トランジスタ圧電発振器
【課題】発振回路の発振用トランジスタのコレクタ電流を低電流化しても安定した発振特性が得られると共に、接地ラインや電源ラインに雑音が重畳しても悪影響を受けないトランジスタ圧電発振器を提供することを目的とする。
【解決手段】トランジスタ圧電発振器1は、発振用トランジスタTR1を備えており、発振用トランジスタTR1のベース−コレクタ間に圧電振動子X1とバイアス抵抗RBとを並列に接続し、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間にコンデンサC2を接続し、発振用トランジスタTR1のコレクタ−エミッタ間にコンデンサC3を接続している。また、発振用トランジスタTR1のコレクタと電源(Vcc)間には、抵抗R2を接続し、電源と接地(GND)間には、バイパス用のコンデンサC4を接続し、発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間には、抵抗R3を接続している。
【解決手段】トランジスタ圧電発振器1は、発振用トランジスタTR1を備えており、発振用トランジスタTR1のベース−コレクタ間に圧電振動子X1とバイアス抵抗RBとを並列に接続し、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間にコンデンサC2を接続し、発振用トランジスタTR1のコレクタ−エミッタ間にコンデンサC3を接続している。また、発振用トランジスタTR1のコレクタと電源(Vcc)間には、抵抗R2を接続し、電源と接地(GND)間には、バイパス用のコンデンサC4を接続し、発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間には、抵抗R3を接続している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトランジスタ圧電発振器に関し、特に発振用トランジスタのコレクタ電流の低電流化を図ると共に、電源ラインや接地ラインからの雑音の影響を受け難い発振回路を有するトランジスタ圧電発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
安定した周波数信号を供給する圧電発振器は、移動体通信の移動局や基地局の基準発振器として、また、コンピュータなどの基準クロック源として広く使用されている。
図7は、従来のトランジスタ圧電発振器の回路構成図である。
トランジスタ圧電発振器11は、コルピッツ発振回路を構成しており、発振用トランジスタTR1のベースと接地(GND)間に負荷容量の一部となるコンデンサC12とコンデンサC13との直列回路を接続し、この直列回路の接続中点と発振用トランジスタTR1のエミッタとを接続すると共に、発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間にエミッタ抵抗R13を接続している。また、発振用トランジスタTR1のコレクタには、電源(Vcc)との間にコレクタ抵抗R14を接続すると共に、電源と接地間にバイパス用のコンデンサC14を接続し、発振用トランジスタTR1のベースに抵抗RB11、及び抵抗RB12とから成るベースバイアス回路を接続している。更に、発振用トランジスタTR1のベースと接地間に圧電振動子X1を接続し、発振用トランジスタTR1のコレクタに直流カット用のコンデンサC15を接続してコンデンサC15の他端をトランジスタ圧電発振器11の出力(OUT)とするよう構成したものである。
また従来のトランジスタ圧電発振器としては、他に発振用トランジスタを2個カスケードに接続して使用したものがある。
【0003】
図8は、従来のトランジスタ圧電発振器の他の回路構成図である。トランジスタ圧電発振器12は、発振用トランジスタTR1と発振用トランジスタTR2とをカスケード接続したコルピッツ発振回路を構成している。図8が図7と異なる点は、ベース接地された発振用トランジスタTR2を発振用トランジスタTR1とカスケードに接続し、それぞれの発振用トランジスタのベースに、抵抗RB11、抵抗RB12、及び抵抗RB13からなるベースバイアス回路を接続した点である。
【0004】
次に、トランジスタ圧電発振器11の等価発振回路を図示して発振動作について説明する。
図9は、従来のトランジスタ圧電発振器の等価発振回路を示す図である。なお、等価発振回路は、図7及び図8に示した従来のトランジスタ圧電発振器において同様である。ここで、圧電振動子X1のインピーダンスをzxtとして、インピーダンスzxtとバイアス抵抗RBとの並列回路のインピーダンスをz11とし、トランジスタのベース−エミッタ間キャパシタンスをCπ、ベース−エミッタ間抵抗をRπとして、キャパシタンスCπと抵抗RπとコンデンサC12との並列回路のインピーダンスをz12とし、抵抗R13とC13の並列回路のインピーダンスをz13とする。そして、インピーダンスz11とインピーダンスz12に流れる電流をi11とし、インピーダンスz13に流れる電流をi13とする。また、トランジスタの定電流源をgm×z12×i11とすると、キルヒホッフの法則より(1)式が得られる。
次に、(1)式よりi13を消去し、発振条件であるi11≠0を当てはめると(2)式が得られる。
【0005】
また、インピーダンスz11、z12、及びz13は、(3)式のように表すことができる。但し、(3)式中のr12、c12、r13、及びc13は、(4)式とする。
【0006】
次に、圧電振動子X1のモーションアーム(インダクタンスL1、キャパシタンスC1、抵抗R1)のインピーダンスをzMとし、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0を発振回路側に含め、zM側から発振回路側を見た合成等価回路抵抗をRcci、合成等価回路キャパシタンスをCcciとする。そして、(3)式を(2)式に代入すると(5)式が得られる。但し、等価回路抵抗Rciと等価回路キャパシタンスCciは、(6)式とする。なお、(6)式中の等価回路抵抗Rciと等価回路キャパシタンスCciは、それぞれ等価回路抵抗と等価回路キャパシタンスを示し、圧電振動子X1の端子間並列容量C0を発振回路側に含めない場合の関係式である。
なお、図10に、等価回路抵抗Rci及び等価回路キャパシタンスCciと、合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciの関係を示す。
【0007】
次に、得られた関係式を用いて、従来のトランジスタ圧電発振器の発振特性に関するシミュレーションを行い、図11、及び図12にその結果を示す。
図11は、従来のトランジスタ圧電発振器の等価回路抵抗Rci、合成等価回路抵抗Rcci、及び等価回路キャパシタンスCci、合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。図11において、コンデンサC12、C13はともに30pFとし、抵抗R13は2kΩ、抵抗RBは20kΩ、ベース−エミッタ間キャパシタンスCπは3.8pF、ベース−エミッタ間抵抗Rπは2.6kΩ、トランジスタTR1の相互コンダクタンスgmは38mA/V、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pFとしている。図11に示すように、等価回路抵抗Rciは、周波数Freq≒10MHzにおいて負性抵抗の最大値なるRci≒−9kΩを示し、そのとき、等価回路キャパシタンスCciは、Cci≒1pFを示す。一方、合成等価回路抵抗Rcciは、周波数Freq≒15MHzにおいて負性抵抗の最大値なるRcci≒−1.5kΩを示し、そのとき、合成等価回路キャパシタンスCcciは、Ccci≒4pFを示す。
従って、発振回路において得られる負性抵抗値は、圧電振動子X1の端子間並列容量C0を発振回路側に含めるかどうかにより変化することがわかる。
【0008】
図12は、従来のトランジスタ圧電発振器の合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciとトランジスタのコレクタ電流Icとの関係を示すグラフ図である。図12において、コンデンサC12、C13はともに30pFとし、抵抗R13は2kΩ、抵抗RBは20kΩ、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pF、電流増幅率hfeは100、τFは、0.1nsecとする。また、トランジスタTR1に関するパラメータは、(7)式に従い近似する。
図12に示すように、コレクタ電流IcがIc≒0.6mAで合成等価回路抵抗Rcciは、負性抵抗の最大値となるRcci≒−2kΩを示す。また、合成等価回路抵抗Rcciは、コレクタ電流IcがIc≒0.02mA〜3.5mAの範囲で負性抵抗を示し、トランジスタ圧電発振器は発振する。
以上、従来のトランジスタ圧電発振器について説明したが、これらの内容の基本的な動作については、非特許文献1に解説されている。
また、コルピッツ型の発振回路を使用した従来例は、特許文献1に開示されており、単一の回路構成で広い周波数範囲において回路定数を最適化した発振回路を構成することができる水晶発振器を提供することを目的としている。
【特許文献1】特開平06−140838号公報
【非特許文献1】トランジスタ技術オリジナルNo8 Page90 コルピッツ型水晶発振回路「CQ出版社」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のトランジスタ圧電発振器は、発振用トランジスタのコレクタ電流を変化させた際に、発振回路が発振する電流範囲が狭く、コレクタ電流が低電流の領域で発振回路の負性抵抗の減少が大きい。
例えば、図12に示したように、従来のトランジスタ圧電発振器の発振回路の合成等価回路抵抗Rcciは、コレクタ電流IcがIc≒0.02mA〜3.5mAの範囲で負性抵抗を示し、そのコレクタ電流の範囲でトランジスタ圧電発振器は発振する。従って、コレクタ電流が0.02mA以下となると、発振回路は発振を停止してしまい、更なるトランジスタ圧電発振器の低消費電流化が困難である。
【0010】
また、従来のトランジスタ圧電発振器は、発振回路の発振ループが発振用トランジスタTR1のベースと接地間に接続された圧電振動子X1、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間に接続されたコンデンサC12、及び発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間に接続されたコンデンサC13と抵抗R13の並列回路からなる。従って、発振回路の発振ループが接地ラインを含んでいるため、接地ラインに雑音が重畳されると発振回路に悪影響を与え、トランジスタ圧電発振器の発振特性が劣化するという問題があった。
本発明は、上述したような問題を解決するためになされたものであって、発振回路の発振用トランジスタのコレクタ電流を低電流化しても安定した発振特性が得られると共に、接地ラインに雑音が重畳しても悪影響を受けないトランジスタ圧電発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係るトランジスタ圧電発振器は、圧電振動子を励振させる発振用トランジスタを備えたトランジスタ圧電発振器であって、前記発振用トランジスタのベース−コレクタ間に接続した前記圧電振動子と、前記発振用トランジスタのコレクタと電源間に接続した第1の抵抗と、前記発振用トランジスタのエミッタと接地間に接続した第2の抵抗と、前記発振用トランジスタのベース−エミッタ間に接続した第1のコンデンサと、前記発振用トランジスタのコレクタ−エミッタ間に接続した第2のコンデンサと、を備えたことを特徴としている。
このような本発明のトランジスタ圧電発振器によれば、上述したような発振回路を構成することにより、トランジスタ圧電発振器の発振用トランジスタのコレクタ電流を低電流化することができ、従って、トランジスタ圧電発振器の低消費電力化が可能となると共に、発振回路の設計の自由度が向上した。また、発振回路のメインの発振ループに接地ラインが含まれないので、接地ラインに重畳される雑音の影響を受け難くなり、トランジスタ圧電発振器の雑音特性が向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の回路構成図である。トランジスタ圧電発振器1は、発振用トランジスタTR1を備えており、発振用トランジスタTR1のベース−コレクタ間に圧電振動子X1とバイアス抵抗RBとを並列に接続し、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間にコンデンサ(第1のコンデンサ)C2を接続し、発振用トランジスタTR1のコレクタ−エミッタ間にコンデンサ(第2のコンデンサ)C3を接続している。また、発振用トランジスタTR1のコレクタと電源(Vcc)間には、抵抗(第1の抵抗)R2を接続し、電源と接地(GND)間には、バイパス用のコンデンサC4を接続し、発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間には、抵抗(第2の抵抗)R3を接続している。そして、発振用トランジスタTR1のコレクタに直流カット用のコンデンサC5を接続し、コンデンサC5の他端をトランジスタ圧電発振器1の出力(OUT)としている。
【0013】
このように構成したトランジスタ圧電発振器1は、発振回路の周波数特性を決定するメインの発振ループが、発振用トランジスタTR1のベース−コレクタ間に接続された圧電振動子X1と抵抗RB、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間に接続されたコンデンサC2、及び発振用トランジスタTR1のコレクタ−エミッタ間に接続されたコンデンサC3からなる。従って、メインの発振ループが、直接接地ラインや電源ラインと接続されていないため、接地ラインや電源ラインに雑音が重畳されても発振回路の発振特性に悪影響を及ぼすことを低減した。また、発振回路の負性抵抗の特性に大きな影響を与えるサブの発振ループは、発振用トランジスタTR1のコレクタと電源間に挿入されている抵抗R2、発振用トランジスタTR1のコレクタ−エミッタ間に接続されているコンデンサC3、及び発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間に挿入されている抵抗R3からなり、その特性は後述するが、発振用トランジスタTR1のコレクタ電流の低電流化を実現する。
【0014】
次に、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の発振特性について説明する。
図2は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の等価発振回路図である。
ここで、圧電振動子X1(zxt)とバイアス抵抗RBとの並列回路のインピーダンスをz1、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間キャパシタンスCπとベース−エミッタ間抵抗RπとコンデンサC2の並列回路のインピーダンスをz2、コンデンサC3のインピーダンスをz3とする。また抵抗R2のインピーダンスをz4、抵抗R3のインピーダンスをz5、発振用トランジスタTR1の定電流源をgm×z2×i2とする。そして、インピーダンスz1とz2に流れる電流をi2、インピーダンスz3に流れる電流をi3、インピーダンスz4に流れる電流をi4、インピーダンスz5に流れる電流をi5とする。
【0015】
図2に示した等価発振回路にキルヒホッフの法則を適用すると、(8)式が得られる。
次に、(8)式を展開すると、発振回路が発振するインピーダンス条件である(9)式を得る。
また、インピーダンスz1、z2、z3、z4、及びz5は、(10)式のように表すことができる。但し、(10)式中のr2、及びc2は、(11)式とする。
【0016】
次に、(10)式を(9)式に代入する。そして、図10に示すように、圧電振動子X1のモーションアーム(インダクタンスL1、キャパシタンスC1、抵抗R1)のインピーダンスをzMとし、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0を発振回路側に含め、zM側から発振回路側を見た合成等価回路抵抗をRcci、合成等価回路キャパシタンスをCcciとすると、(12)式が得られる。また、合成等価回路抵抗Rcciと合成等価回路キャパシタンスCcciは、(13)式とする。
なお、(13)式中のRci、Cci、Rc、及びCcは、(14)式とする。ここで、Rciは等価回路抵抗を示し、Cciは等価回路キャパシタンスを示し、抵抗RBを発振回路側に含めて、圧電振動子X1より発振回路側を見た関係式である。
【0017】
次に、得られた関係式を用いて、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の発振特性に関するシミュレーションを行い、図3、図4、図5、及び図6にその結果を示す。
図3は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、等価回路抵抗Rci、合成等価回路抵抗Rcciと等価回路キャパシタンスCci、合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。
図3において、コンデンサC2、C3はともに30pFとし、抵抗R2、R3はともに5kΩ、抵抗RBは30kΩ、ベース−エミッタ間キャパシタンスCπは3.8pF、ベース−エミッタ間抵抗Rπは2.6kΩ、トランジスタTR1の相互コンダクタンスgmは38mA/V、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pFとする。図3に示すように、等価回路抵抗Rciは、周波数FreqがFreq≒6.2MHzにおいて、負性抵抗が最大値となるRci≒−40kΩを示し、そのとき等価回路キャパシタンスCciは、Cci≒0.4pFを得る。
また、合成等価回路抵抗Rcciは、周波数FreqがFreq≒10MHzにおいて、負性抵抗が最大値となるRcci≒−2.3kΩを示し、そのとき等価回路キャパシタンスCcciは、Ccci≒3pFを得る。
【0018】
図4は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcciと合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。図4において、コンデンサC2、C3はともに30pFとし、抵抗RBは30kΩ、ベース−エミッタ間キャパシタンスCπは3.8pF、ベース−エミッタ間抵抗Rπは2.6kΩ、トランジスタTR1の相互コンダクタンスgmは38mA/V、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pFとする。
図4に示すように、抵抗R2、R3を変化させると、合成等価回路抵抗Rcciは、周波数Freqが約5MHz以下の低周波側においてその特性に差が出るが、合成等価回路抵抗Rcciが負性抵抗を示す約5MHz以上の周波数範囲においては、抵抗R2、R3の変化に対して合成等価回路抵抗Rcciの特性は差が出ていない。
【0019】
また、合成等価回路抵抗Rcciは、周波数Freqが周波数Freq≒10MHzにおいて、負性抵抗が最大値となるRcci≒−2.3kΩを示している。また、一方、合成等価回路キャパシタンスCcciは、抵抗R2、R3を変化させると、周波数Freqが約5MHz以下の低周波側においてその特性に多少の差が出るが、合成等価回路抵抗Rcciが負性抵抗を示す約5MHz以上の周波数範囲においては、ほとんど差が見られない。
従って、これらの特性より分かることは、合成等価回路抵抗Rcciが負性抵抗を示す周波数範囲においては、抵抗R2、R3の値を大きくしてもトランジスタ圧電発振器の発振特性に影響を与えないということである。即ち、発振回路の特性は、前述したメインの発振ループにより決定されるので、抵抗R2、R3の値を大きくすることにより、メインの発振ループが、接地ラインや電源ラインより絶縁され、接地ラインや電源ラインに重畳される雑音の影響を受け難くなる。そして、それに伴いトランジスタ圧電発振器は、雑音特性の向上が図られる。
【0020】
図5は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icの関係を示すグラフ図である。図5は、従来のトランジスタ圧電発振器の特性も併記した。図5において、周波数Freqは10MHzとし、コンデンサC2、C3はともに30pF、抵抗RBは30kΩ、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pF、トランジスタの電流増幅率hfeは100、τFは0.1nsecとする。また、従来の特性は、抵抗R13が2kΩとする。図5に示すように、従来のトランジスタ圧電発振器の合成等価回路抵抗Rcciは、負性抵抗を示すコレクタ電流Icの範囲が約0.02mA<Ic<3.5mAであるのに対して、本発明によるトランジスタ圧電発振器の合成等価回路抵抗Rcciは、負性抵抗を示すコレクタ電流Icの範囲が約0.003mA<Icである。従って、本発明によるトランジスタ圧電発振器の発振回路は、コレクタ電流Icが低電流から大電流まで発振可能となることが分かる。
また、合成等価回路キャパシタンスCcciは、従来のトランジスタ圧電発振器、及び本発明のトランジスタ圧電発振器ともにほぼ同等の特性を有している。
【0021】
図6は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icの関係を示すグラフ図である。図6において、圧電振動子の等価直列抵抗R1をR1=30Ωと仮定し、周波数Freqは10MHzとし、コンデンサC2、C3はともに30pF、抵抗RBは30kΩ、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pF、トランジスタの電流増幅率hfeは100、τFは0.1nsecとする。また、従来の特性は、抵抗R13が2kΩとする。図6に示すように、トランジスタ圧電発振器の発振条件として、合成等価回路抵抗Rcciの負性抵抗値が|−Rcci|>30Ω以上必要であるとすると、従来のトランジスタ圧電発振器は、これを満足するコレクタ電流Icの範囲は、0.02mA<Ic<3mAである。一方、本発明のトランジスタ圧電発振器は、合成等価回路抵抗Rcciの負性抵抗値が|−Rcci|>30Ωを満足するコレクタ電流Icの範囲は、0.004mA<Icであり、明らかに本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器が、コレクタ電流Icの低電流領域から発振可能であるかが分かる。
【0022】
以上、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の発振特性について説明したが、本発明のように発振回路を構成することにより、トランジスタ圧電発振器に備えた発振用トランジスタのコレクタ電流を低電流化することができ、トランジスタ圧電発振器の低消費電力化が可能となると共に、発振回路の設計の自由度が向上した。また、発振回路のメインの発振ループに接地ラインや電源ラインが含まれないので、トランジスタ圧電発振器の雑音特性が向上した。
なお、本実施形態においては、発振用トランジスタとして、NPNタイプのトランジスタを用いて説明したが、これをPNPタイプのトランジスタとすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の回路構成図である。
【図2】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の等価発振回路図である。
【図3】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、等価回路抵抗Rci、合成等価回路抵抗Rcciと等価回路キャパシタンスCci、合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。
【図4】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcciと合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。
【図5】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icの関係を示すグラフ図である。
【図6】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icの関係を示すグラフ図である。
【図7】従来のトランジスタ圧電発振器の回路構成図である。
【図8】従来のトランジスタ圧電発振器の他の回路構成図である。
【図9】従来のトランジスタ圧電発振器の等価発振回路を示す図である。
【図10】等価回路抵抗Rci及び等価回路キャパシタンスCciと、合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciの関係を示す図である。
【図11】従来のトランジスタ圧電発振器の等価回路抵抗Rci、合成等価回路抵抗Rcci、及び等価回路キャパシタンスCci、合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。
【図12】従来のトランジスタ圧電発振器の合成等価回路抵抗Rcci、及び合成等価回路キャパシタンスCcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icとの関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0024】
1…トランジスタ圧電発振器、C2、C3、C4、C5…コンデンサ、R2、R3、RB…抵抗、TR1…トランジスタ、X1…圧電振動子
【技術分野】
【0001】
本発明はトランジスタ圧電発振器に関し、特に発振用トランジスタのコレクタ電流の低電流化を図ると共に、電源ラインや接地ラインからの雑音の影響を受け難い発振回路を有するトランジスタ圧電発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
安定した周波数信号を供給する圧電発振器は、移動体通信の移動局や基地局の基準発振器として、また、コンピュータなどの基準クロック源として広く使用されている。
図7は、従来のトランジスタ圧電発振器の回路構成図である。
トランジスタ圧電発振器11は、コルピッツ発振回路を構成しており、発振用トランジスタTR1のベースと接地(GND)間に負荷容量の一部となるコンデンサC12とコンデンサC13との直列回路を接続し、この直列回路の接続中点と発振用トランジスタTR1のエミッタとを接続すると共に、発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間にエミッタ抵抗R13を接続している。また、発振用トランジスタTR1のコレクタには、電源(Vcc)との間にコレクタ抵抗R14を接続すると共に、電源と接地間にバイパス用のコンデンサC14を接続し、発振用トランジスタTR1のベースに抵抗RB11、及び抵抗RB12とから成るベースバイアス回路を接続している。更に、発振用トランジスタTR1のベースと接地間に圧電振動子X1を接続し、発振用トランジスタTR1のコレクタに直流カット用のコンデンサC15を接続してコンデンサC15の他端をトランジスタ圧電発振器11の出力(OUT)とするよう構成したものである。
また従来のトランジスタ圧電発振器としては、他に発振用トランジスタを2個カスケードに接続して使用したものがある。
【0003】
図8は、従来のトランジスタ圧電発振器の他の回路構成図である。トランジスタ圧電発振器12は、発振用トランジスタTR1と発振用トランジスタTR2とをカスケード接続したコルピッツ発振回路を構成している。図8が図7と異なる点は、ベース接地された発振用トランジスタTR2を発振用トランジスタTR1とカスケードに接続し、それぞれの発振用トランジスタのベースに、抵抗RB11、抵抗RB12、及び抵抗RB13からなるベースバイアス回路を接続した点である。
【0004】
次に、トランジスタ圧電発振器11の等価発振回路を図示して発振動作について説明する。
図9は、従来のトランジスタ圧電発振器の等価発振回路を示す図である。なお、等価発振回路は、図7及び図8に示した従来のトランジスタ圧電発振器において同様である。ここで、圧電振動子X1のインピーダンスをzxtとして、インピーダンスzxtとバイアス抵抗RBとの並列回路のインピーダンスをz11とし、トランジスタのベース−エミッタ間キャパシタンスをCπ、ベース−エミッタ間抵抗をRπとして、キャパシタンスCπと抵抗RπとコンデンサC12との並列回路のインピーダンスをz12とし、抵抗R13とC13の並列回路のインピーダンスをz13とする。そして、インピーダンスz11とインピーダンスz12に流れる電流をi11とし、インピーダンスz13に流れる電流をi13とする。また、トランジスタの定電流源をgm×z12×i11とすると、キルヒホッフの法則より(1)式が得られる。
次に、(1)式よりi13を消去し、発振条件であるi11≠0を当てはめると(2)式が得られる。
【0005】
また、インピーダンスz11、z12、及びz13は、(3)式のように表すことができる。但し、(3)式中のr12、c12、r13、及びc13は、(4)式とする。
【0006】
次に、圧電振動子X1のモーションアーム(インダクタンスL1、キャパシタンスC1、抵抗R1)のインピーダンスをzMとし、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0を発振回路側に含め、zM側から発振回路側を見た合成等価回路抵抗をRcci、合成等価回路キャパシタンスをCcciとする。そして、(3)式を(2)式に代入すると(5)式が得られる。但し、等価回路抵抗Rciと等価回路キャパシタンスCciは、(6)式とする。なお、(6)式中の等価回路抵抗Rciと等価回路キャパシタンスCciは、それぞれ等価回路抵抗と等価回路キャパシタンスを示し、圧電振動子X1の端子間並列容量C0を発振回路側に含めない場合の関係式である。
なお、図10に、等価回路抵抗Rci及び等価回路キャパシタンスCciと、合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciの関係を示す。
【0007】
次に、得られた関係式を用いて、従来のトランジスタ圧電発振器の発振特性に関するシミュレーションを行い、図11、及び図12にその結果を示す。
図11は、従来のトランジスタ圧電発振器の等価回路抵抗Rci、合成等価回路抵抗Rcci、及び等価回路キャパシタンスCci、合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。図11において、コンデンサC12、C13はともに30pFとし、抵抗R13は2kΩ、抵抗RBは20kΩ、ベース−エミッタ間キャパシタンスCπは3.8pF、ベース−エミッタ間抵抗Rπは2.6kΩ、トランジスタTR1の相互コンダクタンスgmは38mA/V、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pFとしている。図11に示すように、等価回路抵抗Rciは、周波数Freq≒10MHzにおいて負性抵抗の最大値なるRci≒−9kΩを示し、そのとき、等価回路キャパシタンスCciは、Cci≒1pFを示す。一方、合成等価回路抵抗Rcciは、周波数Freq≒15MHzにおいて負性抵抗の最大値なるRcci≒−1.5kΩを示し、そのとき、合成等価回路キャパシタンスCcciは、Ccci≒4pFを示す。
従って、発振回路において得られる負性抵抗値は、圧電振動子X1の端子間並列容量C0を発振回路側に含めるかどうかにより変化することがわかる。
【0008】
図12は、従来のトランジスタ圧電発振器の合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciとトランジスタのコレクタ電流Icとの関係を示すグラフ図である。図12において、コンデンサC12、C13はともに30pFとし、抵抗R13は2kΩ、抵抗RBは20kΩ、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pF、電流増幅率hfeは100、τFは、0.1nsecとする。また、トランジスタTR1に関するパラメータは、(7)式に従い近似する。
図12に示すように、コレクタ電流IcがIc≒0.6mAで合成等価回路抵抗Rcciは、負性抵抗の最大値となるRcci≒−2kΩを示す。また、合成等価回路抵抗Rcciは、コレクタ電流IcがIc≒0.02mA〜3.5mAの範囲で負性抵抗を示し、トランジスタ圧電発振器は発振する。
以上、従来のトランジスタ圧電発振器について説明したが、これらの内容の基本的な動作については、非特許文献1に解説されている。
また、コルピッツ型の発振回路を使用した従来例は、特許文献1に開示されており、単一の回路構成で広い周波数範囲において回路定数を最適化した発振回路を構成することができる水晶発振器を提供することを目的としている。
【特許文献1】特開平06−140838号公報
【非特許文献1】トランジスタ技術オリジナルNo8 Page90 コルピッツ型水晶発振回路「CQ出版社」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のトランジスタ圧電発振器は、発振用トランジスタのコレクタ電流を変化させた際に、発振回路が発振する電流範囲が狭く、コレクタ電流が低電流の領域で発振回路の負性抵抗の減少が大きい。
例えば、図12に示したように、従来のトランジスタ圧電発振器の発振回路の合成等価回路抵抗Rcciは、コレクタ電流IcがIc≒0.02mA〜3.5mAの範囲で負性抵抗を示し、そのコレクタ電流の範囲でトランジスタ圧電発振器は発振する。従って、コレクタ電流が0.02mA以下となると、発振回路は発振を停止してしまい、更なるトランジスタ圧電発振器の低消費電流化が困難である。
【0010】
また、従来のトランジスタ圧電発振器は、発振回路の発振ループが発振用トランジスタTR1のベースと接地間に接続された圧電振動子X1、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間に接続されたコンデンサC12、及び発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間に接続されたコンデンサC13と抵抗R13の並列回路からなる。従って、発振回路の発振ループが接地ラインを含んでいるため、接地ラインに雑音が重畳されると発振回路に悪影響を与え、トランジスタ圧電発振器の発振特性が劣化するという問題があった。
本発明は、上述したような問題を解決するためになされたものであって、発振回路の発振用トランジスタのコレクタ電流を低電流化しても安定した発振特性が得られると共に、接地ラインに雑音が重畳しても悪影響を受けないトランジスタ圧電発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係るトランジスタ圧電発振器は、圧電振動子を励振させる発振用トランジスタを備えたトランジスタ圧電発振器であって、前記発振用トランジスタのベース−コレクタ間に接続した前記圧電振動子と、前記発振用トランジスタのコレクタと電源間に接続した第1の抵抗と、前記発振用トランジスタのエミッタと接地間に接続した第2の抵抗と、前記発振用トランジスタのベース−エミッタ間に接続した第1のコンデンサと、前記発振用トランジスタのコレクタ−エミッタ間に接続した第2のコンデンサと、を備えたことを特徴としている。
このような本発明のトランジスタ圧電発振器によれば、上述したような発振回路を構成することにより、トランジスタ圧電発振器の発振用トランジスタのコレクタ電流を低電流化することができ、従って、トランジスタ圧電発振器の低消費電力化が可能となると共に、発振回路の設計の自由度が向上した。また、発振回路のメインの発振ループに接地ラインが含まれないので、接地ラインに重畳される雑音の影響を受け難くなり、トランジスタ圧電発振器の雑音特性が向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の回路構成図である。トランジスタ圧電発振器1は、発振用トランジスタTR1を備えており、発振用トランジスタTR1のベース−コレクタ間に圧電振動子X1とバイアス抵抗RBとを並列に接続し、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間にコンデンサ(第1のコンデンサ)C2を接続し、発振用トランジスタTR1のコレクタ−エミッタ間にコンデンサ(第2のコンデンサ)C3を接続している。また、発振用トランジスタTR1のコレクタと電源(Vcc)間には、抵抗(第1の抵抗)R2を接続し、電源と接地(GND)間には、バイパス用のコンデンサC4を接続し、発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間には、抵抗(第2の抵抗)R3を接続している。そして、発振用トランジスタTR1のコレクタに直流カット用のコンデンサC5を接続し、コンデンサC5の他端をトランジスタ圧電発振器1の出力(OUT)としている。
【0013】
このように構成したトランジスタ圧電発振器1は、発振回路の周波数特性を決定するメインの発振ループが、発振用トランジスタTR1のベース−コレクタ間に接続された圧電振動子X1と抵抗RB、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間に接続されたコンデンサC2、及び発振用トランジスタTR1のコレクタ−エミッタ間に接続されたコンデンサC3からなる。従って、メインの発振ループが、直接接地ラインや電源ラインと接続されていないため、接地ラインや電源ラインに雑音が重畳されても発振回路の発振特性に悪影響を及ぼすことを低減した。また、発振回路の負性抵抗の特性に大きな影響を与えるサブの発振ループは、発振用トランジスタTR1のコレクタと電源間に挿入されている抵抗R2、発振用トランジスタTR1のコレクタ−エミッタ間に接続されているコンデンサC3、及び発振用トランジスタTR1のエミッタと接地間に挿入されている抵抗R3からなり、その特性は後述するが、発振用トランジスタTR1のコレクタ電流の低電流化を実現する。
【0014】
次に、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の発振特性について説明する。
図2は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の等価発振回路図である。
ここで、圧電振動子X1(zxt)とバイアス抵抗RBとの並列回路のインピーダンスをz1、発振用トランジスタTR1のベース−エミッタ間キャパシタンスCπとベース−エミッタ間抵抗RπとコンデンサC2の並列回路のインピーダンスをz2、コンデンサC3のインピーダンスをz3とする。また抵抗R2のインピーダンスをz4、抵抗R3のインピーダンスをz5、発振用トランジスタTR1の定電流源をgm×z2×i2とする。そして、インピーダンスz1とz2に流れる電流をi2、インピーダンスz3に流れる電流をi3、インピーダンスz4に流れる電流をi4、インピーダンスz5に流れる電流をi5とする。
【0015】
図2に示した等価発振回路にキルヒホッフの法則を適用すると、(8)式が得られる。
次に、(8)式を展開すると、発振回路が発振するインピーダンス条件である(9)式を得る。
また、インピーダンスz1、z2、z3、z4、及びz5は、(10)式のように表すことができる。但し、(10)式中のr2、及びc2は、(11)式とする。
【0016】
次に、(10)式を(9)式に代入する。そして、図10に示すように、圧電振動子X1のモーションアーム(インダクタンスL1、キャパシタンスC1、抵抗R1)のインピーダンスをzMとし、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0を発振回路側に含め、zM側から発振回路側を見た合成等価回路抵抗をRcci、合成等価回路キャパシタンスをCcciとすると、(12)式が得られる。また、合成等価回路抵抗Rcciと合成等価回路キャパシタンスCcciは、(13)式とする。
なお、(13)式中のRci、Cci、Rc、及びCcは、(14)式とする。ここで、Rciは等価回路抵抗を示し、Cciは等価回路キャパシタンスを示し、抵抗RBを発振回路側に含めて、圧電振動子X1より発振回路側を見た関係式である。
【0017】
次に、得られた関係式を用いて、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の発振特性に関するシミュレーションを行い、図3、図4、図5、及び図6にその結果を示す。
図3は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、等価回路抵抗Rci、合成等価回路抵抗Rcciと等価回路キャパシタンスCci、合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。
図3において、コンデンサC2、C3はともに30pFとし、抵抗R2、R3はともに5kΩ、抵抗RBは30kΩ、ベース−エミッタ間キャパシタンスCπは3.8pF、ベース−エミッタ間抵抗Rπは2.6kΩ、トランジスタTR1の相互コンダクタンスgmは38mA/V、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pFとする。図3に示すように、等価回路抵抗Rciは、周波数FreqがFreq≒6.2MHzにおいて、負性抵抗が最大値となるRci≒−40kΩを示し、そのとき等価回路キャパシタンスCciは、Cci≒0.4pFを得る。
また、合成等価回路抵抗Rcciは、周波数FreqがFreq≒10MHzにおいて、負性抵抗が最大値となるRcci≒−2.3kΩを示し、そのとき等価回路キャパシタンスCcciは、Ccci≒3pFを得る。
【0018】
図4は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcciと合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。図4において、コンデンサC2、C3はともに30pFとし、抵抗RBは30kΩ、ベース−エミッタ間キャパシタンスCπは3.8pF、ベース−エミッタ間抵抗Rπは2.6kΩ、トランジスタTR1の相互コンダクタンスgmは38mA/V、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pFとする。
図4に示すように、抵抗R2、R3を変化させると、合成等価回路抵抗Rcciは、周波数Freqが約5MHz以下の低周波側においてその特性に差が出るが、合成等価回路抵抗Rcciが負性抵抗を示す約5MHz以上の周波数範囲においては、抵抗R2、R3の変化に対して合成等価回路抵抗Rcciの特性は差が出ていない。
【0019】
また、合成等価回路抵抗Rcciは、周波数Freqが周波数Freq≒10MHzにおいて、負性抵抗が最大値となるRcci≒−2.3kΩを示している。また、一方、合成等価回路キャパシタンスCcciは、抵抗R2、R3を変化させると、周波数Freqが約5MHz以下の低周波側においてその特性に多少の差が出るが、合成等価回路抵抗Rcciが負性抵抗を示す約5MHz以上の周波数範囲においては、ほとんど差が見られない。
従って、これらの特性より分かることは、合成等価回路抵抗Rcciが負性抵抗を示す周波数範囲においては、抵抗R2、R3の値を大きくしてもトランジスタ圧電発振器の発振特性に影響を与えないということである。即ち、発振回路の特性は、前述したメインの発振ループにより決定されるので、抵抗R2、R3の値を大きくすることにより、メインの発振ループが、接地ラインや電源ラインより絶縁され、接地ラインや電源ラインに重畳される雑音の影響を受け難くなる。そして、それに伴いトランジスタ圧電発振器は、雑音特性の向上が図られる。
【0020】
図5は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icの関係を示すグラフ図である。図5は、従来のトランジスタ圧電発振器の特性も併記した。図5において、周波数Freqは10MHzとし、コンデンサC2、C3はともに30pF、抵抗RBは30kΩ、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pF、トランジスタの電流増幅率hfeは100、τFは0.1nsecとする。また、従来の特性は、抵抗R13が2kΩとする。図5に示すように、従来のトランジスタ圧電発振器の合成等価回路抵抗Rcciは、負性抵抗を示すコレクタ電流Icの範囲が約0.02mA<Ic<3.5mAであるのに対して、本発明によるトランジスタ圧電発振器の合成等価回路抵抗Rcciは、負性抵抗を示すコレクタ電流Icの範囲が約0.003mA<Icである。従って、本発明によるトランジスタ圧電発振器の発振回路は、コレクタ電流Icが低電流から大電流まで発振可能となることが分かる。
また、合成等価回路キャパシタンスCcciは、従来のトランジスタ圧電発振器、及び本発明のトランジスタ圧電発振器ともにほぼ同等の特性を有している。
【0021】
図6は、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icの関係を示すグラフ図である。図6において、圧電振動子の等価直列抵抗R1をR1=30Ωと仮定し、周波数Freqは10MHzとし、コンデンサC2、C3はともに30pF、抵抗RBは30kΩ、圧電振動子X1の端子間並列キャパシタンスC0は2pF、トランジスタの電流増幅率hfeは100、τFは0.1nsecとする。また、従来の特性は、抵抗R13が2kΩとする。図6に示すように、トランジスタ圧電発振器の発振条件として、合成等価回路抵抗Rcciの負性抵抗値が|−Rcci|>30Ω以上必要であるとすると、従来のトランジスタ圧電発振器は、これを満足するコレクタ電流Icの範囲は、0.02mA<Ic<3mAである。一方、本発明のトランジスタ圧電発振器は、合成等価回路抵抗Rcciの負性抵抗値が|−Rcci|>30Ωを満足するコレクタ電流Icの範囲は、0.004mA<Icであり、明らかに本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器が、コレクタ電流Icの低電流領域から発振可能であるかが分かる。
【0022】
以上、本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の発振特性について説明したが、本発明のように発振回路を構成することにより、トランジスタ圧電発振器に備えた発振用トランジスタのコレクタ電流を低電流化することができ、トランジスタ圧電発振器の低消費電力化が可能となると共に、発振回路の設計の自由度が向上した。また、発振回路のメインの発振ループに接地ラインや電源ラインが含まれないので、トランジスタ圧電発振器の雑音特性が向上した。
なお、本実施形態においては、発振用トランジスタとして、NPNタイプのトランジスタを用いて説明したが、これをPNPタイプのトランジスタとすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の回路構成図である。
【図2】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器の等価発振回路図である。
【図3】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、等価回路抵抗Rci、合成等価回路抵抗Rcciと等価回路キャパシタンスCci、合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。
【図4】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcciと合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。
【図5】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icの関係を示すグラフ図である。
【図6】本実施形態に係るトランジスタ圧電発振器において、抵抗R2、R3をパラメータとした際の、合成等価回路抵抗Rcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icの関係を示すグラフ図である。
【図7】従来のトランジスタ圧電発振器の回路構成図である。
【図8】従来のトランジスタ圧電発振器の他の回路構成図である。
【図9】従来のトランジスタ圧電発振器の等価発振回路を示す図である。
【図10】等価回路抵抗Rci及び等価回路キャパシタンスCciと、合成等価回路抵抗Rcci及び合成等価回路キャパシタンスCcciの関係を示す図である。
【図11】従来のトランジスタ圧電発振器の等価回路抵抗Rci、合成等価回路抵抗Rcci、及び等価回路キャパシタンスCci、合成等価回路キャパシタンスCcciの周波数特性を示すグラフ図である。
【図12】従来のトランジスタ圧電発振器の合成等価回路抵抗Rcci、及び合成等価回路キャパシタンスCcciと発振用トランジスタのコレクタ電流Icとの関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0024】
1…トランジスタ圧電発振器、C2、C3、C4、C5…コンデンサ、R2、R3、RB…抵抗、TR1…トランジスタ、X1…圧電振動子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子を励振させる発振用トランジスタを備えたトランジスタ圧電発振器であって、
前記発振用トランジスタのベースとコレクタ間に接続した前記圧電振動子と、前記発振用トランジスタのコレクタと電源間に接続した第1の抵抗と、前記発振用トランジスタのエミッタと接地間に接続した第2の抵抗と、前記発振用トランジスタのベースとエミッタ間に接続した第1のコンデンサと、前記発振用トランジスタのコレクタとエミッタ間に接続した第2のコンデンサと、を備えたことを特徴とするトランジスタ圧電発振器。
【請求項1】
圧電振動子を励振させる発振用トランジスタを備えたトランジスタ圧電発振器であって、
前記発振用トランジスタのベースとコレクタ間に接続した前記圧電振動子と、前記発振用トランジスタのコレクタと電源間に接続した第1の抵抗と、前記発振用トランジスタのエミッタと接地間に接続した第2の抵抗と、前記発振用トランジスタのベースとエミッタ間に接続した第1のコンデンサと、前記発振用トランジスタのコレクタとエミッタ間に接続した第2のコンデンサと、を備えたことを特徴とするトランジスタ圧電発振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−27670(P2009−27670A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191674(P2007−191674)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]