説明

トップロール装置

【課題】 フロート法によりガラスリボンを形成する場合に使用されるトップロール装置の駆動源からロール軸に回転駆動力を伝達するに際して、滑りの発生や結合の困難性を回避した上で、トップロールに生じる回転変動を適切に小さくし、ガラスリボンに対する幅方向への引っ張り動作を適正化する。
【解決手段】 駆動源9からロール軸3に回転駆動力を伝達する駆動力伝達機構10が、ノンバックラッシギヤ減速機11を有すると共に、当該減速機11の入力要素12に駆動源9の回転駆動力が直接伝達され、且つ当該減速機11の出力要素13の回転駆動力がロール軸3に直接伝達されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロート法によりガラス板を製造する際に使用されるトップロール装置に係り、詳しくは、フロートバス内で形成されるガラスリボンの側縁部表面に接触して回転するトップロールに、駆動源からの回転駆動力を適正に伝達するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイなどの各種画像表示機器用のガラスパネルの製作や、建造物用の窓ガラスの製作に際しては、複数枚のガラスパネルや窓ガラスが一枚の素板ガラスから作り出される手法が採用されるに至っている。そして、これに伴ってガラスメーカー等で製造される素板ガラスは、大板化が推進されているのが現状である。
【0003】
これらの素板ガラスの製造方法としては、生産効率の向上等を目的として、フロート法が広く採用されている。このフロート法は、基本的には、フロートバス内に貯留されている溶融スズの上面に、タンク窯から流し込まれた溶融ガラスを浮かべて略均一な厚さに広がらせると共に、フロートバスの下流側に配設されたレヤーロールの回転に連係させてその溶融ガラスを引っ張ることによりガラスリボンを形成し、これを更にレヤーロールで下流側に搬送して冷却することにより所定厚みのガラス板を得るものである。
【0004】
この場合、レヤーロールは回転速度の調整が可能であるから、薄肉のガラス板を製造するには、その回転速度を高めてガラスリボンの引延し率を大きくすればよいのであるが、このような手法のみでは、レヤーロールの搬送速度が不当に速くなるばかりでなく、ガラスリボンの板幅が適切値以下に狭くなるという不具合を招く。
【0005】
そこで、この種の薄肉のガラス板をフロート法で製造する場合には、フロートバスの両側壁にそれぞれ複数台のトップロール装置を配設し、これらの装置の先端に存するトップロールをガラスリボンの両側縁部の表面にそれぞれ接触させた状態で回転させて、ガラスリボンを幅が広がる方向に引っ張ることにより、その厚みを薄くすることが行われる。
【0006】
ところで、上記のトップロール装置には、モータ(駆動源)からの回転駆動力をトップロールと一体回転するロール軸に伝達するための駆動力伝達機構が設けられている。この駆動力伝達機構としては、例えば下記の特許文献1に、モータが結合されたギヤ減速機からベルトを介してロール軸(トップロール)に回転駆動力を伝達する構成が開示されている。また、例えば下記の特許文献2には、この駆動力伝達機構として、ギヤ減速機を除くダイレクトドライブ機構、フリクションドライブ機構、ベルトドライブ機構、及び遊星ローラドライブ機構を採用することが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−26755号公報
【特許文献2】特開平11−236231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1に開示されているように、駆動力伝達機構の構成要素としてベルトを有していると、当該ベルトに弛みや巻掛位置ズレが生じて、トップロールに不当な回転変動が生じ、その正確な回転制御が困難となる。このため、ガラスリボンとトップロールとの間に滑りが生じて、ガラスリボンを幅方向に適切に引っ張ることが困難となり、ガラスリボンの厚みを均一化する上で支障が生じると共に、当該ベルトが損傷或いは切断するなどして、耐久性の低下をも招く。しかも、このベルトは、歯付きベルトからなるのが通例であって(特許文献2のベルトドライブ機構参照)、この歯付きベルトは、歯付きプーリと噛み合っていることから、噛み合いによる微妙な回転変動が生じ、これによっても回転制御の困難性及び滑りの発生等に起因する上記と同様の不具合を招く。
【0009】
これに対して、上記の特許文献2に開示された駆動力伝達機構のうち、ギヤ減速機を除くダイレクトドライブ機構、フリクションドライブ機構、及び遊星ローラドライブ機構は、ベルトを有していないことから、上記のような不具合を回避することが期待できるものの、以下に示す理由により、完全な問題解決には至らない。
【0010】
即ち、ダイレクトドライブ機構は、回転駆動力の伝達時に減速されないことから、モータに大きな負荷が作用し、高負荷に耐え得る高価なモータが必要になると共に、モータの駆動軸とロール軸との芯合わせやその両軸の結合に狂いが生じる確率が高いことから、トップロールの回転ムラ或いは回転変動が生じ、この回転変動に起因する上述の問題が依然として残存する。
【0011】
また、フリクションドライブ機構は、2つのローラを圧接させた際の摩擦により回転駆動力を伝達するものであるから、両ローラ間に滑りが生じることを免れ得ず、これによってもトップロールに不当な回転変動が生じるため、同様に上述の問題が依然として残存する。
【0012】
更に、遊星ローラドライブ機構は、上述のフリクションドライブ機構に減速機構の機能を持たせたものであるから、この場合にも各ローラの相互間に滑りが発生することによりトップロールに不当な回転変動が生じ、同様に上述の問題が依然として残存する。
【0013】
従って、上記列挙したモータからロール軸への駆動力の伝達手段は何れも、滑りが発生し或いは結合が困難であることに起因して、トップロールに不当な回転変動が生じ、ガラスリボンを適切に幅方向に引っ張ることが困難になるという問題を有していることになる。
【0014】
そこで、本発明者等は、上記の滑りの発生や結合の困難性を回避し得る駆動力伝達機構として、ギヤ減速機のみを使用し、ベルトの併用等を廃止することを案出するに至り、従来よりこの種の分野で使用されていたギヤ減速機のみを、上記の駆動力伝達機構として使用することを試みた。しかしながら、この対策によっても、トップロールに生じる不当な回転変動を適切に小さくすることが困難であった。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、駆動源からロール軸に回転駆動力を伝達する機構として、滑りの発生や結合の困難性を回避した上で、トップロールに生じる回転変動を適切に小さくできる機構を実現し、もってガラスリボンに対する幅方向への引っ張り動作を適正化することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、上記の如く、この種の分野で従来より使用されていたギヤ減速機のみを、駆動源からロール軸に至る回転駆動力伝達経路に介設するという手段を採用した場合であっても、トップロールに不当な回転変動が生じるのは、当該ギヤ減速機が有しているバクラッシに由来していることを知見した。詳述すると、上記のギヤ減速機における各構成要素の噛み合いによる相互間の接触圧は、バックラッシによって周期的に変動し、これが原因となって、トップロールに回転変動が生じることを知見するに至った。
【0017】
このような知見に基づいて創案された本発明は、フロートバス内で溶融スズ上に溶融ガラスを浮かせて形成されるガラスリボンの側縁部表面に接触して回転するトップロールと、該トップロールが先端に一体回転可能に取付けられたロール軸と、該ロール軸に駆動源からの回転駆動力を伝達する駆動力伝達機構とを備えたトップロール装置において、前記駆動力伝達機構は、ノンバックラッシギヤ減速機を有すると共に、前記駆動源の回転駆動力が前記ノンバックラッシギヤ減速機の入力要素に直接伝達され、且つ該ノンバックラッシギヤ減速機の出力要素の回転駆動力が前記ロール軸に直接伝達されるように構成したことを特徴とするものである。
【0018】
ここで、上記の「ギヤ減速機」とは、構成要素が歯車である減速機に限らず、歯車以外のものが構成要素であっても、それらが歯車に準じるものであって且つ相互に噛み合う構造とされた減速機であればそれをも含む。
【0019】
このような構成によれば、バックラッシを有しないギヤ減速機の入力要素に駆動源の回転駆動力が直接伝達され、更に当該ギヤ減速機の出力要素の回転駆動力がロール軸に直接伝達されることから、駆動源からロール軸に回転駆動力が伝達される間に、バクラッシによる影響を受ける余地がなくなる。しかも、ベルト伝達機構を併用した場合や、フリクションドライブ機構である場合のように、滑りが生じる余地もなくなる共に、減速機を介在させないダイレクトドライブ機構である場合のように、芯合わせ或いは結合の狂いによる影響も受け難くなる。従って、既に述べた従来における各種の駆動力伝達機構を使用した場合にトップロールに回転変動を生じさせていた主たる原因を全て排除することが可能となる。この結果、トップロールに生じる回転変動を適切に小さくすることが可能となって、トップロールによるガラスリボンの幅方向への引っ張り動作が適正になされ、高品質のガラスリボン及びガラス板が得られる。因みに、本発明に係る上記のトップロール装置を使用して製造したガラス板の偏肉(当該ガラス板の肉厚の最大値と最小値との差)は、5μm程度であって、従来(ノンバクラッシではないギヤ減速機を使用した場合)に比して約10μm程度小さくなっていた。また、そのガラス板の平坦度も改善されていた。
【0020】
上記の構成において、ノンバックラッシギヤ減速機は、その入力要素が、ウォームからなると共に、その出力要素が、前記ウォームの螺旋状歯面に転がり接触する複数のローラを周方向に等間隔おきに有する回転体からなるように構成することができる。
【0021】
このようにすれば、駆動源の回転駆動力は、ウォームに直接伝達されると共に、該ウォームが回転することにより、その螺旋状歯面に転がり接触しているローラが周方向に旋回移動し、このローラの旋回移動と共に回転体が回転する。そして、この回転体の回転駆動力は、ロール軸に直接伝達され、これに伴ってトップロールが回転する。この場合、ウォームの螺旋状歯面には、回転体のローラが転がり接触していることから、ウォームから回転体に回転駆動力が伝達される際の摩擦抵抗が大幅に低減されて、不当な駆動損失等を生じることなく円滑且つ軽やかに回転伝達がなされる。
【0022】
上記の構成において、ロール軸の外周は、軸受を有する筒状の覆設体で覆われていることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、ロール軸は、覆設体に設けられている軸受により回転自在に保持されると共に、ロール軸の外周側は、覆設体により的確に保護され得ることになる。
【0024】
上記の構成において、覆設体は、冷却流体の流通路を形成する少なくとも3つの筒状部材を備えていることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、高温状態にあるフロートバスの内部空間に突出して配置されているトップロール及びロール軸先端部に対して、覆設体の流通路を流れる冷却流体(例えば冷却水)の作用により、好適な冷却を施すことが可能となる。
【0026】
上記の構成において、覆設体は、トップロールの回転に伴って生じる振動の振動周波数が該覆設体の固有振動数の整数倍または略整数倍である共振領域に入らないようにするための固有振動数調整体を有していることが好ましい。
【0027】
即ち、トップロールがガラスリボンに接触して回転する際には、トップロールに振動が生じるが、この振動が生じるのは、ガラスリボンに対する引っ張り動作を確実にすることを目的としてトップロールの外周面に複数の歯が刻設されていることに主として由来する。そして、このトップロールの振動は、ロール軸から軸受を通じて覆設体に伝播されるが、従来においては、この覆設体は強度及び剛性のみを考慮して肉厚等の設定がなされていたことから、トップロールの振動が覆設体に伝播されることにより共振が発生するという事態を招来していた。そして、このような共振が発生すると、トップロールに不当な揺れが生じ、ガラスリボンに対する円滑な引っ張り動作が阻害される。そこで、本発明者等は、トップロールの回転に伴って生じる振動の周波数が、トップロール外周に刻設された歯の数と回転数とから概ね算出できることを知見し、覆設体に、トップロールの振動周波数が覆設体の固有振動数の整数倍または略整数倍である共振領域に入らないようにするための固有振動数調整体を付設して、トップロールの不当な揺れを防止することとした。これにより、共振の発生が確実に防止されることから、トップロールのロール軸は覆設体の軸受によって不当な揺れを生じることなく適正に支持され、トップロールによるガラスリボンに対する引っ張り動作が、より一層確実且つ良好なものとなる。しかも、覆設体の強度及び剛性が適切となるようにその肉厚等を維持した上で、固有振動数調整体の質量や配設位置を可変設定すれば良いことになるので、覆設体の強度及び剛性が不当に高くなり或いは低くなることを阻止することができる。
【0028】
この場合、覆設体の固有振動数調整体は、冷却流体の流通路に位置するように前記筒状部材に取付けることが好ましい。
【0029】
このようにすれば、固有振動数調整体は、冷却流体の流通路つまり覆設体の内部に位置することになるため、覆設体の外方に突出することはなく、従って固有振動数調整体の存在により覆設体が部分的に大径となることによる設置上の不具合等が生じ難くなる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように本発明に係るトップロール装置によれば、駆動源の回転駆動力がノンバックラッシギヤ減速機の入力要素に直接伝達され、且つ当該ギヤ減速機の出力要素の回転駆動力がロール軸に直接伝達されることから、駆動源からロール軸に回転駆動力が伝達される間に、バクラッシによる影響を受ける余地がなくなる。しかも、ベルト伝達機構を併用した場合や、フリクションドライブ機構である場合のように、滑りの生じる余地がなくなる共に、減速機を介在させないダイレクトドライブ機構である場合のように、芯合わせ或いは結合の狂いによる影響も受け難くなる。この結果、トップロールに生じる回転変動を適切に小さくすることが可能となって、トップロールによるガラスリボンの幅方向への引っ張り動作が適正になされ、高品質のガラスリボン及びガラス板が得られることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0032】
先ず、図1に基づいて、本発明の実施形態に係るトップロール装置を使用してフロート法によりガラス板を製造する装置の概略構成を説明する。同図に示すように、このガラス板製造装置は、溶融スズを貯留すると共にその溶融スズの上面に溶融ガラスを浮かべて略均一な厚さに広がらせる役目を果たすフロートバスFと、このフロートバスFの下流側に配設された複数のレヤーロールRとを有し、フロートバスFの両側壁Faには、複数台のトップロール装置1がそれぞれ配設されている。そして、レヤーロールRの回転によって上記の溶融ガラスが引っ張られ、これによりガラスリボンGが形成されると共に、このガラスリボンGは、更にレヤーロールRで下流側に搬送され且つ冷却されることにより所定厚みのガラス板となる。
【0033】
この場合、図示例のように、プラズマディスプレイや液晶ディスプレイ用などの薄肉のガラス板を製造する際には、レヤーロールRの回転速度を高めてガラスリボンGの搬送方向に対する引延し率を大きくすると同時に、各トップロール装置1の先端にそれぞれ存するトップロール2により、ガラスリボンGが幅の広がる方向に引っ張られる。このような動作が行われている間は、各トップロール2は、回転駆動力を付与されてガラスリボンGの両側縁部の表面にそれぞれ接触した状態で回転する。
【0034】
次に、トップロール装置1の詳細構造を説明する。図2及び図3に示すように、トップロール2(ナールとも称される)は、ロール軸3の先端に固定されて該ロール軸3と一体回転可能とされると共に、その外周には三列で複数の歯2aが刻設されている。また、ロール軸3は、同軸上に相互隙間を介して配置された二本の筒体3a、3bから構成され、その長さは約4mとされると共に、その先端部3x及び後端部3yを除外した部位の外周側が、基台に対して固定された筒状の覆設体4により覆われている。この覆設体4の先端及び後端の内面には、ロール軸3を回転自在に支持する軸受(すべり軸受)5a、5bがそれぞれ配設されている。
【0035】
図4に示すように、覆設体4は、同軸上に配置された内筒4a、中間筒4b、及び外筒4cを有し、内筒4aと中間筒4bとの相互隙間が、冷却流体(冷却水)の流入口6aに通じる流入通路6とされると共に、外筒4cと中間筒4bとの相互隙間が、冷却流体の流出口7aに通じる帰還通路7とされている。そして、流入通路6と帰還通路7とは、各筒4a、4b、4cの先端側部位4xを通じて連通している。
【0036】
更に、図4及び図5に示すように、覆設体4の内筒4aと中間筒4bとの間(流入通路6)、及び外筒4cと中間筒4bとの間(帰還通路7)には、周方向の複数箇所(90°間隔毎)に固有振動数調整体8がそれぞれ等間隔おきに取付けられている。この固有振動数調整体8は、流入通路6及び帰還通路7を流れる冷却流体の流通を阻害しない程度の大きさとされている。そして、覆設体4は、固有振動数調整体8を有していることにより、トップロール2の回転に伴って生じる振動の振動周波数が、覆設体4の固有振動数の整数倍または略整数倍である共振領域に入らないように設定がなされている。
【0037】
而して、図2に示すように、トップロール装置1の後端部には、駆動源となるモータ(ACサーボモータ)9と、このモータ9の回転駆動力をトップロール2のロール軸3に伝達する駆動力伝達機構10とが配設されている。この駆動力伝達機構10は、モータ9からロール軸3の後端部に至る駆動力伝達経路に、ノンバックラッシギヤ減速機11を介在させてなる。
【0038】
詳述すると、このノンバックラッシギヤ減速機11は、図6に示すように、モータ9の駆動軸に直結または一体化される軸部12aを有するウォーム12と、ロール軸3に直結または一体化される軸部13aを有する回転体13とから構成される。この回転体13は、軸直角断面が円形を呈する基体13bの外周に、等間隔おきに配設され且つ径方向に延びる複数の軸13c廻りに回動自在に保持された複数のローラ13dを有する。そして、これらのローラ13dは、ウォーム12の螺旋状歯面12bに転がり接触し、詳しくはウォーム12の凸条12cの両側に存する2つの螺旋状歯面12bに2個のローラ13dが隙間なく挟持するように転がり接触している。尚、この実施形態で使用されるノンバックラッシギヤ減速機11は、ハイポイド減速機:HMTAO75−45H120PIK(株式会社椿本チエイン製)である。
【0039】
以上の構成を備えたトップロール装置1によれば、モータ9の回転駆動力は、ノンバックラッシギヤ減速機11の入力要素であるウォーム12に直接伝達されると共に、ウォーム12からバックラッシの影響を受けることなく回転体13に伝達された回転駆動力は、ロール軸3に直接伝達される。これにより、ロール軸3の先端のトップロール2が、フロートバスF内のガラスリボンGの側縁部表面に接触した状態で回転して、ガラスリボンGを幅が広がる方向に引っ張る。この場合、ガラスリボンGに接触しているトップロール2にモータ9からの回転駆動力が伝達されている間に、トップロール2の回転が,減速機11のバクラッシによる影響を受ける余地はなくなる。この結果、トップロール2に生じる回転変動が適切に小さくなり、トップロール2によるガラスリボンGの幅方向への引っ張り動作が適正になされて、高品質のガラスリボンGひいてはガラス板が得られる。
【0040】
一方、トップロール2がガラスリボンGに接触して回転する際には、トップロール2の外周面に複数の歯2aが刻設されていることに起因して、該トップロール2に振動が生じ、この振動は、ロール軸3から軸受5a、5bを通じて覆設体4に伝播される。尚、このトップロール2の振動の振動周波数は、トップロール2の歯2aの数と回転数とから概ね算出することでき、本発明者等によりその算出結果として得られた上記の振動周波数は、5〜23Hzであった。
【0041】
この場合、トップロール2の振動の振動周波数が、覆設体4の固有振動数と一致もしくは略一致し、或いはその整数倍もしくは略整数倍となった時には、共振が発生してトップロール2に不当な揺れが生じる。しかしながら、覆設体4には、固有振動数調整体8が付設されて、そのような共振が発生しないように構成されている。因みに、上記の固有振動数調整体8を有する覆設体4の固有振動数は、59Hzとされている。従って、トップロール2に生じる振動の振動周波数が上述のように5〜23Hzであることを勘案すれば、共振の発生は有り得ないことになる。この結果、トップロール2は、覆設体4の軸受5a、5bによって不当な揺れを生じることなく適正に支持され、トップロール2によるガラスリボンGに対する引っ張り動作が、一層良好なものとなる。しかも、覆設体4の強度及び剛性が適切となるようにその肉厚等を維持した上で、固有振動数調整体8の質量や配設位置が設定されているので、覆設体4の不当な重量増や強度及び剛性の不当な低下等を招くことはない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るトップロール装置は、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ等の各種画像表示機器用のガラスパネルの製作に用いられるガラス板や、各種電子表示機能素子や薄膜を形成するための基材として用いられるガラス板、或いは建造物用の窓ガラスとして用いられるガラス板などのフロート法による製造工程で使用されるのが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係るトップロール装置を使用してフロート法によりガラス板を製造する装置を示す概略平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るトップロール装置を示す平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るトップロール装置を示す縦断側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るトップロール装置の要部を示す縦断側面図である。
【図5】図4のI−I線にしたがって切断した断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るトップロール装置の構成要素であるノンバックラッシギヤ減速機を示す概略図である。
【符号の説明】
【0044】
1 トップロール装置
2 トップロール
3 ロール軸
4 覆設体
6 流入通路(冷却流体の流通路)
7 帰還通路(冷却流体の流通路)
8 固有振動数調整体
9 モータ(駆動源)
10 駆動力伝達機構
11 ノンバックラッシギヤ減速機
12 ウォーム(入力要素)
13 回転体(出力要素)
13d 回転体のローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロートバス内で溶融スズ上に溶融ガラスを浮かせて形成されるガラスリボンの側縁部表面に接触して回転するトップロールと、該トップロールが先端に一体回転可能に取付けられたロール軸と、該ロール軸に駆動源からの回転駆動力を伝達する駆動力伝達機構とを備えたトップロール装置において、
前記駆動力伝達機構は、ノンバックラッシギヤ減速機を有すると共に、前記駆動源の回転駆動力が前記ノンバックラッシギヤ減速機の入力要素に直接伝達され、且つ該ノンバックラッシギヤ減速機の出力要素の回転駆動力が前記ロール軸に直接伝達されるように構成したことを特徴とするトップロール装置。
【請求項2】
前記ノンバックラッシギヤ減速機は、その入力要素が、ウォームからなると共に、その出力要素が、前記ウォームの螺旋状歯面に転がり接触する複数のローラを周方向に等間隔おきに有する回転体からなることを特徴とする請求項1に記載のトップロール装置。
【請求項3】
前記ロール軸の外周は、軸受を有する筒状の覆設体で覆われていることを特徴とする請求項1または2に記載のトップロール装置。
【請求項4】
前記覆設体は、冷却流体の流通路を形成する少なくとも3つの筒状部材を備えていることを特徴とする請求項3に記載のトップロール装置。
【請求項5】
前記覆設体は、前記トップロールの回転に伴って生じる振動の振動周波数が該覆設体の固有振動数の整数倍または略整数倍である共振領域に入らないようにするための固有振動数調整体を有していることを特徴とする請求項4に記載のトップロール装置。
【請求項6】
前記覆設体の固有振動数調整体は、前記冷却流体の流通路に位置するように前記筒状部材に取付けられていることを特徴とするトップロール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−176354(P2006−176354A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369840(P2004−369840)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】