説明

トランス結合型昇圧器の制御装置および制御方法

【課題】トランス結合型昇圧器の動作を停止させることなく動作を継続させるようにする。
【解決手段】温度計測手段では、スイッチング素子のケース温度が計測される。温度差演算手段では、スイッチング素子のジャンクション温度の上限値と温度で計測されたスイッチング素子の現在のケース温度との温度差が演算される。許容損失演算手段では、温度差演算手段で演算された温度差に基づいて、スイッチング素子のジャンクション温度が上限値を超えないために許容されるスイッチング素子の許容損失が演算される。許容出力電力演算手段では、許容損失演算手段で演算された許容損失と、許容損失および入力電圧に対応するトランス結合型昇圧器の許容出力電力が演算される。許容位相差演算手段では、許容出力電力値に対応する許容位相差が演算される。制御手段では、許容位相差演算手段で演算された許容位相差を上限値として位相差を調整する制御が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧側インバータと高圧側インバータとがトランスを介して結合され、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧して出力端子間に出力電圧として印加するトランス結合型昇圧器の制御装置および制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建設機械の分野においても一般自動車と同様にハイブリッド車が開発されている。
【0003】
この種のハイブリッド建設機械には、エンジンと発電電動機と蓄電装置と作業機を駆動させる作業機用電動機とが備えられている。また、ハイブリッド建設機械には、作業機用電動機とともに、あるいは作業機用電動機に変えて走行用電動機あるいは旋回用電動機が備えられている。ここで、蓄電装置は、充放電を自由に行うことができる蓄電池(二次電池)のことであり、例えば電気二重層キャパシタやニッケル水素バッテリ等によって構成されている。なお、以下では、蓄電装置として、キャパシタを代表させて説明する。蓄電装置としてのキャパシタは、発電電動機や作業機用電動機等が発電動作した場合に発電した電力を蓄積(充電)する。これを回生という。またキャパシタは、キャパシタに蓄積された電力を、ドライバを介して発電電動機に、または同電力を作業機用電動機等に供給(放電)する。これを力行という。
【0004】
ハイブリッド建設機械における電力負荷、つまり作業機用電動機等は、一般自動車における電力負荷と異なり、エンジン軸出力に比して大きな電力を消費する。このためハイブリッド建設機械に搭載される蓄電装置としては、短時間に大電力を充放電することができるキャパシタが用いらることがある。
【0005】
しかし、大電力を充放電できる大きな容量のキャパシタは、場席が嵩み、車載する上でハイブリッド建設機械の車体内のスペースを大きく占める。そこで、キャパシタを極力小型化するために、キャパシタの端子間電圧を例えば300V程度にし、昇圧器によって例えば600V程度に昇圧する構成をとることがある。
【0006】
この昇圧器には、トランス結合型昇圧器と呼ばれるものがある。
【0007】
トランス結合型昇圧器は、低圧側インバータと高圧側インバータとがトランスを介して結合され、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧して出力端子間に出力電圧として印加するものである。
【0008】
トランス結合型昇圧器では、トランスの低圧側巻線の両端子に接続されたスイッチング素子を含んで構成された低圧側インバータと、前記トランスの高圧側巻線に接続されたスイッチング素子を含んで構成された高圧側インバータとを備えている。スイッチング素子には、例えばIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)で構成されている。そして、コントローラが、低圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相と、高圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相との間の位相差を調整することによりトランス結合型昇圧器の出力電力を制御している。
【0009】
トランス結合型昇圧器に関する特許文献として下記特許文献1に掲げるものがある。
【0010】
また、一般自動車に搭載されたインバータにおいて、スイッチング素子の耐圧の温度による変化に応じて、インバータに印加される電圧の上限値を設定し、印加電圧が上限値より高い場合には、インバータの動作を停止させるという発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2010/114088
【特許文献2】特開2008−167616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
トランス結合型昇圧器に使用されるスイッチング素子は、半導体素子であり、電流が流れると内部損失(熱)が発生する。仮にスイッチング素子のジャンクション温度(接合部温度)が上限値(例えば150℃)を越えると、機能の劣化や故障の原因となり、最終的にはスイッチング素子の破壊に至る。
【0013】
ここで、スイッチング素子のジャンクション温度を監視し、ジャンクション温度が上限値を超えた場合には、スイッチング素子を保護するためにトランス結合型昇圧器の動作を停止させるという手段をとることが考えられる。
【0014】
しかし、トランス結合型昇圧器の動作を停止させることは、トランス結合型昇圧器が搭載された建設機械の作業効率の低下につながることになる。このためトランス結合型昇圧器の動作を停止させることなく動作を継続して建設機械の連続運転を行いたいとの要請がある。
【0015】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、トランス結合型昇圧器の動作を停止させることなく動作を継続させるようにすることを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明は、トランスの低圧側巻線の両端子に接続されたスイッチング素子を含んで構成された低圧側インバータと、前記トランスの高圧側巻線に接続されたスイッチング素子を含んで構成された高圧側インバータとを備え、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧した出力電圧を出力端子間に印加するトランス結合型昇圧器と、前記低圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相と、前記高圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相との間の位相差を調整することにより前記トランス結合型昇圧器の出力電力を制御する制御手段とを備えたトランス結合型昇圧器の制御装置において、前記スイッチング素子のケース温度を計測する温度計測手段と、前記スイッチング素子のジャンクション温度の上限値と前記温度計測手段で計測された前記スイッチング素子の現在のケース温度との温度差を演算する温度差演算手段と、前記温度差演算手段で演算された温度差に基づいて、前記スイッチング素子のジャンクション温度が前記上限値を超えないために許容される前記スイッチング素子の許容損失を演算する許容損失演算手段と、前記許容損失演算手段で演算された許容損失と、前記トランス結合型昇圧器の入力電圧とに基づいて、当該許容損失および当該入力電圧に対応する前記トランス結合型昇圧器の許容出力電力を演算する許容出力電力演算手段と、前記許容出力電力演算手段で演算された許容出力電力に対応する許容位相差を演算する許容位相差演算手段とを備え、前記制御手段は、前記許容位相差演算手段で演算された許容位相差を上限値として位相差を調整すること
を特徴とする。
【0017】
第2発明は、トランスの低圧側巻線の両端子に接続されたスイッチング素子を含んで構成された低圧側インバータと、前記トランスの高圧側巻線に接続されたスイッチング素子を含んで構成された高圧側インバータとを備え、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧した出力電圧を出力端子間に印加するトランス結合型昇圧器と、前記低圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相と、前記高圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相との間の位相差を調整することにより前記トランス結合型昇圧器の出力電力を制御する制御手段とを備えたトランス結合型昇圧器の制御装置において、前記スイッチング素子のケース温度を計測する温度計測手段と、前記スイッチング素子のケース温度の各値に対応して、前記スイッチング素子のジャンクション温度が上限値を超えないために許容される許容位相差の各値との関係を予め設定する設定手段とを備え、前記制御手段は、前記温度計測手段で計測された前記スイッチング素子のケース温度に対応する許容位相差を前記設定手段の設定内容から求め、求められた許容位相差を上限値として位相差を調整することを特徴とする。
【0018】
第3発明は、第1発明において、前記許容出力電力演算手段で前記トランス結合型昇圧器の許容出力電力値の解が得られなかった場合には、前記トランス結合型昇圧器の動作を停止させることを特徴とする。
【0019】
第4発明は、第2発明において、前記設定手段には、前記スイッチング素子を収容したケースのケース温度が所定のしきい値以下の範囲で、許容位相差の各値が設定されており、前記温度計測手段で計測された現在のケース温度が前記所定のしきい値を超えている場合には、前記トランス結合型昇圧器の動作を停止させることを特徴とする。
【0020】
第5発明は、トランスの低圧側巻線の両端子に接続されたスイッチング素子を含んで構成された低圧側インバータと、前記トランスの高圧側巻線に接続されたスイッチング素子を含んで構成された高圧側インバータとを備え、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧した出力電圧を出力端子間に印加するトランス結合型昇圧器の制御方法であって、前記低圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相と、前記高圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相との間の位相差を調整することにより前記トランス結合型昇圧器の出力電力を制御するトランス結合型昇圧器の制御方法において、
前記スイッチング素子を収容したケースのケース温度を計測する温度計測ステップと、
前記スイッチング素子のジャンクション温度の上限値と前記温度計測ステップで計測された現在のケース温度との温度差を演算する温度差演算ステップと、
前記温度差演算ステップで演算された温度差に基づいて、前記スイッチング素子のジャンクション温度が前記上限値を超えないために許容される前記スイッチング素子の許容損失を演算する許容損失演算ステップと、
前記許容損失演算ステップで演算された許容損失と、前記トランス結合型昇圧器の入力電圧とに基づいて、当該許容損失および当該入力電圧に対応する前記トランス結合型昇圧器の許容出力電力値を演算する許容出力電力演算ステップと、
前記許容出力電力演算ステップで演算された許容出力電力値に対応する許容位相差を演算する許容位相差演算ステップと、
前記許容位相差演算ステップで演算された許容位相差を上限値として位相差を調整するステップと
を含むことを特徴とする。
【0021】
第6発明は、トランスの低圧側巻線の両端子に接続されたスイッチング素子を含んで構成された低圧側インバータと、前記トランスの高圧側巻線に接続されたスイッチング素子を含んで構成された高圧側インバータとを備え、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧した出力電圧を出力端子間に印加するトランス結合型昇圧器の制御方法であって、前記低圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相と、前記高圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相との間の位相差を調整することにより前記トランス結合型昇圧器の出力電力を制御するトランス結合型昇圧器の制御方法において、
前記スイッチング素子を収容したケースのケース温度を計測するとともに、現在のケース温度の各値に対応して、前記スイッチング素子のジャンクション温度が上限値を超えないために許容される許容位相差の各値との関係を予め設定するステップと、
計測されたケース温度に対応する許容位相差を前記設定内容から求め、求められた許容位相差を上限値として位相差を調整するステップと
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、スイッチング素子のジャンクション温度が上限値を超えないために許容される許容位相差以下の範囲で位相差が調整されてトランス結合型昇圧器の出力電力が制御されるため、スイッチング素子のジャンクション温度を上限値以下にするとともに、トランス結合型昇圧器の動作を停止させることなく動作を継続させることができる。
【0023】
なお、特許文献2では、インバータの印加電圧が上限値を超えたらインバータの動作を停止させており、何ら本願発明を示唆するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施例のトランス結合型昇圧器の制御装置を備えたハイブリッド建設機械の全体構成を示す図である。
【図2】図2は、実施例のトランス結合型昇圧器の構成を示した図である。
【図3】図3は、スイッチング制御の内容を示すタイムチャートであり、図3(b)、(c)、(d)、(e)はそれぞれ、低圧側インバータを構成する各スイッチング素子に与えるスイッチング信号(オン/オフ)の時間変化を示し、図3(a)は、これらスイッチング信号によって生成される低圧側巻線の両端子間電圧の時間変化を示す図である。
【図4】図4は、図3(a)に対応する図で、力行状態の場合を示した図で、図4(a)は、高圧側巻線の両端子間電圧の時間変化を示し、図4(b)は、低圧側巻線の両端子間電圧の時間変化を示した図である。
【図5】図5は、スイッチング素子およびその周囲の構成部分を示した断面図である。
【図6】図6は、第1実施例の制御手段であるコントローラの構成要素を示すブロック図である。
【図7】図7は、トランス結合型昇圧器の許容出力電力と、スイッチング素子の許容損失と、許容位相差と、トランス結合型昇圧器の入力電圧との関係をグラフとして示した図である。
【図8】図8は、許容損失と入力電圧の各値に対応して、許容出力電力の各値が対応づけられたデータの内容を概念的に示した図である。
【図9】図9は、許容出力電力の各値に対応して、許容位相差の各値が対応づけられたデータの内容を概念的に示した図である。
【図10】図10は、コントローラで行われる位相差を調整する制御を実現するためのフローチャートであり、第1実施例における処理手順を示した図である。
【図11】図11は、第2実施例の制御手段であるコントローラの構成要素を示すブロック図である。
【図12】図12は、ケース温度の各値に対応して、許容位相差の各値が対応づけられたデータの内容を概念的に示した図である。
【図13】図13は、コントローラで行われる位相差を調整する制御を実現するためのフローチャートであり、第2実施例における処理手順を示した図である。
【図14】図14は、図2とは異なる構成のトランス結合型昇圧器の構成を示す図である。
【図15】図15は、実施例のハイブリッド建設機械の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照してトランス結合型昇圧器の制御装置および制御方法の実施の形態について説明する。なお、以下では、実施例のトランス結合型昇圧器がハイブリッド方式の建設機械(本明細書では、ハイブリッド建設機械という)に搭載され、蓄電装置は、キャパシタであるとして説明する。
【0026】
(第1実施例)
図15は、実施例のハイブリッド建設機械1の外観を斜視図にて示したものである。ハイブリッド建設機械1は、例えば油圧ショベルである。ハイブリッド建設機械1は、下部走行体1bに対して上部旋回体1aが旋回自在に設けられているとともに、作業機1cが動作自在に上部旋回体1aに取り付けられてなるものである。下部走行体1bおよび作業機1cは、図示しない油圧モータ、油圧ポンプ、油圧シリンダが駆動されることによって動作する。上部旋回体1aは、後述する上部旋回体用電動機が駆動されることによって旋回動作する。なお、本実施例では、上部旋回体1aが電動機の駆動によって動作されることを想定して説明するが、もちろん下部走行体1b、作業機1cが同様に電動機の駆動によって動作される構成のものにも適用することができる。
【0027】
図1は、実施例のトランス結合型昇圧器の制御装置の全体装置構成を示す。図1に示されるトランス結合型昇圧器の制御装置は、図15に示されるハイブリッド建設機械1の上部旋回体1aに搭載される。
【0028】
図1に示すように、ハイブリッド建設機械1には、エンジン10と、発電電動機20と、キャパシタ30と、ドライバ40と、トランス結合型昇圧器50と、コントローラ80が搭載されている。発電電動機20はドライバ40で駆動される。コントローラ80はドライバ40と発電電動機20とトランス結合型昇圧器50を制御する。
【0029】
さらに、ハイブリッド建設機械1には、ハイブリッド建設機械1の上部旋回体1aを力行・回生することができる上部旋回体用電動機21が備えられている。
【0030】
上部旋回体用電動機21はドライバ41で制御される。コントローラ80はドライバ41と上部旋回体用電動機21を制御する。
【0031】
発電電動機20の駆動軸は、エンジン10の出力軸に連結されている。発電電動機20は、発電作用と電動作用を行う。キャパシタ30は、エンジン10の駆動に伴い発電電動機20が発電作用を行うことにより電力を蓄積(充電)し、あるいは蓄積された電力を放電して発電電動機20あるいは上部旋回体用電動機21に電力を供給する。発電電動機20が、キャパシタ30から電力の供給を受ける場合は、発電電動機20はエンジン10の出力をアシスト(電動作用)する。ドライバ40は、発電電動機20を駆動する。ドライバ40は、発電電動機20を駆動するインバータで構成されている。トランス結合型昇圧器50は、キャパシタ30に電気信号線61、62を介して電気的に接続されている。トランス結合型昇圧器50は、キャパシタ30の端子間電圧である入力電圧V1を昇圧してドライバ40に出力電圧V0として供給する。すなわち、トランス結合型昇圧器50は、キャパシタ30の充電電圧V1(入力電圧V1)を昇圧して信号線91、92間に昇圧された電圧V0(出力電圧V0)を印加する。トランス結合型昇圧器50の出力電圧V0は、信号線91、92を介してト゛ライバ40に供給される。
【0032】
また、トランス結合型昇圧器50の出力電圧V0は、信号線93、94を介してドライバ41に供給され、上部旋回体用電動機21に供給される。上部旋回体用電動機21は、上部旋回体1aを動作させる力行を行なう。また上部旋回体用電動機21は、上部旋回体1aの旋回動作が停止する際には回生により発電動作を行う。これにより発電電力がドライバ41を経由し、信号線93、94からトランス結合型昇圧器50を介してキャパシタ30に充電される。
【0033】
トランス結合型昇圧器50は、後述するように、例えばACリンク双方向DC-DCコンバータで構成されている。
【0034】
発電電動機20の発電量は、コントローラ80によって制御される。
【0035】
発電電動機20のトルクは、コントローラ80によって制御される。コントローラ80は、ドライバ40に対して発電電動機20を所定のトルクで駆動させるためのトルク指令を与える。ドライバ40は、コントローラ80から制御信号を受け、発電電動機20を所定のトルクで駆動させるためのトルク指令を与える。
【0036】
こうしてキャパシタ30には、発電電動機20が発電作用した場合に発電した電力が蓄積される。またキャパシタ30は、キャパシタ30に蓄積された電力を発電電動機20あるいは上部旋回体用電動機21に供給する。
【0037】
図2は、実施例のトランス結合型昇圧器50の構成を示したものである。
【0038】
トランス結合型昇圧器50は、低圧側インバータ50Aと高圧側インバータ50Bとがトランス50Cを介して結合された構成となっている。
【0039】
低圧側インバータ50Aと、高圧側インバータ50Bは、低圧側インバータ50Aの正極と高圧側インバータ50Bの負極とが加極性となるように電気的に直列接続されている。
【0040】
低圧側インバータ50Aは、トランス50Cの低圧側巻線50dにブリッジ接続された4つのスイッチング素子51、52、53、54と、スイッチング素子51、52、53、54それぞれに並列に極性が逆向きに接続されたダイオード151、152、153、154を含んで構成されている。スイッチング素子51、52、53、54は、例えばIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)で構成されている。スイッチング素子51、52、53、54は、ゲートにオンのスイッチング信号が印加されることによりオンされ、電流が流れる。
【0041】
キャパシタ30のプラス端子30aは、信号線61を介してスイッチング素子51のコレクタに電気的に接続されている。スイッチング素子51のエミッタはスイッチング素子52のコレクタに電気的に接続されている。スイッチング素子52のエミッタは、信号線62を介してキャパシタ30のマイナス端子30bに電気的に接続されている。
【0042】
同様に、キャパシタ30のプラス端子30aは、信号線61を介してスイッチング素子53のコレクタに電気的に接続されている。スイッチング素子53のエミッタはスイッチング素子54のコレクタに電気的に接続されている。スイッチング素子54のエミッタは、信号線62を介してキャパシタ30のマイナス端子30bに電気的に接続されている。
【0043】
キャパシタ30と並列になるように、信号線61、62には、リプル電流吸収用のコンデンサ32のプラス端子32a、マイナス端子32bがそれぞれ接続されている。
【0044】
スイッチング素子51のエミッタ(ダイオード151のアノード)およびスイッチング素子52のコレクタ(ダイオード152のカソード)は、トランス50Cの低圧側巻線50dの一方の端子に接続されているとともに、スイッチング素子53のエミッタ(ダイオード153のアノード)およびスイッチング素子54のコレクタ(ダイオード154のカソード)は、トランス50Cの低圧側巻線50dの他方の端子に接続されている。
【0045】
スイッチング素子52のエミッタ(ダイオード152のアノード)およびスイッチング素子54のエミッタ(ダイオード154のアノード)、つまり信号線62、キャパシタ30のマイナス端子30bは、信号線92を介してドライバ40に電気的に接続されている。
【0046】
高圧側インバータ50Bは、トランス50Cの高圧側巻線50eにブリッジ接続された4つのスイッチング素子55、56、57、58と、スイッチング素子55、56、57、58それぞれに並列に極性が逆向きに接続されたダイオード155、156、157、158を含んで構成されている。スイッチング素子55、56、57、58は、例えばIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)で構成されている。スイッチング素子55、56、57、58は、ゲートにオンのスイッチング信号が印加されることによりオンされ、電流が流れる。
【0047】
スイッチング素子55、57のコレクタは、信号線91を介してドライバ40に電気的に接続されている。スイッチング素子55のエミッタはスイッチング素子56のコレクタに電気的に接続されている。スイッチング素子57のエミッタはスイッチング素子58のコレクタに電気的に接続されている。スイッチング素子56、58のエミッタは、信号線61、つまり低圧側インバータ50Aのスイッチング素子51、53のコレクタに電気的に接続されている。
【0048】
低圧側インバータ50Aと同様に、スイッチング素子55、56およびスイッチング素子57、58それぞれに並列に、リプル電流吸収用コンデンサ33が電気的に接続されている。
【0049】
スイッチング素子55のエミッタ(ダイオード155のアノード)およびスイッチング素子56のコレクタ(ダイオード156のカソード)は、トランス50Cの高圧側巻線50eの一方の端子に電気的に接続されているとともに、スイッチング素子57のエミッタ(ダイオード157のアノード)およびスイッチング素子58のコレクタ(ダイオード158のカソード)は、トランス50Cの高圧側巻線50eの他方の端子に電気的に接続されている。
【0050】
コントローラ80は、各スイッチング素子51〜58に対してオン/オフのスイッチング信号を印加して、低圧側巻線50dの両端子間の電圧v1および高圧側巻線50eの両端子間の電圧v2がプラス極性になる電圧プラス極性期間とマイナス極性になる電圧マイナス極性期間が所定の周期Tsで交互に繰り返されるスイッチング制御を行なう。
【0051】
以下、この制御内容について説明する。なお、以下の説明ではデッドタイムは考慮しないものとする。デッドタイムとは、短絡防止のために各スイッチング素子において、図3中、上下のスイッチング素子を両方オフとする期間である。
【0052】
図3は、スイッチング制御の内容を示すタイムチャートである。図3(b)、(c)、(d)、(e)はそれぞれ、低圧側インバータ50Aを構成する各スイッチング素子51、52、53、54に与えるスイッチング信号(オン/オフ)の時間変化を示し、図3(a)は、これらスイッチング信号によって生成される低圧側巻線50dの両端子間電圧v1の時間変化を示す。
【0053】
図3(b)、(e)に示すように、スイッチング素子51、54に対しては半周期毎にオン、オフを繰り返すスイッチング信号が与えられて、スイッチング素子51、54は半周期T=(1/2)×Tsの期間、オンされ、ついで半周期T=(1/2)×Tsの期間、オフされることを繰り返す。
【0054】
また図3(c)、(d)に示すように、スイッチング素子52、53に対しては、スイッチング素子51、54に加えられるスイッチング信号とはオン/オフを反転させたスイッチング信号が加えられる。これによりスイッチング素子52、53は、スイッチング素子51、54がオンとなる半周期T=(1/2)×Tsの期間、オフとなり、ついでスイッチング素子51、54がオフとなる半周期T=(1/2)×Tsの期間、オンとなることを繰り返す。
【0055】
この結果、図3(a)に示すように、低圧側巻線50dの両端子間電圧v1は、半周期T=(1/2)×Tsの期間、プラス極性の電圧最大値+V1となり、ついで半周期T=(1/2)×Tsの期間、マイナス極性の電圧最大値−V1となることを繰り返す。
【0056】
以上、図3では、低圧側インバータ50Aにおける動作について説明したが、高圧側インバータ50Bにおける動作も同様にして行われる。
【0057】
つぎに出力電圧V0、出力電力P0の制御について説明する。
【0058】
図4は、図3(a)に対応する図で、力行状態の場合を示している。図4(a)は、高圧側巻線50eの両端子間電圧v2の時間変化を示し、図4(b)は、低圧側巻線50dの両端子間電圧v1の時間変化を示している。
【0059】
図4において、低圧側巻線50dの両端子間電圧v1の信号の位相と、高圧側巻線50eの両端子間電圧v2の信号の位相との間の位相差をT1とする。図4に示すように、低圧側巻線50dの両端子間電圧v1の信号の位相を、高圧側巻線50eの両端子間電圧v2の位相に対して、所定の位相差T1の期間進ませることで、力行状態が実現される。また、高圧側巻線50eの両端子間電圧v2の信号の位相を、低圧側巻線50dの両端子間電圧v1の位相に対して、所定の位相差T1の期間進ませることで、回生行状態が実現される。
【0060】
力行状態のときの位相差T1の極性をプラスと定義し、回生状態のときの位相差T1の極性をマイナスと定義する。
【0061】
図4において、位相差T1を、半周期Tに対する比率、
D=T1/T
で規格化されたものを、以下、位相差Dと呼ぶことにする。
【0062】
位相差Dの極性がプラスのときには力行状態となる。また、位相差Dの極性がマイナスのときには回生状態となる。また、位相差Dが0のときには無負荷状態となる。なお、以下では、位相差Dは、0以上の正の値として扱い、+Dが力行状態であるとし、−Dが回生状態であるとして扱うものとする。
【0063】
コントローラ80は、位相差Dを調整することによりトランス結合型昇圧器50の出力電力P0を制御する。
【0064】
位相差Dと出力電力P0との間には、下記(1)式に示す関係が成立する。
【0065】
P0=((π・V0・V1)/ωL))・(D−D^2) ...(1)
なお、Lは、トランス50Cの漏れインダクタンスであり、ωは、トランス50Cの角周波数であり、D^2は、Dの2乗を意味するものとする。
【0066】
位相差Dは、0≦D≦0.5の範囲で変化する。よって、トランス結合型昇圧器50の出力電力P0は、位相差Dが大きくなるに伴い増大する。
【0067】
トランス結合型昇圧器50に使用されるスイッチング素子51〜58は、IGBTなどで構成される半導体素子であり、電流が流れると内部損失(熱)が発生する。すなわち、位相差Dの増加に応じて出力電力P0(kW)が増大し、出力電力P0の増加に応じてスイッチング素子51〜58の消費電力である損失PL(W)が増大する。
【0068】
仮にスイッチング素子51〜58のジャンクション温度(接合部温度)Tj(℃)が上限値Tjmax(例えば150℃)を越えると、機能の劣化や故障の原因となり、最終的にはスイッチング素子51〜58の破壊に至る。本第1実施例では、スイッチング素子51〜58のジャンクション温度Tj(℃)が上限値Tjmax(例えば150℃)を越えないように、位相差Dを調整する制御が行われる。
【0069】
図5は、スイッチング素子51〜58およびその周囲の構成部分を示している。
【0070】
IGBTを構成するスイッチング素子51〜58は、ケース250内に収容される。図5に示した、ケース250の内部に置かれたチップ251とは、IGBTを構成するスイッチング素子51〜58などの電子部品の一つを表している。チップ251の温度がジャンクション温度Tjである。ケース250は、冷却水路254が形成された筐体252に設置される。ケース250には、ケース温度Tc(℃)を計測する温度計測手段253が設けられる。温度計測手段253は、例えば熱電対やサーミスタで構成される。
【0071】
(第1実施例)
図6は、第1実施例の制御手段であるコントローラ80の構成要素をブロック図にて示したものである。
【0072】
図6に示すように、温度計測手段253で計測されたケース温度Tcを示す信号は、コントローラ80に入力される。なお、必ずしも全てのスイッチング素子51〜58の近傍に温度計測手段253を設けるには及ばず、スイッチング素子51〜58のうち代表的なスイッチング素子の近傍に温度計測手段253を設けるようにしてもよい。また、温度計測手段253は、複数個を設けて平均値や最大値を演算しケース温度Tcを示す信号として採用するようにしてもよい。
【0073】
チップ251(ジャンクション温度Tj)とケース250(ケース温度Tc)との間の熱抵抗をRj-cとすると、ジャンクション温度Tjとケース温度Tcと熱抵抗Rj-cとスイッチング素子51〜58の損失PLとの間には、下記(2)式で示される関係が成立する。
【0074】
Tj=Tc+Rj-c×PL ...(2)
熱抵抗Rj-cは、既知の定数である。なお、ジャンクション温度Tjは、IGBTのモジュールのいずれかの場所の温度として取り扱っても良い。すなわち、スイッチング素子51〜58の接合部温度という定義ではなく、IGBTの外面の任意の箇所の温度として定義(この場合、例えばチップ温度Tjと呼ぶ)してもよい。つまり、温度Tjとは、IGBTのいずれかの場所の温度としてとらえて、半導体素子温度Tjとして、その半導体素子温度Tjが上限値Tjmax(例えば150℃)を越えないように、位相差Dを調整する制御が行われてもよい。
【0075】
コントローラ80の温度差演算手段181では、ジャンクション温度Tjの上限値Tjmax(定数;例えば150℃)と、温度計測手段253で計測された、現在のケース温度Tcとの温度差ΔT(=Tjmax−Tc)が演算される。上限値Tjmaxは、図6の記憶手段185に示される、メモリなどの記憶装置に予め記憶されている。
【0076】
許容損失演算手段182では、温度差演算手段181で演算された温度差ΔTに基づいて、IGBT(スイッチング素子51〜58)の許容損失PLmaxが演算される。ここで、許容損失PLmaxとは、ジャンクション温度Tjが上限値Tjmaxを超えないために許容されるIGBT(スイッチング素子51〜58)の損失PLのことである。IGBT(スイッチング素子51〜58)の損失PLが、許容損失PLmax以下の範囲で動作している限り、スイッチング素子51〜58のジャンクション温度Tjが上限値Tjmaxを超えないことが担保される。
【0077】
許容出力電力演算手段183では、許容損失演算手段182で演算された許容損失PLmaxと、トランス結合型昇圧器50の入力電圧V1とに基づいて、当該許容損失PLmaxおよび当該入力電圧V1に対応するトランス結合型昇圧器50の許容出力電力P0maxが演算される。ここで、許容出力電力P0maxとは、ジャンクション温度Tjが上限値Tjmaxを超えないために許容されるトランス結合型昇圧器50の出力電力P0のことである。トランス結合型昇圧器50の出力電力P0が、許容出力電力P0max以下の範囲で動作している限り、ジャンクション温度Tjが上限値Tjmaxを超えないことが担保される。トランス結合型昇圧器50の入力電圧V1は、電圧センサ254で検出される。電圧センサ254では、キャパシタ30の両端子間電圧が入力電圧V1として検出され、検出された入力電圧V1がコントローラ80に入力される。
【0078】
許容位相差演算手段184では、許容出力電力演算手段183で演算された許容出力電力P0maxに対応する許容位相差Dmaxが演算される。ここで、許容位相差Dmaxとは、ジャンクション温度Tjが上限値Tjmaxを超えないために許容される位相差Dのことである。位相差Dを、許容位相差Dmaxを上限値として調整する制御がなされている限り、ジャンクション温度Tjが上限値Tjmaxを超えないことが担保される。
【0079】
図7は、トランス結合型昇圧器50の許容出力電力P0maxと、IGBT(スイッチング素子51〜58)の許容損失PLmaxと、許容位相差Dmaxと、トランス結合型昇圧器50の入力電圧V1との関係をグラフとして示したものである。図6において、入力電圧V1は、各値Va...Vb...Vc(Va<...Vb...<Vc)をとり、各入力電圧Va...Vb...Vc毎の特性はそれぞれ、LNa...LNb...LNcで示している。許容位相差Dmaxは、各特性LNa...LNb...LNc上においてそれぞれ、各値D0(=0)...D1...D2...D3...D4(=0.4)...DM(=0.5)(D0<...D1...<D2...<D3...<D4...<DM)をとる。
【0080】
同図6に示すように、許容位相差Dmaxが固定値である場合には、入力電圧V1がVa...Vb...Vcと順次大きくなるに伴い、許容損失PLmaxが小さくなるとともに、許容出力電力P0maxが大きくなる。また入力電圧V1が固定値である場合には、許容位相差DmaxがD0...D1...D2...D3...D4...DMと順次大きくなるに伴い、許容損失PLmaxが大きくなるとともに、許容出力電力P0maxが大きくなる。
【0081】
よって、許容損失PLmaxと入力電圧V1が一義的に定まれば、許容出力電力P0maxが一義的に定まり、この一義的に定まった許容出力電力P0maxに対応して許容位相差Dmaxが一義的に定まる。
【0082】
図8は、許容損失PLmaxの各値PL1、PL2...と入力電圧V1の各値に対応して、許容出力電力P0maxの各値が対応づけられたデータの内容を概念的に示している。
【0083】
図9は、許容出力電力P0maxの各値に対応して、許容位相差Dmaxの各値が対応づけられたデータの内容を概念的に示している。
【0084】
これら図8、図9に示すデータは、データテーブル形式でコントローラ80の記憶手段185に記憶されている。
【0085】
コントローラ80の位相差調整部186では、許容位相差演算手段184で演算された許容位相差Dmaxを上限値として位相差Dを調整する制御が行われる。
【0086】
図10は、コントローラ80で行われる位相差Dを調整する制御を実現するためのフローチャートを示すものであり、第1実施例における処理手順を示している。
【0087】
同図10に示すように、まず、温度計測手段253で現在のケース温度Tcが計測される(ステップ101)。
【0088】
計測されたケース温度Tcは、コントローラ80に入力され、ケース温度Tcが、ジャンクション温度Tjの上限値Tjmax(例えば150℃)を超えているか否かが判断される(ステップ102)。この判断の結果、ケース温度Tcが、ジャンクション温度Tjの上限値Tjmax(例えば150℃)を超えている場合には(ステップ102の判断y)、トランス結合型昇圧器50の動作を停止させる(ステップ103)。
【0089】
ケース温度Tcが、ジャンクション温度Tjの上限値Tjmax(例えば150℃)を超えていない場合には(ステップ102の判断n)、温度差演算手段181で、ジャンクション温度Tjの上限値Tjmax(例えば150℃)と、現在のケース温度Tcとの温度差ΔT(=Tjmax−Tc)が演算される。例えば、ジャンクション温度Tjの上限値Tjmaxが150℃で、現在のケース温度Tcが120℃であるとすると、温度差ΔTは、30℃となる(ステップ104)。
【0090】
次に許容損失演算手段182で、温度差演算手段181で演算された温度差ΔT(=Tjmax−Tc)に基づいて、許容損失PLmaxが演算される。すなわち、上記(2)式(Tj=Tc+Rj-c×PL)を変形すると、
PL(PLmax)=ΔT/Rj-c ...(3)
となることから、上記(3)式に、温度差ΔTと既知の熱抵抗Rj-cを代入して、許容損失PLmaxが求められる。ここで既知の熱抵抗Rj-cは、記憶手段185に予め記憶されており、記憶手段185から読み出される。例えば、上述したごとく温度差ΔTが30℃となっており、熱抵抗Rj-cが0.1(℃/W)であるとすると、許容損失PLmaxは、300Wとなる。図7のグラフにおいて、許容損失PLmaxが300Wの値をとるラインを、破線LM1にて示す(ステップ105)。
【0091】
次に、許容出力電力演算手段183で、許容損失演算手段182で演算された許容損失PLmaxと、トランス結合型昇圧器50の入力電圧V1とに基づいて、当該許容損失PLmaxおよび当該入力電圧V1に対応するトランス結合型昇圧器50の許容出力電力P0maxが演算される。例えば、上述したごとく許容損失PLmaxが300Wであり、電圧センサ254で入力電圧V1を値Vaと検出した場合には、図7のグラフにおいて、許容損失PLmaxが300Wの値をとるラインLM1と、入力電圧V1がVaの値をとる特性LNaとの交点POに対応する許容出力電力P0maxの値、例えば20kWが解として得られる。なお、図7のグラフに示されるデータは、図8に示されるデータテーブル形式で記憶手段185に記憶されていることから、同図8に破線矢印にて示すように、許容損失PLmaxの演算値(=300W)と、電圧センサ254の検出入力電圧V1(=Va)に対応するデータを記憶手段185から読み出す処理を実行することで、許容出力電力P0maxの解(20kW)を得ることができる(ステップ106、ステップ107の判断n)。
【0092】
しかし、許容出力電力P0maxの解が得られなかった場合には(ステップ107の判断y)。トランス結合型昇圧器50の動作を停止させる(ステップ108)。
【0093】
許容出力電力P0maxの解が得られた場合には(ステップ107の判断n)、次に許容位相差演算手段184で、許容出力電力演算手段183で演算された許容出力電力P0maxに対応する許容位相差Dmaxが演算される。例えば、上述したごとく許容出力電力P0maxが20kWであるとすると、図7のグラフにおいて許容出力電力P0maxが20kWの値をとる交点POに対応する値D4(=0.4)が許容位相差Dmaxとして得られる。なお、図7のグラフに示されるデータは、図9に示されるデータテーブル形式で記憶手段185に記憶されていることから、図9に破線矢印で示すごとく、許容出力電力P0maxの演算値(20kW)に対応するデータを記憶手段185から読み出す処理を実行することで、許容位相差Dmax(D4=0.4)を取得することができる(ステップ109)。
【0094】
次に、位相差調整部186で、許容位相差演算手段184で演算された許容位相差Dmaxを上限値として位相差Dを調整する制御が行われる(ステップ110)。
【0095】
上述したごとく、許容位相差Dmaxを上限値として位相差Dを調整する制御がなされている限り、ジャンクション温度Tjが上限値Tjmaxを超えないことが担保される。これによりトランス結合型昇圧器50の動作を停止させることなく動作を継続させることができる。すなわち、トランス結合型昇圧器が搭載された建設機械において、ジャンクション温度を監視し、ジャンクション温度が上限値を超えた場合に、スイッチング素子を保護するためにトランス結合型昇圧器の動作を停止させるという制御を行った場合に比較して、建設機械の作業効率の向上が図られる。ただし、許容出力電力P0maxの解を得てその解にしたがいトランス結合型昇圧器50の動作を行ったとしても、実際の出力電力P0が許容出力電力P0maxを下回らないことがある。その場合には(ステップ111の判断n)、トランス結合型昇圧器50の動作を停止させる。例えば、制御を開始してから一定時間を経過しても実際の出力電力P0が許容出力電力P0maxを下回らない場合に、トランス結合型昇圧器50の動作を停止させる(ステップ112)。
【0096】
(第2実施例)
計測されるケース温度Tcに、許容位相差Dmaxの各値を対応づけ、それらの関係を設定しておく実施も可能である。
【0097】
図11は、第2実施例の制御手段であるコントローラ80の構成要素をブロック図にて示したものである。
【0098】
図11に示すように、第1実施例と同様に、温度計測手段253で計測されたケース温度Tcを示す信号は、コントローラ80に入力される。
【0099】
コントローラ80には、演算部187と、設定手段188と、位相差調整部186とを含んで構成される。
【0100】
設定手段188では、ケース温度Tcに対応して、許容位相差Dmaxの各値との関係が予め設定される。例えば、ケース温度Tcの各値それぞれに、許容位相差Dmaxの各値が対応づけられたデータをデータテーブル形式で記憶しておくようにする。ケース温度Tcと許容位相差Dmaxの対応関係は、入力電圧V1の大きさによって変動することから、電圧センサ254の検出入力電圧V1にて逐次、ケース温度Tcと許容位相差Dmaxの対応関係を示すデータを選択することができる。
【0101】
図12は、ケース温度Tcの各値に対応して、許容位相差Dmaxの各値が対応づけられたデータの内容を概念的に示している。図12において、Tthは、ケース温度Tcの値から許容出力電力P0maxの解が得られる上限のしきい値である。また、電圧センサ254で検出された入力電圧V1の値に応じた、ケース温度Tcの各値に対応して、許容位相差Dmaxの各値が対応づけられたデータ(図12のグラフ)がコントローラ80の設定手段188に記憶されており、入力電圧1の値に応じたデータ(図12のグラフ)が読み出される。ケース温度Tcがしきい値Tth以下の場合には、許容出力電力P0maxの解が得られ、対応する許容位相差Dmaxを求めることができるが、ケース温度Tcがしきい値Tthを超えている場合には、許容出力電力P0maxの解は得られず、対応する許容位相差Dmaxを求めることはできない。
【0102】
この場合、演算部187で、図12のグラフ上に破線矢印で示すごとく、ケース温度Tc(例えば120℃)に対応する許容位相差Dmax(例えば0.4)のデータを読み出す処理を実行することで、許容位相差Dmaxが求められる。また、ケース温度Tcの各値を変数として許容位相差Dmaxの各値を関数値として演算する関数、つまり図12の横軸を変数とし縦軸を関数値とする特性を有する関数を予め設定しておくようにしてもよい。この場合、演算部187で、ケース温度Tcの値に基づき関数式にしたがい許容位相差Dmaxを求める演算処理を実行することによって、許容位相差Dmaxが求められる。
【0103】
位相差調整部186は、第1実施例と同様に、求められた許容位相差Dmaxを上限値として位相差を調整する制御を行う。
【0104】
図13は、コントローラ80で行われる位相差Dを調整する制御を実現するためのフローチャートを示すものであり、第2実施例における処理手順を示している。
【0105】
同図13に示すように、まず、温度計測手段253で現在のケース温度Tcが計測される(ステップ201)。
【0106】
計測されたケース温度Tcは、コントローラ80に入力され、ケース温度Tcが、しきい値Tthを超えているか否かが判断される(ステップ202)。この判断の結果、ケース温度Tcが、しきい値Tthを超えている場合には(ステップ202の判断y)、トランス結合型昇圧器50の動作を停止させる(ステップ203)。
【0107】
ケース温度Tcが、しきい値Tth超えていない場合には(ステップ202の判断n)、演算部187で、設定手段188の設定内容に基づいて、図12のグラフ上にに破線矢印で示すごとく、ケース温度Tcに対応する許容位相差Dmaxを求める演算処理が実行される(ステップ204)。
【0108】
次に、位相差調整部186で、演算部187で演算された許容位相差Dmaxを上限値として位相差Dを調整する制御が行われる(ステップ205)。
【0109】
上述したごとく許容位相差Dmaxを上限値として位相差Dを調整する制御がなされている限り、ジャンクション温度Tjが上限値Tjmaxを超えないことが担保される。これによりトランス結合型昇圧器50の動作を停止させることなく動作を継続させることができる。
【0110】
ところで、各実施例では、図2に示すごとく、低圧側インバータ50Aの正極端子と高圧側インバータ50Bの負極端子とが加極性になるように両インバータ50A、50Bが直列接続された構成のトランス結合型昇圧器50を前提として説明した。かかる構成のトランス結合型昇圧器50は、出力電圧V0を低圧側インバータ50Aと高圧側インバータ50Bとによって分圧することができるため、各インバータ50A、50Bに使用される半導体スイッチング素子51〜58の電圧定格を小さくすることができるとともに、キャパシタ30に流れる電流が低圧側インバータ50Aと高圧側インバータ50Bに分流されるため、各インバータ50A、50Bに使用される半導体スイッチング素子51〜58の電流定格を小さくすることができるという利点がある。さらにいえば、低電流化によりトランス50Cを小型化、軽量化することができ、トランス50Cを製造するコストを低減させることができるという利点が得られる。
【0111】
しかし、かかる構成のトランス結合型昇圧器50は、あくまで一例であり、他の任意の構成のトランス結合型昇圧器に各実施例を適用することができる。
【0112】
例えば図14に示すように、低圧側インバータ50Aと高圧側インバータ50Bとがトランス50Cを介してリンクされてはいるが、低圧側インバータ50Aの端子と高圧側インバータ50Bの端子とが直列接続されていない構成のトランス結合型昇圧器50に対しても、同様に各実施例を適用することができる。
【0113】
また、上述した各実施例では、トランス結合型昇圧器の制御装置がハイブリッド建設機械1に搭載されることを想定して説明した。
【0114】
しかし、トランス結合型昇圧器の制御装置の搭載対象は、任意であり、例えば一般自動車やバッテリ式フォークリフトなどに適用する実施も当然可能である。また、エンジンと電動機の二つの動力源を備えたハイブリッド建設機械1に限らず、エンジンを用いずに電動機の動力のみで上部旋回体1aを旋回させるものや電動機の動力のみで下部走行体1bを駆動させるような電動式建設機械にも、本実施例のトランス結合型昇圧器の制御装置が適用可能である。なお、電動式建設機械は、油圧ショベルやホイールローダやブルドーザなどが相当する。
【符号の説明】
【0115】
1 ハイブリッド建設機械、30 蓄電装置(キャパシタ)、50 トランス結合型昇圧器、51、52、53、54、55、56、57、58 スイッチング素子、80 コントローラ、253 温度計測手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスの低圧側巻線の両端子に接続されたスイッチング素子を含んで構成された低圧側インバータと、前記トランスの高圧側巻線に接続されたスイッチング素子を含んで構成された高圧側インバータとを備え、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧した出力電圧を出力端子間に印加するトランス結合型昇圧器と、前記低圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相と、前記高圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相との間の位相差を調整することにより前記トランス結合型昇圧器の出力電力を制御する制御手段とを備えたトランス結合型昇圧器の制御装置において、
前記スイッチング素子を収容したケースのケース温度を計測する温度計測手段と、
前記スイッチング素子のジャンクション温度の上限値と前記温度計測手段で計測された現在のケース温度との温度差を演算する温度差演算手段と、
前記温度差演算手段で演算された温度差に基づいて、前記スイッチング素子のジャンクション温度が前記上限値を超えないために許容される前記スイッチング素子の許容損失を演算する許容損失演算手段と、
前記許容損失演算手段で演算された許容損失と、前記トランス結合型昇圧器の入力電圧とに基づいて、当該許容損失および当該入力電圧に対応する前記トランス結合型昇圧器の許容出力電力値を演算する許容出力電力演算手段と、
前記許容出力電力演算手段で演算された許容出力電力値に対応する許容位相差を演算する許容位相差演算手段とを備え、
前記制御手段は、前記許容位相差演算手段で演算された許容位相差を上限値として位相差を調整することを特徴とするトランス結合型昇圧器の制御装置。
【請求項2】
トランスの低圧側巻線の両端子に接続されたスイッチング素子を含んで構成された低圧側インバータと、前記トランスの高圧側巻線に接続されたスイッチング素子を含んで構成された高圧側インバータとを備え、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧した出力電圧を出力端子間に印加するトランス結合型昇圧器と、前記低圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相と、前記高圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相との間の位相差を調整することにより前記トランス結合型昇圧器の出力電力を制御する制御手段とを備えたトランス結合型昇圧器の制御装置において、
前記スイッチング素子を収容したケースのケース温度を計測する温度計測手段と、
現在のケース温度の各値に対応して、前記スイッチング素子のジャンクション温度が上限値を超えないために許容される許容位相差の各値との関係を予め設定する設定手段とを備え、
前記制御手段は、前記温度計測手段で計測されたケース温度に対応する許容位相差を前記設定手段の設定内容から求め、求められた許容位相差を上限値として位相差を調整することを特徴とするトランス結合型昇圧器の制御装置。
【請求項3】
前記許容出力電力演算手段で前記トランス結合型昇圧器の許容出力電力値の解が得られなかった場合には、前記トランス結合型昇圧器の動作を停止させることを特徴とする請求項1記載のトランス結合型昇圧器の制御装置。
【請求項4】
前記設定手段には、前記スイッチング素子を収容したケースのケース温度が所定のしきい値以下の範囲で、前記位相差の各値が設定されており、前記温度計測手段で計測された現在のケース温度が前記所定のしきい値を超えている場合には、前記トランス結合型昇圧器の動作を停止させることを特徴とする請求項2記載のトランス結合型昇圧器の制御装置。
【請求項5】
トランスの低圧側巻線の両端子に接続されたスイッチング素子を含んで構成された低圧側インバータと、前記トランスの高圧側巻線に接続されたスイッチング素子を含んで構成された高圧側インバータとを備え、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧した出力電圧を出力端子間に印加するトランス結合型昇圧器の制御方法であって、前記低圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相と、前記高圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相との間の位相差を調整することにより前記トランス結合型昇圧器の出力電力を制御するトランス結合型昇圧器の制御方法において、
前記スイッチング素子を収容したケースのケース温度を計測する温度計測ステップと、
前記スイッチング素子のジャンクション温度の上限値と前記温度計測ステップで計測された現在のケース温度との温度差を演算する温度差演算ステップと、
前記温度差演算ステップで演算された温度差に基づいて、前記スイッチング素子のジャンクション温度が前記上限値を超えないために許容される前記スイッチング素子の許容損失を演算する許容損失演算ステップと、
前記許容損失演算ステップで演算された許容損失と、前記トランス結合型昇圧器の入力電圧とに基づいて、当該許容損失および当該入力電圧に対応する前記トランス結合型昇圧器の許容出力電力値を演算する許容出力電力演算ステップと、
前記許容出力電力演算ステップで演算された許容出力電力値に対応する許容位相差を演算する許容位相差演算ステップと、
前記許容位相差演算ステップで演算された許容位相差を上限値として位相差を調整するステップと
を含むことを特徴とするトランス結合型昇圧器の制御方法。
【請求項6】
トランスの低圧側巻線の両端子に接続されたスイッチング素子を含んで構成された低圧側インバータと、前記トランスの高圧側巻線に接続されたスイッチング素子を含んで構成された高圧側インバータとを備え、蓄電装置の入力端子間の入力電圧を昇圧した出力電圧を出力端子間に印加するトランス結合型昇圧器の制御方法であって、前記低圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相と、前記高圧側巻線の両端子間電圧の信号の位相との間の位相差を調整することにより前記トランス結合型昇圧器の出力電力を制御するトランス結合型昇圧器の制御方法において、
前記スイッチング素子を収容したケースのケース温度を計測するとともに、現在のケース温度の各値に対応して、前記スイッチング素子のジャンクション温度が上限値を超えないために許容される許容位相差の各値との関係を予め設定するステップと、
計測されたケース温度に対応する許容位相差を前記設定内容から求め、求められた許容位相差を上限値として位相差を調整するステップと
を含むことを特徴とするトランス結合型昇圧器の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−182936(P2012−182936A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45217(P2011−45217)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】