説明

トラバースガイド

【課題】単糸切れを抑制し、後工程での解舒の際にリングの発生を防止して、ダメージが少ない繊維を巻き上げることができるトラバースガイドトラバースガイドを提供する。
【解決手段】合成繊維の糸条を巻き上げるワインダーのトラバースガイド1であって、少なくとも糸条を導入するための切欠き2を有する糸条通過孔3が形成されており、この糸条通過孔3の断面形状が略楕円であり、糸条通過孔3の正面において、切欠きの最上部を繋ぐ線(a)と、その中心から引いた法線(b)が交わる点(c)から、切欠きに対して引いた接線(d)と、前記法線(b)とがなす角度(x)が30度〜60度であることを特徴とするトラバースガイド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワインダーにより合成繊維糸条を巻き上げる際に使用するトラバースガイドの改良に関するものである。さらに詳しくは、単糸切れを抑制し、ダメージが少ない繊維を巻き上げることができるトラバースガイドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維糸条は、その高い強力を利用し、産業用資材用途を中心に、幅広く使用されてきた。
【0003】
そして、一般にこれらの合成繊維糸条は、ワインダーを使用することにより、紙・プラスチック等の筒に巻き上げられている。
【0004】
このワインダーに使用されるトラバースガイドは、糸条にダメージを与えることなく巻き上げる形状をしていることが重要であり、例えばアラミド繊維を巻き上げるために使用するトラバースガイドとしては、少なくとも糸条を導入するための切欠きを有する糸条通過孔が形成されており、その糸条通過孔の断面形状が略楕円であり、かつ糸条通過孔の内壁が糸条走行方向に対して凸状曲面を呈しているトラバースガイド(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【0005】
しかしながら、このトラバースガイドは、収束性が向上し操業性の向上が見られるものの、高次加工時において、わずかに発生していた単糸切れの糸束がボビンから解舒されず、輪(リング)になり、繊維をボビンから解舒することを妨げるという現象が見られるという問題があった。つまり、高次加工時での操業性はいまだに悪く、改善の余地が残されていたのである。
【特許文献1】特開2000−128431
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述し従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0007】
したがって本発明の目的は、単糸切れを抑制し、後工程での解舒の際にリングの発生を防止して、ダメージが少ない繊維を巻き上げることができるトラバースガイドトラバースガイドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明によれば、合成繊維の糸条を巻き上げるワインダーのトラバースガイドであって、少なくとも糸条を導入するための切欠きを有する糸条通過孔が形成されており、この糸条通過孔の断面形状が略楕円であり、糸条通過孔の正面において、切欠きの最上部を繋ぐ線(a)と、その中心から引いた法線(b)が交わる点(c)から、切欠きに対して引いた接線(d)と、前記法線(b)とがなす角度(x)が30度〜60度であることを特徴とするトラバースガイドが提供される。
【0009】
なお、本発明のトラバースガイドにおいては、
糸条導入のための切欠きの幅(e)と糸条通過孔の長径(f)との比が1:2〜3:5であること、
糸条通過孔の長径(f)と短径(g)の比が2:1〜5:3であること、
糸条通過孔の略楕円の長径(f)の方向が、切欠きの最上部を繋ぐ線(a)と同方向であること、
トラバースガイド本体の材質がセラミックスであること、および
アラミド繊維を巻き上げるために使用すること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するとおり、単糸切れを抑制し、後工程での解舒の際にリングの発生を防止して、ダメージが少ない繊維を巻き上げることができるトラバースガイドトラバースガイドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図面を参照しつつ本発明を詳述する。
【0012】
図1は本発明のトラバースガイドの一例を示す正面図、図2は図1の糸条通過孔の拡大正面図を示すものである。
【0013】
図1に示したように、本発明のトラバースガイド1は平板状で、中央に糸条通過孔2が平板を貫通して形成されている。また、この糸条通過孔2には糸条導入のための切欠き3が形成されており、この切欠き3も平板を貫通している。
【0014】
糸条通過孔2の断面形状は楕円形であり、この糸状通過孔2の正面においては、切欠き3の最上部を繋ぐ線(a)と、その中心から引いた法線(b)が交わる点(c)から、切欠き3に対して引いた接線(d)と、前記法線(b)とがなす角度(x)が30度〜60度、特に40度〜60度となっていることが重要である。
【0015】
この角度(x)は、30度〜60度の範囲であって、なかでも繊度に応じて角度が大きいほうが望ましく、30度以上になると、糸条通過孔内に糸状が把持されやすくなり、さらに40度以上になると、繊度の大きな糸にも効果が現れ始め、44.4度になると、8000dtexの太物に対しても大きな効果が発現する。これにより、単糸切れ、ひいてはリング発生の抑制力が飛躍的に向上するのである。
【0016】
なお、角度(x)が60度を超えた場合は、トラバースガイドの形状自体を保てなくなるか、もしくは形状保持のためにガイド自体が巨大化してしまい、本来の目的への使用が困難になることから好ましくない。
【0017】
また、糸条導入のための切欠きの幅(e)と糸条通過孔の長径(f)との比は1:2〜3:5の範囲で選ばれるのが望ましい。切欠きの幅(e)がこの範囲を外れて長い(広い)と、糸条の把持が不完全で走行中に飛び出す可能性があり、また短すぎる(狭い)と、糸掛けが困難となり作業性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0018】
さらに、糸条通過孔の長径(f)と短径(g)の比は2:1〜5:3の範囲で選ばれるのが望ましい。この比を外れて長径が長すぎると、糸条が糸条通過孔内に把持されにくく、切欠きから外に飛び出す可能性があり、逆に短径が長すぎると、走行糸条が安定せず、繊維束に乱れが生ずる可能性があるため好ましくない。
【0019】
さらにまた、糸条通過孔3の略楕円の長径(f)の方向が、切欠き2の最上部を繋ぐ線(a)と同方向であることが望ましい。長軸が法線(b)と同方向であった場合は、糸条が糸条通過孔3内に把持されにくく、切欠き2から外に飛び出す可能性があるため好ましくない。
【0020】
本発明のトラバースガイドの材質は、金属でもよいが、好ましくはセラミックスである。本発明のトラバースガイドを適用する合成繊維は特に限定されないが、短糸切れによる毛羽が立ち易いアラミド繊維に適用することが最も効果的である。
【0021】
なお、本発明のトラバースガイドは、通常ホルダーに取り付けられ、走行する糸条を切欠きから導入して糸条通過孔内で把持しながら、往復移動させることによって、ワインダー軸上のボビンに均一に糸条を捲回させるガイドとして用いられる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0023】
[実施例1〜2、比較例1〜2]
セラミック製で、表1に示す角度(x)を有する4種のトラバースガイドを用いて、アラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製“ケブラー”)を巻取り、横取り解舒試験を行った。
【0024】
各データの水準数はn=30であり、各水準でのリング発生割合を表2にまとめた。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表2に示すとおり、角度(x)の増大に比例してリングの発生率が下がっていることが実証された。
【0028】
つまり、本発明のトラバースガイドによれば、単糸切れが抑制されていると共に、解舒性も飛躍的に向上した結果となった。すなわち、角度(x)が28度(比較例2)においては、各繊度に対しリング発生を抑制する効果が出始めるが、未だに完全とは言えないものの、44.4度(実施例2)になると、8000dtexまでのすべての繊度に対し、リング発生率が0%となった。
【0029】
また、角度(x)が60度を超えると、トラバースガイドの形状自体が保てなくなることから、60度までは同等の効果が期待できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のトラバースガイドは、単糸切れを抑制し、後工程での解舒の際にリングの発生を防止して、ダメージが少ない繊維を巻き上げることができることから、特に短糸切れによる毛羽が立ち易いアラミド繊維に適用すると効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のトラバースガイドの一例を示す平面図である。
【図2】図1の糸条通過孔の拡大正面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 トラバースガイド
2 切欠き
3 糸条通過孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維の糸条を巻き上げるワインダーのトラバースガイドであって、少なくとも糸条を導入するための切欠きを有する糸条通過孔が形成されており、この糸条通過孔の断面形状が略楕円であり、糸条通過孔の正面において、切欠きの最上部を繋ぐ線(a)と、その中心から引いた法線(b)が交わる点(c)から、切欠きに対して引いた接線(d)と、前記法線(b)とがなす角度(x)が30度〜60度であることを特徴とするトラバースガイド。
【請求項2】
糸条導入のための切欠きの幅(e)と糸条通過孔の長径(f)との比が1:2〜3:5であることを特徴とする請求項1記載のトラバースガイド。
【請求項3】
糸条通過孔の長径(f)と短径(g)の比が2:1〜5:3であることを特徴とする請求項1または2記載のトラバースガイド。
【請求項4】
糸条通過孔の略楕円の長径(f)の方向が、切欠きの最上部を繋ぐ線(a)と同方向であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のトラバースガイド。
【請求項5】
トラバースガイド本体の材質がセラミックスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のトラバースガイド。
【請求項6】
アラミド繊維を巻き上げるために使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のトラバースガイド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−265972(P2008−265972A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112720(P2007−112720)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】