという効果がさらに得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施に使用されるトグル式型締装置を示す図で、その(ア)は一部を断面にして示す正面図、その(イ)は同側面図である。
【図2】本発明の実施の形態を示すフローチャートである。
【図3】本発明の他の実施の形態を示すフローチャートである。
【図4】本発明のさらに他の実施の形態を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態に係る型厚調整用モータの定格電流値等と、型厚調整時の電流値との関係を示すグラフである。
【図6】従来の型厚調整法を示すフローチャートである。
【図7】従来の型厚調整用モータの定格電流値等と、型厚調整時の電流値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施に使用されるトグル式型締装置を備えた電動射出成形機の例を説明する。図1を参照すると容易に理解されるように、本実施の形態に係わるトグル式型締装置も、外形あるいは本体は、従来のトグル式型締装置と略同様に構成されている。すなわち、トグル式型締装置はベッド上に固定されている固定盤1、固定盤1と所定の間隔をおいてベッド上に軸方向に移動自在に設けられている型締ハウジング10、固定盤1と型締ハウジング10との間に設けられている4本のタイバー2、2、…、4本のタイバー2、2、…によって軸方向に案内移動される可動盤3、可動盤3を型閉じ方向あるいは型開き方向に駆動するトグル機構20等から構成されている。
【0021】
このように構成されている型締装置に、詳しくは後述するブレーキ付きモータあるいは型厚調整用モータ13、型開閉用モータ33、コントローラ40等が設けられている。なお、固定盤1には固定側金型4が、そして可動盤3には可動側金型5がそれぞれ着脱自在に取り付けられるようになっている。なお、ブレーキ付きモータあるいは型厚調整用モータ13にはサーボモータも適用できるが、以下型厚調整用モータ13として説明される。
【0022】
タイバー2、2、…の一方の端部は、固定盤1の4隅の透孔に通され、そして固定盤1に固定されている。タイバー2、2、…の他方の端部は、型締ハウジング10の4隅を貫通し、その外方まで延びている。そして、型締ハウジング10の外側において、タイバー2、2、…にはネジが形成され、このネジに型厚調整用のタイバーナット11、11、…がそれぞれ螺合されている。これらのタイバーナット11、11、…には、従動ギヤ12、12、…がそれぞれ固定されている。一方、型締ハウジング10の側部には、図1の(イ)に示されているように型厚調整用モータ13が搭載され、このモータ13の出力軸に設けられている駆動ギヤ14は1個のアイドラギヤ15と噛み合っている。このアイドラギヤ15は、型締ハウジング10の略中心部に設けられているセンターギヤ16と噛み合い、このセンターギヤ16が前述した従動ギヤ12、12、…と噛み合っている。タイバーナット11、11、…は、従動ギヤ12、12、…により回転駆動されると軸方向に移動するが、移動するときは型締ハウジング10と一体となって移動するようになっている。したがって、型厚調整用モータ13が正方向あるいは逆方向に回転すると、型厚調整用のタイバーナット11、11、…はセンターギヤ16を介して正方向あるいは逆方向に駆動され、型締ハウジング10は固定盤1と可動盤3との間の型厚が増加する方向あるいは型厚が減少する方向に移動することになる。なお、図の実施の形態では従動ギヤ12、12、…は、センターギヤ16で回転駆動されるようになっていすが、チエーン、ベルト等の伝達機構で駆動するように実施することもできる。
【0023】
トグル機構20は、従来周知であるので詳しい説明はしないが、図1の(ア)に示されている実施の形態では、概略的には1個のクロスヘッド21、一対の短リンク23、23、一対の長リンク24、24等から構成されている。そして、長リンク24、24の一方の端部はピン28、28により可動盤3のブラケットに結合され、短リンク23、23の一方の端部は、型締ハウジング10のブラケットに同様にピン29、29により回動自在に結合されている。
【0024】
型締ハウジング10の略中央部には透孔が形成され、この透孔にその先端がクロスヘッド21に結合されている雄ネジ30が挿通されている。この雄ネジ30には雌ネジ31が螺合し、ボールネジ機構を構成している。雌ネジ31は、型締ハウジング10に対して回転は可能であるが、軸方向の移動が規制された状態で型締ハウジング10に設けられている。したがって、雌ネジ31が回転駆動されると、雄ネジ30が軸方向に駆動され、クロスヘッド21が型閉じ方向あるいは型開き方向に駆動されることになる。雌ネジ31には、ギヤ32が一体的に取り付けられ、このギヤ32と型締ハウジング10の側部に設けられている型開閉用モータ33の出力ギヤ34との間に、図1の(イ)に示されているようにタイミングベルト35が掛け回されている。
【0025】
型厚調整用のタイバーナット11、11、…を駆動する型厚調整用モータ13には、図1の(イ)に示されているように、パルス発生器18が設けられ、このパルス発生器18で検出される型締ハウジング10の位置に関する情報が信号ラインaによりコントローラ40に入力されるようになっている。また、型厚調整用モータ13は型厚調整時にはコントローラ40から出力される制御信号により、次の作用の項で説明するように制御される。なお、型厚調整用モータ13に供給される電流を測定する電流計は、図1にはしめされていない。
【0026】
本実施の形態に係る電動射出成形機は、上記のように構成されているので、従来周知のようにして成形できる。したがって、以下上記実施の形態の型厚の自動調整方法を、図2〜4のフローチャートを参照して説明する。図1の(ア)において、タイバーナット11、11、…により型締ハウジング10を固定盤1に近づける方向への駆動が「型厚減」の正転方向への駆動、逆に固定盤1から遠ざかる方向への駆動が「型厚増」の逆転方向への駆動であるが、型厚を調整するときは、いずれにしても「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動することになる。図2に示されているフローチャートは、前述もしたように、タイバーナット11、11…の始動抵抗あるいは初動回転抵抗は「型厚減」方向へは大きいが、その後の抵抗は一般に小さいので、型厚調整を実施するときは、初めに初動回転抵抗を取り除いてから「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動する実施する例を示している。
【0027】
コントローラ40のメモリに、金型4、5の厚の寸法を入力する。この寸法は金型厚位置(iKK・P)に関する情報である(ステップS1)。ステップS2において、型厚調整用モータ13によりタイバーナット11、11、…を「型厚増」の方向へ駆動する。このときのタイバーナット11、11、…の「型厚増」方向への駆動時間あるいはタイバーナット11、11、…の駆動回転角度は、コントローラ40に設定されている。今は、「型厚増」の方向へ設定量だけ駆動されたので、初動抵抗は取り去られている。「型厚減」の方向にも駆動できる状態になっている。ステップS3において、パルス発生器18で計測される現在の型厚位置nK・Pと、入力された金型厚位置iKK・Pとを比較する。現在の型厚位置nK・Pが入力された金型厚位置iKK・Pより大きいときは、タイバーナット11、11、…を「型厚減」方向へ駆動し(ステップS4)、小さいときは「型厚増」方向へ駆動する(ステップS5)。一致して型厚調整を終わる(ステップS6)。
【0028】
図5に示されているように、本実施の形態によると、従来のブレーキ付きモータすなわち型厚調整用モータの定格電流値(Y’)よりも、1ランク下の定格電流値(Y)のモータを適用できる。すなわち、従来の型厚調整用モータは、型厚調整に必要な電流値(X)の約倍の値(Y’)のモータを必要としているが、本実施の形態によると、型厚調整に必要な電流値(X)より、少し大きい電流値(Y)のモータで足りる。このようなモータでも、逆転中(s)のピーク電流値(Peak)は、許容ピーク電流値(Z)には達していない。
【0029】
図3のフローチャートは、「型厚減」の方向へ駆動しなければならないときは、一旦「型厚増」の方向へ駆動して初動回転抵抗を取り去る実施の形態を示している。コントローラ40のメモリに、金型厚位置(iKK・P)を入力する(ステップS1’)。ステップS2’において、パルス発生器18で計測される現在の型厚位置nK・Pと、入力された金型厚位置iKK・Pとを比較する。現在の型厚位置nK・Pが入力された金型厚位置iKK・Pより大きいときは、ステップS3’において、タイバーナット11、11、…を一旦「型厚増」の方向へ、メモリに記憶されている設定量だけ駆動して、その後「型厚減」方向へ駆動する(ステップS4’)。小さいときは、直ちに「型厚増」の方向へ駆動する(ステップS5’)。一致して型厚調整を終わる(ステップS6’)。
【0030】
型厚調整用モータ13の始動電流値と許容始動電流値とを比較して処理する型厚調整方法を図4のフローチャートにより説明する。コントローラ40のメモリに、許容始動電流値Ipを設定する(ステップS1”)。そして、型厚調整用モータ13を起動して、始動電流値Isを計測する(ステップS2”)。ステップS3”において、許容始動電流値Ipと計測した始動電流値Isとを比較して、始動電流値Isが許容始動電流値よりも小さいときは「型厚」方向にも「型減」方向にも駆動できるので、前述したようにして型厚調整をする(ステップS4”)。
【0031】
始動電流値Isが許容始動電流値Ipよりも大きいときは、型厚調整用モータ13を逆回転させ(ステップS5”)、そうして逆転始動電流値Irを測定する(ステップS6”)。ステップS7”において、許容始動電流値Ipと逆転始動電流値Irとを比較し、逆転始動電流値Irが許容始動電流値Ipよりも小さいときは、逆転が可能であるので設定量だけ逆転する(ステップS8”)。その後、前述したようにして型厚調整をする(ステップS9”)。
【0032】
ステップS7”において、逆転始動電流値Irが許容始動電流値Ipよりも大きいときは、逆転もできないので警告を発すると共に、潤滑用のグリースを給脂する(ステップS10”)。1回目の給脂をしたら(ステップS11”)、前述したステップS2”に戻り、前述したような処理をする。1回目の給脂を終えても、逆転始動電流値Irが許容始動電流値Ipよりも大きいときは、2回目の給脂をしても型厚調整はできないと判断して、ステップS12”において警報を発すると共に、型厚調整を中止して終了する。
【0033】
本発明は、上記実施例に限定されることなく色々な形で実施できる。例えば、許容始動電流値は、「型厚増」方向の逆転時と「型厚減」の正転時とで異なる値を採用することもできる。このときは、逆転時と正転時のそれぞれの始動電流値を測定し、そして比較することになる。また、フローチャートには示されていないが、タイバーナット11、11、…等に潤滑用のグリースを給脂した結果、始動電流値が許容始動電流値よりも小さくなっているときは、そのまま型厚調整を実施することもできる。小さくなっていないときは、上記したようにしてタイバーナット11、11、…を逆転して、再度型厚調整ができるかどうか判断するように実施することもできる。さらには、タイバーナット11、11、…の初動回転抵抗は、例えばイバータ制御により型厚調整用モータ13の正転を短時間行い、その後逆転を短時間行い、また正転を短時間行うという動作を所定回繰り返し、従動ギヤ12、12、…に微振動を与えることにより、取り除く、あるいは小さくすることもできる。
なお、位置を計測するパルス発生器18に代えてリニアセンサ等で計測するように実施できることは明らかである。
【符号の説明】
【0034】
1 固定盤 2 タイバー
3 可動盤 4、5 金型
10 型締ハウジング 11 タイバーナット
13 型厚調整用モータ 20 トグル機構 18 パルス発生器 40 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側金型が取り付けられる固定盤と、可動側金型が取り付けられる可動盤と、前記固定盤と前記可動盤とを連結している複数本のタイバーと、前記可動盤と型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とを備え、前記トグル機構のクロスヘッドを駆動することにより型開閉が、そして型厚調整用モータにより前記タイバーに設けられているタイバーナットを、前記固定盤と前記型締ハウジングとの間の型厚が減る「型厚減」方向あるいは増す「型厚増」方向に駆動することにより型厚調整あるいは型締力調整ができるようになっているトグル式型締装置の調整方法において、
前記調整をするときは、前記型厚調整用モータにより前記タイバーナットを一旦「型厚増」の方へ設定量だけ駆動して前記タイバーナットの初動回転抵抗を取り去り、その後、前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して調整することを特徴とするトグル式型締装置の型厚調整方法。
【請求項2】
固定側金型が取り付けられる固定盤と、可動側金型が取り付けられる可動盤と、前記固定盤と前記可動盤とを連結している複数本のタイバーと、前記可動盤と型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とを備え、前記トグル機構のクロスヘッドを駆動することにより型開閉が、そして型厚調整用モータにより前記タイバーに設けられているタイバーナットを、前記固定盤と前記型締ハウジングとの間の型厚が減る「型厚減」方向あるいは増す「型厚増」方向に駆動することにより型厚調整あるいは型締力調整ができるようになっているトグル式型締装置の調整方法において、
計測される現在の型締ハウジングの位置と入力した金型厚の位置とを比較し、 現在の型締ハウジングの位置が入力した金型厚の位置より大きいときは、前記型厚調整用モータにより前記タイバーナットを一旦「型厚増」の方へ設定量だけ駆動して前記タイバーナットの初動回転抵抗を取り去り、その後前記タイバーナットを「型厚減」の方向へ駆動し、現在の型締ハウジングの位置が入力した金型厚の位置より小さいときは、そのまま前記タイバーナットを「型厚増」の方向へ駆動して調整することを特徴とするトグル式型締装置の調整方法。
【請求項3】
固定側金型が取り付けられる固定盤と、可動側金型が取り付けられる可動盤と、前記固定盤と前記可動盤とを連結している複数本のタイバーと、前記可動盤と型締ハウジングとの間に設けられているトグル機構とを備え、前記トグル機構のクロスヘッドを駆動することにより型開閉が、そして型厚調整用モータにより前記タイバーに設けられているタイバーナットを、前記固定盤と前記型締ハウジングとの間の型厚が減る「型厚減」方向あるいは増す「型厚増」方向に駆動することにより型厚調整あるいは型締力調整ができるようになっているトグル式型締装置の調整方法において、
前記タイバーナットを駆動する型厚調整用モータの許容始動電流値と、計測される始動電流値とを比較し、始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、そのまま前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して型厚調整を実施し、
始動電流値が許容始動電流値より大きいときは、前記型厚調整用モータにより前記タイバーナットを逆方向に駆動して逆転始動電流値を測定し、許容始動電流値と比較し、逆転始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、前記タイバーナットを逆方向へ設定量だけ駆動して、その後前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して型厚調整を実施し、
逆転始動電流値が許容始動電流値より大きいときは型厚調整を中止することを特徴とするトグル式型締装置の調整方法。
【請求項4】
請求項3に記載の調整方法において、前記逆転始動電流値が許容始動電流値より大きいときは、型厚調整を中止する前に、潤滑用のグリースを給脂して、給脂後の始動電流値を計測して、許容始動電流値と給脂後の始動電流値とを比較し、給脂後の始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、そのまま前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して型厚調整を実施し、
給脂後の始動電流値が許容始動電流値より大きいときは、前記型厚調整用モータにより前記タイバーナットを逆方向に駆動し、給脂後の逆転始動電流値を測定して許容始動電流値と比較し、給脂後の逆転始動電流値が許容始動電流値より小さいときは、前記タイバーナットを逆方向へ設定量だけ駆動して、その後前記タイバーナットを「型厚減」あるいは「型厚増」の方向へ駆動して型厚調整を実施し、
給脂後の逆転始動電流値が許容始動電流値より大きいときは型厚調整を中止して終了することを特徴とするトグル式型締装置の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−6393(P2013−6393A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142146(P2011−142146)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】