説明

トランスインピーダンス型前置増幅器

【課題】トランスインピーダンス値や負荷抵抗値を変えることなく、周波数帯域の調整が可能なトランスインピーダンス型前置増幅器を提供する
【解決手段】増幅部と該増幅部の出力信号を帰還するトランスインピーダンス部を備えた前置増幅器で、入力部(初段)の負荷抵抗R0に供給される電源電圧(Vcc’)の電圧生成手段13が、前置増幅器を形成する同じ集積回路10内に設けられ、電圧生成手段により入力部の電源電圧が調整可能とされている。前記の電圧生成手段13は、基準電圧源(Vcc)に接続された定電流源16と抵抗(R3〜Rn)の直列回路からなり、該抵抗の抵抗値が調整可能とされる。この抵抗の抵抗値の調整には、該抵抗から複数の接続タップ(15a〜15n)を引出しておき、接続タップを選択してワイヤ14により接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信による受信システムに用いられるトランスインピーダンス型の前置増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信を用いた受信システムにおいて、フォトダイオード等の受光素子で受光した光信号を電圧信号に変換する前置増幅器には、低雑音で広いダイナミックレンジが要求される。この様な要求を満たす光受信装置(ROSA:Receiver Optical Sub-Assembly)には、一般に帰還抵抗を備えたトランスインピーダンス型の前置増幅器を用いている。トランスインピーダンス型の前置増幅器は、そのダイナミックレンジと帯域を確保するために、入力パワーに応じてトランスインピーダンス値を変える方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、帰還抵抗として2つの並列接続された電界効果型トランジスタ(FET)を使用し、一方のFETのゲートには一定の電圧を与え、もう一方のFETのゲートには出力振幅量に応じた直流電圧を付与して帰還量を調整することで、周波数特性および利得特性を改善することが開示されている。また、特許文献2には、伝送速度情報を出力するデコーダを備え、デコーダからの信号により帰還抵抗と内部利得抵抗(初段の負荷抵抗)を制御することで、異なる伝送速度に対して最適な周波数特性を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−167816号公報
【特許文献2】特開2006−80988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図3(A)に示すように、一般的のROSAは、受光素子(フォトダイオード:PD)とトランスインピーダンス型前置増幅器(TIA)からなるが、10GHzを超えるような周波数帯域になると、PDの寄生容量Cpd等が無視できなくなる。なお、図3において、Q0は入力段(初段)のトランジスタ,Q1はバッファ段のトランジスタ、R0は負荷抵抗、R1は帰還抵抗、R2は抵抗である。このROSAの周波数帯域は、PDの寄生容量Cpd等とTIAの入力インピーダンスZinにより形成されるポールや、TIA自身の回路構成により決められる。したがって、TIAの入力インピーダンスZinを変えることで、PDの寄生容量Cpd等で形成されるポールの周波数が変わり、帯域を制御することが可能である。
【0006】
なお、図3(A)に示すTIA回路の特性を示す諸式は、以下のように表わすことができる。
Zin ≒ R1/(1+A0)・・・・・・・・(1)
Zt = Vout/Iin ≒ R1・・・・・・・・・ (2)
−3dB ≒ (√2・A0)/(2π・R1・Cpd) ・(3)
A0 = gm0・R0・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
gm0 = (q・I0)/(k・T)・・・・・・・・・(5)
(A0:TIAのオープンループゲイン、f−3dB :帯域、gm0:トランジスタQ0の相互コンダクタンス、k:ボルツマン定数、q:素電荷、T:絶対温度、I0:トランジスタQ0のコレクタ電流)
【0007】
上記の式(1),(2)から、入力インピーダンス(Zin)を変えるには、トランスインピーダンスZtを変えること考えられるが、そうすると、適切な利得が得られない可能性がある。これに加えて、トランスインピーダンス(Zt≒ R1)を、特許文献1,2に開示のように可変にするための回路を付加すると、寄生容量成分の増加を招き高速動作においては不利になる恐れがある。したがって、これを回避するために、トランスインピーダンスZtを変えずに帯域を制御することが望まれる。
【0008】
上記の式(3)からは、トランスインピーダンスZtを維持したままで(すなわち、帰還抵抗R1を変えずに)、周波数帯域(f−3dB)を延ばすには、TIAのオープンループゲインA0を増大させればよいことが分かる。この(A0)を増やすには、式(4)から、トランジスタQ0の相互コンダクタンスgm0もしくは負荷抵抗R0を増やせばよい。そして、(gm0)を増やすには、式(5)から負荷電流I0’であるトランジスタQ0のコレクタ電流I0{図3(A)ではI0’=I0}を増やしてやればよいことが分かる。
【0009】
トランジスタQ0のコレクタ電流I0を増やす方法としては、図3(B)に示すように負荷抵抗R0に並列に電流源Imを配し、電流を注入するゲインブーストが考えられる。具体的には、例えば、図4に示すような、カレントミラー回路を用いて実現される。このカレントミラー回路は、例えば、一対のPMOSFET(M0、M1)を用いて形成され、電流源による電流Imを、負荷抵抗R0を通る負荷電流I0’にプラスしてトランジスタQ0のコレクタ電流I0とする形態となる。
【0010】
しかし、このカレントミラー回路を用いた場合、PMOSFET(M1)のゲートとドレイン間の寄生容量(Cgd)とドレインと基板(TIAを形成するシリコン基板)間の寄生容量Cdbが、X点での帯域を劣化させ高速伝送での動作を妨げる。また、A0を増やすために負荷抵抗R0を大きくする場合にも、抵抗に付随する寄生容量の増大を招き、高速動作には不利な状態となる。
【0011】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、トランスインピーダンス値や負荷抵抗値を変えることなく、周波数帯域の調整が可能なトランスインピーダンス型前置増幅器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によるトランスインピーダンス型前置増幅器は、増幅部と該増幅部の出力信号を帰還するトランスインピーダンス部を備えた前置増幅器であって、入力部(初段)の負荷抵抗に供給される電源電圧(Vcc’)の電圧生成手段が、前置増幅器を形成する同じ集積回路内に設けられ、電圧生成手段により入力部の電源電圧が調整可能とされていることを特徴とする。
前記の電圧生成手段は、基準電圧源(Vcc)に接続された定電流源と抵抗の直列回路からなり、該抵抗の抵抗値が調整可能とされる。この抵抗の抵抗値の調整には、該抵抗から複数の接続タップを引出しておき、接続タップを選択してワイヤ接続することにより行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、TIAのトランスインピーダンス値や負荷抵抗を変えることなく、また、電流注入によるゲインブーストを行うことなく周波数帯域の調整が可能となる。また、周波数帯域調整のための電源電圧(Vcc’)は、共通の基準電圧源(Vcc)を用いてTIAが形成される同じ集積回路内に設けた電圧生成手段で生成させることができ、該TIAが搭載されるROSAに、外部回路との接続のための端子数の増加、変更およびROSAパッケージの大きさ等を変えることなく実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を説明する図である。
【図2】本発明による周波数特性調整結果の一例を示す図である。
【図3】従来技術を説明する図である。
【図4】従来技術の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1により本発明の概略を説明する。10は集積回路、11は受光素子(PD)、12は電圧レギュレータ、13は電圧生成手段、14はワイヤ、15a〜15nは接続タップ、16は定電流源である。その他の符号は、図3の説明で用いたのと同じ符号を用いることにより、説明を省略する。
【0016】
本発明によるトランスインピーダンス型前置増幅器(TIA)は、10GHzを超える帯域で用いられる光受信装置(ROSA)に搭載されものを主な対象とする。図1(A)に示すように、TIAの基本構成自体は、例えば、図3で説明したのと同様の構成で、受光素子(PD)11で光電変換された電流信号Iinは、TIAの初段で電圧信号に変換される。そして、この電圧信号は、バッファ段のトランジスタQ1を経て、トランジスタQ1のエミッタと接地された抵抗R2の接続点から、出力電圧Voutとして次段の増幅回路に出力される。また、その出力は、帰還抵抗R1によりトランジスタQ0の入力端に帰還される。
【0017】
入力段のトランジスタQ0には、そのベースにPD11での受光により生じた電流信号Iinが入力されると、コレクタ電流I0が流れ、該コレクタ電流は負荷電流として負荷抵抗R0に流れる。上述した式(3)〜(5)により、コレクタ電流I0を増加させることによりオープンループゲインA0が増加され、TIAの周波数帯域を広げることが可能となる。本発明においては、コレクタ電流I0の調整は、負荷抵抗R0に供給される電源電圧(Vcc’)を調整可能にしておくことにより、負荷抵抗R0、帰還抵抗R1の設定値を変更することなく行うことができる。
【0018】
なお、コレクタ電流I0は、おおよそ次の式で表すことができる。
I0≒{Vreg−(Vbe0+Vbe1)}/R0・・・・(6)
ここで、(Vreg)は負荷抵抗R0の一方の端子に供給される電源電圧であり、(Vbe0)はトランジスタQ0のベース−エミッタ間の電圧であり、(Vbe1)はトランジスタQ1のベース−エミッタ間の電圧である。なお、帰還抵抗R1に流れる電流は無視しうる程度の状態(例えば入力電流が小さい、もしくは直流的な入力電流が中和されるような仕組みが備わっている)で、この部分での電圧降下はないとする。
【0019】
上記の式(6)において、負荷抵抗R0、電圧Vbe0,Vbe1の値は、共に一定であるとすると、電源電圧Vregを調整することによりコレクタ電流I0を変えることができる。この電源電圧Vregの調整には、例えば、電圧レギュレータ12と電圧生成手段13を用いて行うことができる。電圧レギュレータ12は、例えば、ボルテージフォロー回路を用いたオペアンプで形成することができる。この回路は、高入力インピーダンスであるので電源側から電流を流す必要がなく、そして、低出力インピーダンスとなるので出力電流は取り出すことができる。また、上記の電圧レギュレータ12および電圧生成手段13は、TIAを形成する同じ集積回路チップ内に設けられる。
【0020】
電圧生成手段13は、例えば、図1(B)に示すような電圧調整回路を用いることができる。この電圧生成手段13は、集積回路等の基準電圧源(Vcc・・・例えば、バンドギャップリファレンス回路で形成される)を用いて、TIAの集積回路10内に所望の電位を生成するもので、一例として、直列接続された複数個の抵抗(R3,R4,R5・・・Rn)と定電流源16とからなる。なお、複数個の抵抗(R3,R4,R5・・・Rn)は、直列接続以外に並列接続されたものが含まれていてもよい。
【0021】
そして、定電流源16と抵抗R3との間から、電圧レギュレータ12に入力される電圧Vregを取り出す。このとき、電圧レギュレータ12の出力はVregとなり、Vcc’=Vregとなる。また、抵抗R3とR4との間から接続タップ15aを、抵抗R4とR5との間から接続タップ15b、というように、各抵抗間から接続タップ(15a〜15n)を取出しておく。なお、上記の直列抵抗回路は、1つの抵抗Rを適当な間隔で分け、その分けた部分から接続タップを引き出す形態であってもよい。
【0022】
接続タップ(15a〜15n)のうち、所望の接続タップを選択して、金線等のワイヤ14を用いてボンディングし、TIAが搭載されるROSAのパッケージ基板等の接地電位に落とす。この結果、例えば、抵抗R3とR4との間の接続タップ15aを選択してワイヤ14で接地した場合は、抵抗R3と定電流源16の電流Iregによる電圧が生成され、この電圧値が電源電圧Vregとされる。抵抗R4とR5との間の接続タップ15bを選択してワイヤ14で接地した場合は、抵抗(R3+R4)と定電流源16の電流Iregによる電圧が生成され、接続タップ15aを選択した場合より高い電圧値の電源電圧Vregが得られる。なお、接続タップ(15a〜15n)間をワイヤ等を用いて電気的に短絡することによっても、生成される電源電圧Vregの電圧値を調整することができる。
【0023】
図2は、本発明によるTIAを用いて電源電圧Vregを調整したときのトランスインピーダンスZt(ゲイン)の周波数特性を示す図である。周波数特性(a)は、例えば、図1(B)の接続タップ15aを接地(抵抗R3のみに電流Iregが流れる)した場合である。周波数特性(b)は、接続タップ15bを接地(抵抗R3とR4に電流Iregが流れる)した場合であり、周波数特性(c)は、接続タップ15cを接地(抵抗R3とR4とR5に電流Iregが流れる)した場合である。
【0024】
電圧生成手段の抵抗値を増加して電源電圧Vregを高くすると、負荷電流、すなわちQ0のコレクタ電流が増加し、式(3)により帯域が延びて周波数特性は(a)から(c)に移る。低周波側のトランスインピーダンス値から規定の−3dBだけ下げたところの周波数帯域は、例えば、周波数特性(a)では16.5GHzとなり、周波数特性(c)では19.5GHzとなり、帯域を調整することが可能となる。
【0025】
ワイヤ14は、集積回路10上にTIAを形成した後に所望の接続タップ(15a〜5n)を選択して、搭載されるROSAの接地端子等に直接接続することができる。一方、TIAは、製造後にその使用帯域を変更したり、また、TIAの製造過程でその特性に多少のバラツキが生じることがある。このような場合、TIAの製造後に、上記の電圧生成手段13の接続タップを選択して電源電圧Vregを調整することで、コレクタ電流I0を調整することができ、オープンループゲインを変化させて周波数特性を調整できる。これにより、バラツキのない均一な品質のROSAとしたり、電源電圧Vregを増加させて、高周波側の帯域を延ばすようにすることができる。
【0026】
なお、電圧レギュレータ12および電圧生成手段13は、図1(A)に示すように、TIAを形成する集積回路内に設けずに、基準電源(Vcc)とは別に外部回路から直接に電源電圧Vregとして供給することも考えられる。しかしながら、この場合は、TIAが搭載されるROSAに電源電圧Vregのための外部接続端子を必要とする。このため、端子数増加のためのスペース確保で、ROSAのパッケージ形状を大きくする必要があり、小型化の要求の要求を満たすことができない。また、端子数増加は標準仕様を満たさないなどの問題もある。したがって、電圧レギュレータ12および電圧生成手段13を、TIAを形成する集積回路チップ内に設けることで、ROSAのパッケージの構成に影響を与えないようにすることができる。
【符号の説明】
【0027】
10…集積回路、11…受光素子(PD)、12…電圧レギュレータ、13…電圧生成手段、14…ワイヤ、15a〜15n…接続タップ、16…定電流源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅部と該増幅部の出力信号を帰還するトランスインピーダンス部を備えた前置増幅器であって、
前置増幅器の入力部(初段)の負荷抵抗に供給される電源電圧の電圧生成手段が、前記前置増幅器を形成する同じ集積回路内に設けられ、前記電圧生成手段により前記入力部の電源電圧が調整可能とされていることを特徴とするトランスインピーダンス型前置増幅器。
【請求項2】
前記電圧生成手段は、基準電圧源に接続された定電流源と抵抗の直列回路からなり、前記抵抗の抵抗値が調整可能とされていることを特徴とする請求項1に記載のトランスインピーダンス型前置増幅器。
【請求項3】
前記抵抗には複数の接続タップが設けられ、該接続タップを選択してワイヤ接続することにより前記抵抗の抵抗値が調整されることを特徴とする請求項2に記載のトランスインピーダンス型前置増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−250239(P2011−250239A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122462(P2010−122462)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】